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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H02M
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H02M
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 H02M
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 H02M
管理番号 1344678
審判番号 不服2017-9207  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-06-23 
確定日 2018-10-05 
事件の表示 特願2016-563710「高周波電源」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 6月16日国際公開、WO2016/093269〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成27年12月9日(優先権主張 平成26年12月12日)に国際出願されたものであって、平成28年12月5日付け拒絶理由通知に対して平成29年2月7日付けで手続補正がなされたが、同年3月23日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、同年6月23日付けで拒絶査定不服審判の請求が請求されるとともに手続補正がなされたものである。


第2 平成29年6月23日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成29年6月23日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.本件補正
平成29年6月23日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲及び明細書についてするもので、
本件補正前の特許請求の範囲(平成29年2月7日付け手続補正により補正された特許請求の範囲)が、
「【請求項1】
相互の位相差が変更可能な複数の高周波を生成する高周波生成手段と、
前記高周波生成手段に、直流電圧を供給する電圧供給手段と、
前記高周波生成手段から出力される複数の高周波を、前記位相差に基づく所定の割合で合成して負荷に出力する高周波合成手段と、
前記高周波生成手段に対して、前記位相差を変化させることで、前記高周波合成手段より出力される高周波電力を制御する出力制御手段と、
を備えた高周波電源であって、
前記出力制御手段は、
前記電圧供給手段から前記高周波生成手段に供給される直流電圧が一定値のときに、前記高周波合成手段より出力される高周波電力を所望の波形にするように、前記位相差を変化させる、
ことを特徴とする高周波電源。
【請求項2】
前記出力制御手段は、前記位相差を第1の所定値または第2の所定値のいずれかに切り替える、
請求項1に記載の高周波電源。
【請求項3】
前記位相差を前記第1の所定値とした場合の方が、前記位相差を前記第2の所定値とした場合より、前記所定の割合が大きくなる、
請求項2に記載の高周波電源。
【請求項4】
前記第1の所定値は0[deg]以上90[deg]未満であり、
前記第2の所定値は90[deg]以上180[deg]以下ある、
請求項3に記載の高周波電源。
【請求項5】
前記第1の所定値は0[deg]である、
請求項4に記載の高周波電源。
【請求項6】
前記第2の所定値は180[deg]である、
請求項4または5に記載の高周波電源。
【請求項7】
前記出力制御手段は、前記第1の所定値または前記第2の所定値を変化させることで、前記高周波電力のフィードバック制御を行う、
請求項2ないし4のいずれかに記載の高周波電源。
【請求項8】
前記高周波生成手段は、第1の高周波と第2の高周波とを生成し、
前記出力制御手段は、前記第1の高周波に対する前記第2の高周波の位相差を第1の所定値と第2の所定値との間で切り替える、
請求項2ないし7のいずれかに記載の高周波電源。
【請求項9】
前記出力制御手段は、前記位相差を第1の所定値、第2の所定値および第3の所定値の間で切り替える、
請求項1に記載の高周波電源。
【請求項10】
前記出力制御手段は、前記位相差を一次関数に応じて変化させる、
請求項1に記載の高周波電源。
【請求項11】
前記出力制御手段は、前記位相差を下記式に応じて変化させる、
請求項1に記載の高周波電源。
θ=2・cos^(-1)(√x(t))
ただし、θが前記位相差であり、x(t)は所望の波形を示す関数である。
【請求項12】
前記出力制御手段は、前記位相差を第1の所定値と、所定の関数の値との間で切り替える、請求項1に記載の高周波電源。
【請求項13】
前記出力制御手段は、前記負荷への出力開始時に、前記位相差を、前記第1の所定値および第2の所定値とした場合の出力よりも大きい出力となる位相差とする、
請求項2に記載の高周波電源。
【請求項14】
前記出力制御手段は、前記所定の割合をゼロにしない、
請求項1?5、9?13のいずれかに記載の高周波電源。
【請求項15】
前記高周波合成手段は、
伝送トランスと電力消費用の抵抗を含むハイブリッド回路で構成され、前記複数の高周波に位相差がある場合、当該位相差に応じた電力を前記抵抗で熱消費し、残りの電力を出力する、
請求項1ないし14のいずれかに記載の高周波電源。」
であったところ、
本件補正により、
「【請求項1】
相互の位相差が変更可能な複数の高周波を生成する高周波信号生成手段と、
前記高周波信号生成手段が生成した前記複数の高周波をそれぞれ増幅する増幅手段と、
前記増幅手段に、直流電圧を供給する電圧供給手段と、
前記増幅手段から出力される増幅後の複数の高周波を、前記位相差に基づく所定の割合で合成して負荷に出力する高周波合成手段と、
前記高周波信号生成手段に対して、前記位相差を変化させることで、前記高周波合成手段より出力される高周波電力を制御する出力制御手段と、
を備えた高周波電源であって、
前記出力制御手段は、
前記電圧供給手段から前記増幅手段に供給される直流電圧が一定値のときに、前記高周波信号生成手段に前記複数の高周波を生成させたままで、前記高周波合成手段より出力される高周波電力を所望の波形にするように、前記位相差を変化させる、
ことを特徴とする高周波電源。
【請求項2】
前記高周波電源の出力電力を検出する電力検出手段をさらに備え、
前記出力制御手段は、前記位相差を変化させることで、前記電力検出手段によって検出された出力電力が目標電力になるように、フィードバック制御を行う、
請求項1に記載の高周波電源。
【請求項3】
前記出力制御手段は、前記位相差を第1の所定値または第2の所定値のいずれかに切り替える、
請求項1または2に記載の高周波電源。
【請求項4】
前記位相差を前記第1の所定値とした場合の方が、前記位相差を前記第2の所定値とした場合より、前記所定の割合が大きくなる、
請求項3に記載の高周波電源。
【請求項5】
前記第1の所定値は0[deg]以上90[deg]未満であり、
前記第2の所定値は90[deg]以上180[deg]以下ある、
請求項4に記載の高周波電源。
【請求項6】
前記第1の所定値は0[deg]である、
請求項5に記載の高周波電源。
【請求項7】
前記第2の所定値は180[deg]である、
請求項5または6に記載の高周波電源。
【請求項8】
前記高周波生成手段は、第1の高周波と第2の高周波とを生成し、
前記出力制御手段は、前記第1の高周波に対する前記第2の高周波の位相差を第1の所定値と第2の所定値との間で切り替える、
請求項3ないし7のいずれかに記載の高周波電源。
【請求項9】
前記出力制御手段は、前記位相差を第1の所定値、第2の所定値および第3の所定値のいずれかに切り替える、
請求項1または2に記載の高周波電源。
【請求項10】
前記出力制御手段は、前記位相差を一次関数に応じて変化させる、
請求項1または2に記載の高周波電源。
【請求項11】
前記出力制御手段は、前記位相差を下記式に応じて変化させる、
請求項1または2に記載の高周波電源。
θ=2・cos^(-1)(√x(t))
ただし、θが前記位相差であり、x(t)は所望の波形を示す関数である。
【請求項12】
前記出力制御手段は、前記位相差を第1の所定値と、所定の関数の値との間で切り替える、請求項1または2に記載の高周波電源。
【請求項13】
前記出力制御手段は、前記負荷への出力開始時に、前記位相差を、前記第1の所定値および第2の所定値とした場合の出力よりも大きい出力となる位相差とする、
請求項3に記載の高周波電源。
【請求項14】
前記出力制御手段は、前記所定の割合をゼロにしない、
請求項1?6、9?13のいずれかに記載の高周波電源。
【請求項15】
前記高周波合成手段は、
伝送トランスと電力消費用の抵抗を含むハイブリッド回路で構成され、前記複数の高周波に位相差がある場合、当該位相差に応じた電力を前記抵抗で熱消費し、残りの電力を出力する、
請求項1ないし14のいずれかに記載の高周波電源。」
と補正された。
なお、下線は補正箇所を示すものである。

