• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B24D
審判 全部申し立て 2項進歩性  B24D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B24D
管理番号 1343863
異議申立番号 異議2018-700040  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-10-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-01-18 
確定日 2018-07-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6165388号発明「砥粒工具」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6165388号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-9〕について訂正することを認める。 特許第6165388号の請求項1ないし6,8及び9に係る特許を維持する。 特許第6165388号の請求項7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6165388号の請求項1ないし9に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は,2016年(平成28年)12月7日(優先権主張 平成28年2月22日)を国際出願日とし,平成29年6月30日に特許権の設定登録がされ,平成30年1月18日に特許異議申立人笹川拓(以下「申立人」という。)より請求項1ないし9に対して特許異議の申立てがされ,同年3月27日付けで取消理由が通知され,同年5月24日に特許権者株式会社アライドマテリアル(以下「特許権者」という。)より意見書の提出とともに訂正請求がなされ,同年6月29日に申立人より意見書が提出された。


第2 訂正の適否
1.訂正請求の趣旨及び訂正の内容
訂正請求の趣旨は,特許第6165388号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1ないし9について訂正することを求めるものであり,具体的な訂正の内容は以下のとおりである(下線は,訂正箇所を示すために当審で付したものである。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1について,
「複数の硬質砥粒が結合材により結合された砥粒層を有する砥粒工具であって,
複数の前記硬質砥粒の各々には,被加工物と接触する作用面が形成されており,
複数の前記作用面をなだらかに接続する仮想面の面積に対する複数の前記作用面の合計の面積の比率は5%以上30%以下であり,
複数の前記硬質砥粒の最大径と最小径との比(最大径/最小径)は1.2以上10以下である,砥粒工具。」
と記載されているのを
「複数の硬質砥粒が結合材により結合された砥粒層を有するダイヤモンドロータリードレッサである砥粒工具であって,
複数の前記硬質砥粒の各々には,被加工物と接触する研削面または研磨面である作用面が形成されており,
複数の前記作用面をなだらかに接続する仮想面の面積に対する複数の前記作用面の合計の面積の比率は5%以上30%以下であり,
複数の前記硬質砥粒の最大径と最小径との比(最大径/最小径)は1.2以上10以下である,砥粒工具。」
と訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項8について,
「前記ロータリードレッサはディスクドレッサである,請求項7に記載の砥粒工具。」
と記載されているのを
「前記ダイヤモンドロータリードレッサはディスクドレッサである,請求項1に記載の砥粒工具。」
と訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項9について,
「歯車加工用砥石のツルーイングまたはドレッシングに使用される,請求項7または請求項8に記載の砥粒工具。」
と記載されているのを
「歯車加工用砥石のツルーイングまたはドレッシングに使用される,請求項1または請求項8に記載の砥粒工具。」
と訂正する。

2.訂正の目的の適否,新規事項の有無,一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張,変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は,砥粒工具がダイヤモンドロータリードレッサであることを特定し,砥粒の作用面が研削面または研磨面であること,すなわち研削された面または研磨された面であることを特定するものであるから,その訂正の目的は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」に該当する。
また,砥粒工具がダイヤモンドロータリードレッサであることは,願書に添付した明細書の段落【0010】に記載されており,砥粒の作用面が研削された面または研磨された面であることは,願書に添付した明細書の段落【0036】に記載されているから,訂正事項1に係る訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
そして,訂正事項1に係る訂正が,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は,特許請求の範囲の請求項7を削除するものであるから,その訂正の目的は,特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」に該当する。
また,訂正事項2に係る訂正が,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は,訂正事項1によって,砥粒工具がダイヤモンドロータリードレッサに特定されたことと整合するように,訂正前のロータリードレッサをダイヤモンドロータリードレッサに訂正し,訂正事項2によって,特許請求の範囲の請求項7が削除されたことと整合するように,訂正前に請求項7を引用していたものを請求項1を引用するように訂正するものであるから,その訂正の目的は,特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」に該当する。
また,訂正事項3に係る訂正が,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は,訂正事項2によって,特許請求の範囲の請求項7が削除されたことと整合するように,訂正前に請求項7又は8を引用していたものを請求項1又は8を引用するように訂正するものであるから,その訂正の目的は,特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」に該当する。
また,訂正事項3に係る訂正が,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。

