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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
管理番号 1343909
異議申立番号 異議2018-700459  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-10-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-06-05 
確定日 2018-08-30 
異議申立件数
事件の表示 特許第6241549号発明「シートモールディングコンパウンド及び繊維強化複合材料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6241549号の請求項1ないし18に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許6241549号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし18に係る特許についての出願は、2016年5月13日(優先権主張 平成27年5月13日)を国際出願日とする出願であって、平成29年11月17日にその特許権の設定登録(請求項の数18)がされ、その後、その特許に対し、平成30年6月5日に特許異議申立人 丸林 敬子(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし18に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
熱硬化性樹脂組成物の増粘物と強化繊維束とを含むシートモールディングコンパウンドであり、当該熱硬化性樹脂組成物が、
成分(A):25℃における粘度が1Pa・s以上である液状のエポキシ樹脂、
成分(B):エポキシ樹脂硬化剤、及び、
成分(D):ビニル重合体粒子
を含有し、
前記成分(D)の含有量が、前記熱硬化性樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の総量100質量部に対して10質量部以上、30質量部以下であり、
前記熱硬化性樹脂組成物の増粘物の、
30℃における粘度である到達粘度が150Pa・s以上20000Pa・s以下であり、
レオメーターを用いて2℃/分で120℃まで昇温粘度測定した際に得られる最も低い粘度である最低粘度が2Pa・s以上600Pa・s以下であり、
到達粘度は、最低粘度よりも高い
ことを特徴とするシートモールディングコンパウンド。
【請求項2】
前記成分(D)は、エポキシ当量190±6g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂に分散させて得られる分散体の増粘率d_(1)/d_(0)(ただし、d_(0)は、前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂100質量部に対し、成分(D)30質量部を30℃で分散させて得られた分散体の調製直後の粘度、d_(1)は当該分散体を60℃に加温し、加温後に60℃のまま1時間保持した後の粘度を表す。)が1.0以下である、請求項1に記載のシートモールディングコンパウンド。
【請求項3】
前記成分(D)は、エポキシ当量168±8g/eqのビスフェノールF型エポキシ樹脂に分散させて得られる分散体の増粘率d_(1)’/d_(0)’(ただし、d_(0)’は、前記ビスフェノールF型エポキシ樹脂100質量部に対し、前記成分(D)30質量部を30℃で分散させて得られた分散体の調製直後の粘度、d_(1)’は当該分散体を60℃に加温し、加温後に60℃のまま1時間保持した後の粘度を表す。)が1.0以下である、請求項2に記載のシートモールディングコンパウンド。
【請求項4】
熱硬化性樹脂組成物の増粘物と強化繊維束とを含むシートモールディングコンパウンドであり、当該熱硬化性樹脂組成物が、
成分(A):25℃における粘度が1Pa・s以上である液状のエポキシ樹脂、
成分(B):エポキシ樹脂硬化剤、及び、
成分(D):ビニル重合体粒子
を含有し、
前記成分(D)の含有量が、前記熱硬化性樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の総量100質量部に対して10質量部以上、30質量部以下であり、
前記成分(D)は、エポキシ当量190±6g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂に分散させて得られる分散体の増粘率d_(1)/d_(0)(ただし、d_(0)は、前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂100質量部に対し、成分(D)30質量部を30℃で分散させて得られた分散体の調製直後の粘度、d_(1)は当該分散体を60℃に加温し、加温後に60℃のまま1時間保持した後の粘度を表す。)が1.0以下であることを特徴とするシートモールディングコンパウンド。
【請求項5】
前記熱硬化性樹脂組成物の30℃における粘度が1Pa・s以上50Pa・s以下である、請求項1?4のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンド。
【請求項6】
前記成分(D)がアクリル系樹脂からなる粒子である、請求項1?5のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンド。
【請求項7】
前記成分(D)がコアシェル粒子である、請求項1?6のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンド。
【請求項8】
前記コアシェル粒子におけるコアのガラス転移温度が30℃以上である、請求項7に記載のシートモールディングコンパウンド。
【請求項9】
前記コアシェル粒子におけるシェルのガラス転移温度が60℃以上である、請求項7又は8に記載のシートモールディングコンパウンド。
【請求項10】
前記コアシェル粒子におけるシェルの溶解度パラメータ(SP値)が20以上である、請求項7?9のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンド。
【請求項11】
前記コアシェル粒子におけるシェルが、アクリレート、メタクリレート、及びカルボン酸含有ビニル単量体からなる群から選択される少なくとも1つの単量体の重合体であり、該単量体の総量における、分子中にエチレン性不飽和基を2個以上有する化合物の含有量が0.5質量%以下である、請求項7?10のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンド。
【請求項12】
前記成分(D)の体積平均一次粒子径が500nm以上、1000nm以下である、請求項1?11のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンド。
【請求項13】
前記成分(A)がビスフェノールA型エポキシ樹脂である、請求項1?12のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンド。
【請求項14】
前記熱硬化性樹脂組成物が、成分(C):エポキシ樹脂硬化促進剤をさらに含む、請求項1?13のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンド。
【請求項15】
前記熱硬化性樹脂組成物が、成分(E):離型剤をさらに含有する、請求項1?14のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンド。
【請求項16】
前記熱硬化性樹脂組成物が、成分(C):エポキシ樹脂硬化促進剤をさらに含み、
前記成分(B)がジシアンジアミドであり、前記成分(C)が2,4-ビス(3,3-ジメチルウレア)トルエンである、請求項1?15のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンド。
【請求項17】
前記強化繊維束が炭素繊維束である、請求項1?16のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンド。
【請求項18】
請求項1?17のいずれか一項に記載のシートモールディングコンパウンドの硬化物である、繊維強化複合材料。」

第3 特許異議申立書に記載した理由の概要
平成30年6月5日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した理由の概要は次のとおりである。

1 申立理由1(甲第1号証を主引用文献とする新規性進歩性)
本件特許の請求項4ないし7、9ないし11、13、17及び18に係る発明は、下記の本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項4ないし7、9ないし11、13、17及び18に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
また、本件特許の請求項1ないし18に係る発明は、下記の本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし18に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2 申立理由2(甲第2号証を主引用文献とする新規性進歩性)
本件特許の請求項4、6、7、9ないし11、13ないし15、17及び18に係る発明は、下記の本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項4、6、7、9ないし11、13ないし15、17及び18に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
また、本件特許の請求項1ないし18に係る発明は、下記の本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし18に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

3 証拠方法
甲第1号証:特開平9-95599号公報
甲第2号証:特開平11-199755号公報
甲第3号証:特開2010-248379号公報
甲第4号証:国際公開第2016/060166号
甲第5号証:三菱化学株式会社製品カタログ(2016年12月発行)
甲第6号証:GANZ化成株式会社製品カタログ(2007年7月発行)
甲第7号証:国際公開第2010/090246号
甲第8号証:特開2014-94980号公報
甲第9号証:特開平10-237196号公報
甲第10号証:ROBERT F. FEDORS、(米国)、Polymer Engineering and Science、1974年2月、Vol.14 、No.2、p.147-154
甲第11号証:DIC株式会社製品カタログ(2017年3月発行)
なお、文献名等の表記は概略特許異議申立書の記載に従った。以下、順に「甲1」のようにいう。

第4 当審の判断
1 甲1ないし11の記載事項
(1)甲1の記載事項
甲1には、次の記載(以下、総称して「甲1の記載事項」という。)がある。

・「【請求項2】 (A)エポキシ樹脂 100重量部、(B)(a)ガラス転移点が-30℃以下の重合体からなるコア部と(b)アクリル酸エステル系又はメタクリル酸エステル系単量体と不飽和カルボン酸単量体とのガラス転移点が70℃以上の共重合体からなるシェル層で構成されるコア/シェル型共重合体粒子に、金属カチオンを付加してイオン架橋させた共重合体樹脂粒子 10?40重量部、(C)エポキシ樹脂用硬化剤 3?100重量部及び(D)繊維状強化材20?150重量部を含有してなる成形用エポキシ樹脂組成物。」

