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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C01G 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 C01G 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C01G 審判 全部申し立て 2項進歩性 C01G 審判 全部申し立て ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 C01G |
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管理番号 | 1343865 |
異議申立番号 | 異議2017-700563 |
総通号数 | 226 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-10-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-06-06 |
確定日 | 2018-07-26 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6040392号発明「複合酸化物、複合遷移金属化合物、複合酸化物の製造方法、非水電解質二次電池用の正極活物質、並びに非水電解質二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6040392号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔2-13〕について訂正することを認める。 特許第6040392号の請求項1ないし13に係る特許を維持する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第6040392号の請求項1?13に係る特許についての出願は、平成24年12月25日の出願(優先権主張 平成24年 7月24日、日本国)であって、平成28年11月18日にその特許権の設定登録がされ、その後、その請求項1?13に係る特許について、平成29年 6月 6日付けで特許異議申立人「安東 和恭」(以下、「申立人」という。)によって特許異議の申立てがされ、平成29年 8月31日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年11月 2日付けで特許権者より意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して申立人から平成29年12月11日付けで意見書が提出され、平成30年 3月 1日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である平成30年 5月 2日付けで特許権者より意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して申立人から平成30年 6月 8日付けで意見書が提出されたものである。 2.訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 平成30年 5月 2日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のア?キのとおりである(下線は訂正箇所である。)。 (平成29年11月 2日付けの訂正請求は、みなし取下げとなった。) ア.訂正事項1 特許請求の範囲の請求項2に、「(関係式中、yは、前記コアの中心部におけるNiのMeに対する原子比(B1)から、前記コア及び前記シェルを含めた粒子の全体におけるNiのMeに対する原子比(B0)を減算した値を示す。)で示される。〕 で示される粒子状の複合酸化物であって、 NiのMeに対する原子比(A=Ni/Me×100)が、粒子の全体で60mol%以上90mol%以下であり、」とあるのを、「(関係式中、yは、コアの中心部におけるNiのMeに対する原子比(B1)から、前記コア及びシェルを含めた粒子の全体におけるNiのMeに対する原子比(B0)を減算した値を示す。)で示される。〕 で示される粒子状の複合酸化物であって、 NiのMeに対する原子比(A=Ni/Me×100)が、粒子の全体で60mol%以上77mol%以下であり、」に訂正する。 イ.訂正事項2 特許請求の範囲の請求項4に、「リートベルト法による構造解析によって、」とあるのを、「空間群R-3mの3aサイト(0,0,0)にリチウムイオンが存在し、3bサイト(0,0,1/2)にNi、Co、及びMnが組成比に対応する配分で存在し、6cサイト(0,0,z)に酸素が存在する単一構造モデルを構造モデルとするリートベルト法による構造解析によって、」に訂正する。 ウ.訂正事項3 特許請求の範囲の請求項5に、「60mol%以上90mol%以下」とあるのを「60mol%以上77mol%以下」に訂正し、「リートベルト法による構造解析によって、」とあるのを、「空間群R-3mの3aサイト(0,0,0)にリチウムイオンが存在し、3bサイト(0,0,1/2)にNi、Co、及びMnが組成比に対応する配分で存在し、6cサイト(0,0,z)に酸素が存在する単一構造モデルを構造モデルとするリートベルト法による構造解析によって、」に訂正する。 エ.訂正事項4 特許請求の範囲の請求項6に、「前記コア」及び「前記シェル」とあるのを「コア」及び「シェル」と訂正し、「60mol%以上90mol%以下」とあるのを「60mol%以上77mol%以下」に訂正し、「リートベルト法による構造解析によって、」とあるのを、「空間群R-3mの3aサイト(0,0,0)にリチウムイオンが存在し、3bサイト(0,0,1/2)にNi、Co、及びMnが組成比に対応する配分で存在し、6cサイト(0,0,z)に酸素が存在する単一構造モデルを構造モデルとするリートベルト法による構造解析によって、」に訂正する。 オ.訂正事項5 特許請求の範囲の請求項8に、「60mol%以上90%以下」とあるのを「60mol%以上77mol%以下」に訂正し、「複合金属化合物からなる前駆体を得る工程(I)と、」とあるのを、「複合金属化合物からなる前駆体を共沈法により得る工程(I)と、」に訂正する。 カ.訂正事項6 特許請求の範囲の請求項9に、「60mol%以上90%以下」とあるのを「60mol%以上77mol%以下」に訂正し、「複合金属化合物からなる前駆体を得る工程(I)と、」とあるのを、「複合金属化合物からなる前駆体を共沈法により得る工程(I)と、」に訂正する。 キ.訂正事項7 特許請求の範囲の請求項11に、「リートベルト法による構造解析によって、」とあるのを、「空間群R-3mの3aサイト(0,0,0)にリチウムイオンが存在し、3bサイト(0,0,1/2)にNi、Co、及びMnが組成比に対応する配分で存在し、6cサイト(0,0,z)に酸素が存在する単一構造モデルを構造モデルとするリートベルト法による構造解析によって、」に訂正する。 (2)訂正の目的、新規事項の追加、及び、特許請求の範囲の拡張/変更の有無について ア.訂正事項1 訂正事項1のうち、「前記コア」及び「前記シェル」の「前記」を削除するもの(以下、「訂正事項1-1という。」)は、その前に「コア」及び「シェル」という語が出てきていないので誤記の訂正に該当するものである。 したがって、訂正事項1-1は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定されている誤記の訂正を目的とするものである。 そして、訂正事項1-1は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 また、訂正事項1のうち、NiのMeに対する原子比に関するもの(以下、「訂正事項1-2」という。)は、「60mol%以上90mol%以下」を「60mol%以上77mol%以下」と限定することにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。 したがって、訂正事項1-2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、本件明細書の段落【0107】〔表1〕の実施例9に、Total Ni濃度として「77mol%」との記載があり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 また、訂正事項1-1及び1-2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。 