(5)一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし9は,請求項2ないし9が,訂正請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから,訂正前において一群の請求項に該当する。
したがって,請求項1ないし9についての訂正請求は,一群の請求項ごとにされたものである。

3.小括
したがって,訂正請求による訂正事項1ないし4に係る訂正は,特許法第120条の5第2項ただし書第1及び3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第9項で準用する同法第126条第4ないし6項の規定に適合するので,訂正後の請求項〔1-9〕について訂正を認める。


第3 本件特許発明
上記第2のとおり,訂正請求が認容されるから,特許第6165388号の請求項1ないし9に係る発明は,訂正特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項によって特定される,次のとおりのものである(以下,各請求項に係る発明を「特許発明1」などといい,特許発明1ないし9をまとめて「本件特許発明」という。)。
「【請求項1】
複数の硬質砥粒が結合材により結合された砥粒層を有するダイヤモンドロータリードレッサである砥粒工具であって,
複数の前記硬質砥粒の各々には,被加工物と接触する研削面または研磨面である作用面が形成されており,
複数の前記作用面をなだらかに接続する仮想面の面積に対する複数の前記作用面の合計の面積の比率は5%以上30%以下であり,
複数の前記硬質砥粒の最大径と最小径との比(最大径/最小径)は1.2以上10以下である,砥粒工具。
【請求項2】
複数の前記硬質砥粒は前記砥粒層に50?1500個/cm^(2)の密度で分布している,請求項1に記載の砥粒工具。
【請求項3】
複数の前記硬質砥粒のビッカース硬度Hvは1000以上16000以下である,請求項1または請求項2に記載の砥粒工具。
【請求項4】
複数の前記硬質砥粒の粒度は91以上1001以下である,請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の砥粒工具。
【請求項5】
前記砥粒層は単層である,請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の砥粒工具。
【請求項6】
前記結合材はニッケルめっきである,請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の砥粒工具。
【請求項7】 (削除)
【請求項8】
前記ダイヤモンドロータリードレッサはディスクドレッサである,請求項1に記載の砥粒工具。
【請求項9】
歯車加工用砥石のツルーイングまたはドレッシングに使用される,請求項1または請求項8に記載の砥粒工具。」


第4 証拠
申立人及び特許権者が提出した証拠は,以下のとおりである。
(1)甲号証
甲第1号証:特開2005-279842号公報
甲第2号証:特開2002-292570号公報
甲第3号証:特開2005-161449号公報
甲第4号証:平河喜美男,「JIS ダイヤモンド/CBN工具-ダイヤモンド又はCBNと(砥)粒の粒度 JIS B 4130:1998」,日本規格協会,平成10年9月30日,第1ないし10ページ
甲第5号証:スペクトリス株式会社マルバーン事業部,「sysmex フロー式粒子像分析装置 FPIA-3000/FPIA-3000S」,Malvern Instruments Ltd.,第2ないし7ページ
甲第6号証:申立人,「FPIA-3000S」という表題の測定結果,平成30年1月18日
甲第7号証:申立人,「円相当径測定方法」という表題の測定結果,平成30年1月18日
甲第8号証:井上孝二,「高能率研削用ビトリファイドCBNホイールのドレッシング条件と研削性能」,精密工学会誌第58巻第4号,平成4年4月5日,第20ないし24ページ
甲第9号証:趙学暁ほか3名,「レジンボンドCBNホイールのツルーイングに関する研究(第1報)」,日本機械学会論文集C編第62巻601号,平成8年9月25日,第347ないし352ページ
甲第10号証:高嶋和彦ほか4名,「CBNホイールによる超高速鏡面研削(第7報)」,2005年度精密工学会春季大会学術講演会講演論文集,平成17年3月1日,第893及び894ページ
甲第11号証:林偉民ほか3名,「鏡面研磨過程におけるポリウレタンポリシャの表面状態の変化」,精密工学会誌第65巻第8号,平成11年8月5日,第1147ないし1152ページ
甲第12号証:特許第4215570号公報
甲第13号証:特許第2679178号公報
甲第14号証:特開平7-237128号公報
甲第15号証:特許第4354482号公報
甲第16号証:特開2003-89064号公報
甲第17号証:特開平6-114739号公報
甲第18号証:特開2003-200352号公報
甲第19号証:特開2003-260663号公報
甲第20号証:再公表特許WO2007/000831号公報
甲第21号証:申立人,硬質砥粒の抽出工程を説明するための図,平成30年6月27日
(以下,各甲号証を「甲1」などという。また,甲6,7及び21は原本,その他は写しである。)

