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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1343692
審判番号 不服2017-14023  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-09-21 
確定日 2018-08-31 
事件の表示 特願2017- 30264「ウェハ分割システム及びウェハ分割方法」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 5月25日出願公開,特開2017- 92503〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成22年11月16日に出願した特願2010-256217号の一部を平成28年4月26日に新たな特許出願とした特願2016-87866号の一部を平成28年11月14日に新たな特許出願とした特願2016-221841号の一部を平成29年2月21日に新たな特許出願としたものであって,その後の手続の概要は,以下のとおりである。
平成29年 3月 9日:拒絶理由通知(起案日)
平成29年 5月11日:意見書
平成29年 5月11日:手続補正書
平成29年 6月23日:拒絶査定
平成29年 9月21日:審判請求

第2 本件発明
本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,以下のとおりである。
「【請求項1】
レーザ光で改質された部分をもつウェハを分割するウェハ分割システムにおいて,
前記レーザ光で改質された部分から延びる微小亀裂を前記ウェハの表面側に露出させない状態で前記ウェハの裏面を研削することにより,前記レーザ光で改質された部分を取り除く研削手段と,
前記研削後,前記ウェハを分割する分割手段と,
を備えるウェハ分割システム。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,この出願の請求項1,2,4ないし6,8に係る発明は,本願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない,また,この出願の請求項1,2,4ないし6,8に係る発明は,本願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

引用文献1.特開2009-290148号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載
引用文献1には,以下の事項が記載されている。(下線は当審で付与した。)
「【請求項1】
基板の表面に格子状に形成された複数のストリートによって区画された複数の領域にデバイスが形成されているとともに該ストリートの表面に膜が被覆されているウエーハを,該ストリートに沿って個々のデバイスに分割するウエーハの分割方法であって,
該基板に対して透過性を有する波長のレーザー光線をウエーハの表面側から該基板の内部に集光点を位置付けて該ストリートに沿って照射し,該基板の内部にストリートに沿って変質層を形成する変質層形成工程と,
該膜に対して吸収性を有する波長のレーザー光線をウエーハの表面側から該ストリートに沿って該膜に照射してレーザー加工溝を形成し,該膜を該ストリートに沿って分断する膜分断工程と,
ウエーハを構成する該基板の裏面を研削し,ウエーハを所定の厚さに形成する裏面研削工程と,
該裏面研削工程が実施されたウエーハの裏面を環状のフレームに装着されたダイシングテープの表面に貼着するウエーハ支持工程と,
環状のフレームに装着されたダイシングテープの表面にウエーハの裏面を貼着した状態で該ダイシングテープを拡張することによりウエーハに外力を付与し,ウエーハを該ストリートに沿って破断するウエーハ破断工程と,を含む,
ことを特徴とするウエーハの分割方法。」

「【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造工程においては,略円板形状である半導体ウエーハの表面に格子状に配列されたストリートと呼ばれる分割予定ラインによって複数の領域が区画され,この区画された領域にIC,LSI,液晶ドライバー,フラッシュメモリ等のデバイスを形成する。そして,ウエーハをストリートに沿って切断することによりデバイスが形成された領域を分割して個々のデバイスを製造している。
【0003】
上述したウエーハのストリートに沿って分割する方法として,ウエーハに対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線を用い,分割すべき領域の内部に集光点を合わせてパルスレーザー光線を照射するレーザー加工方法も試みられている。このレーザー加工方法を用いた分割方法は,ウエーハの一方の面側から内部に集光点を合わせてウエーハに対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線を照射し,ウエーハの内部にストリートに沿って変質層を連続的に形成し,この変質層が形成されることによって強度が低下したストリートに沿って外力を加えることにより,ウエーハを破断して分割するものであり,ストリートの幅を狭くすることが可能となる。(例えば,特許文献1参照。)
<途中省略>
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
而して,ストリートの表面に金属膜,フッ化シリケートグラス膜,シリコン酸化膜系パシベーション膜(SiO2,SiON),ポリイミド(PI)系高分子化合物膜,フッ素系高分子化合物膜,フッ素化アモルファスカーボン系化合物膜が被覆されているウエーハにおいては,内部に集光点を合わせてウエーハ基板に対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線を照射し,ウエーハの内部にストリートに沿って変質層を形成することにより,ウエーハ基板を分割することはできるが,ストリートの表面に被覆された膜は分割できないという問題がある。
【0005】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり,その主たる技術的課題は,ストリートの表面に膜が被覆されたウエーハを,膜を残すことなく分割することができるウエーハの分割方法を提供することである。」

「【発明の効果】
【0007】
本発明におけるウエーハの分割方法によれば,基板の内部にストリートに沿って変質層を形成する変質層形成工程とウエーハの基板に形成されたストリートの表面に被覆された膜をストリートに沿って分断する膜分断工程を実施し後に,ウエーハに外力を付与してウエーハをストリートに沿って破断するので,ウエーハをストリートに沿って破断する際には膜はストリートに沿って分断されているため,膜が破断されずに残ることはない。」

