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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B29C
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B29C
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B29C
管理番号 1345250
審判番号 不服2016-19688  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-12-28 
確定日 2018-10-10 
事件の表示 特願2013-555608「微細構造を有する部品を押出し加工するシステムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 8月30日国際公開、WO2012/116301、平成26年 7月24日国内公表、特表2014-517777〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2012年 2月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理
2011年2月24日、(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、 平成25年8月19日に特許法第184条の5第1項に規定する書面が提出され、同年10月9日に同法第184条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲、図面及び要約書の翻訳文が提出され、平成27年11月24日付けで拒絶理由が通知され、平成28年 3月31日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年8月23日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年12月28日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正書が提出されたので、特許法第162条所定の審査がされた結果、平成29年3月17日付けで同法第164条第3項所定の報告がされ、同年3月29日に上申書が提出され、その後、当審において同年10月13日付けの拒絶理由が通知され、平成30年3月16日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2 本願発明

本願の請求項1ないし20に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明20」という。)は、平成30年3月16日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし20に記載された次のとおりのものと認められる。

「【請求項1】
微細構造を有する押出し部品を製造する製造装置において、
支持構造と、
供給材料を受け入れるための前記支持構造に支持されるホッパと、
前記ホッパから前記供給材料を受け入れ、供給材料溶融温度より上で前記供給材料を溶融する前記ホッパと作動的に関連付けられる押出し室と、
前記支持構造に支持されるダイであって、前記ダイの内側表面に配置されたダイ微細構造を有し、前記ダイ微細構造が複数の微細特徴部を有して、各微細特徴部が上側表面および下側表面を有し、当該下側表面が当該下側表面内に画定される円弧を有しており、溶融された前記供給材料が前記ダイに通されて、前記ダイ微細構造の微細特徴部に対応する複数の微細特徴部を具えた押出し物微細構造を有する冷却前の押出し物を製造する、ダイと、
前記冷却前の押出し物の前記押出し物微細構造を冷却する冷却装置と、を具え、冷却後の押出し物微細構造の微細特徴部が、120-160μmの範囲から選択される幅と、70-90μmの範囲から選択される高さと、傾斜した頂面とを有しており、当該冷却後の押出し物微細構造の微細特徴部の寸法よりも大きい寸法のダイ微細構造の微細特徴部の寸法から、当該冷却後の押出し物微細構造の微細特徴部の寸法が形成され、
これにより、冷却後の前記押出し物微細構造の摩擦係数が、前記ダイの微細構造の摩擦係数よりも20倍小さい押出物を製造するように構成されていることを特徴とする製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の製造装置において、前記押出し物が、フィルム、正方形柱、長方形柱、台形柱、非対称の柱、円形柱、楕円形柱、三角柱、およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選ばれる物理的形状を有することを特徴とする製造装置。
【請求項3】
請求項1に記載の製造装置において、伸ばし、平坦化、伸張、エンボス加工、コーティング、型押し、圧延、ねじり、加熱、凍結、およびこれらの任意の組み合わせからなる群から選ばれる方法で前記押出し物を物理的に変化させるための押出し後装置を含み、前記押出し物の前記押出し物微細構造が、前記押出し物が前記押出し後装置を通過したあとの前記押出し物の前記押出し物微細構造の物理的寸法より大きい物理的寸法を有することを特徴とする製造装置。
【請求項4】
請求項1に記載の製造装置において、平坦な表面を有するダイと、前記平坦な表面に配置された少なくとも1つの微細特徴部の前記下側表面に含まれる円弧とを含むことを特徴とする製造装置。
【請求項5】
請求項1に記載の製造装置において、
平坦な表面を有するダイと、前記平坦な表面に配置された少なくとも1つの微細特徴部に含まれた第1の壁であって、前記上側表面と第1の壁との間の角度が90°未満である第1の壁と、前記第1の壁に隣接して配置された、前記微細特徴部に含まれる円弧とを含むことを特徴とする製造装置。
【請求項6】
請求項5に記載の製造装置において、
前記下側表面に沿って配置された、前記微細特徴部に含まれる微細特徴部平坦表面と、前記微細特徴部平坦表面に隣接して配置された、前記微細特徴部に含まれる第2の円弧と、微細特徴部に含まれた第2の壁であって、前記上側表面と第2の壁との間の角度が90°未満である第2の壁とを含むことを特徴とする製造装置。
【請求項7】
請求項6に記載の製造装置において、前記上側表面上に円弧状の凹部を含むことを特徴とする製造装置。
【請求項8】
請求項1に記載の製造装置において、前記上側表面上に円弧状の凹部を含むことを特徴とする製造装置。
【請求項9】
請求項1に記載の製造装置において、100?160μmの幅を有する前記微細特徴部によって画定された溝を含むことを特徴とする製造装置。
【請求項10】
請求項1に記載の製造装置において、300?400μmの深さを有する前記微細特徴部によって画定された溝を含むことを特徴とする製造装置。
【請求項11】
請求項1に記載の製造装置において、微細特徴部を有する前記ダイに含まれた湾曲表面と、前記湾曲表面に含まれた少なくとも1つの微細特徴部に画定された溝と、前記湾曲表面に含まれた前記微細特徴部の前記下側表面に画定された円弧とを有することを特徴とする製造装置。
【請求項12】
請求項11に記載の製造装置において、前記下側表面に画定された第2の円弧を含むことを特徴とする製造装置。
【請求項13】
請求項12に記載の製造装置において、前記第2の円弧が前記円弧に接していることを特徴とする製造装置。
【請求項14】
請求項11に記載の製造装置において、前記微細特徴部に含まれた第1の壁と上側表面を含み、前記上側表面と前記第1の壁の間の角度が90°未満であることを特徴とする製造装置。
【請求項15】
請求項14に記載の製造装置において、前記微細特徴部に含まれた第2の壁を含み、前記上側表面と前記第2の壁の間の角度が90°未満であるとを特徴とする製造装置。
【請求項16】
請求項11に記載の製造装置において、前記微細特徴部に含まれた第1の壁を含み、前記上側表面と前記第1の壁の間の角度が90°を超えることを特徴とする製造装置。
【請求項17】
請求項1に記載の製造装置において、前記上側表面に画定された円弧を含むことを特徴とする製造装置。
【請求項18】
請求項1に記載の製造装置において、前記押出し物が微細構造を前記内側表面に有する内側キャビティを含むように、外側表面に微細特徴部が配置された、前記支持構造によって支持されるマンドレルを含むことを特徴とする製造装置。
【請求項19】
請求項1に記載の製造装置において、前記押出し物微細構造が、0.1?500μmの範囲の深さ寸法を有することを特徴とする製造装置。
【請求項20】
請求項1に記載の製造装置において、前記押出し物微細構造が、ピラー、空隙、段、畝、湾曲領域、凹領域、柱;円、楕円、三角形、正方形、長方形、多角形、星形、六角形、文字、数字、記号を含む断面形状、およびそれらの任意の組み合わせからなる群から選択されることを特徴とする製造装置。」


