• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C01F
審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  C01F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C01F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C01F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C01F
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  C01F
管理番号 1344828
異議申立番号 異議2017-700961  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-11-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-10-05 
確定日 2018-09-04 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6114416号発明「アルカリ土類金属水酸化物粉末及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6114416号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第6114416号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6114416号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成24年3月21日に出願した特願2012-64157号の一部を平成28年1月26日に新たな特許出願としたものであって、平成29年3月24日に特許の設定登録(特許掲載公報発行日 平成29年4月12日)がされたものであり、その後の経緯は以下のとおりである。

平成29年10月 5日付け 特許異議の申し立て(全請求項について)
特許異議申立人 牧野 俊介
甲第1ないし15号証を添付
平成29年11月30日付け 取消理由通知
平成30年 2月 2日付け 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
平成30年 3月13日付け 意見書の提出(特許異議申立人)
参考資料1ないし6を添付
平成30年 4月19日付け 取消理由通知(決定の予告)
平成30年 6月22日付け 意見書の提出(特許権者)
乙第1ないし5号証を添付

第2 訂正請求について
決定の予告に対して訂正請求はなかったので、平成30年2月2日付けの訂正請求について検討する。

1.訂正の内容
(1)訂正事項1
訂正前請求項1の
「下記一般式(1):
A(OH)_(2)・xH_(2)O (1)
(式中、Aはバリウムであり、xは0である。)
で表され、
BET比表面積が0.4?1.2m^(2)/gであり、{(タップ密度-かさ密度)/タップ密度}×100で示される圧縮度が1.5?25%であり、島津製作所製のアキュピックII1340を用いて測定される真密度が4.40?4.55g/cm^(3)であり、
アルカリ土類金属炭酸塩及びアルカリ土類金属酸化物の含有量が2質量%以下である、ことを特徴とするアルカリ土類金属水酸化物粉末。」
を、
「下記一般式(1):
A(OH)_(2)・xH_(2)O (1)
(式中、Aはバリウムであり、xは0である。)
で表され、
BET比表面積が0.4?1.2m^(2)/gであり、{(タップ密度-かさ密度)/タップ密度}×100で示される圧縮度が1.5?25%であり、島津製作所製のアキュピックII1340を用いて測定される密度が4.40?4.55g/cm^(3)であり、
炭酸バリウム及び酸化バリウムの含有量が2質量%以下であり、
XRDの回折ピークを有する、ことを特徴とするアルカリ土類金属水酸化物粉末。」
に訂正する。
(2)訂正事項2
訂正前明細書の【0025】の「真密度」(4ヶ所)を「密度」に訂正し、同【0025】の「アキュピックII1340(島津製作所製)を用いて求められる。」を「アキュピックII1340(島津製作所製)を用いて求められる(以下、この密度を「真密度」ともいう。)。」に訂正する。
ここで、上記下線部は訂正箇所である。

2.訂正の適否
(1)訂正事項1
a)本件特許明細書【0025】には「・・・真密度ρは、Aがバリウムの場合、4.40?4.55g/cm^(3)であることが好ましく、4.45?4.50g/cm^(3)であることが更に好ましい。・・・この真密度は、アキュピックII1340(島津製作所製)を用いて求められる。・・・」と記載され、本件特許に係る出願について提出された審判請求書に添付された「島津製作所の粉体測定機器」の「総合カタログ」(27,33頁)である「参考資料A」には、「アキュピックII1340」とその計測原理について次の記載がある。

<参考資料Aの記載事項>

上記記載から、「アキュピックII1340」が「乾式密度測定装置」の特定の商標名(型番)であり、当業者に周知の「定容積膨張法」を測定方法とするものであり(上記参考資料Aの27頁)、同「定容積膨張法」では、気体を用いて測定されたサンプル粒子の体積と該粒子の質量とからサンプル粒子の密度を測定するところ、該粒子の内部に、該粒子の外部と連通していない細孔が存在する場合には、その細孔内の体積を測定することができないので、該方法で測定された密度と、物質自身が占める体積から算出した密度として定義される一般的な真密度とは技術的に一致しない場合があるものといえる(上記参考資料Aの33頁)。
すると、訂正前の「島津製作所製のアキュピックII1340を用いて測定される真密度が4.40?4.55g/cm^(3)であり」の「真密度」との記載は、一般的にいう真密度を必ず意味するものとはいえず、あくまで「密度」を意味するものであるといえるので、訂正後に「島津製作所製のアキュピックII1340を用いて測定される密度が4.40?4.55g/cm^(3)」とすることは、密度に関する技術的に不明瞭な記載を明確にするものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえるので、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号の規定に適合するものである。
また、上記訂正事項は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものであり、さらに、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。

b)本件特許明細書【0027】には「・・・本発明のアルカリ土類金属水酸化物粉末の他の特性として、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等のアルカリ土類金属炭酸塩や、酸化ストロンチウム、酸化バリウム等のアルカリ土類金属酸化物といった不純物の含有量が少ないことも挙げられる。具体的には、これらの不純物の含有量は、好ましくは2質量%以下であり、更に好ましくは1.5質量%以下であり、一層好ましくは1.3質量%以下であり、最も好ましくは1.1質量%以下である。」と記載され、本件発明の「アルカリ土類金属水酸化物粉末」は、「アルカリ土類金属炭酸塩」として「炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等」を含み得るものであり、「アルカリ土類金属酸化物」として「酸化ストロンチウム、酸化バリウム等」を含み得るものである。
ここで、本件発明は、「一般式(1):A(OH)_(2)・xH_(2)O (1)(式中、Aはバリウムであり、xは0である。)」で表される「アルカリ土類金属水酸化物粉末」に関するものであって、A(アルカリ土類金属)がバリウムに限定されているから、上記「アルカリ土類金属水酸化物粉末」は「アルカリ土類金属炭酸塩及びアルカリ土類金属酸化物」からなる不純物のうち、「炭酸バリウム及び酸化バリウム」以外の不純物を含むことはあり得ないものであるところ、訂正前の「アルカリ土類金属炭酸塩及びアルカリ土類金属酸化物」は「炭酸バリウム及び酸化バリウム」以外の不純物を包含するものであったので、訂正後に「炭酸バリウム及び酸化バリウム」とすることで、不純物として含まれるものがそれらであることを明確にしたものである。
したがって、「アルカリ土類金属炭酸塩及びアルカリ土類金属酸化物」を「炭酸バリウム及び酸化バリウム」とする訂正は明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえるので、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号の規定に適合するものである。
また、上記訂正事項は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものであり、さらに、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。

c)「アルカリ土類金属水酸化物粉末」である「水酸化バリウム粉末」を得る実施例に関して、本件特許明細書【0056】には、実施例1について、「得られた水酸化バリウム粉末の走査型電子顕微鏡像及びXRDチャートを図1及び図2に示す。図2に示すXRDチャートから、得られた水酸化バリウム粉末は、無水物と同様の回折ピークを有することが確認された。」と記載され、同【0057】には、実施例2について、「得られた水酸化バリウム粉末の走査型電子顕微鏡像及びXRDチャートを図3及び図4に示す。図4に示すXRDチャートから、得られた水酸化バリウム粉末は、無水物と同様の回折ピークを有することが確認された。」と記載され、本件発明の実施例においては、「アルカリ土類金属水酸化物粉末」である「水酸化バリウム粉末」はXRDの回折ピークを有するものであることが記載されている。
すると、訂正後において「XRDの回折ピークを有する」ことを追加して特定事項とすることは、「アルカリ土類金属水酸化物粉末」である「水酸化バリウム粉末」の物性を更に具体的に限定して特定するものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえるので、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号の規定に適合するものである。
また、上記訂正事項は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものであり、さらに、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、上記訂正事項1の特許請求の範囲の訂正に対応して、本件特許明細書の【0025】において、訂正前の「真密度」(4ヶ所)を訂正後の「密度」とし、同訂正前の「アキュピックII1340(島津製作所製)を用いて求められる。」を訂正後の「アキュピックII1340(島津製作所製)を用いて求められる(以下、この密度を「真密度」ともいう。)。」とするものであり、密度に関する技術的に不明瞭な記載を明確にするものといえるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえるので、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号の規定に適合するものである。
また、上記訂正事項は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合するものであり、さらに、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合するものである。

(3)一群の請求項について
訂正事項1に係る訂正前の請求項1ないし6について、訂正前の請求項2ないし6はそれぞれ請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、訂正事項1により記載が訂正される訂正前の請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1ないし6に対応する訂正後の請求項1ないし6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
また、訂正事項2は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、これは一群の請求項1ないし6の全てに関係する訂正である。
したがって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。

3.訂正の適否についての結び
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正を認める。

第3 本件訂正発明について
上記のように本件訂正が認められるので、特許第6114416号の請求項1ないし6に係る発明は、それぞれ、その訂正特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された以下のとおりのものである。 以下、請求項の順に「本件訂正発明1ないし6」といい、全体を総称して「本件訂正発明」という。

【請求項1】
下記一般式(1):
A(OH)_(2)・xH_(2)O (1)
(式中、Aはバリウムであり、xは0である。)
で表され、
BET比表面積が0.4?1.2m^(2)/gであり、{(タップ密度-かさ密度)/タップ密度}×100で示される圧縮度が1.5?25%であり、島津製作所製のアキュピックII1340を用いて測定される密度が4.40?4.55g/cm^(3)であり、
炭酸バリウム及び酸化バリウムの含有量が2質量%以下であり、
XRDの回折ピークを有する、ことを特徴とするアルカリ土類金属水酸化物粉末。
【請求項2】
平均粒子径が0.5?7.0μmである請求項1に記載のアルカリ土類金属水酸化物粉末。
【請求項3】
安息角が50度以下である請求項1又は2に記載のアルカリ土類金属水酸化物粉末。
【請求項4】
純度が95質量%以上である請求項1ないし3のいずれか一項に記載のアルカリ土類金属水酸化物粉末。
【請求項5】
請求項1に記載のアルカリ土類金属水酸化物粉末の製造方法であって、
下記一般式(4):
A(OH)_(2)・nH_(2)O (4)
(式中、Aはバリウムであり、nは1≦n≦8である。)
で表されるアルカリ土類金属水酸化物水和物(III)粉末を、減圧下に温度100?150℃で振動させながら加熱して下記一般式(1):
A(OH)_(2)・xH_(2)O (1)
(式中、Aはバリウムであり、xは0である。)
で表されるアルカリ土類金属水酸化物粉末を得る工程を含む、ことを特徴とするアルカリ土類金属水酸化物粉末の製造方法。
【請求項6】
前記加熱を、ゲージ圧で-0.07MPa以下の減圧下で行う請求項5に記載のアルカリ土類金属水酸化物粉末の製造方法。

第4 取消理由/異議申立理由の概要
特許異議申立人は、以下の甲各号証を提出し、特許異議申立ての理由として、次のA-1ないしDについて主張し、当審はこれら全てを取消理由とし、さらに、申立理由A-1に関する補足も新たな取消理由Eとして通知した。

<取消理由/異議申立理由>
A-1.甲第1号証を主引例とした新規性違反
本件発明1ないし4に係る特許は、甲第2号証、甲第3号証の1、甲第3号証の2、甲第4号証、甲第10号証、甲第11号証、甲第12号証及び甲第14号証を参酌すれば、同発明が、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、取り消されるべきものである。
A-2.甲第1号証を主引例とした進歩性違反
本件発明1ないし4に係る特許は、同発明が、甲第1号証に記載された発明及び他の証拠(甲第2号証、甲第3号証の1、甲第3号証の2、甲第4号証、甲第10号証、甲第11号証、甲第12号証及び甲第14号証)に記載の技術手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、取り消されるべきものである。
B.甲第4号証を主引例とした進歩性違反
本件発明1ないし4に係る特許は、同発明が、甲第4号証に記載された発明及び他の証拠(甲第11号証及び甲第12号証)に記載の技術手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、取り消されるべきものである。
C.甲第5号証を主引例とする進歩性違反
本件発明5ないし6に係る特許は、同発明が、甲第5号証に記載された発明及び他の証拠(甲第6号証ないし甲第9号証)に記載の技術手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、取り消されるべきものである。
D.記載要件違反
本件発明1ないし6に係る特許は、後述の(ア)ないし(エ)の点について、同発明が発明の詳細な説明に記載されたものでなく、または同発明が明確でなく、または発明の詳細な説明の記載が、同発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、特許法第36条第6項第1号、または同項第2号、または同条第4項第1号の規定に適合しない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。
E.A-1に関する補足の取消理由(新規性違反)
本件特許に係る出願の審査段階で提出された平成28年10月4日付け刊行物提出書に添付された「実験成績証明書」には、甲第1号証について追試した結果が記載され、甲第1号証に記載された製造条件で製造された粉末は本件発明1ないし4の粉末にあたるものといえる。
したがって、本件発明1ないし4に係る特許は、同発明が、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、取り消されるべきものである。

==証拠==
<甲各号証>
異議申立書に添付された甲第1ないし15証について以下に記す。
○甲第1号証
Ralph P.Seward,The Melting Point and Heat of Fusion of Barium Hydroxide,J.Am.Chem.Soc.,67(1945), pp.1189-1191
○甲第2号証
M.D.JUDD et al.Monohydrates of Strontium and Barium Hydroxide - Their Preparation and X-Ray Powder Patterns,Journal of Thermal Analysis, vol.3(1971),pp.397-402
○甲第3号証の1
日本薬局方解説書編集委員会、「第十六改正日本薬局方解説書」(平成23年6月26日、(株)廣川書店発行、第A-12?A-13頁
○甲第3号証の2
日本薬局方解説書編集委員会、「第十六改正日本薬局方解説書」(平成23年6月26日、(株)廣川書店発行、第F-6l?F-71頁
○甲第4号証
英国特許出願公開第01000301号明細書
○甲第5号証
H.D.LUTZ et al.,Hydrates of Barium Hydroxide.Preparation,Thermal Decomposition and X-Ray Data,Thermochimica Acta,44(1981),pp.337-343
○甲第6号証
特開平09-025119号公報
○甲第7号証
特開2005-060164号公報
○甲第8号証
特開2004-161600号公報
○甲第9号証
真空化学会発行、「真空化学」、1965年12月、第13巻、第6号、第254?258頁
○甲第10号証
“SOLUBILITIES”,Inorganic and metal-organic compounds,A-Ir, Volume I,American Chemical Society(1958),p.378
○甲第11号証
化学大辞典編集委員会、「化学大辞典5(縮刷版)、昭和52年9月20日、共立出版(株)発行、第36頁
○甲第12号証
Von P.Buck et al.,Kristalldaten von α-Ba(OH)_(2) ,Acta Cryst.(1968), B24,1705-1706
○甲第13号証の1
日本工業規格 化学製品の減量及び残分試験方法(JIS K0067-1992)、平成4年7月31日第1刷、財団法人日本規格協会発行
○甲第13号証の2
日本工業規格 化学製品の水分測定方法(JIS K0068:2001)、平成13年5月31日第1刷、財団法人日本規格協会発行
○甲第14号証
水質試験年報 平成23年度(2011年度)版(第18集)、周南市水質試験結果(平成23年4月1日?平成24年3月31日)、(周南市上下水道局)、第45?46頁(周南都市水道水質センター協議会発行)
○甲第15号証
“A Comprehensive Treatise on Inorganic and Theoretical Chemistry”, J.W. Mellor, Volume III,p.683(1928)