イ.訂正事項2 訂正事項2は、リートベルト法による構造解析に関し、「空間群R-3mの3aサイト(0,0,0)にリチウムイオンが存在し、3bサイト(0,0,1/2)にNi、Co、及びMnが組成比に対応する配分で存在し、6cサイト(0,0,z)に酸素が存在する単一構造モデルを構造モデルとするリートベルト法による構造解析」と限定することにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、当該訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、本件明細書の段落【0120】に、「リートベルト法を用いた本願の構造解析では、単純化のために単一構造モデルを採用する。つまり、図7(C)に示す複合酸化物の粒子13を前提としてX線回折パターンのシミュレーションを行う。この際、複合酸化物の結晶構造として、空間群R-3mの3aサイト(0,0,0)にリチウムイオンが存在し、3bサイト(0,0,1/2)にNi、Co、及びMnが組成比に対応する配分で存在し、6cサイト(0,0,z)に酸素が存在するものを前提とした。」との記載があり、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 また、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。 ウ.訂正事項3 訂正事項3は、上記訂正事項1-2及び2と同じ訂正であり、訂正事項1-2及び2と同じく特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、上記訂正事項1-2及び2と同じく、訂正事項3は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。 エ.訂正事項4 訂正事項4のうち、「前記コア」及び「前記シェル」の「前記」を削除するもの(以下、「訂正事項4-1という。」)は、上記訂正事項1-1と同じ訂正であり、訂正事項1-1と同じく誤記の訂正をしようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものである。 そして、上記訂正事項1-1と同じく、訂正事項4-1は、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 また、訂正事項4のうち、NiのMeに対する原子比に関するもの(以下、「訂正事項4-2」という。)は、上記訂正事項1-2と同じ訂正であり、リートベルト法による構造解析に関するもの(以下、「訂正事項4-3」という。)は、上記訂正事項2と同じ訂正であり、上記訂正事項1-2及び2と同じく特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、上記訂正事項1-2及び2と同じく、訂正事項4-2及び4-3は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正でであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 また、訂正事項4-1、4-2及び4-3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。 オ.訂正事項5 訂正事項5のうち、NiのMeに対する原子比に関し、「%以下」を「mol%以下」とするもの(以下、「訂正事項5-1という。」)は、誤記の訂正をしようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものである。 そして、訂正事項5-1は、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 また、訂正事項5のうち、NiのMeに対する原子比に関し、上限値を「90」mol%から「77」mol%に限定するもの(以下、「訂正事項5-2」という。)は、上記訂正事項1-2と同じ訂正であり、複合金属化合物からなる前駆体を得る工程(I)に関するもの(以下、「訂正事項5-3」という。)は、「複合金属化合物からなる前駆体を共沈法により得る工程(I)」と限定することにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、当該訂正事項5-2及び5-3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、上記訂正事項1-2と同じく、訂正事項5-2は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、訂正事項5-3は、本件明細書の段落【0057】に、「複合遷移金属化合物として、微細粒子状のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を共沈法により作製した。」との記載があることから、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 また、訂正事項5-1、5-2及び5-3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。 カ.訂正事項6 訂正事項6のうち、NiのMeに対する原子比に関し、「%以下」を「mol%以下」とするもの(以下、「訂正事項6-1という。」)は、訂正事項5-1と同じ訂正であり、訂正事項5-1と同じく誤記の訂正をしようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものである。 そして、訂正事項6-1は、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 また、訂正事項6のうち、NiのMeに対する原子比に関し、上限値を「90」mol%から「77」mol%に限定するもの(以下、「訂正事項6-2」という。)は、上記訂正事項5-2と同じ訂正であり、複合金属化合物からなる前駆体を得る工程(I)に関するもの(以下、「訂正事項6-3」という。)は、上記訂正事項5-3と同じ訂正であり、訂正事項5-2及び5-3と同じく特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、当該訂正事項6-2及び6-3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、上記訂正事項5-2及び5-3と同じく、訂正事項6-2及び6-3は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正でであり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。 また、訂正事項6-1、6-2及び6-3は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。 キ.訂正事項7 訂正事項7は、上記訂正事項2と同じ訂正であり、訂正事項2と同じく特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、上記訂正事項2と同じく、訂正事項7は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。 (3)一群の請求項について 訂正事項1は、訂正前の請求項2を訂正するものであり、訂正前の請求項3、4、7?13は、請求項2を直接又は間接的に引用するため、請求項2?4、7?13は一群の請求項である。 訂正事項2は、訂正前の請求項4を訂正するものであり、訂正前の請求項7?13は、請求項4を直接又は間接的に引用するため、請求項4、7?13は一群の請求項である。 訂正事項3は、訂正前の請求項5を訂正するものであり、訂正前の請求項7?13は、請求項5を直接又は間接的に引用するため、請求項5、7?13は一群の請求項である。 訂正事項4は、訂正前の請求項6を訂正するものであり、訂正前の請求項7?13は、請求項6を直接又は間接的に引用するため、請求項6?13は一群の請求項である。 そして、請求項7?13が共通しているから、本件訂正請求は、一群の請求項〔2?13〕について請求するものと認められる。 (4)小括 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔2?13〕について訂正を認める。 3.本件発明 上記2.のとおり訂正を認めたので、訂正後の請求項1?13に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明13」という。)は、次の事項により特定されるとおりのものである(下線は訂正箇所である。)。 【請求項1】 以下の式(1): Li_(x)MeO_(2+0.5(x-1)) ・・・(1) (式中、Meは、Niと他の遷移金属から選ばれる少なくとも一種の金属とを含む遷移金属であり、xは、1.05以上1.25以下の数を示す。)で示される粒子状の複合酸化物であって、 NiのMeに対する原子比(A=Ni/Me×100)が、粒子の全体で60mol%以上90mol%以下であり、かつ、前記原子比の値が中心部よりも周辺部で小さい、複合酸化物。 【請求項2】 以下の式(1): Li_(x)MeO_(2+0.5(x-1)) ・・・(1) 〔式中、Meは、Niと他の遷移金属から選ばれる少なくとも一種の金属とを含む遷移金属であり、xは、1.05以上1.25以下の数、かつ、 以下の関係式(2): x=(0.005y+1.06)±0.06 ・・・(2) (関係式中、yは、コアの中心部におけるNiのMeに対する原子比(B1)から、前記コア及びシェルを含めた粒子の全体におけるNiのMeに対する原子比(B0)を減算した値を示す。)で示される。〕で示される粒子状の複合酸化物であって、 NiのMeに対する原子比(A=Ni/Me×100)が、粒子の全体で60mol%以上77mol%以下であり、かつ、前記原子比の値が中心部よりも周辺部で小さい、複合酸化物。 【請求項3】 粒子の中心部と粒子の周辺部とにおけるNiのMeに対する原子比の差が20mol%以上70mol%以下である、請求項1又は2に記載の複合酸化物。 【請求項4】 空間群R-3mの3aサイト(0,0,0)にリチウムイオンが存在し、3bサイト(0,0,1/2)にNi、Co、及びMnが組成比に対応する配分で存在し、6cサイト(0,0,z)に酸素が存在する単一構造モデルを構造モデルとするリートベルト法による構造解析によって、カチオンミキシング率が2.0%以上6.0%以下であり、かつ、S値が1.30以上1.60以下である、請求項1?3のいずれか一項に記載の複合酸化物。 【請求項5】 以下の式(1): Li_(x)MeO_(2+0.5(x-1)) ・・・(1) (式中、Meは、Niと他の遷移金属から選ばれる少なくとも一種の金属とを含む遷移金属であり、xは、1.05以上1.25以下の数を示す。) で示される粒子状の複合酸化物であって、 NiのMeに対する原子比(A=Ni/Me×100)が、粒子の全体で60mol%以上77mol%以下であり、かつ、前記原子比の値が中心部よりも周辺部で小さく、 空間群R-3mの3aサイト(0,0,0)にリチウムイオンが存在し、3bサイト(0,0,1/2)にNi、Co、及びMnが組成比に対応する配分で存在し、6cサイト(0,0,z)に酸素が存在する単一構造モデルを構造モデルとするリートベルト法による構造解析によって、カチオンミキシング率が2.0%以上6.0%以下であり、かつ、S値が1.30以上1.60以下である、複合酸化物。 【請求項6】 以下の式(1): Li_(x)MeO_(2+0.5(x-1)) ・・・(1) 〔式中、Meは、Niと他の遷移金属から選ばれる少なくとも一種の金属とを含む遷移金属であり、xは、1.05以上1.25以下の数、かつ、 以下の関係式(2): x=(0.005y+1.06)±0.06 ・・・(2) (関係式中、yは、コアの中心部におけるNiのMeに対する原子比(B1)から、前記コア及びシェルを含めた粒子の全体におけるNiのMeに対する原子比(B0)を減算した値を示す。)で示される。〕で示される粒子状の複合酸化物であって、 NiのMeに対する原子比(A=Ni/Me×100)が、粒子の全体で60mol%以上77mol%以下であり、かつ、前記原子比の値が中心部よりも周辺部で小さく、 空間群R-3mの3aサイト(0,0,0)にリチウムイオンが存在し、3bサイト(0,0,1/2)にNi、Co、及びMnが組成比に対応する配分で存在し、6cサイト(0,0,z)に酸素が存在する単一構造モデルを構造モデルとするリートベルト法による構造解析によって、カチオンミキシング率が2.0%以上6.0%以下であり、かつ、S値が1.30以上1.60以下である、複合酸化物。 【請求項7】 前記Meが、NiとCo及びMnからなる遷移金属である、請求項1?6のいずれかに記載の複合酸化物。 【請求項8】 請求項1?7のいずれか一項に記載の複合酸化物の製造方法であって、 NiのMeに対する原子比(B)が中心部で70mol%以上100mol%以下のコアと、NiのMeに対する原子比が周辺部で前記コアよりも小さいシェルとを有し、前記コア及び前記シェルを含めた粒子の全体でNiのMeに対する原子比(B0)が60mol%以上77mol%以下であり、前記コアの中心部におけるNiのMeに対する原子比(B1)と前記シェルの周辺部におけるNiのMeに対する原子比(B2)との差(B1-B2)が10mol%以上80mol%以下である複合金属化合物からなる前駆体を共沈法により得る工程(I)と、 前記工程(I)で得られた前記前駆体とLi化合物とをMeに対するLiの原子比が1.05以上1.25以下になる割合で混合して得た混合物を焼成する工程(II)とを含む、複合酸化物の製造方法。 【請求項9】 請求項2?7のいずれか一項に記載の複合酸化物の製造方法であって、 NiのMeに対する原子比(B)が中心部で70mol%以上100mol%以下のコアと、NiのMeに対する原子比が周辺部で前記コアよりも小さいシェルとを有し、前記コア及び前記シェルを含めた粒子の全体でNiのMeに対する原子比(B0)が60mol%以上77mol%以下であり、前記コアの中心部におけるNiのMeに対する原子比(B1)と前記シェルの周辺部におけるNiのMeに対する原子比(B2)との差(B1-B2)が10mol%以上80mol%以下である複合金属化合物からなる前駆体を共沈法により得る工程(I)と、 前記工程(I)で得られた前記前駆体とLi化合物とをMeに対するLiの原子比(x)が1.05以上1.25以下になる割合、かつ、 以下の関係式(2): x=(0.005y+1.06)±0.06 ・・・(2) (関係式中、yは、前記コアの中心部におけるNiのMeに対する原子比(B1)から前記コア及び前記シェルを含めた粒子の全体におけるNiのMeに対する原子比(B0)を減算した値を示す。)を満たすように混合して得た混合物を焼成する工程(II)とを含む、複合酸化物の製造方法。 【請求項10】 前記前駆体において、前記コアの体積と前記シェルの体積との比〔(コア体積):(シェル体積)〕が、50:50?90:10である、請求項8又は9に記載の複合酸化物の製造方法。 【請求項11】 焼成後に得られた前記複合酸化物に関して、空間群R-3mの3aサイト(0,0,0)にリチウムイオンが存在し、3bサイト(0,0,1/2)にNi、Co、及びMnが組成比に対応する配分で存在し、6cサイト(0,0,z)に酸素が存在する単一構造モデルを構造モデルとするリートベルト法による構造解析によって、カチオンミキシング率が2.0%以上6.0%以下であり、かつ、S値が1.30以上1.60以下である、請求項8?10のいずれか一項に記載の複合酸化物の製造方法。 【請求項12】 請求項1?7のいずれか一項に記載の複合酸化物から得られる、非水電解質二次電池用の正極活物質。 【請求項13】 請求項12に記載の非水電解質二次電池用の正極活物質を主成分とする正極、セパレーター、及び負極を有する、非水電解質二次電池。 4.当審の判断 (1)証拠 申立人は、特許異議申立書(平成29年 6月 6日付け)において、証拠として甲第1号証?甲第3号証を提出した。 <刊行物> 甲第1号証:特表2009-525578号公報 甲第2号証:R.Santhanam, B.Rambabu、Improved High Rate Cycling of Li-rich Li_(1.10)Ni_(1/3)Co_(1/3)M_(n1/3)O_(2) Cathode for Lithium Batteries、International Journal of ELECTROCHEMICAL SCIENCE、2009.12.31発行、vol.4、pp.1770-1778 甲第3号証:Yanko Marinov Todorov, Koichi Numata、Effects of the Li:(Mn+Co+Ni) molar ratio on the electrochemical properties of LiMn_(1/3)Co_(1/3)Ni_(1/3)O_(2) cathode material、ELECTROCHIMICA ACTA、2004.07.31発行、vol.50、pp.495-499 (以下、それぞれ、「甲1」?