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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 取り消して特許、登録 A61K
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61K
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 A61K
管理番号 1344404
審判番号 不服2017-13141  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-09-05 
確定日 2018-10-02 
事件の表示 特願2015- 69414「血中中性脂肪低減用組成物及び血中中性脂肪低減用機能性食品」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 7月 2日出願公開、特開2015-120759、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年4月11日に出願した特願2013-083270号の一部を平成27年3月30日に新たな特許出願としたものであって、平成28年5月27日受付けで手続補正がなされ、平成28年12月20日付けの拒絶理由通知に応答して、平成29年5月9日受付けで手続補正がなされ、意見書が提出されたが、平成29年5月31日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成29年9月5日に拒絶査定不服の審判が請求され、その審判請求と同時に手続補正がなされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成29年5月31日付け拒絶査定)の理由は、平成28年12月20日付けの拒絶理由通知書に記載した理由2(進歩性)、理由3(実施可能要件)、理由4(サポート要件)によって拒絶すべきとするものであり、その概要は次のとおりである。

(1)理由2は、概略、請求項1?5に係る発明は、以下の引用文献2?6に記載された発明に基いて当業者が容易になし得たというものであり、更に、引用文献2の中で引用されている先行技術としての特許文献3(以下、「引用文献A」ともいう。)の記載についても言及されている。
<引用文献>
2.特開2011-32248号公報
3.特開2008-266311号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2008-63293号公報(周知技術を示す文献)
5.特開2008-306866号公報(周知技術を示す文献)
6.HAN L‐K 他,ショウガの抗肥満作用について,薬学雑誌,2005年,Vol.125,No.2,Page.213-217
A.特開2008-189571号公報

(2)理由3、4は、概略、刊行物7?10を引用の上、同刊行物記載の本願出願時の周知技術を勘案すると、請求項1?5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでなく、かつ、発明の詳細な説明の記載は、当業者が、請求項1?5に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないというものである。
<引用文献>
7.特開2006-296245号公報(周知技術を示す文献)
8.特開2008-79562号公報(周知技術を示す文献)
9.特開2012-50377号公報(周知技術を示す文献)
10.特開2012-139146号公報(周知技術を示す文献)

第3 本願発明
拒絶理由の対象とされていた請求項1?5に係る発明は、審判請求時の補正によって請求項1、2に係る発明に補正されており、該本願請求項1,2に係る発明(以下、順に「本願発明1」、「本願発明2」ともいう。)は、平成29年9月5日の審判請求と同時に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

『【請求項1】
酒粕と水とを重量比1:9で混合して得られた発酵液中に原料生ショウガを浸漬して1日保持して得られる発酵ショウガを、温度30℃?90℃、湿度50%?90%、加熱時間120?500時間の条件下で加熱する工程を経て製造され、
加熱によって発酵ショウガに含まれるジンゲロール類がショウガオール類に変化して、ショウガオール類が富化された加熱発酵ショウガ及び/又はその抽出物を有効成分として含有し、食事直後に経口摂取するように用いられることを特徴とする血中中性脂肪低減用組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の血中中性脂肪低減用組成物を含有する血中中性脂肪低減用機能性食品。』

第4 請求項1に係る発明(本願発明1)についての進歩性

1.引用文献2、A、3?6に記載された事項
なお、下線は当審で付したものである。

(1)引用文献2
(2-i)「【請求項1】
ショウガ科植物由来の原料を温度30℃?90℃、湿度50%?90%の条件下で、120時間?500時間加熱するによって、ショウガ科植物由来の原料中のジンゲロール類をショウガオール類に変換するショウガオール類の富化方法。
【請求項2】
ショウガ科植物由来の原料を発酵液と混合した後、温度30℃?90℃、湿度50%?90%の条件下で、120時間?500時間の加熱するによって、ショウガ科植物由来の原料中のジンゲロール類をショウガオール類に変換するショウガオール類の富化方法。
【請求項3】
発酵液が、酵母菌、乳酸菌、麹菌、枯草菌、酢酸菌の中の何れかで構成される微生物により発酵させた発酵物を含む請求項2に記載のショウガオール類の富化方法。
【請求項4】
発酵液が、米、玄米、大麦、小麦、オーツ麦、ライ麦、カラス麦、ライ麦、トウモロコシ等の穀類由来、または、エンドウ豆、フェイジョン豆、小豆、大豆等の豆類由来、または、果物、野菜等の植物由来、または、乳由来の発酵物を含む請求項2に記載のショウガオール類の富化方法。
【請求項5】
加熱が、遠赤外線等の電磁波を利用した加熱、または蒸気加熱、または、電熱機器を使用した加熱、または直火による加熱、またはを利用した加熱である請求項1または請求項2に記載のショウガオール類の富化方法。
【請求項6】
得られた富化物が、ショウガオール類とジンゲロール類の比率が1:1?30:1である請求項1または請求項2に記載の富化方法。」(請求項1?6)
(2-ii)「【0006】
さらに、生姜の辛味成分であるショウガオール類は、食品香料として利用されるだけでなく、解熱作用、鎮痛作用、抗炎症作用、抗酸化作用、プロスタグランジンの生合成阻害作用、血行促進作用、体温上昇作用を有することが知られており、さらには、特許文献3において、ショウガオール類はアディポネクチン発現量を上昇させる作用を有し、糖尿病及び肥満を治療・予防することが記載されている。しかしながら、ショウガオール類は天然物中には微量しか存在していないことが特許文献4に開示されている。
【0007】
ショウガオール類は、上述の通り、解熱、鎮痛、抗炎症、プロスタグランジンの生合成阻害、血行促進、体温上昇、アディポネクチン発現の上昇等の様々な薬理的作用を有し、糖尿病や肥満等により誘発するメタボリックシンドロームの予防にも有効な成分として、今後、機能性食品・医薬品等への活用が期待されている。一方、ショウガ科の代表的な植物である生姜には、辛味を有する精油成分としてジンゲロール類、ショウガオール類等が含まれるが、生で未加工の状態では、その主体はジンゲロール類であり、ショウガオール類はごくわずかしか存在しない。さらには、生姜からショウガオール類を抽出する場合、最も抽出効率が高いエタノール抽出あるいは有機溶媒による抽出であっても、抽出物中のショウガオール類含量は、精々0.08重量%程度に過ぎず、機能性食品・医薬品等への活用が困難な状況にある。」(段落【0006】?【0007】)
(2-iii)「0009】
したがって、ショウガ科植物中に含まれるジンゲロールを食品・医薬品等の使用に好適な条件・加工方法で、効率よくショウガオール類に変換できれば、優れた生理活性・薬理作用を有する機能性食品素材を市場に提供することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
・・・略・・・
【特許文献3】特開2008-189571号公報
・・・略・・・」(段落【0009】、【0010】)
(2-iv)「【0013】
すなわち、ショウガ科植物由来の原料(葉、茎、根茎等)を、微生物を利用して植物または乳を発酵させた発酵液中または発酵液から抽出した酵素液中に漬け込んだ後、加熱方法として、蒸気加熱、遠赤外線等の電磁波を利用した加熱、電気ヒーター等の電熱機器を使用した加熱、直火、を利用した加熱等によって、淡褐色になるまで、温度30℃?90℃、湿度50%?90%、120時間?500時間、加熱する。
【0014】
この富化処理のための被処理原料の形状は限定しない。すなわち、粉末状、塊状固体、スライス状、液状の如何なるものであってもよい。
【0015】
そして、ジンゲロール類の発酵・熟成によるショウガオール類への変換のメカニズムは、以下の反応による脱水反応により、ショウガオール類に変化したものと考えられる。
【0016】



