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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1343719 |
審判番号 | 不服2017-3751 |
総通号数 | 226 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-10-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-03-14 |
確定日 | 2018-08-27 |
事件の表示 | 特願2014-517801「光保護組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 1月10日国際公開、WO2013/004777、平成26年 8月25日国内公表、特表2014-520782〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2012年(平成24年)7月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年7月7日 フランス(FR)、2011年7月19日 米国(US))を国際出願日とする出願であって、平成28年2月25日付けで拒絶理由が通知され、同年6月29日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月9日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、これに対して、平成29年3月14日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1ないし20に係る発明は、平成28年6月29日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうちの請求項1及び13に係る発明(以下それぞれ「本願発明1」及び「本願発明13」という。)は、以下のとおりのものである。なお、請求項13は補正前の請求項8に相当する。 「 【請求項1】 バイカリンまたはこれを含有する抽出物、および少なくとも1種のビス-レゾルシニルトリアジン誘導体を含む少なくとも1つのUVA照射フィルター系を含む、局所使用のための光保護組成物。」 「 【請求項13】 皮膚および/もしくは唇ならびに/または毛髪を太陽照射から保護するための、少なくとも1種のビス-レゾルシニルトリアジンを含む少なくとも1つのUVA照射フィルター系と組み合わされる、バイカリンまたはこれを含有する抽出物。」 第3 原査定の拒絶の理由の概要 原査定の拒絶の理由のうち、請求項1及び13に係る発明、すなわち補正前の請求項1及び8に係る発明に対する主な拒絶の理由の概要は、以下のとおりである。 1 (新規性)本願の請求項1及び8に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 2 (進歩性)本願の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 ●理由1(新規性)について ・請求項 1、8 ・引用文献等 1 ●理由2(進歩性)について ・請求項 1 ・引用文献等 2、5-8 <引用文献等一覧> 1.特開2011-093858号公報 2.特表2005-513089号公報 5.特開平11-071295号公報(周知技術を示す文献) 6.特開2000-136123号公報(周知技術を示す文献) 7.特開昭63-083017号公報(周知技術を示す文献) 8.特開昭55-127309号公報(周知技術を示す文献) 第4 引用文献の記載及び引用発明 1 引用文献1には、次の事項が記載されている。 (引1-ア)「【0001】 本発明は、化粧のりを向上させうる化粧料に関するものであって、より詳しくは、コウジ酸および/またはその誘導体と特定のメチレンビス(ヒドロキシフェニル-ベンゾトリアゾール)誘導体を配合することによって、またさらにはシリコーン処理された酸化チタン、酸化亜鉛、シルク末又はナイロン末の少なくとも1種類を併用することによって得られる化粧料を下地製剤として適用することで、メイクアップ時に使用する化粧料、特にファンデーション類の肌へのなじみを良くし、塗りむらを防止する(以下、本願発明において「化粧のり向上」という場合がある)化粧料に関する。」 (引1-イ)「【0002】 本出願人らが長年研究を続けてきたコウジ酸類は、美白効果や消炎効果など、種々の優れた特徴をもつ多機能性の素材として知られているところである(特許文献1?8)。また、メイクアップ分野では、保湿剤としての応用も公知である(特許文献9)。 ・・・ 【0007】 特定のメチレンビス(ヒドロキシフェニル-ベンゾトリアゾール)誘導体とは、好適には2,4-ビス-[{4-(2-エチルヘキシルオキシ)-2-ヒドロキシ}-フェニル]-6-(メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン及び2,2‘-メチレンビス(6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール)であり、これらは日焼け止め化粧料として利用されているが(特許文献11)、本発明のようにコウジ酸類と組合せることによって提供される化粧のり向上用化粧料としての応用例はまだ見出されていない。 ・・・ 【0009】 ファンデーションなどのメイクアップ化粧料を塗布する場合の、いわゆる化粧のりは、肌のコンディションによって変動する。・・・ ・・・ 【0011】 このようなことから、個人の肌状態に左右されず、不快感なく一定水準の化粧のりが維持できる化粧料の開発が望まれていた。 ・・・ 【0013】 個人の肌の状態を季節変動や環境に依存することなく常に一定に保つことは現実には不可能である。 そこで、本発明者らは、肌状態の多少の変動があったとしても、これに影響を受けない化粧のり向上用化粧料が提供できれば、肌への負担も少なく、快適な使用実感が得られると考え、その素材探索と選択に着手した。 ・・・ 【0015】 その結果、コウジ酸又はその配糖体に特定のメチレンビス(ヒドロキシフェニル-ベンゾトリアゾール)誘導体を組合せることにより、またさらには当該組合せにシリコーン処理された酸化チタン、酸化亜鉛、シルク末又はナイロン末を併用することにより所望の効果が得られることを見出し、この知見を元に本発明を完成するに至った。 【0016】 すなわち、本発明によれば、第一にコウジ酸および/またはその配糖体と特定のメチレンビス(ヒドロキシフェニル-ベンゾトリアゾール)誘導体を配合したことを特徴とする化粧のり向上用化粧料が提供される。 また第二の発明として、当該化粧料にシリコーン処理された酸化チタン、酸化亜鉛、シルク末又はナイロン末の少なくとも1種を併用した化粧のり向上用化粧料が提供される。」 (引1-ウ)「【0031】 本発明の化粧料を調製する場合、通常に用いられる種々の公知の機能性成分、例えば、老化防止剤として公知のレチノール、レチノイン酸、美白剤として公知のコウジ酸、アスコルビン酸、クエルセチン、グルタチオン、ハイドロキノン及びこれらの誘導体、縮合型タンニン類、カフェー酸、エラグ酸等のフェノール性化合物、末梢血管拡張剤としてはビタミンE、ビタミンEニコチネート、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ニコチン酸ベンジル等の各種ビタミン類、ショウキョウチンキ、トウガラシチンキ、消炎剤としては副腎皮質ホルモン、ε-アミノカプロン酸、塩化リゾチーム、グリチルリチン、アラントイン等の各種化合物、その他にも胎盤抽出物、甘草抽出物、紫根エキス、乳酸菌培養抽出物などの動植物・微生物由来の各種抽出物等を本発明の効果を損なわない範囲で、その時々の目的に応じて適宜添加して使用することができる。 【0032】 更に、公知の機能性成分に加え、油脂類などの基剤成分のほか、適宜、公知の保湿剤、防腐剤、酸化防止剤、キレート剤、pH調製剤、香料、着色剤など種々の添加剤を本発明の目的を損なわない範囲で併用することができる。」 (引1-エ)「【0039】 処方例 以下に本発明の皮膚外用剤の処方例を示す。処方例中、「適量」とは、全体で100重量%になる割合を意味する。 ・・・ 【0043】 <処方例4>乳液状ファンデーション (重量%) 1.コウジ酸 2.00 2.2,4-ビス-[{4-(2-エチルヘキシルオキシ) -2-ヒドロキシ}-フェニル]-6-(メトキシフェニル) -1,3,5-トリアジン 2.00 3.メチルポリシロキサン処理酸化チタン 3.00 4.メチルポリシロキサン処理酸化亜鉛 7.00 5.メチルポリシロキサン処理「ナイロン12-ナイロン6共重合体) 3.50 6.メチルポリシロキサン処理シルク末 0.04 7.ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミン 2.00 8.ステアリン酸 0.50 9.ミリスチン酸 0.50 10.アボガド油 4.00 11.アスコルビン酸 2.00 12.パラオキシ安息香酸エステル 0.20 13.ヒアルロン酸ナトリウム 5.00 14.オウゴンエキス 0.14 15.エデト酸二ナトリウム 0.01 16.精製水 適 量」 2 引用文献1に記載された発明の認定 (引1-エ)の段落【0039】の記載よれば、「処方例中、『適量』とは、全体で100重量%になる割合を意味する」ものであるから、段落【0043】に記載された処方例4における「精製水 適量」は、残部が精製水であることを意味するものである。 よって、上記(引1-エ)の処方例4に関する記載から、引用文献1には以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。 「 以下の配合からなる乳液状ファンデーション。 重量% 1.