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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C01B 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C01B |
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管理番号 | 1343917 |
異議申立番号 | 異議2017-700924 |
総通号数 | 226 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-10-26 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-09-29 |
確定日 | 2018-09-03 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6105152号発明「CVD製造空間の清掃」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6105152号の請求項1?8に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件特許第6105152号の請求項1?8に係る特許についての出願は、2014年(平成26年)3月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2013年4月11日、ドイツ)を国際出願日とする出願であって、平成29年3月10日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人横山佳孝(以下、「特許異議申立人」という。)により平成29年9月29日付けで特許異議の申立てがされ、以下の手続がなされたものである。 平成29年11月29日付けの取消理由通知 平成30年 3月 2日付けの意見書の提出 3月29日付けの取消理由通知(決定の予告) 7月 2日付けの意見書の提出 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1?8に係る発明(以下、「本件特許発明1」?「本件特許発明8」という。)は、次のとおりである。 【請求項1】 多数のCVD反応器を含む多結晶シリコン製造用製造室を清掃する方法であって、清掃が少なくとも2週間の内に1回行われ、水性の洗浄液が清掃に使われ、該CVD反応器の外側ケーシング、パイプラインおよび該製造室の床が清掃される、方法。 【請求項2】 洗浄液で湿潤させた毛羽立ちのないクロスが清掃に使われる、請求項1に記載の方法。 【請求項3】 ブラシ型、湿式および乾式バキュームクリーナー、掃除機、スクラバードライヤー、シングルディスクマシーンなどの清掃機も清掃に使用される、請求項1または2に記載の方法。 【請求項4】 使われる洗浄液が脱塩水を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。 【請求項5】 使われる洗浄液が、脱塩水ならびに5から15%のアニオン性界面活性剤および5%未満のイオン性界面活性剤を含む中性pH洗浄剤の混合物である、請求項4に記載の方法。 【請求項6】 CVD反応器の外側ケーシング、パイプラインおよび製造室の床が、少なくとも週1回清掃される、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。 【請求項7】 最初に、それぞれのケースで、反応器の外側ケーシングおよびパイプラインを洗浄液で湿潤させた毛羽立ちのないクロスで拭き、その後になって初めて床を洗浄液で清掃する、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。 【請求項8】 床が少なくとも週2回、パイプラインおよび反応器の外側ケーシングが少なくとも1日1回清掃される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。 第3 申立理由の概要 特許異議申立人は、次の申立理由(1)?(3)により、本件特許は取り消すべきものである旨主張している。 1.申立理由(1) 本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものであるから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定の要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 2.申立理由(2) 本件特許発明1?8は、請求項1?8に記載された特許を受けようとする発明が明確でないから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定の要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 3.申立理由(3) 本件特許発明1?8について、本件明細書の発明の詳細な説明には、発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定の要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 第4 取消理由の概要 当審において、平成29年11月29日付けで通知した取消理由(1)?