【0017】
式中、n=1?10の整数を表す。
主に、ショウガオール類はn=4、6、8に相当する6-ショウガオール、8-ショウガオール、または10-ショウガオールを指す。
また主に、ジンゲロール類はn=4,6,8に相当する6-ジンゲロール、8-ジンゲロール、10-ジンゲロールを指す。」(段落【0013】?【0017】)
(2-v)「【0019】
この発明に使用できるショウガ科植物由来の原料は、金時生姜、三州生姜、近江生姜、谷中生姜、静岡4号、黄生姜、土生姜、オタフク生姜の根茎等が挙げられ、とくに、その中でも、金時生姜や三州生姜がジンゲロール類含有量等の点から好ましい。」(段落【0019】)
(2-vi)【0024】
ショウガ科植物由来の原料を発酵液または発酵液から抽出した酵素液に混合した後、微生物、または微生物によって発酵させた酵素を使用して、混合物自体を発酵させても良い。この混合物を加熱熟成することによって、ショウガオール類の富化効率、すなわち、ジンゲロール類のショウガオール類への変換効率は向上する。」(段落【0024】)
(2-vii)「【0025】
また、発酵液を使用する場合の微生物は、乳酸菌、麹菌、酵母菌、枯草菌、酢酸菌等を用いる。これらの菌類を1種類または2種類以上混合して使用しても良い。
【0026】
乳酸菌類としては、・・・略・・・等が挙げられる。
【0027】
麹菌としては、例えばアスペルギルス属があり、アスペルギルス・オリゼー、アスペルギルス・ウサミ、アスペルギルス・シロウサミ、アスペルギルス・カワチ、アスペルギルス・ソヤー、アスペルギルス・ニガー、アスペルギルス・アワモリ、アスペルギルス・サイトイ、アスペルギルス・タマリ等が挙げられる。
【0028】
酵母菌としては、例えばデバリョマイセス属、サッカロマイセス属、ピチア属、クルイベロマイセス属、トルラスポラ属、シュビア属、ブレッタノマイセス属、クリプトコッカス属、エレモテリウム属、イッサチェンキア属、クロッケラ属、リポマイセス属、メトシュニコウイア属、ロードトルア属、シゾサッカロマイセ属、ジゴサッカロマイセス属、カンジダ属等があげられ、サッカロマイセス・セレビシアエやカンジダ・ビルサチルス等が挙げられる。食品として使われる酵母としては、酒酵母、ビール酵母やワイン酵母、パン酵母、葡萄酒酵母、焼酎酵母等が挙げられる。清酒酵母として、きょうかい6号、きょうかい7号、きょうかい9号、きょうかい10号、きょうかい11号、金沢酵母、泡なし酵母-601号、秋田流・花酵母AK-1等の種類が挙げられ、ビール酵母にはエール酵母、ラガー酵母等が挙げられる。また野生酵母で自然発酵させてもよい。
【0029】?【0031】 ・・・略・・・
【0032】
さらに、発酵物としては、植物由来の発酵物を利用することができる。 好ましい植物としては、米、玄米、大麦、小麦、オーツ麦、ライ麦、カラス麦、トウモロコシ等の各種穀物あるいはそれら穀物の種子の発芽物、エンドウ豆、・・・略・・・各種素材等が挙げられる。1種または2種以上を組み合わせて使用しても良い。これら植物を生のまま使用しても良いし、蒸す、茹でる等の操作をした後、発酵しやすい最適な温度にしてから、微生物を加えて発酵させても良い。またその際には水を加えてもよい。
【0033】
その中でも、コストが安く、市販されていて容易に入手可能である点から、納豆、玄米発酵素が好適に使用できる。
【0034】
さらに、リンゴ酢やモロミや発酵後の絞り粕、例えばモロミの絞り粕である酒粕等を使用しても良い。リンゴ酢は市販されており、コストも安く、容易に製造することが可能であるため好ましい。モロミはコストも安く、容易に製造することが可能であるため好ましい。さらに、酒粕は栄養分が豊富であり、毎年、大量に廃棄処分されているという背景から、コスト的にも安価であり、廃品利用の観点からも好ましい。酒粕の場合、アルコールが残存しているため、乾燥させてアルコールを飛ばしてから使用するのが好ましい。また、発酵後の絞り粕として、酒粕だけでなく、植物粕を使用することもできる。」(段落【0025】?【0034】)
(2-viii)「【0040】
以下、この発明の実施例を、ショウガ科植物に該当する生姜の原料として、三州生姜を用いた例によって説明する。
【実施例】
【0041】
原料の処理
生姜原料100gをステンレス製のビーカーに入れ、発酵素液を加え、浸漬した。
【0042】
酵素液としては、種麹で玄米を発酵させ、得られた玄米発酵物50gに水200mLを加えて調製し、そのうち60mLを使用した。
【0043】
浸漬後、この混合物を、遠赤外線を熱源として備えた蒸し器に入れ、50時間かけて30℃から78℃に温度を上昇させ、78℃を維持したまま、湿度約70%で300時間保持して蒸し込んだ。 加熱後、この生姜を78℃から徐々に冷却し、50時間かけて室温に戻した。熟成工程に合計400時間を要した。熟成後、この生姜を1ヶ月間乾燥させた後、加工生姜を秤量したところ、11gとなり、回収率は11%であった。
【0044】
酵素液浸漬と加熱熟成処理前後の生姜抽出液のショウガオール類含量分析
酵素・熟成処理前後の生姜抽出液のショウガオール類の含量を分析した。
分析はLC/MS/MSで行った。サーモサイエンティフィック社製環境分析・食品ポジティブリスト用トリプル四重極型質量分析計(装置名:TSQ Quantum Access MAX)にて測定した。使用カラムはハイパーシルゴールド(C18 50*2.1mm)、溶媒はアセトニトリルと水を用い、時間によって溶媒比率を変化させた。1分まではアセトニトリル:水=20:80の混合溶媒を、4分までの間に徐々に比率を変化させ、最終的にアセトニトリル:水=100:0にし、次いで7分までにアセトニトリル:水=80:20に比率を変化させ、この比率の混合溶媒で20分保持した。 流速は0.2ml/minで行った。
【0045】
酵素液浸漬・加熱熟成処理前の生姜抽出液の分析結果を表1に示す。
【0046】



