• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C22B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C22B
管理番号 1343904
異議申立番号 異議2017-701234  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-10-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-12-26 
確定日 2018-08-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6159630号発明「金の回収方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6159630号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第6159630号の請求項1、2、4に係る特許を維持する。 特許第6159630号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許第6159630号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成25年9月19日(優先権主張 平成24年9月27日 日本国(JP))になされ、平成29年6月16日に特許権の設定登録がされ、同年7月5日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、特許異議申立人 藤井正弘(以下「異議申立人」という。)により、同年12月26日に特許異議の申立てがされ、平成30年4月6日付けで特許権者に取消理由が通知され、その指定期間内の同年6月11日に特許権者より意見書及び訂正(以下、「本件訂正」という。)請求が受付けられ、同年同月14日付けで訂正請求があった旨が異議申立人に通知され、その指定期間内の同年7月12日付けで異議申立人から意見書が提出されたものである。


第2 本件訂正の適否についての判断
本件訂正の請求の趣旨、及び、訂正の内容は、本件訂正請求書の記載によれば、それぞれ以下のとおりのものである。

1. 請求の趣旨
本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?4について訂正することを求める。

2. 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「 金及び金以外の金属を含むpHが1以下の強酸性溶液に、酸化還元電位(銀-塩化銀電極)が400mV以上700mV未満になるように還元剤を添加して、金を還元析出し、
前記強酸性溶液が、前記金以外の金属を金の含有量の2倍以上含む高不純物強酸性溶液であることを特徴とする金の回収方法。」
とあるのを、
同請求項3の、「 前記還元剤が、ヒドラジン、炭酸ヒドラジン、及び硫酸ヒドラジンから選択される少なくとも1種である」との発明特定事項を組み入れて、
「 金及び金以外の金属を含むpHが1以下の強酸性溶液に、酸化還元電位(銀-塩化銀電極)が400mV以上700mV未満になるように還元剤を添加して、金を還元析出し、
前記強酸性溶液が、前記金以外の金属を金の含有量の2倍以上含む高不純物強酸性溶液であり、
前記還元剤が、ヒドラジン、炭酸ヒドラジン、及び硫酸ヒドラジンから選択される少なくとも1種であることを特徴とする金の回収方法。」
に訂正し、その結果として、請求項1を引用する請求項2、4も訂正する。

(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に、
「 前記金以外の金属が、鉄、銅、アルミニウム、及びニッケルから選択される少なくとも1種である請求項1から3のいずれかに記載の金の回収方法。」
とあるのを、
「 前記金以外の金属が、鉄、銅、アルミニウム、及びニッケルから選択される少なくとも1種である請求項1から2のいずれかに記載の金の回収方法。」
に訂正する。

3. 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求
の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明に、訂正前の請求項3の発明特定事項を組み入れるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

(2) 訂正事項2
訂正事項2は、訂正前の請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3) 訂正事項3
訂正事項3は、請求項3を削除する訂正事項2に伴って、請求項4が引用する請求項を「請求項1から2のいずれかに」訂正するものであるから明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

(4) 一群の請求項について
訂正事項2により請求項3は削除されるが、訂正前の請求項2?4は、訂正前の請求項1を引用する請求項であり、訂正前の請求項1?4に対応する訂正後の請求項1?4は一群の請求項であるところ、本件訂正は、一群の請求項に対して請求されているから、特許法120条の5第4項に適合する。

(5) 独立特許要件について
本件特許の全請求項について特許異議の申立てがされたので、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の規定が適用される請求項はなく、したがって、訂正事項1?2には、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の規定が適用されない。

4. 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号、及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。


第3 本件特許発明
上記第2のとおり訂正することを認めるので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明4」ということがあり、また、これらを、まとめて、「本件特許発明」ということがある。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
金及び金以外の金属を含むpHが1以下の強酸性溶液に、酸化還元電位(銀-塩化銀電極)が400mV以上700mV未満になるように還元剤を添加して、金を還元析出し、
前記強酸性溶液が、前記金以外の金属を金の含有量の2倍以上含む高不純物強酸性溶液であり、
前記還元剤が、ヒドラジン、炭酸ヒドラジン、及び硫酸ヒドラジンから選択される少なくとも1種であることを特徴とする金の回収方法。
【請求項2】
前記強酸性溶液に還元剤を添加する前において、酸化還元電位(銀-塩化銀電極)が700mV以上である請求項1に記載の金の回収方法。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記金以外の金属が、鉄、銅、アルミニウム、及びニッケルから選択される少なくとも1種である請求項1から2のいずれかに記載の金の回収方法。」


第4 特許異議の申立てについて
1. 申立理由の概要
異議申立人は特許異議申立書において、以下の甲第1?4号証を提示して、以下の申立理由1?2によって、本件訂正前の請求項1?4に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

(1) 申立理由1(特許法第29条第1項第3号について(同法第113
条第2号))
本件訂正前の請求項1、2、4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明である。

(2) 申立理由2(特許法第29条第2項について(同法第113条第2
号))
本件訂正前の請求項1?4に係る発明は、甲第1?4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

[異議申立人が提出した証拠方法]
甲第1号証:特開平5-222465号公報
甲第2号証:特開2005-272887号公報
甲第3号証:特開昭58-197233号公報
甲第4号証:特開平11-229053号公報


