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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23F
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23F
管理番号 1344811
異議申立番号 異議2018-700155  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-11-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-02-23 
確定日 2018-08-27 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6185120号発明「粉末茶組成物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6185120号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?7〕について訂正することを認める。 特許第6185120号の請求項1?7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6185120号の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成28年7月15日に特許出願され、平成29年8月4日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成30年2月23日に特許異議申立人阪井文美(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、当審において平成30年4月19日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年6月21日に意見書の提出及び訂正の請求がされ、平成30年7月26日に申立人より意見書が提出されたものである。

第2 訂正の請求についての判断
1 訂正の内容
平成30年6月21日の訂正請求書による訂正の請求は、「特許第6185120号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?7について訂正することを求める。」ものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。

(訂正事項1)
特許請求の範囲の請求項1に「糖を含み、」とあるのを、「糖を含み、糖の合計含有量が粉末茶組成物に対して30?80質量%であり、」に訂正する。
(訂正事項2)
特許請求の範囲の請求項1に「0.01?3分/kg」とあるのを、「0.08?3分/kg」に訂正する。
(訂正事項3)
特許請求の範囲の請求項4の「1?80質量%」とあるのを、「30?70質量%」に訂正する。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
上記訂正事項1は、糖の合計含有量について、「粉末茶組成物に対して30?80質量%」であることを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項1は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項1は、本件特許明細書の段落【0019】に「カテキン類含有原料中及び水性媒体中の糖の合計含有量は、本発明で製造される粉末茶組成物に対して、・・・、30質量%以上が更に好ましく、・・・。また、カテキン類含有原料中及び水性媒体中の糖の合計含有量は、本発明で製造される粉末茶組成物に対して、・・・、80質量%以下がより好ましく、・・・。」(「・・・」は省略を意味する。以下同じ。)と記載されているから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。

(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
上記訂正事項2は、全加熱時間について、カテキン類含有原料1kg当たり、訂正前の「0.01?3分/kg」から、訂正後の「0.08?3分/kg」へと、その範囲を狭めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項2は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項2は、本件特許明細書の段落【0027】に「全加熱時間(造粒工程時間と最終乾燥工程時間の和をいう)は、造粒効率、風味の観点から、カテキン類含有原料1kg当たり、・・・、0.08分/kg以上が更に好ましく、・・・、そして3分/kg以下が好ましく、・・・。」と記載されているから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。

(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的
上記訂正事項3は、カテキン類含有原料及び水性媒体の糖の合計含有量について、訂正前の「1?80質量%」から、訂正後の「30?70質量%」へと、その範囲を狭めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項3は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項3は、本件特許明細書の段落【0019】に「カテキン類含有原料中及び水性媒体中の糖の合計含有量は、本発明で製造される粉末茶組成物に対して、・・・、30質量%以上が更に好ましく、・・・。また、カテキン類含有原料中及び水性媒体中の糖の合計含有量は、本発明で製造される粉末茶組成物に対して、・・・、70質量%以下が更に好ましく、・・・。」と記載されているから、、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項の規定によって準用する第126条第5項に適合するものである。

(4)一群の請求項について
訂正前の請求項1?7は、請求項2?7が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。
したがって、訂正の請求は、一群の請求項ごとにされたものである。

