• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01B
審判 全部申し立て 2項進歩性  G01B
管理番号 1344875
異議申立番号 異議2018-700650  
総通号数 227 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-11-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-08-06 
確定日 2018-10-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第6274349号発明「三次元座標測定装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6274349号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6274349号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし請求項3に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明3」といい、本件発明1ないし本件発明3を併せて「本件発明」という。)は、平成28年1月29日(優先権主張 平成27年1月30日)を国際出願日とする国際特許出願である特願2016-531719号の一部を同年12月20日に新たな特許出願(特願2016-246967号)とし、さらに、その一部を平成29年3月30日に新たな特許出願(特願2017-68525号)とし、さらに、その一部を同年6月30日に新たな特許出願(特願2017-128896号)とし、さらに、その一部を同年10月3日に新たな特許出願(特願2017-193423号)としたものに係る発明である。そして、平成30年1月19日にその特許権の設定登録がされ、同年2月7日にその特許掲載公報が発行された。

これに対して、平成30年8月6日に本件特許の全ての請求項について特許異議申立人山本美映子による特許異議の申立てがされた。


第2 本件発明
本件発明1ないし本件発明3は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
測定対象物を載置する定盤と、
測定プローブを支持し、前記定盤を跨いで前記定盤のY軸方向に移動する二つの支柱部材で支持されるYキャリッジと、を備え、
前記二つの支柱部材は、前記Yキャリッジを前記Y軸方向に駆動する駆動機構をもつ第1の支柱部材と、前記第1の支柱部材に追従移動する第2の支柱部材とを有し、
前記第1の支柱部材側の前記定盤の上面には、前記Y軸方向に平行な溝部を形成し、
前記第1の支柱部材は、前記定盤の側面と前記溝部の側面とを対向して挟むことにより、前記定盤に支持され、
前記定盤は、前記溝部を境に、前記測定対象物が載置される測定領域と前記第1の支柱部材を支持するガイド領域に区分けされ、且つ前記測定領域の上面と前記ガイド領域の上面とは同一平面上にあり、
前記第1の支柱部材に設けられ、前記ガイド領域に対向する支持部と、
前記第2の支柱部材に設けられ、前記測定領域に対向する支持部と、
を有し、
前記駆動機構は、前記ガイド領域の側面に当接する三次元座標測定装置。
【請求項2】
前記第1の支柱部材は、前記定盤の下面に対向する支持部を有する、請求項1に記載の三次元座標測定装置。
【請求項3】
前記駆動機構は、前記定盤の定盤面に垂直な軸を有するローラを有し、前記ガイド領域の側面に前記ローラを当接させて転動させることで、前記Yキャリッジを定盤に対して相対的に移動させる、請求項1又は2に記載の三次元座標測定装置。」


第3 特許異議申立ての理由の概要
1 理由1(サポート要件違反)
本件特許の請求項1ないし請求項3において、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないから、本件発明1ないし本件発明3は、発明の詳細な説明に記載された発明ではない。

すなわち、本件発明1ないし本件発明3についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当する。

2 理由2(進歩性欠如)

ア 本件発明1は、後記の甲2号証に記載された発明と後記の甲3号証ないし甲5号証に記載された周知技術並びに後記の甲6号証に記載の技術事項とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

イ 本件発明2は、後記の甲2号証に記載された発明と後記の甲3号証ないし甲5号証に記載された周知技術並びに後記の甲6号証及び甲7号証に記載の技術事項とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

ウ 本件発明3は、後記の甲2号証に記載された発明と後記の甲3号証ないし甲5号証に記載された周知技術並びに後記の甲6号証ないし甲8号証に記載の技術事項とに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

すなわち、本件発明1ないし本件発明3についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当する。

甲2号証:特開平5-312556号公報
甲3号証:特開昭62-235502号公報
甲4号証:特開昭62-235513号公報
甲5号証:特開昭62-235514号公報
甲6号証:特開平2-247519号公報
甲7号証:特開昭64-35310号公報
甲8号証:特開平7-139936号公報


第4 理由1(サポート要件違反)について
(1)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、本件特許の明細書の段落【0005】ないし【0008】、【0177】、【0186】ないし【0193】、及び図27の記載から、本件特許の明細書には、「Yキャリッジにおいてエアパッドを定盤の適切な位置に配置することにより、Z軸周り方向(ヨーイング方向)の振れ及びX軸周り方向(ピッチング方向)の振れを抑止することをその解決課題とし」、前記課題を解決する発明が記載されているのに対し、本件特許の請求項1ないし請求項3において、前記課題を解決するための手段が反映されておらず、本件発明が、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許されたものである、と主張する。(特許異議申立書、第9ページ第7行?第18ページ第4行)

(2)判断
一般に、発明の詳細な説明の記載から複数の課題が把握できる場合、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が請求項に反映されているというためには、その複数の課題のうちのいずれかの課題を解決するための手段が請求項に反映されていれば足りると解される。

これを本件特許についてみてみると、本件特許の明細書の【発明が解決しようとする課題】には、特許異議申立人が引用した記載に加えて、以下の記載がある。
「【0020】
ところで、特許文献1のように、定盤の領域のうち、測定対象物が載置されて測定が行われる測定領域と、YキャリッジをY軸方向にガイドするガイド領域とが一体で形成されている場合、YキャリッジをY軸方向に移動させるY駆動機構のモータ等で発生した熱がガイド領域を介して測定領域に流れ込む。
【0021】
測定領域は体積が大きく熱容量が大きい(熱伝導率が低い)ため、測定領域に熱が流れ込むと定盤が一様な温度となるまでに長い時間を要する。
【0022】
そのため、特許文献1のように定盤の前後の側面を断熱部材で被覆して周囲の気温の影響による定盤のY軸方向に対する温度勾配の発生を抑止しても、Y駆動機構により発生する熱によりY軸方向に対して温度勾配が生じる可能性がある。この場合に、ガイド部の表面の真直度が低下し、測定精度の低下を招く。」