<参考資料>
平成30年3月13日付け意見書(特許異議申立人)に添付された参考資料1ないし6について以下に記す。
○参考資料1
E.H.P.Cordfunke et al.,A study of the phase transitions in Ba(OH)_(2) ,and a comment on the fusion of Sr(OH)_(2) ,Thermochimica Acta,273(1966),pp.1?9
○参考資料2
化学大辞典編集委員会、「化学大辞典8(縮刷版)」、昭和52年9月20日、共立出版(株)、538頁
○参考資料3
化学大辞典編集委員会、「化学大辞典5(縮刷版)」、昭和52年9月20日、共立出版(株)、631?632頁
○参考資料4
A.Friedrich et al.,High-pressure behavior of Ba(OH)_(2) :Phase transitions and bulk modulus,Physical Review B 66(2002),214103-1?214103-8頁
○参考資料5
化学大辞典編集委員会、「化学大辞典9(縮刷版)」、昭和52年9月20日、共立出版(株)、329頁、396?397頁
○参考資料6
米国特許第3082066号明細書

<乙各号証>
平成30年6月22日付け意見書(特許権者)に添付された乙第1ないし5号証について以下に記す。
○乙第1号証
''Chemical Book 水酸化バリウム・1水和物''、[online]、[平成30年6月17日検索]、インターネット
<URL:http://www.chemicalbook.com/ChemicalProuductProperty_JP_CB4318493.htm>
○乙第2号証
化学大辞典3縮刷版、共立出版株式会社、昭和47年9月15日縮刷版第14刷発行、934頁「さんかバリウム」の項
○乙第3号証
日本化学工業株式会社所属の西田貴裕が作成した実験成績証明書
○乙第4号証
工業化学雑誌、第54巻第4冊、16-18頁、昭和26年4月
○乙第5号証
JAPAN ANALYST、vol.22(1973)、255-259頁

第5 取消理由(決定の予告)で通知した取消理由について
本件訂正発明1ないし6に係る特許について、平成30年2月2日付け訂正請求書並びに意見書(特許権者)及び平成30年3月13日付け意見書(異議申立人)の内容を検討したところ、
上記の取消理由のうち取消理由A-1、A-2については、特許権者から、本件訂正発明の「アルカリ土類金属水酸化物粉末」は無定形のものではなく(結晶質)、一方、甲第1号証に記載の「無水水酸化バリウム」の「粉末」は無定形であるから、両者は相違する旨が主張されたが、同粉末の物性に関して両者の相違について十分な説明の無かったところ、異議申立人から、甲第1号証に記載の「無水水酸化バリウム」の製造方法は実質的に本件訂正発明の「アルカリ土類金属水酸化物粉末」の製造方法と同一だから、製造された「無水水酸化バリウム」の物性も本件訂正発明の「アルカリ土類金属水酸化物粉末」と変わらないはずである旨の主張がなされ、同主張は首肯できるものであった。
また、取消理由Dの(ア)ないし(エ)の内の(ウ)についても後記「II.2.」で記すように再度取消理由を通知すべきであると判断した。
そのため、本件訂正発明1ないし6は上記の取消理由のうち取消理由A-1、A-2、Dの(ウ)については平成30年2月2日付け意見書における特許権者の釈明が十分でなく、同発明は特許を受けることができず同発明に係る特許はなお取り消されるべきものであると判断し、取消理由(決定の予告)を通知したものであるが、この取消理由(決定の予告)に対して、平成30年6月22日付けで提出された意見書(特許権者)を参酌し、取消理由A-1、A-2、Dの(ウ)について以下に検討する。

I.取消理由A-1及びA-2について
1.本件訂正発明1について
1-1.甲第1号証の記載事項
甲第1号証の1189頁「Experimental」の項の左欄1行?右欄11行には、次の記載がある。
「Experimental
Materials.-To prepare pure anhydrous barium hydroxide a technical grade of barium hydroxide containing considerable carbonate was dissolved in hot water,fitered and twice recrystallized in Coring alkali resistant glass-ware,precautions being taken to prevent any contact with air containing carbon dioxide.To dehydrate the crystallized octahydrate without fusion most of the hydrate water was removed at room teperature with a vacuum pump.The material was then brought to 100°and the pumping continued for two days.The barium hydroxide prepared by this treatment is a free flowing powder.Gravimetric analysis as barium sulfate corresponded to 99.5% barium hydroxide.Titration with standard hydrochloric acid indicated a barium hydroxide content of 99.3%.This hydroxide dissolved in water to an almost perfectly clear solution,showing that very little carbonate was present.」
(当審訳)「純粋な無水水酸化バリウムを調製するために、かなりの量の炭酸塩を含有するテクニカル・グレードの水酸化バリウムを熱水に溶解し、濾過し、そして、二酸化炭素を含む空気と接触しないように注意しながら、コーニング製耐アルカリ性ガラス製容器中で2回再結晶した。融解することなしに、水酸化バリウムの8水和物の結晶を脱水するために、室温で真空ポンプを用いて殆どの水和水を除去した。その材料を100℃に加熱し、2日間、減圧を続けた。この処理によって調製した水酸化バリウムは自由に流動する粉末(free flowing powder)であった。硫酸バリウムとしての重量分析によれば、99.5%の水酸化バリウムに一致した。標準塩酸による滴定によれば、水酸化バリウム含有量は99.3%であった。この水酸化物は水に溶解して、殆ど完全に清澄な溶液になったので、(同粉末には)炭酸塩が殆ど存在していないことが示されている。」

1-2.甲第1号証に記載された発明(引用発明)
上記甲第1号証の記載事項から、甲第1号証には、「水酸化バリウムの8水和物」を「融解することなし」に「室温」で「真空ポンプ」を用いて殆どの「水和水を除去」し、さらに「100℃に加熱し、2日間、減圧を続」けて得られるものであって、「水酸化バリウム含有量」が「99.3%」ないし「99.5%」であり、「自由に流動する粉末」であって、「水に溶解して」も「殆ど完全に清澄な溶液」となり「炭酸塩が殆ど存在していない」「無水水酸化バリウム粉末」についての記載がある。
したがって、甲第1号証には、
「水酸化バリウムの8水和物を融解することなしに室温で真空ポンプを用いて殆どの水和水を除去し、さらに100℃に加熱し、2日間、減圧を続けて得られるものであって、水酸化バリウム含有量が99.3ないし99.5%であり、自由に流動する粉末であって、水に溶解しても殆ど完全に清澄な溶液となり炭酸塩が殆ど存在していない無水水酸化バリウム粉末。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

1-3.本件訂正発明1と引用発明との対比
引用発明の「無水水酸化バリウム粉末」は、本件訂正発明1の「下記一般式(1):A(OH)_(2)・xH_(2)O (1)(式中、Aはバリウムであり、xは0である。)で表され」る「アルカリ土類金属水酸化物粉末」に相当する。
したがって、本件訂正発明1と引用発明とは、
「下記一般式(1):A(OH)_(2)・xH_(2)O (1)(式中、Aはバリウムであり、xは0である。)で表され」る「アルカリ土類金属水酸化物粉末」である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点)
本件訂正発明1が
「BET比表面積が0.4?1.2m^(2)/gであり、{(タップ密度-かさ密度)/タップ密度}×100で示される圧縮度が1.5?25%であり、島津製作所製のアキュピックII1340を用いて測定される密度が4.40?4.55g/cm^(3)であり、
炭酸バリウム及び酸化バリウムの含有量が2質量%以下であり、
XRDの回折ピークを有する」ものであるのに対して、
引用発明ではそれらの物性について不明な点。

1-4.相違点の検討
引用発明の「無水水酸化バリウム粉末」の物性が、本件訂正発明1の「アルカリ土類金属水酸化物粉末」の物性に相当するか否かについて以下に検討する。
(1)「圧縮度」について
甲第3号証の2のF-70頁には、粉体の流動性について「表2 流動性の尺度」が記載され、同表によれば、「流動性の程度」と「圧縮度」(同頁には、「圧縮度」について、本件特許明細書【0023】に記載の「圧縮度」と同じ定義が記載されている。)との間に相関があり、「流動性の程度」が「普通」以上に流動する粉体である場合には、「圧縮度」は「25%以下」であることが記載されている。
すると、引用発明の「無水水酸化バリウム粉末」は「自由に流動する粉末」であるから、これは「普通」以上に流動し得る粉末であるといえるので、その「圧縮度」は「25%以下」であるといえる。
したがって、本件訂正発明1の「粉末」と引用発明の「粉末」とは「圧縮度」について同等のものといえる。

(2)「炭酸バリウム及び酸化バリウムの含有量が2質量%以下」であることについて
引用発明では、「水酸化バリウム含有量が99.3ないし99.5%」であり、他の不純物を「0.7%」を超えて含み得るものではなく、また、「水に溶解しても殆ど完全に清澄な溶液となり炭酸塩が殆ど存在していない」のだから、少なくとも水にほとんど溶けない「炭酸バリウム」はおよそ存在しておらず、さらに、「酸化バリウム」(BaO)は水と反応すると「水酸化バリウム」(Ba(OH)_(2))になる(乙第2号証)ので、水相中に「酸化バリウム」はおよそ存在しないということができる。なお、引用発明における「%」は実質的に「質量%」を意味するものといえる。
すると、引用発明において「炭酸バリウム及び酸化バリウムの含有量が2質量%以下」であるといえる。
したがって、本件訂正発明1の「粉末」と引用発明の「粉末」とは「炭酸バリウム及び酸化バリウムの含有量」について同等のものといえる。