第3 当審にて通知した拒絶理由の概要

当審にて通知した拒絶理由の概要は、次のとおりである。

1 この出願は、特許請求の範囲の記載が以下の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(2)ア 請求項1には、「冷却後の押出し物微細構造が、120-160μmの範囲から選択される幅と、70-90μmの範囲から選択される高さと、全体的に傾斜した形状とを有しており」との記載がある。
しかしながら、本願明細書の段落【0051】「・・・(略)・・・押出し物の得られる微細構造98は70?90μmの範囲の高さ、120?160μmの範囲の幅を有することができ、また概ね傾斜した形状を有することができる。」には、「概ね傾斜」と記載されていて、「全体的に」とは記載されていない点で整合していないし、そもそも「全体的に傾斜」とは、如何なる意味であるのか不明確である。
なお、明細書中の「概ね傾斜」なる記載についても、技術的意味は明確では無い。

イ 上記(2)アに説示したように、「全体的に傾斜」の意味が不明確であるから、結局、本願明細書の記載、図面を考慮しても、請求項1の「冷却後の押出し物微細構造が、120-160μmの範囲から選択される幅と、70-90μmの範囲から選択される高さと、全体的に傾斜した形状とを有しており」の「微細構造」が、如何なる形状であるのか明確ではない。

ウ 請求項1に係る発明は、「製造装置」であるところ、請求項1の「冷却後の押出し物微細構造が、120-160μmの範囲から選択される幅と、70-90μmの範囲から選択される高さと、全体的に傾斜した形状とを有しており」との記載は、冷却後の押出し物微細構造の構成を特定する記載であって、製造装置として、如何なる構成を特定しようとする記載であるのか明確でない。

2 この出願は、発明の詳細な説明の記載が以下の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない

請求項1に係る発明は、「冷却後の前記押出し物の摩擦特性が、冷却前の前記押出し物よりも20倍減少すること」と、冷却前よりも冷却後の押出し物の摩擦特性が20倍減少するという発明特定事項を含むものである。
そして、本願明細書の段落【0044】には、摩擦特性に関し、「得られる部品の寸法が押出し材料から変わるとき、一実施形態は、100度?120度の範囲に含まれるダイの微細構造の得られる接触角度を有する一方、得られる部品の微細構造は101度?170度である。得られる部品変化の寸法が押出し材料に由来するとき、一実施形態は、ダイの微細構造の摩擦特性より20倍小さい得られる部品の得られる摩擦特性を有する。一実施形態は、ダイの微細構造の摩擦特性より100倍大きい得られる部品の得られる摩擦特性を有する。得られる部品の寸法が押出し材料から変わるとき、一実施形態は、mmまたはμmのスケールのダイの微細構造を有する一方で、得られる部品の微細構造は一般にμmまたはnmのスケールであろう。」と記載されている。
上記記載によれば、得られる部品の摩擦特性が、ダイの微細構造の摩擦特性より、20倍小さいものとなるか、又は、100倍大きくなるものと読み取ることができる。
しかしながら、同段落の記載及びそれ以外の記載を参照しても、如何なる材料を使用し、如何なる条件下で押出し物を製造すれば、冷却前よりも冷却後の押出し物の摩擦特性が大きくならず、逆に摩擦特性が20倍減少するものとなるのかは、記載されておらず、出願時の技術常識を考慮しても、本願明細書の記載に接した当業者が、冷却前よりも冷却後の押出し物の摩擦特性が減少したものを製造することが可能であるとはいえない。
したがって、本願の発明の詳細な説明は、本願請求項1-21に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号において規定される、いわゆる実施可能要件を満たしているとは認められない。

3 平成28年12月28日付けでした手続補正は、下記の点で外国語書面の翻訳文(又は誤訳訂正書による補正後の明細書若しくは図面)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

請求項1-21について
審判請求時の補正により、請求項1には、「冷却後の前記押出し物の摩擦特性が、冷却前の前記押出し物よりも20倍減少すること」なる発明特定事項が追加された。
審判請求人は、当該事項の補正の根拠として、当初明細書の段落【0044】を挙げている。
しかしながら、本願当初明細書の段落【0044】には、「・・・(略)・・・ダイの微細構造の摩擦特性より20倍小さい得られる部品の得られる摩擦特性を有する。一実施形態は、ダイの微細構造の摩擦特性より100倍大きい得られる部品の得られる摩擦特性を有する。・・・(略)・・・」と記載されている。
当該記載によれば、「ダイの微細構造」の摩擦特性を基準に、得られる部品の摩擦特性を規定するものと認められる。
また、当該記載及びその余の記載を参照しても、「冷却前の」「押出し物」の「微細構造」の摩擦特性を基準に、「冷却後」の押出し物の摩擦特性を規定する記載は存しない。
加えて、本願明細書全体の記載及び出願時の技術常識に照らしても、「ダイの微細構造の摩擦特性」と「冷却前の」「押出し物」の摩擦特性が、同一であるともいえないから、補正後の請求項1に追加された「冷却後の前記押出し物の摩擦特性が、冷却前の前記押出し物よりも20倍減少する」なる事項は、当初明細書等の記載から自明のものとは認められない。
したがって、上記補正事項は外国語書面の翻訳文に記載した事項の範囲内においてしたものではく、これらの記載から自明な事項でもない。
よって、本願補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものではない。

第4 当審の判断

1 本願明細書又は図面に記載された事項

本願明細書には、次の事項が記載されている。なお、段落【0047】の「切断機52」という記載が「切断機」と補正されている点を除けば、本願の出願時の明細書又は図面の記載と同じである。

