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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 F24C 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 F24C 審判 全部申し立て 2項進歩性 F24C 審判 全部申し立て 特29条の2 F24C |
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管理番号 | 1344829 |
異議申立番号 | 異議2017-700446 |
総通号数 | 227 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2018-11-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-05-02 |
確定日 | 2018-08-31 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6023051号発明「調理装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6023051号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-14〕、〔15-16〕について訂正することを認める。 特許第6023051号の請求項1ないし16に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6023051号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、2011年6月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2010年6月30日、フランス(FR))を国際出願日とする出願であって、平成28年10月14日に特許権の設定登録(特許掲載公報の発行日 平成28年11月9日)がなされたところ、平成29年5月2日に特許異議申立人ショット アクチエンゲゼルシャフト(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされた。当審において、平成29年7月13日付けで取消理由を通知したところ、特許権者より平成29年10月16日付けで意見書と訂正請求書が提出され、申立人より平成29年12月15日付けで意見書が提出された。 その後、当審において、平成30年2月5日付けで取消理由(決定の予告)を通知したところ、特許権者より平成30年5月8日に意見書と訂正請求書が提出され、申立人より平成30年7月4日付けで意見書が提出されたものである。 以下、平成30年5月8日付けの訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、これに係る訂正を「本件訂正」という。 なお、平成29年10月16日付けの訂正請求書は、取り下げられたものとみなす(特許法第120条の5第7項)。 第2 本件訂正の適否 1.本件訂正の内容 本件訂正の内容は、以下のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「2.3%?40%の範囲の光透過率と」とあるのを、「2.3%?25%の範囲の光透過率と」(審決注:下線部は訂正箇所。以下同じ。)に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1に「420?480nmの範囲内の少なくとも1つの波長で少なくとも0.6%の分光透過率とを有し」とあるのを、「465nmの波長で少なくとも0.6%の分光透過率とを有し」に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項1に「であることを特徴とする調理装置」とあるのを、「であること、並びにクロム酸化物(Cr_(2)O_(3))及びニッケル酸化物(NiO)の重量%が200ppm以下であることを特徴とする調理装置」に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4に「本質的に3%?25%の光透過率を有する」とあるのを、「本質的に3%?15.7%の光透過率を有する」に訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5に「420?480nmの範囲内の少なくとも1つの波長で少なくとも0.8%の分光透過率を有する」とあるのを、「465nmの波長で少なくとも0.8%の分光透過率を有する」に訂正する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項6に「プレートの厚さが2?6mmの範囲である」とあるのを、「プレートの厚さが3?4mmの範囲である」に訂正する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項10に「バナジウム酸化物の重量%が、V_(2)O_(5)の形態で表わして0.01?0.2%である」とあるのを、「バナジウム酸化物の重量%が、V_(2)O_(5)の形態で表わして0.01?0.04%である」に訂正する。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項15に「2.5%?40%の光透過率と」とあるのを、「2.5%?25%の光透過率と」に訂正する。 (9)訂正事項9 特許請求の範囲の請求項15に「420?480nmの範囲内の少なくとも1つの波長で少なくとも0.6%の分光透過率を持ち」とあるのを、「465nmの波長で少なくとも0.6%の分光透過率を持ち」に訂正する。 (10)訂正事項10 特許請求の範囲の請求項15に「であることを特徴とするプレート」とあるのを、「であること、並びにクロム酸化物(Cr_(2)O_(3))及びニッケル酸化物(NiO)の重量%が200ppm以下であることを特徴とするプレート」に訂正する。 2.本件訂正の適否 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、請求項1のプレートの光透過率を「2.3%?40%の範囲」から「2.3%?25%の範囲」へとより狭い範囲に減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1は、本件特許明細書の段落【0018】の記載に基づき、プレートの光透過率の数値範囲を減縮するものであるから、新規事項を付加するものではなく、特許請求の範囲を拡張・変更するものでもない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、請求項1のプレートの分光透過率を「420?480nmの範囲内の少なくとも1つの波長で少なくとも0.6%」から「465nmの波長で少なくとも0.6%」へと変更するものである。 訂正事項2は、訂正前の記載では420?480nmの範囲内の少なくとも何れか1つの波長で0.6%の分光透過率を有していればその記載に含まれていたのを、465nmの波長で0.6%以上の分光透過率を有するものでなければ含まれないように限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、本件特許明細書の段落【0098】?【0099】に記載されているように、本件特許明細書の表1記載の実施例は、すべて465nmの波長でのプレートの分光透過率を測定しており、訂正事項2は当該記載に基づくものであるから、新規事項を付加するものではなく、また、特許請求の範囲を拡張・変更するものでもない。 (3)訂正事項3について 訂正事項3は、請求項1のプレートについて「クロム酸化物(Cr_(2)O_(3))及びニッケル酸化物(NiO)の重量%が200ppm以下である」という特定事項を追加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、本件特許明細書の段落【0034】には、「その一方で、クロム酸化物(Cr_(2)O_(3))やニッケル酸化物(NiO)といった着色剤はできるだけ除外することが好ましい。これら着色剤の重量%は200ppm以下であることが好ましく、100ppm、10ppm、5ppmであることさえ好ましい。」との記載があり、訂正事項3は当該記載に基づくものであるから、新規事項を付加するものではなく、また、特許請求の範囲を拡張・変更するものでもない。 (4)訂正事項4について 訂正事項4は、請求項4の光透過率を「本質的に3%?25%」から「本質的に3%?15.7%」へとより狭い範囲に減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項4は、本件特許明細書の段落【0099】の【表1】の実施例の記載に基づき、プレートの光透過率の数値範囲を減縮するものであるから、新規事項を付加するものではなく、特許請求の範囲を拡張・変更するものでもない。 (5)訂正事項5について 訂正事項5は、請求項1のプレートの分光透過率を「420?480nmの範囲内の少なくとも1つの波長で少なくとも0.8%」から「465nmの波長で少なくとも0.8%」へと変更するものである。 訂正事項5は、訂正前の記載では420?480nmの範囲内の少なくとも何れか1つの波長で0.8%の分光透過率を有していればその記載に含まれていたのを、465nmの波長で0.8%以上の分光透過率を有するものでなければ含まれないように限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、本件特許明細書の段落【0098】?【0099】に記載されているように、本件特許明細書の表1記載の実施例は、すべて465nmの波長でのプレートの分光透過率を測定しており、訂正事項5は当該記載に基づくものであるから、新規事項を付加するものではなく、また、特許請求の範囲を拡張・変更するものでもない。 (6)訂正事項6について 訂正事項6は、請求項6のプレートの厚さを「2?6mmの範囲」から「3?4mmの範囲」へとより狭い範囲に減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項6は、本件特許明細書の段落【0020】の記載に基づき、プレートの厚さの数値範囲を減縮するものであるから、新規事項を付加するものではなく、特許請求の範囲を拡張・変更するものでもない。 (7)訂正事項7について 訂正事項7は、請求項10のバナジウム酸化物の重量%を「V_(2)O_(5)の形態で表わして0.01?0.2%」から「V_(2)O_(5)の形態で表わして0.01?0.04%」へとより狭い範囲に減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項7は、本件特許明細書の段落【0032】の記載に基づき、バナジウム酸化物の重量%の数値範囲を減縮するものであるから、新規事項を付加するものではなく、特許請求の範囲を拡張・変更するものでもない。 (8)訂正事項8について 訂正事項8は、請求項15のプレートの光透過率を「2.3%?40%」から「2.3%?25%」へとより狭い範囲に減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項8は、本件特許明細書の段落【0018】の記載に基づき、プレートの光透過率の数値範囲を減縮するものであるから、新規事項を付加するものではなく、特許請求の範囲を拡張・変更するものでもない。 (9)訂正事項9について 訂正事項9は、請求項15のプレートの分光透過率を「420?480nmの範囲内の少なくとも1つの波長で少なくとも0.6%」から「465nmの波長で少なくとも0.6%」へと変更するものである。 訂正事項9は、訂正前の記載では420?480nmの範囲内の少なくとも何れか1つの波長で0.8%の分光透過率を有していればその記載に含まれていたのを、465nmの波長で0.8%以上の分光透過率を有するものでなければ含まれないように限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、本件特許明細書の段落【0098】?【0099】に記載されているように、本件特許明細書の表1記載の実施例は、すべて465nmの波長でのプレートの分光透過率を測定しており、訂正事項9は当該記載に基づくものであるから、新規事項を付加するものではなく、また、特許請求の範囲を拡張・変更するものでもない。 (10)訂正事項10について 訂正事項10は、請求項15のプレートに「クロム酸化物(Cr_(2)O_(3))及びニッケル酸化物(NiO)の重量%が200ppm以下である」という特定事項を追加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、本件特許明細書の段落【0034】には、「その一方で、クロム酸化物(Cr_(2)O_(3))やニッケル酸化物(NiO)といった着色剤はできるだけ除外することが好ましい。これら着色剤の重量%は200ppm以下であることが好ましく、100ppm、10ppm、5ppmであることさえ好ましい。」との記載があり、訂正事項10は当該記載に基づくものであるから、新規事項を付加するものではなく、特許請求の範囲を拡張・変更するものではない。 (11)一群の請求項に係る訂正か否かについて 訂正事項1ないし7に係る訂正前の請求項1ないし14の訂正について、訂正前の請求項2ないし14はそれぞれ訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用しているから、訂正事項1ないし3によって訂正される請求項1と一群の請求項である。 また、訂正事項8ないし10に係る訂正前の請求項15及び16について、訂正前の請求項16は訂正前の請求項15を引用しているから、訂正事項8ないし10によって訂正される請求項15と一群の請求項である。 したがって、本件訂正は一群の請求項ごとに請求されたものである。 (12)小括 以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-14〕、〔15-16〕についての訂正を認める。 第3 本件発明 上記のとおり本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし16に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明16」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、次のとおりのものである。 【請求項1】 少なくとも1つの加熱手段と、制御および/またはモニタ手段と、少なくとも1つの発光装置とを含む内部要素を備え、 内部要素が、バナジウム酸化物を用いて着色した少なくとも1枚のガラス・プレートまたはガラス-セラミック・プレートで覆われており、 少なくとも1つの発光装置はプレートを通して赤色を見る発光装置ではなく、 プレートは、本質的に、2.3%?25%の範囲の光透過率と、465nmの波長で少なくとも0.6%の分光透過率とを有し、 内部要素の少なくとも一部を隠すための少なくとも1つのマスキング手段が、プレートの上または下または中に配置され、 前記プレートが3?6mmの厚みを有し、該プレートのV_(2)O_(5)の形態で表わされたバナジウム酸化物の重量%が0.01?0.06%であること、並びにクロム酸化物(Cr_(2)O_(3))及びニッケル酸化物(NiO)の重量%が200ppm以下であることを特徴とする調理装置。 【請求項2】 少なくとも1つの加熱手段が誘導加熱手段又は輻射加熱手段であることを特徴とする請求項1に記載の装置。 【請求項3】 加熱手段が誘導加熱手段であるとき、マスキング手段が発光装置を除くほぼすべての内部要素を隠すことができ、加熱手段が輻射加熱手段であるとき、マスキング手段が発光装置と加熱要素を除くほぼすべての内部要素を隠すことができることを特徴とする請求項1又は2に記載の装置。 【請求項4】 プレートが、本質的に3%?15.7%の光透過率を有することを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の装置。 【請求項5】 プレートが、本質的に、465nmの波長で少なくとも0.8%の分光透過率を有することを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載の装置。 【請求項6】 プレートの厚さが3?4mmの範囲であることを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載の装置。 【請求項7】 プレートが、ホウケイ酸塩系、アルミノホウケイ酸塩系、ソーダ石灰シリカ系のいずれかで作られ、プレートが必要に応じて強化されていることを特徴とする請求項1?6のいずれか一項に記載の装置。 【請求項8】 プレートがガラス-セラミックで作られていることを特徴とする請求項1?6のいずれか一項に記載の装置。 【請求項9】 ガラス-セラミック・プレートがアルミノケイ酸リチウム系であり、その化学組成が、以下の成分で、重量%で表わして以下の範囲内にある、すなわち、 SiO_(2) 52?75% Al_(2)O_(3) 18?27% Li_(2)O 2.5?5.5% K_(2)O 0?3% Na_(2)O 0?3% ZnO_( ) 0?3.5% MgO_( ) 0?3% CaO_( ) 0?2.5% BaO_( ) 0?3.5% SrO_( ) 0?2% TiO_(2) 1.2?5.5% ZrO_(2) 0?3% P_(2)O_(5) 0?8% であることを特徴とする請求項8に記載の装置。 