(3)「XRDの回折ピークを有する」ことについて
i)当事者の主張
引用発明の「無水水酸化バリウム粉末」が「結晶質」であれば、引用発明の「無水水酸化バリウム粉末」は「XRDの回折ピークを有する」と結論できることから、特許異議申立人は、引用発明の「無水水酸化バリウム粉末」は「水酸化バリウムの8水和物」を減圧下で加熱するから、生成した無水の「水酸化バリウム」は「結晶質」であると主張(平成30年3月13日付け意見書5頁「(1)無水水酸化バリウム粉末に「XRDの回折ピークを有する」なる要件を付加した点に関して」を参照)しているのに対して、特許権者は、引用発明の「無水水酸化バリウム粉末」は「水酸化バリウムの8水和物」が無水化の途中で融解していないから結晶質ではないと主張(平成30年6月22日付け意見書3-5頁「a)甲第1号証に記載の水酸化バリウムがXRDの回折ピークを有しないこと」を参照)している。
ii)当事者の主張に対する当審の判断
ア)甲第5号証338頁の「EXPERIMENTAL」の「Starting materials」には、
「β-Ba(OH)_(2) was prepared by dehydration of Ba(OH)_(2)・8H_(2)O in a vacuum(?1 Pa)at 140℃.All preparations were carried out under exclusion of CO_(2).」
(当審訳)「β-Ba(OH)_(2)は真空下(?1Pa)(約-0.1MPa(ゲージ圧))、140℃でBa(OH)_(2)・8H_(2)Oを脱水して調製した。上記すべての調製は、CO_(2)を除いた雰囲気中で行った。」と記載されている。
イ)また、参考資料4の214103-1頁の「II.EXPERIMENT」には、「Pure powder of the β modification of barium hydroxide,β-Ba(OH)_(2),was synthesized using Ba(OH)_(2)・8H_(2)O as the starting material.This was filled in a corundum crucible and placed in a quartz-glass tube under a nitrogen atmosphere,where it was slowly heated to 373K for dehydration.Water vapor was removed by several evacuation cycles.」
(当審訳)「出発物質としてBa(OH)_(2)・8H_(2)Oを用いて、水酸化バリウムのβ変態、Ba(OH)_(2)の純粋な粉末を合成した。Ba(OH)_(2)・8H_(2)Oを鋼玉製の坩堝に満たし、窒素雰囲気下の石英ガラス製管内に設置して、373K(99.9℃)までゆっくりと加熱して脱水した。水蒸気は幾つかの排出サイクルによって除去した。」と記載されている。
ただし、水蒸気の反応系からの排出は、多少の圧力低下を伴うものといえるが、大気圧より低い圧力にまでなっていたかは不明である。
ウ)また、77.9℃を超えたところでBa(OH)_(2)・8H_(2)Oは自身の結晶水に融解(甲第11号証に「八水和物」の「融点77.9℃」と記載あり。)して、最終的に無水水酸化バリウムが生成し、それは「結晶質」である(甲第11号証に「水酸化バリウム」の「無水物は白色無定形の粉末であるが、融解液から単斜晶系の結晶が析出する」と記載あり。)と理解される。
エ)すると、上記の甲第5号証、参考資料4の記載から、Ba(OH)_(2)・8H_(2)Oは、大気圧より低い圧力又は大気圧程度で、100℃か、それ以上の高温下において脱水すると、77.9℃を超えたところで融解し、最終的に水酸化バリウムの一変態であるβ-Ba(OH)_(2)が生成すること、すなわち、結晶質の無水水酸化バリウムが生成することは周知技術であるといえる。
オ)そうすると、引用発明の「無水水酸化バリウム粉末」が、「水酸化バリウムの8水和物」を「融解」して生成したものであれば、それは、甲第11号証の記載と上記の検討から「β-Ba(OH)_(2)」に相当し「結晶質」のものであって、「XRDの回折ピークを有する」といえる。
カ)しかし、引用発明の「無水水酸化バリウム粉末」は、「水酸化バリウムの8水和物を融解することなしに室温で真空ポンプを用いて殆どの水和水を除去し、さらに100℃に加熱し、2日間、減圧を続けて得られるもの」であって、「水酸化バリウムの8水和物」を融解して生成したものではないので、融解すれば結晶質であるといえても、融解しなければ結晶質でないとまではいえないから、引用発明の融解しない「無水水酸化バリウム粉末」が「結晶質」でなく「XRDの回折ピークを有する」ものでないとまではいえない。
iii)新たな観点からの当審の判断
a)上記のように、「水酸化バリウムの8水和物」を減圧下で加熱して無水化する途中で融解したか否かで、得られた「無水水酸化バリウム」が結晶質か否かを議論しても、結局結論は不明なため、当審は、引用発明の「無水水酸化バリウム粉末」の製造方法に着目した。
すると、同方法では、減圧下で室温に維持して一定程度まで水分を除去し、その後に、減圧下で100℃に昇温して無水化するが、甲第2号証によれば、一定程度まで水分を除去したものは「水酸化バリウム1水和物」といえるものであり、それは、参考資料1から、87℃でβ-Ba(OH)_(2)に変態し、253℃までかわらず、かつ、結晶質であり、結果、引用発明の「無水水酸化バリウム粉末」は結晶質であり「XRDの回折ピークを有する」と結論づけられるので、以下詳述する。
b)甲第2号証の398頁の「Experimental」には次の記載がある。
「Figure 1 and 2 show the results obtained on evacuating samples of barium and strontium hydroxide octahydrate,respectively,at room temperature. In the case of barium hydroxide(Fig.1),it can be seen that constant weight is achieved after five hours;the observed weight loss(39.2%)agrees well with the theoretical value(39.9%)for the loss of 7H_(2)O.No further weight loss occurred on pumping for a further twenty-two hours,indicating the high stability of the monohydrate.When the temperature was increased to 100℃ a further loss in weight occurred,so that the final overall weight loss(45.0%)corresponded to that required for the formation of the anhydrous hydroxide(45.7%).」
(当審訳)「第1,2図は、それぞれ水酸化バリウム8水和物と水酸化ストロンチウム8水和物を室温で排気して得られた結果を示す。水酸化バリウムの場合(第1図)は、5時間後に重量が一定となり、観察された重量減少(39.2%)は7H_(2)Oの消失の理論値(39.9%)によく一致した。その後、22時間排気を続けたがそれ以上の重量減少は起こらなかった。このことは、1水和物が高度に安定であることを示している。温度を100℃にあげたとき、更なる重量減少が起こって、その結果、最終の全体的な重量減少(45.0%)は無水水酸化物の生成に必要な重量減少(45.7%)に一致した。」
c)上記b)において、第1図の説明には「Fig.1 Isothermal(room temperature)decomposition,under vacuum,of barium hydroxide octahydrate」(当審訳:第1図 等温(室温)減圧下の水酸化バリウム8水和物の分解)とあるから、「温度を100℃にあげたとき」も減圧状態は続いているといえる。
すると、上記の記載から、甲第2号証には、水酸化バリウム8水和物を排気して5時間経過すると水酸化バリウム1水和物が生成し、さらに減圧下で温度を100℃にあげると水酸化バリウムの無水物が生成することが記載されているといえる。
ここで、甲第2号証前半の工程では室温で維持するから、水酸化バリウム8水和物の融解を経ることなく(甲第11号証には「水酸化バリウム」の「八水和物」の「融点77.9℃」と記載あり。)水酸化バリウム1水和物になっているものといえる。
d)すると、引用発明も、「水酸化バリウムの8水和物を融解することなしに室温で真空ポンプを用いて殆どの水和水を除去し、さらに100℃に加熱し、2日間、減圧を続け」るから、「水酸化バリウム8水和物」を室温減圧して「融解することなしに」「水酸化バリウム1水和物」が生成され、それが減圧下で100℃に加熱されることで「無水水酸化バリウム」になっているといえる。
e)ここで、参考資料1の「3.2 The β-to-α transition」には「the monohydrate Ba(OH)_(2)・1H_(2)O is formed,which decomposes at about 360K(87℃)to β-Ba(OH)_(2).This phase is stable to about 526K(253℃)where it transforms into α-Ba(OH)_(2).」(当審訳:水酸化バリウム1水和物 Ba(OH)_(2)・1H_(2)Oが生成すると、それは87℃でβ-Ba(OH)_(2)に変態し、253℃でα-Ba(OH)_(2)に変態するまで安定である。)と記載されている。
f)したがって、引用発明でも、「水酸化バリウム1水和物」が生成され、それが100℃に加熱されるから、β-Ba(OH)_(2)に変態して253℃以下で安定に存在しているといえる。
g)さらに、参考資料1のTable1には「X-ray powder diffraction data of β-Ba(OH)_(2)」(当審訳:β-Ba(OH)_(2)粉末のX線回折)が記載されており、これは「β-Ba(OH)_(2)」が「回折ピーク」を持つ結晶質であることを示すものといえる。
h)すると、引用発明の「無水水酸化バリウム粉末」は「β-Ba(OH)_(2)」であり、「回折ピーク」を持つ結晶質であるといえる。
i)したがって、本件訂正発明1の「アルカリ土類金属水酸化物粉末」と引用発明の「無水水酸化バリウム粉末」とは「XRDの回折ピークを有する」ことについて同等のものといえる。

(4)「密度」及び「BET比表面積」について
a)本件訂正発明1の「アルカリ土類金属水酸化物粉末」と引用発明の「無水水酸化バリウム粉末」とは、上記(1)ないし(3)で検討したように、本件訂正発明1と引用発明とは、XRDの回折ピークを有すること、圧縮度、不純物(炭酸バリウム及び酸化バリウム)の含有量において一致しており、両者の製造方法が同一であれば、残る「密度」及び「BET比表面積」についても同じはずだから、まず両者の製造方法について検討する。
b)本件訂正発明1の「アルカリ土類金属水酸化物粉末」と引用発明の「無水水酸化バリウム粉末」の両者の製造方法を詳細にみるならば、本件訂正発明1においては、
[態様A](本件特許明細書【0030】)では、「第一工程」で「減圧下に温度70℃以上110℃以下で加熱」し、「第二工程」で「減圧下に温度110℃超300℃以下で加熱」するものであり、
[態様B](本件特許明細書【0031】)では、「減圧下に温度100?150℃で振動させながら加熱」する工程を行うものであるのに対して、
引用発明は、「水酸化バリウムの8水和物を融解することなしに室温で真空ポンプを用いて殆どの水和水を除去し、さらに100℃に加熱し、2日間、減圧を続け」る工程を行うものである。
これに対して引用発明では、「水酸化バリウムの8水和物を融解することなしに室温で真空ポンプを用いて殆どの水和水を除去し、さらに100℃に加熱し、2日間、減圧を続け」るものである。
したがって、本件訂正発明1の「アルカリ土類金属水酸化物粉末」と引用発明の「無水水酸化バリウム粉末」とは、その製造方法において、水酸化バリウムの8水塩を減圧下で加熱するという点では両者は一致するものといえる。
しかし、本件訂正発明1と引用発明とでは、次の点で明らかな相違がある。 i)本件訂正発明1の[態様A]と引用発明とでは、加熱する温度について、前者では、「第一工程」で「70℃以上110℃以下」、「第二工程」で「110℃超300℃以下」で加熱するのに対して、後者では、先に「室温」で、後に「100℃」で加熱している点。
ii)本件訂正発明1の[態様B]と引用発明とでは、前者では「温度100?150℃」で変化させずに、かつ、「振動」させながら加熱するのに対して、後者は先に「室温」で、後に「100℃」に変化させて加熱し、「振動」させない点。
すると、これらの点から、本件訂正発明1の「アルカリ土類金属水酸化物粉末」と、引用発明の「無水水酸化バリウム粉末」の製造方法が同じであるとはいえない。
c)次に、本件訂正発明1と引用発明は、XRDの回折ピークを有すること、圧縮度、不純物(炭酸バリウム及び酸化バリウム)の含有量においては一致するので、製造方法が異なっていても「密度」、「BET比表面積」についても一致するといえるかについて、まず、本件訂正発明1の「密度」「BET比表面積」「圧縮度」について確認する。
c-1)本件訂正発明1における「密度」は、「島津製作所製のアキュピックII 1340を用いて測定される密度」であるところ、同密度は、天びんで計測した試料の質量を、「ボイルシャルルの法則」に基づく「定容積膨張法」により計測した同試料の体積で除算して算出されるものであり、同「密度」は単位体積当たりの質量に関する指標といえる。
(審判請求書に添付された株式会社島津製作所が頒布した粉体測定器の総合カタログの「乾式密度測定装置」の「乾式自動密度計 アキュピックII 1340シリーズ」(27頁)、「定容積膨張法による密度測定」(33頁)を参照。)
c-2)本件訂正発明1における「BET比表面積」は、「粉体の比表面積を求める吸着法の一種」で「粒子表面の割れ目や細孔内の表面積も求められる」ものであり、試料の比表面積に関する指標といえる。
(改訂3版 化学工学辞典、社団法人化学工学会、丸善株式会社、平成9年10月20日発行、437頁)
c-3)本件訂正発明1における「圧縮度」は、「{(タップ密度-かさ密度)/タップ密度}×100で表される。この圧縮度は粉体の流動性の尺度となるものであり、その値が小さいほど流動性が良く、架橋し難い特性を有することを表す。圧縮度の下限値は0%であり、上限値は100%である。圧縮度の定義に用いられる「かさ密度」とは、自然落下によって粉末を一定容器に充填したときの単位体積当たりの質量であり、JIS K 5101-12-1:2004に準拠して測定することができる。具体的には「かさ密度」は、例えば、かさ比重測定器(蔵持科学器械製作所製)を用いて測定することができる。「タップ密度」とは、自然落下させた粉末を一定容器に充填した後、容器にタップによる衝撃を加え、試料の体積変化がなくなったときの単位体積当たりの質量であり、JIS K 5101-12-2:2004に準拠して測定することができる。」(本件特許明細書【0023】、同様の記載は甲第3号証の2 F-70頁にもある。)ものであるから、試料の流動性に関する指標といえる。
d)すると、本件訂正発明1の「密度」は単位体積当たりの質量に関する指標であり、「BET比表面積」は試料の比表面積に関する指標であるが、本件発明1と引用発明とで一致する「XRDの回折ピークを有する」ことは結晶を有するということに止まり、また、「不純物(炭酸バリウム及び酸化バリウム)の含有量」は不純物の含有量をいうことに止まり、それらは、「密度」及び「BET比表面積」と直接的に関係するものとはいえない。
また、仮に、試料の流動性に関する指標である「圧縮度」の値が、本件訂正発明1と引用発明とで一致しているとしても、先のc-1)c-2)c-3)で検討したように、「圧縮度」は試料の流動性の指標であり、「密度」は単位体積当たりの質量に関する指標であり、「BET比表面積」は試料の比表面積に関する指標といえるから、それらは相互に関連するものとはいえないので、「圧縮度」の値が本件訂正発明1と引用発明とで一致していても、そのことのみを根拠として、「密度」及び「BET比表面積」も両者で一致すると結論づける技術的根拠は認められない。
e)以上から、引用発明の「無水水酸化バリウム粉末」の「密度」及び「BET比表面積」が本件訂正発明1のそれらに相当するということはできない。
f)また、引用発明において、「BET比表面積が0.4?1.2m^(2)/g」であるようになし、「島津製作所製のアキュピックII1340を用いて測定される密度が4.40?4.55g/cm^(3)」であるようになすことについては、上記範囲の「BET比表面積」であれば、「水などの液相や粉体などの固相との接触において、接点が好適に保てるため、易溶性及び易反応性」(【0021】)を奏するものであり、上記範囲の「密度」であれば、他の物性とあいまって「BET比表面積が大きく、圧縮度が低く凝集し難い性質を有しており、水への溶け易さ、及び分散のし易さ」(【0018】)を奏するものであり、それらについては、他の甲各号証に記載も示唆もされていないから、設計的事項とはいえず、当業者が容易になし得ることとはいえない。
本件訂正発明1を引用する本件訂正発明2ないし4についても同様である。

1-5.取消理由A-1及びA-2についての本件訂正発明1ないし4に関する結言
以上から、本件訂正発明1ないし4に係る特許は、他の証拠(甲第2号証、甲第3号証の1、甲第3号証の2、甲第4号証、甲第10号証、甲第11号証、甲第12号証及び甲第14号証)を参酌しても、同発明が、甲第1号証に記載された発明でないので特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、甲第1号証に記載された発明及び上記他の証拠に記載の技術手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでないので特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでもないから、取り消されるべきものでない。

