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審決分類 審判 全部無効 利害関係、当事者適格、請求の利益  F04B
審判 全部無効 2項進歩性  F04B
審判 全部無効 特許請求の範囲の実質的変更  F04B
審判 全部無効 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張  F04B
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  F04B
審判 全部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  F04B
管理番号 1344162
審判番号 無効2017-800113  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-11-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-08-14 
確定日 2018-08-23 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5528404号発明「流体制御装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5528404号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-11〕について訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 特許第5528404号の請求項4,5に係る特許についての本件審判の請求を却下する。 審判費用は,請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5528404号の請求項1?11に係る発明についての出願は,平成23年9月6日の特許出願であって,平成26年4月25日に設定登録(請求項の数11)されたものである。
そして,平成29年8月14日付けで請求人 曽賢仁により無効審判が請求され,同年11月20日付けで被請求人 株式会社村田製作所,オムロンヘルスケア株式会社より審判事件答弁書及び訂正請求書が提出された。
同年12月12日付けで審理事項通知書が通知され,平成30年1月12日付けで請求人より口頭審理陳述要領書が提出され,同年1月25日付けで被請求人より口頭審理陳述要領書が提出され,同日付けで請求人より口頭審理陳述要領書(その2)が提出された。
そして,同年2月1日に口頭審理が行われ,同年2月16付け,同年3月1日付け及び同年3月9日付けで請求人より上申書が提出され,同年3月2日付け及び同年3月9日付けで被請求人より上申書が提出された。

第2 請求人適格について
被請求人は,審判事件答弁書において,請求人が請求人適格を有するものであることを明らかにしない限り,本件審判請求は,特許法第123条第2項に規定する要件を満たすものとはならず,特許法第135条の規定により不適法なものとして却下されるべきものである旨主張するので,まず,この点について検討する。
1.請求人が利害関係人であることについての当事者の主張の概略
(1)請求人の主張
・「曽 賢仁氏が研究開発している発明について,台湾や日本で事業展開したいと企図しているものの特許第5528404号に抵触するおそれがあるために,この特許を無効にしたいというものです。詳細については,追って補充する予定です。」(平成30年1月12日付け口頭審理陳述要領書2ページ下から6行?下から3行)
・「請求人は,本発明の製品を製造するプラントの整備・建設を具体的に計画しています。別紙1は,プラント設計企画会社から請求人に提出された当該プラントの仕様書です。別紙2は,それに対応する日本語の翻訳です。また,別紙3は,請求人が作成した圧電式ポンプの試作品の写真です。別紙4は,別紙3に記載された各名称等の参考翻訳です。別紙1?別紙4ともに,秘密情報が含まれるものですので,秘密箇所は黒塗りとしているとともに,第三者への公開は制限されるように秘密情報としての取り扱いをお願いいたします。
この製造プラントの仕様書や圧電ポンプの試作品の写真を見ると,本件特許に抵触するおそれのある製品(流体制御装置)の生産についての具体的な計画や準備をしていることが分かります。
また,請求人は,本プラントで生産された製品について,台湾から日本に輸出する計画もあります。
したがって,本請求人は,「当該特許発明を将来実施する可能性を有する者」が明白であります。仮に,そのまま事業計画を推進すると,本件特許に抵触するおそれがあり,紛争を生じかねないことも考えられます。無用な争いを予防的に回避するためにも,本請求をしたものです。
また,無効審判の結果如何では,事業の見直し等の機会も得ることを意図しています。仮に,これ以上の具体的な計画や事業の進捗が無ければ,無効審判を請求する機会が与えられないとすると,無効とならない場合に事業設備は廃棄等も含めた事業の見直しを強いられることもあり,特許法の目的にも反するものと思われます。よって,本上申書で提出した製造インフラの仕様書,圧電式ポンプの試作品の写真,その他の説明から,「当該特許発明を将来実施する可能性を有する者」と認定され,請求人適格を認められるべきと思料します。」(平成30年2月16日付け上申書2ページ16行?3ページ6行。)
・「請求人は,平成30年2月16日付けの上申書において,別紙1(プラント設計企画会社から請求人に提出された当該プラントの仕様書),及び別紙2(それに対応する日本語の翻訳)を提出しました。
本上申書では,これに関連して,請求人が本発明に関連する本事業を主導していることがより明確に分かるように,新たに別紙4として,別紙1の当該箇所の黒塗りの箇所を外すとともに,当該箇所の日本語による翻訳文を提出します。
なお,平成30年3月1日付けの上申書において,同趣旨のものとして別紙3として提出しましたが,既に提出した別紙1の当該箇所の黒塗りの箇所を外したものではなかったので,再提出するものです。」(平成30年3月9日付け上申書2ページ16?25行。)
(2)被請求人の主張
・「特許法第123条第2項に規定する要件である請求人適格について争う。
特許法第123条第2項の規定によれば,『特許無効審判は,利害関係人に限り請求することができる』とされている。しかし,本件審判の請求人は,台湾籍の個人「曽賢仁」であり,日本における本件特許権に係る特許を無効とすることについて如何なる利害関係を有するのか,全く不明である。
請求人が請求人適格を有する者であることを明らかにしない限り,本件審判請求は,特許法第123条第2項に規定する要件を満たすものとはならず,特許法第135条の規定により不適法なものとして却下されるべきものである。」(審判事件答弁書2ページ最下行?3ページ7行)
・「請求人から,利害関係人を示す証拠が出されていないため,依然として本件審判の請求人は,日本における本件特許権に係る特許を無効とすることについて如何なる利害関係を有するのか,全く不明です。」(平成30年1月25日付け口頭審理陳述要領書2ページ下から4行?下から2行)
・「請求人の平成30年2月16日付け上申書に対し,以下の意見を述べます。
・・・
請求人から提出された資料は,一個人に対して提示されたものと解釈するには相当に違和感があります。合議体の求めの通り,和訳文の4頁目,「1.工程の目的 はじめに,○○○と」の伏せ字を開示すべきであり,その内容により請求人適格を判断すべきものであると思います。」(平成30年3月2日付け上申書2ページ15行?20行)
・「以下の理由により,平成30年3月1日付け請求人の上申書に添付された「別紙3」と称する書面は,平成30年2月16日付け請求人の上申書に添付された「別紙1」とは別の書類と認められますから,請求人が利害関係人であることについての証明にはなっていません。
理由1.平成30年3月1日付け請求人の上申書に添付された「別紙3」と称する書面は簡体字であり,平成30年2月16日付け請求人の上申書に添付された「別紙1」は繁体字である。
理由2.平成30年3月1日付け請求人の上申書に添付された「別紙3」と称する書面と,平成30年2月16日付け請求人の上申書に添付された「別紙1」と,は改行位置が異なる。
なお,理由2.については,平成30年2月16日付け請求人の上申書に添付された「別紙1」の伏せ字部分は4文字分の幅があると認められるのに対して,平成30年3月1日付け請求人の上申書に添付された「別紙3」と称する書面では,開示したと主張する部分が「曽賢仁」の3文字であるためにこの様な改行位置の相違が生じているものと考えられます。
以上の通りですから,平成30年2月16日付け請求人の上申書に添付された「別紙1」の伏せ字部分を開示したもの(つまり当該「別紙1」そのもの)が提示されない以上,請求人は利害関係を有していないものとして速やかに審理を進めるべきであると考えます。」(平成30年3月9日付け上申書2ページ15行?3ページ7行)

2.当審の判断
請求人は,本件発明の製品を製造するプラントの整備・建設を具体的に計画していると主張し,平成30年2月16日付け上申書と共に,別紙1?4を提出した。ここで,別紙1は,プラント設計企画会社から請求人に提出された当該プラントの仕様書,別紙2は,それに対応する日本語の翻訳文,別紙3は,請求人が作成した圧電式ポンプの試作品の写真であり,別紙4は,別紙3に記載された各名称等の参考翻訳文である。
当該別紙3の請求人が作成した圧電ポンプの試作品の写真を参照すると本件発明との関連が窺えるものである。
また,平成30年3月9日付けで別紙4を添付書類とした請求人の上申書が提出され,別紙1のプラントの仕様書に「曽賢仁氏と気体小型ポンプ自動化設備を共同で開発する」と記載されていることが説明されている。
そうすると,請求人は,平成30年1月12日付け口頭審理陳述要領書において主張した,「曽 賢仁氏が研究開発している発明について,台湾や日本で事業展開したいと企図しているものの特許第5528404号に抵触するおそれがあるために,この特許を無効にしたいというものです。」としていることは一応信用できる。
したがって,請求人は,研究開発している発明(本件発明に関連する発明)を製造する設備の設計の計画をしているものであって,「当該特許発明を将来実施する可能性を有する者」であるから,本件特許の無効を求めることについて利害関係を有するものであり,請求人適格を有するものである。