「【背景技術】
【0002】
本発明は、部品を作製するシステムおよび方法に関し、より詳細には、押出し物の製造プロセスを用いて部品を作製するシステムおよび方法に関し、結果として得られる部品は表面に微細構造が付与されている。
【0003】
押出しは、固定された断面形状を有する部品を作製するために使用される製造プロセスである。押出し材料は、所望の断面の押出しダイまたは引抜きダイを通して押されるか引き抜かれる。押出し材料は圧縮およびせん断応力を受けるだけなので、押出しは脆性の押出し材料とともに用いることができる。押出しはまた、表面仕上げを有する仕上げ部品を製造することもできる。
【0004】
押出しは、無限に長い部品を理論上製造可能な連続プロセスであり得る。一形態において、押出しは、実質的に同一の部品、または同じ断面を有するが長さが変わる部品の複製をもたらす半連続部品を製造する。押出しプロセスは熱いまたは冷たい押出し材料を用いて実行可能である。共通に押出される材料は、金属、ポリマー、プラスチック、セラミック、コンクリートおよび食品を含む。
【0005】
単純な平坦な押出しダイを用いて中実部品を製造することができる。部品内の中空キャビティは、深さのあるダイを用いて製造することができ、まず中央部分を支持する形状プロファイルで始まる。ダイ形状は続いて内側でその長さに沿って最終形状へ変化し、吊り下げられた中央部片がダイの後側から支持される。マンドレルを使用してキャビティを有する押出し部品を製造することもできる。
【0006】
部品は引抜プロセスによって形成することもできる。引抜きは材料を伸張するために引張力を使用する製造プロセスである。一般に、引抜きは、シート引抜き、またはワイヤ、バーおよびチューブ引抜きとして記載される。シート引抜きは湾曲軸上での変形を必要とする。ワイヤ、バーおよびチューブ引抜きは、引抜きダイを通して材料を引き、その直径を低減し、その長さを増大する。引抜きは室温で通常行われ、従って冷間加工プロセスに分類されるが、力を低減するために、高温で実行されてワーク用の大型ワイヤ、ロッドまたは中空部分を熱することもある。引抜きは金属および非金属に使用することができる。
【0007】
当該技術分野の現況下では、押出しプロセス(引抜きを含む)は、滑らかさまたは上質な仕上げを有する表面を一般に製造する。引抜きプロセスの間押出し材料に表面特性を付与することができ、その結果ある物理的特性を有する押出しプロセスに起因する部品がもたらされることは有利であろう。
【0008】
部品に配置される微細特徴部は、有利な表面特性を提供することができる。複数の微細特徴部を物体の表面に含めることによって、高められた疎水性、親水性、自浄能力、水力学的抗力係数、空力学的抗力係数、摩擦特性および光学効果などの他の特徴が物体に付与される場合がある。超疎水性表面は、ハスの葉の特徴的な撥水性によって最初に着想された。
【0009】
歴史的に、微細特徴部はコーティング、接着剤または化学反応として表面に付与された。ゆえに微細特徴部は表面から摩損する傾向がある。時を経ると、微細構造によって提供された特性は失われる。さらに、コーティングまたは接着剤の適用を押出しプロセスに加える必要があり、それらは押出しプロセスに自然に組み込まれないだろう。」
「【0011】
従って、微細特徴部を有する部品をもたらした押出しプロセスを用いて部品を製造する製造方法を提供することが本発明の目的である。
【0012】
引抜き時でさえ、製造される部品にある物理的特性を付与する微細特徴部を有する部品をもたらす押出しダイを提供することが本発明の別の目的である。
【0013】
表面に微細特徴部を有する押出しダイを提供し、その結果、これら微細特徴部が、得られる部品に付与され、それにより押出し部品の性能または特性に影響を及ぼすことが本発明の別の目的である。」
「【発明を実施するための形態】
【0023】
一般に、本明細書で使用される用語および語句は、当業者に知られている標準的な教本、学会誌の参照文献および文脈を参照することによって見出すことができるそれらの当該技術分野で認識されている意味合いを有する。図1を参照すると、押出し材料(供給材料、素材、または鋼片とも呼ばれる)16がダイ10を通して押され、結果として押出し部品18になっている。ダイは、金型成形、成形、および放電加工を含む多数の製造プロセスによって作製することができる。
【0024】
微細構造を以下の方法で金属ダイの表面に付与することができる。たとえば、直接加工、切削、もしくは刻み加工、またはレーザ加工などの減法的な方法、スプレー、コーティング、またはダイ表面に組み込まれるインサートなどの付加的な方法、および金属ダイ表面の微細金型成形など、付加でも減法でもない表面変質方法。
【0025】
微細構造を以下の方法でポリマーダイの表面に付与することができる。たとえば、直接加工、切削、もしくは刻み加工、またはレーザ加工などの減法的な方法;スプレー、コーティング、またはダイ表面に組み込まれるインサートなどの付加的な方法;および金属ダイ表面の微細金型成形など、付加でも減法でもない表面変質方法。ポリマーダイは金型成形することもでき、微細構造は金型を介して付与することができる。共通のポリマーダイ材料はウルテム(ultem)である。微細構造化された金型成形ポリマーダイは、金型成形後、機械加工することができる。
【0026】
微細構造を以下の方法でセラミックダイの表面に付与することができる。たとえば、直接加工、切削、刻み加工、またはレーザ加工などの減法的な方法、スプレー、コーティング、またはダイ表面に組み込まれるインサートなどの付加的な方法。セラミックダイは金型成形することもでき、微細構造は金型を介して付与することができる。微細構造化された金型成形セラミックダイは、微細金型成形後、機械加工することができる。
【0027】
押出しダイは、上で参照したPCT出願に示されるように、製造、またはそれらに付与された微細構造を有することができる。ダイは単一の出口開口部または複数の出口開口部を含むことができる。さらに、ダイは単一の部品または部品の組立体であることができる。ダイ材料は金属、ポリマーまたはセラミックであることができる。共通のダイ材料は鋼、アルミ、およびチタンを含む。
【0028】
ダイに含まれるのは、得られる部品の外側表面を形成する出口接触表面13を有する出口ダイ部材11である。一実施形態では、素材の直径は、押出しプロセスにもかかわらず、低減される。示されるように、ダイ10は、得られる部品18の外側表面19で素材と接触する。得られる部品がキャビティを含むことを必要とする場合、素材内にキャビティを形成するマンドレル12をダイに含めることができる。マンドレル12は、得られる部品の内側表面を形成するマンドレル接触表面13を含むことができる。キャビティを有する押出し部品を形成可能なダイは、スパイダーダイ、ポートホールダイ、またはブリッジダイを含む。
【0029】
押出し材料は金属または非金属であることができ、ゴム(天然ゴム、スチレン-ブタジエン、ポリブタジエン、ネオプレン、エチレン-プロピレン、ブチル、ニトリル、シリコーンを含む)、アクリル、ナイロン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィンおよび当業者に知られた他の柔軟性ポリマーを含むことができる。
【0030】
微細構造を出口接触表面に含めることができる。微細特徴部は、円、楕円、三角形、正方形、長方形、多角形、星形、六角形、文字、数字、数学記号、およびこれらの任意の組み合わせを含む任意の断面形状を採用する、穴、柱、段、畝、湾曲領域、凹領域、凸領域および、これらの任意の組み合わせを含むことができる。
【0031】
押出し材料がダイの微細構造と接触すると、得られる部品の表面に微細構造が付与される。これら微細構造は、部品の疎水性を上昇させること、部品の疎水性を低下させることおよび/または部品に自浄能力を与えることができる。微細特徴部はまた、光学効果を付与することができ、例えば物体にプリズム効果、特定の色、または方向依存性色変化もしくはカラーフロップ(color flop)(例えば、物体が、1つの角度から見たとき特定の色を、別の方向から見たとき別の色を示す)を与える。
【0032】
同様に微細特徴部は、部品に表面摩擦、または把持部を付与することができ、または触れたとき、けばだった、粗いまたはぐにゃりとした感じなど、特定の触覚を物体に与えることができる。特定の実施形態では、微細特徴部は、例えば物体の表面面積を変えることによって、表面が流体と相互作用する方法を変えることによって、または核形成場所の挙動を変えることによって、物体の伝熱特性を変質することができる。特定の実施形態では、微細特徴部は伝導による低減された熱伝送をもたらすことができ、例えば微細構造が高アスペクト比を有するとき、微細特徴部の頂部のみが伝導的熱伝送のため別の物体と接触する一方で、表面特徴部間の空隙は熱をあまり多く伝えない。さらに、得られる部品の表面は、流体が部品表面から排出することを可能にする「排液」能力を含む微細構造を含むことができる。さらに微細構造は、流体が重力に逆らって流れることを可能にする毛管作用を提供することができる。同様に、得られる部品の表面に特定の微細構造が付与されることによって、摩擦力を改質することができる。