(6)の概要は、次のとおりである。そして、平成30年3月29日付けの取消理由通知(決定の予告)では、通知した取消理由の内、取消理由(1)及び取消理由(6)のみについて理由があるとした。 取消理由(1) (上記申立理由(1)を採用) 本件特許発明1?8は、その清掃頻度(回数)において、唯一の実施例である「ホールA」より広い範囲の清掃頻度(回数)を特定している。 そして、本件特許明細書の他の記載を見ても、本件特許発明1?8の範囲まで拡張できるとは認められず、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 取消理由(2) (本件特許発明2に対する上記申立理由(2)を採用) 請求項2に記載された「毛羽立ちのないクロス」が、どのようなものか不明であり、本件特許発明2は、特許を受けようとする発明が明確でないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 取消理由(3) (本件特許発明4に対する上記申立理由(2)を採用) 請求項4に記載された「脱塩水を含む」の特定する水の範囲(定義)が不明であり、本件特許発明4は、特許を受けようとする発明が明確でないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 取消理由(4) (上記申立理由(3)を採用) 発明の詳細な説明には、CVD反応器からの多結晶シリコンの取り出し頻度と清掃(頻度)との関係について記載がない。また、CVD反応器の設置数等も不明である。 してみると、現実の多結晶シリコン製造用製造室において、上記取り出し頻度等との関係で、どれくらいの頻度での清掃を行うのかについて、発明の詳細な説明は、明確かつ十分に記載されていない。 したがって、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 取消理由(5) 「CVD反応器の外側ケーシング」と「パイプライン」との清掃について、発明の詳細な説明に記載がないから、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 また、本件特許発明1?8は、発明の詳細な説明に記載されている「表面」、「鋼製ワーク」の清掃について特定しないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 取消理由(6) 本件特許発明1?8は、汚染の累積度合に関する事項(前提技術)を何ら特定しないから、当業者が、発明の課題を解決するものであると、一概に、認識することができるものといえず、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定する要件を満たしていない。 第5 当審の判断 1.取消理由(1)について 本件特許発明1?8の解決しようとする課題は、本件明細書の【背景技術】【0003】?【0018】及び【発明の概要】【0020】?【0021】の記載、特に、【0007】、【0014】及び【0021】の記載から、多結晶シリコンがCVD反応器からの取り出し及びその後の処理ステップの間に表面汚染物質で汚染されていないようにすることであり、具体的には、本件明細書の【0044】の記載から、「50pptw未満のFe、5pptw未満のZnおよび10pptw未満のNa」という表面汚染物質の少ない多結晶シリコンを製造することにあると認められる。 本件明細書の段落【0035】には、「意外にも、相関試験において、蒸着ホールの清掃頻度と、品質パラメータであるポリシリコン中の金属および環境元素との間で間接的な比例関係が認められた。」との記載がある。 また、本件明細書の実施例(【0036】?【0043】、【表1】)では、3箇所の蒸着ホールA,B及びCで製造されたポリシリコンの表面汚染調査に関し、3箇所のホールの製造工程は同じとするが清掃周期は異なるものとして、表面汚染物質Fe,Zn,Naの量を測定した結果について記載されている。ここで、「蒸着ホールの清掃頻度」に関わるパラメータとしては、【0042】【表1】中に「週当たりの清掃頻度」として、「床」、「表面」、「鋼製ワーク」の3つの項があり、ホールA,B及びCについて、それぞれ3つの項に数値が記入されている。 これらに関し、平成30年7月2日付け意見書では、その第2?5頁において、「(2)本件特許発明について」と題した説明により、CVD反応器外部を清掃することによって、多結晶シリコンの表面汚染物質からの汚染を防止することが、同じく第7?11頁において、「(4)「間接的な比例関係」との記載について」と題した説明及び図表により、平均清掃頻度と多結晶シリコンロッドの表面汚染物質量との関係が直線関係、即ち比例関係となることが、そして、同じく第11?12頁において、「(5)清掃頻度「0.5(2週間の内に1回)について」と題した説明及び図表により、「清掃が少なくとも2週間の内に1回」と特定されていることについての合理的な理由が、以下のように主張されている。 「(2)本件特許発明について ・・・(略)・・・ CVD反応器の外部を清掃することにより、CVD反応器の内部で製造される多結晶ポリシリコンの表面汚染物質量が減少するといったことは、本件出願前には当業者が全く思いもよらなかった驚くべきことなのであります。 また、一般に、多結晶シリコン製造用製造室における汚染物質(塵粒子・金属等)は、CVD反応器外部のいかなる露出表面にもほぼ等しく蓄積します。