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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C07D
管理番号 1343701
審判番号 不服2018-201  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-01-09 
確定日 2018-09-25 
事件の表示 特願2013-236186「液状1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸-1,2-無水物の保管方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 5月18日出願公開、特開2015- 93868、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成25年11月14日の出願であって、平成29年6月12日付けで拒絶理由が通知され、同年8月16日に意見書及び手続補正書が提出され、同年10月5日付けで拒絶査定がされ、平成30年1月9日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 原査定の拒絶理由の概要
原査定の拒絶の理由は、平成29年6月12日付け拒絶理由通知における理由1であり、その理由1の概要は、この出願の請求項1?7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された引用文献1?5に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

引用文献1:特開2012-188411号公報
引用文献2:国際公開第2005/049597号
引用文献3:特開昭62-170783号公報
引用文献4:特開2009-46147号公報
引用文献5:特開平5-42992号公報

第3 特許請求の範囲の記載
この出願の特許請求の範囲の記載は、平成30年1月9日になされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項によって特定された以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
以下の工程1?3を有する液状1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸-1,2-無水物の保管方法。
工程1:該無水物の液温を60℃以上に保ったまま、耐熱性樹脂で内面を被覆された缶に該無水物を充填する工程
工程2:該無水物が充填された充填缶を、該無水物の保管温度が40℃以下で2ヶ月以上保管する工程
工程3:該無水物を充填した缶を60℃以上に加熱し、該充填缶から該無水物を取り出す工程
【請求項2】
前記缶が耐熱性樹脂フィルムで内面が被覆されたものである請求項1に記載の保管方法。
【請求項3】
工程1における液温が100℃以上である請求項1または2に記載の保管方法。
【請求項4】
工程2における保管温度が25℃以下である請求項1?3のいずれかに記載の保管方法。
【請求項5】
工程2における保管温度が5℃以下である請求項1?3のいずれかに記載の保管方法。
【請求項6】
工程3における缶の加熱温度が100℃以上である請求項1?5のいずれかに記載の保管方法。」(以下「本願発明1」?「本願発明6」という。)

第4 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、次の事項が記載されている。
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるtrans, trans-1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸-1,2-無水物を含有する、常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物の保存方法であって、保存温度が100?150℃であることを特徴とするシクロヘキサントリカルボン酸無水物の保存方法。
【化1】



(1b)「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、塗料、接着剤、成形品、光半導体の封止材料樹脂、硬化剤、ポリイミド樹脂などの原料や改質剤、可塑剤や潤滑油原料、医農薬中間体、塗料用樹脂原料、トナー用樹脂等に有用な、常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物を、結晶析出することなく、安定に保存する保存方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定の温度で保管することで、常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物が、結晶が析出することなく安定に保存可能であることを見出し、本発明に至った。」

(1c)「【0018】
前記のように加熱溶融することによりシクロヘキサントリカルボン酸無水物の異性体混合物が得られ、この異性体混合物は、前記(1)式で表されるtrans, trans-1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸-1,2-無水物と、前記(2)式で表されるcis, cis-1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸-1,2-無水物との混合物とからなるものである。・・・」

(1d)「【0020】
本発明での保存温度は、100?150℃の範囲が好ましい。さらに好ましい保存温度は100?120℃である。保存温度が80℃近辺では、結晶析出が促進される温度であり、短期間で結晶が析出してしまう。さらに低い温度である60℃においても保存中に結晶が析出してしまう。また、保存温度が高すぎると、液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物の分解や着色が発生し不適である。
【0021】
本発明で用いられる保存容器としては、貯蔵タンク等の専用の設備を使用してもよいし、搬送や取扱を考慮し、例えば18Lの角形金属缶(一斗缶)や200L以上の大型の金属製の缶(ドラム缶)を使用することもできる。金属製容器では、ペール缶、アルミ缶なども使用することもできる。また、ガラス容器、耐熱性プラスティック容器も使用することもできる。」

