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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G02B
管理番号 1343924
異議申立番号 異議2018-700507  
総通号数 226 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-10-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-06-19 
確定日 2018-09-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第6248945号発明「近赤外線カットフィルタ」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6248945号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特許第6248945号の請求項1?請求項11に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は,2013年(平成25年)12月5日(優先権主張 2012年(平成24年)12月6日及び2013年(平成25年)6月7日)を国際出願日とし,平成29年12月1日に特許権の設定登録がされたものである。
本件特許について,平成29年12月20日に特許掲載公報が発行されたところ,発行の日から6月以内である平成30年6月19日に,特許異議申立人 松村朋子(以下「特許異議申立人」という。)から,全請求項に係る特許に対して,特許異議の申立てがされた。

2 本件特許発明
本件特許の請求項1?請求項11に係る発明(以下,それぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明11」という。)は,特許請求の範囲の請求項1?請求項11に記載された事項によって特定されるとおりの,以下のものである。
「【請求項1】
下記式(A1)で示される近赤外線吸収色素(A1)から選択される1種以上を含む近赤外線吸収色素(A)と,屈折率が1.45以上の透明樹脂(B)とを含有する近赤外線吸収層を有する近赤外線カットフィルタ。
【化1】

ただし,式(A1)中の記号は以下のとおりである。
Xは,独立して1つ以上の水素原子が炭素数1?12のアルキル基またはアルコキシ基で置換されていてもよい下記式(1)または式(2)で示される2価の有機基である。
-(CH_(2))_(n1)- …(1)
式(1)中n1は,2または3である。
-(CH_(2))_(n2)-O-(CH_(2))_(n3)- …(2)
式(2)中,n2とn3はそれぞれ独立して0?2の整数であり,n2+n3は1または2である。
R^(1)は,独立して飽和環構造を含んでもよく,分岐を有してもよい炭素数1?12の飽和もしくは不飽和炭化水素基,炭素数3?12の飽和環状炭化水素基,炭素数6?12のアリール基または炭素数7?13のアルアリール基を示す。
R^(2)およびR^(3)は,独立して水素原子,ハロゲン原子,または,炭素数1?10のアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。
R^(4)は,独立して置換基を有しない下記式(4)で示される炭素数5?25の分枝状の炭化水素基である。
-CH_(3)-_(m)R^(13)_(m) …(4)
(ただし,式(4)中,mは1,2または3であり,R^(13)はそれぞれ独立して,炭素原子間に不飽和結合,酸素原子,飽和もしくは不飽和の環構造を含んでもよい直鎖状または分枝状の炭化水素基(ただし,mが1のときは分枝状である。)を示し,かつm個のR^(13)の炭素数の合計は4?24である。)

【請求項2】
下記式(A1)で示される近赤外線吸収色素(A1)から選択される1種以上を含む近赤外線吸収色素(A)と,屈折率が1.45以上の透明樹脂(B)とを含有する近赤外線吸収層を有し,前記近赤外線吸収色素(A)を下記(ii-1)および(ii-2)の条件を満たす含有量で含有する場合に,前記近赤外線吸収層が下記(ii-3)の条件を満たす近赤外線カットフィルタ。
(ii-1)650?800nmの波長域において透過率が1%となる最も短い波長λ_(a)が,675nm≦λ_(a)≦720nm。
(ii-2)650?800nmの波長域において透過率が1%となる最も長い波長λ_(b)と前記λ_(a)との関係が,λ_(b)-λ_(a)=30nm。
(ii-3)650?800nmの波長域において前記λ_(a)よりも短波長側で透過率が70%となる波長λ_(c)と,前記λ_(a)と,前記透明樹脂(B)の屈折率n_(d)(B)との関係が,n_(d)(B)×(λ_(a)-λ_(c))≦115。
【化2】

ただし,式(A1)中の記号は以下のとおりである。
Xは,独立して1つ以上の水素原子が炭素数1?12のアルキル基またはアルコキシ基で置換されていてもよい下記式(1)または式(2)で示される2価の有機基である。
-(CH_(2))_(n1)- …(1)
式(1)中n1は,2または3である。
-(CH_(2))_(n2)-O-(CH_(2))_(n3)- …(2) 式(2)中,n2とn3はそれぞれ独立して0?2の整数であり,n2+n3は1または2である。
R^(1)は,独立して飽和環構造を含んでもよく,分岐を有してもよい炭素数1?12の飽和もしくは不飽和炭化水素基,炭素数3?12の飽和環状炭化水素基,炭素数6?12のアリール基または炭素数7?13のアルアリール基を示す。
R^(2)およびR^(3)は,独立して水素原子,ハロゲン原子,または,炭素数1?10のアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。
R^(4)は,独立して1つ以上の水素原子がハロゲン原子,水酸基,カルボキシ基,スルホ基,またはシアノ基で置換されていてもよく,炭素原子間に不飽和結合,酸素原子,飽和もしくは不飽和の環構造を含んでよい,少なくとも1以上の分岐を有する炭素数5?25の炭化水素基である。