【請求項10】 ガラス-セラミックがバナジウム酸化物を用いて着色されており、バナジウム酸化物の重量%が、V_(2)O_(5)の形態で表わして0.01?0.04%であることを特徴とする請求項9に記載の装置。 【請求項11】 マスキング手段がプレートの上および/または下に堆積させたコーティングであり、該コーティングが、輻射光を吸収および/または反射および/または散乱する能力を有することを特徴とする請求項1?10のいずれか一項に記載の装置。 【請求項12】 コーティングが、有機材料をベースとした層又は無機材料をベースとした層であることを特徴とする請求項11に記載の装置。 【請求項13】 マスキング手段が、プレートの下に位置していて、該プレートにしっかりと固定されていてもいなくてもよく、輻射光を吸収および/または散乱する能力を有する材料で構成されていることを特徴とする請求項1?10のいずれか一項に記載の装置。 【請求項14】 マスキング手段が、プレートの中または下面上に位置する不均質部で構成され、その不均質部が、輻射光の散乱現象または屈折現象によって画像を変形させることができることを特徴とする請求項1?10のいずれか一項に記載の装置。 【請求項15】 バナジウム酸化物を用いて着色した調理装置用のガラス・プレートまたはガラス-セラミック・プレートであって、本質的に、2.5%?25%の光透過率と、465nmの波長で少なくとも0.6%の分光透過率を持ち、少なくとも1つの面が輻射光を吸収および/または反射および/または散乱する能力を有するコーティングで覆われ、 前記プレートが3?6mmの厚みを有し、該プレートのV_(2)O_(5)の形態で表わされたバナジウム酸化物の重量%が0.01?0.06%であること、並びにクロム酸化物(Cr_(2)O_(3))及びニッケル酸化物(NiO)の重量%が200ppm以下であることを特徴とするプレート。 【請求項16】 コーティングが、有機材料をベースとした層又は無機材料をベースとした層であることを特徴とする請求項15に記載のプレート。 第4 取消理由通知の概要 本件特許に対する平成29年7月13日付け取消理由通知(以下、「取消理由通知」という。)には、概ね次の取消理由が記載されている。 なお、上記取消理由は、本件特許異議申立において申し立てられたすべての申立理由を含んでいる。 1.取消理由1(拡大先願) 本件特許の請求項1,2,4?6,8?10に係る発明は、本件特許の優先日前の特許出願であって、本件特許の出願後に特許掲載公報の発行若しくは出願公開された下記甲第1号証の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者が本件特許の優先日前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、その出願人が上記特許の出願人と同一でもなく、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。 2.取消理由2(進歩性) 本件特許の請求項1?16に係る発明は、その優先日前日本国内または外国において頒布された下記甲第2ないし10号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 3.取消理由3(明確性) 本件特許は、請求項1,4,5,6,10,15の記載が、下記(1)?(3)の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。 (1)請求項1及び15記載の「少なくとも0.6%の分光透過率」の記載は下限だけを示す数値範囲の限定であり不明確である。 (2)請求項1,4,5,15の「本質的に」の記載は発明の範囲を不明確にしている。 (3)請求項6及び10の記載は、引用する請求項1の記載と対応していない。 4.取消理由4(実施可能要件・サポート要件) 本件特許は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載に不備があり、特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 すなわち、請求項1及び15には「本質的に、2.3?40%の範囲の光透過率と、420?480nmの範囲内の少なくとも1つの波長で少なくとも0.6%の分光透過率とを有」すると記載されているが、本件特許明細書には光透過率が3.2?15.7%の範囲であり、分光透過率(465nm)が0.7?3%の範囲の実施例の記載しかなく、実施例の数値範囲外について、発明の課題を解決できることを当業者が認識できないし、当業者が明細書の記載に基づいて発明を実施できるともいえない。 【引用文献等】 甲第1号証:特願2011-553372号(特表2012-520226号公報参照) 甲第2号証:国際公開第2010/040443号 甲第3号証:特開2004-251615号公報 甲第4号証:特表2010-520144号公報 甲第5号証:特開2006-125645号公報 甲第6号証:特開2007-99615号公報 甲第7号証:独国特許出願公開第3503576号明細書 甲第8号証:欧州特許出願公開第317022号公報 甲第9号証:ショット社パンフレット(Innovation) 甲第10号証:特開2004-211910号公報 甲第11号証:特開2005-55005号公報 以下、甲第1号証ないし甲第11号証を、それぞれ甲1ないし甲11という。 第5 甲各号証の記載 1.甲1について 甲1には、以下の事項が記載されている。 (1)「主結晶相として高温石英混晶を有するガラスセラミックから成る、色の表示性が改善された、着色された透明な調理台であって、前記ガラスセラミックが、不可避の痕跡量を除いて、化学的清澄剤の酸化ヒ素及び/又は酸化アンチモンを含まない調理台において、 前記ガラスセラミックの透過度が、450nmよりも長いあらゆる波長における可視光範囲で0.1%より大きく、可視光で光透過性が0.8?5%(好適には0.8?2.5%)であり、1600nmでの赤外線における透過性は45?85%であり、 前記調理台は表示装置を備え、 前記表示装置が、様々な稼働状態を様々な色及び/又は記号で表示するように形成されている表示設備(8,9)を備えることを特徴とする、前記調理台。」(【請求項1】) (2)「通常の赤色表示に代えて、又はこれに加えて、1つ又は複数の多色表示、例えば青色、緑色、黄色、オレンジ色、又は白色の表示を用いることを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載の調理台。」(【請求項11】) (3)「色の表示部は、発光性電気部材、大抵は発光ダイオードから成り、これらは調理台の下側に取り付けられている。」(段落【0014】) (4)「調理台の加熱は、照射熱源、ハロゲン熱源、誘導加熱、又はガスにより行うことができる。あらゆる形式の(ドット的な、また平面的な)表示が可能である。」(段落【0091】) (5)「いくつかの実施例のため、表1に結晶化可能な出発ガラスの組成と特性を記載した。ここでガラス1?12は本発明によるガラスであり、ガラス13は本発明によらない比較用ガラスである。比較用ガラスの組成は、市販の調理台ガラスセラミックであるSCHOTT AG社のCeran Suprema(登録商標)に相当する。」(段落【0097】) (6)「表2はセラミック化条件、及び得られるガラスセラミックの特性、及び本願発明以外の比較用セラミック2、4、17を示す。出発ガラスのセラミック化は以下の温度/時間プログラムで行い、Tmax及びtmaxの値が、表2に記載されている。」(段落【0112】) (7)「これらの値は調理台に典型的な厚さである4mmの研磨したプレートで測定した。」(段落【0118】) (8)「【表1-1】 【表1-2】 【表2-1】 【表2-2】 」 以上の記載によれば、特に、表2の実施例番号2に着目して、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。 「調理台の加熱は、照射熱源、ハロゲン熱源、誘導加熱、又はガスにより行うことができ、色の表示部は、発光性電気部材、大抵は発光ダイオードから成り、これらは調理台の下側に取り付けられ、主結晶相として高温石英混晶を有するガラスセラミックから成る、色の表示性が改善された、着色された透明な調理台であって、色の表示部は、通常の赤色表示に代えて、又はこれに加えて、1つ又は複数の多色表示、例えば青色、緑色、黄色、オレンジ色、又は白色の表示を用いることができ、ガラスセラミックは、3.9%の光透過率と、450nmの波長で0.57%の分光透過率とを有し、調理台のガラスセラミックプレートの厚さは4mmであり、ガラスセラミックプレートのV_(2)O_(5)の重量%が0.024%である調理台。」 2.甲2について 甲2には、以下の事項が記載されている。 なお、以下甲2のファミリー文献である特表2012-505136号公報の記載を訳文として示す。 (1)「高温石英混合結晶を主な結晶相として有し、避けることのできない極微量を除いては、化学的清澄剤用の酸化ヒ素及び/又は酸化アンチモンを含有しない、ガラスセラミックからなる、カラー表示能力が改善された透明な有色クックトップ又はハブであって、 450nmより大きい可視光の全波長範囲における0.1%を超える透過率、0.8%?2.5%の可視光透過率、及び45%?85%の1600nmの赤外線における透過率を特徴とする、クックトップ又はハブ。」(請求項1、特表2012-505136号公報の【請求項1】) (2)「ガラスセラミック調理表面の下の技術部品の憂慮すべき視認性(disturbing visibility)を防止するために、また輻射加熱要素、とりわけ明るいハロゲンヒータによって生じるまぶしさを防ぐために、ガラスセラミッククックトップ又はハブは、その光透過率が制限される。他方、輻射加熱器は、低出力で動作する場合でも、操作中はっきりと視認することができる必要がある。また表示能力に関しては、一般的な赤色LEDを調理プレートの下に搭載するため、或る程度の光透過率が要求される。これらの要求を満たすために、ガラスセラミッククックトップ又はハブは通常、0.5%?2.5%の光透過率に設定される。これは、着色要素の添加によって達成される。よって、ガラスセラミッククックトップ又はハブは、使用される色要素とは無関係に、使用される発色要素、例えば多くの場合、赤色、赤紫色又は橙褐色による低い光透過率及び透明度に起因して上から見ると黒色に見える。 カラーディスプレイは、発光電子部品、主に光ダイオードからなり、調理表面の下に設置される。それらには、使用し易さ及び安全運転が望まれる。それゆえ、例えば、様々な調理帯域の現在の火力又は余熱が光学的に表される。余熱の表示は、とりわけラジエータが放熱していないとき、又は一般的に調理表面が熱いか認識できない誘導加熱されたクックトップ又はハブの場合に、安全に取扱うために重要である。通常赤色LEDは630nm周辺の波長で放射する。技術的な機能を改善するために、また家庭用機器製造業者に設計による差別化の可能性を与えるために、通常の赤色ディスプレイに加えて、他のカラーディスプレイも必要とされる。」(3頁13行?4頁2行、特表2012-505136号公報の段落【0012】?【0013】) (3)「本発明によれば、ガラスセラミッククックトップ又はハブの下の技術部品の憂慮すべき視認性を防ぐこと、及び上から見た黒色の美観を保証することが、0.8%?2.5%の光透過率によって確保される。輻射加熱要素は操作中に視認することができ、通常の視認可能な赤色LEDディスプレイも視認することができる。450nmからの全波長範囲の可視光範囲内における0.1%を超える透過率は、種々のカラーディスプレイをはっきりと認識可能にする。市販の青色、緑色、黄色又は橙色のLEDの光度を鑑みれば、この透過率は十分なものであり、現行の技術水準の観点から有意な改善をもたらす。とりわけ、青色及び緑色を伴うディスプレイが著しく改善された。」(7頁3?13行、特表2012-505136号公報の段落【0031】) (4)「好ましくは、カラー表示能力が改善された本発明の調理表面の下に、通常の赤色LED又はディスプレイの代わりに又はこれに加えて、青色、緑色、黄色、橙色又は白色のような1つ又は複数の異なる色のLEDが配置される。カラーディスプレイは、通常、LEDからなる発光電子部品から構成される。クックトップ表面の底面は、旧来型のこぶが設けられていてもよく、滑らかなデザインであってもよい。 調理表面の加熱は、輻射加熱器、ハロゲン加熱器、誘導加熱又はガスによって成し遂げることができる。全てのタイプ、例えば、点状又は二次元のディスプレイも可能である。」(18頁6?14行、特表2012-505136号公報の段落【0067】?【0068】) (5)「表1には、結晶性出発ガラスの化合物及び特性を挙げる。 ガラス番号1?12は本発明によるガラスであり、ガラス番号13は、市販のセラミックガラスの組成を満たす、本発明を逸脱する比較用のガラス、例えば、SCHOTT AGからのセラミッククックトップ又はCeran Suprema(登録商標)ハブである。原材料の大規模の混合物中の典型的な不純物のために、組成は合計しても正確に100重量%にはならない。典型的な不純物は、意図的に組成に入れなくても、典型的に0.05重量%未満のF、Cl、B、P、Rb、Cs、Hfである。多くの場合、これらは、化学的に関連する成分に係る原材料により混入され、例えば、Na及び/又はK原材料を用いてRb及びCs、又はBa原材料を用いてSrが混入され、逆もまた同様である。」(18頁22?最終行、特表2012-505136号公報の段落【0071】?【0072】) (6)「表2は、得られたガラスセラミック及び比較用のセラミックのセラミック化条件及び特性を示す。出発ガラスのセラミック化は、以下の時間/温度プログラムによって実行し、Tmax及びtmaxの値を表2に示す。」(21頁17?21行、特表2012-505136号公報の段落【0084】) (7)「平均微結晶サイズ値及び高温石英混合結晶部分は、x線回折によって求めた。サンプルは、主な結晶相である高温石英混合結晶の含有率に起因して、室温?700℃の温度範囲内で測定される所望の極めて小さい熱膨張値を有する。種々の波長における透過率、また光透過率(「明度」Yと同じ意味を有する)に特徴的な本発明の値を表に挙げる。パネルの値は磨き板上で求め、典型的な調理表面の厚みは4mmとする。光学測定は、標準光C(2度)によって行った。」(22頁11?20行、特表2012-505136号公報の段落【0088】) (7)「【表1】 【表2-1】 【表2-2】 」 以上の記載によれば、特に、表2のサンプル番号2に着目して、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。 「調理表面の加熱は、照射熱源、ハロゲン熱源、誘導加熱、又はガスによって成し遂げられ、調理表面の下に、LEDが配置され、高温石英混合結晶を主な結晶相として有し、避けることのできない極微量を除いては、化学的清澄剤用の酸化ヒ素及び/又は酸化アンチモンを含有しない、ガラスセラミックからなる、カラー表示能力が改善された透明な有色クックトップ又はハブであって、色の表示部は、通常の赤色LED又はディスプレイの代わりに又はこれに加えて、青色、緑色、黄色、橙色又は白色のような1つ又は複数の異なる色の表示を用いることができ、ガラスセラミックは、3.9%の光透過率と、450nmの波長で0.57%の分光透過率とを有し、調理台のクックトップ又はハブの厚さは4mmであり、ガラスセラミックのV_(2)O_(5)の重量%が0.024%である透明な有色クックトップ又はハブ。」 3.甲3について 甲3には、以下の事項が記載されている。 (1)「また、電磁加熱調理器は、赤外線加熱調理器のように、ラジエントヒーターやハロゲンヒーターが発熱して赤い光を発しないため、加熱されていることを認識できない。したがって、安全のために、電磁加熱調理器は、発光ダイオードなどの発光素子を透明なトッププレートの下部に設置して、発光素子からの光によって加熱中であることを認識できるように、発光素子の部分を除き非透光性塗料をトッププレートの裏面に形成していた(例えば、特許文献2参照。)。 尚、発光素子としては、単に加熱の有無を認識させるだけでなく、印加される電力量や温度を色で表現できることも要求されており、そのため、赤色の発光素子の他に、青色、緑色、黄色の発光素子を使うことが望まれている。」(段落【0003】?【0004】) (2)「本発明の目的は、上記問題に鑑みなされたものであり、加熱装置、配線等の調理器の内部構造を隠蔽でき、青色、緑色、黄色、赤色等の発光素子からの光を十分に透過し、安価な有色結晶化ガラスからなる調理器用トッププレートを提供することである。 【課題を解決するための手段】 本発明の調理器用トッププレートは、C光源におけるCIEのXYZ表示系のY値(明度)が、肉厚3mmで2.5?15である有色結晶化ガラスからなることを特徴とする。」(段落【0007】?【0008】) (3)「また、本発明の調理器用トッププレートは、30?750℃における平均熱膨張係数が、-10?+30×10^(-7)/℃である有色結晶化ガラスからなると、耐熱衝撃性が高く、使用時にトッププレートの面内に温度分布が生じても破損しにくいため好ましい。特に、有色結晶化ガラスとしては、β-ユークリプタイト固溶体を主結晶として60?90質量%析出し、V_(2)O_(5)を含有するLi_(2)O-Al_(2)O_(3)-SiO_(2)系有色結晶化ガラスが好適である。 具体的には、有色結晶化ガラスとしては、質量%で、SiO_(2) 55?75%、Al_(2)O_(3) 14?28%、Li_(2)O 2.5?7%、MgO 0?4%、ZnO 0?5%、TiO_(2) 0?6%、ZrO_(2) 0?3%、V_(2)O_(5) 0.01?0.5%、Na_(2)O 0?5%、K_(2)O 0?5%、Fe_(2)O_(3) 0.001?0.3%、As_(2)O_(3) 0.001?2.5%、CaO 0?5%、BaO 0?7%、PbO 0?3%の組成を有し、β-石英固溶体結晶を析出してなる有色結晶ガラスが好適である。 