• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01B
管理番号 1344680
審判番号 不服2016-11869  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-11-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-08-05 
確定日 2018-10-10 
事件の表示 特願2012-553337「車両の位置を決定するシステム、このシステムを備えた車両及びその方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 8月25日国際公開、WO2011/101462、平成25年 5月30日国内公表、特表2013-519892〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2011年2月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年2月19日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成26年10月10日付けで拒絶理由が通知され、平成27年2月12日に特許請求の範囲が補正され、同年7月22日付けで拒絶理由が通知され、平成28年1月27日に特許請求の範囲が補正され、同年3月30日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年8月5日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に特許請求の範囲が補正された(以下、「本件補正」という。)ものである。

2 本願発明
本件補正は、平成28年1月27日に補正された特許請求の範囲の請求項1及び請求項2を削除し、請求項1及び請求項2を引用する請求項3を新たに請求項1とするものであるから、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる事項(請求項の削除)を目的とするものと認められる(なお、本件補正後の請求項6、7(本件補正前の請求項8、9に対応する。)については、補正はされていない。)。
よって、本願の請求項1ないし7に係る発明は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項6に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「車両の位置を決定する方法において、
2次元アレイに配置された複数のセンサから該センサで測定された磁気マーカ要素の磁界強度を取得する工程と、
前記二次元アレイ内の位置を前記個々の磁界強度の測定値と関連させる工程と、
前記磁界強度の位置のセットを磁気マーカ要素の磁界の空間モデルに適合させる工程と、
前記磁気マーカ要素の磁界の空間モデルに適合された前記磁界強度の位置のセットに基づいて、前記複数のセンサに対する前記磁気マーカ要素の位置を決定する工程とからなる方法。」

3 引用例
原査定の拒絶理由に引用された特開2008-305395号公報(以下「引用例」という。)には、図とともに次の記載がある(下線は、当審による。)。
ア 「【0001】
本発明は自動車両誘導システムの磁界センサと磁界センサを有する自動車両誘導システムとに関する。
【背景技術】
【0002】
車両が往来する経路に沿うまたは経路上の磁石のグリッドや線を利用する自動車両誘導システムは既知である。車両には磁石を検出する磁界センサがあり、そのため磁石に対して相対的に車両を誘導可能にする情報が得られる。」

イ 「【0057】
この発明のさらなる態様は、以下に示すセンサアセンブリの中に存在すると言いうる。すなわち、このセンサアセンブリは、磁石により生成された磁界を検出する磁界センサアセンブリであって、少なくとも1つの中央のセンサアレイと、上記中央のセンサアレイを間に挟むよう上記中央のセンサアレイの各側方に設けられた第1の側方センサアレイと第2の側方センサアレイとを備え、上記中央のセンサアレイは、所定の第1の距離を隔てて配置される複数のセンサを有し、上記第1と第2の側方センサアレイは、それぞれ、上記第1の距離より長い第2の所定の距離を隔てて配置される複数のセンサを有する。」

ウ 「【0062】
また、好ましくは、上記センサアレイは、それぞれ、各センサアレイからの出力信号を受信して上記磁石に対する相対的な車両の位置を決定するプロセッサボードに連結されている。
【0063】
また、好ましくは、上記プロセッサボードは、上記磁石に対する相対的な車両の位置を決定するとともに上記位置信号に応じて上記車両の移動を制御する制御信号を生成するナビゲーションシステムに連結可能となっている。」

エ 「【0073】
図1は、車輪14を有する車両10の底面の図を示す。車両の前部には第1のセンサアセンブリ15が配置され、車両の後部には第2のセンサアセンブリ16が配置されている。センサアセンブリ15及び16について、後に詳細に説明する。
【0074】
車両10が移動する道路20の表面には磁石22が埋め込まれている。磁石22は一般に円筒形の構成だが、図1では単純に図を簡略化するために四角で示されている。
【0075】
図2を参照すると、車両が道路に沿って磁石22の上を走っている際、センサアセンブリ15及び16は、磁石22の検出を示す検出信号を位置推定器26へと出力する。位置推定器26は既知のアルゴリズムに従って磁石22に対して相対的な車両の位置を算出し、回線28を介して位置信号を出力する。ここで位置信号は、制御コンピュータ(図示せず)からの目標値信号30と組み合わされ、ドライバ制御信号としてドライバ制御装置32に供給される。ドライバ制御装置32は、車輪14を介して車両の速度と車両の回転とを制御するために、回線34を介して、速度および前輪と後輪のステアリングコマンドを車両10へと出力する。その結果、車両10は、道路に沿って磁石22に対して相対的に動きながら、ある場所から別の場所へと自動的に誘導される。」