以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?7〕についての訂正を認める。

第3 本件特許発明
上記のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1?7に係る発明(以下「本件発明1?7」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
流動層造粒装置内に70?95℃の熱風を送り込み、流動状態にしたカテキン類含有原料に水性媒体を断続的に噴霧し、噴霧と噴霧中断とを1サイクルとして繰り返し行う造粒工程を備え、
カテキン類含有原料及び水性媒体のうちの少なくとも一方が糖を含み、糖の合計含有量が粉末茶組成物に対して30?80質量%であり、
全加熱時間が、カテキン類含有原料1kg当たり、0.08?3分/kgである、
粉末茶組成物の製造方法。
【請求項2】
水性媒体の噴霧速度が、カテキン類含有原料1kg当たり、60mL/分/kg以下である、請求項1記載の粉末茶組成物の製造方法。
【請求項3】
造粒工程において、1サイクル当たりの噴霧中断時間と噴霧時間との比(噴霧中断時間/造粒時間)が0.05?0.8秒/秒である、請求項1又は2記載の粉末茶組成物の製造方法。
【請求項4】
カテキン類含有原料が糖を含み、カテキン類含有原料中の糖の含有量が30?70質量%である、請求項1?3のいずれか1項に記載の粉末茶組成物の製造方法。
【請求項5】
水性媒体が水である、請求項1?4のいずれか1項に記載の粉末茶組成物の製造方法。
【請求項6】
カテキン類含有原料が、カテキン類源として、茶抽出乾燥物を含む、請求項1?5のいずれか1項に記載の粉末茶組成物の製造方法。
【請求項7】
カテキン類含有原料中の茶抽出乾燥物の含有量が15?60質量%である、請求項6記載の粉末茶組成物の製造方法。」

第4 当審の判断
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1?7に係る特許に対して平成30年4月19日付けで特許権者に通知した取消理由は、要旨次のとおりである。
(1)(進歩性)本件特許の請求項1?7に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された甲第1号証に記載された発明及び甲第2?8号証に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
(2)(実施可能要件)本件特許は、明細書又は特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
(3)(サポート要件)本件特許は、明細書又は特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

甲第1号証:特開昭58-198246公報
甲第2号証:特開2010-68741公報
甲第3号証:特開2005-73557公報
甲第4号証:特開2005-224142公報
甲第5号証:特開2009-201507公報
甲第6号証:特開2015-100785公報
甲第7号証:特開2006-296341公報
甲第8号証:特開2009-219481公報

2 取消理由についての判断
(1)進歩性について
ア 甲第1号証記載の発明
甲第1号証には、以下の記載がある
(ア)「本発明は、風味茶の製造法に関するものである。」(1頁左欄10行)
(イ)「実施例1
煎茶粉15kgを予め冷凍庫で-20℃に冷却した後、リンレックスミルLX-0型(細川鉄工所製)を用い次の様な条件で微粉末とした。粉砕温度-50℃、ローター周速109m/s。この条件で得られた微粉末の粒径は、100μm?50μmのものが9.7%、50μm以下のものが90.3%の割合であった。凍結粉砕によって得られた煎茶微粉末10kgに対し、乳糖2kgの割合で混合。この混合粉末12kgをフローコーターFL60(フロイント産業製)を使用して流動造粒を行った。造粒用のスプレー液は水100部に対しプルラン5部、デキストリン(DE=10)20部を溶解したものを用いた。造粒条件は熱風温度70℃、排風温度3.0℃、スプレー圧3.5kg/cm2、スプレー液使用6.7リットル(筆記体の「l」。以下同じ。)、造粒時間28分間であった。
結果は第1表に示す。」(3頁左下欄4行?右下欄1行)
(ウ)「比較例1
煎茶粉15kgを実施例1と同1条件で微粉末とした。この煎茶微粉末10kgに対し乳糖2kgを加え、フローコーターFL60にて流動造粒を行った。造粒用のスプレー液は水のみであった。造粒条件は熱風温度70℃、排風温度30℃、スプレー圧3.5kg/cm2、スプレー液使用量8.3リットル、造粒時間30分間であった。
結果は第1表に示す。」(3頁右下欄下から3行?4頁左上欄6行)

甲第1号証の実施例1又は比較例1について、本件発明1の記載に倣って整理すると、甲第1号証には以下の発明が、記載されている。

「フローコーターFL60(フロイント産業製)を使用して70℃の熱風を送り込み、流動状態にした煎茶微粉末10kgに対し、乳糖2kgの割合で混合した混合煎茶粉12kgに、水100部に対しプルラン5部、デキストリン(DE=10)20部を溶解した造粒用のスプレー液6.7リットルを用いて流動造粒を行い、
造粒時間28分間である、
風味茶の製造方法。」(以下「甲1発明1」という。)
「フローコーターFL60(フロイント産業製)を使用して70℃の熱風を送り込み、流動状態にした煎茶微粉末10kgに対し、乳糖2kgの割合で混合した混合煎茶粉12kgに、水のみである造粒用のスプレー液8.3リットルを用いて流動造粒を行い、
造粒時間30分間である、
風味茶の製造方法。」(以下「甲1発明2」といい、「甲1発明1」と合わせて「甲1発明」という。)


