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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K |
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管理番号 | 1344503 |
審判番号 | 不服2016-3571 |
総通号数 | 227 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-11-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-03-08 |
確定日 | 2018-10-09 |
事件の表示 | 特願2011-174242「保湿剤」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 2月21日出願公開、特開2013- 35791〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 主な手続の経緯 本願は、平成23年8月9日の出願であって、平成27年6月2日付けで拒絶理由が通知され、同年8月5日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲が補正され、平成28年1月5日付けで拒絶査定がされたところ、これに対して、平成28年3月8日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 第2 本願発明について 本願の請求項1?3に係る発明は、平成27年8月5日付けの手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載されている事項により特定されるとおりのものであると認められ、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。 「(a)藻類ボトリオコッカスブラウニー RaceBから抽出される炭化水素成分、及び/又は(b)前記(a)成分における2重結合部分に水素添加した成分を含む保湿剤。」 第3 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、要するに、本願の出願日前に頒布された刊行物である下記引用文献4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。 引用文献4:特開2010-252700号公報 第4 合議体の認定・判断 1.引用文献の記載事項 引用文献4には、以下の事項(4-1)?(4-3)が記載されている。(なお、下線は当審による。) (4-1)「【請求項1】 微細藻類ボトリオコッカスの増殖を促進する作用を奏するアスティカカウリス・エキセントリカス菌株。 【請求項2】 受託番号がNITE AP-704であるアスティカカウリス・エキセントリカス菌株。 【請求項3】 請求項1又は2に記載のアスティカカウリス・エキセントリカス菌株を、微細藻類ボトリオコッカスに添加することを特徴とする、微細藻類ボトリオコッカスの培養方法。 【請求項4】 請求項3に記載の培養方法で培養された微細藻類ボトリオコッカスから炭化水素を取り出すことを特徴とする炭化水素の製造方法。」(特許請求の範囲参照) (4-2)「(4)請求項4に係る発明の炭化水素の製造方法は、請求項3に記載の培養方法によって効率良く培養されたボトリオコッカスを使用できるので、炭化水素を効率よく製造することができる。 本発明で製造した炭化水素は、例えば、石油の代替として使用でき、窒素、硫黄含有量が少ないため、燃焼による環境への負荷が少ない。また、本発明で製造した炭化水素は、純度が高いため、例えば、潤滑油、溶剤、化粧品、医療品等として好適である。」(【0012】段落第6?11行参照) (4-3)「【0024】 3.ボトリオコッカスの培養方法 (1)菌株A44を、ボトリオコッカスの株の1種であるBOT144株(無菌)に接種し、培養液を入れたフラスコ内で、フラスコ培養を行った。培養条件は、以下のとおりとした。 【0025】 ・・・ 【0026】 所定期間の培養が終了した後、以下のようにしてボトリオコッカスから炭化水素を取り出した。まず、培養液を凍結乾燥し、その乾燥重量を測定した。これにヘキサンを加え、30分間静置した。その後、超音波をかけて炭化水素をヘキサン中に抽出し、そのヘキサン層をあらかじめ重量を測定した試験管に移した。残渣には再度ヘキサンを加え、上と同様にヘキサンを抽出し、ヘキサン層を上と同じ試験管に加えた。この操作を、残渣に加えたヘキサン層が、超音波をかけた後でも透明となるまで繰り返した。その後、遠心エバポレーターを用いて試験管内のヘキサンを除去し、残った炭化水素の重量を測定した。 【0027】 ・・・ 【0028】 また、炭化水素の量については、培養期間が最大の33日間であるとき、菌株A44を接種した場合の方が、菌株A44を接種しない場合よりも、30%も増加していた。・・・」 2.