2.補正の目的要件について
(1)本件補正の請求項1について
本件補正における請求項1の補正の目的は、以下のとおりのものと認められる。
a.本件補正前の請求項1に記載された「高周波生成手段」を、「高周波信号生成手段」と「増幅手段」とに分けて具体的に記載することで、限定するものである。よって、当該補正は、限定的限縮を目的としたものである。
b.本件補正前の請求項1に記載された「前記高周波合成手段より出力される高周波電力を所望の波形にするように、前記位相差を変化させる」ことについて、「前記高周波信号生成手段に前記複数の高周波を生成させたままで、」実行されるものであるという限定を付加するものである。よって、当該補正は、限定的限縮を目的としたものである。

(2)本件補正の請求項2について
本件補正における請求項2の補正は、審判請求人も審判請求書で「新請求項2は、新しく作成した請求項である」と認めているとおり、新たな請求項を生成するものであるから、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除、同項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮、同項第3号に掲げる誤記の訂正、及び同項第4号に掲げる拒絶の理由に示す事項についてする明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しないことは明らかである。

なお、審判請求人は、平成29年8月22日付け上申書において、「本件補正の請求項2(以下では、『新請求項2』とする)は、当該補正前(平成29年2月7日付けの手続補正)の請求項7(以下では、『旧請求項7』とする)において、『前記第1の所定値または前記第2の所定値を変化させる』としていたところ、『前記位相差を変化させる』に限定的に減縮して繰り上げたものである。また、『前記高周波電力のフィードバック制御を行う、』を明瞭な記載にするために、『前記電力検出手段によって検出された出力電力が目標電力になるように、フィードバック制御を行う、』に記載を変更した。したがって、新請求項2は、実質上一対一の対応関係に立つ旧請求項7の記載を限定的に減縮したものであるから、当該補正は、特許法第17条の2第5項第2号で定められた目的に該当する。よって、当該補正は、同法第17条の2第5項の規定に違反しない。」旨を主張している。
しかし、本件補正前の請求項7に記載された「前記第1の所定値」、「前記第2の所定値」は、本件補正前の請求項7に係る発明が引用する本件補正前の請求項2の「前記位相差を第1の所定値または第2の所定値のいずれかに切り替える」という記載における「第1の所定値」、「第2の所定値」を指すものであるから、「位相差」の下位概念にあたるものである。したがって、本件補正前の請求項7に記載された「前記第1の所定値または前記第2の所定値を変化させる」を、「前記位相差を変化させる」に変更する補正は、下位概念の「前記第1の所定値または前記第2の所定値」を上位概念の「位相差」に変更することになるため、限定的に減縮するものとは認められない。また、当該補正は、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除、同項第3号に掲げる誤記の訂正、及び同項第4号に掲げる拒絶の理由に示す事項についてする明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しない。
また、本件補正前の請求項7に記載された「前記高周波電力のフィードバック制御を行う」ことについて、拒絶の理由で明りょうでないことが示されているわけではないため、本件補正前の請求項7に記載された「前記高周波電力のフィードバック制御を行う、」を、「前記電力検出手段によって検出された出力電力が目標電力になるように、フィードバック制御を行う、」に変更する補正が、特許法第17条の2第5項第4号に掲げる拒絶の理由に示す事項についてする明りょうでない記載の釈明を目的とするものとは認められない。また、当該補正は、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除、同項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮、及び同項第3号に掲げる誤記の訂正のいずれを目的とするものにも該当しない。
さらに、本件補正前の請求項7に係る発明は本件補正前の請求項2ないし4に係る発明のいずれかを引用するものであり、本件補正前の請求項3に係る発明は本件補正前の請求項2に係る発明を引用するものであり、本件補正前の請求項4に係る発明は本件補正前の請求項3に係る発明を引用するものであるため、本件補正前の請求項7に係る発明は本件補正前の請求項2に記載された「前記位相差を第1の所定値または第2の所定値のいずれかに切り替える」事項を有するものであったところ、本件補正の請求項2に係る発明は、本件補正の請求項1に係る発明を引用するものであり、「前記位相差を第1の所定値または第2の所定値のいずれかに切り替える」事項が削除されている。そして、上記事項を削除する補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当せず、また、同項第1号に掲げる請求項の削除、同項第3号に掲げる誤記の訂正、及び同項第4号に掲げる拒絶の理由に示す事項についてする明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しないことは明らかである。
よって、審判請求人の上申書の上記主張を採用することはできない。

