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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F04D
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F04D
審判 査定不服 特123条1項5号 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F04D
管理番号 1343813
審判番号 不服2015-19650  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-10-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-11-02 
確定日 2018-09-05 
事件の表示 特願2012-541139号「遠心羽根車、ターボ機械およびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年5月26日国際公開、WO2011/063333、平成25年6月27日国内公表、特表2013-527358号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2010年11月22日を国際出願日とする出願であって、平成27年6月25日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成27年11月2日に本件審判が請求されるとともに、その審判の請求と同時に手続補正がなされ、当審において平成28年12月2日付けで拒絶理由を通知したところ、平成29年3月1日付けで意見書及び誤訳訂正書が提出され、当審において平成29年6月30日付けで拒絶理由を通知したところ、平成29年9月29日付けで意見書が提出されたものである。


平成29年3月1日付け誤訳訂正書で補正された特許請求の範囲は以下のとおり。
「【請求項1】
充填材(M)が含浸された第1のファブリック要素(1A)によって構成され、複数の空気力学的ベーン(13)を形成するように配置された空気力学的ブレード(15)を備え、
前記第1のファブリック要素は、各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維を含む、
遠心羽根車。
【請求項2】
それぞれのブレード(15)に沿ってブレード(15)間を通って、隣接するベーン(13)の上壁(13S)と下壁(13I)とを交互に包囲するように構成されている第2のファブリック要素(1B)を更に備える、請求項1に記載の羽根車。
【請求項3】
円錐面を有し、前記円錐面から広がるブレードを有する、第3のファブリック要素(1C)を更に備える、請求項1または2に記載の羽根車。
【請求項4】
前記空気力学的ベーン(13)の上に配置され、実質的に遠心側板形状を有する、第4のファブリック要素(4)をさらに備える、請求項1から3のいずれかに記載の羽根車。
【請求項5】
完成した羽根車用の後部プレートを実質的に具現化するように設けられ、環状平面形状を実質的に有する、第5のファブリック要素(5)をさらに備える、請求項1から4のいずれかに記載の羽根車。
【請求項6】
前記空気力学的ベーン(13)の下に配置され、前記空気力学的ベーン(13)の外部下位面に適合されることが可能な環状形状を実質的に有する、第6のファブリック要素(6)をさらに備える、請求項1から5のいずれかに記載の羽根車。
【請求項7】
前記ターボ機械用のロータを通すために使用される軸方向穴(21C)の周囲に配置された第7のファブリック要素(7)をさらに備える、請求項1から6のいずれかに記載の羽根車。
【請求項8】
前記ベーン(13)の成形スロット(115)のコーナにおいて空間内部に取り付けられ、完成した前記羽根車のアセンブリ全体の剛性を増大させ、前記充填材のための優先的な流路をなくし、硬化中に亀裂が開始する可能性がある繊維のない充填材のみを含む領域を回避することができる、セグメント化されたファブリック要素(37)をさらに備える、請求項1から7のいずれかに記載の羽根車。
【請求項9】
作動流体の浸食を防止するために前記空気力学的ベーン(13)の各々の内側に配置された成形構成部品(19、20)をさらに備える、請求項1から8のいずれかに記載の羽根車。
【請求項10】
前記ファブリック要素(1A、1B、1C、4、5、6、7、37)が、少なくとも優先方向に沿って高異方性を有するように実質的に具現化された、複数の一方向繊維または多方向繊維によって作製されている、請求項1から9のいずれかに記載の羽根車。
【請求項11】
少なくとも、請求項1乃至10の少なくとも1項に記載されている遠心羽根車を具備するターボ機械。
【請求項12】
内面が羽根車の背面を再現するように構成されたベースプレートと、羽根車の正面を再現するように構成された内面を有する上部リングと、羽根車の空気力学的ベーンを再現する複数の空気力学的ベーン挿入物を含む環状挿入物と、を備える金型を用意するステップと、
前記金型の内側に、空気力学的ベーンの外面全体に連続している複数の繊維を含むファブリック要素を配置するステップと、
前記金型の前記ベースプレートおよび前記上部リングのうちの少なくなくとも1つの内側に作製される注入流路により前記金型の内部に充填材を注入するステップと、
を含む、ターボ機械の遠心羽根車を製造する方法。」

