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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
管理番号 1343910
異議申立番号 異議2018-700184  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-10-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-02-28 
確定日 2018-08-31 
異議申立件数
事件の表示 特許第6189895号発明「補体関連障害を処置するための方法および組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6189895号の請求項1?4に係る特許を維持する。 
理由 [1]手続の経緯
特許第6189895号の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成21年11月10日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2008年11月10日 米国、外9)を国際出願日とする特願2011-535776号の一部を平成27年6月2日に新たな特許出願としたものであって、平成29年8月10日にその特許権の設定登録がされ、同年8月30日に特許掲載公報が発行され、平成30年2月28日にその特許に対し、特許異議申立人田中秀行(以下、単に「申立人」ということがある)により特許異議の申立てがされたものである。

[2]本件特許発明
特許第6189895号の請求項1?4の特許に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、順に「本件特許発明1」?「本件特許発明4」ということがあり、また、これらをまとめて単に「本件特許発明」ということがある)。

『 【請求項1】
非定型溶血性尿毒症症候群(aHUS)の処置を必要とする患者におけるaHUSを処置するための有効量でエクリズマブを含む、aHUSを処置するための組成物であって、
該エクリズマブは、該患者に対して以下:
少なくとも900mgのエクリズマブが、1週あたり1回で4週間連続、
少なくとも1200mgのエクリズマブが、第5週に1回、および
少なくとも1200mgのエクリズマブが、その後2週ごとに
というスケジュールのもとで静脈内投与されることを特徴とする、組成物。
【請求項2】
前記エクリズマブが、前記患者の血液の1mlあたり少なくとも50μgのエクリズマブを維持するための量および頻度で該患者に投与されることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記エクリズマブが、前記患者の血液の1mlあたり少なくとも100μgのエクリズマブを維持するための量および頻度で該患者に投与されることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記エクリズマブが、前記患者の血液中でC5分子1個あたり少なくとも0.7分子のエクリズマブの濃度を維持するための量および頻度で該患者に投与されることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。 』

なお、以下、特許異議申立書10/54頁の記載にならい、本件特許発明1?4中の発明特定事項を次のように分節し、順に[構成要件A]?[構成要件F]として引用することがある。
・[構成要件A]:請求項1中の「非定型溶血性尿毒症症候群(aHUS)の処置を必要とする患者におけるaHUSを処置するための有効量でエクリズマブを含む、」
・[構成要件B]:請求項1中の「aHUSを処置するための組成物であって、」
・[構成要件C]:請求項1中の「該エクリズマブは、該患者に対して以下:
少なくとも900mgのエクリズマブが、1週あたり1回で4週間連続、
少なくとも1200mgのエクリズマブが、第5週に1回、および
少なくとも1200mgのエクリズマブが、その後2週ごとに
というスケジュールのもとで静脈内投与されることを特徴とする、組成物。」
・[構成要件D]:請求項2の「前記エクリズマブが、前記患者の血液の1mlあたり少なくとも50μgのエクリズマブを維持するための量および頻度で該患者に投与されることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。」
・[構成要件E]:請求項3の「前記エクリズマブが、前記患者の血液の1mlあたり少なくとも100μgのエクリズマブを維持するための量および頻度で該患者に投与されることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。」
・[構成要件F]:請求項4の「前記エクリズマブが、前記患者の血液中でC5分子1個あたり少なくとも0.7分子のエクリズマブの濃度を維持するための量および頻度で該患者に投与されることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。」

[3]特許異議申立ての理由
申立人は、特許異議申立書において、本件特許発明は以下の理由1?4:
・理由1:特許法第29条第1項第3号(同法第113条第2号)
・理由2:特許法第29条第2項(同法第113条第2号)
・理由3:特許法第36条第4項第1号(同法第113条第4号)
・理由4:特許法第36条第6項第1号(請求項1?4)(同法第113条第4号)
により取り消されるべきものと主張しており、具体的には、以下の甲第1?27号証を提出しつつ、概要次の[3-1]?[3-4]の取消理由を挙げている。

[3-1] エクリズマブを[構成要件C]の条件下でaHUS患者に投与することは、本件の優先権主張の基礎出願の明細書である甲第1?10号証全体の記載を総合することにより導かれる技術的事項ではないから、[構成要件C]を含む本件特許発明、即ち本件特許発明1?4は、甲第1?10号証の全体に記載した事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるため、優先権主張の効果は認められるべきではない。
そうすると、本件特許発明の新規性及び進歩性の判断の基準時は優先日ではなく、原出願の出願日である平成21年(2009年)11月10日である。
そして、そうであれば、本件特許発明1?4は次の取消理由(1)及び(2)を有する。
(1)理由1:本件特許発明1は、甲第17号証、甲第18号証及び甲第19号証のそれぞれに記載された発明である。
(2)理由2:
(2-1) 本件特許発明2及び3は、甲第17号証?甲第19号証のそれぞれに記載された発明に、甲第25号証に記載された発明を組み合わせることにより容易に想到することができた発明である。
(2-2) 本件特許発明4は、甲第17号証?甲第19号証のそれぞれに記載された発明に、甲第25号証及び甲第26号証に記載された発明を組み合わせることにより容易に想到することができた発明である。
[3-2] 仮に、優先権主張の効果が認められ、[構成要件C]を含む本件特許発明1?4の新規性及び進歩性の判断の基準時が優先日(甲第1号証の出願日である平成20年(2008年)11月10日)であったとしても、本件特許発明1?4は次の取消理由(1)?(3)を有する。
(1)理由2:本件特許発明1は、甲第11号証?甲第13号証に記載された発明に、甲第14号証及び甲第22号証に記載された発明を組み合わせることにより容易に想到することができた発明である。
(2)理由2:本件特許発明2及び3は、甲第11号証?甲第14号証、甲第22号証に記載された発明に、甲第25号証に記載された発明を組み合わせることにより容易に想到することができた発明である。
(3)理由2:本件特許発明4は、甲第11号証?甲第14号証、甲第22号証に記載された発明に、甲第25号証及び甲第26号証に記載された発明を組み合わせることにより容易に想到することができた発明である。
[3-3]理由3:
発明の詳細な説明において、[構成要件C]のエクリズマブ投与条件下でaHUSが処置できることについて、薬理データを伴う具体的な記載はないため、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
また、発明の詳細な説明において、[構成要件D]、[構成要件E]及び[構成要件F]、即ち「患者の血液の1mlあたり少なくとも50μgのエクリズマブを維持するための量および頻度で該患者に投与される」、「患者の血液の1mlあたり少なくとも100μgのエクリズマブを維持するための量および頻度で該患者に投与される」及び「患者の血液中でC5分子1個あたり少なくとも0.7分子のエクリズマブの濃度を維持するための量および頻度で該患者に投与される」こと、について、具体的にどのように投与すればよいか記載がないため、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明1?4のいずれについても、当業者がそれら発明を理解かつ実施することができるといえる程度の明確かつ十分な記載がなされているとはいえない。
[3-4]理由4:
[構成要件C]の条件下で有効なエクリズマブの投与レジメンを提供するという発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されていないため、本件特許発明1?4は本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものではない。

[甲号証]
・甲第1号証:米国仮出願番号61/198803明細書(2008.11.10)
・甲第2号証:米国仮出願番号61/200635明細書(2008.12.01)
・甲第3号証:米国仮出願番号61/200640明細書(2008.12.01)
・甲第4号証:米国仮出願番号61/228047明細書(2009.07.23)
・甲第5号証:米国仮出願番号61/199569明細書(2008.11.18)
・甲第6号証:米国仮出願番号61/199764明細書(2008.11.19)
・甲第7号証:米国仮出願番号61/200634明細書(2008.12.01)
・甲第8号証:米国仮出願番号61/181788明細書(2009.05.28)
・甲第9号証:米国仮出願番号61/199562明細書(2008.11.18)
・甲第10号証:米国仮出願番号61/199563明細書(2008.11.18)
・甲第11号証:Wurzner, R, & Zimmerhackl, L.B. “Therapeutic strategies for atypical and recurrent hemolytic uremic syndromes (HUS)”, Complement and Kidney Disease, edited by Peter F.Zipfel (2006) p.149-163
・甲第12号証:Brown et al.,“Mechanisms of Disease: the complement system in renal injury - new ways of looking at an old foe”, NATURE CLINICAL PRACTICE NEPHROLOGY, (2007) VOL 3 NO 5, pp.277-286
・甲第13号証:Loirat et al., “Complement and the ayypical hemolytic uremic syndrome in children”, Pediatr. Nephrol., (Published online:2008.7.2) 23 p.1957-1972
・甲第14号証:Jennifer Davis "Eculizumab", Am. J. Health-Syst. Pharm., (2008.9.1) 65 p.1609-1615
・甲第15号証:Gruppo et al., “Eculizmab for Congenital Atypical Hemolytic-Uremic syndrome”, N. Eng. J. Med., (2009.1.29) 360; 5 p.544-546
・甲第16号証:Nurnberger et al., “Eculizumab for Atypical Hemolytic-Uremic Syndrome”, N. Eng. J. Med., (2009.1.29) 360; 5 p.542-544
・甲第17号証:ClinicalTrials.gov archive, View of NCT00844844 on 2009_02_15 https://clinicaltrials.gov/archive/NCT00844844/2009_02_15
・甲第18号証:ClinicalTrials.gov archive, View of NCT00844545 on 2009_02_15 https://clinicaltrials.gov/archive/NCT00844545/2009_02_15
・甲第19号証:ClinicalTrials.gov archive, View of NCT00844428 on 2009_02_15 https://clinicaltrials.gov/archive/NCT00844428/2009_02_15
・甲第20号証:Chatelet et al., “Safety and Long-Term Efficacy of Eculizumab in a Renal Transplant Patient with Recurrent Atypical hemolytic-Uremic Syndrome”, American Journal of Transplantation, (2009) 9 p.2644-2645
・甲第21号証:“Successful Treatment of Atypical Hemolytic Uremic Syndrome with the Complement Inhibitor Eculizumab.” Blood, (2008) 112 : 2294 http://www.bloodjournal.org/content/112/11/2294
・甲第22号証:Peter Hillmen “The Role of Complement Inhibition in PNH”, PROXYMAL NOCTURNAL HEMOGLOBINURIA, (2008): 116-23
・甲第23号証:Anita Hill “Eculizumab”, Clinical Medicine: Therapeutics, (2009) 1 pp.1467-1476
・甲第24号証:“Modification of the Eculizumab Dose to Successfully Manage Intravascular Breakthrough Hemolysis in Patients with Paroxysmal Nocturnal Hemoglobinuria.”, Blood, (2008) 112: 3441
・甲第25号証:国際公開第2007/106585号
・甲第26号証:“Metabolism of the Fifth Component of Complement, and its Relation to Metabolism of the Third Component, in Patients with Complement Activation”, The Journal of Clinical Investigation, (1977 Apr) 59 p.704-715
・甲第27号証:エクリズマブの審議結果報告書(平成22年3月5日)

[4]当審の判断

1.甲号証の記載事項
( 甲第1?26号証はいずれも英語で記載されているため、以下の摘記部分については、申立人が添付した抄訳文、及び、特に甲第25号証については対応日本語公報:特表2009-530299号公報(以下単に「参照公報」ということがある)を参考にしつつ、合議体で作成した日本語文にて記す。
下線は合議体による。 )

(1)甲第1号証
甲第1号証は、本件特許の優先権主張の基礎とされた10の出願のうちの1つの明細書であって、同号証には、非定型溶血性尿毒症症候群(aHUS)の治療又は予防のための方法におけるヒト補体成分C5の阻害剤を含む組成物及び当該組成物の使用について記載されており(請求の範囲1,2;2頁5?17行)、当該阻害剤の例であるエクリズマブの投与方法について、以下の事項が記載されている。
・1ア.39頁1?12行
『 ある実施態様では、約900mgの用量の抗C5抗体(例えば、エクリズマブ)を、約12日毎に(例えば、約10、11、13、14、15、16、17、18、19、20、21、28、30、42又は49日以上毎に)、ヒトに静脈内投与することができる(例えば、Hill et al. (2005)・・・)。
ある実施態様では、約600mg(例えば、約625、650、700、725、750、800、825、850、875、900、925又は1,000mg以上)の抗C5抗体(例えば、エクリズマブ)を毎週、任意選択的には、2週間以上(例えば、3、4、5、6、7又は8週間以上)の間、ヒトに静脈内注射することができる。最初の治療に続いて、約900mgの用量の抗体を、約14日毎に(例えば、15、16、17、18、19、20、21、28、30、42又は49日以上毎に)、例えば維持用量として当該ヒトに静脈内投与することができる(Hillmen et al. (2004)・・・)。 』
・1イ.47頁18行?48頁2行
『 実施例1
ヒト患者が医師によりCFB関連aHUSを罹患するとして同定される。4週間にわたり週に1回、当該患者はエクリズマブを含む組成物を600mg用量で投与される。エクリズマブは、35分の静脈注入として投与される。当該患者と医師は、最初の治療の間、aHUSの少なくとも2つの公知の症状において実質的な改善を観察する。4週間にわたる最初の治療の1週間後、当該患者は2週間毎に、各用量が900mgである、静脈投与されるエクリズマブの「維持用量」を受ける。
実施例2
突発性aHUSを罹患するヒト患者が、900mg用量のエクリズマブを含む組成物を2週間毎に静脈投与される。当該患者と医師は、最初の治療の間、患者のaHUSの症状の全体の重篤性における実質的な減少を観察する。当該患者は、同じ治療レジメンを維持される。 』

(2)甲第2号証
甲第2号証は、本件特許の優先権主張の基礎とされた10の出願のうちの1つの明細書であって、同号証には、寒冷凝集素症(CAD)の治療又は予防のための方法におけるヒト補体成分C5の阻害剤を含む組成物及び当該組成物の使用について記載されており(請求の範囲1,2;1頁27行?2頁7行)、当該阻害剤の例であるエクリズマブの投与方法について、以下の事項が記載されている。
・2ア.39頁13?24行
『 ある実施態様では、約900mgの用量の抗C5抗体(例えば、エクリズマブ)を、約12日毎に(例えば、約10、11、13、14、15、16、17、18、19、20、21、28、30、42又は49日以上毎に)、ヒトに静脈内投与することができる(例えば、Hill et al. (2005)・・・)。
ある実施態様では、約600mg(例えば、約625、650、700、725、750、800、825、850、875、900、925又は1,000mg以上)の抗C5抗体(例えば、エクリズマブ)を毎週、任意選択的には、2週間以上(例えば、3、4、5、6、7又は8週間以上)の間、ヒトに静脈内注射することができる。最初の治療に続いて、約900mgの用量の抗体を、約14日毎に(例えば、15、16、17、18、19、20、21、28、30、42又は49日以上毎に)、例えば維持用量として当該ヒトに静脈内投与することができる(Hillmen et al. (2004)・・・)。 』
・2イ.46頁30行?47頁16行
『 実施例1
ヒト患者が医師によりCADのHIV関連型を罹患するとして同定される。4週間にわたり週に1回、当該患者はエクリズマブを含む組成物を600mg用量で投与される。エクリズマブは、35分の静脈注入として投与される。当該患者と医師は、最初の治療の間、CADの少なくとも2つの公知の症状において実質的な改善を観察する。4週間にわたる最初の治療の1週間後、当該患者は2週間毎に、CADが寛解となると医師が決めるまで、各用量が900mgである、静脈投与されるエクリズマブの「維持用量」を受ける。
実施例2
突発性CADを罹患するヒト患者が、900mg用量のエクリズマブを含む組成物を2週間毎に静脈投与される。当該患者と医師は、最初の治療の間、患者のCADの症状の全体の重篤性における実質的な減少を観察する。当該患者は、CADが寛解となると医師が決めるまで、同じ治療レジメンを維持される。 』

(3)甲第3号証
甲第3号証は、本件特許の優先権主張の基礎とされた10の出願のうちの1つの明細書であって、同号証には、重症筋無力症(MG)の治療又は予防のための方法におけるヒト補体成分C5の阻害剤を含む組成物及び当該組成物の使用について記載されており(請求の範囲1,2;2頁2?13行)、当該阻害剤の例であるエクリズマブの投与方法について、以下の事項が記載されている。
・3ア.39頁12?23行
『 ある実施態様では、約900mgの用量の抗C5抗体(例えば、エクリズマブ)を、約12日毎に(例えば、約10、11、13、14、15、16、17、18、19、20、21、28、30、42又は49日以上毎に)、ヒトに静脈内投与することができる(例えば、Hill et al. (2005)・・・)。
ある実施態様では、約600mg(例えば、約625、650、700、725、750、800、825、850、875、900、925又は1,000mg以上)の抗C5抗体(例えば、エクリズマブ)を毎週、任意選択的には、2週間以上(例えば、3、4、5、6、7又は8週間以上)の間、ヒトに静脈内注射することができる。最初の治療に続いて、約900mgの用量の抗体を、約14日毎に(例えば、15、16、17、18、19、20、21、28、30、42又は49日以上毎に)、例えば維持用量として当該ヒトに静脈内投与することができる(Hillmen et al. (2004)・・・)。 』
・3イ.47頁6?22行
『 実施例1
ヒト患者が医師により抗AChR抗体陽性MGを罹患するとして同定される。4週間にわたり週に1回、当該患者はエクリズマブを含む組成物を600mg用量で投与される。エクリズマブは、35分の静脈注入として投与される。当該患者と医師は、最初の治療の間、MGの少なくとも2つの公知の症状において実質的な改善を観察する。4週間にわたる最初の治療の1週間後、当該患者は2週間毎に、MGが寛解となると医師が決めるまで、各用量が900mgである、静脈投与されるエクリズマブの「維持用量」を受ける。
実施例2
D-ペニシラミンにより誘導されるMGを罹患するヒト患者が、900mg用量のエクリズマブを含む組成物を2週間毎に静脈投与される。当該患者と医師は、最初の治療の間、患者のMGの症状の全体の重篤性における実質的な減少を観察する。当該患者は、MGが寛解となると医師が決めるまで、同じ治療レジメンを維持される。 』

