ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A61K |
---|---|
管理番号 | 1343848 |
異議申立番号 | 異議2017-700245 |
総通号数 | 226 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-10-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-03-09 |
確定日 | 2018-07-09 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6083734号発明「リバスチグミンまたはその誘導体を投与するための経皮治療システム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6083734号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?10、12?14、16〕、15について訂正することを認める。 特許第6083734号の請求項1ないし16に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6083734号の請求項1ないし16に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2010年12月14日(パリ条約による優先権主張 2009年12月22日、2010年2月25日、いずれも欧州特許庁(EP))を国際出願日とするものであって、平成29年2月3日に特許権の設定登録がされ、平成29年2月22日に特許公報が発行された。 その後、その特許について、平成29年3月9日に特許異議申立人土屋篤志(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成29年10月30日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年1月31日に被請求人からの意見書提出及び訂正請求があったものである。 なお、特許異議申立人に対して、平成30年1月31日付け訂正請求に対する意見書を提出する機会を与えたが、特許異議申立人から意見書は提出されなかった。 第2 平成30年1月31日付け訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)について 1.訂正の内容 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、 「a)被覆層、 b)有効成分を含有するポリマーマトリックスを含む、前記被覆層上に設けられたリザーバー、 c)コンタクト型接着剤を含む、前記リザーバー上に設けられた接着層、および d)前記接着層上に設けられた剥離層 を含み、前記有効成分がリバスチグミンまたはその生理学的に許容される塩、水和物もしくは溶媒和物であり、前記リザーバーのポリマーマトリックスがヒドロキシル基とカルボキシル基をいずれも含有しないことを特徴とする、有効成分を経皮投与するための経皮治療システムであって、該経皮治療システムが、酸化防止剤を含有せず、且つ、 前記ポリマーマトリックスが、ポリアクリル酸エステル、アクリル酸エステル-酢酸ビニル共重合体、ポリイソブチレン、スチレン-ブタジエン共重合体およびこれらの混合物からなる群より選択される少なくとも1種のポリマーおよび/またはコポリマーを含有する、経皮治療システム。」と記載されているのを、 「a)被覆層、 b)有効成分を含有するポリマーマトリックスを含む、前記被覆層上に設けられたリザーバー、 c)コンタクト型接着剤を含む、前記リザーバー上に設けられた接着層、および d)前記接着層上に設けられた剥離層 を含み、前記有効成分がリバスチグミンまたはその生理学的に許容される塩、水和物もしくは溶媒和物であり、前記リザーバーのポリマーマトリックスがヒドロキシル基とカルボキシル基をいずれも含有しないことを特徴とする、有効成分を経皮投与するための経皮治療システムであって、該経皮治療システムが、酸化防止剤を含有せず、且つ、 前記ポリマーマトリックスが、ポリアクリル酸エステル、アクリル酸エステル-酢酸ビニル共重合体、ポリイソブチレン、スチレン-ブタジエン共重合体およびこれらの混合物からなる群より選択される少なくとも1種のポリマーおよび/またはコポリマーを含有し、前記接着層が、遊離のヒドロキシル基または遊離のカルボキシル基を有するポリマーまたはコポリマーを含有しない、経皮治療システム。」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項15に、 「ポリアクリル酸エステル、アクリル酸エステル-酢酸ビニル共重合体、ポリイソブチレンおよびスチレン-ブタジエン共重合体からなる群より選択される、遊離のヒドロキシル基と遊離のカルボキシル基をいずれも含有しないポリマーまたはコポリマーにリバスチグミンを内包することを特徴とする、経皮治療システム中の有効成分リバスチグミンを安定化する、および/または経皮治療システム中の有効成分リバスチグミンの分解を抑制する方法。」と記載されているのを、 「a)被覆層、 b)有効成分を含有するポリマーマトリックスを含む、前記被覆層上に設けられたリザーバー、 c)コンタクト型接着剤を含み、遊離のヒドロキシル基または遊離のカルボキシル基を有するポリマーまたはコポリマーを含有しない、前記リザーバー上に設けられた接着層、および d)前記接着層上に設けられた剥離層 を含む経皮治療システム中の有効成分リバスチグミンを安定化する、および/または経皮治療システム中の有効成分リバスチグミンの分解を抑制する方法であり、 ポリアクリル酸エステル、アクリル酸エステル-酢酸ビニル共重合体、ポリイソブチレンおよびスチレン-ブタジエン共重合体からなる群より選択される、遊離のヒドロキシル基と遊離のカルボキシル基をいずれも含有しないポリマーまたはコポリマーにリバスチグミンを内包することを特徴とする、方法。」に訂正する。 2.訂正の目的の適否、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び新規事項の有無 (2-1)一群の請求項について 訂正事項1に係る訂正前の請求項2?10、12?14、16は、下記に示すように、いずれも訂正前の請求項1を直接または間接的に引用するものである。 請求項2は請求項1を、請求項3は請求項1または2を引用し、請求項4は請求項3を引用し、請求項5は請求項1?4のいずれかを引用し、請求項6は請求項1?5のいずれかを引用し、請求項7は請求項6を引用し、請求項8は請求項6または7を引用し、請求項9は請求項3?8のいずれかを引用し、請求項10は請求項3?9のいずれかを引用している。また、請求項12は請求項1?11のいずれかを引用し、請求項13は請求項12を引用し、請求項14は請求項1を引用し、請求項16は請求項1?11のいずれかを引用している。 このように、訂正前の請求項2?10、12?14、16は、訂正事項1により訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。 したがって、訂正前の請求項1?10、12?14、16は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 (2-2)訂正事項1について a.訂正の目的 訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明における経皮治療システムの接着層を「遊離のヒドロキシル基または遊離のカルボキシル基を有するポリマーまたはコポリマーを含有しない」ものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 b.実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 上記a.で説示したように、訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明の経皮治療システムにおける接着層を限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 c.願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 願書に添付した明細書の段落【0038】には、「ある特別な実施形態においては、接着層も、遊離のヒドロキシル基または遊離のカルボキシル基を有するポリマーまたはコポリマーを本質的に含有しない。