「【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下,本発明によるウエーハの分割方法の好適な実施形態について,添付図面を参照して詳細に説明する。
【0009】
図1には本発明によるウエーハの分割方法によって分割されるウエーハの斜視図が示されており,図2には図1に示すウエーハの要部を拡大した断面図が示されている。図1および図2に示すウエーハ2は,例えば厚さが600μmのシリコン基板21の表面21aに格子状に形成された複数のストリート22によって複数の領域が区画され,この区画された領域にIC,LSI,液晶ドライバー,フラッシュメモリ等のデバイス23が形成されている。このウエーハ2には,図2に示すようにストリート22およびデバイス23を含む表面21aに図示の実施形態においてはポリイミド(PI)系高分子化合物膜24が被覆されている。
【0010】
上述したウエーハ2を個々のデバイス23に分割するウエーハの分割方法の第1の実施形態について説明する。
第1の実施形態においては,先ずウエーハ2の基板21に対して透過性を有する波長のレーザー光線をウエーハの表面側から基板21の内部に集光点を位置付けてストリート22に沿って照射し,基板21の内部にストリート22に沿って変質層を形成する変質層形成工程を実施する。この変質層形成工程は,図3に示すレーザー加工装置3を用いて実施する。図3に示すレーザー加工装置3は,被加工物を保持するチャックテーブル31と,該チャックテーブル31上に保持された被加工物にレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段32と,チャックテーブル31上に保持された被加工物を撮像する撮像手段33を具備している。チャックテーブル31は,被加工物を吸引保持するように構成されており,図示しない加工送り機構によって図3において矢印Xで示す加工送り方向に移動せしめられるとともに,図示しない割り出し送り機構によって図3において矢印Yで示す割り出し送り方向に移動せしめられるようになっている。
<途中省略>
【0015】
以上のようにしてチャックテーブル31上に保持されたウエーハ2のレーザー加工すべき加工領域を検出するアライメントが行われたならば,図4の(a)で示すようにチャックテーブル31をレーザー光線を照射するレーザー光線照射手段32の集光器322が位置するレーザー光線照射領域に移動し,所定のストリート22の一端(図4の(a)において左端)をレーザー光線照射手段32の集光器322の直下に位置付ける。そして,集光器322からシリコン基板21に対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線を照射しつつチャックテーブル31を図4の(a)において矢印X1で示す方向に所定の加工送り速度で移動せしめる。そして,図4の(b)で示すようにレーザー光線照射手段32の集光器322の照射位置がストリート22の他端(図4の(b)において右端)の位置に達したら,パルスレーザー光線の照射を停止するとともにチャックテーブル31の移動を停止する。この変質層形成工程においては,パルスレーザー光線の集光点Pを半導体ウエーハ2の厚さ方向中間部に位置付ける。この結果,ウエーハ2の基板21には,図4の(b)および図5に示すようにストリート22に沿って厚さ方向中間部に変質層210が形成される。このようにウエーハ2の基板21の内部にストリート22に沿って変質層210が形成されると,基板21には図5に示すように変質層210から表面21aおよび裏面21bに向けてストリート22に沿ってクラック211が発生する。
【0016】
上記変質層形成工程における加工条件は,例えば次のように設定されている。
光源 :LD励起QスイッチNd:YVO4レーザー
波長 :1064nmのパルスレーザー
平均出力 :1W
パルス幅 :40ns
繰り返し周波数 :100kHz
集光スポット径 :φ1μm
加工送り速度 :100mm/秒
【0017】
以上のようにして,ウエーハ2の所定方向に延在する全てのストリート22に沿って上述した変質層形成工程を実行したならば,チャックテーブル31を90度回動せしめて,上記所定方向に対して直角に延びる各ストリート22に沿って上述した変質層形成工程を実行する。
【0018】
以上のようにして変質層形成工程を実施したならば,上記ウエーハ2を構成する基板21の表面21aに被覆された高分子化合物膜24に対して吸収性を有する波長のレーザー光線をウエーハの表面側からストリート22に沿って高分子化合物膜24に照射してレーザー加工溝を形成し,高分子化合物膜24をストリートに沿って分断する膜分断工程を実施する。この膜分断工程は,図6に示すように上記図3に示すレーザー加工装置3と同様のレーザー加工装置3を用いて実施する。従って,レーザー加工装置3の各構成部材には図3に示す符号と同一符号を付して説明する。なお,レーザー光線照射手段32は,高分子化合物膜24に対して吸収性を有する波長(例えば,355nm)のパルスレーザー光線を発振するパルスレーザー光線発振手段を備えている。
<途中省略>
【0022】
上述した膜分断工程を実施することにより,図8に示すように高分子化合物膜24にはストリート22に沿って基板21に達するレーザー加工溝240が形成される。この結果,ストリート22に被覆された高分子化合物膜24は,レーザー加工溝240によってストリート22に沿って分断される。この膜分断工程においては,高分子化合物膜24はレーザー加工するが直ちに昇華され,シリコンからなる基板21は加工しないので,レーザー加工によるデブリの発生が抑制される。
<途中省略>
【0025】
次に,ウエーハ2を構成する基板21の裏面を研削し,ウエーハ2を所定の厚さに形成する裏面研削工程を実施する。この裏面研削工程を実施するに際し,図示の実施形態においてはウエーハ2の表面に形成されたデバイス23を保護するために,図9の(a)および(b)に示すようにウエーハ2の表面21aに塩化ビニール等からなる保護テープ4を貼着する(保護テープ貼着工程)。
【0026】