第2 平成29年6月30日付け当審拒絶理由
平成29年6月30日付け当審拒絶理由の概要は、次のとおりである。
「A.この出願は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない。

この出願の発明の構成が不明である。例えば、
(1)請求項1に「各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維を含む」との訳語があり、【0019】に「各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維を含む」との訳語があるが、当該記載で構成が特定できず、発明が不明確である。
ア.まず、「各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維を含む」が、下記(a)?(c)の何れを意味するものであるのか、または、何れでもない別の意味であるのか特定できない。
(a)「各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維」とは、各ベーンの始点から終点迄の長さと、空の空間の周囲(幅)で定義される面の全ての部位に連続している1本の繊維(1本の繊維が外面の全ての部位を切れ目なく包囲するのであって、ベーンの外面に1本の繊維で包囲されない部位は存在しない。)が複数本ある構成を意味する。
(b)「各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維」とは、複数本の繊維の集まりとして、「各ベーンの外面全体」に連続している繊維群(換言すると、複数本の繊維の集まりとして、各ベーンの外面の全ての部位を密に覆うもの)を意味する。
(c)「各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維」とは、例えば面が複数あるとき(例えば、上下左右の面)の全ての面にわたって連続している1本の繊維(上記(a)の様に、1本の繊維が外面の全ての部位を切れ目なく包囲する必要はない。)が複数本あるものを意味する。

イ.【発明の詳細な説明】を参照しても、【0019】以外に、「各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維を含む」構成を説明する記載は存在せず、上記(a)?(c)に対応する具体的な実施態様も記載されていない。
そうすると、請求項1記載の「各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維を含む」で特定される発明は、発明の詳細な説明の記載を参照しても不明確であり、かつ、実質的に発明の詳細な説明に記載したものであるともいえない。
また、発明の詳細な説明に、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているともいえない。
{なお、明細書の記載に用いる用語や表現で、同じ意味を表すものについて、同じ用語や表現を明細書全体を通じて統一的に使用して、記載内容相互の関係が明りょうな記載とされたい。
また、明細書の用語や表現の用法は、正しく使用して、記載内容が正しく理解出来るものとされたい。(例えば、請求項記載の発明でないものを「本発明の・・実施形態」と記載すると、請求項記載の発明を正しく理解出来ない場合がある。)
また、発明の詳細な説明に記載されている各実施形態において、請求項記載の発明特定事項を、請求項で使用した表現と異なる表現で記載した場合、両者が同じものであることを、明細書の記載を根拠として、詳細にわかりやすく説明されたい。}

ウ.明細書に添付された図面にも、請求項1の「各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維」の構成を具体的に記載したものが存在しない。
意見書で、
(a)請求項1の「ベーンの外面全体に連続している複数の繊維」で特定される構成を図示すると共に、
(b)「ベーンの外面に連続している」が、ベーンの外面「全体」には連続していない「複数の繊維」、
(c)「ベーンの外面全体に」配されているが、ベーンの外面全体には「連続」していない「複数の繊維」、
の例を図示して、請求項1の「各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維」で特定される構成がどのようなものであり、どのようなものは、それに含まれないのかを具体的にされたい。

エ.上記ア.の(a)である場合について
(ア)第2?7のファブリック要素(1B?7)の様に、ベーンの外面全体を包囲しないファブリック要素が含む各繊維は、請求項1の「各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維を含む」ものとはならないがそれでよいか。
(イ)図11A?Lに図示された様な、連続していない繊維や、繊維間に隙間がある各繊維も、「各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維を含む」ものとはならないがそれでよいか。

オ.上記ア.の(b)である場合について
(ア)第2?7のファブリック要素(1B?7)の様に、ベーンの外面全体を包囲しないファブリック要素が含む各繊維は、請求項1の「各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維を含む」ものとはならないがそれでよいか。
(イ)平成29年3月1日付け意見書の「複数本の繊維の集まりが連続していることを意味するものではありません。」との主張は、この定義とは整合しないがそれでよいか。

