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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G02B
管理番号 1344361
審判番号 不服2017-17342  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-11-22 
確定日 2018-10-09 
事件の表示 特願2016- 75831「硬化性接着剤組成物及びそれを用いた偏光板」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月23日出願公開、特開2016-170418、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成27年10月23日(優先権主張 平成27年2月16日)にした特願2015-208931号の一部を平成28年4月5日に新たな特許出願としたものであって、平成29年2月14日に手続補正がなされ、同年4月18日付けで拒絶理由が通知され、同年6月26日に意見書の提出とともに手続補正がなされ、同年8月30日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、同年11月22日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正(以下、「本件補正」という。)がなされたものである。

2 原査定の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、本件補正前の請求項に係る発明は、以下の引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

引用文献2:特開2014-232126号公報

3 審判請求時の補正
審判請求時になされた本件補正は、本件補正前の請求項3、9及び10を削除し、それに伴い、本件補正前の請求項4?8を、請求項3?7へと繰り上げたものである。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号に規定する請求項の削除を目的とするものといえる。そして、本件補正が同法第17条の2第3項の規定を満たすことは明らかである。

4 本願発明
本願の請求項1?7に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される、次のとおりの発明である。
「 【請求項1】
ラジカル重合性(メタ)アクリル系化合物と、下記式(I):
【化1】

(式中、R^(1)、R^(2)、R^(3)及びR^(4)は、それぞれ独立して、H原子であるか、又は、O原子及びN原子から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含む置換基である。R^(1)及びR^(3)がH原子であり、R^(2)及びR^(4)が前記置換基であるとき、R^(2)及びR^(4)は、それらが結合しているノルボルネン環の2つのC原子と一緒になって環構造を形成していてもよい。)
で表されるノルボルネン系化合物と、
ラジカル重合開始剤と、を含有し、
前記ラジカル重合開始剤は、活性エネルギー線の照射によって前記ラジカル重合性(メタ)アクリル系化合物の重合反応を開始させるものであり、
前記ノルボルネン系化合物の含有量は、前記ラジカル重合性(メタ)アクリル系化合物及び前記ノルボルネン系化合物の合計量100重量部に対して、0.001重量部以上0.55重量部以下である硬化性接着剤組成物。
【請求項2】
ラジカル重合性(メタ)アクリル系化合物と、下記式(I):
【化2】

(式中、R^(1)、R^(2)、R^(3)及びR^(4)は、それぞれ独立して、H原子であるか、又は、O原子及びN原子から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含む置換基(但し、エチレン性不飽和二重結合を含む置換基を除く。)である。R^(1)及びR^(3)がH原子であり、R^(2)及びR^(4)が前記置換基であるとき、R^(2)及びR^(4)は、それらが結合しているノルボルネン環の2つのC原子と一緒になって環構造を形成していてもよい。)
で表されるノルボルネン系化合物と、
ラジカル重合開始剤と、を含有し、
前記ラジカル重合開始剤は、活性エネルギー線の照射によって前記ラジカル重合性(メタ)アクリル系化合物の重合反応を開始させるものである硬化性接着剤組成物。
【請求項3】
前記ノルボルネン系化合物の含有量は、前記ラジカル重合性(メタ)アクリル系化合物及び前記ノルボルネン系化合物の合計量100重量部に対して、0.001重量部以上6重量部以下である請求項2に記載の硬化性接着剤組成物。
【請求項4】
偏光フィルムと熱可塑性樹脂フィルムとを接着するための硬化性接着剤組成物である請求項1?3のいずれか1項に記載の硬化性接着剤組成物。
【請求項5】
R^(1)、R^(2)、R^(3)及びR^(4)の少なくとも1つが前記置換基であり、
前記置換基は、-C(=O)-、-OH、及び-NH_(2)からなる群より選択される少なくとも1つの構造を含む請求項1?4のいずれか1項に記載の硬化性接着剤組成物。
【請求項6】
偏光フィルムと、その少なくとも一方の面に接着剤層を介して積層される熱可塑性樹脂フィルムとを含み、
前記接着剤層は、請求項1?5のいずれか1項に記載の硬化性接着剤組成物の硬化物層である偏光板。
【請求項7】
前記熱可塑性樹脂フィルムは、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、及びセルロースエステル系樹脂からなる群より選択される樹脂で構成される請求項6に記載の偏光板。」(以下、請求項1?7に係る発明を、それぞれ、「本件発明1」?「本件発明7」という。)