2. 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1?4に係る発明に対して、平成30年4月6日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

本件特許の請求項1?2、4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は取り消すべきものである。


刊行物1:特開平5-222465号公報(甲第1号証)


3. 当審の判断
(1) 刊行物1の記載事項(当審注:「…」は記載の省略を表す。)、及
び、刊行物1記載の発明
刊行物1には、次の記載がある。
1ア. 「【請求項1】 金、白金、ロジウム、パラジウム、卑金属を主として含む塩酸-硝酸溶液を50℃以上に加温し、該溶液の酸化還元電位が800mV以下となるようにホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、蟻酸の群から選ばれる一種もしくは二種以上を添加することを特徴とするパラジウム含有溶液からのNO_(X)の除去方法。」

1イ. 「【0004】通常、上記の混酸溶液は下記表1に示す組成のものであり、この溶液からのパラジウムの抽出分離については、溶媒抽出に際し、硫酸第一鉄を添加して金を沈澱させ、得たろ液に抽出剤として硫化ジ-n-ヘキシルを添加した有機溶媒を接触させパラジウムを抽出分離する方法が知られている(例えば特開昭51-84702号公報、特開昭57-79135号公報参照)。
【0005】

【0006】しかしながら、上記表1に示されるような混酸酸性溶液では、抽出剤として用いる硫化ジ-n-ヘキシルのような硫化ジアルキルは容易に酸化され、スルホキシドとなり劣化する。この劣化に伴いパラジウムの抽出率の低下と、白金やロジウム等の金属の蓄積が増加し、油水分離が悪化して抽出工程に支障を来すことになる。
【0007】また硫化ジアルキルによる金の抽出を防止するための硫酸第一鉄による金の還元においても、上記溶液中の硝酸は硫化第一鉄を酸化し、その使用量を高めることになる。このため、以後の工程において得られる各貴金属中の不純物の割合が高くなる等の問題がある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は…金、白金、ロジウム、パラジウム、卑金属を主として含む塩酸-硝酸溶液から金と硝酸とを確実に除去することのできる除去方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するために本発明者らは種々の検討を行い、ホルムアルデヒドが硝酸の分解効果があり、以後の操作に影響を与えないことを見いだし、本発明に到ったものである。即ち、本発明によるパラジウム含有溶液からのNO_(X)の除去方法は、金、白金、ロジウム、パラジウム、卑金属を主として含む塩酸-硝酸溶液を50℃以上に加温し、該溶液の酸化還元電位が800mV以下となるようにホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、蟻酸の群から選ばれる一種もしくは二種以上を添加することを特徴とする。」

1ウ. 「【0010】
【作用】本発明において、反応温度を上記のように50℃以上としたのは、50℃より低いと、還元反応が充分ではないからである。しかし、反応温度をあまりに高くすると、反応が激しすぎ制御が困難になったり、安全上問題が生じやすいため、80℃以下とすることが好ましい。より好ましくは55?65℃で反応を行うとよい。なおホルムアルデヒドと硝酸との反応は、反応時間や空気の混入による再酸化の防止を充分に考慮すれば、ほぼ当量で完結し、反応生成物はNO_(X)、CO_(2)、H_(2)Oであり、水溶液中に残留せず以後の操作に影響を与えない。
【0011】反応終点の判定はNO_(X)の発生状況で推察できるものの、より精度のよい反応終点の判定と無人操作等を考慮すると、酸化還元電位による判定が好ましく、この場合、標準水素電極を基準とする酸化還元電位が概ね800mVで反応は終了する。このとき金も同時に還元され析出し溶液より除去される。本発明で還元剤としてホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、蟻酸の群から選ばれる一種もしくは二種以上を添加するようにしたのは、還元力と反応により生ずる生成物の影響とを考慮したものであり、例えばヒドラジンでは還元力が不充分である。」

1エ. 「【0012】
【実施例】以下、本発明によるパラジウム含有溶液からのNO_(X)の除去方法の具体的な実施例について説明する。
〔実施例1〕銀電解スライムを湿量で433.7kg(乾量で333.7kg)を62%硝酸280リットルで抽出し、得た抽出液のpHを5.5になるまで24重量%の苛性ソーダ溶液200リットルを加えた。発生した澱物を分離し、35%塩酸62リットルと水とを加えて溶解し、150リットルの下記表2の組成の溶液を得た。
【0013】

【0014】次に、得られた溶液150リットルを200リットルの攪拌機付き反応槽に入れ、溶液の温度を55℃に加温し、攪拌しつつ定量ポンプを用いて工業用ホルマリン(ホルムアルデヒド37重量%)を約100ml/分の割合で添加した。添加後約10分でNO_(X)が発生し始め、以後、反応の進行とともに溶液の温度も上昇し、70分後には75℃となった。その後は温度上昇も緩やかになり、NO_(X)の発生も減少した。90分後に溶液の酸化還元電位が830mVとなったため、ホルマリンの添加を中止した。その後10分程度放置し、溶液の酸化還元電位が800mVで安定していることを確認し反応終了とした。
【0015】上記の反応で使用したホルマリンは8.1リットルであった。この量は反応当量の1.2倍であり、このように当量の2割増しとなったのは、本例のように解放系で行う場合には、反応のタイムラグばかりでなく、空気の巻き込み等による再酸化が防止できないためと思われる。上記反応中に適宜反応液をサンプリングし、硝酸根と金との濃度を分析した。その結果を図1に示す。図1より硝酸根の分解と金の析出とが効果的に進行していることが分かる。なお、この溶液を一夜静置したが、水溶液の酸化還元電位は変動しなかった。」