接着層は、遊離のヒドロキシル基と遊離のカルボキシル基をいずれも含有しないことが好ましく、」という記載があるので、願書に添付した明細書には、経皮治療システムの接着層が「遊離のヒドロキシル基または遊離のカルボキシル基を有するポリマーまたはコポリマーを含有しない」ものであることが、開示されているといえる。 よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 (2-3)訂正事項2について a.訂正の目的 訂正事項2は、訂正前の請求項15に係る発明における経皮治療システムを、 「a)被覆層、 b)有効成分を含有するポリマーマトリックスを含む、前記被覆層上に設けられたリザーバー、 c)コンタクト型接着剤を含み、遊離のヒドロキシル基または遊離のカルボキシル基を有するポリマーまたはコポリマーを含有しない、前記リザーバー上に設けられた接着層、および d)前記接着層上に設けられた剥離層 を含む経皮治療システム」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 b.実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 上記a.で説示したように、訂正事項2は、訂正前の請求項15に係る発明における経皮治療システムを限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正には該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。 c.願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 願書に添付した明細書の段落【0020】には、「本発明の第2の態様は、リバスチグミンを投与するためのTTSであって、 a)被覆層、 b)有効成分を内包したポリマーマトリックスを含む、前記被覆層上に設けられたリザーバー、 c)コンタクト型接着剤を含む、前記リザーバー上に設けられた接着層、および d)前記接着層上に設けられた剥離層 を含み、」という記載(当合議体による(注):「TTS」は「経皮治療システム」の略語である。)という記載があり、また、願書に添付した明細書の段落【0038】には、「ある特別な実施形態においては、接着層も、遊離のヒドロキシル基または遊離のカルボキシル基を有するポリマーまたはコポリマーを本質的に含有しない。接着層は、遊離のヒドロキシル基と遊離のカルボキシル基をいずれも含有しないことが好ましく、」という記載があるので、願書に添付した明細書には、経皮治療システムが、「a)被覆層、b)有効成分を含有するポリマーマトリックスを含む、前記被覆層上に設けられたリザーバー、c)コンタクト型接着剤を含み、遊離のヒドロキシル基または遊離のカルボキシル基を有するポリマーまたはコポリマーを含有しない、前記リザーバー上に設けられた接着層、およびd)前記接着層上に設けられた剥離層を含む経皮治療システム」であることが、開示されているといえる。 よって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。 (3)したがって、訂正事項1及び2に係る訂正は、同法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?10、12?14、16〕、15について訂正することを認める。 第3 本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲における請求項1?16に係る発明 上記「第2」のように本件訂正請求が認められたので、本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲における請求項1?16に係る発明は、平成30年1月31日付け訂正請求書に添付して提出された訂正特許請求の範囲における請求項1?16に記載された事項によって特定される、次のとおりのものと認める。 「【請求項1】 a)被覆層、 b)有効成分を含有するポリマーマトリックスを含む、前記被覆層上に設けられたリザーバー、 c)コンタクト型接着剤を含む、前記リザーバー上に設けられた接着層、および d)前記接着層上に設けられた剥離層 を含み、前記有効成分がリバスチグミンまたはその生理学的に許容される塩、水和物もしくは溶媒和物であり、前記リザーバーのポリマーマトリックスがヒドロキシル基とカルボキシル基をいずれも含有しないことを特徴とする、有効成分を経皮投与するための経皮治療システムであって、該経皮治療システムが、酸化防止剤を含有せず、且つ、 前記ポリマーマトリックスが、ポリアクリル酸エステル、アクリル酸エステル-酢酸ビニル共重合体、ポリイソブチレン、スチレン-ブタジエン共重合体およびこれらの混合物からなる群より選択される少なくとも1種のポリマーおよび/またはコポリマーを含有し、前記接着層が、遊離のヒドロキシル基または遊離のカルボキシル基を有するポリマーまたはコポリマーを含有しない、経皮治療システム。 【請求項2】 前記リザーバーが、その全重量に対して20?30重量%の有効成分および70?80重量%のポリマーマトリックスを含有する、請求項1に記載の経皮治療システム。 【請求項3】 前記接着層が、ゲル化剤および皮膚軟化剤をさらに含有する、請求項1または2に記載の経皮治療システム。 【請求項4】 前記接着層が、その全重量に対して、60.0?74.9重量%のコンタクト型接着剤、0.1?2.0重量%のゲル化剤、および25?39.9重量%の皮膚軟化剤を含有する、請求項3に記載の経皮治療システム。 【請求項5】 前記コンタクト型接着剤がポリイソブチレンである、請求項1?4のいずれか1項に記載の経皮治療システム。 【請求項6】 前記ポリイソブチレンが、分子量の異なる2種のポリイソブチレンポリマーの混合物である、請求項1?5のいずれか1項に記載の経皮治療システム。 【請求項7】 第1のポリイソブチレンポリマーの平均分子量(M_(V))が40,000g/molであり、第2のポリイソブチレンポリマーの平均分子量(M_(V))が400,000g/molである、請求項6に記載の経皮治療システム。 【請求項8】 前記第1のポリイソブチレンポリマーと前記第2のポリイソブチレンポリマーとの重量比が4:6である、請求項6または7に記載の経皮治療システム。 【請求項9】 前記ゲル化剤であるSiO_(2)が、高分散化された形態または発熱性ケイ酸の形態で含まれる、請求項3?8のいずれか1項に記載の経皮治療システム。 【請求項10】 前記皮膚軟化剤が、パラフィン、中性油、鉱油またはこれらの混合物である、請求項3?9のいずれか1項に記載の経皮治療システム。 【請求項11】 a)被覆層、 b)前記被覆層上に設けられたリザーバーであって、その全重量に対して、20?30重量%の有効成分および70?80%のポリマーマトリックスを含有し、該ポリマーマトリックスが、ヒドロキシル基とカルボキシル基をいずれも含有しないアクリル酸エステル-酢酸ビニル共重合体から本質的に成るリザーバー、 c)二酸化ケイ素を0.1?1重量%、流動パラフィンを25?39.9重量%、および平均分子量(M_(V))が40,000g/molであるポリイソブチレンと、平均分子量(M_(V))が400,000g/molであるポリイソブチレンとの混合物を60?79.9重量%含む、前記リザーバー上に設けられた接着層、ならびに d)前記接着層上に設けられた剥離層 を含む、有効成分を経皮投与するための経皮治療システムであって、且つ、前記接着層における前記二酸化ケイ素、前記流動パラフィン、平均分子量(M_(V))が40,000g/molであるポリイソブチレンと、平均分子量(M_(V))が400,000g/molであるポリイソブチレンとの前記混合物の総和が100重量%を超えない経皮治療システム。 【請求項12】 請求項1?11のいずれか1項に記載の経皮治療システム(TTS)を製造する方法であって、 i)被覆層およびリザーバーで構成され、該リザーバーが該被覆層の皮膚側となる面に設けられるリザーバー含有部を作製する工程; ii)剥離層および接着層で構成され、該接着層が該剥離層上に設けられる接着層含有部を作製する工程;および iii)完成したTTSの横断面において前記被覆層および前記剥離層が最も外側に位置する2つの層となるように、i)およびii)で得られた構成部分を積層して結合させる工程 を含む方法。 