【請求項3】
下記式(A1)で示される近赤外線吸収色素(A1)から選択される1種以上を含む近赤外線吸収色素(A)と,屈折率が1.45以上の透明樹脂(B)とを含有する近赤外線吸収層を有し,前記近赤外線吸収層の片側または両側に,下記(iii-1)および(iii-2)の特性を有する選択波長遮蔽層を有する近赤外線カットフィルタ。
(iii-1)420?695nmの波長域において透過率が90%以上。
(iii-2)前記近赤外線吸収層の650?800nmの波長域における透過率が1%となる最も長い波長λ_(b)から1100nmまでの波長域において透過率が2%以下。
【化3】

ただし,式(A1)中の記号は以下のとおりである。
Xは,独立して1つ以上の水素原子が炭素数1?12のアルキル基またはアルコキシ基で置換されていてもよい下記式(1)または式(2)で示される2価の有機基である。
-(CH_(2))_(n1)- …(1)
式(1)中n1は,2または3である。
-(CH_(2))_(n2)-O-(CH_(2))_(n3)- …(2)
式(2)中,n2とn3はそれぞれ独立して0?2の整数であり,n2+n3は1または2である。
R^(1)は,独立して飽和環構造を含んでもよく,分岐を有してもよい炭素数1?12の飽和もしくは不飽和炭化水素基,炭素数3?12の飽和環状炭化水素基,炭素数6?12のアリール基または炭素数7?13のアルアリール基を示す。
R^(2)およびR^(3)は,独立して水素原子,ハロゲン原子,または,炭素数1?10のアルキル基もしくはアルコキシ基を示す。
R^(4)は,独立して1つ以上の水素原子がハロゲン原子,水酸基,カルボキシ基,スルホ基,またはシアノ基で置換されていてもよく,炭素原子間に不飽和結合,酸素原子,飽和もしくは不飽和の環構造を含んでよい,少なくとも1以上の分岐を有する炭素数5?25の炭化水素基である。

【請求項4】
前記式(A1)中,Xが下記式(3)で示される2価の有機基である請求項1?3のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。
-CR^(11)_(2)-(CR^(12)_(2))_(n4)- …(3)
ただし,式(3)は,左側がベンゼン環に結合し右側がNに結合する2価の基を示し,式(3)中,n4は1または2である。
R^(11)はそれぞれ独立して,分岐を有してもよい炭素数1?12のアルキル基またはアルコキシ基であり,R^(12)はそれぞれ独立して,水素原子または,分岐を有してもよい炭素数1?12のアルキル基またはアルコキシ基である。

【請求項5】
前記式(3)において,R^(11)はそれぞれ独立して,分岐を有してもよい炭素数1?6のアルキル基またはアルコキシ基であり,R^(12)はそれぞれ独立して,水素原子または,分岐を有してもよい炭素数1?6のアルキル基またはアルコキシ基である請求項4記載の近赤外線カットフィルタ。

【請求項6】
前記式(A1)中Xが下記式(11-1)?下記式(12-3)で示される2価の有機基のいずれかである請求項1?3のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。
-C(CH_(3))_(2)-CH(CH_(3))- …(11-1)
-C(CH_(3))_(2)-CH_(2)- …(11-2)
-C(CH_(3))_(2)-CH(C_(2)H_(5))- …(11-3)
-C(CH_(3))_(2)-CH_(2)-CH_(2)- …(12-1)
-C(CH_(3))_(2)-CH_(2)-CH(CH_(3))- …(12-2)
-C(CH_(3))_(2)-CH(CH_(3))-CH_(2)- …(12-3)
ただし,式(11-1)?(12-3)で示される基は,いずれも左側がベンゼン環に結合し右側がNに結合する。

【請求項7】
前記式(A1)におけるR^(4)の炭素数は,独立して6?20である請求項1?6のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。

【請求項8】
前記透明樹脂(B)が,アクリル樹脂,エポキシ樹脂,エン・チオール樹脂,ポリカーボネート樹脂,ポリエーテル樹脂,ポリアリレート樹脂,ポリサルホン樹脂,ポリエーテルサルホン樹脂,ポリパラフェニレン樹脂,ポリアリーレンエーテルフォスフィンオキシド樹脂,ポリイミド樹脂,ポリアミドイミド樹脂,ポリオレフィン樹脂,環状オレフィン樹脂およびポリエステル樹脂からなる群より選択される少なくとも1種を含む,請求項1?7のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。

【請求項9】
前記透明樹脂(B)100質量部に対する前記近赤外線吸収色素(A)の割合が0.1?20質量部である請求項1?8のいずれか1項に記載の近赤外線カットフィルタ。

【請求項10】
前記選択波長遮蔽層は,屈折率が1.45以上1.55未満の誘電体膜と屈折率が2.2?2.5の誘電体膜とを交互に積層した誘電体多層膜からなる請求項3に記載の近赤外線カットフィルタ。

【請求項11】
下記(iv-1)?(iv-3)の条件を満たす請求項3または10記載の近赤外線カットフィルタ。
(iv-1)420?620nmの波長域における平均透過率が80%以上。
(iv-2)710?1100nmの波長域における透過率が2%以下。
(iv-3)600?700nmの波長域において,主面に直交する方向から入射した光の透過率が20%となる波長の値と,主面に直交する線に対して30度の角度をなす方向から入射した光の透過率が20%となる波長の値の差が3nm以下。」