【0033】
微細構造は導電性、例えば金属微細構造または導電性ポリマーから構成された微細構造であることもできる。これら導電性微細構造のタイプは、例えば電気装置の電気リードのアレイとして、有用である。導電性微細構造は、例えば、物体の表面に直接エンボス加工することができる。いくつかの環境では、押出し物の表面の微細構造は、ダイまたはマンドレルの微細構造を正確に反映することができる。他の環境では、押出し物の微細構造は、異なるサイズまたは形状であることができる。押出し物の引抜き、伸張、または他の操作により微細構造の形状を変えることができ、例えば、微細構造のサイズを一桁またはそれ以上縮める。
【0034】
特定の実施形態では、微細特徴部は、10nm?1000μmの範囲から選択される寸法を有する。ある実施形態では、例えば微細特徴部は、10nm?1000μmの範囲から選択された、好ましくはいくつかの実施形態では10nm?100μmの範囲から選択された長さ、高さ、直径および/または幅を有する。ある実施形態では、例えば微細構造間のピッチは10nm?1000μmの範囲から選択され、一部の適用では1μm?1000μmの範囲から選択され、および一部の適用では10μm?1000μmの範囲から選択される。
【0035】
一実施形態では、微細特徴部の予め選択されたパターンは、第1の断面形状を有する微細特徴部の領域と、例えば第1の断面形状と異なる第2の断面形状を有する微細特徴部の領域とを含む。一実施形態では、微細特徴部の予め選択されたパターンは、複数の断面形状および/またはサイズを有する微細特徴部の領域を含む。ある実施形態では、微細特徴部の予め選択されたパターンは、2種類以上の断面および/またはサイズの微細構造の2つ以上のアレイを参照する。特定の実施形態では、2つ以上のアレイは横並びに位置付けられる、すなわち、そこで2つのアレイは重ならない。別の特定の実施形態では、2つ以上のアレイは重なるように位置付けられ、2種類以上の断面形状および/またはサイズを有する微細特徴部は、重なるアレイ内で散りばめられる。
【0036】
ある実施形態では、微細特徴部の予め選択されたパターンは、微細特徴部の複数の寸法、例えば寸法の二峰性のまたは多峰性の分布を含む。サイズ分布はランダムであることもでき、またはサイズは微細特徴部のマンドレルまたはダイ上での位置に対応し得る。ある例示的実施形態では、微細特徴部の予め選択されたパターンは、10nm?1μmから選択される寸法を有する第1の微細特徴部群、および1μm?100μmから選択される寸法を有する第2の微細特徴部群を含む。ある特定の実施形態では、微細特徴部のサイズ、形状および位置は、マイクロメートルスケールまたはナノメートルスケールの正確性および/または精密性で予め選択される。
【0037】
ある実施形態では、微細構造化された表面はポリマーを含む。有用なポリマーは、限定しないが、PDMS、PMMA、PTFE、FEP、PEEK、ポリウレタン、テフロン、ポリアクリレート、ポリアリレート、熱可塑性樹脂、熱可塑性樹脂エラストマー、フルオロポリマー、生分解性ポリマー、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリイミド、ポリスチレン、ポリビニル、ポリオエレフィン、シリコーン、天然ゴム、合成ゴムおよびこれらの任意の組み合わせを含む。
【0038】
ある実施形態では、微細構造化された表面は金属を含む。有用な金属は、任意のモールド成形可能、注型可能、エンボス加工可能、および/または型押し可能な金属または合金を含む。有用な金属は、限定しないが、アルミ、アルミ合金、ビスマス、ビスマス合金、スズ、スズ合金、鉛、鉛合金、チタン、チタン合金、鉄、鉄合金、鋼、ステンレス鋼、ハステロイ、インコネル、デュラニッケル、インジウム、インジウム合金、金、金合金、銀、銀合金、銅、銅合金、黄銅、ニッケル、ニッケル合金、プラチナ、プラチナ合金、パラジウム、パラジウム合金、亜鉛、亜鉛合金、カドミウムおよびカドミウム合金を含む。
【0039】
一実施形態では、押出し材料16は内側ダイ14の上に引き抜くことができる。内側ダイの外側表面は、微細構造を押出し材料の内側表面に付与させる微細構造を有することができる。一実施形態では、押出し材料は中央キャビティを備えた管である。
【0040】
押出し材料は、押出し材料がダイとの接触から離れたあと、その直径もしくは厚さ、または両方を低減するやり方で引き抜くことができる。一実施形態では、キャビティを有する押出し材料は、押出し材料の外周、孔または両方の直径を低減する引抜きダイ15を介して引き抜くことができる。
【0041】
実施形態では、疎水性以外のおよび/または疎水性に加えて、1つ以上の物理的、機械的または光学的な特性が、複数の微細特徴部が上に配置された可撓性基材を変形することによって、確立、変化および/または制御される。ある実施形態では、例えば、反射率、反射光または散乱光波長分布、透過率、透過光の波長分布、屈曲率またはこれらの任意の組み合わせなどの光学的特性が、複数の微細特徴部がその上に分布された可撓性基材を撓ませる、曲げる、広げる、伸張するおよび/または縮めることによって制御される。ある実施形態では、空力抵抗または水力抵抗などの物理的特性が、複数の微細特徴部がその上に分布された可撓性基材を撓ませる、曲げる、広げる、伸張するおよび/または縮めることによって制御される。ある実施形態では、表面の触覚などの表面の触覚特性が、複数の微細特徴部がその上に分布された可撓性基材を撓ませる、曲げる、広げる、伸張するおよび/または縮めることによって制御される。
【0042】
図2は、得られる部品の寸法を押出し材料の寸法から必ずしも変えることなく、得られる部品に微細構造を付与できることを示す。従って、ダイのネガの微細構造が、得られる部品におよそ1:1の比で付与される。得られる部品寸法が押出しプロセスを介して改変されるとき、押出し材料と得られる部品との間のサイズの比は、最大7:1およびそれ以上であることができる。一実施形態では、ダイまたはマンドレルから製造される得られる部品の形状は、引抜きの間保つことができる、または形状は変わることができる。形状の保存または形状の変化は、押出し材料の特性に、または押出し材料がその後どのように加工されるかに依存することができる。
【0043】
得られる部品に微細構造が付与されたあと、押出し材料の直径サイズが変えられるとき、部品の微細構造は変えられる。従って、ダイに含まれる微細構造は、得られる部品が押出し材料から収縮することを考慮して、得られる部品の得られる微細構造の微細構造より大きい。
【0044】
得られる部品の寸法が押出し材料から変わるとき、一実施形態は、100度?120度の範囲に含まれるダイの微細構造の得られる接触角度を有する一方、得られる部品の微細構造は101度?170度である。得られる部品変化の寸法が押出し材料に由来するとき、一実施形態は、ダイの微細構造の摩擦特性より20倍小さい得られる部品の得られる摩擦特性を有する。一実施形態は、ダイの微細構造の摩擦特性より100倍大きい得られる部品の得られる摩擦特性を有する。得られる部品の寸法が押出し材料から変わるとき、一実施形態は、mmまたはμmのスケールのダイの微細構造を有する一方で、得られる部品の微細構造は一般にμmまたはnmのスケールであろう。
【0045】
図3を参照すると、ダイの微細構造の位置は、示されるような位置26aに微細構造を置く好ましい実施形態により変えることができる。図4を参照すると、素材16はまた、28として示される微細構造のネガを有するダイの一部だけを用いて押出すことができる。押出し材料がダイに通されると、ダイとの相互作用によって生成される形状が、得られる部品に付与され、かつ微細構造を含むことができる。素材は、素材をダイを通して引き抜くことを含む押出しを介して、得られる部品に製造することができる。
【0046】
図5を参照すると、微細構造間の空間32を有する得られる部品の外側表面が30として示されている。押出し材料が伸ばされると、外側表面上の微細構造が改質され、微細構造自体および微細構造間の空間が、伸ばされた得られた部品34に示されるように圧縮される。押出し物内側表面36および伸ばされた押出し物内側表面38において示されるように、押出し材料の内側表面にある微細構造を用いて、同じ効果が得られる。
【0047】