「甲3」という。) (2)取消理由通知に記載した取消理由について 平成29年 8月31日付けの取消理由の概要は、 取消理由A.訂正前の請求項1、3?5、7、8、10?13に係る発明が、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、又は、甲1?3に記載された発明から容易に発明することができたから、同法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、その発明に係る特許を取り消すべきものである。 取消理由B.訂正前の請求項2、6、9に係る発明が、甲1?3に記載された発明から容易に発明することができたから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、その発明に係る特許を取り消すべきものである。 取消理由C.訂正前の請求項8?11に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 取消理由D.訂正前の請求項4?13に係る発明は、特許法第36条第6項第1号及び同法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 取消理由E.明細書及び図面の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 (3)刊行物に記載された事項(抜粋) 取消理由通知において引用した甲1には、以下の事項が記載されている。 (下線は当審で付加したものである。以下同じ。) 摘記1-1:「【請求項1】 内部バルク部と前記内部バルク部を囲む外部バルク部を含むリチウム電池用正極であって、 前記外部バルク部と内部バルク部との接する境界面から活物質表面に金属組成が連続的な濃度勾配で存在することを特徴とするリチウム電池用正極活物質。」 摘記1-2:「【請求項4】 前記内部バルク部の体積は全体正極活物質の35?95体積%であることを特徴とする、請求項1に記載のリチウム電池用正極活物質。」 摘記1-3:「【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明はリチウム電池用正極活物質、その製造方法及びそれを使用するリチウム2次電池に関し、より詳しくは高容量と熱的安定性に全て優れたリチウム電池用正極活物質、その製造方法及びそれを含むリチウム2次電池に関するものである。」 摘記1-4:「【0034】 本発明で「金属組成が連続的な濃度勾配で存在する」という意味はリチウムを除く金属の濃度が徐々に変化する濃度分布で存在するということである。濃度分布は、活物質内部バルク部の最外郭部から外部バルク部の表面部まで、金属濃度の変化が0.1μm当たり0.1?30モル%であることを意味する。他の実施例によれば、0.1?20モル%であり、更に他の実施例によれば、1?10モル%の範囲である。」 摘記1-5:「【0036】 前記内部バルク部の体積は全正極活物質の35?95体積%である。他の実施例によれば40?90体積%であり、更に他の実施例によれば50?90体積%である。内部バルク部の体積が35体積%未満であると放電容量が減少し、95体積%を以上であると熱的安全性が低下する。」 摘記1-6:「【0040】 前記外部バルク部で内部バルク部との境界面での金属組成は内部バルク部と同一であり、外部バルク部でリチウムを除く金属組成は連続的な濃度勾配を有する。つまり、内部バルク部は高容量の特性を有するNi成分が多い下記の化学式10のリチウム-含有化合物(下記の化学式10でNiの組成が60モル%?95モル%)を含み、電解質と接する外部バルク部の表面部は安全性と寿命特性に優れたNi成分の少ない下記の化学式11のリチウム-含有化合物(下記の化学式11でNiの組成が5モル%?60モル%)、遷移金属酸化数がNi^(2+)、Co^(3+)またはMn^(4+)である下記の化学式12のリチウム-含有化合物、またはこれらの混合物を含むことができる。前記化学式11または化学式12のリチウム-含有化合物は外部バルク部に混合されて存在することができる。或は、化学式11の化合物と化学式12の化合物を二重層以上に形成して外部バルク部を形成することもできる。 【0041】 (化学式10) Li_(a)Ni_(1-x-y-z)Co_(x)Mn_(y)M_(z)O_(2-δ)X_(δ) (0.95≦a≦1.2、0.01≦x≦0.5、0.01≦y≦0.5、0.005≦z≦0.3、0.05≦x+y+z≦0.4、MはMg、Al、Cr、V、Ti、Cr、Fe、Zr、Zn、Si、Y、Nb、Ga、Sn、Mo、W及びこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種以上の元素、XはF、Cl、Br、Iなどのハロゲン元素、0≦δ≦0.1)。 【0042】 (化学式11) Li_(a)Ni_(1-x-y-z)Co_(x)Mn_(y)M_(z)O_(2-δ)X_(δ) (0.95≦a≦1.2、0.01≦x≦0.4、0.01≦y≦0.5、0.002≦z≦0.2、0.4x+y+z≦0.95、MはMg、Al、Cr、V、Ti、Cr、Fe、Zr、Zn、Si、Y、Nb、Ga、Sn、Mo、W及びこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種以上の元素、XはF、Cl、Br、Iなどのハロゲン元素、0≦δ≦0.1)。 【0043】 (化学式12) Li_(a)Ni_(x)Co_(1-2x)Mn_(x-y)M_(y)O_(2-δ)X_(δ) (0.95≦a≦1.2、0.01≦x≦0.5、0≦y≦0.1、MはMg、Al、Cr、V、Ti、Cr、Fe、Zr、Zn、Si、Y、Nb、Ga、Sn、Mo、W及びこれらの組み合わせからなる群より選択される少なくとも1種以上の元素、XはF、Cl、Br、Iなどのハロゲン元素、0≦δ≦0.1)。」 摘記1-7:「【0059】 第4段階としてこのように得られた内部バルク部と金属の濃度分布を有する金属水酸化物または金属酸化物を含む外部バルク部からなる活物質前駆体にリチウム塩を混合した後、熱処理して活物質を得る。この時、最終活物質は内部バルク部と金属組成の連続的な濃度分布を有するリチウム複合酸化物を含む外部バルク部からなる。前記活物質前駆体とリチウム塩を混合した後、熱処理工程は700℃?1100℃で行う。熱処理工程は、空気又は酸素の酸化性雰囲気下で10?30時間行う。前記熱処理工程前に250?650℃で5?20時間維持して予備焼成を実施することもできる。また、前記熱処理工程の後に600?750℃で10?20時間アニーリング工程を実施することもできる。」 摘記1-8:「【0065】 実施例1:正極活物質の製造 共沈反応器(容量4L、回転モータの出力80W以上)に蒸溜水4を入れた後、窒素ガスを反応器に0.5/分の速度で供給して溶存酸素を除去し、反応器の温度を50℃に維持させながら1000rpmで攪拌した。 【0066】 硫酸ニッケル、硫酸コバルト及び硫酸マンガンがモル比80:13:7の比率で混合される2.4M濃度の金属水溶液を0.3時間で反応器に投入し、4.8mol濃度のアンモニア溶液を0.03時間で反応器に連続的に投入した。また、pH調整のために4.8mol濃度の水酸化ナトリウム溶液を供給してpHを11に維持した。 【0067】 インペラ速度は1000rpmに調節した。流量を調節して溶液の反応器内平均滞留時間は6時間程度にした。反応が定常状態に到達した後、前記反応物に対して定常状態持続時間を与えてより密度の高い複合金属水酸化物を得るようにした。 【0068】 定常状態に到達した前記複合金属水酸化物の粒子サイズが8?13μmになる時点で、供給された硫酸ニッケル、硫酸コバルト及び硫酸マンガン金属水溶液の容量を4Lに固定する。その後、濃度分布を有する外部バルク形成のために硫酸ニッケル、硫酸コバルト及び硫酸マンガン金属水溶液のモル比が80:13:7から40:40:20になるまで濃度変化を与えながら、変化する金属水溶液を利用して反応を継続した。 