イ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、
甲1発明の「フローコーターFL60(フロイント産業製)」は、流動造粒を行う装置であるから、本件発明1の「流動層造粒装置」に相当し、同様に「混合煎茶粉」は「カテキン類含有原料」に、「造粒用のスプレー液」は「水性媒体」に、「風味茶」は「粉末茶組成物」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明の「乳糖」、「プルラン」及び「デキストリン(DE=10)」は、糖であるから、甲1発明1の糖の合計含有量は、風味茶に対して25%=[2+〔(5+20)/(100+5+20)〕×6.7]/[10+2+〔(5+20)/(100+5+20)〕×6.7]であり、甲1発明2の糖の合計含有量は、風味茶に対して17%=2/(10+2)である。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致し、相違する。

<一致点>
「流動層造粒装置内に70?95℃の熱風を送り込み、流動状態にしたカテキン類含有原料に水性媒体を噴霧し行う造粒工程を備え、
カテキン類含有原料及び水性媒体のうちの少なくとも一方が糖を含む、
粉末茶組成物の製造方法。」

<相違点1>
造粒工程について、本件発明1は、「断続的に噴霧し、噴霧と噴霧中断とを1サイクルとして繰り返し行」い、「全加熱時間が、カテキン類含有原料1kg当たり、0.08?3分/kgである」のに対して、甲1発明は、断続的に噴霧し、噴霧中断を有しているか不明であり、造粒時間が甲1発明1で28分間、甲1発明2で30分間である点。
<相違点2>
糖の合計含有量について、本件発明1では、「粉末茶組成物に対して30?80質量%であ」るのに対して、甲1発明1では、25%であり、甲1発明2では、17%である点。

(イ)判断
上記相違点について検討する。
<相違点1について>
甲第2号証(【0035】)及び甲第3号証(【0028】)の記載から、造粒工程において、水性媒体を断続的に噴霧し、噴霧と噴霧中断とを1サイクルとして繰り返し行うことが周知であるとしても、甲1発明において、当該造粒工程を適用する動機付けは存在しない。

<本件発明1の奏する効果について>
本件発明1は、本件特許明細書の【0002】?【0006】及び【0056】の【表2】の記載から、断続的な噴霧を行わなかった場合、多くの白色塊状物が発生したのに対し、断続的な噴霧を行った場合、白色塊状物が発生を抑制できるものであるところ、仮に、甲1発明において、上記周知の断続的な噴霧を適用し、甲第2号証の実施例2の糖の使用量を参照して糖の合計含有量を、粉末茶組成物に対して30?80質量%に調整したとしても、断続的な噴霧を行うことで白色塊状物の発生を抑制できるとの知見は、甲第2?8号証に何ら記載されておらず、本件発明1の奏する効果が、甲1発明及び甲第2?8号証記載の事項から想到しうる範囲のものであって格別なものでないとはいえない。

(ウ)小括
したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲第2?8号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものであるとはいえない。

ウ 本件発明2?7について
本件発明2?7は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに特定したものであるから、上記イと同様の理由により、甲1発明及び甲第2?8号証に記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものであるとはいえない。