(4)甲第4号証
甲第4号証は、本件特許の優先権主張の基礎とされた10の出願のうちの1つの明細書であって、同号証には、抗リン脂質抗体症候群(APS)及び劇症型抗リン脂質抗体症候群(CAPS)の治療又は予防のための方法におけるヒト補体成分C5の阻害剤を含む組成物及び当該組成物の使用について記載されており(請求の範囲1?4;第2頁第8?28行)、当該阻害剤の例であるエクリズマブの投与方法について、以下の事項が記載されている。
・4ア.46頁14?25行
『 ある実施態様では、約900mgの用量の抗C5抗体(例えば、エクリズマブ)を、約12日毎に(例えば、約10、11、13、14、15、16、17、18、19、20、21、28、30、42又は49日以上毎に)、ヒトに静脈内投与することができる(例えば、Hill et al. (2005)・・・)。
ある実施態様では、約600mg(例えば、約625、650、700、725、750、800、825、850、875、900、925又は1,000mg以上)の抗C5抗体(例えば、エクリズマブ)を毎週、任意選択的には、2週間以上(例えば、3、4、5、6、7又は8週間以上)の間、ヒトに静脈内注射することができる。最初の治療に続いて、約900mgの用量の抗体を、約14日毎に(例えば、15、16、17、18、19、20、21、28、30、42又は49日以上毎に)、例えば維持用量として当該ヒトに静脈内投与することができる(Hillmen et al. (2004)・・・)。 』
・4イ.54頁30行?55頁16行
『 実施例1
ヒト患者が医師によりAPSを罹患するとして同定される。4週間にわたり週に1回、当該患者はエクリズマブを含む組成物を600mg用量で投与される。エクリズマブは、35分の静脈注入として投与される。当該患者と医師は、最初の治療の間、APSの少なくとも2つの公知の症状において実質的な改善を観察する。4週間にわたる最初の治療の1週間後、当該患者は2週間毎に、APSが寛解となると医師が決めるまで、各用量が900mgである、静脈投与されるエクリズマブの「維持用量」を受ける。
実施例2
がん関連CAPSを罹患するヒト患者が、900mg用量のエクリズマブを含む組成物を2週間毎に静脈投与される。当該患者と医師は、最初の治療の間、患者CAPSの症状の全体の重篤性における実質的な減少を観察する。当該患者は、CAPSが寛解となると医師が決めるまで、同じ治療レジメンを維持される。 』

(5)甲第5号証
甲第5号証は、本件特許の優先権主張の基礎とされた10の出願のうちの1つの明細書であって、同号証には、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の治療又は予防のための方法におけるヒト補体成分C5の阻害剤を含む組成物及び当該組成物の使用について記載されており(請求の範囲1,2;2頁3?15行)、当該阻害剤の例であるエクリズマブの投与方法について、以下の事項が記載されている。
・5ア.39頁19?30行
『 ある実施態様では、約900mgの用量の抗C5抗体(例えば、エクリズマブ)を、約12日毎に(例えば、約10、11、13、14、15、16、17、18、19、20、21、28、30、42又は49日以上毎に)、ヒトに静脈内投与することができる(例えば、Hill et al. (2005)・・・)。
ある実施態様では、約600mg(例えば、約625、650、700、725、750、800、825、850、875、900、925又は1,000mg以上)の抗C5抗体(例えば、エクリズマブ)を毎週、任意選択的には、2週間以上(例えば、3、4、5、6、7又は8週間以上)の間、ヒトに静脈内注射することができる。最初の治療に続いて、約900mgの用量の抗体を、約14日毎に(例えば、15、16、17、18、19、20、21、28、30、42又は49日以上毎に)、例えば維持用量として当該ヒトに静脈内投与することができる(Hillmen et al. (2004)・・・)。 』
・5イ.47頁29行?48頁14行
『 実施例1
ヒト患者が医師により遺伝性TTPを罹患するとして同定される。4週間にわたり週に1回、当該患者はエクリズマブを含む組成物を600mg用量で投与される。エクリズマブは、35分の静脈注入として投与される。当該患者と医師は、最初の治療の間、TTPの少なくとも2つの公知の症状において実質的な改善を観察する。4週間にわたる最初の治療の1週間後、当該患者は2週間毎に、TTPが寛解となると医師が決めるまで、各用量が900mgである、静脈投与されるエクリズマブの「維持用量」を受ける。
実施例2
再発性TTPを罹患するヒト患者が、900mg用量のエクリズマブを含む組成物を2週間毎に静脈投与される。当該患者と医師は、最初の治療の間、患者のTTPの症状の全体の重篤性における実質的な減少を観察する。当該患者は、TTPが寛解となると医師が決めるまで、同じ治療レジメンを維持される。 』

(6)甲第6号証
甲第6号証は、本件特許の優先権主張の基礎とされた10の出願のうちの1つの明細書であって、同号証には、デンスデポジット病(DDD)の治療又は予防のための方法におけるヒト補体成分C5の阻害剤を含む組成物及び当該組成物の使用について記載されており(請求の範囲1,2;1頁24行?2頁4行)、当該阻害剤の例であるエクリズマブの投与方法について、以下の事項が記載されている。
・6ア.38頁28行?39頁8行
『 ある実施態様では、約900mgの用量の抗C5抗体(例えば、エクリズマブ)を、約12日毎に(例えば、約10、11、13、14、15、16、17、18、19、20、21、28、30、42又は49日以上毎に)、ヒトに静脈内投与することができる(例えば、Hill et al. (2005)・・・)。
ある実施態様では、約600mg(例えば、約625、650、700、725、750、800、825、850、875、900、925又は1,000mg以上)の抗C5抗体(例えば、エクリズマブ)を毎週、任意選択的には、2週間以上(例えば、3、4、5、6、7又は8週間以上)の間、ヒトに静脈内注射することができる。最初の治療に続いて、約900mgの用量の抗体を、約14日毎に(例えば、15、16、17、18、19、20、21、28、30、42又は49日以上毎に)、例えば維持用量として当該ヒトに静脈内投与することができる(Hillmen et al. (2004)・・・)。 』
・6イ.46頁23行?47頁7行
『 実施例1
ヒト患者が医師により遺伝性DDDを罹患するとして同定される。4週間にわたり週に1回、当該患者はエクリズマブを含む組成物を600mg用量で投与される。エクリズマブは、35分の静脈注入として投与される。当該患者と医師は、最初の治療の間、DDDの少なくとも2つの公知の症状において実質的な改善を観察する。4週間にわたる最初の治療の1週間後、当該患者は2週間毎に、DDDが寛解となると医師が決めるまで、各用量が900mgである、静脈投与されるエクリズマブの「維持用量」を受ける。
実施例2
DDDを罹患するヒト患者が、900mg用量のエクリズマブを含む組成物を2週間毎に静脈投与される。当該患者と医師は、最初の治療の間、患者のDDDの症状の全体の重篤性における実質的な減少を観察する。当該患者は、DDDが寛解となると医師が決めるまで、同じ治療レジメンを維持される。 』

(7)甲第7号証
甲第7号証は、本件特許の優先権主張の基礎とされた10の出願のうちの1つの明細書であって、同号証には、発作性寒冷血色素尿症(PCH)の治療又は予防のための方法におけるヒト補体成分C5の阻害剤を含む組成物及び当該組成物の使用について記載されており(請求の範囲1,;1頁26行?2頁7行)、当該阻害剤の例であるエクリズマブの投与方法について、以下の事項が記載されている。
・7ア.39頁12?23行
『 ある実施態様では、約900mgの用量の抗C5抗体(例えば、エクリズマブ)を、約12日毎に(例えば、約10、11、13、14、15、16、17、18、19、20、21、28、30、42又は49日以上毎に)、ヒトに静脈内投与することができる(例えば、Hill et al. (2005)・・・)。
ある実施態様では、約600mg(例えば、約625、650、700、725、750、800、825、850、875、900、925又は1,000mg以上)の抗C5抗体(例えば、エクリズマブ)を毎週、任意選択的には、2週間以上(例えば、3、4、5、6、7又は8週間以上)の間、ヒトに静脈内注射することができる。最初の治療に続いて、約900mgの用量の抗体を、約14日毎に(例えば、15、16、17、18、19、20、21、28、30、42又は49日以上毎に)、例えば維持用量として当該ヒトに静脈内投与することができる(Hillmen et al. (2004)・・・)。 』
・7イ.47頁6?22行
『 実施例1
ヒト患者が医師によりPCHを罹患するとして同定される。4週間にわたり週に1回、当該患者はエクリズマブを含む組成物を600mg用量で投与される。エクリズマブは、35分の静脈注入として投与される。当該患者と医師は、最初の治療の間、PCHの少なくとも2つの公知の症状において実質的な改善を観察する。4週間にわたる最初の治療の1週間後、当該患者は2週間毎に、PCHが寛解となると医師が決めるまで、各用量が900mgである、静脈投与されるエクリズマブの「維持用量」を受ける。
実施例2
感染関連型PCHを罹患するヒト患者が、900mg用量のエクリズマブを含む組成物を2週間毎に静脈投与される。当該患者と医師は、最初の治療の間、患者のPCHの症状の全体の重篤性における実質的な減少を観察する。当該患者は、PCHが寛解となると医師が決めるまで、同じ治療レジメンを維持される。 』

(8)甲第8号証
甲第8号証は、本件特許の優先権主張の基礎とされた10の出願のうちの1つの明細書であって、同号証には、低血小板(HELLP)症候群の治療又は予防のための方法におけるヒト補体成分C5の阻害剤を含む組成物及び当該組成物の使用について記載されており(請求の範囲1,2;2頁5?17行)、当該阻害剤の例であるエクリズマブの投与方法について、以下の事項が記載されている。
・8ア.39頁3?14行
『 ある実施態様では、約900mgの用量の抗C5抗体(例えば、エクリズマブ)を、約12日毎に(例えば、約10、11、13、14、15、16、17、18、19、20、21、28、30、42又は49日以上毎に)、女性に静脈内投与することができる(例えば、Hill et al. (2005)・・・)。
ある実施態様では、約600mg(例えば、約625、650、700、725、750、800、825、850、875、900、925又は1,000mg以上)の抗C5抗体(例えば、エクリズマブ)を毎週、任意選択的には、2週間以上(例えば、3、4、5、6、7又は8週間以上)の間、女性に静脈内注射することができる。最初の治療に続いて、約900mgの用量の抗体を、約14日毎に(例えば、15、16、17、18、19、20、21、28、30、42又は49日以上毎に)、例えば維持用量として当該女性に静脈内投与することができる(Hillmen et al. (2004)・・・)。 』
・8イ.47頁26行?48頁10行
『 実施例1
女性が医師によりHELLP症候群を罹患するとして同定される。4週間にわたり週に1回、当該患者はエクリズマブを含む組成物を600mg用量で投与される。エクリズマブは、35分の静脈注入として投与される。当該女性と医師は、最初の治療の間、HELLP症候群の少なくとも2つの公知の症状において実質的な改善を観察する。4週間にわたる最初の治療の1週間後、当該女性は2週間毎に、HELLP症候群が寛解となると医師が決めるまで、各用量が900mgである、静脈投与されるエクリズマブの「維持用量」を受ける。
実施例2
HELLP症候群を罹患する女性が、900mg用量のエクリズマブを含む組成物を2週間毎に静脈投与される。当該女性と医師は、最初の治療の間、女性の症状の全体の重篤性における実質的な減少を観察する。当該女性は、HELLPが寛解となると医師が決めるまで、同じ治療レジメンを維持される。 』

(9)甲第9号証
甲第9号証は、本件特許の優先権主張の基礎とされた10の出願のうちの1つの明細書であって、同号証には、劇症型抗リン脂質抗体症候群(CAPS)の治療又は予防のための方法におけるヒト補体成分C5の阻害剤を含む組成物及び当該組成物の使用について記載されており(請求の範囲1,2;2頁4?16行)、当該阻害剤の例であるエクリズマブの投与方法について、以下の事項が記載されている。
・9ア.39頁18?29行
『 ある実施態様では、約900mgの用量の抗C5抗体(例えば、エクリズマブ)を、約12日毎に(例えば、約10、11、13、14、15、16、17、18、19、20、21、28、30、42又は49日以上毎に)、ヒトに静脈内投与することができる(例えば、Hill et al. (2005)・・・)。
ある実施態様では、約600mg(例えば、約625、650、700、725、750、800、825、850、875、900、925又は1,000mg以上)の抗C5抗体(例えば、エクリズマブ)を毎週、任意選択的には、2週間以上(例えば、3、4、5、6、7又は8週間以上)の間、ヒトに静脈内注射することができる。最初の治療に続いて、約900mgの用量の抗体を、約14日毎に(例えば、15、16、17、18、19、20、21、28、30、42又は49日以上毎に)、例えば維持用量として当該ヒトに静脈内投与することができる(Hillmen et al. (2004)・・・)。 』
・9イ.47頁10?26行
『 実施例1
ヒト患者が医師によりCAPSを罹患するとして同定される。4週間にわたり週に1回、当該患者はエクリズマブを含む組成物を600mg用量で投与される。エクリズマブは、35分の静脈注入として投与される。当該患者と医師は、最初の治療の間、CAPSの少なくとも2つの公知の症状において実質的な改善を観察する。4週間にわたる最初の治療の1週間後、当該患者は2週間毎に、CAPSが寛解となると医師が決めるまで、各用量が900mgである、静脈投与されるエクリズマブの「維持用量」を受ける。
実施例2
がん関連CAPSを罹患するヒト患者が、900mg用量のエクリズマブを含む組成物を2週間毎に静脈投与される。当該患者と医師は、最初の治療の間、患者のCAPSの症状の全体の重篤性における実質的な減少を観察する。当該患者は、CAPSが寛解となると医師が決めるまで、同じ治療レジメンを維持される。 』

(10)甲第10号証
甲第10号証は、本件特許の優先権主張の基礎とされた10の出願のうちの1つの明細書であって、同号証には、典型又は下痢関連溶血性尿毒症症候群(HUS)の治療又は予防のための方法におけるヒト補体成分C5の阻害剤を含む組成物及び当該組成物の使用について記載されており(請求の範囲1,2;1頁26行?2頁8行)、当該阻害剤の例であるエクリズマブの投与方法について、以下の事項が記載されている。
・10ア.38頁29行?39頁10行
『 ある実施態様では、約900mgの用量の抗C5抗体(例えば、エクリズマブ)を、約12日毎に(例えば、約10、11、13、14、15、16、17、18、19、20、21、28、30、42又は49日以上毎に)、ヒトに静脈内投与することができる(例えば、Hill et al. (2005)・・・)。
ある実施態様では、約600mg(例えば、約625、650、700、725、750、800、825、850、875、900、925又は1,000mg以上)の抗C5抗体(例えば、エクリズマブ)を毎週、任意選択的には、2週間以上(例えば、3、4、5、6、7又は8週間以上)の間、ヒトに静脈内注射することができる。最初の治療に続いて、約900mgの用量の抗体を、約14日毎に(例えば、15、16、17、18、19、20、21、28、30、42又は49日以上毎に)、例えば維持用量として当該ヒトに静脈内投与することができる(Hillmen et al. (2004)・・・)。 』
・10イ.47頁4?21行
『 実施例1
ヒト患者が医師により典型的HUSを罹患するとして同定される。4週間にわたり週に1回、当該患者はエクリズマブを含む組成物を600mg用量で投与される。エクリズマブは、35分の静脈注入として投与される。当該患者と医師は、最初の治療の間、典型的HUSの少なくとも2つの公知の症状において実質的な改善を観察する。4週間にわたる最初の治療の1週間後、当該患者は2週間毎に、典型的HUSが寛解となると医師が決めるまで、各用量が900mgである、静脈投与されるエクリズマブの「維持用量」を受ける。
実施例2
血性の下痢及び排泄物中の抗志賀外毒素抗体を含む、典型的HUSの少なくとも4つの症状を示す子供が、900mg用量のエクリズマブを含む組成物を2週間毎に静脈投与される。当該患者と医師は、最初の治療の間、患者の典型HUSの症状の全体の重篤性における実質的な減少を観察する。当該患者は、典型HUSが寛解となると医師が決めるまで、同じ治療レジメンを維持される。 』