また、本発明の調理器用トッププレートは、2.5?6mmの肉厚を有すると好ましい。肉厚が2.5mmよりも薄いと、機械的強度が低く、調理時に破壊しやすくなる。6mmよりも厚いと、材料コストが高くなるのは勿論のこと、均質な結晶化を行うことが難しく、均質な結晶化を行うためには、熱処理時間を長くしたり、均熱性の高い結晶化炉を使用する必要があり、コストがアップしやすい。また、機械的な加工精度も得にくいという問題がある。 【実施例】 本発明の調理器用トッププレートを、実施例に基づいて詳細に説明する。 表1は、本発明の実施例1?5を、表2は、実施例6?8及び比較例を示す。 【表1】 【表2】 まず、表1、2の組成となるように、ガラス原料を調合し、表に示す溶融温度で20時間熔融した後、板状に成形して結晶性ガラスを作製した。尚、実施例1では、Na_(2)O及びK_(2)Oの原料として硝酸ナトリウム及び硝酸カリウムを使用し、実施例2?8では、BaOの原料として硝酸バリウムを使用した。また、比較例のNa_(2)O及びK_(2)Oの原料としてそれぞれ炭酸ソーダ及び炭酸カリウムを用いた。 次に、この結晶性ガラスを、表に示す焼成条件で結晶化を行い、実施例1?8及び比較例の有色低膨張結晶化ガラスを作製した。 表から明らかなように、実施例1?8は、Y値(明度)が2.5?15の間にあり、加熱装置、配線等の調理器の内部構造を隠蔽できるとともに、青色、緑色、赤色の発光ダイオードからの光を十分に透過した。」(段落【0021】?【0030】) (4)「透過判定は、作製した結晶化ガラスからなるトッププレート(肉厚4mm)を、電磁加熱調理器に実装した後、トッププレートから真上に1m離れたところに36W蛍光灯を設置し、調理器の内部が透けて見えるかどうかを目視で判定し、全く調理器の内部が透けて見えない場合を「○」、調理器の内部が透けて見える場合を「×」とした。 発光素子の透過判定は、作製した結晶化ガラスからなるトッププレート(肉厚4mm)の裏面より1cm離れたところに赤色発光ダイオード、緑色発光ダイオード、青色発光ダイオードを設置し、トッププレートの表面側からこれらの発光ダイオードの光が見えるかどうかを目視で判定し、発光ダイオードからの光が充分に透過して見える場合を「○」、発光ダイオードのからの光が少ししかみえない場合を「△」、発光ダイオードからの光が全く見えない場合を「×」とした。」(段落【0036】?【0037】) 以上の記載によれば、特に、表2の実施例6に着目して、甲3には次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されている。 「加熱装置、配線等の調理器の内部構造を隠蔽でき、青色、緑色、黄色、赤色等の発光素子からの光を十分に透過し、安価な有色結晶化ガラスからなる調理器用トッププレートであって、発光素子としては、単に加熱の有無を認識させるだけでなく、印加される電力量や温度を色で表現できることも要求されており、そのため、赤色の発光素子の他に、青色、緑色、黄色の発光素子を使うことが望まれ、調理器用トッププレートは、厚さは4mmであり、調理器用トッププレートのV_(2)O_(5)の重量%が0.06%である調理器用トッププレート。」 4.甲4について 甲4には、以下の事項が記載されている。 (1)「例えば、少なくとも1つの加熱要素を覆うか又は収容するための、特に、レンジ上面として機能するための、ガラスセラミック製パネルであって、面の少なくとも1つの領域がコートされていて、ここで、反対面において計測される、上述のコート領域と非コート領域の間の総色差デルタE*が約1未満になり、及び/又はコーティングが約70より高い輝度L*を有するガラスセラミック製パネル。」(【請求項1】) (2)加熱領域とディスプレイを除いて、コーティングがパネルの下面全体を覆っているパネルが図1に示されている。 5.甲5について 甲5には、以下の事項が記載されている。 (1)「透明ガラス板の裏面に遮光膜の形成部と非形成部を有し、非形成部の下方に発光素子が配置される調理器用トッププレートであって、 透明ガラス板の裏面に、発光素子の光線を透過する着色板状体を取り付けてなることを特徴とする調理器用トッププレート。」(【請求項1】) (2)「本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、LEDからなるインジケータの配設に対応する遮光膜の非形成領域から、LEDの配線等の調理器内部が見えることがなく、LEDで表示する数字を誤認することがない調理器用トッププレートを提供することを目的とする。」(【段落0012】) 6.甲6について 甲6には、以下の事項が記載されている。 (1)「可視光及び赤外線に対して透過性であり、かつガラスセラミック板の下面に貴金属フィルムがコーティングされた、調理ユニットの調理面を与えるように作製されるガラスセラミック材料から成るガラスセラミック板であって、 前記貴金属フィルムは、貴金属フィルムへ反射特性を付与する金及び/または白金、及び/またはパラジウムから成る合金から作製され、前記貴金属フィルムには銀、銅、珪素、ビスマス及び他の非貴金属が貴金属フィルム中の全金属含量に対して0?5重量%含まれ、及び前記貴金属フィルムでコーティングされたガラスセラミック板が赤外スペクトル域において0?12%の分光透過率をもつことを特徴とする前記ガラスセラミック板。」(【請求項1】) (2)「本発明に従ったコーティングを、加熱部分に加えて、ディスプレイ領域、あるいは光表示装置領域中、あるいは調理面にあるタッチ式制御装置等の他の作動部品領域中に設けないことも可能である。」(段落【0034】) 7.甲7について 甲7には、以下の事項が記載されている。 (1)「ガラスセラミックプレートおよび1つまたはそれより多くのコンロを備え、前記ガラスセラミックプレートの下側に、赤外線加熱管を有する加熱体が配置されており、その接続部が前記加熱体のケース壁の空洞部内に存在している調理面であって、前記ガラスセラミックプレート(1)の下側で、隣接する加熱体のハウジング(3、4)の領域において、高耐熱性のフレキシブルで且つ遮光性の材料性の第1の層(9)、およびその他の、しかしながら本来の調理部位の外側において、前記ガラスセラミックプレート(1)の下側で、上記領域において第1の層(9)を覆う耐熱性且つ高度に光不透過性の材料製のさらなる層(10)が施与されている、前記調理面。」(請求項1、異議申立人が提出した甲7の部分訳の請求項1の訳文)。 8.甲8について 甲8には、以下の事項が記載されている。 (1)「特にガラスセラミックプレートとして構成された調理プレートおよび少なくとも1つの光源を有する加熱装置を備えた調理装置であって、 各々の加熱装置(3)に、可視光領域に存在する光の一部に対して少なくとも本質的に不透過性の光学フィルタ(7)が配置されていることを特徴とする、前記調理装置。」 (2)「前記フィルタ(7)が、直接的に調理プレート(1)に施与されることを特徴とする、請求項1に記載の調理装置。」 (3)「前記フィルタ(7)が、調理プレート(1)の、光で照射される少なくとも1つの面に施与されることを特徴とする、請求項1または2に記載の調理装置。」 (請求項1?3、異議申立人が提出した甲8の部分訳の請求項1?3の訳文) 9.甲9について 甲9には、以下の事項が記載されている。 (1)「これは、CERAN(登録商標)クックトップパネルの裏側上の構造化コーティングによって可能になり、且つ、クックトップを通じて光る記号の出現をもたらします。この方法を、調理領域の位置を示すため、ノブまたはスイッチのための視覚的な機能の指示を提供するため、ディスプレイロゴのためなどに使用できます。 例えば、加熱要素の断熱剤と一体化したガラスリングは、調理領域をマーキングすることを可能にし、その際、望ましくない散乱光がクックトップ表面の下の他の部品を投影することはありません。 調理領域のマーキングは以下から構成されています: ・CERAN(登録商標)クックトップパネル裏側の、離散した開口部 を備えたコーティング ・加熱部品の直径に適合されたハロゲン光源を有する光るガラスリング ・相応の電子制御システム」(異議申立人が提出した甲9の部分訳) 10.甲10について 甲10には、以下の事項が記載されている。 (1)「透明低膨張ガラス板の非使用面に皮膜が形成され、透明低膨張ガラス板の少なくとも片面が粗面である調理器用トッププレート。」(【請求項1】) (2)「実施例は、透明結晶化ガラスからなる基板の非使用面に光沢を有する蒸着膜が形成されていても、照明等からの光が蒸着膜に反射して直接目に入ることがなく、照明等から光が散乱して眩しくなかった。」(段落【0043】)。 11.甲11について 甲11には、以下の事項が記載されている。 (1)「本発明の調理器用トッププレートは、低膨張ガラス板として、30?500℃における平均熱膨張係数が-50?+50×10^(-7)/℃のガラス、具体的には、低膨張のホウケイ酸ガラス、石英ガラス、またはβ-石英固溶体を主結晶として含有する低膨張結晶化ガラスが使用可能である。30?500℃におけるガラスの平均熱膨張係数が50×10^(-7)/℃よりも大きいと、また、-50×10^(-7)/℃よりも小さいと、熱衝撃によって破損しやすい。30?500℃におけるガラスの平均熱膨張係数の好ましい範囲は、-10?+30×10^(-7)/℃であり、さらに好ましくは、-10?+20×10^(-7)/℃である。」(段落【0026】) 第6 当審の判断 以下、事案に鑑み、取消理由3(明確性)から検討する。 1.取消理由3(明確性)について (1)第4 3.(1)について: 訂正後の請求項1及び15は、465nmの波長での分光透過率を「少なくとも0.6%」と規定しており、当該波長での分光透過率の上限値については明示をもって限定していない。 しかし、数値範囲を限定する場合に発明の特定に必要な範囲で下限値又は上限値のみを限定したからといって、このことをもって発明の内容が不明確であるとはいえない。 (2)第4 3.(2)について: 本件特許明細書の段落【0010】には、「『前記プレートが本質的に2.3?40%の範囲の光透過率を持つ』という表現は、そのプレートそのものが、いかなるコーティングも存在しないときに単独でそのような光透過率を持つことを意味するものと理解する。」との記載があり、「本質的に」という用語の示す内容が定義されているといえるから、「本質的に」という用語を用いているからといって、請求項1,4,5,15の記載が不明確であるとはいえない。 (3)第4 3.(3)について: 本件訂正により訂正後の請求項6及び10で特定した数値範囲は、引用する請求項1の数値範囲内のものとなったから、請求項6及び10の記載が、引用する請求項1の記載と対応していないとはいえない。 (4)小括 以上のとおり、訂正後の請求項1,4,5,6,10,15の記載に不明確なところはないから、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしていないとはいえない。 2.取消理由1(拡大先願)について 本件発明1と甲1発明を対比すると、甲1発明の調理台の加熱を行う「照射熱源、ハロゲン熱源、誘導加熱、又はガス」は、本件発明1の「少なくとも1つの加熱手段」に相当し、甲1発明の「大抵は発光ダイオード」からなる「発光性電気部材」は、本件発明1の「少なくとも1つの発光装置」に相当する。 そして、加熱手段や発光装置を備える場合に、これらの制御および/またはモニタ手段を設けることは通常の技術手段といえるから、甲1発明も、当該制御および/またはモニタ手段を備えているものと認められ、甲1発明においてもこれらは調理台の下側に取り付けられているから、これらは「内部要素」を構成しているものと認められる。 また、甲1発明の「ガラスセラミック」はV_(2)O_(5)を含んでいるから、本件発明の「バナジウム酸化物を用いて着色した少なくとも1枚のガラス・プレートまたはガラス-セラミック・プレート」に相当する。 さらに、甲1発明の色の表示部に、「通常の赤色表示に代えて、1つ又は複数の多色表示、例えば青色、緑色、黄色、オレンジ色、又は白色の表示を用い」ることは、本件発明1の「プレートを通して赤色を見る発光装置ではな」いことに相当する。 してみれば、本件発明1と甲1発明(表2の実施例番号2)は、少なくとも次の相違点を有する。 相違点1: 本件発明1は、「内部要素の少なくとも一部を隠すための少なくとも1つのマスキング手段が、プレートの上または下または中に配置され」るのに対して、甲1発明は、マスキング手段を備えていない点。 以下、上記相違点1について検討する。 甲1には、「0.8?2.5%という本発明による光透過性によって、ガラスセラミック製調理台の下にある技術的な構成要素が透けて見えてしまうことが防止され、上から見たときの黒くて美しい画像が保証される。光る熱源は稼働状態で可視化でき、通常の赤い発光ダイオード表示は良好に視認できる。450nmより大きいあらゆる波長範囲における可視光範囲で0.1%超という透過性により、他の色の表示も良好に認識できる。市販の青色、緑色、黄色、又はオレンジ色の発光異体オードの発光力という観点から、この透明度は充分であり、これは従来技術に対して明らかな改善である。とりわけ、青色と緑色の表示が明らかに改善された。白色光を有する表示は、450nmより大きいあらゆる波長範囲における透過性勾配により、色的にそれほど損なわれない。」(段落【0036】)と記載されており、ガラスセラミックの光透過率を制限することによって内部要素を隠すことが開示されている一方、他の手段により内部要素を隠す旨の示唆はない。 そうすると、甲4?甲9に記載された事項によって示されるように、内部要素の少なくとも一部を隠すためのマスキング手段自体は、調理装置のプレートにおいて周知慣用の技術であるとしても、甲1に接した当業者は、内部要素を隠すための手段として、ガラスセラミックの光透過率を制限しようとするから、マスキング手段を採用しようとは考えない。 もっとも、甲1発明の光透過率は3.9%であって、上記「0.8%?2.5%」よりも大きく、本件発明1とは重複しているから、甲1発明は、内部要素を隠していないと考える余地がある。 しかし、甲1発明が内部要素を隠していないとすれば、甲1の開示に従い、光透過率を0.8%?2.5%に制限することで、内部要素を隠せば足りるのであるから、あえてマスキング手段を採用する必要はない。 よって、甲1発明において、マスキング手段を用いることが、具体的手段における微差であるとはいえないから、甲1発明と本件発明1とが実質的に同一であるとはいえない。 (3)小括 以上のとおり、相違点1は実質的な相違であるから、甲1発明と本件発明1とが同一であるとすることはできない。 また、請求項2,4?6,8?10は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、本件発明2,4?6,8?10は本件発明1を減縮したものであるから、本件発明1が甲1発明と同一であるとはいえない以上、本件発明2,4?6,8?10についても、甲1発明と同一であるとはいえない。 3.取消理由2(進歩性)について (1)甲2を主引例とした場合 ア.本件発明1について 本件発明1と甲2発明を対比すると、甲2発明の調理台の加熱を行う「照射熱源、ハロゲン熱源、誘導加熱、又はガス」は、本件発明1の「少なくとも1つの加熱手段」に相当し、甲2発明の「LED」は、本件発明1の「少なくとも1つの発光装置」に相当する。 そして、加熱手段や発光装置を備える場合に、これらの制御および/またはモニタ手段を設けることは通常の技術手段といえるから、甲2発明も、当該制御および/またはモニタ手段を備えているものと認められ、甲2発明においてもこれらは調理表面の下に取り付けられているから、これらは「内部要素」を構成しているものと認められる。 また、甲2発明の「ガラスセラミック」はV_(2)O_(5)を含んでいるから、本件発明1の「バナジウム酸化物を用いて着色した少なくとも1枚のガラス・プレートまたはガラス-セラミック・プレート」に相当する。 さらに、甲2発明の色の表示部に、「通常の赤色LEDの代わりに、青色、緑色、黄色、橙色、又は白色のような色の表示を用い」ることは、本件発明1の「プレートを通して赤色を見る発光装置ではな」いことに相当する。 してみれば、本件発明1と甲2発明は、少なくとも次の相違点を有する。 相違点2: 本件発明1は、「内部要素の少なくとも一部を隠すための少なくとも1つのマスキング手段が、プレートの上または下または中に配置され」るのに対して、甲2発明は、マスキング手段を備えていない点。 以下、上記相違点2について検討する。 甲2には、「本発明によれば、ガラスセラミッククックトップ又はハブの下の技術部品の憂慮すべき視認性を防ぐこと、及び上から見た黒色の美観を保証することが、0.8%?2.5%の光透過率によって確保される」(第7頁第3?6行、特表2012-505136号公報の段落【0031】)と記載されており、ガラスセラミックの光透過率を制限することによって内部要素を隠すことが開示されている一方、他の手段により内部要素を隠す旨の示唆はない。 そうすると、甲4?甲9に記載された事項によって示されるように、内部要素の少なくとも一部を隠すためのマスキング手段自体は、調理装置のプレートにおいて周知慣用の技術であるとしても、甲2に接した当業者は、内部要素を隠すための手段として、ガラスセラミックの光透過率を制限しようとするから、マスキング手段を採用しようとは考えない。 もっとも、甲2発明の光透過率は3.9%であって、上記「0.8%?2.5%」よりも大きく、本件発明1とは重複しているから、甲2発明は、内部要素を隠していないと考える余地がある。 