裏面研削工程は,図10の(a)に示す研削装置5を用いて実施する。図10の(a)に示す研削装置5は,被加工物を保持するチャックテーブル51と,該チャックテーブル51に保持された被加工物を研削するための研削砥石52を備えた研削手段53を具備している。この研削装置5を用いて上記裏面研削工程を実施するには,チャックテーブル51上にウエーハ2の保護テープ4側を載置し,図示しない吸引手段を作動することによりウエーハ2をチャックテーブル51上に保持する。従って,チャックテーブル51に保持されたウエーハ2は,裏面21bが上側となる。このようにして,チャックテーブル51上にウエーハ2を保持したならば,チャックテーブル51を矢印51aで示す方向に例えば300rpmで回転しつつ,研削手段53の研削砥石52を矢印52aで示す方向に例えば6000rpmで回転しつつ半導体ウエーハ2の裏面2bに接触せしめて研削することにより,図10の(b)に示すように所定の厚さ(例えば100μm)に形成する。なお,上記変質層形成工程において形成される変質層210をウエーハ2の表面2aから例えば100μm以内の位置に形成すれば上記裏面研削工程を実施した後にも変質層210は残るが,上記変質層形成工程において形成される変質層210をウエーハ2の表面2aから例えば100μmの位置より裏面2bに形成することにより,上記裏面研削工程を実施することにより変質層210が形成された位置まで研削され,変質層210は除去される。従って,ウエーハ2の基板21には,図10の(b)に示すようにストリート22に沿って形成されたクラック211が残される。
【0027】
上述した裏面研削工程を実施したならば,ウエーハ2の裏面21bを環状のフレームに装着されたダイシングテープの表面に貼着するウエーハ支持工程を実施する。即ち,図11に示すように環状のフレームFに装着されたダイシングテープTの表面にウエーハ2における基板21の裏面21bを貼着する(ウエーハ支持工程)。そして,ウエーハ2における基板21の表面21aに貼着されている保護テープ4を剥離する(保護テープ剥離工程)。
【0028】
次に,上記膜分断工程および変質層形成工程が実施されているウエーハ2,即ち高分子化合物膜24がストリート22に沿って分断されるとともに21基板の内部にストリート22に沿って変質層210が形成されたウエーハ2に外力を付与し,ウエーハ2をストリート22に沿って破断するウエーハ破断工程を実施する。このウエーハ破断工程は,図示の実施形態においては図12に示すテープ拡張装置6を用いて実施する。図12に示すテープ拡張装置6は,上記環状のフレームFを保持するフレーム保持手段61と,該フレーム保持手段61に保持された環状のフレームFに装着されたダイシングテープTを拡張するテープ拡張手段62を具備している。フレーム保持手段61は,環状のフレーム保持部材611と,該フレーム保持部材611の外周に配設された固定手段としての複数のクランプ612とからなっている。フレーム保持部材611の上面には環状のフレームFを載置する載置面611aが形成されており,この載置面611a上に環状のフレームFが載置される。そして,載置面611a上に載置された環状のフレームFは,クランプ612によってフレーム保持部材611に固定される。このように構成されたフレーム保持手段61は,テープ拡張手段62によって上下方向に進退可能に支持されている。
【0029】
テープ拡張手段62は,上記環状のフレーム保持部材611の内側に配設される拡張ドラム621を具備している。この拡張ドラム621は,環状のフレームFの内径より小さく該環状のフレームFに装着されたダイシングテープTに貼着されるウエーハ2の外径より大きい内径および外径を有している。また,拡張ドラム621は,下端に支持フランジ622を備えている。図示の実施形態におけるテープ拡張手段62は,上記環状のフレーム保持部材611を上下方向に進退可能な支持手段63を具備している。この支持手段63は,上記支持フランジ622上に配設された複数のエアシリンダ631からなっており,そのピストンロッド632が上記環状のフレーム保持部材611の下面に連結される。このように複数のエアシリンダ631からなる支持手段63は,環状のフレーム保持部材611を載置面611aが拡張ドラム621の上端と略同一高さとなる基準位置と,拡張ドラム621の上端より所定量下方の拡張位置の間を上下方向に移動せしめる。従って,複数のエアシリンダ631からなる支持手段63は,拡張ドラム621とフレーム保持部材611とを上下方向に相対移動する拡張移動手段として機能する。
【0030】
以上のように構成されたテープ拡張装置6を用いて実施するウエーハ破断工程について図13を参照して説明する。即ち,ウエーハ2(ストリート22に沿って基板21にクラック211が形成されているとともに高分子化合物膜24にレーザー加工溝240が形成されている)の裏面21bが貼着されているダイシングテープTが装着された環状のフレームFを,図13の(a)に示すようにフレーム保持手段61を構成するフレーム保持部材611の載置面611a上に載置し,クランプ612によってフレーム保持部材611に固定する。このとき,フレーム保持部材611は図13の(a)に示す基準位置に位置付けられている。次に,テープ拡張手段62を構成する支持手段63としての複数のエアシリンダ631を作動して,環状のフレーム保持部材611を図13の(b)に示す拡張位置に下降せしめる。従って,フレーム保持部材611の載置面611a上に固定されている環状のフレームFも下降するため,図13の(b)に示すように環状のフレームFに装着されたダイシングテープTは拡張ドラム621の上端縁に接して拡張せしめられる。この結果,ダイシングテープTに貼着されているウエーハ2には放射状に引張力が作用するため,ウエーハ2の基板21はクラック211が形成されることによって強度が低下せしめられたストリート22に沿って破断され個々のデバイス23に分割される。このとき,ウエーハ2の基板21の表面に被覆されている高分子化合物膜24はストリート22に沿って形成されたレーザー加工溝240によって分断されているので,破断されずに残ることはない。
【0031】
上述した実施形態においては,上記裏面研削工程でウエーハ2の基板21の裏面を研削して変質層210が除去されており,ウエーハ2は基板21に形成されたクラック211に沿って破断される。従って,個々の分割されたデバイス23の破断面には変質層210が残存しないため,デバイス23の抗折強度が向上する。」

