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審決分類 |
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載 B22F 審判 一部申し立て 2項進歩性 B22F 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B22F |
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管理番号 | 1343899 |
異議申立番号 | 異議2017-700655 |
総通号数 | 226 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-10-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-06-27 |
確定日 | 2018-08-09 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6052419号発明「圧粉磁芯用鉄粉および圧粉磁芯用鉄粉の選別方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6052419号の特許請求の範囲を訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕、〔6〕、〔7〕について訂正することを認める。 特許第6052419号の請求項1?5に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続きの経緯 特許第6052419号の請求項1?7に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2015年(平成27年) 3月27日(優先権主張2014年 4月 2日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成28年12月 9日に特許権の設定登録がされ、同年12月27日に特許掲載公報が発行されたものである。 その後、請求項1?5に係る特許に対し、平成29年 6月27日に特許異議申立人松本紀子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、当審において、同年 9月22日付けで取消理由を通知し、同年11月28日付けで、特許権者より、意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して申立人から同年12月28日差出の意見書が提出され、当審において、平成30年 1月18日付けで取消理由を通知し、同年 3月26日付けで、特許権者より、意見書の提出がなされたものである。 第2 訂正の適否についての判断 1 訂正の内容 平成29年11月28日付けの訂正請求書による訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)の内容は、以下のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、 「質量%で、Al:0.01%以下、Si:0.01%以下、Mn:0.1%以下、Cr:0.05%以下、含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、」とあるのを、 「質量%で、C:0.001?0.02%、P:0.02%以下、S:0.02%以下、N:0.01%以下、O:0.1%以下、Al:0.01%以下、Si:0.01%以下、Mn:0.1%以下、Cr:0.05%以下、含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、」に訂正する。 また、請求項1の記載を引用する請求項2?5も同様に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1に、 「成形圧:0.98GN/m^(2)で成形した圧粉体の断面で、電子線後方散乱回折(EBSD)を用いて結晶方位を測定し、前記結晶方位の測定結果からEBSD解析ソフトを用いて算出したKAM(Kernel Average Misorientation)の平均値が3.00°以下となる圧粉磁芯用鉄粉。」とあるのを、 「下記作製方法で作製したリング状圧粉体から採取したときの試験片の断面で、電子線後方散乱回折(EBSD)を用いて結晶方位を測定し、前記結晶方位の測定結果からEBSD解析ソフトを用いて算出したKAM(Kernel Average Misorientation)の平均値が3.00°以下となる圧粉磁芯用鉄粉。 (作製方法) シリコーンを、トルエンに溶解させて、樹脂分が1.0質量%となるような樹脂希釈溶液を作製し、ついで、鉄粉100質量部に対し、絶縁被覆層が0.5質量部となるように、鉄粉と樹脂希釈溶液とを混合し、大気中で乾燥させ、さらに大気中で、200℃×120minの樹脂焼付け処理を行い、鉄粉の粒子表面にシリコーンによる絶縁被覆層を形成した絶縁被覆鉄粉とする。この絶縁被覆鉄粉を、成形圧:0.98GN/m^(2)で、金型潤滑を用いて成形し、外径38mmφ×内径25mmφ×高さ6mmリング圧粉体とする。」に訂正する。 また、請求項1の記載を引用する請求項2?5も同様に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項6に、 「質量%で、Al:0.01%以下、Si:0.01%以下、Mn:0.1%以下、Cr:0.05%以下、含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成」とあるのを、「質量%で、C:0.001?0.02%、P:0.02%以下、S:0.02%以下、N:0.01%以下、O:0.1%以下、Al:0.01%以下、Si:0.01%以下、Mn:0.1%以下、Cr:0.05%以下、含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成」に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項6に、 「鉄粉を成形して圧粉体とし、該圧粉体の断面について、電子線後方散乱回折(EBSD)を用いて結晶方位を測定し、前記結晶方位の測定結果からEBSD解析ソフトを用いて算出したKAM(Kernel Average Misorientation)により、低鉄損圧粉磁芯を製造できる鉄粉を評価する圧粉磁芯用鉄粉の選別方法。」