第3 訂正について
1.訂正の内容
平成29年11月20日付けの訂正請求書による訂正請求の内容は以下(1)?(7)のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1における「前記振動板および前記板の少なくとも一方は,前記孔と前記孔に対向する前記振動板の領域との間に位置し,前記孔と前記孔に対向する前記振動板の領域との中間の方向へ突出する突出部を有する,流体制御装置。」との記載を「前記振動板および前記板の少なくとも一方は,前記孔と前記孔に対向する前記振動板の領域との間に位置し,前記孔と前記孔に対向する前記振動板の領域との中間の方向へ突出する突出部を有し,前記突出部は,円柱状に形成され,前記突出部の周縁に近づくにつれて厚みが薄くなる形状の端部を有する,流体制御装置。」に訂正する。
(2)訂正事項2
請求項4を削除する。
(3)訂正事項3
請求項5を削除する。
(4)訂正事項4
請求項6の「請求項1から5」を「請求項1から3」に訂正する。
(5)訂正事項5
請求項7の「請求項2から6」を「請求項2,3または6」に訂正する。
(6)訂正事項6
請求項8の「請求項1から7」を「請求項1,2,3,6または7」に訂正する。
(7)訂正事項7
請求項11の「請求項1から10」を「請求項1,2,3,6,7,8,9または10」に訂正する。

2.訂正の適否についての判断
(1)一群の請求項について
訂正前の請求項1について,請求項2乃至11は,いずれも請求項1を引用しているものであって,訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって,訂正前の請求項1乃至11に対応する訂正後の請求項1乃至11は,特許法134条の2第3項に規定する一群の請求項である。
(2)訂正の目的の適否,新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア.訂正事項1
(ア)訂正の目的について
訂正前の請求項1に係る発明は,「前記振動板および前記板の少なくとも一方は,前記孔と前記孔に対向する前記振動板の領域との間に位置し,前記孔と前記孔に対向する前記振動板の領域との中間の方向へ突出する突出部を有する」ことを特定している。
これに対して,訂正後の請求項1に係る発明は,「前記突出部は,円柱状に形成され,前記突出部の周縁に近づくにつれて厚みが薄くなる形状の端部を有する,」との記載が追加されることにより,訂正後の請求項1に係る発明における「突出部」の形状をより具体的に特定し,更に限定するものである。すなわち,訂正事項1は,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1は,訂正前の特許請求の範囲における請求項4,5に記載されている。したがって,当該訂正事項1は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
上記(ア)の理由から明らかなように,訂正事項1は,「突出部」という発明特定事項を概念的により下位の「前記突出部は,円柱状に形成され,前記突出部の周縁に近づくにつれて厚みが薄くなる形状の端部を有する,」の記載にするものであり,カテゴリーや対象,目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
イ.訂正事項2
(ア)訂正の目的について
訂正事項2は,訂正前の請求項4の記載を削除するものである。
したがって,訂正事項2は,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2は,訂正前の請求項4の記載を削除するのみであるため,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
訂正事項2は,訂正前の請求項4の記載を削除するのみであり,カテゴリーや目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ.訂正事項3
(ア)訂正の目的について
訂正事項3は,訂正前の請求項5の記載を削除するものである。
したがって,訂正事項3は,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3は,訂正前の請求項5の記載を削除するのみで特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
訂正事項3は,訂正前の請求項5の記載を削除するのみであり,カテゴリーや目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
エ.訂正事項4?7
(ア)訂正の目的について
訂正事項4?7は,請求項4,5を削除した結果,請求項間の引用関係を正しいものにするための訂正であって,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項4?7は,請求項4,5を削除した結果,請求項間の引用関係を正しいものにするための訂正であって,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
(ウ)実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正ではないこと
訂正事項4?7は,請求項4,5を削除した結果,請求項間の引用関係を正しいものにするための訂正であって,カテゴリーや目的を変更するものではないから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
オ.小括
したがって,平成29年11月20日付けの訂正は,特許法第134条の2第1項に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条第3項,及び,同条第9項で準用する特許法第126条第5項,第6項の規定に適合するので,訂正後の請求項[1?11]について訂正を認める。

第4 本件特許発明
本件特許第5528404号の請求項1?11に係る発明は,平成29年11月20日付けの訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1?11に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
振動板と,
前記振動板の一方の主面に設けられ,前記振動板を振動させる駆動体と,
前記振動板の他方の主面に対向して設けられ,孔が設けられている板と,を備え,
前記板は,屈曲振動可能な可動部を有し,
前記振動板および前記板の少なくとも一方は,前記孔と前記孔に対向する前記振動板の領域との間に位置し,前記孔と前記孔に対向する前記振動板の領域との中間の方向へ突出する突出部を有し,
前記突出部は,円柱状に形成され,
前記突出部の周縁に近づくにつれて厚みが薄くなる形状の端部を有する,
流体制御装置。
【請求項2】
前記板に接合され,開口部が形成された基板をさらに備え,
前記板は,前記基板に拘束された固定部をさらに有し,
前記可動部は,前記基板の前記開口部に面する,請求項1に記載の流体制御装置。
【請求項3】
前記突出部は,前記振動板の他方の主面に形成されており,前記板側へ突出する,請求項1または2に記載の流体制御装置。
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】
前記振動板全体のうち前記突出部を除く領域は,エッチングにより前記振動板の前記突出部の領域の厚みより薄い厚みに形成されている,請求項1から3のいずれか1項に記載の流体制御装置。
【請求項7】
前記突出部の前記開口部側の面の面積は,前記開口部の開口面の面積以上である,請求項2,3または6のいずれか1項に記載の流体制御装置。
【請求項8】
前記振動板と,前記振動板の周囲を囲む枠板と,前記振動板と前記枠板とを連結し,前記枠板に対して前記振動板を弾性支持する連結部と,を有する振動板ユニットを備え,
前記板は,前記振動板の他方の主面に対向するよう前記枠板に接合されている,請求項1,2,3,6または7のいずれか1項に記載の流体制御装置。
【請求項9】
前記板は,複数の微粒子を含有した接着剤によって前記複数の微粒子を挟んで前記枠板に接着されている,請求項8に記載の流体制御装置。
【請求項10】
前記板の前記連結部と対向する領域には孔部が形成された,請求項8又は9に記載の流体制御装置。
【請求項11】
前記振動板および前記駆動体はアクチュエータを構成し,
前記アクチュエータは円板状である,請求項1,2,3,6,7,8,9または10のいずれか1項に記載の流体制御装置。」
(以下,訂正された請求項1?11に係る発明をそれぞれ「本件特許発明1」?「本件特許発明11」という。)

第5 請求人適格以外についての当事者の主張の概略
1.請求人の主張,及び提出した証拠の概要
請求人は,特許第5528404号の特許請求の範囲の請求項1?11に係る発明についての特許を無効とする,審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め,審判請求書,平成30年1月12日付け口頭審理陳述要領書,同年1月25日付け口頭審理陳述要領書(その2),同年2月16付け,同年3月1日付け及び同年3月9日付け上申書,同年2月1日の口頭審理において,甲第1?11号証を提示し,以下の無効理由を主張した。

無効理由:
本件特許発明1?3,6?11は,その出願前日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(甲第4号証?甲第11号証に記載された発明)に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,本件特許は,同法第123条第1項第2号に該当して無効とすべきである。
具体的には,甲第4号証に記載された発明を引用発明として,
-1:本件特許発明1は,引用発明,甲第4号証,甲第6号証に記載された周知技術及び甲第7号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をできたものである。
-2:本件特許発明2は,引用発明,甲第4号証,甲第6号証に記載された周知技術及び甲第7号証に記載された周知技術及び甲第5号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をできたものである。
-3:本件特許発明3は,引用発明,甲第4号証,甲第6号証に記載された周知技術及び甲第7号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をできたものである。
-4:本件特許発明6は,引用発明,甲第4号証,甲第6号証に記載された周知技術,甲第7号証に記載された周知技術,及び甲第7号証及び甲第8号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をできたものである。
-5:本件特許発明7は,引用発明,甲第4号証,甲第6号証に記載された周知技術,及び甲第7号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をできたものである。
-6:本件特許発明8は,引用発明,甲第4号証,甲第6号証に記載された周知技術,甲第7号証に記載された周知技術,甲第9号証及び甲第10号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をできたものである。
-7:本件特許発明9は,引用発明,甲第4号証,甲第6号証に記載された周知技術,甲第7号証に記載された周知技術,甲第9号証,甲第10号証及び甲第11号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をできたものである。
-8:本件特許発明10は,引用発明,甲第4号証,甲第6号証に記載された周知技術,甲第7号証に記載された周知技術,甲第9号証及び甲第10号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をできたものである。
-9:本件特許発明11は,引用発明,甲第4号証,甲第6号証に記載された周知技術,甲第7号証に記載された周知技術及び甲第9号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をできたものである。