(3)本件補正の請求項3ないし15について
本件補正における請求項3ないし15に係る発明は、本件補正の請求項2に係る発明を直接又は間接的に引用するものを含むものであり、本件補正の請求項3ないし15に係る発明のうち、本件補正の請求項2に係る発明を直接又は間接的に引用するものについては、実質的に、本件補正の請求項2についての補正と同様の補正が行われていることになる。
したがって、本件補正の請求項3ないし15に係る発明のうち、本件補正の請求項2に係る発明を直接又は間接的に引用するものについての本件補正は、上記(2)で述べたのと同様に、特許法第17条の2第5項に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しない。

(4)小括
上記(2)及び上記(3)の検討より、本件補正における請求項2及び請求項3ないし15の補正は、特許法第17条の2第5項に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しないから、本件補正は同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.予備的見解(独立特許要件)
以上のとおり、本件補正は却下すべきものであるが、上記「2.(1)」で検討したとおり、本件補正における請求項1の補正は、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とする補正事項を含むものであるから、本件補正の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)否かについて、予備的に検討する。

(1)本願補正発明
本願補正発明は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
相互の位相差が変更可能な複数の高周波を生成する高周波信号生成手段と、
前記高周波信号生成手段が生成した前記複数の高周波をそれぞれ増幅する増幅手段と、
前記増幅手段に、直流電圧を供給する電圧供給手段と、
前記増幅手段から出力される増幅後の複数の高周波を、前記位相差に基づく所定の割合で合成して負荷に出力する高周波合成手段と、
前記高周波信号生成手段に対して、前記位相差を変化させることで、前記高周波合成手段より出力される高周波電力を制御する出力制御手段と、
を備えた高周波電源であって、
前記出力制御手段は、
前記電圧供給手段から前記増幅手段に供給される直流電圧が一定値のときに、前記高周波信号生成手段に前記複数の高周波を生成させたままで、前記高周波合成手段より出力される高周波電力を所望の波形にするように、前記位相差を変化させる、
ことを特徴とする高周波電源。」

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された特開2014-204501号公報には、「高周波電源」について、図面とともに以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付与した。

ア.「【0041】
本発明に係る高周波電源1は、高周波信号を生成し、その高周波信号をD級アンプからなるパワーアンプで増幅して出力する構成である。パワーアンプの電源電圧を変化させてパワーアンプの出力電圧のレベルを変化させる方法ではパルス出力開始時から数μsの間に出力電圧のレベルを漸増させる制御は困難であるから、本発明に係る高周波電源1では、2個のパワーアンプと両パワーアンプの出力電力を合成する電力合成回路を設け、その電力合成回路における合成動作を制御することによって負荷に出力される出力電圧v_(out)のレベルを制御するようにしている。
【0042】
高周波電源1は、AC-DC変換部2、DC-DC変換部3、DC-RF変換部4、RF合成部5、フィルタ回路6、PWM信号生成部7、高周波信号生成部8及び制御部9を含む構成である。DC-RF変換部4とRF合成部5を含む部分は負荷に高周波電力を出力する高周波生成部Uを構成している。DC-RF変換部4には同一構成の2つのDC-RF変換部4A,4Bが設けられ、第1のDC-RF変換部4Aから出力される電力P_(1)と第2のDC-RF変換部4Bから出力される電力P_(2)がRF合成部5で合成されて高周波電源1の出力端に接続される負荷(プラズマ処理装置。図示省略)に出力される。」

イ.「【0044】
DC-DC変換部3は、AC-DC変換部2から入力される直流電圧V_(cc)を任意の電圧値の直流電圧V_(dc)に変換してDC-RF変換部4に入力する回路ブロックである。DC-DC変換部3は、出力電圧V_(dc)を変化させることによりDC-RF変換部4内の第1,第2のDC-RF変換部4A,4Bからそれぞれ出力される電圧v_(P1),v_(P2)(電力P_(1),P_(2))を制御する機能を果たす。」

ウ.「【0050】
第1,第2のDC-RF変換部4A,4Bの各トランスT2の一次巻線に入力される高周波電圧v_(1),v_(2)は、高周波信号生成部8で生成される。高周波信号生成部8は、v_(1)=A・sin(2πf・t+φ_(1))、v_(2)=A・sin(2πf・t+φ_(2))で表わされる高周波電圧v_(1),v_(2)を生成する。高周波電圧v_(1)の初期位相φ_(1)はゼロに固定されており、高周波電圧v_(2)の初期位相φ_(2)は可変である。高周波信号生成部8は、制御部9から入力される位相差θ=φ_(2)-φ_(1)の情報に基づいて高周波電圧v_(2)の初期位相φ_(2)(=θ)を変化させる。位相差θの変化のさせ方については後述する。
【0051】
第1のDC-RF変換部4Aでは、高周波電圧v_(1)=A・sin(ω・t)がトランスT2の一次巻線に入力されると、トランスT2の一方の二次巻線から同相の高周波電圧v_(1)’=A’・sin(ω・t)が出力され、トランスT2の他方の二次巻線から逆相の高周波電圧-v_(1)’=-A’・sin(ω・t)が出力される。同相の高周波電圧v_(1)’は、一方の半導体スイッチ素子Q_(B)(図5では上側の半導体スイッチ素子Q_(B))に入力され、逆相の他方の高周波電圧-v_(1)’は、他方の半導体スイッチ素子Q_(B)(図5では下側の半導体スイッチ素子Q_(B))に入力される。2つの半導体スイッチ素子Q_(B)は、Nチャネル型MOSFETであるから、一方の半導体スイッチ素子Q_(B)は、高周波電圧v_(1)’のハイレベル期間にオン動作をし、他方の半導体スイッチ素子Q_(B)は、高周波電圧-v_(1)’のハイレベル期間にオン動作をする。すなわち、2つの半導体スイッチ素子Q_(B)は、高周波電圧v_(1)’の半周期毎に交互にオン・オフ動作を繰り返す。
【0052】
2つの半導体スイッチ素子Q_(B)が交互にオン・オフ動作を繰り返すことによって接続点nの電圧v_(n)はv_(1)’>0の期間に「V_(dc)」となり、v_(1)’≦0の期間に接地レベルとなるように矩形波状に変化し、その矩形波がフィルタ回路401で直流分とスイッチングノイズが除去されて出力端子c,c’から正弦波信号v_(1)を増幅した電圧v_(P1)=V・sin(ω・t)が出力される。
【0053】
第2のDC-RF変換部4Bでは、入力される高周波電圧v_(2)が高周波電圧v_(1)に対して位相差θを有する「v_(P2)=A・sin(ω・t+θ)」となる点が異なるだけで、上述した第1のDC-RF変換部4Aと同様の動作を行う。」

