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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  G10D
管理番号 1344832
異議申立番号 異議2017-701169  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-11-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-12-12 
確定日 2018-08-26 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6148998号発明「リコーダー及びそれに用いるリング状部材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6148998号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第6148998号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6148998号は、平成26年4月11日(優先権主張 平成25年7月22日)に特許出願したものであって、平成29年5月26日に特許権の設定登録がなされたものである。その後、当該特許に対し、平成29年12月12日に特許異議申立人トヤマ楽器株式会社(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、当審において平成30年1月29日付けで取消理由を通知し、特許権者の高嶋道夫から同年3月22日付けで意見書および訂正請求書が提出され、異議申立人から同年6月20日付けで意見書が提出された。


第2 訂正請求による訂正の適否
1 訂正請求の趣旨及び訂正の内容
平成30年3月22日付けで訂正請求された訂正(以下、「本件訂正」という。)の趣旨は、「特許第6148998号の特許請求の範囲の請求項1ないし3を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求める。」ものである。
そして、本件訂正の内容は、特許請求の範囲の請求項1に「前記山形の外形線が前記音孔の外方側端縁で交差するか」と記載されているのを、「前記山形の外形線が、直線状又は内側に凸の曲線状に隆起する断面形状で形成され、前記音孔の外方側端縁で交差するか」に訂正する(以下、「訂正事項」という)というものである。

2 訂正の適否の判断
(1)一群の請求項について
訂正事項に係る本件訂正前の請求項1ないし3について、請求項2ないし3は請求項1を引用しているものであって、訂正事項によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。よって、本件訂正前の請求項1ないし3に対応する本件訂正における請求項1ないし3は、特許法第120条の5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。

(2)訂正の目的について
訂正事項は、本件訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である、音孔の外方側端縁で交差する「山形の外形線」について「直線状又は内側に凸の曲線状に隆起する断面形状で形成され」たものに限定するから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

(3)新規事項の追加、特許請求の範囲の拡張又は変更について
明細書の段落【0015】に「前記音孔2の周囲に形成される隆起部の外形線は、図2及び図3に示されるように、音孔2の中心を通る断面視で、直線状又は内側に凸の曲線状に形成することが望ましい。つまり、音孔2の孔周3と円筒形状に形成される周辺の管体1の外面とを結ぶ外形線が、直線状又は内側に凸の曲線状、図示例では内側に凸の曲線状に形成されている。」という記載があることから、訂正事項は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。

(4)独立特許要件について
本件においては訂正前の全ての請求項1ないし3について特許異議申立がなされているので、訂正事項は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とし、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項および第6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。


第3 本件特許発明
本件訂正は、上記「第2」のとおり認められたので、本件特許の請求項1、2、3に係る発明(以下、各請求項に係る発明を「本件特許発明1」、「本件特許発明2」、「本件特許発明3」という。また、これらを総称して「本件特許発明」という。)は、本件訂正による特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。なお、下線は訂正された箇所を示す。

【請求項1】
音孔の周囲が、前記音孔に向けてなだらかな山形に隆起する断面形状で形成されるとともに、前記山形の外形線が、直線状又は内側に凸の曲線状に隆起する断面形状で形成され、前記音孔の外方側端縁で交差するか、前記音孔の外方側端縁と前記山形の外形線との間に0.6?1.0mmの幅で平坦部が形成されるか、前記音孔の外方側端縁と前記山形の外形線との間が外方側に突出する曲面状に形成されていることを特徴とするリコーダー。
【請求項2】
前記音孔の中心を通る前記リコーダーの断面視で、前記音孔の周囲の外形線が、直線状又は内側に凸の曲線状に隆起する断面形状で形成されている請求項1記載のリコーダー。
【請求項3】
前記音孔の中心を通る前記リコーダーの断面視で、前記音孔の周面と、前記音孔の周囲の外形線との成す角が鋭角状になる構造とされている請求項1、2いずれかに記載のリコーダー。


第4 取消理由の概要
当審において、請求項1ないし3に係る特許は、甲第1号証(横笛「AULONE」の写真)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとして、取消理由を通知した。
なお、異議申立人の異議申立理由も同様のものである。

第5 当審の判断
1 甲第1号証に示された横笛「AULONE」の公然実施について
異議申立人が提出された甲第1号証で示される横笛「AULONE」は、甲第2号証の雑誌「楽器商報」(1963年4月号の第6頁)に異議申立人自らの製品(笛)の広告のコピー(国立国会図書館に所蔵されており、複写可能。)、甲第4号証のAULONEについてのインターネットオークションの取引結果(オークション開始日が2011年8月11日、オークション終了日が2011年8月18日であり、商品が画像で確認できる。)によれば、少なくとも本件特許の優先日(平成25年7月22日)前に公然実施されていたものと認められる。

