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審決分類 |
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L |
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管理番号 | 1344698 |
審判番号 | 不服2016-14731 |
総通号数 | 227 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-11-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-09-30 |
確定日 | 2018-10-03 |
事件の表示 | 特願2012- 50855「薄膜トランジスタの半導体層用酸化物,上記酸化物を備えた薄膜トランジスタの半導体層およびその製造方法,並びに薄膜トランジスタ」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 8月 8日出願公開,特開2013-153118〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成24年3月7日(国内優先権主張 平成23年3月9日,平成23年12月28日)の出願であって,平成27年8月20日付けで拒絶理由の通知がなされ,同年11月24日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされ,平成28年5月12日付けで拒絶査定がなされ,これに対して同年9月30日に審判の請求がなされると同時に手続補正がなされた。 そして,当審において,平成29年9月28日付けで平成28年9月30日の手続補正に対して補正の却下の決定がなされるとともに最後の拒絶理由の通知がなされ,平成30年2月1日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。 第2 平成30年2月1日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成30年2月1日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について(補正の内容) (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正により,特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおり補正された。(注:補正箇所に当審で下線を付した。) 「薄膜トランジスタの半導体層に用いられ,In,Zn,およびSnを少なくとも含むIn-Zn-Sn系酸化物であって, 前記In-Zn-Sn系酸化物に含まれる金属元素の含有量(原子%)をそれぞれ,[Zn],[Sn],および[In]としたとき, 下記(イ)のときは下式(1),(3),(4),(6)を満足すると共に, 電子キャリア濃度が10^(15)?10^(18)cm^(-3)の範囲であることを特徴とする薄膜トランジスタの半導体層に用いられるIn-Zn-Sn系酸化物。 (イ)[In]/([In]+[Sn])>0.5 [In]/([In]+[Zn]+[Sn])≦0.3・・・(1) 0.438≦[Zn]/([In]+[Zn]+[Sn])≦0.83・・・(3) 0.1≦[In]/([In]+[Zn]+[Sn])・・・(4) 0.224≦[Sn]/([In]+[Zn]+[Sn])・・・(6)」 (2)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の平成27年11月24日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。 「薄膜トランジスタの半導体層に用いられ,In,Zn,およびSnを少なくとも含むIn-Zn-Sn系酸化物であって, 前記In-Zn-Sn系酸化物に含まれる金属元素の含有量(原子%)をそれぞれ,[Zn],[Sn],および[In]としたとき, 下記(ア)のときは下式(2),(4),(5)を満足し, 下記(イ)のときは下式(1),(3),(4),(6)を満足すると共に, 電子キャリア濃度が10^(15)?10^(18)cm^(-3)の範囲であることを特徴とする薄膜トランジスタの半導体層に用いられるIn-Zn-Sn系酸化物。 (ア)[In]/([In]+[Sn])≦0.5 [In]/([In]+[Zn]+[Sn]) ≦1.4×{[Zn]/([Zn]+[Sn])}-0.5・・・(2) 0.1≦[In]/([In]+[Zn]+[Sn])・・・(4) 0.266≦[Sn]/([In]+[Zn]+[Sn])≦0.345・・・(5) (イ)[In]/([In]+[Sn])>0.5 [In]/([In]+[Zn]+[Sn])≦0.3・・・(1) [Zn]/([In]+[Zn]+[Sn])≦0.83・・・(3) 0.1≦[In]/([In]+[Zn]+[Sn])・・・(4) 0.224≦[Sn]/([In]+[Zn]+[Sn])・・・(6)」 2 補正の適否 (1)補正事項について 本件補正は,本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「In-Zn-Sn系酸化物に含まれる金属元素の含有量」について,「(イ)のとき」のみに限定し,さらに(イ)のときの[Zn]の含有量についてその下限を限定したものであって,補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野および解決しようとする課題が同一であるから,特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで,本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。 (2)本件補正発明 本件補正発明は,上記1(1)に記載したとおりのものである。 (3)引用文献の記載事項と引用発明 ア 引用文献 当審の拒絶の理由である,平成29年9月28日付け拒絶の理由で引用された,本願の最先の国内優先権主張の日(以下「本願優先日」という。)前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である,特開2008-243928号公報(以下「引用文献」という。)には,下記の事項が記載されている。 ・「【0031】 また、上記非晶質酸化物半導体薄膜は、室温付近(例えば、0?40℃)でのキャリア密度が10^(18)cm^(-3)未満であるのが好ましく、より好ましくは2×10^(17)cm^(-3)未満、さらに好ましくは10^(17)cm^(-3)未満、特に好ましくは5×10^(16)cm^(-3)未満である。 この理由は、キャリア密度が10^(18)cm^(-3)以上になると、TFTとして駆動しないおそれがある。また、TFTとして駆動しても、ノーマリーオンになったり、閾値電圧が高くなったり、on-off比が小さくなったり、漏れ電流が大きくなったりするおそれがあるからである。」 ・「【0038】 また,本実施形態の非晶質酸化物半導体薄膜は,インジウム,錫,亜鉛及び酸素を含有し,インジウムの原子の数(=[In])と錫の原子の数(=[Sn])と亜鉛の原子の数(=[Zn])の合計に対する前記[Sn]の原子比が,0.1を超え0.2未満のときは下記原子比1を満たし,0.2以上0.3未満のときは下記原子比2を満たす構成としてある。 原子比1 0.1<[In]/([In]+[Sn]+[Zn])<0.5 0.1<[Sn]/([In]+[Sn]+[Zn])<0.2 0.3<[Zn]/([In]+[Sn]+[Zn])<0.8 原子比2 0.01<[In]/([In]+[Sn]+[Zn])<0.3 0.2≦[Sn]/([In]+[Sn]+[Zn])<0.3 0.4<[Zn]/([In]+[Sn]+[Zn])<0.8 【0039】 上記原子比1において,[In]/([In]+[Sn]+[Zn])は,好ましくは0.1?0.5,より好ましくは0.18?0.48,さらに好ましくは0.2?0.45とするとよい。この理由は,0.1より小さいと,トランジスタを構成した際に移動度が小さくなるおそれがある。また,亜鉛/錫比の変動(これは,[Zn]/[Sn]比の変動をいう。)に敏感になり,大面積におけるトランジスタの特性が不均一になるおそれがある。さらに,ターゲットの抵抗が高くなり,DCスパッタリングでの成膜が困難となるからである。また,0.5より大きいと,キャリア電子が生成しやすくなり,低抵抗化してトランジスタを構成した際に,ノーマリーオンとなったりオンオフ比が小さくなるおそれや結晶化しやすくなるおそれがあるからである。