【0069】 金属水溶液のモル比が40:40:20に至ると、そのモル比を維持した状態で正常状態に到達するまで反応を持続して濃度勾配を有する球形のニッケルマンガンコバルト複合水酸化物を得た。前記金属複合水酸化物をろ過し、水洗浄した後に110℃の温風乾燥機で15時間乾燥した。 【0070】 前記金属複合水酸化物と水酸化リチウム(LiOH)を1:1.07モル比に混合してから2℃/分の昇温速度で加熱した。その後、500℃で10時間維持して予備焼成を行い、次いで780℃で20時間焼成して、内部バルク部はLi[Ni_(0.8)Co_(0.13)Mn_(0.07)]O_(2)に、外部バルク部はLi[Ni_(0.8)Co_(0.13)Mn_(0.07)]O_(2)からLi[Ni_(0.4)Co_(0.4)Mn_(0.2)]O_(2)まで連続的な一定濃度勾配を有する正極活物質粉末を得た。」 摘記1-9:「【0072】 実施例3:正極活物質の製造 内部バルク部の組成をLiNi_(0.8)Co_(0.1)Mn_(0.1)O_(2)として、外部バルク部の組成をLiNi_(0.8)Co_(0.1)Mn_(0.1)O_(2)からLiNi_(0.475)Co_(0.05)Mn_(0.475)O_(2)まで連続的な一定濃度勾配を有することを除いては、前記実施例1と同様な方法で正極活物質粉末を製造した。この時、実施例1と実施例2から合成した外部バルク組成はNi系組成であるが、外部バルク組成であるLiNi_(0.475)Co_(0.05)Mn_(0.475)O_(2)は、Niが2価Coが3価、Mnが4価であるLi[Ni_(x)Co_(1-2x)Mn_(x)]O_(2)系化合物なので、熱的安定性が優れている。」 摘記1-10:「【0076】 リチウム2次電池の製造 前記実施例1?4及び比較例1によって製造された正極活物質と、導電剤としてアセチレンブラックと、結合剤としてはポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを80:10:10の重量比で混合してスラリーを製造した。前記スラリーを20μm厚さのアルミ箔に均一に塗布し、120℃で真空乾燥してリチウム2次電池用正極を製造した。 【0077】 前記正極と、リチウム箔を相対電極とし、多孔性ポリエチレン膜(セルガルドLLC製、Celgard 2300、厚さ:25μm)をセパレータとし、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートが体積比1:1で混合された溶媒にLiPF6が1M濃度で溶けている液体電解液を使用して、通常知られている製造工程によってコイン電池を製造した。 【0078】 図1は実施例1の活物質前駆体([Ni_(0.8)Co_(0.13)Mn_(0.07)]_(0.6)[Ni_(0.4)Co_(0.4)Mn_(0.2)]_(0.4))(OH)_(2)を110℃温風乾燥機で15時間乾燥させた、得られた金属水酸化物粉末の500倍FE-SEM写真である。図2は4000倍FE-SEM写真である。内部バルク部と外部バルク部からなる前駆体は球形のニッケルマンガンコバルト複合水酸化物の形状を確認することができる。」 摘記1-11:「【0079】 図3は実施例1によって製造された濃度勾配を有する、正極活物質前駆体([Ni_(0.8)Co_(0.13)Mn_(0.07)]_(0.6)[Ni_(0.4)Co_(0.4)Mn_(0.2)]_(0.4))(OH)2粉末の断面FE-SEM写真である。図4は実施例1によって製造された濃度勾配を有する、正極活物質前駆体Li([Ni_(0.8)Co_(0.13)Mn_(0.0)7]_(0.6)[Ni_(0.4)Co_(0.4)Mn_(0.2)]_(0.4))O_(2)粉末の断面FE-SEM写真である。粉末内部の濃度分布を確認するために、図3に表示されるA及びBと、図4に表示されるA、B及びC点でEDX組成分析を行って、その結果を表1に示した。EDX分析特性を考慮してみると(X線が表面から粉末表面まで通過するので、金属イオンの平均組成を示す)、前駆体粉末の場合には設計した組成通りによく合成された。焼結体の場合には、高温焼成中に金属イオンの拡散によって濃度分布の差が多少減少した。しかし、粒子粉末内でNi、Co、Mn金属元素が連続的な濃度分布を有することが分かった。」 【0080】 ([Ni_(0.8)Co_(0.13)Mn_(0.07)]_(0.6)[Ni_(0.4)Co_(0.4)Mn_(0.2)]_(0.4))(OH)_(2)粉末とLi([Ni_(0.8)Co_(0.13)Mn_(0.07)]_(0.6)[Ni_(0.4)Co_(0.4)Mn_(0.2)]_(0.4))O_(2)粉末の粒子内部組成分析 」 取消理由通知において引用した甲2には、以下の事項が記載されている。(括弧内は抄訳である。) 摘記2-1:「 」 (X線回折法は、クエン酸を用いたゾルーゲル法により合成した材料の結晶構造評価に用いられた。Fig.1にナノサイズLi_(1.10)Ni_(1/3)Co_(1/3)Mn_(1/3)O_(2)のXRDパターンを示す。全ての回折ピークは、六方晶α-NaFeO_(2)構造(空間群R3m)に基づく層状酸化物構造として指標付けすることができる。この図では、不純物および二次相は観察されない。この構造は、3aにLiイオン、3bに遷移金属イオン(M=Co、Ni、Mn)、6cにOイオンを有する。Ni^(2+)(0.69Å)とLi^(+)(0.76Å)のイオン半径は類似しているため、LiイオンとNiイオンの占有のサイト間での部分的な交換(3bサイトのLiと3aサイトのNi)が予想され(カチオンミキシング)、それは構造の乱れを引き起こすであろう。カチオンミキシングは、上記層状化合物の電気化学的性能を低下させることが知られている。XRDパターンにおける(003)、(104)線の積分強度比(R)はカチオンミキシングの測定値であることが示され、R<1.2の値は望ましくないカチオンミキシングの指標である。・・・この研究では、Li_(1.10)Ni_(0.30)Co_(0.30)Mn_(0.40)O_(2)材料の強度比I(003)/I(104)は1.30であった。強度比I(003)/I(104)は、格子中のカチオン秩序に敏感であり、優れた電気化学的活性が期待できる。) 摘記2-2:「 」 (サイクルテストはより興味深い結果を示している。Li_(1.10)Ni_(1/3)Co_(1/3)Mn_(1/3)O_(2)およびLiNi_(1/3)Co_(1/3)Mn_(1/3)O_(2)電極のサイクリングパフォーマンスを、8Cの電流で、2.5Vと4.3Vとの間で測定した。図5は、Liリッチおよび化学量論的LiNi_(1/3)Co_(1/3)Mn_(1/3)O_(2)電極材料のサイクリング性能が8Cの高電流レートでサイクルしたことを示している。30回の充放電サイクルの後、Li_(1.10)Ni_(1/3)Co_(1/3)Mn_(1/3)O_(2)電極は、80%の容量保持率しか示さないLiNi_(1/3)Co_(1/3)Mn_(1/3)O_(2)電極のそれと比較して、約91%の容量保持率で優れたサイクル性能を示すことが確認できた。) 取消理由通知において引用した甲3には、以下の事項が記載されている。 摘記3-1:「 」 (異なるLi/Mモル比(M=Mn_(1/3)Co_(1/3)Ni_(1/3))を有するLi_(1+x)(Mn_(1/3)Co_(1/3)Ni_(1/3))_(1-x)O_(2)(X≧0)混合酸化物が得られた。材料は、化学分析、X線回折測定、粒度分布測定、BETおよびQOCV測定を使用して評価した。レート特性およびサイクリング特性を評価した。増加したLi/Mモル比、特に1.10<Li/M<1.15は、より良好なサイクルおよびレート特性ならびにより高い第1サイクルクーロン効率をもたらした。Li/Mモル比が1.10を超えると放電容量が小さくなるため最適比は約1.10と思われる。) 摘記3-2:「 」 (しかしながらサイクリング特性は、Li含有量が高いサンプルについてより良くなった。Table1に示すように、Li/M比が1.20の場合の、100サイクルにおける容量保持率は93.4%であったが、一方で量論化合物(Li/M=1.00)では係る容量保持率は86.9%だけであった。Li含有量の増加は、サイクリング特性の改善、すなわち化合物の長いサイクル寿命を導く。) (4)取消理由A、B(特許法第29条第1項第3号、第29条第2項)について ア.