5 引用文献及び引用文献に記載された発明
(1)引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用され、本願優先権主張の日前に頒布された刊行物である引用文献2(特開2014-232126号公報)には、以下の記載事項がある。なお、下線は合議体が付与した。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板の製造方法に関する。

(中略)

【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、優れた光学特性を有する偏光板を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの実施形態による偏光板の製造方法は、樹脂基材と該樹脂基材の片側に形成されたポリビニルアルコール系樹脂層とを有する積層体を延伸、染色して、該樹脂基材上に偏光膜を作製する工程と、該偏光膜の該樹脂基材と反対側に第1の保護フィルムを積層する工程と、樹脂基材を剥離して、偏光膜の該樹脂基材を剥離した側に第2の保護フィルムを積層する工程と、を含み、該第1の保護フィルムおよび該第2の保護フィルムの少なくとも一方を、水分率が10%以下の接着剤を介して積層する。
1つの実施形態においては、上記製造方法は、上記第1の保護フィルムを、水系接着剤を介して積層する。
本発明の別の実施形態による偏光板の製造方法は、樹脂基材と該樹脂基材の片側に形成されたポリビニルアルコール系樹脂層とを有する積層体を延伸、染色して、該樹脂基材上に偏光膜を作製する工程と、樹脂基材を剥離して、偏光膜の該樹脂基材を剥離した側に保護フィルムを積層する工程と、を含み、該保護フィルムを水分率が10%以下の接着剤を介して積層する。
1つの実施形態においては、上記接着剤は活性エネルギー線硬化型接着剤である。
本発明の別の局面によれば、偏光板が提供される。この偏光板は、上記製造方法により得られる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、樹脂基材と該樹脂基材の片側に形成されたポリビニルアルコール系樹脂層とを有する積層体を延伸、染色して、当該樹脂基材上に偏光膜を作製することを含む偏光板の製造方法において、当該偏光膜の片側または両側に積層される保護フィルムの少なくとも1つを、水分率が10%以下の接着剤を介して積層することにより、光学特性に優れた偏光板を作製することができる。」