2 甲第1号証(甲1発明)
異議申立人が証拠として提出した甲第1号証の1には、一番上の音孔が他の音孔と異なり、二重の円の構造をしていることが見て取れる。
また、甲第1号証の3ないし5には、外側の円の外方側端縁は管体と同一平面であり、内側の円の外方側端縁は外側の円の外方側端縁よりも低い位置に形成されていることが見て取れる。
そして、甲第1号証の3ないし5には、外側の円の内方側に凹部を形成されていること、および、その凹部から内側の円の外方側端縁と交差する部分まで外側に凸の曲線状に隆起する外形線で繋がっていることが見て取れる。

なお、外形線の形状について、異議申立人は、平成30年6月20日付け意見書(第4?5頁を参照。)において、「甲第1号証の4に示されている通り、直線状に隆起する形状に形成されているものと考えられる」旨や「完全な直線ではないかも知れないが、少なくとも概ね直線状に形成されていることは明らかである」旨を主張している。しかしながら、横笛「AULONE」の実物である検甲第6号証を当審の合議体で確認したところ、外形線は、外側の凸の曲線状に隆起する形状であって、直線状に隆起する形状であるとは認められない。また、「少なくとも概ね」とは、どの程度の直線であればその要件が足りるのかも具体的な規定はなく、「外側に凸の曲線状」が「少なくとも概ね直線状」であるとはいえない。よって、異議申立人の主張を採用することはできない。
更に、異議申立人は、甲第1号証に示される(二重の円の)内側の円を「音孔」と認定し、異議申立理由の主張をしている。しかしながら、本件特許発明の「音孔」とは具体的にどこをいうのか、本件特許明細の段落【0001】ないし【0010】を参照すると、演奏時に指で塞いだり解放したりする部分であると認められる。これを踏まえると、甲第1号証の横笛「AULONE」は、内側の円の外方側端縁は外側の円の外方側端縁よりも低い位置に形成されているから、「外側の円内全て」を塞がずに「内側の円内のみ」を指で塞ぐことは現実的ではなく(この点についても、当審の合議体で検甲第6号証を使用して確認した。)、「外側の円内全て」が指で塞がれる対象部分であり「音孔」に該当すると解釈するのが自然である。よって、異議申立人の主張を採用することはできない。

そうすると、異議申立人が証拠として提出した甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認定できる。
「他の音孔と形状が異なる一番上の音孔は、二重の円、すなわち外側の円と内側の円とから構成され、
外側の円の外方側端縁は、管体と同一平面であり、
内側の円の外方側端縁は、外側の円の外方側端縁よりも低い位置に形成されており、
外側の円の内方側に凹部が形成されており、この凹部から内側の円の外方側端縁と交差する部分まで、外側に凸の曲線状に隆起する外形線で繋がっている
横笛。」

3 本件特許発明1と甲1発明との対比・判断
本件特許発明1は「音孔の周囲が、前記音孔に向けてなだらかな山形に隆起する断面形状で形成される」のに対し、甲1発明は、音孔の構成の一部である「外側の円の外方側端縁は、管体と同一平面」であるから、「音孔の周囲が音孔向けてなだらかな山形に隆起」していない。(以下、「相違点1」という。)
そして、本件特許発明1は「前記山形の外形線が、直線状又は内側に凸の曲線状に隆起する断面形状で形成され、前記音孔の外方側端縁で交差するか、前記音孔の外方側端縁と前記山形の外形線との間に0.6?1.0mmの幅で平坦部が形成されるか、前記音孔の外方側端縁と前記山形の外形線との間が外方側に突出する曲面状に形成されている」のに対し、甲1発明は、上記相違点1のとおり、そもそも音孔の周囲が山形に隆起した形状になっていないので、本件特許発明1の上記構成を備えていない。(以下、相違点2」という。)
また、本件特許発明1は「リコーダー」であるのに対し、甲1発明は「横笛」である。(以下、「相違点3」という。)
以上のとおり、本件特許発明1と甲1発明とで一致点はなく、相違点1ないし3のとおり相違する。特に、相違点1について、甲1発明の「外側端縁が管体と同一平面である音孔(外側の円)」を「周囲(外側端縁)が山形に隆起した形状をした音孔」に代える理由(動機付け)はなく、当業者が容易になし得た事項ではない。同様に、相違点2の構成にすることも容易になし得た事項ではない。
よって、相違点3を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明から容易になし得たものではない。
そして、本件特許発明1を更に限定した本件特許発明2および3も、同様の理由により、甲1発明から容易になし得たものではない。