【0047】
酵素液浸漬・遠赤外線加熱処理前の三州生姜の抽出液に関して、6-ショウガオールの含量が550ppm、6-ジンゲロールは4900ppmであった。
【0048】
また、発酵液より抽出した酵素液浸漬工程・遠赤外線による加熱処理後の抽出液成分において、玄米発酵素液による加熱処理後の抽出液中の6-ショウガオールの含量は、3700ppmに富化し、6-ジンゲロールは350ppmであった。よって、6-ショウガオールは6.7倍富化した。さらに6-ショウガオールと6-ジンゲロールの比率は11:1が実現できた。
【0049】
すなわち、得られた加工生姜11g中に6-ショウガオールが41mgとなり、加工前の生姜11g中で比較すると、6-ショウガオールは6.1mgとなっており、従来よりも、6-ショウガオールが富化していることがわかった。よって、6-ショウガオールの多い、機能性食品を提供することができる。」(段落【0040】?【0049】)

(2)引用文献A
引用文献Aは、前記引用文献2に記載された先行技術文献である(摘示(2-iii),(2-ii)参照)。
(A-i)「【請求項1】
ショウガオール類を有効成分として含有することを特徴とする糖尿病及び/又は肥満の治療・予防剤。
【請求項2】
前記ショウガオール類は、6-ショウガオールであることを特徴とする請求項1に記載の糖尿病及び/又は肥満の治療・予防剤。」(請求項1,2)
(A-ii)「【0007】
近年、脂肪組織は脂肪を蓄える機能を有するのみでなく、様々な生理活性物質を合成・分泌していることが明らかになってきた。これらの生理活性物質はアディポサイトカイン(adipocytokine)と呼ばれている。特に、肥満となった個体の脂肪組織において、アディポサイトカインの産生異常が生じており、全身の糖・脂質代謝に重大な影響が及ぶことが知られている。アディポネクチン(adiponectin)はアディポサイトカインの一種であり、ヒト脂肪細胞において最も多く発現している遺伝子産物として同定された。アディポサイトカインの多くが肥満によってその血中濃度が上昇するのに対し、アディポネクチンは糖尿病や肥満になるとその血中濃度が低下するという性質を有している。」(段落【0007】)
(A-iii)「【0014】
このような背景の下、本発明者らは、ショウガオール類がアディポネクチンの発現作用を有し、更に、TNF-αの発現量が上昇しているとき、低いアディポネクチンの発現作用を有し、TNF-αの発現量が低下するに従いアディポネクチンの発現量が上昇する作用を有することを見出し、本発明を完成させた。
即ち本発明は、日常的に摂取することによって糖尿病及び/又は肥満を予防することを可能にする物質を有効成分として含有する新規な糖尿病及び/又は肥満の治療・予防剤を提供することを目的とする。」(段落【0014】)
(A-iv)「【0052】
〔実施例〕
6-ショウガオールの調製
原料としてのアカショウガは、インドネシア産のものを用いた。まず、アカショウガをスライスして乾燥させ、乾燥物100kgを得た。この乾燥物10kgを破砕し、4倍量の重量比でn-ヘキサンで還流し、圧搾物に残存する油分を除いて脱脂物とした。次いで、この脱脂物をエタノール濃度40wt%の含水エタノール80℃で2時間抽出し、エタノール抽出液を乾固させてアカショウガ抽出物1.5gを得た。なお、アカショウガ抽出物の含有成分をHPLC分析したところ、6-ジンゲロールが2wt%、アントシアニンが1wt%、6-ショウガオールが0.2wt%、10-ショウガオールが0.5wt%含有されていた。
このアカショウガ抽出物をHPLC(Prep.ODS,20×250mm,90%メタノール)で精製分離を行い、6-ショウガオールを得た。
【0053】
〔試験例〕
1.成熟脂肪細胞の調製
マウス由来前駆脂肪細胞株3T3-L1(ヒューマンサイエンス研究資源バンク)を24ウェルプレートに撒き、・・・略・・・、3日間培養した。その後2μM インスリン含有10%FBS含有DMEMに培地交換して(Day3)培養を続け、2日間ごとに同様の培地に交換して4日間培養した(Day7)。
【0054】
2.TNF-α存在下での培養
被検物質として6-ショウガオールを検討した。6-ショウガオールをジメチルスルフォキシド(DMSO)に溶解して100mM濃度の溶液を調製した。この溶液を必要に応じて希釈し、10%FBS含有DMEMに、最終濃度が0、10、25μMとなるようにそれぞれ添加した(6-ショウガオール含有培地)。Day7の時点で、当該6-ショウガオール含有培地に交換し、5%CO_(2)、37℃で1時間培養した。その後、マウスTNF-α(R&D SYSTEMS社)を最終濃度が10ng/mLとなるように培地に添加し、さらに、15時間、5%CO2、37℃で培養した。対照として、6-ショウガオールを含まない培地でTNF-αも添加しないものについても同時に実験を行なった。
【0055】
3.核酸の回収
培地を取り除き、細胞をPBSで洗浄した後に、1ウェルあたり1mLのQIAZOL(キアゲン社)を加え、セルスクレイパーで細胞を回収し、・・・略・・・。分光光度計(NanoDrop ND-1000)を用いて、260nmにおける吸光度を測定し、RNA濃度を定量した。
【0056】
3.cDNA合成
得られたRNA1μgを含む、11.5μLのDEPC処理水、・・・略・・・、30℃で10分間、42℃で30分間、99℃で5分間、及び4℃で5分間反応させ、cDNAを合成した。
【0057】
4.Real time (RT)-PCRによるmRNAの定量
得られたcDNA1μgを含む11.25μLのDEPC処理水、・・・略・・・のプロトコールに従ってRT-PCRによる遺伝子発現量測定を行なった。アディポネクチン遺伝子発現量のmRNA量とβ-アクチン遺伝子発現量のmRNA量を測定し、アディポネクチン遺伝子発現量のmRNA量をβ-アクチン遺伝子発現量のmRNA量で割った値をアディポネクチンの発現量とした。結果を図1に示す。すなわち、6-ショウガオールはTNF-αに起因するアディポネクチンの発現量の抑制を阻害・防止することができた。
以上より、6-ショウガオールがTNF-αに起因するアディポネクチン発現量の抑制を阻害・防止できる抗糖尿病及び/又は抗肥満作用(メタボリックシンドローム予防)を有する物質であると判定した。
【0058】
5.TNF-α非処理の場合におけるアディポネクチン発現量
比較例として、6-ショウガオール(実施例)を10μMあるいは25μMを含有する培地を用い、TNF-αを添加しなかった場合のアディポネクチンmRNA量を、同様にして測定した。結果を図2に示す。TNF-αを添加しなかった場合は、6-ショウガオールを最終濃度として25mMになるように処理すると6-ショウガオール非処理群(コントロール)と比較してアディポネクチンの発現量は有意に上昇した。これにより、6-ショウガオールは、単独でもアディポネクチンの発現量を上昇させる作用を有し、またTNF-αに起因してアディポネクチンの発現量が低下した時にも、アディポネクチンの発現量を上昇させる作用を有していた。」(段落【0052】?【0058】)