なお,結晶化すると,蓚酸系エッチング液によるエッチング速度が遅くなったりエッチング後に残渣が残るおそれがある。 【0040】 また,上記原子比1において,[Sn]/([In]+[Sn]+[Zn])は,好ましくは0.1?0.2,より好ましくは0.1?0.19,さらに好ましくは0.11?0.19,特に好ましくは0.11?0.18とするとよい。この理由は,0.1より小さいとPAN耐性が失われるおそれがあるからである。また,0.2より大きいと,蓚酸エッチング性が失われたり,面内均一性が低下するおそれがある。また,ターゲットの抵抗が高くなり,DCスパッタができなくなるおそれがあるからである。 【0041】 また,上記原子比1において,[Zn]/([In]+[Sn]+[Zn])は,好ましくは0.3?0.8,より好ましくは0.35?0.75,さらに好ましくは0.4?0.7とするとよい。この理由は,0.3より小さいと蓚酸エッチング性が失われるおそれがあるからである。また,0.8より大きいと,PAN耐性,耐熱性,面内均一性が失われるおそれや結晶化しやすくなるおそれがある。なお,結晶化すると,蓚酸系エッチング液でのエッチング速度が遅くなったりエッチング後に残渣が残るおそれがある。さらに,スパッタリングの場合に成膜速度が遅くなるおそれがあるからである。 【0042】 また,上記原子比2において,[In]/([In]+[Sn]+[Zn])は,好ましくは0.01?0.3,より好ましくは0.05?0.25,さらに好ましくは0.1?0.23とするとよい。この理由は,0.1より小さいと,トランジスタを構成した際に移動度が小さくなるおそれがある。また,亜鉛/錫比の変動(これは,[Zn]/[Sn]比の変動をいう。)に敏感になり,大面積におけるトランジスタの特性が不均一になるおそれがある。さらに,ターゲットの抵抗が高くなり,DCスパッタリングでの成膜が困難となるからである。また,0.3より大きいと,キャリア電子が生成しやすくなり,低抵抗化してトランジスタを構成した際に,ノーマリーオンとなったりオンオフ比が小さくなるおそれや結晶化しやすくなるおそれがあるからである。なお,結晶化すると,蓚酸系エッチング液によるエッチング速度が遅くなったりエッチング後に残渣が残るおそれがある。 【0043】 また,上記原子比2において,[Sn]/([In]+[Sn]+[Zn])は,好ましくは0.2以上0.3未満,より好ましくは0.21?0.29,さらに好ましくは0.22?0.28とするとよい。この理由は,0.2より小さいとPAN耐性が失われるおそれがあるからである。また,0.3より大きいと,蓚酸エッチング性が失われたり,面内均一性が低下するおそれがある。また,ターゲットの抵抗が高くなり,DCスパッタができなくなるおそれがあるからである。 【0044】 また,上記原子比2において,[Zn]/([In]+[Sn]+[Zn])は,好ましくは0.4?0.8,より好ましくは0.45?0.75,さらに好ましくは0.5?0.7とするとよい。この理由は,0.4より小さいと蓚酸エッチング性が失われるおそれがあるからである。また,0.8より大きいと,PAN耐性,耐熱性,面内均一性が失われるおそれや結晶化しやすくなるおそれがある。なお,結晶化すると,蓚酸系エッチング液でのエッチング速度が遅くなったりエッチング後に残渣が残るおそれがある。さらに,スパッタリングの場合に成膜速度が遅くなるおそれがあるからである。 このように,原子比1又は2によりインジウム,錫,亜鉛の量を適正化することによって,リン酸系エッチング液に対して不溶であり,かつ,蓚酸系エッチング液に対して可溶な非晶質酸化物半導体膜とすることができる。」 ・「【0059】 [実施例1] (1)スパッタリングターゲットの製造,及び評価 1.ターゲットの製造 原料として,酸化インジウム粉末と,酸化錫粉末と,酸化亜鉛粉末とを,[In]/([In]+[Sn]+[Zn])が0.20,[Sn]/([In]+[Sn]+[Zn])が0.15,[Zn]/([In]+[Sn]+[Zn])が0.65となるように混合して,これを湿式ボールミルに供給し,72時間混合粉砕して原料微粉末を得た。 得られた原料微粉末を造粒した後,直径10cm,厚さ5mmの寸法にプレス成形して,これを焼成炉に入れ,1400℃,48時間の条件で焼成して,焼結体(ターゲット)を得た。