・「【請求項5】 請求項1又は2記載の成形用エポキシ樹脂組成物を予備加熱してなるシート状のプリプレグを複数枚積層し、加熱硬化してなる成形品。を成形型内に積層し、加熱圧縮してなるエポキシ樹脂注型成形品。」

・「【0005】
【発明の実施の形態】本発明に用いられるエポキシ樹脂(A)は、常温で液状又はペースト状のエポキシ樹脂であり、ビスフェノール縮合物、ヒダントイン系エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、ダイマー酸変性エポキシ樹脂、NBR変性エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂などの広い種類のエポキシ樹脂が含まれる。特に好ましいエポキシ樹脂の例としては、ビスフェノールA又はビスフェノールFにエピクロルヒドリンなどのエポキシ基含有化合物を反応させて得られる初期縮合物などが挙げられる。また、ビスフェノールAにエチレンオキシド又はプロピレンオキシドを2?20モル付加した化合物から誘導されるエポキシ樹脂も使用することができる。」

・「【0007】本発明においては、前記の(メタ)アクリレート系又はジエン系単量体に、所望により架橋性単量体を添加して、一層ゴム弾性を有するコア部を形成することも有効である。このための架橋性単量体としては、反応性が実質上等しい2個以上の二重結合を有するもの、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、オリゴエチレンジ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート;ジビニルベンゼンなどの芳香族ジビニル単量体;トリメリット酸トリアリル、トリアリルイソシアヌレートなどを用いることができる。これらの架橋性単量体は、得られる重合体のガラス転移点が-30℃以下となる範囲で単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよく、また、その使用量は、コア部の単量体全重量に基づき、通常0.01?5重量%、好ましくは0.1?2重量%の範囲で選ばれる。架橋性単量体の使用量がコア部の全重量の5重量%を超えると、コア部の架橋が著しくなり、エポキシ樹脂組成物の強度、殊に耐衝撃性が低下する。」

・「【0010】本発明においては、イオン架橋の目的で、シェル層の原料成分として、ラジカル重合性の、好ましくは炭素数3?8個の不飽和カルボン酸単量体を導入する。このような不飽和カルボン酸としては、例えば、(メタ)アクリル酸、α-エチルアクリル酸、クロトン酸などの不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、シトラコン酸、クロロマレイン酸などの不飽和ポリカルボン酸やその無水物;マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノブチル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノブチルなどの少なくとも一つのカルボキシル基を有する不飽和ポリカルボン酸部分エステルなどが挙げられる。これらは1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、これらの中で特に(メタ)アクリル酸、マレイン酸又は無水マレイン酸が好適である。本発明において、シェル層の共重合体には、カルボキシル基を含む単量体単位が該共重合体100重量部当たり0.01?20重量部、好ましくは0.05?10重量部、さらに好ましくは0.1?5重量部の割合で存在する。カルボキシル基を含む単量体単位の含有量が該共重合体100重量部当たり0.01重量部未満であると、イオン架橋による粒子表面の改質効果の向上はほとんど発揮されない。カルボキシル基を含む単量体単位の含有量が該共重合体100重量部当たり20重量部を超えると、その量の割には粒子表面の改質効果の向上は認められず、むしろコア/シェル型共重合体本来の機械的特性が低下する。本発明においては、また、所望によりシェル層の原料成分として架橋性単量体を併用することができる。この架橋性単量体としては、前記コア部を形成する重合体のための単量体説明において例示した架橋性単量体の中から1種又は2種以上を選んで用いることができる。この架橋性単量体の使用量は、シェル層の単量体全重量に基づき、通常0.01?1重量%、好ましくは0.1?0.5重量%の範囲で選ばれる。」

・「【0018】本発明において(D)成分として用いられる繊維状補強材としては、Eガラス、Cガラス、Sガラス、Dガラス、溶融石英又は化学処理高シリカガラスからなるガラス繊維;ポリアクリロニトリル系、レーヨン系、ピッチ系又はリグニンポバール系からなるカーボン繊維;アルミナ、酸化ベリリウム、炭化ホウ素、炭化ケイ素、窒化ケイ素、クロム、銅、鉄又はニッケルからなるウィスカー;ホウ素-タングステン、ホウ素-溶融石英、ホウ化チタン又は炭化ホウ素-ホウ素-タングステンからなるボロン繊維;ポリアミド繊維(ケブラー繊維);耐高温ナイロン繊維(ノーメックス繊維);ポリエステル、ポリプロピレン、ビニロン又はポリアクリロニトリルからなる熱可塑性繊維等が挙げられる。(D)成分の繊維状補強材の形態としては、クロス、ストランド、ロービング、マット、ロービングクロス等のいずれであってもよい。本発明における繊維状補強材(D)の配合割合は、エポキシ樹脂(A)100容量部当り20?100容量部、好ましくは40?80容量部である。20容量部未満では曲げ強度及び耐衝撃強度の改善が不十分となる可能性がある。100容量部より多いと繊維補強材の多量偏在箇所が生じて諸強度の欠陥が起き易くなる。」

・「【0020】本発明組成物を調製するに際し、通常、先ず繊維状補強材を除く各成分を予め混合し、次いでこの混合物をマット状の繊維状補強材に含浸させる過程を採る。この繊維状補強材を除く各成分を予め混合する方法は任意であり、例えば、ディスパー、ニーダー、三本ロール、パドルミキサー、プラネタリーミキサーなどの混練機を使用することができる。ところでエポキシ樹脂に耐衝撃性改質剤のコア/シェル樹脂粒子を配合すると、熱硬化温度より低いある一定温度より高い温度の加熱でゲル状に不動化する疑似硬化が発現することが知られている(特開平2-80483号公報、特開平6-172734合公報)。本発明のエポキシ樹脂組成物は、80℃以上に加熱することにより瞬時に疑似硬化することができる。この疑似硬化体は100℃以下の温度では再加熱しても流動化したり粘着性が現われたりすることがない。本発明組成物は、通常、上記の(A)、(B)、(C)からなる混合物をマット状の(D)成分の繊維状補強材に含浸させてから、80?100℃の温度に予備加熱して疑似硬化体のいわゆるプリプレグにする。こうしておけば、これを積層することにより成形品の成形が容易である。即ち、目標の厚さになるよう疑似硬化体のシートを積層してから、予備加熱より高温の120?200℃に加熱することにより硬化成形体を得ることができる。本発明組成物は特にコア/シェル共重合体樹脂粒子が前記したようにマトリックス内に均一に分散する性質を有するので、疑似硬化シートを積層して加熱硬化された成形体は層間の融合が良好で、層間剪断強度が顕著に向上するという特徴を有する。」

・「【0023】
【実施例】以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
実施例1?4、比較例1?4
繊維状補強材を除く表1に示す量比の配合成分をプラネタリーミキサーにて室温で15分間混合した。次に、この混合物をメチルエチルケトン(MEK)で希釈して300センチポイズ(cps)以下の粘度に調整して、30cm幅のカーボン繊維クロス又はガラス繊維クロスに含浸させ、ポリエチレンテレフタレート(PET)製離型フィルム上にのせた。一昼夜置いた後、40℃で3時間真空乾燥してMEKを除去した。ついでこれをPET製離型フィルムにのせたまま90℃熱風循環式オーブンで加熱処理して厚み約0.3mmシート状のプリプレグを形成した。下記試験法によりプリプレグ性、曲げ試験、層間剪断強度、衝撃試験等を行なった。結果を表1に示す。」

