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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A41D
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A41D
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A41D
審判 全部無効 1項2号公然実施  A41D
管理番号 1343762
審判番号 無効2016-800097  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-08-05 
確定日 2018-09-28 
事件の表示 上記当事者間の特許第4213194号発明「下肢用衣料」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
特許第4213194号(以下「本件特許」という。)は、平成17年8月22日を国際出願日とする特許出願に係り、平成20年11月7日に請求項1?5に係る発明についての特許が設定登録された。
その後、株式会社タカギ外1名から無効審判(無効2015-800152、以下、「先の無効審判」という。)が請求され、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決が平成28年3月30日に確定した。
その後、先の無効審判請求人と同一人から本件無効審判が請求されたものである。以下、請求以後の経緯を示す。

平成28年 8月 5日 審判請求書
平成28年11月22日 審判事件答弁書
平成28年12月12日付け 審理事項通知(1)
平成29年 1月10日 口頭審理陳述要領書(1)(請求人)
平成29年 1月10日 口頭審理陳述要領書(1)(被請求人)
平成29年 1月12日付け 審理事項通知(2)
平成29年 1月27日 口頭審理陳述要領書(2)(被請求人)
平成29年 1月30日 口頭審理陳述要領書(2)(請求人)
平成29年 1月30日 証人尋問申出書・検証申出書(請求人)
平成29年 2月 3日 口頭審理陳述要領書(3)(請求人)
平成29年 2月 3日 第1回口頭審理
平成29年 2月 9日付け 審理事項通知(3)
平成29年 2月28日 上申書(被請求人)
平成29年 3月 1日 上申書(請求人)
平成29年 4月21日付け 審理事項通知(4)
平成29年 5月22日 口頭審理陳述要領書(4)(請求人)
平成29年 5月22日 口頭審理陳述要領書(4)(被請求人)
平成29年 5月24日付け 審理事項通知(5)
平成29年 5月30日 口頭審理陳述要領書(5)(請求人)
平成29年 5月30日 口頭審理陳述要領書(5)(被請求人)
平成29年 5月30日 第2回口頭審理・証人尋問

以下、審判請求書及び審判事件答弁書をそれぞれ、「請求書」及び「答弁書」と略記する。また、請求人あるいは被請求人が提出した口頭審理陳述要領書(2)等を、「請求人要領書(2)」等と略記する。さらに、第1回口頭審理調書及び第2回口頭審理調書をそれぞれ「調書(1)」及び「調書(2)」とする。
本件特許の請求項1?5に係る発明を、以下、「本件発明1」等という。 各証拠は、「甲第1号証」を「甲1」と略記し、甲第1号証に記載された事項及び発明をそれぞれ、「甲1事項」及び「甲1発明」と略記する。
さらに、本審決において、記載箇所を行数により特定する場合、行番号が付されているときはそれに従い、付されていないときは空白行を含まない行数による。
そして書証の摘記において、原文が○で囲まれた数字や文字の場合は、「○1」、「○2」、「○R」等と代用記載する。さらにローマ数字はアルファベット「I」や「V」等を組み合わせて「IV」等と代用記載する。
さらに、書証の摘記において、原文が改行されている位置に全角文字で「/」を挿入して、改行せずに続けて記載することがある。(ただし、インターネットのURLを示す際の「//」については除く。)
また、株式会社名を記載するときに、「株式会社」を「(株)」と、略記したり、省略したりすることがある。

第2.本件発明
本件発明1?5の各々は、本件特許の特許請求の範囲の【請求項1】?【請求項5】に各々記載された以下のとおりのものである。(なお、各段落の先頭のアルファベットは、分説記号で、請求人が付したものである。)

「【請求項1】
A.大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部を備えた前身頃と、
B.この前身頃に接続され臀部を覆うとともに前記前身頃の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有した後身頃と、
C.前記前身頃と前記後身頃の各足刳り形成部に接続され大腿部が挿通する大腿部パーツとを有し、
D.前記前身頃の足刳り形成部の湾曲した頂点が腸骨棘点付近に位置し、
E.前記後身頃の足刳り形成部の下端縁は臀部の下端付近に位置し、
F.前記大腿部パーツの山の高さを前記足刳り形成部の前側の湾曲深さよりも低い形状とし、
G.前記足刳り形成部の湾曲部分の幅よりも前記山の幅を広く形成し、
H.取り付け状態で筒状の前記大腿部パーツが前記前身頃に対して前方に突出する形状となることを特徴とする
I.下肢用衣料。
【請求項2】
J.前記後身頃のウエスト部から股部までの長さは、前記前身頃のウエスト部から股部までの長さよりも長く形成され、前記大腿部パーツに大腿部を挿入した状態において、大腿部が前身頃に対して前方に突出した状態で、前記後身頃に大きな張力が掛からない形状であることを特徴とする請求項1記載の下肢用衣料。
【請求項3】
K.前記足刳り形成部は、身体の転子点付近から腸骨棘点付近を通り股底点脇付近に至る湾曲した足刳り部分と、前記転子点付近から股底点脇まで膨らんだ曲線で臀部裾ラインを包み込み、且つ臀部裾部分に密着する形状であることを特徴とする請求項1記載の下肢用衣料。
【請求項4】
L.前記大腿部パーツは、裾部で折り返された1枚の生地の両側縁部が互いに重ねられ、前記前身頃の足刳り形成部と前記後身頃の足刳り形成部とに積層状態で接続され、前記大腿部パーツの折り重ねられた生地同士が相対的に摺動可能に形成されていることを特徴とする請求項1記載の下肢用衣料。
【請求項5】
M.前記大腿部パーツは、股下から踝付近までの間の適宜の長さに形成されていることを特徴とする請求項1記載の下肢用衣料。」

第3.請求人の主張

1.要点
請求人は、本件特許の請求項1?5に係る発明についての特許を無効にするとの審決を求めている。
その理由の要点は以下のとおりである。

(1)無効理由1(特許法第29条第1項第2号及び第29条第2項、先行発明1?3)
本件発明1は、出願前に公然実施されていた、甲2?4からそれぞれ導かれる製品(以下、「先行製品1」?「先行製品3」という。)に係る発明(以下、「先行発明1」?「先行発明3」という。)である。あるいは、先行発明1?3のいずれか一つの発明と、甲5事項、甲11?15事項、甲22事項、及び、従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件発明1は、特許法第29条第1項第2号に該当し、あるいは第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、本件発明1に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にされるべきである。

(2)無効理由2(特許法第29条第1項第3号及び第29条第2項、甲11発明)
本件発明1は、甲11発明である。また、甲11発明、甲2?5事項、甲12?15事項、甲22事項、及び、従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、本件発明1に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にされるべきである。

(3)無効理由3(特許法第29条第1項第3号及び第29条第2項、甲13発明)
本件発明1は、甲13発明である。また、甲13発明、甲2?5事項、甲11事項、甲12事項、甲14事項、甲15事項、甲22事項、及び、従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、本件発明1に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にされるべきである。

(4)無効理由4(特許法第29条第1項第3号及び第29条第2項、甲14発明)
本件発明1は、甲14発明である。また、甲14発明、甲2?5事項、甲11?13事項、甲15事項、甲22事項、及び、従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本件発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当し、あるいは第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、本件発明1に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にされるべきである。

(5)無効理由5(特許法第29条第1項第2号第29条第1項第3号及び第29条第2項、先行発明1?3、甲11発明、甲13発明、甲14発明)
本件発明2は、先行発明1?3、甲11発明、甲13発明、及び、甲14発明のいずれかの発明である。また、本件発明2は、先行発明1?3、甲11発明、甲13発明、及び、甲14発明のいずれかの発明、甲2?5事項、甲11?15事項、甲22事項、及び、従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。
したがって、本件発明2は、特許法第29条第1項第2号または第29条第1項第3号に該当し、あるいは第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、本件発明2に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にされるべきである。

(6)無効理由6(特許法第29条第1項第3号及び第29条第2項、甲11発明、甲13発明、甲14発明)
本件発明3は、甲11発明、甲13発明、及び、甲14発明のいずれかの発明である。また、本件発明3は甲11発明、甲13発明、及び、甲14発明のいずれかの発明、甲2?5事項、甲11?15事項、甲22事項、及び、従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。
したがって、本件発明3は、第29条第1項第3号に該当し、あるいは第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、本件発明3に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にされるべきである。

(7)無効理由7(特許法第29条第1項第2号及び第29条第2項、先行発明1?3)
本件発明4は、先行発明1?3のいずれかの発明である。また、本件発明4は、先行発明1?3のいずれかの発明、甲5事項、甲11?15事項、甲22事項、及び、従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。
したがって、本件発明4は、特許法第29条第1項第2号に該当し、あるいは、第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、本件発明4に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にされるべきである。

(8)無効理由8(特許法第29条第1項第2号第29条第1項第3号及び第29条第2項、先行発明1?3、甲11発明、甲13発明、甲14発明)
本件発明5は、先行発明1?3、甲11発明、甲13発明、及び、甲14発明のいずれかの発明である。また、本件発明5は、先行発明1?3、甲11発明、甲13発明、及び、甲14発明のいずれかの発明、甲2?5事項、甲11?15事項、甲22事項、及び、従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明することができたものである。
したがって、本件発明5は、特許法第29条第1項第2号または第29条第1項第3号に該当し、あるいは第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、本件発明5に係る特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にされるべきである。

(9)無効理由9(特許法第36条第6項第1号)
本件特許の特許請求の範囲の記載は、以下のア.?ウ.の点で、請求項1及び3に係る発明が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないから、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない。
したがって、本件発明1及び3に係る特許と、本件発明1を引用する本件発明2、4及び5に係る特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効にされるべきである。

ア.本件特許の請求項1の「前記足刳り形成部の前側の湾曲深さ」は発明の詳細な説明に記載されていない。本件特許明細書の段落【0020】には、「足刳り形成部24,25の湾曲深さをh2とする」との記載があるが、このh2が「前側」の湾曲深さであることは、記載も示唆もない。

イ.本件特許の請求項1の「前記足刳り形成部の湾曲部分の幅」は発明の詳細な説明に記載されていない。本件特許明細書の段落【0020】には、「足刳り前部24,25の湾曲部分の幅をw2とする」との記載があるが、この「足刳り前部24,25」は定義されておらず,他の箇所に記載されている「足刳り形成部24,25」や構成要件Gにおける「前記足刳り形成部」との関係性も不明である。

ウ.本件特許の請求項3の「身体の転子点付近から腸骨棘点付近を通り股底点脇付近に至る湾曲した足刳り部分」は発明の詳細な説明に記載されていない。本件特許明細書の段落【0026】には、「縫製されたスパッツ10を着用したとき、前身頃12の足刳り形成部24は、図1に示すように、股底点脇から上方に延出して足の付け根の腸骨棘点a付近を通過し、大腿部外側上方の転子点b付近の上方を通過して湾曲し、」とあり、この足刳り形成部24はあくまでも転子点b付近の上方を通過するものであって、転子点b付近を通過するわけではない。また、文言上、構成要件Kの「転子点付近」には転子点よりも下側の位置も含み得るが、上記段落【0026】には足刳り形成部24が転子点(付近)よりも上方の位置を通過することしか記載されていない。

2.証拠方法
請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
また、請求人の申出により、株式会社タカギの従業者である中村彰男、株式会社ポーラの従業者である西澤美紀、及び、AGMS株式会社の従業者である近藤真弓を証人とする証人尋問を行った(証人尋問申出書)。
甲1 :特許第4213194号公報
甲2 :先行製品1説明書
甲3 :先行製品2説明書
甲4 :先行製品3説明書
甲5 :特開2003-89905号公報
甲6 :ポーラ宛協力依頼書
甲7の1 :ポーラ回答書
甲7の2 :ポーラ回答書添付資料1
甲7の3 :ポーラ回答書添付資料2
甲7の4 :ポーラ回答書添付資料3
甲7の5 :ポーラ回答書添付資料4
甲7の6 :ポーラ回答書添付資料5
甲7の7 :ポーラ回答書添付資料6
甲7の8 :ポーラ回答書添付資料7
甲7の9 :ポーラ回答書添付資料8
甲7の10 :ポーラ回答書添付資料9
甲8 :AGMS宛協力依頼書
甲9の1 :AGMS回答書
甲9の2 :AGMS回答書添付資料1
甲9の3 :AGMS回答書添付資料2
甲9の4 :AGMS回答書添付資料3
甲9の5 :AGMS回答書添付資料4
甲9の6 :AGMS回答書添付資料5
甲9の7 :AGMS回答書添付資料6
甲9の8 :AGMS回答書添付資料7
甲10の1 :中村彰男陳述書
甲10の2 :中村彰男陳述書添付資料1
甲10の3 :中村彰男陳述書添付資料2
甲10の4 :中村彰男陳述書添付資料3
甲10の5 :中村彰男陳述書添付資料4
甲10の6 :中村彰男陳述書添付資料5
甲10の7 :中村彰男陳述書添付資料6
甲10の8 :中村彰男陳述書添付資料7
甲10の9 :中村彰男陳述書添付資料8
甲10の10 :中村彰男陳述書添付資料9
甲10の11 :中村彰男陳述書添付資料10
甲10の12 :中村彰男陳述書添付資料11
甲10の13 :中村彰男陳述書添付資料12
甲10の14 :中村彰男陳述書添付資料13
甲10の15 :中村彰男陳述書添付資料14
甲10の16 :中村彰男陳述書添付資料15
甲10の17 :中村彰男陳述書添付資料16
甲10の18 :中村彰男陳述書添付資料17
甲10の19 :中村彰男陳述書添付資料18
甲10の20 :中村彰男陳述書添付資料19
甲11 :実開昭49-146404号(実開昭51-73224号)のマイクロフィルム
甲12 :実用新案登録第2596181号公報
甲13 :特開昭50?83153号公報
甲14 :特公昭57?1601号公報
甲15 :実用新案登録第3045836号公報
甲16 :無効2015-800152の審決謄本
甲17 :大阪地裁 平成26年(ワ)第7604号特許権侵害差止等請求事件(以下、「関連侵害訴訟」という。)における平成27年3月20日付け被告準備書面(3)
甲18 :関連侵害訴訟における平成26年10月20日付け原告第1準備書面
甲19 :関連侵害訴訟における平成27年3月17日付け訴え変更申立書
甲20 :関連侵害訴訟における平成27年8月14日付け原告第4準備書面
甲21 :中村彰男陳述書「PO4227製品における湾曲部分と山の幅の比較」
甲22 :実公平3-43201号公報
甲23 :James H.Clay/David M.Pounds 大谷素明監訳「クリニカルマッサージ ひと目でわかる筋解剖学と触診・治療の基本テクニック」医道の日本社、2008年7月1日初版11刷
甲24 :「JIS Z 8500 人間工学‐設計のための基本人体測定項目」財団法人日本規格協会、平成14年1月31日第1刷発行、
甲25 :特開2001-81609号公報
甲26 :特開2014-167189号公報
甲27 :実用新案登録第3062222号公報
甲28 :特開2012-36509号公報
甲29 :関連侵害訴訟における平成27年5月7日付け原告第3準備書面
甲30 :関連侵害訴訟における平成27年8月14日付け原告第5準備書面
甲31 :中村彰男陳述書「特公昭57-1601号公報第1図に記載のカーブ11,14の比較」
甲32 :中村彰男陳述書「特開昭50-83153号公報第4頁第1図に記載のカーブR,R_(1)の比較」
甲33 :中村彰男陳述書「設計変更したPO4227製品における湾曲部分と山の幅の比較」
甲34 :実用新案登録第3022949号公報
甲35 :特開平9-209203号公報
甲36 :特開平11-286801号公報
甲37 :中村彰男陳述書「特公昭57-1601号公報第1図に記載のカーブ11,14の比較その2」
甲38 :中村彰男陳述書「特開昭50-83153号公報第4頁第1図に記載のカーブR,R_(1)の比較」
甲39 :ポーラ西澤美紀を作成者とする写真撮影報告書
甲40 :AGMS米重美希を作成者とする週報(2004年9月27日?10月1日)
甲41 :AGMS米重美希を作成者とする週報(2004年10月4日?10月8日)
甲42 :タカギ中村彰男を作成者とするAGMS米重美希宛文書
甲43 :AGMS米重美希を作成者とするパソコンのスクリーンショット画像

以上の証拠方法のうち、甲1?22は、請求書に添付され、甲23は、請求人要領書(1)に添付され、甲24?28は、請求人要領書(2)に添付され、甲29?32は、請求人上申書に添付され、甲33?36は、請求人要領書(4)に添付され、甲37?43は、請求人要領書(5)に添付されたものである。
これらの証拠の成立について、被請求人は甲2?4、6?10、21、33、37?43については、不知としている。(被請求人要領書(1)の5.(1)、被請求人要領書(5)の5.(1)、調書(2)の被請求人の欄1)
甲1、5、11?20、22?32、34?36の成立について、当事者間に争いはない。(被請求人要領書(1)の5.(1)、被請求人要領書(5)の5.(1))