(11)甲第11号証
・11ア.標題
『 非定型及び再発性溶血性尿毒症症候群(HUS)の治療的戦略 』
・11イ.159頁表1下本文9行?160頁2行
『 補体阻害剤
・・・[35]。・・・特に可溶性CR1及び抗C5抗体が臨床使用されている。・・・[36]。
抗ヒトC5抗体群は、抗補体薬の中で代表的なものであって、マウスmAb(N19-8)として最初に開発され、C5に対し1?2倍モル過剰を加えただけで終末補体複合体(TCC)生成及びC5a放出をそれぞれ97%まで及び70?80%阻害する[37]。同抗体群は心肺バイパス術のex vivoモデルにおいても機能した[38]。このヒト化バージョン及び第二のヒトC5阻害mAb(h5G1.1)がこれまで成功裏に産生されている。後者(scFv h5G1.1)がペキセリズマブとしてこれまでに臨床治験に達しており[39]、aHUSを患う患者に対し一つの興味深い治療法の選択肢となるかもしれない。 』
・11ウ.163頁13?17行
『 39 Firch JC,・・・ら (1999)組換えヒト化一本鎖抗体である補体C5インヒビターの心肺バイパス術を伴う冠動脈バイパス移植手術を受けている患者における薬理作用論及び生物学的有効性.Circulation 100:2499-2506 』

(12)甲第12号証
・12ア.標題
『 疾患の機序:腎損傷における補体系 - 宿敵に対する新しい見方 』
・12イ.要約
『 補体系が免疫複合腎糸球体疾患において活性化されるという事実はこれまで50年近くにわたり知られている。・・・。近年、補正活性化が他のタイプの腎臓障害の病因に関与している証拠が明らかになっている;補体活性化が移植損傷、非定型溶血性尿毒症症候群及び進行性尿細管間質性繊維症に関与している。この証拠の出現は、これらの疾患がいかに進行するかについての病識を提供し、有用な診断ツールと治療的介入のための潜在的なターゲットを与えている。臨床医たちは、血漿ベースの治療法を用いることで、無意識のうちに腎臓患者における補体系異常を長年にわたり処置してきた。抗体とタンパク質技術の進歩は、これまで第III相臨床試験に使用されている補体インヒビターの開発をもたらしている。より特異的な薬や適用がここ数年の間に開発される見込みであり、この総説で議論される。 』
・12ウ.284頁左欄10?20行
『 体の治療的操作に対する他のアプローチは、補体タンパク質機能を遮断するための抗体の使用である。抗C5抗体の開発が最も進行している。この抗体はこれまでに心肺バイパス術における第III相臨床治験で私用され^(86)、心筋虚血により引き起こされる組織損傷を阻害する^(62,63)。長期使用に適したこの抗体のヒト化バージョンが現在入手可能であり、膜性腎症の研究を含めた治験の結果が待ち望まれている。 』
・12エ.286頁右欄下から12?8行
『 86 Firch JC、・・・ら.(1999)組換えヒト化一本鎖抗体である補体C5インヒビターの心肺バイパス術を伴う冠動脈バイパス移植手術を受けている患者における薬理作用論及び生物学的有効性.Circulation 100:2499-2506 』

(13)甲第13号証
・13ア.標題
『 小児における補体と非定型溶血性尿毒症症候群 』
・13イ.1966頁左欄33行?右欄8行
『 今後の治療
CFH濃縮物
ヒト血漿由来のCFH[※合議体注.補体H因子(complement factor H)]濃縮物が・・・開発中であり、・・・
補体インヒビター
C5のような補体の重要な活性化成分に対するモノクローナルヒト化抗体は、アナフィラトキシンC5aに介在される損傷を減らし、細胞表面上の膜攻撃複合体の形成を阻害することによって、有益であろう。C5の活性化の阻害は、これまでにCFH-/-マウスにおける糸球体腎炎を改善することが示されている[60]。抗C5モノクローナル抗体であるエクリズマブの長期にわたる有効性及び耐性が、これまでに発作性夜間血色素尿症の患者の大規模コホートで示されている[61,62]。 』
・13ウ)1967頁右欄6行?1968頁表1下左欄5行
『 肝臓及び腎臓の組合せ移植
CFHは肝臓で合成されるので、これまで肝移植は重篤な種類のHUS及びCFH変異を伴う患者のために提唱されて来た。・・・
・・・
要約すると、術前の集中的な移植周囲の血漿療法でカバーされた肝-腎組合せ移植が、現在、・・・患者のための適切な選択肢のようである。・・・
・・・。CFH濃縮物注入又は抗C5モノクローナル抗体のいずれかが将来より容易な選択肢となるかもしれない。 』

(14)甲第14号証
・14ア.標題
『 エクリズマブ 』
・14イ.要約
『 目的.・・・
要約.エクリズマブは、マウスミエローマ細胞から作られた組換えヒト化モノクローナル免疫グロブリンG抗体であり、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の治療のためのFDAにより薬事承認された最初の薬である。エクリズマブは、補体カスケードを阻害することによって働く。エクリズマブは、補体タンパク質C5に特異的に結合し、C5aとC5bへの切断を阻害し、その結果最終的な複合体の形成及び細胞死を妨げる。・・・。推奨される静脈内投与レジメンは、600mgのエクリズマブが1週あたり1回で4週間連続、次いで900mgのエクリズマブが第5週に1回、及び維持投与として900mgのエクリズマブがその後2週毎である。
結論.エクリズマブはPNHの治療において大きな進歩を遂げている。臨床経験は限られているものの、長期のPNH患者における試験はこれまでに重大な副作用のほとんどない安全で有効なエクリズマブの使用を裏付けた。 』
・14ウ.1611頁右欄5?9行
『・・・。エクリズマブの用量レジメンは、4週間にわたり毎週600mg静脈投与、その後1週に900mg、および12週にわたりその後2週毎に900mgである。』
・14エ.1612頁中欄28?33行
『・・・;43人が、4週間にわたり毎週600mg静脈投与、その後1週間に900mg、及び10週にわたりその後2週毎に900mgエクリズマブを受けることを無作為に選択された。・・・』
・14オ.1612頁右欄31?35行
『・・・。エクリズマブの用量は、4週間にわたり毎週600mg静脈投与、第5週に900mg静脈投与、その後2週毎に900mg静脈投与である。・・・』
・14カ.1613頁中欄下から3行?右欄3行
『 推奨される静脈注入用量レジメンは、4週間にわたり毎週600mg、その後第5週に900mg、及び維持用量として14日毎に900mgである^(4)。 』

(15)甲第15号証
・15ア.標題
『 先天性非定型溶血性尿毒症症候群のためのエクリズマブ 』
・15イ.544頁左欄1行?546頁左欄3行
『 ・・・:乳児期の非定型溶血性尿毒症症候群は血栓性微小血管症及び急性腎不全に関連する稀有な障害である。・・・。我々は、先天性の再発性非定型溶血性尿毒症症候群を患い、血漿療法に対して非応答性であるが終末補体タンパク質C5に対するヒト化モノクローナル抗体であるエクリズマブ^(3)に対し応答性を有した1人の患者について報告する。
ある18か月の男児は、4度目の先天性非定型溶血性尿毒症症候群の再発で入院した。・・・
当該乳児は4回の交換輸血を受け、次いで毎日血漿注入を受けた;・・・。32日連続の血漿交換にもかかわらず、増大した溶血及び血小板減少症が持続し腎機能は悪化した(図1)。エクリズマブ療法は、この12kgの小児に対して入院35日に開始された。300mg用量が3週間にわたり週に1回投与され、続いて、2週間毎に600mg投与された。この治療は結果として完全かつ一貫した週末補体の遮蔽をもたらした;治療開始後に試験された任意のトラフ時点で測定可能な程の血漿の溶血活性はなかった。
血液及び腎臓の改善はエクリズマブ治療の開始後48時間以内に生じ始め、寛解は10日以内に生じた(図1)。血漿療法はエクリズマブ治療後の第1週以内に中止された。2週毎の600mgのエクリズマブ用量レジメンは4か月続けられ、今まで、持続した臨床上の寛解を呈している。これらのデータが示唆するのは、C5a、C5b-9又はその双方が先天性の非定型溶血性尿毒症症候群における微小血管症のプロセスに寄与すること、ならびに、対照試験におけるエクリズマブ評価のための刺激が提供されることである。 』

(16)甲第16号証
・16ア.標題
『 非定型溶血性尿毒症症候群のためのエクリズマブ 』
・16イ.544頁左欄8?23行
『 再発性非定型溶血性尿毒症症候群は、患者の90%を超える移植片喪失を招くため、この患者において4回の血漿交換にも関わらず腎臓機能が悪化した後、600mgのエクリズマブの単回投与を決定した。エクリズマブの投与後、全補体活性は、完全に遮断され、溶血は解消され、移植臓器の機能は回復した(図1D)。患者の腎臓移植片は、8ヶ月間安定である。
これらの発見は、我々の患者の非定型溶血性尿毒症症候群の経過における補体阻害の有益な効果を示すものであり、また、我々の見解では、非定型溶血性尿毒症症候群におけるエクリズマブの使用についてさらなる調査を正当化するものである。 』

(17)甲第17号証
甲第17号証は、2009年2月15日にアップデートされたClinicalTrials.gov(米国国立公衆衛生研究所(NIH)と米国医薬食品局(FAD)が共同で、米国国立医学図書館(NLM)を通じて治験及び臨床研究に関する情報を提供しているデータベース)のプリントアウトであって、次の事項が記載されている。
・17ア.冒頭部標題及びその下2行
『 2009_02_15のNCT00844844の表示
臨床治験識別子:NCT00844844
更新 :2009_02_15 』
・17イ.『記述的情報(Descriptive Information)』の項
『 短いタイトル 血漿療法抵抗性の非定型溶血性尿毒症症候群
(aHUS)に罹患した青年期患者のエクリズ
マブの非盲検対照試験
・・・
短い要約 この研究の目的は、血漿療法抵抗性の非定型
溶血性尿毒症症候群(aHUS)に罹患した
青年期患者においてエクリズマブが安全で
効果的であるかどうかを決定することである。
詳細な説明
相 第2相
調査タイプ 治療介入性
・・・
調査デザイン 非盲検
・・・
調査デザイン 安全性/有効性調査
・・・
主要転帰 ・・・
二次転帰 ・・・
・・・
登録者数 15(予測)
疾患 非定型溶血性尿毒症症候群
・・・
治療介入 薬剤:エクリズマブ 治療群表示:エクリズマブ
900mgを週1回4週間、1200mgを
第5週に、続いて、1200mgをその後2週
ごとに静脈内投与 』
・17ウ.『募集要項(Recruitment information)』の項
『 状況 未だ募集していない
開始日 2009年5月
最終フォローアップ日 2010年8月(予想)
第一次終了日 2010年6月(予想)
基準
試験対象患者基準:
・・・
除外基準:
・・・
性別 両方
最少年齢 12歳
最高年齢 18歳
・・・ 』
・17エ.『管理データ(Administrative Data)』の項
組織名 アレクシオン ファーマシューティカルズ
組織研究ID C08-002B
二次ID BB-IND-11075
二次ID EudraCT Number 2008-006953-41
スポンサー アレクシオン ファーマシューティカルズ
保健当局 米国:医薬食品局 』

(18)甲第18号証
甲第18号証も、甲第17号証と同様の、2009年2月15日にアップデートされたClinicalTrials.govのプリントアウトであって、次の事項が記載されている。
・18ア.冒頭部標題及びその下2行
『 2009_02_15のNCT00844545の表示
臨床治験識別子:NCT00844545
更新 :2009_02_15 』
・18イ.『記述的情報(Descriptive Information)』の項
『 短いタイトル 血漿療法抵抗性の非定型溶血性尿毒症症候群
(aHUS)に罹患した成人患者のエクリズ
マブの非盲検対照試験
・・・
短い要約 この研究の目的は、血漿療法抵抗性の非定型
溶血性尿毒症症候群(aHUS)に罹患した
成人患者においてエクリズマブが安全で効果
的であるかどうかを決定することである。
詳細な説明
相 第2相
調査タイプ 治療介入性
・・・
調査デザイン 非盲検
・・・
調査デザイン 安全性/有効性調査
・・・
主要転帰 ・・・
二次転帰 ・・・
・・・
登録者数 15(予測)
疾患 非定型溶血性尿毒症症候群
・・・
治療介入 薬剤:エクリズマブ 治療群表示:エクリズマブ
900mgを週1回4週間、1200mgを
第5週に、続いて、1200mgをその後2週
ごとに静脈内投与 』
・18ウ.『募集要項(Recruitment information)』の項
『 状況 未だ募集していない
開始日 2009年5月
最終フォローアップ日 2010年8月(予想)
第一次終了日 2010年6月(予想)
基準
試験対象患者基準:
・・・
除外基準:
・・・
性別 両方
最少年齢 18歳
・・・ 』
・18エ.『管理データ(Administrative Data)』の項
組織名 アレクシオン ファーマシューティカルズ
組織研究ID C08-002A
二次ID BB-IND-11075
二次ID EudraCT Number 2008-006952-23
スポンサー アレクシオン ファーマシューティカルズ
保健当局 米国:医薬食品局 』

(19)甲第19号証
甲第19号証も、甲第17、18号証と同様の、2009年2月15日にアップデートされたClinicalTrials.govのプリントアウトであって、次の事項が記載されている。
・19ア.冒頭部標題及びその下2行
『 2009_02_15のNCT00844428の表示
臨床治験識別子:NCT00844428
更新 :2009_02_15 』
・19イ.『記述的情報(Descriptive Information)』の項
『 短いタイトル 血漿療法感受性の非定型溶血性尿毒症症候群
(aHUS)に罹患した青年期患者のエクリズ
マブの非盲検対照試験
・・・
短い要約 この研究の目的は、血漿療法感受性の非定型
溶血性尿毒症症候群(aHUS)に罹患した
青年期患者においてエクリズマブが安全で
効果的であるかどうかを決定することである。
詳細な説明
相 第2相
調査タイプ 治療介入性
・・・
調査デザイン 非盲検
・・・
調査デザイン 安全性/有効性調査
・・・
主要転帰 ・・・
二次転帰 ・・・
・・・
登録者数 15(予測)
疾患 非定型溶血性尿毒症症候群
・・・
治療介入 薬剤:エクリズマブ 治療群表示:エクリズマブ
900mgを週1回4週間、1200mgを
第5週に、続いて、1200mgをその後2週
ごとに静脈内投与 』
・19ウ.『募集要項(Recruitment information)』の項
『 状況 未だ募集していない
開始日 2009年5月
最終フォローアップ日 2010年8月(予想)
第一次終了日 2010年6月(予想)
基準
試験対象患者基準:
・・・
除外基準:
・・・
性別 両方
最少年齢 12歳
最高年齢 18歳
・・・ 』
・19エ.『管理データ(Administrative Data)』の項
組織名 アレクシオン ファーマシューティカルズ
組織研究ID C08-003B
二次ID BB-IND-11075
二次ID EudraCT Number 2008-006955-28
スポンサー アレクシオン ファーマシューティカルズ
保健当局 米国:医薬食品局 』

(20)甲第20号証
・20ア.標題
『 再発性非定型溶血性尿毒症症候群に罹患した腎臓移植患者におけるエクリズマブの安全性と長期的効果 』
・20イ.2644頁左欄2?16行
『 非定型HUSは未制御の補体の憎悪の結果として発症し、これまで微小血管症性溶血性貧血の原因となることが示されて来た。血漿交換療法が補体カスケードの進行を制御しようとする試みの中で現在用いられているが、この治療法は厄介でありまた全ての患者において有効ではない。・・・(1)。ある最近の研究において、600mgエクリズマブの単回投与が溶血及び血小板減少を回復するように思われ、また、aHUS発症中の移植患者における腎機能の回復をもたらした(2)。 』
・20ウ.2644頁左欄17行?右欄22行
『 我々は本稿において、腎移植後3年で非定型溶血性症候群の再発を呈した1人の患者におけるエクリズマブの有効性について報告する。・・・。彼女は30歳で末期の腎障害を発症した。34歳の時に腎移植が行われ、aHUSが5カ月後に再発し、それは2年後に移植組織の損失を引き起こした。彼女は3年後のaHUSの再発に伴い2度目の移植を受けたが、移植腎機能の回復は集中的な9カ月にわたる血漿交換療法(47回の血漿交換)の下でのことであった。4カ月後、患者は敗血症及び急性腎不全を呈した。ハプトグロビンは検出不可(<0.15g/L)となり、破砕赤血球は3.7%に増大し血栓性微小血管症(TMA)の増悪が示唆され、それは腎生検により確認された。血漿交換投与(5週間にわたり19回の処置)の結果、進行中TMAの改善がもたらされた。しかしながら、患者は深刻な疲労及び日々の下痢の発症に苦しみ続け、・・・血漿交換療法の中断を選択した。エクリズマブが代替療法として提案され、患者は登録臨床治験及びaHUS患者における有効性のエビデンスの双方が欠如していることを十分に通知された。・・・。エクリズマブによる治療は最後の血漿交換療法の4日後に開始された。PNHについて決定された用量レジメンに基づいて、患者はエクリズマブ900mgIVを7日毎に4回投与、続いて1200mgの維持用量を14日毎に投与された。破砕赤血球数、溶血及び腎機能がモニタリングされた。エクリズマブ治療7カ月後に、同時に血漿交換療法を行うことなく、破砕赤血球は0.5%に減少し、ハプトグロビンは正常範囲にまで増大し、クレアチニンレベルは安定し、そして更なる下痢の発症は報告されなかった。血漿交換の必要性は有意に減少し連続エクリズマブ治療の4カ月後にはストップされた。興味深いことに、9回目のエクリズマブの注入は胸部痛の発症により6日遅延された。この遅延は一時的に溶血の再発、移植組織機能の悪化及び最後の輸血の必要性と関連していた(図1)。我々は、エクリズマブ投与の欠落による補体の破綻が結果としてTMAの再発をもたらしたものである、との仮説を立てている。彼女のaHUSの安定化を考慮すると、エクリズマブがこの特定の患者のための持続的な治療として考慮されることが議論され得る。』
・20エ.2644頁右欄23?30行
『 要約すると、これらのデータは、以前まで頻繁な血漿交換に依存していたaHUS患者における補体C5のエクリズマブによる長期的封鎖が、安全であり、かつ、腎機能の維持、血漿交換なしでの輸血の必要性の減少ならびにTMA及び溶血の制御をもたらす、ということを示唆するものである。aHUSにおけるエクリズマブの有効性の裏付けを目的とする研究が求められることは明らかである。 』
・20オ.2645頁右欄1?2行
『 2 Nurmberger J, ・・・ら.非定型溶血性尿毒症症候群のためのエクリズマブ.N Eng J Med 2009; 360: 542-544 』