図5は,引用文献1に記載された発明における,変質層形成工程が実施されたウエーハの要部を拡大して示す断面図であって,以下のとおりである。



図10は,引用文献1に記載された発明における,分割方法における裏面研削工程を示す説明図であって,以下のとおりである。



2 引用発明
上記1から,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「変質層形成工程と,膜分断工程と,裏面研削工程と,ウエーハ破断工程とをこの順で実施して,ストリートおよびデバイスを含む表面にポリイミド(PI)系高分子化合物膜が被覆されている厚さが600μmのシリコン基板を含むウエーハを分割するための,
ウエーハの基板に対して透過性を有する波長(1064nm)のパルスレーザー光線を発振するパルスレーザー光線発振手段を備えている変質層形成用レーザー加工装置と,
高分子化合物膜に対して吸収性を有する波長(355nm)のパルスレーザー光線を発振するパルスレーザー光線発振手段を備えている高分子化合物膜分断用レーザー加工装置と,
研削装置と,
テープ拡張装置とを含むシステムにおいて,
(a)前記変質層形成用レーザー加工装置は,ウエーハの基板に対して透過性を有する波長のレーザー光線をウエーハの表面側から基板の内部に集光点を位置付けてストリートに沿って照射し,基板の内部にストリートに沿って変質層を形成する前記変質層形成工程を実施するものであって,ウエーハの基板の内部にストリートに沿って変質層が形成されると,基板には変質層から表面および裏面に向けてストリートに沿ってクラックが発生するように,加工条件が,次のように設定されている装置であり,
光源 :LD励起QスイッチNd:YVO4レーザー
波長 :1064nmのパルスレーザー
平均出力 :1W
パルス幅 :40ns
繰り返し周波数 :100kHz
集光スポット径 :φ1μm
加工送り速度 :100mm/秒
(b)前記高分子化合物膜分断用レーザー加工装置は,ウエーハを構成する基板の表面に被覆された高分子化合物膜に対して吸収性を有する波長のレーザー光線をウエーハの表面側からストリートに沿って高分子化合物膜に照射してレーザー加工溝を形成し,高分子化合物膜をストリートに沿って分断する前記膜分断工程を実施するものであって,この膜分断工程においては,高分子化合物膜はレーザー加工されるが直ちに昇華され,シリコンからなる基板は加工しないので,レーザー加工によるデブリの発生が抑制される装置であり,
(c)前記研削装置は,チャックテーブル上に,ウエーハの表面に形成されたデバイスを保護するため,ウエーハの表面に塩化ビニール等からなる保護テープを貼着したウエーハの保護テープ側を載置し,吸引手段を作動することによりウエーハをチャックテーブル上に保持し,チャックテーブルを回転しつつ,また,研削手段の研削砥石を回転しつつ半導体ウエーハの裏面に接触せしめて研削することにより,所定の厚さ(100μm)に形成する前記裏面研削工程を実施するものであって,上記変質層形成工程において形成される変質層をウエーハの表面から100μmの位置より裏面に形成することにより,前記裏面研削工程を実施することにより変質層が形成された位置まで研削され,変質層は除去されて,ウエーハの基板にはストリートに沿って形成されたクラックが残される装置であり,
(d)前記テープ拡張装置は,上記膜分断工程および変質層形成工程が実施されているウエーハ,即ち高分子化合物膜がストリートに沿って分断されるとともに基板の内部にストリートに沿って変質層が形成されたウエーハに外力を付与し,ウエーハをストリートに沿って破断する前記ウエーハ破断工程を実施するものであって,ウエーハ(ストリートに沿って基板にクラックが形成されているとともに高分子化合物膜にレーザー加工溝が形成されている)の裏面が貼着されているダイシングテープが装着された環状のフレームをフレーム保持手段を構成するフレーム保持部材の載置面上に載置し,クランプによってフレーム保持部材に固定し,テープ拡張手段を構成する支持手段としての複数のエアシリンダを作動させて,環状のフレーム保持部材を拡張位置に下降せしめ,フレーム保持部材の載置面上に固定されている環状のフレームを下降させて環状のフレームに装着されたダイシングテープを拡張ドラムの上端縁に接して拡張せしめ,ダイシングテープに貼着されているウエーハに放射状に引張力を作用させて,ウエーハの基板をクラックが形成されることによって強度が低下せしめられたストリートに沿って破断して個々のデバイスに分割する装置である,
裏面研削工程でウエーハの基板の裏面を研削して変質層が除去されており,ウエーハは基板に形成されたクラックに沿って破断されることから,個々の分割されたデバイスの破断面には変質層が残存しないため,デバイスの抗折強度が向上するシステム。」

