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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B60Q
管理番号 1344874
異議申立番号 異議2018-700619  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-11-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-07-26 
確定日 2018-10-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6271662号発明「車両用灯具の制御装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6271662号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6271662号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、特願2012-262339号(平成24年11月30日出願。以下「原出願」という。)の一部を平成28年9月7日に新たな特許出願としたものであって、平成30年1月12日に特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、平成30年7月26日に特許異議申立人 田中 貞嗣及び小山 卓志(以下「申立人」という。)より特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明並びに本件特許の願書に添付した明細書及び図面の記載
1 本件発明
特許第6271662号の請求項1及び2に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明2」という。)は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
加速度センサの検出値に基づいて車両用灯具の光軸を調節する車両用灯具の制御装置であって、
所定の初期化処理で得られる、前記加速度センサの軸と車両の軸との位置関係を示す基準情報を保持するとともに、
前記初期化処理後、車両走行中に検出される車両前後方向の加速度の変化量と車両上下方向の加速度の変化量との比率に基づいて前記基準情報を補正することを特徴とする車両用灯具の制御装置。
【請求項2】
加速度センサの検出値に基づいて車両用灯具の光軸を調節する車両用灯具の制御装置であって、
所定の初期化処理で得られる、前記加速度センサの軸と車両の軸との位置関係を示す基準情報を保持するとともに、
前記初期化処理後、車両走行中に検出される車両前後方向及び車両上下方向の両方に関する少なくとも2つの加速度データから得られる、車両前後方向の加速度を第1軸に設定し車両上下方向の加速度を第2軸に設定した座標における直線の傾きに基づいて前記基準情報を補正することを特徴とする車両用灯具の制御装置。」

2 本件特許の願書に添付した明細書及び図面の記載
本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)及び図面には、次の事項が記載されている(下線は当審で付加した。また、以下「A」?「C」の記載事項は、それぞれ「記載事項A」?「記載事項C」という。以下同様。)。

A「【0004】
加速度センサ、ジャイロセンサ(角速度センサ、角加速度センサ)や地磁気センサ等の傾斜センサを用いた場合、車高センサを用いた場合に比べてオートレベリングシステムをより安価にすることができ、また軽量化を図ることもできる。その結果、車両の低コスト化及び軽量化を図ることができる。
【0005】
本発明者らは、オートレベリング制御の高精度化を実現すべく鋭意検討した結果、従来の車両用灯具の制御装置には、オートレベリング制御のさらなる高精度化を図る余地があることを認識するに至った。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、車両用灯具のオートレベリング制御の精度を高める技術を提供することにある。」

B「【0027】
加速度センサ110は、例えば互いに直交するX軸、Y軸、Z軸を有する3軸加速度センサである。加速度センサ110は、任意の姿勢で車両300に取り付けられ、車両300に生じる加速度ベクトルを検出する。走行中の車両300には、重力加速度と車両300の移動により生じる運動加速度とが生じる。そのため、加速度センサ110は、図3に示すように、重力加速度ベクトルGと運動加速度ベクトルαとが合成された合成加速度ベクトルβを検出することができる。また、車両300の停止中、加速度センサ110は、重力加速度ベクトルGを検出することができる。加速度センサ110は、検出した加速度ベクトルの各軸成分の数値を出力する。
【0028】
上述のように、加速度センサ110は車両300に対して任意の姿勢で取り付けられるため、加速度センサ110のX軸、Y軸、Z軸は、必ずしも車両300の姿勢を決める車両300の前後軸、左右軸及び上下軸と一致しない。そのため、制御部104は、加速度センサ110から出力される3軸の成分、すなわちセンサ座標系の成分を、車両300の3軸の成分、すなわち車両座標系の成分に変換する必要がある。加速度センサ110の軸成分を車両300の軸成分に変換するためには、車両300に取り付けられた状態の加速度センサ110の軸と車両300の軸との位置関係を示す情報(以下では適宜、この情報を基準情報という)が必要である。そこで、基準情報生成部112は、例えば以下のようにして基準情報を生成する。
【0029】
まず、例えば車両メーカの製造工場やディーラの整備工場などで、車両300が水平面に対して平行になるよう設計された路面(以下では適宜、この路面を基準路面という)に置かれ、第1基準状態とされる。そして、工場の初期化処理装置のスイッチ操作やCAN(Controller Area Network)システムの通信等により、レベリングECU100に初期化信号が送信される。制御部104は、初期化信号を受けると初期エイミング調整を開始し、灯具ユニット10の光軸Oを初期設定位置に合わせる。また、基準情報生成部112は、加速度センサ110の座標系と車両300の座標系と車両が位置する基準路面(言い換えれば水平面)との位置関係を対応付ける。すなわち、基準情報生成部112は、第1基準状態における加速度センサ110の検出値を、第1基準ベクトルS1=(X1,Y1,Z1)としてメモリ108に記録する。これにより、加速度センサ側の軸と、基準路面若しくは水平面との位置関係が対応付けられる。次に、車両300は、ピッチ角度のみが第1状態と異なる第2状態とされる。例えば、第1状態にある車両300の前部又は後部に荷重が掛けることで、車両300を第2状態とすることができる。基準情報生成部112は、車両300が第2状態にあるときの加速度センサ110の検出値を第2基準ベクトルS2=(X2,Y2,Z2)としてメモリ108に記録する。
【0030】
第1基準ベクトルS1を取得することで、加速度センサ110のZ軸と車両300の上下軸とのずれを把握することができる。しかしながら、第1基準ベクトルS1だけでは車両300の前後軸、左右軸と加速度センサ110のX軸、Y軸とのずれを把握することができない場合がある。例えば、加速度センサ110が水平面に対して水平な状態では、第1基準ベクトルS1は(0,0,1)となる。この場合、加速度センサ110がZ軸を中心に回転しても、加速度センサ110のX軸成分及びY軸成分の検出値は0のままである。したがって、加速度センサ110のX軸及びY軸がそれぞれ車両の前後軸及び左右軸に対してずれていても、そのずれを検出することができない。
【0031】
これに対し、本実施の形態では第2基準ベクトルS2を取得している。上述のように第2状態は第1状態からピッチ角度のみ、すなわち車両300の前後軸及び上下軸が変化した状態である。そのため、第1基準ベクトルS1に対する第2基準ベクトルS2の成分の変化から、車両300の前後、左右軸と加速度センサ110のX、Y軸のずれを把握することができる。これにより、加速度センサ側の軸と車両側の軸の位置関係が対応付けられ、その結果、車両側の軸と基準路面の位置関係が対応付けられる。基準情報生成部112は、加速度センサ110の軸と車両300の軸と基準路面との位置関係を対応付けた変換テーブルを、基準情報としてメモリ108に記録する。」