カ.上記ア.の(c)である場合について
(ア)第2?7のファブリック要素(1B?7)の様に、ベーンの外面全体を包囲しないファブリック要素が含む各繊維は、請求項1の「各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維を含む」ものとはならないがそれでよいか。
(イ)図11A、Bに図示された様な、連続していない繊維は「各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維」とはならないがそれでよいか。
(ウ)例えば、全ての面にわたって連続している繊維が複数本存在するとしても、広い外面に対して、極少数である場合は、「【0019】・・それにより、これらの位置で発生する機械的応力に対して高い耐性を提供する。」が、現実的になされるか疑問である。
(エ)請求項には「面が複数ある」ことも記載されておらず、「外面全体」を定義する為の記載も十分でない。
(オ)平成29年3月1日付け意見書の「上記記載は、ベーンの外周を切れ目なく包囲する繊維が複数存在することを意味し」との説明は、この定義とは整合しないがそれでよいか。

キ.上記ア.の「何れでもない別の意味である」である場合について
(ア)請求項1の「各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維を含む」で特定される構成は、上記ア.の(a)?(c)である場合よりもさらに不明確であって、請求項1記載の「各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維を含む」との表現で、意図する構成が明確に記載されたものとはいえない。
請求項、及び発明の詳細な説明の両方の記載において、明確に記載されたい。

(2)請求項12記載の「空気力学的ベーンの外面全体に連続している複数の繊維を含むファブリック要素」についても、上記(1)と同様に不明確である。

(3)請求項2、3に「・・を更に備える・・」と、請求項4?7、9に「・・をさらに備える・・」との訳語があるが、「更に備える」は、後者に加えて前者を備えることを表す日本語であるので、仮に、それらの請求項記載の発明が、「請求項1に記載の羽根車」(すなわち、「第1のファブリック要素(1A)によって構成され・・た空気力学的ブレード(15)を備え」た遠心羽根車。)等を備えないものも含むのであれば、当該記載で特定される構成が不明確である。

B.この出願は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項が、下記第1の点で国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内にないから、特許法第49条第6号に該当する(同法第184条の18参照)。

平成29年3月1日付け誤訳訂正書で補正された本願の請求項1に「各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維を含む」と記載され、平成29年3月1日付け誤訳訂正書で補正された【0019】にも「各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維を含む」と記載されている。
そして、平成29年3月1日付け意見書において、「『各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維』との・・・記載は、ベーンの外周を切れ目なく包囲する繊維が複数存在することを意味し、複数本の繊維の集まりが連続していることを意味するものではありません。」と説明している。
しかし、ベーンの外周を切れ目なく包囲する繊維が複数存在すること(前記(a)の1本の繊維が外面の全ての部位を切れ目なく包囲するのであって、ベーンの外面に1本の繊維で包囲されない部位は存在しないもの)の意味である「各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維を含む」ことは、国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面(以下、「国際出願当初明細書等」という。)に記載されておらず、かつ、国際出願当初明細書等の記載から自明な事項でもない。したがって、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項は、国際出願当初明細書等に記載した事項の範囲内のものではない。
[平成29年3月1日付け意見書によると、請求項1に「各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維を含む」との訳語は、ベーンの外周を切れ目なく包囲する繊維が複数存在すること(前記(a)の1本の繊維が外面の全ての部位を切れ目なく包囲するのであって、ベーンの外面に1本の繊維で包囲されない部位は存在しないもの)を意味することとなる。しかし、意見書の主張の意味の「各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維を含む」は、国際出願当初明細書等に記載も示唆もされていない。
本願翻訳文段落0019に対応する国際出願当初明細書の段落018には「The fabric comprises fibers that are advantageously and preferably continuous around the entire internal surface of each vane thereby providing a high resistance to mechanical stresses generated at these locations.」と記載されているのであり、ベーンの外周を切れ目なく包囲する繊維が複数存在すること(前記(a)の1本の繊維が外面の全ての部位を切れ目なく包囲するのであって、ベーンの外面に1本の繊維で包囲されない部位は存在しないもの)の意味である「各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維を含む」ことは記載されていないと解される。このことは、「本発明の種々の実施形態で用いられる複数のファイバのうちの1つを示す図である。」として記載された、図11A?Lに例示されたファイバの各繊維やメッシュの間に隙間が存在し、繊維が図示された面全体を切れ目なく覆っていない事とも整合する。]