1オ. 「【図1】



1カ. 上記1ア.によれば、刊行物1には、請求項1に係る発明として、次の発明が記載されていると認められる。
「金、白金、ロジウム、パラジウム、卑金属を主として含む塩酸-硝酸溶液を50℃以上に加温し、該溶液の酸化還元電位が800mV以下となるようにホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、蟻酸の群から選ばれる一種もしくは二種以上を添加することを特徴とするパラジウム含有溶液からのNO_(X)の除去方法。」

1キ. 上記1イ.によれば、上記1カ.に示した発明は、表1に示される金、白金、ロジウム、パラジウム、卑金属を主として含む塩酸-硝酸溶液から金と硝酸とを確実に除去することのできる除去方法を提供することを発明が解決しようとする課題とするものであって、ホルムアルデヒドが硝酸の分解効果があり、以後の操作に影響を与えないとの知見に基づくものであると認められる。

1ク. 上記1ウ.によれば、上記1カ.に示した発明において、ホルムアルデヒドと硝酸との反応はほぼ当量で完結し、反応終点の判定はNO_(X)の発生状況で推察できるものの、より精度のよい反応終点の判定と無人操作等を考慮すると、酸化還元電位による判定が好ましく、この場合、標準水素電極を基準とする酸化還元電位が概ね800mVで反応は終了し、このとき金も同時に還元され析出し溶液より除去されるところ、還元剤としてホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、蟻酸の群から選ばれる一種もしくは二種以上を添加するようにしたのは、還元力と反応により生ずる生成物の影響とを考慮したからであり、例えばヒドラジンでは還元力が不充分であるということが認められる。

1ケ. 上記1エ.?1オ.によれば、上記1カ.に示した発明について、実施例1では、金、白金、ロジウム、パラジウム、卑金属を主として含む塩酸-硝酸溶液として、金の濃度が0.54g/lで、銀の濃度が0.04g/lで、パラジウムの濃度が43.8g/lで、白金の濃度が11.8g/lで、ロジウムの濃度が2.41g/lで、ビスマスの濃度が5.41g/lで、テルルの濃度が2.35g/lで、銅の濃度が26g/lで、鉛の濃度が1.68g/lで、硝酸の濃度が26g/lで、塩酸の濃度が1Nであるという組成であって、標準水素電極基準の酸化還元電位が1000mVである塩酸-硝酸溶液を150リットル用い、還元剤としての37重量%ホルムアルデヒドを約100ml/分の割合で90分間添加してNO_(X)の除去を行ったところ、金の濃度が0.0g/lで、硝酸の濃度が4g/lで、標準水素電極基準の酸化還元電位が800mVである溶液が得られた、すなわち、前記塩酸-硝酸溶液からの0.54g/lの金の除去と22g/lの硝酸の除去とを行ったとされている。

1コ. 上記1カ.?1ケ.の検討を踏まえると、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「金の濃度が0.54g/lで、銀の濃度が0.04g/lで、パラジウムの濃度が43.8g/lで、白金の濃度が11.8g/lで、ロジウムの濃度が2.41g/lで、ビスマスの濃度が5.41g/lで、テルルの濃度が2.35g/lで、銅の濃度が26g/lで、鉛の濃度が1.68g/lで、硝酸の濃度が26g/lで、塩酸の濃度が1Nであるという組成であり、標準水素電極基準の酸化還元電位が1000mVである塩酸-硝酸溶液を50℃以上に加温し、該溶液の標準水素電極基準の酸化還元電位が800mVとなるように還元剤としてのホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、蟻酸の群から選ばれる一種もしくは二種以上を添加して、硝酸を分解除去するとともに、金を還元析出して除去する、パラジウム含有溶液からの硝酸と金の除去方法。」


(2) 甲号証の記載事項
(2-1) 甲第1号証の記載事項
上記2.によれば、甲第1号証は刊行物1であるから、甲第1号証の記載事項は上記(1)に示した刊行物1の記載事項とおりである。

(2-2) 甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、次の記載がある。
2ア. 「【請求項1】
金、銀及び白金族元素を含有する被処理物を硝酸浸出し、この浸出残渣から得られる金電解用アノードを用いて金電解により金を析出して精製し、上記金電解工程の金電解後液と、上記硝酸浸出工程の浸出液とにそれぞれ含有された白金族元素を回収する白金族元素の回収方法であって、
上記金電解後液に還元剤を添加して金を還元し、還元金として金を回収すると共に、還元後液に含有された白金族元素を回収することを特徴とする白金族元素の回収方法。」