C 本件特許の願書には以下の図面が添付されている。





第3 申立理由の概要
1 申立人の主張の概要
本件発明1及び2は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。したがって、本件発明1及び2に係る特許は、同法第29条の規定に違反してなされたものであるから、本件特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。

2 申立人が提出した証拠方法
甲第1号証:特開2012-106719号公報

第4 当審の判断
1 甲第1号証に記載された事項及び発明
本件特許の原出願の出願日前に頒布された甲第1号証には、以下の事項が記載されている。

(1a)「【請求項1】
加速度センサで検出される、車両前後方向および車両上下方向の加速度を導出可能な加速度を受信するための受信部と、
車両の加速時および減速時の少なくとも一方における、車両前後方向の加速度の時間変化量と車両上下方向の加速度の時間変化量との比率の変化に基づいて車両用灯具の光軸調節を指示する制御信号を生成するための制御部と、
前記制御信号を車両用灯具の光軸調節部に送信するための送信部と、
を備えたことを特徴とする車両用灯具の制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、車両前後方向の加速度を第1軸に設定し車両上下方向の加速度を第2軸に設定した座標に、車両の加速時および減速時の少なくとも一方における加速度センサの検出値を経時的にプロットし、少なくとも2点から得られる直線またはベクトルの傾きを前記比率とする請求項1に記載の制御装置。」

(1b)「【0001】
本発明は、車両用灯具の制御装置、車両用灯具システム、および車両用灯具の制御方法に関し、特に自動車などに用いられる車両用灯具の制御装置、車両用灯具システム、および車両用灯具の制御方法に関するものである。」