また、本件特許の明細書には、本件発明の第3の実施の形態について、以下の記載がある。
「【0159】
また、本実施の形態の定盤10は、測定対象物が載置されて測定が行われる測定領域と、Yキャリッジ14をY軸方向にガイドするYガイド42の領域(ガイド領域)とが溝40によってX軸方向に不連続となっている。そのため、測定領域とガイド領域との間での熱伝導が抑止されており、ガイド領域(Yガイド42)の近傍で発生する熱、即ち、Y駆動機構により発生する熱であって、例えば、Y駆動機構の駆動部80のモータ等で発生した熱や、Yガイド42とエアパッド62F、62E、64F、64E、66F、66E68F、68Eの間の摩擦熱等がガイド領域を介して測定領域に流れ込むことが抑止される。
【0160】
したがって、ガイド領域の近傍で発生した熱により定盤10の測定領域に温度変化が生じることが抑止され、定盤10の測定領域の変形が抑止される。そして、その熱により定盤10のガイド領域に温度変化が生じ、温度勾配が生じたとしてもガイド領域の体積が小さいことから、ガイド領域の変形量は小さく、Yガイド42の真直度への影響は殆ど生じないものとなっている。
【0161】
以上のことから、熱による定盤10の変形が抑止され、Yガイド42の真直度の低下が抑止されるため、Yキャリッジ14のY軸方向への移動が精度良く行われる。したがって、熱の影響を受けない高精度な測定が可能となる。」

以上の記載から、本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載の課題の一つは、「定盤の領域のうち、測定対象物が載置されて測定が行われる測定領域と、YキャリッジをY軸方向にガイドするガイド領域とが一体で形成されている場合、YキャリッジをY軸方向に移動させるY駆動機構のモータ等で発生した熱がガイド領域を介して測定領域に流れ込む」(段落【0020】)ことにより、測定領域の変形(段落【0021】、【0160】)、及びキャリッジ14をY軸方向にガイドするYガイド42の真直度の低下が生じ、「測定精度の低下を招く」(段落【0022】)という課題であり、
本件特許の明細書には、「溝40によって」「測定対象物が載置されて測定が行われる測定領域と、Yキャリッジ14をY軸方向にガイドするYガイド42の領域(ガイド領域)と」を「不連続」とすることにより(段落【0159】)、上記課題を解決する発明が記載されていると認められる。
そして、本件特許の請求項1には、「前記第1の支柱部材側の前記定盤の上面には、前記Y軸方向に平行な溝部を形成」され、「前記定盤は、前記溝部を境に、前記測定対象物が載置される測定領域と前記第1の支柱部材を支持するガイド領域に区分けされ」ることが記載されている。

したがって、本件特許の請求項1、及び請求項1に従属する請求項2及び3において、課題を解決するための手段が反映されているということができる。
よって、特許異議申立人の主張は、採用することができない。

(3)小括
上記(2)より、本件発明1ないし本件発明3についての特許は、理由1によって取り消すべきであるということはできない。


第5 理由2(進歩性欠如)について
1 甲2号証ないし甲8号証に記載された発明等
(1)甲2号証
ア 甲2号証の記載
甲2号証には、以下の記載がある。下線は、当審が付した。

「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は座標測定機に係り、特にX、Y、Z軸の3軸方向にプローブを移動して被測定物の形状を測定する座標測定機に関する。
【0002】
【従来の技術】3次元座標測定機はX、Y、Z軸の3軸方向にプローブを移動して被測定物の形状を測定する。図5及び図6に示すように、3次元座標測定機はYキャリッジ10を備えていて、Yキャリッジ10はガイド12に沿ってY軸方向に移動する。すなわち、ガイド12は定盤14の表面や側面にボルト16、16…を介して取り付けられていて、ガイド12の両側部にはYキャリッジ10の一方の脚部10Aのエアパッド18、18が摺動自在に支持されている。この場合、定盤14にはボルト16、16…が螺合するねじ穴14A、14A…が加工されている。
【0003】また、Yキャリッジ10の他方の脚部10Bにはエアパッド20が設けられていて、他方の脚部10Bはエアパッド20を介して定盤14の表面に沿って移動する。これにより、Yキャリッジ10はガイド12に沿ってY軸方向に移動する。前記従来例において、Yキャリッジ10はガイド12に沿って移動するように構成されていたが、図7及び図8に示すように、定盤14の溝22に沿ってYキャリッジ10を移動する3次元座標測定機も一般に知られている。尚、図5及び図6と同一類似部材については同一符号を付与して説明を省略する。」

【図7】

イ 甲2号証に記載された発明
上記アの記載によれば、以下のことが認められる。

(ア)甲2号証には3次元座標測定機の発明が記載されている。

(イ)3次元座標測定機は、定盤14を備える。(【0003】、図7)

(ウ)3次元座標測定機は、Y軸方向に移動するYキャリッジ10を備える。(【0002】)

(エ)Yキャリッジ10は一方の脚部10A及び他方の脚部10Bで支持される。(【0002】、【0003】、図7)

(オ)Yキャリッジ10は定盤を跨いでいる。(図7)

(カ)3次元座標測定機はプローブを有しており(【0002】)、該プローブはYキャリッジ10に支持されている。

(キ)上記(ウ)ないし(カ)から、3次元座標測定機は、プローブを支持し、定盤14を跨いでY軸方向に移動する一方の脚部10A及び他方の脚部10Bで支持されるYキャリッジ10を備える。

(ク)定盤の一方の脚部10A側の上面に溝22が形成されている。(【0003】、図7)

(ケ)溝22の一方の脚部10A側の側面、定盤14の一方の脚部10A側の側面には、Yキャリッジ10の一方の脚部10Aのエアパッド18、18が摺動自在に支持されている。(【0002】、【0003】、図7)

(コ)Yキャリッジ10の他方の脚部10Bにはエアパッド20が設けられていて、他方の脚部10Bはエアパッド20を介して定盤14の表面に沿って移動する。(【0003】)