このとき,昇温速度は,3℃/分であった。 2.ターゲットの評価 得られたターゲットにつき,密度,バルク抵抗値を測定した。その結果,理論相対密度は98%であり,四端子法により測定したバルク抵抗値は,80mΩであった。 【0060】 (2)透明半導体薄膜の成膜 上記(1)で得られたスパッタリングターゲットを,スパッタ法の一つであるRFマグネトロンスパッタリング法の成膜装置に装着し,ガラス基板(コーニング1737)上に透明導電膜を成膜した。 ここでのスパッタ条件としては,基板温度;25℃,到達圧力;5×10^(-4)Pa,雰囲気ガス;Ar100%,スパッタ圧力(全圧);4×10^(-1)Pa,投入電力100W,成膜時間20分間,S-T距離95mmとした。 この結果,ガラス基板上に,膜厚が約100nmの透明導電性酸化物が形成された透明導電ガラスが得られた。 なお,得られた膜組成をICP法で分析したところ,[In]/([In]+[Sn]+[Zn])が0.20,[Sn]/([In]+[Sn]+[Zn])が0.15,[Zn]/([In]+[Sn]+[Zn])が0.65であった。 【0061】 (3)透明半導体薄膜の高抵抗化処理 上記(2)で得られた透明半導体薄膜に対して,高抵抗化処理を施した。この高抵抗化処理として,大気中(酸素存在下)280℃で2時間加熱(大気下熱処理)する,酸化処理を行った。 【0062】 (4)透明半導体薄膜の物性の評価 上記(3)で得られた透明半導体薄膜のキャリア濃度,及びホール移動度をホール測定装置により測定した。キャリア濃度は5×10^(16)cm^(-3),ホール移動度は3cm^(2)/Vsであった。また,比抵抗の値は,42Ωcmであった。さらに,比抵抗の面内均一性(面内の最大値/面内の最小値)は,1.05であった。 【0063】 ホール測定装置,及びその測定条件は下記のとおりであった, [ホール測定装置] 東陽テクニカ製:Resi Test8310 [測定条件] 室温(25℃),0.5[T],10^(-4)?10^(-12)A,AC磁場ホール測定 【0064】 さらに,この透明導電性酸化物の透明性については,分光光度計により波長400nmの光線についての光線透過率が85%以上であり,透明性においても優れたものであった。 また,X線結晶構造解析により非晶質であることが確認された。 【0065】 また,PAN耐性や蓚酸エッチング速度などについても評価し,上記各表に示した。 [PAN耐性] PANによるエッチング速度が10nm/分以上のものを×とし,それ以外のものを○とした。ここで,PAN耐性の評価には,35℃のPAN系エッチング液(リン酸91.4wt%,硝酸3.3wt%,酢酸5.3wt%)を用いた。なお,PAN系エッチング液(リン酸,硝酸,酢酸を含むエッチング液)は,通常,リン酸が20?95wt%,硝酸0.5?5wt%,酢酸3?50wt%の範囲にあるものが用いられる。 実施例1の非晶質酸化物半導体薄膜は,上記PAN(PAN系エッチング液)によるエッチング速度が10nm/分未満であり,評価は,○(不溶)であった。 [蓚酸エッチング速度] 蓚酸系エッチング液によるエッチング性として,エッチング速度が20nm/分以上のものを○とし,それ以外のものを×とした。蓚酸系エッチング液として,35℃のITO-06N(関東化学(株))を用いエッチング速度を測定した。なお,150%オーバーエッチング後に顕微鏡観察して残渣の有無を確認した。 実施例1の非晶質酸化物半導体薄膜は,蓚酸系エッチング液によるエッチング速度が400nm/分であり,評価は,○(可溶)であった。また,蓚酸系エッチング後の残渣は,○(残渣無し)であった。 ・・・中略・・・ 【0069】 [実施例5] 実施例5の非晶質酸化物半導体薄膜は,実施例1の作製条件(成膜条件,膜組成原子比,及び,高抵抗化処理)と比べて,膜組成をICP法で分析したところ,[In]/([In]+[Sn]+[Zn])が0.20,[Sn]/([In]+[Sn]+[Zn])が0.23,[Zn]/([In]+[Sn]+[Zn])が0.57であった。なお,この相違点の他は,実施例1の作製条件とほぼ同じとした。 また,上記製作条件にて製作した酸化物半導体薄膜の特性は,図1に示すように,結晶性が非晶質であり,キャリア濃度が8×10^(17)cm^(-3),ホール移動度は17cm^(2)/Vsであった。