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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12N
管理番号 1344487
審判番号 不服2016-13496  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-09-08 
確定日 2018-10-05 
事件の表示 特願2012- 44887「発酵及び培養方法、キノコ発酵エキス並びにキノコ発酵エキス配合物」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月12日出願公開、特開2013-179876〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯、本願発明
本願は、平成24年2月29日の出願であって、平成27年12月16日付け拒絶理由通知に対して、平成28年2月19日に意見書および手続補正書が提出され、同年6月2日に拒絶査定がなされたところ、同年9月8日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、平成29年5月23日付けで当審より拒絶理由が通知され、これに対して同年7月24日に意見書が提出された。
本願の請求項1?4に係る発明は、平成28年2月19日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載されたとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、請求項1に記載される以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】
キノコをパントエア・アグロメランスによって発酵させて、同時に該パントエア・アグロメランスを培養することを特徴とする発酵及び培養方法。」


第2 当審の判断
1.引用例
(1)当審拒絶理由において引用された、特開2003-225068号公報(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1- ア)「【請求項1】 キノコ類に、麹菌、乳酸菌および酵母の群から選択された一種または複数種を接種して発酵させることを特徴とするキノコ類発酵食品の製造方法。」

(1-イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、キノコ類を発酵処理して、キノコ類が本来有する生理活性作用、例えば免疫賦活作用、抗癌作用、抗酸化作用などを増加させると共に高齢者にも消化吸収を良くし、さらには食味を改善し、発酵菌である麹菌類の生育をコントロールし、胞子形成を抑制することにより、麹菌特有の胞子の色、例えば、黒色に着色しないように食品として視覚的に食欲を阻害することのないキノコ類発酵食品の製造方法、キノコ類発酵食品、およびそれを添加した食品に関する。」

(2)当審拒絶理由において引用された、国際公開第2005/030938号(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。
(2-ア)「請求の範囲
[I] 食用植物に由来する素材を専ら植物に共生する通性嫌気性グラム陰性菌によって発酵させて、同時に該通性嫌気性グラム陰性菌を培養することを特徴とする発酵及び培養方法。
[2] 前記素材は、専ら食用に供されるものであることを特徴とする請求項1記載の発酵及び培養方法。
[3] 炭素源として澱粉を発酵させることを特徴とする請求項1又は2記載の発酵及び培養方法。
[4] 前記通性嫌気性グラム陰性菌が桿菌であることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の発酵及び培養方法。
[5] 前記通性嫌気性桿菌が腸内細菌科に属するものであることを特徴とする請求項4記載の発酵及び培養方法。
[6] 前記通性嫌気性桿菌がパントエア属、セラチア属、又はエンテロバクター属に属するものであることを特徴とする請求項4記載の発酵及び培養方法。
[7] 前記通性嫌気性桿菌がパントエア・アグロメランスであることを特徴とする請求項4記載の発酵及び培養方法。
[8] 前記食用植物が穀物、海草、若しくは豆類、又はこれらの混合物であることを特徴とする請求項1乃至7いずれかに記載の発酵及び培養方法。
[9] 前記穀物に由来する素材が小麦粉、米粉、小麦ふすま粉、米ぬか、又は酒かすであることを特徴とする請求項8記載の発酵及び培養方法。
[10] 前記海草に由来する素材がわかめ粉、めかぶ粉、又は昆布粉であることを特徴とする請求項8記載の発酵及び培養方法。
[11] 前記豆類に由来する素材がおからであることを特徴とする請求項8記載の発酵及び培養方法。
[12] 請求項1乃至11いずれかに記載の発酵及び培養方法で得られることを特徴とする植物発酵エキス。
[13] 請求項12記載の植物発酵エキスから得られることを特徴とする植物発酵エキス末。
[14] 請求項12記載の植物発酵エキス又は請求項13記載の植物発酵エキス末が配合されていることを特徴とする植物発酵エキス配合物。
[15] 前記植物発酵エキス配合物が医薬品、動物用医薬品、医薬部外品、化粧品、食品、機能性食品、飼料、又は浴用剤であることを特徴とする請求項14記載の植物発酵エキス配合物。
[16] 以下の理化学的性質を示すことを特徴とする請求項12記載の植物発酵エキス。
ポリミキシンB存在下でもマクロファージ活性化能を示す。
[17] 免疫賦活活性を持つことを特徴とする請求項12又は16記載の植物発酵エキス。」