第4.被請求人の主張

1.要点
これに対し、被請求人は、本件審判請求は成り立たないとの審決を求めている。

2.証拠方法
被請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。

乙1 :ウェブサイト「楽天市場」における先行製品3(D383)の掲載箇所のプリントアウト URL:http://item.rakuten.co.jp/t-colle/d383/
乙2 :ウェブサイト「楽天市場」において請求人名古屋タカギが運営する通販サイト「ティコレクション」におけるイ号製品掲載箇所のプリントアウト URL:http://item.rakuten.co.jp/t-colle/d830/
乙3 :請求人タカギが運営する通販サイト「bodyhints(ボディヒンツ)」におけるイ号製品掲載箇所のプリントアウト URL:http://www.shitagiya-japan-made.jp/fs/ladiesinner/supima/D830
乙4 :関連侵害訴訟における平成27年10月23日付け被告準備書面(8)
乙5 :請求人タカギのウェブサイトにおける「会社沿革」 URL:http://takagi-innerwear.jp/history.html
乙1の2 :インターネット通販サイト「ティコレクション」の運営会社の「会社概要」のウェブページのプリントアウト URL:http://www.rakuten.co.jp/t-colle/info.html
乙6の1 :「クロッチ部分の修正」との標題のウェブページのプリントアウト URL:http://ameblo.jp/intimate-jimura/entry-11250214525.html
乙6の2 :「クロッチ部分の修正」との標題のウェブページの作成者のプロフィール画面のプリントアウト URL:http://profile.ameba.jp/intimate-jimura/
乙7 :特許第3290562号公報

以上の証拠方法のうち、乙1?5は、答弁書に添付され、乙1の2、乙6の1及び2は、被請求人要領書(1)に添付され、乙7は被請求人要領書(2)に添付されたものである。
また、これらの証拠方法の成立について、当事者間に争いはない。(請求人要領書(1)の5-1.、請求人要領書(2)の5-1-1.、調書(1)の請求人の欄1)

第5.無効理由1(先行製品1?3を主とする特許法第29条第1項第2号及び第29条第2項)についての当審の判断

1.本件発明1は、明細書及び図面の記載からみて、上記第2.の請求項1のとおりと認める。(以下、無効理由2?4においても、本件発明1の認定は同様とする。)

2.先行製品2(ポーラ品番「S122」)を主とする無効理由1について

(1)証拠

ア.甲3記載事項
甲3の4ページには、左上隅に「【パターン図1】(D048PO Mサイズ)」との記載がある。

イ.甲7の8記載事項
甲7の8の一枚目の中央部下方に「BODY FASHION Sofical 2002 Autumn & Winter」との記載があり、左下隅に「Sofical POLA」の記載がある。右上に「資料7」の記載がある。
同65ページの最上部に「植物生まれのテンセルに肌にやさしい加工を施した、吸・放湿性に優れた快適インナー」との記載があり、その下側の右方に「tencel○R」の記載がある。同ページ右下の隅に「S122」の記載があり、その下側に「ショーツ(マキシ丈)」との記載があり、さらにその下側の「色」の列に、上から「モカ」、「オフホワイト」、「ブラック」及び「ライトグリーン」の記載が縦に並べられている。そして、「モカ」等の右隣の「サイズ」の列にそれぞれの「色」ごとに「M」、「L」、「LL」の記載がある。さらに、各色、各サイズの欄の右端の「商品番号」の記載の下側に、例えば、色が「モカ」でサイズが「M」の場合には、「37760」との5桁の数字が記載されていて、他の色及びサイズについても、左端3桁が「377」である5桁の相互に異なる数字が記載されている。
同66頁の左上の写真の左下の隅に「S122」の記載がある。
最終ページの左下隅に、「カタログのカラーは、印刷の関係で実物と異なる場合があります。」との記載がある。右下隅に「営業所名・ポーラレディ名」及び「2002年7月発行」の記載がある。

ウ.甲7の1記載事項
甲7の1には、「ソフィカルのブランドを含め、弊社が販売する下着商品のお客様からの受注と販売は、ポーラレディと呼ばれる弊社の販売員が、商品カタログ(定期発行は、春夏版及び秋冬版の年2回)を持ってお客様のお宅を訪問し、商品カタログに基づいてお客様に商品をご紹介し、ご注文を受けて商品を出荷・販売するという方法、もしくは、ポーラレディの在籍するエステティックサロン店舗でお客様に商品をご紹介し、ご注文を受けて商品を出荷・販売するという方法で行っておりました。」(2ページ18?23行)、及び、「その後弊社は、S122商品を、2002年7月に発行しました弊社の2002年秋冬の商品カタログ『BODY FASHION Sofical 2002 Autumn & Winter』の65ページに掲載し、同商品カタログを通じ商品をお客様へ紹介して注文を受け付け、販売を開始いたしました(資料7)。」(4ページ10?12行)との記載がある。

エ.甲10の9記載事項
甲10の9には、上端中央部に「得意先別商品登録書」との記載がある。
「品目コード」の列に「D048POZ」の記載がある行以下の、「サイズ」の列には、「05」、「06」及び「07」のいずれかが記載されている。「カラー」の列には、「C458」、「Z002」、「Z956」及び「G455」との記載があり、それぞれの右隣の「カラー名」の列には、「モカ」、「オフ」、「ブラック」、「ライトグリーン」との記載がある。さらに、「客先コード」の列には、例えば「サイズ」が「05」であって「カラー」及び「カラー名」がそれぞれ「C458」及び「モカ」の列には、「S122」との記載が二重線で見え消しされ、その右隣に「37760」との記載がある。さらに、下方に向けて、左側3桁が「377」である5桁の、相互に異なる数字が記載されている。
上部欄外に「・・・。LLの下代と全部の客先コードを変更してください。」との手書きの記載がある。

オ.甲10の1記載事項
甲10の1には、以下の記載がある。
「末尾の『Z』は、包装仕様区分番号・・・その後表記しなくなりました。」(4ページ8?10行)
「弊社では、パターンが同一でも生地が異なる場合は、新たな製品番号を付して製品を管理しております。」(7ページ3?5行)
「ところで資料1パターンに印字されている『7FPO4227』の『7』は、1997年を意味する『7』であり、『F』は、・・・ポーラ商品カタログの掲載開始時期1997年『秋冬』の英語『FALL/Winter』の『F』を示しています。」(2ページ19?22行)

カ.証人中村彰男の証言
証人中村彰男は、平成29年5月30日、特許庁審判廷において宣誓の上、以下のとおり述べた。なお、段落番号は、反訳書面による。

「被請求人復代理人弁護士 今西 康訓
甲第10号証の13の1及び2を示す。
225 1と2とも、マチ幅の記載がないんですけれども、それはなぜですか。
わかりません。
226 この指図書というのは、誰にどのような指図をするために作成される書類なんですか。
これは縫製仕様書と同じ扱いだったと思いますので、工場に対して提示して、このとおりに生産しなさいというものだと思います。」

「被請求人復代理人弁護士 今西 康訓
参甲第26号証の2の1ないし7、参甲第26号証の10の1ないし7及び参甲第26号証の16の1ないし7を示す
257 商品としてはもう同じ商品できるような仕上がりになっている。こういうことですよね。そのもとになる型紙は、先行製品2の型紙をそのままコピーして、先行製品3の型紙として利用することはできるんですかという質問です。
コピーというのは、型紙自体をコピーするんでなくて、そういう場合は、D048POというところをD383に置きかえて登録すると、全く同じパターンが登録、ついてくるので、そういう形で登録したものになります。
258 商品名だけを変えて新たに登録したら、完全なコピーができ上がる、そういうことですか。
そういうことです。
259 もし、そういう形でされているのであれば、フォントとか字の大きさには違い、生じないんですよね。
そのときも、出力をどういうふうに出力しますかという設定が変われば、変わります。
260 そういうのを変えられた記憶というのはございます。
いや、これは出力するときに変えることもできるので、何ともわからないです。
261 今回のこの型紙を出力されたときに、出力の方法を変更された御記憶はありますか。
いや、ないです。
請求人代理人弁護士 藤本 英二
参甲第26号証の2の1ないし7を示す。
262 PO4227、Mサイズのパターンですね。
はい。
263 これ以外にPO4227のMサイズのパターンはあるんですか。
ありません。
264 コンピューターに残っているのが、会社内のコンピューターに残っているものというのはこのもののみですね。
はい。
参甲第26号証の10の1ないし7を示す
265 これはD048PO、Mサイズのパターンだと思うんですが。
はい。
266 D048PO、Mサイズのパターンはこれ以外にはあるんですか。
質問の意味は。
267 社内のデータベースの中に、それ以外の・・・・・・このD048POと付されたものはこれしかないという意味ですか。
268 はい。
はい、そうです。
269 最終的に製品に、D048POの製品としてポーラに納品されたパターンで、ポーラに納品された製品はそのパターンで作られたということですか。
はい、そうです。」

「審判長
甲第10号証の18を示す
341 では、先行製品3について、D383というものにかけてちょっとお伺いします。これは直接、御自分でつくられたデータとかかかわったデータではないということだったと思うんですけれども、ちょっとここの中に書いてある品目コードというところがありますけれども、この今話題にしているのは383という製品なんですが、この品目コードというものを見てみると、例えば一番上ですね、D383UN05C413、そういう何か記号が書いていますけれども、この記号の意味は御説明できますか。
最初のD383UNというのは、先ほども説明しましたように、製品を特定する部分のD383、あとどこ向けの製品であるかというところのUN、これはユニーさんというところです。05というのは、Mサイズを意味します。
342 05というのは、これはサイズを意味する。
はい。残りのC413というのはカラーコードです、弊社の。
343 4桁をもって色をあらわす。
そうです。」

「審判官 久保 克彦
344 05ってありますよね。それはサイズだというふうな御証言でしたけれども、具体的に、では05はどういうサイズ、06はどういうサイズとか、お話しできそうですか。
05はMサイズで、06はLです。07はLLです」

「審判長
345 それなのですが、型番なのか、D383KP_UNというの書いてあると思うんですが、ほかの参甲26あるいは甲10の10シリーズのものには、型番と思われるものだけしか書いていないのに、これだけ_UNというのがついている理由は御存じですか。
ついていないのはどれになるんですか。
346 例えば、その前のS122・・・・・・
これは、出向け先が2社、KPというところとUNと仕向け先が2社同じパターンであった、同じ製品であろうということです。だから、KPが先に決定していて、後からUNにも売るよというところが追加されて、そういうふうに登録したものだろうと思います。
347 そうすると、コードあるいは型紙、パターン、これは仕向け先というか、売り先ごとにつくっているものなんですかね。KPのものがちょっとここには出ていないですけれども、何かそういうものも存在するということなんですか。
存在します。だから後ろに沢山ついているものも存在します。
348 それに対して、ではこのS122のほうに対応すると言われているD048POのほうは、これはその後にアンダーバーがないのは、仕向け先が1社だからとそういうことですかね。要はポーラさんしか納めるところがないからアンダーバー云々というのをつける必要もない。
そうですね、ポーラさんオンリーの商品だという認識のもとにそうしていると思います。だから、383のPOのところにKPとつけるという発想は多分なかったと思います。
349 要は、同一のコードに対して複数のパターンが存在するのか否かというところを確認したくて今聞いているんですが、仕向け先が違ったら同じパターンのものでもその品番が違うんだからというので一つ一つ存在するということだということですね。
ただ、こういう場合に仕向け先が追加された場合は、その追加前のものというのは基本的に使わないようにはしています。
350 使わない。
はい。出力するときも、一番最後に登録されたもの、一番新しい日付のものを登録するようにしています。」

「審判官 千葉 成就
351 それは現在はということですか。
現在は、この後ろにKPであるとかUNとかいうのをだらだらとつけるのは勘弁してほしいということで、4桁で管理するようになっています。
352 では、この当時は仕向け先もつけるようにしていた。
そうです。仕向け先もつける、仕向け先が追加されればその度にパターンを登録して出力していました。
353 2000年ごろという理解ですか。
そうです。2000年、もっと後かな。」

キ.甲9の1記載事項
甲9の1には、以下の記載がある。
「タカギ様が変換後の品番D048PO及びD383のCADデータを出力すると、2004年10月1日の日付が印字されるとのことですが、これは、当社がデータ変換してお渡ししたデータ中にD048PO及びD383が含まれていて、当社がそれらのデータ変換の作業を行った日が2004年10月1日であったということです。」(3ページ下から5?2行)
「・・・2011年に追加で変換を行ったCADデータについても、そのCADデータによりパターンを再現すると、パターン上に出力される日付は、当社が追加変換作業を行った日付となります。タカギ様がデータ変換後の品番PO4227のCADデータを出力すると、2011年10月19日の日付が印字されるとのことですが、これは、当社が追加変換作業としてお預かりしたCADデータ中にPO4227が含まれていて、当社がその追加変換作業を行った日付が2011年10月19日であったと考えられます。」(4ページ8?14行)

ク.証人近藤真弓の証言
証人近藤真弓は、平成29年5月30日、特許庁審判廷において宣誓の上、以下のとおり述べた。なお、段落番号は、反訳書面による。

「審判長
143 ご存じでしたらお答え願いたいのですが、先ほどから日付の話、結構パターン図上の日付の話が話題になっていますけれども、そもそも、そのプログラムのパターンになった日付を何のデータをもとに、何を表示させているかという、ちょっとプログラムの仕様に近いような話なんですけれども、それはご存じですか。
表示してる、日付の・・・・・・
144 例えば、何か元データの中にこれは作成日という欄があって、その作成日という欄の中に入っている情報を表示しているとか、あるいは、データの更新をやるとしても、更新のルーツにそのものを表示しているとか、何かそういうデータ仕様の点、プログラム仕様についてご存じですか。
プロパティのところで、作成日かパターンの出力日かというのを表示することを選ぶ欄はあります。
145 プロパティで・・・・・・。それは印字のときのお話ですよね。印字のときのお話ではなくて、プログラムがそもそもどういう仕様になっているかということです。
保存日、登録日・・・・・・
146 保存日を表示するというのが、仕様になっている。なるほど。この保存日という情報は、保存日という情報をデータ自身が持っているのか、あるいはデータの更新の日時、システム上で登録されている、手を加えると必ずデータ自体に、いつこの時間であったか、情報を持つと思うのですが、それを表示しているのか。それとも特別に持っている更新日とか作成日とかという欄か何かがあって、それを情報をみにいって、それを表示しているのか。
パソコン上に持っているデータというか、ものでやります。
147 これ、ご存じですか。プログラム仕様そのもの。
いや、そこら辺の細かいところはわからないです。
審判官 千葉 成就
148 そうしますと、データを更新した日をシステムが持っている日時データを自動的に取り込んでくれるという仕様になっているという理解ですか。
はい。
149 わかりました。ありがとうございます。先ほどの話ですと、プリントするときには、印字日か今日の日付なのか、それとも、もともと持っている日付なのか、それを選択して印字することはできる。そういうシステムだ。
はい。」

ケ.甲10の10の1?7記載事項
甲10の10の1?7はそれぞれが一つのパターンであって、全てのパターンに「D048PO」、「M」、「04.10.01」との記載がある。

コ.甲10の8記載事項
甲10の8の左上隅には、「縫製仕様書」との記載があり、さらに、右側に「品番 D048PO」、「発行日 平成13年5月1日」との記載があり、中央部の「工程名」の列に、「ウエスト接ぎ縫い合せ」、「ウエスト予備縫い」等の縫製情報が記載されている。また、左側には、パターン同士を接続する縫製情報が記載されたショーツの図示がある。

サ.甲10の12記載事項
甲10の12には表が記載されていて、当該表上部枠外中央に「D048PO販売実績」の記載がある。「品目コード」の列には、アルファベットと数字からなる文字列の記載があり、それら各々の、左端7桁は、全て「D048POZ」であり、その右隣2桁は、「05」、「06」及び「07」のいずれかである。さらに、右隣4桁は、「C458」、「Z002」、「G455」、「Z956」のいずれかである。
年及び月の列をみると、「2002」及び「02」からはじまって「2007」及び「12」まで続き、その右隣の「月数量」及び「月金額」の全ての列は、自然数が記載されている。

(2)ポーラ品番「S122」の「ショーツ」と、タカギ品番「D048PO」の「ショーツ」が同一構造であること
甲10の9の「得意先別商品登録書」と、甲7の8のポーラカタログのそれぞれには、「カラー」と「サイズ」に対応して、377からはじめる5桁の数字が記載されている。「サイズ」について、上記(1)カ.の「05」、「06」、「07」は、それぞれ商品のサイズが、M、L、LLサイズであるという意味である旨の証人中村彰男の証言を踏まえると、色とサイズの組み合わせとそれらに対応する当該5桁の数字が、甲10の9と甲7の8の双方において一致するから、甲10の9に記載された当該5桁の数字は、甲7の8のポーラカタログに記載されたポーラ品番「S122」の「ショーツ」の各色、サイズごとに付された「商品番号」であると理解でき、そのように解して他の証拠との関係で矛盾は生じない。さらに、甲10の9において、「全部の客先コードを変更してください。」との記載があり、「S122」との記載が二重線で見え消しされ、その右隣に上記377ではじまる5桁の数字が記載されているから、タカギにおいては、全ての色とサイズのポーラ品番「S122」のショーツをタカギ品番「D048POZ」と対応させていたことが認められる。ここで、末尾の「Z」について、甲10の1の「末尾の『Z』は、包装仕様区分番号・・・その後表記しなくなりました。」との記載から、包装仕様が異なっても、通常は、ショーツの構造は変わるところはないと考えられ、また、甲10の8の縫製仕様書や、甲10の10の1?7のパターンに、縫製仕様区分番号が付されていないことと整合する。
したがって、ポーラ品番「S122」のショーツに対して、タカギは「D048PO」との品番を付けていたと認められるから、ポーラ品番「S122」の「ショーツ」の構造は、タカギ品番「D048PO」の「ショーツ」の構造と同一であると認められる。