四端子法により測定した比抵抗の値は,0.5Ωcmであり,比抵抗の面内均一性(面内の最大値/面内の最小値)は,1.10であった。さらに,PANによるエッチング速度が10nm/分未満であり,評価は,○(不溶)であった。また,蓚酸系エッチング液によるエッチング速度が100nm/分であり,評価は,○(可溶)であった。また,蓚酸系エッチング後の残渣は,○(残渣無し)であった。」 ・「【0113】 次に,上述した実施例及び比較例の非晶質酸化物半導体薄膜を用いて,以下のように薄膜トランジスタを製造して,その評価を行った。これら薄膜トランジスタの実施例及び比較例について,説明する。 【0114】 [実施例A1:ボトムゲート型透明薄膜トランジスタ/絶縁体基板] まず,図4に示すように,ガラス基板10上にDCマグネトロンスパッタ法によりAl膜を成膜した。次に,フォトレジストの塗布,フォトマスクを用いたゲート電極25および配線のパターンを露光し,現像液で現像した。続いて,35℃のPAN系エッチング液(リン酸91.4wt%,硝酸3.3wt%,酢酸5.3wt%)を用いたエッチングによりゲート電極25および配線パターンを形成した。 次に,CVD法によりゲート絶縁膜24として,SiNx膜300nmを成膜した。 次に,成膜時間以外は上記実施例1と同じ条件で,厚み30nmの非晶質酸化物半導体薄膜2を成膜した。続いて,フォトレジストを塗布し,フォトマスクを用いた活性層パターンを露光し,現像液で現像した。そして,蓚酸系エッチング液として,35℃のITO-06N(関東化学(株))を用いたエッチングにより,非晶質酸化物半導体薄膜2からなる活性層を形成した。 【0115】 次に,DCマグネトロンスパッタ法によりMo,Alの順に成膜した。続いて,フォトレジストを塗布し,フォトマスクを用いたソース電極22,ドレイン電極23および配線のパターンを露光し,現像液で現像した。そして,35℃のPAN系エッチング液(リン酸91.4wt%,硝酸3.3wt%,酢酸5.3wt%)を用いたエッチングにより,ソース電極22,ドレイン電極23および配線を形成した。 本実施例のボトムゲート型薄膜トランジスタ1は,チャネル長さL=50μm,チャネル幅W=100μmとした。 このボトムゲート型薄膜トランジスタ1は,電界効果移動度;25cm^(2)/Vs,on-off比;105以上,閾値電圧(Vth);+2.0V(ノーマリーオフ)であり,出力特性は明瞭なピンチオフを示した。すなわち,十分良好なトランジスタ特性を有していた。」 ・図1には,実施例1?10に対する,成膜条件,膜組成原子比,高抵抗化処理,半導体薄膜の特性,および,TFT特性を表した以下のものが【表1】として記載されている。 ・図4には,一実施形態に係る,絶縁体基板上に作製したボトムゲート型薄膜トランジスタの要部の概略断面図として以下のものが記載されている。 イ 引用発明 上記アの段落【0038】には,インジウム、錫、亜鉛及び酸素を含有した「非晶質酸化物半導体薄膜」におけるインジウム、錫、亜鉛の含有比率が記載され,段落【0113】ないし【0115】及び図1には,各実施例の「非晶質酸化物半導体薄膜」を用いて製造した薄膜トランジスタの評価が記載されていることから,引用文献には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「インジウム,錫,亜鉛及び酸素を含有し,インジウムの原子の数(=[In])と錫の原子の数(=[Sn])と亜鉛の原子の数(=[Zn])の合計に対する前記[Sn]の原子比が,0.2以上0.3未満のときは, 0.01<[In]/([In]+[Sn]+[Zn])<0.3 0.2≦[Sn]/([In]+[Sn]+[Zn])<0.3 0.4<[Zn]/([In]+[Sn]+[Zn])<0.8 を満たす, 薄膜トランジスタの非晶質酸化物半導体膜。」 (4)対比 引用文献の薄膜トランジスタの構成が記載された図4には,ゲート絶縁膜24上に「非晶質酸化物半導体膜2」が層状に形成されて半導体層として用いる構成が記載され,また,引用発明の「非晶質酸化物半導体膜」は,インジウム,錫,亜鉛及び酸素を含有していることから,下記の相違点1及び2を除いて,本件補正発明の「In,Zn,およびSnを少なくとも含むIn-Zn-Sn系酸化物」に相当する。 そうすると,本件補正発明と引用発明との一致点および相違点は,次のとおりである。 【一致点】 「薄膜トランジスタの半導体層に用いられ,In,Zn,およびSnを少なくとも含むIn-Zn-Sn系酸化物。」 