II.取消理由Dの(ウ)について
1.取消理由として通知した取消理由Dの(ウ)の記載不備について
記載不備に関して通知した取消理由Dの(ウ)は大略次のようなものであった。
(ウ)請求項1の「アルカリ土類金属炭酸塩及びアルカリ土類金属酸化物の含有量が2質量%以下である」について、本件特許明細書【0027】には種々の「アルカリ土類金属炭酸塩」「アルカリ土類金属酸化物」を一定値以下で含み得ることが記載され、「アルカリ土類金属水酸化物」中の「炭酸バリウム」(アルカリ土類金属炭酸塩)含有量については測定方法が同【0028】に特定されるが、それ以外の「アルカリ土類金属炭酸塩及びアルカリ土類金属酸化物」については「アルカリ土類金属水酸化物」中の含有量の測定方法、測定条件等が不明であり、実施例1及び2の結果を示す【表1】(【0063】)にも、不純物としての「炭酸バリウム」を確認したことが記載されるのみである。
したがって、全ての「アルカリ土類金属炭酸塩及びアルカリ土類金属酸化物」について、それらの「含有量が2質量%以下」となるのか明らかでない。
2.決定の予告で通知された取消理由Dの(ウ)について
a)特許権者は、本件特許明細書【0027】の記載に基づいて、訂正前の「アルカリ土類金属炭酸塩及びアルカリ土類金属酸化物の含有量が2質量%以下」を、訂正後の「炭酸バリウム及び酸化バリウムの含有量が2質量%以下」と訂正したものであるが、同【0028】に記載されるように「炭酸バリウム」については計測方法が明示されているものの、「酸化バリウム」の計測方法については、本件特許明細書に記載も示唆も無く、また、技術常識であることを示す証拠も提出されていないから、「酸化バリウム」が計測できるか否か明らかでなく、「炭酸バリウム及び酸化バリウムの含有量が2質量%以下」となるのか不明であったので、本件訂正発明1及びこれを直接又は間接的に引用する本件訂正発明2ないし4は、「炭酸バリウム及び酸化バリウムの含有量が2質量%以下」について、発明の詳細な説明の記載により裏付けられているものとはいえず、また、実施可能であるものともいえないから、決定の予告で上記の取消理由Dの(ウ)が再度通知されたものである。
b)この点について、取消理由(決定の予告)に対して提出された平成30年6月22日付け意見書(特許権者)の記載を踏まえ、次のように判断する。
「酸化バリウム」(BaO)は水と反応すると「水酸化バリウム」(Ba(OH)_(2))になる(乙第2号証)ので、おおよそ水相中に「酸化バリウム」は存在しないということができる。
そして、本件訂正発明では「水酸化バリウム水和物」を最大で300℃で加熱して(本件特許明細書【0030】)「無水水酸化バリウム」を製造するものであるところ、400℃を超えて加熱しないと「酸化バリウム」は生成されない(乙第3号証)し、また、実際に生成された実施例1、実施例2(同【表1】【0063】)では「炭酸バリウム」の計測値は得られているが「酸化バリウム」の計測値は得られていない。
したがって、本件訂正発明では、生成された「無水水酸化バリウム」中に「酸化バリウム」は存在しないとみるのが妥当である。
また、「酸化バリウム」の含有量については、乙第4又は5号証に記載されるように化学分析、X線解析等で計測され得ることは、周知技術といえる。
したがって、本件訂正発明で生成される「無水水酸化バリウム」は「酸化バリウム」を含まないといえるから、本件特許明細書中に「酸化バリウム」の計測手法について記載される必要性はなく、また、「酸化バリウム」の計測手法それ自体は技術常識である。
c)以上から、記載不備に関する取消理由(ウ)は解消され、本件発明1ないし4に係る特許は、同発明が発明の詳細な説明に記載されたものであり、または発明の詳細な説明の記載が、同発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから、特許法第36条第6項第1号、または同条第4項第1号の規定に適合しない特許出願に対してなされたものでなく、取り消されるべきものでない。

III.その他の取消理由について
1.取消理由Bについて
i)甲第4号証には、次の記載がある。
あ)「Barium hydroxide octahydrate in the form of a melt or as an aqueous solution is fed into the reservoir and passes through the vertical tube into the interior of the hollow plate.」(2頁35?39行)
(当審訳)「水酸化バリウムの8水塩は、溶解すなわち水溶液の形で保存容器に供給され、垂直チューブを介して中空プレートの内部に送られる。」
い)「The following examples illustrate the invention.For convenience the examples are presented in tabular form.The examples were carried out using an apparatus known as a spray dryer wherein molten barium hydroxide octahydrate was fed at the rate given in the table through a spray forming circular plate into the reaction vessel.」(2頁119?126行)
(当審訳)「次の例は本願発明を示すものである。便宜のため、例は表形式で示す。例はスプレードライヤーとして知られる装置を用いて実施され、同装置において、水に溶解された水酸化バリウムの8水塩は、表に記載された供給量で、円板状に形成されたスプレーを通して反応容器へ供給された。」
う)「The plate was caused to rotate about its vertical axis by means of an air turbine,coupled to the circular plate.Heated atmospheric air was passed downwardly through the vessel.The octahydrate was projected from the periphery of the circular plate with an initial velocity of the order 250ft/sec.The faster the plate was rotated,the smaller were the drops of octahydrate projected from the plate and thus the more rapidly were the drops dehydrated by a stream of hot air flowing downwards through the vessel.The hot air was heated by passing it through an electrical heater.」(3頁5?19行)
(当審訳)「円板は空気タービンにより垂直軸の周りに回転し、加熱された空気は反応容器の中を下方へ流れる。水に溶解された水酸化バリウムの8水塩は、初速250ft/secのオーダーで円板の周面から放出される。円板が速く回転すれば、円板の周面から放出される8水塩の液滴は小さくなり、それゆえ、反応容器の中を下方へ流れる加熱された空気の流れにより、更に速く液滴の脱水が進行するのである。空気の加熱は電気ヒーターの中を空気を通すことにより行われる。」
え)3頁のTABLEには、「Example」の「1」ないし「8」が記載され、「Percentage by weight of BaCO_(3) in product」(当審訳)「製品に占める炭酸バリウムの質量%」と、「Number of molecules of water of Crystallisation in Product B Ba(OH)_(2)・“n”H_(2)O」(当審訳)「水酸化バリウムの結晶水のモル数n」について、当該「モル数n」が「0」である場合(Example 1)には、「製品に占める炭酸バリウムの質量%」が「5.1質量%」であることがみてとれるものの、当該「モル数n」が「0」であり、かつ、「製品に占める炭酸バリウムの質量%」が「2.0質量%以下」であるものは存在しないことがみてとれる。
ii)上記あ)ないしえ)の記載からみて、甲第4号証には、水酸化バリウム8水塩の水溶液を、加熱された空気流中に、回転する円板状のスプレードライヤー装置で液滴として放出することで脱水する方法と、同方法により製造された脱水水酸化バリウムの「水酸化バリウムの結晶水のモル数n」と「製品に占める炭酸バリウムの質量%」とが示されているといえる。
したがって、甲第4号証には、
「水酸化バリウム8水塩の水溶液を、加熱された空気流中に、回転する円板状のスプレードライヤー装置で液滴として放出して脱水することで生成された、炭酸バリウムを5.1質量%含む無水水酸化バリウム。」(以下、「引用発明4」という。)が記載されていると認められる。
iii)本件訂正発明1と引用発明4を対比すると、本件訂正発明1の「アルカリ土類金属水酸化物粉末」は「炭酸バリウム及び酸化バリウムの含有量が2質量%以下」であるのに対して、引用発明4の「無水水酸化バリウム」は「炭酸バリウムを5.1質量%含む」点で、少なくとも両者は相違する。
また、本件訂正発明1の「アルカリ土類金属水酸化物粉末」は、本件特許明細書【0030】又は【0031】に記載されるように、水溶液にされていない「粉末」状態のものを減圧下で加熱して製造されるものであって、本件訂正発明1の「アルカリ土類金属水酸化物粉末」と、引用発明4の「水酸化バリウム8水塩の水溶液を、加熱された空気流中に、回転する円板状のスプレードライヤー装置で液滴として放出して脱水する」ことで生成された「無水水酸化バリウム」とは、その製造方法にも明らかに差違があるといえる。
すると、製造方法が相違するから、両者の「BET比表面積」、「圧縮度」、「密度」、「XRDの回折ピーク」の有無、について同じであるとはいえない。
iv)さらに、甲第11号証は、化学大辞典の「水酸化バリウム」の項目をあげたものであり、本件訂正発明1との関係では、「水酸化バリウム」の無水物の真密度が記載されているに止まり、また、甲第12号証(1705頁右欄11?14行、甲第12号証抄訳を参照。)は、特定の仮定の下に計算された「水酸化バリウム」の無水物の密度が記載されているに止まる。
v)そうであれば、本件訂正発明1は、甲第4号証に記載された発明及び他の証拠(甲第11号証及び甲第12号証)に記載の技術手段に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
本件訂正発明1を引用する本件訂正発明2ないし4についても同様である。
したがって、甲第4号証を主引例とする進歩性に関する取消理由Bに理由はない。

2.取消理由Cについて
まず、請求項の記載上、本件訂正発明5ないし6は本件訂正発明1を引用するため、上記「I.取消理由A-1及びA-2」で検討したように、甲第5号証を周知例とする場合には、本件訂正発明1と同様に本件訂正発明5ないし6も容易に発明をすることができたものではないことは明らかである。
しかしながら、甲第5号証には、以下で示すように水酸化バリウムの製造方法が記載されており、当該製造方法の発明から、本件訂正発明1の「アルカリ土類金属水酸化物粉末」を製造する本件訂正発明5ないし6の「アルカリ土類金属水酸化物粉末の製造方法」が容易想到といえる可能性があるので、以下に検討する。
i)甲第5号証には、上記「I.1.1-4.(3)ア)」で示したように、「β-Ba(OH)_(2)は真空下(?1Pa)(約-0.1MPa(ゲージ圧))、140℃でBa(OH)_(2)・8H_(2)Oを脱水して調製した。上記すべての調製は、CO_(2)を除いた雰囲気中で行った。」ことが記載されているものの、本件訂正発明5の「減圧下に温度100?150℃で振動させながら加熱」することの「振動させながら」に相当することは記載されていない。
ii)これに関連して、甲第6ないし9号証をみてみる。
ii-1)甲第6号証には、「【0018】アルミナ水和物へのランタン化合物含浸後のスラリーは、濾過および水洗しても良いし、そのまま乾燥しても良い。含浸スラリ-または濾過ケ-キは次に乾燥を行う。乾燥は水分が蒸発しアルミナ水和物が分解しない温度範囲で有ればよく、一般的な乾燥設備が使用できるが嵩高い細孔容積の大きい遷移アルミナを得るためにアルミナ水和物の凝集の起こりにくい乾燥操作が推奨される。例えば静置炉、エアバス、ベルト炉、ドラムドライヤ-、ロ-タリ-ドライヤ-、スプレ-ドライヤー、フラッシュドライヤ-、気流乾燥器、通気乾燥器、遠赤外線乾燥機、マイクロ波加熱機、マイクロ波減圧乾燥機が使用できる。特に静置炉は設備が安価なため推奨される。」と記載されている。
すると、上記箇所に例示された「乾燥設備」が、仮に、「アルミナ水和物」の「乾燥」を「振動させながら」行うことに相当する手段であったとしても、甲第6号証には、それらが「アルミナ水和物」の結晶水を完全に除去するものである旨の記載も示唆も無いから、甲第6号証における「乾燥」は「アルミナ水和物」の結晶水を完全に除去することを意図するものとはいえない。
ii-2)甲第7号証には、「ハイドロタルサイト」の「乾燥粉」を得るために「【0073】また、上記したような有機溶媒による溶媒の置換または洗浄を行わなくても、乾燥凝集が起こり難い乾燥方法を採用しても良く、例えばスプレードライヤー、流動層乾燥機、真空乾燥機、真空凍結乾燥機あるいは攪拌乾燥機等を用いれば、乾燥凝集の抑制された乾燥粉を得ることができる。」と記載されており、上記箇所には、「ハイドロタルサイト」の「乾燥」を「振動させながら」行うことに相当する手段が記載されてはいるが、同【0002】に「ハイドロタルサイトは、塩基性炭酸マグネシウムアルミニウム水和物の層状鉱物であり、[Mg_(1-X)Al_(X)(OH)_(2)]_(X)・[(CO_(3))_(X/2)・yH_(2)O]_(X)(xは通常0.2?0.33)で示される。具体的な組成としては、Mg_(6)Al_(2)(OH)_(16)CO_(3)・4H_(2)O、Mg_(5)Al_(2)(OH)_(14)CO_(3)・4H_(2)OあるいはMg_(4.3)Al_(2)(OH)_(12.6)CO_(3)・4H_(2)Oなどが知られている。」と記載されるように、目的の「ハイドロタルサイト」は乾燥後であっても結晶水を有するものであることが通常だから、甲第7号証における「乾燥」は「ハイドロタルサイト」の結晶水を完全に除去することを意図するものとはいえない。
ii-3)甲第8号証には、「塩基性炭酸マグネシウム」の「乾燥粉」を得るために「【0080】・・・また、上記したような有機溶媒による溶媒の置換または洗浄を行わなくても、乾燥凝集が起こり難い乾燥方法を採用してもよく、例えば噴霧乾燥機(スプレードライヤー)や流動層乾燥機、真空凍結乾燥機などを用いれば、乾燥凝集の抑制された乾燥粉を得ることができる。」と記載されており、上記箇所には、「塩基性炭酸マグネシウム」の「乾燥」を「振動させながら」行うことに相当する手段が記載されてはいるが、同【0004】に「塩基性炭酸マグネシウムは、工業的に大量に利用されており、化学式はmMgCO_(3)・Mg(OH)_(2)・nH_(2)Oで表される。この化学式におけるm及びnの値については、製造条件等によって変化し一定のものではないが、mは3?5、nは3?8のものが一般的である。また正炭酸マグネシウムはMgCO_(3)・nH_(2)O(n=3)という組成を有しているとされている。」と記載されるように、目的の「塩基性炭酸マグネシウム」は乾燥後であっても結晶水を有するものであるから、甲第8号証における「乾燥」は「塩基性炭酸マグネシウム」の結晶水を完全に除去することを意図するものとはいえない。
ii-4)甲第9号証には、「真空下で乾燥を行う伝導伝熱形式の回転乾燥機」である「コニカル・ブレンダー・ドライヤー」(14頁左欄13-15行)について記載され、「粉粒体と称される形状の材料に適した乾燥装置」(15頁右欄25-26行「(4)諸問題 i)フィルター」)であることが記載されているが、「減率期」(14頁右欄29行)や「限界含水率」(15頁左欄22-23行)といった「粉粒体」の乾燥で用いられる用語により「コニカル・ブレンダー・ドライヤー」の乾燥能力が説明されており、さらに、その具体例として「粉粒状」の「食品添加剤」の脱水(17頁「(5)生産機運転実施例」)について示されているが、無機粉末を乾燥する場合にその結晶水の完全な除去までも行うものであるとまでは示されていない。
すると、同「コニカル・ブレンダー・ドライヤー」は「回転」して乾燥を行うもので、「粉粒体」を回転させて乾燥させるから、「乾燥」を「振動させながら」行うことに相当する手段とみることもできるが、その性能は、無機粉末の結晶水の完全な除去までも目的とするような脱水を意図するものとはいえない。
iii)以上から、甲第6ないし9号証には、結晶水を有する無機化合物粉末から結晶水を完全に除去することは記載されておらず、同粉末の乾燥を「振動させながら」行い、結晶水を完全に除去するとまでの技術が周知技術であるとはいえない。
iv)そして、特許異議申立人は、平成30年3月13日付け意見書に添付の参考資料6には、粉末の乾燥を「振動させながら」行って結晶水を除去することが記載されているから、甲第5号証に記載の発明に、甲第6ないし9号証と共に参考資料6に記載の技術手段を適用して本件訂正発明1の「アルカリ土類金属水酸化物粉末」を製造できる本件訂正発明5ないし6を容易に発明をすることができる旨を主張している。
ここで、同主張の内容は、周知技術とはいえない参考資料6という新たな証拠に基づく主張であり、これを新たな取消理由として採用することには疑義があるが、一応、甲第5号証に記載の発明に、甲第6ないし9号証と共に参考資料6に記載の技術手段を適用して本件訂正発明1の「アルカリ土類金属水酸化物粉末」を製造できる本件訂正発明5ないし6を容易に発明をすることができるか検討する。
参考資料6には次の記載がある。
「(D)Vacuum dehydration-This process is performed by treating solid flakes of commercial barium hydroxide pentahydrate、obtained by chill flaking octahydrate to pentahydrate,in a steam tube vacuum dryer.The flakes are heated and agitated in the vacuum dryer to obtain the barium hydroxide monohydrate.」(3欄10-15行)
(当審訳)「真空脱水-このプロセスは、バリウム水酸化物の8水和物を冷却薄片化して得られる市販のバリウム水酸化物の5水和物を、スチームチューブ真空ドライヤで処理することにより達成される。それらの薄片は、真空ドライヤの中で、加熱され、撹拌されてバリウム水酸化物の1水和物が得られる。」
すると、参考資料6には、対象物を減圧下で「振動させながら」加熱するという操作により、バリウム水酸化物の1水和物を得られることは記載されているが、対象物は「バリウム水酸化物の5水和物」であり、「バリウム水酸化物の8水和物」ではなく、また当該操作により得られるものも「バリウム水酸化物の無水和物」でなく「バリウム水酸化物の1水和物」である。
そうであれば、甲第5号証に記載された発明は「バリウム水酸化物の8水和物」を減圧下で加熱して「β-Ba(OH)_(2)」すなわち「バリウム水酸化物の無水和物」を得るものであるから、操作を加える対象物も、操作による生成物も両者で異なるから、甲第5号証に記載された発明に参考資料6に記載の技術手段を適用する動機付けはなく、仮に適用しても本件訂正発明1の「アルカリ土類金属水酸化物粉末」ができたものとはいえず、本件訂正発明5の「アルカリ土類金属水酸化物粉末の製造方法」に至ることはないというべきである
v)したがって、甲第5号証に記載の発明に甲第6号証ないし甲第9号証もしくは/及び参考資料6に記載の技術手段を適用しても、本件訂正発明5の「アルカリ土類金属水酸化物粉末の製造方法」は当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
本件訂正発明5を引用する本件訂正発明6についても同様である。
したがって、甲第5号証を主引例とする進歩性に関する取消理由Cには理由はない。