・「【0026】
【表1】

【0027】注
*1 エピコート828:ビスフェノールA型エポキシ樹脂、油化シェルエポキシ(株)製
*2 コア/シェル重合体:n-ブチルアクリレート/トリアリルトリメリテ-ト=47/0.5からなるガラス転移点-45℃のコアと、メチルメタクリレート/メタクリル酸/テトラエチレングリコールジメタクリレート=47/5/0.5(百分比は重量部)からなるガラス転移点105℃のシェルとからなり、重合反応直後のラテックスに水酸化カリウム2重量部添加後乾燥して得られた平均粒径0.3μmの粒子
*3 CTBN1300×8 末端カルボキシル変性アクリロニトリル-ブタジエンゴム、宇部興産(株)製
*4 ゼオンF301:エポキシ基含有メチルメタクリレート系共重合体からなる平均粒径2μmの粒子、日本ゼオン(株)製
*5 カーボン繊維クロス:トレカT300-3000(平織り)、厚み0.25mm、東レ(株)製
*6 ガラス繊維クロス:グラスクロスWF(平織り)、厚み0.25mm、日東紡績(株)製
【0028】プリプレグ性について見れば、本発明に係るコア/シェル粒子又はメチルメタクリレート系共重合体粒子を配合した実施例1?4及び比較例3は90℃加熱で1分以内にゲル状に疑似硬化したが、末端カルボキシル変性アクリロニトリル-ブタジエンゴム添加の例(比較例2)や重合体無添加の例(比較例1及び同4)では、エポキシ樹脂組成物は高粘度の液状となり成形用としては取扱い難いものとなった。」

(2)甲2の記載事項
甲2には、次の記載(以下、総称して「甲2の記載事項」という。)がある。

・「【請求項1】 (A)常温で液状のエポキシ樹脂、
(B)エポキシ硬化剤、
(C)熱可塑性樹脂粉末を有効成分とする増粘剤、
(D)無機フィラー、
(E)物理的手段で自己発熱性を有する材料からなり、物理的手段の発熱によって増粘する性質がありかつ硬化可能であることを特徴とする成形材料組成物。」

・「【請求項3】 自己発熱性を有する材料(E)が、金属粉末、金属箔、金網、カーボン繊維、カーボンシートから選択される1種以上であることを特徴とする請求項1記載の成形材料組成物。」

・「【請求項5】 増粘剤(C)が、コア層とシェル層で構成されるコア/シェル型共重合体からなる熱可塑性樹脂粉末であることを特徴とする請求項1記載の成形材料組成物。
【請求項6】 増粘剤(C)が、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ジエンおよびこれらと共重合可能な単量体の中から選ばれた少なくとも1種の単量体単位を含有する熱可塑性樹脂粉末であることを特徴とする請求項1記載の成形材料組成物。」

・「【請求項10】 更に、繊維強化材(E)を含有することを特徴とする請求項1記載の成形材料組成物。」

・「【請求項13】 (A)常温で液状のエポキシ樹脂、(B)エポキシ硬化剤、(C)熱可塑性樹脂粉末を有効成分とする増粘剤、(D)無機フィラー、(E)物理的手段で混練後、フィルム上に塗布し、シート状の物理的手段自己発熱性を有する材料をを挟み込み、加熱によって増粘させることを特徴とする成形材料の製造方法。」

・「【0010】本発明の常温で液状のエポキシ樹脂(A)は、1分子中に1個以上のエポキシ基を有する液状樹脂であれば何でもよく、固体のエポキシ樹脂でも液体エポキシ樹脂に溶解して使用する事ができる。その例としては、通常のビスフェノールAとエピクロルヒドリンの縮合物、ビスフェノールFとエピクロルヒドリンの縮合物のようなグリシジルエーテル、脂肪族のグリシジルエーテル、脂環式エポキサイド、フタル酸誘導体とエピクロルヒドリンの縮合物のようなジグリシジルエステル、ヒダントイン系エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ダイマー酸変性エポキシ樹脂、NBR変性エポキシ樹脂およびウレタン変性エポキシ樹脂などがあげられ、単体または2種以上を混合して使用することができる。」

・「【0012】前記のイミダゾール誘導体、N,N’-ジアルキル尿素誘導体、アルキルアミノフェノール誘導体などは、促進剤としても使用できる。硬化剤および促進剤の硬化に必要充分な配合量は予め試験することによって容易に決定される。」

・「【0017】上記単量体成分の中から選ばれた1種以上の単量体をコア層とし、シェル層には2種以上の単量体を用いる。また、シェル層にはエポキシ樹脂に対し、加温によって溶解性を発現する構造とするため、N-置換アクリルアミド、アクリル酸エステル系またはメタクリル酸エステル系単量体とラジカル重合可能な二重結合を少なくとも2つ以上有する架橋性単量体、遊離カルボキシル基を有する単量体を共重合させる。」

・「【0019】アクリル酸エステル系またはメタクリル酸エステル系単量体とラジカル重合可能な二重結合を少なくとも2つ以上有する架橋性単量体の具体例としては、エチレングリコールジアクリレート、ブチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパンジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートヘキサンジオールジアクリレート、オリゴエチレンジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパンジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ヘキサンジオールジメタクリレート、オリゴエチレンジメタクリレート、ジビニルベンゼンなどの芳香族ジビニル単量体、トリメリット酸トリアリル、トリアリルイソシアヌレートなどが例示される。該架橋性単量体量は、コア/シェル型共重合体中0.5%を超えてはならない。なぜなら、架橋度が高すぎ、マトリックスであるエポキシ樹脂に膨潤しないためである。」

・「【0028】繊維強化材としては、通常強化材として用いられるものでよく、例えば、ガラス繊維、ポリエステル繊維、フェノール繊維、ポリビニルアルコール繊維、芳香族ポリアミド繊維、ナイロン繊維、炭素繊維がある。これらの形態としては、例えば、チョップドストランド、チョップドストランドマット、ロービング、織物状などが挙げられる。これらの繊維補強材は組成物の粘度や得られる成形品の強度などを考慮して選ばれる。チョップドストランドの長さは、通常SMCでは5?60mm、BMCでは2?8mmである。」

・「【0030】離型剤としては、例えば、ステアリン酸などの高級脂肪酸、ステアリン酸亜鉛などの高級脂肪酸塩、あるいはアルキルリン酸エステルなどが挙げられる。この離型剤はエポキシ樹脂(A)100重量部に対して、好ましくは0.5?5重量部の割合で用いられる。」

・「【0038】このBMCの増粘工程は、混合された組成物をポリエチレン等の袋に取り出し、密閉し、好ましくは35℃?160℃の間の特定温度で増粘させる。形状がバルクであるため、増粘終了までに好ましくは30分?3時間が必要である。BMCの形状は、ペレット状、小石状、レンガ状など種々の形状と大きさが可能であるが、好ましくは径または一辺が0.7cm?1mの大きさである。増粘後の組成物の粘度は25℃で2万ポイズ以上であり、好ましくは、5万?10万ポイズである。」

・「【0045】(参考例)増粘剤(コア/シェル共重合体)の製造
n-ブチルアクリレート40重量部を、攪拌機を備えた反応機に仕込み、乳化剤としてメタクリル酸メチル/メタクリル酸共重合体からなる高分子乳化剤1重量部、触媒として過硫酸カリウム0.1重量部を添加し、水150重量部中で重合温度80℃にて180分間攪拌した後、重合転化率98%になるまで重合を行った。次いで、得られたラテックスをシードにして、メチルメタクリレート58重量部、メタクリル酸2重量部を添加し、連続的に重合させ重合体ラテックスを得た。室温まで冷却した後、水酸化カリウム1重量%水溶液100重量部を室温で添加して30分間攪拌した。得られたコア/シェル型ラテックスの平均粒子径はいずれも0.2?0.5μmの範囲内であった。得られたラテックスをスプレードライによって150℃で噴霧乾燥し、コア/シェル型共重合体粉末を得た。」