証拠方法
甲第4号証:国際公開2009/148005号
甲第5号証:国際公開2009/145064号
甲第6号証:米国特許7,025,324号明細書
甲第7号証:特開平10-299659号公報
甲第8号証:特開2004-353638号公報
甲第9号証:国際公開2008/069264号
甲第10号証:国際公開2009/148008号
甲第11号証:特開平11-214764号公報

2.被請求人の主張
これに対して,被請求人は,平成29年11月20日付け審判事件答弁書・訂正請求書,平成30年1月25日付け口頭審理陳述要領書,同年3月2日付け及び同年3月9日付け上申書,同年2月1日の口頭審理において,請求人の無効理由に対して以下のように反論した。

[無効理由に対する反論]
特許第5528404号の特許請求の範囲を,訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1乃至11について訂正することを求める。
本件審判の請求を却下する。
本件審判請求は成り立たない。
審判費用は請求人の負担とする。
との審決を求める。

第6 当審の判断
1.各号証の記載事項
(1)甲第4号証(国際公開2009/148005号)
甲第4号証には,「圧電マイクロブロア」に関し,図面とともに以下の事項が記載又は示されている(下線部は当審で付与した。)。
・「【技術分野】
【0001】
本発明は空気のような圧縮性流体を輸送するのに適した圧電マイクロブロアに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ノートパソコンやデジタルAV機器などの小型電子機器においては,内部の発熱が大きな問題となってきている。これらに用いられる冷却用ブロアとしては,小型・低背であること,低消費電力であることが重視され,要求される。」
・「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで,本発明の目的は,良好なブロア特性を得つつ小型化することが可能な圧電マイクロブロアを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため,本発明は,圧電素子に所定周波数の電圧を印加することによりベンディングモードで駆動される振動板と,前記振動板の両端部又は周囲を固定し,振動板との間でブロア室を形成するブロア本体とを備え,前記振動板の中央部と対向するブロア本体の部位に開口部を設けた圧電マイクロブロアにおいて,前記振動板の中央部に対応するブロア室の部位に,前記開口部を中心としてその周囲に仕切り部を設けることによって,仕切り部の内側に共鳴空間を形成し,前記振動板の駆動周波数と共鳴空間のヘルムホルツ共鳴周波数とが対応するように,前記共鳴空間の大きさを設定したことを特徴とする圧電マイクロブロアを提供する。
【0009】
ブロア室の共鳴周波数を振動板の駆動周波数に合わせることで,ブロア室の空気共鳴を利用してブロア性能を向上させることができる。しかし,ブロア室全体を可聴域を越えた周波数(例えば,20kHz以上)で空気共鳴させようとすると,ブロア室の一面を構成している振動板の寸法も小さくしなければならず,変位が小さくなり,流量が極端に低下してしまう。つまり,流量を増加させるためにブロア室を共鳴させようとすると,振動板が必要以上に小さくなり,かえって流量が低下してしまう。そこで,本発明では,ブロア室の中に仕切り部を設けることで共鳴空間を形成し,この共鳴空間を振動板の振動領域より小さい寸法とすることにより,共鳴空間でヘルムホルツの共鳴を発生させると共に,振動板の振動領域を確保している。このように仕切り部によって実効的に共鳴室として動作する領域を任意に選べ,ブロア室の寸法とは独立して狙いのヘルムホルツの共鳴周波数に合わせ込めるため,空気共鳴を利用して流量の大きなマイクロブロアを実現できる。一方で,振動板もブロア室の寸法とは独立して,部材条件(厚み,大きさ,ヤング率)の選択肢の範囲内で,狙いの駆動周波数になるように任意に設計することができる。これによって流量が大きく,かつ小型のマイクロブロアを得ることが可能になる。また,振動板を可聴域を越えた領域で駆動できるので,騒音の問題も解消できる。」
・「【発明の効果】
【0019】
本発明の圧電マイクロブロアによれば,ブロア室の中に仕切り部を設けることで共鳴空間を形成してあるため,この共鳴空間でヘルムホルツの共鳴を発生させることができ,流量を増加させることができる。しかも,振動板の大きさを共鳴空間の寸法とは独立して,狙いの振動周波数になるように任意に設計することができる。これによって良好なブロア性能を得つつ,小型のマイクロブロアを実現することができる。」
【0022】
〔第1実施例〕
図1?図3は本発明にかかる圧電マイクロブロアの第1実施例を示す。本実施例では,振動板50を共振駆動させた例を説明する。本実施例の圧電マイクロブロアAは,電子機器の空冷用ブロアとして用いた例であり,天板(第2壁部)10,流路形成板20,セパレータ(第1壁部)30,ブロア枠体40,振動板50及び底板60が上方から順に積層固定されている。振動板50のダイヤフラム51の外周部が,ブロア枠体40と底板60との間で接着されている。天板10,流路形成板20,セパレータ30,ブロア枠体40,底板60はブロア本体1を構成しており,金属板や硬質樹脂板のような剛性のある平板材料で形成されている。
【0023】
天板10は四角形平板で形成されており,その中心部には表裏に貫通する吐出口(第2開口部)11が形成されている。流路形成板20も天板10と同一外形を有する平板であり,図3に示すように,その中央部には吐出口11より大径な中央孔(中央空間)21が形成されている。中央孔21から4つのコーナ部に向かって放射方向に延びる複数(ここでは4本)の流入通路22が形成されている。本実施例の圧電マイクロブロアAの場合,流入通路22が中央孔21に対して4方向から連通しているため,振動板50のポンピング動作に伴って流体が抵抗なく中央孔21に引き寄せられ,さらなる流量の増加を図ることができる。
【0024】
セパレータ30も天板10と同一外形を有する平板であり,その中心部には吐出口11と対向する位置に,吐出口11とほぼ同一径の貫通孔31(第1開口部)が形成されている。なお,吐出口11と貫通孔31とは同一径であってもよいし,異なる径であってもよいが,少なくとも中央孔21より小さい径を有する。4つのコーナ部近傍には,流入通路22の外側端部と対応する位置に流入孔32が形成されている。天板10と流路形成板20とセパレータ30とを接着することにより,吐出口11と中央孔21と貫通孔31とが同一軸線上に並び,後述する振動板50の中心部と対応している。なお,後述するように,中央孔21と対応するセパレータ30の部分を共振させるため,セパレータ30を薄肉金属板で形成するのが望ましい。セパレータ30の下面中央部には,貫通孔31を取り囲むように,リング状凸部よりなる仕切り部33が接着されている。
【0025】
ブロア枠体40も天板10と同一外形を有する平板であり,その中心部には大径な空洞部41が形成されている。4つのコーナ部近傍には,前記流入孔32と対応する位置に流入孔42が形成されている。ブロア枠体40を間にしてセパレータ30とダイヤフラム51とを接着することにより,ブロア枠体40の空洞部41によってブロア室4が形成される。このブロア室4のうち,仕切り部33で囲まれた領域が共鳴空間34であり,後述するように振動板50の共振周波数と共鳴空間34のヘルムホルツ共鳴周波数とが対応するように,仕切り部33の直径が設定されている。仕切り部33の頂部と振動板50との間には,振動板50が共振変位した時に互いに接触しない微少な隙間δが設けられている。この隙間δは貫通孔31の直径より狭い。
【0026】
底板60も天板10と同一外形を有する平板であり,その中心部にはブロア室3とほぼ同形の空洞部61が形成されている。底板60は圧電素子52の厚みと振動板50の変位量との合計より厚肉に形成されており,マイクロブロアAを基板などに搭載した場合でも,圧電素子52が基板と接触するのを防止できる。前記空洞部61は後述するダイヤフラム51の圧電素子52の周囲を取り囲む空洞部を形成している。底板60の4つのコーナ部近傍には,前記流入孔32,42と対応する位置に流入孔62が形成されている。
【0027】
振動板50は,ダイヤフラム51の中央部下面に中間板53を介して円形の圧電素子52を貼り付けた構造を有する。ダイヤフラム51としては,ステンレス,真鍮等の種々の金属材料を用いることができる他,ガラスエポキシ樹脂等の樹脂材料からなる樹脂板を用いてもよい。圧電素子52及び中間板53はブロア枠体40の空洞部41より小径な円板である。この実施例では,圧電素子52として表裏面に電極を持つ単板の圧電セラミックスを使用し,これを中間板53を介してダイヤフラム51の裏面(ブロア室3と逆側の面)に貼り付けてユニモルフ型ダイヤフラムを構成した。中間板53はダイヤフラム51と同様な弾性板よりなり,振動板50が屈曲変形したとき,変位の中立面が中間板53の厚みの範囲内になるように設定されている。ダイヤフラム51の4つのコーナ部近傍には,前記流入孔32,42,62と対応する位置に流入孔51aが形成されている。前記流入孔32,42,62,51aによって,一端が下方に開口し,他端が流入通路22へ通じる流入口8が形成される。
【0028】
圧電素子52に所定周波数の交番電圧(正弦波または矩形波)を印加することにより,振動板50をベンディングモードで共振駆動させる。図4は振動板50を3次モードで共振駆動した状態を示し,振動板50の中央部と周辺部とが逆方向に変位する。仕切り部33を変位の小さいノード点付近に設定することにより,仕切り部33の頂部を振動板50にできるだけ近づけることができる。つまり,隙間δをできるだけ狭くでき,共鳴空間34の共鳴周波数と共鳴の効果を安定させることができる。なお,振動板50を1次共振モードで共振駆動することもできるが,1次共振モードではノード点がブロア室4の空洞部41の内周端に位置するため,仕切り部の位置をノード点に合わせる事ができない。また,1次共振モードで共振駆動させた場合,一次共振周波数は人間の可聴域になる可能性があるのに対し,3次共振モードの場合,可聴域を超えた周波数となるため,騒音を防止できる。
【0029】
図1,図2に示すように,圧電マイクロブロアAの流入口8はブロア本体1の下方に向かって開口しており,吐出口11は上面側に開口している。空気を圧電マイクロブロアAの裏側の流入口8から吸込み,表側の吐出口11から排出することができるので,燃料電池の空気供給用ブロアやCPU等の空冷用ブロアとして好適な構造となる。なお,流入口8は下方に開口している必要はなく,外周に開口していてもよい。
【0030】
図1では,ダイヤフラム51と圧電素子52との間に中間板53を挟着した構造の振動板50を示したが,ダイヤフラム51に圧電素子52を直接貼り付けた振動板でも構わない。
【0031】
ここで,前記構成の圧電マイクロブロアAの作動を説明する。圧電素子52に所定周波数の交流電圧を印加すると,振動板50が1次共振モード又は3次共振モードで共振駆動され,それによりブロア室4の第1開口部31と振動板50との距離が変化する。ブロア室4の第1開口部31と振動板50との距離が増大するとき,中央空間21内の空気が第1開口部31を通りブロア室4へと吸い込まれ,逆にブロア室4の第1開口部31と振動板50との距離が減少するとき,ブロア室4内の空気が第1開口部31を通り中央空間21へと排出される。振動板50は高周波で駆動されるため,第1開口部31から中央空間21へと排出された高速/高エネルギーの空気流は,中央空間21を通過し,第2開口部11から排出される。このとき,中央空間21内にある空気を巻き込みながら第2開口部11から排出されるので,流入通路22から中央空間21へ向かう連続した空気の流れが生じ,第2開口部11から空気は噴流となって連続的に排出される。
【0032】
特に,セパレータ30の中央空間21と対応する部分が,振動板50の共振駆動に伴って共振するように薄肉に形成されている場合には,第1の開口部21と振動板50との距離が振動板50の振動に同調して変化するため,セパレータ30が共振しない場合に比べて,第2開口部11から排出される空気の流量を飛躍的に増大させることができる。なお,セパレータ30は1次共振モード又は3次共振モードのいずれで共振してもよい。本実施例では,振動板50を3次モードで駆動したとき,セパレータ30は1次モードで振動する。」
・「 【0037】
〔第3実施例〕
図8は本発明にかかる圧電マイクロブロアの第3実施例を示す。本実施例のマイクロブロアCでは,仕切り部33をダイヤフラム51の表面に接着固定した点を除き,第1実施例の圧電マイクロブロアAと同じである。本実施例の場合,振動板50の共振駆動に伴って仕切り部33も上下に振動するので,仕切り部33とその上に対向するセパレータ30との間に,所定の隙間δを設ける必要がある。仕切り部33の位置を振動板50のノード点付近に設定すれば,仕切り部33の振動を抑制できるので好ましい。」
・「【請求項1】
圧電素子に所定周波数の電圧を印加することによりベンディングモードで駆動される振動板と,前記振動板の両端部又は周囲を固定し,振動板との間でブロア室を形成するブロア本体とを備え,前記振動板の中央部と対向するブロア本体の部位に開口部を設けた圧電マイクロブロアにおいて,
前記振動板の中央部に対応するブロア室の部位に,前記開口部を中心としてその周囲に仕切り部を設けることによって,当該仕切り部の内側に共鳴空間を形成し,
前記振動板の駆動周波数と共鳴空間のヘルムホルツ共鳴周波数とが対応するように,前記共鳴空間の大きさを設定したことを特徴とする圧電マイクロブロア。」