(1c)「【0021】
(実施形態1)
・・・
【0034】
続いて、上述の構成を備えた車両用灯具システム200によるオートレベリング制御について詳細に説明する。図3(A)および図3(B)は、車両の運動加速度ベクトルの方向と車両姿勢角度との関係を説明するための模式図である。図3(A)は、後述する車両姿勢角度θvが変化していない状態を示し、図3(B)は、車両姿勢角度θvが変化している状態を示している。また、図3(A)および図3(B)において、車両300が前進したときに生じる運動加速度ベクトルαおよび合成加速度ベクトルβを実線矢印で示し、車両300が減速あるいは後進したときに生じる運動加速度ベクトルαおよび合成加速度ベクトルβを破線矢印で示している。図4は、車両前後方向の加速度と車両上下方向の加速度の関係を表すグラフである。
【0035】
たとえば、車両後部の荷室に荷物を載せたり後部座席に乗員がいる場合、車両姿勢は後傾姿勢となり、荷物が下ろされたり後部座席の乗員が下車した場合、車両姿勢は後傾姿勢の状態から前傾する。灯具ユニット10の照射方向も車両300の姿勢状態に対応して上下に変動して、前方照射距離が長くなったり短くなったりする。そこで、照射制御部228L,228Rは、車両制御部302を経由して加速度センサ316の検出値を受信し、レベリング制御部236を介してレベリングアクチュエータ226を制御して光軸Oのピッチ角度を車両姿勢に応じた角度とする。このように、車両姿勢に基づき灯具ユニット10のレベリング調整をリアルタイムで行うオートレベリング制御を実施することで車両300の使用状況に応じて車両姿勢が変化しても前方照射の到達距離を最適に調節することができる。
【0036】
加速度センサ316は、例えば互いに直交するX軸、Y軸、Z軸を有する3軸加速度センサである。加速度センサ316は、センサのX軸が車両300の前後軸と、センサのY軸が車両300の左右軸と、センサのZ軸が車両300の上下軸と沿うように車両300に取り付けられている。加速度センサ316は、重力加速度ベクトルGに対する車両300の傾きを検出し、3軸方向における重力加速度ベクトルGの各軸成分の数値を出力する。すなわち、加速度センサ316は、水平面に対する路面の傾斜角度(第1角度)である路面角度θrと、路面に対する車両の傾斜角度(第2角度)である車両姿勢角度θvとが含まれる、水平面に対する車両の傾斜角度(合計角度)である合計角度θをベクトルとして検出することができる。また、加速度センサ316は、車両300の走行時、重力加速度ベクトルGと車両300の移動により生じる運動加速度ベクトルαとが合成された合成加速度ベクトルβを検出し、3軸方向における合成加速度ベクトルβの各軸成分の数値を出力する。なお、路面角度θr、車両姿勢角度θv、および合計角度θは、それぞれX軸の上下方向の角度、言い換えれば車両300のピッチ方向の角度である。また、以下の説明では加速度センサ316のY軸方向の成分、すなわち車両300のロール方向の角度は考慮しない。なお、加速度センサ316は、任意の姿勢で車両300に取り付けられてもよい。この場合、加速度センサ316から出力されるX軸、Y軸、Z軸の各成分の数値は、照射制御部228Rによって車両の前後軸、左右軸、上下軸の成分に変換される。
【0037】
オートレベリング制御は、車両のピッチ方向の傾斜角度の変化にともなう車両用灯具の前方照射距離の変化を吸収して、照射光の前方到達距離を最適に保つことを目的とするものである。したがって、オートレベリング制御に必要とされる車両の傾斜角度は、車両姿勢角度θvである。すなわち、車両姿勢角度θvが変化した場合に灯具ユニット10の光軸位置を調節し、路面角度θrが変化した場合に灯具ユニット10の光軸位置を維持するように制御することが望まれる。これを実現するためには、加速度センサ316から得られる合計角度θから、車両姿勢角度θvについての情報を抽出する必要がある。
【0038】
ここで、車両300は路面に対して平行に移動する。よって、運動加速度ベクトルαは、車両姿勢角度θvによらず路面に対して平行なベクトルとなる。また、図3(A)に示すように、車両300の車両姿勢角度θvが0°であった場合、理論上は加速度センサ316のX軸(あるいは車両300の前後軸)は路面に対して平行となるため、運動加速度ベクトルαは、加速度センサ316のX軸に平行なベクトルとなる。よって、車両の加減速によって運動加速度ベクトルαの大きさが変化した際に加速度センサ316によって検出される合成加速度ベクトルβの先端の軌跡は、X軸に対して平行な直線となる。一方、図3(B)に示すように、車両姿勢角度θvが0°でない場合、加速度センサ316のX軸は路面に対して斜めにずれるため、運動加速度ベクトルαは、加速度センサ316のX軸に対して斜めに延びるベクトルとなる。よって、車両の加減速によって運動加速度ベクトルαの大きさが変化した際の合成加速度ベクトルβの先端の軌跡は、X軸に対して傾いた直線となる。
【0039】
そこで、照射制御部228Rは、受信部228R1によって加速度センサ316から車両前後方向および車両上下方向の加速度を受信する。そして、制御部228R2において車両300の加速時および減速時の少なくとも一方における、車両前後方向の加速度の時間変化量と車両上下方向の加速度の時間変化量との比率を算出する。例えば、照射制御部228Rは、図4に示すように車両前後方向の加速度を第1軸(x軸)に設定し車両上下方向の加速度を第2軸(z軸)に設定した座標に、車両の加速時および減速時の少なくとも一方における加速度センサ316の検出値を経時的にプロットする。点t_(A1)?t_(An)は、図3(A)に示す状態での時間t_(1)?t_(n)における加速度センサ316の検出値である。点t_(B1)?t_(Bn)は、図3(B)に示す状態での時間t_(1)?t_(n)における加速度センサ316の検出値である。そして、少なくとも2点から得られる直線またはベクトルの傾きを上述した比率として算出する。本実施形態では、照射制御部228Rは、プロットされた複数点t_(A1)?t_(An),t_(B1)?t_(Bn)に対して最小二乗法などを用いて直線近似式A,Bを求め、当該直線近似式A,Bの傾きを比率として算出する。
【0040】
車両姿勢角度θvが0°の場合、加速度センサ316の検出値から、x軸に平行な直線近似式Aが得られる。すなわち、直線近似式Aの傾きは0となる。これに対し、車両姿勢角度θvが0°でない場合、加速度センサ316の検出値から、車両姿勢角度θvに応じた傾きを有する直線近似式Bが得られる。したがって、車両300の加減速時における車両前後方向および車両上下方向の加速度の時間変化量の比率の変化を計測することで、加速度センサ316の検出値から、車両姿勢角度θvについての情報として車両姿勢角度θvの変化を知ることができる。そして、得られた車両姿勢角度θvの変化情報を利用することで、より高精度なオートレベリング制御を実現することができる。
【0041】
本実施形態に係る車両用灯具システム200は、上述した比率の変化を検出することで得られる車両姿勢角度θvについての情報を利用して、次のようなオートレベリング制御を実行する。すなわち、まず、例えば車両メーカの製造工場やディーラの整備工場などで、車両300が水平面に置かれて基準状態とされる。基準状態では、車両300の運転席に1名乗車している状態、あるいは空車状態とされる。そして、工場の初期化処理装置のスイッチ操作、または照射制御部228Rと加速度センサ316とを車両制御部302を介して接続するCAN(Controller Area Network)システムの通信等により、照射制御部228Rに初期化信号が送信される。照射制御部228Rに送信された初期化信号は、受信部228R1で受信されて制御部228R2に送られる。制御部228R2は、初期化信号を受けると、受信部228R1が受信した加速度センサ316の出力値を基準傾斜角度として用いて、初期エイミング調整を実施する。また、制御部228R2は、このときの加速度センサ316の出力値を、路面角度θrの基準値(θr=0°)、車両姿勢角度θvの基準値(θv=0°)としてメモリ228R4に記録することで、これらの基準値を保持する。
【0042】
車両走行中は、積載荷量や乗車人数が増減して車両姿勢角度θvが変化することは稀であるため、走行中の合計角度θの変化を路面角度θrの変化と推定することができる。そこで、制御部228R2は、車両走行中に合計角度θが変化した場合、光軸調節を指示する制御信号の生成を回避する。なお、制御部228R2は、車両走行中の合計角度θの変化に対して光軸位置の維持を指示する制御信号を生成し、送信部228R3からレベリング制御部236に送信するようにしてもよい。車両300が走行中であることは、例えば車速センサ312から得られる車速により判断することができる。前記『車両走行中』は、例えば車速センサ312の検出値が0を越えたときから、車速センサ312の検出値が0となるまでの間である。この『車両走行中』は、設計者による実験やシミュレーションに基づき適宜設定することが可能である。
【0043】
そして車両停止時に、制御部228R2は、加速度センサ316で検出された現在の合計角度θから、メモリ228R4から読み出した車両姿勢角度θvの基準値を減算して、車両停止時の路面角度θrを計算する。そして、この路面角度θrを新たな路面角度θrの基準値としてメモリ228R4に記録する。前記『車両停止時』は、例えば車速センサ312の検出値が0となった後、加速度センサ316の検出値が安定したときである。加速度センサ316の検出値が安定したときとするのは、車両300が停止してから車両姿勢が安定するまでに若干の時間を要し、車両姿勢が安定していない状態では正確な合計角度θを検出することが困難なためである。この『安定した時』は、加速度センサ316の検出値の単位時間あたりの変化量が所定量以下となったときとしてもよいし、車速センサ312の検出値が0になってから所定時間経過後としてもよい。前記『車両停止時』、『所定量』、および『所定時間』は、設計者による実験やシミュレーションに基づき適宜設定することが可能である。
【0044】
一方、車両停止中は、車両300が移動して路面角度θrが変化することは稀であるため、車両停止中の合計角度θの変化を車両姿勢角度θvの変化と推定することができる。そこで、制御部228R2は、車両停止中に合計角度θが変化した場合、加速度センサ316の検出値とメモリ228R4から読み出した路面角度θrの基準値とから得られる車両姿勢角度θvを用いて、光軸調節を指示する制御信号を生成する。具体的には、制御部228R2は、車両停止中に所定のタイミングで繰り返し車両姿勢角度θvを計算する。車両姿勢角度θvは、加速度センサ316から受信した現在の合計角度θからメモリ228R4に記録されている路面角度θrの基準値を減じて得られる。そして、制御部228R2は、計算された車両姿勢角度θvとメモリ228R4に保持されている車両姿勢角度θvの基準値との差が所定量以上であった場合に、新たに得られた車両姿勢角度θvに基づいて制御信号を生成する。これにより、頻繁な光軸調節を回避でき、その結果、制御部228R2の制御負担を軽減することができ、またレベリングアクチュエータ226の長寿命化を図ることができる。生成された制御信号は、送信部228R3によってレベリング制御部236に送信され、制御信号に基づいた光軸調節が実行される。計算された車両姿勢角度θvは、新たな基準値としてメモリ228R4に記録される。