(サ)以上のことをまとめると、甲2号証には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。

「定盤14と、
プローブを支持し、定盤14を跨いでY軸方向に移動する一方の脚部10A及び他方の脚部10Bで支持されるYキャリッジ10と、を備え、
定盤14の一方の脚部10A側の上面に溝22が形成され、
溝22の一方の脚部10A側の側面、定盤14の一方の脚部10A側の側面には、Yキャリッジ10の一方の脚部10Aのエアパッド18、18が摺動自在に支持されており、
Yキャリッジ10の他方の脚部10Bにはエアパッド20が設けられていて、他方の脚部10Bはエアパッド20を介して定盤14の表面に沿って移動する
3次元座標測定機。」

(2)甲3号証ないし甲5号証
ア 甲3号証ないし甲5号証の記載
甲3号証及び甲4号証にはいずれも下記の記載がある。下線は、当審が付した。

「ベース3上の第1図において左右両側部に、箱型形状の内部を空洞にした摺動案内部5.7が設けられている。この摺動案内部5.7はそれぞれ第2図において前後方向すなわちX軸方向に延伸しである。摺動案内部5.7上には、門型形状のメインキャレッジ9が設けられ、該メインキャレッジ9の左右下部には、それぞれ摺動案内部材11.13がX軸方向に沿って移動自在に取付けてある。摺動案内部材13の後方部には、X軸モータ15が設けてあり、かつ摺動案内部7上にガイドレール17がX軸方向に延伸して設けてある。
上記構成により、X軸モータ15により摺動案内部材11.13がベース3上の摺動案内部5.7に沿って、ガイドレール17に案内されてX軸方向に移動されてメインキャレッジ9がX軸方向に移動されることになる。」(甲3号証第2ページ右上欄第6行?同ページ左下欄第2行、甲4号証第2ページ右上欄第8行?同ページ左下欄第4行)

「上記構成により、駆動ローラ69と従動ローラ77とでガイドレール17を挾み込み、X軸モータ15を駆動させて駆動ローラ69を回転させると、摺動案内部材13はガイドレール17に案内されてX軸方向に移動されることになる。」(甲3号証第4ページ左下欄第10?14行、甲4号証第4ページ左下欄第12?16行)

甲5号証には、上記「ガイドレール17」が「ラック17」、上記「駆動ローラ69」が「ピニオン69」である点が異なるのみで他は同一の記載がある。(第2ページ左上欄下から4行目?同ページ右上欄第13行、第4ページ右上欄最終行?同ページ左下欄第4行)

イ 甲3号証ないし甲5号証に記載の技術
上記アの記載をまとめると、甲3号証及び甲4号証にはいずれも下記の技術が記載されている。

「ベース3上の左右両端部に摺動案内部5.7が設けられ、摺動案内部5.7上に門型形状のメインキャレッジ9が設けられ、メインキャレッジ9の左右下部には、それぞれ摺動案内部材11.13が取り付けてあり、一方の摺動案内部材13にX軸モータが設けてあり、摺動案内部7上にはガイドレール17が設けてあり、駆動ローラ69と従動ローラ77とでガイドレール17を挾み込み、X軸モータ15を駆動させて駆動ローラ69を回転させると、摺動案内部材11.13がベース3上の摺動案内部5.7に沿って、ガイドレール17に案内されてX軸方向に移動されてメインキャレッジ9がX軸方向に移動されることになる、3次元測定装置。」

甲5号証には、甲3号証及び甲4号証に記載の技術に対し、「ガイドレール17」が「ラック17」、「駆動ローラ69」が「ピニオン69」である点でのみ異なる下記の技術が記載されている。

「ベース3上の左右両端部に摺動案内部5.7が設けられ、摺動案内部5.7上に門型形状のメインキャレッジ9が設けられ、メインキャレッジ9の左右下部には、それぞれ摺動案内部材11.13が取り付けてあり、一方の摺動案内部材13にX軸モータが設けてあり、摺動案内部7上にはラック17が設けてあり、ピニオン69と従動ローラ77とでガイドレール17を挾み込み、X軸モータ15を駆動させてピニオン69を回転させると、摺動案内部材11.13がベース3上の摺動案内部5.7に沿ってラック17に案内されてX軸方向に移動されてメインキャレッジ9がX軸方向に移動されることになる、3次元測定装置。」

(3)甲6号証
ア 甲6号証の記載
甲6号証には、以下の記載がある。下線は、当審が付した。

「(産業上の利用分野)
本発明は、三次元測定機に係り、特に、直交三軸であるX、Y、Z軸のいずれかの方向(所定方向)に移動可能にされた移動部材を、案内部材に沿って所定方向に移動させる駆動手段と、この駆動手段が係合されるガイド部材との改良に関する。」(第2ページ左上欄第3?8行)

「以下、本発明の一実施例を図面を参照して説明する。
第1図には、本実施例に係る三次元測定機10の全体構成が示されている。
三次元測定機l0は、基体としての所定間隔を離して配置された一対の支持台11を備え、これらの支持台11は、それぞれ前後2つの脚部12上にビーム13を載置、固定して構成されている。
ここにおいて、左右一対の支持台11は、その配置位置が逆である以外、その構成は同一であるから、以下、その一方についてのみ説明し、他方についての説明は、必要に応じて説明する以外は同一構成部分に同一符号を付してその説明を省略する。
前記ビーム13は、その長手方向に沿って段部を形成し、その上段面13A上には案内部材としての案内レール20が載置され、下段面13B上には支持手段30を介して支持されたガイド部材としての角柱体48が設けられている。
前記支持手段30は、後に詳述するように、角柱体48の一端を取付板32を介して弾性的に支持する弾性支持部31と、角柱体48の他端を揺動可能に支持する球面ベアリング41とから構成され、これにより、前記案内レール20に対し略平行に配置された角柱体48を案内レール20に対し上下、左右方向の何れの方向にも変位可能に支持している。
前記案内レール20には、その長手方向両側面20Aに沿って溝状の切欠部20Bが形成されている。この切欠部20B内には、ビーム13の上段面13A上に配置された複数の係合片22の一側の突出部が係合されており、この係合片22を貫通して挿入された固定ボルト(図示せず)をビーム13の上段面13Aに螺合することにより、係合片22の突出部で案内レール20をビーム13側に押圧、固定するようになっている。
前記複数の係合片22間において、ビーム13の上段面13Aには案内レール20の側面20Aをそれぞれ案内レール20の中心に向って常時押圧する複数の押圧部材25が設けられている。このような係合片22及び押圧部材25の作用により、案内レール20は、真直度を正しく出された状態でビーム13の上段面13A上に固定されている。
前記真直度を出された一対の案内レール20上には凹型フレームからなるY軸移動部材50が水平面内の所定方向すなわちY軸方向に摺動自在に載置されている。このY軸移動部材50は、一対の脚部51間に横桁52を掛け渡して構成され、この両脚部51の下部位置には、Y軸移動部材50をY軸方向に駆動するY軸駆動手段60がそれぞれ設けられている。
Y軸駆動手段60は、後に詳述するように、ブラケット61を介してY軸移動部材50に支持された回転駆動源としてのサーボモータ62を備えるとともに、同じくブラケット61を介して支持されたローラ保持部材63を備えている。このロ-ラ保持部材63には、前記モータ62によりその一方が駆動されるローラ対64を含み、このローラ対64は、前記角柱体48を後述する押圧部材76を介して所定の押圧力で挟持している。これにより、モータ62が駆動されると、ローラ対64が角柱体48に沿って転動し、Y軸移動部材50が案内レール20に沿って移動するようになっている。」(第3ページ左下欄下から3行目?第4ページ左下欄第2行)