3 特許異議申立ての概要
特許異議申立人は,証拠として甲1?甲13を提出するとともに,本件特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから,同法113条1項2号に該当し,取り消されるべきものである,と主張する。
ここで,甲1?甲13は,以下のものである。なお,主引用例は甲1又は甲12であり,その他の証拠は周知技術を示すものである。
甲1:米国特許第5543086号明細書
甲2:特開2004-238606号公報
甲3:特開2001-192350号公報
甲4:特開2012-7038号公報
甲5:特開2009-127016号公報
甲6:特開2000-37955号公報
甲7:特開2012-103340号公報
甲8:特開2011-100084号公報
甲9:特開2006-30944号公報
甲10:特開2008-112033号公報
甲11:特開2008-112032号公報
甲12:特開2012-8532号公報
甲13:長倉三郎 他5名,「岩波 理化学辞典」,第5版,株式会社 岩波書店,1998年2月20日,304頁(「ポリカーボネート」の項目)

第2 当合議体の判断
1 甲1の記載及び甲1発明,並びに,甲12の記載及び甲12発明
(1) 甲1の記載
本件特許の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布された刊行物である甲1には,以下の記載がある。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に用いた箇所を示す。また,行番号は,甲1の各頁中央に付された数字に基づいて表記している。
ア 1欄1?55行
「SQUARYLIUM DYESTUFFS AND COMPOSTIONS CONTAINING SAME

BACKGROUND OF THE INVENTION
…(省略)…
Materials absorbing selectively in the red and infrared have numerous military and industrial applications, such as in optical filters for protection against laser or other radiation, electrophotographic plates, optical recording media and optical switches for lasers. Typically such materials are incorporated into suitable transparent plastic substrates, but in certain applications, such as in optical switches for lasers, the materials may be in solution.
To be useful as a light absorber in applications such as those mentioned above, a compound must have several properties in addition to absorption at the desired wavelength. The absorption must be sufficiently selective so as to transmit desired portions of the spectrum, which may be near the wavelength to be attenuated. The compound should be soluble in the solid or liquid medium in which it is used, and should be compatible with the medium and any additives.
…(省略)…
SUMMARY OF THE INVENTION
One object of our invention is to provide a material selectively absorbing at wavelengths of about 700 nm or longer.」
(参考訳:スクアリリウム染料及びこれを含む組成物
発明の背景
…(省略)…
赤い光及び赤外光を選択的に吸収する材料は,レーザー又は他の放射に対する保護のための光学フィルタ,電子写真プレート,光学記録媒体,及びレーザー用光スイッチのような,種々の軍事的,工業的な用途を有している。このような材料は,典型的には,適当な透明プラスチック基材中に配合されるが,レーザー用光スイッチのような特定用途においては,この材料は溶液中に配合されていても良い。
上記のような用途における光吸収体として有用であるためには,化合物は,所望の波長における吸収に加えて,幾つかの特性を有していなければならない。吸収は,減衰される波長の近傍にあるスペクトルの所望の部分を透過するように,十分に選択的である必要がある。化合物は,使用される固体又は液体媒体中において可溶性であるべきであり,そして,媒体及び任意の添加剤と相溶性であるべきである。
…(省略)…
発明の概要
本発明の1つの目的は,約700nm以上の波長において選択的に吸収する材料を提供することである。)

イ 2欄1?32行
「 In general, our invention contemplates novel dyestuffs symbolized by Formula I, in which R_(1) and R_(3) are hydrogen, alkyl, alkoxy or halogen; R_(2) and R_(12) are alkyl or aryl; R_(4) is hydrogen or alkyl; R_(5) is alkyl or

--O--, --S-- or --Se--; A is hydrogen, alkyl, hydroxy, alkoxy, amino, monoalkylamino or dialkylamino; and R_(6) through R_(11) are hydrogen, alkyl or aryl; provided that R_(1) and R_(3) may further be alkylene or alkylenoxy, that R_(2) and R_(6) through R_(12) may further be alkylene or methylidyne, that R_(4) and R_(5) and R may further be alkylene, that one or more pairs of said further R and R_(1) through R_(12) each have a common bond and form a ring of five or six members, that R_(9) and R_(10) or R_(9) and R_(12) may also constitute a direct bond, and that if X is said ethylene then Y may also be a direct bond.」
(参考訳:概して,本発明は,式Iで表される新規な染料について検討しており,ここで,R_(1)及びR_(3)は,水素,アルキル基,アルコキシ基又はハロゲンであり,R_(2)及びR_(12)は,アルキル基又はアリール基であり,R_(4)は,水素又はアルキルであり,R_(5)は,アルキル又は