2イ. 「【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、被処理物として銀電解スライムを用いる場合を例として、図面に基づき説明する。
図1は、本発明に係る白金族元素の回収方法における一実施の形態を示すフローチャートである。
【0022】
非鉄製錬工程では、一般に、銅、銀、金、白金などを順次精製する。このうちの銅については、鉱石及びリサイクル原料から銅溶錬工程を経て銅電解用アノードを得、この銅電解用アノードを用いて銅電解工程を実施し、カソードに銅を析出して銅を精製する。
【0023】
銅電解工程により生じた銅電解スライムには金、銀などの貴金属元素や、白金、パラジウムなどの白金族元素が濃縮されているため、次に銀を精製する。つまり、銅電解スライムを精銀工程を経て銀電解アノードとし、図1に示す銀電解工程(ステップS1)を実施して、カソードに銀を析出し銀を精製する。
【0024】
銀電解により生じた銀電解スライムには、例えば、金が約60%、銀が約25%、白金及びパラジウムなどの白金族元素が約15%濃縮して含有されている。そこで、金を精製するために、銀電解スライムから銀及び白金族元素を分離すべく、銀電解スライムを浸出槽内で硝酸と反応させる硝酸浸出(パーチング;分金)処理を実施して(ステップS2)、銀電解スライム中の銀及び白金族元素を硝酸に浸出して回収する。
【0025】
上記硝酸浸出で得られた浸出残渣を濾過・洗浄処理し、乾燥処理した後、鋳造して金電解アノードとする。この金電解アノードを用い所謂「Wholwill」法により金電解工程を実施して(ステップS3)、カソードに金を析出し金を精製する。
【0026】
前記銀電解スライム中の白金族元素は、大半が硝酸浸出工程(ステップS2)における浸出液に移行し濃縮されるが、浸出残渣に移行した一部の白金族元素は、金電解アノードを経て金電解後液に溶出され濃縮される。この金電解溶液中の金、パラジウム及び白金のそれぞれの含有量(g/l)の一例を、図2(A)に示す。
【0027】
さらに、本実施の形態では、この金電解後液に含有される金の当量の1?5倍量(好ましくは1?3倍量)の還元剤、例えば、硫酸第一鉄を上記金電解後液に添加して、金を還元して(ステップS4)沈殿させ、これを濾過・洗浄し還元金として金を回収する。白金族元素は、硫酸第一鉄では還元されないため還元金にはほとんど含まれず、還元後液に移行して濃縮される。すなわち、上記硫酸第一鉄は、金を還元するが、白金族元素を還元しないORP電位が500?800mVの範囲の還元剤である。同様な還元剤は、上記硫酸第一鉄以外にも、シュウ酸、亜硫酸等が挙げられる。
【0028】
図2(B)は、金電解後液に含有される金の当量の2倍量の硫酸第一鉄を当該金電解後液に添加して還元し、3時間撹拌後に濾過したときの還元後液に含有される金、パラジウム、白金の含有量の一例(g/l)を示す。図2(A)と比較すると還元後液には、金の含有量が減少し、白金族元素は、十分に濃縮されていることがわかる。」

2ウ. 「【図1】

【図2】




(2-3) 甲第3号証の記載事項
甲第3号証には、次の記載がある。
3ア. 「…金含有液から金を還元して金粒子として沈殿させるのに、第1鉄塩、過酸化水素、シュウ酸等のような還元剤を添加することが知られている。
しかしながら、上記のように金以外に種々の成分を含有する溶液(以下、金溶液と云う)に、このような還元剤を単に添加するのみでは、上記種々の成分が金と共に、程度には差はあるが沈殿し、沈殿金粒子を汚染するので、99.99重量%以上というような高純度金は得難くなる。
従って、金溶液から高純度金を製造する場合、従来上記のような還元剤を添加して得られた99.9重量%以下の若干の不純物を含んだ金殿物を加熱溶融して、これをアノードとして数日間電解するとか該金殿物を多大な熱を加えて硝酸や王水等に再溶解して精製するとか等のため銅電解スライムから早期に金を抽出した利点を十分に活かせなかった。
本発明はかかる従来技術における欠点に鑑み、金電解のように金回収までに日数を要せず、また特別の設備を要するようなこともなく、簡便にしかも早期に金回収ができる上記のような還元剤を添加する方法を採用して従来得られなかった99.99重量%もしくはそれ以上の高純度金を製造することができる方法を提供することを目的とする。すなわち、本発明は従来金溶液から金を沈殿させる公知の還元剤の中から第1鉄塩、過酸化水素、及びシュウ酸を選択使用することと、この沈殿生成反応の終点をこの金溶液の酸化還元電位を600?800mV(対塩化銀電極、以下これを省略して単にmVでのみ表現する。)とすることにより99.99重量%程度の沈殿物を生成させた後、この沈殿物に硝酸処理、加熱溶融処理を施すことによつて、確実に99.99重量%以上の高純度金を製造しうるようにしたものである。」(第169頁右下欄第9行?第170頁右上欄第3行)