3.取消理由Eについて
本件特許に係る出願の審査段階、及び、本件特許に係る出願の原出願(特願2012-64157号)の審査段階で、以下に記す証明書AないしCの3件の甲第1号証に関する実験成績証明書に基づく主張がなされている。

○本件特許に係る出願の審査段階で、匿名の提出者により提出された平成28年10月4日付け刊行物提出書に添付された「実験成績証明書」(以下、「証明書A」という。)
○本件特許に係る出願の原出願(特願2012-64157号)の審査段階で、本件特許権者が提出した平成27年9月4日付け実験成績証明書(以下、「証明書B」という。)
○本件特許に係る出願の審査段階で、本件特許権者が提出した平成28年5月9日付け実験成績証明書(以下、「証明書C」という。)

証明書Aは、第三者により、本件発明が甲第1号証に記載された発明と同一であり、本件発明に特許性のないことを示す目的で提出されたものであり、証明書B及びCは、特許権者により、本件発明及び本件の原出願の発明とが、甲第1号証に記載された発明とは同一ではないことを示す目的で提出されたものである。
当審は念のために証明書Aに加えて証明書BおよびCについても検討し、証明書B及びCに記載されている実験条件は、いずれも、甲第1号証に記載されている製造条件と一致するものではなく、証明書Aに記載されている実験条件のみが甲第1号証に記載されている製造条件と一致するものであるから、証明書Aの結果から、取消理由Eでは、甲第1号証に記載の「無水水酸化バリウム粉末」は、本件訂正発明1ないし4の「アルカリ土類金属水酸化物粉末」と同一物といえると判断し、本件発明1ないし4に係る特許は、同発明が、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、取り消されるべきものであるとした。

そこで、以下では、甲第1号証に記載の「無水水酸化バリウム粉末」が本件訂正発明1ないし4の「アルカリ土類金属水酸化物粉末」と同一物といえるか否かについて、証明書Aについて検討すると共に、念のため、証明書B及びCについても検討したので、詳述する。

(1)証明書Aについて
証明書Aは、刊行物提出書に添付されたもので、作成者の署名及び押印がなく、作成日の記載も無い。
ここで、特許法第120条で準用する同法第151条でさらに準用する民事訴訟法第228条第1項で「文書は、その成立が真正であることを証明しなければならない。」と規定され、同条第4項で「私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定する。」と規定されるところ、そのような署名又は押印が無いところから、証明書Aの成立性には疑義があり、これを証拠として採用することはできない。
したがって、証明書Aによっては、甲第1号証に記載の「無水水酸化バリウム粉末」は、本件訂正発明1ないし4の「アルカリ土類金属水酸化物粉末」と同一物といえると判断できない。
(2)証明書Bについて
証明書Bについては、「3.実験方法、並びに結果及び考察」の記載から、「-0.095MPa(ゲージ圧)」「室温」で「90時間後」の「乾燥減量」が「45.3%」、その後「100℃」にした「48時間後」の「乾燥減量」が「14.4%」であったものであり、更にその後に「乾燥減量」を調べて「14.4%」から変化したかまでは調べていないので、その後の「48時間後」の時点において十分に乾燥していたか否か明らかでなく、これ以降も乾燥が進行する可能性があることから、「48時間後」の時点での粉末が、甲第1号証の記載に沿って生成された乾燥粉末になっているのかは明らかでない。
また、甲第1号証に記載の発明(引用発明)は「水酸化バリウムの8水和物を融解することなしに室温で真空ポンプを用いて殆どの水和水を除去し、さらに100℃に加熱し、2日間、減圧を続け」るものであり、上記証明書Bの実験では、「室温」から「100℃」に加熱するときの「乾燥減量」が「45.3%」であり、その後の加熱で「14.4%」になったもので、「室温」から「100℃」に加熱するときには、差分である「30.9%」の水が存在したことになり、これは「殆どの水和水を除去」した時点であるとはいえないことから、証明書Bの実験条件は、甲第1号証に記載の発明の条件とは一致しない。
したがって、証明書Bをもって、甲第1号証に記載の「無水水酸化バリウム粉末」と、本件訂正発明1ないし4の「アルカリ土類金属水酸化物粉末」とが同一物であるとはいえない。
(3)証明書Cについて
証明書Cについては、「3.実験方法、並びに結果及び考察」の記載から、「-0.095MPa(ゲージ圧)」「室温」で「4日」目の「乾燥減量」が「45.7%」、その後「100℃」にして引き続き「4日」目の「乾燥減量」が「9.1(%)」、「5日」目の「乾燥減量」が「9.1(%)」で、「乾燥減量」が「5日」目のものが「4日」目のものと変化なく、「5日」目のものは十分に乾燥されているといえる。
そして、その粉末の物性は「表II」(証明書2頁)にあるように、少なくとも「結晶水の数」と「密度」において本件訂正発明1ないし4と相違し、また、「図A」のXRDチャートと本件特許明細書の【図2】【図4】と比較すると、これも、相違しているといえる。
また、甲第1号証に記載の発明(引用発明)は「水酸化バリウムの8水和物を融解することなしに室温で真空ポンプを用いて殆どの水和水を除去し、さらに100℃に加熱し、2日間、減圧を続け」るものであり、上記証明書Cの実験では、「室温」から「100℃」に加熱するときの「乾燥減量」が「45.7%」であって、その後の加熱で「9.1%」になったもので、「室温」から「100℃」に加熱するときには、差分である「36.6%」の水が存在したことになり、これは「殆どの水和水を除去」した時点であるとはいえないことから、証明書Cの実験条件は、甲第1号証に記載の発明の条件とは一致しない。
したがって、証明書Cをもって、甲第1号証に記載の「無水水酸化バリウム粉末」と、本件訂正発明1ないし4の「アルカリ土類金属水酸化物粉末」とが同一物であるとはいえない。
(4)取消理由Eについての結言
以上から、証明書AないしCの結果からは、甲第1号証に記載の「無水水酸化バリウム粉末」は、本件訂正発明1ないし4の「アルカリ土類金属水酸化物粉末」と同一物といえず、取消理由Eには理由はない。

4.取消理由Dの(ア)(イ)(エ)について
4-1.取消理由Dの(ア)(イ)(エ)の概略
取消理由Dの(ア)(イ)(エ)の概略は次のようなものであった。
(ア)請求項1の「島津製作所製のアキュピックII1340を用いて測定される真密度」について、「島津製作所製のアキュピックII1340」は「真密度」を計測するものではなく「密度」を計測するものであるのに、請求項の記載上は「真密度」を計測するものになっており、この点で本件発明は不明確であり、また、「島津製作所製のアキュピックII1340」は特定の測定器の商標名(型番)と考えられ、測定器のスペックが変更されると、商標名からは区別できないので、請求項の特定事項として明確でなく、さらに、本件特許明細書における「真密度」は、物理学的ないわゆる「真密度」を意味するのか、単に測定器で計測した値を示すのか、その意味するものが明確でない。
(イ)本件特許明細書【0019】には「前記一般式(1)中のxは、アルカリ土類金属水酸化物の結晶水数から理論乾燥減量(質量%)を求め、理論乾燥減量(質量%)に対する結晶水数をプロットして得られた近似曲線から得られる数式から測定することができる。すなわち、水酸化バリウムにおいては、その水和物の存在の可能性がある0.5、1、2、3、4、5、6、7及び8水和物に基づき、下記式(1)で示される結晶水数と理論乾燥減量との関係の近似曲線を予め求めておき、実測された乾燥減量と近似曲線から結晶水数を決定する。」と記載され、同【0020】に記載の
「x=0.0022W^(2)+0.073W (1)
(式中、xは結晶水数を表し、Wは理論乾燥減量(質量%)を表す。)」は、「結晶水数x」と「理論乾燥減量W」との関係式といえる。
しかし、上記【0019】【0020】の記載からは、「理論乾燥減量」に対応する「実測された乾燥減量」の測定方法についての記載は見いだせず、上記記載から、具体的に「実測された乾燥減量」と「理論乾燥減量W」から「結晶水数x」を決定する方法が明らかでない。
したがって、同式においてW=0のときにのみx=0となるといえるので、W≠0のときに、どのような場合にx=0とできるのか、明らかでなく、本件訂正発明においてW≠0のときに、x=0といえるのはいかなる場合であるのか明らかでない。
(エ)請求項1の「圧縮度」について、本件特許明細書【0023】には「圧縮度は、{(タップ密度-かさ密度)/タップ密度}×100で表される。この圧縮度は粉体の流動性の尺度となるものであり、その値が小さいほど流動性が良く、架橋し難い特性を有することを表す。圧縮度の下限値は0%であり、上限値は100%である。圧縮度の定義に用いられる「かさ密度」とは、自然落下によって粉末を一定容器に充填したときの単位体積当たりの質量であり、JIS K 5101-12-1:2004に準拠して測定することができる。」と記載され、他方で、同【0024】には、「測定は、ASTMに準拠し、タッピング回数は1250回×2ステップ、タッピング高さは3mm、タッピングペースは260回/分に調整する。」と記載されており、「JIS」と「ASTM」の二重の基準に準拠されており、どちらの基準にしたがって測定するのか明らかでなく、また、ASTMに準拠するとしても「Method B1」「Method B2」のいずれによるのか明らかでなく、また、「シリンダー」容量等の測定条件も明らかでない。
したがって、請求項1の「圧縮度」の測定について、どのように測定するのか明らかでない。

4-2.取消理由Dの(ア)(イ)(エ)についての当審の判断
(ア)について
訂正請求により、訂正前の「島津製作所製のアキュピックII1340を用いて測定される真密度が4.40?4.55g/cm^(3)」は、訂正後に「島津製作所製のアキュピックII1340を用いて測定される密度が4.40?4.55g/cm^(3)」とされ、「真密度」を測定するのではなく、「密度」を測定するものであることが明らかにされ、密度に関する技術的に不明瞭な記載が明確にされたものである。
また、上記「第2 2.(1)a)」でみたように、「島津製作所の粉体測定機器」の「総合カタログ」の記載から、「アキュピックII1340」が、当業者に周知の「定容積膨張法」を測定方法とし、同「密度」は、同「定容積膨張法」で得た試料の体積で、試料の質量を除算して得るものであり、請求項の記載上は「密度」は「島津製作所製のアキュピックII1340を用いて測定される」という商標名(型番)により定義されるようにみえるが、その測定手段は実質的に普遍的なものといえ、当業者に一義的に理解される。
また、測定方法自体が変更されるような大きなスペックの変更があれば、「アキュピックII1340」という商標名(型番)が変更されると考えられるから本件発明の範囲外となり、小規模な変更であれば商標名(型番)が変更されないとしても、上記普遍的な計測手段であることに変わりはないから、やはり当業者に一義的に理解され得るものといえる。
したがって、「島津製作所製のアキュピックII1340を用いて測定される密度が4.40?4.55g/cm^(3)」という特定事項は明確であって、(ア)についての記載不備に関する取消理由には理由がない。