イ 「【0055】
D.第1の保護フィルムおよび/または第2の保護フィルムの積層に用いられる接着剤
本発明においては、上記のとおり、第1の保護フィルム21および第2の保護フィルム22の少なくとも一方は、水分率が10%以下の接着剤(以下、低水分率接着剤を称する場合もある)を介して積層され得る。例えば、第1の保護フィルム21のみが低水分率接着剤で積層されてもよく、第2の保護フィルム22のみが低水分率接着剤で積層されてもよく、第1の保護フィルム21および第2の保護フィルム22の両方が低水分率接着剤で積層されてもよい。1つの実施形態においては、第1の保護フィルム21および第2の保護フィルム22の両方が低水分率接着剤で積層され得る。別の実施形態においては、第1の保護フィルム21が低水分率接着剤で積層され、第2の保護フィルム22は任意の適切な接着剤または粘着剤で積層され得る。さらに別の実施形態においては、第2の保護フィルム22が低水分率接着剤で積層され、第1の保護フィルム21は任意の適切な接着剤または粘着剤で積層され得る。
【0056】
D-1.水分率が10%以下の接着剤
上記水分率が10%以下の接着剤(低水分率接着剤)は、その水分率が、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下である。このような接着剤を用いて第1の保護フィルムおよび/または第2の保護フィルムを積層することにより、光学特性に優れた偏光板を作製することができる。1つの実施形態においては、第2の保護フィルムが低水分率接着剤により積層され得る。この場合、偏光膜における水分量が少ない状態で第2の保護フィルムを積層することにより、PVA系樹脂の配向性を保持させることができる。具体的には、上述のとおり、樹脂基材側(下側)と表面側(上側)とではPVA系樹脂の配向性が異なる場合があるが、配向性が水分により低下してヨウ素錯体の分解するのを抑制することができる。1つの実施形態においては、第1の保護フィルムが後述する水系接着剤で積層され、第2の保護フィルムが低水分率接着剤により積層され得る。この場合、偏光膜に水分が過剰に存在する状態を回避して、光学特性の低下を抑制することができる。
【0057】
上記水分率が10%以下の接着剤としては、上記水分率を満足し得る限り、任意の適切な接着剤が用いられる。好ましくは、活性エネルギー線硬化型接着剤が用いられる。上記水分率を良好に達成し得るからである。活性エネルギー線硬化型接着剤としては、活性エネルギー線の照射によって硬化し得る接着剤であれば、任意の適切な接着剤が用いられ得る。活性エネルギー線硬化型接着剤としては、例えば、紫外線硬化型接着剤、電子線硬化型接着剤等が挙げられる。
【0058】
活性エネルギー線硬化型接着剤としては、ラジカル硬化型、カチオン硬化型、アニオン硬化型など必要に応じて選択することができ、例えば、ラジカル硬化型とカチオン硬化型のハイブリッドなど、適宜組み合わせて使用することも可能である。
【0059】
ラジカル硬化型接着剤としては、例えば、硬化成分として、(メタ)アクリレート基や(メタ)アクリルアミド基などのラジカル重合性基を有する化合物(例えば、モノマーおよび/またはオリゴマー)を含有する接着剤が挙げられる。なお、「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよび/メタクリルをいう。
【0060】
ラジカル硬化型接着剤の具体例としては、例えば、硬化性成分として、SP値が29.0(kJ/m^(3))^(1/2)以上32.0以下(kJ/m^(3))^(1/2)であるラジカル重合性化合物(A)、SP値が18.0(kJ/m^(3))^(1/2)以上21.0(kJ/m^(3))^(1/2)未満であるラジカル重合性化合物(B)、およびSP値が21.0(kJ/m^(3))^(1/2)以上23.0(kJ/m^(3))^(1/2)以下であるラジカル重合性化合物(C)と、(メタ)アクリルモノマーを重合してなるアクリル系オリゴマー(D)とを含有し、組成物全量を100重量%としたとき、前記ラジカル重合性化合物(B)を25?80重量%含有する。なお、本明細書において「組成物全量」とは、ラジカル重合性化合物に加えて、各種開始剤や添加剤を含む全量を意味するものとする。
【0061】
ラジカル重合性化合物(A)は、(メタ)アクリレート基などのラジカル重合性基を有し、かつSP値が29.0(kJ/m^(3))^(1/2)以上32.0以下(kJ/m^(3))^(1/2)である化合物であれば限定なく使用することができる。ラジカル重合性化合物(A)の具体例としては、例えば、ヒドロキシエチルアクリルアミド(SP値29.6)、N-メチロールアクリルアミド(SP値31.5)などが挙げられる。
【0062】
ラジカル重合性化合物(B)は、(メタ)アクリレート基などのラジカル重合性基を有し、かつSP値が18.0(kJ/m^(3))^(1/2)以上21.0(kJ/m^(3))^(1/2)未満である化合物であれば限定なく使用することができる。ラジカル重合性化合物(B)の具体例としては、例えば、トリプロピレングリコールジアクリレート(SP値19.0)、1,9-ノナンジオールジアクリレート(SP値19.2)、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(SP値20.3)、環状トリメチロールプロパンフォルマルアクリレート(SP値19.1)、ジオキサングリコールジアクリレート(SP値19.4)、EO変性ジグリセリンテトラアクリレート(SP値20.9)などが挙げられる。なお、ラジカル重合性化合物(B)としては市販品も好適に使用可能であり、例えばアロニックスM-220(東亞合成社製、SP値19.0)、ライトアクリレート1,9ND-A(共栄社化学社製、SP値19.2)、ライトアクリレートDGE-4A(共栄社化学社製、SP値20.9)、ライトアクリレートDCP-A(共栄社化学社製、SP値20.3)、SR-531(Sartomer社製、SP値19.1)、CD-536(Sartomer社製、SP値19.4)などが挙げられる。
【0063】