【相違点1】 本件補正発明は,金属元素の組成について, 「前記In-Zn-Sn系酸化物に含まれる金属元素の含有量(原子%)をそれぞれ,[Zn],[Sn],および[In]としたとき, 下記(イ)のときは下式(1),(3),(4),(6)を満足すると共に, 電子キャリア濃度が10^(15)?10^(18)cm^(-3)の範囲であることを特徴とする薄膜トランジスタの半導体層に用いられるIn-Zn-Sn系酸化物。 (イ)[In]/([In]+[Sn])>0.5 [In]/([In]+[Zn]+[Sn])≦0.3・・・(1) 0.438≦[Zn]/([In]+[Zn]+[Sn])≦0.83・・・(3) 0.1≦[In]/([In]+[Zn]+[Sn])・・・(4) 0.224≦[Sn]/([In]+[Zn]+[Sn])・・・(6)」 であるのに対し,引用発明の組成はそのような範囲に特定されていない点。 【相違点2】 本件補正発明は,電子キャリア濃度を「10^(15)?10^(18)cm^(-3)の範囲」としているに対し,引用発明は電子キャリア濃度がそのような範囲に特定されていない点。 (5)判断 ア 相違点1について 引用発明では,In,Sn,Znの組成範囲を, 0.01<[In]/([In]+[Sn]+[Zn])<0.3 0.2≦[Sn]/([In]+[Sn]+[Zn])<0.3 0.4<[Zn]/([In]+[Sn]+[Zn])<0.8 と規定している。 一方,相違点1の組成範囲は,In,Sn,Znの三元図上において, [In]:[Sn]:[Zn]=0.224:0.224:0.552 [In]:[Sn]:[Zn]=0.3:0.224:0.476 [In]:[Sn]:[Zn]=0.3:0.262:0.438 [In]:[Sn]:[Zn]=0.281:0.281:0.438 の4点を頂点とする四辺形として表され,この4点はいずれも引用発明で規定された組成範囲を満足している。(なお,数学的には,引用発明で規定された組成範囲のうち,[In]の上限は0.3より小さく,0.3ちょうどを含まないから,上記4点のうち[In]=0.3となる2点は,正確にいえば満足しないが,0.3を含めるか,0.3を除いて上限を0.2999・・・とするかは,適宜選択できることであり,技術的に有意な差ではない。) そして,引用文献には,[In]が「0.1より小さいと,トランジスタを構成した際に移動度が小さく」なり,「0.3より大きいと、キャリア電子が生成しやすくなり、低抵抗化してトランジスタを構成した際に、ノーマリーオンとなったりオンオフ比が小さく」なり,「蓚酸系エッチング液によるエッチング速度が遅くなったりエッチング後に残渣が残る」こと,[Sn]は「好ましくは0.22?0.28とする」こと,[Zn]は「0.4より小さいと蓚酸エッチング性が失われ」,「0.8より大きいと」,「蓚酸系エッチング液でのエッチング速度が遅くなったりエッチング後に残渣が残」り「スパッタリングの場合に成膜速度が遅くなる」ことが,段落【0042】ないし【0044】に記載されている。 これに対して,本願明細書には,段落【0011】に「本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり,その目的は,TFTのスイッチング特性(TFT特性)に優れ,スパッタリング時のスパッタレートが高く,且つ,ウェットエッチング時に残渣の発生しない」こと,段落【0028】には,式(1)のIn比は「本発明者らの数多くの基礎実験に基づき,整理した結果,導き出されたもの」であり,式(4)のIn比は「高い移動度を確保する」ためのものであること,式(3)は「ウェットエッチング時の残渣発生防止に関連する」ものであること,段落【0036】には,「Zn比の下限は,ウェットエッチング性の観点からは特に限定されないが,エッチングレートが低いほどパターニングに時間がかかることなどを考慮すると,0.40以上であることが好ましく,0.45以上であることがより好ましい」ことは記載されているものの,「(イ)のとき」の実施例としては【表2】に記載されたNo.10?No.12の3例しか記載されておらず,これらの実施例の記載から相違点1の数値範囲としたことによる臨界的な意義があるとは認められない。 そうすると,引用発明において,引用発明で規定された範囲の一部である相違点1の範囲内となる組成にすることは,当業者が適宜成し得たことに過ぎない。 