【請求項13】 i)リザーバーを構成する組成物を、必要であれば適切な媒質を用いて溶液または分散液の状態にして、被覆層の皮膚側となる面に塗布して薄膜を形成させ、必要であれば乾燥させる工程; ii)接着層を構成する組成物を、必要であれば適切な媒質を用いて溶液または分散液の状態にして、剥離層に塗布して薄膜を形成させ、必要であれば乾燥させる工程;および iii)完成したTTSの横断面において前記被覆層および前記剥離層が最も外側に位置する2つの層となるように、i)およびii)で得られた構成部分を積層する工程 を含む、請求項12に記載の方法。 【請求項14】 請求項1に記載の経皮治療システムを製造するための、ポリアクリル酸エステル、アクリル酸エステル-酢酸ビニル共重合体、ポリイソブチレンおよびスチレン-ブタジエン共重合体からなる群より選択される、ヒドロキシル基とカルボキシル基をいずれも含有しないポリマーまたはコポリマーの使用。 【請求項15】 a)被覆層、 b)有効成分を含有するポリマーマトリックスを含む、前記被覆層上に設けられたリザーバー、 c)コンタクト型接着剤を含み、遊離のヒドロキシル基または遊離のカルボキシル基を有するポリマーまたはコポリマーを含有しない、前記リザーバー上に設けられた接着層、および d)前記接着層上に設けられた剥離層 を含む経皮治療システム中の有効成分リバスチグミンを安定化する、および/または経皮治療システム中の有効成分リバスチグミンの分解を抑制する方法であり、 ポリアクリル酸エステル、アクリル酸エステル-酢酸ビニル共重合体、ポリイソブチレンおよびスチレン-ブタジエン共重合体からなる群より選択される、遊離のヒドロキシル基と遊離のカルボキシル基をいずれも含有しないポリマーまたはコポリマーにリバスチグミンを内包することを特徴とする、方法。 【請求項16】 アルツハイマー病およびパーキンソン病の認知症を治療するための、請求項1?11のいずれか1項に記載の経皮治療システム。」 以下、本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲における請求項1?16に係る発明を、それぞれ「本件訂正発明1」?「本件訂正発明16」ともいい、これらをまとめて「本件訂正発明」ともいう。 第4 取消理由通知で通知した取消理由の概要 平成29年10月30日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。 なお、以下の取消理由では、本件訂正請求による訂正前の請求項1?16に係る発明を、それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明16」ともいい、これらをまとめて「本件特許発明」ともいう。 [取消理由(特許法第36条第6項第1号、いわゆるサポート要件)] 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。そして、本件特許がサポート要件を満たすことについては、本件特許の特許権者が証明責任を負うと解すべきである。 ここで、本件特許発明5?8及び11では、リザーバー上に設けられた接着層が含むコンタクト型接着剤がポリイソブチレンであることが特定されているのに対し、本件特許発明1?4、及び請求項1?4のいずれかを引用する本件特許発明9、10、12?16では、上記コンタクト型接着剤は特定されていない。 そこで、本件特許発明1?4、9、10、12?16における経皮治療システムにおいて、上記コンタクト型接着剤が特定されていない場合であっても本件特許発明が解決すべき課題を解決できるのか否かについて、以下に検討する。 (1)本件特許明細書には、本件特許発明が解決すべき課題について、以下の記載がある。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、リバスチグミンまたはその生理学的に許容される塩、水和物、溶媒和物もしくは誘導体を治療目的で経皮投与するためのシステムに関する。 【背景技術】 【0002】 リバスチグミンは、化学式Iで表されるフェニルカルバマートで、化合物名は(S)-N-エチル-3-[(1-ジメチルアミノ)エチル]-N-メチル-フェニル-カルバマートである。 【化1】 【0003】 リバスチグミンは、中枢神経系に作用するコリンエステラーゼ阻害薬であり、アルツハイマー病およびパーキンソン病の認知症の治療に用いられる活性物質である。 【0004】 リバスチグミンは、遊離塩基として存在し得るが、酸付加塩、水和物、溶媒和物またはその他の誘導体としても存在し得る。別段の定めがない限り、これらの誘導体も、本発明の目的における「リバスチグミン」の定義に包含されるものとする。 【0005】 リバスチグミンの好ましい投与形態として、経皮治療システム、すなわち経皮貼付剤を用いた経皮投与が挙げられる。一般に、経皮貼付剤とは、投与する活性成分を含有した粘着包帯を指す。このような粘着包帯には種々の形状や大きさのものがある。最も単純なタイプは、担体(被覆層)上に有効成分貯蔵部(リザーバー)を設けた粘着性の一枚ものである。通常、このようなタイプのリザーバーは、薬学的に許容される感圧接着剤の中に有効成分を含む形で形成されており、皮膚表面に接触すると、経皮拡散により有効成分が患者の体内へと放出される。 【0006】 より複雑なタイプの貼付剤としては、有効成分貯蔵部(リザーバー)を有し、このリザーバーと皮膚との間に配置されるさらなる接着層を備えることができる多層積層体または多層貼付剤が挙げられる。」(段落【0001】?【0006】) 「【0010】 国際公開第2007/064407(A1)号には、リバスチグミン治療における接着性、忍容性および安全性を改善することを目的としたシリコーンベースの接着層を備えるTTSが開示されている。この国際公開第2007/064407(A1)号によれば、リザーバー層が酸化防止剤を含有することは特に好ましく(7ページ、第4段落)、そのため実施例の製剤すべてに、抗酸化剤であるビタミンEが含まれている。この公開公報で使用されている市販品Duro-tak(登録商標)387-2353は、カルボキシル基を有するポリアクリル酸エステルである。この国際公開第2007/064407(A1)号では、皮膚透過性を高めるために、例えばグリセリン、脂肪酸などの種々の物質をリザーバー層にさらに含有させることが示されている(7ページ、第5段落)。通常、これらの物質には遊離のヒドロキシル基または遊離のカルボキシル基が含まれるため、リザーバー層のポリマーマトリックスにも遊離のヒドロキシル基または遊離のカルボキシル基が存在すると言える。そして、この国際公開第2007/064407(A1)号では、リバスチグミンの安定性に関して特に対策は講じておらず、具体的には、リザーバー層のポリマーマトリックスを構成するポリマーとして、リバスチグミンの分解を防ぐことができるような特定のポリマーを選択する方法について何ら教示していない。 (中略) 【0014】 米国特許第6,689,379(B1)号には、特別な接着層を備えるTTS製剤が開示されている。使用可能な有効成分としてリバスチグミンについても言及されている。この開示における有効成分層は、ヒドロキシル基を有する化合物を含有することが好ましい(請求項10を参照のこと)。そして、この米国特許第6,689,379(B1)号は、リザーバー層のポリマーマトリックスを構成するポリマーとして、リバスチグミンの分解を防ぐことができるような特定のポリマーを選択することは教示していない。 【0015】 一方、欧州特許第1 047 409号では、TTSを用いたリバスチグミン投与に伴う一般的な問題が報告されている。リバスチグミンは、特に酸素の存在下で分解する傾向が強いことが分かっている。欧州特許第1 047 409号によれば、英国特許第2203040号に開示された経皮吸収組成物中では、リバスチグミンを閉じ込めたポリマーマトリックスの形成および組成物の気密包装をもってしてもリバスチグミンの分解は起こる。欧州特許第1 047 409号では、リバスチグミンの安定性が低いという問題を、リバスチグミンの医薬組成物に酸化防止剤を加えることにより解決している。」(段落【0010】?【0015】) 「【発明が解決しようとする課題】 【0016】 従って、本発明の目的は、リバスチグミンを含有し、酸化防止剤を添加せずとも十分な安定性を示す、経皮投与に用いる治療用組成物を提供することである。」(段落【0016】) これらの記載からみて、本件特許発明が解決しようとする課題は、リバスチグミンを含有し、酸化防止剤を添加せずとも十分な安定性を示す、経皮投与に用いる治療用組成物を提供することであるといえる。 (2)本件特許明細書には、上記(1)で説示した課題を解決するための手段について、以下の記載がある。 「【課題を解決するための手段】 【0017】 驚くべきことに、リザーバーのポリマーマトリックスがヒドロキシル基とカルボキシル基をいずれも含有していなければ、経皮貼付剤中のリバスチグミンは十分な安定性を示すことが見出された。