(3)引用文献3
(3-i)「【請求項1】
ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、及びホスファチジン酸の合計の比率が50重量%以上、且つホスファチジルセリンとホスファチジルイノシトールとの合計の比率が40重量%以上であるリン脂質組成物を有効成分として含むアディポネクチン上昇剤。
・・・略・・・
【請求項5】
ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、及びホスファチジン酸の合計比率が50重量%以上、且つホスファチジルセリンとホスファチジルイノシトールとの合計比率が40重量%以上であるリン脂質組成物を有効成分として含む、肥満又は肥満に起因する疾患の予防若しくは改善剤。
・・・略・・・
【請求項9】
肥満に起因する疾患が、糖尿病、高脂血症、高血圧症、動脈硬化症、肝機能障害、又はメタボリックシンドロームである、請求項5?8のいずれかに記載の肥満又は肥満に起因する疾患の予防若しくは改善剤。」(請求項1,5,9)
(3-i)「【0002】
アディポネクチンとは脂肪組織特異的に産生されるホルモン因子であり、主に、骨格筋、肝臓、動脈壁細胞に作用して、脂肪の代謝分解を促進したり、糖の取り込みを促進したりする。この作用により、アディポネクチンは、抗糖尿病作用、抗動脈硬化作用、抗高血圧作用などを示すことが知られている。
【0003】
内臓脂肪が増えると、脂肪組織からのアディポネクチンの産生量が低下し、この低アディポネクチン血症が肥満を助長する。また、低アディポネクチン血症は、糖尿病、高血圧、高脂血症、動脈硬化症などの肥満に起因する各種疾患を引き起こすと考えられている。従って、アディポネクチンの産生増強は、肥満、肥満による各種疾患、および生活習慣病の予防または治療につながるとして近年注目を浴びている。」(段落【0002】?【0003】)
(3-ii)「【0010】
血中のアディポネクチン濃度が上昇すると、肝臓や骨格筋での脂肪の代謝分解や糖の取り込みが促進され、その結果、肥満や、肥満に起因する疾患が改善される。
具体的には、アディポネクチンは肝臓と骨格筋に作用し、糖の取り込みや脂肪酸の燃焼を促すAMPキナーゼを活性化する。活性化したAMPキナーゼは肝臓では糖新生を抑制するとともに脂肪を燃焼し、骨格筋では糖を取り込むことで脂肪を燃焼させる。その結果、肥満が改善される。また、肝臓では中性脂肪やコレステロールが減少することで脂肪が減り、肥満による肝機能障害や脂肪肝が改善される。また、血中のアディポネクチン濃度が上昇することにより、血中の中性脂肪やコレステロールの濃度が減少し、高脂血症、高血圧、動脈硬化が改善される。また、肝臓における糖新生が抑制され、血中の糖が骨格筋に取り込まれることにより、糖尿病が改善される。
また、血中アディポネクチン濃度が上昇すると、肥満になり難くなるため、肥満や肥満に起因する疾患が予防される。」(段落【0010】)
(3-iii)「【0046】
(1)肥満モデルラットに対する試験1
次に、実施例1(以下、「PIPS」と称する。)のリン脂質組成物を肥満モデルのZuckerラットに与え、その効果を検証した。
・・・略・・・
【0054】
肝臓のトリグリセリド濃度およびコレステロール濃度は、PIPS摂取により顕著な低下が認められた。一方、リン脂質濃度は群間で有意な差は認められなかった。
【0055】
血清脂質、血糖値、血清中ホルモンおよびサイトカイン濃度に及ぼす影響
Zuckerラットにおける血清脂質の変化を表5に示す。
【表5】 ・・・略・・・
【0056】
Zuckerラットにおけるトリグリセリドの濃度変化を表6に示す。
【表6】・・・略・・・
・・・略・・・
【0058】
血清のトリグリセリド濃度において、PIPS摂取による有意な上昇が認められた。コレステロール濃度において、PIPS摂取による有意な低下が認められた。リン脂質濃度、遊離脂肪酸濃度および血糖値は群間で差は見られなかった。アディポネクチン濃度は、PIPS摂取により有意に上昇することが認められた。インスリン濃度は、PIPS摂取により低下傾向を示したが有意ではなかった。
・・・略・・・
【0063】
(2)肥満モデルラットに対する試験2
試験1において、ラットの飼育期間を4週間に代えて3ヶ月とし、ラット数6匹(n=6)を5匹(n=5)にした以外は、試験1と同様の方法で、肥満モデルのZuckerラットに対するリン脂質組成物の作用を検証した。測定したのは、血清中トリグリセライド濃度、及び総コレステロール(T-Cho)濃度である。測定結果を以下の表10に示す。
【表10】・・・略・・・
リン脂質組成物の投与により、血清中トリグリセライド濃度、及び総コレステロール(T-Cho)濃度は有意に減少した。
肥満モデルラットに対する試験1の結果及び試験2の結果から、本発明で使用するリン脂質は、高脂血症に対する改善効果、ひいては動脈硬化症に対する改善効果を有することが分る。
・・・略・・・」(段落【0046】?【0070】)