(3)先行製品2の公然実施
甲7の8の、「カタログのカラーは、・・・」、「営業所名・ポーラレディ名」、「Autumn & Winter」及び「2002年7月発行」との記載、そして、甲7の1の「ソフィカルのブランドを含め、弊社が販売する下着商品のお客様からの受注と販売は、ポーラレディと呼ばれる弊社の販売員が、商品カタログ(定期発行は、春夏版及び秋冬版の年2回)を持ってお客様のお宅を訪問し、商品カタログに基づいてお客様に商品をご紹介し、ご注文を受けて商品を出荷・販売するという方法、もしくは、ポーラレディの在籍するエステティックサロン店舗でお客様に商品をご紹介し、ご注文を受けて商品を出荷・販売するという方法で行っておりました。」との記載から、甲7の8の「カタログ」は、ポーラが、掲載された商品の販売を目的として、2002年7月に発行し、広く頒布されたものであるといえる。
甲10の12には、タカギ品番「D048PO」の各月ごとの販売実績が記載されている。そして、「品目コード」の列に記載された数字とアルファベットからなる文字列は、上記(1)カ.の証人中村彰男の証言によれば、左側から、製品を特定する部分、二桁のサイズを特定する部分、そして右端4桁は、製品の色を特定する部分であると理解できる。さらに、甲10の9の「得意先別商品登録書」に記載された「カラー」と「カラー名」の対応、及び、上記(1)カ.に示した、「05はMサイズで、06はLです。07はLLです」との証人中村彰男の証言がある。そうすると、甲10の12において、「2002」年の「2月」と「3月」の行に記載された品目コードには、全ての色とサイズを示す記号の組み合わせが記載されているから、4つの色と3つのサイズの全ての先行製品2の組み合わせについて、タカギからポーラへ2002年2月及び3月に販売されていたことが理解できる。その数量は、数百単位であるから、ポーラがかかる大量の製品を本件特許に係る国際出願日前までの約3年以上、小売りせずに保管し続けることは通常考えられないから、上記全ての組み合わせの先行製品2は、ポーラによって、甲7の8のカタログ等を用いて、「お客様」に対し販売、すなわち譲渡されていた、と理解するのが自然である。
したがって、先行製品2は、本件特許に係る国際出願日前に公然と実施されていたと認められる。

(4)先行製品2の構造
上記(3)に示したとおり、ポーラ品番「S122」の「ショーツ」は、4つの色と3つのサイズが公然と実施されていたところ、このうち、色が「モカ」で、サイズが「M」のものについて、以下検討する。

先行製品2のような下肢用衣料においては、製品の構造は型紙(パターン)と各パターンをもとに裁断された布地をどのように縫製して仕上げるかの縫製情報により決定される。(請求人要領書(1)の5-3-4及び5-3-5、被請求人要領書(1)の5.(3-4)ア)

ア.先行製品2を製造するのに使用したパターンの形状
甲3の4ページの上記「【パターン図1】(D048PO Mサイズ)」との記載と甲10の10の1?7のパターンに記載された「D048PO」、「M」との記載が一致するから、当該「【パターン図1】(D048PO Mサイズ)」は、甲10の10の1?7の各パターンの形状を有するものを並べたものであると理解できる。
先行製品2は、少なくとも2002年2月及び3月にタカギからポーラに販売され、2002年7月に発行されたカタログ(甲7の8)に掲載され、お客様に対し販売された。既に販売されている「ショーツ」のパターンデータをあとから作成することは不自然であるし、販売後に改変が行われたことを示す証拠もないから、甲10の10の1?7の各パターンに印字された「04.10.01」の数字は、上記甲9の1の「当社がそれらのデータ変換の作業を行った日が2004年10月1日であったということです」との記載の「データ変換の作業を行った日」であると理解するのが自然である。そしてこのことは、証人近藤真弓の
「148 そうしますと、データを更新した日をシステムが持っている日時データを自動的に取り込んでくれるという仕様になっているという理解ですか。
はい。
149 わかりました。ありがとうございます。先ほどの話ですと、プリントするときには、印字日か今日の日付なのか、それとも、もともと持っている日付なのか、それを選択して印字することはできる。そういうシステムだ。
はい。」との証言とも整合する。
したがって、甲7の8のポーラカタログに掲載され、販売された色がモカ、サイズがMの先行製品2の「ショーツ」のパターンの形状は、甲10の10の1?7のパターンの形状である。

イ.縫製情報
甲10の8には、上記(1)コに示したように、「縫製仕様書」、「品番 D048PO」との記載があり、左側には、ショーツの図示とパターンどどうしが縫製により接続されていることの図示がある。さらに、「発行日 平成13年5月1日」は、甲7の8のポーラカタログに記載された「2002年7月発行」すなわち「平成14年7月発行」よりも前の日付である。したがって、先行製品2の「ショーツ」は、甲10の8の縫製仕様書記載の縫製情報に基づいて各パターンが縫製されたと理解できる。

(5)先行発明2の認定
上記甲10の10の1?7のパターンを甲3の4ページの【パターン図1】のように配列し、甲10の8の縫製仕様書に示されるように各パターン相互を縫製することを考慮すると、以下の事項が認められる。(符番は、便宜のため請求人が付したものを採用する。)

2a 前身頃12は、大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部24を備えている。
2b 後身頃14は、前身頃12に接続され臀部を覆うとともに前身頃12の足刳り形成部24に連続する足刳り形成部25を有している。
2c 前記前身頃12と前記後身頃14の各足刳り形成部に接続され脚が挿通する脚口パーツ18がある。
2d 前記前身頃12の足刳り形成部24の湾曲に頂点がある。
2e 前記後身頃14の足刳り形成部25の下端縁は臀部の下端付近に位置している。
2f 前記脚口パーツ18は山40aを有し、前記足刳り形成部24,25の前側は湾曲している。
2g 前記足刳り形成部24,25の湾曲部分は幅を有し、前記山40aも幅を有する。
2h ショーツである。

上記2a?2hの事項を整理すると、以下の先行発明2が認定できる。

「大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部を備えた前身頃12を有し、この前身頃12に接続され臀部を覆うとともに前身頃12の足刳り形成部24に連続する足刳り形成部25を有した後身頃14を有し、前記前身頃12と後身頃14の各足刳り形成部24,25に接続され脚が挿通する脚口パーツ18を有し、前身頃12の足刳り形成部24は湾曲した頂点があり、前記後身頃14の足刳り形成部の下端縁は臀部の下端付近に位置し、前記脚口パーツ18は山40aを有し、前記足刳り形成部の湾曲部分の幅よりも前記山40aの幅が広い箇所と狭い箇所を形成し、筒状の前記脚口パーツ18が前記前身頃12に対して突出する形状であるショーツ」

パターンと縫製情報から、上記先行発明2が認定できることについて、当事者間に争いはない。(請求人要領書(4)の5-1-1、被請求人要領書(4)の5.(3-1))

(6) 本件発明1と先行発明2との対比
先行発明2の「足刳り形成部」、「前身頃12」、「後身頃14」、「脚口パーツ18」及び「ショーツ」は、本件発明1の「足刳り形成部」、「前身頃」、「後身頃」、「大腿部パーツ」及び「下肢用衣料」にそれぞれ相当する。
また、本件発明1の「前記足刳り形成部の湾曲部分の幅よりも前記山の幅を広く形成し、」について、本件特許明細書には「また、足付根部40の山の幅をw1とし、足刳り前部24,25の湾曲部分の幅をw2とすると、互いに縫い付けられる同じ位置間で、w1はw2よりも広い形状となっている。」(段落【0020】)との記載があるから、上記「幅」が「広く」とは、「互いに縫い付けられる同じ位置間」の関係であると理解できる。そして、本件発明1は、「前身頃の足刳り形成部」と「後身頃の足刳り形成部」が連続して「足刳り形成部」を形成するもので、それに対して「大腿部パーツ」の「山」を接続するものであるから、互いに縫い付けられない、「足刳り形成部」と「山」の部分は存在しない。したがって、「足刳り形成部の湾曲部分の幅」よりも「山の幅」を「広く形成」するのは、全ての箇所においてであると解される。
そうすると、本件発明1と先行発明2は、以下の点で一致し、かつ相違する。

<一致点>
「大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部を備えた前身頃と、この前身頃に接続され臀部を覆うとともに前記前身頃の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有した後身頃と、前記前身頃と前記後身頃の各足刳り形成部に接続され大腿部が挿通する大腿部パーツとを有し、前記前身頃の足刳り形成部の湾曲した頂点を有し、前記後身頃の足刳り形成部の下端縁は臀部の下端付近に位置し、筒状の前記大腿部パーツが前記前身頃に対して突出する形状となることを特徴とする下肢用衣料。」

<相違点1-1>
本件発明1は、「前身頃の足刳り形成部の湾曲した頂点」が、「腸骨棘点付近に位置」するものであるのに対し、先行発明2は、「前身頃12の足刳り形成部24は湾曲した頂点」の位置と、腸骨棘点との関係が不明である点。

<相違点1-2>
本件発明1は、「大腿部パーツの山の高さ」を、「足刳り形成部の前側の湾曲深さ」よりも「低い形状」としたものであるのに対し、先行発明2は、「脚口パーツ18」の「山40a」の高さと、「足刳り形成部の湾曲」の深さとの関係が不明である点。

<相違点1-3>
本件発明1は、「足刳り形成部の湾曲部分の幅」よりも「山の幅」を全ての箇所で「広く形成」したものであるのに対し、先行発明2は、「足刳り形成部の湾曲」の幅よりも「脚口パーツ18」の「山40aの幅」が「広い箇所と狭い箇所を形成し」たものである点。

<相違点1-4>
本件発明1は、「前記大腿部パーツ」が「前身頃」に対して「前方」に突出する形状であるのに対し、先行発明2の「筒状の前記脚口パーツ18」が「前身頃12」に対して「突出」する方向が明らかではない点。

<相違点1-5>
本件発明1は、「取り付け状態」で「筒状の前記大腿部パーツが前記前身頃に対して前方に突出する形状となる」ものであるのに対し、先行発明2の「筒状の前記脚口パーツ18が前記前身頃12に対して突出する」のが「取り付け状態」であるかが明らかではない点。

上記一致点及び相違点の認定について、当事者間に争いはない。(請求人要領書(4)の5-1-1、請求人要領書(5)の5-2.「(1)について」、被請求人要領書(4)の5.(3-1))

(7)相違点についての検討
事案に鑑み、まず、<相違点1-3>について検討する。

(7-1)特許法第29条第1項第2号を理由とする無効理由1について
上記<相違点1-3>は、形式的な相違点ではなく、形状や構造に関する実質的な相違点であることは明らかである。したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、先行発明2であるとはいえないから、特許法第29条第1項第2号に該当するものではなく、特許を受けることができないとはいえない。

(7-2)特許法第29条第2項を理由とする無効理由1について

ア.本件特許明細書の記載
<相違点1-3>について、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。

「【発明が解決しようとする課題】
・・・
上記従来のスパッツ類は、基本が直立姿勢に合わせたパターンであるため、これら個々の工夫では股関節の屈曲運動への追従は不十分であった。特に、前屈みになる姿勢をとったり、足を前に上げたりしゃがんだりして、股関節を大きく屈伸することが多いスポーツ種目では、より身体の動きに対応した形状が求められていた。」(段落【0004】)
「【課題を解決するための手段】
・・・
本発明の下肢用衣料は、大腿部を屈曲した姿勢に沿う立体形状に作られ、股関節の屈伸運動に対して生地の伸張が少なく、生地にかかる張力が小さい状態で運動を行うことができる。これにより、屈伸運動等の際に生地による抵抗が少なく、体にかかる負担が少なく円滑に運動することができる。」(段落【0011】)
「大腿部パーツ18は、僅かに内側に湾曲する曲線で形成された裾部36が設けられ、裾部36の両端部から裾部36に対してほぼ直角に離れる方向に延出するほぼ直線の大腿部後側縁38が形成されている。各大腿部後側縁38間の、裾部36とは反対側の縁部には、外側になだらかに膨出する山40aが形成された足付根部40が設けられている。足付根部40は、スパッツ10を縫製したときに前身頃12の足刳り形成部24、後身頃14の足刳り形成部25,32、股部パーツ16も足刳り形成部46が連続して形成する開口部に縫い合わされるものである。足付根部40の山40aの縁部は、前身頃12の足刳り形成部24と等しい長さに形成され、足刳り形成部24に縫い合わされる部分である。ここで、足付根部40の、足刳り形成部24,25に取り付ける山40aの高さをh1とし、足刳り形成部24,25の湾曲深さをh2とすると、h1はh2よりも低い形状である。また、足付根部40の山の幅をw1とし、足刳り前部24,25の湾曲部分の幅をw2とすると、互いに縫い付けられる同じ位置間で、w1はw2よりも広い形状となっている。」(段落【0020】)
「縫い合わされたスパッツ10は、後身頃14の足刳り形成部32が丸く下方に回り込み、筒状に形成された大腿部パーツ18が前方の斜め下方に突出する立体形状となる。即ち、基本の立体形状が、着用者が前屈みに軽く屈曲した姿勢に沿う形状になっており、足の運動性に適した形状に形成される。」(段落【0025】)
「この実施形態のスパッツ10によれば、伸縮性のある素材を使用し、臀部の生地分量を確保し、足刳りのパターンの形状の工夫により、身体の腸骨棘点a付近から前方の生地の立体的方向性が確保されるため、着用時に股関節の前方への屈伸抵抗が少なく運動しやすく、疲れにくいものである。即ち、臀部に関しては、股関節の屈曲時に臀部に過度の生地張力が掛からないように生地分量を十分に多く取り、且つヒップ裾ラインがずれないようヒップ裾ライン長を短くしている。特に、このスパッツ10は、着用者が軽く前屈みになった姿勢に沿う立体形状に作られ、この姿勢では生地にあまり張力が発生しないため身体が圧迫されず、またさらに深く屈む動作をするときの負荷も少なく抑えられるものである。また、大腿部パーツ18が前方に盛り上げられた立体形状になるため、図4、図5に示すように足を上げたりしゃがんだりする動作のとき、大腿部にかかる生地の抵抗が小さく、容易に運動することができる。さらに、生地が身体の動きに追従するため、衣服ズレも軽減することができる。また、後身頃14が前身頃12よりも上下に長く形成されているため、図4、図5に示すように足を上げたりしゃがんだりする動作のとき、後身頃14に大きな張力がかからず、このことからも円滑に運動することができ、後見頃14が摺り上がることもない。」(段落【0027】)

イ.被請求人の主張
本件特許が<相違点1-3>に係る構成を備える点について、被請求人は以下のとおり主張する。

(ア)「・・・大腿部を屈曲したときの大腿部パーツの伸びは主として周方向にもたらされる。このため、周方向の伸びに対して予め『余裕』ないし『ゆとり』を設けておけば屈曲運動の際に大腿部前面を押え付ける力(屈曲運動の際の抵抗)を低減させることができる。
この周方向の伸びに対する『余裕』ないし『ゆとり』を定めているのが主として構成要件Gである。
構成要件Gは、足刳り形成部の湾曲部分の幅よりも大腿部パーツの山の幅を広く形成するものであり、これによって縫製後の大腿部パーツの前側の形状が『湾曲状』ないし『弧状』(上方に盛り上がった形状)に形成されることになる。
他方、構成要件Fは、大腿部パーツの山の高さを足刳り形成部の前側の湾曲深さよりも低い形状とするものであり、構成要件Gと相まって縫製後の大腿部パーツの前側の部分を前方に突出させるように作用する。
つまり、構成要件F及びGが相俟って縫製後の大腿部パーツの前側の形状を前方に突出させるとともに上方に盛り上がった形状に形成させることになるが、このうち、周方向の伸びに着目していえば、後者の『上方に盛り上がった形状』が周方向の伸びに対する『余裕』ないし『ゆとり』をもたらすことになる。」(被請求人要領書(1)の5.(3-3)ア.)