本件発明1について 摘記1-1、1-4、1-8、1-11から、甲1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。 「内部バルク部と、内部バルク部を囲む外部バルク部を含み、外部バルク部と内部バルク部との接する境界線から活物質表面に向かって金属組成が連続的な濃度勾配で存在し、内部バルク部がLi[Ni_(0.8)Co_(0.13)Mn_(0.07)]O_(2)であり、外部バルク部がLi[Ni_(0.8)Co_(0.13)Mn_(0.07)]O_(2)からLi[Ni_(0.4)Co_(0.4)Mn_(0.2)]O_(2)まで連続的な一定濃度勾配を有する正極活物質前駆体Li([Ni_(0.8)Co_(0.13)Mn_(0.07)]_(0.6)[Ni_(0.4)Co_(0.4)Mn_(0.2)]_(0.4))O_(2)粉末」 ここで、本件発明1と引用発明1とを対比すると、本件発明1の「Me」は「Niと他の遷移金属から選ばれる少なくとも一種の金属とを含む遷移金属」であるから、引用発明1に記載の「Ni」、「Co」、「Mn」は本件発明1の「Me」に相当する。 次に、引用発明1について、粉末全体における「Ni」、「Co」、「Mn」の合計値に対する「Ni」の原子比について検討すると、Li([Ni_(0.8)Co_(0.13)Mn_(0.07)]_(0.6)[Ni_(0.4)Co_(0.4)Mn_(0.2)]_(0.4)なる表記より、他の値が原子比(モル比)であることから、[Ni_(0.8)Co_(0.13)Mn_(0.07)]にかかる「0.6」と、[Ni_(0.4)Co_(0.4M)n_(0.2)]にかかる「0.4」は、内部バルク部と外部バルク部のモル比であるといえ、粉末全体における「Ni」、「Co」、「Mn」の合計値に対する「Ni」の原子比は、(0.8×0.6+0.4×0.4)/1=0.64=64mol%であるといえる。 また、摘記1-11の【表1】の下段から、「Ni」、「Co」、「Mn」の合計値に対する「Ni」の原子比が最も小さくなる外部表面のNiの原子比が60mol%であり、最も高くなる内部バルク部のNiの原子比が71mol%であることから、Li([Ni_(0.8)Co_(0.13)Mn_(0.07)]_(0.6)[Ni_(0.4)Co_(0.4)Mn_(0.2)]_(0.4))O_(2)粉末中の「Ni」、「Co」、「Mn」の合計値に対する「Ni」の原子比は、粒子の全体で60mol%より大きく71mol%より小さい範囲であるといえる。 さらに、「Ni」、「Co」、「Mn」の合計値に対する「Ni」の原子比は、内部バルク部の方が外部バルク部よりも大きいものといえる。 したがって、引用発明1には、本件発明1の「NiのMeに対する原子比(A=Ni/Me×100)が、粒子の全体で60mol%以上90mol%以下であり、かつ、前記原子比の値が中心部よりも周辺部で小さい」に相当する事項が記載されているものといえる。 よって、本件発明1と、引用発明1は、 「以下の式(1): Li_(x)MeO_(2+0.5(x-1)) ・・・(1) (式中、Meは、Niと他の遷移金属から選ばれる少なくとも一種の金属とを含む遷移金属である。)で示される粒子状の複合酸化物であって、 NiのMeに対する原子比(A=Ni/Me×100)が、粒子の全体で60mol%以上90mol%以下であり、かつ、前記原子比の値が中心部よりも周辺部で小さい、複合酸化物。」の点で両者は一致し、以下の点で相違する。 相違点1:本件発明1は、Li_(x)MeO_(2+0.5(x-1))におけるxが1.05以上1.25以下であるのに対し、引用発明1はNi、Co、Mnの合計値に対するLi量のモル比が1である点。 よって、相違点1は実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲1に記載された引用発明1ではない。 相違点1について、さらに検討する。 甲1には、摘記1-6に記載されているように、Niと他の遷移金属から選ばれる少なくとも一種の金属とを含む遷移金属に対し、Liのモル比を0.95?1.20まで変化させられることが記載されている。 また、摘記2-1には、Ni、Co、Mnの合計量に対するLi量のモル比を1.10にすることで、カチオンミキシングを抑制すること、及び、サイクル性能が向上することが記載されており、摘記3-1には、1.10<Li/M(M=Mn、Ni、Coの合計値)<1.15にすることで、良好なサイクル特性となることが記載されている。 しかしながら、甲1に記載されている粒子の構造は、外部バルク部と内部バルク部とからなる2層構造であるのに対し、甲2及び甲3に記載されている粒子の構造は単層である点で異なるものである。 そこで、本件明細書の〔表1〕の実施例、比較例におけるサイクル劣化率の値を見てみると、甲2及び甲3と同様に単層の粒子である比較例2,3では、比較例3はLi/Me比が0.95で、そのサイクル劣化率は0.33%/cyであったのに対し、Li/Me比が1.11である比較例2では、そのサイクル劣化率は0.19%/cyである。 一方、2層構造である実施例1と比較例5では、比較例5はLi/Me比が1.00で、そのサイクル劣化率は0.21%/cyであったのに対し、Li/Me比が1.11である実施例1では、そのサイクル劣化率は0.068%/cyである。 してみると、甲1に記載されるような2層構造である粒子において、Niと他の遷移金属から選ばれる少なくとも一種の金属とを含む遷移金属に対し、Liを過剰にすると、甲2,3に記載されるような単層構造である粒子において、Liを過剰にすることで予想されるよりも、サイクル寿命を大幅に向上できることがわかる。 この顕著な効果について、申立人は意見書において、甲2及び甲3は、Li-Ni系酸化物の正極活物質において、Liの他の金属に対するモル比を1よりも高くすることで、サイクル特性が向上する傾向を有することを立証するための文献であり、その効果の程度について比較する意義がないこと、本件特許発明と甲2及び甲3とはサイクル特性の評価条件が同じであるかが明らかでなく、対比できるものではないことを主張しているものの、本件特許発明と甲2及び甲3とを比較するまでもなく、上記のとおり、本件明細書の実施例及び比較例を参酌すれば、本件特許発明が甲1?3の記載から当業者が予期し得ない効果を有することは明らかであるから、申立人の主張は採用できない。 したがって、相違点1を有する本件発明1は、甲1?3に記載の発明に基いて、当業者であれば容易に発明をすることができたものとはいえない。 イ.本件発明2について 本件発明2と、引用発明1とを対比すると、上記アと同様であるから、 「以下の式(1): Li_(x)MeO_(2+0.5(x-1)) ・・・(1) 〔式中、Meは、Niと他の遷移金属から選ばれる少なくとも一種の金属とを含む遷移金属である。〕で示される粒子状の複合酸化物であって、 NiのMeに対する原子比(A=Ni/Me×100)が、粒子の全体で60mol%以上77mol%以下であり、かつ、前記原子比の値が中心部よりも周辺部で小さい、複合酸化物。」の点で両者は一致し、以下の点で相違する。 相違点2:本件発明2は、Li_(x)MeO_(2+0.5(x-1))におけるxが1.05以上1.25以下であるのに対し、引用発明1はNi、Co、Mnの合計値に対するLi量のモル比が1である点。 相違点3:本件発明2は、Li_(x)MeO_(2+0.5(x-1))において、以下の関係式(2) x=(0.005y+1.06)±0.06・・・(2) (関係式中、yは、コアの中心部におけるNiのMeに対する原子比(B1)から、コア及びシェルを含めた粒子の全体におけるNiのMeに対する原子比(B0)を減算した値を示す。)を満たしているのに対し、引用発明1は、上記事項について記載されていない点。 上記相違点について検討する。 相違点2は相違点1と同じ相違点であるから、上記アで検討したように、相違点3について検討するまでもなく、本件発明2は、甲1?3に記載の発明に基いて、当業者であれば容易に発明をすることができたものとはいえない。 ウ.本件発明3、4について 本件発明3、4は、本件発明1または2を引用し、本件発明1または2をさらに限定する発明であるから、甲1に記載された引用発明1ではなく、甲1?3に記載の発明に基いて、当業者であれば容易に発明をすることができたものともいえない。 エ.本件発明5について 本件発明5と引用発明1とを対比すると、上記アと同様であるから、 「以下の式(1): Li_(x)MeO_(2+0.5(x-1)) ・・・(1) (式中、Meは、Niと他の遷移金属から選ばれる少なくとも一種の金属とを含む遷移金属である。)