コウジ酸 2.00 2.2,4-ビス-[{4-(2-エチルヘキシルオキシ) -2-ヒドロキシ}-フェニル]-6-(メトキシフェニル) -1,3,5-トリアジン 2.00 3.メチルポリシロキサン処理酸化チタン 3.00 4.メチルポリシロキサン処理酸化亜鉛 7.00 5.メチルポリシロキサン処理「ナイロン12-ナイロン6共重合体) 3.50 6.メチルポリシロキサン処理シルク末 0.04 7.ヤシ油脂肪酸モノエタノールアミン 2.00 8.ステアリン酸 0.50 9.ミリスチン酸 0.50 10.アボガド油 4.00 11.アスコルビン酸 2.00 12.パラオキシ安息香酸エステル 0.20 13.ヒアルロン酸ナトリウム 5.00 14.オウゴンエキス 0.14 15.エデト酸二ナトリウム 0.01 16.精製水 残部」 3 引用文献2には、次の事項が記載されている(下線は当審において付加した。)。 (引2-ア)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 (a)少なくとも1種のビスレゾルシニルトリアジン誘導体、及び (b)少なくとも1種のベンズオキサゾール誘導体 を含んでなることを特徴とする光-保護化粧品用又は皮膚科学的調製物。 ・・・ 【請求項3】 ビスレゾルシニルトリアジン誘導体として、2,4-ビス{[4-(2-エチルヘキシルオキシ)-2-ヒドロキシ]フェニル}-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンを含んでなることを特徴とする請求項1及び2のいずれかに記載の調製物。 【請求項4】 ベンズオキサゾール誘導体として、2,4-ビス[5-1(ジメチルプロピル)ベンズオキサゾール-2-イル-(4-フェニル)イミノ]-6-(2-エチルヘキシル)イミノ-1,3,5-トリアジンを含んでなることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の調製物。 ・・・ 【請求項6】 少なくとも1種のさらに別のUV-Aフィルター物質及び/又は少なくとも1種のさらに別のUV-Bフィルター物質をさらに含んでなることを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の調製物。」 (引2-イ)「【技術分野】 【0001】 本発明は化粧品用及び皮膚科学的光-保護調製物に関し、特に本発明はUV-A保護性能が向上した化粧品用及び皮膚科学的配合物に関する。」 (引2-ウ)「【0011】 純粋なUV-A又はUV-Bフィルターの他に、両方の領域に及ぶ物質がある。この群のブロードバンドフィルターには、例えば不斉的に置換されたs-トリアジン化合物、例えば2,4-ビス{[4-(2-エチルヘキシルオキシ)-2-ヒドロキシ]フェニル}-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン(INCI:ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン(BisEthylhexyloxyphenol Methoxyphenyl Triazine))、・・・が含まれる。」 (引2-エ)「【発明が解決しようとする課題】 【0015】 光-保護フィルター物質は一般に高価なので、且ついくつかの光-保護フィルター物質は比較的高い濃度における化粧品用又は皮膚科学的調製物中への導入が困難でもあるので、本発明の目的は、簡単且つ原価効率の高い方法で、異常に低い濃度の通常のUV-A光-保護フィルター物質を有するにもかかわらず、許容され得るかもしくは高くさえあるUV-A保護性能を達成する調製物に到達することであった。」 (引2-オ)「【課題を解決するための手段】 ・・・ 【0018】 従って本発明は、 (a)少なくとも1種のビスレゾルシニルトリアジン誘導体、及び (b)少なくとも1種のベンズオキサゾール誘導体 の相乗物質組み合わせを含んでなることを特徴とする光-保護化粧品用又は皮膚科学的調製物も提供し、ここでこれらの調製物のUV保護性能、特にUV-A保護性能は超比例的に(supraproportionally)向上する。 【0019】 驚くべきことに、本発明に従う物質組み合わせは相乗的に、すなわち個別の成分に対して超加算的に作用する。それらはさらなる添加剤なしで光安定性であり、且つUV-A領域内で驚くほど高い保護性能を示す。」 4 引用文献2に記載された発明の認定 上記(引2-ア)の記載から、引用文献2には以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。 