(イ)について
i)本件特許明細書【0019】には、「一般式(1):A(OH)_(2)・xH_(2)O (1)(式中、Aはバリウムであり、xは0である。)」の「xは、アルカリ土類金属水酸化物の結晶水数から理論乾燥減量(質量%)を求め、理論乾燥減量(質量%)に対する結晶水数をプロットして得られた近似曲線から得られる数式から測定することができる。すなわち、水酸化バリウムにおいては、その水和物の存在の可能性がある0.5、1、2、3、4、5、6、7及び8水和物に基づき、下記式(1)で示される結晶水数と理論乾燥減量との関係の近似曲線を予め求めておき、実測された乾燥減量と近似曲線から結晶水数を決定する。」と記載されている。
さらに、【0055】【0056】には、「結晶水の数」が「0」となる(【表1】【0063】)「実施例1」における「結晶水の数」の測定方法について記載されており、これは実質的に「乾燥減量」の測定方法について記載されているものといえ、また、「実施例2」について、【0057】には「実施例1と同様の測定を行った」とあるから、実施例1と同様に測定されたものであり、【表1】(【0063】)に「結晶水の数x」が「0」と記載され、【0057】に「XRDチャート」は無水物のそれと同様とも記載されるので、実施例2の結晶水の数xは略「0」といえる。
したがって、「x=0.0022W^(2)+0.073W --(1)」(本件特許明細書【0020】)は、「乾燥減量」「理論乾燥減量W」から結晶水の数xを導き出す具体的手段(手法)にあたる。
ii)以上の本件明細書の記載に対して、特許異議申立人は、実施例2において「乾燥減量W」を実測し、上記(1)式に当てはめれば結晶水数が求められるとして、W=45.7%を代入してx≒8を導出し、実施例2は結晶水がほとんど無い(x≒0)はずなのにx≒0とならず、これはどのような場合であるのか(結晶水が存在するのか否か)不明で、また、水酸化バリウム8水和物は自らが有する結晶水が融解した水中に溶解するから「乾燥減量W」は測定できないはずだから、「乾燥減量W」の測定方法も不明である旨主張する。(特許異議申立書57-58頁)
iii)特許異議申立人の上記主張について検討する。
「乾燥減量W」は、甲第13号証の1の1頁に記載されるJISK0067の「2.一般事項 2.1(2)」に「乾燥減量 試料を乾燥したときの減量を質量百分率で表したもの」と定義され、甲第13号証の2の15頁に記載されるJISK0068の「7.乾燥減量法」の「7.1 要旨」に「試料を約105℃で恒量になるまで加熱乾燥し、乾燥後の減量を量り、その量を水分とする。」と記載されるように技術常識であり、本件発明でいえば、例えばBa(OH)_(2)・8H_(2)O(分子量315.3[g/mol])を無水物にまで乾燥させた場合に減じられる8分子の水(18[g/mol]×8=144[g/mol])のBa(OH)_(2)・8H_(2)Oに対する割合(質量%)で定義され、(乾燥減量W)=(144/315.3)×100=45.7%となり、このとき、上記(1)式より、結晶水の数x=0.0022W^(2)+0.073W=7.9≒8となる。同様に
Ba(OH)_(2)・7H_(2)O W=42.4% x=7.0≒7
Ba(OH)_(2)・6H_(2)O W=38.7% x=6.1≒6
Ba(OH)_(2)・5H_(2)O W=34.4% x=5.1≒5
Ba(OH)_(2)・4H_(2)O W=29.6% x=4.1≒4
Ba(OH)_(2)・3H_(2)O W=24.0% x=3.0≒3
Ba(OH)_(2)・2H_(2)O W=17.4% x=1.9≒2
Ba(OH)_(2)・1H_(2)O W= 9.5% x=0.9≒1となる。
すると、実施例2では、結晶水がほとんど無いのだから、乾燥減量Wは9.5%以下のはずで、特許異議申立人が代入したW=45.7%はBa(OH)_(2)・8H_(2)Oの乾燥減量であり、実施例2の乾燥減量Wとして用いるのは誤りであるといえる。
すなわち、上記(1)式において、W≠0のときにx=0となる場合はないのであって、W≠0のときにx=0となる場合が存在することを前提とする特許異議申立人の主張は失当である。
また、「乾燥減量W」の計測方法も、例えばJISK0068(甲第13号証の2 15頁「7.乾燥減量法」)に「試料を約105℃で恒量になるまで加熱乾燥し、乾燥後の減量を量り、その量を水分とする」と記載されるように周知技術であって、水酸化バリウム8水和物が自らが有する結晶水に融解したとしても、「乾燥減量W」の計測では、恒量となるまで加熱を続けて質量を計測するのだから、「乾燥減量W」は計測され得るものであるといえる。
以上から、(イ)についての記載不備に関する取消理由には理由がない。

(エ)について
特許権者は意見書において、本件特許明細書【0023】【0024】に記載されるとおり、「タップ密度の測定はJIS K5101-12-2:2004に準拠する」ものであり、「シリンダーの容積や充填サンプル量」に関しては上記JISに記載のとおり「それぞれ250mL、及び200±10mL」とし、「タッピング条件」に関してASTMに準拠して「タッピング回数は1250回×2ステップ、タッピング高さは3mm、タッピングペースは260回/分」とするものであり、JISとASTMが混在していても、測定方法及び条件を明示しているのだから、「タップ密度」は一義的に計測できるものといえると、釈明した。
上記釈明からすると、「タップ密度」の測定方法は明らかといえるから、上記取消理由はないといえる。