(2-イ)「背景技術
[0002] ヒトを含む哺乳動物(具体的には家畜、愛玩動物など)、鳥類(具体的には養鶏、愛 玩鳥類など)、両生類、は虫類、魚類(具体的には、水産養殖魚、愛玩魚類など)、無脊椎動物に関して、感染防除技術を含む疾病予防・治療法を確立することは喫緊の課題である。しかもこれを達成する上では、化学物質を用いず、環境汚染がなく、耐性菌を生ずることなく、人体に蓄積性がない方法が強く求められている。本発明者らは如上の課題に関して、すでに小麦水抽出物等の植物由来の免疫賦活物質が疾病予防・治療効果を安全に達成することを発見した(特許文献1、非特許文献1)。また、以上の目的を達成するために小麦共生細菌であるパントエア・アグロメランス(Pantoea agglomerans)から得た低分子量リポ多糖を用いることができることを発見した。(非特許文献2)。一方、近年の研究により、リポ多糖以外の種々の物質が免疫賦活効果を示すことが明らかにされ、これら複数の免疫賦活物質を含む天然物素材が注目されている。
[0003] ところで、微生物を用いた発酵技術は食品分野のみならず、広い分野で汎用されている。例えばワインをはじめとする酒類の製造、醤油や味噌の製造、チーズなど発酵乳製品の製造、医薬品の製造など極めて広い分野に及んでいる。これら発酵に用いられる微生物は広範に及んでおり、麹(真菌)酵母、乳酸菌などが代表的なものであるが、グラム陰性菌を用いるものは殆ど報告されてこなかった。一般に発酵とは有機物が微生物の作用によって分解的に作用する現象であり、広義には微生物による有用な物質の生産を意味する(非特許文献 3)。微生物を用いた発酵技術としては代表的なものとしてワインがあげられる。ワインはぶどう果皮に付着しているワイン酵母を用いた発酵技術であり、生産物はアルコールである。また、微生物を用いる発酵技術の中にあって、グラム陰性菌を用いたものとしては、メタン菌を用いたメタン発酵、酢酸菌を用いた酢酸発酵、ザイモモナス・モビリス(Zymomonas mobilis)を用いた竜舌蘭の根茎からのエタノール発酵(テキーラ製造)等が知られているが、食用植物を素材として、その植物に専ら共生することを特徴とする微生物を用いる発酵培養はほとんど知られておらず、発酵生産物として免疫賦活物質が注目されたことはない。いわんや免疫賦活物質生産を目的とした発酵及び培養法が注目されたことはない。
[0004] 一方微生物により発酵を行う場合には一般的には微生物が生育するための発酵基質が満たすべき栄養条件がある。すなわち炭素源としてはブドウ糖、果糖などの単糖類を十分に含むことなど微生物が栄養素として利用可能な物質の存在が必須である。このためにもともと果糖を多く含むブドウのような果実のように、なんら加工を加えることなく発酵基質として利用できる場合のほかは、加熱あるいは酵素処理を加えるなどして、微生物による発酵の前段階の処理が必要となる。例えば前述のザイモモナス・モビリス(Zymomonasu mobilis)はテキーラ製造に用いられる微生物であるが、この場合には、食用植物ではない竜舌蘭の根茎から得られた多糖類を加熱して発酵性の単糖に分解し、その後該微生物により発酵して発酵産物としてのアルコールを得る。従って通常の微生物を用いて発酵培養を行う場合には、澱粉などの多糖類は発酵基質として適切といえるものではない。例えばパントエア・アグロメランス (Pantoea agglomerans)に関しては澱粉を分解できないと記載する文献がある(非特許文献4)。」