(21)甲第21号証
・21ア.標題
『 補体阻害剤であるエクリズマブによる非定型溶血性尿毒症症候群の成功的治療 』
・21イ.「目的」欄?「結果」欄第1文
『 目的: aHUSの管理におけるエクリズマブの安全性と効果。我々は、代替補体経路の制御されない進行により特徴付けられる疾患であるaHUSにおける補体阻害剤であるエクリズマブの潜在的利点を研究しようと試みた。
方法: 血漿交換に反応しない2人のaHUS患者に、最終的な補体カスケードを阻害するために、600mgのエクリズマブを投与した。患者は、有害事象について注意深くモニターされ、血小板数、クレアチニン及びハプトグロビンが評価された。PK/PD解析が2人の患者のうちの1人に行われた。
結果: 我々は、補体阻害剤であるエクリズマブにより成功裏に治療された2人の患者のaHUSを報告する。 』
・21ウ.「要約」欄
『 要約: これは、aHUSの治療のための潜在的な療法として補体阻害剤の使用を評価した最初のレポートである。このデータは、血小板減少症の反転、溶血パラメーターの正常化及び腎臓移植機能の回復からも明らかなように、エクリズマブ療法が血栓性微小血管症及び溶血の減少という結果となることを示唆する。これらのデータは、エクリズマブがaHUSの進行を変更し、エクリズマブによる補体の阻害がこの破壊的かつ命を脅かす疾患の効果的な治療であるかどうか確認するためのさらなる臨床研究の理由となることを示唆する。 』

(22)甲第22号証
・22ア.標題
『 PNHにおける補体阻害の役割 』
・22イ.要約
『 発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)は、まれで、慢性的で、衰弱性の、後天性の障害であって・・・
・・・
本稿では、PNHにおけるエクリズマブ使用の裏にあるエビデンス、当該疾患の合併症に対し有するであろう効果、治療のための最適な患者の選択、・・・について概説する。』
・22ウ.120頁左欄2?25行
・『 補体コントロールからの逸脱
エクリズマブは、補体の完全な封鎖を維持するために、35μg/mL以上を保たねばならない。導入期間の600mgの毎週投与を4回、続いて、2週間おきの900mgのエクリズマブの投与スケジュールは、大多数のPNH患者にとって、完全な補体封鎖の維持のためには適切である。しかし、この投与スケジュールが適切ではない、おそらく10%の割合のごく少数の患者が存在する。これらの患者の最低薬物レベルは、35μg/mLを下まわり、エクリズマブの次の投与の日又は前日にしばしば急なべモグロビン尿症の発症を伴う、患者の血管内溶血が生じる。これに関連してヘモグロビン尿症の発症は、エクリズマブによる治療前に見られるレベルに急に戻る。PNH赤血球の延長された生存及び輸血された赤血球の欠乏の観点から、PNH赤血球の割合が療法の間通常増加するため、ヘモグロビンが低下し得る。この症状及びヘモグロビン尿症は、次の投与の後、エクリズマブのレベルが35μg/mLを超えるため、急激に解消する。多くの患者は、補体コントロールからのこのタイプの逸脱が、12日おきに900mg、又は、隔週で1200mgまで、エクリズマブの投与をわずかに増加することにより防止することができる。 』

(23)甲第23号証
・23ア.標題
『 発作性夜間ヘモグロビン尿症の治療におけるエクリズマブ 』
・23イ.1470頁右欄16?36行
『 1人の患者が急性期研究の間、血清溶血活性の逸脱を有し、もう1人の患者は、延長研究の初期に逸脱した。両逸脱患者の薬物動態解析により、エクリズマブの完全な補体活性阻止のために要求されるレベル(≧35mg/mL)を下回るレベルへの同時期の減少が実証された。これら2人の患者における14日ごとから12日ごとへのエクリズマブの投与インターバルの調整(試験プロトコール内で許容された範囲内)は、35mg/mLより高いエクリズマブのレベルを成功裏に維持し、延長研究の残りの期間について血清溶血活性を一貫して阻止した。試験の終了以降、これらの患者は、12日毎に900mg投与から14日毎に1200mg投与へと、スケジューリングの都合上変更した。阻止は維持されたように見えた^(32)。LDHレベルはPNHにおける血管内溶血の正確な測定法として用いることができ、それらは、エクリズマブ療法期間中の有効な補体阻止はこの酵素のレベルをモニタリングすることによって測定され得ることの証拠を提供する。』

(24)甲第24号証
・24ア.標題
『 発作性夜間ヘモグロビン尿症患者における血管内逸脱溶血を成功裏に管理するためのエクリズマブ用量の変更 』
・24イ.要約
『 発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)は赤血球上の終末補体インヒビターCD59の欠如により特徴付けられ、これらの細胞を慢性的溶血に対し感受性にする。・・・。エクリズマブの標準的投与レジメンは、600mg/週を4週間(導入)、1週後に900mg、その後14±2日ごとに900mg(維持)である。このレジメンは、エクリズマブのレベルを>35μg/mLに維持し、これは、PNH患者の補体媒介性油溶血を完全かつ一貫して阻止するのに十分である。・・・
・・・
代替的なエクリズマブ用量レジメンがその有効性及び安全性を評価するために調査された。2つの異なる投与レジメンが行われた。両方とも、14日毎の1200mgの維持期を含んだ。一方のレジメンは、5回の隔週900mgの誘導期間をも含んだ。・・・ 』

(25)甲第25号証
・25ア.請求の範囲
『 1.発作性夜間血色素尿症を患う患者のクオリティオブライフの少なくとも一態様を改善するための方法であって、補体を阻害若しくはC5b-9の形成を阻害する化合物を、それを必要とする該患者に投与することを含む、方法。
・・・
11.前記化合物が、抗体、活性抗体フラグメント、・・・及びペプチド核酸インヒビターからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
12.前記化合物が抗体又は活性抗体フラグメントである、請求項11に記載の方法。
・・・
16.前記抗体がエクリズマブである、請求項12に記載の方法。
・・・ 』
・25イ.1頁6?11行[参照公報【0001】]
『 発作性夜間血色素尿症(PNH)は、PIG-A1,2と称されるX連鎖遺伝子内に体細胞突然変異を有する造血幹細胞のクローン増殖により生じる後天性血液疾患である。PIG-Aの突然変異は、細胞表面への多くのタンパク質の結合に必要とされるグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカーの合成における早期遮断をもたらす。その結果として、PNH血液細胞には、GPIアンカー型タンパク質の部分的な(II型)欠損又は完全な(III型)欠損がある。 』
・25ウ.3頁18?23行[参照公報【0010】]
『 特定の態様において、本出願は、C5に結合する抗体又はその活性抗体フラグメントを含む医薬組成物を提供するものである。特定の実施形態において、C5に結合する抗体又はその活性抗体フラグメントは、エクリズマブである。特定の実施形態において、C5に結合する抗体又はその活性抗体フラグメントは、ペキセリズマブである。特定の実施形態において、本出願の医薬製剤は、被験体、特にPNHの被験体に投与することができる。』
・25エ.22頁7?14行[参照公報【0082】]
『 特定の実施形態においては、医薬組成物は、単一の単位剤形である。特定の実施形態においては、単一の単位剤形は、300mgの単位剤形である。特定の実施形態においては、医薬組成物は凍結乾燥される。特定の実施形態においては、医薬組成物は滅菌溶液である。特定の実施形態においては、医薬組成物は、保存剤を含まない製剤である。特定の実施形態においては、医薬組成物は、30mLの10mg/mL無菌無保存剤溶液の300mg単回使用製剤を含む。特定の実施形態において、抗体は、以下のプロトコル: 最初の4週間は7±2日毎に25?45分間、600mgの静脈内注射を行い、その7±2日後に900mgの5回目の投与を行い、次いでその後、14±2日毎に900mgの投与、 に従って投与される。抗体は、25?45分に亘って静脈内注射により投与される。 』
・25オ.27頁1行?28頁14行[参照公報【0099】?【0103】]
『 実施例
方法
患者選択
TRIUMPH試験は、2週間のスクリーニング期間、最高3ヵ月の観察期間、及び26週間の投与期間からなるものであった。
スクリーニング期間中、患者は、選択基準及び除外基準について評価された。対象は、18歳以上の、10%以上のIII型赤血球集団を有するPNHと診断された、過去12ヵ月間に少なくとも4回の輸血を受けた男性及び女性とした。・・・
・・・
試験デザイン
患者は、適格輸血の10日以内に、プラセボ又はエクリズマブ(Soliris(登録商標),Alexion Pharmaceuticals,Inc.)のいずれかの投与を受けるために、1対1で無作為割付けされた。治験薬は、以下の通りに盲検性を維持して投与された。即ち、活性薬に無作為割付けされた患者については600mgのエクリズマブを、若しくはプラセボに無作為割り付けされた患者についてはプラセボを、それぞれ静脈内注射により7±1日毎に4回投与し;7±1日後に、900mgのエクリズマブ又はプラセボを、それぞれ静脈内注射により投与し;その後、900mgのエクリズマブ又はプラセボの維持投与を、それぞれ合計26週間の投与で14±2日毎に静脈内注射により行った。 』
・25カ.29頁24行?40頁28行[参照公報【0108】?【0134】]
『 結果
・・・
薬物動態/薬力学
43人のエクリズマブ投与患者の内の42人において、維持期間中(2週間±2日間毎に900mg)の薬物のレベルは、血清溶血活性を完全に遮断するのに十分であった(26週目における平均トラフ値が101.8μg/mL)。1人の患者は、エクリズマブの治療的なトラフレベルが持続せず、各投与間隔の最後の数日間に補体遮断における変化を示した。これらの変化は、臨床的に対処可能であり、次の投与後にすぐに消失した。
溶血有効性変数
PNH患者における慢性脈管内溶血に対するエクリズマブによる終末補体阻害の効果は、本試験において、LDHの平均レベルの即時の(1週間)持続した減少により示された(図1A)。・・・
・・・
この二重盲検無作為化プラセボ対照国際共同試験の結果により、エクリズマブによる終末補体阻害が、まれな疾患であるPNHの患者のための安全且つ有効な治療であると思われることが示される。エクリズマブの投与は、脈管内溶血を低減させ、且つ、輸血を減少させたにもかかわらず、ヘモグロビンレベルを、大部分のPNH患者が輸血に依存しなくなるまで安定化させた。また、疲労及び他の主要なクオリティオブライフのパラメーターの実質的且つ臨床的に意義がある改善も示された。本試験を完了した85人の患者全員が、オープンラベル延長試験においてエクリズマブの投与を受けることを決めたが、現在、全員が薬物を継続している。TRIUMPH試験の結果により、エクリズマブによる終末補体阻害が、終末補体阻害剤の欠乏に対する治療的な代替物を提供することによって、PNH造血幹細胞における根源的な遺伝子欠損の重要な帰結に対して、安全且つ効果的に対処することが示される。 』

(26)甲第26号証
甲第26号証は、『補体活性化を伴う患者における補体第5成分の代謝、ならびに同代謝の第3成分代謝との関連性』(標題); について記載された文献である。
同号証中には、正常な被験者1?7における血中の補体成分のうちC5の濃度の正常範囲が99-134μg/mlであったことを示すデータ(表1); が記載されていると共に、SLE(全身性エリテマトーデス)、MCGN(間質性毛細管性糸球体腎炎)、部分型リポジストロフィー、急性腎炎(連鎖球菌感染症後)、皮膚損傷及び血管浮腫、混合型クリオグロブリン血症、亜急性感染性心内膜炎、慢性活動性肝炎、微小変化型腎炎、重症筋無力症又は慢性腎不全と診断された患者1?21(表2)における血中の補体成分のうちC5の濃度の正常範囲が86-132μg/mlであったことを示すデータ(表3); が記載されている。

(27)甲第27号証
甲第27号証は、厚生労働省「医薬食品局審査管理課」による平成22年3月5日付けの、販売名:「ソリリス点滴静注300mg」/一般名:「エクリズマブ(遺伝子組換え)」の医薬品に係る「審議結果報告書」であって、その5頁以降の平成21年12月16日付け「審査報告(1)」中には、その「本薬」(エクリズマブ)に関し、以下の事項が記載されている。
・27ア.19頁3?21行及び脚注
『 1) 本薬の作成経緯について(・・・)
ヒトC5(以下、「hC5」)に対するマウスの各種mAbがスクリーニングされ、溶血に対する抑制作用・・・及びC5産生抑制作用・・・が認められたm5G1.1mAbが選択された。・・・。
また、ヒトに対する免疫原性を低下させる目的で、ヒト抗体にm5G1.1mAbのCDRを組み込んだ抗体(以下、「h5G1.1」)を作成し、作成された抗体のFab領域(以下、「h5G1.1Fab(CDR)」を用いて・・・hC5との結合能にフレームワーク領域のヒト化の影響は認められない・・・。
また、更なるヒト化のために、h5G1.1Fab(CDR)にヒトκ軽鎖定常領域を組み込み、さらに、補体活性化作用がなくエフェクター細胞におけるFc-γ受容体結合能を有さないことが報告されているハイブリッド型ヒトIgG_(2)-IgG_(4)重鎖定常領域も組み込んだ抗体(h5G1.1 G2/G4mAb:本薬)が作成された。
2) 本薬のC5阻害作用(・・・)
本薬、h5C1.1G4mAb^(+)及びm5G1.1mAbにより、抗ニワトリ赤血球抗体で感作させたニワトリの赤血球のヒト血清による溶血が抑制され・・・、重鎖定常領域の違いはC5阻害作用に影響しないことが示唆された・・・。
・・・

^(*) ・・・
^(+) h5C1.1Fab(CDR)にヒトκ軽鎖定常領域およびヒトIgG4重鎖定常領域を組み込んだ抗体 』
・27イ.30頁2?19行
『 (1)血清中本薬濃度と溶血作用との関連について
・・・
一方、健康成人7例における血清中C5濃度は99?134μg/mLであり、C3又はC5異常を伴う疾患を有する患者21例における血清中C5濃度は86?122μg/mLであったこと(J Clin Invest 59:704-715,1977)、本薬はC5と結合することでC5a及びC5bへの開裂を阻害し、終末補体活性を抑制すること、理論的には本薬1分子あたり2分子のC5と結合することを考慮すると、本薬35μg/mL(約236nM、分子量約148kDa)によってヒト血清中C5 95μg/mL(約500nM、分子量約196kDa)と結合すると考えられるため、本薬の血清中濃度として「35μg/mL」を有効性モニタリングの指標と考えた。
なお、PNH患者を対象とした臨床試験(C02-001、・・・及びC07-001)における血清中濃度と溶血活性の検討においても、血清中トラフ濃度が35μg/mL以上であれば、大部分の患者において溶血活性が20%以下に抑制されることが示されている(図2参照)。 』

2.判断

(1)申立理由[3-1]について

(i)本件特許の優先権主張の有効性について
本件の優先権主張の基礎出願の明細書である甲第1号証?甲第10号証のいずれにも、[構成要件A]及び[構成要件B]にさらに[構成要件C]が組み合わされてなる本件特許発明1の組成物、即ち
「 非定型溶血性尿毒症症候群(aHUS)の処置を必要とする患者におけるaHUSを処置するための有効量でエクリズマブを含む、aHUSを処置するための」
組成物であって、かつ、
「 該エクリズマブは、該患者に対して以下:
少なくとも900mgのエクリズマブが、1週あたり1回で4週間連続、
少なくとも1200mgのエクリズマブが、第5週に1回、および
少なくとも1200mgのエクリズマブが、その後2週ごとに
というスケジュールのもとで静脈内投与されることを特徴とする、」
組成物は、記載されていない。
したがって、本件の請求項1に係る発明、ならびに当該請求項1の従属項に係る発明である同請求項2?4に係る発明は、甲第1?10号証の全体に記載した事項との関係において新たな技術的事項を導入するものといえるから、優先権主張の効果は認められない。
そうすると、本件特許発明の新規性及び進歩性の判断の基準時は、優先日ではなく、原出願の国際出願日である平成21年(2009年)11月10日である。