で示される粒子状の複合酸化物であって、 NiのMeに対する原子比(A=Ni/Me×100)が、粒子の全体で60mol%以上77mol%以下であり、かつ、前記原子比の値が中心部よりも周辺部で小さい複合酸化物」の点で両者は一致し、以下の点で相違する。 相違点4:本件発明5は、Li_(x)MeO_(2+0.5(x-1))におけるxが1.05以上1.25以下であるのに対し、引用発明1はNi、Co、Mnの合計値に対するLi量のモル比が1である点。 相違点5:本件発明5の複合酸化物は、空間群R-3mの3aサイト(0,0,0)にリチウムイオンが存在し、3bサイト(0,0,1/2)にNi、Co、及びMnが組成比に対応する配分で存在し、6cサイト(0,0,z)に酸素が存在する単一構造モデルを構造モデルとするリートベルト法による構造解析において、カチオンミキシング率が2.0%以上6.0%以下、かつ、S値が1.30以上1.60以下となるのに対し、引用発明1の複合酸化物は上記事項について不明な点。 上記相違点について検討する。 相違点4は相違点1と同じ相違点であるから、上記アで検討したように、本件発明5は、甲1に記載された引用発明1ではなく、甲1?3に記載の発明に基いて、当業者であれば容易に発明をすることができたものともいえない。 カ.本件発明6について 本件発明6と引用発明1とを対比すると、上記アと同様であるから、 「以下の式(1): Li_(x)MeO_(2+0.5(x-1)) ・・・(1) 〔式中、Meは、Niと他の遷移金属から選ばれる少なくとも一種の金属とを含む遷移金属である。〕で示される粒子状の複合酸化物であって、 NiのMeに対する原子比(A=Ni/Me×100)が、粒子の全体で60mol%以上77mol%以下であり、かつ、前記原子比の値が中心部よりも周辺部で小さい複合酸化物」の点で両者は一致し、以下の点で相違する。 相違点6:本件発明6は、Li_(x)MeO_(2+0.5(x-1))におけるxが1.05以上1.25以下であるのに対し、引用発明1はNi、Co、Mnの合計値に対するLi量のモル比が1である点。 相違点7:本件発明6は、Li_(x)MeO_(2+0.5(x-1))において、以下の関係式(2) x=(0.005y+1.06)±0.06・・・(2) (関係式中、yは、コアの中心部におけるNiのMeに対する原子比(B1)から、コア及びシェルを含めた粒子の全体におけるNiのMeに対する原子比(B0)を減算した値を示す。)を満たしているのに対し、引用発明1は、上記事項について記載されていない点。 相違点8:本件発明6の複合酸化物は、空間群R-3mの3aサイト(0,0,0)にリチウムイオンが存在し、3bサイト(0,0,1/2)にNi、Co、及びMnが組成比に対応する配分で存在し、6cサイト(0,0,z)に酸素が存在する単一構造モデルを構造モデルとするリートベルト法による構造解析において、カチオンミキシング率が2.0%以上6.0%以下、かつ、S値が1.30以上1.60以下となるのに対し、引用発明1の複合酸化物は上記事項について不明な点。 上記相違点について検討する。 相違点6は相違点1と同じ相違点であるから、上記アで検討したように、相違点7、8について検討するまでもなく、本件発明6は、甲1?3に記載の発明に基いて、当業者であれば容易に発明をすることができたものとはいえない。 キ.本件発明7について 本件発明7は、本件発明1?6のいずれかを引用し、本件発明1?6をさらに限定する発明であるから、甲1に記載された引用発明1ではなく、甲1?3に記載の発明に基いて、当業者であれば容易に発明をすることができたものともいえない。 ク.本件発明8?13について 本件発明8?13は、本件発明1?7のいずれかを直接または間接的に引用し、本件発明1?7をさらに限定する発明であるから、本件発明8、10?13は、甲1に記載された引用発明1ではなく、また、本件発明8?13は、甲1?3に記載の発明に基いて、当業者であれば容易に発明をすることができたものともいえない。 ケ.小括 ア?クに記載したように、本件発明1、3?5、7、8、10?13は、甲1に記載された引用発明1とはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当するものではなく、また、本件発明1?13は、甲1?3に記載の発明に基づいて、当業者であれば容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでない。 (5)取消理由C(特許法第36条第6項第1号)について 取消理由Cは、訂正前の請求項8、9に係る発明は、複合金属化合物からなる前駆体を製造する方法が具体的に限定されていないところ、本件明細書には、共沈法によりニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を製造した例しか開示されていないことから、訂正前の請求項8、9に係る発明及びこれらを引用する訂正前の請求項10、11に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないというものである。 しかしながら、訂正によって、本件発明8、9は共沈法を用いることが特定された。 よって、取消理由Cは理由がない。 (6)取消理由D(特許法第36条第6項第1号及び第2号)について 取消理由Dは、訂正前の請求項4?6、11に記載されたリートベルト法による構造解析の構造モデルが特定されていないことから、訂正前の請求項4?6、11に係る発明及びこれらを引用する訂正前の請求項7?10、12、13に係る発明は、明確でなく、発明の詳細な説明に記載されたものでもないというものである。 しかしながら、訂正によって、本件発明4?6、11において、リートベルト法の構造モデルが特定された。 よって、取消理由Dは理由がない。 (7)取消理由E(特許法第36条第4項第1号)について 取消理由Eは、焼成前のMeに対するLiの原子比(x)が、焼成後の複合酸化物におけるMeに対するLiの原子比(x)と等しくなる場合と、焼成後の複合酸化物におけるMeに対するLiの原子比(x)と等しくならない場合とが存在するところ、焼成前と焼成後とで上記比率が等しくなる場合と等しくならない場合とがどのような製造条件によって決まるのかが当業者が理解できる程度に発明の詳細な説明に記載されているとはいえないため、訂正前の請求項1?13に係る発明について、発明の詳細な説明は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないというものである。 しかしながら、本件明細書の段落【0114】の記載から、混合比と分析値とはほぼ同程度の組成であるといえ、また、具体的な製造条件も記載されているため、発明の詳細な説明の記載から、本件発明1?13を当業者が実施できないとまではいえない。 (8)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について ・特許法第36条第6項第2号について(特許異議申立書第18頁第9行?最終行) 申立人は特許異議申立書において、「中心部」、「周辺部」との用語の意味が曖昧であり、結果として、「・‥前記原子比の値が中心部よりも周辺部で小さい・・・」の中心部と、周辺部との原子比に関する規定が、どの位置での原子比を比較した結果を規定しているかが明らかではなく、発明の範囲が不明確である旨主張している。 しかしながら、「中心部」と「周辺部」の位置関係は文言からしても十分に理解できるものであり、さらに、本件明細書の記載(段落【0057】?【0061】)から、第1の工程で形成するNiの組成比が高い中心側のコアが「中心部」に相当し、第2の工程で形成する粒子の表面方向に向かうに連れてNiの組成比が徐々に低下する周辺側のシェルが「周辺部」に相当するものと認められるから、発明の範囲が不明確であるとはいえず、かかる主張は採用できない。 6.むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1?13に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1?13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 以下の式(1): Li_(x)MeO_(2+0.5(x-1)) … (1) (式中、Meは、Niと他の遷移金属から選ばれる少なくとも一種の金属とを含む遷移金属であり、xは、1.05以上1.25以下の数を示す。) で示される粒子状の複合酸化物であって、 NiのMeに対する原子比(A=Ni/Me×100)が、粒子の全体で60mol%以上90mol%以下であり、かつ、前記原子比の値が中心部よりも周辺部で小さい、複合酸化物。 