第5 対比
本願発明と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。
1 引用発明の「シリコン基板を含むウエーハ」,「『ウエーハの基板に対して透過性を有する波長のレーザー光線をウエーハの表面側から基板の内部に集光点を位置付けてストリートに沿って照射し』て形成した『変質層』」及び「『変質層から表面および裏面に向けてストリートに沿って』発生する『クラック』」は,それぞれ,本願発明の「ウェハ」,「レーザ光で改質された部分」及び「レーザ光で改質された部分から延びる微小亀裂」に相当する。

2 引用発明の「研削装置」及び「テープ拡張装置」は,本願発明の「研削手段」及び「ウェハを分割する分割手段」に相当する。

3 引用発明の「『ウエーハを分割するための』『システム』」は,以下の相違点1を除いて本願発明の「ウェハ分割システム」に相当する。

4 したがって,本願発明と引用発明は,以下の構成において一致する。
「レーザ光で改質された部分をもつウェハを分割するウェハ分割システムにおいて,
前記ウェハの裏面を研削することにより,前記レーザ光で改質された部分を取り除く研削手段と,
前記研削後,前記ウェハを分割する分割手段と,
を備えるウェハ分割システム。」

5 本願発明と引用発明は,以下の点で相違する。
・相違点1
本願発明では,「前記レーザ光で改質された部分から延びる微小亀裂を前記ウェハの表面側に露出させない状態」でウェハの裏面を研削するのに対して,引用発明では,この点が明記されていな点。

第6 判断
1 相違点1について
(1)本願発明の「前記レーザ光で改質された部分から延びる微小亀裂を前記ウェハの表面側に露出させない状態」という発明特定事項は,平成29年5月11日に提出された手続補正書により補正前の請求項1に追加されたものであり,同日付けの意見書は,その補正の根拠として,「請求項1,5における補正は,本願明細書の段落[0026]?[0027],[0130]?[0144],[0152]?[0154],図12?16の記載に基づくものであり,新規事項の追加に該当するものではありません。」と説明する。
そして,本願の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。
「【0026】
こうして,研削工程によってウェハを削りながら除去するとともに,微小空孔をウェハの厚み方向に進展させ改質領域を除去する。次に,研削により形成された加工変質層と,進展した微小空孔とを,際立たせるために,ウェハ全面に対して化学機械研磨を施して(後に詳細記載),加工変質層を完全に除去する。その結果,微小空孔のみが表面に残り,その残りの領域は加工歪も残らない完全な鏡面となる。
【0027】
その後,まだ割れていないウェハに対して,ウェハを割断する機構に載せて,ウェハに曲げ応力を加えてウェハを割断して,その後,エキスパンドフィルムを引っ張ってチップ同士を離間する。これにより,チップの断面にレーザー光により形成された改質領域が残らないようにすることができる。そのため,チップが割れたり,チップ断面から発塵したりとするという不具合を防ぎ,安定した品質のチップを効率よく得ることができる。」