(4)引用文献4
(4-i)「【請求項1】
エルゴステロールを含む酵母、米胚芽油及びうこんを含有することを特徴とするアディポネクチン分泌促進剤。
【請求項2】
上記エルゴステロールを含む酵母がビール酵母である請求項1記載のアディポネクチン分泌促進剤。
【請求項3】
上記酵母、上記米胚芽油及び上記うこんの含有量の合計を100質量%とした場合、該酵母の含有量は30?50質量%、該米胚芽油の含有量は20?40質量%、該うこんの含有量は20?40質量%である請求項1又は2記載のアディポネクチン分泌促進剤。
【請求項4】
有効成分としてエルゴステロール、γ-オリザノール、ピネン類及びアントシアニンを含有することを特徴とするアディポネクチン分泌促進剤。
【請求項5】
腸溶性製剤である請求項1乃至4のいずれかに記載のアディポネクチン分泌促進剤。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載のアディポネクチン分泌促進剤を含有することを特徴とする中性脂肪減少剤。」(請求項1?6)
(4-ii)「【0031】
また、本発明のアディポネクチン分泌促進剤及び本発明の他のアディポネクチン分泌促進剤、並びに本発明の中性脂肪減少剤、抗肥満剤、飲食品添加剤及び機能性食品の形態については特に限定はない。本発明のアディポネクチン分泌促進剤等の形態としては、例えば、液状(必要に応じて脱色等の後処理をした液も含む。)でもよいし、液状物を濃縮した濃縮液でもよい。また、その他にも、噴霧式乾燥や凍結乾燥等の公知の方法により溶媒を除去した固形物や粉末化した粉末物でもよい。その他、液状、粉末品、造粒等により得られる造粒品、打錠成形等により得られる錠剤、及びカプセル剤等が挙げられる。」(段落【0031】)
(4-iii)「【0049】
実施例1
上記のようにして製造したソフトカプセル剤を、身長168cm、体重98kg、白色脂肪率29.5%の被験者に、1日に2回(朝食前及び夕食前)、1回につき3錠(1日当たり合計6錠)、10日間毎日飲用させた。その結果、10日後の体重は96kgに減少し、白色脂肪率は27.4%に減少していた。また、飲用前に1.67μg/mlであった血中アディポネクチン濃度は10日後には2.10μg/mlに上昇していた。更に、飲用前に271mg/dlであった血中中性脂肪濃度は10日後には157mg/dlに減少していた。また、マクロファージ細胞の活性化等により産生される炎症性サイトカインであるTNF-αは、飲用前1.13pg/mlであった血中濃度が、10日後には1.01pg/mlにまで低下していた。」(段落【0049】)
(4-iv)「【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のアディポネクチン分泌促進剤及び本発明の他のアディポネクチン分泌促進剤は、脂肪細胞からより多くのアディポネクチンの分泌を促進することができる。そのため、アディポネクチンの分泌低下がもたらすと考えられる肥満、あるいは各種疾患、例えば、動脈硬化等の各種循環器系疾患などの生活習慣病の予防、改善に利用することができる。また、本発明の中性脂肪減少剤及び抗肥満剤もまた、アディポネクチンの分泌低下がもたらすと考えられる肥満、あるいは各種疾患、例えば、動脈硬化等の各種循環器系疾患などの生活習慣病の予防、改善に利用することができる。・・・略・・・。」(段落【0053】)

(5)引用文献5
拒絶理由で通知された引用文献5は、「電力変換装置および積層配線導体の接続方法」の発明で有り、本願発明1とは何ら関係の無いものである(なお、審判請求人は、意見書及び審判請求理由において、この点を争っておらず、むしろ、他の文献とともに該引用文献5も併せて、血中のアディポネクチン濃度が上昇することにより血中の中性脂肪が減量すること自体は公知であると認めている。)
引用文献5は、特開2006-306866号公報の誤記(2006年を2008年と誤記された)である。
(5-i)「【請求項1】
ドコサヘキサエン酸又はその誘導体を有効成分として含むアディポネクチン上昇剤。」(請求項1)
(5-ii)「【0005】
アディポネクチンはレプチンと共に脂肪組織由来のインスリン感受性因子の候補と考えられている。脂肪萎縮性糖尿病のインスリン抵抗性・脂質代謝異常は生理的なレプチン投与によっても部分的に改善したが、アディポネクチンとレプチンの同時投与によってほぼ完全に改善した。そして、アディポネクチンを補充し、血中濃度を増加させることにより、インスリン抵抗性の原因となる組織内中性脂肪含量を低下できる(非特許文献4)。」(段落【0005】)
(5-iii)「【実施例5】
【0076】
DHA結合型リン脂質の体重、摂食量、食効率及び臓器重量への影響
食餌組成及び飼育方法は以下の方法によって行った。
4週齢の雄性OLETFラットを1週間予備飼育し、2群に分け(1群6匹)、対照群(Con群)として、5週齢からAIN-76組成に準じた食餌を摂取させ、他の一群をDHA群としてDHA結合型リン脂質を2%添加した食餌を摂食させた。食餌組成は表8に示す。
【0077】
【表8】・・・略・・・
【0078】
今回使用したDHA結合型リン脂質は、イクラから抽出したDHA結合型リン脂質(日本油脂株式会社製 サンオメガPC-DHA-N)100gを、-80℃で冷却した1Lのアセトン中に滴下し、不溶成分として沈殿したリン脂質画分を濾過して溶媒を留去して再抽出したものを使用した。組成に関しては表9及び表10に示す。
【0079】
【表9】・・・略・・・
【0080】
【表10】 ・・・略・・・
【0081】
表9の脂質組成は、薄層クロマトグラフィーに脂質をスポットし、展開溶媒をクロロホルム-メタノール-水(65:25:4(v/v))で分離した。終了後、50%硫酸で検出を行い、デンシトメーターのシグナル比で定量した。なお、表10の脂肪酸組成分析はガスクロマトグラフィーにより行った。
【0082】
以上の2群を以降、4週間飼育し、9時間絶食後、エーテル麻酔下で腹部大動脈採血により屠殺し、肝臓及び脂肪組織を摘出し、血液から血清を得た。ラットの生育状態を表11に示す。
【0083】
【表11】・・・略・・・
【0084】
その結果、4週間の飼育において、初体重、終体重、体重増加量、摂食量及び摂食効率に群間で差は見られなかった(表11)。
【実施例6】
【0085】
血清パラメーターの測定
血清脂質濃度は酵素法により測定した。即ち、血清トリグリセリド濃度は、トリグリセライドE-テストワコー(GPO・DAOS法、和光純薬)、血清リン脂質濃度は、リン脂質E-テストワコー(コリンオキシダーゼ・DAOS法、和光純薬)、血清コレステロール濃度は、コレステロールC-E-テストワコー(コレステロールオキシダーゼ・DAOS法、和光純薬)、血清遊離脂肪酸濃度は、NEFA C-テストワコー(ACS・ACOD法、和光純薬)を用いて測定した。
【0086】
血糖値は、グルコースCII-テストワコー(和光純薬)を用いてムタロターゼ・GOD法により測定した。
【0087】
肝機能障害マーカーとしては、グルタミン酸オキザロ酢酸アミノ機転移酵素(GOT)及びグルタミン酸ピルビン酸アミノ機転移酵素(GPT)(トランスアミナーゼCII-テストワ
コー、POP・TOOS法、和光純薬)を測定した。
【0088】
その結果、血清のコレステロール及びリン脂質濃度において、DHA結合型リン脂質摂取による有意な低下が認められた(表12)。
【0089】
【表12】