,-O-,-S-又は-Se-であり,Aは水素,アルキル基,ヒドロキシ基,アルコキシ基,アミノ基,モノアルキルアミノ基又はジアルキルアミノ基であり,R_(6)?R_(11)は,水素,アルキル基又はアリール基であり,
ここで,さらに,R_(1)及びR_(3)がアルキレン基又はアルキレンオキシ基,R_(2)及びR_(6)?R_(12)がアルキレン基又はメチリデン基,R_(4),R_(5)及びRがアルキレン基で,これらR,R_(1)?R_(12)の内の1つ以上の組が結合して五員環又は六員環を形成していても良く,R_(9)及びR_(10)あるいはR_(9)及びR_(11)は直接結合していても良く,Xが上記のエチレン基の場合には,Yは単結合であっても良い。)

ウ 3欄のFormula I




エ 7欄のFormula XVII




オ 9欄54?63行
「EXAMPLES 26 to 45
Compounds of Formula I are prepared in a manner similar to that of Example 1 by condensing one molecular equivalent of squaric acid with two molecular equivalents of each of the indoline intermediates of Table 2, which are variously substituted on the benzene ring. In Example 44a, R_(4) and R_(5) form a five-member heterocyclic ring.」
(参考訳:実施例1と同様の方法によって,スクアリン酸1分子当量を,ベンゼン環がさまざまに置換された表2の各インドリン中間体2分子当量と縮合させることによって,式Iの化合物が調製された。実施例44aでは,R_(4)とR_(5)が五員複素環を形成する。)

カ 11欄のTABLE 2




(2) 甲1発明
上記(1)ア?ウからみて,甲1には,次の発明が記載されている(以下「甲1発明」という。)。
「 赤い光及び赤外光を選択的に吸収する,下記式XVIIで表されるスクアリリウム染料が透明プラスチック基材中に配合されてなる,レーザー又は他の放射に対する保護のための光学フィルタ。
式XVII:


(3) 甲12の記載
本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲12には,以下の記載がある。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,近赤外線カットフィルターに関する。詳しくは,十分な視野角を持ち,特にCCD,CMOS等の固体撮像素子用視感度補正フィルターとして好適に用いることができる近赤外線カットフィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
近年,プラズマディスプレイパネル(PDP)を搭載したテレビが商品化され,一般家庭にも広く普及するようになってきた。このPDPは,プラズマ放電を利用して作動するディスプレイであるが,プラズマ放電の際に近赤外線(波長:800?1000nm)が発生することが知られている。
…(省略)…
【0005】
また,ビデオカメラ,デジタルスチルカメラ,カメラ機能付き携帯電話などにはカラー画像の固体撮像素子であるCCDやCMOSイメージセンサーが使用されているが,これら固体撮像素子はその受光部において近赤外線に感度を有するシリコンフォトダイオードを使用しているために,視感度補正を行うことが必要であり,近赤外線カットフィルターを用いることが多い。
…(省略)…
【0010】
また,本出願人は,特開2005-338395号公報(特許文献2)にて,ノルボルネン系樹脂製基板と近赤外線反射膜を有する近赤外線カットフィルターを提案している。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献2に記載された近赤外線カットフィルターは,近赤外線カット能,耐吸湿性,耐衝撃性に優れるが,十分な視野角の値をとることはできない場合があった。
【0013】
本発明は,視野角が広く,さらに,近赤外線カット能に優れ,吸湿性が低く,異物やソリのない,特にCCD,CMOS等の固体撮像装置用に好適に用いることができる近赤外線カットフィルターを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る近赤外線カットフィルターは,下記式(I)で表される化合物に由来する構造を有する化合物(I)を含有した樹脂製基板(I)を有することを特徴とする。
【0015】
【化1】

[式(I)中,R^(a),R^(b)およびYは,下記(i)または(ii)を満たす。
(i)R^(a)はそれぞれ独立に水素原子,炭素数1?8のアルキル基,-NR^(e)R^(f)基(R^(e)およびR^(f)はそれぞれ独立に水素原子または炭素数1?5のアルキル基を表す。),またはヒドロキシ基を表し,
R^(b)はそれぞれ独立に水素原子,炭素数1?5のアルキル基,-NR^(g)R^(h)基(R^(g)およびR^(h)はそれぞれ独立に水素原子,炭素数1?5のアルキル基,または-C(O)R^(i)基(R^(i)は炭素数1?5のアルキル基を表す。)),またはヒドロキシ基を表し,
Yは-NR^(j)R^(k)基(R^(j)およびR^(k)はそれぞれ独立に水素原子,炭素数1?8の脂肪族炭化水素基,任意の水素原子が官能基で置換された炭素数1?8の置換脂肪族炭化水素基,炭素数6?12の芳香族炭化水素基,または任意の水素原子がアルキル基で置換された炭素数6?12の置換芳香族炭化水素基を表す。)を表す。
(ii)1つのベンゼン環上の2つのR^(a)のうちの1つが,同じベンゼン環上のYと相互に結合して,構成原子数5または6の窒素原子を少なくとも1つ含む複素環を形成し,
R^(b)および該結合に関与しないR^(a)はそれぞれ独立に前記(i)のR^(b)およびR^(a)と同義である。]
…(省略)…
【0018】
前記式(I)で表される化合物は,下記式(II)で表される化合物であることが好ましい。
【0019】
【化2】