ラジカル重合性化合物(C)は、(メタ)アクリレート基などのラジカル重合性基を有し、かつSP値が21.0(kJ/m^(3))^(1/2)以上23.0(kJ/m^(3))^(1/2)以下である化合物であれば限定なく使用することができる。ラジカル重合性化合物(C)の具体例としては、例えば、アクリロイルモルホリン(SP値22.9)、N-メトキシメチルアクリルアミド(SP値22.9)、N-エトキシメチルアクリルアミド(SP値22.3)などが挙げられる。なお、ラジカル重合性化合物(C)としては市販品も好適に使用可能であり、例えばACMO(興人社製、SP値22.9)、ワスマー2MA(笠野興産社製、SP値22.9)、ワスマーEMA(笠野興産社製、SP値22.3)、ワスマー3MA(笠野興産社製、SP値22.4)などが挙げられる。
【0064】
ラジカル重合性化合物(A)、(B)および(C)それぞれのホモポリマーのガラス転移温度(Tg)がいずれも60℃以上であると、接着剤層のTgも高くなり、耐久性が特に優れたものとなる。その結果、例えば偏光膜と保護フィルムとの接着剤層としたとき、偏光膜のヒートショッククラックの発生を防止することができる。ここで、ラジカル重合性化合物のホモポリマーのTgとは、ラジカル重合性化合物を単独で硬化(重合)させたときのTgを意味する。
【0065】
活性エネルギー線硬化型接着剤組成物は、塗工時の作業性や均一性を考慮した場合、低粘度であることが好ましいため、(メタ)アクリルモノマーを重合してなるアクリル系オリゴマー(D)も低粘度であることが好ましい。低粘度であって、かつ接着剤層の硬化収縮を防止できるアクリル系オリゴマーとしては、重量平均分子量(Mw)が15000以下のものが好ましく、10000以下のものがより好ましく、5000以下のものが特に好ましい。一方、硬化物層(接着剤層)の硬化収縮を十分に抑制するためには、アクリル系オリゴマー(D)の重量平均分子量(Mw)が500以上であることが好ましく、1000以上であることがより好ましく、1500以上であることが特に好ましい。アクリル系オリゴマー(D)を構成する(メタ)アクリルモノマーとしては、具体的には例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、2-メチル-2-ニトロプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、s-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、n-ペンチル(メタ)アクリレート、t-ペンチル(メタ)アクリレート、3-ペンチル(メタ)アクリレート、2,2-ジメチルブチル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、4-メチル-2-プロピルペンチル(メタ)アクリレート、n-オクタデシル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸(炭素数1-20)アルキルエステル類、さらに、例えば、シクロアルキル(メタ)アクリレート(例えば、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロペンチル(メタ)アクリレートなど)、アラルキル(メタ)アクリレート(例えば、ベンジル(メタ)アクリレートなど)、多環式(メタ)アクリレート(例えば、2-イソボルニル(メタ)アクリレート、2-ノルボルニルメチル(メタ)アクリレート、5-ノルボルネン-2-イル-メチル(メタ)アクリレート、3-メチル-2-ノルボルニルメチル(メタ)アクリレートなど)、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリル酸エステル類(例えば、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピルメチル-ブチル(メタ)メタクリレートなど)、アルコキシ基またはフェノキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類(2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、2-メトキシメトキシエチル(メタ)アクリレート、3-メトキシブチル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレートなど)、エポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル類(例えば、グリシジル(メタ)アクリレートなど)、ハロゲン含有(メタ)アクリル酸エステル類(例えば、2,2,2-トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,2-トリフルオロエチルエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、ヘプタデカフルオロデシル(メタ)アクリレートなど)、アルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート(例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートなど)などが挙げられる。これら(メタ)アクリレートは、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0066】
活性エネルギー線硬化型接着剤組成物は、組成物全量を100重量%としたとき、ラジカル重合性化合物(B)を25?80重量%含有する。さらに、活性エネルギー線硬化型接着剤組成物は、組成物全量を100重量%としたとき、前記ラジカル重合性化合物(A)を3?40重量%、前記ラジカル重合性化合物(C)を5?55重量%、前記アクリル系オリゴマー(D)を3?20重量%含有することが好ましい。
【0067】
活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を電子線硬化型で用いる場合、組成物中に光重合開始剤を含有させることは特に必要ではないが、紫外線硬化型で用いる場合には、光重合開始剤を用いることが好ましく、特に380nm以上の光に対して高感度な光重合開始剤を用いることが好ましい。380nm以上の光に対して高感度な光重合開始剤については後述する。