イ 相違点2について 引用文献には,TFTとして動作するためのキャリア密度について,段落【0031】には,「キャリア密度が10^(18)cm^(-3)以上になると、TFTとして駆動しないおそれがある。また、TFTとして駆動しても、ノーマリーオンになったり、閾値電圧が高くなったり、on-off比が小さくなったり、漏れ電流が大きくなったりする」ことが記載されており,また,具体的な実施例1ないし5のキャリア濃度については,9×10^(15)?8×10^(17)cm^(-3)の範囲のものであることが記載されていることから,引用発明の電子キャリア濃度は相違点2の範囲を満たすものである。よって,相違点2は格別のものではない。 ウ 本件補正発明の作用効果について 相違点1および2を総合的に勘案したとしても,上記アに記載したように引用発明もトランジスタ特性,スパッタレート,エッチング後に残渣を考慮していることから,本件補正発明の作用効果も,引用発明,引用文献の記載事項から当業者が予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。 エ まとめ したがって,本件補正発明は,引用発明および引用文献の記載事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (6)本件補正についてのむすび よって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって,上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成30年2月1日にされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願に係る発明は,平成27年11月24日にされた手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるとおりのものであり,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。 2 当審の拒絶の理由 当審の拒絶の理由は,この出願の請求項1に係る発明は,本願優先日前日本国内又は外国において頒布された引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 引用文献:特開2008-243928号公報 3 引用文献 当審の拒絶の理由で引用された引用文献およびその記載事項は,前記第2の[理由]2(3)に記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は,前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から,「In-Zn-Sn系酸化物に含まれる金属元素の含有量」について,「(イ)のとき」のみとした限定と,「(イ)のとき」の[Zn]の含有量についてその下限の限定を除いたものである。 そうすると,本願発明の構成要素である酸化物の金属元素を全て含み,さらに特定の組成範囲に限定した本件補正発明が,前記第2の[理由]2(3)ないし(5)に記載したとおり,引用発明および引用文献の記載事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,引用発明及び引用文献の記載事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
別掲 |
|
審理終結日 | 2018-04-25 |
結審通知日 | 2018-05-08 |
審決日 | 2018-05-23 |
出願番号 | 特願2012-50855(P2012-50855) |
審決分類 |
P
1
8・
572-
WZ
(H01L)
P 1 8・ 121- WZ (H01L) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 竹口 泰裕 |
特許庁審判長 |
深沢 正志 |
特許庁審判官 |
小田 浩 飯田 清司 |
発明の名称 | 薄膜トランジスタの半導体層用酸化物、および上記酸化物を備えた薄膜トランジスタ |
代理人 | 特許業務法人栄光特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人栄光特許事務所 |