エ.「【0055】
RF合成部5は、DC-RF変換部4から出力される2つの電力P_(1),P_(2)を合成する回路ブロックである。RF合成部5は、例えば、図6に示す伝送トランスT3と抵抗Zとからなるハイブリッド回路によって構成される。ハイブリッド回路は、1つのサム・ポートN_(S)と2つの入力ポートN_(A),N_(B)を有し、ハイブリッド回路内の抵抗Zは、入力ポートN_(A),N_(B)間のアイソレーションをとる機能がある。入力ポートN_(A)に入力する第1のDC-RF変換部4Aから出力される高周波電圧v_(P1)と、入力ポートN_(B)に入力する第2のDC-RF変換部4Bから出力される高周波電圧v_(P2)に位相差θ(=φ_(2)-φ_(1)≠0)があると、入力電力(P_(1)+P_(2))のうち位相差θに応じた一部の電力P_(Z)を内部の抵抗Zで熱消費し、残りの電力P_(PC)(=P_(1)+P_(2)-P_(Z))を出力する機能を有する。」

オ.「【0059】
従って、伝送トランスT3の一次巻線と二次巻線に流れる電流i_(L1),i_(L2)は、
i_(L1)=i_(1)-i_(Z)=V・[sin(ω・t)+sin(ω・t+θ)]/(2・R_(o))…(5)
i_(L2)=i_(2)+i_(Z)=V・[sin(ω・t)+sin(ω・t+θ)]/(2・R_(o))…(6)
で表わされ、サム・ポートN_(S)から出力される電流i_(PC)と電圧v_(PC)は、
i_(PC)=i_(L1)+i_(L2)=V・[sin(ω・t)+sin(ω・t+θ)]/R_(o)…(7)
v_(PC)=i_(PC)・(R_(o)/2)
=V・[sin(ω・t)+sin(ω・t+θ)]/2
=V・cos(θ/2)・sin(ω・t+θ/2)]…(8)
となる。
【0060】
(8)式で示されるように、RF合成部5の出力電圧v_(PC)のレベルは、位相差θによって変化する。その変化はcos(θ/2)の関数で表わされるから、位相差θをπ(180[deg])からゼロまで単調に減少させると、出力電圧v_(PC)のレベルが単調増加することが分かる。なお、θ=0では、v_(PC)=V・sin(ω・t)=v_(P1)=v_(P2)となる。」
(なお、「=V・cos(θ/2)・sin(ω・t+θ/2)]」の終わり大括弧「]」は、対応する始め大括弧「[」が存在せず、直前の「V・[sin(ω・t)+sin(ω・t+θ)]/2」との等号の関係を考慮しても、不要なものであることは明らかであるから、「=V・cos(θ/2)・sin(ω・t+θ/2)]」は、「=V・cos(θ/2)・sin(ω・t+θ/2)」の誤記であると認められる。)

カ.「【0067】
高周波信号生成部8には、図7に示すように、正弦波の高周波電圧v_(1)を発生する第1の高周波発生回路8aと、制御部9から入力される位相差θを用いて高周波電圧v_(1)に対して位相差θを有する正弦波の高周波電圧v_(2)を発生する第2の高周波発生回路8bとが含まれる。第1の高周波発生回路8a及び第2の高周波発生回路8bもダイレクト・ディジタル・シンセサイザーで構成される。」

キ.「【0074】
制御部9は、高周波信号生成部8に出力する出力制御信号S_(c)がハイレベルに反転するタイミング(高周波電圧v_(1),v_(2)のパルス出力における各出力開始タイミング)に同期して、高周波信号生成部8に出力する位相差θを図8の特性で変化させる。出力制御信号S_(c)の立ち上りタイミングは、周期的に生じるから、図8に示す位相差θの変化はその出力制御信号S_(c)の立ち上りタイミングに同期して周期的に繰り返される。
【0075】
例えば、出力制御信号S_(c)が周波数10kHz、デューティ比50%のパルス信号に設定される場合、高周波信号生成部8は、100μ秒の周期で50μ秒だけ高周波電圧v_(1),v_(2)を生成してDC-RF変換部4に出力する。高周波電圧v_(1),v_(2)はv_(1)=A・sin(2π・f・t)、v_(2)=A・sin(2π・f・t+θ)の波形を有するが、高周波電圧v_(2)の位相差θは、生成開始時t=0から凡そ4μ秒の経過時t_(w)までに図8の特性で180[deg]から0[deg]まで単調減少し、その後はゼロに固定される。
【0076】
従って、図8に示す特性を関数θ(t)で表わすと、高周波電圧v_(2)はv_(2)=A・sin(2π・f・t+θ(t))で表わされ、0≦t≦4μ秒の期間では、その期間に含まれる高周波電圧v_(2)の各波の位相は(2π・f・t+θ(t))の関数で変化する。そして、t≒4μ秒で高周波電圧v_(2)は高周波電圧v_(1)と同相となり、4μ秒から50μ秒までの期間はv_(1)=v_(2)の状態が継続される。
【0077】
0から4μ秒の期間では、DC-RF変換部4内の第1のDC-RF変換部4Aと第2のDC-RF変換部4Bからそれぞれ出力される2つの高周波電圧v_(P1),v_(P2)は、v_(P1)=V・sin(ω・t)(ω=2π・f)、v_(P2)=V・sin(ω・t+θ(t))(θ≠0)となり、RF合成部5からフィルタ回路6を介して負荷に出力される出力電圧v_(out)のレベルは、図1で示したように、ゼロから所定のレベルまで増加する。」