「【0130】
(2)研削除去工程(ステップS12)
レーザー改質工程(ステップS10)により切断ラインLに沿って改質領域が形成されたら,搬送装置(図示せず)によりウェハWをレーザーダイシング装置1から研削装置2へ搬送する。以下の処理は研削装置2で行われ,制御部100により制御される。
【0131】
搬送されたウェハWの裏面を上側,すなわちウェハWの表面に貼付されたBGテープBを下側にしてチャック132(例示,チャック136,148,140でも可)に載置させ,ウェハWの略全面をチャック132に真空吸着させる。
【0132】
インデックステーブル134を回転軸135を中心に回転させてチャック132を粗研削ステージ118に搬入し,ウェハWを粗研削する。
【0133】
粗研削は,チャック132を回転させるとともにカップ型砥石146を回転させることにより行う。本実施の形態では,カップ型砥石146として例えば,東京精密製ビトリファイド♯325を用い,カップ型砥石146の回転数は略3000rpmである。
【0134】
粗研削後,インデックステーブル134を回転軸135を中心に回転させてチャック132を精研削ステージ120に搬入し,チャック132を回転させるとともにカップ型砥石154を回転させてウェハWを精研削する。本実施の形態では,カップ型砥石154として例えば,東京精密製レジン♯2000を用い,カップ型砥石154の回転数は略2400rpmである。
【0135】
本実施の形態では,図12に示すように,粗研削と精研削とをあわせて目標面まで,すなわちウェハWの表面から略50μmの深さまで研削を行う。本実施の形態では,粗研削で略700μmの研削を行い,精研削で略30?40μmの研削を行うが,厳密に決まっているわけではなく,粗研削と精研削との時間が略同一となるように研削量を決定してもよい。
【0136】
したがって,図12に示すように,改質層は研削工程で除去され,最終的な製品であるチップT断面にはレーザー光による改質領域Pは残らない。そのため,チップ断面から改質層が破砕し,破砕した部分からチップTが割れたり,また破砕した部分から発塵したりということをなくすことができる。
【0137】
また,本実施の形態においては,この研削除去工程において,改質層内のクラックをウェハWの厚み方向に進展させる亀裂進展工程が含まれる。図13は,クラックが進展する仕組みを説明する図であり,(a)は研削時の概略図,(b)はウェハW裏面の様子,(c)はウェハW表面の様子,(d)は研削時のウェハWの断面図である。
【0138】
研削によって,図13(a)に示す研削面,すなわちウェハW裏面は,図13(b)に示すように研削熱によって膨張する。それに対し,研削面の反対側の面,すなわちウェハW表面は,図13(c)に示すように真空チャックにより略全面が減圧吸着されており,熱膨張による位置ずれが生じないように横方向への変位に対して物理的に拘束されている。
【0139】
すなわち,図13(d)に示すように,ウェハWの裏面(研削面)は熱膨張によって円盤状の場合外周方向に広がろうとする(熱膨張による変位)のに対し,ウェハWの表面(吸着面)はその広がろうとするウェハ面内の各点各点を物理的に位置ずれしないように拘束されている。そのため,ウェハ内部に歪が生じ,この内部歪によりクラックがウェハWの厚み方向に進展する。この内部歪は,熱膨張により膨張する部分と,物理拘束されるウェハ面内各点との間に均等に働く。内部歪による亀裂進展は,最も研削量が大きく,摩擦力も大きくなる,すなわち摩擦熱も大きくできる研削初期,すなわち粗研削時が最も効率良い。
【0140】
レーザ改質領域は,チップの厚みに近い比較的深い位置に形成される。したがって,研削初期では研削表面からレーザ改質層までの距離は比較的遠くなるが,改質層から目標面は,亀裂進展させる程度に比較的近い位置にある。そのため,亀裂進展のためには,粗研削の初期に研削熱によってウェハWの熱膨張を促すとよい。
【0141】
ウェハWを熱膨張させる条件,すなわち摩擦熱をよい多く発生させるための条件(例えば,研削液を少なくする等)で研削を行ったとしても,研削のせん断応力がすぐに改質層におよぼされるものでもない。本実施の形態では,研削によるせん断応力によって亀裂が進展するのではなく,研削熱による熱膨張が亀裂進展の支配的要素である。
【0142】
内部歪によりクラックを進展させる場合には,ウェハW面内の剛性ばらつきなどに起因することなく,どのようなウェハWであってもウェハW面内各点一様にクラックを進展させることができる。したがって,人為的な応力を付与する場合のように,ウェハW面内の欠陥の存在などに起因する剛性の弱い部分に応力が集中する事を防ぐことができる。
【0143】
また,人為的に外力を与えた場合においては,材料の弱い部分に応力が集中するため,クラックを一様に緩やかに進展させるという制御は困難であり,完全にウェハが割断される。それに対し,本実施の形態における内部歪によるクラックの進展の場合,熱膨張の度合いよる内部歪であることから,クラックを微妙に進展させることが可能となる。すなわち,目標面とウェハWの表面との間にまでクラックを進展させることができる。したがって,後に説明する分割・離間工程(ステップS18)で効率よく分割することが可能となる。
【0144】
なお,ウェハWの熱膨張による内部歪は,温度差に起因するいわゆる熱応力とは区別される。熱応力は温度勾配に比例して発生するが,本実施の形態では発生した熱はチャック132,136,138,140へ逃げていくため,熱応力は発生しない。」

「【0152】
(5)分割・離間工程(ステップS18)
エキスパンドテープ貼付工程(ステップS16)でエキスパンドテープFが裏面に貼付されたウェハWを,図15に示すように分割装置にウェハWの表面を上に載置する。研削除去工程(ステップS12)においてクラックが目標面より表面側へ進展しているため,図15に示すように,ウェハWのエキスパンドテープFが貼付されている側には進展したクラックが形成されている。
【0153】
その後,図16に示すように,エキスパンドテープFを外側へ拡張する(エキスパンド)と,進展したクラックをもとにウェハWが破断される。すなわち,ウェハWが切断ラインで破断され,複数のチップTに分割される。その後,エキスパンドテープFをさらに拡
張すると個々のチップTが離間する。
【0154】
本実施の形態では,研削除去工程(ステップS12)において,クラックを目標面より下側に進展させることによって,この分割・離間工程においてエキスパンドテープFを引っ張るだけで,効率よくウェハWをチップTに分割することが可能となる。また,クラックを進展させるときに完全にウェハを割断しないため,作業効率がよい。」

(2)さらに,出願人は,審判請求書の請求の理由において,以下のように主張する。
「カ これに対し,本願発明1は,レーザ光で改質された部分から延びる微小亀裂をウェハの表面側に露出させた状態(すなわち,微小亀裂によりウェハを完全に割断させた状態)でウェハの裏面を研削すると,ウェハの外周部のチップが飛散しやすく,飛散したチップによって研削面を傷つけやすく,安定した品質のチップを効率良く得ることが困難となるという,引用文献1には記載も示唆もされていない課題に着目し,その課題を解決するための手段として,相違点に係る本願発明1の構成である「前記レーザ光で改質された部分から延びる微小亀裂を前記ウェハの表面側に露出させない状態で前記ウェハの裏面を研削する」構成を採用したことをその発明の特徴としたものである。そして,本願発明1によれば,当該構成を採用したことにより,ウェハの裏面の研削はウェハが完全に割断していない状態(すなわち,微小亀裂がウェハの表面に露出しない状態)で行われるため,ウェハの裏面を研削する際にウェハの外周部のチップが飛散することがなく,飛散したチップによって研削面を傷つけることがないので,安定した品質のチップを効率良く得ることができるという,当業者といえども予測することができない格別な効果を奏するものである。」