オ 「【0078】
センサアセンブリ15及び16のセンサの配置は2次元アレイであるので、システムは検出区域内でマーカ磁石の正確なx、y位置を特定できる。2次元アレイのサイズは用途の目的とする有効範囲に依存する。」

カ 「【0091】
図9は図8の回路の動作を示すフローチャートである。図9に示すように、計算サイクルの開始に先立って、電源が安定するよう2msに渡ってセンサ素子60に電源を入れるために、トランジスタ90をオンに切り換えることで電力がセンサに供給される(ステップ901)。2msの時間の最後には、センサ素子60が磁界を検出しているかどうかを決定するためにセンサ素子60の状態が読み取られる(ステップ902)。センサ素子60の状態が読み込まれた後にトランジスタ90はターンオフされる(ステップ903)。それから作動しているセンサ素子60があるかどうかの決定がなされ、応答が「NO」の場合にはシステムはステップ901に戻る。応答が「YES」の場合にはステップ905でマーカ位置が計算され、ステップ906でマーカ位置を示す情報が出力される。」

キ 「【0095】
図8及び8Aに示されるような、3つのピン(即ち、VCCピンと、アースピンと、出力ピン)を有するピン配置の磁気センサを利用する代わりに、センサには、VCCピンと、アースピンと、電気的な特性が異なる2つの出力(例えば、NPN型とPNP型)を供給するための第1の出力ピンと第2の出力ピンとからなる4つのピンが利用されてもよい。また、VCCピンと、アースピンと、磁界の強度に対応する電圧出力の範囲を供給するための+VOピンと-VOピンとを有する4つのピンのセンサが利用されてもよい。
【0096】
図10は、アセンブリ15(または16)を構成する磁気センサモジュールのブロック図を示す。モジュール80には、プロセッサボード81と4つのセンサアレイ40、42、44、46とが設けられている。プロセッサボード81には処理回路全体を構成する基本的なビルディングブロックが含まれる。上記ビルディングブロックには、マイクロコントローラ96と、ランダムアクセスメモリ88と、消去可能なプログラマブルランダムアクセスメモリ89と、アドレス復号回路87と、センサアレイに接続されたデジタル入力インタフェース82とがある。検出アルゴリズムを実行するソフトウェアプログラムは、消去可能なプログラマブルランダムアクセスメモリ89に保存されている。デジタル入力インタフェース82には、回線83、84、85、86により各アレイ40、42、44、46にそれぞれ接続されている4つの入力端がある。図2に示した位置推定器26への接続用の外部シリアルインタフェース99を提供するために、マイクロコントローラ96にはRS422ドライバ98が接続されている。
【0097】
磁石を検出する検出アルゴリズムは磁石位置を計算するために3つの技法を利用する。上記技法の選択は、オンとなるセンサのパターンに依存し、同様に、センサアレイ下の磁石の位置に支配される。これらの技法を合わせて利用すると、システムはセンサの境界線に出現したマーカをも検出できる。上記のことは、使用されるセンサの数を物理的に増やす必要なく効果的に広いセンサ有効範囲を提供する。
【0098】
検出アルゴリズムの略図を描く図11を参照すると、以下のように面積モーメントを利用して磁石のy位置がステップ1001で計算される。
【0099】
【数1】

ここで、
s_(ij)= センサ素子(i,j)がオンとなる場合は1それ以外は0
y_(ij)= センサ軸に対するセンサ素子(i,j)のy座標
M,N= 各行及び各列のセンサ素子の数
ただし、部分的でも全面的でもセンサ有効範囲内にあるあらゆる位置にある磁石の横方向y位置の計算は、面積モーメント法により正確に与えられる。これはパターンが中心軸(x軸に平行)に対してパターンを通じて対称なためである。
【0100】 磁石の縦方向x位置の決定は、円形のパターンがどの程度センサ有効範囲内にあるかに依存する(ステップ1002および1003)。検出された円形のパターンが図12に示すように完全にセンサ有効範囲内にある場合は、ステップl004が以下のように実行される。
【0101】
【数2】