本発明は、特に、ポリマーマトリックスの構成に特別なポリマーを選択することによりリバスチグミンの分解を防ぎ、かつ/または最小限に抑えることに基づくものである。 【0018】 従って、本発明は、十分な安定性を示し、かつリバスチグミンを含有するTTSを提供するとともに、その製造方法も提供する。さらに本発明は、リバスチグミンを含有するTTSにおける、ヒドロキシル基とカルボキシル基をいずれも含有しないポリマーまたはコポリマーの使用に関し、アルツハイマー病およびパーキンソン病の認知症を治療するためのTTSにも関する。」(段落【0016】の最下行?【0018】、当合議体による(注):「TTS」は「経皮治療システム」の略語である。) 「【0032】 リザーバー 本発明のTTSのリザーバー層は、有効成分であるリバスチグミンをポリマーマトリックスに内包させた構造である。この態様におけるポリマーマトリックスの構成成分は、ヒドロキシル基とカルボキシル基をいずれも含有しないポリマーまたはコポリマーに限定される。このポリマーマトリックスを構成する、官能基を持たないポリマーまたはコポリマーの好ましい例としては、特定のポリアクリル酸エステル、アクリル酸エステル-酢酸ビニル共重合体、ポリイソブチレンおよびスチレン-ブタジエン共重合体が挙げられ、これらを単独で、または混合して使用することができる。」(段落【0032】) 「【0040】 リバスチグミンの絶対量は、様々な要因によって異なり、具体的には、使用するTSSの大きさ、単位面積当たりの重量、およびリザーバー中の有効成分濃度によって異なる。乾燥したリザーバーマトリックスの単位面積当たりの重量は、好ましくは20?100g/m^(2)の範囲、より好ましくは25?80g/m^(2)の範囲、さらに好ましくは30?70g/m^(2)の範囲である。リザーバーの厚さ(乾燥厚さ)としては、20?400μm、30?200μm、または40?100μmの範囲が挙げられる。さらに、上記の数値以外の厚さであってもよい。」(段落【0040】) 「【0041】 接着層 本発明のTTSの接着層は、コンタクト型接着剤、好ましくはポリイソブチレンからなるコンタクト型接着剤を含有する。ポリイソブチレンは硬化しない感圧性のコンタクト型接着剤であるため、長期間にわたってその接着性が維持される。好ましくは、平均分子量の異なるポリイソブチレンを混合して使用する。様々な平均分子量のポリイソブチレンが入手可能である。本願において、ポリイソブチレンに関する「平均分子量」は、いわゆる粘度平均分子量(M_(V))を意味する。粘度平均分子量(M_(V))は、20℃におけるポリイソブチレンのイソオクタン溶液の溶液粘度から算出される。 (中略) 【0050】 接着層の厚さ(乾燥厚さ)には何ら特別な制限はなく、約10?300μmの範囲、または70?140μmの範囲であってよい。接着層の絶対量としては、約10?50g/m^(2)または約20?40g/m^(2)の範囲が挙げられるが、これらに限定されない。」(段落【0041】?【0050】) 「【0072】 <実施例1> 各種製剤の製造 リバスチグミン遊離塩基を含有するTTS製剤について、4つの異なるバッチA?Dを製造した。リザーバーにおけるマトリックス形成ポリマーとして、アクリル酸エステル-酢酸ビニル共重合体を用いた。各バッチに含まれる成分の概略を表1にまとめて示す。 【0073】 【表1】 【0074】 各バッチに使用した成分の詳細は以下の通りである。 【0075】 【表2】 【0076】 製造方法 1.リザーバー層の作製 上記のアクリル酸エステル-酢酸ビニル接着剤を準備し、リバスチグミンおよび酢酸エチルを計り取る。次いで、これら2つの構成成分を十分量の酢酸エチルに加え、撹拌器を用いて混合し、延びのよい均一な塗工液を得る。【0077】 この均一な塗工液をシリコーン加工フィルム(「中間ライナー」)に薄膜状に塗布する。このマトリックス薄膜を60℃で20分、次いで80℃で5分乾燥した後、PETからなる被覆層で被覆する。 【0078】 2.接着層の作製および積層体全体の製造 上記2種のポリイソブチレン接着剤を共に計り取り、これらを混合する。次いで、撹拌しながら、ヘプタン、Klearol(登録商標)およびCab-O-Sil(登録商標)を加える。さらに撹拌を続けて、均一な塗工液を得る。 【0079】 この塗工液を剥離層(「剥離ライナー」)に薄膜状に塗布し、60℃で20分、次いで80℃で5分加熱しながら、溶媒を留去する。乾燥させた後、得られた積層体を先に作製したリザーバー層で被覆する。このとき、最初にリザーバー層の「中間ライナー」を取り除く。 【0080】 完成した積層体を打ち抜いて適当な大きさの貼付剤を得る。 【0081】 安定性試験 バッチAおよびBを安定性試験に供した。この試験の実施にあたって、打ち抜いたTTSをアルミホイルバッグに密封し、温度25℃、相対湿度60%の状態で1ヶ月、または温度40℃、相対湿度75%の状態で1ヶ月保存した。その後、リバスチグミンの分解によりどの程度不純物が生じたかをHPLCおよび紫外吸光光度法により測定した。表3に試験の結果をまとめて示す。 【0082】 【表3】 【0083】 検出された不純物それぞれの保持時間(RT)を示す。不純物の割合(%)は、対象製剤の全重量に対する割合として表す。記載する測定値の下限値、すなわち報告閾値(RL:Reporting Limit)は0.1%とした。これは、それ以下の値については測定誤差の範囲内となるためである。 【0084】 この試験の結果より、本発明のTTS製剤は十分な安定性を示すことが明らかになった。すべての製剤例において、温度40℃、相対湿度75%の状態で1ヶ月経過した時点における、RTが46分を示す不純物の割合は0.4%未満であった。」(段落【0072】?【0084】) 「【0085】 <実施例2> 各種製剤の製造 リバスチグミン遊離塩基を含有するTTS製剤について、2つの異なるバッチを製造した。リザーバーにおけるマトリックス形成ポリマーとして、アクリル酸エステル-酢酸ビニル共重合体を用いた。各バッチに含まれる成分の概略を表4に示す。 【0086】 【表4】 【0087】 各バッチに使用した成分の詳細は以下の通りである。 【0088】 【表5】 【0089】 製造方法 1.リザーバー層の作製 上記のアクリル酸エステル-酢酸ビニル接着剤を準備し、リバスチグミンおよび酢酸エチルを計り取る。次いで、これら2つの構成成分を十分量の酢酸エチルに加え、撹拌器を用いて混合し、延びのよい均一な塗工液を得る。 【0090】 この均一な塗工液をシリコーン加工フィルム(「中間ライナー」)に薄膜状に塗布する。このマトリックス薄膜を60℃で20分、次いで80℃で5分乾燥した後、PETからなる被覆層で被覆する。 【0091】 2.接着層の作製および積層体全体の製造 上記2種のポリイソブチレン接着剤を共に計り取り、これらを混合する。次いで、撹拌しながら、ヘプタン、Pionier(登録商標)7028Pまたはパラフィン油(希薄溶液)、およびCab-O-Sil(登録商標)を加える。さらに撹拌を続けて、均一な塗工液を得る。 【0092】 この塗工液を剥離層(「剥離ライナー」)に薄膜状に塗布し、60℃で20分、次いで80℃で5分加熱しながら、溶媒を留去する。乾燥させた後、得られた積層体を先に作製したリザーバー層で被覆する。このとき、最初にリザーバー層の「中間ライナー」を取り除く。 【0093】 完成した積層体を打ち抜いて適当な大きさの貼付剤を得る。 【0094】 安定性試験 バッチAおよびBを安定性試験に供した。この試験の実施にあたって、打ち抜いたTTSをアルミホイルバッグに密封し、温度25℃、相対湿度60%の状態で1ヶ月、または温度40℃、相対湿度75%の状態で1ヶ月保存した。その後、リバスチグミンの分解によりどの程度不純物が生じたかをHPLCおよび紫外吸光光度法により測定した。表6および表7に試験の結果をまとめて示す。 【0095】 【表6】 【0096】 【表7】 【0097】 不純物の割合(%)は、対象製剤中の所望の有効成分含有量に対する割合として表す。各不純物の測定下限値、すなわち報告閾値(RL)は0.1%とした。これは、それ以下の値については測定誤差の範囲内となるためである。表6および表7で報告した不純物以外の不純物に関して、報告閾値である0.1%を超えるものは存在しなかった。 【0098】 この試験の結果より、本発明のTTS製剤は十分な安定性を示すことが明らかになった。」(段落【0085】?【0098】) (3)上記(2)のように、本件特許明細書に記載のいずれの実施例においても、コンタクト型接着剤がポリイソブチレンである場合に得られた結果のみが記載されており、本件特許明細書には、上記コンタクト型接着剤がポリイソブチレンではない場合については例示されていない。 