イ 甲6号証に記載された発明
上記アの記載をまとめると、甲6号証には、以下の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されている。

「基体としての所定間隔を離して配置された一対の支持台11を備え、これらの支持台11は、それぞれ前後2つの脚部12上にビーム13を載置、固定して構成されている三次元測定機l0であって、
前記ビーム13は、その長手方向に沿って段部を形成し、その上段面13A上には案内部材としての案内レール20が載置され、下段面13B上には支持手段30を介して支持されたガイド部材としての角柱体48が設けられ、
一対の案内レール20上には凹型フレームからなるY軸移動部材50が水平面内の所定方向すなわちY軸方向に摺動自在に載置され、
このY軸移動部材50は、一対の脚部51間に横桁52を掛け渡して構成され、この両脚部51の下部位置には、Y軸移動部材50をY軸方向に駆動するY軸駆動手段60がそれぞれ設けられ、
Y軸駆動手段60は、サーボモータ62を備えるとともにローラ保持部材63を備えており、このロ-ラ保持部材63には、前記モータ62によりその一方が駆動されるローラ対64を含み、このローラ対64は、前記角柱体48を後述する押圧部材76を介して所定の押圧力で挟持しており、
モータ62が駆動されると、ローラ対64が角柱体48に沿って転動し、Y軸移動部材50が案内レール20に沿って移動するようになっている
三次元測定機l0。」

(4)甲7号証
ア 甲7号証の記載
甲7号証には、以下の記載がある。下線は、当審が付した。

(ア)「【産業上の利用分野】
本発明は、テーブル上に載置された被測定物に対して、測定子を多次元方向に移動させつつ関与させ、この時の測定子の移動量から被測定物の寸法・形状等を測定する二次元あるいは三次元の多次元測定機に係り、特に、テーブル下面で測定子支持体を連結する必要がない多次元測定機に関する。」(第2ページ左上欄第14行?同ページ右上欄第1行)

(イ)「【実施例】
以下、図面を参照して、本発明の実施例を詳細に説明する。
本発明の第1実施例は、第1図及び第2図に示す如く構成されており、第1図は、第1実施例の正面図、第2図はその側面図である。
この実施例において、テーブル60は、石材から形成された石定盤であり、その下面60Dの3個所には、支持部材62が取付けられている。従って、ベース16上に置かれたテーブル60は、この支持部材62により、ベース16との間に若干の間隔が開けられている。テーブル下面を連結する部材が無いので、支持部材62は、テーブル60を支持するのに最適な位置(例えば3角形の頂点)に最適個数(例えば3個)設けて、効率良く、且つ、高精度なテーブル支持を行なうことができる。即ち、テーブル下面に連結部材を通した従来例のように、両端の4個所で支持する場合に比べて、テーブル(特に中央)に無理な力が加わることが無い。
測定子支持体64は、第1図に示す如く、左右の支柱66、68を備えている。これらの支柱66、68の上部には、横行部材70が水平に横断架設されている。この横行部材70には、X-スライダ72が移動自在に取付けられている。X-スライダ72と一体化されているケース74の内部には、スピンドル76が垂直方向(Z軸方向)に移動自在に収納され、ケース74の下面から突出したスピンドル76の下端に測定子77が取付けられている。
前記測定子支持体64の下部には、第1図に示す如く、Y-スライダを構成する左右の脚部67、69が設けられている。
前記テーブル下面60Dのテーブル横断方向(X軸方向)一端側(図では右側)には、テーブル上面60Aと平行な下平面部60E、及び、この下平面部60Eを挾み互いに平行な2つの垂直平面部60F、60Gをそれぞれ測定子支持体移動方向(Y軸方向)に延設してなるY軸案内部78が形成されている。ここで、垂直平面部60Fは、テーブル60の側面60C自体に形成され、垂直平面部60Gは、テーブル下面に形成した講79のテーブル側面側(第1図の右側)内壁側面に形成されている。従って、上面が精度良く水平に仕上げられたテーブル60の側面自体をガイドに利用することができ、案内面の形成、仕上げが容易である。又、比較的浅い溝で足りるので、高いテーブル剛性を維持でき、十分な案内精度を得られる。
又、前記テーブル下面60DのX軸方向他端側(第1図の左側)には、テーブル上面60Aと平行な下平面部60Hがテーブル1面60D自体に形成されている。従って、案内面の形成、仕上げが容易であり、高精度のガイドが可能である。
前記測定子支持体64のY軸案内部78側脚部69には、前記テーブル上面60Aと下平面部60Eによりテーブル上下方向(Z軸方向)の位置を規制するためのエアベアリング80が上2個、下1個の計3個設けられている。
又、該Y軸案内部側脚部69には、前記2つの垂直平面部60F、60Gによりテーブル横断方向(X軸方向)の位置を規制するためのエアベアリング82が片側2個ずつ、計4個設けられている。」(第5ページ左下欄下から5行目?第6ページ右上欄下から2行目)