【0045】
前記『車両停止中』は、例えば加速度センサ316の検出値が安定したときから車両発進時までであり、この『車両発進時』は、例えば車速センサ312の検出値が0を越えたときである。前記『車両停止中』は、設計者による実験やシミュレーションに基づき適宜設定することが可能である。
【0046】
車両の加速時および減速時の少なくとも一方、たとえば車両が発進したときあるいは停止するときの所定時間、制御部228R2は、加速度センサ316の出力値を記録する。制御部228R2は、車両上下方向の加速度を第1軸とし車両上下方向の加速度を第2軸とした座標に、記録した出力値をプロットし、最小二乗法により直線近似式を連続的、あるいは所定時間毎に算出する。そして、制御部228R2は、得られた直線近似式の傾きの変化に基づいて灯具ユニット10の光軸調節を指示する制御信号を生成し、これにより光軸位置を補正する。また、あわせてメモリ228R4に保持されている車両姿勢角度θvの基準値を補正する。例えば、制御部228R2は、得られた直線近似式の傾きと前回の計算で得られた直線近似式の傾きとを比較し、直線近似式の傾きの変化が検出された場合、当該傾きの変化に基づいて補正処理を実行する。
【0047】
また、例えば、メモリ228R4に保持されている車両姿勢角度θvがp°であり、直線近似式の傾きの変化の初回計算からの積算値がq°であったとする。あるいは、前回の車両停止中における車両姿勢角度θvの変化量、すなわち車両停止時に保持していた車両姿勢角度θvと車両発進時に保持していた車両姿勢角度θvとの差がp°であり、前回の発進時に算出した直線近似式と今回の発進時に算出した直線近似式との傾きの差がq°であったとする。この場合、制御部228R2は、車両姿勢角度θvの誤差(p-q)°だけ光軸位置を調節するための制御信号を生成し、送信部228R3が当該制御信号を送信する。また、制御部228R2は、メモリ228R4に保持されている車両姿勢角度θvの基準値を(p-q)°だけ補正する。これにより、上述したように路面角度θrおよび車両姿勢角度θvの基準値を繰り返し書き換えることで加速度センサ316の検出誤差等が積み重なって、オートレベリング制御の精度が低下してしまうことを回避することができる。あるいは、オートレベリング制御の精度低下を軽減することができる。
【0048】
あるいは、光軸位置および車両姿勢角度θvの基準値の補正方法は、次のようであってもよい。すなわち、車両300の加減速に起因した車両姿勢の傾きや、車両300の曲進に起因した車両姿勢の傾き等の外乱を除外できない場合、直線近似式の傾きの変化量が車両姿勢角度θvの変化量から大きくずれる可能性がある。この場合、直線近似式の傾きの変化量だけ光軸位置および車両姿勢角度θvの基準値を補正しても、実際の車両姿勢角度θvからずれてしまう。また、直線近似式の傾きが変化していることから実際の車両姿勢角度θvが保持している基準値からずれている可能性が高いため、保持している基準値を使用して光軸調節を実施しても高精度にオートレベリング制御を実施できない可能性がある。そこで、制御部228R2は、前記比率あるいは直線近似式の傾きの変化が検出された場合に、当該傾きの変化に基づく光軸位置の補正制御として、光軸位置を水平方向あるいは初期位置に近づけ、車両姿勢角度θvの基準値を0°に近づけるように補正する。これにより、灯具ユニット10の光軸位置を車両姿勢角度θvの変化に精度良く追従させることができなくなった場合でも、光軸位置を水平あるいは初期位置に近づけて運転者の視認性を確保するフェールセーフ機能を実現することができる。
【0049】
なお、制御部228R2は、計算された車両姿勢角度θvと、メモリ228R4に保持されている車両姿勢角度θvの基準値との差が所定量以上であった場合に、計算された車両姿勢角度θvを新たな基準値としてメモリ228R4に記録するようにしてもよい。同様に、制御部228R2は、計算された路面角度θrと、メモリ228R4に記録されている路面角度θrの基準値との差が所定量以上であった場合に、計算された路面角度θrを新たな基準値としてメモリ228R4に記録するようにしてもよい。これにより、路面角度θrあるいは車両姿勢角度θvの基準値が頻繁に書き換えられることを回避できる。また、制御部228R2は、車両300の発進時の合計角度θと停止時の合計角度θとが異なる場合に路面角度θrを計算してもよい。これにより、制御部228R2の制御負担を軽減することができる。
【0050】
また、制御部228R2は、車両300の1回の発進から停止までの間における加減速時の加速度センサ316の検出値を記録しておき、車両停止時などに直線近似式を算出して、上述の補正処理を実行してもよい。
【0051】
図5は、実施形態1に係る車両用灯具システムのオートレベリング制御のフローチャートである。図5のフローチャートではステップを意味するS(Stepの頭文字)と数字との組み合わせによって各部の処理手順を表示する。また、Sと数字との組み合わせによって表示した処理で何らかの判断処理が実行され、その判断結果が肯定的であった場合は、Y(Yesの頭文字)を付加して、例えば(S101のY)と表示し、逆にその判断結果が否定的であった場合は、N(Noの頭文字)を付加して、例えば(S101のN)と表示する。このフローは、たとえばライトスイッチ304によってオートレベリング制御モードの実行指示がなされている状態において、イグニッションがオンにされた場合に照射制御部228R(制御部228R2)により所定のタイミングで繰り返し実行され、イグニッションがオフにされた場合に終了する。
【0052】
まず、制御部228R2は、車両走行中であるか判断する(S101)。車両走行中である場合(S101のY)、制御部228R2は、車両が加減速中であるか判断する(S102)。車両の加減速は、加速度センサ316の検出値、アクセルペダルやブレーキペダル(ともに図示せず)の踏み込みの有無等から検知することができる。車両が加減速中である場合(S102のY)、制御部228R2は、加速度センサ316の複数の出力値から直線近似式を算出し、得られた直線近似式の傾きと前回算出した直線近似式の傾きとを比較する(S103)。そして、制御部228R2は、直線近似式の傾きの変化を検出したか判断する(S104)。直線近似式の傾きの変化が検出された場合(S104のY)、制御部228R2は、光軸調節を指示する制御信号を生成して光軸位置を補正し、車両姿勢角度θvの基準値を補正する(S105)。その後、制御部228R2は、加速度センサ316によって検出された合計角度θが変化しても光軸調節を指示する制御信号を生成せずに、光軸調節を回避して(S106)、本ルーチンを終了する。また、制御部228R2は、車両が加減速中でない場合(S102のN)、および直線近似式の傾きの変化が検出されない場合(S104のN)も、光軸調節を回避して(S106)、本ルーチンを終了する。
【0053】
車両走行中でない場合(S101のN)、制御部228R2は、車両停止時であるか判断する(S107)。車両停止時である場合(S107のY)、制御部228R2は、現在の合計角度θから車両姿勢角度θvの基準値を減じて路面角度θrを計算し(S108)、計算された路面角度θrを新たな基準値としてメモリ228R4に記録する(S109)。そして、照射制御部228Rは、光軸調節を回避して(S106)、本ルーチンを終了する。
【0054】
車両停止時でない場合(S107のN)、この場合は車両停止中であることを意味するため、制御部228R2は、現在の合計角度θから路面角度θrの基準値を減じて車両姿勢角度θvを計算する(S110)。続いて、制御部228R2は、計算された車両姿勢角度θvと車両姿勢角度θvの基準値との差が所定量以上であるか判断する(S111)。差が所定量未満である場合(S111のN)、制御部228R2は、光軸調節を回避して(S106)、本ルーチンを終了する。差が所定量以上である場合(S111のY)、制御部228R2は、計算された車両姿勢角度θvに基づいて光軸位置を調節する(S112)。そして、制御部228R2は、計算された車両姿勢角度θvを基準値としてメモリ228R4に記録し(S113)、本ルーチンを終了する。
【0055】
なお、左側の前照灯ユニット210Lについては、照射制御部228L(制御部228L2)が同様の制御を実行する。あるいは、照射制御部228L,228Rの一方が車両姿勢角度θvや路面角度θrを計算し、他方は計算された車両姿勢角度θvや路面角度θrを取得して光軸Oを調節する構成であってもよい。
【0056】
また、車両走行中は、一般に車両300が一定速度を維持する時間は短く、大部分の時間は加減速していると推定することができる。そのため、車両300が加速または減速しているかを判断するステップ102を省略してもよい。
【0057】
以上説明したように、本実施形態に係る車両用灯具システム200は、加速度センサ316で検出される、車両前後方向および車両上下方向の加速度を導出可能な加速度を受信し、車両300の加速時および減速時の少なくとも一方における、車両前後方向の加速度の時間変化量と車両上下方向の加速度の時間変化量との比率の変化に基づいて灯具ユニット10の光軸を調節する。このように、本実施形態に係る車両用灯具システム200は、車両加減速時における車両前後方向の加速度の時間変化量と車両上下方向の加速度の時間変化量との比率の変化から車両姿勢角度θvの変化を取得するという新たな抽出方法を用いて、車両姿勢角度θvについての情報を取得している。すなわち、車両用灯具システム200は、加速度センサ316のプロット特性から車両姿勢角度θvについての情報を取得している。そのため、本実施形態に係る車両用灯具システム200によれば、加速度センサ316によって検出された合計角度θから車両姿勢角度θvについての情報を抽出する新たな技術を提供することができる。
【0058】
また、本実施形態に係る車両用灯具システム200は、車両走行中に合計角度θが変化した場合に、変化した合計角度θと車両姿勢角度θvの基準値とから路面角度θrを導出して、保持している路面角度θrの基準値を書き換え、車両停止中に合計角度θが変化した場合に、変化した合計角度θと路面角度θrの基準値とから車両姿勢角度θvを導出し、保持している車両姿勢角度θvの基準値を書き換えている。そして、車両用灯具システム200は、車両300の加減速時に、上述した方法で抽出した車両姿勢角度θvについての情報を利用して、灯具ユニット10の光軸位置を補正している。そのため、加速度センサを用いたオートレベリング制御をより高精度に実施することができる。」