図6を参照すると、押出しプロセスがさらに詳しく示されている。供給材料40がホッパ42の中に置かれる。供給材料は次に押出し室44で混合され、溶融される。加熱された供給材料はポンプまたは歯車46を用いて押出し室からポンピングまたは引かれ、48として示されるダイ、マンドレルまたはその両方を通される。ダイまたはマンドレルによって製造された微細構造を有する押出し物は、続いて空気ブロワまたは急冷浴などの冷却装置50によって冷却し、切断機で切断するか、またはスプール54に巻き付けることができる。スプールがより速い速度で回転し、その後押出し物がダイを出る場合、押出し物をより小さい断面寸法に引き抜くことができる。
【0048】
各種急冷溶液を使用する複数の急冷浴が存在し得ることを注記しておく。例えば、アルミを押出しするとき、塩の急冷浴、続いて水の急冷浴を使用可能である。急冷浴の温度、押出し物がダイを出る時と急冷浴に入る時の間の時間、および押出し物が急冷浴の中に存在する時間の長さは変えることができる。
【0049】
一実施形態では、上側ベルト駆動装置56および下側ベルト駆動装置58を有する引抜装置54が、押出し物をダイから切断機の中へまたはスプールに向けて引く。引抜装置を用いて、引抜装置の引きが押出し物のダイからの押出し速度より速いとき、押出し物を引き抜くことができる。この結果、押出し物は伸張され、より小さい直径の押出し物がもたらされる。さらに、押出し物が急冷されるとき、および押出し物がスプールに巻かれるとき、押出し物を縮めることもできる。
【0050】
図7を参照すると、円形ダイの1つの微細構造の一部が示されている。ダイ60は、第1の壁64と第2の壁66とをそれぞれが有する複数の微細特徴部62を含む。幅70を有する溝68がダイ中に画定される。第1の円弧72を下側表面74に含めることができる。同じく第2の円弧76を第1の円弧と重なる下側表面に含めることができる。使用の際、ダイは微細構造80を有する押出し物78を製造することができる。押出し物は押出しダイを離れたあと、冷却され、引抜きまたは物理的に変化を受けるとき、押出し物は物理的な寸法を有するので、押出し物の微細構造はダイの微細構造の鏡像ではないことを注記しておく。一実施形態では、第1の円弧の半径は45?65μmの範囲にある。溝の幅は150?250μmの範囲にあり、高さ80は250?350μmの範囲にある。得られる押出し物の微細構造は幅が7?13μmであり得、高さは一般に傾斜したピーク構造を有し得る。
【0051】
図8を参照すると、別の微細構造が示されている。下側表面82および上側表面84がダイに含められる。第1の壁86および第2の壁88を微細構造に含めることができる。幅92および高さ94を有する微細構造の中に溝90を画定することができる。円弧94を下側表面中に画定することができる。第2溝または円弧96を上側表面中に画定することができる。一実施形態では、溝高さは0.8?1.6mmの範囲にあり、高さは1.0?2.0mmの範囲にある。押出し物の得られる微細構造98は70?90μmの範囲の高さ、120?160μmの範囲の幅を有することができ、また概ね傾斜した形状を有することができる。
【0052】
図9を参照すると、別の微細構造が示されている。上側表面との関係において90°未満の入射角θ’を有し、上側表面との関係において90°を超える入射角θ’’を有する第1の壁100が示されている。第1の円弧102を下側表面中に含めることができ、第2の円弧104を第1円弧に隣接して下側表面中に含めることができる。前記ダイに画定された溝106は、一実施形態において0.25?1.25mmの範囲にある幅106と、0.25?1.25mmの範囲にある高さを有することができる。第1の壁、第1の円弧、第2の円弧、および第2の壁のこの構成は、懸垂微細構造である。押出しプロセスの間、押出し物の微細構造は、引抜き、冷却または他の理由により縮むことができ、ダイの微細構造の元のミラー部分より一般に小さい押出し物の微細構造をもたらす。得られる押出し物の微細構造110の高さは20?60μmの範囲にあり、100?140μmの幅を有することができる。上側円弧108は上側表面中に含めることができる。
【0053】
一実施形態では、得られる押出し物の微細構造の側面は概ね垂直である。別の実施形態では、壁は図10に示されるように傾けることができる。傾けられた壁は、秒あたり200フィートのライン速度で製造され、かつ水急冷浴で冷却されたナイロン押出し物に起因することができる。押出し物の幅112は250?250μmの範囲にあることができ、高さは150?250μmの範囲にあることができる。溝114はダイの上側表面中に含めることができ、かつ概ね台形の3つの側面を有することができる。得られる押出し物の微細構造は、押出し物に含まれる概ね円形の微細特徴部であり得る。微細構造は1000?1400μmの範囲の幅および500?1000μmの範囲の高さを有することができる。得られる押出し物は90?210μmの範囲の高さおよび100?380μmの範囲の幅を有することができる。
【0054】
図11を参照すると、溝120は第1の壁122、第2の壁124、および下側表面および第1と第2の壁の間に配置された円弧126を有することができる。溝は100?140μmの範囲の幅および200?360μmの範囲の高さを有することができる。得られる押出し物の微細構造128は45?60μmの高さおよび40?50μmの幅を有することができる。
【0055】
図12および13を参照すると、押出しダイ130は微細構造を有する開口部132を含む。示されるように、ダイは1つまたは複数の部品を含むことができるフラットダイである。微細構造134はダイの内側表面に沿って配置される。一実施形態では、第1の壁136は90°未満の入射角θ’、第1の壁に隣接する第1の円弧138、平坦部分140、第2の円弧142および90°を超える入射角θ’’を有する第2の壁144を有する。図14に示される得られる押出し物は、概ね200?240μmの範囲で離され30?40μmの範囲の高さを有する微細構造146を有するフィルムまたはそうでなければ平坦な押出し物である。
【0056】
図15Aを参照すると、ダイの内側表面に沿って配置された微細構造152を有する円形ダイ150が示されている。図15Bを参照すると、微細構造の一実施形態が示されている。開口部154がダイに画定され、微細構造156が開口部を囲んでいる。微細構造は交互パターンで第1の円弧158および第2の円弧160を画定し、第1の円弧の深さは第2の円弧の深さより大きい。
【0057】
図16Aを参照すると、円形ダイの別の微細構造が示されている。微細構造は、上側表面との関係において90°未満の入射角θ’を有する第1の壁162と、上側表面との関係において90°を超える入射角θ’’を有する第2の壁164とを含む。第1の円弧166を第2の円弧168に隣接して前記微細構造中に含めることができる。下側平坦表面170を微細構造中に含めることができ、かつ第1および第2円弧間に配置することができる。上側キャビティ172を前記上側表面中に含めることができ、かつ交互パターンで前記微細構造に配置することができる。
【0058】
図17を参照すると、下側平坦表面178を有するキャビティ180を画定する第1の壁174および第2の壁176を有する円形ダイの別の微細構造が示されている。一実施形態では第1の壁および第2の壁は400?480μmの範囲の高さを有し、かつ360?380μmの範囲の幅を有する。図18は上側表面中に画定される上側円弧182を示す。一実施形態では上側円弧は100?160μmの範囲の幅および100?160μmの範囲の深さを有する。図19は下側表面中に画定される下側円弧184を示す。
【0059】
図20を参照すると、キャビティを画定する第1の壁および第2の壁を有する別の微細構造が示されている。第1の円弧186が下側表面およびキャビティ中に画定される。一対の円弧188aおよび188bがキャビティの壁の中に画定される。
【0060】
図21は、微細構造200を有するマンドレル190を示し、このマンドレルを使用して作製された押出し物は押出し物の内側表面に微細構造が形成されるであろう。図22は、マンドレルの微細構造が高さ202を有することを示す。
【0061】
図22Aは、微細構造を含まないマンドレルで製造された押出し物210を示す。内側表面212は、微細構造を含まないマンドレルに起因して滑らかである。図22Bは、しかしながら、微細構造を含むマンドレルによって内側表面218に形成された微細構造216を有する押出し物214を示す。図22Cは、一実施形態において互いに隣接する第1円形部分222と第2円形部分224とを有するマンドレル220を示す。微細構造226は円形部分間の接合部228に配置される。滑らかな部分230aおよび230bは、図22Dに示されるように各円形部分に配置される。」