(中略)

【0070】
また、必要に応じて公知の光重合開始剤を併用することができる。UV吸収能を有する保護フィルムは、380nm以下の光を透過しないため、光重合開始剤としては、380nm以上の光に対して高感度な光重合開始剤を使用することが好ましい。具体的には、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウムなどが挙げられる。

(中略)

【0072】
また、活性エネルギー線硬化型接着剤組成物には、本発明の目的、効果を損なわない範囲において、その他の任意成分として各種の添加剤を配合することができる。かかる添加剤としては、エポキシ樹脂、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリウレタン、ポリブタジエン、ポリクロロプレン、ポリエーテル、ポリエステル、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、石油樹脂、キシレン樹脂、ケトン樹脂、セルロース樹脂、フッ素系オリゴマー、シリコーン系オリゴマー、ポリスルフィド系オリゴマーなどのポリマーあるいはオリゴマー;フェノチアジン、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノールなどの重合禁止剤;重合開始助剤;レベリング剤;濡れ性改良剤;界面活性剤;可塑剤;紫外線吸収剤;シランカップリング剤;無機充填剤;顔料;染料などを挙げることができる。」

ウ 「【0100】
[実施例1]
樹脂基材として、吸水率0.60%、Tg80℃の非晶質ポリエチレンテレフタレート(A-PET)フィルム(三菱化学社製、商品名「ノバクリア」、厚み:100μm)を用いた。
樹脂基材の片面に、重合度4200、ケン化度99.2モル%のポリビニルアルコールの水溶液を60℃で塗布および乾燥して、厚み10μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製した。
【0101】
得られた積層体を、120℃のオーブン内で周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に1.8倍に自由端一軸延伸した(空中補助延伸)。
次いで、積層体を、液温30℃の不溶化浴(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化処理)。
次いで、液温30℃の染色浴(水100重量部に対して、ヨウ素を0.2重量部配合し、ヨウ化カリウムを1.0重量部配合して得られたヨウ素水溶液)に60秒間浸漬させた(染色処理)。
次いで、液温30℃の架橋浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを3重量部配合し、ホウ酸を3重量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋処理)。
その後、積層体を、液温70℃のホウ酸水溶液(水100重量部に対して、ホウ酸を4重量部配合し、ヨウ化カリウムを5重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に一軸延伸を行った(水中延伸)。ここで、積層体が破断する直前まで延伸した(最大延伸倍率は6.0倍)。
その後、積層体を液温30℃の洗浄浴(水100重量部に対して、ヨウ化カリウムを4重量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた(洗浄処理)。
続いて、積層体から樹脂基材を剥離した後、この剥離面に下記に示す接着剤を硬化後の接着剤層厚みが0.5μmとなるように塗布し、保護フィルム(アクリル系樹脂フィルム、厚み40μm、透湿度80g/m^(2)・24h)を貼り合わせ、この貼り合わせたフィルム側からIRヒーターを用いて50℃に加温し、下記の紫外線を照射して接着剤を硬化させた。
こうして、厚み4.5μmの偏光膜を有する偏光板を作製した。
【0102】
(接着剤組成)
N-ヒドロキシエチルアクリルアミド(HEAA)40重量部とアクリロイルモルホリン(ACMO)60重量部と光開始剤「IRGACURE 819」(BASF社製)3重量部を混合し、接着剤を調製した。
(紫外線)
活性エネルギー線として、紫外線(ガリウム封入メタルハライドランプ、照射装置:Fusion UV Systems,Inc社製のLight HAMMER10、バルブ:Vバルブ、ピーク照度:1600mW/cm^(2)、積算照射量1000/mJ/cm^(2)(波長380?440nm))を使用した。なお、紫外線の照度は、Solatell社製のSola-Checkシステムを使用して測定した。」