(イ)「少なくとも一部において『足刳り形成部の湾曲部分の幅』<『大腿部パーツの山の幅』との関係を満たさない場合、その部分で伸びに対する余裕がなくなり、当該部分が屈曲に対する抵抗となったり、そこでの運動追従性が不十分となり、最終的にはずり上がって大腿部の付け根付近に食い込んだりすることになる。
これらはいずれも大腿部付け根付近を圧迫する原因となるから、上記関係は、大腿部付け根付近に対応する足刳り形成部の上方の部分においても満たしていなければならない。」(被請求人要領書(2)の5.(2-2)ア)

ウ.<相違点1-3>に係る本件発明1の構成の技術的意義
上記イ.の足刳り形成部と大腿部パーツについての被請求人の主張は、上記ア.に摘記した本件特許明細書の段落【0027】の記載と整合する。
そうすると、<相違点1-3>に係る構成を採用することで、「大腿部パーツ18」は、盛り上げられた立体形状になるため、「足を上げたりしゃがんだりする動作のとき、大腿部にかかる生地の抵抗が小さく、容易に運動することができる」(段落【0027】)ようになり、そして、大腿部を屈曲したときの大腿部パーツの伸びは主として周方向にもたらされることから、「周方向の伸びに対して予め『余裕』ないし『ゆとり』を設けておけば屈曲運動の際に大腿部前面を押え付ける力(屈曲運動の際の抵抗)を低減させることができる」のである。
さらに、「一部の箇所」であっても、「足刳り形成部の湾曲部分の幅」<「大腿部パーツの山の幅」の関係を満たさない部分が存在した場合、その部分で上記「大腿部パーツ18」の盛り上がりは生じず、さらに上記不等式の関係を満たす部分についても、盛り上がりの程度は、関係を満たさない部分との接続を考慮すると、小さくならざるを得ない。したがって、上記不等式の関係を満たさない部分において、「大腿部パーツ18」に「余裕」ないし「ゆとり」がもたらされることはなく、不等式の関係を満たす部分においても、「余裕」や「ゆとり」の程度は小さくなるから、そのようなものでは、人体の屈曲に対する抵抗となったり、そこでの運動追従性が不十分となる。
以上のとおりであるから、<相違点1-3>に係る本件発明1の構成の技術的意義は、人体の屈曲に対する抵抗や、運動追従性が不十分な箇所となる上記不等号を満たさない部分を無くしつつ、大腿部パーツに、周方向の伸びに対して予め「余裕」ないし「ゆとり」を設けることで、屈曲運動の際の大腿部にかかる生地の抵抗を低減させることである。

エ.<相違点1-3>についての判断
先行発明2に係る先行製品2は、製品自体なので、そこから「足刳り形成部の湾曲」の幅や「足口パーツ18」の「山40aの幅」についての技術的思想を、把握することは困難である。
そこで、先行製品2についての証拠を検討する。
甲第7の9は、「株式会社ポーラ化粧品本舗」のカタログであって、その51ページには、「S122 ショーツ(マキシ丈)」が記載されている。そして、同ページの左側には、「木質パルプの非常に強い繊維素(セルロース)を化学的な処理を加えずに、通常の3倍もの時間と手間をかけてつくられるテンセル素材は、ソフトでしなやかな肌触りが特徴です。体にほど良くフィットし、アウターにひびきません。」との記載があり、さらに、当該記載の下側には、「ショーツ」の足口から、横に布が飛び出した写真とともに、「はき心地ラクラクな立体設計。」「横に飛び出したようなこの足口は、ソフィカル独自の立体設計。座った時もくい込まず、足口にスッキリフィットします。」との記載がある。
甲7の8及び甲7の9のカタログをみると、甲7の8の65ページに掲載された2枚の写真のうちの右側のもの、及び、甲7の9の51ページに掲載された2枚の写真のうちの右側のものは、いずれもショーツを着用した人物の写真であり、それぞれの右下隅には「S122」と記載されているから、これらの写真は、いずれも先行製品2を着用した人物の写真であると認められる。当該写真によると、足口からそれぞれの足の大腿部に沿って伸びる足口パーツが、大腿部表面に密着していることが看取できる。
そうすると、先行発明2の「足口にスッキリフィット」とは、着用時に、ショーツの足口パーツが、大腿部表面に密着することを示す表現であることが理解できる。
したがって、本件発明1の「大腿部パーツ」についての「余裕」や「ゆとり」をもたせることで、屈曲運動の際の大腿部にかかる生地の抵抗を低減させるとの技術的思想と、先行発明2の「足口パーツ18」を体にほどよく「フィット」させるとの技術的思想とは、異なる技術的思想である。
加えて、先行製品2は、「S122についてもお客様から着心地がよいと大好評をいただき、翌年2003年・・・以降も弊社商品カタログに掲載して販売を継続しました。」(甲7の1、4ページ19、20行)というような高い評価を得たものであり、そのような製品を改変しようとするには強い動機が必要であるところ、そのような動機が存在することは、甲5、甲11?15、甲22には示されていないし、それが、周知であることを示す証拠も提出されていない。
さらに、<相違点1-3>に係る上記技術的思想は、甲5、甲11?15、甲22のいずれにも記載されていないし、示唆もない。
したがって、先行発明2において、<相違点1-3>に係る構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。

オ.請求人の主張について
請求人は、<相違点1-3>について、「構成要件G『前記足刳り形成部の湾曲部分の幅よりも前記山の幅を広く形成し、』に技術的意義(全ての部分で『足刳り形成部の湾曲部分の幅』<『大腿部パーツの山の幅』との関係を満たすことの技術的意義)は認められないのは明らかであり、何らの技術的意義も有さない構成要件Gは、当業者が適宜なし得る設計事項に過ぎない。」(請求人要領書(3)の5-2-1.(1))と主張している。
しかし、<相違点1-3>に係る本件発明1の構成には、上記ウ.に示したとおりの、全ての箇所で上記不等式の関係が成立するようにして、大腿部パーツに、周方向の伸びに対して予め「余裕」ないし「ゆとり」を設けることで、大腿部を屈曲運動の際の抵抗を低減させ、運動追従性が不十分とならないようにする、との技術的意義が存在するものである。そして、本件発明1の大腿部パーツに、周方向の伸びに対して予め「余裕」ないし「ゆとり」を持たせることと、先行発明2の「足口パーツ18」を「足口にスッキリフィット」させることとは、上記エ.に示したように、異なる技術的思想である。したがって、上記請求人の主張は失当である。

カ.他の色、サイズの先行製品2について
ポーラ品番「S122」の「ショーツ」は、4つの色と3つのサイズの組み合わせで公然実施されていたところ、上記(4)に記載したように、以上の検討は、このうち、色が「モカ」で、サイズが「M」のものについておこなった。しかし、他の色やサイズのものについても、上記<相違点1-3>の認定と判断において変わるところはない。

(8)小括
以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、先行発明2ではない。
また、本件発明1は、他の相違点について検討するまでもなく、先行発明2と、甲5事項、甲11?15事項、甲22事項、及び、従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件発明1は、特許法第29条第1項第2号に該当するとはいえないし、あるいは、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないとはいえない。

3.先行製品3(タカギ品番D383)を主とする無効理由1について

(1)証拠

ア.甲4記載事項
甲4の4ページには、左上隅に「【パターン図1】(D383 Mサイズ)」との記載がある。

イ.甲10の18記載事項
甲10の18には表が記載されていて、当該表上部枠外中央に「D383販売実績」の記載があり、「得意先名称」の列に、「(株)名古屋タカギ」、「株式会社大西」、「(株)ヒゼン」等の記載がある。「品目コード」の列に記載されたアルファベットと数字との組み合わせの文字列をみると、右端4桁は、「C413」、「P323」、「Z901」のいずれかであり、当該文字列のさらに左隣二桁をみると、「05」、「06」及び「07」のいずれかである。さらに、当該文字列の左端6桁をみると、「D383UN」あるいは「D383KP」のいずれかである。さらに、「年」の列が「2004」である、品目コードの列のデータをみると、上記「C413」等と「05」等の全ての組み合わせのデータが記載されていて、その右隣の「月数量」及び「月金額」の全ての列は、自然数が記載されている。
甲10の18の年が「2004」の行のうち、「8月数量」及び「8月金額」に自然数が記載されている。

ウ.甲10の13記載事項
甲10の13の1の左上隅には、「指図書」との記載があり、「品番」の欄に「D383KP」との記載があり、「カラー」の「列」の「No.1」と記載されている欄に、「C413」との記載があり、以下、下方に「P323」、「Z901」と続く記載があり、それぞれの記号の右隣に、「モカ」、「ピンク」、「ブラック」との記載がある。
甲10の13の2の左上隅には、「指図書」との記載があり、「品番」の欄に「D383UN」との記載があり、「カラー」の「列」には、上記甲10の13の1と同様の記載がある。
甲10の13の1及び2のいずれにも左側に「デザイン画」との表記とともに、ショーツの絵が記載されていて、当該ショーツを構成するパターンの縫い目から引出線が記載されて、縫製情報が記載されている。
また甲10の13の1及び2のいずれにも、その右側に縦列が「仕上り寸法」、横列が「サイズ」である表が記載されていて、縦列には、「総丈」、「ウエスト1/2」、「脚口1/2」、「マチ巾」、・・・との項目が記載され、横列には、「S」、「M」、「L」及び「LL」の記載がされていて、表のそれぞれの欄に、数値が記載されている。甲10の13の1及び2のそれぞれに記載された当該数値が一致する。

エ.甲10の16の1?7記載事項
甲10の16の1?7はそれぞれが一つのパターンであって、全てのパターンに「D383KP_UN」、「M」、「04.10.01」との記載がある。

(2)先行製品3の公然実施
甲10の18には、「D383販売実績」と記載されているから、甲10の18はタカギ品番「D383」のショーツが、月ごとに販売された数量と金額が記載されていると理解することができる。
甲10の18に記載された「品目コード」の文字列の、右端4桁は、「C413」、「P323」、「Z901」は、上記甲10の13の記載から、ショーツの色を示すものであって、それぞれが「モカ」、「ピンク」、「ブラック」であることが理解できる。さらに、「品目コード」の色を示す部分の左隣二桁の「05」、「06」及び「07」は、上記2.(1)カ.に示した証人中村彰男の証言から、ショーツのサイズを示すものであって、それぞれが「M」、「L」、「LL」であることが理解できる。
甲10の18の表のうち、「年」の列が「2004」であるデータに着目する。そのようなデータの品目コードのうち、上記色とサイズの部分には、全ての色とサイズの組み合わせが記載されている。したがって、上記色とサイズの全ての組み合わせのタカギ品番D383のショーツが、タカギにより2004年に販売、すなわち譲渡されたことが認められる。
よって、色とサイズがそれぞれ上記3種類の先行製品3が、本件特許に係る国際出願日前に公然と実施されていたと認められる。

(3)先行製品3の構造
上記(2)に示したとおり、タカギ品番「D383」の「ショーツ」は、3つの色と3つのサイズがあるところ、そのうち、色が「モカ」で、サイズが「M」のものについて、以下検討する。

上記2.(4)に示したように、先行製品3のような下肢用衣料においては、製品の構造は型紙(パターン)と縫製情報により決定される。

ア.先行製品3を製造するのに使用したパターンの形状
甲4の4ページ左上隅の「【パターン図1】(D383 Mサイズ)」との記載と、甲10の16の1?7のパターンに記載された「M」、「D383KP_UN」との記載を対比すると、「M」については一致し、甲10の16の1?7に記載されたものは、「KP_UN」が付加された点で異なる。しかし、上記2.(1)カ.の、付加されたのは、納品先が追加されたものである、との証人中村彰男の証言、甲10の13の1の「D383KP」と甲10の13の2の「D383UN」とを対比すると、両者は、それぞれの右側に記載された「サイズ」の数値に異なるところがない、との事実から、「D383KP_UN」は、パターン自体において、「D383」と変わるところはない、と理解することができる。したがって、当該「【パターン図1】(D383 Mサイズ)」は、甲10の16の1?7の各パターンの形状を有するものを並べたものであると理解できる。
さらに、甲10の16の1?7のパターンには、「04.10.01」との記載がある。一方、甲10の18の上記記載から、2004年の8月には既に先行製品3は販売されている。既に販売されている「ショーツ」のパターンデータを後から作成することは不自然であるし、販売後に改変が行われことを示す証拠もないから、上記「04.10.01」との記載は、上記2.(1)キ.から、「データ変換の作業を行った日」であると解するのが相当である。そして、上記2.(4)ア.に示したように、この点は、証人近藤真弓の証言と整合する。
そうすると、色がモカ、サイズがMの先行製品3の販売当時のパターンの形状は、甲10の16の1?7のパターンの形状である。

イ.縫製情報
甲10の13の1及び2には、「品番」として、それぞれ「D383KP」及び「D383UN」との記載があり、各々の「デザイン画」の欄には、「ショーツ」が記載されていて、「縫代が出ない様に」等と縫製情報が記載されている。さらに、甲10の13の1及び2の「指図書」について、上記2.(1)カ.に示したように、「縫製仕様書と同じ扱いだった」との証人中村彰男の証言がある。そうすると、先行製品3の「ショーツ」は、甲10の13の1あるいは2の指図書における縫製情報に基づいて各パターンが縫製されたと理解できる。

(4)先行発明3の認定
上記甲10の16の1?7のパターンを甲4の4ページの【パターン図1】のように配列する。そして、甲10の13の1と2の指図書に示されるように各パターン相互を縫製することを考慮すると、以下の事項が認められる。(符番は、便宜のため請求人が付したものを採用する。)

3a 前身頃12は、大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部24を備えている。
3b 後身頃14は、前身頃12に接続され臀部を覆うとともに前身頃12の足刳り形成部24に連続する足刳り形成部25を有している。
3c 前記前身頃12と前記後身頃14の各足刳り形成部に接続され脚が挿通する脚口パーツ18がある。
3d 前記前身頃12の足刳り形成部24の湾曲に頂点がある。
3e 前記後身頃14の足刳り形成部25の下端縁は臀部の下端付近に位置している。
3f 前記脚口パーツ18は山40aを有し、前記足刳り形成部24,25の前側は湾曲している。
3g 前記足刳り形成部24,25の湾曲部分は幅を有し、前記山40aも幅を有する。
3h ショーツである。

そうすると、上記3a?3hの事項から、以下の先行発明3が認定できる。

「大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部を備えた前身頃12を有し、この前身頃12に接続され臀部を覆うとともに前身頃12の足刳り形成部24に連続する足刳り形成部25を有した後身頃14を有し、前記前身頃12と後身頃14の各足刳り形成部24,25に接続され脚が挿通する脚口パーツ18を有し、前身頃12の足刳り形成部24は湾曲した頂点があり、前記後身頃14の足刳り形成部の下端縁は臀部の下端付近に位置し、前記脚口パーツ18は山40aを有し、前記足刳り形成部の湾曲部分の幅よりも前記山40aの幅が広い箇所と狭い箇所を形成し、筒状の前記脚口パーツ18が前記前身頃12に対して突出する形状であるショーツ」

パターンと縫製情報から、上記先行発明3が認定できることについて、当事者間に争いはない。(請求人要領書(4)の5-1-1、被請求人要領書(4)の5.(3-1))

(5)本件発明1と先行発明3との対比
本件発明1と先行発明3とを対比すると、上記2.(6)に示した<一致点>で一致し、かつ、<相違点1-1>?<相違点1-5>で相違する。

上記一致点及び相違点の認定について、当事者間に争いはない。(請求人要領書(4)の5-1-1、請求人要領書(5)の5-2.「(1)について」、被請求人要領書(4)の5.(3-1))

(6)相違点についての検討
まず、<相違点1-3>について検討する。
先行発明2について上記2.(7-1)に示したのと同様に、<相違点1-3>は、実質的な相違点であるから、本件特許1は、先行発明3ではない。
また、先行発明2について上記2.(7-2)エ.に示したのと同様に、先行発明3を、<相違点1-3>に係る構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得たものであるとは認められない。

(7)他の色、サイズの先行製品3について
タカギ品番「D383」の「ショーツ」は、3つの色と3つのサイズの組み合わせで公然実施されていたところ、上記(3)に記載したように、以上の検討は、このうち、色が「モカ」で、サイズが「M」のものについておこなった。しかし、他の色やサイズのものについても、上記<相違点1-3>の認定と判断において変わるところはない。

(8)小括
以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、先行発明3ではない。
また、本件発明1は、他の相違点について検討するまでもなく、先行発明3と、甲5事項、甲11?15事項、甲22事項、及び、従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件発明1は、特許法第29条第1項第2号に該当するとはいえないし、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないとはいえない。

4.先行製品1(ポーラ品番「S37」)を主とする無効理由1について

(1)証拠

ア.甲2記載事項
甲2の4ページには、左上隅に「【パターン図1】」(PO4227 Mサイズ)」との記載がある。

イ.甲7の3記載事項
甲7の3には、以下の記載がある。
甲7の3の1枚目の右端には、「POLA’97 BODY FASHION AUTUMN & WINTER」との記載があり、右上に「資料2」との記載、左下には、「Sofical」との筆記体での記載、その下に画かれたリボン状の枠に「ソフィカル15周年」との記載がある。
同37ページには、大きさの異なる2枚の写真があり、両方の写真の右下隅に「S37」の記載がある。また、同ページの左側には、「S37」との記載があり、その下方に「テンセルショーツ(マキシ丈)」、「■サイズM・L・LL」との記載がある。その上方には、左端に「オフホワイト」「モカ」「ブラック」の文字がそれぞれ長円形に囲まれて記載されている。
同130ページには、「デザイン番号」の列に「S37」と記載された行において、「品名」、「色」、「サイズ」のそれぞれに、「テンセルショーツ(テンセル○Rニューインナー)(マキシ丈)」、「オフホワイト/モカ/ブラック」、「M/L/LL」との記載がある。
同最終ページ右下隅には、「営業所名・ポーラレディ名」「1997年7月発行」との記載がある。左下隅には、「カタログのカラーは、印刷の関係で実物と異なる場合があります」との記載がある。

ウ.甲7の4記載事項
甲7の4の1枚目の右端には、「BODY FASHION ’98 SPRING & SUMMER POLA」との記載、その左隣に、「資料3」との記載、左下隅に、「Sofical」との記載がある。
同44ページには、大きな2枚の写真があり、それぞれの右下隅に「S37」との記載がある。本ページの右側には、「S37」との記載、その下側に「テンセルショーツ(マキシ丈)」、「■サイズ M・L・LL」との記載がある。そして、その上部には、「オフホワイト/モカ/ブラック」の文字が、長円で囲まれて記載され、その右隣に「このシリーズの商品はすべてこの3色があります。」との記載がある。
同最終ページの右下隅には、「営業所名・ポーラレディ名」「1998年1月発行」との記載がある。

エ.甲7の5記載事項
甲7の5には以下の記載がある。
甲7の5の1枚目の右端には、「BODY FASHION ’98 AUTUMN & WINTER POLA」との記載、その左側上方に、「資料4」との記載、左下隅に、「Sofical」との記載がある。
同89ページの左側の人物の膝上全体が写っている写真の右下側には「S37」の記載があり、その右隣の下方には、「テンセル○R」、「オフホワイト」、「ブラック」、「モカ」の記載があり、その下側に、「S37」、「テンセルショーツ(マキシ丈)」の記載がある。その下側には「税込¥3,045(M・L)/税込¥3,255(LL)」との記載がある。さらにその下側には、「●おしりをすっぽり包み、ラインをくずさず、はき心地抜群/●ウエスト、足口もすべてテンセル○Rで肌あたりソフト」との記載がある。
同最終ページの右下隅には、「営業所名・ポーラレディ名」「1998年7月発行」の記載がある。左下隅には、「カタログのカラーは、印刷の関係で実物と異なる場合があります」との記載がある。