(2)乙号証
乙第1号証:特許権者,砥粒工具の製造工程を説明するための図,平成30年4月26日
(以下,乙第1号証を「乙1」という。)


第4 取消理由通知に記載した取消理由
平成30年3月27日付けで通知した取消理由の概要は,次のとおりである。
1.取消理由1
本件特許は,特許請求の範囲の請求項1において,硬質砥粒の最大径と最小径との比が10倍までを含むことについて,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず,請求項1を引用する請求項2ないし9についても同様であるから,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
よって,請求項1ないし9に係る特許は,特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

2.取消理由2
本件特許は,請求項1において,硬質砥粒の最大径と最小径との比が10倍までを含むことについて,発明の詳細な説明に当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されておらず,請求項1を引用する請求項2ないし9についても同様であるから,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
よって,請求項1ないし9に係る特許は,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

3.取消理由3
特許発明1は,甲1記載の発明並びに甲1及び甲4ないし甲7記載の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
特許発明2は,甲1記載の発明並びに甲1及び甲4ないし甲7記載の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
特許発明3は,甲1記載の発明,甲1及び甲4ないし甲7記載の事項並びに甲4に示す周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
特許発明4は,甲1記載の発明,甲1及び甲4ないし甲7記載の事項並びに甲8ないし甲19に示す周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであ。
特許発明5は,甲1記載の発明並びに甲1及び甲4ないし甲7記載の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
特許発明6は,甲1記載の発明並びに甲1及び甲4ないし甲7記載の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
特許発明7は,甲1記載の発明,甲1及び甲4ないし甲7記載の事項並びに甲10,甲16及び甲20に示す周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
特許発明8は,甲1記載の発明,甲1及び甲4ないし甲7記載の事項並びに甲10,甲16及び甲20に示す周知の技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
特許発明9は,甲1記載の発明,甲1,甲4ないし甲7及び甲20記載の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
よって,請求項1ないし9に係る特許は,特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。


第5 当審の判断
1.取消理由1について
(1)特許請求の範囲の請求項1には「複数の前記硬質砥粒の最大径と最小径との比(最大径/最小径)は1.2以上10以下である」と記載されているから,砥粒の最大径と最小径の比が10の場合には,最小の砥粒の径に対して,10倍の径の砥粒が含まれることになるが,特許明細書の段落【0033】には,「複数の硬質砥粒102の最大径と最小径との比(最大径/最小径)は1.2以上10以下であることが好ましい。ここで,硬質砥粒102は作用面119を有するものに限定される。」との記載があるから,最小の砥粒と,最大の砥粒のいずれもが作用面を有すること,すなわち,最小と最大の両方の砥粒が被加工物と接触しなければならないこととなる。

(2)仮に,砥粒工具の台金の表面に接するように,最小の砥粒と最大の砥粒が設けられるとすれば,最大の砥粒の高さは,最終の砥粒の10倍程度高いことになるから,最大の砥粒の上端が被加工物と接触する場合には,1/10の高さしかない最小の砥粒は被加工物と接触することができず,作用面を有しないことになり,請求項1において,最大径と最小径の比が10倍までを含むことについて,発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないこととなる。

(3)これに対して,特許権者は,特許明細書の段落【0033】に「作用面119は,硬質砥粒102の表面を研削または研磨(硬質砥粒102の高さを揃えること)することで得られる。」との記載があり,乙1の図1のように,砥粒工具の台金の表面に接して最小の砥粒と最大の砥粒を設けても,砥粒の高さを揃えるように砥粒を研削又は研磨すれば,いずれの砥粒も被加工物と接触する旨を説明した。
また,乙1の図2及び3のように,結合材によって砥粒層が複数層設けられた場合は,最小の砥粒と最大の砥粒の両方が被加工物と接触するように砥粒を研削又は研磨する旨を説明した。