(2)引用文献2に記載された発明
上記記載事項ウに基づけば、引用文献2には、実施例1に用いられた接着剤として次の発明が記載されていると認められる。
「N-ヒドロキシエチルアクリルアミド40重量部とアクリロイルモルホリン60重量部と光開始剤「IRGACURE 819」3重量部を混合して調製した、接着剤。」(以下、「引用発明」という。)

6 対比・判断
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明とを対比する。

(ア)引用発明の「N-ヒドロキシエチルアクリルアミド」及び「アクリロイルモルホリン」は、いずれも、アクリル基を有し、ラジカル重合性を有するものである。したがって、引用発明の「N-ヒドロキシエチルアクリルアミド」及び「アクリロイルモルホリン」は、本件発明1の「ラジカル重合性(メタ)アクリル系化合物」に相当する。

(イ)引用発明の「光開始剤」は、「IRGACURE 819」であり、技術的にみて、活性エネルギー線の照射を受けてラジカルを発生し、ラジカル重合を開始させるものといえる。したがって、引用発明の「光開始剤」は、本件発明1の「ラジカル重合開始剤」に相当し、本件発明1の「活性エネルギー線の照射によって前記ラジカル重合性(メタ)アクリル系化合物の重合反応を開始させるものであり、」とする要件を満たしている。

(ウ)引用発明の「接着剤」は、「N-ヒドロキシエチルアクリルアミド」と、「アクリロイルモルホリン」と、「IRGACURE 819」を混合して調整したものであるから、「組成物」である。そして、技術的にみて、光開始剤である「IRGACURE 819」の作用により、「N-ヒドロキシエチルアクリルアミド」と「アクリロイルモルホリン」をラジカル重合反応させ、硬化性の重合物を生成することにより接着剤として機能するものといえる。したがって、引用発明の「接着剤」は、本件発明1の「硬化性接着剤組成物」に相当する。

(エ)以上より、本件発明1と引用発明とは、
「ラジカル重合性(メタ)アクリル系化合物と、
ラジカル重合開始剤と、を含有し、
前記ラジカル重合開始剤は、活性エネルギー線の照射によって前記ラジカル重合性(メタ)アクリル系化合物の重合反応を開始させるものである硬化性接着剤組成物。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点1]本件発明1は、式(I)で表されるノルボルネン系化合物を含有し、ノルボルネン系化合物の含有量は、前記ラジカル重合性(メタ)アクリル系化合物及び前記ノルボルネン系化合物の合計量100重量部に対して、0.001重量部以上0.55重量部以下であるのに対し、引用発明は、本件発明1の式(I)で表されるノルボルネン系化合物を含有しない点。