[式(II)中,R^(a)およびR^(b)はそれぞれ独立に,前記式(I)の(i)と同義であり,R^(c)はそれぞれ独立に水素原子,炭素数1?8の脂肪族炭化水素基,任意の水素原子が官能基で置換された炭素数1?8の置換脂肪族炭化水素基,炭素数6?12の芳香族炭化水素基,または任意の水素原子がアルキル基で置換された炭素数6?12の置換芳香族炭化水素基を表す。]
…(省略)…
【0071】
【化13】

【0072】
【化14】


…(省略)…
【0074】
これらの中でも,化合物(a-10)は,塩化メチレンによく溶解し,化合物(a-10)を塩化メチレンに0.0001重量部の濃度で溶解させた溶液の分光透過率測定(光路長1cm)を行った場合に,波長600?800nmに吸収極大があり,かつ,化合物(a-10)0.04重量部,JSR株式会社製の環状オレフィン系樹脂「アートン G」100重量部,さらに塩化メチレンを加えて得られる樹脂濃度が20重量%の溶液を平滑なガラス板上にキャストし,20℃で8時間乾燥した後,ガラス板から剥離し,さらに減圧下100℃で8時間乾燥して得られた厚さ0.1mm,縦60mm,横60mmの基板の分光透過率測定を行った場合に,波長430?800nmの波長領域において,透過率が70%となる吸収極大以下で最も長い波長と,波長580nm以上の波長領域において,透過率が30%となる最も短い波長との差の絶対値が55nm未満であるため,吸収(透過)波長の入射角依存性が小さく,視野角の広い近赤外線カットフィルターを製造することができるため好ましい。
…(省略)…
【0076】
本発明において,化合物(I)の使用量は,前記樹脂製基板(I)が前記(E)および(F)を満たすように適宜選択されることが好ましく,具体的には,樹脂製基板(I)製造時に用いる樹脂100重量部に対して,好ましくは0.01?10.0重量部,さらに好ましくは0.01?8.0重量部,特に好ましくは0.01?5.0重量部である。
…(省略)…
【0271】
[実施例5]
容器に,日本ゼオン株式会社製の環状オレフィン系樹脂「ゼオノア 1420R」100重量部,スクエアリリウム系化合物「a-10」0.40重量部,さらにシクロヘキサンとキシレンの7:3混合溶液を加えることで,樹脂濃度が20%の溶液を得た。次いで,係る溶液を平滑なガラス板上にキャストし,60℃で8時間,80℃で8時間乾燥した後,ガラス板から剥離した。剥離した塗膜をさらに減圧下100℃で24時間乾燥して,厚さ0.1mm,縦60mm,横60mmの基板を得た。
…(省略)…
【産業上の利用可能性】
【0293】
本発明の近赤外線カットフィルターは,デジタルスチルカメラ,携帯電話用カメラ,デジタルビデオカメラ,PCカメラ,監視カメラ,自動車用カメラ,テレビ,カーナビ,携帯情報端末,パソコン,ビデオゲーム,医療機器,USBメモリー,携帯ゲーム機,指紋認証システム,デジタルミュージックプレーヤー,玩具ロボットおよびおもちゃ等に好適に用いることができる。
【0294】
さらに,自動車や建物などのガラス等に装着される熱線カットフィルターなどとしても好適に用いることができる。」
(当合議体注:【0271】に記載の「スクエアリリウム」は,「スクアリリウム」の誤記である。)

(4) 甲12発明
甲12の【0014】,【0074】及び【0271】からみて,甲12には,実施例5として,次の発明が記載されている(以下「甲12発明」という。)。
「 環状オレフィン系樹脂(ゼオノア 1420R)100重量部,スクアリリウム系化合物(a-10)0.40重量部,シクロヘキサンとキシレンの7:3混合溶液を加えることで,樹脂濃度が20%の溶液を得,
溶液を平滑なガラス板上にキャストし,60℃で8時間,80℃で8時間乾燥した後,ガラス板から剥離し,
剥離した塗膜をさらに減圧下100℃で24時間乾燥して得た,
厚さ0.1mm,縦60mm,横60mmの基板を有する,
近赤外線カットフィルターであって,
スクアリリウム系化合物(a-10)を塩化メチレンに0.0001重量部の濃度で溶解させた溶液の分光透過率測定(光路長1cm)を行った場合に,波長600?800nmに吸収極大がある,
近赤外線カットフィルター。
スクアリリウム系化合物(a-10):



2 対比及び判断
(1) 対比
事案に鑑みて,本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明1」という。)と甲12発明を対比すると,以下のとおりとなる。
ア 近赤外線吸収色素(A)
甲12発明の「スクアリリウム系化合物(a-10)」は,「塩化メチレンに0.0001重量部の濃度で溶解させた溶液の分光透過率測定(光路長1cm)を行った場合に,波長600?800nmに吸収極大がある」から,スクアリリウム系の色素ということができる。
ここで,波長600?800nmは,どちらかといえば可視光であり,甲12の【0002】においても,800?1200nmが近赤外線とされている。ただし,本件特許の明細書の【0007】には,「特許文献2には,近赤外線吸収色素として,スクアリリウム系色素を使用することが記載されている。」と記載されている。そして,特許文献2とは,甲12のことである。
そうしてみると,甲12発明の「スクアリリウム系化合物(a-10)」は,本件特許でいう「近赤外線吸収色素」ということができる。
したがって,甲12発明の「スクアリリウム系化合物(a-10)」と本件特許発明1の「近赤外線吸収色素(A)」は,「近赤外線吸収色素」の点で共通する。