しかし、甲2発明が内部要素を隠していないとすれば、甲2の開示に従い、光透過率を0.8%?2.5%に制限することで、内部要素を隠せば足りるのであるから、あえてマスキング手段を採用する必要はない。 よって、甲2発明において、相違点2に係る本件発明1の構成を採用することを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 以上のとおりであるから、甲2発明において、相違点2に係る本件発明1の構成を採用することを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 イ.本件発明2?14について 請求項2?14は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、本件発明2?14は本件発明1を減縮したものであるから、更に甲10,11に記載された事項を考慮しても、本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2?14は、甲2発明と甲4?甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ.本件発明15について 本件発明15と甲2発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。 相違点3: 本件発明15は、「少なくとも1つの面が輻射光を吸収および/または反射および/または散乱する能力を有するコーティングで覆われ」ているのに対して、甲2発明は、コーティングを備えていない点。 以下、上記相違点3について検討する。 甲6に、可視光及び赤外線に対して透過性であり、かつ、調理ユニットの調理面を与えるように作製されるガラスセラミック板の下面に貴金属フィルムでコーティングする手段が記載されているとしても、上記ア.相違点2についての判断で述べたことと同様に、当業者が、甲2発明に対して、上記相違点3に係るコーティングを採用する動機付けはない。 なお、マスキング手段は、調理装置のプレートにおいて、甲4?甲9に示されるとおり周知慣用の技術であるとしても、甲2発明においてマスキング手段を採用する動機付けがないことは、上記ア.相違点2についての判断で述べたとおりである。 したがって、本件発明15は、甲2発明と、甲4?甲9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ.本件発明16について 本件発明16は、本件発明15を更に減縮したものであるから、甲6に、コーティングを無機材料(金及び/または白金、及び/またはパラジウムから成る合金)をベースとした層であることが記載されているとしても、本件発明15についての判断と同様の理由により、本件発明16は、甲2発明と甲4?甲9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)甲3を主引例とした場合 ア.本件発明1について 本件発明1と甲3発明を対比すると、甲3発明の「加熱装置」は、本件発明1の「少なくとも1つの加熱手段」に相当し、甲3発明の「発光素子」は、本件発明1の「少なくとも1つの発光装置」に相当する。 そして、加熱装置や発光素子を備える場合に、これらの制御および/またはモニタ手段を設けることは通常の技術手段といえるから、甲3発明も、当該制御および/またはモニタ手段を備えているものと認められ、甲3発明においてもこれらは隠蔽される内部構造として構成されるから、これらは「内部要素」を構成しているものと認められる。 また、甲3発明の「調理用トッププレート」は有色結晶化ガラスからなりV_(2)O_(5)を含んでいるから、本件発明の「バナジウム酸化物を用いて着色した少なくとも1枚のガラス・プレートまたはガラス-セラミック・プレート」に相当する。 さらに、甲3発明の「発光素子」は、「赤色の発光素子の外に、青色、緑色、黄色の発光素子を使うことが望まれ」るとされているから、「発光素子」は本件発明1の「プレートを通して赤色を見る発光装置ではな」いものを含んでいる。 してみれば、本件発明1と甲3発明は、少なくとも次の相違点を有する。 相違点4: 本件発明1は、「内部要素の少なくとも一部を隠すための少なくとも1つのマスキング手段が、プレートの上または下または中に配置され」るのに対して、甲3発明は、マスキング手段を備えていない点。 以下、上記相違点4について検討する。 甲3には、「本発明の目的は、・・・中略・・・、加熱装置、配線等の調理器の内部構造を隠蔽でき、青色、緑色、黄色、赤色等の発光素子からの光を十分に透過し、安価な有色結晶化ガラスからなる調理器用トッププレートを提供することである。」(段落【0007】)、また、「次に、この結晶性ガラスを、表に示す焼成条件で結晶化を行い、実施例1?8及び比較例の有色低膨張結晶化ガラスを作製した。表から明らかなように、実施例1?8は、Y値(明度)が2.5?15の間にあり、加熱装置、配線等の調理器の内部構造を隠蔽できるとともに、青色、緑色、赤色の発光ダイオードからの光を十分に透過した。」(段落【0029】?【0030】)と記載されており、ガラスの光透過率を制限することによって内部要素を隠すことが開示されている一方、他の手段により内部要素を隠す旨の示唆はない。 そうすると、甲4?甲9に記載された事項によって示されるように、内部要素の少なくとも一部を隠すためのマスキング手段自体は、調理装置のプレートにおいて周知慣用の技術であるとしても、甲3に接した当業者は、内部要素を隠すための手段として、ガラスの光透過率を制限しようとするから、マスキング手段を採用しようとは考えない。 よって、甲3発明において、相違点3に係る本件発明1の構成を採用することを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。 以上のとおりであるから、本件発明1は、甲3発明と甲4?甲9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ.本件発明2?14について 請求項2?14は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明2?14は本件発明1を減縮したものであるから、更に甲10,11に記載された事項を考慮しても、本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明2?14は、甲2発明と甲4?甲11に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ.本件発明15について 本件発明15と甲3発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。 相違点5: 本件発明1は、「少なくとも1つの面が輻射光を吸収および/または反射および/または散乱する能力を有するコーティングで覆われ」ているのに対して、甲3発明は、コーティングを備えていない点。 以下、上記相違点5について検討する。 甲6に、可視光及び赤外線に対して透過性であり、かつ、調理ユニットの調理面を与えるように作製されるガラスセラミック板の下面に貴金属フィルムでコーティングする手段が記載されているとしても、上記ア.相違点4についての判断で述べたことと同様に、当業者が、甲3発明に対して、上記相違点5に係るコーティングを採用する動機付けはない。 なお、マスキング手段は、調理装置のプレートにおいて、甲4?甲9に示されるとおり周知慣用の技術であるとしても、甲3発明においてマスキング手段を採用する動機付けがないことは、上記ア.相違点4についての判断で述べたとおりである。 したがって、本件発明15は、甲3発明と甲4?甲9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ.本件発明16について 本件発明16は、本件発明15を更に減縮したものであるから、甲6に、コーティングを無機材料(金及び/または白金、及び/またはパラジウムから成る合金)をベースとした層であることが記載されているとしても、本件発明15についての判断と同様の理由により、本件発明16は、甲3発明と甲4?甲9に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)小括 以上のとおりであるから、本件発明1?16は、甲2発明又は甲3発明と甲4?11に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明できたとはいえない。 4.取消理由4(実施可能要件・サポート要件)について 本件訂正により、分光透過率が465nmの波長で少なくとも0.6%である点が特定された。 そして、本件特許明細書の表1には465nmの波長での分光透過率について、比較例及び実施例1?6が示されており、実施例1?6の分光透過率は最小で0.7%となっており、誤差を見込んで少なくとも0.6%とすることにしたとしても明細書の記載を超えるものではない。 