(ウ)「又、前記測定子支持体64の脚部69には、マイクロメータヘッド104、平行ばね106からなる微動機構102が設けられており、固定ねじ100によって回動される逆L字状リンク101によりスケールホルダ92の下面を押えて測定子支持体64とテーブル60の相対位置を固定した後に、マイクロメータヘッド104による微動調整が可能とされている。」(第7ページ左上欄第1?8行)

イ 甲7号証に記載された発明
上記アの記載をまとめると、甲7号証には、以下の発明(以下、「甲7発明」という。)が記載されている。

「石材から形成された石定盤であるテーブル60と、
左右の支柱66、68を備えている測定子支持体64とを備える(上記ア(イ))
多次元測定機であって(上記ア(ア))、
前記測定子支持体64の下部には、Y-スライダを構成する左右の脚部67、69が設けられており、
前記テーブル下面60Dのテーブル横断方向(X軸方向)一端側には、テーブル上面60Aと平行な下平面部60E、及び、この下平面部60Eを挾み互いに平行な2つの垂直平面部60F、60Gをそれぞれ測定子支持体移動方向(Y軸方向)に延設してなるY軸案内部78が形成されており、
ここで、垂直平面部60Fは、テーブル60の側面60C自体に形成され、垂直平面部60Gは、テーブル下面に形成した講79のテーブル側面側内壁側面に形成されており(上記ア(イ))、
前記測定子支持体64の脚部69には、マイクロメータヘッド104、平行ばね106からなる微動機構102が設けられており、固定ねじ100によって回動される逆L字状リンク101によりスケールホルダ92の下面を押えて測定子支持体64とテーブル60の相対位置を固定した後に、マイクロメータヘッド104による微動調整が可能とされている(上記ア(ウ))、多次元測定機。」

(5)甲8号証
甲8号証には、以下の記載がある。下線は、当審が付した。

「【0001】
【産業上の利用分野】この発明は座標測定機に係り、特にY軸方向に移動自在な門型構造のYキャリッジと、YキャリッジのXガイドに沿ってX軸方向に移動自在なXキャリッジと、Xキャリッジに設けられた測定子とを有する座標測定機に関する。」

「【0012】
【実施例】以下添付図面に従って本発明を3次元座標測定機に適用した実施例1の3次元座標測定機について詳説する。図1は本発明に係る実施例1の3次元座標測定機の斜視図、図2はその平面図、図3はその背面図を示している。3次元座標測定機10はYキャリッジ12を有していて、Yキャリッジ12は一対の脚部12A、12Bと、脚部12A、12Bの上端部を連結しているXガイド12Cとで門型構造に構成されている。脚部12A、12Bは基台14の両側に配置されていて、案内面14A、14B、14C、14Dに沿って、対向するエアパッド31A、31B、31C、31DによりY軸方向に移動自在に支持されている(図3参照)。Xガイド12CにはXキャリッジ18がXガイド12Cに沿ってX軸方向に移動自在に支持されている。
【0013】すなわち、図2、図3に示すようにボールねじ46がXガイド12Cに平行に配設された状態で、その両端部が軸受48A、48Bに回動自在に支持されていて、軸受48A、48Bは脚部12A、12Bの上端部に固定されている。ボールねじ46の略中央にはナット部材49がねじ結合されていて、ナット部材49はXキャリッジ18に固定さられている。また、ボールねじ46の左端部には駆動モータ50のシャフト50Aが同軸上に連結されている。従って、駆動モータ50を駆動してボールねじ46を回動すると、ナット部材49を介してXキャリッジ18がX軸方向に移動する。
【0014】Xキャリッジ18のZ軸ガイド20にはZキャリッジ22がZ軸方向に移動自在に支持されている。Zキャリッジ22の下端部には電子プローブ(測定子)24が設けられていて、電子プローブ24をX、Y、Z軸の3方向に移動して、基台14上に載置されたワーク(図示せず)の測定点を検出することによりワーク形状等を測定する。尚、Yキャリッジ12、Xキャリッジ18、Zキャリッジ22及び電子プローブ24は移動体25を構成する。
【0015】また、3次元座標測定機10は駆動キャリッジ26、継手28及び駆動機構30を備えている。駆動キャリッジ26は脚部26Aと、脚部26Aに連結された梁部26Bとで略L字形に構成されている。駆動キャリッジ26はYキャリッジ12に併設されていている。この駆動キャリッジ26は、基台14に設けられた案内面14A、14Bに沿ってY軸方向に移動自在に支持されている。図3上で梁部26Bの右端部にはエアパッド29が設けられていて、エアパッド29はYキャリッジ12の脚部12Bの段部12B′上に載置されている。さらに、脚部26Aの下端部は脚部12Aの下端部を収納するように形成されていて、脚部26Aの下端部にエアパッド31A、31B、31Dが設けられている。エアパッド31A、31B、31Dは夫々案内面14A、14B、14Dに対向するように配置されている(図4参照)。
【0016】脚部26Aの下端部内には駆動機構30の駆動モータ32が配設されている。駆動機構30は駆動モータを含む駆動ユニット32、駆動ローラ34及びガイドレール36から構成されていて、駆動ユニット32から駆動ローラ34が出ている。また、駆動ローラ34の外周はガイドレール36の側面に当接していて、ガイドレール36はY軸方向に平行に配置された状態で基台14に固定されている。従って、駆動ユニット32が内蔵されたモータで駆動されると駆動ローラ34が回転して、駆動キャリッジ26はガイドレール36に沿ってY軸方向に移動する。」