イ 透明樹脂(B)
甲12発明の「環状オレフィン系樹脂(ゼオノア 1420R)」が,透明な樹脂であり,屈折率が1.45以上であることは,技術的にみて明らかである。
したがって,甲12発明の「環状オレフィン系樹脂(ゼオノア 1420R)」は,本件特許発明1の「透明樹脂(B)」に相当するとともに,「屈折率が1.45以上」の要件を満たす。

ウ 近赤外線吸収層
甲12発明の「基板」は,その製造工程からみて「スクアリリウム系化合物(a-10)」と「環状オレフィン系樹脂(ゼオノア 1420R)」を含有する。また,甲12発明の「基板」は,「厚さ0.1mm,縦60mm,横60mm」であるから,甲12発明の「近赤外線カットフィルター」においては,近赤外線を吸収する層状のものといえる。
したがって,甲12発明の「基板」は,本件特許発明1の「近赤外線吸収層」に相当する。また,甲12発明の「基板」と本件特許発明1の「近赤外線吸収層」は,「近赤外線吸収色素」「と,屈折率が1.45以上の透明樹脂(B)とを含有する」点で共通する。

エ 近赤外線カットフィルタ
以上ア?ウを勘案すると,甲12発明の「近赤外線カットフィルター」は,本件特許発明1の「近赤外線カットフィルタ」に相当する。

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件特許発明1と甲12発明は,次の構成で一致する。
「 近赤外線吸収色素と,屈折率が1.45以上の透明樹脂(B)とを含有する近赤外線吸収層を有する近赤外線カットフィルタ。」

イ 相違点
(相違点1)
「近赤外線吸収色素」が,本件特許発明1は,「下記式(A1)で示される近赤外線吸収色素(A1)から選択される1種以上を含む近赤外線吸収色素(A)」であるのに対して,甲12発明の「スクアリリウム系化合物(a-10)」は,「下記式(A1)で示される近赤外線吸収色素(A1)」に該当しない点。
(当合議体注:「下記式(A1)」は,前記2の【請求項1】に記載のとおりである。)

なお,特許異議申立人は,本件特許発明1と甲12に記載された発明との相違点を,本件特許発明1の式(A1)の「-NHC(O)R^(4)」にあると認定している(特許異議申立書の75頁1?3行)。
確かに,本件特許発明1の式(A1)と甲12に記載されたスクアリリウム系化合物(a-10)の構造式を対比すると,両者は,ベンゼン環の置換基である「-NHC(O)R^(4)」の部分においてのみ相違する。
しかしながら,スクアリリウム系化合物(a-10)は,一般式で表される化合物ではなく,特定の化合物である(化合物全体として,所与の光吸収特性が得られるように設計された,ひとまとまりのものである。)。また,甲12には,【0015】及び【0019】に記載された,式(I)又は式(II)で表される化合物のR^(a),R^(b)等の置換基に関しては,種々の置換基が選択肢として記載されているとしても,その具体例である,スクアリリウム系化合物(a-10)に関してまで,同様であるとは言いがたい。
したがって,上記のとおり,相違点を認定する。

(3) 判断
甲12に記載された具体的なスクアリリウム系化合物の中に,本件特許発明1の「下記式(A1)で示される近赤外線吸収色素(A1)」に該当するものはない。
したがって,当業者が,仮に,甲12発明の「スクアリリウム系化合物(a-10)」を,甲12に記載された他のスクアリリウム系化合物に置き換えたとしても,前記相違点1に係る本件特許発明1の構成には到らない。

ところで,甲12の【0015】及び【0019】には,スクアリリウム系化合物の一般式として,それぞれ式(I)及び式(II)が記載されている。また,これら一般式は,本件特許発明1の「下記式(A1)で示される近赤外線吸収色素(A1)」の上位概念のものである。
しかしながら,式(I)及び式(II)は,いずれも,一般式の形式で記載され,当該一般式が膨大な数の選択肢を有する。そうしてみると,本件特許発明1の「下記式(A1)で示される近赤外線吸収色素(A1)」の要件を満たす,特定の選択肢に係る技術的思想を積極的あるいは優先的に選択すべき事情がない限り,当該特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を抽出することはできず,これを甲12に記載されたスクアリリウム系化合物として認定することはできない。そして,甲12には,このような技術的思想について,記載されておらず,また,示唆もされていない。加えて,甲1?甲11及び甲13にも,このような技術的思想は記載されておらず,また,示唆もされていない。
したがって,当業者が,仮に,甲12の式(I)又は式(II)を参照しても,そこから,本件特許発明1の「下記式(A1)で示される近赤外線吸収色素(A1)」の要件を満たす,スクアリリウム系化合物を抽出することができないから,やはり,前記相違点1に係る本件特許発明1の構成には到らない。