(ii)申立理由[3-1](1)について
(ii-1) 本件特許発明1は、上掲[2]の請求項1に記載のとおりのものである。

これに対し、甲第17号証には、上掲の1.(17)の摘記17ア?17エの記載がなされている。
しかしながら、甲第17号証が、摘記17イ「治療介入」項に記載された投与スケジュールでエクリズマブを血漿療法抵抗性の青年期aHUS患者に実際に投与し、その有効性及び安全性について検証したことを示すものでないことは、例えば摘記17ウで患者集団を「未だ募集していない」状況であり、治験の開始日が2009年5月(本プリントアウトの内容の更新日である2009年2月15日(摘記17ア)より後)とされていることからも明らかである。
即ち、甲第17号証は、摘記17イの投与スケジュール下でのエクリズマブの投与が、「血漿療法抵抗性の非定型溶血性尿毒症症候群(aHUS)に罹患した青年期患者においてエクリズマブが安全で効果的である」こと(摘記17イ「短い要約」項)を検証するための臨床試験を行う予定であること、及び、対象患者の募集要項やエクリズマブの採用予定の用量及び頻度を含む当該臨床試験の概要に関する、いわば情報の単なる提示に過ぎず、かかる提示された情報それ自体は、本件特許発明1のような
「非定型溶血性尿毒症症候群(aHUS)の処置を必要とする患者におけるaHUSを処置するための有効量でエクリズマブを含む、aHUSを処置するための組成物であって、
該エクリズマブは、該患者に対して以下:
少なくとも900mgのエクリズマブが、1週あたり1回で4週間連続、
少なくとも1200mgのエクリズマブが、第5週に1回、および
少なくとも1200mgのエクリズマブが、その後2週ごとに
というスケジュールのもとで静脈内投与されることを特徴とする、組成物」の発明を記載したものとはいえない。
そうすると、本件特許発明1は、甲第17号証に記載された発明であるとはいえない。

甲第18号証及び甲第19号証についても、適用対象患者が血漿療法抵抗性の成人aHUS患者(甲第18号証。摘記18イ)、血漿療法感受性の青年期aHUS患者(甲第19号証。摘記19イ)である点以外は、甲第17号証の記載と同様であることから、上で甲第17号証について述べたのと同様の理由により、本件特許発明1は、甲第18号証及び甲第19号証のいずれかに記載された発明であるともいえない。

(iii)申立理由[3-1](2)(2-1)について
本件特許発明2、3は、本件特許発明1の従属発明であり、上掲[2]の請求項2、3に記載のとおりのものである。

一方、上掲の摘記25ア?25カを含む甲第25号証の記載からみて、甲第25号証には、
「発作性夜間血色素尿症(PNH)を患う患者のクオリテイオブライフの少なくとも一態様を改善するために用いる、エクリズマブを含有する医薬組成物であって、当該患者に対しエクリズマブを、最初の4週間は7±2日毎に600mg、その7±2日後に5回目の900mg、次いでその後14±2日毎に900mg、の投与スケジュールの下で静脈内投与する、医薬組成物」
の発明(以下、「甲25発明」ということがある)が記載されているといえる。

A.本件特許発明2について
(A-1) 本件特許発明2と甲25発明を対比するに、両者は
エクリズマブを含む、患者を処置するための組成物
の点で一致するが、
1) 処置対象である「患者」が、前者では「aHUSの処置を必要とする患者」であるのに対し、後者では「PNHを患う患者」である点
2) エクリズマブの「投与スケジュール」が、前者では「少なくとも900mgのエクリズマブが、1週あたり1回で4週間連続、少なくとも1200mgのエクリズマブが、第5週に1回、および 少なくとも1200mgのエクリズマブが、その後2週ごとに」であるのに対し、後者では「エクリズマブを、最初の4週間は7±2日毎に600mg、その7±2日後に5回目の900mg、次いでその後14±2日毎に900mg」である点
3) 前者では、「エクリズマブ」が「患者の血液の1mlあたり少なくとも50μgのエクリズマブを維持するための量および頻度で該患者に投与される」のに対し、後者ではそのような限定はない点
(以下、順に相違点1?相違点3ということがある)において、相違する。

(A-2) そこで、以下、上記相違点について検討する。
まず、相違点1について検討するに、甲25発明は、適用対象患者の疾患がPNHに特定されたものである。また、甲第25号証には、エクリズマブの投与による処置対象疾患として、甲25発明のPNH以外にaHUSも挙げられることの特段の記載乃至示唆もない。そして、本件特許発明2のaHUSと、甲25発明のPNHとは、補体系の異常を伴う補体関連障害であって、C5に作用するエクリズマブにより改善が見込まれる点で共通するとはいえ、その発症の原因や症状等において同様ではない、互いに相違する疾患である以上、同じエクリズマブを処置用の有効成分とする場合でも、その有効性及び安全性において有利な効果をもたらし得る適切なエクリズマブの用法・用量等の条件も同様であるとは通常想起できないから、甲第25号証の記載に基づいて、例えば甲25発明に係る組成物のPNH処置のためのエクリズマブの投与スケジュールを直接aHUSに適用しその有効な処置効果を見込むこと自体、当業者といえども直ちに想起し得たこととはいえない。
さらに、相違点2に関し、甲25発明におけるエクリズマブの投与スケジュールと、甲第17?19号証に記載された(実施予定の)エクリズマブの投与スケジュール(摘記17イ、18イ、19イの各「治療介入」項)が一致していないことからみても、例えば甲25発明の適用対象疾患(PNH)及び投与スケジュールの組合せを、甲第17?19号証のいずれかに記載の適用対象疾患(aHUS)及び投与スケジュールの組合せに置き換えてみること自体、当業者といえども直ちに想起し得たとはいえない。そして、そうであれば、上記置き換えを行うことにより、甲第25号証においてPNHに対しもたされた有効性及び安全性と同様の処置効果(摘記25カ)がaHUSに対してももたらされることが当業者にとり予期し得た、とも到底いえない。

してみれば、甲25発明と甲第17?19号証のいずれかに記載された情報とをいかに組み合わせても、[構成要件A]?[構成要件C]を全て具備する本件特許発明2を導き出すこと自体、当業者といえども容易になし得たとはいえないし、そもそも、PNHを処置対象とする甲25発明に係る技術と、甲第17?19号証に記載されたaHUSを処置対象とするエクリズマブ投与の臨床試験の予定情報とを組み合わせること自体、当業者に対し動機づけられていたともいえない。
したがって、上記相違点3について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲第17号証?甲第19号証のいずれかと甲第25号証との組合せにより当業者が容易に想到し得たものということはできない。

(A-3) そして、本件特許明細書によれば、本件特許発明2は、上記相違点1、2に係る[構成要件A]?[構成要件C]、及び上記相違点3に係る[構成要件D]を併せ具備することにより、例えば【0225】実施例1の項にいうような「最初の処置の間、aHUSの少なくとも2つの公知の症状の実質的な改善」、即ち、例えば【0224】に挙げられている既知の諸症状のうちの少なくとも2つの改善効果をもたらし得るものと理解できる。
また、かかる有利な改善効果を具体的に示す実証データについては、本件特許出願の審査係属時に平成29年4月24日付け手続補足書により提出され、同日付けの意見書中で引用された、以下の「甲第1号証」、「甲第2号証」:
・「甲第1号証」:Soliris(エクリズマブ)の評価報告書、2011年9月22日、欧州医薬品庁・医薬品委員会(CHMP)、[2015年10月16日検索]、インターネット<URL:http://www.ema.europa.eu/docs/en_GB/document_library/EPAR_-_Ass
essment_Report_-_Variation/human/000791/WC500119185.pdf>
・「甲第2号証」:SolirisTM(エクリズマブ)静注用濃縮液の添付文書
に例示されているとおりである。

[ なお、本件特許明細書の実施例1や上記「甲第1号証」「甲第2号証」に記載されているような[構成要件C]のエクリズマブ投与スケジュールに従う組成物が、本件特許発明2の[構成要件D]の規定をも満たすものと推認されることについては、後の「(3)申立理由[3-3]について」で詳述する。 ]

(A-4)(申立人の主張について)
申立人は、特許異議申立書において、上記相違点1、2に関連して、甲第25号証について
「 ・・・甲第25号証で対象とする疾患は、aHUSではなくPNHである点が相違するが、例えば、甲第20号証にも記載されるとおり、PNHについて行われる用量レジメンに基づいて、aHUSのレジメンを決定することが本件特許の出願日当時に通常行われている。」[特許異議申立書34/54頁12?15行。下線は合議体による]
と主張している。
しかしながら、上記主張において引用されている甲第20号証に具体的に記載されているエクリズマブ療法に関する事項は、
・600mgエクリズマブの単回投与があるaHUS発症中の移植患者において腎機能の回復をもたらしたことを報告する文献(2)の知見(摘記20イ。なお、ここで引用されている文献(2)は、摘記20オからみて、甲第16号証と同一文献と認められる)を踏まえつつ;
・やはりある特定の、腎移植後aHUSを再発した1人の女性患者に対し、血漿交換の代替療法としてのエクリズマブ投与を、当該患者に対し登録臨床治験及びaHUS患者における有効性のエビデンスがないことの事前通知を行った上で、「PNHについて決定された用量レジメン」に基づくレジメン、即ち、エクリズマブ900mgIVを7日毎に4回投与、続いて1200mgの維持用量を14日毎に、という特定の投与レジメン下で適用したところ、症状の改善がみられたこと(摘記20ウ);
の域を出るものではない。
即ち、甲第20号証は、特定の一aHUS患者に対し、エクリズマブのaHUSに対する有効性については確証がない(未知数である)ことを前提とした上で、「PNHについて決定された」とする特定の一用量レジメン、即ちエクリズマブの「900mgIVを7日毎に4回投与、続いて1200mgの維持用量を14日毎に」というレジメンを採用してみたところ有効であったことを報告するものに過ぎず、かかる甲第20号証の臨床報告、及び同号証中の引用文献(2)(甲第16号証)の記載からでは、例えエクリズマブのaHUSに対する有効性の存在を期待させる摘記20エの記載等を併せ考慮したとしても、本件特許出願時において、PNHについて決定された任意のエクリズマブの用量レジメンをaHUSに対してもそのまま直接採用することが当業者にとり常套的に行われていた、とまでは到底理解できない。
しかも、当該甲第20号証に記載されているエクリズマブの投与レジメン(摘記20ウ)も、甲第20号証中で引用されている文献(2)(甲第16号証)で採用されている投与レジメンも、甲第25号証に記載された投与レジメンと一致しておらず、この点からみても、有効なPNH処置のためのエクリズマブの投与レジメンと有効なaHUS処置のためのそれとが共通する、ということが当業者における通常の認識であるとは理解できない。
してみると、かかる甲第20号証の記載を以て、甲第25号証記載のような「PNHについて行われる用量レジメン」に基づいて「aHUSのレジメンを決定すること」が本件特許の出願日当時に「通常」行われていた、とまでは到底いえない。(なお、甲第16、20号証と類似する、aHUS患者に対するエクリズマブ処置に係る報告である甲第15号証や甲第21号証の記載を併せ参酌しても同様である。)
よって、甲第20号証を引用しての甲第25号証に係る申立人の上記主張は当を得たものではなく、上の(A-2)?(A-3)の相違点1及び2に係る合議体の判断に何ら影響を与えるものではない。

(A-5) 以上の検討のとおりであるから、本件特許発明2は、甲第17号証?甲第19号証のいずれかと甲第25号証とを組み合わせることにより当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

B 本件特許発明3について
本件特許発明3と甲25発明を対比するに、両者は
エクリズマブを含む、患者を処置するための組成物
の点で一致するが、
A(A-1)の相違点1、2と同じ二相違点、及び、
3)’前者では、「エクリズマブ」が「患者の血液の1mlあたり少なくとも100μgのエクリズマブを維持するための量および頻度で該患者に投与される」のに対し、後者ではそのような限定はない点
(以下、相違点3’ということがある)において、相違する。

そして、相違点1、2については、A(A-2)?(A-3)で本件特許発明2における同相違点1、2について検討・説示したのと同様のことがいえる。
そうすると、上記相違点3’について検討するまでもなく、本件特許発明3は、甲第17号証?甲第19号証のいずれかと甲第25号証との組合せにより当業者が容易に想到し得たものということはできない。
また、本件特許明細書によれば、本件特許発明3は、上記相違点1,2に係る[構成要件A]?[構成要件C]、及び上記相違点3’に係る[構成要件E]を併せ具備することにより、例えば【0225】実施例1の項にいうような「最初の処置の間、aHUSの少なくとも2つの公知の症状の実質的な改善」、即ち、例えば【0224】に挙げられている既知の諸症状のうちの少なくとも2つの改善効果をもたらし得るものと理解できるし、かかる有利な改善効果を具体的に示す実証データについては上の(A-3)の「甲第1号証」、「甲第2号証」に例示されているとおりである。

[ なお、本件特許明細書の実施例1や上記「甲第1号証」、「甲第2号証」に記載されているような[構成要件C]のエクリズマブ投与スケジュールに従う組成物が、本件特許発明3の[構成要件E]の規定をも満たすものと推認されることについては、後の「(3)申立理由[3-3]について」で詳述する。 ]

以上のとおりであるから、本件特許発明3についてもまた、甲第17号証?甲第19号証のいずれかと甲第25号証とを組み合わせることにより当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(iv)申立理由[3-1](2)(2-2)について
(iv-1) 本件特許発明4も、本件特許発明1の従属発明であり、上掲[2]の請求項4に記載のとおりのものである。

(iv-2) 本件特許発明4と甲25発明を対比するに、両者は
エクリズマブを含む、患者を処置するための組成物
の点で一致するが、
(iii)(iii-2)A(A-1)の相違点1、2と同じ二相違点、及び、
3)’’前者では、「エクリズマブ」が「患者の血液中でC5分子1個あたり少なくとも0.7分子のエクリズマブの濃度を維持するための量および頻度で該患者に投与される」のに対し、後者ではそのような限定はない点
(以下、相違点3’’ということがある)において、相違する。

そして、相違点1、2については、(iii)(iii-2)A(A-2)?(A-3)で本件特許発明2における同相違点1、2について検討・説示したのと同様のことがいえる。
そうすると、上記相違点3’’に関する甲第26、27号証の記載に基づく申立人の主張[特許異議申立書35/54頁17行?36/54頁9行]の当否等を検討するまでもなく、本件特許発明4もまた、甲第17号証?甲第19号証のいずれかと甲第25号証及び甲第26号証との組合せにより当業者が容易に想到し得たものということはできない。
また、本件特許明細書によれば、本件特許発明4は、上記相違点1、2に係る[構成要件A]?[構成要件C]、及び上記相違点3’’に係る[構成要件F]を併せ具備することにより、例えば【0225】実施例1の項にいうような「最初の処置の間、aHUSの少なくとも2つの公知の症状の実質的な改善」、即ち、例えば【0224】に挙げられている既知の諸症状のうちの少なくとも2つの改善効果をもたらし得るものと理解できるし、かかる有利な改善効果を具体的に示す実証データについては上の(iii)(iii-2)A(A-3)の「甲第1号証」、「甲第2号証」に例示されているとおりである。

[ なお、本件特許明細書の実施例1や上記「甲第1号証」、「甲第2号証」に記載されているような[構成要件C]のエクリズマブ投与スケジュールに従う組成物が、本件特許発明4の[構成要件F]の規定をも満たすものと推認されることについては、後の「(3)申立理由[3-3]について」で詳述する。 ]

以上のとおりであるから、本件特許発明4についてもまた、甲第17号証?甲第19号証のいずれかと甲第25号証と甲第26号証とを組み合わせることにより当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)申立理由[3-2]について

(i)申立理由[3-2](1)について(本件特許発明1について)
(i-1) 甲第11号証は、治療対象としてのaHUSについて記載された文献と認められる(摘記11ア)ものの、特に抗ヒトC5抗体の利用については、主として心肺バイパス術において適用されたことのある一本鎖ヒトC5阻害mAb(「scFv h5G1.1」又は「ペキセリズマブ」)の例を挙げ、そのような抗ヒトC5抗体のaHUSへの利用可能性が示唆されているにとどまるものであり(摘記11イ、ウ)、少なくとも、エクリズマブをaHUSの治療に用いることの具体的な記載乃至示唆は同号証中には見出せない。
甲第12号証でも、aHUSを伴う腎損傷が治療対象の一として挙げられている(摘記12イ)ものの、それらに対する治療薬としての抗C5抗体については、甲第11号証において引用されたのと同様の、心肺バイパス術において適用されたことのある一本鎖ヒトC5阻害mAbの例が引用されると共に、そのような抗ヒトC5抗体のaHUSへの利用可能性が示唆されているに過ぎず(摘記12ウ、エ)、やはりエクリズマブをaHUSの治療に用いることの具体的な記載乃至示唆は見出せない。
甲第13号証もまた、小児における補体とaHUSとの関連について概説した文献である(摘記13ア)ものの、エクリズマブについてはPNH患者に対する適用例の報告(摘記13イ)の他、HUS等を伴う患者における移植に際し抗C5モノクローナル抗体の適用可能性について示唆されているにとどまり(摘記13ウ)、甲第11、12号証と同様、エクリズマブをaHUSの治療に用いることの具体的な記載乃至示唆は見出せない。
即ち、これら甲第11?13号証のいずれにも、エクリズマブを有効成分とするaHUSを処置するための組成物、即ち、本件特許発明1における[構成御要件A]及び[構成要件B]を併せ具備する組成物についての具体的記載乃至示唆はなく、ましてや、[構成要件C]の投与スケジュールに従い静脈内投与されるエクリズマブ含有aHUS処置用組成物については、これら甲第11?13号証には何ら記載乃至示唆されていない。