なぜなら、多結晶シリコン製造用製造室内の重力は、いずれの箇所においても一定であり(9.81m/s^(2))、また、一般的な多結晶シリコン製造用製造室(長さ>50m、幅>10m、高さ>10m)における(層流)対流は、いずれの箇所においても中程度で変わらないからです。したがって、CVD反応器外部のいずれの箇所においても、汚染物質の蓄積は同程度であるといえます。 ・・・(略)・・・ (4)「間接的な比例関係」との記載について 取消理由通知書(2)の4のイにおいて、審判官殿のご指摘のように、本件明細書の段落〔0035〕には、「意外にも、相関関係において、蒸着ホールの清掃頻度と、品質パラメータであるポリシリコン中の金属および環境元素との間で間接的な比例関係が認められた。」との記載があります。この「間接的な比例関係」について、以下に説明します。 本件明細書の段落〔0042〕の表1には、3つの蒸着ホール(ホールA、ホールB及びホールC)の週当たりの清掃頻度、並びに3つの蒸着ホールで製造された多結晶シリコンロッドの表面汚染物質量が記載されています。 平成30年3月2日付けで提出した意見書にて説明したように、表1における「床」、「表面」、「鋼製ワーク」は、それぞれ、本件特許発明1における用語「製造室の床」、「CVD反応器の外側ケーシング」、「パイプライン」に相当します(下図参照)。 ・・・(略)・・・ 上記「(2)本件特許発明について」の項で説明したように、CVD反応器外部のいずれの箇所においても、汚染物質(塵粒子・金属等)の蓄積は同程度であること、及び上記した本件発明の本質に照らせば、「床」、「表面」及び「鋼製ワーク」の3箇所で清掃頻度が異なる表1に示す実施例においては、ホール全体に対する清掃頻度として捉えようとする場合、これら3箇所の清掃頻度を平均して考えるのが妥当であるといえます。 そこで、これら3箇所の清掃頻度(何日に1回清掃するか)を平均すると、以下のようになります。 ・・・(略)・・・ そして、清掃頻度をX軸、表面汚染物質量をY軸にプロットすると、ほぼ直線関係となります。 ・・・(略)・・・ (当審注:ホールBの上記計算式「7/(1+1+0.13)/3」の計算結果は「9.8」となるため、上記の値「8.4」は誤記と認められるものであるが、正しくプロットしたとしても直線の傾きに有意な差は生じない。) (5)清掃頻度「0.5(2週間の内に1回)について 本件特許発明1において「清掃が少なくとも2週間の内に1回」と特定した具体的根拠を以下に説明します。 取消理由通知書(2)の4のアにおいても認定されているように、本件特許発明の解決しようとする課題は、「50pptw未満のFe、5pptw未満のZnおよび10pptw未満のNa」という表面汚染物質の少ない多結晶シリコンを製造することであります。そして、上記「(4)「間接的な比例関係」との記載について」の項で説明したように、本件特許発明では、平均した清掃頻度と多結晶シリコンロッドの表面汚染物質量との間に「間接的な比例関係」(直線関係)があることを見出しました。 ここで、上記プロットを参照すると、「50pptw未満のFe、5pptw未満のZnおよび10pptw未満のNaの表面汚染物質」が達成されるのは、清掃頻度がおよそ14日(2週間)である場合であることが明らかであります。 したがって、週当たりの清掃頻度0.5(2週間の内に1回)以上であれば、課題の解決を達成し得ることが明らかであり、したがって、「清掃が少なくとも2週間の内に1回」と特定することには客観的な合理的理由があるのも明らかであります。 なお、取消理由通知書(2)の4のエにおける審判官殿のご指摘を受け、平成30年3月2日付けで提出した意見書における追加実施例の「ホールC」の数値について、改めて見直したところ、誠に遺憾ながら、誤りがあることが判明致しましたので、ここに謹んで撤回させて頂きたく存じます。 ・・・(略)・・・」 そこで、この特許権者の主張について検討する。 まず、発明の詳細な説明の実施例(【0036】-【0043】)に関し、表1の「週当たりの清掃頻度」の項に記載されている「表面」、「鋼製ワーク」及び「床」は常識的にみて清掃箇所に相当すると認められるものである。そして、表1が発明の実施例の結果を表したものであることを合わせみれば、本件特許発明1で特定されている「CVD反応器の外側ケーシング」、「パイプライン」及び「製造室の床」という3つの用語が直接的には表れてこないものの、これら3つのそれぞれの清掃箇所は対応関係があるものと解することが自然である。即ち、「表面」、「鋼製ワーク」及び「床」は、多結晶シリコン製造に係るプラント部品及び床の構成を勘案すれば、それぞれ「CVD反応器の外側ケーシング」、「パイプライン」及び「製造室の床」に相当するものと認められる。 次に、実施例のホールA及びホールBでは、「表面」、「鋼製ワーク」及び「床」の3箇所で清掃頻度が異なっているため、本件明細書の段落【0035】における「蒸着ホールの清掃頻度」に対応した数値を直接見積もることはできないが、一般的な多結晶シリコン製造用製造室における重力や対流を考慮すると、汚染物質の蓄積はCVD反応器外部のいずれの箇所においても同程度であるという特許権者の主張は妥当であるから、平成30年7月2日付け意見書において、上記3箇所の清掃頻度を平均した平均清掃頻度において説明をしている点については合理的な理由が認められる。 してみれば、上記した図表(平成30年7月2日付け意見書の第10頁)のとおり、平均清掃頻度と多結晶シリコンロッドの表面汚染物質量との関係は直線関係、即ち比例関係となることが認められる。