以上のとおりであるから,甲12発明の「スクアリリウム系化合物(a-10)」を,本件特許発明1の「下記式(A1)で示される近赤外線吸収色素(A1)」の要件を満たす,スクアリリウム系化合物とすることは,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4) 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は,「スクアリリウム系色素として,ベンゼン環につながる原子団の末端において分岐状のアルキル基を有する化合物は広く知られている」と主張し,その証拠として甲2及び甲3を挙げている(特許異議申立書の75頁4?6行)。
しかしながら,甲2及び甲3には,「スクアリリウム系色素として,ベンゼン環につながる原子団の末端において分岐状のアルキル基を有する化合物は広く知られている」という趣旨の記載は,存在しない。また,甲2及び甲3には,これを示唆するような記載もない。
甲2及び甲3には,スクアリリウム系化合物のベンゼン環に種々の置換基が結合する例が示されているところ,その中に,分岐状のアルキル基の例が含まれているにすぎない。そうしてみると,たとえ当業者といえども,甲2及び甲3から「スクアリリウム系色素として,ベンゼン環につながる原子団の末端において分岐状のアルキル基を有する化合物」という技術的思想を見いだすことはできない。

特許異議申立人は,「有機色素の樹脂への溶解性を高めるために,有機色素の末端をなすアルキル基を分岐状のアルキル基とすることは従来広く知られた周知技術である」と主張し,その証拠として甲4?甲6を挙げている(特許異議申立書の75頁10?12行)。ここで,甲4?甲6から把握される技術は,どちらかといえば,「有機色素の溶媒への溶解性を高めるために,有機色素における置換基を分岐状のアルキル基とすること」であるが,事案に鑑みて,この点は措いて検討すると,以下のとおりである。
すなわち,仮に,甲12に記載の式(I)及び式(II)において,「有機色素の樹脂への溶解性を高めるために,有機色素の末端をなすアルキル基を分岐状のアルキル基とする」場合を想定したとしても,その選択肢の数は,依然として膨大である。したがって,本件特許発明1の「下記式(A1)で示される近赤外線吸収色素(A1)」の要件を満たすことにはならない。

念のため,スクアリリウム系化合物(a-10)の「-NHC(O)R^(4)」に相当する部分を他のものに変えることが容易であるかについても検討すると,以下のとおりである。
すなわち,すでに述べたとおり,スクアリリウム系化合物(a-10)は,一般式ではなく,特定の化合物の構造式である。したがって,その一部を他のものに変えることが容易であるというためには,当業者が,その部分に着目し,これを他のものに変えようとすることについて,動機付けが必要である。
しかしながら,甲1?甲13には,当業者がスクアリリウム系化合物(a-10)の「-NHC(O)R^(4)」に相当する部分(-NHC(O)CH_(3))に着目し,これを本件特許発明1の式(A1)の「-NHC(O)R^(4)」の要件を満たすものに変えることの動機付けとなる記載はなく,また,示唆もない。
例えば,甲2及び甲3には,「ベンゼン環につながる原子団の末端において分岐状のアルキル基を有する」という要件に合致する化合物は記載されているが,当該化合物は,スクアリリウム系化合物(a-10)とは異なる構造のものである。また,ベンゼン環の置換基として,「-NHC(O)R^(4)」は記載されていない。したがって,甲2及び甲3を心得た当業者であっても,スクアリリウム系化合物(a-10)の「-NHC(O)R^(4)」に相当する部分に着目し,これを本件特許発明1の式(A1)の「-NHC(O)R^(4)」の要件を満たすものに変えることに,思い到らない。
また,「有機色素の樹脂への溶解性を高めるために,有機色素の末端をなすアルキル基を分岐状のアルキル基とすることは従来広く知られた周知技術である」としても,これを契機として,当業者がスクアリリウム系化合物(a-10)の「-NHC(O)R^(4)」に相当する部分に着目するとはいえないし,また,この周知技術がスクアリリウム系化合物(a-10)に適用可能な技術であるかも不明である。すなわち,甲4?甲6に記載された有機色素は,スクアリリウム系化合物(a-10)とは異なる構造のものである。加えて,甲4?甲6においても,ベンゼン環の置換基として,「-NHC(O)R^(4)」は記載されていない。