ここで、
s_(ij)= センサ素子(i,j)がオンとなる場合は1それ以外は0
x_(ij)= センサ軸に対するセンサ素子(i,j)のx座標
M,N= 各行及び各列のセンサ素子の数
端検出でセンサ有効範囲内にある円形のパターンが図13に示すように半分よりも大きい場合、磁石のx位置はステップ1005に従って以下のように計算される。
(a)行に関してスキャンし、最大の弦の幅を見つけることにより、円形の検出パターンの直径を決定する。
(b)直径の半分として半径Rを求める。
(c)円の先端(Xi、Yi)を決定する。
(d)磁石のx位置は単純に[Xr-R]により与えられる。
【0102】 端検出でセンサ有効範囲内にある円形のパターンが図14に示すように半分より小さく、ステップ1006に従って検出される場合、磁石のx位置は以下の順に計算される。
(a)センサ有効範囲の端の円形検出パターンの弦の幅をcとする。
(b)円の先端(Xr、Yr)を決定する。
(c)円の先端からセンサ有効範囲の端までの垂直高さhを決定する。
(d)検出された円の半径Rが幾何学の公式により概算される。
【0103】
【数3】

(e)磁石のx位置は[Xr-R]により与えられる。」

上記「キ」の「磁石位置を計算するため」の「検出アルゴリズム」及び図11によれば、オンとなるセンサのパターン(具体的には、円形のパターン)から、センサアレイ下の磁石のx位置及びy位置が計算されることがわかる。

また、引用例には、上記ウの【0062】に「センサアレイからの出力信号を受信して上記磁石に対する相対的な車両の位置を決定するプロセッサボード」と記載され、また、上記エの【0075】に「位置推定器26は既知のアルゴリズムに従って磁石22に対して相対的な車両の位置を算出し、回線28を介して位置信号を出力する」と記載されており、「車両の位置を決定する方法」についても記載されているものと認められる。

以上より、引用例には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「車両の前部に第1のセンサアセンブリが配置され、後部に第2のセンサアセンブリが配置され、
このセンサアセンブリは、磁石により生成された磁界を検出する磁界センサアセンブリであり、
車両が移動する道路の表面には磁石が埋め込まれており、
センサアセンブリのセンサの配置は2次元アレイであるので、検出区域内でマーカ磁石の正確なx、y位置を特定でき、オンとなるセンサのパターンから、センサアレイ下の磁石のx位置及びy位置を計算する
車両の位置を決定する方法。」

4 対比・判断
本願発明と引用発明を対比する。
(1)本願発明も引用発明もともに「車両の位置を決定する方法」に係る発明であって、引用発明における「(道路の表面に埋め込まれた)磁石」が本願発明の「磁気マーカ要素」に相当する。

(2)引用発明における「センサアセンブリのセンサ」は、その配置が「2次元アレイ」であるから、本願発明における「2次元アレイに配置された複数のセンサ」に相当する。

(3)引用発明の「2次元アレイ」において、「磁界センサ」が「オン」となる位置は、マーカ磁石により生成された磁界の強度が大きい位置のことであるから、上記(1)、(2)を踏まえると、引用発明において、センサが「2次元アレイ」に配置された「磁気センサアセンブリ」が「磁石により生成された磁界を検出する」ことと、本願発明において「2次元アレイに配置された複数のセンサから該センサで測定された磁気マーカ要素の磁界強度を取得する工程」とは、「2次元アレイに配置された複数のセンサで、磁気マーカ要素の磁界強度を感知する工程」の点で共通する。

(4)引用発明において、「2次元アレイ」に配置された「磁界センサセンサアセンブリ」の「センサ」のうち、磁界により「オンとなるセンサ」を特定することと、本願発明における「前記二次元アレイ内の位置を前記個々の磁界強度の測定値と関連させる工程」とは、「前記二次元アレイ内の位置を前記個々の磁界強度と関連させる工程」の点で共通する。

(5)引用発明は、「オンとなるセンサのパターンから、センサアレイ下の磁石のx位置及びy位置を計算」して、「マーカ磁石の正確なx、y位置を特定」するものである。
よって、引用発明の「オンとなるセンサのパターン」が、本願発明における「前記磁界強度の位置のセット」に相当する。