オ.甲10の4の2記載
甲10の4の2の1ページ目右側の「製品品名」の欄に「PO4227 ショーツ」とともに、「S37」の手書きの記載がある。
同ページ右側には、「(株)ポーラ化粧品本舗」、「S37とヒップハンガータイプ2点の寸法表/FAXします」及び「(株)タカギ」との記載がある。

カ.証人西澤美紀の証言
証人西澤美紀は、平成29年5月30日、特許庁審判廷において宣誓の上、以下のとおり述べた。なお、段落番号は、反訳書面による。

「請求人代理人弁護士 富永 夕子
甲第7号証の1ないし甲第7号証の10を示す

001 この平成27年3月24日付の回答書と添付資料は、あなたが内容を確認して捺印したものに間違いありませんか。
はい。
002 この回答書の中で、何か訂正する点はありますか。
3ページの「S122ショーツについて」という項目の中で、「マチ幅がS37より若干狭い点がS37と相違しておりますが」というところですが、これは「若干狭い」ではなく「広い」の誤記です。」

「請求人代理人弁護士 富永 夕子
甲第7号証の3の6枚目を示す
020 これはS37製品が掲載されている97年秋冬カタログですが、右下のところに8月6日注文受付開始というのが記載されていますが、1997年8月6日からS37の販売を開始したということで間違いありませんか。
はい。
021 ポーラでは、顧客に、S37製品をどのように販売されたんですか。
現在は、ポーラビューティーディレクターという呼称なんですが、当時はポーラレディと呼ばれている販売員がお客様のお宅を直接御訪問、もしくは販売員が在籍しているエステ店、エステティックショップですね。来ていただいたお客様にカタログで御紹介して、御注文いただいて販売するというような形態をとっておりました。
022 そうすると、S37もそのような方法で販売されたということですか。
はい。
023 S37製品の発売後、顧客の反応はどうでしたか。
大変好評で、履きやすいという声をたくさんいただきまして、ヒット商品になったというふうに記憶しております。
024 S37製品は、発売開始後、継続して販売されたのですか。
はい。
025 それを商品カタログに掲載して、販売継続したということですか。
はい。
甲第7号証の4を示す
026 これは98年春夏カタログですが、S37製品が掲載されていることを確認済みですか。
はい。
甲第7号証の5を示す
027 こちらは98年秋冬カタログですが、こちらにもS37製品が掲載されていることは確認済みですか。
はい。
028 S37の売り上げはどれくらいでしたか。
もう何分、古いことなので、社内にも経理資料が残っておりませんので、はっきりした数量はちょっと申し上げられないんですが、何シーズンにもわたって商品カタログに継続して掲載されるということは、非常に売り上げが好調だったということだというふうに思います。」

「被請求人復代理人弁護士 今西 康訓
甲第7号証の7を示す
125 この商品を開発した当時とか販売していた当時に、株式会社タカギの内部で別の商品番号なんていう番号がついていたことはご存じなかったんですか。
タカギさんはタカギさんで管理番号を持っていらっしゃるということは知っていましたけれども、弊社にとってあまり重要なことではないので、特に記憶はしていないです。
126 貴社のほうで、S37とかS122以外に株式会社タカギでの商品番号なり管理番号が必要になることってあるんですか。
はい。
127 あるんですか。
S37、S122以外に。
128 ポーラさんの商品番号以外にタカギさんの番号が必要になることはありますかという質問です。
弊社の中でですか。
129 中で。
特にないですね。」

キ.甲7の1記載事項
甲7の1には、「S37は、使用していた生地の入手が困難になったため、製造・販売を終了しました。/もっとも、S37が大ヒットしたことから、弊社は、生地を変更した同様の商品の開発・販売を検討いたしました。デザイン番号『S122』の『ショーツ』・・・の企画開発をスタートいたしました。商品仕様においてマチ巾がS37より若干狭い点がS37と相違しておりますが、それ以外の仕様はS37と同じであり、また、テンセル素材を用いることや、おしりをすっぽり包みラインをくずさないデザイン設計を採用することにより、履き心地を重視するという製品のコンセプトもS37と共通しておりました。」(3ページ15?23行)

ク.甲10の2の1?7記載事項
甲10の2の1?7のパターンをみると、全てのパターンに、「7FPO4227」、「M」、「11.10.19」との記載がある。

(2)先行製品1の公然実施
甲7の3の「カタログのカラーは、」、「営業所名・ポーラレディ名」、「1997年7月発行」との記載、そして上記2.(3)に示した甲7の1の記載から、甲7の3の「カタログ」は、ポーラが、掲載された商品の販売を目的として、1997年7月に発行し、広く頒布されたものであるといえる。さらに、甲7の3には、「S37」と付された「テンセルショーツ(マキシ丈)」との記載があり、上記(1)イ.に示した3つの色と3つのサイズが記載されている。
甲7の4の「1998年1月発行」との記載、そして、上記2.(3)に示した甲7の1の記載から、甲7の4の「カタログ」は、ポーラが、掲載された商品の販売を目的として、1998年1月に発行し、広く頒布されたものであるといえる。さらに、甲7の4には、「S37」と付された「テンセルショーツ(マキシ丈)」との記載があり、上記(1)ウ.に示した3つの色と3つのサイズが記載されている。
甲7の5の「1998年7月発行」との記載、そして、上記2.(3)に示した甲7の1の記載から、甲7の5の「カタログ」は、ポーラが掲載された商品の販売を目的として、1998年1月に発行し、広く頒布されたものであるといえる。さらに、甲7の5には、「S37」と付された「テンセルショーツ(マキシ丈)との記載があり、上記(1)エ.に示した3つの色と3つのサイズが記載されている。
上記異なった時期に発行された三つの「カタログ」のいずれにも、ポーラ品番「S37」のショーツが掲載され続けたことは、当該製品の「お客様」への販売が当初から好調であったことが伺え、証人西澤美紀の
「もう何分、古いことなので、社内にも経理資料が残っておりませんので、はっきりした数量はちょっと申し上げられないんですが、何シーズンにもわたって商品カタログに継続して掲載されるということは、非常に売り上げが好調だったということだというふうに思います。」
との証言とも整合する。
そうすると、先行製品1は、ポーラによって、甲7の3のカタログ等を用いて、「お客様」に対し販売、すなわち譲渡されていた、と理解するのが自然である。
したがって、先行製品1は、本件特許に係る国際出願日前に公然と実施されていたと認められる。

(3)ポーラ品番「S37」のショーツと、タカギ品番「PO4227」のショーツが同一構造であること
甲10の4の2の上記(1)オ.の記載から、甲10の4の2をポーラに対してファクシミリで送信した者は、タガギ品番のPO4227のショーツが、ポーラ品番が「S37」であると認識していたことが理解できる。また、上記(1)カ.の証人西澤美紀の「タカギさんはタカギさんで管理番号を持っていらっしゃるということは知っていましたけれども、弊社にとっては余り重要なことではないので、特に記憶はしていないです。」との証言によれば、タカギ品番のみが付されている書面をみても、ポーラ側は直ちにそれがポーラ品番S37のショーツであることが判然としないことが考えられ、利便のために、製品品名「PO4227」の近くに「S37」と付したものであると考えるのが自然である。
したがって、ポーラ品番「S37」のショーツに対して、タカギは「PO4227」との品番を付けていたと認められるから、ポーラ品番「S37」のショーツの構造は、タカギ品番「PO4227」の「ショーツ」の構造と同一である。

(4)先行製品1の構造
上記(2)に示したように、ポーラ品番「S37」のショーツは、3つの色と3つのサイズがあるところ、このうち、色が「モカ」でサイズが「M」のものについて、以下検討する。

上記2.(4)に示したように、先行製品1のような下肢用衣料においては、製品の構造は型紙(パターン)と縫製情報により決定される。

ア.先行製品1を製造するのに使用したパターンの形状
甲2の4ページの上記「【パターン図1】(PO4227 Mサイズ)」との記載と甲10の2の1?7のパターンに記載された「7FPO4227」のうち「PO4227」の部分、及び、「M」との記載が一致する。また、「7F」については、上記2.(1)オ.によれば、ショーツが掲載されるポーラカタログの発行年と季節であるから、かかる事項に応じてパターンが変更されることは考えられない。
また、甲10の2の1?7に記載された「11.10.19」についてみると、既に販売されている「ショーツ」のパターンデータを後から作成することは不自然であるし、販売後に改変が行われたことを示す証拠もないから、当該記載は、上記2.(1)キ.に記載された追加変換作業が行われた日付と解するのが自然である。そして、上記2.(4)ア.に示したように、この点、証人近藤真弓の証言とも整合する。
以上のとおりであるから、色がモカ、サイズがMの先行製品1の販売当時のパターンの形状は、甲10の2の1?7のパターンの形状である。

イ.縫製情報
提出されたいずれの証拠にも、先行製品1についての縫製情報は記載されていない。したがって、先行製品1についての構造を認定することができない。

(5)小括
上記(4)イ.に示したとおり、請求人により提出された証拠には、先行製品1に係る縫製情報が記載されたものはない。
したがって、請求人により提出された証拠によって、先行製品1の構造を具体的に特定することはできず、本件発明1は、先行製品1であるとはいえないから、特許法第29条第1項第2号に該当するとはいえない。また、本件発明1は、先行発明1と、甲5事項、甲11?15事項、甲22事項、及び、従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないとはいえない。

(6)予備的検討
上記(4)イ.に示したように、先行製品1に係る縫製情報が記載された証拠は提出されていない。
しかし、先行製品1と先行製品2とは、上記甲7の1の記載及び上記証人西澤美紀の証言によると、布の種類と、マチ巾の寸法が異なるだけのものであると解されるから、先行製品1のパターン相互の縫製情報は、先行製品2のものと同じであると解することができる。そこで、先行製品1の縫製情報は、先行製品2の縫製情報である甲10の8の縫製仕様書に記載されたものと同一であるとして、予備的に、以下のとおり、検討する。

ア.先行発明1の認定
上記甲10の2の1?7のパターンを甲2の4ページの【パターン図1】のように配列する。そして、縫製情報は、上記のとおり、先行製品2の縫製情報が記載されている甲10の8の縫製仕様書に記載されたとおりに、パターン相互を縫製することを考慮すると、以下の事項が認められる。(符号は、便宜のため請求人が付したものを採用する。)

1a 前身頃12は、大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部24を備えている。
1b 後身頃14は、前身頃12に接続され臀部を覆うとともに前身頃12の足刳り形成部24に連続する足刳り形成部25を有している。
1c 前記前身頃12と前記後身頃14の各足刳り形成部に接続され脚が挿通する脚口パーツ18がある。
1d 前記前身頃12の足刳り形成部24の湾曲に頂点がある。
1e 前記後身頃14の足刳り形成部25の下端縁は臀部の下端付近に位置している。
1f 前記脚口パーツ18は山40aを有し、前記足刳り形成部24,25の前側は湾曲している。
1g 前記足刳り形成部24,25の湾曲部分は幅を有し、前記山40aも幅を有する。
1h ショーツである。

そうすると、上記1a?1hの認定事項から、以下の先行発明1が認定できる。

「大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部を備えた前身頃12を有し、この前身頃12に接続され臀部を覆うとともに前身頃12の足刳り形成部24に連続する足刳り形成部25を有した後身頃14を有し、前記前身頃12と後身頃14の各足刳り形成部24,25に接続され脚が挿通する脚口パーツ18を有し、前身頃12の足刳り形成部24は湾曲した頂点があり、前記後身頃14の足刳り形成部の下端縁は臀部の下端付近に位置し、前記脚口パーツ18は山40aを有し、前記足刳り形成部の湾曲部分の幅よりも前記山40aの幅が広い箇所と狭い箇所を形成し、筒状の前記脚口パーツ18が前記前身頃12に対して突出する形状であるショーツ」

イ.本件発明1と先行発明1との対比
本件発明1と先行発明1とを対比すると、上記2.(6)に示した<一致点>で一致し、かつ、<相違点1-1>?<相違点1-5>で相違する。

上記一致点及び相違点の認定について、当事者間に争いはない。(請求人要領書(4)の5-1-1、請求人要領書(5)の5-2.「(1)について」、被請求人要領書(4)の5.(3-1))

ウ.相違点についての検討
まず、<相違点1-3>について検討する。
先行発明2について上記2.(7-1)に示したのと同様に、<相違点1-3>は、実質的な相違点であるから、本件特許1は、先行発明1ではない。
また、先行発明2について上記2.(7-2)エ.に示したように、先行発明1を、<相違点1-3>に係る構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得たものであるとは認められない。

エ.他の色、サイズの先行製品1について
ポーラ品番「S37」の「ショーツ」は、3つの色と3つのサイズの組み合わせで公然実施されていたところ、上記(4)に記載したように、以上の検討は、このうち、色が「モカ」で、サイズが「M」のものについておこなった。しかし、他の色やサイズのものについても、上記<相違点1-3>の認定と判断において変わるところはない。

オ.まとめ
上記(4)イ.に示したとおり、請求人により提出された証拠には、先行製品1の縫製情報が示されていないから、本件発明1は、先行製品1ではないし、先行製品1と、甲5事項、甲11?15事項、甲22事項、及び、従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
さらに、上記(6)に示したように、先行製品1の縫製情報が、先行製品2についての縫製情報である甲10の8の縫製仕様書に記載されたものと同一であるとして、予備的に検討しても、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、先行発明1ではない。
また、同様に予備的に検討しても、本件発明1は、他の相違点について検討するまでもなく、先行発明1と、甲5事項、甲11?15事項、甲22事項、及び、従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

5.小括
上記に示したとおり、本件発明1は、先行発明1?3のいずれでもないから、特許法第29条第1項第2号の規定に該当するとはいえない。
また、本件発明1は、先行発明1から3のいずれかの発明、甲5事項、甲11?15事項、甲22事項、及び、従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないとはいえない。
よって、本件発明1に係る特許は、請求人が主張する無効理由1によって、無効にすることはできない。

第6.無効理由2についての当審の判断

1.甲11

(1)甲11記載事項

ア.「元来人体の脇中心線Bは第3図に示すように鼠径溝と臀溝を結ぶ脚の付け根を境として逆”く”の字型に屈曲している。
このような人体の体型にあつても従来のガードルはこの人体の体型を重視せず,ガードル形成に当たつては全て脇中心線を直線的に為しているのが普通である。従つて人体に良好に適合しておらず直立時或いは運動時には大腿部前部に不自然な圧迫感を受け着用感に秀れないものであつた。」(1頁下から3行?2頁6行)

イ.「この考案は叙上の点に鑑み,人体の体型上の特徴に合致するように形成し,従来のガードルの着用感を改善することにある。」(2頁7?9行)

ウ.「即ちこの考案は腰部主体片1と脚部片2とに分離した部片から形成されるガードルであつて,腰部主体片1の下辺を内方に切欠いて谷形に形成すると共にこの腰部主体片1の下辺に対応する脚部片2の上辺を山形に膨出形成し,腰部主体片1と脚部片2の下辺,上辺を縫着するに際して腰部主体片1の下辺の谷底点dから前端点aに至る間と脚部片2の上辺の頂点d’から前端点a’に至る間に夫々ダーツ3,3’を取つて縫着形成してなることを特徴とするガードルAに係るものである。」(2頁10行?3頁1行)

エ.「図中4は臀部中心片,5はフロント片を示す。」(3頁2行)

オ.「このように形成されるこの考案ガードルは第1図にその側面を示すように,脚部は前上りにダーツ3,3’を取つた分だけ傾斜した形態になつて現れ又腰部主体片1の辺ab並びに臀部片4の辺b’cと脚部片2の辺a’c’との縫着線6は人体の鼠径溝から臀溝を結ぶ線と一致する。従つてこの考案ガードルは逆”く”の字型に屈曲せる体型に良好に適合して着用感が自然なものとなり,又脚の付け根部分で切替えられているから運動(特に脚の前挙運動)に対する適応性に秀れ,且つ運動時における裾線のずり上りを解消する。」(3頁3?13行)

カ.第1図?第3図


キ.第1図には、筒状の脚部片2が腰部主体片1に対して前方に突出する形状となることが図示されている。

(2)甲11発明
上記(1)の摘記事項ア.?オ.、第1図?第3図、並びに、認定事項キ.を、技術常識を踏まえつつ整理すると、甲11には、以下の甲11発明が記載されている。

「大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部を備えた腰部主体片1と、この腰部主体片1に接続され臀部を覆うとともに前記腰部主体片1の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有した臀部片4と、前記腰部主体片1と前記臀部片4の各足刳り形成部に接続され大腿部が挿通する脚部片2とを有し、前記腰部主体片1の足刳り形成部を内方に湾曲に切り欠いて谷形に形成し、谷底点dがあり、前記脚部片2は山形に膨出形成し、前記足刳り形成部は湾曲した形状であり、前記臀部片4の足刳り形成部の下端片は臀部の下端付近に位置し、筒状の前記脚部片2が前記腰部主体片1に対して前方に突出する形状となるガードル。」

甲11から、上記甲11発明が認定できることについて、当事者間に争いはない。(請求人要領書(4)の5-2、被請求人要領書(4)の5.(4))