他方、甲第14号証には、エクリズマブについて記載されているものの、その投与による治療対象として具体的に挙げられている疾患はPNHのみであって、aHUSを適用対象とすることについては具体的な記載乃至示唆はみられないし、また、複数の投与レジメンが挙げられているものの(摘記14ウ?カ)、それらはいずれも本件特許発明1の[構成要件C]の投与スケジュールとは異なるものである。
甲第22号証もまた、PNHを対象疾患とする文献であって(摘記22ア?ウ)、エクリズマブの使用について、複数の投与レジメンと共に記載されている(摘記22ウ)ものの、エクリズマブの適用対象をaHUSとすることの具体的な記載乃至示唆はみられない。さらに、上記複数の投与レジメンについても、いずれも本件特許発明1の[構成要件C]の投与スケジュールとは異なるものである。
即ち、甲第14号証、甲第22号証のいずれにも、エクリズマブを有効成分とするaHUSを処置するための組成物、即ち、本件特許発明1における[構成要件A]及び[構成要件B]を併せ具備する組成物についての具体的記載乃至示唆はなく、ましてや、[構成要件C]の投与スケジュールに従い静脈内投与されるエクリズマブ含有aHUS処置用組成物については、これら甲第14、22号証には何ら記載乃至示唆されていない。

(i-2) そして、(1)(iii)(iii-2)A(A-2)でも検討・説示したとおり、甲第11?13号証のaHUSと、甲第14、22号証のPNHとは、補体系の異常を伴う補体関連障害であってC5に作用するエクリズマブにより改善が見込まれる点で共通するとはいえ、その発症の原因や症状等において同様ではない、互いに相違する疾患である以上、同じエクリズマブを有効成分とする場合でも、その有効性及び安全性において有利な効果をもたらし得る適切なエクリズマブの用法・用量等の条件も共通するとまでは、当業者といえども直ちに合理的に予測し得るものではない。
してみると、甲第14号証又は甲第22号証に記載された、ある特定の投与スケジュールに従うPNH処置用のエクリズマブ含有組成物を、直接甲第11?13号証のaHUSに適用してみること自体、当業者といえども直ちに想起し得たこととはいえないし、またそうであれば、かかるaHUSへの適用により、甲第14、22号証のいずれかにおいてPNHに対しもたらされることが記載乃至示唆されているのと同様の有効性及び安全性に係る処置効果がaHUSに対してももたらされることが当業者にとり予期し得た、とも到底いえない。
さらに、甲第14、22号証に記載されたエクリズマブの投与スケジュールは、本件特許発明1の[構成要件C]の投与スケジュールと一致してもおらず、このことからみても、例えば甲第14、22号証に記載された適用対象疾患(PNH)及び投与スケジュールの組合せを直接甲第11?13号証のいずれかに記載のaHUS患者に適用することを通じて、[構成要件A]、[構成要件B]に加えて[構成要件C」を併せ具備するエクリズマブ含有aHUS処置用の組成物とすることが、当業者にとり容易に想起できたとは到底いえない。

してみれば、甲11?13号証のいずれかと、甲第14、22号証のいずれかとをいかに組み合わせても、[構成要件A]?[構成要件C]を全て具備する本件特許発明1を導き出すこと自体、当業者といえども容易に想到し得たとはいえないし、そもそも、PNHを処置対象とする甲第14、22号証の記載事項と、aHUSを処置対象とする甲第11?13号証の記載事項とを組み合わせることが、当業者に対し動機づけられていたとは到底いえない。

(i-3) そして、本件特許発明1は、[構成要件A]?[構成要件C]を併せ具備することにより、本件特許明細書の例えば実施例1の項に記載されたaHUSの処置における有利な改善効果を奏するものであり、かかる有利な改善効果を具体的に示す実証データについては、上の(1)(iii)(iii-2)A(A-3)等で引用した審査係属時に提出された「甲第1号証」、「甲第2号証」に例示されている。

(i-4) なお、申立人は、特許異議申立書において、甲第11?13号証にはエクリズマブがaHUSの治療に使用できることが記載されている、ということを前提として申立理由の主張をしているようである[特許異議申立書36/54頁24?27行、37/54頁11?12行]が、上の(i-1)前段で検討したとおり、甲第11?13号証のいずれにも、エクリズマブを有効成分とするaHUSを処置するための組成物、即ち、本件特許発明1における[構成要件A]及び[構成要件B]を併せ具備する組成物についての具体的記載乃至示唆はなく、ましてや、[構成要件C]の投与スケジュールに従い静脈内投与されるエクリズマブ含有aHUS処置用組成物については何ら記載乃至示唆されていないのであるから、申立人の主張は、そもそもその前提において根拠を欠くものであり、採用できない。

(i-5) 以上の検討のとおりであるから、本件特許発明1は、甲第11?13号証、甲第14号証及び甲第22号証を組み合わせることにより当業者が容易に発明することができたものである、ということはできない。

(ii)申立理由[3-2](2)、(3)について(本件特許発明2?4について)
本件特許発明2?4は、本件特許発明1の従属発明であり、本件特許発明1の[構成要件A]?[構成要件C]を併せ具備するものである。
そして、上の(i)で検討したとおり、当該[構成要件A]?[構成要件C]を併せ具備する本件特許発明1は、甲第11?14号証及び甲第22号証に基づいて当業者が容易になし得たものでないのだから、同じ[構成要件A]?[構成要件C]を併せ具備する本件特許発明2?4についてもまた、甲第11?14号証及び甲第22号証に基づいて当業者が容易に発明することができたものとはいえない。
よって、[構成要件D]?[構成要件F]に関する甲第25、20号証を引用した申立人の主張[特許異議申立書37/54頁21行?38/54頁21行]の当否等について検討するまでもなく、上の(i)で本件特許発明1について述べたのと同様の理由により、本件特許発明2、3もまた、甲第11?14号証、甲第22号証及び甲第25号証を組み合わせることにより当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないし、本件特許発明4もまた、甲第11号証?甲第14号証、甲第22号証、甲第25号証及び甲第26号証を組み合わせることにより当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)申立理由[3-3]について

(i)[構成要件A]、[構成要件B]及び[構成要件C]について(本件特許発明1について)
(i-1) 本件特許発明1は組成物の発明であるから、特許法第2条第3項第1号にいう物の発明であるところ、物の発明における実施には、その物の使用をする行為が含まれる。
そして、本件特許発明1におけるその物の使用とは、上記組成物をaHUSの処置を必要とする患者に投与し、当該患者のaHUSに対し有効な処置作用をもたらすことに他ならない。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明が、当業者が本件特許発明1の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものといえるためには、上記組成物を上記aHUS患者に投与する際に必要な投与方法等の情報に加え、上記組成物が上記有効な処置作用をもたらすことを当業者が認識できるに足る記載がなされている必要がある。

(i-2) この点を踏まえつつ、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載を検討するに、該発明の詳細な説明には、本件特許発明の処置対象疾患であるaHUS、当該aHUSのような補体関連障害における補体因子(特にC5)、当該aHUSに対するエクリズマブの投与等に関し、次のような記載がある(下線は合議体による)。

a.『 【0011】 C5aは、C5のα鎖から、別のまたは古典的なC5コンバターゼのいずれかによって、α鎖の最初の74アミノ酸(すなわち、上記の配列のアミノ酸残基660?733)を含むアミノ末端フラグメントとして切断される。・・・。この切断部位に結合するかまたはそれに隣接する化合物は、切断部位に対するC5コンバターゼ酵素の接近をブロックする能力を有し、それによって補体インヒビターとして作用する。
・・・
【0013】 C5の切断は、C5a、強力なアナフィラトキシンおよび走化性因子を放出し、かつ溶解性末端成分複合体C5b-9の形成をもたらす。C5aおよびC5b-9はまた、下流の炎症性因子、例えば、加水分解酵素、反応性酸素種、アラキドン酸代謝物および種々のサイトカインの放出を増幅する・・・
【0014】 ・・・C5b-8複合体といくつかのC9分子との結合の際、膜攻撃複合体(MAC、C5b-9、末端補体複合体-TCC)が形成される。十分な数のMACsが標的細胞膜開口部に挿入される場合、それらは標的細胞の(MAC細孔)媒介性急速浸透圧溶解を生じる。・・・内皮細胞および血小板への少数のC5b-9複合体の膜挿入は、有害な細胞活性化を生じ得る。・・・
【0015】 ・・・C3aおよびC5aは、アナフィラトキシンである。これらの活性化された補体成分は、肥満細胞脱顆粒を誘発し得、これが好塩基球および肥満細胞からヒスタミンを、ならびに炎症の他のメディエーターを放出し、これが平滑筋収縮、血管透過性の増大、白血球活性化、および他の炎症現象、例としては、細胞増殖を生じ、これが過形成を生じる。C5aはまた、補体活性化の部位へ炎症促進性顆粒を誘引するように機能する走化性ペプチドとしても機能する。
・・・
【0017】 適切に機能する補体系は、微生物の感染に対して堅強な防御をもたらすが、補体の調節または活性化が不適切なことは、例えば、関節リウマチ(RA);ループス腎炎;虚血性再灌流傷害;非定型溶血性尿毒症症候群(aHUS);・・・;ならびに心筋梗塞、心肺バイパスおよび血液透析から生じる損傷を含めて、種々の障害の病因に関与している(例えば、非特許文献13を参照のこと)。
・・・
【0019】 ・・・
【非特許文献13】Holersら、(2008)Immunological Reviews 223:300?316 』

b.『 【課題を解決するための手段】
【0020】 要約
本発明の開示は、ヒト補体のインヒビター(例えば、抗C5抗体などの補体成分C5のインヒビター)を含む組成物、およびこの組成物を用いて補体関連障害を処置または予防するための方法に関する。いくつかの実施形態では、この組成物は、ヒト補体成分C5タンパク質に結合する、抗体、またはその抗原結合フラグメントを含む。・・・
・・・
【0021】 補体関連障害としては、・・・限定するものではないが、炎症および自己免疫障害が挙げられる。・・・例えば、RA;抗リン脂質抗体症候群(APS);ループス腎炎;虚血性再灌流傷害;aHUS;定型(下痢または感染性とも呼ばれる)溶血性尿毒症症候群(tHUS);・・・および劇症型(catastrophic)APS(CAPS)が挙げられる。
【0022】 一態様では、本開示は、ヒトでの補体関連障害を処置または予防するための方法を特徴付ける。この方法は、ヒト補体のインヒビター(例えば、ヒト補体成分C5のインヒビター)を含む治療上有効な量の組成物を、それを必要とするヒトに対して投与する工程を包含する。
・・・
【0026】 本明細書に記載される任意の方法のいくつかの実施形態では、このインヒビターは、・・・ヒト補体成分C5タンパク質に結合する、抗体、またはその抗原結合フラグメントであってもよいし、またはそれからなってもよい。・・・いくつかの実施形態では、この抗体は、エクリズマブであってもまたはパキセリズマブであってもよい。
【0027】 ・・・この組成物は、ヒトに静脈内投与されてもよい。 』

c.『 【0062】 本開示はまた、C5インヒビターエクリズマブでの処置の際、補体関連障害aHUSおよび腎臓の血栓性微小血管症(TMA)を有する患者が、TMAのさらなる発症なしに腎臓のTMAの完全な回復を経験したという本発明者らによる発見に一部は基づく。・・・
・・・
【0064】 本発明者らはまた、例えば、aHUSまたはCAPSを有する患者に対するエクリズマブの投与が、その疾患の1つ以上の症状の予期されない急速な緩和を生じることを発見している。例えば、本発明者らは、高血圧、尿排出の減少、および低血小板レベルが、エクリズマブでの慢性的な処置を開始して1カ月内(例えば、2週間内)にエクリズマブ処置aHUS患者では緩和されることを発見した。・・・ 』

d.『 【0067】 ・・・
・・・本明細書に記載される任意の方法のいくつかの実施形態では、C5インヒビター(例えば、抗C5抗体)は、患者に対して、患者血液中で1つのC5分子あたり、少なくとも0.7(例えば、少なくとも0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10以上)の二価C5インヒビター分子(単数または複数)(例えば、全抗C5抗体、例えば、エクリズマブ)濃度を維持するために有効な投与の量および頻度で投与され得る。C5インヒビターに関して「二価(divalent)」または「2価(bivalent)」とは、C5分子のための少なくとも2つの結合部位を含むC5インヒビターを指す。C5インヒビターが一価である場合(例えば、単鎖抗C5抗体またはC5に結合するFab)、このインヒビターは、血中のC5分子1個あたり少なくとも1.5(例えば、少なくとも2、2.5、3、3.5、4、4.5、または5以上)の一価C5インヒビターの濃度を維持するために有効な量および頻度でこの患者に投与され得る。・・・。本明細書に記載される任意の方法のいくつかの実施形態では、全(2価)抗C5抗体は、患者の血液の1ミリリットルあたり、少なくとも40μg(・・・)という濃度でこの抗体を維持するのに有効な量および頻度で患者に投与される。好ましい実施形態では、全抗C5抗体(例えば、エクリズマブ)は、患者の血液1ミリリットルあたり少なくとも50μgという濃度で・・・患者の血液1ミリリットルあたり少なくとも100μgという濃度でこの抗体を維持するための量および頻度で投与される。・・・ 』

e.『 【0069】 本明細書に記載される任意の方法のいくつかの実施形態では、抗C5抗体は、患者の体重に基づいてその患者に長期に投与され得る。本明細書に記載される任意の方法のいくつかの実施形態では、抗C5抗体(例えば、エクリズマブ)は、患者の体重に基づいて、表1に示される投薬スケジュールのもとで患者に長期に投与され得る。
【0070】


・・・
【0072】 好ましい実施形態では、抗C5抗体(例えば、エクリズマブ)は、表2に示される投薬スケジュールのもとで患者の体重に基づいてその患者に投与され得る。
【0073】