とあるのを、 「鉄粉を下記作製方法でリング状圧粉体とし、該圧粉体の断面について、電子線後方散乱回折(EBSD)を用いて結晶方位を測定し、前記結晶方位の測定結果からEBSD解析ソフトを用いて算出したKAM(Kernel Average Misorientation)により、低鉄損圧粉磁芯を製造できる鉄粉を評価する圧粉磁芯用鉄粉の選別方法。 (作製方法) シリコーンを、トルエンに溶解させて、樹脂分が1.0質量%となるような樹脂希釈溶液を作製し、ついで、鉄粉100質量部に対し、絶縁被覆層が0.5質量部となるように、鉄粉と樹脂希釈溶液とを混合し、大気中で乾燥させ、さらに大気中で、200℃×120minの樹脂焼付け処理を行い、鉄粉の粒子表面にシリコーンによる絶縁被覆層を形成した絶縁被覆鉄粉とする。この絶縁被覆鉄粉を、成形圧:0.98GN/m^(2)で、金型潤滑を用いて成形し、外径38mmφ×内径25mmφ×高さ6mmリング圧粉体とする。」に訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項7に、 「質量%で、Al:0.01%以下、Si:0.01%以下、Mn:0.1%以下、Cr:0.05%以下、含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成」とあるのを、 「質量%で、C:0.001?0.02%、P:0.02%以下、S:0.02%以下、N:0.01%以下、O:0.1%以下、Al:0.01%以下、Si:0.01%以下、Mn:0.1%以下、Cr:0.05%以下、含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成」に訂正する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項7に、 「鉄粉を、成形圧:0.98GN/m^(2)で成形して圧粉体とし、該圧粉体の断面について、電子線後方散乱回折(EBSD)を用いて結晶方位を測定し、前記結晶方位の測定結果からEBSD解析ソフトを用いて算出したKAM(Kernel Average Misorientation)の平均値が3.00°以下である場合を、低鉄損圧粉磁芯を製造できる鉄粉と評価する圧粉磁芯用鉄粉の選別方法。」とあるのを、 「鉄粉を、下記の作製方法でリング状圧粉体とし、該圧粉体の断面について、電子線後方散乱回折(EBSD)を用いて結晶方位を測定し、前記結晶方位の測定結果からEBSD解析ソフトを用いて算出したKAM(Kernel Average Misorientation)の平均値が3.00°以下である場合を、低鉄損圧粉磁芯を製造できる鉄粉と評価する圧粉磁芯用鉄粉の選別方法。 (作製方法) シリコーンを、トルエンに溶解させて、樹脂分が1.0質量%となるような樹脂希釈溶液を作製し、ついで、鉄粉100質量部に対し、絶縁被覆層が0.5質量部となるように、鉄粉と樹脂希釈溶液とを混合し、大気中で乾燥させ、さらに大気中で、200℃×120minの樹脂焼付け処理を行い、鉄粉の粒子表面にシリコーンによる絶縁被覆層を形成した絶縁被覆鉄粉とする。この絶縁被覆鉄粉を、成形圧:0.98GN/m^(2)で、金型潤滑を用いて成形し、外径38mmφ×内径25mmφ×高さ6mmリング圧粉体とする。」に訂正する。 2 訂正の可否について 2-1 訂正事項1について (1)訂正の目的 訂正事項1は、訂正前の請求項1における「質量%で、Al:0.01%以下、Si:0.01%以下、Mn:0.1%以下、Cr:0.05%以下、含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、」との発明特定事項について、鉄粉に、不純物以外で含有される元素が、Al、Si、Mn、Cr、Feのみであることを特定するものであると解されるところ、発明の詳細な説明の【0040】、実施例、表1の記載等を参酌すると、発明の詳細な説明には、上記特定事項の組成の鉄粉が記載されていなかったものを、本件発明1が発明の詳細な説明に記載されたものとなるように、発明の詳細な説明の記載と整合させて、 「質量%で、C:0.001?0.02%、P:0.02%以下、S:0.02%以下、N:0.01%以下、O:0.1%以下、Al:0.01%以下、Si:0.01%以下、Mn:0.1%以下、Cr:0.05%以下、含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、」と訂正するものである。 したがって、訂正事項1は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の規定に適合するものである。 (2)特許請求の範囲の拡張・変更の存否 上記(1)で検討したように、訂正事項1は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。 (3)新規事項の追加の有無 発明の詳細な説明には、以下の記載がある。 「【0040】 本発明の圧粉磁芯用鉄粉の成分組成は、上述したように、成形圧:0.98GN/m^(2)で成形した圧粉体の断面で得られるKAMの平均値が3.00°以下であれば、特に限定されないが、たとえば、質量%で、C:0.001?0.02%、Si:0.01%以下、Mn:0.1%以下、P:0.001?0.02%、S:0.02%以下、Al:0.01%以下、N:0.01%以下、O:0.1%以下、Cr:0.05%以下、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成とすることができる。」 「【実施例】 【0063】 (実施例1) 水アトマイズ法にて、表1に示す成分を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の純鉄粉を作製した。 【0064】 【表1】 」 訂正事項1は、上記記載に基づいて訂正されるものである。 したがって、訂正事項1は、願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであるといえるので、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。 (4)独立して特許を受けることができるものであること 上記(1)で検討したように、訂正事項1は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件についての規定の適用はない。 2-2 訂正事項2について (1)訂正の目的 訂正事項2は、KAMの平均値を測定する試験片の作製方法を明確化するものである。 したがって、訂正事項2は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の規定に適合するものである。 (2)特許請求の範囲の拡張・変更の存否 上記(1)で検討したように、訂正事項2は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。 (3)新規事項の追加の有無 発明の詳細な説明には、以下の記載がある。なお、下線は当審が付与した。 「【0072】 これらの鉄粉に、シリコーンによる絶縁被覆処理を施した。シリコーンを、トルエンに溶解させて、樹脂分が1.0質量%となるような樹脂希釈溶液を作製し、ついで、鉄粉100質量部に対し絶縁被覆層が0.5質量部となるように、鉄粉と樹脂希釈溶液とを混合し、大気中で乾燥させ、さらに大気中で、200℃×120minの樹脂焼付け処理を行い、鉄粉の粒子表面にシリコーンによる絶縁被覆層を形成した絶縁被覆鉄粉とした。 【0073】 これらの絶縁被覆鉄粉を、成形圧:10t/cm^(2)(0.98GN/m^(2))で、金型潤滑を用いて成形し、リング状圧粉体(外径38mmφ×内径25mmφ×高さ6mm)とした。 【0074】 これら圧粉体から試験片(断面5mm角)を採取し、圧縮方向と垂直な方向が観察面となるようにカーボン入りの熱硬化型樹脂に埋め込み、断面を研磨し、フィールドエミッション型フィラメントの走査型電子顕微鏡内で電子線後方散乱回折法(SEM/EBSD)を用いて、粉末粒子の結晶方位を測定(EBSD測定)した。そして、それらの結果からEBSD解析ソフト(TSLソリューソンズ製 OIM Analysis)を用いてKAMを算出した。」 訂正事項2は、上記記載に基づいて訂正されるものである。 したがって、訂正事項2によって訂正した事項は全て上記下線部に記載されているから、訂正事項2は、願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであるといえるので、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。 (4)独立して特許を受けることができるものであること 上記(1)で検討したように、訂正事項2は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件についての規定の適用はない。 2-3 訂正事項3について (1)訂正の目的 上記2-1(1)の検討と同様である。 したがって、訂正事項3は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の規定に適合するものである。 (2)特許請求の範囲の拡張・変更の存否 上記(1)で検討したように、訂正事項3は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。 (3)新規事項の追加の有無 上記2-1(3)の検討と同様である。 したがって、訂正事項3は、願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであるといえるので、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。 (4)独立して特許を受けることができるものであること 以下の第3の本件発明1についての検討と同様に、訂正後の請求項6に係る発明は、独立して特許を受けることができるものである。 したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件についての規定に適合するものである。 2-4 訂正事項4について (1)訂正の目的 上記2-2(1)の検討と同様である。 したがって、訂正事項4は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の規定に適合するものである。 (2)特許請求の範囲の拡張・変更の存否 上記(1)で検討したように、訂正事項4は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。 (3)新規事項の追加の有無 上記2-2(3)の検討と同様である。 したがって、訂正事項4は、願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであるといえるので、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。 (4)独立して特許を受けることができるものであること 以下の第3の本件発明1についての検討と同様に、訂正後の請求項6に係る発明は、独立して特許を受けることができるものである。 したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件についての規定に適合するものである。 2-5 訂正事項5について (1)訂正の目的 上記2-1(1)の検討と同様である。 したがって、訂正事項5は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の規定に適合するものである。 (2)特許請求の範囲の拡張・変更の存否 上記(1)で検討したように、訂正事項5は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。 (3)新規事項の追加の有無 上記2-1(3)の検討と同様である。 したがって、訂正事項5は、願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであるといえるので、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。 (4)独立して特許を受けることができるものであること 以下の第3の本件発明1についての検討と同様に、訂正後の請求項7に係る発明は、独立して特許を受けることができるものである。 したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件についての規定に適合するものである。 2-6 訂正事項6について (1)訂正の目的 上記2-2(1)の検討と同様である。 したがって、訂正事項6は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号の規定に適合するものである。 (2)特許請求の範囲の拡張・変更の存否 上記(1)で検討したように、訂正事項6は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。 (3)新規事項の追加の有無 上記2-2(3)の検討と同様である。 