なお、平成30年7月2日付け意見書においては、ホールBにおける「鋼製ワーク」の週当たりの清掃頻度「0.13」は「0.5」の誤記である旨も述べられているが、この清掃頻度はいずれの値を採ったとしても概ね比例関係となって、その直線の傾きの違いに有意な差は生じない。 この比例関係を前提とすれば、表面汚染物質Fe,Zn,Naの量をそれぞれ50pptw未満、5pptw未満、10pptw未満とするために概ね必要とされる清掃頻度に関し、平成30年7月2日付け意見書の第12頁に記載された上記の図表に基づき「少なくとも2週間の内に1回」行われると特定したことについての特許権者の主張にも合理的な理由が認められる。 以上のことから、本件特許発明1?8の解決しようとする課題は、多結晶シリコンがCVD反応器からの取り出し及びその後の処理ステップの間に表面汚染物質で汚染されていないようにすることであり、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明1?8で特定されている清掃頻度(回数)について、本件明細書の段落【0035】等の記載に基づき、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度に説明がされているといえる。 よって、本件特許発明1?8は発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものではないといえるから、取消理由(1)に理由はない。 ところで、当審による平成30年3月29日付けで通知した取消理由では、当審の判断4-エとして、平成30年3月2日付け意見書に記載された追加された実施例は、清掃頻度について2週間の内に1回以上とすることの合理的な理由を推認させないものであると述べたものであるが、この追加された実施例については上記した特許権者の主張の中で撤回されている(平成30年7月2日付け意見書の第12頁)。 2.取消理由(2)について 本件特許発明2の「毛羽立ちのないクロス」については、「毛羽立ちのない」が毛羽が落ちない、糸くずが出ないことを意味し、「クロス」がクロス・布を意味していることが明らかであって、例えば、このようなガラス清掃クロス、マイクロファイバークロス、クリーンルームクロス等が該当することは当業者に明確である。 なお、特許異議申立人は、特許異議申立書第7頁第13-15行において、ガラス面のような平滑面を意図しているのか不明である旨主張しているが、「毛羽立ちのない」が上記のように解釈される以上、このようなことまで意図されていないのは当業者に明らかである。 よって、取消理由(2)にも理由はない。 3.取消理由(3)について 本件特許発明4の「脱塩水」は、イオン交換などによって処理して塩類を除去した水のことをいうものであって、技術常識に照らし明確である。「脱塩水を含む」に関し、請求項4は、請求項1から3のいずれか一項を引用して記載されているものであるが、例えば、請求項1に係る本件特許発明1で特定されている清掃に使われる「水性の洗浄液」は、本件明細書の段落【0024】に洗浄液として水道水等も使用できると記載されていることから、脱塩水に限らず脱塩水を全く含まないものであってもよいことは明らかであり、同じく段落【0026】の記載から脱塩水が好ましい例であることも明らかである。 してみれば、本件特許発明4の「脱塩水を含む」は上記のとおり明確であって、取消理由(3)にも理由はない。 4.取消理由(4)について 本件明細書には、CVD反応炉の設置数や製造室の数、CVD反応器からの多結晶シリコンの取り出し頻度については記載されていないが、多結晶シリコンの製造はCVD反応器内で行われるのに対し、本件特許発明に係る清掃は、CVD反応器外で行われるから、多結晶シリコンの取り出し(反応器の開閉)の有無にかかわらず実施可能であるのは明らかである。 そして、当業界で常識的な範囲の構造(CVD反応炉の設置数や製造室の数等)を有する製造室や一般的な使用形態であれば、いずれの場合も本件特許発明に係る清掃により一定の効果を奏することは、当業者において十分に理解できることであるから、発明な詳細な説明は明確かつ十分に記載されている。 よって、取消理由(4)にも理由はない。 5.取消理由(5)について 上記取消理由(1)についてで検討したように、本件特許発明1において特定されている清掃される要素である「CVD反応器の外側ケーシング」、「パイプライン」及び「製造室の床」は、文言上は一致してはいないが、それぞれ本件明細書【0042】【表1】中の「表面」、「鋼製ワーク」および「床」に相当するものと認められる。 してみれば、「CVD反応器の外側ケーシング」及び「パイプライン」の清掃については、発明の詳細な説明において「表面」及び「鋼製ワーク」の清掃として記載されているから、特許法第36条第4項第1号の要件を満たしていないとはいえないし、本件特許発明1?8は、発明の詳細な説明に記載されている「表面」及び「鋼製ワーク」の清掃について特定したものであるから、特許法第36条第6号第1項の要件を満たしていないともいえない。 よって、取消理由(5)にも理由はない。 6.取消理由(6)について 清掃対象となる汚染の累積度合いは、製造室への出入りの頻度及び製造室の構成により、幾らかの影響はあると認められるものの、通常従業者はむやみに製造室へ出入りしないことに鑑みれば、上記取消理由(4)についてと同様、本件特許発明に係る清掃により一定の効果を奏することが期待できるといえる。 