・・・
【0077】 いくつかの実施形態では、この抗C5抗体は、2週ごとに少なくとも1回患者に投与される。いくつかの実施形態では、この抗C5抗体は、1週あたり1回患者に投与される。いくつかの実施形態では、この抗C5抗体は、以下の投薬スケジュールのもとで少なくとも9週間(例えば、9、10・・・もしくは52週;1、2、・・・もしくは12カ月;または1、1.5、・・・もしくは12年、またはその患者の余生の間)患者に投与され得る:少なくとも800mg(例えば、少なくとも810、820、・・・または1200mg以上)の抗C5抗体を4連続週の間に1週に1回;少なくとも800mg(例えば、少なくとも810、820、・・・または1200mg以上)の抗C5抗体を5週の間に1回;および少なくとも800mg(例えば、少なくとも810、820、・・・または1200mg以上)の抗C5抗体を、その後は、この投薬スケジュールの残りの期間、隔週に。好ましい実施形態では、少なくとも900mgの抗C5抗体を患者に対して4週間にわたり週に1回投与し;少なくとも1200mgを患者に対して、第5週の間に投与し;そして少なくとも1200mgの抗C5抗体を患者に対して、その後、慢性投薬スケジュールの残りの期間、隔週に投与する。 』

f.『 【0126】 いくつかの実施形態では、組成物が、エクリズマブ(Soliris(登録商標);Alexion Pharmaceuticals,Inc.,Cheshire,CT)を含むか、および/または抗体がエクリズマブである。(例えば、Kaplan(2002)Curr Opin Investig Drugs 3(7):1017?23;Hill(2005)Clin Adv Hematol Oncol 3(11):849?50;およびRotherら、(2007)Nature Biotechnology 25(11):1256?1488を参照のこと)。
【0127】 いくつかの実施形態では、この組成物は、パキセリズマブ(Alexion Pharmaceuticals,Inc.,Cheshire,CT)を含むか、および/または抗体がパキセリズマブである。(例えば、Whiss(2002)Curr Opin Investig Drugs 3(6):870?7;Patelら、(2005)Drugs Today(Barc)41(3):165?70;およびThomasら、(1996)Mol Immunol.33(17?18):1389-401を参照のこと)。 』

g.『 【0143】 ある特定の因子が、ヒト補体成分C5のインヒビターであるか否かを決定するための方法は、本明細書に記載されており、当該分野で公知である。例えば、体液中のC5aおよびC5bの濃度および/または生理学的活性は、当該分野で周知の方法によって測定され得る。C5a濃度または活性を測定するための方法としては、例えば、走化性アッセイ、RIA、またはELISAが挙げられる(例えば、WardおよびZvaifler(1971)J Clin Invest.50(3):606?16、ならびにWurznerら、(1991)Complement Inflamm.8:328?340を参照のこと)。C5bについては、本明細書に考察されるような溶血性アッセイまたは可溶性のC5b-9についてのアッセイを用いてもよい。当該分野で公知の他のアッセイも用いてもよい。これらおよび他の適切なタイプのアッセイを用いて、抗C5抗体のようなヒト補体成分C5を阻害し得る候補因子をスクリーニングして、例えば、本明細書に記載の方法で有用な化合物を特定し、かつこのような化合物の適切な投与レベルを決定してもよい。 』

h.『 【0149】 薬学的組成物は、種々の形態であってもよい。これらの形態としては、例えば、液体、半固体、および固体剤形、例えば、液体溶液(例えば、注射用液および注入可能溶液)、分散剤または懸濁剤、・・・組成物は、非経口の方式(例えば、静脈内、皮下、腹腔内、または筋肉内の注射)での投与のために処方されてもよい。・・・「非経口投与」、「非経口的に投与される」および他の文法的に等価な句は、本明細書で使用する場合、通常は注射による、外部投与および局所投与以外の投与方式を指し、これには、限定するものではないが、静脈内、鼻腔内、眼内、肺、筋肉内、動脈内、・・・および胸骨内の注射および注入が挙げられる(・・・)。』

i.『 【0224】 さらに、被験体が、aHUSを有するか、有する疑いがあるか、または発症するリスクがあるかを特定するための方法は、当該分野で公知である。例えば、ヒト被験体が、血小板減少症、微小血管症性溶血性貧血、または急性腎不全を有するか否かを決定するために実験室での試験を行ってもよい。血小板減少症は以下のうちの1つ以上として医学専門家によって診断され得る:(i)血小板数が150,000/mm^(3)未満である(例えば、60,000/mm^(3)未満);(ii)循環中の血小板破壊の増強を反映する、血小板生残時間の減少;ならびに(iii)血小板新生の二次活性化と一致する末梢血液スメアで観察される巨大血小板。微小血管症性溶血性貧血は、以下の1つ以上として医学の専門家によって診断され得る:(i)ヘモグロビン濃度が10mg/dL未満(例えば、6.5mg/dL未満);(ii)血清乳酸脱水素酵素(LDH)濃度の増大(>460U/L);(iii)高ビリルビン血症、網状赤血球増加症、循環中のヘモグロビンなし、および低いかまたは検出不能なハプトグロビン濃度;ならびに(iv)負のCoomb試験とともに末梢血液スメア中の有棘赤血球またはヘルメット細胞の典型的特質を有する断片化赤血球(分裂赤血球)の検出(例えば、Kaplanら、(1992)「Hemolytic Uremic Syndrome and Thrombotic Thrombocytopenic Purpura,」Informa Health Care(ISBN 0824786637)およびZipfel(2005)「Complement and Kidney Disease,」Springer(ISBN 3764371668)を参照のこと)。 』

j.『 【0242】 いくつかの実施形態では、補体インヒビターは、それを必要とする患者に対して、血清溶血性活性を20%以下(例えば、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、またはさらに5%未満)に低下および維持するのに有効である量および頻度で長期に投与され得る。例えば、Hillら、(2005)Blood 106(7):2559を参照のこと。いくつかの実施形態では、補体インヒビターは、LDHの正常な範囲の少なくとも20%(例えば、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、またはさらに5%未満)内に血清乳酸脱水素酵素(LDH)レベルを維持するのに有効な量および頻度で患者に投与され得る。Hillら、(2005)(上記)を参照のこと。いくつかの実施形態では、補体インヒビターは、550IU/L未満(例えば、540、530、520、510、500、490、480、470、450、440、430、420、410、400IU/L未満、または300IU/L未満)の血清LDHレベルを維持するのに有効な量および頻度で患者に投与される。いくつかの実施形態では、C5インヒビター(例えば、抗C5抗体、例えば、エクリズマブ)またはC5aインヒビター(例えば、抗C5a抗体)の投与(例えば、慢性投与)は、患者の症状の1つ以上をその正常なレベルまたは値の40%(例えば、39、38、37、36、35、34、33、32、31、30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、またはさらに1%)内まで緩和する。例えば、いくつかの実施形態では、抗C5抗体で処置(例えば、長期に処置)されるaHUS患者における血圧上昇は、患者の年齢、人種、身長、体重、性別および身体的健康のヒトの正常であるレベルの40%内のレベルまで低下され得る。
【0243】 いくつかの実施形態では、補体インヒビター(例えば、C5インヒビターまたはC5aインヒビター)は、患者が臨床的寛解した後でさえ被験体に投与される。補体関連障害の臨床的寛解を決定することは十分に医学分野の当業者の技術の範囲内である。例えば、aHUSの臨床的寛解の決定要素は、例えば、Nuernbergerら、(2009)N Engl J Med 360(5):542?544に記載されている。CAPSの臨床的寛解は、例えば、Mannerら、(2008)Am J Med Sci 335(5):394?397に記載されている。 』
[※合議体注:【0243】注の下線部の文献は、申立人により提示された甲第16号証と同一物と認められる。]

k.『 【0255】 (実施例1)
ヒト成人患者は、医療従事者によって遺伝型のaHUSを有することが特定される。4週間の間に1週に1回、患者はエクリズマブを含む組成物を900mgの用量で投与される。次いで、この患者は、5週の間に1回少なくとも1200mgのエクリズマブ、およびその後隔週に少なくとも1200mgのエクリズマブを投与される。患者および医療従事者は、最初の処置の間、aHUSの少なくとも2つの公知の症状の実質的な改善を観察する。エクリズマブは、aHUSが寛解することを医療従事者が確認した後でさえ患者に長期に投与される。
【0256】
(実施例2)
約25kgを秤量するヒト患者を、医療従事者によって、aHUSを有すると特定する。2週間の間1週に1回患者に、エクリズマブを含む組成物を少なくとも600mgの用量で投与する。次いで、患者に、第3週の間1回少なくとも600mgのエクリズマブ、そしてその後隔週に少なくとも600mgのエクリズマブを与える。患者および医療従事者は、最初の処置の間、aHUSの少なくとも2つの公知の症状の実質的な改善を観察する。エクリズマブは、aHUSが患者のaHUSの再発を妨げるために寛解状態であることを医療従事者が確認した後でさえ患者に長期に投与される。
・・・
(実施例4)
約7kgを秤量するヒト患者を、医療従事者によって、aHUSを有すると特定する。この患者は、aHUSの結果としてその腎臓にTMAを有する。1週間の間この患者に、エクリズマブを含む組成物を少なくとも300mgの用量で投与する。次いで、この患者に、第2週の間1回少なくとも300mgのエクリズマブ、そしてその後3週ごとに少なくとも300mgのエクリズマブを与える。患者および医療従事者は、最初の処置の間、aHUSの少なくとも2つの公知の症状の実質的な改善を観察する。医療従事者はまた、患者の腎臓におけるTMAが解消し、かつ患者が長期にエクリズマブを投与される間、新たにTMAが生じないことを観察する。エクリズマブは、患者のaHUSの再発を妨げるために、またはその確率を実質的に低下するために、aHUSが寛解状態であることを医療従事者が確認した後でさえ患者に長期に投与され、再発から生じ得るその腎臓に対するなんら追加の損傷を生じない。
・・・ 』

これらの記載によれば、本件特許明細書中では、aHUSが従来から知られた補体系の異常活性化等による補体関連障害の一種であって、それらaHUSを含む補体関連障害に対する処置方法として、補体系における重要な成分であるC5の異常な活性化等を抑制し得るインヒビター、例えばエクリズマブやパキセリズマブ(摘記f。なお、「パキセリズマブ」は甲第11号証の「ペキセリズマブ」(摘記11イ)と同一物と認められる)、の有効量投与が、それら補体関連障害の改善に有効であろうことが説明されている(摘記a?c)。
そして、かかるエクリズマブ有効量投与の態様として、摘記e、h、kのような様々な用法・用量の組み合わせ方が例示され、また典型的には静脈内投与が採用され得ること(摘記b【0027】、h)が述べられた上で、中でも特にその実施例として、実施例1のような「遺伝型のaHUSを有する」ヒト成人患者に対し「4週間の間に1週に1回、患者はエクリズマブを含む組成物を900mgの用量で投与される。次いで、この患者は、5週の間に1回少なくとも1200mgのエクリズマブ、およびその後隔週に少なくとも1200mgのエクリズマブを投与される。」(摘記k実施例1)という、[構成要件C]の規定に係るエクリズマブの投与スケジュールに基づくが記載され、その結果、「患者および医療従事者は、最初の処置の間、aHUSの少なくとも2つの公知の症状の実質的な改善を観察する。エクリズマブは、aHUSが寛解することを医療従事者が確認した後でさえ患者に長期に投与される。」(摘記k実施例1)といった、摘記i、Jに記載されるようなaHUSの諸症状の改善や寛解効果、即ちaHUSに対する薬理作用がもたらされることが記載されているのである。

即ち、これらの説明事項は、aHUSの病状、ならびに、抗C5インヒビターであるエクリズマブの有効量投与が、そのようなaHUSの病状の寛解に寄与する薬理作用をもたらすことについて、当業者にとり一応の理解かつ実施ができるように記載されているといえる。

(i-3) また、例えば申立人が提示した甲号証の記載からみて、概要次のA?Dの事項を把握することもできる。
A エクリズマブを投与した実例でこそないものの、aHUSの処置のための一選択肢として、C5インヒビターとして作用するペキセリズマブ等の抗C5抗体の投与が期待できることは、申立人が提出した例えば甲第11?13号証の記載(上の摘記11イ、ウ、12ウ、エ、13ウ)からみて、本件特許出願時当業者にとり相当程度認識されていた。
B aHUSではないものの、補体関連障害として知られる発作性夜間血色素尿症(PNH)患者に対しエクリズマブを投与することでその症状の改善効果がみられ得ることは、甲第14、22?25号証の記載(上の14イ?カ、22ウ、23イ、24イ、25カ)にみられるとおり、これまた本件特許出願時当業者にとり周知であった。
C さらに、実際、甲第15、16、20及び21号証の記載(上の摘記15イ、16イ、20ウ、21イ、ウ)にみられるとおり、それぞれ個別の患者についての症例報告であるものの、エクリズマブの投与によりaHUSの複数の症状が改善された旨の症例の報告が、本件特許出願時既に複数知られていたものと認められる。
D しかも、[構成要件C]のスケジュールに基づく本件特許発明1のエクリズマブの投与期間中の任意の時点におけるエクリズマブの用量及び頻度は、上のB,Cの各甲号証におけるエクリズマブの投与期間中の相当時点における用量及び頻度と比較して、少なくとも同程度であるかもしくは大きい。

(i-4) これら(i-2)及び要すれば(i-3)の点を踏まえると、エクリズマブを含有するaHUS処置用の組成物であって、[構成要件C]のスケジュールに従い投与される組成物、即ち、本件特許発明1のような[構成要件A]?[構成要件C]を具備する組成物であれば、そのaHUS患者への投与により、当該投与されたエクリズマブのC5インヒビターとしての作用に応じて、aHUSに対しある程度の処置効果がもたらされることは、当業者にとり十分合理的に推認し得た範囲の事項といえる。
よって、当業者であれば、例えば本件特許明細書の実施例1において、同実施例の結果を示す具体的な数値データ等の記載がなくとも、同実施例項に記載された処置効果が実際にもたらされることを理解できたものと考えられる。

(i-5) 因みに、本件特許出願の審査係属時に特許権者により提出された「甲第1号証」、「甲第2号証」(上の(1)(iii)A(A-3))には、[構成要件A]?[構成要件C]を併せ具備する、本件特許明細書の実施例1の組成物に相当するエクリズマブ含有組成物が、aHUS患者に対して、概要「患者および医療従事者は、最初の処置の間、aHUSの少なくとも2つの公知の症状の実質的な改善を観察する。エクリズマブは、aHUSが寛解することを医療従事者が確認した後でさえ患者に長期に投与される。」(上の摘記k実施例1)との記載と矛盾しない有利な処置効果が実際にもたらされたことが、そのことを裏付ける具体的な数値データと共に、示されている。

(i-6)(申立人の主張について)
なお、申立人は、特許異議申立書において、申立理由3に関して
「 ・・・本件特許明細書からは、当業者が[構成要件C]に記載されるスケジュールのもとでエクリズマブを静脈内投与すれば、aHUSの処置に有効であることは確認できないため、[構成要件C]に記載されるスケジュールのもとでエクリズマブを投与すれば、aHUSの処置に有効であると理解できるように、発明の詳細な説明が記載されているとは到底いえない。
・・・
・・・本件特許明細書における[課題を解決する手段]の項には、[構成要件A]及び[構成要件B]のみしか、記載されていない。
さらに、実施例における[構成要件C]に関する記載は、下記の実施例1のみである。
・・・
本実施例は、明らかに薬理試験結果等の具体的なデータを伴うものではなく、一般的な記載のみにとどまっている。
このように、本件特許の[構成要件B]及び[構成要件C]に関する本件特許明細書の記載は、上記の段落番号[0077]の記載及び実施例1のみである。
さらに、医薬用途を裏付ける実施例として、薬理試験結果の記載が求められるところ、薬理試験結果についても何ら具体的に開示されていない。このような一般的な記載では、エクリズマブがaHUSを処置するために[構成要件C]に記載されるスケジュールのもとで投与されるという医薬用途に有効であることを裏付けることはできない。」
[特許異議申立書39/54頁8行?45/54頁6行。下線は合議体による]
といったことを主張している。

しかしながら、(i-2)?(i-4)で検討・説示したとおり、例えば本件特許明細書の実施例1の用法・用量に従ってエクリズマブを静脈内投与することで、同実施例1に記載されたとおりの「患者および医療従事者は、最初の処置の間、aHUSの少なくとも2つの公知の症状の実質的な改善を観察する。エクリズマブは、aHUSが寛解することを医療従事者が確認した後でさえ患者に長期に投与される。」という処置効果が実際にもたらされることは、当業者にとり特段の不合理性を伴うことなく推認し得た範囲のことと考えられる。
よって、申立人の上記主張はいずれも採用できない。

(i-7) したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明1について、当業者が理解かつ実施することができるといえる程度の明確かつ十分な記載がなされているものと判断できる。

(ii)[構成要件D]及び[構成要件E]について(本件特許発明2及び3について)
(ii-1) 本件特許明細書中には、aHUS処置用のエクリズマブ含有組成物において、[構成要件D]、[構成要件E]を満たす態様については、例えば【0067】((i)(i-1)の摘記d)のような記載があるのみで、[構成要件D]の「エクリズマブが、前記患者の血液の1mlあたり少なくとも50μgのエクリズマブを維持するための量および頻度で該患者に投与される」を満足せしめるエクリズマブの用量・頻度条件、ならびに[構成要件E]の「エクリズマブが、前記患者の血液の1mlあたり少なくとも100μgのエクリズマブを維持するための量および頻度で該患者に投与される」を満足せしめるエクリズマブの用量・頻度条件については、具体的な例示等を伴う直接の記載は見出せない。

(ii-2) しかしながら、本件特許出願前の成人PNHに対するエクリズマブの臨床試験データから、補体活性阻害のためのエクリズマブの目標最小血中濃度(目標トラフ濃度)を35μg/mLと設定することは、申立人が提示した例えば甲第22?24号証の記載(摘記22ウ、23イ、24イ)にもみられるとおり、当業者にとり広く知られた技術常識であったと認められるところ、本件特許発明2、3の[構成要件D]、[構成要件E]の規定に係るエクリズマブ濃度の下限:「患者の血液の1mlあたり少なくとも50μg」、「患者の血液の1mlあたり少なくとも100μg」はいずれも上記35μg/mLを超える血中濃度であることから、当該[構成要件D]、[構成要件E]の規定を満たす血中濃度条件でエクリズマブを投与すれば、上述の血中濃度が35μg/mLの場合と比較してもより確かな補体活性阻害作用がもたらされるであろう、といった程度のことは、当業者にとり一応合理的に推測し得た範囲の事項であったといえる。

(ii-3) また、例えば申立人が提示した甲第25号証の実施例の項には、
「600mgのエクリズマブを・・・静脈内注射により7±1日毎に4回投与し;7±1日後に、900mgのエクリズマブ・・・を・・・静脈内注射により投与し;その後、900mgのエクリズマブ・・・を・・・合計26週間の投与で14±2日毎に静脈内注射により」(摘記25オ)
なる用量・頻度でヒト(PNH患者)に投与したところ、殆どの投与対象(43人中42人)において
「維持期間中(2週間±2日間毎に900mg)の薬物のレベルは、血清溶血活性を完全に遮断するのに十分であった(26週目における平均トラフ値が101.8μg/mL)。」(摘記カ)
ことが記載されている。
即ち、甲第25号証によれば、エクリズマブのヒトPNH患者における血中動態に関し、ヒトに対しエクリズマブ600mgを1週あたり1回で4週間連続、900mgを第5週に1回、及び900mgをその後2週毎に静脈内投与した場合、維持期間中のエクリズマブの平均血中トラフ濃度は101.8μg/mL(これは、[構成要件D][構成要件E]のいずれのエクリズマブ濃度の規定をも満たす値である)程度となり得ることは、本件特許出願時当業者にとり知られていた事項と認められる。