(1e)「【実施例】
【0027】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
・・・
【0032】
〔製造例1〕
温度計、攪拌機、コンデンサ、温度制御装置を備えた四つ口フラスコに、1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸100部を仕込み、窒素ガス流通下250℃で3時間加熱溶融を行い、常温で淡黄色透明液状の1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸-1,2-無水物を得た。原料の1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸基準の無水化率は95%、得られた液状1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸-1,2-無水物の60℃における粘度は14.6Pa・sであった。
得られた液状無水物についてHPLC分析を行ったところ、2つのピーク(Rt=7.5分、及び8.7分)が検出された。次いで、該液状無水物についてHPLC分取を行い、前記2つのピークに相当するカット1とカット2を得た。それぞれについてNMR測定を行った結果、カット1は式(3)に示される平面構造を有し、次式(1)に示されるtrans, trans-1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸-1,2-無水物であると同定され(表1、2参照)、カット2は式(4)に示される平面構造を有し、次式(2)に示されるcis, cis-1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸-1,2-無水物であると同定された(表3、4参照)。
尚、前記液状無水物(カット1とカット2)中のtrans, trans-1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸-1,2-無水物は63.2質量%、cis, cis-1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸-1,2-無水物は36.8質量%であった。
・・・
【0041】
〔実施例1〕
製造例1で得られた液状シクロヘキサントリカルボン酸無水物を、500mlブリキ製ローヤル缶に500g仕込み、容器空間をアルゴンガス置換後、密閉した。この密閉容器を、熱風乾燥機内で100℃にて保存した。結晶が析出するまでの保存可能期間を調査した結果を表5に示す。保存後の液を分析したところ、シクロヘキサントリカルボン酸無水物の純度低下は見られなかった。
【0042】
〔実施例2〕
製造例1で得られた液状シクロヘキサントリカルボン酸無水物を、500mlブリキ製ローヤル缶に500g仕込み、容器空間をアルゴンガス置換後、密閉した。この密閉容器を、熱風乾燥機内で120℃にて保存した。結晶が析出するまでの保存可能期間を調査した結果を表5に示す。保存後の液を分析したところ、シクロヘキサントリカルボン酸無水物の純度低下は見られなかった。
【0043】
〔実施例3〕
製造例1で得られた液状シクロヘキサントリカルボン酸無水物を、500mlブリキ製ローヤル缶に500g仕込み、容器空間をアルゴンガス置換後、密閉した。この密閉容器を、熱風乾燥機内で150℃にて保存した。結晶が析出するまでの保存可能期間を調査した結果を表5に示す。保存後の液を分析したところ、シクロヘキサントリカルボン酸無水物の純度低下は見られなかった。
【0044】
〔比較例1〕
製造例1で得られた液状シクロヘキサントリカルボン酸無水物を、500mlブリキ製ローヤル缶に500g仕込み、容器空間をアルゴンガス置換後、密閉した。この密閉容器を、熱風乾燥機内で80℃にて保存した。結晶が析出するまでの保存可能期間を調査した結果を表5に示す。
【0045】
〔比較例2〕
製造例1で得られた液状シクロヘキサントリカルボン酸無水物を、500mlブリキ製ローヤル缶に500g仕込み、容器空間をアルゴンガス置換後、密閉した。この密閉容器を、熱風乾燥機内で60℃にて保存した。結晶が析出するまでの保存可能期間を調査した結果を表5に示す。
【0046】
〔比較例3〕
製造例1で得られた液状シクロヘキサントリカルボン酸無水物を、500mlブリキ製ローヤル缶に500g仕込み、容器空間をアルゴンガス置換後、密閉した。この密閉容器を、熱風乾燥機内で170℃にて保存を試みたが、内容物の分解が発生したため中止した。
【0047】



したがって、上記引用文献1には、実施例を伴った(摘記(1e))特許請求の範囲の請求項1に記載された発明として(摘記(1a))、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「式(1)で表されるtrans, trans-1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸-1,2-無水物を含有する、常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物の保存方法であって、保存温度が100?150℃であることを特徴とするシクロヘキサントリカルボン酸無水物の保存方法
【化1】




2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、次の事項が記載されている。
(2a)「請求の範囲
[1] 式(1)で表されることを特徴とするtrans, trans-1,2,4-シクロへキサントリカルボン酸 -1,2-無水物。
[化1]