・「【0049】(実施例4)
エポキシSMCおよびその製造方法と成形方法4
エピクロン850(大日本インキ化学工業製品)100部にジシアンジアミド8部、参考例で作製した増粘剤20部、炭酸カルシウム30部をプラネタリーミキサーで30分攪拌混合した。該組成物を40℃に加温してSMC製造機に供給し、ドクターナイフにて双方の離型フィルム上に0.5mmに塗布され、1インチのカーボン繊維を乗せ、ローラーによって含浸させた後、ロールに巻とる。該ロールを90℃で1時間保存し増粘させる。該SMCのフィルム剥離性は良好である。製造されたSMC850gを40℃に加熱した金型で30×30cmの板状に賦形した。該形状品を取り出し、両端に電極を接触させ、通電し10分で硬化させた。得られた成形品の一般物性はJIS-K-6911に準じて測定を行った結果、曲げ強度35kg/mm^(2)、曲げ弾性率1560kg/mm^(2)であった。」

(3)甲3の記載事項
甲3には、次の記載(以下、総称して「甲3の記載事項」という。)がある。

・「【請求項1】
ビスフェノールS型エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂(X)100質量部と、
熱可塑性樹脂(Y)5?25質量部と、
ジシアンジアミド及びトルエンビスジメチルウレアを含むエポキシ硬化剤(Z)5?15質量部とを含み、
100?150℃における最低粘度が2?20Pa・sであり、30℃における粘度が10,000?100,000Pa・sのエポキシ樹脂組成物が、繊維補強材に含浸されたプレス成形用プリプレグ。」

・「【0007】
そこで本発明は、常温時における取り扱い性に優れ、かつTg及び硬化速度をほとんど低下させることなく高温高圧成形時における樹脂の過剰な流動を抑え、得られる成形品の外観不良、性能不良、及び金型の動作不良等を抑制することができるプレス成形用プリプレグを目的とする。また、本発明では、前記プレス成形用プリプレグを用いた高い生産性の成形品の製造方法を提供する。」

・「【0019】
(エポキシ硬化剤(Z))
エポキシ硬化剤(Z)は、エポキシ樹脂組成物の架橋密度や硬化速度を適切な範囲に保つ役割を果たす。特にDICY、TBDMUを併用して使用することにより硬化時間を飛躍的に短縮することが出来る。DICYとしてはジャパンエポキシレジン株式会社製のjERキュアDICY15等が使用できる。TBDMUとしてはピイ・ティ・アイ・ジャパン株式会社製のオミキュア24等が使用できる。」

・「【0022】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、前記エポキシ樹脂(X)100質量部と、熱可塑性樹脂(Y)5?25質量部と、エポキシ硬化剤(Z)5?15質量部とを含有する組成物である。本発明のエポキシ樹脂組成物の100?150℃における最低粘度は、2?20Pa・sであり、3?18Pa・sであることがより好ましい。100?150℃における最低粘度とは、エポキシ樹脂組成物を加熱した場合に100℃から150℃までの温度範囲内における粘度(昇温粘度)の最低値を意味する。昇温粘度は、例えば、レオメトリック社製DSR-200又は同等の性能を有する装置を用いて、周波数1Hz、パラレルプレート(25mmφ、ギャップ0.5mm)で測定することができる。100?150℃における最低粘度を2Pa・s以上とすることにより、樹脂(エポキシ樹脂組成物)が適度な流動性を示し、高温高圧における成形時に金型内で過剰に流動することを抑えることができ、高品質な成形品が得られるとともに、金型のシアエッジ部から樹脂が流出して成形品に外観不良が生じたり、繊維蛇行が生じたりすることを抑制することができる。また、金型内のエジェクターピンやエアー弁等に樹脂が流入して金型の動作不良が生じることを防止できる。また、100?150℃における最低粘度を20Pa・s以下とすることにより、成形時の粘度が高すぎるために樹脂の流動が不十分になり、成形品からガスが抜け難くなって欠陥になったり、成形品に未充填部分が残ったりすることを防止できる。」

・「【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。
<エポキシ樹脂組成物>
【0044】
[原料]
エポキシ樹脂組成物の製造に用いた原料を以下に示す。
(エポキシ樹脂(X))
EXA1514:ビスフェノールS型エポキシ樹脂(商品名:EPICLON
EXA1514、エポキシ当量300g/eq、DIC株式会社製)
jER828:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:jER828、エポキシ当量189g/eq、ジャパンエポキシレジン株式会社製)
jER1001:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:jER1001、エポキシ当量475g/eq、ジャパンエポキシレジン株式会社製)
(熱可塑性樹脂(Y))
E2020P:ポリエーテルスルホン(商品名:ウルトラゾーンE2020P、質量平均分子量32,000、BASF社製)
YP50S:フェノキシ樹脂(商品名フェノトートYP50S、質
量平均分子量50,000?70,000、東都化成株式会社製)
(エポキシ硬化剤(Z))
DICY:ジシアンジアミド(商品名:jERキュアDICY15、ジャパンエポキ
シレジン株式会社製)
TBDMU:トルエンビスジメチルウレア(商品名:オミキュア24、ピイ・ティ・アイ・ジャパン株式会社製)
PDMU:フェニルジメチルウレア(商品名:オミキュア94、ピイ・ティ・アイ・ジャパン株式会社製)」

・「【0051】
(100?150℃における最低粘度及び30℃における粘度)
装置:レオメトリックス株式会社製 DSR-200
測定モード:パラレルプレート(25mmφ、ギャップ0.5mm)
周波数:1Hz
温度設定:30℃から2℃/分で120℃にまで昇温しながら粘度を測定した。
最低粘度については、100℃付近で最低の粘度が確認され、それ以降粘度が上昇したため、120℃までの測定とした。」

(4)甲4の記載事項
甲4には、次の記載(以下、総称して「甲4の記載事項」という。)がある。

・「[請求項3] エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)及びビニル重合体粒子(C)を含み、
30℃における粘度が1.0×10^(2)Pa・s以上1.0×10^(5)Pa・s以下であり、
昇温速度2℃/分で測定した最低粘度が0.8Pa・s以上10Pa・s以下であり、
前記ビニル重合体粒子(C)の含有量が、前記エポキシ樹脂(A)100質量部に対し2質量部以上30質量部以下であり、
前記ビニル重合体粒子(C)の瞬間最大増粘値が0.3Pa・s/℃以上5.0Pa・s/℃以下である樹脂組成物。」

・「[0010] 本発明は、強化繊維基材への含浸性が良好な樹脂組成物と、成形時の樹脂フロー量を良好に制御でき、且つドレープ性の良いプリプレグ、及び外観の良いプレス成形体を提供することを目的とする。」

・「[0054] また、本発明の樹脂組成物を2℃/分で昇温した昇温粘度測定において、最低粘度は0.8Pa・s以上10Pa・s以下であることが好ましく、0.8Pa・s以上8.0Pa・s以下がより好ましく、0.8Pa・s以上7.0Pa・s以下が更に好ましい。
前記最低粘度が0.8Pa・s以上であると、樹脂フロー量が過剰にならず、得られる繊維強化複合材料の表面に凹凸が生じず外観不良を避けることが出来る。また、前記最低粘度が10Pa・s以下であると、樹脂フロー量が適正になり、前記プリプレグを用いたプレス成形の際に、樹脂組成物が金型内の隅々まで充填される為、好ましい。」

(5)甲5の記載事項
甲5には、次の記載(以下、総称して「甲5の記載事項」という。)がある。

・「jER○R(当審注:○Rは、「R」を○で囲った記号の上付き文字を表す。)(旧*エピコート○R)樹脂は、シェル・グループにより開発され、長年にわたる研究と蓄積された技術をもとに、三菱油化(現三菱化学)によって日本でもっとも早く国産化されたエポキシ樹脂であり、現在当社がその製造・販売ならびに研究開発を行っています。」(第1頁、第1段落)

・第3頁最上段の表には、「jER828」の25℃における粘度は、120?150P(12?15Pa・s)であり、常温で液状の樹脂であることが記載されている。

(6)甲6の記載事項
甲6には、次の記載(以下、総称して「甲6の記載事項」という。)がある。

・第1頁目の表には、平均粒径1μmのPMMA粒子、平均粒子径0.5μmのアクリル共重合体粒子、平均粒子径0.3μmのコアシェルアクリル共重合体などが記載されている。