第6 むすび
以上のとおりであるから、通知した取消理由(申立理由)によっては、本件請求項1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
アルカリ土類金属水酸化物粉末及びその製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種合成反応の材料として有用なアルカリ土類金属水酸化物の粉末及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無機化合物の無水物及びその製造方法に関し、幾つかの提案がなされている。例えば特許文献1には、積層セラミックコンデンサー用ニッケル超微粉を得るための原料となる無水塩化ニッケルに関し、その不純物や平均粒径を特定範囲内とすること、及びこの無水塩化ニッケルを、金属ニッケルを化学処理した後、脱水、乾燥を経て得ることが記載されている。特許文献2には、エンジニアリングプラスチックに熱伝導性及び耐水性等を付与するためのフィラーとして、BET比表面積及び平均粒子径が特定範囲内の無水炭酸マグネシウムフィラーが提案されている。同文献には、この無水炭酸マグネシウムフィラーを得る方法として、中性炭酸マグネシウムをオートクレーブ中で水熱処理した後に乾燥する方法が記載されている。このように、目的に応じて各無機化合物の無水物の特性及びその特性を得るための方法を検討することが必要である。
【0003】
無機化合物のうち、アルカリ土類金属水酸化物は、各種合成反応の材料として使用されている。例えば、有機合成の分野においては、β-ラクタム系抗生物質等の製造のための中間体として重要なチアジアゾリル酢酸誘導体の原料であるチアジアゾリルアセトニトリル類を加水分解するのに使用されている(特許文献3参照)。無機合成の分野においては、誘電体セラミック等の電子材料として使用されるチタン酸バリウムの原料として使用されている(特許文献4参照)。
【0004】
このアルカリ土類金属水酸化物には、含水塩と無水物の双方が存在するものがある。各種合成反応の材料としてアルカリ土類金属水酸化物を使用する場合、原材料中の元素のモル比を正確に調整すること、及び水分の存在を嫌う反応系で使用すること等を勘案すると、無水物を用いることが好ましい場合が考えられる。よって、アルカリ土類金属水酸化物の無水物化について検討する必要があった。
【0005】
アルカリ土類金属水酸化物の無水物化に関し、非特許文献1には、アルカリ土類金属水酸化物のうち水酸化バリウム無水物に関しては、八水塩を真空乾燥することによって一水塩を得ることはできるが、完全に脱水して無水塩を得ることは難しいと記載されている。また同文献には、水酸化バリウム八水塩は550℃で無水物になることが記載されている。したがって、加熱時に水酸化バリウムが自身の結晶水に溶解してしまうことに起因して、水酸化バリウムの結晶どうしが付着してしまうため、反応に好適な形状である粉末状態にすることが困難であった。非特許文献1には、水酸化ストロンチウムについても、八水塩を加熱脱水することによって無水物を得ることができると記載されているが、水酸化バリウムと同様に、実際は、加熱時に水酸化ストロンチウムが自身の結晶水に溶解してしまう問題があった。
【0006】
このような、単に加熱することによって生じる不都合を補うために、特許文献5においては、ベンゼン等の有機溶媒中で水酸化バリウム含水塩を加熱することで無水水酸化バリウムを得る方法が提案されている。この方法によると、水酸化バリウム以外の成分である有機溶媒を使用していることに起因して、不純成分が残存するおそれがある。また使用した有機溶媒の廃棄又は回収に手間がかかる。したがってこの方法は、工業的観点からは優れた方法であるとは言い難い。
【0007】
特許文献6においては、水酸化バリウム八水塩に酸化バリウムを混合して加熱することによって、無水水酸化バリウムを得ることが提案されている。この方法によると、水酸化バリウム八水塩の結晶水と酸化バリウムが反応することによって無水水酸化バリウムが得られる。しかし反応時の温度が、水酸化バリウム八水塩の融点である約78℃以上である80?100℃なので、水酸化バリウム八水塩は溶融状態で酸化バリウムと反応している。したがって、どのような形状の無水水酸化バリウムが得られるのかは不明であり、実際にどのような形状のものが得られたのかまでは同文献では言及されていない。
【0008】
特許文献7には、水酸化バリウム八水塩の水溶液又は溶融液をスプレードライによって乾燥することで、一水塩又は無水物を得ることが提案されている。この方法によれば、スプレードライされていることから、ある程度の粉状の水酸化バリウムが得られることが予想される。しかし、同文献の実施例には、不純物として一定量以上の炭酸バリウムが検出されていることが記載されている。したがって、同文献に記載の方法で得られる水酸化バリウムは、高純度品が必要とされる分野での使用に適していないと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002-348122号公報
【特許文献2】特開2005-272752号公報
【特許文献3】特開2003-201285号公報
【特許文献4】特開2003-252623号公報
【特許文献5】英国特許第851690号明細書
【特許文献6】英国特許第852180号明細書
【特許文献7】英国特許第1000301号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】化学大辞典5、縮刷版第34刷、共立出版株式会社、1993年6月1日、第36頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、各種合成反応に好適に使用できる特性を持ったアルカリ土類金属水酸化物を提供する目的でなされたものであり、液相への溶解性や分散性に優れ、得られる生成物の品質向上に寄与することのできるアルカリ土類金属水酸化物粉末を提供することを課題とする。
また本発明は、前記したアルカリ土類金属水酸化物をシンプルな工程で製造する方法を提供する目的でなされたものであり、高品質、高生産性を満たすことのできる工業的に優れたアルカリ土類金属水酸化物粉末の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、下記一般式(1):
A(OH)_(2)・xH_(2)O (1)
(式中、Aはバリウムであり、xは0である。)
で表され、
BET比表面積が0.4?1.2m^(2)/gであり、{(タップ密度-かさ密度)/タップ密度}×100で示される圧縮度が1.5?25%であり、真密度が4.40?4.55g/cm^(3)であり、
アルカリ土類金属炭酸塩及びアルカリ土類金属酸化物の含有量が2質量%以下である、ことを特徴とするアルカリ土類金属水酸化物粉末を提供するものである。
【0014】
更に本発明は、前記のアルカリ土類金属水酸化物粉末の別の好適な製造方法として、
下記一般式(4):
A(OH)_(2)・nH_(2)O (4)
(式中、Aはバリウムであり、nは1≦n≦8である。)
で表されるアルカリ土類金属水酸化物水和物(III)粉末を、減圧下に温度100?150℃で振動させながら加熱して下記一般式(1):
A(OH)_(2)・xH_(2)O (1)
(式中、Aはバリウムであり、xは0である。)
で表されるアルカリ土類金属水酸化物粉末を得る工程を含む、ことを特徴とするアルカリ土類金属水酸化物粉末の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、液相への溶解性や分散性に優れる、得られる生成物の品質向上に寄与することができる等、各種合成反応に好適に使用できるアルカリ土類金属水酸化物粉末を提供することができる。また本発明によれば、シンプルな工程で前記アルカリ土類金属水酸化物粉末を得ることのできる製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、実施例1で得られた水酸化バリウムの走査型電子顕微鏡像である。
【図2】図2は、実施例1で得られた水酸化バリウムのXRDチャートである。
【図3】図3は、実施例2で得られた水酸化バリウムの走査型電子顕微鏡像である。
【図4】図4は、実施例2で得られた水酸化バリウムのXRDチャートである。
【図5】図5は、実施例3で得られた水酸化ストロンチウムの走査型電子顕微鏡像である。
【図6】図6は、実施例3で得られた水酸化ストロンチウムのXRDチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。本発明におけるアルカリ土類金属水酸化物とは、一般的に水和物及び無水物の存在が知られている水酸化ストロンチウム及び水酸化バリウムが対象となる。
【0018】
本発明のアルカリ土類金属水酸化物は、その外観は固体粒子の集合体である粉末である。この粉末はBET比表面積が大きく、圧縮度が低く凝集し難い性質を有しており、水への溶け易さ、及び分散のし易さを特徴としたものである。具体的には、本発明のアルカリ土類金属水酸化物粉末は、下記一般式(1):
A(OH)_(2)・xH_(2)O (1)
(式中、Aはバリウム及びストロンチウムから選択される1種のアルカリ土類金属であり、xは0≦x≦1である。)
で表され、
Aがバリウムの場合、BET比表面積が0.2?1.5m^(2)/gであり、{(タップ密度-かさ密度)/タップ密度}×100で示される圧縮度が1.5?35%であり、
Aがストロンチウムの場合、BET比表面積が1.5?5m^(2)/gであり、{(タップ密度-かさ密度)/タップ密度}×100で示される圧縮度が10?45%である。
【0019】
前記一般式(1)中、Aで表されるアルカリ土類金属は、先に述べたとおり、Sr及びBaから選択される1種である。また、前記一般式(1)中のxは0以上1以下の数であり、xが1未満であると、アルカリ土類金属水酸化物はその完全な無水物に近づき、後述する液相への高い分散性につながるため好ましい。前記一般式(1)中のxは、アルカリ土類金属水酸化物の結晶水数から理論乾燥減量(質量%)を求め、理論乾燥減量(質量%)に対する結晶水数をプロットして得られた近似曲線から得られる数式から測定することができる。すなわち、水酸化バリウムにおいては、その水和物の存在の可能性がある0.5、1、2、3、4、5、6、7及び8水塩に基づき、下記式(1)で示される結晶水数と理論乾燥減量との関係の近似曲線を予め求めておき、実測された乾燥減量と近似曲線から結晶水数を決定する。水酸化ストロンチウムにおいても、その水和物の存在の可能性がある0.5、1、2、3、4、5、6、7及び8水塩に基づき、下記式(2)で示される結晶水数と理論乾燥減量との関係の近似曲線を予め求めておき、実測された乾燥減量と近似曲線から結晶水数を決定する。
【0020】
x=0.0022W^(2)+0.073W (1)
x=0.0019W^(2)+0.0391W (2)
(式中、xは結晶水数を表し、Wは理論乾燥減量(質量%)を表す。)
【0021】
本発明のアルカリ土類金属水酸化物粉末は、Aがバリウムの場合、BET比表面積が0.2?1.5m^(2)/gであり、好ましくは0.4?1.2m^(2)/gである。一方、Aがストロンチウムの場合、BET比表面積が1.5?5m^(2)/gであり、好ましくは2?4m^(2)/gである。この範囲のBET比表面積を有するアルカリ土類金属水酸化物粉末は、水などの液相や粉体などの固相との接触において、接点が好適に保てるため、易溶性及び易反応性につながる。BET比表面積はBET法によって求められる。測定装置としては、例えば島津製作所製のフローソーブII2300を用いることができる。前記の範囲のBET比表面積を達成するためには、例えば後述する態様A又は態様Bの製造方法を実施すれば良い。
【0022】
本発明のアルカリ土類金属水酸化物粉末は、Aがバリウムの場合、圧縮度が1.5?35%である。一方、Aがストロンチウムの場合、圧縮度が10?45%である。この範囲の圧縮度を有するアルカリ土類金属水酸化物粉末は、水などの液相との接触において、分散性を好適に保つことができる。アルカリ土類金属水酸化物粉末の流動性を高めてハンドリングを高める観点から、この圧縮度はAがバリウムの場合、1.5?30であることが好ましく、1.5?25%であることが更に好ましく、Aがストロンチウムの場合、10?30%であることが好ましい。この範囲の圧縮度を達成するためには、例えば後述する態様A又は態様Bの製造方法を実施すれば良い。
【0023】
圧縮度は、{(タップ密度-かさ密度)/タップ密度}×100で表される。この圧縮度は粉体の流動性の尺度となるものであり、その値が小さいほど流動性が良く、架橋し難い特性を有することを表す。圧縮度の下限値は0%であり、上限値は100%である。圧縮度の定義に用いられる「かさ密度」とは、自然落下によって粉末を一定容器に充填したときの単位体積当たりの質量であり、JIS K 5101-12-1:2004に準拠して測定することができる。具体的には「かさ密度」は、例えば、かさ比重測定器(蔵持科学器械製作所製)を用いて測定することができる。「タップ密度」とは、自然落下させた粉末を一定容器に充填した後、容器にタップによる衝撃を加え、試料の体積変化がなくなったときの単位体積当たりの質量であり、JIS K 5101-12-2:2004に準拠して測定することができる。具体的には「タップ密度」は、例えば、DUAL AUTOTAP(ユアサアイオニクス社製)を用いて測定することができる。
【0024】
圧縮度の具体的な測定方法は、以下のとおりである。かさ比重測定器の受容器(容量30mL)に試料を、ふるいを通して受容器から溢れるまで受ける。過剰分をへらですり切り、受容器に溜まった試料の重量を測定してかさ密度(g/mL)を算出する。次いで、自動T.D測定装置(ユアサイオニクス(株)製、DUAL AUTOTAP)を用い、試料の入ったメスシリンダーに対してタッピングを行う。測定は、ASTMに準拠し、タッピング回数は1250回×2ステップ、タッピング高さは3mm、タッピングペースは260回/分に調整する。タッピング後の試料面の目盛りを読み取り、メスシリンダーの質量を測定してタップ密度(g/mL)を算出する。このようにして求められたかさ密度及びタップ密度から圧縮度を算出する。
【0025】
本発明のアルカリ土類金属水酸化物粉末は、前記したBET比表面積及び圧縮度を有することに加えて、特定範囲の平均粒子径及び安息角を有することが好ましい。具体的には、本発明のアルカリ土類金属水酸化物粉末は、Aがバリウムの場合、一次粒子の平均粒子径が0.5?7.0μmであることが好ましく、1.0?3.5μmであることが更に好ましい。一方、Aがストロンチウムの場合、一次粒子の平均粒子径が0.3?1.2μmであることが好ましく、0.4?0.9μmであることが更に好ましい。この平均粒子径は、D=6/(ρ×S)から求められる。式中、Dは平均粒子径(μm)を表し、ρは密度(g/cm^(3))を表し、SはBET比表面積(m^(2)/g)を表す。“6”は粒子形状を球状又は立方体としたときの係数である。密度ρは、Aがバリウムの場合、4.40?4.55g/cm^(3)であることが好ましく、4.45?4.50g/cm^(3)であることが更に好ましい。Aがストロンチウムの場合、密度ρは、3.40?3.70g/cm^(3)であることが好ましく、3.45?3.65g/cm^(3)であることが更に好ましい。この密度は、アキュピックII1340(島津製作所製)を用いて求められる(以下、この密度を「真密度」ともいう。)。本発明のアルカリ土類金属水酸化物粉末が、上述した範囲の平均粒子径を有する非常に微小な粒子である場合には、水などの液相に対する溶解性及び分散性に優れた特性が発現する。前記の範囲の平均粒子径を達成するためには、例えば後述する態様A又は態様Bの製造方法を実施すれば良い。
【0026】
本発明のアルカリ土類金属水酸化物粉末は、Aがバリウムの場合、安息角が50度以下であることが好ましく、25?50度であることが更に好ましい。Aがストロンチウムの場合、55度以下であることが好ましく、25?55度であることが更に好ましい。この安息角は、アルカリ土類金属水酸化物粉末の流動性を高めてハンドリングを高める観点から、Aがバリウムであるか、それともストロンチウムであるかを問わず、25?45度であることが更に好ましい。この安息角を有するアルカリ土類金属水酸化物粉末は、流動性が高いことから、水などの液相に対する溶解性及び分散性を好適に保つことができる。安息角とは、アルカリ土類金属水酸化物粉末を静かに平面状に落下させて円錐状に堆積させ、この円錐の母線と水平面とのなす角を表し、その値が小さいほど粉体の流動性が高いことを意味する。安息角は、例えばパウダテスタ(ホソカワミクロン社製)を用いて測定することができる。前記の範囲の安息角を達成するためには、例えば後述する態様A又は態様Bの製造方法を実施すれば良い。
【0027】
本発明のアルカリ土類金属水酸化物粉末の他の特性としては、高純度であることが挙げられる。具体的には、本発明のアルカリ土類金属水酸化物粉末は、95質量%以上、特に97質量%以上、とりわけ98質量%以上の純度を有することが好ましい。更に、本発明のアルカリ土類金属水酸化物粉末の他の特性として、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等のアルカリ土類金属炭酸塩や、酸化ストロンチウム、酸化バリウム等のアルカリ土類金属酸化物といった不純物の含有量が少ないことも挙げられる。具体的には、これらの不純物の含有量は、好ましくは2質量%以下であり、更に好ましくは1.5質量%以下であり、一層好ましくは1.3質量%以下であり、最も好ましくは1.1質量%以下である。このような純度を達成するためには、例えば後述する態様A又は態様Bの製造方法を実施すれば良い。
【0028】
アルカリ土類金属水酸化物粉末の純度は、該粉末を、炭酸ガスを含まない水に溶解後、フェノールフタレインを指示薬として用い、HClで滴定して求められる。また、アルカリ土類金属水酸化物粉末に含まれる不純物である炭酸バリウムの量は、ブロモフェノールブルーを指示薬として用い、純度を測定した試料をHClで滴定して求められる(JIS K 1417に準拠)。
【0029】
次いで、本発明のアルカリ土類金属水酸化物粉末の好適な製造方法について説明する。本発明の製造方法には、以下のA及びBの二つの態様がある。
【0030】
〔態様A〕
下記一般式(2):
A(OH)_(2)・yH_(2)O (2)
(式中、Aはバリウム及びストロンチウムから選択される1種のアルカリ土類金属であり、yは3≦y≦8である。)
で表されるアルカリ土類金属水酸化物水和物(I)を、減圧下に温度70℃以上110℃以下で加熱して下記一般式(3):
A(OH)_(2)・zH_(2)O (3)
(式中、Aはバリウム及びストロンチウムから選択される1種のアルカリ土類金属であり、zは1<z<3である。)
で表されるアルカリ土類金属水酸化物水和物(II)を得る第一工程、及び
前記アルカリ土類金属水酸化物水和物(II)を、減圧下に温度110℃超300℃以下で加熱して、下記一般式(1):
A(OH)_(2)・xH_(2)O (1)
(式中、Aはバリウム及びストロンチウムから選択される1種のアルカリ土類金属であり、xは0≦x≦1である。)
で表されるアルカリ土類金属水酸化物を得る第二工程、を含むアルカリ土類金属水酸化物粉末の製造方法。
【0031】
〔態様B〕
下記一般式(4):
A(OH)_(2)・nH_(2)O (4)
で表されるアルカリ土類金属水酸化物水和物(III)を、減圧下に温度100?150℃で振動させながら加熱して下記一般式(1):
A(OH)_(2)・xH_(2)O (1)
(式中、Aはバリウム及びストロンチウムから選択される1種のアルカリ土類金属であり、xは0≦x≦1である。)
で表されるアルカリ土類金属水酸化物を得る工程を含む、ことを特徴とするアルカリ土類金属水酸化物粉末の製造方法。
【0032】
ここで、本発明の製造方法の対象物であるアルカリ土類金属水酸化物粉末は、前記した本発明のアルカリ土類金属水酸化物粉末と同様に、水酸化ストロンチウム及び水酸化バリウムが主たる対象となる。以下、態様A及び態様Bについてそれぞれ説明する。
【0033】
前記アルカリ土類金属水酸化物の製造方法の態様Aの第一工程においては、下記一般式(2):
A(OH)_(2)・yH_(2)O (2)
(式中、Aはバリウム及びストロンチウムから選択される1種のアルカリ土類金属であり、yは3≦y≦8である。)
で表されるアルカリ土類金属水酸化物水和物(I)を準備する。アルカリ土類金属水酸化物水和物(I)としては、市販品など特に制限なく用いることができる。また、該アルカリ土類金属水酸化物水和物(I)の粒子の形状及びサイズ等に特に制限はないが、前述した特徴を有する本発明のアルカリ土類金属水酸化物粉末を首尾良く得るためには、粉体状のものを用いることが好ましい。
【0034】
態様Aにおける第一工程では、アルカリ土類金属水酸化物水和物(I)を、温度70℃以上110℃以下、特に75℃以上100℃以下で加熱することが好ましい。加熱雰囲気は、一般に大気とすることができる。加熱時間は5?30時間であることが好ましく、10?25時間であることが更に好ましい。効果的にアルカリ土類金属水酸化物水和物(I)中の結晶水を除去するために、加熱を減圧下で行うことが好ましい。具体的には、ゲージ圧で-0.07MPa以下、特に-0.110?-0.08MPaの減圧下で加熱を実施することが好ましい。これらの条件範囲で加熱を実施することによって、酸化物等の副生成物を抑制でき、かつアルカリ土類金属水酸化物どうしの融着が起こりづらい条件下に結晶水を除去することができる。
【0035】
加熱中は、アルカリ土類金属水酸化物水和物(I)を、5?100mmの厚さで静置させておくことが好ましい。この厚さで静置させることで、アルカリ土類金属水酸化物どうしの融着が起こりづらくなり、結晶水を一層容易に除去することができる。このような静置加熱は、箱型棚式乾燥機を使用することで実施することができる。
【0036】
以上の操作によって、下記一般式(3):
A(OH)_(2)・zH_(2)O (3)
(式中、Aはバリウム及びストロンチウムから選択される1種のアルカリ土類金属であり、zは1<z<3である。)
で表されるアルカリ土類金属水酸化物水和物(II)を得ることができる。
この場合、アルカリ土類金属水酸化物水和物(I)から得られるすべてのアルカリ土類金属水酸化物水和物が1超3未満の結晶水を有していることが最も好ましいが、3以上の結晶水を有する水和物や1以下の結晶水を有する水和物が、アルカリ土類金属水酸化物水和物(II)に少量含まれていても良い。アルカリ土類金属水酸化物水和物(II)に含まれる結晶水の数zは、先に述べた結晶水の数xの測定方法と同様の方法で測定される。
【0037】
次いで第二工程を行う。第二工程においては、前記アルカリ土類金属水酸化物水和物(II)を、減圧下に温度110℃超300℃以下で好ましくは5?30時間にわたり加熱して、本発明のアルカリ土類金属水酸化物粉末を得る。第二工程は、第一工程からの引き続きで行うことができる。例えば第一工程の加熱温度を引き続き上昇させて第二工程を行うことができる。この方法に代えて、第一工程の終了後、反応系を一旦室温まで冷却した後に、第二工程の加熱温度まで加熱しても良い。
【0038】
態様Aによって得られるアルカリ土類金属水酸化物は、前述したBET比表面積及び圧縮度を有することを特徴とするが、このようなアルカリ土類金属水酸化物を得るためには、アルカリ土類金属水酸化物水和物(II)は粉体状であることが好ましい。粉体状であることで、効率的に水和物を除去することができる。アルカリ土類金属水酸化物水和物(II)は、粉体状であれば、その粒子形状やサイズ等に特に制限はない。
【0039】
態様Aの第二工程においては、アルカリ土類金属水酸化物水和物(II)は、温度110℃超300℃以下、特に115以上260℃以下、とりわけ115以上250℃以下で加熱することが好ましい。加熱温度が300℃を超えると、アルカリ土類金属水酸化物水和物(II)が分解され、アルカリ土類金属酸化物が生じてしまい易い。100℃以下であるとアルカリ土類金属水酸化物水和物(II)中の結晶水が十分に除去されず、本発明の特徴を有するアルカリ土類金属水酸化物を得ることができない。加熱雰囲気は、一般に大気とすることができる。
【0040】
第二工程における加熱時間は5?30時間であることが好ましく、10?25時間であることが更に好ましい。この範囲の加熱時間を採用することで、製造コストの増大を抑制することができ、また熱履歴によるアルカリ土類金属水酸化物の変性が抑制され、品質に及ぼす影響を小さくできる。また、アルカリ土類金属水酸化物水和物(II)中の結晶水を十分に除去することができ、本発明の特徴を有する無水アルカリ土類金属水酸化物を容易に得ることができる。
【0041】
アルカリ土類金属水酸化物水和物(II)中での副生成物の抑制や、結晶水の効率的な除去を勘案すると、第二工程を減圧下で実施することが好ましい。詳細には、ゲージ圧で-0.07MPa以下、特に-0.110?-0.08MPaの減圧下で第二工程を行うことが好ましい。この条件範囲で加熱を実施することによって、酸化物等の副生成物を抑制でき、かつアルカリ土類金属水酸化物どうしの融着が起こりづらい条件下に結晶水を除去することができる。第二工程での減圧の条件と、第一工程での減圧の条件とは、それぞれ独立であり、同一でもよく、あるいは異なっていても良い。
【0042】
加熱中は、アルカリ土類金属水酸化物水和物(II)を、5?100mmの厚さで静置させておくことが好ましい。この厚さで静置させることで、アルカリ土類金属水酸化物どうしの融着が起こりづらくなり、結晶水を一層容易に除去することができる。このような静置加熱は、箱型棚式乾燥機を使用することで実施することができる。
【0043】
以上の態様Aによって、目的とするアルカリ土類金属水酸化物粉末を首尾良く得ることができる。
【0044】
次いで、本発明のアルカリ土類金属水酸化物粉末の製造方法の態様Bについて説明する。態様Bにおいては、下記一般式(4):
A(OH)_(2)・nH_(2)O (4)
(式中、Aはアルカリ土類金属であり、nは1≦n≦8である。)
で表されるアルカリ土類金属水酸化物水和物(III)を、減圧下に温度100?150℃で好ましくは5?48時間にわたり振動させながら加熱して、本発明のアルカリ土類金属水酸化物粉末を得る。
【0045】
態様Bに係るアルカリ土類金属水酸化物水和物(III)は、先に述べた態様Aと同様に、市販品など特に制限なく用いることができる。また、該アルカリ土類金属水酸化物水和物(III)の粒子の形状及びサイズ等に特に制限はないが、前述した特徴を有する本発明のアルカリ土類金属水酸化物粉末を首尾良く得るためには、粉体状のものを用いることが好ましい。
【0046】
上述したアルカリ土類金属水酸化物水和物(III)は、温度が好ましくは100?150℃、更に好ましくは115?140℃で、振動を加えながら加熱する。加熱温度が150℃を超えると、アルカリ土類金属水酸化物どうしが融着する、反応器壁面にアルカリ土類金属水酸化物が付着する、酸化物等の不純物が副生するといった生産効率低下の原因となる場合がある。加熱温度が100℃未満であると、アルカリ土類金属水酸化物水和物中の結晶水が十分に除去されない場合がある。加熱時間は、好ましくは5?48時間、更に好ましくは10?30時間、一層好ましくは10?25時間である。この範囲の加熱時間を採用することで、製造コストの増大を抑制することができ、また熱履歴によるアルカリ土類金属水酸化物粉末の変性が抑制され、品質に及ぼす影響を小さくできる。また、アルカリ土類金属水酸化物水和物(III)中の結晶水を十分に除去することができる。加熱雰囲気は、一般に大気とすることができる。
【0047】
態様Bにおいては、アルカリ土類金属水酸化物水和物(III)を振動させながら加熱する。この振動とは、アルカリ土類金属水酸化物水和物(III)が常に動いている状態を意味する。したがってアルカリ土類金属水酸化物水和物(III)には、加熱中、継続して振動が加えられる。尤も、振動を加える装置の種類等に起因して、不可避的に振動が一時的に加えられない状態が生じることは許容される。振動を加えつつ加熱を行うには、例えば振動式乾燥機、回転式乾燥機、流動乾燥機等を使用すれば良い。この場合、アルカリ土類金属水酸化物水和物(III)を所定の容器に入れて振動を加えることが好ましい。
【0048】
アルカリ土類金属水酸化物水和物(III)に加える振動の程度は、振動数が好ましくは750?1500cpm、更に好ましくは900?1350cpmであり、振動幅が好ましくは1?5mm、更に好ましくは 2?4mmである。この範囲の条件を採用することで、効率的な結晶水の除去が可能となるので好ましい。振動を加えつつ加熱を行うことで、粒子の融解が生じにくくなり、その結果、微粒のアルカリ土類金属水酸化物が生成し易くなる。
【0049】
アルカリ土類金属水酸化物水和物(III)中の副生成物の抑制や、結晶水を効率的に除去することを勘案すると、態様Bにおける加熱は減圧下で実施することが好ましい。詳細には、ゲージ圧で-0.07MPa以下、特に-0.110?-0.08MPaの減圧下で加熱を行うことが好ましい。この条件範囲で加熱を実施することによって、酸化物等の副生成物を抑制でき、かつアルカリ土類金属水酸化物どうしの融着が起こりづらい条件下に結晶水を除去することができる。
【0050】
振動を加えつつのアルカリ土類金属水酸化物水和物(III)の加熱は、結晶水の除去、生産効率及び製造コスト等を勘案して、アルカリ土類金属水酸化物水和物(III)の容器への充填率を10?95体積%、特に30?85体積%とすることが好ましい。この範囲の充填率とすることで、アルカリ土類金属水酸化物水和物(III)が好適に振動することができるので、アルカリ土類金属水酸化物どうしが融着せず、効率的に結晶水を除去することができる。
【0051】
以上の態様Bによっても、目的とするアルカリ土類金属水酸化物を首尾良く得ることができる。
【0052】
本発明によって得られるアルカリ土類金属水酸化物粉末は、従来にない特性を有するものであり、液相への溶解性や分散性に優れる、該水酸化物を原料として得られる生成物の品質向上に寄与することができる等、各種合成反応に好適に使用できることが期待される。
【0053】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば、アルカリ土類金属水酸化物粉末の製造方法において、態様Aと態様Bとを組み合わせても良い。すなわち、態様Aにおける第一工程及び第二工程のうち、いずれか一方の工程又は双方の工程において、態様Bで採用した振動を加える操作を行っても良い。
【実施例】
【0054】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。しかしながら本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
[実施例1]
本実施例では、上述した態様Aに従い水酸化バリウム粉末を製造した。
(第一工程)
水酸化バリウム八水和物(和光純薬社製)の粉末を、30mmの厚さとなるように角型状の容器内に入れた。これを静置式真空乾燥機(ヤマト科学(株)製、角型真空定温乾燥機DP63P)に入れ、-0.095MPa(ゲージ圧)の減圧下に温度78℃で21時間加熱することで乾燥した。得られた乾燥粉末における結晶水の数zを測定したところ、z=2.98であった。
【0056】
(第二工程)
第一工程の加熱温度を引き続き120℃まで上昇させ第二工程を行った。第一工程において得られた乾燥粉末を、-0.095MPa(ゲージ圧)の減圧下に20時間加熱することで乾燥して、目的とする水酸化バリウム粉末を得た。得られた水酸化バリウム粉末における結晶水の数xを測定したところ、その値は以下の表1に示すとおりであった。また、この水酸化バリウム粉末の真密度、BET比表面積、圧縮度、安息角、平均粒子径、純度及び炭酸バリウム含有量を、上述の方法で測定した。それらの結果を以下の表1に示す。また、得られた水酸化バリウム粉末の走査型電子顕微鏡像及びXRDチャートを図1及び図2に示す。図2に示すXRDチャートから、得られた水酸化バリウム粉末は、無水物と同様の回折ピークを有することが確認された。
【0057】
[実施例2]
本実施例では、上述した態様Bに従い水酸化バリウム粉末を製造した。水酸化バリウム八水和物(和光純薬社製)粉末を、充填率80%となるように円筒状の容器に入れた。振動式乾燥機を用い、-0.095MPa(ゲージ圧)の減圧下に温度120℃で20時間加熱することで乾燥した。加熱中は、振動を継続して加えておいた。加えた振動の程度は、振動数を1000cpmとし、振動幅を3.4mmとした。このようにして得られた水酸化バリウム粉末について、実施例1と同様の測定を行った。その結果を以下の表1に示す。また、得られた水酸化バリウム粉末の走査型電子顕微鏡像及びXRDチャートを図3及び図4に示す。図4に示すXRDチャートから、得られた水酸化バリウム粉末は、無水物と同様の回折ピークを有することが確認された。
【0058】
[比較例1]
(第一工程)
実施例1と同じ方法で行った。
(第二工程)
第一工程の加熱温度を引き続き90℃まで上昇させ第二工程を行った。第一工程において得られた乾燥粉末を、-0.095MPa(ゲージ圧)の減圧下に20時間加熱することで乾燥した。しかし、結晶水の除去はできず、目的とする水酸化バリウム粉末が得られなかった。
【0059】
[比較例2]
(第一工程)
実施例1と同じ方法で行った。
(第二工程)
第一工程の加熱温度を引き続き350℃まで上昇させ第二工程を行った。その結果、一部に分解が起こり、酸化バリウムが生じてしまい、目的とする水酸化バリウム粉末が得られなかった。
【0060】
[比較例3]
加熱温度を78℃とすること以外は実施例2と同様にして水酸化バリウムを得た。水酸化バリウムは融解してしまい、乾燥不能となった。
【0061】
[比較例4]
本比較例は、背景技術の項で述べた特許文献6に対応するものである。31.6gの水酸化バリウム八水和物と、122.5gの酸化バリウムとを混合した。混合によって生じる反応が激しく、全体を混合する前に塊状の物質が生成してしまい、それ以上の操作を行うことができず、目的とする水酸化バリウム粉末が得られなかった。
【0062】
[評価]
粉末の得られた実施例の水酸化バリウムについて、収率を測定した。また、水への溶解性及び分散性の評価を行った。水道水300mLを72℃に加温し、そこに1gの水酸化バリウムを添加して、液をマグネチックスターラーで30分間撹拌した。30秒経過後の液の状態を目視観察して、溶解性及び分散性を以下の基準で評価した。それらの結果を以下の表1に示す。
○:大部分は溶解したが、一部に未溶部分が観察される。未溶部分の分散性は良好である。
△:一部溶解したが、未溶部分が多く観察される。未溶部分の分散性は良好である。
×:ほとんど溶解しない。また分散せず、沈殿してしまった。
【0063】
【表1】