(4)砥粒の高さを揃えるように砥粒を研削又は研磨することは,特許明細書に記載されており,砥粒の高さを揃えれば,最大と最小の両方の砥粒が作用面を有するといえるから,特許請求の範囲の請求項1において,最大径と最小径の比が10倍までを含むことについて,発明の詳細な説明に開示されているということができる。
また,請求項1を引用する請求項2ないし6,8及び9についても同様に発明の詳細な説明に開示されているということができる。
したがって,取消理由1によって,請求項1ないし6,8及び9に係る特許を取り消すことはできない。


2.取消理由2について
(1)請求項1に係る発明の砥粒の最大径及び最小径の測定について,特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0017】には,次の記載がある。
「まず砥粒工具を半分に切断し,片方の砥粒工具の砥粒層を溶解して硬質砥粒を取り出す。この取り出した硬質砥粒の内,質量割合で20%の硬質砥粒を無作為に抽出する。この抽出した硬質砥粒を,光学顕微鏡を使って硬質砥粒の画像の電子データを作成する。この画像データを元に乾式粒子像分析装置により硬質砥粒の円相当径を測定し,この円相当径の直径を粒径として測定する。ここで,円相当径とは硬質砥粒の画像を元に乾式粒子像分析装置で測定し解析された硬質砥粒の直径であり,円ではない変形した形状の各砥粒の画像の面積を元に,同じ面積で円とした場合のその円の直径が円相当径であり,これを粒径としている。測定した粒径のデータの中の最大径DMAXと最小径DMINを算出し,DMAX/DMINを最大径/最小径とする。」

(2)上記1.(1)に示すように,請求項1に係る発明の砥粒は,作用面を有するものに限定されるはずであるが,上記段落【0017】の記載によれば,砥粒工具から砥粒が取り出された後,当該砥粒が作用面を有するものか否かを選別することなく,質量割合で20%を無作為に抽出して,粒径を計測しているため,その測定値には作用面を有しない砥粒の粒径が含まれてしまい,請求項1に係る発明における径の比を計測しているとはいえない可能性がある。とりわけ,粒径の小さい砥粒は,結合材に埋没して作用面を有しない蓋然性が高いから,最大径と最小径との比が10倍までを含むことについて,発明の詳細な説明に当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない可能性がある。

(3)そこで,段落【0017】に係る粒径の測定について検討すると,乙1の図1のように砥粒層が単層の場合であれば,砥粒層に含まれる砥粒の全てが作用面を有しているといえるから,作用面の有無を選別せずに粒径を計測しても,請求項1に係る発明における径の比を計測できたことになり,請求項1に係る発明が,発明の詳細な説明に当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているということができる。

(4)次に,乙1の図2及び3のように砥粒層が複数層の場合は,砥粒層には,作用面を有する砥粒と,作用面を有しない砥粒が含まれているから,作用面の有無を選別せずに質量割合で20%を無作為に抽出して粒径の最大値と最小値を算出すれば,当然に作用面を有するものと有しないものの両方が含まれる。しかし,上記1.(3)に示すように,砥粒層が複数層設けられた場合は,最小の砥粒と最大の砥粒の両方が被加工物と接触するように砥粒を研削又は研磨するのであって,最小の砥粒が作用面を有することは明らかであるから,粒径の測定の際に無作為に抽出された最小の砥粒が,実際に作用面を有するか否かを確認する必要はない。
したがって,砥粒層が複数層の場合であっても,請求項1に係る発明が,発明の詳細な説明に当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているということができる。
そして,請求項1を引用する請求項2ないし6,8及び9に係る発明ついても同様に発明の詳細な説明に当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているということができる。
したがって,取消理由2によって,請求項1ないし6,8及び9に係る特許を取り消すことはできない。