経皮治療システムの接着層はリザーバーと皮膚との間に設けられているので(段落【0006】)、リザーバーが含有するリバスチグミンは接着層中に拡散した後に患者の皮膚から体内へ吸収されることは明らかであって、例えば刊行物A:特表2002-542277号公報 (特許異議申立人 土屋 篤志による特許異議申立書の甲第1号証である。) の段落【0083】に「第1マトリックス層の液体成分(例えば、作用物質および共溶媒(co-solvent))は、拡散により、作用物質を含有していない上記マトリックス層に移動する。このプロセスは数日で完了し、完成したTTSが使用可能な状態となる。」と記載されているように、使用前の保管中に、TTS(経皮治療システム)中の作用物質(有効成分)がリザーバーから接着層に拡散した状態になることは、本件特許の出願日当時の技術常識である。 また、本件特許発明の経皮治療システムのリザーバー及び接着層の厚さ(乾燥厚さ)はそれぞれ20?400μm(段落【0040】)及び約10?300μm(段落【0050】)であり、リザーバーと接着層とは同程度の厚さを有することを考慮すると、本件特許発明の経皮治療システムでは、リザーバー中のリバスチグミンの相当量が、使用前の保管中に接着層中に拡散してコンタクト型接着剤に接した状態になるといえる。 一方、本件特許発明は、リザーバーのポリマーマトリックスがヒドロキシル基とカルボキシル基をいずれも含有しないことによってリバスチグミンの分解を防止するものであるところ(段落【0017】)、上記のとおり、リザーバー中のリバスチグミンの相当量が使用前の保管中にコンタクト型接着剤に接した状態になるのであるから、コンタクト型接着剤のポリマーがヒドロキシル基及び/またはカルボキシル基を含有する場合、当該ポリマーに接した相当量のリバスチグミンは、リザーバーのポリマーマトリックスがヒドロキシル基及び/またはカルボキシル基を含有する場合と同様に分解されやすい状態になるものと推察される。 そうすると、本件特許発明1?4、9、10、12?16の経皮治療システムにおいて、コンタクト型接着剤がポリイソブチレンではない場合(例えばヒドロキシル基及び/またはカルボキシル基を含有する場合)であっても、ポリイソブチレンである場合と同様に上記(1)で説示した課題を解決できると当業者が認識することは困難であるといえる。 このように、本件特許明細書には、本件特許発明の経皮治療システムが、リザーバーのポリマーマトリックスがヒドロキシル基とカルボキシル基をいずれも含有しないだけでなく、リザーバー層上に設けられた接着層のコンタクト型接着剤がポリイソブチレンである場合に上記(1)で説示した課題を解決できることについては実施例による裏付けと共に記載されているといえるものの、上記コンタクト型接着剤がポリイソブチレンではない場合(例えばヒドロキシル基及び/またはカルボキシル基を含有する場合)であっても上記課題を解決できることについては、記載されているとは言い難い。 (4)よって、本件特許発明1?4、9、10、12?16のうち、経皮治療システムの接着層が含むコンタクト型接着剤がポリイソブチレンではない発明については、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえないのであるから、本件特許はサポート要件を満たしていない。 第5 当合議体による判断 (1)上記「第4」で説示した取消理由(特許法第36条第6項第1号、いわゆるサポート要件)について 上記「第4(1)」で説示したように、本件訂正発明が解決すべき課題は、リバスチグミンを含有し、酸化防止剤を添加せずとも十分な安定性を示す、経皮投与に用いる治療用組成物を提供することであり、本件特許明細書には、上記課題を解決するための手段として、リザーバーのポリマーマトリックスがヒドロキシル基とカルボキシル基をいずれも含有しないことによってリバスチグミンの分解を防止することが記載されている(上記「第4(2)」で摘示した段落【0017】)。 そして、上記「第4(3)」で説示したように、本件訂正発明の経皮治療システムでは、リザーバー中のリバスチグミンの相当量が使用前の保管中に接着層中に拡散してコンタクト型接着剤に接した状態になるので、リザーバー中のリバスチグミンだけでなく、接着層中に拡散したリバスチグミンの分解も防止する必要があるといえるところ、上記「第2」及び「第3」で説示したように、本件訂正発明1?4、9、10、12?16の経皮治療システムの接着層はいずれも「遊離のヒドロキシル基または遊離のカルボキシル基を有するポリマーまたはコポリマーを含有しない」ものに限定されているので、当業者は、リザーバー中のリバスチグミンだけでなく、接着層中に拡散したリバスチグミンの分解も防止できることを理解できるといえる。 また、本件特許明細書には、接着層のコンタクト型接着剤がポリイソブチレンでない場合の実施例は記載されていないが、本件訂正発明1?4、9、10、12?16の接着層はいずれも「遊離のヒドロキシル基または遊離のカルボキシル基を有するポリマーまたはコポリマーを含有しない」ものに限定されているのであるから、当業者は、接着層のコンタクト型接着剤として、ポリイソブチレンに限らず、「遊離のヒドロキシル基または遊離のカルボキシル基を有するポリマーまたはコポリマーを含有しない」公知のコンタクト型接着剤を適宜選択して用いれば、リザーバー中のリバスチグミンだけでなく、接着層中に拡散したリバスチグミンの分解も防止できることを理解できるといえる。 以上のように、本件訂正発明1?4、9、10、12?16によって、リバスチグミンを含有し、酸化防止剤を添加せずとも十分な安定性を示す、経皮投与に用いる治療用組成物を提供するという課題を解決できることを、当業者は理解できるといえるのであるから、上記「第4」で説示した取消理由は解消されたといえる。 (2)取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由について 特許異議申立人は、申立ての根拠として、 ・本件特許の特許請求の範囲の請求項1?16に係る発明は、特許法第36条第6項第1号(いわゆるサポート要件)に違反するという取消理由(同法第113条第4号)、及び、 ・本件特許の特許請求の範囲の請求項1?16に係る発明は、甲第2号証から甲第4号証の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるという特許法第29条第2項(進歩性)の取消理由(同法第113条第2号)を主張している。 そこで、上記主張のうち、取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由について、当合議体の判断を以下に説示する。 (2-1)本件特許の特許請求の範囲の請求項5?8、11に係る発明に対する、特許法第36条第6項第1号(いわゆるサポート要件)に違反するという取消理由について 特許異議申立人は、本件特許の特許請求の範囲のうち請求項5?8、11に係る発明(それぞれ本件訂正発明5?8、11に対応する。)に対しても、上記「第4」で説示した特許法第36条第6項第1号(いわゆるサポート要件)に違反するという取消理由がある旨を主張している。 [本件訂正発明5?8について] 本件訂正発明5?8における経皮治療システムの接着層のコンタクト型接着剤は、いずれもポリイソブチレンである。また、本件訂正発明5?8はいずれも本件訂正発明1を直接的または間接的に引用しているので、上記接着層は「遊離のヒドロキシル基または遊離のカルボキシル基を有するポリマーまたはコポリマーを含有しない」ものに限定されている。 よって、本件訂正発明1?4、9、10、12?16と同様に、本件訂正発明5?8には、上記「第4」で説示した取消理由は存在せず、特許法第36条第6項第1号(いわゆるサポート要件)に違反するという取消理由(同法第113条第4号)は存在しない。 [本件訂正発明11について] 本件訂正発明11における経皮治療システムの接着層は、「二酸化ケイ素を0.1?1重量%、流動パラフィンを25?39.9重量%、および平均分子量(M_(V))が40,000g/molであるポリイソブチレンと、平均分子量(M_(V))が400,000g/molであるポリイソブチレンとの混合物を60?79.9重量%含む」ものであり、「且つ、前記接着層における前記二酸化ケイ素、前記流動パラフィン、平均分子量(M_(V))が40,000g/molであるポリイソブチレンと、平均分子量(M_(V))が400,000g/molであるポリイソブチレンとの前記混合物の総和が100重量%を超えない」ものである。 