(1d)甲第1号証には以下の図が示されている。





以上の記載事項(1a)?(1d)を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認める。
<引用発明>
「加速度センサ316で検出される、車両前後方向および車両上下方向の加速度を導出可能な加速度を受信するための受信部228R1と、
車両300の加速時および減速時の少なくとも一方における、車両前後方向の加速度の時間変化量と車両上下方向の加速度の時間変化量との比率の変化に基づいて車両用灯具の光軸調節を指示する制御信号を生成するための制御部228R2と、
前記制御信号を車両用灯具の光軸調節部に送信するための送信部228R3と、
を備えた車両用灯具の制御装置228Rであって、
加速度センサ316は、任意の姿勢で車両300に取り付けられ、加速度センサ316から出力されるX軸、Y軸、Z軸の各成分の数値は、車両の前後軸、左右軸、上下軸の成分に変換され、
車両メーカの製造工場やディーラの整備工場などで、車両300が水平面に置かれて基準状態とされ、基準状態では、制御部228R2は、初期化信号を受けると、このときの加速度センサ316の出力値を、路面角度θrの基準値(θr=0°)、車両姿勢角度θvの基準値(θv=0°)としてメモリ228R4に記録することで、これらの基準値を保持し、
車両走行中である場合、制御部228R2は、車両が加減速中であるか判断し、車両が加減速中である場合、制御部228R2は、加速度センサ316の複数の出力値から直線近似式を算出し、得られた直線近似式の傾きと前回算出した直線近似式の傾きとを比較し、制御部228R2は、直線近似式の傾きの変化を検出したか判断し、直線近似式の傾きの変化が検出された場合、制御部228R2は、光軸調節を指示する制御信号を生成して光軸位置を補正し、車両姿勢角度θvの基準値を補正する
車両用灯具の制御装置228R。」

2 対比・判断
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明を対比する。

(ア)引用発明の「加速度センサ316」、「車両用灯具」及び「車両用灯具の制御装置228R」は、その意味、機能または構造からみて、本件発明1の「加速度センサ」、「車両用灯具」及び「車両用灯具の制御装置」にそれぞれ相当する。