・段落【0024】の「セパレータ30も天板10と同一外形を有する平板であり,その中心部には吐出口11と対向する位置に,吐出口11とほぼ同一径の貫通孔31(第1開口部)が形成されている。」という記載事項と図1の図示内容からみて,ダイヤフラム51の圧電素子52と反対側面に対向して設けられ,中心部に貫通孔(第1開口部)31が形成されたセパレータ30が理解できる。
・段落【0024】の「中央孔21と対応するセパレータ30の部分を共振させる」という記載事項,段落【0032】の「セパレータ30の中央空間21と対応する部分が,振動板50の共振駆動に伴って共振する」という記載事項及び図1の図示内容からみて,中央孔(中央空間)21に対応するセパレータ30の部分が共振部分を有することが理解できる。
・段落【0024】の「セパレータ30の下面中央部には,貫通孔31を取り囲むように,リング状凸部よりなる仕切り部33が接着されている。」という記載事項と,図1の図示内容からみて,セパレータ30は,貫通孔31と前記貫通孔31に対向するダイヤフラム51領域の間に位置し,前記貫通孔31と前記貫通孔31に対向するダイヤフラム51の領域との中間の方向へ突出するリング状凸部よりなる仕切り部33を有することが理解できる。
これらの記載事項及び図1?3の図示内容を参照すると,甲第4号証には,以下の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「振動板50のダイヤフラム51と,
ダイヤフラム51の下面に貼り付けられ,振動板50を共振駆動させる圧電素子52と,
前記ダイヤフラム51の圧電素子52と反対側面に対向して設けられ,中心部に貫通孔(第1開口部)31が形成されたセパレータ30と,を備え,
中央孔(中央空間)21と対応するセパレータ30の部分が共振部分を有し,
セパレータ30は,貫通孔31と前記貫通孔31に対向するダイヤフラム51領域の間に位置し,前記貫通孔31と前記貫通孔31に対向するダイヤフラム51の領域との中間の方向へ突出するリング状凸部よりなる仕切り部33を有する,
圧電マイクロブロア。」

(2)甲第5号証(国際公開2009/145064号)
甲第5号証には,「圧電マイクロブロア」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。
・「【0016】
圧電素子を含む駆動体を1次共振モード(1次共振周波数)で駆動するのが,最も大きな変位量が得られるので望ましいが,1次共振周波数は可聴域となるため,騒音が大きくなる場合がある。これに対し,3次共振モード(3次共振周波数)を用いると,1次共振モードに比べて変位量が小さくなるものの,共振モードを使用しない場合より大きな変位量が得られ,しかも可聴領域を越えた周波数で駆動できるため,騒音を防ぐことができる。なお,1次共振モードとは,駆動体の中央部と周辺部とが同方向に変位するモードのことであり,3次共振モードとは,駆動体の中央部と周辺部とが逆方向に変位するモードのことである。
【発明の好ましい実施形態の効果】
【0017】
以上のように,本発明の圧電マイクロブロアによれば,駆動体を屈曲振動させることにより,中央空間内の流体を第1開口部を介してブロア室内に吸引し,第2開口部からブロア室外に押し出される高速流と一緒に,中央空間に存在する流体も一緒に巻き込んで押し出すことができる。そのため,逆止弁を使用しなくても駆動体の変位体積以上の吐出流量を得ることができ,大流量のブロアを実現できる。また,流入通路に絞りを設けたので,中央空間の圧力変動が流入通路に波及するのを抑制でき,中央空間の圧力エネルギーを効果的に第2開口部へ伝えることができる。その結果,流量のさらなる増大を達成することができる。」
・「【0019】
以下に,本発明の好ましい実施の形態を,図面に基づいて説明する。
【0020】
〔第1実施形態〕
図1?図4は本発明にかかる圧電マイクロブロアの第1実施形態を示す。本実施形態の圧電マイクロブロアAは,電子機器の空冷用ブロアとして用いた例であり,天板(第2壁部)10,流路形成板20,セパレータ(第1壁部)30,ブロア枠体40,駆動体50及び底板60が上方から順に積層固定されている。駆動体50の外周部は,ブロア枠体40と底板60との間で接着固定されている。駆動体50を除く部品10,20,30,40,60はブロア本体1を構成しており,金属板や硬質樹脂板のような剛性のある平板材料で形成されている。
【0021】
天板10は四角形平板で形成されており,その中心部には表裏に貫通する吐出口(第2開口部)11が形成されている。」