そうすると、本件訂正発明11における経皮治療システムの接着層は、流動パラフィン及び上記特定のポリイソブチレンの混合物を合わせて85%(流動パラフィンの下限値25%+ポリイソブチレンの混合物の下限値60%)から99.9%(100%-二酸化ケイ素の下限値0.1%)の範囲で含有するものであるから、上記接着層は「遊離のヒドロキシル基または遊離のカルボキシル基を有するポリマーまたはコポリマー」を本質的に含有しないものである、あるいは、仮に上記接着層が「遊離のヒドロキシル基または遊離のカルボキシル基を有するポリマーまたはコポリマー」を含有するとしても、上記「第4(1)」で説示した課題を解決できなくなるほど多くの量は含有しないものである、というように当業者は理解するといえる。 よって、本件訂正発明1?4、9、10、12?16と同様に、本件訂正発明11には、上記「第4」で説示した取消理由は存在せず、特許法第36条第6項第1号(いわゆるサポート要件)に違反するという取消理由(同法第113条第4号)は存在しない。 (2-2)本件特許の特許請求の範囲の請求項1?16に係る発明に対する、特許法第29条第2項(進歩性)の取消理由について (a)甲第2号証から甲第4号証に記載されている事項 ・甲第2号証:国際公開第2009/107478号の再公表特許公報(以下、略して「甲2」ともいう。)には、以下の事項が記載されている。 「【請求項1】 支持体と該支持体上に形成された粘着剤層とを備える貼付剤であって、 前記粘着剤層は、 ロピニロールの酸付加物と、該酸付加物の等倍モル以下の金属イオン含有脱塩剤との反応により生じせしめた、ロピニロール及び金属塩と、 水酸基及びカルボキシル基を有していない粘着基剤と、を含有する貼付剤。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】) 「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 しかしながら、本発明者らが、薬物として塩酸ロピニロールを用い、製造中もしくは製剤中において脱塩させ、ロピニロールの経皮吸収性を向上させた経皮吸収製剤の製造を試みたところ、粘着剤中にロピニロールの類縁物質が生じ製剤安定性に問題が生じることが判明した。 【0007】 そこで、本発明の目的は、ロピニロールを含有する貼付剤であって、粘着剤中におけるロピニロール類縁物質の発生が十分なレベルまで抑制された貼付剤を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明は、支持体と該支持体上に形成された粘着剤層とを備える貼付剤であって、上記粘着剤層は、(1)ロピニロールの酸付加物と、該酸付加物の等倍モル以下の金属イオン含有脱塩剤との反応により生じせしめた、ロピニロール及び金属塩と、(2)水酸基及びカルボキシル基を有していない粘着基剤と、を含有する貼付剤を提供する。」(段落【0005】の最下行?段落【0008】) 「【0020】 粘着剤層は2層以上積層されていてもよく、支持体の一方の面だけでなく両方の面に積層されていてもよい。粘着剤層が複数存在する場合は、その少なくとも一つが上記の粘着剤層3であればよい。本実施形態では、貼付剤が剥離シート4を備えていることから、貼付する際には剥離シート4をはがして使用する。 ・・・(中略)・・・ 【0022】 粘着剤層3に含まれる粘着基剤は、水酸基及びカルボキシル基を有していないものが好ましい。粘着剤層が水酸基又はカルボキシル基を有している場合は、粘着剤中におけるロピニロール類縁物質の発生を十分に抑制することができない。このような粘着基材としては、アクリル系粘着基剤、ゴム系粘着基剤、シリコーン系粘着基剤等が例示される。 ・・・(中略)・・・ 【0024】 アクリル系粘着剤としては、アクリル酸エステルと酢酸ビニルとの共重合体が好ましい。このようなアクリル系粘着剤としては、ナショナルスターチ アンド ケミカル社のDuro-TAKアクリル粘着剤シリーズのうち、水酸基及びカルボキシル基を有しないグレード(Non-Functional Group)が挙げられる。 【0025】 ゴム系粘着基剤としては、天然ゴム、合成ゴムを使用することができ、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(以下、「SIS」と略記する)、イソプレンゴム、ポリイソブチレン(以下、「PIB」と略記する)、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(以下、「SBS」と略記する)、スチレン-ブタジエンゴム(以下、「SBR」と略記する)、ポリブテン等の水酸基もカルボキシル基も有しない合成ゴムが好適に用いられる。これらの粘着基剤は、通常は粘着付与剤を添加して用いる。」(段落【0020】?【0025】) 「【0043】 本発明の貼付剤1は、上記の組成物の他、必要に応じて、粘着付与剤、可塑剤、吸収促進剤、抗酸化剤、充填剤、保存剤、紫外線吸収剤、薬物結晶析出抑制剤を含有してもよい。」(段落【0043】) ・甲第3号証:特表2008-525313号公報(以下、略して「甲3」ともいう。)には、以下の事項が記載されている。 「【請求項1】 抗痴呆薬および高分子量塩基性物質を含む医薬組成物に、高分子量酸性物質を添加する工程を含む、抗痴呆薬の安定化方法。 【請求項2】 前記抗痴呆薬と前記高分子量塩基性物質の接触により生成される抗痴呆薬の分解物を抑制し得る量の前記高分子量酸性物質を添加する、請求項1に記載の安定化方法。 【請求項3】 前記抗痴呆薬が、3級アミノ基を有する化合物である請求項1または2に記載の安定化方法。 【請求項4】 抗痴呆薬が、リバスチグミン、ガランタミン、ドネペジル、3-[1-(フェニルメチル)ピペリジン-4-イル]-1-(2,3,4,5-テトラヒドロ-1H-1-ベンズアゼピン-8-イル)-1-プロパンおよび5,7-ジヒドロ-3-[2-[1-(フェニルメチル)-4-ピペリジニル]エチル]-6H-ピロロ[4,5-f]-1,2-ベンズイソキサゾール-6-オン、ならびにそれらの薬理学的に許容される塩からなる群から選ばれる請求項1ないし3のうち何れか一項に記載の安定化方法。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】?【請求項4】) 「【0004】 一般に、生理活性を有する薬物の徐放性製剤としては、(1)薬物と徐放性基剤が、製剤中に一様に分布しているマトリックス型と、(2)生理活性薬物を含有する核粒子あるいは核錠剤の表面に徐放性コーティングを施すことにより放出制御を行う徐放性コーティング皮膜型、の2つに大別される。 【0005】 マトリックス型徐放性製剤は、薬物と徐放性基剤が均一に存在するマトリックスを有している。マトリックスは、通常、錠剤や顆粒剤としてそのまま利用できるが、さらに、遮光性コーティング皮膜等を施す場合もある。一方、徐放性コーティング皮膜型製剤としては、薬物を含む顆粒や錠剤等の核に徐放性基剤を含むコーティング被膜を施すタイプ、または、いわゆるノンパレルと言われる結晶セルロースや白糖からなる核粒子上に薬物を含む層を被覆した後、さらに徐放性コーティング被膜を施すタイプ等がある。薬物を含む層や徐放性基剤を含む被膜を複数重ねることにより、徐放性を制御する場合もある。 【0006】 しかしながら、これらの徐放性製剤は、通常の錠剤や速溶型の錠剤等では配合されていなかった徐放性基剤等の添加剤が新たに配合されるため、薬物の安定性の低下には注意しなければならない。特に、抗痴呆薬の多くは、アミノ基を有する塩基性薬物であり、一般に、アミノ基のような求核性を有する反応性が高い官能基は、カルボニル炭素、過酸化物或いは酸素等と反応して分解物を生成し易い性質を有する。」(段落【0004】?【0006】) ・甲第4号証:特表2009-517468号公報(以下、略して「甲4」ともいう。)には、以下の事項が記載されている。 「【請求項1】 a)裏打ち層、 b)1種以上の薬学的活性成分および1種以上のポリマーを含む貯蔵層、 c)シリコンポリマーおよび粘着付与剤を含む接着層 を含む、経皮吸収治療システム(TTS)。 【請求項2】 裏打ち層が活性成分不浸透性である、請求項1に記載のTTS。 【請求項3】 さらに取り外し可能な保護層を含む、請求項1または2に記載のTTS。 ・・・(中略)・・・ 【請求項9】 活性成分がタクリン、リバスチグミン、ドネペジル、ガランタミン、フィゾスチグミン、ヒューペルジンAおよびそれらの薬理学的に許容される塩から成る群から選択されることを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載のTTS。 【請求項10】 活性成分がリバスチグミンおよび酒石酸水素リバスチグミンから成る群から選択される、請求項1から6のいずれかに記載のTTS。 