(イ)引用発明の「車両前後方向」及び「車両上下方向」は、その意味からみて、本件発明1の「車両前後方向」及び「車両上下方向」にそれぞれ相当する。
また、引用発明の「加速度センサ316」の「X軸、Y軸、Z軸」は、本件発明1の「加速度センサの軸」に、引用発明の「車両の前後軸、左右軸、上下軸」は、本件発明1の「車両の軸」にそれぞれ相当する。

(ウ)引用発明は「車両300の加速時および減速時の少なくとも一方における、車両前後方向の加速度の時間変化量と車両上下方向の加速度の時間変化量との比率の変化に基づいて車両用灯具の光軸調節を指示する制御信号を生成する」ものであるが、その「加速度」は「加速度センサ316で検出される」ものである。
そうすると、引用発明の「加速度センサ316で検出される、車両前後方向および車両上下方向の加速度を導出可能な加速度を受信」し、「車両300の加速時および減速時の少なくとも一方における、車両前後方向の加速度の時間変化量と車両上下方向の加速度の時間変化量との比率の変化に基づいて車両用灯具の光軸調節を指示する」「車両用灯具の制御装置」は、上記(ア)、(イ)を踏まえると、本件発明1の「加速度センサの検出値に基づいて車両用灯具の光軸を調節する車両用灯具の制御装置」に相当する。

(エ)本件発明1の「基準情報」及び「初期化処理」について、本件明細書の段落【0028】の「加速度センサ110は車両300に対して任意の姿勢で取り付けられるため、加速度センサ110のX軸、Y軸、Z軸は、必ずしも車両300の姿勢を決める車両300の前後軸、左右軸及び上下軸と一致しない。そのため、制御部104は、加速度センサ110から出力される3軸の成分、すなわちセンサ座標系の成分を、車両300の3軸の成分、すなわち車両座標系の成分に変換する必要がある。加速度センサ110の軸成分を車両300の軸成分に変換するためには、車両300に取り付けられた状態の加速度センサ110の軸と車両300の軸との位置関係を示す情報(以下では適宜、この情報を基準情報という)が必要である。」という記載及び同段落【0029】?【0031】の「車両メーカの製造工場やディーラの整備工場などで、車両300が水平面に対して平行になるよう設計された路面(以下では適宜、この路面を基準路面という)に置かれ、第1基準状態とされる。そして、工場の初期化処理装置のスイッチ操作やCAN(Controller Area Network)システムの通信等により、レベリングECU100に初期化信号が送信される。・・・基準情報生成部112は、加速度センサ110の座標系と車両300の座標系と車両が位置する基準路面(言い換えれば水平面)との位置関係を対応付ける。・・・基準情報生成部112は、加速度センサ110の軸と車両300の軸と基準路面との位置関係を対応付けた変換テーブルを、基準情報としてメモリ108に記録する。」(いずれも記載事項B)という記載を参照すると、本件発明1の「基準情報」は、「加速度センサ110から出力される3軸の成分」を「車両300の3軸の成分」に変換するために両者の位置関係を対応付けた情報と理解でき、本件発明1の「初期化処理」は、その情報を記録する処理と理解できる。
ここで、引用発明の「加速度センサ316」は、「任意の姿勢で車両300に取り付けられ」、出力される「X軸、Y軸、Z軸」の各成分の数値は、「車両の前後軸、左右軸、上下軸の成分に変換され」るものであるところ、技術常識を踏まえると、当該変換のための情報は両者の位置関係に基づき定まることが明らかである。そうすると、引用発明においても、「加速度センサ316」の「X軸、Y軸、Z軸」の各成分の数値「車両の前後軸、左右軸、上下軸の成分」に「変換」するために両者の位置関係を対応付けた情報を保持していること、さらに、当該情報が、当該情報を記録するための何らかの処理を経て得られることが明らかである。
したがって、引用発明において「加速度センサ316から出力されるX軸、Y軸、Z軸の各成分の数値」を「車両の前後軸、左右軸、上下軸の成分に変換」することは、上記(ア)、(イ)を踏まえると、本件発明1において「所定の初期化処理で得られる、前記加速度センサの軸と車両の軸との位置関係を示す基準情報を保持する」ことに相当する。

以上のことから、本件発明1と引用発明とは以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。
<一致点1>
「加速度センサの検出値に基づいて車両用灯具の光軸を調節する車両用灯具の制御装置であって、
所定の初期化処理で得られる、前記加速度センサの軸と車両の軸との位置関係を示す基準情報を保持する車両用灯具の制御装置。」

<相違点1>
本件発明1は、「前記初期化処理後、車両走行中に検出される車両前後方向の加速度の変化量と車両上下方向の加速度の変化量との比率に基づいて前記基準情報を補正する」ものであるのに対し、
引用発明は、そのように特定されていない点。