【図3】

イ 甲8号証に記載された発明
上記アの記載をまとめると、甲8号証には、以下の発明(以下、「甲8発明」という。)が記載されている。

「一対の脚部12A、12Bと、脚部12A、12Bの上端部を連結しているXガイド12Cとで門型構造に構成されており、脚部12A、12Bは基台14の両側に配置されていて、案内面14A、14B、14C、14Dに沿って、対向するエアパッド31A、31B、31C、31DによりY軸方向に移動自在に支持されているYキャリッジ12と(【0012】)、
脚部26Aと、脚部26Aに連結された梁部26Bとで略L字形に構成され、Yキャリッジ12に併設され、基台14に設けられた案内面14A、14Bに沿ってY軸方向に移動自在に支持されている駆動キャリッジ26と(【0015】)、
駆動モータを含む駆動ユニット32、駆動ローラ34及びガイドレール36から構成されていて、駆動ローラ34の外周はガイドレール36の側面に当接していて、ガイドレール36はY軸方向に平行に配置された状態で基台14に固定されており、駆動モータ32が脚部26Aの下端部内に配設されている駆動機構30と
を有し、
駆動ユニット32が内蔵されたモータで駆動されると駆動ローラ34が回転して、駆動キャリッジ26はガイドレール36に沿ってY軸方向に移動する(【0016】)、
3次元座標測定機10(【0012】)。」

2 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、以下のとおりである。

ア 甲2発明の「定盤14」は、測定対象物を載置するためのものであることは明らかであるから、本件発明1の「測定対象物を載置する定盤」に相当する。

イ 甲2発明の「一方の脚部10A及び他方の脚部10B」が、本件発明1の「二つの支柱部材」に相当するから、甲2発明の「プローブを支持し、定盤を跨いで前記定盤のY軸方向に移動する一方の脚部10A及び他方の脚部10Bで支持されるYキャリッジ10」は、本件発明1の「測定プローブを支持し、前記定盤を跨いで前記定盤のY軸方向に移動する二つの支柱部材で支持されるYキャリッジ」に相当する。

ウ 甲2発明の「一方の脚部10A及び他方の脚部10B」は、本件発明1の「前記Yキャリッジを前記Y軸方向に駆動する駆動機構をもつ第1の支柱部材と、前記第1の支柱部材に追従移動する第2の支柱部材とを有」する「前記二つの支柱部材」と、「第1の支柱部材と、第2の支柱部材とを有」する点で共通する。

エ 甲2発明の「Yキャリッジ10の一方の脚部10A」が「Y軸方向に移動する」ものであり、「溝22の一方の脚部10A側の側面、定盤14の一方の脚部10A側の側面」に「一方の脚部10Aのエアパッド18、18が摺動自在に支持され」ていることから、甲2発明の「定盤14の一方の脚部10A側の上面に」「形成され」た「溝22」は「Y軸方向」に平行に形成されていると認められる。
よって、甲2発明の「定盤14の一方の脚部10A側の上面に溝22が形成され」ていることは、本件発明1の「前記第1の支柱部材側の前記定盤の上面には、前記Y軸方向に平行な溝部を形成し」ていることに相当する。

オ 甲2発明の「溝22の一方の脚部10A側の側面、定盤14の一方の脚部10A側の側面には、Yキャリッジ10の一方の脚部10Aのエアパッド18、18が摺動自在に支持されて」いることは、本件発明1の「第1の支柱部材」が「前記定盤の側面と前記溝部の側面とを対向して挟むことにより、前記定盤に支持され」ていることに相当する。

カ 甲2発明の「一方の脚部10A側の上面に溝22が形成され」た「定盤14」における、「溝22」の「一方の脚部10A」側の面から「定盤14」の「一方の脚部10A」側の端面までの領域は、「Yキャリッジ10の一方の脚部10Aのエアパッド18、18が摺動自在に支持され」る面を含む領域であるから、本件発明1の「前記第1の支柱部材を支持するガイド領域」に相当する。

キ 上記ア及びカを踏まえると、甲2発明の「一方の脚部10A側の上面に溝22が形成され」た「定盤14」における、「溝22」の「他方の脚部10B」側の面から、「定盤14」の「他方の脚部10B」側の端面までの領域は、本件発明1の「前記測定対象物が載置される測定領域」に相当する。

ク 甲2発明の「定盤14」の「溝22」が形成されていない領域の上面が、同一平面上にあることは明らかであるから、上記カ及びキを踏まえると、甲2発明の「定盤14の一方の脚部10A側の上面に溝22が形成され」ていることは、本件特許発明1の「前記定盤は、前記溝部を境に、前記測定対象物が載置される測定領域と前記第1の支柱部材を支持するガイド領域に区分けされ、且つ前記測定領域の上面と前記ガイド領域の上面とは同一平面上にあ」ることに相当する。

ケ 上記カを踏まえると、甲2発明の「溝22の一方の脚部10A側の側面、定盤14の一方の脚部10A側の側面に」「摺動自在に支持され」る「一方の脚部10Aのエアパッド18、18」は、本件特許発明1の「前記第1の支柱部材に設けられ、前記ガイド領域に対向する支持部」に相当する。

コ 甲2発明の「Yキャリッジ10の他方の脚部10Bに」「設けられてい」る「エアパッド20」は、「他方の脚部10Bはエアパッド20を介して定盤14の表面に沿って移動する」ことから、「定盤14」に対向して設けられていると認められる。
よって、上記キを踏まえると、甲2発明の「Yキャリッジ10の他方の脚部10Bに」「設けられてい」る「エアパッド20」は、本件特許発明1の「前記第2の支柱部材に設けられ、前記測定領域に対向する支持部」に相当する。

サ 甲2発明の「3次元座標測定機」は、本件発明1の「三次元座標測定装置」に相当する。

(2)一致点及び相違点
上記(1)の対比の結果をまとめると、本件発明1と甲2発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。