「 (a)少なくとも1種のビスレゾルシニルトリアジン誘導体、及び (b)少なくとも1種のベンズオキサゾール誘導体 を含んでなる光-保護化粧品用調製物であって、 前記ビスレゾルシニルトリアジン誘導体として、2,4-ビス{[4-(2-エチルヘキシルオキシ)-2-ヒドロキシ]フェニル}-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンを含み、 前記ベンズオキサゾール誘導体として、2,4-ビス[5-1(ジメチルプロピル)ベンズオキサゾール-2-イル-(4-フェニル)イミノ]-6-(2-エチルヘキシル)イミノ-1,3,5-トリアジンを含み、 少なくとも1種のさらに別のUV-Aフィルター物質及び/又は少なくとも1種のさらに別のUV-Bフィルター物質をさらに含んでなる、光-保護化粧品用調製物。」 第5 対比・判断 1 新規性について (1)本願発明1について ア 本願発明1と引用発明1とを対比する。 (ア)オウゴンエキスは、コガネバナの根(オウゴン)から水やアルコールなどで抽出したエキスであり、主な成分としてバイカリンを含むことは、従来周知であるから、引用発明1の「オウゴンエキス」がバイカリンを含有する抽出物であることは明らかである。 よって、引用発明1の「オウゴンエキス」は、本願発明1の「バイカリンを含有する抽出物」に相当する。 (イ)本願の発明の詳細な説明には、ビス-レゾルシニルトリアジン誘導体について次の記載がある(下線は当審において付加した。)。 「【0063】 本発明による式(I)を有するビス-レゾルシニルトリアジン誘導体は、それ自体が既知のフィルターである。これは特許出願EP-A-0775698に記載されており、その合成法に従って調製される。 【0064】 使用するのに好適な式(I)を有する化合物の例には以下が含まれる。 - 2,4-ビス{[4-(2-エチル-ヘキシルオキシ)-2-ヒドロキシ]-フェニル}-6-(4-メトキシ-フェニル)-1,3,5-トリアジン; - 2,4-ビス{[4-(3-(2-プロピルオキシ)-2-ヒドロキシ-プロピルオキシ)-2-ヒドロキシ]-フェニル}-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン; - 2,4-ビス{[4-(2-エチル-ヘキシルオキシ)-2-ヒドロキシ]-フェニル}-6-[4-(2-メトキシエチル-カルボキシル)-フェニルアミノ]-1,3,5-トリアジン; - 2,4-ビス{[4-トリス(トリメチルシロキシ-シリルプロピルオキシ)-2-ヒドロキシ]-フェニル}-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン; - 2,4-ビス{[4-(2''-メチルプロペニルオキシ)-2-ヒドロキシ]-フェニル}-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン; - 2,4-ビス{[4-(1',1',1',3',5',5',5'-ヘプタメチルトリシロキシ-2''-メチルプロピルオキシ)-2-ヒドロキシ]-フェニル}-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン。 - 2,4-ビス{[4-(3-(2-プロピルオキシ)-2-ヒドロキシ-プロピルオキシ]-2-ヒドロキシ]-フェニル}-6-[(4-エチルカルボキシル)-フェニルアミノ]-1,3,5-トリアジン; - 2,4-ビス{[4-(2-エチル-ヘキシルオキシ)-2-ヒドロキシ]-フェニル}-6-(1-メチルピロール-2-イル)-1,3,5-トリアジン。 【0065】 より特定すると、少なくとも化合物2,4-ビス{[4-(2-エチル-ヘキシルオキシ)-2-ヒドロキシ]-フェニル}-6-(4-メトキシ-フェニル)-1,3,5-トリアジンまたはビス-エチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン(INCI名)、たとえばCIBA GEIGYにより「TINOSORB S」の商品名で販売されている製品である。」 上記段落【0063】ないし【0065】の記載から、本願発明1の「ビス-レゾルシニルトリアジン誘導体」が、「2,4-ビス{[4-(2-エチル-ヘキシルオキシ)-2-ヒドロキシ]-フェニル}-6-(4-メトキシ-フェニル)-1,3,5-トリアジン」を包含することは明らかである。 そうすると、引用発明1の「2,4-ビス-[{4-(2-エチルヘキシルオキシ)-2-ヒドロキシ}-フェニル]-6-(メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン」は、本願発明1の「少なくとも1種のビス-レゾルシニルトリアジン誘導体」に相当する。 (ウ)乳液状ファンデーションが局所使用のための化粧料組成物であることは明らかであるから、引用発明1の「乳液状ファンデーション」と本願発明1の「局所使用のための光保護組成物」とは、「局所使用のための組成物」である点において共通する。 (エ)そうすると、本願発明1と引用発明1とは、 「 バイカリンを含有する抽出物、および少なくとも1種のビス-レゾルシニルトリアジン誘導体を含む、局所使用のための組成物。」 の発明である点において一致し、次の相違点1及び2において一応相違する。 (相違点1) 「少なくとも1種のビス-レゾルシニルトリアジン誘導体」が、本願発明1においては、「少なくとも1つのUVA照射フィルター系」を構成するものとして含まれているのに対し、引用発明1においては、そのような特定がなされていない点。 (相違点2) 「局所使用のための組成物」が、本願発明1においては、「光保護」組成物であるのに対し、引用発明1においては、乳液状ファンデーションであるが、「光保護」についての特定がなされていない点。 イ 上記各相違点について検討する。 (ア)相違点1について 上記(引1-イ)の「【0009】 ファンデーションなどのメイクアップ化粧料を塗布する場合の、いわゆる化粧のりは、肌のコンディションによって変動する。・・・ ・・・ 【0011】 このようなことから、個人の肌状態に左右されず、不快感なく一定水準の化粧のりが維持できる化粧料の開発が望まれていた。 ・・・ 【0013】 個人の肌の状態を季節変動や環境に依存することなく常に一定に保つことは現実には不可能である。 そこで、本発明者らは、肌状態の多少の変動があったとしても、これに影響を受けない化粧のり向上用化粧料が提供できれば、肌への負担も少なく、快適な使用実感が得られると考え、その素材探索と選択に着手した。 ・・・ 【0015】 その結果、コウジ酸又はその配糖体に特定のメチレンビス(ヒドロキシフェニル-ベンゾトリアゾール)誘導体を組合せることにより、またさらには当該組合せにシリコーン処理された酸化チタン、酸化亜鉛、シルク末又はナイロン末を併用することにより所望の効果が得られることを見出し、この知見を元に本発明を完成するに至った。 【0016】 すなわち、本発明によれば、第一にコウジ酸および/またはその配糖体と特定のメチレンビス(ヒドロキシフェニル-ベンゾトリアゾール)誘導体を配合したことを特徴とする化粧のり向上用化粧料が提供される。」との記載によれば、引用発明1における「2,4-ビス-[{4-(2-エチルヘキシルオキシ)-2-ヒドロキシ}-フェニル]-6-(メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン」は、化粧のりを向上させるための成分として配合されていることが理解できる。 一方、本願の発明の詳細な説明に「本発明による式(I)を有するビス-レゾルシニルトリアジン誘導体は、それ自体が既知のフィルターである。」(段落【0063】)との記載があるように、2,4-ビス-[{4-(2-エチルヘキシルオキシ)-2-ヒドロキシ}-フェニル]-6-(メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンをUVAの波長域を含む照射フィルターとして用いることは、従来周知である。 そして、上記(引1-イ)に、「特定のメチレンビス(ヒドロキシフェニル-ベンゾトリアゾール)誘導体とは、好適には2,4-ビス-[{4-(2-エチルヘキシルオキシ)-2-ヒドロキシ}-フェニル]-6-(メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン及び2,2‘-メチレンビス(6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール)であり、これらは日焼け止め化粧料として利用されている」(段落【0007】)との記載もあるように、引用文献1においても、「2,4-ビス-[{4-(2-エチルヘキシルオキシ)-2-ヒドロキシ}-フェニル]-6-(メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン」のUVA照射フィルターとしての機能は、認識されているものである。 また、引用発明1における「2,4-ビス-[{4-(2-エチルヘキシルオキシ)-2-ヒドロキシ}-フェニル]-6-(メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン」の配合量は2.00重量%であり、本願の発明の詳細な説明に「式(I)を有するビス-レゾルシニルトリアジン化合物は、通例、本発明によるフィルター組成物中に、組成物の総質量に対して、0.1?20質量%、より優先的には1?10質量%、より特定すると2?8質量%の範囲の濃度で存在する。」(段落【0066】)と記載された濃度の条件を満たしている。 そうすると、引用発明1において、「2,4-ビス-[{4-(2-エチルヘキシルオキシ)-2-ヒドロキシ}-フェニル]-6-(メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン」は、UVA照射フィルターとしても機能するものであるといえるから、上記相違点1は、実質的な相違点ではない。 (イ)相違点2について 化粧料の技術分野において、紫外線遮蔽などの光保護機能は、本願優先日当時、ファンデーションに対して通常求められている機能である(必要であれば、特開2010-195694号公報の段落【0002】、特開2010-143852号公報の段落【0003】及び特開2010-37211号公報の段落【0002】参照。)