したがって、訂正事項6は、願書に添付された明細書又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであるといえるので、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。 (4)独立して特許を受けることができるものであること 以下の第3の本件発明1についての検討と同様に、訂正後の請求項7に係る発明は、独立して特許を受けることができるものである。 したがって、訂正事項6は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件についての規定に適合するものである。 2-7 一群の請求項について 訂正に係る本件訂正前の請求項2?5は、請求項1を引用するものであって、訂正によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1?5に対応する訂正後の請求項1?5は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 2-8 まとめ 以上のとおりであるから、本件訂正請求は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、同条第9項で準用する特許法第126条第5項、第6項、第7項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?5〕、〔6〕、〔7〕について、訂正を認める。 第3 特許異議の申立てについて 1 本件発明 本件訂正請求により訂正された請求項1?7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明7」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 質量%で、C:0.001?0.02%、P:0.02%以下、S:0.02%以下、N:0.01%以下、O:0.1%以下、Al:0.01%以下、Si:0.01%以下、Mn:0.1%以下、Cr:0.05%以下、含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、 下記作製方法で作製したリング状圧粉体から採取したときの試験片の断面で、電子線後方散乱回折(EBSD)を用いて結晶方位を測定し、前記結晶方位の測定結果からEBSD解析ソフトを用いて算出したKAM(Kernel Average Misorientation)の平均値が3.00°以下となる圧粉磁芯用鉄粉。 (作製方法) シリコーンを、トルエンに溶解させて、樹脂分が1.0質量%となるような樹脂希釈溶液を作製し、ついで、鉄粉100質量部に対し、絶縁被覆層が0.5質量部となるように、鉄粉と樹脂希釈溶液とを混合し、大気中で乾燥させ、さらに大気中で、200℃×120minの樹脂焼付け処理を行い、鉄粉の粒子表面にシリコーンによる絶縁被覆層を形成した絶縁被覆鉄粉とする。この絶縁被覆鉄粉を、成形圧:0.98GN/m^(2)で、金型潤滑を用いて成形し、外径38mmφ×内径25mmφ×高さ6mmリング圧粉体とする。 【請求項2】 粒径:45μm以下の粒子を10質量%以下有し、 平均硬さがビッカース硬さで80HV0.025以下であり、 単位面積当たりの介在物個数(個/m^(2))と介在物のメジアン径D50(m)との積が10000(個/m)以下であり、 見掛け密度:4.0Mg/m^(3)以上である請求項1に記載の圧粉磁芯用鉄粉。 【請求項3】 表面に絶縁被覆層を有する請求項1または2に記載の圧粉磁芯用鉄粉。 【請求項4】 前記絶縁被覆層が、シリコーン被覆層である請求項3に記載の圧粉磁芯用鉄粉。 【請求項5】 前記シリコーン被覆層が、圧粉磁芯用鉄粉100質量部に対して0.1質量部以上である請求項4に記載の圧粉磁芯用鉄粉。 【請求項6】 質量%で、C:0.001?0.02%、P:0.02%以下、S:0.02%以下、N:0.01%以下、O:0.1%以下、Al:0.01%以下、Si:0.01%以下、Mn:0.1%以下、Cr:0.05%以下、含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する対象とする鉄粉を下記作製方法でリング状圧粉体とし、該圧粉体の断面について、電子線後方散乱回折(EBSD)を用いて結晶方位を測定し、前記結晶方位の測定結果からEBSD解析ソフトを用いて算出したKAM(Kernel Average Misorientation)により、低鉄損圧粉磁芯を製造できる鉄粉を評価する圧粉磁芯用鉄粉の選別方法。 (作製方法) シリコーンを、トルエンに溶解させて、樹脂分が1.0質量%となるような樹脂希釈溶液を作製し、ついで、鉄粉100質量部に対し、絶縁被覆層が0.5質量部となるように、鉄粉と樹脂希釈溶液とを混合し、大気中で乾燥させ、さらに大気中で、200℃×120minの樹脂焼付け処理を行い、鉄粉の粒子表面にシリコーンによる絶縁被覆層を形成した絶縁被覆鉄粉とする。この絶縁被覆鉄粉を、成形圧:0.98GN/m^(2)で、金型潤滑を用いて成形し、外径38mmφ×内径25mmφ×高さ6mmリング圧粉体とする。 【請求項7】 質量%で、C:0.001?0.02%、P:0.02%以下、S:0.02%以下、N:0.01%以下、O:0.1%以下、Al:0.01%以下、Si:0.01%以下、Mn:0.1%以下、Cr:0.05%以下、含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する対象とする鉄粉を、下記の作製方法でリング状圧粉体とし、該圧粉体の断面について、電子線後方散乱回折(EBSD)を用いて結晶方位を測定し、前記結晶方位の測定結果からEBSD解析ソフトを用いて算出したKAM(Kernel Average Misorientation)の平均値が3.00°以下である場合を、低鉄損圧粉磁芯を製造できる鉄粉と評価する圧粉磁芯用鉄粉の選別方法。 (作製方法) シリコーンを、トルエンに溶解させて、樹脂分が1.0質量%となるような樹脂希釈溶液を作製し、ついで、鉄粉100質量部に対し、絶縁被覆層が0.5質量部となるように、鉄粉と樹脂希釈溶液とを混合し、大気中で乾燥させ、さらに大気中で、200℃×120minの樹脂焼付け処理を行い、鉄粉の粒子表面にシリコーンによる絶縁被覆層を形成した絶縁被覆鉄粉とする。この絶縁被覆鉄粉を、成形圧:0.98GN/m^(2)で、金型潤滑を用いて成形し、外径38mmφ×内径25mmφ×高さ6mmリング圧粉体とする。」 2 特許異議申立理由の概要 申立人は、証拠として甲第1号証?甲第10号証を提出し、以下の理由により、訂正前の請求項1?5に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。 (1)申立理由1 訂正前の請求項1?5に係る発明は、以下の申立理由1-1、1-2の点で、発明の詳細な説明に記載したものではないし、明確でないから、訂正前の請求項1?5に係る特許は、特許法第36条第6項第第1号又は2号の規定に違反してなされたものである。 申立理由1-1(特許異議申立書第4頁第19行?第5頁第2行) 申立理由1-2(特許異議申立書第5頁第3行?第11行) (2)申立理由2 訂正前の請求項1?5に係る発明は、特許異議申立書第5頁第第12行?第19行に記載の点で、明確でないから、訂正前の請求項1?5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してなされたものである。 (3)申立理由3 訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、訂正前の請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定に違反してなされたものである。 (4)申立理由4 訂正前の請求項1?5に係る発明は、甲第1号証?甲第10号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正前の請求項1?5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。 [証拠方法] 甲第1号証:特開2010-43361号公報 甲第2号証:特開2013-149661号公報 甲第3号証:特表2007-505216号公報 甲第4号証:西田卓彦et al.「電磁鉄心用噴霧鉄圧粉体の磁気特性」日本金属学会誌(1978)第42巻第6号p.593-599 甲第5号証:前田徹et al.「極低鉄損焼結軟磁性材料の開発」SEIテクニカルレビュー 2005年3月 第166号 p.1-6 甲第6号証:SEM-EBSDによる歪分布評価、JFEテクノリサーチ株式会社ホームページ 甲第7号証:榊原洋平et al.「種々の荷重モードによりひずみを付与した低炭素ステンレス鋼の粒界近傍における方位差分布評価」日本金属学会誌(2010)第74巻第4号p.258-263 甲第8号証:特開2013-83574号公報 甲第9号証:特開2011-33600号公報 甲第10号証:特開2012-154891号公報 以下、それぞれ「甲1」?「甲10」という。 3 平成29年 9月22日付け取消理由の概要 訂正前の請求項1?5に係る特許に対して平成29年 9月22日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、以下のとおりである。 (1)取消理由1(上記申立理由1-2うち、特許法第36条第6項第1号を採用) 本件訂正前の請求項1?5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでない。 その理由は、特許異議申立書第5頁第3行?第11行左から第4文字目の記載において、第9行の「矛盾する」を「齟齬が生じている」と読み替えた、以下のとおりである。 本件訂正前の請求項1は、「質量%で、Al:0.01%以下、Si:0.01%以下、Mn:0.1%以下、Cr:0.05%以下、含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、」と特定されており、訂正前の請求項1に係る鉄粉は、不可避不純物を除くと、Al、Si、Mn、Cr、Fe以外の成分を含まないものと解されるところ、発明の詳細な説明には、上記成分に加えてC、N、O、P、Sを含む鉄粉しか記載されていない(【0064】、【0065】等参照。)。 よって、訂正前の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。 (2)取消理由2(上記申立理由2を採用したもの) 本件訂正前の請求項1?5に係る発明は、明確でない。 その理由は、特許異議申立書第5頁第12行?第19行の記載された以下のとおりである。 本件訂正前の請求項1には、「成形圧:0.98GN/m^(2)で成形した圧粉体の断面で、電子線後方散乱回折(EBSD)を用いて結晶方位を測定し、前記結晶方位の測定結果からEBSD解析ソフトを用いて算出したKAM(Kernel Average Misorientation)の平均値が3.00°以下」と特定されている。 しかしながら、KAM値を測定する圧粉体について、成形圧以外の成形条件が何ら特定されておらず、その他の成形条件によって圧粉体のKAM値が異なるから、訂正前の請求項1で特定されるKAM値は、成形条件によって、訂正前の請求項1の範囲内となったり、範囲外となるものであるから、訂正前の請求項1の範囲は、明確でない。 また、訂正前の請求項1を引用する、訂正前の請求項2?5も、同様に明確でない。 なお、取消理由通知書において、「第16行の『その他の成型条件』とは、例えば、圧粉体の形状(本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0061】、【0073】参照)が考えられる。」と付記された。 4 平成29年12月28日差出の申立人の意見の概要 申立人は、証拠として甲第11号証?甲第17号証を提出し、以下の理由により、訂正後の請求項1に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。 (1)申立理由5 訂正後の請求項1に係る発明は、以下の申立理由5-1、5-2の点で、明確ではないから、特許法第36条第6項第2号の規定する要件を満たしていない。 申立理由5-1(平成29年12月28日差出の意見書第2頁第15行?第3頁第14行) 申立理由5-2(平成29年12月28日差出の意見書第3頁第16行?第22行) (2)申立理由6 訂正後の請求項1に係る発明は、以下の申立理由6-1?6-3の点で、発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 申立理由6-1(平成29年12月28日差出の意見書第3頁第23行?第4頁第13行) 申立理由6-2(平成29年12月28日差出の意見書第4頁第14行?第5頁第2行) 申立理由6-3(平成29年12月28日差出の意見書第5頁第3行?第16行) [証拠方法] 甲第11号証:信越化学工業株式会社の「シリコーンレジン」のカタログ、2006年8月 甲第12号証:東レ・ダウコーニング株式会社の「塗料・コーティング用シリコーン」のカタログ、2006年5月 甲第13号証:特開2013-187480号公報 甲第14号証:特開2013-187481号公報 甲第15号証:特開2008-63651号公報 甲第16号証:武本聡et al.