(一致点)
「測定対象物を載置する定盤と、
測定プローブを支持し、前記定盤を跨いで前記定盤のY軸方向に移動する二つの支柱部材で支持されるYキャリッジと、を備え、
前記二つの支柱部材は、第1の支柱部材と、第2の支柱部材とを有し、
前記第1の支柱部材側の前記定盤の上面には、前記Y軸方向に平行な溝部を形成し、
前記第1の支柱部材は、前記定盤の側面と前記溝部の側面とを対向して挟むことにより、前記定盤に支持され、
前記定盤は、前記溝部を境に、前記測定対象物が載置される測定領域と前記第1の支柱部材を支持するガイド領域に区分けされ、且つ前記測定領域の上面と前記ガイド領域の上面とは同一平面上にあり、
前記第1の支柱部材に設けられ、前記ガイド領域に対向する支持部と、
前記第2の支柱部材に設けられ、前記測定領域に対向する支持部と、
を有する、
三次元座標測定装置」

(相違点)
本件発明1は「第1の支柱部材」が「前記Y軸方向に駆動する」「駆動機構」をもち、「第2の支柱部材」が「第1の支柱部材に追従移動する」ものであり、さらに前記「駆動機構」が「前記ガイド領域の側面に当接する」のに対し、甲2発明は駆動機構をもっているのか否か不明な点。

(3)判断
相違点について検討する。

ア 甲6発明は、甲2発明と同様に、「Y軸方向に摺動自在に載置され」た「凹型フレームからなるY軸移動部材50」(甲2発明の「Yキャリッジ10」に対応)を備える三次元座標測定機の発明である。
よって、甲2発明の「Yキャリッジ10」を「Y軸方向に移動」させるための駆動機構として、甲6発明の「Y軸移動部材50をY軸方向に駆動する」、「ローラ対64」を備える「Y軸駆動手段60」を適用することは、当業者が容易に思い付くことである。

イ ここで、甲2号証ないし甲4号証、及び甲8号証に、基台(甲2号証ないし甲4号証に記載された技術の「ベース3」、甲8発明の「基台14」、以下同順)に、所定の軸方向に移動可能に支持された門型構造のキャリッジ(「メインキャレッジ9」、「Yキャリッジ12」)を有する3次元座標測定機において、キャリッジの一方の脚部(「摺動案内部材13」、「脚部26A」)のみに駆動機構(「X軸モータ15」、「駆動機構30」)を備える技術が記載されているように、基台に移動可能に支持された門型構造のキャリッジを備える3次元座標測定機において、キャリッジの一方の脚部に駆動機構を設けることは周知技術である。
そうすると、甲2発明に甲6発明を適用する際に、「溝22の一方の脚部10A側の側面、定盤14の一方の脚部10A側の側面に」「摺動自在に支持されている」「一方の脚部10A」に駆動機構を設け、「他方の脚部10B」を「一方の脚部10A」に追従移動させることは、当業者が適宜行い得る設計事項にすぎない。

ウ しかし、さらに進んで、相違点に係る本件発明1の構成のように、「駆動機構」を「前記ガイド領域の側面に当接する」ものとすることは、以下に述べるとおり、当業者が容易に思い付くことであるということはできない。

(ア)本件発明1の「Yキャリッジ」が有する「第1の支柱部材」は、「前記定盤の側面と前記溝部の側面とを対向して挟むことにより、前記定盤に支持され」るものであり、前記「前記定盤の側面と前記溝部の側面」とは、「Y軸方向に平行な溝部」により「区分けされ」た「前記第1の支柱部材を支持する」領域の側面、つまり「ガイド領域の側面」であるから、「第1の支柱部材」が支持される面は「ガイド領域の側面」である。
よって、本件発明1の「駆動機構」が「当接」している面、及び「第1の支柱部材」が「支持され」る面は、同じ「ガイド領域の側面」である。
そして、本件発明1の「駆動機構」が「当接」している「ガイド領域の側面」は、「前記定盤の側面と前記溝部の側面」であるから、定盤上の面である。
よって、本件発明1の「駆動機構」は、「定盤」に当接するものである。

(イ)これに対し、甲6発明は、「Y軸駆動手段60」の「ローラ対64」が「挟持している」のは「ガイド部材としての角柱体48」であり、「Y軸移動部材50」(甲2発明の「Yキャリッジ10」に対応)が「摺動自在に載置」されるのは「案内レール20」であるから、「Y軸駆動手段60」の「ローラ対64」が当接している面と、「Y軸移動部材50」が支持されている面とが、同一の面でない。
さらに、甲6発明は甲2発明の「定盤14」に対応する構成を備えていない。

(ウ)よって、甲6発明は、駆動機構が当接する面と、甲2発明の「Yキャリッジ」に対応する構成が支持される面とを同一の面とするものでもなく、駆動機構が当接する面を「定盤」上の面とするものでもないから、甲2発明に、甲6発明の駆動機構を適用して構成される発明は、駆動機構が、甲2発明の「Yキャリッジ10の一方の脚部10A」が「支持されて」いる面である、「定盤14」に「形成され」た「溝22の一方の脚部10A側の側面」及び「定盤14の一方の脚部10A側の側面」(本件発明1の「ガイド領域の側面」に相当)の少なくとも一方に「当接」するものとはならず、「定盤14」とは別に設けられた部材に当接するものとなる。
したがって、相違点に係る本件発明1の構成のように「駆動機構」を、「前記ガイド領域の側面に当接する」ものとすることは、甲2発明、甲3号証ないし甲5号証及び甲8号証に記載の周知技術、及び甲6発明に基づいて当業者が容易に思い付くものであるということはできない。