「図3A



「図3B



「図3C


「図5A-D



「図6





「図7



「図8



「図9


「図10


「図11


「図12



2 当審にて通知した拒絶理由(特許法第36条第6項第2号違反)について

(1)特許法第36条第6項第2号について

特許法第36条第6項第2号は、特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。同号がこのように規定した趣旨は、仮に、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許が付与された発明の技術的範囲が不明確となり,第三者の利益が不当に害されることがあり得るので、そのような不都合な結果を防止することにある。
そうすると、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。

(2)第3 1(2)アについて

ア 請求項1には、「冷却後の押出し物微細構造の微細特徴部が、120-160μmの範囲から選択される幅と、70-90μmの範囲から選択される高さと、傾斜した頂面とを有しており」と記載されている。

イ 当該「傾斜した頂面」との記載は、平成30年3月16日提出の手続補正書での補正により、「全体的に傾斜した形状」との記載を削除し、追加されたものである。

ウ 請求項1の記載から「冷却後の押出し物微細構造の微細特徴部」が「傾斜した頂面を有して」いることは理解できる。
しかし、当該「傾斜した頂面」との記載の意味は明確でない。
また、請求項1の記載全体をみても、当該「傾斜した頂面」との記載の意味は明確でない。

エ そこで、本願発明1に係る特許請求の範囲の記載のうち「傾斜した頂面」との記載は、本願明細書及び図面を考慮し、技術常識を基礎としてその記載の意味が明確であるか否か検討する。

(ア)請求項1の「傾斜した」との記載について

本願明細書の段落【0051】に「図8を参照すると、別の微細構造が示されている。下側表面82および上側表面84がダイに含められる。第1の壁86および第2の壁88を微細構造に含めることができる。幅92および高さ94を有する微細構造の中に溝90を画定することができる。円弧94を下側表面中に画定することができる。第2溝または円弧96を上側表面中に画定することができる。一実施形態では、溝高さは0.8?1.6mmの範囲にあり、高さは1.0?2.0mmの範囲にある。押出し物の得られる微細構造98は70?90μmの範囲の高さ、120?160μmの範囲の幅を有することができ、また概ね傾斜した形状を有することができる。」と記載されている。
しかしながら、当該段落の記載を参照しても、「概ね傾斜した形状」の「概ね傾斜」とは、特定の形状を客観的にみて如何なる状態であれば「概ね」であり、かつ、「傾斜した」と認識できるのか理解できない。
さらに、段落【0051】に挙げられている図8を参照しても、「第2溝または円弧96」に対応する図面が記載されているにとどまり、「傾斜した」とは、どの部分を指し示すものであるのか判然とせず、理解できない。

そのため、本願明細書中の「概ね傾斜した形状」との記載によっても、請求項1に記載の「傾斜した」とは、いかなる技術的意味を有するのか不明である。

(イ)請求項1の「頂面」との記載について

まず、「頂面」との用語は、一般的に使用されるものではないといえる。
また、当該用語は、微細構造を有する押し部品を製造する製造装置の技術分野において、通常使用される用語であるとも認められず、出願当時における技術常識を考慮しても、その用語の技術的意味を理解できない。
さらに、「頂面」とは、「頂」点であるのか、平「面」ないし曲「面」等の「面」であるのか等、如何なる形状を特定する記載であるのか、理解できない。
なお、「頂面」の「頂」とは、「頂」点であり、「面」とは、平「面」ないし曲「面」等の「面」であるとの認識に立った場合、「頂」と「面」とは、相容れない記載ということができ、「頂面」の意味が不明であるといえる。

(ウ)請求項1の「傾斜した頂面」との記載について

本願明細書には、「傾斜した頂面」については、具体的な定義が記載されておらず、出願当時における技術常識を考慮しても、どのように定義されるものであるのか理解できない。
そして、上記(ア)及び(イ)の検討のとおり、「傾斜した」及び「頂面」それぞれの技術的意味は不明であるから、「傾斜した頂面」の技術的意味も不明である。

(エ)意見書における請求人の主張

審判請求人は、平成30年3月16日提出の意見書で、請求項1に記載の「傾斜した頂面」について、次のとおり主張する。

「(3)不明確であると指摘されたもとの「全体的に傾斜した形状」の記載を、「傾斜した頂面」と補正しました。
押出し物の押出し物微細構造の各微細特徴部は、ダイの微細特徴部の形状に対応することになります。ダイの微細特徴部の下側表面は円弧の形状であるため、これに対応して押出し物微細構造の微細特徴部の頂面は、円弧状に傾斜した形状が成形されます。これにより、「冷却後の押出し物微細構造の微細特徴部」が、「傾斜した頂面」を有することが明確であるものと思料致します(理由1(2)ア、イについて)。」(以下、「主張1」という。)

「(5)摩擦特性について
・・・(略)・・・
(b)冷却後の押出物微細構造の摩擦係数が、ダイ微細構造の摩擦係数よりも20倍減少することについては、明確性の拒絶理由(理由1(4))と、実施可能要件の拒絶理由(理由2)も指摘されております。
得られる冷却後の押出し物微細構造の摩擦係数は、(冷却後の)押出し物微細構造の各微細特徴部の頂面により決定されることになります。この押出し物微細構造の頂面の形状は、ダイ微細構造の微細特徴部の下側表面の円弧の形状により作成されることになります。ダイを通された供給材料は冷却後に収縮するため、上述のように、ダイ微細構造の微細特徴部よりも小さな寸法の押出し物微細構造の微細特徴部が製造されることになります。
したがって、押出し物微細構造の各微細特徴部の頂面の円弧の形状は、ダイ微細構造の微細特徴部の下側表面の円弧の形状と異なることになります。」(以下、「主張2」という。)

「冷却後の収縮により、押出し物微細構造の各微細特徴部の頂面が、ダイ微細構造の微細特徴部の下側表面と比べて、異なる円弧の形状と異なる傾斜を有することになり、「冷却後の前記押出し物微細構造の摩擦係数が、前記ダイの微細構造の摩擦係数よりも20倍小さい押出物」が製造されることになります。このように、押出物微細構造の微細特徴部が収縮してその頂面の形状と傾斜が変化することによって、ダイ微細構造よりも摩擦係数が減少することが、明細書の段落[0043][0044]等の記載から理解できるものと思料致します(理由2について)。」(以下、「主張3」という。)

上記主張1によれば、「押出し物微細構造の微細特徴部の頂面」は、「円弧状に傾斜した形状」であるように理解できる。

上記主張2によれば、「押出し物微細構造の各微細特徴部の頂面」は、「押出し物微細構造の各微細特徴部の頂面の円弧の形状」とあり、「頂面」は、「円弧の形状」であるように理解できる。