(3)甲第6号証(米国特許7,025,324号明細書)
甲第6号証には,「Gating apparatus and method of manufacture」{ゲート装置及び製造方法}に関し,図面とともに以下の事項が記載されている({}内は,当審による仮訳である。)。
・「A gating apparatus for controlling the gap between two surfaces that includes an upper structure having a polished central region portion, an elastically deformable fulcrum structure, and an elastically deformable lever region. The upper structure can be fabricated from silicon using microelectromechanical system (MEMS) fabrication techniques. The gating apparatus also includes a lower structure coupled to the upper structure at the elastically deformable fulcrum structure. The upper structure, in response to a force, can bend about the fulcrum structure, thereby forming a variable gap between the polished central region portion and the lower structure. The variable gap can be used as a filter to filter fluids and mixed phase fluids. The structures can be made from a wide variety of materials including silicon, glass, ceramic, metal, and plastic.」(要約)
{研磨された中央領域部分と,弾性変形可能な支点構造と,弾性変形可能なレバー領域を有する上部構造を含む2面間の間隔を制御するためのゲート装置。上部構造は,微小電気機械システム(MEMS)製造技術を用いてシリコンから製造され得る。ゲート装置は,弾性変形可能な支点構造の上部構造体に結合された下部構造体も備えている。上部構造,力に応答して,支点構造を中心に屈曲し,研磨された中央部と下部構造体との間の可変間隙を形成することができる。可変間隙はフィルタ流体および混合相流体にフィルタとして用いることができる。構造は,シリコン,ガラス,セラミック,金属,およびプラスチックを含む多種多様な材料から作ることができる。}
・「Referring now to FIG. 3 , in which like elements of FIGS. 1 and 2 are shown having like reference designations, a cross section of the gating apparatus, taken along lines 3-3 shown in FIG. 1 , shows the upper structure 121 including the inner portion 120 having an elastically deformable fulcrum structure 123 and a central region 129 . Each of the fulcrum structure 123 and the central region 129 can have a substantially circular symmetric shape, where the fulcrum structure 123 has an annular (continuous or segmented) ring shape with a diameter greater than the diameter of the central region 129 . While the central region 129 and the fulcrum structure 123 are shown having cylindrical shapes, in alternate embodiments, they can have any three dimensional polygonal shape. The fulcrum structure 123 is substantially stiff in compression and compliant in bending; and the latter can be enhanced by making the annular ring segmented, or even discrete such as a 3 point support, but then a larger dead volume will exist.」(第4欄22?39行)
{次に,図3を参照すると,図1及び図2の同じ要素が,同じ参照番号で示され,図1で示した線3-3に沿ったゲート装置の断面図で,上部構造体121を示しており,該上部構造体121は,弾性変形可能な支点構造部123及び中心領域129を有する内部部分120を含んでいる。支点構造部123と中心領域129の其々は,略円形の対称的な形状を有することができ,支点構造部123は,中心領域129の直径より大きな直径の円環(連続した又は分割した)形状を有する。別の実施形態では,中心領域129及び支点構造部123が,円筒形で示されており,その場合,中心領域129及び支点構造部123は,任意の三次元多角形とすることができる。支点構造部123は,圧縮時には略剛性があり,曲折時には柔軟性がある;この柔軟性は,円環を分割することで,或いは3点支持等のように別個に分離させても向上できるが,デッドボリュームは大きくなるであろう。}
・「In all cases, the diameters and thicknesses are selected to give a desired mechanical impedance and flow resistance as will be known to those skilled in the art of the design of microfluidic systems.」(第5欄11?15行)
{すべての場合では,マイクロ流体システムの設計の分野の当業者に知られているように直径および厚さは,所望の機械的インピーダンスと流路抵抗を与えるように選択される。}
・「Referring now to FIG. 4 , in which like elements of FIGS. 1 , 2 , and 3 are shown having like reference designations, a cross section of the gating apparatus, taken along lines 4-4 shown in FIG. 3 , shows the central region 129 having a surface 148 , also referred to herein as a polished central region 148 . The polished central region portion 148 has flat and smooth characteristics described below. The gating apparatus 100 is shown to be closed, wherein the polished central region portion 148 is in contact with the lower structure 122 , therefore isolating the first fluid flow channel 201 a from the second fluid flow channel 201 b. The lower structure has a polished lower structure surface portion 151 , also having flat and smooth characteristics described below.
The annular chamber 124 is provided between the fulcrum structure 123 and the central region 129 . The annular chamber 124 is aligned with the second fluid flow channel 201 b.
Referring now to FIG. 5 , in which like elements of FIGS. 1 , 2 , 3 , and 4 are shown having like reference designations, a cross section of the nanogate apparatus taken along lines 5-5 shown in FIG. 4 , shows the polished central region portion 148 aligned with the first fluid flow channel 201 a. The polished central region portion 148 can be proximate to, or in contact with the polished lower structure surface portion 151 depending upon whether the nanogate apparatus 100 is open or a closed. Here shown, the nanogate apparatus 100 is open, therefore having a gap 152 between the polished central region portion 148 and the polished lower structure surface portion 151 . The gap 152 can be a variable gap 152 , such that the gap size is determined by the magnitude the force 130 , 132 ( FIG. 3 ) applied to the lever region 125 ( FIG. 3 ) that inner portion 120 about the fulcrum structure 123 ( FIG. 3 ).
Through the variable gap 152 , the first fluid flow channel 201 a is connected to the second fluid flow channel 201 b ( FIG. 4 ) so that fluid can flow between the channels 201 a, 201 b. Particles suspended in the fluid having a size larger than the variable gap 152 cannot flow between the channels 201 a, 201 b. Thus, the variable gap 152 acts as a filter, allowing the fluid and small particles to pass between the fluid flow channels 201 a, 201 b, while not allowing larger particles to pass. Because the central region 129 ( FIG. 4 ) has a relatively large annulus, the gap 152 is less likely to clog with filtered particles.
It will be appreciated that the smallest effective variable gap 152 provided by the gating apparatus 100 is ( FIG. 1 ) affected by the surface finish or surface polish of the polished central region portion 148 and the polished lower structure surface portion 151 . In one particular embodiment, the polished central region portion 148 and the polished lower structure surface portion 151 each have a surface polish better than five nanometers. In another embodiment, the central region portion 148 and the polished lower structure surface portion 151 each have a surface polish better than five angstroms. However, in still other embodiments, other surface polishes, or no surface polish, are possible with this invention.」(第5欄48行?第6欄37行)
{図4を参照すると,図1,図2および図3の同様の要素は同様な参照名称が付いて示されており,図3の線4-4に沿って切り取った,ゲート装置の断面は,研磨された中央領域148とも呼ばれる,表面148を有する中央領域129を示している。研磨された中央領域部分148は,後述する平滑特性を有している。ゲート装置100が閉じられるように示されている。その故,研磨された中央領域部分148は,下部構造122と接触しているため,第1の流体流路201aを第2流体流路201bから分離する。下部構造は,研磨された下部構造体表面部分151とともに,後述する平滑特性を有している。
環状チャンバ124は,支点構造123と中央領域129との間に設けられている。環状チャンバ124は,第2の流体流路201bと位置が合っている。
図5を参照すると,図1,図2 ,図3および図4の同様の要素は同様な参照名称が付いて示されており,図4の線5-5に沿って切り取ったナノゲート装置の断面は,第1の流体流路201aと位置合わせされた研磨された中心領域部分148を示している。ナノゲート装置100が開いて又は閉じているかに依存して,研磨された中央領域部分148は,研磨された下部構造部分151と隣接するか又は接触することができる。ここで示されたナノゲート装置100が開放されるため,研磨された中央領域部分148と研磨された下部構造体表面部分151との間に間隙152が形成される。間隙152は,支点構造123の内部部分120であるレバー領域125(図3)に印加される力の大きさによって決定された可変間隙152,間隙寸法である。
可変間隙152を通って,第1の流体流路201aは,第2の流体流路201b(図4)に接続された流体は,流路201a,201bの間を流れることができるようになっている。可変間隙152よりも大きいサイズの流体中の懸濁粒子は,流路201a,201bとの間に流れることができない。可変間隙152は,フィルタとして作用し,流体と小さな粒子は,流体流路201a,201b間を通過することができる,より大きな粒子を通過させる。中央領域129(図4)は,比較的大きな環を有しているため,間隙152がフィルタ処理された粒子によって詰まりにくくなる。
ゲート装置100によって提供される最小の効果的な可変間隙152は,研磨された中央領域部分148と研磨された下部構造体表面部分151の表面仕上げ,表面研磨の影響(図1)を受けることが理解されよう。一特定の実施形態では,研磨された中央領域部分148と研磨された下部構造体表面部分151は,それぞれ5nmよりも良好な表面研磨を有している。別の実施形態では,中心領域部分148と研磨された下部構造面部分151は各面5オングストロームよりも良好な表面研磨を有している。しかしながら,さらに他の実施形態として,その他の表面研磨あるいは表面研磨しないものも,本発明では可能である。}