2.本件発明1と甲11発明との対比
甲11発明の「足刳り形成部」、「腰部主体片1」、「臀部片4」、「脚部片2」及び「湾曲した谷底点d」は、本件発明1の「足刳り形成部」、「前身頃」、「後身頃」、「大腿部パーツ」及び「湾曲した頂点」にそれぞれ相当する。
甲11発明の「ガードル」は、本件発明1の「下肢用衣料」と、「下肢に着用する衣料」である限度で一致する。
そうすると、本件発明1と甲11発明は、以下の点で一致し、かつ相違する。

<一致点>
「大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部を備えた前身頃と、この前身頃に接続され臀部を覆うとともに前記前身頃の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有した後身頃と、前記前身頃と前記後身頃の各足刳り形成部に接続され大腿部が挿通する大腿部パーツとを有し、前記後身頃の足刳り形成部の下端縁は臀部の下端付近に位置し、筒状の前記大腿部パーツが前記前身頃に対して前方に突出する形状となることを特徴とする下肢に着用する衣料。」

<相違点2-1>
本件発明1は、「前身頃の足刳り形成部の湾曲した頂点」が、「腸骨棘点付近に位置」するものであるのに対し、甲11発明は、「腰部主体片1の足刳り形成部の湾曲した谷底点d」の位置と、腸骨棘点との関係が不明である点。

<相違点2-2>
本件発明1は、「大腿部パーツの山の高さ」を、「足刳り形成部の前側の湾曲深さ」よりも「低い形状」としたものであるのに対し、甲11発明は、「脚部片2」の山の高さと「足刳り形成部の前側の湾曲深さ」との関係が不明である点。

<相違点2-3>
本件発明1は、「足刳り形成部の湾曲部分の幅」よりも「山の幅」を「広く形成」したものであるのに対し、甲11発明は、「足刳り形成部の湾曲した形状」の幅と、「脚部片2」の山の幅との関係が不明である点。

<相違点2-4>
本件発明1は、「取り付け状態」で「筒状の前記大腿部パーツが前記前身頃に対して前方に突出する形状となる」ものであるのに対し、甲11発明の「筒状の前記脚部片2が前記腰部主体片1に対して前方に突出する形状となる」のが「取り付け状態」であるか「着用状態」であるか不明である点。

<相違点2-5>
「下肢に着用する衣料」について、本件発明1は、「下肢用衣料」であるが、甲11発明は、「ガードル」である点

なお、上記一致点、相違点について、当事者間に争いはない(請求人要領書(4)の5-2.、被請求人要領書(4)の5.(4))

3.判断
まず、<相違点2-3>について検討する。

(1)特許法第29条第1項第3号を理由とする無効理由2について
上記<相違点2-3>は、形式的な相違点ではなく、形状及び構造についての実質的な相違点であることは明らかであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲11発明ではない。
よって、本件発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。

(2)特許法第29条第2項を理由とする無効理由2について
本件発明1における上記<相違点2-3>に係る構成は、上記<相違点1-3>に係る構成と実質的に同じであるところ、<相違点1-3>に係る構成の技術的意義は、上記第5.の2.(7-2)ウ.に示したように、大腿部パーツに、周方向の伸びに対して予め「余裕」ないし「ゆとり」を設けることで、大腿部を屈曲運動の際の抵抗を低減させるものである。
一方、上記1.(1)の摘記事項ア.及びイ.から、甲11発明は、従来のガードルが、鼠径溝と臀溝を結ぶ足の付け根を境として逆”く”の字型に屈曲している人体の体型に対して適合しておらず、直立時或いは運動時に大腿部全部に不自然な圧迫感を受け着用感に秀れないものであったところ、甲11発明のガードルは、人体の体型上の特徴に合致するように形成し、従来のガードルの着用感を改善することを課題とするものである。そのために甲11発明のガードルは逆”く”の字型に屈曲した体型に良好に適合して着用感が自然なものとなるようにしたものである。
そうすると、本件発明1が、上記第5.の2.(7-2)エ.に示したように、「大腿部パーツ」についての「余裕」や「ゆとり」を持たせることで、屈曲運動の際の大腿部にかかる生地の抵抗を低減させるとの技術的思想と、甲11発明のガードルを逆”く”の字型に屈曲している人体の体型上の特徴に合致するように形成するとの技術的思想とは、異なる技術的思想である。
さらに、<相違点2-3>に係る技術的思想は、甲2?5、甲12?15、甲22のいずれにも記載されていないし、示唆もない。
したがって、甲11発明において、上記<相違点2-3>に係る構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得たものであるとはいえない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲11発明、甲2?5事項、甲12?15事項、甲22事項、及び、従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないとはいえない。

4.小括
以上のとおりであるから、本件発明1に係る特許は、請求人が主張する無効理由2によって、無効にすることはできない。

第7.無効理由3についての当審の判断

1.甲13

(1)甲13記載事項
甲13には、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア.「この発明はパンテイガードル・パンテイストツキングのようなフアンデーション製品において、シヨーツラインに沿つた切替線を設けることにより、完全に立体的な性質を有するようにしたものに関する。」(1頁右下欄2?6行)

イ.「而して、フアンデーシヨンの機能上から見た成立条件としては、○1衛生面、○2運動性、○3体型処理と云う3大要素があつて、この条件のひとつでも欠除しているとフアンデーシヨンとして完璧な製品とは云えない。即ち、衛生面とはこの製品を着用した場合に着心地がよいことであり、これが充足されていないと製品として成立することは不可能である、また、運動性とはこれを着用して運動した場合に脚部のずれ等、要するに着くずれが起きないことであり、これが充足されなていないと製品として成立することは不可能に近く、最後に、体型処理とは如何なる体型にも適合することであり、これは例えばヒツプが下がりぎみの人と、そうでない人、腹部がややでている人とそうでない人とは体型が自ずと異なり、これら各体型にも如何に適合できるかと云うことであつて、これが充足されていないと製品として成立することは不可能に近い。」(1頁右下欄下から8行?2頁左上欄10行)

ウ.「即ち、従前のこの種製品にあつては、その基本パターンとして、腰部と脚部との身体特徴即ち、人体の脚部がやや前傾状態であること等々を考慮せず、しかも、両部分が全く運動機能が異質であることを考慮することなく腰部と脚部の上・下一体続きとなし、縦の切替えのみによつてデザイン処理しているのが通例であり、運動機能に対処するには同製品の構成素材である編地等の伸縮性布のストレツチ性によつて対処している現状であり、従つて、従前提案されているガードル・パンテイストツキングのような製品にあつては着心地が悪く、着崩れすると共にいかなる体型の身体でも適合することができず、ヒツプアツプ効果等も薄れてフアンデーシヨンの造形性と云う本来の目的においてそれを満足することができてない。」(第2頁左上欄最下行?右上欄下から7行)

エ.「この発明は上記の諸点に鑑みて案出されたものであつて、その特徴とするところは、編地等の伸縮性を有する布地からなるパンテイガードル並びにその類似品であつて、該製品は腰部布と脚部布並びにヒツプアツプ当布等から構成され、上記腰部布と脚部布が人体屈曲時の形態に沿う横の切替えで上下に分割されかつその部分が接合されると共に、腰部布とヒツプアツプ当布との接合部分は人体臀部稜線に沿う縦の切替えで分割されかつその部分が接合されると共に、腰部布、脚部布並びにヒツプアツプ当布とが上記縦・横切替え部分で接合されることにより、背柱線を中心に左右臀部に適合する膨み部と、この膨み部と脚部との境が前方に入り込み状として人体臀溝に位置しかつ脚部全体が前方に傾斜した状態で立体形状を保持する点にあり、従つて、この発明によればヒツプアツプ効果が確実に達成され、しかも、身体の脚部が前傾状態である点をも充分に考慮し、加えて、太腿部の寸法問題をも一挙に解消でき、フアンデーシヨン本来の目的を満足できる新しいガードル・並びにその類似品が提供できたのである。」(2頁右上欄下から6行?左下欄下から6行)

オ.「第1図を参照すると、この発明の基本的なパターンが例示されており、同図において、(1)は腰部布、(2)は脚部布、(3)はヒツプアツプ当布、(4)は股間当布であり、これらはそれぞれ型紙によつて作成され、腰部布(1)、脚部布(2)並びにヒツプアツプ当布(3)はいずれも左右一組をもつて成立する。」(2頁左下欄下から5行?右下欄1行)

カ.「腰部布(1)と脚部布(2)は横方向の切替え線(1a)(2a)によつて上・下に分割され、その切替え線(1a)(2a)はそれぞれ人体屈曲時の形態に沿つている。即ち、切替え線(1a)(2a)の後部接合点をそれぞれA_(1)、A_(2)とすると、このA_(1)、A_(2)点は第2図(II)に示す臀溝線(B)の概ね中央に位置し、ここを出発点として 人体屈曲時に画かれる第2図で示す関節部の線(C)(第2図参照)に沿つて、横方向に切替えられ、前身頃部分において腰部布(1)の切替え線(1a)が深いカーブ(R)とされ、脚部布(2)の切替え線(2a)が緩いカーブ(R_(1))とされ、両者の部分に空間(D)が形成されて切替え線(2a)の長さに不足部分があるようにしてあり、これを、切替え線(1a)(2a)の前股部での接合部E_(1),E_(2)点となるようにして補正している。」(2頁右下欄2行?下から5行)

キ.「この製品は背柱線Y-Yを境にして2つの同形同大の膨み部(5)(5)が形成され、その膨み部の下端と脚部との接合部(6)が第5図示のように前方に入り込み状として人体臀溝に位置し、かつ、脚部全体が前方に傾斜した状態で立体形状を保持するのである。」(3頁右上欄2?8行)

ク.「この発明は以上の通りであつて、後部における腰部布とヒツプアツプ当布並びに脚部布との三者の接合部分が、人体臀溝部の概ね中央部において対応して固定状に位置し、かつ、この接合部が従前例のものより大きく前に位置(従前例は点Q)し、脚部がやや前傾状になるように、要するに立体処理されたものであるから、ヒツプアツプ効果が倍加されるし、脚部が前傾状であるために身体の形態的な特徴をシルエツトとして出し得、これによつて、人間工学上優れており、いかなる運動姿勢にも無理なくフイツトし、力のバランスがよくなつて、着用時における脚部のずれ等、着崩れ現象を呈することがなく、立体処理しているので如何なる体型の人にでも適合できて、フアンデーシヨン本来の目的である造形性のバリエーシヨン表現を充足できるのであり、太腿部の寸法処理についても一挙に解消できて、従前例が専ら、縦方向の切替え線と素材のストレツチ性によつて平面的にデザイン処理していたものを、人体の屈曲した時の形態に沿う横の切替えによつて、身体にマツチしたバランスを持つことができたものとして、誠に斬新でかつ、フアンデーション業界では類を見ないものとしてその価値は著大である。」(3頁右上欄9行?左下欄11行)

ケ.「なお、上記具体例では専らパンテイストツキングに関して詳説しているけれども、この発明はその他、パンテイストツキングのような整容効果をねらう製品にも応用できるものである。」(3頁左下欄12?15行)

コ.「第1図はこの発明製品の縫着前における一方の展開図、第2図(I)(II)は人体形態を示す概略正・背面図、第3図はこの発明製品の前方より見た斜視図、第4図は後方より見た斜視図、第5図は同側面図である。」(3頁左下欄下から4行?右下欄1行)

サ.第1図?第5図


シ.上記記載事項オ.及びコ.から、第3図、第4図及び第5図は、パンテイガードル1の前方より見た斜視図、後方より見た斜視図及び側面図が示されている。そして、第3図及び第4図から、パンテイガードル1は、大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部を備えた腰部布1と、この腰部布1に接続され臀部を覆うとともに腰部布1の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有したヒップアップ当布3と、腰部布1とヒツプアップ当布3の各足刳り形成部に接続され大腿部が挿通する脚部布2とを有することが把握される。また、上記記載事項オ.、キ.、ク.に照らせば、第5図から、取り付け状態で筒状の脚部布2が腰部布1に対して前方に突出する形状となることが把握される。

(2)甲13発明
上記(1)の摘記事項ア.?コ.、第1図?第5図、並びに、認定事項シ.から、技術常識を踏まえつつ整理すると、甲13には、以下の甲13発明が記載されている。

「大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳り形成部を備えた腰部布1と、この腰部布1に接続され臀部を覆うとともに前記腰部布1の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有したヒツプアツプ当布3と、前記腰部布1と前記ヒツプアツプ当布3の各足刳り形成部に接続され大腿部が挿通する脚部布2を有し、腰部布1の切替え線(1a)は人体屈曲時に画かれる関節部の線(C)に沿い、前記ヒツプアツプ当布3の足刳り形成部の下端縁は臀部の下端付近に位置し、前記脚部布2の切替え線(2a)が緩いカーブ(R_(1))とされ、前記腰部布1の足刳り形成部は切替え線(1a)が深いカーブ(R)とされ、着用時に筒状の前記脚部布2が前記腰部布1に対して前方に突出する形状となるパンティガードル。」

甲13から、上記甲13発明が認定できることについて、当事者間に争いはない。(請求人要領書(4)の5-2、被請求人要領書(4)の5.(4))

2.本件発明1と甲13発明との対比
本件発明1と甲13発明とを対比する。
甲13発明の「足刳り形成部」、「腰部布1」、「ヒツプアツプ当布3」、「脚部布2」、「緩いカーブ(R_(1))」及び「深いカーブ(R)」は、本件特許発明1の「足刳り形成部」、「前身頃」、「後身頃」、「大腿部パーツ」、「山」及び「湾曲部分」にそれぞれ相当する。
甲13発明の「パンティガードル」は、本件発明1の「下肢用衣料」と、「下肢に着用する衣料」である点で共通する。
そうすると、本件発明1と甲13発明は、以下の点で一致し、かつ相違する。

<一致点>
「大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部を備えた前身頃と、この前身頃に接続され臀部を覆うとともに前記前身頃の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有した後身頃と、前記前身頃と前記後身頃の各足刳り形成部に接続され大腿部が挿通する大腿部パーツとを有し、前記後身頃の足刳り形成部の下端縁は臀部の下端付近に位置し、筒状の前記大腿部パーツが前記前身頃に対して前方に突出する形状となることを特徴とする下肢に着用する衣料。」

<相違点3-1>
本件発明1は、「前身頃の足刳り形成部の湾曲した頂点」が、「腸骨棘点付近に位置」するものであるのに対し、甲13発明は、そもそも、「腰部布1」の「切替え線(1a)が深いカーブ(R)」の頂点の位置が不明である点。

<相違点3-2>
本件発明1は、「大腿部パーツの山の高さ」を、「足刳り形成部の前側の湾曲深さ」よりも「低い形状」としたものであるのに対し、甲13発明は、「脚部布2」の「切替え線(2a)」の「緩いカーブ(R_(1))」の高さと、「足刳り形成部」の「切替え線(1a)」の「深いカーブ(R)」の深さとの関係が不明である点。

<相違点3-3>
本件発明1は、「足刳り形成部の湾曲部分の幅」よりも「山の幅」を「広く形成」したものであるのに対し、甲13発明の、「足刳り形成部」の「切替え線(1a)」の「深いカーブ(R)」の幅と、「脚部布2」の「緩いカーブ(R_(1))」の幅との関係が不明である点。

<相違点3-4>
本件発明1は、「取り付け状態」で「筒状の前記大腿部パーツが前記前身頃に対して前方に突出する形状となる」ものであるのに対し、甲13発明の「筒状の前記脚部布2が前記腰部布1に対して前方に突出する形状となる」のが「取り付け状態」であるか「着用状態」であるか明らかではない点。

<相違点3-5>
「下肢に着用する衣料」について、本件発明1は、「下肢用衣料」であるが、甲13発明は、「パンティガードル」である点。

なお、上記一致点、相違点について、当事者間に争いはない(請求人要領書(4)の5-2.、被請求人要領書(4)の5.(4))

3.判断
まず、<相違点3-3>について検討する。

(1)特許法第29条第1項第3号を理由とする無効理由3について
上記<相違点3-3>は、形式的な相違点ではなく、形状及び構造についての実質的な相違点であることは明らかである。したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲13発明ではない。
よって、本件発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。