[2] 請求項1に記載のtrans, trans-1,2,4-シクロへキサントリカルボン酸-1,2-無水物を含有することを特徴とする常温で液状のシクロへキサントリカルボン酸無水物。
[3] 色価 (ハーゼン)が100以下である請求項2に記載の常温で液状のシクロへキサントリカルボン酸無水物。
[4] 1,2,4?シクロへキサントリカルボン酸および/または1,2,4?シクロへキサントリカルボン酸1,2無水物を180?300℃で加熱溶融する工程を有することにより請求項2に記載のシクロへキサントリカルボン酸無水物を製造することを特徴とする常温で液状のシクロへキサントリカルボン酸無水物の製造方法。
[5] 加熱溶融工程の後に、シクロへキサントリカルボン酸無水物を蒸留精製する工程を有する請求項4に記載の常温で液状のシクロへキサントリカルボン酸無水物の製造方法。」

(2b)「発明の開示
[0006] 本発明の目的は、取り扱いが容易な液状のシクロへキサントリカルボン酸無水物を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、シクロへキサントリカルボン酸および/またはシクロへキサントリカルボン酸無水物を加熱溶融することにより、新規な構造を有するシクロへキサントリカルボン酸無水物を含有する常温で液状の無水物が得られることを見出し、本発明に到達した。」

(2c)「[0013] 本発明の常温で液状のシクロへキサントリカルボン酸無水物は、前記原料、例えば1,2,4-シクロへキサントリカルボン酸を加熱溶融させる工程を含む製造方法により製造することができる。前記原料を加熱溶融することにより、1,2,4-シクロへキサントリカルボン酸を原料とした場合には無水化および異性化が起こり、また、1,2,4-シクロへキサントリカルボン酸1,2-無水物を原料とした場合には異性化が進行し、常温で液状のシクロへキサントリカルボン酸無水物の異性体混合物が得られる。」

(2d)「[0016] 前記のように加熱溶融することによりシクロへキサントリカルボン酸無水物の異性体混合物が得られ、この異性体混合物は、本発明の前記(1)式で表されるtrans,trans-1,2,4-シクロへキサントリカルボン酸1,2無水物と、特許文献1に記載された前記(2)式で表されるcis,cis-1,2,4-シクロへキサントリカルボン酸1,2無水物との混合物とからなるものである。
・・・
[0017] 本発明の常温で液状のシクロへキサントリカルボン酸無水物中のtrans,trans-1,2,4-シクロへキサントリカルボン酸1,2無水物の割合は、1?100質量%、好ましくは5?95質量%である。
尚、trans,trans-1,2,4-シクロへキサントリカルボン酸1,2無水物は、上記混合物からカラム吸着、蒸留、抽出等の精製法により分離することができる。」

(2e)「[0026] 〔実施例1〕
温度計、攪拌機、コンデンサ、温度制御装置を備えた四つ口フラスコに、1,2,4シクロへキサントリカルボン酸100部を仕込み、窒素ガス流通下250℃で3時間加熱溶融を行い、淡黄色透明液状の1,2,4-シクロへキサントリカルボン酸-1,2-無水物を得た。原料の1,2,4-シクロへキサントリカルボン酸基準の無水化率は95%、得られた液状1,2,4-シクロへキサントリカルボン酸1,2無水物の60℃における粘度は14.6Pa・sであった。
得られた液状無水物について HPLC分析を行ったところ、2つのピーク(Rt=7.5分、及び8.7分)が検出された。次いで、該液状無水物についてHPLC分取を行い、前記2つのピークに相当するカット1とカット2を得た。それぞれについてNMR測定を行った結果、カット1は式(3)に示される平面構造を有し、次式(1)に示されるtrans, trans-1,2,4-シクロへキサントリカルボン酸1,2無水物であると同定され(表1、2参照)、カット2は式(4)に示される平面構造を有し、次式(2)に示されるcis, cis -1,2,4?シクロへキサントリカルボン酸1,2無水物であると同定された(表3、4参照)。
尚、前記液状無水物中のtrans,trans-1,2,4-シクロへキサントリカルボン酸1,2無水物は63. 2質量%、cis, cis?1, 2, 4-シクロへキサントリカルボン酸1,2無水物は36. 8質量%であった。」