3.取消理由3について
(1)甲1発明
甲1に記載された事項を整理すると,甲1には以下の発明が記載されている(括弧内に甲1の符号や参照箇所を付記する。)。
「複数の砥粒(2)が結合材(3)により結合された砥粒層を有する電着リーマである砥粒工具であって,
複数の前記砥粒の先端部は,前記砥粒の平均粒径の5%以上10%以下の範囲でツルーイングして平坦化されており(段落【0014】),
円周方向の隣り合う前記砥粒の中心間隔は,前記砥粒の平均粒径の2倍以上6倍以下となるように配設され,長手方向の隣り合う前記砥粒の中心間隔は,前記砥粒の平均粒径の2倍以上4倍以下となるように配設されている(段落【0017】),砥粒工具。」(以下「甲1発明」という。)

(2)特許発明1について
ア.特許発明1と甲1発明の対比
特許発明1と甲1発明を対比すると,甲1発明の「電着リーマである砥粒工具」と特許発明1の「ダイヤモンドロータリードレッサである砥粒工具」は,「砥粒工具」という点で一致する。
また,研磨工具の砥粒が硬質であることは自明であるから,甲1発明の「砥粒」は,特許発明1の「硬質砥粒」に相当する。また,甲1発明は,「複数の前記砥粒の先端部は,前記砥粒の平均粒径の5%以上10%以下の範囲でツルーイングして平坦化」されているが,ツルーイング,すなわち研削や研磨による平坦化で砥粒に平面が生じて,当該平面が被加工物と接触することになるから,甲1発明において「複数の前記砥粒の先端部は,前記砥粒の平均粒径の5%以上10%以下の範囲でツルーイングして平坦化」されていることは,特許発明1において「複数の前記砥粒の各々には,被加工物と接触する研削面または研磨面である作用面が形成」されていることに相当する。
そうすると,両発明は以下の点で一致及び相違する。

<一致点>
「複数の硬質砥粒が結合材により結合された砥粒層を有する砥粒工具であって,
複数の前記硬質砥粒の各々には,被加工物と接触する研削面または研磨面である作用面が形成されている,砥粒工具。」である点。

<相違点1>
特許発明1は「複数の前記作用面をなだらかに接続する仮想面の面積に対する複数の前記作用面の合計の面積の比率は5%以上30%以下」であるのに対して,甲1発明は仮想面の面積に対する複数の作用面の合計の面積の比率が不明である点。

<相違点2>
特許発明1は「複数の前記硬質砥粒の最大径と最小径との比(最大径/最小径)は1.2以上10以下」であるのに対して,甲1発明は硬質砥粒の最大径と最小径との比が不明な点。

<相違点3>
砥粒工具が,特許発明1は「ダイヤモンドロータリードレッサ」であるのに対して,甲1発明は「電着リーマ」である点。

イ.相違点の検討
(ア)相違点3について
事案に鑑みて,まず相違点3について検討すると,甲1発明の砥粒工具は「電着リーマ」であるが,リーマは「あらかじめあけられた穴を正確に仕上げ,同時に滑らかな仕上げ面を得ようとする場合に用いる工具」(JIS B 0173)である。
また,甲1発明の目的は「最適な砥粒間隔と砥粒突出し量を設定し,充分なチップポケットを確保し,切粉の排出効果を高め,ミクロンレベルの寸法精度を確保する為に必要なツルーイングで切味を損なわない最適な量を設定し,加工精度を向上することが可能な電着リーマとその電着リーマを安定して製造する方法を提供すること」(段落【0010】)であるが,そこでいう「加工精度」が,滑らかな仕上げ面を得るための精度,例えば表面粗さのような精度を意味することは明らかである。
これに対して,特許発明1の砥粒工具は「ダイヤモンドロータリードレッサ」であり,具体的には「歯車加工用砥石のツルーイングまたはドレッシングに使用される」(特許請求の範囲の請求項9)工具であるから,加工の対象は砥石である。
そして,砥石は,砥粒を結合材で結合して構成され,砥粒が切れ刃となるための凹凸や,切り屑を排出するための気孔を必須とするから,仮にこれらの凹凸や気孔がなく,砥石の表面が滑らかな状態(いわゆる「目づまり」の状態)となれば,砥石として機能しないことは,当業者にとって自明な事項である。
これらを考慮すると,滑らかな仕上げ面を得ることを目的とする甲1発明に接した当業者が,凹凸や気孔を必須とする砥石を加工対象として選択するとはいえないから,電着リーマに関する甲1発明を,ダイヤモンドロータリードレッサに変更することは,当業者が容易に想到できた事項とはいえない。
また,甲2ないし21及び乙1を参照しても,電着リーマに関する甲1発明をダイヤモンドロータリードレッサに変更する動機を示す証拠はない。