(6)例えば、実願平2-116006号(実開平4-73805号)のマイクロフィルムの明細書第3頁第12?14行に「一般に、永久磁石6の磁界分布の形状は、永久磁石6の中心上にピークを持つ正規分布状になる。」と記載されているとおり、引用発明におけるマーカ磁石の磁界分布の形状が、センサアセンブリ上で正規分布の形状となることは明らかである。よって、引用発明において「オンとなるセンサのパターン」(具体的には、「円形のパターン」)を検出することは、すなわち、オンとなるセンサを、センサアセンブリ上における磁界の正規分布形状(つまり空間モデル)と適合させることであるといえる。
従って、引用発明において「オンとなるセンサのパターン」を特定することが、次の相違点は除いて、本願発明における「前記磁界強度の位置のセットを磁気マーカ要素の磁界の空間モデルに適合させる工程」に相当するといえる。

(7)引用発明において、「オンとなるセンサのパターンから、センサアレイ下の磁石のx位置及びy位置を計算」して、「磁石の正確なx、y位置を特定」することは、上記(6)を踏まえると、次の相違点は除いて、本願発明における「前記磁気マーカ要素の磁界の空間モデルに適合された前記磁界強度の位置のセットに基づいて、前記複数のセンサに対する前記磁気マーカ要素の位置を決定する工程」に相当するものといえる。

以上のことから、本願発明と引用発明との一致点、相違点は次のとおりである。
(一致点)
「車両の位置を決定する方法において、
2次元アレイに配置された複数のセンサで磁気マーカ要素の磁界強度を感知する工程と、
前記二次元アレイ内の位置を前記個々の磁界強度と関連させる工程と、
前記磁界強度の位置のセットを磁気マーカ要素の磁界の空間モデルに適合させる工程と、
前記磁気マーカ要素の磁界の空間モデルに適合された前記磁界強度の位置のセットに基づいて、前記複数のセンサに対する前記磁気マーカ要素の位置を決定する工程とからなる方法。」

(相違点)
本願発明では、センサから、「センサで測定された磁気マーカ要素の磁界強度を取得」し、二次元アレイ内の位置を、「前記個々の磁界強度の測定値」と関連させているのに対し、引用発明では、センサは、(道路の表面に埋め込まれた)マーカ磁石の磁界強度を検出しているものの、磁界強度を取得することは示されておらず、また、「オンとなるセンサのパターンから、センサアレイ下の磁石のx位置及びy位置を計算」して、「磁石の正確なx、y位置を特定」しているものの、マーカ磁石の位置をマーカ磁石の磁界強度の測定値と関連させることも、示されていない点。

そこで、上記相違点について検討すると、磁気検出素子(例えばホール素子や磁気抵抗素子等)を用い、磁界強度を測定し、磁気データを得ることは、例えば、前記実願平2-116006号(実開平4-73805号)のマイクロフィルム(明細書第3頁第5?6行の「磁気検出素子(例えばホール素子や磁気抵抗素子等)」、同第4頁第1行の「測定した磁気データ」、及び図3の「永久磁石の磁界分布」における「磁界強度f(x)」、「磁界の測定ポイント」参照。)に記載されているとおり、周知の事項である。
そして、引用例には、段落【0095】に「また、VCCピンと、アースピンと、磁界の強度に対応する電圧出力の範囲を供給するための+VOピンと-VOピンとを有する4つのピンのセンサが利用されてもよい。」と、各種のセンサを利用してもよいことが示唆されているから、引用発明において、上記周知の事項を適用し、引用発明において、「磁界センサ」として、磁気検出素子(例えばホール素子や磁気抵抗素子等)を用い、磁気検出素子により、マーカ磁石の磁界強度を取得し、マーカ磁石の位置を、センサアレイにおける個々の磁界強度の測定値と関連させるようにして、上記相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

また、本願発明の奏する作用効果も、引用発明及び周知の事項から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

したがって、本願発明は、引用発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
したがって、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-04-28 
結審通知日 2017-05-09 
審決日 2017-05-24 
出願番号 特願2012-553337(P2012-553337)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 眞岩 久恵  
特許庁審判長 酒井 伸芳
特許庁審判官 関根 洋之
清水 稔
発明の名称 車両の位置を決定するシステム、このシステムを備えた車両及びその方法  
代理人 前田 厚司  
代理人 田中 光雄  
代理人 山崎 宏  
代理人 前堀 義之  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