「Fe-Si系圧延磁芯の電気抵抗率および磁芯サイズと磁芯損失の関係」電気製鋼 2005年7月 第76巻3号p.165-170 甲第17号証:太田恵造 著、「磁気工学の基礎II-磁気の応用」 初版第13刷、共立出版株式会社発行、1992年4月5日、p.308?313 5 平成30年 1月18日付け取消理由の概要 訂正後の請求項1?5に係る特許に対して平成30年 1月18日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、以下のとおりである。 なお、平成30年 1月18日付け取消理由通知書の第2の1では、「訂正後の請求項1?7に係る発明は、明確でない。」と記載しているが、特許異議申立てがされた請求項は、請求項1?5であるから、「訂正後の請求項1?5に係る発明は、明確でない。」の誤記である。 (1)取消理由3(上記申立理由5-1を採用したもの) 訂正後の請求項1?7に係る発明は、明確でない。 その理由は、平成29年12月28日差出の特許異議申立人による意見書の第2頁第15行?第3頁第14行に記載された以下のとおりである。 本件発明1において 「下記作製方法で作製したリング状圧粉体から採取したときの試験片の断面で、電子線後方散乱回折(EBSD)を用いて結晶方位を測定し、前記結晶方位の測定結果からEBSD解析ソフトを用いて算出したKAM(Kernel Average Misorientation)の平均値が3.00°以下となる圧粉磁芯用鉄粉。 (作製方法) シリコーンを、トルエンに溶解させて、樹脂分が1.0質量%となるような樹脂希釈溶液を作製し、ついで、鉄粉100質量部に対し、絶縁被覆層が0.5質量部となるように、鉄粉と樹脂希釈溶液とを混合し、大気中で乾燥させ、さらに大気中で、200℃×120minの樹脂焼付け処理を行い、鉄粉の粒子表面にシリコーンによる絶縁被覆層を形成した絶縁被覆鉄粉とする。この絶縁被覆鉄粉を、成形圧:0.98GN/m^(2)で、金型潤滑を用いて成形し、外径38mmφ×内径25mmφ×高さ6mmリング圧粉体とする。」 と特定された作製方法によって作成された圧粉体のリング状圧粉体のKAM値は、用いられるシリコーンの種類によって、形成される絶縁被覆層の硬度及び強度が異なり、絶縁被覆層の硬度及び強度が異なると、圧縮成形の際に鉄粉の変形具合が異なり、圧縮成形に基づく鉄粉の歪みが異なるため、成形されたリング状圧粉体のKAM値が異なる。 よって、シリコーンの種類によって、リング状圧粉体のKAM値が異なるため、本件発明1は、明確でない。 なお、取り消し理由通知書において、「本件特許明細書の実施例において使用されたシリコーンについて、具体的な分子式、商品名や製品番号について、意見書で釈明されたい。その際に、再現実験データ等があることが、望ましい。」と付記された。 6 判断 (1)取消理由通知に記載した取消理由について ア 上記取消理由1について 訂正後の請求項1は、鉄粉の組成について「質量%で、C:0.001?0.02%、P:0.02%以下、S:0.02%以下、N:0.01%以下、O:0.1%以下、Al:0.01%以下、Si:0.01%以下、Mn:0.1%以下、Cr:0.05%以下、含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、」との特定事項を備えるものとなり、発明の詳細な説明に記載されたものとなった。 よって、本件発明1?5は、発明の詳細な説明に記載されたものである。 イ 上記取消理由2、3について (ア) 特許権者は、平成30年 3月26日付けの意見書において、以下の主張をしている。 「実施例において使用したシリコーンは、東レ・ダウコーニング社製 シリコーン樹脂 SR2400である。乙第1号証の通り、東レ・ダウコーニング社製 シリコーン樹脂 SR2400は、市販のシリコーン樹脂であり、例えば、乙第2号証(段落[0065]、段落[0074])、乙第3号証(段落[0030])、乙第4号証(段落[0087])にも記載されているように、本願出願以前から一般的なシリコーンとして知られている。」 (イ) そして、特許権者は、証拠方法として、以下の乙第1号証?乙第4号証を提出した。 乙第1号証:シリコーン材料ハンドブック、東レ・ダウコーニング・シリコーン株式会社(パブリシティー委員会)発行、1995年8月、 p.281-285 乙第2号証:特開2007-194273号公報 乙第3号証:特開2013-187481号公報 乙第4号証:国際公開第2011/126120号 以下、それぞれ「乙1」?「乙4」という。 (ウ) 乙1?乙4に記載されるように、上記アの特許権者の主張のとおり、「SR2400」が市販のシリコーン樹脂であり、圧粉磁芯用鉄粉の技術分野において、絶縁被膜形成に一般的に用いられることは、当業者の技術常識であると認められる。 (エ) 本件発明1は、本件訂正請求により、KAM値の測定を行うリング状圧粉体の成形条件が、 「シリコーンを、トルエンに溶解させて、樹脂分が1.0質量%となるような樹脂希釈溶液を作製し、ついで、鉄粉100質量部に対し、絶縁被覆層が0.5質量部となるように、鉄粉と樹脂希釈溶液とを混合し、大気中で乾燥させ、さらに大気中で、200℃×120minの樹脂焼付け処理を行い、鉄粉の粒子表面にシリコーンによる絶縁被覆層を形成した絶縁被覆鉄粉とする。この絶縁被覆鉄粉を、成形圧:0.98GN/m^(2)で、金型潤滑を用いて成形し、外径38mmφ×内径25mmφ×高さ6mmリング圧粉体とする。」 のように特定され、さらに、当該リング状圧粉体を成形する際に用いる「シリコーン」は、上記(ア)?(ウ)のとおり、東レ・ダウコーニング株式会社製の「SR2400」であることが理解できる。 (オ) 以上、上記(ア)?(エ)より、KAM値の測定を行うリング状圧粉体の成形条件は明確であり、KAM値は一義的に決まるから、本件発明1?5は、明確である。 (2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について ア 上記申立理由1-1、6-1及び6-3について 特許法第36条第6項第1号(サポート要件) 特許法第36条第6項第2号(明確性) 申立人は、特許異議申立書第4頁第19行?第5頁第2行において、本件特許明細書の発明の詳細な説明の【0078】の表2を参酌すると、請求項2の条件を満たさない鉄粉は、請求項1の条件を満たさないから、 本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えており、特許を受けようとする発明が明確でない旨主張している。 また、申立人は、平成29年12月28日差出の意見書(以下、単に「意見書」という。)第3頁第23行?第4頁第13行及び第5頁第3行?