したがって、上記引用文献2には、実施例を伴った(摘記(2e))ものであって、請求の範囲の請求項1を引用する請求項2を引用する請求項4の記載を、引用する請求項の記載を引用しない形で書き下した、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「1,2,4-シクロへキサントリカルボン酸および/または1,2,4-シクロへキサントリカルボン酸1,2無水物を180?300℃で加熱溶融する工程を有することにより、式(1)で表されることを特徴とするtrans, trans-1,2,4-シクロへキサントリカルボン酸-1,2-無水物を含有することを特徴とする常温で液状のシクロへキサントリカルボン酸無水物を製造することを特徴とする常温で液状のシクロへキサントリカルボン酸無水物の製造方法



3 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。
(3a)「2.特許請求の範囲
(1)高粘度材料が収納された収納缶から材料充填機のタンクに移送するポンプを制御する方法において、前記収納缶はその内部の高粘度材料の上面に接触する主ヒータを有するプレートから移送パイプを介して前記タンクに連通して前記主ヒータが前記高粘度材料の上面に密着するように前記プレートを下降しつつ前記ポンプを駆動して前記高粘度材料を移送するようにし、移送準備段階では前記プレートの温度を検出して前記主ヒータを制御し、前記ポンプの駆動時には前記高粘度材料の温度を検出して前記主ヒータを制御することを特徴とする高粘度材料用ポンプの制御方法。」

(3b)「3.発明の詳細な説明
(産業上の利用分野)
本発明は、例えば通信ケーブルに充填されるシェリーの如き高粘度材料をその充填機のタンクに移送する高粘度材料用ポンプの制御方法に関するものである。
(従来技術)
従来このような高粘度材料をその収納缶から充填(原文は、旁が「眞」である。)機のタンクに移送するために収納缶内の高粘度材料を加熱室内に入れて加熱し高粘度材料の粘度を下げて半固溶状態にし、その後この収納缶を加熱室から取出してポンプによってタンクに移送していた。しかし、この方法では高粘度材料を収納缶と共に加熱していたので相当の加熱時間を必要とするため多大な作業時間と電力を必要とし、従って単位時間当りの吐出量が少なく、また加熱室の如き大きな設備を必要とし全体的に不経済であった。
(発明の目的)
本発明の目的は、短い作業時間と小さな電力で済む上に大きな設備を必要とすることなく経済的に高粘度材料を移送することができる高粘度材料用ポンプの制御方法を提供することにある。」(第1頁右下欄第7行?第2頁左上欄第10行)

(3c)「

」(第1図)

4 引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4には、図面とともに次の事項が記載されている。
(4a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
高粘度液体を充填し密栓した樹脂製のドラム缶を複数段に積み重ねて保管、貯蔵または運搬する高粘度液体の取り扱い方法であって、
前記高粘度液体を加温して充填し密栓するときに、前記ドラム缶内を加圧状態に保持することを特徴とする高粘度液体の取り扱い方法。」

(4b)「【0003】
前記液体メチオニンは、常温で高粘度の液体であり、そのため加温し粘度を下げた状態でドラム缶50に充填される。液体メチオニンのような高粘度液体を充填したドラム缶50は、図3に示すように、パレット60上に複数段に積み重ねて保管、貯蔵または運搬される。
【0004】
ところが、複数段に積み重ねられたドラム缶50のうち、最下段のドラム缶50において、図4に示すように、胴体部51の一部が内方に窪む、いわゆる座屈52が発生するという問題がある。座屈52が発生すると、ドラム缶50の外観が低下するだけでなく、ドラム缶50の強度が低下して、高粘度液体がドラム缶50から漏れ出すおそれがある。このような座屈52は、通常の液体を充填した場合には、発生しない。
【0005】
高粘度液体を充填した樹脂製のドラム缶50を保管等した場合に、ドラム缶50に座屈52が発生する理由としては、以下の理由が考えられる。すなわち、前記したように高温の高粘度液体を樹脂製のドラム缶50内に充填して密栓するが、充填された高粘度液体が外部の温度にまで冷却されると、ドラム缶50上部の気相部が減圧になりドラム缶50の強度が低下する。そのため、最下段のドラム缶50に加わる荷重(図3,図4に矢印Bで示す)に耐えきれず、座屈52が発生すると考えられる。」