【0064】
以上の実施例及び比較例のうち、実施例1及び2において粉末の水酸化バリウムを得ることができた。比較例1、2、3及び4については、無水水酸化バリウムを得ることができなかった。更に、実施例1及び2の水酸化バリウムは、水への溶解性及び分散性が良好なものであった。
【0065】
[実施例3]
本実施例では、上述した態様Bに従い水酸化ストロンチウム粉末を製造した。水酸化ストロンチウム八水和物(和光純薬社製)粉末を、充填率80%となるように円筒状の容器に入れた。振動式乾燥機を用い、-0.095MPa(ゲージ圧)の減圧下に温度120℃で20時間加熱することで乾燥した。加熱中は、振動を継続して加えておいた。加えた振動の程度は、振動数を1000cpmとし、振動幅を3.4mmとした。このようにして得られた水酸化ストロンチウム粉末について、実施例1と同様の測定を行った。その結果を以下の表2に示す。また、得られた水酸化ストロンチウム粉末の走査型電子顕微鏡像及びXRDチャートを図5及び図6に示す。図6に示すXRDチャートから、得られた水酸化ストロンチウム粉末は、無水物と同様の回折ピークを有することが確認された。
【0066】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、有機合成及び無機合成の分野で好適に使用できるアルカリ土類金属水酸化物を提供することができる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
A(OH)_(2)・xH_(2)O (1)
(式中、Aはバリウムであり、xは0である。)
で表され、
BET比表面積が0.4?1.2m^(2)/gであり、{(タップ密度-かさ密度)/タップ密度}×100で示される圧縮度が1.5?25%であり、島津製作所製のアキュピックII1340を用いて測定される密度が4.40?4.55g/cm^(3)であり、
炭酸バリウム及び酸化バリウムの含有量が2質量%以下であり、
XRDの回折ピークを有する、ことを特徴とするアルカリ土類金属水酸化物粉末。
【請求項2】
平均粒子径が0.5?7.0μmである請求項1に記載のアルカリ土類金属水酸化物粉末。
【請求項3】
安息角が50度以下である請求項1又は2に記載のアルカリ土類金属水酸化物粉末。
【請求項4】
純度が95質量%以上である請求項1ないし3のいずれか一項に記載のアルカリ土類金属水酸化物粉末。
【請求項5】
請求項1に記載のアルカリ土類金属水酸化物粉末の製造方法であって、
下記一般式(4):
A(OH)_(2)・nH_(2)O (4)
(式中、Aはバリウムであり、nは1≦n≦8である。)
で表されるアルカリ土類金属水酸化物水和物(III)粉末を、減圧下に温度100?150℃で振動させながら加熱して下記一般式(1):
A(OH)_(2)・xH_(2)O (1)
(式中、Aはバリウムであり、xは0である。)
で表されるアルカリ土類金属水酸化物粉末を得る工程を含む、ことを特徴とするアルカリ土類金属水酸化物粉末の製造方法。
【請求項6】
前記加熱を、ゲージ圧で-0.07MPa以下の減圧下で行う請求項5に記載のアルカリ土類金属水酸化物粉末の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-08-24 
出願番号 特願2016-12144(P2016-12144)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C01F)
P 1 651・ 537- YAA (C01F)
P 1 651・ 851- YAA (C01F)
P 1 651・ 536- YAA (C01F)
P 1 651・ 853- YAA (C01F)
P 1 651・ 113- YAA (C01F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 村岡 一磨  
特許庁審判長 豊永 茂弘
特許庁審判官 中澤 登
後藤 政博
登録日 2017-03-24 
登録番号 特許第6114416号(P6114416)
権利者 日本化学工業株式会社
発明の名称 アルカリ土類金属水酸化物粉末及びその製造方法  
代理人 特許業務法人翔和国際特許事務所  
代理人 特許業務法人翔和国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