また、当該表1には実施例1?6のそれぞれにおける着色用酸化物の組成が示されているから、発明の詳細な説明の記載に基づき、当業者が本件発明1?16を実施することができないともいえない。 加えて、光透過率を2.3%?25%にする点については、本件特許明細書の段落【0018】に光透過率を2.5%?25%にする点が記載されており、また、表1には光透過率を3.2?15.7%にする実施例が記載されているから、誤差を見込んで光透過率を2.3%?25%としたとしても明細書の記載を超えるものではない。 よって、本件発明1?16が明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえないし、また、発明の詳細な説明の記載に基づき、当業者が本件発明1?16を実施することができないともいえない。 5.申立人の主張について 申立人は、平成30年7月4日付け意見書に甲第12号証(実験報告書)を提出し、甲2のサンプル番号2の465nmの波長での分光透過率は、少なくとも0.6%となる旨主張している。 しかし、当該実験報告書は、甲2のサンプル番号2に対応する厚さ3?3.6mmのガラスセラミックプレートの465nmの波長での分光透過率を測定したものである。一方、甲2ではサンプル番号2は、4mmのガラスセラミックプレートであるから、甲第12号証の結果から、甲2のサンプル番号2の465nmの波長での分光透過率が少なくとも0.6であるということはできない。 また、当該実験結果報告書の「表3:結果」においては、例2(すなわち、甲2のサンプル番号2)の厚さ4mmでの420-480nmでの透過率の最小値(%)は、0.30となっており、プレートの厚さが4mmの場合の465nmの波長での分光透過率が少なくとも0.6になることが、この結果から推認できるとはいえない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、請求項1?16に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1?16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 少なくとも1つの加熱手段と、制御および/またはモニタ手段と、少なくとも1つの発光装置とを含む内部要素を備え、 内部要素が、バナジウム酸化物を用いて着色した少なくとも1枚のガラス・プレートまたはガラス-セラミック・プレートで覆われており、 少なくとも1つの発光装置はプレートを通して赤色を見る発光装置ではなく、 プレートは、本質的に、2.3%?25%の範囲の光透過率と、465nmの波長で少なくとも0.6%の分光透過率とを有し、 内部要素の少なくとも一部を隠すための少なくとも1つのマスキング手段が、プレートの上または下または中に配置され、 前記プレートが3?6mmの厚みを有し、該プレートのV_(2)O_(5)の形態で表わされたバナジウム酸化物の重量%が0.01?0.06%であること、並びにクロム酸化物(Cr_(2)O_(3))及びニッケル酸化物(NiO)の重量%が200ppm以下であることを特徴とする調理装置。 【請求項2】 少なくとも1つの加熱手段が誘導加熱手段又は輻射加熱手段であることを特徴とする請求項1に記載の装置。 【請求項3】 加熱手段が誘導加熱手段であるとき、マスキング手段が発光装置を除くほぼすべての内部要素を隠すことができ、加熱手段が輻射加熱手段であるとき、マスキング手段が発光装置と加熱要素を除くほぼすべての内部要素を隠すことができることを特徴とする請求項1又は2に記載の装置。 【請求項4】 プレートが、本質的に3%?15.7%の光透過率を有することを特徴とする請求項1?3のいずれか一項に記載の装置。 【請求項5】 プレートが、本質的に、465nmの波長で少なくとも0.8%の分光透過率を有することを特徴とする請求項1?4のいずれか一項に記載の装置。 【請求項6】 プレートの厚さが3?4mmの範囲であることを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載の装置。 【請求項7】 プレートが、ホウケイ酸塩系、アルミノホウケイ酸塩系、ソーダ石灰シリカ系のいずれかで作られ、プレートが必要に応じて強化されていることを特徴とする請求項1?6のいずれか一項に記載の装置。 【請求項8】 プレートがガラス-セラミックで作られていることを特徴とする請求項1?6のいずれか一項に記載の装置。 【請求項9】 ガラス-セラミック・プレートがアルミノケイ酸リチウム系であり、その化学組成が、以下の成分で、重量%で表わして以下の範囲内にある、すなわち、 SiO_(2) 52?75% Al_(2)O_(3) 18?27% Li_(2)O 2.5?5.5% K_(2)O 0?3% Na_(2)O 0?3% ZnO 0?3.5% MgO 0?3% CaO 0?2.5% BaO 0?3.5% SrO 0?2% TiO_(2) 1.2?5.5% ZrO_(2) 0?3% P_(2)O_(5) 0?8% であることを特徴とする請求項8に記載の装置。 【請求項10】 ガラス-セラミックがバナジウム酸化物を用いて着色されており、バナジウム酸化物の重量%が、V_(2)O_(5)の形態で表わして0.01?0.04%であることを特徴とする請求項9に記載の装置。 【請求項11】 マスキング手段がプレートの上および/または下に堆積させたコーティングであり、該コーティングが、輻射光を吸収および/または反射および/または散乱する能力を有することを特徴とする請求項1?10のいずれか一項に記載の装置。 【請求項12】 コーティングが、有機材料をベースとした層又は無機材料をベースとした層であることを特徴とする請求項11に記載の装置。 【請求項13】 マスキング手段が、プレートの下に位置していて、該プレートにしっかりと固定されていてもいなくてもよく、輻射光を吸収および/または散乱する能力を有する材料で構成されていることを特徴とする請求項1?10のいずれか一項に記載の装置。 【請求項14】 マスキング手段が、プレートの中または下面上に位置する不均質部で構成され、その不均質部が、輻射光の散乱現象または屈折現象によって画像を変形させることができることを特徴とする請求項1?10のいずれか一項に記載の装置。 【請求項15】 バナジウム酸化物を用いて着色した調理装置用のガラス・プレートまたはガラス-セラミック・プレートであって、本質的に、2.5%?25%の光透過率と、465nmの波長で少なくとも0.6%の分光透過率を持ち、少なくとも1つの面が輻射光を吸収および/または反射および/または散乱する能力を有するコーティングで覆われ、 前記プレートが3?6mmの厚みを有し、該プレートのV_(2)O_(5)の形態で表わされたバナジウム酸化物の重量%が0.01?0.06%であること、並びにクロム酸化物(Cr_(2)O_(3))及びニッケル酸化物(NiO)の重量%が200ppm以下であることを特徴とするプレート。 【請求項16】 コーティングが、有機材料をベースとした層又は無機材料をベースとした層であることを特徴とする請求項15に記載のプレート。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2018-08-23 |
出願番号 | 特願2013-517455(P2013-517455) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(F24C)
P 1 651・ 121- YAA (F24C) P 1 651・ 16- YAA (F24C) P 1 651・ 536- YAA (F24C) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 大山 広人、仲村 靖 |
特許庁審判長 |
紀本 孝 |
特許庁審判官 |
佐々木 正章 井上 哲男 |
登録日 | 2016-10-14 |
登録番号 | 特許第6023051号(P6023051) |
権利者 | ユーロケラ ソシエテ オン ノーム コレクティフ |
発明の名称 | 調理装置 |
代理人 | 島田 哲郎 |
代理人 | 三橋 真二 |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 塩川 和哉 |
代理人 | 伊藤 健太郎 |
代理人 | 大橋 康史 |
代理人 | 胡田 尚則 |
代理人 | 三橋 真二 |
代理人 | 伊藤 健太郎 |
代理人 | 島田 哲郎 |
代理人 | 関根 宣夫 |
代理人 | 前島 一夫 |
代理人 | 前島 一夫 |
代理人 | 塩川 和哉 |
代理人 | 胡田 尚則 |
代理人 | 篠 良一 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | 青木 篤 |
代理人 | 関根 宣夫 |
代理人 | 大橋 康史 |