3イ. 「…通常は金10g/lに対して銅、セレン夫々1g/l以下、テルルng/l、パラジウム0.n ?ng/l、白金0.0n?0.ng/l、銀0.00ng/l以下、鉛0.0ng/l程度である。
このような金溶液に第1鉄塩、過酸化水素またはシュウ酸(以下、本還元剤と云う)を還元剤として添加することによつて、上記金以外の溶出成分等(以下、溶出成分と云う)のうちセレン、白金等は共沈し難くなる。また本還元剤を金溶液の酸化還元電位が600?800mVになるように添加して金沈殿物生成反応を終了させることによつて、溶出成分のうち特にパラジウム等による金沈殿物の汚染を防止することができるのみならず、金溶液中の金を収率よく分離回収することができる。
上記金沈殿反応の終点を600mVより低い酸化還元電位とすると、金溶液中の特にパラジウム等の沈殿生成が活発となり、金沈殿物を汚染し以後の精製処理によっても99.99重量%以上の高純度の金鋳塊が得難くなる。一方同じく終点を800mVより高電位とすると、99.99重量%以上の高純度の金沈殿物は得られるが、沈殿物としての金回収率が低下する。このように金沈殿物の汚染と金回収率という観点から金沈殿反応の終点は600?800mVとすることが必要であり、好ましくは600?700mVである。
更に他の溶出成分である鉛、ロジウム、テルル、銅、銀、鉄、アンチモン、ビスマス等は金と共沈する可能性が少ないか、金溶液中の含有量が生成全沈殿物の目標品位に影響を及ぼす程多くないかである。」(第170頁右上欄第11行?同頁左下欄末行)

3ウ. 「参考例1
脱銅、脱セレン処理した銅電解スライムを水でリパルプし塩素を吹き込んで金を溶出させ、下記の組成および物性値を有する金溶液を得た。
Au11.2g/l、Cu0.35g/l、Te2.70g/l、Pd0.74g/l、Pt0.19g/l、Ag<0.001g/l
pH0.98、酸化還元電位900mV
この金溶液330mlに還元剤として塩化第1鉄溶液(Fe150g/l)と過酸化水素水(30重量%)のいずれかを添加して種々の酸化還元電位を示す溶液にし、金沈殿物をを常温で生成せしめた。」(第170頁右下欄第17行?第171頁左上欄第7行)

3エ. 「実施例1
参考例1において塩化第1鉄溶液を還元剤として添加し金溶液の酸化還元電位を645mVまで低下させ(所要時間5分)、固液分離(残留液量約355ml)、水洗及び乾燥して金粉約3.6gを得た次いでこの金粉約1.2gを硝酸中で煮沸処理、濾過後加熱溶融して金粉を得た。」(第171頁右上欄第13?19行)


(2-4) 甲第4号証の記載事項
甲第4号証には、次の記載がある。
4ア. 「【0023】このように処理した後の塩化金酸溶液の組成は、Au:50?150g/l、Ag:≦0.001g/l、Pt:0.5?1.5g/l、Pd:0.05?0.3g/l、Rh:≦0.015g/l、Si:<0.002g/lとなり、Ag及びSiの含有量が顕著に低下している。また、溶液中の遊離塩酸濃度は0.7?1.0モル/l程度である。
【0024】その後、この塩化金酸溶液に溶解している金を、公知の還元剤を用いて還元することにより析出させる。還元剤としては、例えば、ヒドラジン、亜流酸ガス、亜流酸ソーダのような比較的弱い還元剤を用いることが好ましい。また、金の還元反応を80?95%の時点で止めることにより、PtやPdなどの不純物を混入を防ぐことができる。この還元反応の終点は、予め金濃度を分析して還元剤の添加量を決定するか、又は酸化還元電位で決定することができる。」


(3) 本件特許発明と引用発明1との対比・判断
(3-1) 本件特許発明1と引用発明1との対比・判断
ア. 本件特許発明1と、上記(1)の1コ.に示した、引用発明1とを対比すると、引用発明1における「金の濃度が0.54g/lで、銀の濃度が0.04g/lで、パラジウムの濃度が43.8g/lで、白金の濃度が11.8g/lで、ロジウムの濃度が2.41g/lで、ビスマスの濃度が5.41g/lで、テルルの濃度が2.35g/lで、銅の濃度が26g/lで、鉛の濃度が1.68g/lで、硝酸の濃度が26g/lで、塩酸の濃度が1Nであるという組成であり、標準水素電極基準の酸化還元電位が1000mVである塩酸-硝酸溶液」は、金と金以外の金属を含んでいるし、また、酸成分として、26g/lの濃度の硝酸と1Nの濃度の塩酸とを含有し、アルカリ成分を含有しないことから、pHが1以上の強酸性溶液であることも明らかであり、また、その強酸性溶液は前記金以外の金属を金の含有量の2倍以上含んでいることも明らかであることから、本件特許発明1における「金及び金以外の金属を含むpHが1以下の強酸性溶液」であって、「前記強酸性溶液が、前記金以外の金属を金の含有量の2倍以上含む高不純物強酸性溶液であること」に相当し、また、引用発明1における「溶液の標準水素電極基準の酸化還元電位が800mVとなるように還元剤としてのホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、蟻酸の群から選ばれる一種もしくは二種以上を添加して、硝酸を分解除去するとともに、金を還元析出して除去する」ことは、標準水素電極基準の酸化還元電位から約0.200V差し引いた値が銀-塩化銀電極基準の酸化還元電位となるとの技術常識を考慮すると、酸化還元電位(銀-塩化銀電極)が約600mV(800mV-約0.200V)となるように還元剤を添加して、硝酸を分解除去するとともに、金を還元析出して除去することであるから、本件特許発明1における「酸化還元電位(銀-塩化銀電極)が約600mVになるように還元剤を添加して、金を還元析出」することに相当する。
してみると、両者は以下の点で一致し、以下の点で相違していることとなる。