【請求項2】 以下の式(1): Li_(x)MeO_(2+0.5(x-1)) … (1) 〔式中、Meは、Niと他の遷移金属から選ばれる少なくとも一種の金属とを含む遷移金属であり、xは、1.05以上1.25以下の数、かつ、 以下の関係式(2): x=(0.005y+1.06)±0.06 … (2) (関係式中、yは、コアの中心部におけるNiのMeに対する原子比(B1)から、前記コア及びシェルを含めた粒子の全体におけるNiのMeに対する原子比(B0)を減算した値を示す。)で示される。〕で示される粒子状の複合酸化物であって、 NiのMeに対する原子比(A=Ni/Me×100)が、粒子の全体で60mol%以上77mol%以下であり、かつ、前記原子比の値が中心部よりも周辺部で小さい、複合酸化物。 【請求項3】 粒子の中心部と粒子の周辺部とにおけるNiのMeに対する原子比の差が20mol%以上70mol%以下である、請求項1又は2に記載の複合酸化物。 【請求項4】 空間群R-3mの3aサイト(0,0,0)にリチウムイオンが存在し、3bサイト(0,0,1/2)にNi、Co、及びMnが組成比に対応する配分で存在し、6cサイト(0,0,z)に酸素が存在する単一構造モデルを構造モデルとするリートベルト法による構造解析によって、カチオンミキシング率が2.0%以上6.0%以下であり、かつ、S値が1.30以上1.60以下である、請求項1?3のいずれか一項に記載の複合酸化物。 【請求項5】 以下の式(1): Li_(x)MeO_(2+0.5(x-1)) … (1) (式中、Meは、Niと他の遷移金属から選ばれる少なくとも一種の金属とを含む遷移金属であり、xは、1.05以上1.25以下の数を示す。) で示される粒子状の複合酸化物であって、 NiのMeに対する原子比(A=Ni/Me×100)が、粒子の全体で60mol%以上77mol%以下であり、かつ、前記原子比の値が中心部よりも周辺部で小さく、 空間群R-3mの3aサイト(0,0,0)にリチウムイオンが存在し、3bサイト(0,0,1/2)にNi、Co、及びMnが組成比に対応する配分で存在し、6cサイト(0,0,z)に酸素が存在する単一構造モデルを構造モデルとするリートベルト法による構造解析によって、カチオンミキシング率が2.0%以上6.0%以下であり、かつ、S値が1.30以上1.60以下である、複合酸化物。 【請求項6】 以下の式(1): Li_(x)MeO_(2+0.5(x-1)) … (1) 〔式中、Meは、Niと他の遷移金属から選ばれる少なくとも一種の金属とを含む遷移金属であり、xは、1.05以上1.25以下の数、かつ、 以下の関係式(2): x=(0.005y+1.06)±0.06 … (2) (関係式中、yは、コアの中心部におけるNiのMeに対する原子比(B1)から、前記コア及びシェルを含めた粒子の全体におけるNiのMeに対する原子比(B0)を減算した値を示す。)で示される。〕 で示される粒子状の複合酸化物であって、 NiのMeに対する原子比(A=Ni/Me×100)が、粒子の全体で60mol%以上77mol%以下であり、かつ、前記原子比の値が中心部よりも周辺部で小さく、 空間群R-3mの3aサイト(0,0,0)にリチウムイオンが存在し、3bサイト(0,0,1/2)にNi、Co、及びMnが組成比に対応する配分で存在し、6cサイト(0,0,z)に酸素が存在する単一構造モデルを構造モデルとするリートベルト法による構造解析によって、カチオンミキシング率が2.0%以上6.0%以下であり、かつ、S値が1.30以上1.60以下である、複合酸化物。 【請求項7】 前記Meが、NiとCo及びMnからなる遷移金属である、請求項1?6のいずれかに記載の複合酸化物。 【請求項8】 請求項1?7のいずれか一項に記載の複合酸化物の製造方法であって、 NiのMeに対する原子比(B)が中心部で70mol%以上100mol%以下のコアと、NiのMeに対する原子比が周辺部で前記コアよりも小さいシェルとを有し、前記コア及び前記シェルを含めた粒子の全体でNiのMeに対する原子比(B0)が60mol%以上77mol%以下であり、前記コアの中心部におけるNiのMeに対する原子比(B1)と前記シェルの周辺部におけるNiのMeに対する原子比(B2)との差(B1-B2)が10mol%以上80mol%以下である複合金属化合物からなる前駆体を共沈法により得る工程(I)と、 前記工程(I)で得られた前記前駆体とLi化合物とをMeに対するLiの原子比が1.05以上1.25以下になる割合で混合して得た混合物を焼成する工程(II)とを含む、複合酸化物の製造方法。 【請求項9】 請求項2?7のいずれか一項に記載の複合酸化物の製造方法であって、 NiのMeに対する原子比(B)が中心部で70mol%以上100mol%以下のコアと、NiのMeに対する原子比が周辺部で前記コアよりも小さいシェルとを有し、前記コア及び前記シェルを含めた粒子の全体でNiのMeに対する原子比(B0)が60mol%以上77mol%以下であり、前記コアの中心部におけるNiのMeに対する原子比(B1)と前記シェルの周辺部におけるNiのMeに対する原子比(B2)との差(B1-B2)が10mol%以上80mol%以下である複合金属化合物からなる前駆体を共沈法により得る工程(I)と、 前記工程(I)で得られた前記前駆体とLi化合物とをMeに対するLiの原子比(x)が1.05以上1.25以下になる割合、かつ、 以下の関係式(2): x=(0.005y+1.06)±0.06 … (2) (関係式中、yは、前記コアの中心部におけるNiのMeに対する原子比(B1)から前記コア及び前記シェルを含めた粒子の全体におけるNiのMeに対する原子比(B0)を減算した値を示す。) を満たすように混合して得た混合物を焼成する工程(II)とを含む、複合酸化物の製造方法。 【請求項10】 前記前駆体において、前記コアの体積と前記シェルの体積との比〔(コア体積):(シェル体積)〕が、50:50?90:10である、請求項8又は9に記載の複合酸化物の製造方法。 【請求項11】 焼成後に得られた前記複合酸化物に関して、空間群R-3mの3aサイト(0,0,0)にリチウムイオンが存在し、3bサイト(0,0,1/2)にNi、Co、及びMnが組成比に対応する配分で存在し、6cサイト(0,0,z)に酸素が存在する単一構造モデルを構造モデルとするリートベルト法による構造解析によって、カチオンミキシング率が2.0%以上6.0%以下であり、かつ、S値が1.30以上1.60以下である、請求項8?10のいずれか一項に記載の複合酸化物の製造方法。 【請求項12】 請求項1?7のいずれか一項に記載の複合酸化物から得られる、非水電解質二次電池用の正極活物質。 【請求項13】 請求項12に記載の非水電解質二次電池用の正極活物質を主成分とする正極、セパレーター、及び負極を有する、非水電解質二次電池。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-07-17 |
出願番号 | 特願2012-281501(P2012-281501) |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(C01G)
P 1 651・ 852- YAA (C01G) P 1 651・ 537- YAA (C01G) P 1 651・ 851- YAA (C01G) P 1 651・ 121- YAA (C01G) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 山口 俊樹、廣野 知子 |
特許庁審判長 |
豊永 茂弘 |
特許庁審判官 |
山崎 直也 宮澤 尚之 |
登録日 | 2016-11-18 |
登録番号 | 特許第6040392号(P6040392) |
権利者 | 株式会社田中化学研究所 |
発明の名称 | 複合酸化物、複合遷移金属化合物、複合酸化物の製造方法、非水電解質二次電池用の正極活物質、並びに非水電解質二次電池 |
代理人 | 佐藤 彰雄 |
代理人 | 棚井 澄雄 |
代理人 | 佐藤 彰雄 |
代理人 | 加藤 広之 |
代理人 | 加藤 広之 |
代理人 | 鈴木 慎吾 |
代理人 | 鈴木 慎吾 |
代理人 | 棚井 澄雄 |