上記アないしキから、引用例の「高周波電源」には以下の事項が記載されている。
・上記アによれば、高周波電源1は、DC-DC変換部3、DC-RF変換部4、RF合成部5、高周波信号生成部8及び制御部9を含む構成である。
・上記カによれば、高周波信号生成部8には、正弦波の高周波電圧v_(1)を発生する第1の高周波発生回路8aと、制御部9から入力される位相差θを用いて高周波電圧v_(1)に対して位相差θを有する正弦波の高周波電圧v_(2)を発生する第2の高周波発生回路8bとが含まれるものである。
・上記ア、ウによれば、DC-RF変換部4には同一構成の2つのDC-RF変換部4A,4Bが設けられるものであり、高周波電圧v_(1),v_(2)が第1,第2のDC-RF変換部4A,4Bの各トランスT2の一次巻線に入力され、第1のDC-RF変換部4Aでは、正弦波信号v_(1)を増幅した電圧v_(P1)が出力され、第2のDC-RF変換部4Bでは、正弦波信号v_(2)を増幅した電圧v_(P2)が出力される。
・上記イによれば、DC-DC変換部3は、直流電圧V_(cc)を任意の電圧値の直流電圧V_(dc)に変換してDC-RF変換部4に入力する回路ブロックである。
・上記アによれば、第1のDC-RF変換部4Aから出力される電力P_(1)と第2のDC-RF変換部4Bから出力される電力P_(2)がRF合成部5で合成されて高周波電源1の出力端に接続される負荷に出力されるものである。
・上記オによれば、RF合成部5の出力電圧v_(PC)のレベルは、位相差θによって変化し、その変化はcos(θ/2)の関数で表わされるものであり、v_(PC)=V・cos(θ/2)・sin(ω・t+θ/2)である。
・上記キによれば、制御部9は、高周波信号生成部8に出力する出力制御信号S_(c)がハイレベルに反転するタイミング(高周波電圧v_(1),v_(2)のパルス出力における各出力開始タイミング)に同期して、高周波信号生成部8に出力する位相差θを変化させるものである。
・上記エによれば、RF合成部5は、ハイブリッド回路によって構成されるものであり、ハイブリッド回路は、1つのサム・ポートN_(S)と2つの入力ポートN_(A),N_(B)を有し、入力ポートN_(A)に入力する第1のDC-RF変換部4Aから出力される高周波電圧v_(P1)と、入力ポートN_(B)に入力する第2のDC-RF変換部4Bから出力される高周波電圧v_(P2)に位相差θがあると、入力電力のうち位相差θに応じた一部の電力P_(Z)を内部の抵抗Zで熱消費し、残りの電力P_(PC)を出力する機能を有するものである。
・上記キによれば、高周波電圧v_(1),v_(2)はv_(1)=A・sin(2π・f・t)、v_(2)=A・sin(2π・f・t+θ)の波形を有するが、高周波電圧v_(2)の位相差θは、生成開始時t=0から凡そ4μ秒の経過時t_(w)までに180[deg]から0[deg]まで単調減少し、0から4μ秒の期間では、RF合成部5から負荷に出力される出力電圧v_(out)のレベルは、ゼロから所定のレベルまで増加するものである。
・上記アによれば、パワーアンプの電源電圧を変化させてパワーアンプの出力電圧のレベルを変化させる方法ではパルス出力開始時から数μsの間に出力電圧のレベルを漸増させる制御は困難であるから、高周波電源1では、2個のパワーアンプと両パワーアンプの出力電力を合成する電力合成回路を設け、その電力合成回路における合成動作を制御することによって負荷に出力される出力電圧v_(out)のレベルを制御するようにしているものである。