(4)甲第7号証(特開平10-299659号公報)
甲第7号証には,「マイクロポンプおよびマイクロポンプの製造方法」に関し,図面とともに以下の事項が記載又は示されている。
・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は微小量な液体の高精度な送液と同時に装置自体の小型化が不可欠である医療分野や分析分野におけるマイクロポンプおよびマイクロバルブの構造および製造方法に関する。」
・「そこで本発明は,薄型化が可能な,圧電素子とシリコンダイアフラムのユニモルフ構造によって駆動をおこなう能動的なバルブを二つ用いることにより,外圧の変化によらず常に一定の吐出を実現でき,かつ双方向への送液が可能であり,一枚のシリコン基板と一枚のガラス基板の一回の接合によって製作が可能であるマイクロポンプおよびマイクロバルブの実現を目的とする。また本発明ではすでに流路口が存在している平面に対して新たに逆止弁を製造する方法を提供し,上記のマイクロポンプに応用することによってさらに吐出効率の高いマイクロポンプを実現することを目的とする。」(【0005】)
・「【0006】
【課題を解決する手段】本発明ではマイクロマシニング技術によって製作されたダイアフラムに対して,駆動源としてユニモルフアクチュエータを用いることによって薄型化を可能とし,シリコン基板の同一平面にバルブ部ダイアフラムとポンプ部ダイアフラムを形成し,その面をガラス基板と接合することによってマイクロポンプ内部の閉じた空間を形成しているため,接合の工程数を一度で済ませることが可能となった。」
・「【0009】
【発明の実施の形態】本発明におけるマイクロポンプの構造を図1に示す。二つのバルブダイアフラムと一つのポンプダイアフラムはシリコン基板1にエッチングによって形成され,各ダイアフラムに圧電素子3を貼り付けることによってユニモルフ式のアクチュエータを構成している。シリコン基板1は流路として用いられる貫通穴の形成されたガラス基板2と接合されており,バルブ部ダイアフラムの剛性により,ポリイミドによって形成されたパッキン4が貫通穴の存在するガラス基板2に押し付けられ,通常時においてバルブが閉の状態を実現することができる(図5)。」
・「この時シリコン基板1において図5に示すように,接合面よりもパッキン4が突出しているために,接合によってバルブ部ダイアフラムが変形し,パッキンがガラス基板に押しつけられることによって各バルブは通常状態で閉の状態を保つことになる。」(【0012】)

(5)甲第8号証(特開2004-353638号公報)
甲第8号証には,「マイクロポンプ」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。
・「【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は,振動板の振動によってガス等の流体を吐出する半導体基板のエッチングによるマイクロマシニング加工によって製造されるマイクロポンプに関する。」
・「【0008】
【発明が解決しようとする課題】
解決しようとする問題点は,機械加工による構成部品を組み立てたマイクロポンプでは小形化に自ずと限界があるものとなっていることである。
【0009】
また,機械加工による構成部品を組み立てたマイクロポンプでは,振動板の組み付け精度が悪く,ポンプ性能にばらつきを生じてしまっていることである。
【0010】
そして,一つの振動板の振動によって超小形のマイクロポンプからガスを吐出させるのでは,その吐出されるガスの流量が少ないものになっていることである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明によるマイクロポンプは,半導体基板のエッチングによるマイクロマシニング加工によって小形でポンプ性能にばらつきのないものを容易に製造することができるとともに,特に2つの振動板を設けて,各振動板の振動方向が相反するようにそれぞれの振動板の振動を行わせることによって充分なポンプ吐出流量を得ることができるようにしている。」

(6)甲第9号証(国際公開2008/069264号)
甲第9号証には,「圧電ポンプ」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。
・「【0016】
図1?図3は圧電ポンプの第1実施例を示す。ここで,図1は本発明に係る圧電ポンプの全体斜視図,図2は図1に示す圧電ポンプの分解斜視図,図3は図1のA-A線断面図である。
【0017】
本実施例の圧電ポンプPは,ポンプ本体を構成する天板10と,ダイヤフラム20と,環状の押え板30とを順に積層した構造よりなり,これら部品が積層接着されている。天板10は剛性のある平板状に形成されたものであり,その中心位置に第1開口部11が形成され,第1開口部11を中心とする同一円周上に複数の第2開口部12が形成されている。ここでは,流量を確保するため第2開口部12を8個形成したが,第2開口部12の個数は必要とする流量に応じて任意に設定できる。
【0018】
ダイヤフラム20はばね弾性を持つ薄肉な金属板で形成されている。図2に示すように,ダイヤフラム20には円弧状の複数のスリット21が形成され,スリット21より外側領域の表裏面に接着剤が塗布され,天板10と押え板30とでダイヤフラム20の外側領域が接着固定されている。接着剤の塗布領域がスリット21により隔てられているので,接着剤がスリット21より内側の円形領域22まで拡がることがない。押え板30の内周縁31はダイヤフラム20の円形領域22より僅かに小径であり,この内周縁31で囲まれた円形領域22が屈曲変形できる領域である。
【0019】
ダイヤフラム20は天板10の下面側に接触状態で配置されている。ダイヤフラム20の背面(下面)であって,円形領域22の中央部に円形の圧電素子23が貼り付けられている。ダイヤフラム20の円形領域22の中心(圧電素子23の中心)と天板10の第1開口部11の中心とは,同軸上に位置している。圧電素子23の半径は,第1開口部11と第2開口部12との距離Lより小さいため,第2開口部12は圧電素子23より外周側に位置している。なお,第2開口部12の位置は,3次共振モードでのダイヤフラム20の最大変位位置と同一位置またはそれよりやや外周側とするのがよい。
【0020】
押え板30は後述する圧電素子23の厚みとダイヤフラム20の変位量との合計より厚肉に形成されており,圧電ポンプPを基板などに搭載した場合に,圧電素子23が基板と接触するのを防止している。なお,押え板30の一部には切溝32が形成されているが,これは圧電ポンプPを基板などに搭載した場合に,ダイヤフラム20の下面側が密閉空間になるのを防止するとともに,圧電素子への配線を引き出すための溝である。
【0021】
この実施例では,圧電素子23として表裏面に電極を持つ単板の圧電セラミックスを使用し,これをダイヤフラム20の裏面(天板10と逆側の面)に貼り付けて変位部材としてのユニモルフ振動板を構成した。圧電素子23に交番電圧(正弦波または矩形波)を印加することにより,圧電素子23が平面方向に伸縮するので,圧電素子23を含むダイヤフラム20全体が板厚方向に屈曲変形する。ダイヤフラム及び圧電素子からなる変位部材の3次共振モード(約15kHz)で駆動する場合には,第2開口部12とほぼ対応するダイヤフラム20の周辺部が最大変位となるように屈曲変形する。ダイヤフラム及び圧電素子からなる変位部材の1次共振モード(約5kHz)で駆動する場合には,ダイヤフラム20の中心部が最大変位となるように屈曲変形する。圧電素子23の投入電圧は,±60V(120Vpp)?±120V(240Vpp)程度が望ましい。」