イ 判断
(ア)引用発明の「車両メーカの製造工場やディーラの整備工場などで、車両300が水平面に置かれて基準状態とされ、基準状態では、制御部228R2は、初期化信号を受けると、このときの加速度センサ316の出力値を、路面角度θrの基準値(θr=0°)、車両姿勢角度θvの基準値(θv=0°)としてメモリ228R4に記録することで、これらの基準値を保持し」、「車両走行中である場合、制御部228R2は、車両が加減速中であるか判断し、車両が加減速中である場合、制御部228R2は、加速度センサ316の複数の出力値から直線近似式を算出し、得られた直線近似式の傾きと前回算出した直線近似式の傾きとを比較し、制御部228R2は、直線近似式の傾きの変化を検出したか判断し、直線近似式の傾きの変化が検出された場合、制御部228R2は、光軸調節を指示する制御信号を生成して光軸位置を補正し、車両姿勢角度θvの基準値を補正する」ことに関し、甲第1号証の段落【0039】?【0041】の「照射制御部228Rは、受信部228R1によって加速度センサ316から車両前後方向および車両上下方向の加速度を受信する。・・・制御部228R2において車両300の加速時および減速時の少なくとも一方における、車両前後方向の加速度の時間変化量と車両上下方向の加速度の時間変化量との比率を算出する。例えば、照射制御部228Rは、図4に示すように車両前後方向の加速度を第1軸(x軸)に設定し車両上下方向の加速度を第2軸(z軸)に設定した座標に、車両の加速時および減速時の少なくとも一方における加速度センサ316の検出値を経時的にプロットする。点t_(A1)?t_(An)は、図3(A)に示す状態での時間t_(1)?t_(n)における加速度センサ316の検出値である。点t_(B1)?t_(Bn)は、図3(B)に示す状態での時間t_(1)?t_(n)における加速度センサ316の検出値である。そして、少なくとも2点から得られる直線またはベクトルの傾きを上述した比率として算出する。本実施形態では、照射制御部228Rは、プロットされた複数点t_(A1)?t_(An),t_(B1)?t_(Bn)に対して最小二乗法などを用いて直線近似式A,Bを求め、当該直線近似式A,Bの傾きを比率として算出する。・・・車両姿勢角度θvが0°の場合、加速度センサ316の検出値から、x軸に平行な直線近似式Aが得られる。すなわち、直線近似式Aの傾きは0となる。これに対し、車両姿勢角度θvが0°でない場合、加速度センサ316の検出値から、車両姿勢角度θvに応じた傾きを有する直線近似式Bが得られる。したがって、車両300の加減速時における車両前後方向および車両上下方向の加速度の時間変化量の比率の変化を計測することで、加速度センサ316の検出値から、車両姿勢角度θvについての情報として車両姿勢角度θvの変化を知ることができる。そして、得られた車両姿勢角度θvの変化情報を利用することで、より高精度なオートレベリング制御を実現することができる。・・・車両メーカの製造工場やディーラの整備工場などで、車両300が水平面に置かれて基準状態とされる。基準状態では、・・・制御部228R2は、初期化信号を受けると、・・・このときの加速度センサ316の出力値を、路面角度θrの基準値(θr=0°)、車両姿勢角度θvの基準値(θv=0°)としてメモリ228R4に記録することで、これらの基準値を保持する。」という記載、同段落【0047】の「メモリ228R4に保持されている車両姿勢角度θvがp°であり、直線近似式の傾きの変化の初回計算からの積算値がq°であったとする。あるいは、前回の車両停止中における車両姿勢角度θvの変化量、すなわち車両停止時に保持していた車両姿勢角度θvと車両発進時に保持していた車両姿勢角度θvとの差がp°であり、前回の発進時に算出した直線近似式と今回の発進時に算出した直線近似式との傾きの差がq°であったとする。・・・制御部228R2は、メモリ228R4に保持されている車両姿勢角度θvの基準値を(p-q)°だけ補正する。」という記載及び同段落【0049】の「制御部228R2は、計算された車両姿勢角度θvと、メモリ228R4に保持されている車両姿勢角度θvの基準値との差が所定量以上であった場合に、計算された車両姿勢角度θvを新たな基準値としてメモリ228R4に記録するようにしてもよい。」という記載(いずれも記載事項(1c))を参照すると、引用発明は、「車両走行中に検出される車両前後方向の加速度の変化量と車両上下方向の加速度の変化量との比率」を用いて、車両姿勢角度θvの基準値を補正するものといえる。
しかし、甲第1号証の段落【0036】の「路面に対する車両の傾斜角度(第2角度)である車両姿勢角度θv」(記載事項(1c))という記載を参照すると、引用発明の「車両姿勢角度θvの基準値」は路面と車両の軸との間の角度を意味するのであるから、この情報が、加速度センサの軸と車両の軸との位置関係を示す情報、すなわち本件発明1の「基準情報」に相当するものであるとはいえない。
そうすると、引用発明の「車両メーカの製造工場やディーラの整備工場などで、車両300が水平面に置かれて基準状態とされ、基準状態では、制御部228R2は、初期化信号を受けると、このときの加速度センサ316の出力値を、路面角度θrの基準値(θr=0°)、車両姿勢角度θvの基準値(θv=0°)としてメモリ228R4に記録することで、これらの基準値を保持し」、「車両走行中である場合、制御部228R2は、車両が加減速中であるか判断し、車両が加減速中である場合、制御部228R2は、加速度センサ316の複数の出力値から直線近似式を算出し、得られた直線近似式の傾きと前回算出した直線近似式の傾きとを比較し、制御部228R2は、直線近似式の傾きの変化を検出したか判断し、直線近似式の傾きの変化が検出された場合、制御部228R2は、光軸調節を指示する制御信号を生成して光軸位置を補正し、車両姿勢角度θvの基準値を補正する」ことを上記のとおり、「車両走行中に検出される車両前後方向の加速度の変化量と車両上下方向の加速度の変化量との比率」を用いて車両姿勢角度θvの基準値を補正することであると理解したとしても、基準情報を補正するものではない点で、本件発明1の上記相違点1に係る構成とは異なる。
したがって、上記相違点1は実質的な相違点である。
よって、本件発明1と引用発明とは実質的な相違点を有するので、本件発明1は、引用発明と同一ということはできない。

(イ)申立人は、「甲1発明における『車両姿勢角度θvの基準値』は、『車両の水平状態における加速度センサのX軸、Y軸、Z軸の各成分の出力値を、車両姿勢角度θvの基準値(θv=0°)としてメモリに記録し保持したもの』であることがわかる。したがって、甲1発明の『車両姿勢角度θvの基準値』は、『加速度センサの各成分の出力値』を『車両姿勢角度を算出する座標軸上の値』に変換するものであることは、当業者であれば容易に想到できるものである。一方、本件特許発明1における『基準情報』は、請求項にて『加速度センサの軸と車両の軸との位置関係を示す基準情報』であることが特定されている。したがって、甲1発明の『車両姿勢角度θvの基準値』と本件特許発明1における『基準情報』は、両方とも『加速度センサの値を車両の軸上の値に変換する基準情報』であり、同一のものである。」と主張(特許異議申立書第10ページ第11行?第21行。以下「主張A」という。)し、「甲1発明における車両の加速時および減速時の少なくとも一方において加速度センサで検出される『車両前後方向の加速度の時間変化量と車両上下方向の加速度の時間変化量との比率』は、本件特許発明1の車両走行中に検出される『加速度の変化量の比率』に相当し、同様に、比率の変化に基づいて灯具ユニットの光軸位置を補正するのにあわせて実施する『メモリに保持されている車両姿勢角度θvの基準値を補正する』は、比率に基づいて行う『基準情報を補正する』に相当する。」と主張する(特許異議申立書第9ページ下から6行?第10ページ第1行。以下「主張B」という。)ので、以下検討する。