第16行において、本件発明1は、見かけ密度及び粒径を限定しておらず、見かけ密度及び粒径を限定していない本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えている旨主張している。 しかしながら、本件特許明細書の発明の詳細な説明の表2、表3を参酌すると、本件発明1は、KAMの平均値が3.00°以下であることにより、ヒステリシス損、鉄損が低い圧粉磁芯用鉄粉を提供するという課題(【0011】)を解決しているので、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されているといえるし、明確である。 イ 上記申立理由6-2について 特許法第36条第6項第1号(サポート要件) 申立人は、意見書第4頁第14行?第5頁第2行において、本件発明1は、表面に絶縁層を有する圧粉磁芯用鉄粉を含むものであり、本件発明1は、例えば中間層として、絶縁性アモルファス層を表面に有する圧粉磁芯用鉄粉に、さらにシリコーンによる絶縁被覆層を形成した絶縁被覆鉄粉を成形したリング状圧粉体のKAM値が3.00である場合も、本件発明1の範囲に含まれるが、発明の詳細な説明には、上記中間層を有する圧粉磁芯用鉄粉が記載されておらず、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えている旨主張している。 しかしながら、当該主張は、本件訂正請求の内容に付随して生じた理由であるとはいえず、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由に対して実質的に新たな内容を含むものであるから、採用できない。 ウ 上記申立理由1-2について 特許法第36条第6項第2号(明確性) 申立人は、特許異議申立書第5頁第3行?第11行において、請求項1の「質量%で、Al:0.01%以下、Si:0.01%以下、Mn:0.1%以下、Cr:0.05%以下、含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり」との特定は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、明確ではない旨主張している。 しかしながら、請求項1での上記特定は、それ自体としては、明確であり、上記主張は採用できない。 エ 上記申立理由5-2について 特許法第36条第6項第2号(明確性) 申立人は、意見書第3頁第16行?第22行において、本件発明1は、見かけ密度及び粒径を限定しておらず、見かけ密度及び粒径が異なると、リング状圧粉体の鉄粉に蓄積される歪が異なり、歪が異なると、測定されるKAM値が異なるため、本件発明1の範囲が不明確である旨主張している。 しかしながら、当該主張は、本件訂正請求の内容に付随して生じた理由であるとはいえず、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由に対して実質的に新たな内容を含むものであるから、採用できない。 オ 上記申立理由3、4について 特許法第29条第1項第3号(新規性) 特許法第29条第2項(進歩性) (ア)申立人は、特許異議申立書第5頁第27行?第11頁第19行において、証拠として、甲第1号証?甲第10号証を提出し、請求項1に係る特許は、特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、請求項2?5に係る特許は、特許法29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許を取り消すべきものである旨主張している。 (イ)本件発明1について 本件発明1と、甲1に記載された発明とを対比すると、少なくとも、甲1には、「圧粉磁芯用鉄粉」が「成形圧:0.98GN/m^(2)で成形した圧粉体の断面で、電子線後方散乱回折(EBSD)を用いて結晶方位を測定し、前記結晶方位の測定結果からEBSD解析ソフトを用いて算出したKAM(Kernel Average Misorientation)の平均値が3.00°以下となる」こと(以下、「本件発明特定事項」という。)が記載されていない点で相違する。 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、上記本件発明特定事項に関して以下の記載がある。なお、下線は、当審が付与した。 「【0011】 本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、圧粉磁芯の原料粉末として、鉄損が低く、特にヒステリシス損が低い圧粉磁芯の製造が可能な、圧粉磁芯用鉄粉を提供することを目的とする。なお、ここでいう「鉄損の低い」とは、鉄損が、板厚0.35mmの電磁鋼板を積層して作製された磁芯と同等レベル以下である、鉄損:80 W/kg未満である場合をいうものとする。 【課題を解決するための手段】 【0012】 本発明者らは、上記した目的を達成するため、圧粉磁芯の鉄損に及ぼす各種要因について、鋭意検討した。その結果、鉄損が低い圧粉磁芯とするためには、圧粉体(圧粉磁芯)とした際に、鉄粉に蓄積される歪量を可能な限り低減する必要があることに着目した。そのために、まず、圧粉体における粉粒子の歪量を評価する必要があることに思い至った。そして、原料粉末を所定のプレス圧(成形圧)で成形し得られた圧粉体の断面で測定したKAM(Kernel Average Misorientation)値が、再結晶焼鈍後の結晶粒径に強い相関があることを見出し、成形時に鉄粉に蓄積される歪量の指標として、KAMを用いることに想到した。 【0013】 本発明者らの更なる検討により、対象とする原料粉末(鉄粉)を所定の成形圧で圧粉体とし、得られた圧粉体断面についてKAM値を測定し、その平均KAM値が3.00°以下であれば、鉄粉内に蓄積される歪量は少なく、歪取焼鈍後に再結晶粒が粗大化し、圧粉体(磁芯)の鉄損が低減することを知見した。また、所定の成形圧としては、組織中の歪分布が均一で、安定したKAM値が得られる、0.98GN/m^(2)とすることが好ましいことも見出している。」 以上の記載から、本件発明1では、鉄損が低い圧粉磁芯とするためには、圧粉体とした際に、鉄粉に蓄積される歪量を低減する必要があることに着目し、圧粉体における粉粒子の歪量を評価する指標として、原料粉末を所定の成形圧、具体的には、0.98GN/m^(2)で成形して得られた圧粉体の断面で測定したKAM値が3.00°以下であれば、鉄粉内に蓄積される歪量は少なく、鉄損が低減するという技術思想に基づいて、本件発明特定事項を特定している。 一方、甲6?