<一致点>
金及び金以外の金属を含むpHが1以下の強酸性溶液に、酸化還元電位(銀-塩化銀電極)が約600mVになるように還元剤を添加して、金を還元析出し、
前記強酸性溶液が、前記金以外の金属を金の含有量の2倍以上含む高不純物強酸性溶液である方法。

<相違点>
相違点1:前記還元剤が、
本件特許発明1では、「ヒドラジン、炭酸ヒドラジン、及び硫酸ヒドラジンから選択される少なくとも1種」であるのに対し、
引用発明1では、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、蟻酸の群から選ばれる一種もしくは二種以上であり、「ヒドラジン、炭酸ヒドラジン、及び硫酸ヒドラジンから選択される少なくとも1種」ではない点。

相違点2:本件特許発明1は「金の回収方法」であるのに対し、引用発明1は、パラジウム含有溶液からの硝酸と金の除去方法であるものの、「金の回収方法」であるのか明らかではない点。

イ. そこで、まず、上記相違点1につき検討するに、引用発明1について、刊行物1には、上記(1)の1イ.によれば、表1に示される金、白金、ロジウム、パラジウム、卑金属を主として含む塩酸-硝酸溶液から金と硝酸とを確実に除去することのできる除去方法を提供することを発明が解決しようとする課題とし、ホルムアルデヒドが、表1に示される、塩酸-硝酸溶液中の硝酸の分解効果があり、以後の操作に影響を与えないとの知見に基づくものであると記載されており、また、上記(1)の1ウ.?1オ.によれば、還元剤を添加する前の、表2に示される、塩酸-硝酸溶液の標準水素電極を基準とする酸化還元電位は1000mV、すなわち、酸化還元電位(銀-塩化銀電極)は概ね800mVであるところ、塩酸-硝酸溶液中の硝酸の分解反応の効果的な進行を行うには、前記溶液の標準水素電極を基準とする酸化還元電位を概ね800mVにまで、すなわち、酸化還元電位(銀-塩化銀電極)を概ね600mVにまで還元する必要があるところ、還元剤としてホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、蟻酸の群から選ばれる一種もしくは二種以上を添加するようにしたのは、還元力と反応により生ずる生成物の影響とを考慮したからであり、例えばヒドラジンでは還元力が不充分である、すなわち、前記溶液の酸化還元電位を大して下げられないと記載されているから、還元剤をヒドラジンとするまでの発明としての記載があるとはいえないし、示唆があるともいえない。

ウ. そうすると、上記相違点1は実質的な相違点となっているから、上記相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明1を刊行物1に記載されたものとすることはできない。


(3-2) 本件特許発明2と引用発明1との対比・判断
ア. 本件特許発明2と、上記(1)の1コ.に示した、引用発明1とを対比すると、引用発明1における「金の濃度が0.54g/lで、銀の濃度が0.04g/lで、パラジウムの濃度が43.8g/lで、白金の濃度が11.8g/lで、ロジウムの濃度が2.41g/lで、ビスマスの濃度が5.41g/lで、テルルの濃度が2.35g/lで、銅の濃度が26g/lで、鉛の濃度が1.68g/lで、硝酸の濃度が26g/lで、塩酸の濃度が1Nであるという組成であり、標準水素電極基準の酸化還元電位が1000mVである塩酸-硝酸溶液」は、標準水素電極基準の酸化還元電位から約0.200V差し引いた値が銀-塩化銀電極基準の酸化還元電位となるとの技術常識を考慮すると、本件特許発明2における「前記強酸性溶液に還元剤を添加する前において、酸化還元電位(銀-塩化銀電極)が700mV以上である」ことに相当し、また、本件特許発明2における「請求項1に記載の金の回収方法」については、上記(3-1)ア.で検討したとおりである。
してみると、両者は上記相違点1?2の点で相違し、その余の点で一致していることとなる。

イ. そして、上記相違点1については、上記(3-1)イ.での検討と同様にして、実質的な相違点となっているから、上記相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明2を刊行物1に記載されたものとすることはできない。


(3-3) 本件特許発明4と引用発明1との対比・判断
ア. 本件特許発明4と、上記(1)の1コ.に示した、引用発明1とを対比すると、引用発明1における「金の濃度が0.54g/lで、銀の濃度が0.04g/lで、パラジウムの濃度が43.8g/lで、白金の濃度が11.8g/lで、ロジウムの濃度が2.41g/lで、ビスマスの濃度が5.41g/lで、テルルの濃度が2.35g/lで、銅の濃度が26g/lで、鉛の濃度が1.68g/lで、硝酸の濃度が26g/lで、塩酸の濃度が1Nであるという組成であり、標準水素電極基準の酸化還元電位が1000mVである塩酸-硝酸溶液」が、本件特許発明4における「前記金以外の金属が、鉄、銅、アルミニウム、及びニッケルから選択される少なくとも1種である」との発明特定事項を備えていることは明らかであるし、また、本件特許発明4における「請求項1から2のいずれかに記載の金の回収方法」については、上記(3-2)ア.で検討したとおりである。
してみると、両者は上記相違点1?2の点で相違し、その余の点で一致していることとなる。