上記主張3によれば、「押出し物微細構造の各微細特徴部の頂面」は、「異なる円弧の形状と異なる傾斜を有する」と述べられており、「頂面」には、「円弧の形状」と「傾斜」が存するようにも理解できる。

しかしながら、上記主張1ないし3を併せて考慮すると、結局、「頂面」は、「円弧状に傾斜した形状」であるのか「円弧の形状」であるのか「傾斜」であるのか判然とせず、さらに、「円弧状に傾斜した形状」の意味について理解できない。

また、一般的に、円弧において円弧の接線は直線となり、ある基準から見れば「傾斜した」といい得る。しかし、審判請求人が説示する「円弧状」において、どの部分を「傾斜」と定義しているのかについては、一切説明されておらず、「円弧状に傾斜した形状」は、如何なる形状であるのか理解できない。

(オ)したがって、請求項1の「傾斜した頂面」との記載は、本願明細書及び図面を考慮しても、また、出願当時における技術常識を考慮しても、さらに、審判請求人の意見書での主張を踏まえても、その記載の意味が明確であるとはいえない。

オ まとめ

以上のことから、本願請求項1に記載の「傾斜した頂面」との事項については、特許請求の範囲及び明細書の記載、出願当時における技術常識並びに審判請求人の主張を踏まえても、依然としていかなる技術的意味であるのか明確でない。そのため、当該事項によって特定される請求項1に係る発明も明確でないといわざるを得ない。
よって、特許請求の範囲の記載は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるというべきである。

(3)第3 1(2)イについて

上記(2)のとおり、請求項1の「傾斜した頂面」の意味が明確でない以上、当該「傾斜した頂面」で特定される「冷却後の押し出し物微細構造」の「微細構造」は、如何なる形状であるのか依然として明確でない。当該事項によって特定される請求項1に係る発明も明確でないといわざるを得ない。 よって、特許請求の範囲の記載は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるというべきである。

(4)第3 1(2)ウについて

上記(3)のとおり、請求項1の「冷却後の押し出し物微細構造」の「微細構造」が依然として明確でない以上、当該「冷却後の押し出し物微細構造」で特定される請求項1に係る発明も明確でないといわざるを得ない。
よって、特許請求の範囲の記載は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるというべきである。

(5)小括

したがって、本願請求項1の記載は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
また、請求項1を直接的ないし間接的に引用する請求項2ないし20の記載も同様である。

3 当審にて通知した拒絶理由(特許法第36条第4項第1号違反)について

(1)特許法第36条第4項第1号について

物の発明について、実施可能要件を充足するためには、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識とに基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物の生産、使用をすることができる程度の記載を要する。

(2)請求項1の記載のうち「これにより、冷却後の前記押出し物微細構造の摩擦係数が、前記ダイの微細構造の摩擦係数よりも20倍小さい押出物を製造するように構成されていること」との記載について

ア 請求項1の記載のうち「これにより、冷却後の前記押出し物微細構造の摩擦係数が、前記ダイの微細構造の摩擦係数よりも20倍小さい押出物を製造するように構成されていること」との記載は、平成30年3月16日提出の手続補正書での補正により、「冷却後の前記押出し物の摩擦特性が、冷却前の前記押出し物よりも20倍減少すること」との記載を削除し、追加されたものである。

イ 本願発明1の「摩擦係数」について

(ア)本願明細書には、「摩擦特性」と記載されているのに対し、請求項1には、「摩擦係数」と記載されている。
しかし、本願明細書には、「摩擦係数」との用語については記載されていない。
ここで、一般に、「摩擦係数」とは、「2つの物体の接触面にはたらく摩擦力の大きさFと2面を垂直に押しつけている力(垂直荷重)の大きさPとの比」(岩波 理化学辞典 第5版)を指すのが技術常識である。
一方、「特性」とは、「特有の性質」と解され、「摩擦特性」は、摩擦の特有の性質との意味であることから、多様な意味を持つものと認められ、必ずしも「摩擦係数」を示すものとはいえない。

また、「摩擦特性」と「摩擦係数」が同義であるとの技術常識も存在しない。

そうすると、「摩擦係数」と「摩擦特性」は、同一の技術的意味であるということはできず、本願明細書の記載によっても当業者が「摩擦係数」と「摩擦特性」の関係を理解できない。

(イ)意見書における請求人の主張

審判請求人は、平成30年3月16日提出の意見書で、次のとおり主張している。

「(5)摩擦特性について
・・・(略)・・・
(a)まず、明細書の段落[0044]に記載されているように、もとの冷却前後の押出物の摩擦特性の差ではなく、「ダイの微細構造」の摩擦係数と「得られる部品」である「冷却後の前記押出し物微細構造」の摩擦係数との差を表していることを明確にしました。
この内容は、上記出願当初の明細書の段落[0044]に記載されて適切にサポートされているため、新規事項を追加するものではありません(理由3.1について)。」

しかしながら、審判請求人が説示する本願明細書の段落【0044】を参照しても、「摩擦係数」との用語は記載されておらず、ましてや、審判請求人が意見書で主張する「「ダイの微細構造」の摩擦係数と「得られる部品」である「冷却後の前記押出し物微細構造」の摩擦係数との差」は、明示の記載はなく、本願明細書全体の記載を鑑みても、両者の「摩擦係数」の「差」は、読み取ることができない。

(ウ)そうすると、審判請求人の意見書での主張を参酌しても、請求項1に記載の「摩擦係数」と本願明細書に記載の「摩擦特性」は、同一の技術的意味を有するものとは認められず、当業者が「摩擦係数」と「摩擦特性」の関係を理解できない。

ウ 本願発明1の「これにより、冷却後の前記押出し物微細構造の摩擦係数が、前記ダイの微細構造の摩擦係数よりも20倍小さい押出物を製造するように構成されていること」について

(ア)本願明細書には、上記「冷却後の前記押出し物微細構造の摩擦係数が、前記ダイの微細構造の摩擦係数よりも20倍小さい押出物を製造する」に係る実施例は何ら記載されていない。

(イ)本願明細書の段落【0044】には、
「得られる部品の寸法が押出し材料から変わるとき、一実施形態は、100度?120度の範囲に含まれるダイの微細構造の得られる接触角度を有する一方、得られる部品の微細構造は101度?170度である。得られる部品変化の寸法が押出し材料に由来するとき、一実施形態は、ダイの微細構造の摩擦特性より20倍小さい得られる部品の得られる摩擦特性を有する。一実施形態は、ダイの微細構造の摩擦特性より100倍大きい得られる部品の得られる摩擦特性を有する。得られる部品の寸法が押出し材料から変わるとき、一実施形態は、mmまたはμmのスケールのダイの微細構造を有する一方で、得られる部品の微細構造は一般にμmまたはnmのスケールであろう。」と記載されている。
当該記載によれば、得られる部品の摩擦特性が、ダイの微細構造の摩擦特性より、20倍小さいものとなるか、又は、100倍大きくなるものと読み取ることができる。
しかしながら、同段落の記載及びそれ以外の記載を参照しても、如何なる材料を使用し、如何なる条件下で押出し物を製造する製造装置を使用すれば、ダイの微細構造の摩擦特性よりも冷却後の押出し物の摩擦特性が100倍大きくならず、逆に摩擦特性が20倍小さいものとなるのかは記載されておらず、技術常識を考慮しても、ダイの微細構造の摩擦特性よりも冷却後の押出し物の摩擦特性が20倍小さいものを製造するためには、当業者は、あらゆる材料を選択し、あらゆる押出し物の製造条件を検討しなければならないから、何らの手がかりのない本願明細書の記載に接した当業者は、期待し得る程度を超える過度の試行錯誤を強いられるというべきである。