イ 判断
引用文献2の記載事項イには、段落【0060】に「ラジカル硬化型接着剤の具体例としては、例えば、硬化性成分として、SP値が29.0(kJ/m^(3))^(1/2)以上32.0以下(kJ/m^(3))^(1/2)であるラジカル重合性化合物(A)、SP値が18.0(kJ/m^(3))^(1/2)以上21.0(kJ/m^(3))^(1/2)未満であるラジカル重合性化合物(B)、およびSP値が21.0(kJ/m^(3))^(1/2)以上23.0(kJ/m^(3))^(1/2)以下であるラジカル重合性化合物(C)と、(メタ)アクリルモノマーを重合してなるアクリル系オリゴマー(D)とを含有し、組成物全量を100重量%としたとき、前記ラジカル重合性化合物(B)を25?80重量%含有する。」と記載されている。ここで、段落【0061】の「ラジカル重合性化合物(A)の具体例としては、例えば、ヒドロキシエチルアクリルアミド(SP値29.6)・・・などが挙げられる。」との記載、段落【0063】の「ラジカル重合性化合物(C)の具体例としては、例えば、アクリロイルモルホリン(SP値22.9)・・・などが挙げられる。」との記載に基づけば、引用発明の「N-ヒドロキシエチルアクリルアミド」及び「アクリロイルモルホリン」は、ラジカル重合性化合物(A)及びラジカル重合性化合物(C)として含有されているものといえる。引用文献2の段落【0060】には、「ラジカル硬化型接着剤」に、さらに「(メタ)アクリルモノマーを重合してなるアクリル系オリゴマー(D)」を含有することが記載されており、段落【0065】には、「アクリル系オリゴマー(D)を構成する(メタ)アクリルモノマーとしては、具体的には例えば、・・・多環式(メタ)アクリレート(例えば、2-イソボルニル(メタ)アクリレート、2-ノルボルニルメチル(メタ)アクリレート、5-ノルボルネン-2-イル-メチル(メタ)アクリレート、3-メチル-2-ノルボルニルメチル(メタ)アクリレートなど)、・・・などが挙げられる。これら(メタ)アクリレートは、単独使用または2種類以上併用することができる。」と記載されている。当該記載に基づけば、引用文献2には、ラジカル硬化型接着剤に、ノルボルネン系化合物を含む(メタ)アクリレートのオリゴマーを含有させることが示唆されているといえる。しかしながら、上記ノルボルネン系化合物を含む(メタ)アクリレートのオリゴマーは、本件発明1の式(I)のR^(1)?R^(4)の条件を満たすものではない。また、引用文献2におけるアクリル系オリゴマー(D)は、塗工時の作業性や均一性を考慮し、低粘度であって、かつ接着剤層の硬化収縮を防止するために含有させるものである。引用文献2には、ラジカル硬化型接着剤に、ノルボルネン系化合物をモノマーとして特定の含有量で含有させることは記載されていない。
一方、本件発明1は、本件発明1の式(I)で表されるノルボルネン系化合物を、ラジカル重合性(メタ)アクリル系化合物及び前記ノルボルネン系化合物の合計量100重量部に対して、0.001重量部以上0.55重量部以下で含有させるものであり、本願の明細書段落【0014】、【0074】の記載に基づけば、耐久性の良好な偏光板を提供できるという効果を奏するものである。
そうすると、接着剤に本件発明1の式(I)で表されるノルボルネン系化合物を特定の含有量で含有させることやその効果は、引用文献2に記載も示唆もされておらず、当業者において自明であったとする根拠も見いだせない。したがって、たとえ当業者であったとしても、引用発明において、本件発明1の式(I)で表されるノルボルネン系化合物をラジカル重合性(メタ)アクリル系化合物及び前記ノルボルネン系化合物の合計量100重量部に対して、0.001重量部以上0.55重量部以下であるように含有させることが、容易になし得たということはできない。

ウ むすび
以上のとおりであるから、本件発明1は、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明できたものということはできない。

(2)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と引用発明とを対比する。

(ア)前記(1)ア(ア)において検討したとおり、引用発明の「N-ヒドロキシエチルアクリルアミド」及び「アクリロイルモルホリン」は、本件発明2の「ラジカル重合性(メタ)アクリル系化合物」に相当する。