(7)甲第10号証(国際公開2009/148008号)
甲第10号証には,「圧電マイクロブレア」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。
・「【0036】
図5?図7は,前述の第1実施形態のマイクロブロアを具体化したものであり,新たな符号を付したものを除き,対応する部分には同一符号を付して重複説明を省略する。このマイクロブロアA'の内ケース1は,天板10と,天板10の下面に固定された環状の第1枠体13と,第1枠体13の下面に固定された振動板2と,振動板2の下面に固定された環状の第2枠体14との積層構造となっている。第1枠体13の厚みによって,ブロア室3の厚みが設定される。
【0037】
天板10はばね弾性を有する円板状の金属板よりなり,図6に示すように,その外周部に4個の幅狭な連結部4が90°間隔で一体に突設され,各連結部4の外側端部に幅広な取付部10b,10cが形成されている。取付部のうちの1つ10cは外ケース5より外周方向に突出しており,この取付部10cが圧電素子20に電圧を印加するための一方の電極端子を兼ねている。第1枠体13,第2枠体14も金属材料よりなり,第1枠体13と第2枠体14との間で振動板2の金属製ダイヤフラム21の上下面を挟持することにより,圧電素子20の片面の電極は,別途配線を行うことなく,天板10の電極端子10cと電気的に接続できる。
【0038】
振動板2は,ダイヤフラム21と圧電素子20とを中間板22を間にして接着したものである。中間板22もダイヤフラム21と同様な金属板よりなり,振動板2が屈曲変形したとき,変位の中立面が中間板22の厚みの範囲内になるように設定されている。
【0039】
外ケース5は例えば樹脂材料によって一体成形されており,その周壁部端面に他方の電極端子8が固定されている。この電極端子8には,圧電素子20の他面に形成された電極がリード線81を介して電気的に接続されている。外ケース5の側壁部50には,周方向4箇所に支持面55が形成され,これら支持面55に天板10の取付部10b,10cを支持固定することにより,内ケース1は外ケース5に対して浮動状態で弾性的に支持される。外ケース5の周壁部には,上下に貫通する複数の取付孔56が形成され,これら取付孔56にボルト(又はネジ)を挿入して,筐体又は基板などに締結することにより,本マイクロブロアA'は取り付けられる。なお,ボルトに代えて接着剤により固定してもよい。本実施例では,外ケース5の空洞部51は下方に開放し,圧電素子20が外部に露出しているが,圧電素子20を覆うように外ケース5の下面開口を蓋体で閉じるようにしてもよい。」

(8)甲第11号証(特開平11-214764号公報)
甲第11号証には,「圧電トランス」に関し,図面とともに以下の事項が記載されている。
・「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,ノートパソコン,情報携帯端末および車載用モニター等に搭載される液晶表示パネルの冷陰極管バックライト用のインバータ回路,民生製品一般に用いるアダプタ電源回路,あるいは電子複写機用の高圧発生回路等に用いる圧電トランスに関する。」
・「【0023】弾性接着剤3としては,ゴム弾性を有するウレタン樹脂やシリコーン樹脂系等の接着剤やその他の発泡性の樹脂接着剤を使用できる。」

2.本件特許発明1と引用発明との対比
本件特許発明1と引用発明とを対比すると,引用発明の「ダイヤフラム51」は本件特許発明1の「振動板」に相当し,以下同様に,「下面」は「一方の主面」に,「圧電素子52」は「駆動体」に,「圧電素子52と反対側面」は圧電素子52の貼り付けられた下面と反対側の面であるから「他方の主面」に,「貫通孔(第1開口部)31」は「孔」に,「セパレータ30」は「板」に,「中央孔(中央空間)21と対応するセパレータ30の部分」の「共振部分」は「屈曲振動可能な可動部」に,「リング状凸部よりなる仕切り部33」は「突出部」に,「圧電マイクロブロア」は段落[0001」を参照すると「空気のような圧縮性流体を輸送するのに適した」ものであるから「流体制御装置」に,それぞれ相当する。
引用発明の「ダイヤフラム51の下面に貼り付けられ」ることは本件特許発明1の「振動板の一方の主面に設けられ」ることに相当する。
引用発明の「振動板50」は「ダイヤフラム51」と「圧電素子52」とを含むものであって,引用発明の「振動板50を共振駆動させる圧電素子52」は本件特許発明1の「振動板」に相当する「ダイヤフラム51」を振動させているから,本件特許発明1の「振動板を駆動させる駆動体」に相当する。
引用発明の「ダイヤフラム51の圧電素子52と反対側面に対向して設けられ,中心部に貫通孔(第1開口部)31が形成されたセパレータ30」は本件特許発明1の「振動板の他方の主面に対向して設けられ,孔が設けられている板」に相当する。
引用発明の「中央孔(中央空間)21と対応するセパレータ30の部分が共振部分を有」することは,本件特許発明1の「板は,屈曲振動可能な可動部を有」することに相当する。
引用発明の「セパレータ30は,貫通孔31と前記貫通孔31に対向するダイヤフラム51領域の間に位置し,前記貫通孔31と前記貫通孔31に対向するダイヤフラム51の領域との中間の方向へ突出するリング状凸部よりなる仕切り部33を有する」ことは,本件特許発明1の「振動板および板の少なくとも一方は,孔と前記孔に対向する振動板の領域との間に位置し,前記孔と前記孔に対向する前記振動板の領域との中間の方向へ突出する突出部を有」することに相当する。
そうすると,両者は,
「振動板と,
前記振動板の一方の主面に設けられ,前記振動板を振動させる駆動体と,
振動板の他方の主面に対向して設けられ,孔が設けられている板と,を備え,
前記板は,屈曲振動可能な可動部を有し,
前記振動板および前記板の少なくとも一方は,前記孔と前記孔に対向する前記振動板の領域との間に位置し,前記孔と前記孔に対向する前記振動板の領域との中間の方向へ突出する突出部を有する,
流体制御装置。」
の点で一致し,以下の点で相違すると認められる。
<相違点>
前記突出部に関して,本件特許発明では,「前記突出部は,円柱状に形成され,前記突出部の周縁に近づくにつれて厚みが薄くなる形状の端部を有する」のに対して,引用発明では,前記突出部が,「リング状凸部よりなる仕切り部33」である点。