そして、ここで、以下のA、B:
A 上述平均血中トラフ濃度:101.8μg/mLは、PNH患者において得られた血中動態データであって、本件特許発明におけるaHUS患者において得られたものではないが、エクリズマブの各疾患に対する薬理作用の程度等はともかく、エクリズマブの血中動態については、性別・年齢や体格等において同様の患者同士であれば、エクリズマブの血中動態においてPNH患者とaHUS患者との間に格別の相違があるとは考え難いこと;
B 本件特許発明2、3が具備する[構成要件C]に係るエクリズマブの投与スケジュールは、最低用量下でも「900mgのエクリズマブが、1週あたり1回で4週間連続、1200mgのエクリズマブが、第5週に1回、および1200mgのエクリズマブが、その後2週ごとに」であって、これは上記101.8μg/mLの維持期平均血中トラフ濃度が得られる場合のエクリズマブの用量・頻度より大であること;
の点を併せ考慮すれば、本件特許発明2、3における[構成要件C]の投与スケジュールに従ってエクリズマブを投与すれば、維持期のエクリズマブの平均血中トラフ濃度は少なくとも101.8μg/mLか、それより大きな値をとる蓋然性が高いものと、一応合理的に推測し得る。

(ii-4) これら(ii-2)や(ii-3)の検討・説示事項を踏まえれば、本件特許発明2、3における[構成要件C]の投与スケジュールに従ってエクリズマブを投与することにより、その任意の態様下で[構成要件D]の「患者の血液の1mlあたり少なくとも50μgのエクリズマブを維持する」、ならびに[構成要件E]の「患者の血液の1mlあたり少なくとも100μgのエクリズマブを維持する」は、そのことを実証する具体的な数値データ等の開示が本件特許明細書中になくとも、当業者にとり合理的に理解かつ実施し得たことといえる。

(ii-5) 因みに、例えば本件特許出願の審査係属時に特許権者により提出された「甲第1号証」((1)(iii)A(A-3))の「3.3.2.Clinical Pharmacology」第2?4段落(6/115頁)や「3.3.2.5.Discussion on clinical pharmacology」第1?2段落(11/115頁)には、エクリズマブの成人のPNHに対するエクリズマブの臨床試験データから、補体活性阻害のためのエクリズマブの目標最小血中濃度(目標トラフ濃度)を35μg/mL/上とすることが知られているところ、より十分な補体阻害活性を保証するため、エクリズマブの目標トラフ濃度を50-100μg/mLと設定された、といった旨の、上の(ii-2)の検討・説示事項と同様のことが説明されている。
また、同「第1号証」の表3の「Adults(>18Years)」(「成人(18歳より上)」)区における「Study C08-002A/B」群(甲第17、18号証の各組織研究ID「C08-002B」「C08-002A」(摘記17エ、18エ)との一致しており、また、年齢が18歳超であることから、当該群の患者は同「甲第1号証」表2の「>40kg^(*)」群、即ち「誘導用量」:「4週間にわたり毎週900mg」、「維持用量」:「第5週に1200mg、その後隔週」の群に属するaHUS患者と認められる)における実際の「維持」期のC_(min)(最小血中濃度)は「149」μg/mLとされているところ、これは[構成要件D]の「患者の血液の1mlあたり少なくとも50μgのエクリズマブを維持する」、[構成要件E]の「患者の血液の1mlあたり少なくとも100μgのエクリズマブを維持する」、のいずれをも満たす血中濃度値である。

(ii-6) したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明2、3のいずれについても、当業者が理解かつ実施することができるといえる程度の明確かつ十分な記載がなされているものと判断できる。

(iii)[構成要件F]について(本件特許発明4について)
(iii-1) 本件特許明細書中には、aHUS処置用のエクリズマブ含有組成物において、[構成要件F]を満たす態様については、例えば【0067】((i)(i-1)の摘記d)のような記載があるのみで、[構成要件F]の「エクリズマブが、前記患者の血液中でC5分子1個あたり少なくとも0.7分子のエクリズマブの濃度を維持するための量および頻度で該患者に投与される」を満たすエクリズマブの用量・頻度条件については、具体的な例示等を伴う直接の記載は見出せない。

(iii-2) しかしながら、例えば申立人の提示した甲第27号証の記載のように、本件特許発明のエクリズマブが「C5と結合することでC5a及びC5bへの開裂を阻害し、終末補体活性を抑制する」C5インヒビターであって「理論的には本薬1分子あたり2分子のC5と結合する」2価の抗体分子であること(例えば上の摘記27イ中の「本薬」に係る記載を参照のこと)は、当業者にとり自明な範囲の事項であると認められるところ、それらのことを踏まえた上で、本件特許明細書の【0067】では、エクリズマブのような2価のC5インヒビターについて
「 ・・・C5インヒビター(例えば、抗C5抗体)は、患者に対して、患者血液中で1つのC5分子あたり、少なくとも0.7(・・・)の二価C5インヒビター分子(単数または複数)(例えば、全抗C5抗体、例えば、エクリズマブ)濃度を維持するために有効な投与の量および頻度で投与され得る。C5インヒビターに関して「二価(divalent)」または「2価(bivalent)」とは、C5分子のための少なくとも2つの結合部位を含むC5インヒビターを指す。」
ことが、その直後の(ペキセリズマブのような)一価のC5インヒビターについての
「C5インヒビターが一価である場合(例えば、単鎖抗C5抗体またはC5に結合するFab)、このインヒビターは、血中のC5分子1個あたり少なくとも1.5(・・・)の一価C5インヒビターの濃度を維持するために有効な量および頻度でこの患者に投与され得る。」
との記載と並記して、記載されているのである。
即ち、かかる本件特許明細書中の例えば【0067】の記載は、患者血液中で1つのC5分子あたり少なくとも0.7分子のエクリズマブが存在すれば、理論的にはエクリズマブ0.7分子は0.7×2=1.4分子のC5と結合し得る量(濃度)で存在することになるから、化学量論的にはC5 1分子当たりエクリズマブが十分な量で存在しC5インヒビターとして十分な量で作用し得るものと考えられる、ということを意図していることは、当業者にとり合理的に理解し得る範囲の事項といえる。

(iii-3) そして、次の事項A、B:
A 例えば申立人が提示した甲号証の記載事項のうち、
・甲第25号証の10頁12?13行(参照公報【0037】)には、C5(190kDaのβグロブリンタンパク質)は正常血清中に約75μg/mL(0.4μM)の濃度で見出されることが記載され;
・甲第26号証には、正常な被験者1?7における血中の補体成分のうちC5の濃度の正常範囲が99-134μg/mlであったこと(表1)、及び、SLE(全身性エリテマトーデス)、MCGN(間質性毛細管性糸球体腎炎)、部分型リポジストロフィー、急性腎炎(連鎖球菌感染症後)、皮膚損傷及び血管浮腫、混合型クリオグロブリン血症、亜急性感染性心内膜炎、慢性活動性肝炎、微小変化型腎炎、重症筋無力症又は慢性腎不全と診断された患者1?21(表2)における血中のC5の濃度の正常範囲が86-132μg/mlであったこと(表3)が記載されていること;
を踏まえ、ヒトにおける血中C5濃度を高々?134μg/mL程度と仮定しても、(甲第27号証に基づいてC5の分子量を約196kDaとすると(上の摘記27イ))、ヒトにおける血中C5の存在量は高々?約0.684μMであること;
B 上の(ii)(ii-3)のとおり、甲第25号証の実施例の項には、「600mgのエクリズマブを・・・静脈内注射により7±1日毎に4回投与し;7±1日後に、900mgのエクリズマブ・・・を・・・静脈内注射により投与し;その後、900mgのエクリズマブ・・・を・・・合計26週間の投与で14±2日毎に静脈内注射により」(摘記25オ)なる用量・頻度でヒト(PNH患者)に投与したところ、殆どの投与対象(43人中42人)において、維持期間中のエクリズマブの平均トラフ値が101.8μg/mL(摘記25カ)であったことが記載されているところ、この平均トラフ濃度は(甲第27号証に基づいてエクリズマブの分子量を約148kDaとすると(上の摘記27イ))、エクリズマブ約0.688μM/mLと算出されること;
を併せ踏まえれば、甲第25号証の用量・頻度に従うエクリズマブ投与時においてさえ、維持期のエクリズマブ血中量は約0.688μM/mLであって、上記C5の仮定血中上限量:?約0.684μMとほぼ同量、即ち[構成要件F]の「患者の血液中でC5分子1個あたり少なくとも0.7分子のエクリズマブの濃度を維持する」量(0.688/0.684>0.7)で存在しているものと一応推測されることになる。

(iii-4) これら(iii-2)及び(iii-3)の検討・説示事項を踏まえると、本件特許明細書の記載、及び要すれば本件特許出願時当業者にとり自明又は既知の事項からみて、[構成要件F]の患者血中エクリズマブ濃度に係る「患者の血液中でC5分子1個あたり少なくとも0.7分子のエクリズマブの濃度を維持する」の要件は、当該要件を実証する具体的な試験データ等の記載が本件特許明細書中になくとも、甲第25号証におけるエクリズマブ投与の用量・頻度より大きい本件特許発明4の[構成要件C]の用量・頻度、例えば本件特許明細書の実施例1に記載された用量・頻度、に従ってエクリズマブ投与を行うことにより、自ずと満たされるであろう、と推認されることが、当業者にとり合理的に理解できるといえる。

(iii-5) 因みに、例えば本件特許出願の審査係属時に特許権者により提出された「甲第1号証」((1)(iii)A(A-3))の「3.3.2.Clinical Pharmacology」第2段落(6/115頁)末尾には、C5の内在性の濃度はおよそ70?90μg/mLの範囲にあることが以前に報告されていた旨述べられているところ、かかる70?90μg/mLの範囲は、上でヒトにおける血中C5濃度を高々?134μg/mL程度と仮定したこととの間に齟齬を来すものでもない。

(iii-6) したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明4についても、当業者が理解かつ実施することができるといえる程度の明確かつ十分な記載がなされているものと判断できる。

(iv)小括
以上、(i)?(iii)での検討のとおりであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、本件特許発明1?4を当業者が理解かつ実施することができるといえる程度の明確かつ十分な記載がなされていない、とはいえないから、申立人のいう申立理由[3-3]は、理由がない。

(4)申立理由[3-4]について

(i) 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定される要件(いわゆる明細書のサポート要件)に適用するか否かは、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、又は、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、を検討して判断すべきものである。

上の点を踏まえ検討するに、本件特許発明1が解決すべき課題は、その[構成要件A]及び[構成要件B]の規定からみて、
「非定型溶血性尿毒症症候群(aHUS)の処置を必要とする患者におけるaHUSを処置する」
ことであると解されるが、これは即ち、aHUSの処置を必要とする患者におけるaHUSに対する処置効果、即ちaHUSに対する薬理作用をもたらすことに他ならない。また、このような課題は、本件特許明細書中の例えば以下の記載:
.『 【課題を解決するための手段】
【0020】 要約
本発明の開示は、ヒト補体のインヒビター(例えば、抗C5抗体などの補体成分C5のインヒビター)を含む組成物、およびこの組成物を用いて補体関連障害を処置または予防するための方法に関する。いくつかの実施形態では、この組成物は、ヒト補体成分C5タンパク質に結合する、抗体、またはその抗原結合フラグメントを含む。・・・
・・・
【0021】 補体関連障害としては、・・・限定するものではないが、炎症および自己免疫障害が挙げられる。・・・例えば、RA;抗リン脂質抗体症候群(APS);ループス腎炎;虚血性再灌流傷害;aHUS;定型(下痢または感染性とも呼ばれる)溶血性尿毒症症候群(tHUS);・・・および劇症型(catastrophic)APS(CAPS)が挙げられる。
【0022】 一態様では、本開示は、ヒトでの補体関連障害を処置または予防するための方法を特徴付ける。この方法は、ヒト補体のインヒビター(例えば、ヒト補体成分C5のインヒビター)を含む治療上有効な量の組成物を、それを必要とするヒトに対して投与する工程を包含する。 』
(下線は合議体による)からも、容易に把握できる事項である。

そして、本件特許明細書の記載、及び、要すれば本件特許出願時当業者にとり知られた自明又は既知の事項を踏まえると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明1?4の[構成要件A]?[構成要件C]を併せ具備するエクリズマブ含有aHUS処置用組成物において、エクリズマブを[構成要件C]の投与スケジュールに従ってaHUS患者に投与することにより、aHUS患者の改善又は寛解に係る有利な薬理作用がもたらされるものと理解できることについては、(3)で検討・説示したとおりである。
そうすると、このような発明の詳細な説明の記載により、「少なくとも900mgのエクリズマブが、1週あたり1回で4週間連続、少なくとも1200mgのエクリズマブが、第5週に1回、および 少なくとも1200mgのエクリズマブが、その後2週ごとに というスケジュールのもとで静脈内投与される」ことにより、aHUS患者におけるaHUSに対する処置効果がもたらされることは、当該処置効果をより具体的に示す試験データ等の記載がなくとも、当業者にとり十分認識できるといえる。

したがって、本件特許発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものである、といえるから、いわゆるサポート要件を満たすものである。
本件特許発明2?4についても同様である。

(ii)(申立人の主張について)
(ii-1) 申立人は、特許異議申立書において、申立理由4に関し、
「 まず、エクリズマブの投与によりaHUSの処置を行うこと自体は、例えば、甲第11号証?13号証、甲第15号証?甲第21号証に記載されるように、本件特許出願前に既に公知であった。
このことに鑑みると、本件特許発明が解決すべき課題は、単にエクリズマブによりaHUSを処置することではなく、aHUSの処置に特に有効なエクリズマブの特定の投与レジメンを提供することにあると考えるべきである。 」
[特許異議申立書47/54頁18?23行。下線は合議体による]
と述べ、これを前提とした主張を行っているが、本件特許発明が解決すべき課題が「非定型溶血性尿毒症症候群(aHUS)の処置を必要とする患者におけるaHUSを処置する」こと、即ちaHUSに対する薬理作用をもたらすこと、にあると把握されることは上の(i)で述べたとおりであるから、申立人の申立理由4に係る主張はそもそもその前提となる本件特許発明の課題の把握において当を得ているとはいえず、よって採用できない。

(iii)小括
したがって、本件特許発明1?4はいずれも、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲内のものではない、とはいえないから、申立人のいう申立理由[3-4]は、理由がない。

(5)付記:「平成29年4月24日付提出の意見書における実施可能要件及びサポート要件欠如に対する出願人の意見について」[特許異議申立書(4-8)(48/54頁20行?52/54頁19行)]について

(i) 申立人は、特許異議申立書において、申立理由3及び4に関し、本件特許出願の審査係属時の「平成28年10月31日付け拒絶理由通知書に対し」て出願人(特許権者)が提出した
・「Soliris(エクリズマブ)の評価報告書」
及び
。「Soliris^(TM)(エクリズマブ)静注用濃縮液の添付文書」
(※合議体注:、(1)(iii)A(A-3)等で引用した「甲第1号証」及び「甲第2号証」がそれぞれ該当するものと認められる)
は、本件特許出願後の臨床データであるから、実施可能要件違反及びサポート要件違反に際して参酌されるべきものではない旨も主張している[特許異議申立書(4-8-1)]
しかしながら、そのような臨床データによらずとも、本件特許明細書の発明の詳細な説明には当業者が本件特許発明1?4を理解しかつ実施することができる程度の明確かつ十分な記載がなされていると考えられることは、(3)の(i)(i-2)?(i-4)、(ii)(ii-2)?(ii-4)及び(iii)(iii-2)?(iii-4)で検討・説示したとおりであり、また、そのような臨床データによらずとも、本件特許発明1?4が本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された範囲内のものであることは、(4)で述べたとおりである。
よって、申立人の上記主張により、上述の(3)?(4)の合議体の判断は何ら妨げられるものではない。

(ii) また、特許権者により引用された知財高裁判決2件:平成22年(行ケ)第10203号及び平成21年(行ケ)第10033号に基づく審査係属時の特許権者の意見に対するコメント等を含む、申立人の主張[特許異議申立書(4-8-2)?(4-8-4)]もまた、上述の(3)?(4)の合議体の判断に特段の影響を及ぼすものではない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明については優先権主張の効果は認められないが、それでもなお、本件特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-08-20 
出願番号 特願2015-111892(P2015-111892)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A61K)
P 1 651・ 121- Y (A61K)
P 1 651・ 113- Y (A61K)
P 1 651・ 536- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 佐々木 大輔  
特許庁審判長 阪野 誠司
特許庁審判官 井上 明子
大久保 元浩
登録日 2017-08-10 
登録番号 特許第6189895号(P6189895)
権利者 アレクシオン ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド
発明の名称 補体関連障害を処置するための方法および組成物  
代理人 山本 秀策  
代理人 森下 夏樹  
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