そうすると、上記摘示事項及び図面の記載を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「直流電圧V_(cc)を任意の電圧値の直流電圧V_(dc)に変換してDC-RF変換部4に入力する回路ブロックであるDC-DC変換部3、
同一構成の2つのDC-RF変換部4A,4Bが設けられ、高周波電圧v_(1),v_(2)が第1,第2のDC-RF変換部4A,4Bの各トランスT2の一次巻線に入力され、第1のDC-RF変換部4Aでは、正弦波信号v_(1)を増幅した電圧v_(P1)が出力され、第2のDC-RF変換部4Bでは、正弦波信号v_(2)を増幅した電圧v_(P2)が出力されるDC-RF変換部4、
第1のDC-RF変換部4Aから出力される電力P_(1)と第2のDC-RF変換部4Bから出力される電力P_(2)を合成して高周波電源1の出力端に接続される負荷に出力し、出力電圧v_(PC)のレベルは、位相差θによって変化し、その変化はcos(θ/2)の関数で表わされるものであり、v_(PC)=V・cos(θ/2)・sin(ω・t+θ/2)であるRF合成部5、
正弦波の高周波電圧v_(1)を発生する第1の高周波発生回路8aと、制御部9から入力される位相差θを用いて高周波電圧v_(1)に対して位相差θを有する正弦波の高周波電圧v_(2)を発生する第2の高周波発生回路8bとが含まれる高周波信号生成部8、及び、
高周波信号生成部8に出力する出力制御信号S_(c)がハイレベルに反転するタイミング(高周波電圧v_(1),v_(2)のパルス出力における各出力開始タイミング)に同期して、高周波信号生成部8に出力する位相差θを変化させるものである制御部9
を含む構成の高周波電源1であって、
RF合成部5は、ハイブリッド回路によって構成されるものであり、ハイブリッド回路は、1つのサム・ポートN_(S)と2つの入力ポートN_(A),N_(B)を有し、入力ポートN_(A)に入力する第1のDC-RF変換部4Aから出力される高周波電圧v_(P1)と、入力ポートN_(B)に入力する第2のDC-RF変換部4Bから出力される高周波電圧v_(P2)に位相差θがあると、入力電力のうち位相差θに応じた一部の電力P_(Z)を内部の抵抗Zで熱消費し、残りの電力P_(PC)を出力する機能を有するものであり、
高周波電圧v_(1),v_(2)はv_(1)=A・sin(2π・f・t)、v_(2)=A・sin(2π・f・t+θ)の波形を有するが、高周波電圧v_(2)の位相差θは、生成開始時t=0から凡そ4μ秒の経過時t_(w)までに180[deg]から0[deg]まで単調減少し、0から4μ秒の期間では、RF合成部5から負荷に出力される出力電圧v_(out)のレベルは、ゼロから所定のレベルまで増加するものであり、
パワーアンプの電源電圧を変化させてパワーアンプの出力電圧のレベルを変化させる方法ではパルス出力開始時から数μsの間に出力電圧のレベルを漸増させる制御は困難であるから、高周波電源1では、2個のパワーアンプと両パワーアンプの出力電力を合成する電力合成回路を設け、その電力合成回路における合成動作を制御することによって負荷に出力される出力電圧v_(out)のレベルを制御するようにしているものである、
高周波電源1。」

(3)対比・判断
本願補正発明と引用発明とを対比する。

a.引用発明の「位相差θ」は、本願補正発明の「相互の位相差」に相当する。また、引用発明の「正弦波の高周波電圧v_(1)」及び「正弦波の高周波電圧v_(2)」は、本願補正発明の「複数の高周波」に相当する。
したがって、引用発明の「正弦波の高周波電圧v_(1)を発生する第1の高周波発生回路8aと、制御部9から入力される位相差θを用いて高周波電圧v_(1)に対して位相差θを有する正弦波の高周波電圧v_(2)を発生する第2の高周波発生回路8bとが含まれる高周波信号生成部8」は、制御部9から入力される位相差θに従って正弦波の高周波電圧v_(1)と正弦波の高周波電圧v_(2)の位相差θを変更するものであるといえるから、本願補正発明の「相互の位相差が変更可能な複数の高周波を生成する高周波信号生成手段」に相当する。

b.引用発明の「正弦波信号v_(1)」及び「正弦波信号v_(2)」は、「正弦波の高周波電圧v_(1)」及び「正弦波の高周波電圧v_(2)」と同一の符号「v_(1)」、「v_(2)」で表されるものであるから、「正弦波の高周波電圧v_(1)」及び「正弦波の高周波電圧v_(2)」と同一の信号であると解するのが自然である。したがって、引用発明の「第1のDC-RF変換部4Aでは、正弦波信号v_(1)を増幅した電圧v_(P1)が出力され、第2のDC-RF変換部4Bでは、正弦波信号v_(2)を増幅した電圧v_(P2)が出力される」ことは、本願補正発明の「前記高周波信号生成手段が生成した前記複数の高周波をそれぞれ増幅する」ことに相当する。
よって、引用発明の「同一構成の2つのDC-RF変換部4A,4Bが設けられ、高周波電圧v_(1),v_(2)が第1,第2のDC-RF変換部4A,4Bの各トランスT2の一次巻線に入力され、第1のDC-RF変換部4Aでは、正弦波信号v_(1)を増幅した電圧v_(P1)が出力され、第2のDC-RF変換部4Bでは、正弦波信号v_(2)を増幅した電圧v_(P2)が出力されるDC-RF変換部4」は、増幅処理を行うものであるから、本願補正発明の「前記高周波信号生成手段が生成した前記複数の高周波をそれぞれ増幅する増幅手段」に相当する。

c.引用発明の「直流電圧V_(cc)を任意の電圧値の直流電圧V_(dc)に変換してDC-RF変換部4に入力する回路ブロックであるDC-DC変換部3」は、DC-RF変換部4(上記bのとおり、本願補正発明の「増幅手段」に相当。)に直流電圧V_(dc)を供給するものであるから、本願補正発明の「前記増幅手段に、直流電圧を供給する電圧供給手段」に相当する。

d.引用発明の「第1のDC-RF変換部4Aから出力される電力P_(1)と第2のDC-RF変換部4Bから出力される電力P_(2)」は、本願補正発明の「前記増幅手段から出力される増幅後の複数の高周波」に相当する。また、引用発明の「高周波電源1の出力端に接続される負荷」は、本願補正発明の「負荷」に相当する。
さらに、引用発明の「出力電圧v_(PC)のレベルは、位相差θによって変化し、その変化はcos(θ/2)の関数で表わされるものであり、v_(PC)=V・cos(θ/2)・sin(ω・t+θ/2)である」ことは、cos(θ/2)の割合で合成して出力電圧v_(PC)を生成するものといえるから、引用発明の「cos(θ/2)」は、本願補正発明の「前記位相差に基づく所定の割合」に相当する。
したがって、引用発明の「第1のDC-RF変換部4Aから出力される電力P_(1)と第2のDC-RF変換部4Bから出力される電力P_(2)を合成して高周波電源1の出力端に接続される負荷に出力し、出力電圧v_(PC)のレベルは、位相差θによって変化し、その変化はcos(θ/2)の関数で表わされるものであり、v_(PC)=V・cos(θ/2)・sin(ω・t+θ/2)であるRF合成部5」は、本願補正発明の「前記増幅手段から出力される増幅後の複数の高周波を、前記位相差に基づく所定の割合で合成して負荷に出力する高周波合成手段」に相当する。