(3)そうすると,上記(1)及び(2)に照らして,本願発明において,「微小亀裂をウェハの表面側に露出させない状態」とは,「ウェハが完全に割断していない状態」という技術的意味を有する特定であると理解される。

(4)一方,引用発明の「テープ拡張装置」は,「上記膜分断工程および変質層形成工程が実施されているウエーハ,即ち高分子化合物膜がストリートに沿って分断されるとともに基板の内部にストリートに沿って変質層が形成されたウエーハに外力を付与し,ウエーハをストリートに沿って破断するウエーハ破断工程を実施するもの」であって,「ダイシングテープに貼着されているウエーハに放射状に引張力を作用させて,ウエーハの基板をクラックが形成されることによって強度が低下せしめられたストリートに沿って破断して個々のデバイスに分割する装置」である。

(5)そして,引用発明における,前記「ウエーハに外力を付与し」,「ウエーハに放射状に引張力を作用させて」という特定は,ウエーハが,「テープ拡張装置」に供された時点において,「ウエーハ」に対して,「力」を付与(作用)させ得る状態,すなわち,「完全に割断していない状態」であることを特定しているものと認められる。

(6)すなわち,引用発明では,「クラックが形成」されているものの,該「クラック」だけでは「個々のデバイスに分割」されておらず,テープ拡張装置により,「ウエーハに放射状に引張力を作用させ」ることで,「クラックが形成されることによって強度が低下せしめられたストリートに沿って破断」されて「個々のデバイスに分割」されることが実現されるのである。
そうすると,引用発明では,テープ拡張装置でのウエーハ破断工程前において,クラックによりウエーハが完全に破断していない状態にあるから,ウエーハ破断工程より前に実施される裏面研削工程においても,クラックによりウエーハが完全に破断していない状態であったものと認められる。

(7)これに対して,仮に,「テープ拡張装置」を用いた「ウエーハ破断工程」に先立つ,「裏面研削工程」において,既に,ウエーハが,「微小亀裂によりウェハを完全に割断させた状態」であったとすれば,「テープ拡張装置」に供されるのは,前記微小亀裂により個々に分割されたデバイスが貼着されたダイシングテープとなり,このような場合においては,当該「テープ拡張装置」によって行われるのは,「ダイシングテープに外力を付与し」,「ダイシングテープに放射状に引張力を作用させて」,前記個々に分割されたデバイスの相互の間隔を拡げるという工程となり,上記した引用発明の認定と整合しない。

(8)以上から,引用発明は,「前記レーザ光で改質された部分から延びる微小亀裂を前記ウェハの表面側に露出させない状態」でウェハの裏面を研削するものと認められるから,相違点1は,実質的なものではない。

2 請求人の主張について
(1)審判請求人は,審判請求書の請求の理由において,「引用文献1には,『基板の内部にストリート22に沿って変質層210が形成されたウエーハ2に外力を付与し,ウエーハ2をストリート22に沿って破断するウエーハ破断工程を実施』することが記載されているものの,その記載から直ちに,クラック211をウエーハ2の表面側に露出させない状態で裏面研削を行うことを直接的かつ具体的に当業者が十分に理解可能とは認められないものであり,むしろ,引用文献1の図5,図10(b)の記載を参照すれば,クラック211をウエーハ2の表面側に露出させた状態で裏面研削が行われていると解するのが自然である。」と主張する。
しかしながら,上記1(4)ないし(6)で検討したように,引用発明は,「前記レーザ光で改質された部分から延びる微小亀裂を前記ウェハの表面側に露出させない状態」でウェハの裏面を研削するものと,直接的かつ具体的に当業者が十分に理解可能であると認められるから,審判請求人の前記主張は採用することはできない。
なお,引用文献1の図5は,引用文献1に記載された発明における,変質層形成工程が実施されたウエーハの要部を拡大して示す断面図であり,また,図10は,引用文献1に記載された発明における,分割方法における裏面研削工程を示す説明図であって,それぞれ,引用文献1に記載された発明を説明するものである。
そして,いずれの図も,当該説明において必要な事項を,説明に必要な範囲内で特定し,あるいは強調して図示し,説明に必要とされない事項については簡略化し,あるいは省略したものであり,引用文献1に記載された発明に係る事項の全てを正確に記載したものであるとは認めることはできない。
他方,上記1(4)ないし(6)で検討したように,引用発明は,「前記レーザ光で改質された部分から延びる微小亀裂を前記ウェハの表面側に露出させない状態」でウェハの裏面を研削するものと認められる。
してみれば,引用文献1の図5,図10(b)に,クラックがウエーハの表面側に到達するように図示されていたとしても,当該図示は,クラックとウエーハの表面側との間に存在する空白(未クラック領域)を,説明に必要とされない事項として簡略化,あるいは省略した結果であると理解することが自然といえる。
しかも,仮に,引用文献1の図5,図10(b)の,クラックがウエーハの表面側に到達するような図示が,引用文献1に記載された発明を正確に記載したものであるとしても,前記図5,図10(b)は,ウエーハの一断面に過ぎず,ウエーハの全ての領域において,前記図5,図10(b)と同様にクラックがウエーハの表面側に到達することを示すものではないから,これらの図から,「クラック211をウエーハ2の表面側に露出させた状態」,すなわち,微小亀裂によりウェハを完全に割断させた状態で裏面研削が行われていると認めることはできない。
したがって,いずれにしろ,審判請求人の主張は採用することができない。