3.相違点の判断
本件特許発明1は,「前記突出部は,円柱状に形成され」ていることにより,「振動板の振動に伴う損失がより少なくなり,ポンプとしての動作効率が高まる。」(段落【0027】)という作用効果を有し,前記突出部は,「前記突出部の周縁に近づくにつれて厚みが薄くなる形状の端部を有する」ことにより,「突出部の端部と,当該端部より内側に位置する突出部の中央部と,で異なる圧力分布が得られるため,流体の圧縮時に,流体の圧力の高い突出部の中央部から,流体の圧力の低い突出部の端部の方向へ流体が流動し易くなる。このため,ポンプの加圧効率をより改善することができる。」(段落【0029】)」という作用効果を有する。
一方,引用発明は,段落【0008】,【0009】,【0025】,請求項1の下線部の記載からみて,流量を増加させるためにブロア室を共鳴させようとすると,振動板が必要以上に小さくなり,かえって流量が低下してしまうことを課題として,リング状凸部の「仕切り部33」により,ブロア室内において仕切り部33の内側に共鳴空間を形成し,かつ該共鳴空間の大きさを振動板の駆動周波数と共鳴空間のヘルムホルツ共鳴周波数とが対応するように設定するものであり,引用発明の「仕切り部33」は,その名のとおり空間を隔てるための仕切りの機能を果たすためのものである。
本件特許発明1の円柱状の「突出部」と,引用発明のリング状凸部の「仕切り部33」とは,構成上明確に異なり,機能・作用の点でも全く異なる。
請求人は,甲第4号証における図7における内径が2mmの場合に流量が極大となる記載を根拠に,内径を更に小さくして空洞部分を無くした突出部とすることで流量を更に大きくすることが当業者にとって容易に想到し得る旨主張する。
しかしながら,仮にリング状凸部の「仕切り部33」の内径を更に小さくして空洞部分を無くすと,「仕切り部33」に「仕切り」の機能が無くなって,もはや共鳴空間が存在しなくなり,共鳴空間を形成するという引用発明の趣旨が成り立たない。また,甲第4号証の段落【0036】における「2mm付近で流量の極大点」という記載からも,当業者がリング状凸部の「仕切り部33」の内径を2mm未満より極端に小さくする構成を採用することは考えられない。
さらに,請求人は,平成30年2月16日付け上申書3ページ下から5行?最下行において,甲第4号証の図7には仕切り内径を0とする記載もあり,仕切り部を円柱状に置き換えることは容易である旨主張する。
しかしながら,図7の「0]とする記載は,グラフの起点(0点)であり,内径0のデータは開示されていないから,請求人の上記主張は採用できない。
したがって,引用発明において,仕切り部33を本件発明1のように円柱状の突出部とするには,引用発明の課題,作用機能の点を鑑みてもあり得ないし,何らその様な示唆もない。ましてや,仮に引用発明のリング状凸部の「仕切り部33」を円柱状の突出部とした場合には共鳴空間がなくなって引用発明が成り立たなくなるのであるから,引用発明は,本件特許発明1の主引用例として他の技術を適用するための動機付けを欠くものであり,阻害要因を有するといえる。
さらに,請求人は,平成30年1月12日付け口頭審理陳述要領書にて,甲4発明(引用発明)のリング状の仕切り部は段落【0024】?【0026】の記載からも,そもそも円柱状であることが認識でき,その円柱の中心に共鳴空間34が設けられたものですので,この内容からも容易に仕切り部33を「円柱状」に形成することができたものと思料する旨主張する。
しなしながら,引用発明がリング状凸部よりなる「仕切り部33」を円柱状とすることについて阻害要因を有することは前述したとおりであり,請求人の上記主張は採用できない。
また,請求人は,中央部の突出部を円柱状にすることは,流体ポンプとして適用可能な甲第6号証の4欄23?39行に記載された「central region 129」(中心領域)の円柱状の形状(周知技術)を引用発明に適用して容易に想到し得る旨主張する。
しかしながら,「central region 129」(中心領域)は,下部構造部分151との可変間隙152により流体の懸濁粒子のフィルタとして作用するものであり,引用発明の圧電マイクロブロアの「リング状凸部よりなる仕切り部33」とは,機能・作用が全く異なることから,甲第6号証は,副引用例として引用発明に適用できるものではない。また,請求人は,甲第6号証のような「円柱状の形状」は周知技術であると主張するが,他に周知技術である証拠は開示されていない。
さらに,本件特許発明1は,「前記突出部の周縁に近づくにつれて厚みが薄くなる形状の端部を有する」構成を備える点で引用発明と相違するが,これに対して請求人は,甲第7号証に,シリコン基板1の下面には,突出部の周縁に近づくにつれて厚みが薄くなる形状の端部を有する突出部が形成されることが記載されている,と主張し,該構成を引用発明に適用する旨主張する。
この点について検討する。
甲第7号証の段落【0005】には「一枚のシリコン基板と一枚のガラス基板の一回の接合によって製作が可能であるマイクロポンプおよびマイクロバルブの実現を目的とする」と記載され,段落【0009】には「二つのバルブダイアフラムと一つのポンプダイアフラムはシリコン基板1にエッチングによって形成され・・・バルブ部ダイアフラムの剛性により,ポリイミドによって形成されたパッキン4が貫通穴の存在するガラス基板2に押し付けられ,通常時においてバルブが閉の状態を実現することができる(図5)。」と記載され,段落【0012】には「図5に示すように,接合面よりもパッキン4が突出しているために,接合によってバルブ部ダイアフラムが変形し,パッキンがガラス基板に押しつけられることによって各バルブは通常状態で閉の状態を保つことになる。」と記載されているものの,甲第7号証には,請求人が突出部の周縁に近づくにつれて厚みが薄くなる形状の端部を有する突出部として指摘している構成(図1において3つの圧電素子3の間にある上下の台形状の2つの部材)の形状について説明する特段の記載は認められない。
そうすると,請求人が突出部として指摘している構成(図1において3つの圧電素子3の間にある上下の台形状の2つの部材)の形状を,引用発明の引用発明の「仕切り部33」の形状として用いることは,甲第4号証,及び甲第7号証に記載も示唆もないといわざる得ない。
したがって,引用発明に甲第7号証において指摘している構成を適用して本件特許発明1の「前記突出部の周縁に近づくにつれて厚みが薄くなる形状の端部を有する」という構成を当業者が容易に想到し得ることにはならない。
さらに,引用発明の課題は,「流量を増加させるためにブロア室を共鳴させようとすると,振動板が必要以上に小さくなり,かえって流量が低下してしまう。」ことであり,甲第7号証の発明の課題は,「一枚のシリコン基板と一枚のガラス基板の一回の接合によって製作が可能であるマイクロポンプおよびマイクロバルブの実現」である。これに対して,本件特許発明1の上記構成により解決される課題は,「流体の圧縮時に,流体の圧力の高い突出部の中央部から,流体の圧力の低い突出部の端部の方向へ流体が流動し易くなる」ことであり,「ポンプの加圧効率をより改善すること」にある。
そうすると,本件特許発明1の課題が全く想定されていない引用発明において,さらに全く課題が異なる甲第7号証の発明を組み合わせて,本件特許発明1が容易に導き出されるという論理づけを構築することは困難である。
また,請求人は,甲第7号証のような,マイクロポンプにおいて,突出部の断面テーパ状の構造が周知技術であると主張しているが,他に周知技術である証拠も開示されておらず,甲第7号証の記載のみをもって周知技術であるともいえない。
そして,本件特許発明1は,上記相違点の構成により,上述の作用効果を奏するものである。
また,甲第4号証,甲第6号証,甲第7号証以外の証拠(甲第5号証,甲第8号証?甲第11号証)は,本件特許発明1の進歩性を否定するために提出された証拠ではなく,また,それらの証拠を考慮しても,本件特許発明1は,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
以上のことから,本件特許発明1について,特許法第29条第2項を根拠とする無効理由は,成り立たない。

4.本件特許発明2,3,6?11について
本件特許発明2,3,6?11は,いずれも,本件特許発明1の発明特定事項を全て備え,さらにその発明特定事項を限定するものである。
したがって,本件特許発明2,3,6?11についての特許法第29条第2項を根拠とする無効理由も,成り立たない。

第7 むすび
以上のとおりであるから,請求人の主張及び証拠方法によっては,本件特許発明1,2,3,6?11の特許を無効とすることはできない。
本件特許発明4,5については,訂正により削除されたため,本件特許の請求項4,5に対して請求人がした本件審判の請求については対象となる請求項が存在しない。
審判に関する費用については,特許法169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動板と、
前記振動板の一方の主面に設けられ、前記振動板を振動させる駆動体と、
前記振動板の他方の主面に対向して設けられ、孔が設けられている板と、を備え、
前記板は、屈曲振動可能な可動部を有し、
前記振動板および前記板の少なくとも一方は、前記孔と前記孔に対向する前記振動板の領域との間に位置し、前記孔と前記孔に対向する前記振動板の領域との中間の方向へ突出する突出部を有し、
前記突出部は、円柱状に形成され、
前記突出部の周縁に近づくにつれて厚みが薄くなる形状の端部を有する、
流体制御装置。
【請求項2】
前記板に接合され、開口部が形成された基板をさらに備え、
前記板は、前記基板に拘束された固定部をさらに有し、
前記可動部は、前記基板の前記開口部に面する、請求項1に記載の流体制御装置。
【請求項3】
前記突出部は、前記振動板の他方の主面に形成されており、前記板側へ突出する、請求項1または2に記載の流体制御装置。
【請求項4】(削除)
【請求項5】(削除)
【請求項6】
前記振動板全体のうち前記突出部を除く領域は、エッチングにより前記振動板の前記突出部の領域の厚みより薄い厚みに形成されている、請求項1から3のいずれか1項に記載の流体制御装置。
【請求項7】
前記突出部の前記開口部側の面の面積は、前記開口部の開口面の面積以上である、請求項2、3または6のいずれか1項に記載の流体制御装置。
【請求項8】
前記振動板と、前記振動板の周囲を囲む枠板と、前記振動板と前記枠板とを連結し、前記枠板に対して前記振動板を弾性支持する連結部と、を有する振動板ユニットを備え、
前記板は、前記振動板の他方の主面に対向するよう前記枠板に接合されている、請求項1、2、3、6または7のいずれか1項に記載の流体制御装置。
【請求項9】
前記板は、複数の微粒子を含有した接着剤によって前記複数の微粒子を挟んで前記枠板に接着されている、請求項8に記載の流体制御装置。
【請求項10】
前記板の前記連結部と対向する領域には孔部が形成された、請求項8又は9に記載の流体制御装置。
【請求項11】
前記振動板および前記駆動体はアクチュエータを構成し、
前記アクチュエータは円板状である、請求項1、2、3、6、7、8、9または10のいずれか1項に記載の流体制御装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2018-03-26 
結審通知日 2018-03-28 
審決日 2018-04-12 
出願番号 特願2011-194430(P2011-194430)
審決分類 P 1 113・ 854- YAA (F04B)
P 1 113・ 121- YAA (F04B)
P 1 113・ 851- YAA (F04B)
P 1 113・ 855- YAA (F04B)
P 1 113・ 841- YAA (F04B)
P 1 113・ 02- YAA (F04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 尾崎 和寛  
特許庁審判長 中川 真一
特許庁審判官 藤井 昇
遠藤 尊志
登録日 2014-04-25 
登録番号 特許第5528404号(P5528404)
発明の名称 流体制御装置  
代理人 新保 斉  
復代理人 桑城 伸語  
復代理人 桑城 伸語  
代理人 特許業務法人 楓国際特許事務所  
代理人 特許業務法人楓国際特許事務所  
復代理人 桑城 伸語  
代理人 特許業務法人 楓国際特許事務所  

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