(2)実施可能要件について
ア 申立人は、本件特許明細書には、糖を含む水性溶媒を使用した粉末茶組成物の製造についての実施例の開示がないから、本件発明1の「カテキン類含有原料及び水性溶媒のうち少なくとも一方に糖を含み」中、糖が含まれている水性溶媒を用いる粉末茶組成物の製造について、その効果が確認できていない旨主張する。
しかし、実施例で効果が確認されたカテキン類含有原料に糖を含んだものを用いる粉末茶組成物の製造は、造粒工程において、カテキン類含有原料に含まれる糖が、断続的に噴霧される水性媒体と触れることで徐々に溶けてバインダーとして機能するものであり、カテキン類含有原料に水性媒体が一次的に接触しているだけで、常に接触した状態とはならない。
そして、糖が含まれている水性溶媒を用いる粉末茶組成物の製造は、糖が含まれている水性溶媒を断続的に噴霧することで、バインダーを徐々に供給するものであるから、上記実施例で効果の確認されたカテキン類含有原料に糖を含んだものを用いる粉末茶組成物の製造と同様のバインダーの作用が期待できると理解できる。そうすると、糖が含まれている水性溶媒を用いる粉末茶組成物の製造は、実施例で確認されたカテキン類含有原料に糖を含んだものを用いる粉末茶組成物の製造と同様の効果を有すると理解される。
したがって、本件特許明細書には、糖が含まれている水性溶媒を用いる粉末茶組成物の製造について、その効果を有することが技術常識から理解できる程度に記載されており、申立人の主張は採用できない。

イ 申立人は、本件発明1の「カテキン類含有原料」について、本件特許明細書では、茶葉粉砕物を使用した粉末茶組成物の実施例の開示がないところ、甲第2号証の【0017】の記載を参酌すると、茶葉粉砕物と茶抽出物とでは、物性が異なることから、茶葉粉砕物を含むカテキン類含有組成物においても白色条塊状物の発生が抑制できることは、本件特許明細書からは理解できない旨主張する。
しかし、流動層造粒では、流動状態のカテキン類含有原料は乾燥しており、水性媒体が断続的に噴霧されると、カテキン類含有原料に水性媒体が一次的に接触しているだけで、常に接触した状態にないから、茶粉砕物を水に投入した時のように水を吸収して膨潤することはない。したがって、水性媒体が断続的に噴霧されたときの茶抽出物と茶粉砕物との作用は、同様であると理解できるから、粉末茶組成物においても、白色条塊状物の発生が抑制できると理解でき、申立人の主張は採用できない。

ウ 申立人は、本件特許明細書の【0025】、【0036】及び【表2】?【表5】の記載はあるが、本件発明1の「全加熱時間が、カテキン類含有原料1kg当たり、0.01?3分/kgである」ことは、本件特許明細書中にその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない旨主張する。
しかし、流動層造粒において、製造スケールにより造粒時間及び最終乾燥時間が変動し、造粒物が受ける熱履歴を一定に制御することが困難であることは技術常識であるから、製造スケールが異なっても変動のない「カテキン類含有原料1kg当たり」の「全加熱時間」「分/kg」を指標として熱履歴を表現するものである。
そして、製造スケールにより造粒時間及び最終乾燥時間が変動することが技術常識であるところ、【表5】には、カテキン類含有原料が3.0kgのときに、(全加熱時間/カテキン類含有原料)が2.7分/kgであり、カテキン類含有原料が95.0kg及び190.0kgのときに、(全加熱時間/カテキン類含有原料)が0.14分/kgであることが発明の詳細な説明に記載されており、(全加熱時間/カテキン類含有原料)は、カテキン類含有原料(製造スケール)により、適宜調整されることが理解できる。
そうすると、【表1】?【表5】には、カテキン類含有原料の量と(全加熱時間/カテキン類含有原料)との関係が種々具体的に示されているところ、当該記載を参酌すれば、カテキン類含有原料の量に応じて、本件発明1の「全加熱時間が、カテキン類含有原料1kg当たり、0.08?3分/kg」の範囲で、本件発明1を実施できることは、理解できる。したがって、申立人の主張は採用できない。