甲10には、歪みを評価するパラメータとして、KAM値が用いられるという一般的事項が記載されているものの、甲1?甲10のいずれにも、上記の本件発明特定事項についての技術思想については、記載も示唆もされていない。 したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明ではないし、甲1?甲10に記載された発明から、当業者が容易になし得たものでもない。 (ウ)本件発明2?5について 本件発明2?5は、請求項1に係る発明の特定事項を全て有するものであるから、上記(イ)における本件発明1についての判断と同様の理由により、甲1?甲10に記載された発明から、当業者が容易になし得たものではない。 したがって、本件発明2?5は、甲1?甲10に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第4 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 質量%で、C:0.001?0.02%、P:0.02%以下、S:0.02%以下、N:0.01%以下、O:0.1%以下、Al:0.01%以下、Si:0.01%以下、Mn:0.1%以下、Cr:0.05%以下、含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなり、 下記作製方法で作製したリング状圧粉体から採取したときの試験片の断面で、電子線後方散乱回折(EBSD)を用いて結晶方位を測定し、前記結晶方位の測定結果からEBSD解析ソフトを用いて算出したKAM(Kernel Average Misorientation)の平均値が3.00°以下となる圧粉磁芯用鉄粉。 (作製方法) シリコーンを、トルエンに溶解させて、樹脂分が1.0質量%となるような樹脂希釈溶液を作製し、ついで、鉄粉100質量部に対し絶縁被覆層が0.5質量部となるように、鉄粉と樹脂希釈溶液とを混合し、大気中で乾燥させ、さらに大気中で、200℃×120minの樹脂焼付け処理を行い、鉄粉の粒子表面にシリコーンによる絶縁被覆層を形成した絶縁被覆鉄粉とする。この絶縁被覆鉄粉を、成形圧:0.98GN/m^(2)で、金型潤滑を用いて成形し、外径38mmφ×内径25mmφ×高さ6mmリング状圧粉体とする。 【請求項2】 粒径:45μm以下の粒子を10質量%以下有し、 平均硬さがビッカース硬さで80HV0.025以下であり、 単位面積当たりの介在物個数(個/m^(2))と介在物のメジアン径D50(m)との積が10000(個/m)以下であり、 見掛け密度:4.0Mg/m^(3)以上である請求項1に記載の圧粉磁芯用鉄粉。 【請求項3】 表面に絶縁被覆層を有する請求項1または2に記載の圧粉磁芯用鉄粉。 【請求項4】 前記絶縁被覆層が、シリコーン被覆層である請求項3に記載の圧粉磁芯用鉄粉。 【請求項5】 前記シリコーン被覆層が、圧粉磁芯用鉄粉100質量部に対して0.1質量部以上である請求項4に記載の圧粉磁芯用鉄粉。 【請求項6】 質量%で、C:0.001?0.02%、P:0.02%以下、S:0.02%以下、N:0.01%以下、O:0.1%以下、Al:0.01%以下、Si:0.01%以下、Mn:0.1%以下、Cr:0.05%以下、含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する対象とする鉄粉を下記作製方法でリング状圧粉体とし、該圧粉体の断面について、電子線後方散乱回折(EBSD)を用いて結晶方位を測定し、前記結晶方位の測定結果からEBSD解析ソフトを用いて算出したKAM(Kernel Average Misorientation)により、低鉄損圧粉磁芯を製造できる鉄粉を評価する圧粉磁芯用鉄粉の選別方法。 (作製方法) シリコーンを、トルエンに溶解させて、樹脂分が1.0質量%となるような樹脂希釈溶液を作製し、ついで、鉄粉100質量部に対し絶縁被覆層が0.5質量部となるように、鉄粉と樹脂希釈溶液とを混合し、大気中で乾燥させ、さらに大気中で、200℃×120minの樹脂焼付け処理を行い、鉄粉の粒子表面にシリコーンによる絶縁被覆層を形成した絶縁被覆鉄粉とする。この絶縁被覆鉄粉を、成形圧:0.98GN/m^(2)で、金型潤滑を用いて成形し、外径38mmφ×内径25mmφ×高さ6mmリング状圧粉体とする。 【請求項7】 質量%で、C:0.001?0.02%、P:0.02%以下、S:0.02%以下、N:0.01%以下、O:0.1%以下、Al:0.01%以下、Si:0.01%以下、Mn:0.1%以下、Cr:0.05%以下、含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する対象とする鉄粉を、下記の作製方法でリング状圧粉体とし、該圧粉体の断面について、電子線後方散乱回折(EBSD)を用いて結晶方位を測定し、前記結晶方位の測定結果からEBSD解析ソフトを用いて算出したKAM(Kernel Average Misorientation)の平均値が3.00°以下である場合を、低鉄損圧粉磁芯を製造できる鉄粉と評価する圧粉磁芯用鉄粉の選別方法。 (作製方法) シリコーンを、トルエンに溶解させて、樹脂分が1.0質量%となるような樹脂希釈溶液を作製し、ついで、鉄粉100質量部に対し絶縁被覆層が0.5質量部となるように、鉄粉と樹脂希釈溶液とを混合し、大気中で乾燥させ、さらに大気中で、200℃×120minの樹脂焼付け処理を行い、鉄粉の粒子表面にシリコーンによる絶縁被覆層を形成した絶縁被覆鉄粉とする。この絶縁被覆鉄粉を、成形圧:0.98GN/m^(2)で、金型潤滑を用いて成形し、外径38mmφ×内径25mmφ×高さ6mmリング状圧粉体とする。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-04-23 |
出願番号 | 特願2015-533372(P2015-533372) |
審決分類 |
P
1
652・
113-
YAA
(B22F)
P 1 652・ 121- YAA (B22F) P 1 652・ 537- YAA (B22F) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 米田 健志 |
特許庁審判長 |
池渕 立 |
特許庁審判官 |
結城 佐織 河本 充雄 |
登録日 | 2016-12-09 |
登録番号 | 特許第6052419号(P6052419) |
権利者 | JFEスチール株式会社 |
発明の名称 | 圧粉磁芯用鉄粉および圧粉磁芯用鉄粉の選別方法 |
復代理人 | 久利 庸平 |
代理人 | 井上 茂 |
代理人 | 井上 茂 |
代理人 | 森 和弘 |
復代理人 | 久利 庸平 |
代理人 | 森 和弘 |