【請求項11】 貯蔵層が、各々樹脂と組み合わさったポリジメチルシロキサン、アクリレート、メタクリレート、ポリイソブチレン、ポリブテンおよびスチレン-イソプレン-スチレンブロックコポポリマーまたはそれらの混合物から成る群から選択されるポリマーであることを特徴とする、請求項1から10のいずれかに記載のTTS。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】?【請求項11】) 「【0001】 本発明は、裏打ち層、貯蔵層および接着層を含む経皮吸収治療システム、特異的放出プロファイルを有する経皮吸収治療システム、それらの製造および使用に関する。 【背景技術】 【0002】 経皮吸収治療システム(TTS)およびそれらの製造は、当分野で既知である。EP1047409は、リバスチグミンおよび抗酸化剤を含むTTSを開示する。GB2203040は、リバスチグミンおよび親水性ポリマーを含むTTSを開示する。 【0003】 これらのTTSは価値ある特性を有する。しかしながら、改善された特性を示すさらなるTTSの必要性が存在する。特に、コンプライアンス、接着、耐容性および/または安全性を改善するためのTTSの必要性が存在する。 【発明の開示】 【0004】 故に、改善されたコンプライアンス、接着、耐容性および/または安全性特性を有するTTSを提供することが本発明の目的である。 【0005】 相対的に大量の活性成分を有し、全投与期間にわたり安全な投与を確実にする接着力を有するTTSを提供することが、本発明のさらなる目的である。 【0006】 不適切に大きな広がりを有さずに、相対的に大量の活性成分を有するTTSを提供することが、本発明のさらなる目的である。 【0007】 活性成分の放出特性を変えずに改善された接着特性を示すTTSを提供することが、本発明のさらなる目的である。 【0008】 リバスチグミンの効果および耐容性を実質的に改善する、処置方法および制御放出製剤を提供することが、本発明のさらなる目的である。 【0009】 治療的有用性のためにリバスチグミンを投与する必要がある時間および供給源を実質的に減らす、処置方法および制御放出製剤を提供することが、本発明のさらなる目的である。 【0010】 リバスチグミン治療のコンプライアンスを実質的に改善する、処置方法および制御放出製剤を提供することが、本発明のさらなる目的である。 【0011】 許容されない副作用無しに治療的有用性を生じるために必要なリバスチグミンの血漿濃度について実質的に少ない個体間変化を有する、処置方法および制御放出製剤を提供することが、本発明のさらなる目的である。」(段落【0001】?【0011】) (b)甲第2号証を主引用例とした場合の対比・判断 上記(a)からみて、甲2には、「支持体と該支持体上に形成された粘着剤層とを備える貼付剤であって、前記粘着剤層は、ロピニロールの酸付加物と、該酸付加物の等倍モル以下の金属イオン含有脱塩剤との反応により生じせしめた、ロピニロール及び金属塩と、水酸基及びカルボキシル基を有していない粘着基剤と、剥離シートを含有する貼付剤」の発明(以下、「甲2発明」という。)が、記載されている。 そして、甲2発明における「支持体」、「粘着剤層」、「剥離シート」及び「貼付剤」は、それぞれ本件訂正発明における「被覆層」、「接着層」、「剥離層」及び「経皮治療システム」に相当するが、甲2発明の薬学的活性成分はロピニロールであって本件訂正発明の薬学的活性成分であるリバスチグミンではなく(相違点1)、甲2発明の経皮治療システムは本件訂正発明のリザーバーを有していない(相違点2)。 上記相違点1について、甲3に「抗痴呆薬の多くは、アミノ基を有する塩基性薬物であり、一般に、アミノ基のような求核性を有する反応性が高い官能基は、カルボニル炭素、過酸化物或いは酸素等と反応して分解物を生成し易い性質を有する」(甲3の段落【0006】)と記載され、さらに甲3にはアミノ基を有する抗痴呆薬であるリバスチグミンが記載されているので(甲3の【請求項4】)、甲3の記載を参酌すると、リバスチグミンが酸素等と反応して分解物を生成し易い性質を有することは本件特許の優先日当時に公知であったといえる。 しかし、甲2発明は、ロピニロールを含有する貼付剤における粘着剤中におけるロピニロール類縁物質の発生が十分なレベルまで抑制された貼付剤を提供することを目的とするものであり(甲2の段落【0006】及び【0007】)、甲2には、甲2発明の薬学的活性成分であるロピニロールを他の薬学的活性成分に変更することについての記載も示唆もないのであるから、甲2発明のロピニロールを甲3に記載のリバスチグミンに変更する動機づけがあるとはいえない。 また、上記相違点2について、甲4には、特に請求項1、3、10及び11の記載からみて、「裏打ち層、リバスチグミン、及び各々樹脂と組み合わさったポリジメチルシロキサン、アクリレート、メタクリレート、ポリイソブチレン、ポリブテンおよびスチレン-イソプレン-スチレンブロックコポリマーまたはそれらの混合物から成る群から選択される1種以上を含む貯蔵層、シリコンポリマーおよび粘着付与剤を含む接着層、さらに取り外し可能な保護層を含む、経皮吸収治療システム(TTS)。」が記載されており、甲4における「裏打ち層」、「貯蔵層」、「取り外し可能な保護層」及び「経皮吸収治療システム(TTS)」は、ぞれぞれ本件訂正発明における「被覆層」、「リザーバー」、「剥離層」及び「経皮治療システム」に相当するが、甲4の貯蔵層(リザーバー)は「ヒドロキシル基とカルボキシル基をいずれも含有しない」ポリマーを用いることを必須とするものではない。また、甲4の接着層は、本件訂正発明1?10、12?16の接着層のように「遊離のヒドロキシル基または遊離のカルボキシル基を有するポリマーまたはコポリマーを含有しない」ものに限定されたものではなく、上記(2-1)で説示した本件訂正発明11の接着層のように流動パラフィン及び特定のポリイソブチレンの混合物を合わせて85%から99.9%の範囲で含有するものでもない。 そうすると、甲2、甲3及び甲4に記載された事項から、当業者が本件訂正発明1?16を得ることを容易に想到し得たとはいえない。 (c)甲第4号証を主引用例とした場合の対比・判断 上記(a)からみて、甲4には、特に請求項1、3、10及び11の記載からみて、「裏打ち層、リバスチグミン、及び各々樹脂と組み合わさったポリジメチルシロキサン、アクリレート、メタクリレート、ポリイソブチレン、ポリブテンおよびスチレン-イソプレン-スチレンブロックコポリマーまたはそれらの混合物から成る群から選択される1種以上を含む貯蔵層、シリコンポリマーおよび粘着付与剤を含む接着層、さらに取り外し可能な保護層を含む、経皮吸収治療システム(TTS)。」の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されているところ、甲4発明の「裏打ち層」、「貯蔵層」、「取り外し可能な保護層」及び「経皮吸収治療システム(TTS)」は、それぞれ本件訂正発明の「被覆層」、「リザーバー」、「剥離層」及び「経皮治療システム」に相当する。 ここで、本件訂正発明のリザーバーのポリマーマトリックスは「ヒドロキシル基とカルボキシル基をいずれも含有しない」ことを必須とするのに対し、甲4発明の貯蔵層(リザーバー)は「ヒドロキシル基とカルボキシル基をいずれも含有しない」ポリマーを用いることを必須とするものではない。また、本件訂正発明1?10、12?16の接着層はいずれも「遊離のヒドロキシル基または遊離のカルボキシル基を有するポリマーまたはコポリマーを含有しない」ものに限定され、本件訂正発明11の接着層は流動パラフィン及び特定のポリイソブチレン混合物を合わせて85%から99.9%の範囲で含有するものであるのに対し、甲4発明の接着層はシリコンポリマーおよび粘着付与剤を含むものに特定されているのみであり、遊離のヒドロキシル基または遊離のカルボキシル基を有するポリマーまたはコポリマーの含有量については何ら特定されていない。 そして、上記「第5の(1)」で説示したように、本件訂正発明では、リバスチグミンを含有し、酸化防止剤を添加せずとも十分な安定性を示す、経皮投与に用いる治療用組成物を提供するという課題を解決するために、リザーバーのポリマーマトリックスや接着層を上記のように特定しているのに対し、甲4、甲2及び甲3には、上記課題を解決するためにリザーバーのポリマーマトリックスや接着層を上記のように特定することについて記載も示唆もされていない。 そうすると、甲4、甲2及び甲3に記載された事項から、当業者が本件訂正発明1?16を得ることを容易に想到し得たとはいえない。 (d)本件訂正発明による効果について 本件特許明細書の実施例の記載(段落【0072】?【0098】、上記「第4(2)」を参照。)からみて、本件特許明細書には、本件訂正発明によって、リバスチグミンを含有し、酸化防止剤を添加せずとも十分な安定性を示す、経皮投与に用いる治療用組成物を提供できるという効果が得られることが記載されているといえる。 そして、甲2、甲3及び甲4に記載された事項から、本件訂正発明による上記のような効果を当業者が予測し得たとはいえない。 (e)以上(a)?(d)で説示したように、本件訂正発明1?16に係る発明は、甲第2号証から甲第4号証の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件訂正発明1?16に係る発明に特許法第29条第2項(進歩性)の取消理由(同法第113条第2号)は存在しない。 第6 むすび 以上のとおり、本件訂正請求による訂正を認める。 特許異議申立人が主張する取消理由によって、本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲における請求項1?16に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に上記請求項1?16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 a)被覆層、 b)有効成分を含有するポリマーマトリックスを含む、前記被覆層上に設けられたリザーバー、 c)コンタクト型接着剤を含む、前記リザーバー上に設けられた接着層、および d)前記接着層上に設けられた剥離層 を含み、前記有効成分がリバスチグミンまたはその生理学的に許容される塩、水和物もしくは溶媒和物であり、前記リザーバーのポリマーマトリックスがヒドロキシル基とカルボキシル基をいずれも含有しないことを特徴とする、有効成分を経皮投与するための経皮治療システムであって、該経皮治療システムが、酸化防止剤を含有せず、且つ、 前記ポリマーマトリックスが、ポリアクリル酸エステル、アクリル酸エステル-酢酸ビニル共重合体、ポリイソブチレン、スチレン-ブタジエン共重合体およびこれらの混合物からなる群より選択される少なくとも1種のポリマーおよび/またはコポリマーを含有し、前記接着層が、遊離のヒドロキシル基または遊離のカルボキシル基を有するポリマーまたはコポリマーを含有しない、経皮治療システム。 【請求項2】 前記リザーバーが、その全重量に対して20?30重量%の有効成分および70?80重量%のポリマーマトリックスを含有する、請求項1に記載の経皮治療システム。 【請求項3】 前記接着層が、ゲル化剤および皮膚軟化剤をさらに含有する、請求項1または2に記載の経皮治療システム。 【請求項4】 前記接着層が、その全重量に対して、60.0?74.9重量%のコンタクト型接着剤、0.1?2.0重量%のゲル化剤、および25?39.9重量%の皮膚軟化剤を含有する、請求項3に記載の経皮治療システム。 【請求項5】 前記コンタクト型接着剤がポリイソブチレンである、請求項1?4のいずれか1項に記載の経皮治療システム。 【請求項6】 前記ポリイソブチレンが、分子量の異なる2種のポリイソブチレンポリマーの混合物である、請求項1?5のいずれか1項に記載の経皮治療システム。 【請求項7】 第1のポリイソブチレンポリマーの平均分子量(M_(V))が40,000g/molであり、第2のポリイソブチレンポリマーの平均分子量(M_(V))が400,000g/molである、請求項6に記載の経皮治療システム。 【請求項8】 前記第1のポリイソブチレンポリマーと前記第2のポリイソブチレンポリマーとの重量比が4:6である、請求項6または7に記載の経皮治療システム。 【請求項9】 前記ゲル化剤であるSiO_(2)が、高分散化された形態または発熱性ケイ酸の形態で含まれる、請求項3?8のいずれか1項に記載の経皮治療システム。 【請求項10】 前記皮膚軟化剤が、パラフィン、中性油、鉱油またはこれらの混合物である、請求項3?9のいずれか1項に記載の経皮治療システム。 【請求項11】 a)被覆層、 b)前記被覆層上に設けられたリザーバーであって、その全重量に対して、20?30重量%の有効成分および70?80%のポリマーマトリックスを含有し、該ポリマーマトリックスが、ヒドロキシル基とカルボキシル基をいずれも含有しないアクリル酸エステル-酢酸ビニル共重合体から本質的に成るリザーバー、 c)二酸化ケイ素を0.1?1重量%、流動パラフィンを25?39.9重量%、および平均分子量(M_(V))が40,000g/molであるポリイソブチレンと、平均分子量(M_(V))が400,000g/molであるポリイソブチレンとの混合物を60?79.9重量%含む、前記リザーバー上に設けられた接着層、ならびに d)前記接着層上に設けられた剥離層 を含む、有効成分を経皮投与するための経皮治療システムであって、且つ、前記接着層における前記二酸化ケイ素、前記流動パラフィン、平均分子量(M_(V))が40,000g/molであるポリイソブチレンと、平均分子量(M_(V))が400,000g/molであるポリイソブチレンとの前記混合物の総和が100重量%を超えない経皮治療システム。 【請求項12】 請求項1?11のいずれか1項に記載の経皮治療システム(TTS)を製造する方法であって、 i)被覆層およびリザーバーで構成され、該リザーバーが該被覆層の皮膚側となる面に設けられるリザーバー含有部を作製する工程; ii)剥離層および接着層で構成され、該接着層が該剥離層上に設けられる接着層含有部を作製する工程;および iii)完成したTTSの横断面において前記被覆層および前記剥離層が最も外側に位置する2つの層となるように、i)およびii)で得られた構成部分を積層して結合させる工程 を含む方法。 【請求項13】 i)リザーバーを構成する組成物を、必要であれば適切な媒質を用いて溶液または分散液の状態にして、被覆層の皮膚側となる面に塗布して薄膜を形成させ、必要であれば乾燥させる工程; ii)接着層を構成する組成物を、必要であれば適切な媒質を用いて溶液または分散液の状態にして、剥離層に塗布して薄膜を形成させ、必要であれば乾燥させる工程;および iii)完成したTTSの横断面において前記被覆層および前記剥離層が最も外側に位置する2つの層となるように、i)およびii)で得られた構成部分を積層する工程 を含む、請求項12に記載の方法。 【請求項14】 請求項1に記載の経皮治療システムを製造するための、ポリアクリル酸エステル、アクリル酸エステル-酢酸ビニル共重合体、ポリイソブチレンおよびスチレン-ブタジエン共重合体からなる群より選択される、ヒドロキシル基とカルボキシル基をいずれも含有しないポリマーまたはコポリマーの使用。 【請求項15】 a)被覆層、 b)有効成分を含有するポリマーマトリックスを含む、前記被覆層上に設けられたリザーバー、 c)コンタクト型接着剤を含み、遊離のヒドロキシル基または遊離のカルボキシル基を有するポリマーまたはコポリマーを含有しない、前記リザーバー上に設けられた接着層、および d)前記接着層上に設けられた剥離層 を含む経皮治療システム中の有効成分リバスチグミンを安定化する、および/または経皮治療システム中の有効成分リバスチグミンの分解を抑制する方法であり、 ポリアクリル酸エステル、アクリル酸エステル-酢酸ビニル共重合体、ポリイソブチレンおよびスチレン-ブタジエン共重合体からなる群より選択される、遊離のヒドロキシル基と遊離のカルボキシル基をいずれも含有しないポリマーまたはコポリマーにリバスチグミンを内包することを特徴とする、方法。 【請求項16】 アルツハイマー病およびパーキンソン病の認知症を治療するための、請求項1?11のいずれか1項に記載の経皮治療システム。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-06-28 |
出願番号 | 特願2012-545226(P2012-545226) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(A61K)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 鈴木 理文 |
特許庁審判長 |
蔵野 雅昭 |
特許庁審判官 |
安川 聡 前田 佳与子 |
登録日 | 2017-02-03 |
登録番号 | 特許第6083734号(P6083734) |
権利者 | リュイェ ファーマ アーゲー |
発明の名称 | リバスチグミンまたはその誘導体を投与するための経皮治療システム |
代理人 | 岩谷 龍 |
代理人 | 岩谷 龍 |
代理人 | 勝又 政徳 |
代理人 | 勝又 政徳 |