(3)サポート要件について
ア 申立人は、本件特許明細書には、糖を含んだ水性溶媒を使用した粉末茶組成物の製造についての実施例の開示がないから、本件発明1は、明細書に記載した範囲内のものであるとはいえない旨主張する。
しかし、上記(2)アで検討したのと同様に、本件特許明細書には、糖が含まれている水性溶媒を用いる粉末茶組成物の製造について、その効果を有することが技術常識から理解できるから、本件発明1は、明細書に記載した範囲内のものである。

イ 申立人は、本件特許明細書には、茶葉粉砕物を使用した粉末茶組成物の実施例の開示がないところ、茶葉粉砕物は精製された抽出物とは物性が異なるため、茶葉抽出乾燥物のみの実施例から茶葉粉砕物を含有したものについてまで本件発明の課題が解決できるとは認識できないから、本件発明1は、本件特許明細書に記載したものであるとはいえない旨主張する。
しかし、 上記(2)イで検討したのと同様に、本件特許明細書は、粉末茶組成物においても、白色条塊状物の発生が抑制できることが理解できるから、本件発明1は、明細書に記載した範囲内のものである。

ウ 申立人は、請求項1には、「全加熱時間が、カテキン類含有原料1kg当たり、0.01?3分/kgである・・」との記載があるが、この限定は過度に広範であり、本件特許明細書には、特定の実施例が確認されているのみであって、1kg当たり、0.01?3分/kgの全範囲において、課題が解決できるとは認識できないから、本件発明1は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載された範囲内のものではない旨主張する。
しかし、上記(2)ウで検討したのと同様に、本件特許明細書は、カテキン類含有原料の量に応じて、本件発明1の「全加熱時間が、カテキン類含有原料1kg当たり、0.08?3分/kg」の範囲で、本件発明1を実施できることは理解できるから、本件発明1は、明細書に記載した範囲内のものである。

3.むすび
上記のとおり、本件発明1?7は、甲1発明及び甲第2?8号証記載の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、請求項1?7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、取り消されるべきものであるとはいない。
また、本件発明1?7に係る特許は、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号の規定を満たしているから、取り消されるべきものであるとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、本件発明1?7に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流動層造粒装置内に70?95℃の熱風を送り込み、流動状態にしたカテキン類含有原料に水性媒体を断続的に噴霧し、噴霧と噴霧中断とを1サイクルとして繰り返し行う造粒工程を備え、
カテキン類含有原料及び水性媒体のうちの少なくとも一方が糖を含み、糖の合計含有量が粉末茶組成物に対して30?80質量%であり、
全加熱時間が、カテキン類含有原料1kg当たり、0.08?3分/kgである、
粉末茶組成物の製造方法。
【請求項2】
水性媒体の噴霧速度が、カテキン類含有原料1kg当たり、60mL/分/kg以下である、請求項1記載の粉末茶組成物の製造方法。
【請求項3】
造粒工程において、1サイクル当たりの噴霧中断時間と噴霧時間との比(噴霧中断時間/造粒時間)が0.05?0.8秒/秒である、請求項1又は2記載の粉末茶組成物の製造方法。
【請求項4】
カテキン類含有原料が糖を含み、カテキン類含有原料中の糖の含有量が30?70質量%である、請求項1?3のいずれか1項に記載の粉末茶組成物の製造方法。
【請求項5】
水性媒体が水である、請求項1?4のいずれか1項に記載の粉末茶組成物の製造方法。
【請求項6】
カテキン類含有原料が、カテキン類源として、茶抽出乾燥物を含む、請求項1?5のいずれか1項に記載の粉末茶組成物の製造方法。
【請求項7】
カテキン類含有原料中の茶抽出乾燥物の含有量が15?60質量%である、請求項6記載の粉末茶組成物の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-08-17 
出願番号 特願2016-139863(P2016-139863)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A23F)
P 1 651・ 536- YAA (A23F)
P 1 651・ 537- YAA (A23F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 宮岡 真衣  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 井上 哲男
佐々木 正章
登録日 2017-08-04 
登録番号 特許第6185120号(P6185120)
権利者 花王株式会社
発明の名称 粉末茶組成物の製造方法  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  
代理人 特許業務法人アルガ特許事務所  

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