」(段落【0076】?【0089】)

(6)引用文献6について
(6-i)「実験材料及び実験方法
1. 実験材料 新鮮なショウカ(市販品)は10倍量(w/v)の純水で室温にて抽出し,濃縮後凍結乾燥し,その乾燥物をショウガの水抽出エキスとして実験に供した。エキスの収率は5.67%である。」(第214頁左欄8?12行)
(6-ii)「5.コーンオイルのエマルジョン負荷後ラット血漿中の中性脂肪の変動にショウガ水抽出エキスの影響 動物を1群5匹としてコントロール群,ショウガ水抽出エキス投与君の3群に分け,一晩絶食し脂質負荷実験を行った。コントロール群ではコーンオイルのエマルジョン1ml及び純水1mlの混合液(2ml)を非麻酔下でラットに経口投与した.ショウガ水抽出エキス投与群ではコーンオイルのエマルジョン1mlとシヨウガ水抽出物エキス溶液(ショウガ水抽出エキス0.25,1g/kg体重)を投与した。
コーンオイル投与前,投与後30,60,120,180,240,300分まで非麻酔下でラットの尾静脈より採血した.血漿中の中性脂肪含量の測定は和光純薬のトリグリセライド-E-テストキットを用いて測定した。」(第214頁右欄2?16行)
(6-iii)「2.コーンオイル負荷後ラツトの血漿中性脂肪の上昇に及ぼす影響
Figure2に示すように、、コーンオイルのエマルジョン単独投与に比べてショウガ水抽出エキス0.25,1g/kgを含有するコーンオイルのエマルジョン投与では脂質エマルジョン負荷後60,120分に優位な低値を示した。ゼニカル30mg/kgを含有するコーンオイルのエマルジョン投与では血中中性脂肪の上昇はほとんどみられなかった。」(第215頁右欄14?21行)
(6-iv)「


」(Figure2(215頁右下))


2.引用例発明
引用文献2の記載、特に、請求項2に「ショウガ科植物由来の原料を発酵液と混合した後、温度30℃?90℃、湿度50%?90%の条件下で、120時間?500時間の加熱するによって、ショウガ科植物由来の原料中のジンゲロール類をショウガオール類に変換するショウガオール類の富化方法」(摘示(2-i)参照)が記載されていること、及び、同請求項の実施の態様が実施例として記載されていること(摘示(2-viii)参照)から、引用文献2には、次の発明(以下、「引用例発明」ともいう。)が記載されているものと認められる。
<引用例発明>
「ショウガ科植物由来の原料を発酵液と混合した後、温度30℃?90℃、湿度50%?90%の条件下で、120時間?500時間の加熱するによって、ショウガ科植物由来の原料中のジンゲロール類をショウガオール類に変換するショウガオール類の富化方法。」

3.対比、判断
本願発明1と引用例発明とを対比する。
(a)引用例発明の「ショウガ科植物由来の原料」は、「金時生姜、・・・挙げられる。その中でも金時生姜や三州生姜がジンゲロール類含有量等の点から好ましい。」(摘示(2-v)参照)との説明があり、実施例で三州生姜を使用している(摘示(2-viii)参照)。一方、本願発明1の「原料生ショウガ」は、本願明細書段落【0016】に記載されるとおり、ショウガか植物由来の原料であればよく、三州生姜が例示されている。そうすると、引用例発明の「ショウガ科植物由来の原料」は、本願発明1の「原料生ショウガ」に相当するといえる、
(b)引用例発明の「ショウガ科植物由来の原料を発酵液に混合し」て得られるものは、浸漬して得られるものであることは明らかである。実際、実施例において、(生姜原料に発酵素液を加え)浸漬し、と記載されていること(摘示(2-viii)の段落【0041】参照)に鑑みると、(引用例発明の「ショウガ科植物由来の原料を発酵液に混合し」て得られるものは、本願発明1の「発酵ショウガ」に相当するといえる、
(c)引用例発明の「ジンゲロール類をショウガオール類に変換するショウガオール類の富化」は、加熱によることも明示されている(摘示(2-vi)参照)、
(d)引用例発明の「ショウガ科植物由来の原料を発酵液に混合した」後、加熱工程に付されているから、結局、引用例発明の「方法」で得られるものは、本願発明1の「加熱発酵ショウガ」に相当するといえる、
から、両発明は、
「発酵液中に原料生ショウガを浸漬して得られる発酵ショウガを、温度30℃?90℃、湿度50%?90%、加熱時間120?500時間の条件下で加熱する工程を経て製造され、
加熱によって発酵ショウガに含まれるジンゲロール類がショウガオール類に変化して、ショウガオール類が富化された加熱発酵ショウガ」
で一致し、
以下の点で、相違する。
<相違点>
1.「発酵液」について、本願発明1では、「酒粕と水とを重量比1:9で混合して得られた」と特定されているのに対し、引用例発明ではそのように特定されていない点
2.「発酵ショウガ」について、本願発明1では、「浸漬して1日保持して得られる」と特定されているのに対し、引用例発明では、単に「混合した」とされている点
3.「加熱発酵ショウガ」について、本願発明1では「及び/又はその抽出物」とされているのに対し、引用例発明ではそのように特定されていない点
4.本願発明1が、(加熱発酵ショウガを)「有効成分として含有し、食事直後に経口摂取するように用いられることを特徴とする血中中性脂肪低減用組成物」であるのに対し、引用例発明は、(加熱発酵ショウガを得る)「方法」であってそのような特定が無い点