引用発明の認定 上記記載事項(4-1)及び(4-3)によれば、引用文献4には、「微細藻類ボトリオコッカスから炭化水素を取り出すことを特徴とする炭化水素の製造方法」の発明(請求項4参照)が記載されており、その具体的態様として、「ボトリオコッカスの株の1種であるBOT144株」を培養し、その培養物から「ヘキサン抽出」によって炭化水素を取り出す方法が記載されている(【0024】、【0026】段落参照)。さらに、上記記載事項(4-2)によれば、このように製造した炭化水素が、化粧料として好適であることが記載されている。 そうすると、引用文献4には、「ボトリオコッカスの株の1種であるBOT144株から抽出した炭化水素を含む化粧料」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 3.対比 本願発明と引用発明とを対比すると、両者は次の点で一致し、次の点で相違すると認められる。 <一致点> 「藻類ボトリオコッカスから抽出される炭化水素成分を含む組成物」 <相違点> 相違点1: 藻類ボトリオコッカスについて、本願発明においては「ボトリオコッカスブラウニー RaceB」と特定するのに対し、引用発明は「BOT144株」である点。 相違点2: 藻類ボトリオコッカスから抽出される炭化水素成分を含む組成物について、本願発明においては「保湿剤」と特定するのに対し、引用発明では「化粧料」と特定する点。 4.相違点についての判断 (1)相違点1について 以下の参考文献1には、「Botryococcus braunii Bot-144 (race B)」(Abstractの2行目参照)と記載されており、この記載によれば、引用発明のBOT144株は、ボトリオコッカスブラウニーのRaceBに該当する。 したがって、相違点1は実質的な相違点であるとはいえない。 参考文献1:Bioresource Technology, Available online on 2011.05.27, Vol 109, p.266-70 (2)相違点2について 以下の参考文献2には、「炭化水素には、・・・皮膚に疎水性の被膜を形成して水分の蒸散を防ぐなどの特徴がある」(第24頁左欄第25?27行参照)とあり、この記載からも示されるように、化粧料に配合される炭化水素が、皮膚からの水分の蒸散の防止効果、すなわち保湿効果を有することは、本願出願時の技術常識であったものと認められる。 さらに、スクワレンやスクワランは化粧料に配合される保湿成分として慣用の成分であるところ、ボトリオコッカスブラウニー RaceBが産生する炭化水素であるボトリオコッセンが、スクアレンと類似の化学構造を有していることもまた、本願出願時によく知られた事項である(例えば、参考文献3第5頁第9?15行、参考文献4第32458頁右欄第26?28行及びFig.1A参照)。 そうすると、BOT144株(ボトリオコッカスブラウニー RaceB)から抽出した炭化水素(ボトリオコッセン)を含むものである引用発明において、スクワレンやスクワランと同等程度の保湿効果を期待しつつ、当該炭化水素(ボトリオコッセン)の機能として保湿剤を想到することは、当業者が容易になし得た事項と認められる。 参考文献2:関根茂他編,3.炭化水素,新化粧品ハンドブック,日光ケミカルズ株式会社,2006年10月30日,p.24-27 参考文献3:国際公開第2009/071629号 参考文献4:J.Biol.Chem.,2010年10月15日,Vol.285, No.42,p.32458-32466 5.効果についての判断 本願明細書においては、本願発明の保湿剤による効果として、スクワランと同等以上の保湿効果を有すること(表2、3等参照)、及び安全性が高いこと(表4、表5等参照)、が示されている。 しかしながら、上述のとおり(4.(2)参照)、引用発明において、スクワレンやスクワランと同等程度の保湿効果を期待しつつ、BOT144株から抽出した炭化水素(ボトリオコッセン)の機能として保湿剤を想到することは、当業者が容易になし得た事項と認められる。 そうすると、スクワランと同等程度の保湿効果を有することや、スクワランと同等程度の安全性を有することは、当業者が当然に期待する事項であり、本願明細書に示された上記効果が、引用文献4及び出願時の技術水準から予測し難い格別な効果であるとは認められない。 6.小括 上記のとおり、本願発明は、引用文献4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明は、本願の出願日前に頒布された刊行物である引用文献4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 そうすると、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-05-10 |
結審通知日 | 2017-05-16 |
審決日 | 2017-06-01 |
出願番号 | 特願2011-174242(P2011-174242) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A61K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 松本 直子 |
特許庁審判長 |
須藤 康洋 |
特許庁審判官 |
安川 聡 関 美祝 |
発明の名称 | 保湿剤 |
代理人 | 名古屋国際特許業務法人 |
代理人 | 名古屋国際特許業務法人 |
代理人 | 名古屋国際特許業務法人 |