(2)特許法第29条第2項を理由とする無効理由3について
本件発明1における上記<相違点3-3>に係る構成は、上記<相違点1-3>に係る構成と実質的に同じであるところ、<相違点1-3>に係る構成の技術的意義は、上記第5.の2.(7-2)ウ.に示したように、大腿部パーツに、周方向の伸びに対して予め「余裕」ないし「ゆとり」を設けることで、屈曲運動の際の大腿部にかかる生地の抵抗を低減させるものである。
一方、上記1.(1)の摘記から、甲13発明は、「パンテイガードル・パンテイストツキングのようなフアンデーション製品」(摘記事項ア.)に関するもので、従来のものが、「腰部と脚部との身体特徴即ち、人体の脚部がやや前傾状態であること等々を考慮せず、しかも、両部分が全く運動機能が異質であることを考慮することなく腰部と脚部の上・下一体続きとなし、縦の切替えのみによつてデザイン処理しているのが通例」(摘記事項ウ.)であり、その結果、「着心地が悪く、着崩れすると共にいかなる体型の身体でも適合することができず、ヒツプアツプ効果等も薄れてフアンデーシヨンの造形性と云う本来の目的においてそれを満足することができてない。」(摘記事項ウ.)との問題点があった。甲13発明は、その問題点を解決することを課題とするもので、「編地等の伸縮性を有する布地からなるパンテイガードル並びにその類似品であつて、該製品は腰部布と脚部布並びにヒツプアツプ当布等から構成され、上記腰部布と脚部布が人体屈曲時の形態に沿う横の切替えで上下に分割されかつその部分が接合されると共に、腰部布とヒツプアツプ当布との接合部分は人体臀部稜線に沿う縦の切替えで分割されかつその部分が接合されると共に、腰部布、脚部布並びにヒツプアツプ当布とが上記縦・横切替え部分で接合されることにより、背柱線を中心に左右臀部に適合する膨み部と、この膨み部と脚部との境が前方に入り込み状として人体臀溝に位置しかつ脚部全体が前方に傾斜した状態で立体形状を保持する点」(摘記事項エ.)を特徴とするものである。そして、甲13発明は、「脚部がやや前傾状になるように、要するに立体処理されたものであるから、ヒツプアツプ効果が倍加されるし、脚部が前傾状であるために身体の形態的な特徴をシルエツトとして出し得、これによつて、人間工学上優れており、いかなる運動姿勢にも無理なくフイツトし、力のバランスがよくなつて、着用時における脚部のずれ等、着崩れ現象を呈することがなく、立体処理しているので如何なる体型の人にでも適合できて、フアンデーシヨン本来の目的である造形性のバリエーシヨン表現を充足できる」(摘記事項ク.)との作用効果を奏するものである。
そうすると、本件発明1が、上記第5.の2.(7-2)エ.に示したように、「大腿部パーツ」についての「余裕」や「ゆとり」を持たせることで、屈曲運動の際の大腿部にかかる生地の抵抗を低減させるとの技術的思想と、甲13発明の「脚部がやや前傾状になるように、要するに立体処理」することで「身体の形態的な特徴をシルエツトとして出し得、これによつて、人間工学上優れており、如何なる運動姿勢にも無理なくフイツト」させることの技術的思想とは、異なる技術的思想である。
さらに、<相違点3-3>に係る技術的思想は、甲2?5、甲12?15、甲22のいずれにも記載されていないし、示唆もない。
したがって、甲13発明において、上記<相違点3-3>に係る構成を備えることが、当業者が容易になし得たものであるということはできない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲13発明、甲2?5事項、甲12?15事項、甲22事項、及び、従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないとはいえない。

4.小括
以上のとおりであるから、本件発明1に係る特許は、請求人が主張する無効理由3によって、無効にすることはできない。

第8.無効理由4についての当審の判断

1.甲14

(1)甲14記載事項

ア.「本発明はパンテイガードル・パンテイストツキングのようなフアンデーション製品において、脚部付け根及び臀溝に沿うように工夫された特殊なカツテイングによる横の切替線を設けると共に臀部の左右2山の膨み部を設けることにより、完全に立体的な性質を有するようにしたものに関する。」(2欄14?19行)

イ.「而して、フアンデーシヨンの機能上から見た成立条件としては、○1衛生面、○2運動性、○3体形処理と云う3大要素があつて、この条件のひとつでも欠除しているとフアンデーシヨンとして完璧な製品とは云えない。即ち、衛生面とはこの製品を着用した場合に着心地がよいことであり、これが充足されていないと製品として成立することは不可能である、また、運動性とはこれを着用して運動した場合に脚部のずれ等、要するに着くずれが起きないことであり、これが充足されていないと製品として成立することは不可能に近く、最後に、体形処理とは如何なる体型にも適合することであり、これは例えばヒツプが下がりぎみの人と、そうでない人、腹部がややでている人とそうでない人とは体形が自ずと異なり、これら各体形を如何に矯正処理できるかと云うことであつて、これが充足されていないと製品としての目的である補正機能を成立させることは不可能である。」(2欄26行?3欄7行)

ウ.「即ち、従前のこの種製品にあつては、その基本パターンとして、腰部と脚部との身体特徴即ち、人体の脚部がやや前傾状態であること又、臀溝部と臀部の位置関係に顕著な相違がみられること、更に人間の主要な運動は前傾する運動が主で、そり返る運動は通常ほとんどないこと等々を考慮せず、しかも、両部分が全く運動機能が異質であることを考慮することなく腰部と脚部の上・下一体続きの布で構成し、縦の切替えのみによつてデザイン処理したり、あるいは上・下一体続きの布を用いたままで横に編み組織や糸の伸縮度を変化せしめることにより、臀部全体にかかる力をその凹凸に関係なく一体的に調整しているのが通例であり、運動機能に対処するには同製品の構成素材である編地等の伸縮性布のストレツチ性によつてのみ対処している上に、臀部を全体にその凹凸に無関係に一体的に圧迫しており、臀部の2山部と谷部が同様に、同時に圧力を受ける現状で、従つて、従前提案されているガードル・パンテイストッキングのような製品特にガードルにあつては着心地が悪く、着崩れすると共にいかなる体形の身体でも適合することができず、ヒツプアツプ効果等も薄れてフアンデーシヨンの造形性と云う本来の目的においてそれを満足することができてない。」(3欄21?44行)

エ.「本発明は上記の諸点に鑑みて案出されたものであつて、その特徴とするところは、編地等の伸縮性を有する左右一対の腰部布、左右一対の脚部布並びに左右一対のヒツプ布および襠布から構成されたパンテイガードル並びにその類似品であつて、前記各腰部布の下端縁は前身頃部分において上方に深い凹状のカーブとされた横の切替線であり、各腰部布の後端縁は人体臀部稜線に沿う凸状のカーブとされた縦の切替線であり、前記各脚部布の上端縁は前身頃部分において前記腰部布の凹状カーブに対して上方に緩い凸状のカーブとされた横の切替線であり、前記各腰部布と各脚部布の凹凸状カーブは展開時において三ケ月形の空間が形成され、更に、各ヒツプ布の腰部布と対応する一側縁は前記腰部布の凸状カーブと合致する凸状のカーブとされた縦の切替線であり、各ヒツプ布の縦方向の他端縁同士が人体背柱線上で互いに接合され、各ヒツプ布の凸状カーブとされた一側縁がそれぞれ対応する腰部布の凸状カーブとされた後端縁に接合され、かつ、左右一対の腰部布の前端縁側を互いに接合して背柱線を中心に左右臀部に適合する2山の膨み部を後部に有する腰部が形成され、更に、前記腰部布の下端縁のそれぞれが対応する脚部布の上端縁にそれぞれ接合され、かつ、脚部布の前後端縁を互いに接合して左右一対の脚部が形成され、腰部布、脚部布およびヒツプ布の後部接合点のそれぞれが人体臀溝の略中央部において前方入り込み状とされ、かつ、左右脚部の全体がそれぞれ前方に傾斜した立体形状に保形されているとともに、左右一対の腰部布と脚部布の前股部および左右一対のヒツプ布と脚部片の後股部に連成する股部に襠布が接合されている点にある。
従つて、本発明によればヒツプアツプ効果が確実に達成され、しかも、身体の脚部が前傾状態である点をも充分に考慮し、加えて、太腿部の寸法問題を脚部布の大小変化を設けることによつて一挙に解消できると共に左右臀部を縦方向の切替により2山の膨み部としてあるので、これらの構成の相乗効果も手伝つて一層ヒツプアツプ効果が顕著なものとなり、無理な圧迫感も伴わず、自然の身体の動きにも無理なく即応できるフアンデーシヨン本来の目的を満足できる新しいガードル、並びにその類似品が提供できたのである。」(4欄1?43行)

オ.「第3図乃至第5図において、1はパンテイガードルの全体を示し、後部に左右対称の膨み部2を有する腰部3と、該腰部3の下方に連成されて前方傾斜状とされた左右一対の脚部4、4と、前股部と後股部を連成した股部5とからなり、全体が立体形状に保形されている。
即ち、第1図において本発明の基本的なパターンを展開して例示しており、同図において、6は腰部布、7は脚部布、8はヒツプ布、9は襠布であり、これらはそれぞれ第1図に示す形状の型紙にそつて編地等の伸縮性を有する布地をカツテイングすることにより作成され、腰部布6、脚部布7およびヒツプ布8はいずれも左右一組をもつて成立する。
前記各腰部布6の下端縁10は前身頃部分において上方に凹状の深いカーブ11とされた横の切替線であり、各腰部布6の後端縁12は人体臀部稜線に沿う凸状のカーブ15とされた縦の切替線であり、前記各脚部布7の上端縁13は前身頃部分において前記腰部布6の凹状カーブ11に対して上方へ緩い凸状のカーブ14とされた横の切替線であり、腰部布6の下端縁10の凹状カーブ11と脚部布7の上端縁13の凸状カーブ14は展開されたとき三ケ月形の空間即ち第1図鎖線Dが形成され、この部分を互いに縫着等によつて接合され、その接合線はそれぞれ人体屈折時の形態に沿つている。」(5欄2?28行)

カ.「即ち、横の切替線つまり腰部布6の下端縁10と脚部布7の上端縁13との後部接合点をそれぞれA_(1)、A_(2)とすると、このA_(1)、A_(2)点は第2図IIで示す臀溝線Bの概ね中央に位置し、この後部接合点A_(1)、A_(2)を出発点として人体屈折時に画かれる第2図で示す関節部Cに沿つて横方向に切替えられ、前身頃部分において腰部布6の下端縁10が凹状の深いカーブ11とされ、脚部布7の上端縁13が凸状の緩いカーブ14とされ、腰部布6の下端縁10におけるカーブ終点E_(1)と脚部布7の上端縁13におけるカーブ終点E_(2)を前股部で接合するようにされている。」(5欄29?40行)

キ.「即ち、ヒツプ布8の一側縁19の下端の接合点Jは前記腰部布6と脚部布7の後部接合点A_(1),A_(2)に縫着等で接合されており、各ヒツプ布8の下端縁22は他側縁21側において凹状の切欠部23とされ、該下端縁22を脚部布7の上端縁13の後部側縁24に、接合点Jを接合点A_(1),A_(2)に、接合点Iを接合点G_(2)にそれぞれ位置するように縫着等で接合することによつて、腰部布6、脚部布7およびヒツプ布8の後部接合点A_(1),A_(2),J(第5図ではQ_(1))のそれぞれが人体臀溝Bの略中央部において第5図で符号Xで示す如く前方入り込み状とされ、かつ、左右脚部4,4の全体がそれぞれ第5図の符号X’の如く前方傾斜状とされた立体形状に保持されている。」(6欄19?32行)

ク.「本発明は斯る構成を有するため、例えば第1図に示されるように展開された布帛を縫着した製品は腰部布の凹状を示す深いカーブと脚部布の凸状を示す緩いカーブが一体に縫着されると共にそれらの後部接合点A1,A2が臀溝に位置するように縫着されており、この結果第5図に示すガードルの如く脚部全体が前方にやや傾斜し、接合部Q1が前方に入り込み状となつて人体臀溝にくい込み、人体の自然な状態とよくマツチする上に、人間の主要な運動である前傾運動に程よく適応できるものである。」(7欄9?19行)

ケ.「更にこの製品は腰部布とヒツプ布は互に凸状のカーブで臀部稜線に沿つた縦方向の切替線で縫着されており、この結果背柱線Y-Yを境にして2つの同形同大の2山からなる膨み部2,2が形成され、その膨み部の下端と脚部との接合部Q_(1)が前記した通り第5図示のように前方に入り込み状として人体臀溝に位置し、かつ、脚部全体が前方に傾斜した状態で立体形状を保持するのである。従つて着用に際し、いささかの無理な圧泊力(当審:原文のママ)も生ずることなく各種身体の動きに対応でき、特に人間の主要な運動である前傾運動に程よく適応でき、着用感も快適で極めて高度な身体の補正機能を有する理想的な製品となるのである。」(7欄20?32行)

コ.「この発明は以上の通りであつて、後部における腰部布とヒツプ布並びに脚部布との三者の接合部分が、人体臀溝部の概ね中央部において対応して固定状に位置し、かつ、この接合部が従前例のものより大きく前に位置(従前例は点Q)し、脚部がやや前傾状になると共に左右臀部が2つの同形同大の2山からなる膨み部を形成するもので、これらの構成の相乗作用により、要するに立体処理されたものであるから、ヒツプアツプ効果(第5図のX方向の矢印参照)が倍加されるし、脚部が前傾状(第5図のX’向の矢印参照)の形態的な特徴をシルエツトとして出し得、これによつて、人間工学上優れており、いかなる運動姿勢にも無理なくフイツトし、力のバランスがよくなつて、着用時における脚部のずれ等、着崩れ現象を呈することがなく、立体処理しているので如何なる体形の人にでも適合できて、フアンデーシヨン本来の目的である造形性のバリエーシヨンが表現できるのである、太腿部の寸法処理についても脚部布の大小変化によつて一挙に解消できて、従前例が専ら、縦方向の切替え線、あるいは横方向における編組織の変化とその素材のストレツチ性によつて平面的にデザイン処理がなされていたものを、本発明は人体脚部の自然なやや前傾して状態に沿うと共に人体臀溝にくい込むように工夫された特殊なカツテイングによる横の切替えと更に左右臀部に適合する2山の膨み部を設けるように工夫されたカツテイングによる臀部稜線に沿つた縦方向の切替えによつて身体にマツチしたバランスを持つことができ、かつ無理な圧迫感も伴なわず、人間の主要な運動たる前傾運動に程よく適応できるものとして誠に斬新であり、フアンデーション業界では類を見ないものとしてその価値は著大である。」(7欄33?8欄23行)

サ.「なお、上記実施例では専らパンテイガードルに関して詳説しているけれども、本発明はその他パンテイストツキング、シヨーツ、パンテイ、ロングパンテイガードル等の如く、要するにヒツプ2山部のような膨出部があるものの如くパンテイガードルの類似品にも応用できるものである。」(8欄24?29行)

シ.「第1図は本発明製品の縫着前における一方の展開図、第2図I,IIは人体形態を示す概略正・背面図、第3図はこの発明製品の前方より見た斜視図、第4図は後方より見た斜視図、第5図は同側面図である。」(8欄30?35行)

ス. 第1図?第5図


セ.上記記載事項オ.及びシ.から、第3図、第4図及び第5図には、パンテイガードル1の前方より見た斜視図、後方より見た斜視図及び側面図が示されていることが理解される。そして、第3図及び第4図から、パンテイガードル1は、大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部を備えた腰部布6と、この腰部布6に接続され臀部を覆うとともに腰部布6の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有したヒツプ布8と、腰部布6とヒツプ布8の各足刳り形成部に接続され大腿部が挿通する脚部布7とを有することが把握される。また、上記記載事項オ.、キ.、ク.に照らせば、第5図から、取り付け状態で筒状の脚部布7が腰部布6に対して前方に突出する形状となることが把握される。

(2)甲14発明
上記(1)の摘記事項ア.?シ.、第1図?第5図、並びに、認定事項セ.を、技術常識を踏まえつつ整理すると、甲14には、以下の甲14発明が記載されている。

「大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳り形成部を備えた腰部布6と、この腰部布6に接続され臀部を覆うとともに前記腰部布6の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有したヒツプ布8と、前記腰部布6と前記ヒツプ布8の各足刳り形成部に接続され大腿部が挿通する脚部布7を有し、腰部布6の下端縁は人体屈曲時に画かれる関節部(C)に沿い、前記ヒツプ布8の足刳り形成部の下端縁は臀部の下端付近に位置し、前記脚部布7の上端縁13は凸状の緩いカーブ14であり、前記腰部布6の下端縁10は凹状の深いカーブ11であり、着用時に筒状の前記脚部布7が前記腰部布6に対して前方に突出する形状となるパンティガードル。」

甲14から、上記甲14発明が認定できることについて、当事者間に争いはない。(請求人要領書(4)の5-2、被請求人要領書(4)の5.(4))

2.本件発明1と甲14発明との対比
本件発明1と甲14発明とを対比する。
甲14発明の「足刳り形成部」、「腰部布6」、「ヒツプ布8」、「脚部布7」、「凸状の緩いカーブ14」及び「凹状の深いカーブ11」は、本件特許発明1の「足刳り形成部」、「前身頃」、「後身頃」、「大腿部パーツ」、「山」及び「湾曲部分」にそれぞれ相当する。
甲14発明の「パンティガードル」は、本件発明1の「下肢用衣料」と、「下肢に着用する衣料」である限りにおいて一致する。
そうすると、本件発明1と甲14発明は、以下の点で一致し、かつ相違する。

<一致点>
「大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部を備えた前身頃と、この前身頃に接続され臀部を覆うとともに前記前身頃の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有した後身頃と、前記前身頃と前記後身頃の各足刳り形成部に接続され大腿部が挿通する大腿部パーツとを有し、前記後身頃の足刳り形成部の下端縁は臀部の下端付近に位置し、筒状の前記大腿部パーツが前記前身頃に対して前方に突出する形状となることを特徴とする下肢に着用する衣料。」

<相違点4-1>
本件発明1は、「前身頃の足刳り形成部の湾曲した頂点」が、「腸骨棘点付近に位置」するものであるのに対し、甲14発明は、そもそも、「腰部布6」の「凹状の深いカーブ11」の頂点の位置が不明である点。

<相違点4-2>
本件発明1は、「大腿部パーツの山の高さ」が、「足刳り形成部の前側の湾曲深さ」よりも「低い形状」としたものであるのに対し、甲14発明は、「脚部布7」の「凸状の緩いカーブ14」の高さと、「腰部布6」の「凹状の深いカーブ11」の深さとの関係が不明である点。