さらにすすんで検討する。
甲12に記載された実施例(【0260】?【0288】)におけるスクアリリウム系化合物の分量は,最も高い甲12発明のものであっても,「環状オレフィン系樹脂(ゼオノア 1420R)100重量部」に対して「0.40重量部」にすぎない。また,甲12の【0074】には,「化合物(a-10)は,塩化メチレンによく溶解し,…視野角の広い近赤外線カットフィルターを製造することができるため好ましい。」とも記載されている。
このような甲12の記載を勘案すると,甲12に接した当業者が,「有機色素の樹脂への溶解性を高める」ことの必要性を認識するとはいえない。
したがって,「有機色素の樹脂への溶解性を高めるために,有機色素の末端をなすアルキル基を分岐状のアルキル基とすること」が周知技術であるとしても,当業者が,この周知技術を甲12に記載された発明に適用するとはいえない。
ところで,甲12の【0076】には,「化合物(I)の使用量は,…樹脂100重量部に対して,好ましくは0.01?10.0重量部…である。」と記載されている。したがって,何らかの事情により化合物(I)の使用量を増やす必要性を感じた当業者が,最大10.0重量部までの範囲で,化合物(I)の使用量を高めることは,容易に発明できたことといえる。そして,この場合においては,樹脂に対する化合物(I)の溶解が不十分となるかもしれないから,当業者は,「有機色素の樹脂への溶解性を高める」という課題を見いだすかもしれない。そして,このような課題を見いだした当業者ならば,特許異議申立人が主張する周知技術を適用することを発明するかもしれない。
しかしながら,このような発明は,当業者が新たに発明をした後で,初めて見いだされる課題をさらに解決する発明であるから,当業者が,甲12に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。
なお,構造式(a-10)の末端をなすアルキル基はいずれもメチル基であるから,これを直ちに分岐状のものとすることはできない。また,甲12の【0071】には,(a-5)のように,すでに有機色素の末端をなすアルキル基が分岐状のものや,(a-6)のように,すでに有機基の末端が炭素数8のアルキル基のものが開示されている。したがって,仮に「有機色素の樹脂への溶解性を高めるために,有機色素の末端をなすアルキル基を分岐状のアルキル基とすること」という着想を得た当業者ならば,(a-5)のスクアリリウム系化合物を採用するか,(a-6)の炭素数8のアルキル基を,分岐状のものに変えると考えられる。

いずれにせよ,当業者が,甲12に記載された発明のスクアリリウム系化合物を,本件特許発明1の「式(A1)で示される近赤外線吸収色素(A1)」の要件を満たすものに変えるという発明をすることができたということはできない。
したがって,特許異議申立人の主張を採用することはできない。

(5) 小括
本件特許発明1は,甲12に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるということはできない。

(6) 本件特許発明2及び本件特許発明3について
本件特許発明2と甲12発明を対比すると,少なくとも,次の相違点が抽出される。
(相違点2)
「近赤外線吸収色素」が,本件特許発明2は,「下記式(A1)で示される近赤外線吸収色素(A1)から選択される1種以上を含む近赤外線吸収色素(A)」であるのに対して,甲12発明の「スクアリリウム系化合物(a-10)」は,「下記式(A1)で示される近赤外線吸収色素(A1)」に該当しない点。
(当合議体注:「下記式(A1)」は,前記2の【請求項2】に記載のとおりである。)

ここで,本件特許発明1と本件特許発明2とでは,「下記式(A1)」の「R^(4)」の選択肢が相違する。
ただし,甲12に,本件特許発明2の「下記式(A1)で示される近赤外線吸収色素(A1)」に該当する,具体的なスクアリリウム系化合物が記載されていないこと,及び甲12の式(I)及び式(II)において,本件特許発明2の「下記式(A1)で示される近赤外線吸収色素(A1)」の要件を満たす,特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を抽出することはできないことは,本件特許発明1の場合と同じである。
また,特許異議申立人の主張を採用することができないことも,本件特許発明1の場合と同じである。
したがって,本件特許発明2も,甲12に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるということはできない。

本件特許発明3についても,同様の理由により,甲12に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるということはできない。

(7) 本件特許発明4?本件特許発明11について
本件特許発明4?本件特許発明11は,いずれも,相違点1に係る構成又は相違点2に係る構成を具備するものである。
したがって,同様の理由により,本件特許発明4?本件特許発明11についても,甲12に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるということはできない。

(8) 甲1発明について
本件特許発明1と甲1発明を対比すると,次の相違点が抽出される。
(相違点3)
「近赤外線吸収色素」が,本件特許発明2は,「下記式(A1)で示される近赤外線吸収色素(A1)から選択される1種以上を含む近赤外線吸収色素(A)」であるのに対して,甲1発明の「式XVIIで表されるスクアリリウム染料」は,「下記式(A1)で示される近赤外線吸収色素(A1)」に該当しない点。

そして,甲1には,本件特許発明1の「下記式(A1)で示される近赤外線吸収色素(A1)」に該当する,具体的なスクアリリウム系化合物が記載されていない。また,甲1の式Iにおいて,本件特許発明1の「下記式(A1)で示される近赤外線吸収色素(A1)」の要件を満たす,特定の選択肢に係る具体的な技術的思想を抽出することもできないこと,及び特許異議申立人の主張を採用することもできないことについては,前記(3)及び(4)と同様である。
したがって,本件特許発明1は,甲1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明できたものであるということはできない。
本件特許発明2?本件特許発明11についても,同様である。

3 むすび
したがって,特許異議の申立ての理由及び証拠によっては,本件特許を取り消すことができない。
また,他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-08-30 
出願番号 特願2014-551135(P2014-551135)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G02B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 野尻 悠平  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 宮澤 浩
樋口 信宏
登録日 2017-12-01 
登録番号 特許第6248945号(P6248945)
権利者 AGC株式会社
発明の名称 近赤外線カットフィルタ  
代理人 特許業務法人サクラ国際特許事務所  
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