・第2頁の図には、ビニル重合体粒子であるコアシェルアクリル共重合体粒子(F351)が80?100℃に加熱されることでエポキシ樹脂中で膨潤・ゲル化し、エポキシ樹脂の粘度を増加させることが開示されている。

・第2頁目上段第3?5行目には、「The viscosity increasing rate is 1.8(=Viscosity after 7days/primary viscosity)(Content of F351:50wt parts)」と記載されており、コアシェルアクリル共重合体をエポキシ樹脂「jER828」100重量部に対して50重量部含む樹脂組成物を40℃で1週間保持した場合の粘度上昇率が1.8であることが開示されている。

・第3頁目中段には、「jER828」100質量部、DICY 8質量部、コアシェルアクリル共重合体(F351) 30質量部からなる樹脂組成物の温度粘度曲線の図が示されている。この図によれば、前記樹脂組成物の増粘前の30℃での粘度は約100poise(10Pa・s)であり、60℃での粘度は約10poise(1Pa・s)であり、増粘後の100?120℃での粘度は約3000poise(300Pa・s)である。また、前記樹脂組成物の硬化温度が、120℃よりも高い温度であることが示されている。

(7)甲7の記載事項
甲7には、次の記載(以下、総称して「甲7の記載事項」という。)がある。

・「[0011] 本発明の目的とするところは、硬化性樹脂組成物への分散性に優れ、所定の温度で短時間の加熱によって速やかに硬化性樹脂組成物をゲル状態とし、イオン濃度が低く、得られる硬化物に優れた電気特性を発現させるための電子材料分野に適したプレゲル剤として有用なビニル重合体粉体、そのビニル重合体粉体を含有する硬化性樹脂組成物及びその硬化性樹脂組成物の硬化物を提供することである。」

・「[0017] 本粉体の体積平均一次粒子径(Dv)は200nm以上であり、500nm以上が好ましい。・・・
また、ファインピッチ化や薄膜化への対応が可能であることから、本粉体の体積平均一次粒子径(Dv)は、8μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、1μm以下が更に好ましい。」

・「[0029] 本単量体を2段階で逐次重合する場合には、本重合体の物性の観点から、1段目の重合に(メタ)アクリレート、2段目の重合に(メタ)アクリレート、官能基含有(メタ)アクリレート、アクリル酸類を用いることが好ましい。」

・[0096]の[表1]には、甲第7号証の実施例として具体的にビニル重合体の組成が開示されており、1段目の重合(本件のコア層に相当)および2段目の重合(本件のシェル層に相当)ともにメタクリル酸系樹脂であるコアシェル粒子であることが開示されている。

・[0106]の[表3]には、ビニル重合体がエポキシ樹脂を増粘させるゲル化温度が具体的に開示されており、いずれも76℃以上の高い温度であることが示されている。

(8)甲8の記載事項
甲8には、次の記載(以下、総称して「甲8の記載事項」という。)がある。

・「【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、(B)エポキシ樹脂用硬化剤、(C)プレゲル化剤を含む液状エポキシ樹脂組成物であって、(C)プレゲル化剤のプレゲル化温度が70℃以上150℃以下であることを特徴とする液状エポキシ樹脂組成物。」

・「【0040】
プレゲル化剤は、例えば、コアシェル構造の重合体微粒子であり、コア重合体からなる層(コア層)が、シェル重合体からなる層(シェル層)に包含された複層構造をなしている。このコアシェル構造の重合体微粒子は、外層をなすシェル層を構成するシェル重合体が、エポキシ樹脂に対する溶解性が低いため、常温下においては、増粘剤としての作用を発揮することはない。樹脂組成物を加熱した際には、エポキシ樹脂に対するシェル重合体の溶解性が上昇するので、コア層の成分、すなわち、コア重合体が樹脂組成物中に放出されるようになる。コア重合体は、エポキシ樹脂に対する溶解性が高いため、樹脂組成物中に放出されると短時間でゲル化し、増粘効果を発揮する。」

・「【0047】
このようなプレゲル化剤の例としては、プレゲル化温度80℃のJF001(商品名、PMMA系プレゲル化剤、三菱レイヨン(株)製)、プレゲル化温度100℃のJF003(商品名、PMMA系プレゲル化剤、三菱レイヨン(株)製)などがある。」

(9)甲9の記載事項
甲9には、次の記載(以下、総称して「甲9の記載事項」という。)がある。

・「【0027】本発明で得られるエポキシ樹脂組成物は昇温したときに前記アクリル樹脂系微粒子の溶解あるいは膨潤作用により樹脂組成物がゲル化を始め、ある温度で急激に粘度を上昇させることができる。」

・「【0028】この場合、該樹脂組成物を2゜C/minに昇温したときに示す最低粘度と最低粘度を示す温度(通常60?110℃)から10?15゜C高めの温度での粘度(ゲル化粘度という)との比、即ち階段状に急激に粘度増加したときの粘度増加割合が1.2?1000、好ましくは1.2?100、最も好ましくは1.5?10であることができる。」

(10)甲10の記載事項
甲10の第151ページ右欄から第153ページ左欄第10行目及び第153ページ右欄第10ないし28行目には、溶解度パラメータ(SP値)の算出方法が記載されている(以下、「甲10の記載事項」という。)。

(11)甲11の記載事項
甲第11号証の第2ページの表には、甲第2号証記載の「エピクロン850」が、25℃における粘度が11000?15000mPa・s(11?15Pa・s)の液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂であることが示されている(以下、「甲11の記載事項」という。)。

2 申立理由1について
(1)甲1発明
甲1の記載事項、特に実施例に関する記載を整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「エピコート828(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、油化シェルエポキシ(株)製)を90又は80重量部、ジシアンジアミドを7又は6重量部及びコア/シェル重合体(n-ブチルアクリレート/トリアリルトリメリテ-ト=47/0.5からなるガラス転移点-45℃のコアと、メチルメタクリレート/メタクリル酸/テトラエチレングリコールジメタクリレート=47/5/0.5(百分比は重量部)からなるガラス転移点105℃のシェルとからなり、重合反応直後のラテックスに水酸化カリウム2重量部添加後乾燥して得られた平均粒径0.3μmの粒子)を10又は20重量部の割合で混合し、次にメチルエチルケトンで希釈したものを、カーボン繊維クロス又はガラス繊維クロスに含浸させた後、乾燥してメチルエチルケトンを除去し、90℃で加熱処理して擬似硬化させて形成したシート状のプリプレグ。」

(2)対比・判断
特許異議申立人は、本件特許発明1、2、3、8、12、14、15及び16については、甲1に基づく新規性違反を申立てていないことから、最初に、本件特許発明4について検討し、次に、本件特許発明1を検討し、次に、本件特許発明5ないし7、9ないし11、13、17及び18を検討し、最後に、本件特許発明2、3、8、12、14、15及び16について検討する。