<相違点4-3>
本件発明1は、「足刳り形成部の湾曲部分の幅」よりも、「山の幅」を「広く形成」したものであるのに対し、甲14発明は、「腰部布6」の「凹状の深いカーブ11」の幅と、「足刳り形成部の湾曲した形状」の幅との関係が不明である点。

<相違点4-4>
本件発明1は、「取り付け状態」で「筒状の前記大腿部パーツが前記前身頃に対して前方に突出する形状となる」ものであるのに対し、甲14発明の「筒状の前記脚部布7が前記腰部布6に対して前方に突出する形状となる」のが「取り付け状態」であるか「着用状態」であるか不明である点。

<相違点4-5>
「下肢に着用する衣料」について、本件発明1は、「下肢用衣料」であるが、甲14発明は、「パンティガードル」である点。

なお、上記一致点、相違点について、当事者間に争いはない(請求人要領書(4)の5-2.、被請求人要領書(4)の(4))

3.判断
まず、<相違点4-3>について検討する。

(1)特許法第29条第1項第3号を理由とする無効理由4について
上記<相違点4-3>は、形式的な相違点ではなく、形状及び構造についての実質的な相違点であることは明らかであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲14発明ではない。
よって、本件発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当するとはいえない。

(2)特許法第29条第2項を理由とする無効理由4について
本件発明1における上記<相違点4-3>に係る構成は、上記<相違点1-3>に係る構成と実質的に同じであるところ、<相違点1-3>に係る構成の技術的意義は、上記第5.の2.(7-2)ウ.に示したように、大腿部パーツに、周方向の伸びに対して予め「余裕」ないし「ゆとり」を設けることで、屈曲運動の際の大腿部にかかる生地の抵抗を低減させるものである。
一方、上記1.(1)の摘記から、甲14発明は、「パンテイガードル・パンテイストツキングのようなフアンデーション製品」(摘記事項ア.)に関するもので、従来のものが、「腰部と脚部との身体特徴即ち、人体の脚部がやや前傾状態であること又、臀溝部と臀部の位置関係に顕著な相違がみられること、更に人間の主要な運動は前傾する運動が主で、そり返る運動は通常ほとんどないこと等々を考慮せず、しかも、両部分が全く運動機能が異質であることを考慮することなく腰部と脚部の上・下一体続きの布で構成し、縦の切替えのみによつてデザイン処理したり、あるいは上・下一体続きの布を用いたままで横に編み組織や糸の伸縮度を変化せしめることにより、臀部全体にかかる力をその凹凸に関係なく一体的に調整しているのが通例」(摘記事項ウ.)であり、その結果、「着心地が悪く、着崩れすると共にいかなる体形の身体でも適合することができず、ヒツプアツプ効果等も薄れてフアンデーシヨンの造形性と云う本来の目的においてそれを満足することができてない。」(摘記事項ウ.)との問題があった。甲14発明は、その問題点を解決することを課題とするもので、「編地等の伸縮性を有する左右一対の腰部布、左右一対の脚部布並びに左右一対のヒツプ布および襠布から構成されたパンテイガードル並びにその類似品であつて、前記各腰部布の下端縁は前身頃部分において上方に深い凹状のカーブとされた横の切替線であり、各腰部布の後端縁は人体臀部稜線に沿う凸状のカーブとされた縦の切替線であり、前記各脚部布の上端縁は前身頃部分において前記腰部布の凹状カーブに対して上方に緩い凸状のカーブとされた横の切替線であり、前記各腰部布と各脚部布の凹凸状カーブは展開時において三ケ月形の空間が形成され、更に、各ヒツプ布の腰部布と対応する一側縁は前記腰部布の凸状カーブと合致する凸状のカーブとされた縦の切替線であり、各ヒツプ布の縦方向の他端縁同士が人体背柱線上で互いに接合され、各ヒツプ布の凸状カーブとされた一側縁がそれぞれ対応する腰部布の凸状カーブとされた後端縁に接合され、かつ、左右一対の腰部布の前端縁側を互いに接合して背柱線を中心に左右臀部に適合する2山の膨み部を後部に有する腰部が形成され、更に、前記腰部布の下端縁のそれぞれが対応する脚部布の上端縁にそれぞれ接合され、かつ、脚部布の前後端縁を互いに接合して左右一対の脚部が形成され、腰部布、脚部布およびヒツプ布の後部接合点のそれぞれが人体臀溝の略中央部において前方入り込み状とされ、かつ、左右脚部の全体がそれぞれ前方に傾斜した立体形状に保形されているとともに、左右一対の腰部布と脚部布の前股部および左右一対のヒツプ布と脚部片の後股部に連成する股部に襠布が接合されている点」(摘記事項エ.)を特徴とするものである。そして甲14発明は、「後部における腰部布とヒツプ布並びに脚部布との三者の接合部分が、人体臀溝部の概ね中央部において対応して固定状に位置し、かつ、この接合部が従前例のものより大きく前に位置(従前例は点Q)し、脚部がやや前傾状になると共に左右臀部が2つの同形同大の2山からなる膨み部を形成するもので、これらの構成の相乗作用により、要するに立体処理されたものであるから、ヒツプアツプ効果(第5図のX方向の矢印参照)が倍加されるし、脚部が前傾状(第5図のX’向の矢印参照)の形態的な特徴をシルエツトとして出し得、これによつて、人間工学上優れており、いかなる運動姿勢にも無理なくフイツトし、力のバランスがよくなつて、着用時における脚部のずれ等、着崩れ現象を呈することがなく、立体処理しているので如何なる体形の人にでも適合できて、フアンデーシヨン本来の目的である造形性のバリエーシヨンが表現できる」(摘記事項コ.)との作用効果を奏するものである。
そうすると、本件発明1が、上記第5.の2.(7-2)エ.に示したように、「大腿部パーツ」についての「余裕」や「ゆとり」を持たせることで、屈曲運動の際の大腿部にかかる生地の抵抗を低減させる技術的思想と、甲14発明の「脚部がやや前傾状になると共に左右臀部が2つの同形同大の2山からなる膨み部を形成するもので、これらの構成の相乗作用により、要するに立体処理」することで「脚部が前傾状(第5図のX’向の矢印参照)の形態的な特徴をシルエツトとして出し得、これによつて、人間工学上優れており、いかなる運動姿勢にも無理なくフイツト」させることの技術的思想とは、異なる技術的思想である。
さらに、<相違点4-3>に係る技術的思想は、甲2?5、甲11?13、甲15、甲22のいずれにも記載されていないし、示唆もない。
したがって、甲14発明において、上記<相違点4-3>に係る構成を備えることが、当業者が容易になし得たものであるということはできない。
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲14発明、甲2?5事項、甲11?13事項、甲15事項、甲22事項、及び、従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。

4.小括
以上のとおりであるから、本件発明1に係る特許は、請求人が主張する無効理由4によって、無効にすることはできない。

第9.無効理由5?8についての当審の判断
本件発明2?5は、いずれも、上記第2.に示したとおり、本件発明1を、引用するものであるから、本件発明1に特定された事項の全てを包含し、かつ、限定したものである。
本件発明1は、上記第5.に示したとおり、先行発明1?3のいずれでもない。また、先行発明1?3のいずれか一つの発明、甲3、甲11?15、及び、甲22に記載された事項、並びに、従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。
さらに、本件発明1は、上記第6.?8.にそれぞれ示したとおり、甲11発明、甲13発明、及び、甲14発明のいずれでもない。また、甲11発明、甲2?5、甲12?15、及び、甲22に記載された事項、並びに、従来周知の事項にもとづいて当業者が容易に発明することができたものではない。そして、甲13発明、甲2?5、甲11、甲12、甲14、甲15、及び、甲22に記載された事項、並びに、従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。さらに、甲14発明、甲2?5、甲11?13、甲15、及び、甲22に記載された事項、並びに、従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本件発明1の特定事項の全てを包含し、かつ、限定された本件発明2?5のいずれも、先行発明1?3、甲11発明、甲13発明、及び、甲14発明のいずれでもないから、特許法第29条第1項第2号あるいは第3項に該当するとはいえない。
また、先行発明1?3、甲11発明、甲13発明、甲14発明のうちの一つの発明、甲2?5事項、甲11?15事項、甲22に記載された事項、及び、従来周知の事項から当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないとはいえない。

以上のとおりであるから、請求人が主張する無効理由5?8によっては、本件発明2?5に係る特許を無効にすることはできない。

第10.無効理由9についての当審の判断
請求人は、以下の三点について、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしていない、との無効理由9を主張している。そこで、それぞれについて検討する。

1.請求項1の「前記足刳り形成部の前側の湾曲深さ」について
請求人は、本件特許明細書段落【0020】に記載された「湾曲深さをh2とする」について、このh2が、「前側」の湾曲深さであることは、本件特許明細書及び図面に記載も示唆もない、と主張しているから、まず、「足刳り形成部の前側」について検討する。
本件発明1の、「後身頃」は、「前身頃に接続され」るものであるから、「前身頃」に形成された「足刳り形成部24」と「後身頃」により形成された「足刳り形成部25」とが連続して形成される「足刳り形成部」は、人体の前側と後側に亘って湾曲部分が存在する本件特許の図1及び2に示される形状となることは本件特許の明細書及び図面の記載から明らかである。そして、本件発明1の「前身頃」と「後身頃」は、直接接続されるから、「前身頃」が人体の後側に位置する領域を備えるか、「後身頃」が人体の前側位置する領域を備えるかのいずれかの構成をとるものと解されるところ、「身頃」の呼称として、それぞれ「前身頃」「後身頃」であるから、本件発明1における「前」や「後」の呼称は、その全ての構成が人体の前側あるいは図2の背面図に画かれた部分である後側にのみ存在するものを指す呼称ではなく、例えば、本件特許の図1及び2に記載された上記「後身頃14」のように、臀部を覆う大部分の領域は図3の背面図から看取できる人体の後側に位置するが、「前身頃12」との接続部分のように、一部分が人体の前側に位置するものであってもよいことが理解できる。そして、そのような解釈と矛盾する記載は、本件特許明細書にはない。
そうすると、本件発明1の「足刳り形成部の前側」とは、前身頃12の足刳り形成部24及び後身頃14の足刳り形成部25が連続して形成された足刳り形成部であって、図1及び2から看取できるような、その大部分が図1に画かれる人体の前側に存在するようなものであると理解できる。
そして、上記「h2」が示す深さは、図1をみると、足刳り形成部24及び25が連続して形成された足刳り形成部の深さを示すものである。
よって、本件発明1の「前記足刳り形成部の前側の湾曲深さ」は、発明の詳細な説明に記載されていない、とすることはできない。

2.請求項1の「足刳り形成部の湾曲部分の幅」について
本件発明1には、「足刳り形成部」について、「大腿部が挿通する開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部を備えた前身頃と、この前身頃に接続され臀部を覆うとともに前記前身頃の足刳り形成部に連続する足刳り形成部を有した後身頃」との記載がある。
一方、本件特許明細書には以下の記載がある。
「 大腿部パーツ18は、僅かに内側に湾曲する曲線で形成された裾部36が設けられ、裾部36の両端部から裾部36に対してほぼ直角に離れる方向に延出するほぼ直線の大腿部後側縁38が形成されている。各大腿部後側縁38間の、裾部36とは反対側の縁部には、外側になだらかに膨出する山40aが形成された足付根部40が設けられている。足付根部40は、スパッツ10を縫製したときに前身頃12の足刳り形成部24、後身頃14の足刳り形成部25,32、股部パーツ16も足刳り形成部46が連続して形成する開口部に縫い合わされるものである。足付根部40の山40aの縁部は、前身頃12の足刳り形成部24と等しい長さに形成され、足刳り形成部24に縫い合わされる部分である。ここで、足付根部40の、足刳り形成部24,25に取り付ける山40aの高さをh1とし、足刳り形成部24,25の湾曲深さをh2とすると、h1はh2よりも低い形状である。また、足付根部40の山の幅をw1とし、足刳り前部24,25の湾曲部分の幅をw2とすると、互いに縫い付けられる同じ位置間で、w1はw2よりも広い形状となっている。」(段落【0020】)
また、【図1】及び【図2】から、着用者の大腿部が挿通する開口部が「前身頃12」に形成された「足刳り形成部24」と「後身頃14」に形成された「足刳り形成部25」とが連続することによって形成されたものであり、当該連続した両者により形成された湾曲部の大部分が【図1】に示された人体の前面側に存在することが看取できる。
ここで、本件発明1の上記「開口部の湾曲した足刳りとなる足刳り形成部」との記載から、本件発明1の「足刳り」は、「足刳り形成部」により形成されたものの別称であると理解できる。また、上記1.に示したように、「足刳り形成部」における「前」「後」は、その大部分が人体の前側あるいは後側に存在することを示すものである。
そうすると、上記本件特許明細書に記載された「足刳り前部24,25」は、「足刳り形成部24」と「足刳り形成部25」が連続した湾曲部分であることが理解でき、その幅は、上記本件明細書に記載された「足刳り前部24,25の湾曲部分の幅をw2とする」の「w2」であることが理解できる。そして、そのように理解して矛盾は生じない。
よって、本件発明1の「足刳り形成部の湾曲部分の幅」は、本件特許明細書に記載されていない、ということはできない。

3.請求項3の「身体の転子点付近から腸骨棘点付近を通り股底点脇付近に至る湾曲した足刳り部分」について
「足刳り部分」の形状と「転子点」及び「腸骨棘点」との関係について、本件特許明細書及び図面には、対応する実施例についての記載として、以下の記載がある。

(1)「縫製されたスパッツ10を着用したとき、前身頃12の足刳り形成部24は、図1に示すように、股底点脇から上方に延出して足の付け根の腸骨棘点a付近を通過し、大腿部外側上方の転子点b付近の上方を通過して湾曲し、後側下向きに延出して、後身頃14の足刳り形成部32に連続する。後身頃14の足刳り形成部32は、臀部の下端部に沿って股底点付近に達している。足刳り形成部24の一番高いところは腸骨棘点a付近である。また、臀部ダーツ31の縫合線は、臀部の一番高いところよりも僅かに側方に位置して上下に通過している。」(段落【0026】)
(2)図1には、足刳り形成部25が、人体の前部において、図上、人体の最側部から図上右上方に延び、腸骨棘点aに接近した位置で、右下方へ湾曲し、そのまま、足刳り形成部24が、股底点脇へほぼ直線上に伸びることの図示がある。
(3)当該湾曲した位置は、転子点bの上方であって、かつ、腸骨棘点aよりも転子点bへの距離が遠い位置であることの図示がある。
(4)足刳り形成部25の人体最側部の位置と上記湾曲した位置のそれぞれと、転子点Bとの距離をみると、人体最側部での位置の方が、湾曲した位置よりも接近していることの図示がある。

そうすると、上記(1)の「前身頃12の足刳り形成部24は、図1に示すように、股底点脇から上方に延出して足の付け根の腸骨棘点a付近を通過し、大腿部外側上方の転子点b付近の上方を通過して湾曲し、」との記載から、足刳り形成部が湾曲した位置は、腸骨棘点aに関し、「腸骨棘点a付近」であり、転子点bに関し、「転子点b付近」ではなく、「転子点b付近」の上方であることが文言上理解できる。この理解は、上記(2)の図示と整合する。ここで、「付近」とは、「近くの場所。そのあたり。近辺。」(デジタル大辞林)であることを踏まえると、上記(4)に示した、足刳り形成部25の、湾曲した位置を「転子点b付近の上方」としたことの対比として、より近い位置である、例えば足刳り形成部25が人体最側部に位置したときの転子点bとの関係を、「転子点b付近」と呼ぶことができることは、本件特許明細書及び図面から明らかである。
そうすると、本件特許明細書及び図面には、「身体の転子点b付近から腸骨棘点a付近を通り股底点脇付近に至る湾曲した足刳り部分(24、25)」が記載されているといえるから、本件特許明細書及び図面には、「身体の転子点付近から腸骨棘点付近を通り股底点脇付近に至る湾曲した足刳り部分」が記載されている。
したがって、本件発明3は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明である。

4.小括
上記1.?3.に示したように、上記第3.1.(9)に示した請求人が主張する本件発明1あるいは3の三つの特定事項は、いずれも本件特許の発明の詳細な説明に記載された事項である。したがって、本件発明1または3、若しくは、本件発明1を引用する本件発明2、4または5は、いずれも明細書あるいは図面に記載されたものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?5の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たすものである。
したがって、請求人が主張する無効理由9によって、本件特許を無効にすることはできない。

第11.むすび
以上のとおりであるから、請求人主張の理由及び証拠方法によっては、本件発明1?5の各々に係る特許を無効にすることはできない。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-06-13 
結審通知日 2017-06-16 
審決日 2017-06-30 
出願番号 特願2007-514943(P2007-514943)
審決分類 P 1 113・ 112- Y (A41D)
P 1 113・ 537- Y (A41D)
P 1 113・ 121- Y (A41D)
P 1 113・ 113- Y (A41D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 渋谷 善弘  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 千葉 成就
久保 克彦
登録日 2008-11-07 
登録番号 特許第4213194号(P4213194)
発明の名称 下肢用衣料  
代理人 富永 夕子  
代理人 渡辺 容子  
代理人 渡辺 容子  
代理人 鈴江 正二  
代理人 金 順雅  
代理人 藤本 英二  
代理人 藤本 英二  
代理人 吉村 哲郎  
代理人 西村 幸城  
代理人 吉村 哲郎  
代理人 木村 俊之  
代理人 木村 俊之  
代理人 鈴江 正二  
代理人 金 順雅  
代理人 西村 幸城  
代理人 藤本 英夫  
代理人 藤本 英夫  
代理人 富永 夕子  

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