(2)さらに,審判請求人は,審判請求書の請求の理由において以下のように主張する。
「オ また,引用発明(引用文献1に記載された発明)は,ストリートの表面に膜が被覆されたウェハを,膜を残すことなく分割することを課題とし,その課題を解決するための手段として,ウェハの表面を分断するレーザ加工溝を形成することを特徴とした技術である。すなわち,引用発明は,ウェハの内部にレーザ光で改質された部分を形成した後,ウェハの表面を分断するレーザ加工溝を形成することを発明の本質的部分としたものである。
そうすると,引用発明にとって,ウェハの表面を分断するレーザ加工溝を形成することは,課題解決のために不可欠な技術的事項であり,当該技術的事項を変更すること,つまり,ウェハの表面を分断するレーザ加工溝を形成することなく,レーザ光で改質された部分から延びる微小亀裂をウェハの表面側に露出させない状態で研削する構成に変更することについては,引用発明が本来奏する作用効果が失われるものであり,引用発明において,相違点に係る本願発明1の構成に変更する必要性があるものとは認められないものである。
そして,引用発明において,上記本質的部分を除外した構成(すなわち,相違点に係る本願発明1の構成)に変更することは,ストリートの表面に被覆された膜を分断する引用発明の目的に反する方向の変更となることから,本願発明1に対して『阻害要因』となり得るものが引用発明の中に存在していると認められるべきものである。
カ これに対し,本願発明1は,レーザ光で改質された部分から延びる微小亀裂をウェハの表面側に露出させた状態(すなわち,微小亀裂によりウェハを完全に割断させた状態)でウェハの裏面を研削すると,ウェハの外周部のチップが飛散しやすく,飛散したチップによって研削面を傷つけやすく,安定した品質のチップを効率良く得ることが困難となるという,引用文献1には記載も示唆もされていない課題に着目し,その課題を解決するための手段として,相違点に係る本願発明1の構成である『前記レーザ光で改質された部分から延びる微小亀裂を前記ウェハの表面側に露出させない状態で前記ウェハの裏面を研削する』構成を採用したことをその発明の特徴としたものである。そして,本願発明1によれば,当該構成を採用したことにより,ウェハの裏面の研削はウェハが完全に割断していない状態(すなわち,微小亀裂がウェハの表面に露出しない状態)で行われるため,ウェハの裏面を研削する際にウェハの外周部のチップが飛散することがなく,飛散したチップによって研削面を傷つけることがないので,安定した品質のチップを効率良く得ることができるという,当業者といえども予測することができない格別な効果を奏するものである。」
しかしながら,本願発明は,「レーザ光で改質された部分をもつウェハを分割するウェハ分割システムにおいて,前記レーザ光で改質された部分から延びる微小亀裂を前記ウェハの表面側に露出させない状態で前記ウェハの裏面を研削することにより,前記レーザ光で改質された部分を取り除く研削手段と,前記研削後,前記ウェハを分割する分割手段と,を備えるウェハ分割システム。」というものである。
すなわち,本願発明は,レーザ光で改質された部分をもつウェハを分割するウェハ分割システムにおいて,「前記レーザ光で改質された部分から延びる微小亀裂を前記ウェハの表面側に露出させない状態で前記ウェハの裏面を研削することにより,前記レーザ光で改質された部分を取り除く研削手段」と,「前記研削後,前記ウェハを分割する分割手段」とを備えることを発明特定事項として有する発明であり,これら各手段に加えて他の手段を付加することを妨げるものではない。
そして,引用発明は,上記1で検討したように,前記「研削手段」及び「分割手段」に加えて,「ウエーハを構成する基板の表面に被覆された高分子化合物膜に対して吸収性を有する波長のレーザー光線をウエーハの表面側からストリートに沿って高分子化合物膜に照射してレーザー加工溝を形成し,高分子化合物膜をストリートに沿って分断する膜分断工程を実施するものであって,この膜分断工程においては,高分子化合物膜はレーザー加工されるが直ちに昇華され,シリコンからなる基板は加工しないので,レーザー加工によるデブリの発生が抑制される装置」を付加した発明であるが,前記「装置」を付加したことと,本願発明は両立しないものではないから,審判請求人の前記主張は採用することはできない。

第7 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用文献1に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-07-06 
結審通知日 2018-07-09 
審決日 2018-07-20 
出願番号 特願2017-30264(P2017-30264)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 山口 大志梶尾 誠哉  
特許庁審判長 飯田 清司
特許庁審判官 加藤 浩一
河合 俊英
発明の名称 ウェハ分割システム及びウェハ分割方法  
代理人 松浦 憲三  

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