第3 当審の判断
1.特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号、第2号について
請求項1に「各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維を含む」と記載されているが、単一の繊維がベーンの外面全体に連続しているものが、複数本あるのか、複数の繊維からなるものがベーンの外面全体に連続しているのか、何れでもない別の意味であるのか、下記の如く、発明の詳細な説明を参照しても構成を特定できないため、構成が不明確であり、発明の詳細な説明に記載した発明といえない。
また、発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に記載されたものでない。

「繊維」とは、「一般に、細い糸状の物質。多くは、織物や紙などの原料となる。」[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]」の意味であり、「連続」とは、「つらなりつづくこと。つらねつづけること。」[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]」の意味であるので、「ベーンの外面全体に連続している複数の繊維」とは、ベーンの外面全体に連続している繊維(糸状の物質)が、複数あることを意味する場合や、複数の繊維(複数の糸状の物質)が、ベーンの外面全体に連続していることを意味する場合が想定されるものの、それらの何れか、若しくは、何れでもない別の構成であるのか、請求項の記載に基づいて特定することができない。
発明の詳細な説明において、【0019】に「ファブリックは、有利にはかつ好ましくは各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維を含み」との記載が存在するのみであり、また、繊維の形状に関して実施例である図11A?Cに「連続繊維R2」「粒子繊維R3」「不連続繊維R4」と示されているが、連続繊維R2、粒子繊維R3、不連続繊維R4いずれも、繊維が途切れていてベーンの外面全体に連続しておらず、実施例である図11D?Iも繊維要素の一部分が記載されているだけであって、ベーンの外面全体に繊維がどの様に配置されるかは記載されておらず、また、図1?10は、羽根車、金型、金型用の構成部品、他の構成部品、繊維要素を示す図であって、個々の繊維の構成をあらわすものでないから、発明の詳細な説明、及び図面を参照しても、何処にも、ベーンの外面全体に繊維(糸状の物質)が、どの様に配置されているかを示す具体的な記載は無い。
「各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維」が、複数の繊維(複数の糸状の物質)が、ベーンの外面全体に連続していることを意味するかについては、発明の詳細な説明、及び図面を参照しても、請求項1の「各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維」が、複数の繊維(複数の糸状の物質)が、ベーンの外面全体に連続していることは記載も示唆も無く、しかも、平成29年3月1日付け意見書(2)で「ベーンの外周を切れ目なく包囲する繊維が複数存在することを意味し、複数本の繊維の集まりが連続していることを意味するものではありません。」と、請求人自ら否定しており、「各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維」が、複数の繊維(複数の糸状の物質)がベーンの外面全体に連続していることを意味する記載は存在せず、具体的な実施態様も記載されていないので、「各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維」を、複数の繊維(複数の糸状の物質)が、ベーンの外面全体に連続していることを意味すると解することもできない。
そうすると、発明の詳細な説明を参照しても、請求項1の「各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維を含む」がどのような構成か特定できないので、請求項1の「各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維を含む」は、発明の詳細な説明の記載を参照しても明確でなく、発明の詳細な説明に記載した発明ともいえない。
よって、本願請求項1に係る発明、及び本願請求項1を引用する本願請求項2?11に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、また明確でないので、特許法第36条第6項第1、2号に規定する要件を満たしていない。
また、本願発明の詳細な説明の記載は、発明を当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

請求人は、平成29年9月29日付けの意見書で「平成29年3月1日提出の意見書で述べたとおり、『各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維』との特徴については、ベーンの外周を切れ目なく包囲する繊維が複数存在することを意味します。」旨主張しているが、上記の様に、発明の詳細な説明の記載を参酌しても、ベーンの外面全体に連続している繊維(糸状の物質)が、複数あることを示すと解すべき根拠は見出せず、請求人の上記主張は採用できない。