そこで、これら相違点のうち、まず、相違点4について検討する。

本願発明1について、「食後の血中中性脂肪濃度の上昇を抑制するには、食事直後に摂取することが好ましい。」(本願明細書段落【0032】参照)と説明されていること、本願明細書において、血中中性脂肪濃度の評価が、食事後60分から360分後のまでの血中脂肪値を測定し、中性脂肪の上昇抑制を確認していること(段落0039、0040、図1)に鑑みれば、本願発明1の「血中中性脂肪低減用」とは、食後の血中中性脂肪の低減を意味するものと解するのが相当である。

一方、引用例発明を開示する引用文献2には、血中中性脂肪低減用についての言及はないが、6-ショウガオール(ショウガオール類)が、アディポネクチン発現量を上昇させる作用を有する旨が特許文献3(注:上記引用文献A)に記載されていると指摘されている(摘示(2-ii)の段落【0006】の後半を参照)ところ、引用する特許文献3即ち上記引用文献Aの記載からみて妥当な指摘であると認められる。
しかし、前記引用文献A記載のアディポネクチン発現量の上昇は、マウス由来前駆脂肪細胞株に対して培地として6-ショウガオールを用いて、1時間+15時間培養した実験において確認されたものであり(摘示(A-iv)参照)、食事直後から測定される血中における場合を検討したものではないから、引用文献Aは、食事直後からのアディポネクチン発現量を上昇させることを記載も示唆もしない。
また、アディポネクチンに関し引用された引用文献3?5を検討すると、前記1(1)で摘示したように、引用文献3(注:前記特許文献3ではない)には、特定割合の脂質組成物が、アディポネクチン上昇作用を有し、肥満に起因する疾患である高脂血症の予防若しくは改善に有効であることが記載され、引用文献4には、エルゴステロールを含む酵母等を含むアディポネクチン分泌促進剤が中性脂肪の減少を伴うことが記載され、また、引用文献5には、ドコサヘキサエン酸又はその誘導体を有効成分として含むアディポネクチン上昇剤によって、血中の中性脂肪の低下があることが記載されている。
しかし、上記文献はいずれも、ショウガとは異なる特定物質についてのアディポネクチンの上昇と、高脂血症の予防若しくは改善作用、あるいは中性脂肪の低減作用との関連について説明するにすぎず、アディポネクチンの上昇作用を有する物質であればその種類にかかわらず必ず中性脂肪の低減をもたらすとの技術常識を理解されるとまで認めることはできない。仮に、本願の原出願の出願日当時にそのような技術常識が存在していたといえるとしても、食事直後からのアディポネクチン発現量を上昇させることを意味するとか、食後の血中中性脂肪を低減しうることを直ちに意味するものではない。
そうすると、引用文献2に、引用例発明の富化されたショウガオールにアディポネクチンの発現量を上昇させるとの先行技術(引用文献A)の示唆があり、引用文献3?5の記載を勘案して仮にアディポネクチンの発現により血中中性脂肪が低減するといえるとしても、加熱発酵ショウガを、食事直後に経口摂取するように用いられた場合に、食後の血中中性脂肪の低減をもたらすことを示唆しない。
また、前記1(1)で摘示したように、引用文献6には、ショウガの水抽出物含有コーンオイルのエマルジョンを投与(食事と同等と認められる)した場合に、コーンオイル単独投与に比べて、血中中性脂肪が低値を示したことが記載されている。しかし、ショウガの水抽出物は、原料ショウガを発酵液に浸漬し、加熱した加熱発酵ショウガ(またその抽出物)とはその製造工程が異なるものであり、該工程によって得られた両者の組成が同じであると推測すべき特段の理由はないから、本願発明1で特定する加熱発酵ショウガ(またその抽出物)に、食後の血中中性脂肪の低減が期待されるとまでは認めることはできない。

そうすると、引用文献A、3?6の記載事項を勘案しても、(引用例発明の方法で得られる)引用文献2記載の6-ショウガオールが富化した加熱発酵ショウガ(またはその抽出物)に、食後の血中中性脂肪低減作用を見出すことは、当業者にとって格別の創意工夫を要することなくなし得たものとはいえない。

よって、相違点1?3について検討するまでもなく、上記検討のとおり、相違点4についての本願発明1の発明特定事項が容易想到でないと認められることから、本願発明1は、引用文献A、2?6の記載事項を勘案しても、引用例発明に基いて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

したがって、本願発明1が、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであることを理由とする、請求項1についての原査定は維持することができない。