ウ.特許発明1についてのむすび
以上のとおり,相違点3に係る構成は,当業者が容易に想到できた事項とはいえないから,他の相違点1及び2について検討するまでもなく,特許発明1は,甲1発明及び甲2ないし21及び乙1記載の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

(3)特許発明2ないし6,8及び9について
特許発明2ないし6,8及び9は,特許発明1を引用し,特許発明1に係る発明特定事項を全て含む発明であるから,特許発明1と同様に,特許発明2ないし6,8及び9は,甲1発明及び甲2ないし21及び乙1記載の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

(4)小括
したがって,取消理由3によって,請求項1ないし6,8及び9に係る特許を取り消すことはできない。

4.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人は,甲2を主たる引用例として,特許法第29条第2項に係る特許異議申立理由を主張しているので,当該理由についても検討する。

(1)甲2発明
甲2に記載された事項を整理すると,甲2には以下の発明が記載されている(括弧内に甲2の符号や参照箇所を付記する。)。
「複数の砥粒(4)が結合材(3)により結合された砥粒層(2)を有する電着工具であって,
複数の前記砥粒の各々は,砥粒先端高さを基準として砥粒の粒径の10ないし20%に相当する高さ分だけ研削により除去されている(段落【0018】),砥粒工具。」(以下「甲2発明」という。)

(2)特許発明1について
ア.特許発明1と甲2発明の対比
特許発明1と甲2発明を対比すると,甲1発明の「電着工具」と特許発明1の「ダイヤモンドロータリードレッサである砥粒工具」は,「砥粒工具」という点で一致する。
また,研磨工具の砥粒が硬質であることは自明であるから,甲2発明の「砥粒」は,特許発明1の「硬質砥粒」に相当する。また,甲2発明は,「複数の前記砥粒の各々は,砥粒先端高さを基準として砥粒の粒径の10ないし20%に相当する高さ分だけ研削により除去されている」が,砥粒の先端を除去することで砥粒に平面が生じて,当該平面が被加工物と接触することになるから,甲2発明において「複数の前記砥粒の各々は,砥粒先端高さを基準として砥粒の粒径の10ないし20%に相当する高さ分だけ研削により除去されている」ことは,特許発明1において「複数の前記砥粒の各々には,被加工物と接触する研削面」「である作用面が形成」されていることに相当する。
そうすると,両発明は以下の点で一致及び相違する。

<一致点>
「複数の硬質砥粒が結合材により結合された砥粒層を有する砥粒工具であって,
複数の前記硬質砥粒の各々には,被加工物と接触する研削面である作用面が形成されている,砥粒工具。」である点。

<相違点4>
特許発明1は「複数の前記作用面をなだらかに接続する仮想面の面積に対する複数の前記作用面の合計の面積の比率は5%以上30%以下」であるのに対して,甲2発明は仮想面の面積に対する複数の作用面の合計の面積の比率が不明である点。

<相違点5>
特許発明1は「複数の前記硬質砥粒の最大径と最小径との比(最大径/最小径)は1.2以上10以下」であるのに対して,甲2発明は硬質砥粒の最大径と最小径との比が不明な点。