してみれば、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明1?8で特定されている清掃頻度(回数)について、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる程度に説明がされていて、本件特許発明1?8は発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものではないといえるから、取消理由(6)にも理由はない。 第6 取消理由として通知しなかった特許異議申立人の申立理由について 特許異議申立人の主張する申立理由(2)のうちの本件発明1、6,8についてのものは、上記取消理由(1)、(4)、(6)に包含されているといえる。 そこで、申立理由(2)のうち、残った本件発明3、5,7についてのものに関し、以下に述べる。 1.本件特許発明3の明確性について 特許異議申立人は、請求項3に記載の「ブラシ型、湿式および乾式バキュームクリーナー、掃除機、スクラバードライヤー、シングルディスクマシーンなどの清掃機」について、それぞれどのようなものであり、また、いずれも同じ機能であるのか否か、あるいは、いずれを用いても請求項1記載の要件で足りるのか否か等、発明の詳細な説明中には一切記載がなく、実施例でもどの清掃機を用いたか記載がないから、特許を受けようとする発明が明確でない旨主張する。 この主張に関し検討する。 請求項3に記載のそれぞれの清掃機自体については、市販のものが容易に入手できるものであり、特に不明確な点は見当たらない。また、本件明細書の段落【0023】に「床清掃に対しては、ブラシ型、湿式および乾式バキュームクリーナー、掃除機、スクラバードライヤー、シングルディスクマシーンなどの清掃機を使用することができる。」と記載されているように、通常の清掃において使用されうるものが単に列挙されていると把握できるものである。 よって、特許異議申立人が主張する上記の不備はないということができる。 2.本件特許発明5の明確性について 特許異議申立人は、請求項5に記載の「5から15%」あるいは「5%未満」について、この百分率が何に対する百分率であるかの記載がないから、特許を受けようとする発明が明確でない旨主張する。 この主張に関し検討する。 請求項5には、「使われる洗浄液が、脱塩水ならびに5から15%のアニオン性界面活性剤および5%未満のイオン性界面活性剤を含む中性pH洗浄剤の混合物である」と特定されている。ここで、「5から15%」はアニオン性界面活性剤、「5%未満」はイオン性界面活性剤にかかるものであり、これら界面活性剤を含むのは中性pH洗浄剤であるから、この百分率は、中性pH洗浄剤に対するものと理解されるものである。 なお、この解釈は、本件明細書の段落【0028】に「例えば、10リットルの脱塩水を食卓用大さじ数杯の、5から15%のアニオン性界面活性剤および5%未満のイオン性界面活性剤を含み、場合によりメチルクロロイソチアゾリノンおよびメチルイソチアゾリノンなどの防腐剤を含む中性pH洗浄剤と混合して、洗浄液として使用することができる。」との記載があり、ここで中性pH洗浄剤が、「5から15%」のアニオン性界面活性剤および「5%未満」のイオン性界面活性剤と、場合により防腐剤とを含むものであると解釈できることとも整合する。 よって、特許異議申立人が主張する上記の不備はないということができる。 3.本件特許発明7の明確性について 特許異議申立人は、請求項7の「最初に、それぞれのケースで、反応器の外側ケーシングおよびパイプラインを洗浄液で湿潤させた毛羽立ちのないクロスで拭き、その後になって初めて床を洗浄液で清掃する」との特定に関し、発明の詳細な説明に一切説明がなく、実施例においても記載がないから、発明が明確でない旨主張する。 しかしながら、清掃の手段及び順序については記載が十分に明確であって当業者が多義的に解釈をする余地は見当たらない。 なお、本件明細書の段落【0029】に「各ケースで、最初に、反応器およびパイプラインを洗浄液で湿潤させた毛羽立ちのないクロスで拭き、その後になって初めて製造ホールの床を清掃するのが好ましい。床は手作業でまたは清掃機を使って清掃できる。」と記載されていることとも矛盾しない。 よって、特許異議申立人が主張する上記の不備はないということができる。 第7 むすび 以上のとおり、取消理由及び申立理由によっては、本件特許発明1?8に係る特許を取り消すことはできない。 そして、他に本件特許発明1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2018-08-24 |
出願番号 | 特願2016-506833(P2016-506833) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(C01B)
P 1 651・ 536- Y (C01B) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 森坂 英昭、増山 淳子、粟野 正明、村岡 一磨 |
特許庁審判長 |
豊永 茂弘 |
特許庁審判官 |
菊地 則義 宮澤 尚之 |
登録日 | 2017-03-10 |
登録番号 | 特許第6105152号(P6105152) |
権利者 | ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト |
発明の名称 | CVD製造空間の清掃 |
代理人 | 特許業務法人川口國際特許事務所 |