イ. そして、上記相違点1については、上記(3-1)イ.での検討と同様にして、実質的な相違点となっているから、上記相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明4を刊行物1に記載されたものとすることはできない。


(3-4) 小括
上記(3-1)?(3-3)の検討を踏まえると、上記2.の取消理由によって、本件特許を取り消すことはできない。


(4) 申立理由について
上記1.に示した申立理由のうちの申立理由1は、刊行物1である甲第1号証に基づく、特許法第29条第1項第3号についての主張である(特許異議申立書第6頁第25行?第7頁第16行、同書第8頁第10?23行、同書第9頁第1?6行)から、上記2.の取消理由に含まれているところ、上記(3)での検討と同様にして、上記1.に示した申立理由1によっては、本件特許発明に係る特許を取り消すことができない。
また、上記1.に示した申立理由のうちの申立理由2は、本件特許発明が、刊行物1である甲第1号証に基づき、甲第2?4号証に記載の発明を組み合わせて容易になし得たものである旨の特許法第29条第2項についての主張である(特許異議申立書第6頁第25行?第9頁第8行)から、当該主張の妥当性につき、以下、検討を行うこととする。
なお、甲第1号証記載の発明は、刊行物1記載の発明であるから、上記(1)での検討と同様にして、上記(1)の1コ.に示される引用発明1であると認められる。

(4-1) 本件特許発明1と引用発明1との対比・判断
ア. 本件特許発明1と引用発明1とを対比するに、上記(3-1)ア.での検討と同様にして、両者は上記相違点1?2の点で相違し、その余の点で一致していると認められる。

イ. そこで、まず、上記相違点1につき検討するに、引用発明1について、甲第1号証には、上記(1)の1イ.によれば、表1に示される金、白金、ロジウム、パラジウム、卑金属を主として含む塩酸-硝酸溶液から金と硝酸とを確実に除去することのできる除去方法を提供することを発明が解決しようとする課題とし、ホルムアルデヒドが、表1に示される、塩酸-硝酸溶液中の硝酸の分解効果があり、以後の操作に影響を与えないとの知見に基づくものであると記載されており、また、上記(1)の1ウ.?1オ.によれば、還元剤を添加する前の、表2に示される、塩酸-硝酸溶液の標準水素電極を基準とする酸化還元電位は1000mV、すなわち、酸化還元電位(銀-塩化銀電極)は概ね800mVであるところ、塩酸-硝酸溶液中の硝酸の分解反応の効果的な進行を行うには、前記溶液の標準水素電極を基準とする酸化還元電位を概ね800mVにまで、すなわち、酸化還元電位(銀-塩化銀電極)を概ね600mVにまで還元する必要があるところ、還元剤としてホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、蟻酸の群から選ばれる一種もしくは二種以上を添加するようにしたのは、還元力と反応により生ずる生成物の影響とを考慮したからであり、例えばヒドラジンでは還元力が不充分である、すなわち、前記溶液の酸化還元電位を大して下げられないと記載されているから、還元剤をヒドラジンとするまでの発明としての記載があるとはいえないし、示唆があるともいえない。
そのため、上記相違点1は実質的な相違点となっている。

ウ. そして、上記(2)の(2-2)?(2-4)によれば、甲第2?4号証には、金以外の金属を金の含有量の2倍以上含む高不純物強酸性溶液である、甲第1号証の表1に示される塩酸-硝酸溶液中の硝酸の還元剤による分解については記載も示唆もされていないから、甲第2?4号証記載の発明を引用発明1に組み合わせることに合理性はない。
そのため、上記相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項を引用発明1に備えさせることは、甲第1?4号証記載の発明に基づいて、当業者が容易になし得た技術事項とはいえない。

エ. そうすると、上記相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第1?4号証記載の発明に基づいて、当業者が容易になし得たものではないといえる。


(4-2) 本件特許発明2と引用発明1との対比・判断
本件特許発明2と引用発明1とを対比するに、上記(3-2)ア.での検討と同様にして、両者は上記相違点1?2の点で相違し、その余の点で一致していると認められる。
そして、上記相違点1に係る本件特許発明2の発明特定事項については、上記(4-1)イ.?ウ.での検討と同様にして、当該発明特定事項を引用発明1に備えさせることは、甲第1?4号証記載の発明に基づいて、当業者が容易になし得た技術事項とはいえない。
そうすると、上記相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明2も、甲第1?4号証記載の発明に基づいて、当業者が容易になし得たものではないといえる。

(4-3) 本件特許発明4と引用発明1との対比・判断
本件特許発明4と引用発明1とを対比するに、上記(3-3)ア.での検討と同様にして、両者は上記相違点1?2の点で相違し、その余の点で一致していると認められる。
そして、上記相違点1に係る本件特許発明4の発明特定事項については、上記(4-1)イ.?ウ.での検討と同様にして、当該発明特定事項を引用発明1に備えさせることは、甲第1?4号証記載の発明に基づいて、当業者が容易になし得た技術事項とはいえない。
そうすると、上記相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明4も、甲第1?4号証記載の発明に基づいて、当業者が容易になし得たものではないといえる。