。 そうすると、引用発明1の乳液状ファンデーションも、通常のファンデーションと同様に光保護機能をも意図したものであるといえるから、上記相違点2は、実質的な相違点ではない。 ウ 小括 上記イ(ア)及び(イ)で検討したとおり、上記相違点1及び2は、いずれも実質的な相違点ではないから、本願発明1は、引用文献1に記載された発明である。 (2)本願発明13について ア 上記1(1)アで示したとおり、引用発明1の「オウゴンエキス」がバイカリンを含有する抽出物であることは明らかであるから、引用文献1には「オウゴンエキスに含まれるバイカリン」の発明(以下「引用発明1’」という。)も記載されていると認められる。 イ そこで、本願発明13と引用発明1’とを対比すると、両者は「バイカリン」の発明である点において一致し、次の相違点3において一応相違する。 (相違点3) 「バイカリン」について、本願発明13においては、「皮膚および/もしくは唇ならびに/または毛髪を太陽照射から保護するための、少なくとも1種のビス-レゾルシニルトリアジンを含む少なくとも1つのUVA照射フィルター系と組み合わされる」と特定されているのに対し、引用発明1’においては、そのような特定がなされていない点。 ウ 上記相違点3について検討する。 「バイカリン」は特定の構造を有する化合物であることから、上記相違点3に係る本願発明13の「皮膚および/もしくは唇ならびに/または毛髪を太陽照射から保護するための、少なくとも1種のビス-レゾルシニルトリアジンを含む少なくとも1つのUVA照射フィルター系と組み合わされる」という発明特定事項は、バイカリンの構造や組成を特定するものとは認められない。 また、上記発明特定事項を、バイカリンの用途を限定するための記載であると解したとしても、一般に、化合物についての用途限定はその化合物の有用性を示しているにすぎず、用途限定のないバイカリンそのものと区別することはできない。 そうすると、上記相違点3は、実質的な相違点ではないから、本願発明13は引用文献1に記載された発明である。 2 進歩性について (1)本願発明1と引用発明2とを対比する。 ア 上記1(1)ア(イ)で示したとおり、本願発明1の「ビス-レゾルシニルトリアジン誘導体」が、「2,4-ビス{[4-(2-エチル-ヘキシルオキシ)-2-ヒドロキシ]-フェニル}-6-(4-メトキシ-フェニル)-1,3,5-トリアジン」を包含することは明らかであるから、引用発明2の「2,4-ビス{[4-(2-エチルヘキシルオキシ)-2-ヒドロキシ]フェニル}-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン」は、本願発明1の「少なくとも1種のビス-レゾルシニルトリアジン誘導体」に相当する。 イ 上記(引2-イ)の「本発明は化粧品用及び皮膚科学的光-保護調製物に関し、特に本発明はUV-A保護性能が向上した化粧品用及び皮膚科学的配合物に関する。」との記載から、引用発明2はUV-A保護性能を向上させたものであると認められることろ、上記(引2-ウ)の「純粋なUV-A又はUV-Bフィルターの他に、両方の領域に及ぶ物質がある。この群のブロードバンドフィルターには、例えば不斉的に置換されたs-トリアジン化合物、例えば2,4-ビス{[4-(2-エチルヘキシルオキシ)-2-ヒドロキシ]フェニル}-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン(INCI:ビスエチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン(BisEthylhexyloxyphenol Methoxyphenyl Triazine))、・・・が含まれる。」との記載から、引用発明2は、少なくともUV-Aフィルターとして2,4-ビス{[4-(2-エチルヘキシルオキシ)-2-ヒドロキシ]フェニル}-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンを含んでいるものといえる。 ウ 上記ア及びイを踏まえると、引用発明2において「前記ビスレゾルシニルトリアジン誘導体として、2,4-ビス{[4-(2-エチルヘキシルオキシ)-2-ヒドロキシ]フェニル}-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジンを含」むことは、本願発明1において「少なくとも1種のビス-レゾルシニルトリアジン誘導体を含む少なくとも1つのUVA照射フィルター系を含む」ことに相当する。 エ 化粧品が局所使用のためのものであることは明らかであるから、引用発明2の「光-保護化粧品用調製物」は、本願発明1の「局所使用のための光保護組成物」に相当する。 オ そうすると、本願発明1と引用発明2とは、 「 少なくとも1種のビス-レゾルシニルトリアジン誘導体を含む少なくとも1つのUVA照射フィルター系を含む、局所使用のための光保護組成物。」 