第5 請求項1に係る発明(本願発明1)についての記載不備
(1)拒絶理由と拒絶査定の理由の概略
平成28年12月20日付けの拒絶理由通知書に記載した理由3(実施可能要件)、理由4(サポート要件)として、補正前の請求項1(?5)について、概略次のように指摘されている。
ショウガの形態、発酵時間、発酵に供する微生物、加熱温度、加熱時間、触媒の有無などは何ら規定されていないが、本願明細書には、「酒粕と水とを重量比1:9で混合して得られた発酵液中にショウガを浸漬して1日保持して発酵ショウガを得、これを蒸し器で50時間かけて30℃から78℃に温度を上昇させ、78℃を維持したまま湿度70%で300時間蒸しこんで得られた加熱発酵ショウガ」(当審注:実施例相当)が記載されているのみであるところ、血中中性脂肪低減作用について、出願人は、本願の原出願である特願2013-83270号の審査段階において「本願発明の血中中性脂肪低減用組成物は、特に6-ショウガオールが富化した加熱発酵ショウガを有効成分として含有するため、食事直後の経口摂取により、血中の中性脂肪の上昇を抑制するという特徴的な効果が認められる。」と主張している(平成26年10月29日付意見書)、つまり出願人によれば、本願発明の血中中性脂肪低減作用は、加熱発酵ショウガにおいてショウガオールが富化されていることによるものである。
しかし、引用文献7には、「生姜を細粒化して発酵・培養させて1次発酵生姜汁を生成する種菌培養工程と、この1次発酵生姜汁を種菌として用いて発酵・培養させ、2次発酵生姜汁を生成する本培養工程と」から構成された発酵生姜汁の製造方法が記載されている。同文献には、この方法によれば「通常の発酵・培養に比べ強力に発酵・培養できる。従って、従来、十分低減できなかった生姜特有の苦味や辛味成分であるジンゲロールやショーガオールを強力に分解低減し、同時に生姜本来の香りを増強することができる。」と記載されている(引用文献7の〔0019〕)。従って、ショウガオールそれ自体も、その原料であるジンゲロールも、「強力な発酵・培養」により「強力に分解低減」されるものである。このような「強力な発酵・培養」を経た場合、ショウガオールが富化され得ないことは明らかである。また引用文献8には120℃の乾熱又は電子レンジ加熱によるとショーガオールを富化できないことが記載されている(引用文献8の〔0031〕の表1における比較例2及び3)。かつ、引用文献9には、「150℃という温度で加熱することにより、生成した6-ショウガオールが分解、もしくは別の化合物に更に変換された」と記載されている(引用文献9の段落0054の比較例5)。さらに、引用文献10には、ショウガエキスのpH(20℃)が3?4.3である場合、加熱により、6-ショウガオールの水付加反応が進行して6-ジンゲロールを与えることが記載されている(引用文献10の段落0012)。
このように、ショウガオールの生成及びその維持は、発酵時の培養条件、加熱温度、加熱時の湿度や加熱方法、pH条件等に大きく依存することは、本願の原出願の出願日当時の技術常識であったことが明らかである。
そうすると、本願明細書に記載された、「酒粕と水とを重量比1:9で混合して得られた発酵液中にショウガを浸漬して1日保持して発酵ショウガを得、これを蒸し器で50時間かけて30℃から78℃に温度を上昇させ、78℃を維持したまま湿度70%で300時間蒸しこんで得られた」場合以外に、ショーガオールが富化されて本願発明の血中中性脂肪低減効果が奏されるとは、当業者は理解しえない。

そして、拒絶査定の理由において、補正後の請求項1についても、同様の指摘を行い、記載不備が解消していないとしている。

(2)当審の判断
上記記載不備の指摘は、本願請求項1には、ショウガオールの富化を実現できない場合が包含されているとの趣旨と認められる。
しかし、引用文献8や引用文献9で採用されている温度条件(120℃,150℃)は、本願発明1の範囲外の温度範囲であるし、また、引用文献8の電子レンジによる処理(30分)については、本願発明1で特定する条件(例えば、120時間もの時間)で電子レンジを使用することはおよそ現実的ではないし、また、本願発明1の実施例において、電子レンジに採用されているマイクロ波ではなく、遠赤外線(電磁波)の熱源が用いられていることに鑑みれば、電子レンジは本願発明1で意図されているとは考えがたい。
また、引用文献7には、生姜特有の苦味や辛味を抑制し、同時に生姜本来の香りを増強できる発酵生姜汁の製造方法の開発を目的として(段落0010)、生姜特有の苦味や辛味成分であるジンゲロールやショーガオールを強力に分解低減することによって該目的を達成できることが記載されており(段落0019)、引用文献7に記載されている技術は、ショウガオールを富化する本願発明1とは、その目的、手段の点で異なるものであるから、引用文献7で採用されている技術的手段が本願発明1において採用される余地はないと理解するのが妥当であると認める。そして、引用文献10には、ショウガエキスのpH(20℃、以下、同様である)が3?4.3である場合、6-ジンゲロール(1)と6-ショウガオール(2)の平衡は加熱により左側に偏り、6-ショウガオールの水付加反応が進行して6-ジンゲロールを与え、他方pHが3未満又は4.3超の場合、スキーム1に示す平衡は加熱により右側に偏り、6-ジンゲロールの脱水反応が進行して6-ショウガオールを与えることが記載されている(段落0012)から、ショウガオールの富化を行うことを意図した当業者が該記載に接したならば、ジンゲロール側に平衡が傾くことが予測されるpHを選択することはおよそ考えがたいといえるし、また、本願発明1の工程において必然的にそのようなpHになると解すべき理由も見いだせない。
以上のとおり、引用文献7?10の摘示記載を検討しても、本願発明1にショウガオールの富化ができない場合が包含されているとはいえない。

そして、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明1の実施の態様である加熱発酵ショウガを食事直後に摂取すると、食後の血中中性脂肪が低減されることが記載されており(実施例、図2参照)、上記検討のとおり、ショウガオールの富化し得ない場合が本願発明1に包含されているといえないのであるから、本願発明1は、その全体にわたり血中中性脂肪低減効果を奏するものであることを当業者が認識できるように本願明細書に記載されているし、また、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであると認められる。

したがって、本願発明1が、特許法第36条第4項第1号又は同条第6項第1号に規定する要件を満たしていないことを理由とする、請求項1についての原査定は維持することができない。

第6 請求項2に係る発明(本願発明2)について
本願発明2は、本願発明1を引用するものであり、本願発明1と同一の発明特定事項を備えるものであるから、(1)本願発明1の場合と同じ理由により、引用文献A、3?6に記載された技術的事項を勘案しても、当業者が、引用例発明(引用文献2に記載の発明)に基いて容易に発明できたものとはいえないし、また、(2)理由3、4の記載不備についても上記と同様に判断される。

第7 むすび
以上のとおり、本願は、原査定の理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-09-13 
出願番号 特願2015-69414(P2015-69414)
審決分類 P 1 8・ 536- WY (A61K)
P 1 8・ 537- WY (A61K)
P 1 8・ 121- WY (A61K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鶴見 秀紀  
特許庁審判長 滝口 尚良
特許庁審判官 前田 佳与子
穴吹 智子
発明の名称 血中中性脂肪低減用組成物及び血中中性脂肪低減用機能性食品  
代理人 森 博  

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