(4-4) 補足
カ. 異議申立人は、平成30年7月12日付けの意見書において、甲第1号証の段落0022には比較例1として、還元剤にヒドラジンを用いた例が記載されており、その結果、「得られた溶液中の硝酸濃度と金の濃度はそれぞれ23g/l、0.02g/lであり、脱硝酸はできていなかった。」と記載されている、すなわち、比較例1は脱硝酸ができていなかっただけであり、金の濃度については初期濃度の0.54g/lから0.02g/lへと大幅に低下できていることが記載されており、甲第1号証記載の発明において、ヒドラジンを還元剤に用いることで、むしろ金の還元が十分に行われることがわかるところ、その比較例1の試験方法は、「実施例1と同様」と記載されているため、酸化還元電位の調製も当然に実施例1と同様であると考えられ、標準水素電極を基準として、少なくとも800mVまでは還元しているはずであり(段落0014)、甲第1号証記載の発明の技術的思想の中で、脱硝酸よりも金の還元を主目的とした場合には、還元剤にヒドラジンを用いることには十分に動機付けがあるといえるため、甲第1号証記載の発明において、甲第4号証に記載されたヒドラジンを金の還元剤に用いることには阻害要因は無いというべきであるので、本件特許発明1、2、4は、甲第1?4号証記載の発明に基づいて、当業者が容易になし得たものではあり、取り消されるべきものである旨主張している。

キ. しかしながら、甲第1号証では、上記(1)1ウ.によれば、「ヒドラジンでは還元力が不充分である」とされており、その甲第1号証の【0022】?【0024】に記載されている、「比較例1」では、還元剤にヒドラジンが用いられたが、表2(【0013】)に示される溶液中の26g/lという硝酸濃度を、23g/lまでしか低下できなかった、すなわち、NO_(X)が少量発生しただけで反応終点となったことから、この「比較例1」は、還元剤にヒドラジンを用いたのでは前記溶液の標準水素電極基準の酸化還元電位を1000mVから大して下げられなかったことを裏付ける試験例であるということが、甲第1号証の記載から合理的に導出される。
そのため、甲第1号証における、
「【0022】〔比較例1〕還元剤としてヒドラジンを用いた以外は実施例1と同様に試験を行った。得られた溶液中の硝酸濃度と金の濃度はそれぞれ23g/l、0.02g/lであり脱硝酸はできていなかった。」との記載は、当該溶液の標準水素電極基準の酸化還元電位が、甲第1号証記載の発明と同じ、800mV以下にまで低下したことを意味していないことは明らかである。

ク. よって、上記カ.に示した、「比較例1の試験方法は、「実施例1と同様」と記載されているため、酸化還元電位の調製も当然に実施例1と同様であると考えられ、標準水素電極を基準として、少なくとも800mVまでは還元しているはずであ」ることを前提とする、異議申立人の平成30年7月12日付けの意見書による主張は、合理性を欠くものであって、採用し得ない。


(4-5) 小括
上記(4-1)?(4-4)の検討を踏まえると、上記1.の申立理由によって、本件特許を取り消すことはできない。


第5 むすび
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は適法であるから、これを認める。
そして、本件特許の訂正特許請求の範囲の請求項1、2、4に係る特許については、取消理由通知書に記載した取消理由、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び証拠によっては取り消すことはできない。さらに、他に本件特許の訂正特許請求の範囲の請求項1、2、4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件特許の訂正特許請求の範囲の範囲の請求項3に係る特許は、その記載が訂正により削除されたため、その特許に対して申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金及び金以外の金属を含むpHが1以下の強酸性溶液に、酸化還元電位(銀-塩化銀電極)が400mV以上700mV未満になるように還元剤を添加して、金を還元析出し、
前記強酸性溶液が、前記金以外の金属を金の含有量の2倍以上含む高不純物強酸性溶液であり、
前記還元剤が、ヒドラジン、炭酸ヒドラジン、及び硫酸ヒドラジンから選択される少なくとも1種であることを特徴とする金の回収方法。
【請求項2】
前記強酸性溶液に還元剤を添加する前において、酸化還元電位(銀-塩化銀電極)が700mV以上である請求項1に記載の金の回収方法。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記金以外の金属が、鉄、銅、アルミニウム、及びニッケルから選択される少なくとも1種である請求項1から2のいずれかに記載の金の回収方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-08-02 
出願番号 特願2013-194446(P2013-194446)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C22B)
P 1 651・ 113- YAA (C22B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 國方 康伸  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 小川 進
金 公彦
登録日 2017-06-16 
登録番号 特許第6159630号(P6159630)
権利者 DOWAエコシステム株式会社 エコシステムリサイクリング株式会社
発明の名称 金の回収方法  
代理人 流 良広  
代理人 松田 奈緒子  
代理人 廣田 浩一  
代理人 松田 奈緒子  
代理人 流 良広  
代理人 廣田 浩一  
代理人 廣田 浩一  
代理人 流 良広  
代理人 松田 奈緒子  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