の発明である点において一致し、次の相違点4において相違する。 (相違点4) 本願発明1においては、「バイカリンまたはこれを含有する抽出物」を含むのに対し、引用発明1においては、「少なくとも1種のさらに別のUV-Aフィルター物質及び/又は少なくとも1種のさらに別のUV-Bフィルター物質をさらに含」むものの、さらに含むUV-Aフィルター物質及びUV-Bフィルター物質の種類は特定されていない点。 (2)そこで、上記相違点4が容易想到であるかについて検討する。 化粧品の技術分野において、バイカリン又はバイカリンを含むオウゴン抽出物を紫外線吸収フィルターとして用いることは、例えば、引用文献7及び8に例を見るように、本願優先日当時において周知な事項である。 そうすると、当業者であれば、引用発明2において、さらに含むUV-Aフィルター物質又はUV-Bフィルター物質としてバイカリン又はバイカリンを含むオウゴン抽出物を選択し、上記相違点4に係る本願発明1の発明特定事項のように構成することは、容易に想到しうることである。 (3)本願発明1の奏する作用効果について 本願の発明の詳細な説明の段落【0172】ないし【0174】の記載によれば、本願発明1は、多量のUVAフィルターを使用することなしに、皮膚、唇又は毛髪の早期老化を効果的に抑制することができるという効果(以下「本願効果」という。)を奏するものと認められる。 そして、本願発明1が上記本願効果を奏するものであることの根拠は、本願の発明の詳細な説明の段落【0162】ないし【0171】及び【図2】に記載された、DCFH-DA試験によるUVA誘導の酸化ストレスの評価において、ビス-レゾルシニルトリアジン誘導体である2,4-ビス{[4-(2-エチル-ヘキシルオキシ)-2-ヒドロキシ]-フェニル}-6-(4-メトキシ-フェニル)-1,3,5-トリアジンを含む基準フィルターとバイカリンとを組合せた場合に、それぞれを単独で用いた場合よりも弱い蛍光が得られたという結果に基づくものと認められる。 上記DCFH-DA試験は、細胞内に入ったDCFH-DAが細胞内のエステラーゼにより加水分解されて非蛍光の化合物:DCFHすなわち2,7-ジクロロフルオレッシンになり、DCFHは活性化酸素種(H_(2)O_(2);OH°)の存在下で速やかに酸化されて強い蛍光を発する化合物:DCFすなわち2,7-ジクロロフルオレセインになり、DCFの蛍光を蛍光分光分析で評価するものであるから、得られた蛍光が弱いという結果は、活性化酸素種によるDCFの酸化量が少なかったことを反映しているものと見ることができる。 ところで、オウゴン抽出物が有する紫外線吸収とは異なる機能に着目して、紫外線吸収フィルターとともにオウゴン抽出物を化粧品に配合することは、例えば、引用文献5及び6に例を見るように、本願優先日当時において周知な事項であるところ、引用文献6の段落【0015】及び【0017】には、オウゴン抽出物を活性酸素除去剤として用いることが記載されている。このように、バイカリンを含むオウゴン抽出物が活性酸素を除去する機能を有することは、本願優先日当時において周知な事項である。 そうすると、上記本願効果は、バイカリンによる活性酸素を除去する作用が反映されたものと推測されるものであって、引用文献2の記載事項及び本願優先日当時において周知な事項から当業者が予測しうる程度のものである。 また、本願発明1が奏するその他の効果も、引用文献2の記載事項及び本願優先日当時において周知な事項から当業者が予測しうる程度を超えた、格別なものとは認められない。 (4)小括 したがって、本願発明1は、引用発明2及び本願優先日当時において周知な事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第6 むすび 以上のとおりであるから、本願発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 そして、本願発明13は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
別掲 |
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審理終結日 | 2018-03-28 |
結審通知日 | 2018-04-02 |
審決日 | 2018-04-16 |
出願番号 | 特願2014-517801(P2014-517801) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61K)
P 1 8・ 113- Z (A61K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 片山 真紀 |
特許庁審判長 |
大熊 幸治 |
特許庁審判官 |
渡戸 正義 安川 聡 |
発明の名称 | 光保護組成物 |
代理人 | 実広 信哉 |
代理人 | 村山 靖彦 |