請求項12の「空気力学的ベーンの外面全体に連続している複数の繊維を含む」についても同様である。

2.特許法第49条第6号について
平成29年3月1日付け誤訳訂正書で補正された本願の請求項1に「各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維を含む」と、【0019】に「各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維を含む」と、記載されている。
当該記載が特許法第184条の4第1項の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面(以下、「国際出願当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内のものかについて検討する。
本願翻訳文段落0019に対応する国際出願当初明細書の段落018には「The fabric comprises fibers that are advantageously and preferably continuous around the entire internal surface of each vane thereby providing a high resistance to mechanical stresses generated at these locations.」(請求人訳「ファブリックは、有利にはかつ好ましくは各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維を含み、それにより、これらの位置で発生する機械的応力に対して高い耐性を提供する。」)と記載されている。
本願請求項1及び【0019】の「各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維を含む」は、「1.」記載の様にベーンの外面全体に連続している繊維(糸状の物質)が、複数あることを意味する場合や、複数の繊維(複数の糸状の物質)が、ベーンの外面全体に連続していることを意味する場合が想定され、何れとも特定できないものであるが、請求人は、平成29年3月1日付け意見書(2)で「ベーンの外周を切れ目なく包囲する繊維が複数存在することを意味し、複数本の繊維の集まりが連続していることを意味するものではありません。」旨主張し、同年9月29日付けの意見書でも一貫した主張を行っているので、仮に、本願請求項1及び【0019】の「各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維を含む」を請求人の主張する意味のものとして検討する。
上記国際出願当初明細書の段落018の記載は、単一の繊維がベーンの外面全体に連続しているものが、複数本あるのか、複数の繊維からなるものがベーンの外面全体に連続しているのか、当該記載に基づいて、特定することができないものである。
さらに、繊維の形状に関して実施例である図11A?Cに「連続繊維R2」「粒子繊維R3」「不連続繊維R4」と示されているが、連続繊維R2、粒子繊維R3、不連続繊維R4いずれも、ベーンの外面全体に連続することなく途切れており、同じく実施例である図11D?Iも繊維要素の一部分が記載されているだけであって、そのメッシュR5?7としても、ベーンの外面全体に連続している繊維(糸状の物質)は記載しておらず、図1?10は、羽根車、金型、金型用の構成部品、他の構成部品、繊維要素を示す図であって、個々の繊維の構成をあらわすものでなく、国際出願当初明細書等の何処にも、ベーンの外面全体に連続している繊維(糸状の物質)が、複数あることを示す具体的な記載は存在しない。
(4)そうすると、平成29年3月1日付け誤訳訂正書で補正された本願の請求項1及び【0019】の(請求人主張の意味の)「各ベーンの外面全体に連続している複数の繊維を含む」は、国際出願当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものではなく、国際出願当初明細書等に記載した事項の範囲内にないので、特許法第49条第6号の規定に該当するものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願請求項1、12に係る発明、及び本願請求項1を引用する本願請求項2?11に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、また明確でないので、特許法第36条第6項第1、2号に規定する要件を満たしていない。
また、本願発明の詳細な説明の記載は、発明を当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
また、特許出願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲に記載された事項が、国際出願当初明細書等に記載した事項の範囲内にないので、特許法第49条第1項第6号に該当する。
そうすると、本願は拒絶すべきであるとした原査定は維持すべきである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-03-30 
結審通知日 2018-04-03 
審決日 2018-04-16 
出願番号 特願2012-541139(P2012-541139)
審決分類 P 1 8・ 54- WZ (F04D)
P 1 8・ 537- WZ (F04D)
P 1 8・ 536- WZ (F04D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松浦 久夫  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 中川 真一
藤井 昇
発明の名称 遠心羽根車、ターボ機械およびその製造方法  
代理人 田中 拓人  
代理人 小倉 博  
代理人 黒川 俊久  
代理人 荒川 聡志  

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