ア 本件特許発明4について
(ア)対比
本件特許発明4と甲1発明を対比する。
甲1発明における「エピコート828(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、油化シェルエポキシ(株)製)」は、甲5の記載事項によると、本件特許発明4における「成分(A):25℃における粘度が1Pa・s以上である液状のエポキシ樹脂」に相当し、以下、同様に、「ジシアンジアミド」は「成分(B):エポキシ樹脂硬化剤」に、「カーボン繊維クロス又はガラス繊維クロス」は「繊維束」に、「シート状のプリプレグ」は「シートモールディングコンパウンド」に、それぞれ相当する。
甲1発明における「コア/シェル重合体(n-ブチルアクリレート/トリアリルトリメリテ-ト=47/0.5からなるガラス転移点-45℃のコアと、メチルメタクリレート/メタクリル酸/テトラエチレングリコールジメタクリレート=47/5/0.5(百分比は重量部)からなるガラス転移点105℃のシェルとからなり、重合反応直後のラテックスに水酸化カリウム2重量部添加後乾燥して得られた平均粒径0.3μmの粒子)」は、「ビニル重合体粒子」である点で、本件特許発明4における「成分(D):ビニル重合体粒子」と一致する。
甲1発明における「コア/シェル重合体(n-ブチルアクリレート/トリアリルトリメリテ-ト=47/0.5からなるガラス転移点-45℃のコアと、メチルメタクリレート/メタクリル酸/テトラエチレングリコールジメタクリレート=47/5/0.5(百分比は重量部)からなるガラス転移点105℃のシェルとからなり、重合反応直後のラテックスに水酸化カリウム2重量部添加後乾燥して得られた平均粒径0.3μmの粒子)」の「エピコート828(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、油化シェルエポキシ(株)製)」に対する重量部の割合は、10:90又は20:80であるから、本件特許発明4における「前記成分(D)の含有量が、前記熱硬化性樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の総量100質量部に対して10質量部以上、30質量部以下であり」に包含される。
甲1発明における「エピコート828(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、油化シェルエポキシ(株)製)を90又は80重量部、ジシアンジアミドを7又は6重量部及びコア/シェル重合体(n-ブチルアクリレート/トリアリルトリメリテ-ト=47/0.5からなるガラス転移点-45℃のコアと、メチルメタクリレート/メタクリル酸/テトラエチレングリコールジメタクリレート=47/5/0.5(百分比は重量部)からなるガラス転移点105℃のシェルとからなり、重合反応直後のラテックスに水酸化カリウム2重量部添加後乾燥して得られた平均粒径0.3μmの粒子)を10又は20重量部の割合で混合し」たものは、「90℃で加熱処理して擬似硬化」するから、本件特許発明4における「熱硬化性樹脂の増粘物」に相当する。

したがって、両者は次の点で一致する。
「熱硬化性樹脂組成物の増粘物と強化繊維束とを含むシートモールディングコンパウンドであり、当該熱硬化性樹脂組成物が、
成分(A):25℃における粘度が1Pa・s以上である液状のエポキシ樹脂、
成分(B):エポキシ樹脂硬化剤、及び、
成分(D):ビニル重合体粒子
を含有し、
前記成分(D)の含有量が、前記熱硬化性樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の総量100質量部に対して10質量部以上、30質量部以下である、
シートモールディングコンパウンド。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1>
「成分(D)」について、本件特許発明4においては、「前記成分(D)は、エポキシ当量190±6g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂に分散させて得られる分散体の増粘率d_(1)/d_(0)(ただし、d_(0)は、前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂100質量部に対し、成分(D)30質量部を30℃で分散させて得られた分散体の調製直後の粘度、d_(1)は当該分散体を60℃に加温し、加温後に60℃のまま1時間保持した後の粘度を表す。)が1.0以下である」と特定されているのに対し、甲1発明においては、特定がない点。

(イ)相違点1についての判断
a 相違点1について判断する。
相違点1に係る本件特許発明4の発明特定事項は、「成分(D)」を「エポキシ当量190±6g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂に分散」させて得られる分散体の「60℃に加温し、加温後に60℃のまま1時間保持した後の粘度」(当審注:下線は当審による。)である「d_(1)」と、「成分(D)」を「エポキシ当量190±6g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂に30℃で分散」させて得られた分散体の「調製直後の粘度」である「d_(0)」の比である増粘率「d_(1) /d_(0)」が1.0以下であると特定するものである。
他方、甲1には、甲1発明における「コア/シェル重合体(n-ブチルアクリレート/トリアリルトリメリテ-ト=47/0.5からなるガラス転移点-45℃のコアと、メチルメタクリレート/メタクリル酸/テトラエチレングリコールジメタクリレート=47/5/0.5(百分比は重量部)からなるガラス転移点105℃のシェルとからなり、重合反応直後のラテックスに水酸化カリウム2重量部添加後乾燥して得られた平均粒径0.3μmの粒子)」について、それを「エポキシ当量190±6g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂に分散」させて得られる分散体の「60℃に加温し、加温後に60℃のまま1時間保持した後の粘度」を測定することは記載も示唆もされておらず、当然、その粘度と「調製直後の粘度」の比である増粘率を1.0以下とすることは記載も示唆もされていない。また、甲1発明の「増粘率」に相当する値が1.0以下と認めるに足りる証拠もない。
したがって、相違点1は実質的な相違点であり、本件特許発明4は、甲1発明、すなわち甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。

また、甲2ないし11のいずれにも、甲1発明において、相違点1に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用することの動機付けとなる記載はない。
したがって、甲1発明において、甲2ないし11に記載された事項を適用して、相違点1に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用することが、当業者が容易に想到し得たものであるとすることはできない。
そして、本件特許発明4は、相違点1に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用したことにより「熱硬化性樹脂組成物の調製時に、撹拌時のせん断発熱による組成物の増粘が起こり難く、また得られた熱硬化性樹脂組成物を用いてSMCを製造する場合に、強化繊維束への含浸性が良好になる」(本件特許明細書の【0076】参照。)という効果を奏するものである。

b 特許異議申立人は、甲6の記載事項に基づいて特許異議申立人が行った計算及び本件特許明細書の記載から、甲1発明における「コア/シェル重合体」の増粘率が1.0以下になる旨主張する。しかし、甲6の記載事項に基づいて特許異議申立人が行った計算は、加温後に60℃のまま1時間保持することを考慮したものではないから、甲6に記載された「コア/シェル重合体」が相違点1に係る発明特定事項を満たすものとは直ちにはいえない。また、仮に、甲6に記載された「コア/シェル重合体」が相違点1に係る本件特許発明4の発明特定事項を満たすとしても、甲6には、甲6に記載された「コア/シェル重合体」が、重合体組成を含め、重合体自体として甲1発明における「コア/シェル重合体」と一致することは示されていないし、エポキシ樹脂に対する含有量も異なるから、甲1発明における「コア/シェル重合体」が、相違点1に係る本件特許発明4の発明特定事項を満たすとはいえない。また、本件特許明細書に、相違点1に係る本件特許発明4の発明特定事項を満たさないコアシェルアクリル重合体粒子の例が記載されていないからといって、コアシェルアクリル重合体粒子であれば、必ず相違点1に係る本件特許発明4の発明特定事項を満たすことにはならない。

c したがって、本件特許発明4は、甲1発明、すなわち甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし11号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

イ 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲1発明の間には、本件特許発明4と甲1発明の間と同様の相当関係が成立するから、両者は次の点で一致する。
「熱硬化性樹脂組成物の増粘物と強化繊維束とを含むシートモールディングコンパウンドであり、当該熱硬化性樹脂組成物が、
成分(A):25℃における粘度が1Pa・s以上である液状のエポキシ樹脂、
成分(B):エポキシ樹脂硬化剤、及び、
成分(D):ビニル重合体粒子
を含有し、
前記成分(D)の含有量が、前記熱硬化性樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の総量100質量部に対して10質量部以上、30質量部以下である、
シートモールディングコンパウンド。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点2>
「熱硬化性樹脂組成物の増粘物」について、本件特許発明1においては、「30℃における粘度である到達粘度が150Pa・s以上20000Pa・s以下であり」と特定されているのに対し、甲1発明においては、特定がない点。

<相違点3>
「熱硬化性樹脂組成物の増粘物」について、本件特許発明1においては、「レオメーターを用いて2℃/分で120℃まで昇温粘度測定した際に得られる最も低い粘度である最低粘度が2Pa・s以上600Pa・s以下であり、
到達粘度は、最低粘度よりも高い」と特定されているのに対し、甲1発明においては、特定がない点。