e.引用発明の「高周波信号生成部8に出力する位相差θを変化させる」ことは、本願補正発明の「前記高周波信号生成手段に対して、前記位相差を変化させること」に相当する。
また、引用発明の「RF合成部5は、ハイブリッド回路によって構成されるものであり、ハイブリッド回路は、1つのサム・ポートN_(S)と2つの入力ポートN_(A),N_(B)を有し、入力ポートN_(A)に入力する第1のDC-RF変換部4Aから出力される高周波電圧v_(P1)と、入力ポートN_(B)に入力する第2のDC-RF変換部4Bから出力される高周波電圧v_(P2)に位相差θがあると、入力電力のうち位相差θに応じた一部の電力P_(Z)を内部の抵抗Zで熱消費し、残りの電力P_(PC)を出力する機能を有するもの」は、位相差θに応じてRF合成部5の出力する電力P_(PC)が変化するものといえる。
したがって、引用発明の「高周波信号生成部8に出力する出力制御信号Scがハイレベルに反転するタイミング(高周波電圧v_(1),v_(2)のパルス出力における各出力開始タイミング)に同期して、高周波信号生成部8に出力する位相差θを変化させるものである制御部9」は、位相差θを変化させることで、RF合成部5(上記dのとおり、本願補正発明の「高周波合成手段」に相当。)の出力する電力P_(PC)を変化させるものであるから、本願補正発明の「前記高周波信号生成手段に対して、前記位相差を変化させることで、前記高周波合成手段より出力される高周波電力を制御する出力制御手段」に相当する。

f.引用発明の「・・・DC-DC変換部3、・・・DC-RF変換部4、・・・RF合成部5、・・・高周波信号生成部8、及び、・・・制御部9を含む構成の高周波電源1」は、本願補正発明の「・・・高周波信号生成手段と、・・・増幅手段と、・・・電圧供給手段と、・・・高周波合成手段と、・・・出力制御手段と、を備えた高周波電源」に相当する。

g.引用発明の「高周波電圧v_(1),v_(2)はv_(1)=A・sin(2π・f・t)、v_(2)=A・sin(2π・f・t+θ)の波形を有するが、高周波電圧v_(2)の位相差θは、生成開始時t=0から凡そ4μ秒の経過時t_(w)までに180[deg]から0[deg]まで単調減少し、0から4μ秒の期間では、RF合成部5から負荷に出力される出力電圧v_(out)のレベルは、ゼロから所定のレベルまで増加するもの」は、生成開始時t=0から凡そ4μ秒の経過時t_(w)までの期間に、位相差θを180[deg]から0[deg]まで単調減少させることで、出力電圧v_(out)を、ゼロから所定のレベルまで増加する波形で変化させるものであるといえる。
また、上記eのとおり、引用発明において、位相差θを変化させる処理は制御部9が実行するものであり、位相差θに応じてRF合成部5の出力する電力P_(PC)が変化するものであるから、制御部9(本願補正発明の「出力制御手段」に相当。)が位相差θを180[deg]から0[deg]まで単調減少させることで、RF合成部5(上記dのとおり、本願補正発明の「高周波合成手段」に相当。)の出力する電力P_(PC)も所望の波形で変化するものであるといえる。
そして、引用発明の高周波電圧v_(2)の位相差θは、高周波電圧v_(1),v_(2)が生成されていなければ存在しないものであるから、位相差θを180[deg]から0[deg]まで単調減少させる期間において、高周波電圧v_(1),v_(2)は生成させたままであると解するのが自然である。また、上記aのとおり、引用発明の高周波電圧v_(1),v_(2)は、高周波信号生成部8(本願補正発明の「高周波信号生成手段」に相当。)により生成されるものである。
してみると、引用発明の「高周波電圧v_(1),v_(2)はv_(1)=A・sin(2π・f・t)、v_(2)=A・sin(2π・f・t+θ)の波形を有するが、高周波電圧v_(2)の位相差θは、生成開始時t=0から凡そ4μ秒の経過時twまでに180[deg]から0[deg]まで単調減少し、0から4μ秒の期間では、RF合成部5から負荷に出力される出力電圧v_(out)のレベルは、ゼロから所定のレベルまで増加するもの」であることは、本願補正発明の「前記出力制御手段は、前記高周波信号生成手段に前記複数の高周波を生成させたままで、前記高周波合成手段より出力される高周波電力を所望の波形にするように、前記位相差を変化させる」ことを満たすものである。
ただし、本願補正発明の出力制御手段について、「前記高周波信号生成手段に前記複数の高周波を生成させたままで、前記高周波合成手段より出力される高周波電力を所望の波形にするように、前記位相差を変化させる」ことは、「前記電圧供給手段から前記増幅手段に供給される直流電圧が一定値のときに、」実行されるものであるが、引用発明にはその旨の特定がされていない。

そうすると、本願補正発明と引用発明とは、次の点で一致し、以下の点で一応相違している。

<一致点>
「相互の位相差が変更可能な複数の高周波を生成する高周波信号生成手段と、
前記高周波信号生成手段が生成した前記複数の高周波をそれぞれ増幅する増幅手段と、
前記増幅手段に、直流電圧を供給する電圧供給手段と、
前記増幅手段から出力される増幅後の複数の高周波を、前記位相差に基づく所定の割合で合成して負荷に出力する高周波合成手段と、
前記高周波信号生成手段に対して、前記位相差を変化させることで、前記高周波合成手段より出力される高周波電力を制御する出力制御手段と、
を備えた高周波電源であって、
前記出力制御手段は、
前記高周波信号生成手段に前記複数の高周波を生成させたままで、前記高周波合成手段より出力される高周波電力を所望の波形にするように、前記位相差を変化させる、
ことを特徴とする高周波電源。」