(2-ウ)「[0006] ・・・・さらに、我々はパントエア・アグロメランスには免疫を賦活化する有効な成分が含まれていることをこれまでに明らかにしてきた。また、この菌から得た低分子量リポ多糖はヒトやマウスの諸疾患 (糖尿病、高脂質血症、アトピー性皮膚炎、がん)等の予防効果があること、魚類や甲殻類、トリの感染予防に有効であることを見いだしている(特許文献3、非特許文献2)。
[0007] この様な状況で我々は、安全かつ安価な免疫賦活物質を製造する方法として、パントエア・アグロメランスを用いた植物発酵エキスの製造方法を確立することを着想した。」

(3)当審拒絶理由において引用された、特開2002-335907号公報(以下、「引用例3」という。)には、以下の事項が記載されている。
「【0002】
【従来の技術】一般的に、キノコは脂肪成分が少なく、糖質または蛋白質が豊富な食品材料である。キノコに含まれている糖質はトレハロース、マンニトール、アラビノース等の人の腸管に吸収利用されにくい低分子糖と共に多糖類、即ち不消化性の所謂食品繊維が主体である。従って、食品分析による計算値より非常に低いカロリー素材であると言える。更に、熱により乾燥されればビタミンD_(2)に変わるエルゴステリン、カルシウムを普遍的に100?800mgぐらい含有している。他に、ビタミンB_(1)、B_(2)、ナイアシンを含有しており、ビタミンAやCは殆ど含有していない。ミネラルとしてはNaに比べてKを非常に多く含有しており、その次にP、Ca、Fe等の順である。また、キノコの香味成分は核酸物質が主体になり、グルタミン酸、琥珀酸、林檎酸、及び尿糖等の組合せによりなる。従って、キノコは食品学的立場からはカロリー中心の食品でなく、香、味、組織感のある特殊嗜好性を有した生理調節の機能性食品であると言える。」

2.引用発明
上記1.(1)(1- ア)より、引用例1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「キノコ類に、麹菌、乳酸菌および酵母の群から選択された一種または複数種を接種して発酵させることを特徴とするキノコ類発酵食品の製造方法。」

3.対比
本願発明と引用発明を対比する。
引用発明において、キノコ類に、麹菌、乳酸菌および酵母の群から選択された一種または複数種の微生物を接種して、キノコ類を該微生物によって発酵させることは、同時に該微生物を培養することに他ならないから、引用発明の「キノコ類に、麹菌、乳酸菌および酵母の群から選択された一種または複数種を接種して発酵させること」は、本願発明の「キノコをパントエア・アグロメランスによって発酵させて、同時に該パントエア・アグロメランスを培養すること」と、“キノコを微生物によって発酵させて、同時に該微生物を培養すること”である点で共通すると認められる。
したがって、両者は、
「キノコを微生物によって発酵させて、同時に該微生物を培養することを特徴とする発酵及び培養方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
微生物が、本願発明では「パントエア・アグロメランス」であるのに対して、引用発明では「麹菌、乳酸菌および酵母の群から選択された一種または複数種」である点。