(エ)特許異議申立人は、相違点に係る本件発明1の構成のように、「駆動機構」を「前記ガイド領域の側面に当接する」ものとすることに対する証拠として甲6号証のみを挙げているが、念のため、甲6号証以外の証拠についても検討する。

a 甲3号証ないし甲5号証に記載されている技術
甲3号証ないし甲5号証に記載されている技術は、「ベース3」(甲2発明の「定盤14」に対応)上に、「門型形状のメインキャレッジ9」(甲2発明の「Yキャリッジ10」に対応)が設けられた3次元測定装置において、「門型形状のメインキャレッジ9」を「駆動ローラ69」及び「従動ローラ77」(又は、「ピニオン69」及び「従動ローラ77」)を有する駆動機構により移動させるものであるが、「駆動ローラ69」及び「従動ローラ77」(又は、「ピニオン69」及び「従動ローラ77」)が当接するのは「ガイドレール17」上の面であるのに対し、「門型形状のメインキャレッジ9」が支持されるのは「摺動案内部5.7」であり、「駆動ローラ69」及び「従動ローラ77」(又は、「ピニオン69」及び「従動ローラ77」)が当接する面と、「門型形状のメインキャレッジ9」が支持される面とが同一ではなく、「駆動ローラ69」及び「従動ローラ77」(又は、「ピニオン69」及び「従動ローラ77」)が当接する「ガイドレール17」は、「ベース3」上の面ではない。
よって、甲3号証ないし甲5号証に記載されている技術も、駆動機構が当接する面と、甲2発明の「Yキャリッジ」に対応する構成が支持される面とを同一の面とするものでもなく、駆動機構が当接する面を「定盤」上の面とするものでもない。

b 甲7発明
甲7発明は、「石定盤であるテーブル60」(甲2発明の「定盤14」に対応)、「左右の支柱66、68を備えていると測定子支持体64」及び「前記測定子支持体64の下部には、Y-スライダを構成する左右の脚部67、69」(甲2発明の「Yキャリッジ10」に対応)が設けられた、多次元測定機において、「測定子支持体64の脚部69には、マイクロメータヘッド104、平行ばね106からなる微動機構102が設けられて」いるものであるが、「微動機構102」の構成「マイクロメータヘッド104、平行ばね106」がどのように配置されるのかが、甲第7号証には記載されておらず、「微動機構102」が、「石定盤であるテーブル60」に当接しているということはできない。
よって、甲7発明も、駆動機構が当接する面と、甲2発明の「Yキャリッジ」に対応する構成が支持される面とを同一の面とするものでもなく、駆動機構が当接する面を「定盤」上の面とするものでもない。

c 甲8発明
甲8発明は、「基台14」(甲2発明の「定盤」に相当)、「Y軸方向に移動自在に支持されているYキャリッジ12」(甲2発明の「Yキャリッジ10」に対応)を有する3次元座標測定機の発明であるが、「Yキャリッジ12」が「Y軸方向に移動自在に支持されている」のは「基台14の両側に配置されて」いる「案内面14A、14B、14C、14D」であるのに対し、「駆動機構30」の「駆動ローラ34」が「当接」しているのは「ガイドレール36」であり、両者は同一の構成ではない。
さらに、「駆動ローラ34」が「当接」しているのは「ガイドレール36」は、「基台14」に「Y軸方向に平行に配置された状態で」「固定されて」いるものであり、「基台14」に形成されたものではないから、甲8発明の、「駆動機構30」の「駆動ローラ34」は「基台14」に当接するものではない。
よって、甲8発明も、駆動機構が当接する面と、甲2発明の「Yキャリッジ」に対応する構成が支持される面とを同一の面とするものでもなく、駆動機構が当接する面を「定盤」上の面とするものでもない。

d 小括
上記aないしcより、相違点に係る本件発明1の構成のように、「駆動機構」を「前記ガイド領域の側面に当接する」ものとすることは、上記(イ)で述べた理由と同様の理由により、甲2発明と、甲3号証ないし甲5号証に記載された技術、甲7発明及び甲8発明から、当業者が容易に思い付くものであるということはできない。

(オ)上記(ウ)及び(エ)より、相違点に係る本件発明1の構成のように、「駆動機構」を「前記ガイド領域の側面に当接する」ものとすることは、甲2発明と、甲3号証ないし甲5号証に記載された技術並びに甲6発明ないし甲8発明に基づいて当業者が容易に思い付くものであるということはできない。

エ 以上により、相違点に係る本件発明1の構成は、甲2発明と、甲3号証ないし甲5号証に記載された技術並びに甲6発明ないし甲8発明に基づいて当業者が容易に思い付くものであるということはできない。

(4)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、「甲6号証に記載の当該事項を甲2発明に適用して、相違点2のように、駆動機構たる転動ローラを、定番14の側面や溝22の側面といった、ガイド領域の側面に当接させることは、当業者が容易に想到しうることである。」と主張する。(特許異議申立書、第36ページ第1?4行)
しかし、上記(3)ウ(ア)ないし(ウ)で述べたとおり、甲6号証に記載の技術事項を甲2発明に適用しても、「駆動機構」は、甲2発明の「定盤14」に「形成され」た「溝22の一方の脚部10A側の側面」及び「定盤14の一方の脚部10A側の側面」(本件発明1の「ガイド部側面」に相当)の少なくとも一方に「当接」するものとはならない。
よって、特許異議申立人の主張は、採用することができない。

(5)本件発明1についてのまとめ
上記(3)において述べたとおり、相違点に係る本件発明1の構成は、甲2発明と甲3号証ないし甲8号証に記載された事項とに基づいて当業者が容易に思い付くものであるということはできないから、本件発明1は、甲2号証ないし甲8号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

したがって、本件発明1についての特許は、理由2によって取り消すべきであるということはできない。

3 本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1の構成を全て含むから、少なくとも本件発明1と甲2発明との相違点において甲2発明と相違する。そして、上記2(3)のとおり、相違点に係る本件発明1の構成は、甲2発明と甲3号証ないし甲8号証に記載された事項とに基づいて当業者が容易に思い付くものであるということはできない。

そうすると、本件発明2及び本件発明3は、甲2号証ないし甲8号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

したがって、本件発明2及び本件発明3についての特許は、理由2によって取り消すべきであるということはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由によっては、本件発明1ないし本件発明3についての特許を取り消すべきであるということはできない。

また、他に、本件発明1ないし本件発明3についての特許を取り消すべきであるとする理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-09-27 
出願番号 特願2017-193423(P2017-193423)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G01B)
P 1 651・ 537- Y (G01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 櫻井 仁  
特許庁審判長 小林 紀史
特許庁審判官 ▲うし▼田 真悟
須原 宏光
登録日 2018-01-19 
登録番号 特許第6274349号(P6274349)
権利者 株式会社東京精密
発明の名称 三次元座標測定装置  
代理人 松浦 憲三  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