4 予備的判断
上記のとおり、本件特許発明1は甲1発明から容易になし得たものではないが、仮に、甲1発明の「音孔」を、(二重の円の)外側の円内全てと認定せず、「内側の円内のみ」と認定して、予備的な判断をする。
まず、甲1発明は音孔の外方側端縁に向けて山形に隆起する外形線があるといえるから、上記相違点1は一致点となる。
次に相違点2について判断する。
甲1発明は「外側の円の内方側に凹部が形成されており、この凹部から内側の円の外方側端縁と交差する部分まで、外側に凸の曲線状に隆起する外形線で繋がっている」ので、依然として本件特許発明1と相違点2で相違する。
この点について、異議申立人は、平成30年6月20日付け意見書において、「本件特許の明細書の段落番号0015において、山形の外形線を直線状(又は内側に凸の曲線状)に隆起する断面形状とすることによって期待できる効果として、『指で触れたときになだらかな山形がはっきりと認識でき、音孔2からずれた位置を指で押さえた場合でも、目視で確認することなく指の触感だけで本来の音孔の位置を容易に認識できるようになる。』と説明されているところ、外形線が、甲第1号証の4に示されている程度に概ね直線状に形成されている場合も、当然効果を期待できることは明らかである」旨を主張している。しかしながら、本件特許発明1の音孔(内側の円内)の外側端縁は管体よりも低い位置にあり、指はまず外側の円を認識し、外側の円と内側の円との間に指が入り込むような間隔はなく、外側の円内に指が入りさえすれば自然に内側の円内(音孔)を押さえられるものであるから(検第6号証を使用して当審の合議体で確認した。)、本件特許明細書の段落【0015】の効果は甲1発明では期待できない。よって、異議申立人の主張を採用することはできない。
次に、相違点2についての容易性について判断すると、まず上記「2」のとおり、「外側に凸の曲線状」は「概ね直線状」であるとはいえない。そして、甲1発明は本件特許明細書の段落【0015】の効果が上記のとおり期待できないから、山形の外形線について、甲1発明における「外側に凸の曲線状に隆起する」形状を(本件特許発明1の)「直線状又は内側に凸の曲線状に隆起する」形状に代える理由(動機付け)はない。よって、甲1発明に基づき相違点2が容易になし得たとすることはできない。
また、異議申立人は、上記意見書において、「甲1発明は、甲第1号証の5に示されるように、音孔の外方側端縁と山形の外形線との間の領域に、平坦部に相当する部分が含まれている」旨、「音孔の外方側端縁と山形の外形線との間が外方側に突出する曲面状に形成されている」旨を主張している。しかしながら、当該主張は、異議申立理由で主張されていない事項であり、しかも、同じ部位について、一方は「平坦」、他方は「外方側に突出する曲面」であるとしており矛盾もする。そして、上記のとおり、甲1発明は、外側の円と内側の円との間に指が入り込むような間隔はなく、外側の円内に指が入りさえすれば自然に内側の円内(音孔)を押さえられるものであるから、音孔の外方側端縁と山形の外形線との間に、「0.6?1.0mmの幅で平坦部」や「外方側に突出する曲面状」を形成する理由(動機付け)はない。よって、異議申立人の主張を採用することはできない。
以上のとおり、甲第1発明において、相違点2の構成にすることは容易になし得た事項ではないから、相違点3を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明から容易になし得たものではない。
そして、本件特許発明1を更に限定した本件特許発明2および3も、同様の理由により、甲1発明から容易になし得たものではない。


第6 むすび
したがって、当審において通知した取消理由、及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音孔の周囲が、前記音孔に向けてなだらかな山形に隆起する断面形状で形成されるとともに、前記山形の外形線が、直線状又は内側に凸の曲線状に隆起する断面形状で形成され、前記音孔の外方側端縁で交差するか、前記音孔の外方側端縁と前記山形の外形線との間に0.6?1.0mmの幅で平坦部が形成されるか、前記音孔の外方側端縁と前記山形の外形線との間が外方側に突出する曲面状に形成されていることを特徴とするリコーダー。
【請求項2】
前記音孔の中心を通る前記リコーダーの断面視で、前記音孔の周囲の外形線が、直線状又は内側に凸の曲線状に隆起する断面形状で形成されている請求項1記載のリコーダー。
【請求項3】
前記音孔の中心を通る前記リコーダーの断面視で、前記音孔の周面と、前記音孔の周囲の外形線との成す角が鋭角状になる構造とされている請求項1、2いずれかに記載のリコーダー。
【請求項4】
音孔を備えたリコーダーに対し着脱可能に取り付けられるリング状部材であって、中央部に前記音孔と連通する開口を有するとともに、前記開口の周囲が、前記開口に向けてなだらかな山形に隆起する断面形状で形成されるとともに、前記山形の外形線が前記音孔の外方側端縁で交差するか、前記音孔の外方側端縁と前記山形の外形線との間に0.6?1.0mmの幅で平坦部が形成されるか、前記音孔の外方側端縁と前記山形の外形線との間が外方側に突出する曲面状に形成されていることを特徴とするリコーダーに用いられるリング状部材。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-08-16 
出願番号 特願2014-82201(P2014-82201)
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (G10D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 安田 勇太  
特許庁審判長 井上 信一
特許庁審判官 関谷 隆一
酒井 朋広
登録日 2017-05-26 
登録番号 特許第6148998号(P6148998)
権利者 高嶋 道夫
発明の名称 リコーダー及びそれに用いるリング状部材  
代理人 武田 明広  

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