(4c)「【図3】



(4d)「【図4】



5 引用文献5について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献5には、図面とともに次の事項が記載されている。
(5a)「【0002】
【背景技術】例えば、塗料や潤滑油などの液体を運搬・保管する密封容器としては、金属製の18リットル缶や200リットルのドラム缶が一般に利用されてきた。しかし、これらの金属缶では、運搬・保管する液体の種類によっては缶内に錆が発生して液体が汚染されたり、あるいは、缶壁に孔があいて内部に充填された液体が外部へ洩れたりするという問題があった。また、金属缶では重いため、運搬上から軽量化の要請も強い。」

第5 対比・判断
1 本願発明1について
(1)引用発明1との対比・判断
ア 対比
引用発明1の「trans, trans-1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸-1,2-無水物を含有する、常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物」は、本願発明1の「液状1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸-1,2-無水物」に該当することは明らかであり、また、引用発明1の「保存方法」は、本願発明1の「保管方法」に相当することは明らかである。

そうすると、本願発明1と引用発明1とでは、
「液状1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸-1,2-無水物の保管方法」である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)工程1として、本願発明1では、該無水物の液温を60℃以上に保ったまま、耐熱性樹脂で内面を被覆された缶に該無水物を充填する工程を有するのに対して、引用発明1では、当該工程を有していない点

(相違点2)工程2として、本願発明1では、該無水物が充填された充填缶を、該無水物の保管温度が40℃以下で2ヶ月以上保管する工程と有するのに対して、引用発明1では、保存温度が100?150℃であるとしている点

(相違点3)工程3として、本願発明1では、該無水物を充填した缶を60℃以上に加熱し、該充填缶から該無水物を取り出す工程を有するのに対して、引用発明1では、当該工程を有していない点

イ 相違点についての判断
(ア)事案に鑑み、工程2に関する相違点2から検討する。
引用文献1には、種々の用途に有用な、常温で液状の1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸-1,2-無水物を、結晶析出することなく、安定に保存する保存方法を提供することが発明の目的として記載され(摘記(1b))、100?150℃という特定の温度で保管することで、常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物が、結晶が析出することなく安定に保存可能であることを見出し、本発明に至ったことが記載されている(摘記(1a)(1b))。また、保存温度が80℃近辺では、結晶析出が促進される温度であり、短期間で結晶が析出してしまうこと、さらに低い温度である60℃においても保存中に結晶が析出してしまうことが記載され(摘記(1d))、さらに、保存温度が高すぎると、液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物の分解や着色が発生し不適であることが記載されている(摘記(1d))。そして、具体例として、実施例1?3において、保存温度をそれぞれ100℃、120℃、150℃にした場合は、結晶が3ヶ月以上析出しなかったが、比較例1及び2において、保存温度をそれぞれ80℃、60℃にした場合は、2週間又は4週間で結晶が析出したことが記載されている(摘記(1e))。
ここで、通常の化合物であれば、保管時に加熱を行うことなく温度を比較的低い温度とする程度のことは当業者の技術常識といえる場合はあるものの、引用文献1には、液状1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸-1,2-無水物を60?80℃で保存すると結晶が析出してしまうという問題があったために、保存温度を100?150℃とすることで液状1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸-1,2-無水物が、結晶が析出することなく安定に保存可能であることが記載されていることからすると、引用発明1において、保存温度を40℃以下とする動機付けがあるとはいえず、当業者といえども相違点2の保存温度に関する構成を容易に想到することはできないといえる。
また、1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸-1,2-無水物の製造方法に関する引用文献2や、異なる化合物に関する引用文献3?5を考慮しても、液状1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸-1,2-無水物の保存温度を40℃以下とすることを動機付ける記載や示唆はない。
よって、相違点1及び相違点3について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者といえども、引用発明1及び引用文献2?5に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)前記(ア)のとおり、工程2に関する相違点2が容易に想到することはできないことは上述のとおりであるが、本願発明1は、一連の工程1?工程3を有する液状1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸-1,2-無水物の保管方法の発明であるから、一連の工程1?工程3をまとめて当業者が容易に想到できるといえるか、すなわち、(相違点1)?(相違点3)をまとめて当業者が容易に想到できるといえるかについても検討する。