<相違点6>
砥粒工具が,特許発明1は「ダイヤモンドロータリードレッサ」であるのに対して,甲2発明は「電着工具」である点。

イ.相違点の検討
(ア)相違点6について
事案に鑑みて,まず相違点6について検討すると,甲2発明の砥粒工具は「電着工具」であるが,工具の加工対象は「超硬合金,セラミック,ガラス,半導体材料,鋳鉄,鋼」(段落【0002】)などが想定されている。
また,甲2発明は,従来技術において「電着工具は砥粒電着工程で,篩による分級により得たほぼ均一な粒径の砥粒を使用しているが,砥粒形状が球形でないために電着後の砥粒の先端は不揃いになる。このため,電着工具の使用初期段階においては加工後の寸法精度や仕上げ面粗さが変動しやすいという特性がある。」(段落【0004】)というものであったことに対して,発明が解決しようとする課題を「砥粒を単層に固着させた電着工具において,電着後の砥粒層の表面をコンディショニングすることにより砥粒の先端高さを均一にして,高精度の加工を可能にすることにある。」(段落【0009】)としたものであるが,そこでいう「高精度の加工」は,従来技術についての「加工後の寸法精度や仕上げ面粗さが変動しやすい」という記載からみて,加工後の寸法や仕上げ面粗さの精度が高くなる加工を意味することは明らかである。
これに対して,特許発明1の砥粒工具は,上記3.(2)イ.(ア)で説示するとおり,加工の対象を砥石とするものであり,砥石は,凹凸や気孔を必須とするものである。
そうすると,加工後の仕上げ面粗さの精度が高くなることを解決課題とする甲2発明に接した当業者が,凹凸や気孔を必須とする砥石を加工対象として選択するとはいえないから,電着工具に関する甲2発明を,ダイヤモンドロータリードレッサに変更することは,当業者が容易に想到できた事項とはいえない。
また,甲1及び3ないし21並びに乙1を参照しても,電着工具に関する甲2発明をダイヤモンドロータリードレッサに変更する動機を示す証拠はない。

ウ.特許発明1についてのむすび
以上のとおり,相違点6に係る構成は,当業者が容易に想到できた事項とはいえないから,他の相違点4及び5について検討するまでもなく,特許発明1は,甲2発明,甲1及び3ないし21並びに乙1記載の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

(3)特許発明2ないし6,8及び9について
特許発明2ないし6,8及び9は,特許発明1を引用し,特許発明1に係る発明特定事項を全て含む発明であるから,特許発明1と同様に,特許発明2ないし6,8及び9は,甲2発明,甲1及び3ないし21並びに乙1記載の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであるとはいえない。

(4)小括
したがって,申立人の主張する特許異議申立理由によって,請求項1ないし6,8及び9に係る特許を取り消すことはできない。


第6 むすび
以上のとおりであるから,取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,請求項1ないし6,8及び9に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に請求項1ないし6,8及び9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして,請求項7に係る特許は,訂正により削除されたため,本件特許の請求項7に対して申立人がした特許異議の申立てについては,対象となる請求項が存在しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の硬質砥粒が結合材により結合された砥粒層を有するダイヤモンドロータリードレッサである砥粒工具であって、
複数の前記硬質砥粒の各々には、被加工物と接触する研削面または研磨面である作用面が形成されており、
複数の前記作用面をなだらかに接続する仮想面の面積に対する複数の前記作用面の合計の面積の比率は5%以上30%以下であり、
複数の前記硬質砥粒の最大径と最小径との比(最大径/最小径)は1.2以上10以下である、砥粒工具。
【請求項2】
複数の前記硬質砥粒は前記砥粒層に50?1500個/cm^(2)の密度で分布している、請求項1に記載の砥粒工具。
【請求項3】
複数の前記硬質砥粒のビッカース硬度Hvは1000以上16000以下である、請求項1または請求項2に記載の砥粒工具。
【請求項4】
複数の前記硬質砥粒の粒度は91以上1001以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の砥粒工具。
【請求項5】
前記砥粒層は単層である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の砥粒工具。
【請求項6】
前記結合材はニッケルめっきである、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の砥粒工具。
【請求項7】 (削除)
【請求項8】
前記ダイヤモンドロータリードレッサはディスクドレッサである、請求項1に記載の砥粒工具。
【請求項9】
歯車加工用砥石のツルーイングまたはドレッシングに使用される、請求項1または請求項8に記載の砥粒工具。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-07-19 
出願番号 特願2017-513557(P2017-513557)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (B24D)
P 1 651・ 536- YAA (B24D)
P 1 651・ 121- YAA (B24D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 宮部 菜苗  
特許庁審判長 平岩 正一
特許庁審判官 中川 隆司
刈間 宏信
登録日 2017-06-30 
登録番号 特許第6165388号(P6165388)
権利者 株式会社アライドマテリアル
発明の名称 砥粒工具  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