4.当審の判断
引用例2には、食用植物に由来する素材を「パントエア・アグロメランス」によって発酵させて、同時に「パントエア・アグロメランス」を培養する発酵技術が記載されていると認められる(2-ア)。
また、引用例2の「背景技術」の項には、食品素材を麹菌、乳酸菌、酵母により発酵することが代表的な従来の技術として示され、引用例2では、食品素材を発酵させる新たな技術であり、しかも、発酵生産物が「パントエア・アグロメランス」に由来する免疫賦活物質を含有する新たな技術として「パントエア・アグロメランス」による発酵技術を提供したことが記載されていると認められる(2-イ)。
そして、引用例2(2-イ、[0004])に記載されるように、微生物により発酵を行う場合、一般的に、微生物が生育するための発酵基質が満たすべき栄養条件があるところ、引用例2(2-ア、請求項3)には「パントエア・アグロメランス」が炭素源として澱粉を発酵させることが記載されているから、「パントエア・アグロメランス」は、食品素材が有する澱粉のような糖質を発酵基質とするものと認められる。
つまり、当業者であれば、引用例2の記載から、麹菌、乳酸菌、酵母を用いる従来の技術で発酵させていた糖質を含む食品素材は、「パントエア・アグロメランス」を用いて発酵させることができることを理解するといえる。
一方、引用発明は、キノコという食品素材を麹菌、乳酸菌、酵母により発酵するものであるから、引用発明における発酵技術は、引用例2に示される従来の技術に該当するものである。
そして、引用例3には、キノコが糖質や蛋白質を含む食品素材であることが記載されており、引用発明において、キノコは麹菌、乳酸菌、酵母のような微生物によって発酵されているから、キノコは麹菌、乳酸菌、酵母がその生育に利用できる糖質や蛋白質などの栄養成分を含有していると認められる。
なお、キノコが糖質を含有することは、審判請求人が平成29年7月24日付け意見書で示した「きのこ類の糖質一覧表」にも記載されている。
そうすると、免疫賦活物質を含有する発酵生産物を得る目的で、引用発明において、従来の技術に相当する「麹菌、乳酸菌および酵母の群から選択された一種または複数種」による発酵に代えて、引用例2に記載される「パントエア・アグロメランス」により発酵することは、当業者が容易になし得ることである。
そして、本願明細書の【実施例1】には、キノコを「パントエア・アグロメランス」により発酵できたことは記載されていると認められるものの、キノコ発酵エキスの作用効果については、段落【0010】に一般的な記載がなされるに止まり、具体的な作用効果に関するデータ等は示されていない。一方、引用例1(1-イ)に記載されるように、キノコ類は免疫賦活作用を有すことが知られており、引用例2には「パントエア・アグロメランス」が免疫を賦活化する有効な成分を含み、マクロファージ活性化能を示すことも記載されている(2-ア)から、本願発明において、引用例1?3の記載から予測できない効果が奏されたとは認められない。

5.審判請求人の主張について
審判請求人は、平成29年7月24日付け意見書において、概ね以下の点を主張している。
(1)本願発明は、「本キノコ抽出物はマクロファージ活性化による、感染症予防、抗アレルギー、抗がん、生活習慣病予防、鎮痛、睡眠導入などの健康を維持する作用が誘導出来ると考えられる。ヒト以外にも、ペット、家畜、水産動物にも応用可能である。」(段落0010参照)という作用効果を奏すること。
(2)麹菌、乳酸菌、酵母は、パントエア・アグロメランスとの類似性はなく、キノコは菌類であって植物とは種も生態も全く異なり、キノコが含有する糖質は少ないから、引用例2の方法を引用例1のキノコの発酵に適用しないこと。
(3)発酵菌であってもキノコを発酵させない菌があること。

(1)について
上記4.のとおり、本願発明が引用例1?3の記載から予測できない作用効果を奏するとは認められない。

(2)について
上記4.のとおり、当業者は、糖質や蛋白質のような栄養を含む食品素材であるキノコに「パントエア・アグロメランス」による発酵技術を適用できることを理解するといえる。
また、引用例2の実施例には、食用植物に由来する素材として「小麦」、「おから」、「米粉」、「わかめめかぶ」を用い、これらに「パントエア・アグロメランス」発酵技術を適用したことが記載されており、「小麦」などと比較して「わかめめかぶ」はそれほど多くの糖質を含有するとはいえないが、「わかめめかぶ」のように、比較的少ない糖質を含有する食品素材であっても発酵エキスが得られる例が示されていることから、キノコが含有する糖質が少ないとしても、キノコの発酵に「パントエア・アグロメランス」による発酵技術を適用することが妨げられるとはいえない。

(3)について
パントエア・アグロメランスは、乳酸菌、酵母、麹菌と同様に、糖質を栄養源として発酵する菌であると認められる。
一方、審判請求人が挙げた、キノコを発酵させない菌は、水素と二酸化炭素を資化してメタンを生成するメタン菌等であると認められるから、これらの菌がキノコを発酵させないとしても、上記4.の判断に影響を与えるものではない。

6.小活
よって、本願発明は、引用例1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


第3 むすび
以上のとおり、この出願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-08-04 
結審通知日 2017-08-09 
審決日 2017-08-23 
出願番号 特願2012-44887(P2012-44887)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鳥居 敬司小金井 悟田ノ上 拓自  
特許庁審判長 大宅 郁治
特許庁審判官 山本 匡子
中島 庸子
発明の名称 発酵及び培養方法、キノコ発酵エキス並びにキノコ発酵エキス配合物  
代理人 中村 和男  
代理人 中村 和男  

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