(イ)前記(1)ア(イ)において検討したとおり、引用発明の「光開始剤」は、本件発明2の「ラジカル重合開始剤」に相当し、本件発明2の「活性エネルギー線の照射によって前記ラジカル重合性(メタ)アクリル系化合物の重合反応を開始させるものであり、」とする要件を満たしている。

(ウ)前記(1)ア(ウ)において検討したとおり、引用発明の「接着剤」は、本件発明2の「硬化性接着剤組成物」に相当する。

(エ)以上より、本件発明2と引用発明とは、
「ラジカル重合性(メタ)アクリル系化合物と、
ラジカル重合開始剤と、を含有し、
前記ラジカル重合開始剤は、活性エネルギー線の照射によって前記ラジカル重合性(メタ)アクリル系化合物の重合反応を開始させるものである硬化性接着剤組成物。」である点で一致し、以下の点で相違している。
[相違点2]本件発明2は、式(I)で表されるノルボルネン系化合物を含有するのに対し、引用発明は、本件発明2の式(I)で表されるノルボルネン系化合物を含有しない点。

イ 判断
引用文献2の記載事項イには、前記(1)イに記載したとおり、ラジカル硬化型接着剤に、ノルボルネン系化合物を含む(メタ)アクリレートのオリゴマーを含有させることが示唆されているといえる。しかしながら、上記ノルボルネン系化合物を含む(メタ)アクリレートのオリゴマーは、本件発明2の式(I)のR^(1)?R^(4)の条件を満たすものでもない。したがって、引用文献2には、ラジカル硬化型接着剤に、本件発明2の式(I)で表されるノルボルネン系化合物を含有させることは記載されていない。
一方、本件発明2は、本願の明細書段落【0014】の記載に基づけば、本件発明2の式(I)で表されるノルボルネン系化化合物を含有させることにより、耐久性の良好な偏光板を提供できるという効果を奏するものである。
そうすると、接着剤に本件発明2の式(I)で表されるノルボルネン系化合物を含有させることやその効果は、引用文献2に記載も示唆もされておらず、当業者において自明であったとする根拠も見いだせない。したがって、たとえ当業者であったとしても、引用発明において、本件発明2の式(I)で表されるノルボルネン系化合物を含有させることが、容易になし得たということはできない。

ウ むすび
以上のとおりであるから、本件発明2は、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明できたものということはできない。

(3)本件発明3?7について
本件発明3?7は、本件発明1の「式(I)で表されるノルボルネン系化合物を含有し、ノルボルネン系化合物の含有量は、前記ラジカル重合性(メタ)アクリル系化合物及び前記ノルボルネン系化合物の合計量100重量部に対して、0.001重量部以上0.55重量部以下である」という構成又は本件発明2の「式(I)で表されるノルボルネン系化合物を含有する」という構成を具備する発明である。そうすると、本件発明3?7も、本件発明1又は本件発明2と同じ理由により、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明できたものということはできない。

(4)むすび
以上のとおり、本件発明1?7は、当業者であっても、引用発明に基づいて容易に発明できたものということはできないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。

7 原査定について
本件補正により、本件発明1?7は、本件発明1の式(I)で表されるノルボルネン系化合物を含有し、ノルボルネン系化合物の含有量は、前記ラジカル重合性(メタ)アクリル系化合物及び前記ノルボルネン系化合物の合計量100重量部に対して、0.001重量部以上0.55重量部以下であるという構成又は本件発明2の式(I)で表されるノルボルネン系化合物を含有するという構成を具備することとなった。そして、前記6において検討したとおり、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献2に記載された発明に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。
したがって、原査定を維持することはできない。

8 むすび
以上のとおり、本件発明1?7は、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-09-25 
出願番号 特願2016-75831(P2016-75831)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G02B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 藤岡 善行  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 清水 康司
宮澤 浩
発明の名称 硬化性接着剤組成物及びそれを用いた偏光板  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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