(イ)相違点2及び3についての判断
a まず、相違点2について判断する。
本件特許発明1における「30℃における粘度である到達粘度」とは、本件特許明細書の【0037】に「まず、レオメーターのプレート温度を80℃以上90℃以下に設定する。温度が安定したことを確認した後、プレート上に増粘前の熱硬化性樹脂組成物を適量分取する。プレート間のギャップを0.5mmに調節し、80℃以上90℃以下で30分間保持し、その後30℃まで冷却する。冷却後、30℃における粘度を測定し、これを到達粘度とする。」と記載されているように、80℃以上90℃以下で30分間保持し、その後30℃まで冷却した後、30℃において測定した粘度のことである。
他方、甲1には、上記のようにして、30℃における粘度を測定することは記載も示唆もされていないし、当然、その値を150Pa・s以上20000Pa・s以下とすることは記載も示唆もされていない。また、甲1発明の「30℃における粘度である到達粘度」に相当する値が150Pa・s以上20000Pa・s以下と認めるに足りる証拠もない。
また、甲2ないし11号証にも、上記のようにして、30℃における粘度を測定することは記載も示唆もされていないし、当然、その値を150Pa・s以上20000Pa・s以下とすることは記載も示唆もされていない。
したがって、甲1発明において、甲2ないし11に記載された事項を適用して、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することが、当業者が容易に想到し得たものであるとすることはできない。
そして、本件特許発明1は、相違点2に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用したことにより「十分な形態保持性を有し、切断及び成形型内への配置の際に取り扱いがし易いSMCとなり」、「プレス成形時の金型内での流動性が良好となる」(本件特許明細書の【0038】参照。)という効果を奏するものである。

b したがって、相違点3について判断するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明、すなわち甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし11号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件特許発明5ないし7、9ないし11、13、17及び18について
請求項4を直接又は間接的に引用する本件特許発明5ないし7、9ないし11、13、17及び18は、請求項4に記載された発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明4と同様に、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし11号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
請求項1を直接又は間接的に引用する本件特許発明5ないし7、9ないし11、13、17及び18は、請求項1に記載された発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし11号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 本件特許発明2、3、8、12、14、15及び16について
本件特許発明2及び3に係る発明は、請求項1を直接又は間接的に引用し、請求項1に記載された発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし11号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本件特許発明8、12、14、15及び16に係る発明は、請求項1又は4を直接又は間接的に引用し、請求項1又は4に記載された発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1又は4と同様に、甲第1号証に記載された発明及び甲第2ないし11号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)申立理由1についてのまとめ
以上のとおり、申立理由1によっては、本件特許の請求項1ないし18に係る特許を取り消すことはできない。

3 申立理由2について
(1)甲2発明
甲2の記載事項、特に実施例4に関する記載を整理すると、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。

「エピクロン850(大日本インキ化学工業製品)100部にジシアンジアミド8部、(n-ブチルアクリレート40重量部を、攪拌機を備えた反応機に仕込み、乳化剤としてメタクリル酸メチル/メタクリル酸共重合体からなる高分子乳化剤1重量部、触媒として過硫酸カリウム0.1重量部を添加し、水150重量部中で重合温度80℃にて180分間攪拌した後、重合転化率98%になるまで重合を行い、次いで、得られたラテックスをシードにして、メチルメタクリレート58重量部、メタクリル酸2重量部を添加し、連続的に重合させ重合体ラテックスを得、室温まで冷却した後、水酸化カリウム1重量%水溶液100重量部を室温で添加して30分間攪拌し、得られたラテックスをスプレードライによって150℃で噴霧乾燥して得たコア/シェル型共重合体粉末である)増粘剤20部、炭酸カルシウム30部をプラネタリーミキサーで30分攪拌混合し、40℃に加温してSMC製造機に供給し、ドクターナイフにて双方の離型フィルム上に0.5mmに塗布し、1インチのカーボン繊維を乗せ、ローラーによって含浸させた後、ロールに巻とり、該ロールを90℃で1時間保存し増粘させることによって得たSMC。」

(2)対比・判断
特許異議申立人は、本件特許発明1、2、3、5、8、12及び16については、甲2に基づく新規性違反を申立てていないことから、最初に、本件特許発明4について検討し、次に、本件特許発明1を検討し、次に、本件特許発明6、7、9ないし11、13ないし15、17及び18について検討し、最後に、本件特許発明2、3、5、8、12及び16について検討する。

ア 本件特許発明4について
(ア)対比
本件特許発明4と甲2発明を対比する。
甲2発明における「エピクロン850(大日本インキ化学工業製品)」は、甲11の記載事項によると、本件特許発明4における「成分(A):25℃における粘度が1Pa・s以上である液状のエポキシ樹脂」に相当し、以下、同様に、「ジシアンジアミド」は「成分(B):エポキシ樹脂硬化剤」に、「SMC」は「シートモールディングコンパウンド」に、それぞれ相当する。
甲2発明における「(n-ブチルアクリレート40重量部を、攪拌機を備えた反応機に仕込み、乳化剤としてメタクリル酸メチル/メタクリル酸共重合体からなる高分子乳化剤1重量部、触媒として過硫酸カリウム0.1重量部を添加し、水150重量部中で重合温度80℃にて180分間攪拌した後、重合転化率98%になるまで重合を行い、次いで、得られたラテックスをシードにして、メチルメタクリレート58重量部、メタクリル酸2重量部を添加し、連続的に重合させ重合体ラテックスを得、室温まで冷却した後、水酸化カリウム1重量%水溶液100重量部を室温で添加して30分間攪拌し、得られたラテックスをスプレードライによって150℃で噴霧乾燥して得たコア/シェル型共重合体粉末である)増粘剤」は、「ビニル重合体粒子」であるという点で、本件特許発明4における「成分(D):ビニル重合体粒子」と一致する。
甲2発明における「エピクロン850(大日本インキ化学工業製品)100部にジシアンジアミド8部、(n-ブチルアクリレート40重量部を、攪拌機を備えた反応機に仕込み、乳化剤としてメタクリル酸メチル/メタクリル酸共重合体からなる高分子乳化剤1重量部、触媒として過硫酸カリウム0.1重量部を添加し、水150重量部中で重合温度80℃にて180分間攪拌した後、重合転化率98%になるまで重合を行い、次いで、得られたラテックスをシードにして、メチルメタクリレート58重量部、メタクリル酸2重量部を添加し、連続的に重合させ重合体ラテックスを得、室温まで冷却した後、水酸化カリウム1重量%水溶液100重量部を室温で添加して30分間攪拌し、得られたラテックスをスプレードライによって150℃で噴霧乾燥して得たコア/シェル型共重合体粉末である)増粘剤20部」が「増粘」したものは、本件特許発明4における「熱硬化性樹脂の増粘物」に相当する。
甲2発明における「(n-ブチルアクリレート40重量部を、攪拌機を備えた反応機に仕込み、乳化剤としてメタクリル酸メチル/メタクリル酸共重合体からなる高分子乳化剤1重量部、触媒として過硫酸カリウム0.1重量部を添加し、水150重量部中で重合温度80℃にて180分間攪拌した後、重合転化率98%になるまで重合を行い、次いで、得られたラテックスをシードにして、メチルメタクリレート58重量部、メタクリル酸2重量部を添加し、連続的に重合させ重合体ラテックスを得、室温まで冷却した後、水酸化カリウム1重量%水溶液100重量部を室温で添加して30分間攪拌し、得られたラテックスをスプレードライによって150℃で噴霧乾燥して得たコア/シェル型共重合体粉末である)増粘剤」の「エピクロン850(大日本インキ化学工業製品)」に対する重量部の割合は、20:80であるから、本件特許発明4における「前記成分(D)の含有量が、前記熱硬化性樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の総量100質量部に対して10質量部以上、30質量部以下であり」に包含される。