(ウ)まず、上記主張Aについて検討する。
本件発明1の「基準情報」の意味は「前記加速度センサの軸と車両の軸との位置関係を示す」ものである(本件特許の【請求項1】)。
これに対し、上記(ア)で述べたとおり、引用発明の「車両姿勢角度θv」は路面と車両の軸との間の角度を意味するのであるから、「前記加速度センサの軸と車両の軸との位置関係を示す」ものではない点で、本件発明1の「基準情報」とは異なる。
さらに、引用発明の「車両姿勢角度θvの基準値」に関し、甲第1号証の段落【0041】には「車両メーカの製造工場やディーラの整備工場などで、車両300が水平面に置かれて基準状態とされる。基準状態では、・・・制御部228R2は、初期化信号を受けると、・・・このときの加速度センサ316の出力値を、路面角度θrの基準値(θr=0°)、車両姿勢角度θvの基準値(θv=0°)としてメモリ228R4に記録することで、これらの基準値を保持する。」(記載事項(1c))と記載されているが、同段落【0036】の「加速度センサ316は、センサのX軸が車両300の前後軸と、センサのY軸が車両300の左右軸と、センサのZ軸が車両300の上下軸と沿うように車両300に取り付けられている。・・・加速度センサ316は、任意の姿勢で車両300に取り付けられてもよい。この場合、加速度センサ316から出力されるX軸、Y軸、Z軸の各成分の数値は、・・・車両の前後軸、左右軸、上下軸の成分に変換される。」(記載事項(1c))という記載を併せて参照すると、前者の記載は、加速度センサ316が「センサのX軸が車両300の前後軸と、センサのY軸が車両300の左右軸と、センサのZ軸が車両300の上下軸と沿うように車両300に取り付けられている」場合についての記載であって、引用発明のように、加速度センサ316が「任意の姿勢で車両300に取り付けられて」いる場合には、初期化信号を受けるとそのときの加速度センサ316の出力値を、車両の前後軸、左右軸、上下軸の成分に変換された数値を路面角度θrの基準値(θr=0°)、車両姿勢角度θvの基準値(θv=0°)としてメモリ228R4に記録することで、これらの基準値を保持するものであると理解することが、車両姿勢角度θvの意味からみて合理的である。
そうすると、引用発明において、「車両姿勢角度θvの基準値」の保持、補正は、「車両の前後軸、左右軸、上下軸の成分」として「変換され」た値に基づいてなされるのであるから、「車両姿勢角度θvの基準値」に「前記加速度センサの軸と車両の軸との位置関係を示す」情報が含まれているということもできない。
よって、引用発明の「車両姿勢角度θvの基準値」が本件発明1の「基準情報」に相当するとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張Aは採用できない。

(エ)次に、上記主張Bについて検討する。
上記(ウ)で述べたとおり、引用発明の「車両姿勢角度θvの基準値」が本件発明1の「基準情報」に相当するとはいえないから、甲1発明における「比率の変化に基づいて灯具ユニットの光軸位置を補正するのにあわせて実施する『メモリに保持されている車両姿勢角度θvの基準値を補正する』」ことが、本件発明1における「比率に基づいて行う『基準情報を補正する』」ことに相当するとはいえない。
したがって、特許異議申立人の上記主張Bは採用できない。

(オ)以上より、本件発明1が引用発明(甲第1号証に記載された発明)であるとはいえない。

(2)本件発明2について
ア 対比
上記(1)アを踏まえ、本件発明2と引用発明を対比すると、本件発明2と引用発明とは以下の点で一致し、また、以下の点で相違する。

<一致点2>
「加速度センサの検出値に基づいて車両用灯具の光軸を調節する車両用灯具の制御装置であって、
所定の初期化処理で得られる、前記加速度センサの軸と車両の軸との位置関係を示す基準情報を保持する車両用灯具の制御装置。」

<相違点2>
本件発明2は、「前記初期化処理後、車両走行中に検出される車両前後方向及び車両上下方向の両方に関する少なくとも2つの加速度データから得られる、車両前後方向の加速度を第1軸に設定し車両上下方向の加速度を第2軸に設定した座標における直線の傾きに基づいて前記基準情報を補正する」ものであるのに対し、
引用発明は、そのように特定されていない点。

イ 判断
(ア)上記「(1)イ(ア)」で述べたと同様に、引用発明では、「車両走行中に検出される車両前後方向の加速度の変化量と車両上下方向の加速度の変化量との比率」を用いて、車両姿勢角度θvの基準値を補正するものといえる。また、甲第1号証の【請求項2】の「前記制御部は、車両前後方向の加速度を第1軸に設定し車両上下方向の加速度を第2軸に設定した座標に、車両の加速時および減速時の少なくとも一方における加速度センサの検出値を経時的にプロットし、少なくとも2点から得られる直線またはベクトルの傾きを前記比率とする」(記載事項(1a))という記載を参照すると、上記「車両走行中に検出される車両前後方向の加速度の変化量と車両上下方向の加速度の変化量との比率」は、車両前後方向の加速度を第1軸に設定し車両上下方向の加速度を第2軸に設定した座標における、加速度センサの少なくとも2点の検出値から得られる直線の傾きであると理解できる。
しかし、上記「(1)イ(ア)」でも述べたとおり、「車両姿勢角度θvの基準値」は路面と車両の軸との間の角度を意味するのであるから、この情報が、加速度センサの軸と車両の軸との位置関係を示す情報、すなわち本件発明1の「基準情報」に相当するものであるとはいえない。
そうすると、引用発明の「車両走行中に検出される車両前後方向の加速度の変化量と車両上下方向の加速度の変化量との比率」に関し、車両前後方向の加速度を第1軸に設定し車両上下方向の加速度を第2軸に設定した座標における、加速度センサの少なくとも2点の検出値から得られる直線の傾きであると理解したとしても、基準情報を補正するものではない点で、本件発明2の上記相違点2に係る構成とは異なる。
したがって、上記相違点2は実質的な相違点である。
よって、本件発明2と引用発明とは実質的な相違点を有するので、本件発明2は、引用発明と同一ということはできない。

(イ)以上より、本件発明2が引用発明(甲第1号証に記載された発明)であるとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当し、同法第29条の規定に違反してなされたものとはいえないことから、同法第113条第2号の規定に該当するものとして取り消すことはできない。
また、他に請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-09-26 
出願番号 特願2016-174560(P2016-174560)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (B60Q)
最終処分 維持  
前審関与審査官 當間 庸裕  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 中田 善邦
一ノ瀬 覚
登録日 2018-01-12 
登録番号 特許第6271662号(P6271662)
権利者 株式会社小糸製作所
発明の名称 車両用灯具の制御装置  
代理人 村田 雄祐  
代理人 森下 賢樹  
代理人 三木 友由  

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