引用文献3には、収納缶に収納された高粘度材料をポンプで移送する際に、加熱することで高粘度材料の粘度を下げて半固溶状態にして移送することが記載されており(摘記(3b)参照)、該記載事項は、本願発明1の工程3において、充填缶から取り出す際に加熱することと関連する例であるといえるが、1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸-1,2-無水物に関する記載はない。
また、引用文献4には、常温で高粘度の液体メチオニンをドラム缶に充填する際には、加温して粘度を下げて行うことが記載されており(摘記(4b)参照)、該記載事項は、本願発明1の工程1において、おける液温を高温に保ったまま缶に充填することと関連する例であるといえる。
さらに、引用文献5には、液体を保管する場合に金属缶を用いると、液体の種類によっては缶内に錆が発生して液体が汚染するということが記載されており(摘記(5a))、該記載事項は、本願発明1の工程1において缶の内面を被覆することと関連する例であるといえるが、1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸-1,2-無水物に関する記載はない。

上述のように、引用文献3?5に工程1や工程3を単独でみたときに、関連する例が、異なる化合物や1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸-1,2-無水物を対象とすることの記載のない文献において存在したとしても、本願発明1は保管方法として工程1?工程3を全体としてとらえるべきものであり、工程1?工程3が容易に想到できたことにはならない。また、前記(ア)で述べたとおり、引用文献1?5には、液状1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸-1,2-無水物を40℃以下で保管することを動機付ける記載はないから、この点からも工程1?工程3をまとめて検討したとしても、引用発明1及び引用文献2?5に記載された技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)引用発明2との対比・判断
ア 対比
引用発明2の「trans, trans-1, 2,4-シクロへキサントリカルボン酸- 1,2-無水物を含有することを特徴とする常温で液状のシクロへキサントリカルボン酸無水物」は、本願発明1の「液状1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸-1,2-無水物」に該当することは明らかである。
また、引用発明2の「製造方法」は、本願発明1の「保存方法」と方法の発明という限りにおいて一致している。
そうすると、本願発明1と引用発明2とは、「液状1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸-1,2-無水物の方法」である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1’)工程1として、本願発明1では、該無水物の液温を60℃以上に保ったまま、耐熱性樹脂で内面を被覆された缶に該無水物を充填する工程を有するのに対して、引用発明2では、当該工程を有していない点

(相違点2’)工程2として、本願発明1では、該無水物が充填された充填缶を、該無水物の保管温度が40℃以下で2ヶ月以上保管する工程と有するのに対して、引用発明2では、当該工程を有していない点

(相違点3’)工程3として、本願発明1では、該無水物を充填した缶を60℃以上に加熱し、該充填缶から該無水物を取り出す工程を有するのに対して、引用発明2では、当該工程を有していない点

(相違点4)液状1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸-1,2-無水物の方法に関して、本願発明1は、「保管方法」の発明であるのに対して、引用発明2は、「製造方法」の発明である点

イ 相違点についての判断
(ア)相違点1’?3’について
当業者といえども、相違点1’?3’を容易に想到できたとはいえないことは、上記(1)で検討したとおりである。
したがって、相違点4について検討するまでもなく、本願発明1は当業者といえども、引用発明2及び引用文献1、3?5に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2?6について
本願発明2は、本願発明1を引用して、缶の内面を被覆した耐熱性樹脂の形状を、耐熱性樹脂フィルムとさらに限定した発明であり、本願発明3は、本願発明1又は2を引用して、工程1における液温を100℃以上であるとさらに限定した発明であり、本願発明4又は5は、本願発明1?3を引用して、工程2における保管温度を25℃以下又は5℃以下であるとさらに限定した発明であり、本願発明6は、本願発明1?5を引用して、工程3における缶の加熱温度を100℃以上であるとさらに限定した発明である。
このように、本願発明2?6は本願発明1を引用した上で、さらに技術的に限定した発明であるから、本願発明1の工程1?工程3の発明特定事項を備えており、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても容易に発明をすることができたものとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1?6は、引用文献1?5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-09-12 
出願番号 特願2013-236186(P2013-236186)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C07D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 東 裕子早川 裕之  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 佐藤 健史
冨永 保
発明の名称 液状1,2,4-シクロヘキサントリカルボン酸-1,2-無水物の保管方法  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  

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