したがって、両者は次の点で一致する。
「熱硬化性樹脂組成物の増粘物と強化繊維束とを含むシートモールディングコンパウンドであり、当該熱硬化性樹脂組成物が、
成分(A):25℃における粘度が1Pa・s以上である液状のエポキシ樹脂、
成分(B):エポキシ樹脂硬化剤、及び、
成分(D):ビニル重合体粒子
を含有し、
前記成分(D)の含有量が、前記熱硬化性樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の総量100質量部に対して10質量部以上、30質量部以下である、
シートモールディングコンパウンド。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点4>
「成分(D)」について、本件特許発明4においては、「前記成分(D)は、エポキシ当量190±6g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂に分散させて得られる分散体の増粘率d_(1)/d_(0)(ただし、d_(0)は、前記ビスフェノールA型エポキシ樹脂100質量部に対し、成分(D)30質量部を30℃で分散させて得られた分散体の調製直後の粘度、d_(1)は当該分散体を60℃に加温し、加温後に60℃のまま1時間保持した後の粘度を表す。)が1.0以下である」と特定されているのに対し、甲2発明においては、特定がない点。

(イ)相違点4についての判断
a 相違点4について判断する。
相違点4に係る本件特許発明4の発明特定事項は、「成分(D)」を「エポキシ当量190±6g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂に分散」させて得られる分散体の「60℃に加温し、加温後に60℃のまま1時間保持した後の粘度」である「d_(1)」と、「成分(D)」を「エポキシ当量190±6g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂に30℃で分散」させて得られた分散体の「調製直後の粘度」である「d_(0)」の比である増粘率「d_(1) /d_(0)」が1.0以下であると特定するものである。
他方、甲2には、甲2発明における「(n-ブチルアクリレート40重量部を、攪拌機を備えた反応機に仕込み、乳化剤としてメタクリル酸メチル/メタクリル酸共重合体からなる高分子乳化剤1重量部、触媒として過硫酸カリウム0.1重量部を添加し、水150重量部中で重合温度80℃にて180分間攪拌した後、重合転化率98%になるまで重合を行い、次いで、得られたラテックスをシードにして、メチルメタクリレート58重量部、メタクリル酸2重量部を添加し、連続的に重合させ重合体ラテックスを得、室温まで冷却した後、水酸化カリウム1重量%水溶液100重量部を室温で添加して30分間攪拌し、得られたラテックスをスプレードライによって150℃で噴霧乾燥して得たコア/シェル型共重合体粉末である)増粘剤」について、それを「エポキシ当量190±6g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂に分散」させて得られる分散体の「60℃に加温し、加温後に60℃のまま1時間保持した後の粘度」を測定することは記載も示唆もされておらず、当然、その粘度と「調製直後の粘度」の比である増粘率を1.0以下とすることは記載も示唆もされていない。また、甲2発明の「増粘率」に相当する値が1.0以下と認めるに足りる証拠もない。
したがって、相違点4は実質的な相違点であり、本件特許発明4は、甲2発明、すなわち甲第2号証に記載された発明であるとはいえない。

また、甲1及び3ないし11のいずれにも、甲2発明において、相違点4に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用することの動機付けとなる記載はない。
したがって、甲2発明において、甲1及び3ないし11に記載された事項を適用して、相違点4に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用することが、当業者が容易に想到し得たものであるとすることはできない。
そして、本件特許発明4は、相違点4に係る本件特許発明4の発明特定事項を採用したことにより「熱硬化性樹脂組成物の調製時に、撹拌時のせん断発熱による組成物の増粘が起こり難く、また得られた熱硬化性樹脂組成物を用いてSMCを製造する場合に、強化繊維束への含浸性が良好になる」という効果を奏するものである。

b したがって、本件特許発明4は、甲2発明、すなわち甲第2号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第2号証に記載された発明並びに甲第1及び3ないし11号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

イ 本件特許発明1について
(ア)対比
本件特許発明1と甲2発明の間には、本件特許発明4と甲2発明の間と同様の相当関係が成立するから、両者は次の点で一致する。
「熱硬化性樹脂組成物の増粘物と強化繊維束とを含むシートモールディングコンパウンドであり、当該熱硬化性樹脂組成物が、
成分(A):25℃における粘度が1Pa・s以上である液状のエポキシ樹脂、
成分(B):エポキシ樹脂硬化剤、及び、
成分(D):ビニル重合体粒子
を含有し、
前記成分(D)の含有量が、前記熱硬化性樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の総量100質量部に対して10質量部以上、30質量部以下である、
シートモールディングコンパウンド。」

そして、両者は次の点で相違する。
<相違点5>
「前記熱硬化性樹脂組成物の増粘物」について、本件特許発明1においては、「30℃における粘度である到達粘度が150Pa・s以上20000Pa・s以下であり」と特定されているのに対し、甲2発明においては、特定がない点。

<相違点6>
「前記熱硬化性樹脂組成物の増粘物」について、本件特許発明1においては、「レオメーターを用いて2℃/分で120℃まで昇温粘度測定した際に得られる最も低い粘度である最低粘度が2Pa・s以上600Pa・s以下であり、
到達粘度は、最低粘度よりも高い」と特定されているのに対し、甲2発明においては、特定がない点。

(イ)相違点5及び6についての判断
a まず、相違点5について判断する。
本件特許発明1における「30℃における粘度である到達粘度」とは、第4 2(2)イ(イ)のとおり、80℃以上90℃以下で30分間保持し、その後30℃まで冷却した後、30℃において測定した粘度のことである。
他方、甲2には、上記のようにして、30℃における粘度を測定することは記載も示唆もされていないし、当然、その値を150Pa・s以上20000Pa・s以下とすることは記載も示唆もされていない。また、甲2発明の「30℃における粘度である到達粘度」に相当する値が150Pa・s以上20000Pa・s以下と認めるに足りる証拠もない。
また、甲1及び3ないし11号証にも、上記のようにして、30℃における粘度を測定することは記載も示唆もされていないし、当然、その値を150Pa・s以上20000Pa・s以下とすることは記載も示唆もされていない。
したがって、甲2発明において、甲1及び3ないし11に記載された事項を適用して、相違点5に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用することが、当業者が容易に想到し得たものであるとすることはできない。
そして、本件特許発明1は、相違点5に係る本件特許発明1の発明特定事項を採用したことにより「十分な形態保持性を有し、切断及び成形型内への配置の際に取り扱いがし易いSMCとなり」、「プレス成形時の金型内での流動性が良好となる」(本件特許明細書の【0038】参照。)という効果を奏するものである。

b したがって、相違点6について判断するまでもなく、本件特許発明1は、甲2発明、すなわち甲第2号証に記載された発明並びに甲第1及び3ないし11号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件特許発明6、7、9ないし11、13ないし15、17及び18について
請求項4を直接又は間接的に引用する本件特許発明6、7、9ないし11、13ないし15、17及び18は、請求項4に記載された発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明4と同様に、甲第2号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第2号証に記載された発明並びに甲第1及び3ないし11号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
請求項1を直接又は間接的に引用する本件特許発明6、7、9ないし11、13ないし15、17及び18は、請求項1に記載された発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲第2号証に記載された発明並びに甲第1及び3ないし11号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ 本件特許発明2、3、5、8、12及び16について
本件特許発明2及び3に係る発明は、請求項1を直接又は間接的に引用し、請求項1に記載された発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲第2号証に記載された発明並びに甲第1及び3ないし11号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本件特許発明5、8、12及び16に係る発明は、請求項1又は4を直接又は間接的に引用し、請求項1又は4に記載された発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1又は4と同様に、甲第2号証に記載された発明並びに甲第1及び3ないし11号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)申立理由2についてのまとめ
以上のとおり、申立理由2によっては、本件特許の請求項1ないし18に係る特許を取り消すことはできない。

第5 結語
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1ないし18に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし18に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-08-14 
出願番号 特願2016-536973(P2016-536973)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08J)
P 1 651・ 113- Y (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 久保 道弘  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 加藤 友也
渕野 留香
登録日 2017-11-17 
登録番号 特許第6241549号(P6241549)
権利者 三菱ケミカル株式会社
発明の名称 シートモールディングコンパウンド及び繊維強化複合材料  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  
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