<相違点>
「前記高周波信号生成手段に前記複数の高周波を生成させたままで、前記高周波合成手段より出力される高周波電力を所望の波形にするように、前記位相差を変化させる」ことを、本願補正発明では、「前記電圧供給手段から前記増幅手段に供給される直流電圧が一定値のときに」実行されるのに対し、引用発明にはその旨の特定がされていない。

そこで、上記相違点について検討する。

引用発明は、「パワーアンプの電源電圧を変化させてパワーアンプの出力電圧のレベルを変化させる方法ではパルス出力開始時から数μsの間に出力電圧のレベルを漸増させる制御は困難であるから、高周波電源1では、2個のパワーアンプと両パワーアンプの出力電力を合成する電力合成回路を設け、その電力合成回路における合成動作を制御することによって負荷に出力される出力電圧v_(out)のレベルを制御するようにしているもの」であるから、パルス出力開始時から数μsの間に出力電圧のレベルを漸増させる制御は、パワーアンプの電源電圧を変化させることにより行われるのではなく、電力合成回路における合成動作を制御することにより行われるものである。
してみると、パルス出力開始時から数μsの間に出力電圧のレベルを漸増させる期間では、電力合成回路における合成動作を制御し、パワーアンプの電源電圧を変化させないと解するのが自然である。
仮に、パルス出力開始時から数μsの間に出力電圧のレベルを漸増させる期間で、電力合成回路における合成動作を制御するとともに、パワーアンプの電源電圧も変化させるのであるとすると、出力電圧には、電力合成回路における合成動作を制御することにより出力電圧のレベルを漸増させる変化だけでなく、パワーアンプの電源電圧も変化させることによる変化も加わることとなり、出力電圧の変化の波形は、出力電圧のレベルを漸増させる変化の波形からずれてしまうことになり、そのような制御を行うものと解するのは合理的でない。

そして、引用発明の「2個のパワーアンプ」が、「DC-RF変換部4」(上記bのとおり、本願補正発明の「増幅手段」に相当。)を構成する「2つのDC-RF変換部4A,4B」に対応するものであり、「パワーアンプの電源電圧」が、「DC-DC変換部3」(上記cのとおり、本願補正発明の「電圧供給手段」に相当。)が出力する「直流電圧V_(dc)」に対応するものであり、「電力合成回路における合成動作を制御すること」が、「位相差θ」を変化させることに対応するものであることは、明らかである。
したがって、引用発明は、パルス出力開始時から数μsの間に出力電圧のレベルを漸増させる期間では、電力合成回路における合成動作を制御し、パワーアンプの電源電圧を変化させないものであるから、本願補正発明の「前記電圧供給手段から前記増幅手段に供給される直流電圧が一定値のときに、」位相差を変化させるものであるといえる。
よって、上記相違点は、実質的な相違点ではない。

なお、審判請求人は、審判請求書において、「引用文献1に記載の発明(以下では、「引用発明1」とする)が位相差θを変化させるのは、出力制御信号Scがハイレベルに反転するタイミングのときだけである。・・・引用発明1は、出力制御信号Scがローレベルからハイレベルに切り替えられるときに、位相差を0°として高周波電圧v_(1),v_(2)を発生させるとオーバーシュートが発生するので、位相差を180°として高周波電圧v_(1),v_(2)を発生させてから、位相差を0°まで単調減少させるだけである。」旨を主張している。
しかし、本願補正発明は、高周波電力を所望の波形にするように位相差を変化させるときに、直流電圧が一定値であり、複数の高周波を生成させたままであることは規定しているものの、全ての期間で位相差を変化させることを規定しているものではないため、特定の期間でのみ位相差を変化させるものを除外するものではなく、出力制御信号S_(c)がローレベルからハイレベルに切り替えられるときにのみ、高周波電力を所望の波形にするように位相差を変化させるものも含まれるものと認められる。
よって、審判請求人の上記主張を採用することはできない。

(4)独立特許要件のむすび
以上のとおり、本願補正発明は、引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

4.補正却下のむすび
上記「2.(4)」で述べたとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しないから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
また、上記「3.(4)」で述べたとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、補正却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明について

1.本願発明
平成29年6月23日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成29年2月7日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された、次のとおりのものである。
「【請求項1】
相互の位相差が変更可能な複数の高周波を生成する高周波生成手段と、
前記高周波生成手段に、直流電圧を供給する電圧供給手段と、
前記高周波生成手段から出力される複数の高周波を、前記位相差に基づく所定の割合で合成して負荷に出力する高周波合成手段と、
前記高周波生成手段に対して、前記位相差を変化させることで、前記高周波合成手段より出力される高周波電力を制御する出力制御手段と、
を備えた高周波電源であって、
前記出力制御手段は、
前記電圧供給手段から前記高周波生成手段に供給される直流電圧が一定値のときに、前記高周波合成手段より出力される高周波電力を所望の波形にするように、前記位相差を変化させる、
ことを特徴とする高周波電源。」

2.引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例(特開2014-204501号公報)及びその記載事項は、上記「第2 3.(2)」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、本願補正発明から上記「第2 2.(1)」の「a.」及び「b.」で述べた限定された構成を省いたものに相当する。

そうすると、本願発明の構成要件を全て含み、更に他の構成要件を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2 3.」に記載したとおり、引用例に記載された発明から新規性がないのであるから、本願補正発明から上記構成を省いた本願発明も、同様の理由により、引用例に記載された発明から新規性がないものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-07-27 
結審通知日 2018-07-31 
審決日 2018-08-20 
出願番号 特願2016-563710(P2016-563710)
審決分類 P 1 8・ 572- Z (H02M)
P 1 8・ 575- Z (H02M)
P 1 8・ 113- Z (H02M)
P 1 8・ 574- Z (H02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 麻生 哲朗  
特許庁審判長 酒井 朋広
特許庁審判官 國分 直樹
東 昌秋
発明の名称 高周波電源  
代理人 小淵 景太  
代理人 吉田 稔  

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