(ウ)意見書における請求人の主張

審判請求人は平成30年3月16日提出の意見書で、次のとおり主張している。(下線は、当審が付したものである。)

「(b)冷却後の押出物微細構造の摩擦係数が、ダイ微細構造の摩擦係数よりも20倍減少することについては、明確性の拒絶理由(理由1(4))と、実施可能要件の拒絶理由(理由2)も指摘されております。
得られる冷却後の押出し物微細構造の摩擦係数は、(冷却後の)押出し物微細構造の各微細特徴部の頂面により決定されることになります。この押出し物微細構造の頂面の形状は、ダイ微細構造の微細特徴部の下側表面の円弧の形状により作成されることになります。ダイを通された供給材料は冷却後に収縮するため、上述のように、ダイ微細構造の微細特徴部よりも小さな寸法の押出し物微細構造の微細特徴部が製造されることになります。
したがって、押出し物微細構造の各微細特徴部の頂面の円弧の形状は、ダイ微細構造の微細特徴部の下側表面の円弧の形状と異なることになります。
冷却後の収縮により、押出し物微細構造の各微細特徴部の頂面が、ダイ微細構造の微細特徴部の下側表面と比べて、異なる円弧の形状と異なる傾斜を有することになり、「冷却後の前記押出し物微細構造の摩擦係数が、前記ダイの微細構造の摩擦係数よりも20倍小さい押出物」が製造されることになります。このように、押出物微細構造の微細特徴部が収縮してその頂面の形状と傾斜が変化することによって、ダイ微細構造よりも摩擦係数が減少することが、明細書の段落[0043][0044]等の記載から理解できるものと思料致します(理由2について)。」

確かに、本願明細書の段落【0043】には、「得られる部品に微細構造が付与されたあと、押出し材料の直径サイズが変えられるとき、部品の微細構造は変えられる。従って、ダイに含まれる微細構造は、得られる部品が押出し材料から収縮することを考慮して、得られる部品の得られる微細構造の微細構造より大きい。」と記載されており、得られる部品が押出し材料から「収縮する」ことは、読み取ることができる。

しかし、審判請求人が意見書で主張するとおり「押出物微細構造の微細特徴部が収縮してその頂面の形状と傾斜が変化する」としても、何故、「押出物微細構造の微細特徴部が収縮してその頂面の形状と傾斜が変化すること」で「ダイ微細構造よりも摩擦係数が減少する」ことになるのか、本願明細書の記載及び技術常識に基づいて理解できないし、このことは、審判請求人の主張を考慮しても、変わらない。

なお、審判請求人が意見書で主張する「冷却後の収縮により、押出し物微細構造の各微細特徴部の頂面が、ダイ微細構造の微細特徴部の下側表面と比べて、異なる円弧の形状と異なる傾斜を有すること」との事項は、本願明細書には記載も示唆もなく、そもそも、「頂面」との用語については本願明細書には記載されておらず、その用語の定義も不明であり、「頂面」は、「円弧の形状」であるのか「傾斜」であるのかも理解できないから、審判請求人が意見書で主張する上記事項は理解できない。

以上のとおりであるから、審判請求人の意見書での主張は、採用することができない。

(エ)仮に、「冷却後の収縮により、押出し物微細構造の各微細特徴部の頂面が、ダイ微細構造の微細特徴部の下側表面と比べて、異なる円弧の形状と異なる傾斜を有すること」との事項が理解できるとしても、どのようにすれば、ダイの微細構造の摩擦特性よりも冷却後の押出し物の摩擦特性が100倍大きくならず、逆に摩擦特性が20倍小さいものとなるのかは、本願明細書の記載及び技術常識に基づいて理解できないし、このことは、審判請求人の主張を考慮しても、変わらない。

このため、「これにより、冷却後の前記押出し物微細構造の摩擦係数が、前記ダイの微細構造の摩擦係数よりも20倍小さい押出物を製造するように構成されている」との事項を含む本願発明1が実施可能要件を充足するということはできない。

(オ)さらに、上記イの(ア)ないし(ウ)で検討したとおり、請求項1に記載の「摩擦係数」と本願明細書に記載の「摩擦特性」は、同一の技術的意味を有するとは認められず、当業者が「摩擦係数」と「摩擦特性」の関係を理解できないから、本願明細書の「ダイの微細構造の摩擦特性より20倍小さい得られる部品の得られる摩擦特性を有する」との記載によっては、「これにより、冷却後の前記押出し物微細構造の摩擦係数が、前記ダイの微細構造の摩擦係数よりも20倍小さい押出物を製造するように構成されている」との事項を含む本願発明1が実施可能要件を充足するということはできない。

(3)してみれば、当業者が本願発明1を実施するに際して、当業者に期待し得る程度を超える過度の試行錯誤を要求するものといわざるを得ず、当業者が本願明細書の記載に接しても、本願発明1をどのようにして実施することができるのか理解できないから、当業者が実施することができる程度に発明の詳細な説明が記載されているとはいえない。

(4)小括

したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願請求項1に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。
また、請求項1を直接的ないし間接的に引用する請求項2ないし20の記載も同様である。

4 当審にて通知した拒絶理由(特許法第17条の2第3項違反)について

(1)当審が、平成29年10月13日付け拒絶理由通知書で、請求項1の「冷却後の前記押出し物の摩擦特性が、冷却前の前記押出し物よりも20倍減少すること」との事項の追加は、新規事項の追加である旨を通知し、その後、平成30年3月16日提出の手続補正書での補正により、当該事項を削除し、それに代えて「これにより、冷却後の前記押出し物微細構造の摩擦係数が、前記ダイの微細構造の摩擦係数よりも20倍小さい押出物を製造するように構成されていること」との事項を請求項1に新たに追加したものである。

(2)請求項1に追加された「摩擦係数」との事項について

ア 願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には、「摩擦係数」との記載は存在しない。

イ また、上記第4の3(2)の検討のとおり、「摩擦特性」は、必ずしも「摩擦係数」を示すものとはいえない。
そうすると、当初明細書等の記載を総合的に考慮しても、当然に「摩擦特性」との記載から、「摩擦係数」なる事項を導き出すことはできないから、請求項1に追加された「摩擦係数」との事項は、当初明細書等の記載から自明な事項であるということはできない。

ウ したがって、請求項1に「摩擦係数」との事項の追加は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるといえ、新規事項の追加に該当する。

(3)意見書における請求人の主張

審判請求人は、平成30年3月16日提出の意見書で、次のとおり主張している。

「(5)摩擦特性について
・・・(略)・・・
(a)まず、明細書の段落[0044]に記載されているように、もとの冷却前後の押出物の摩擦特性の差ではなく、「ダイの微細構造」の摩擦係数と「得られる部品」である「冷却後の前記押出し物微細構造」の摩擦係数との差を表していることを明確にしました。
この内容は、上記出願当初の明細書の段落[0044]に記載されて適切にサポートされているため、新規事項を追加するものではありません(理由3.1について)。」

しかしながら、上記(2)で検討したように、当初明細書等には、「摩擦係数」との記載は存在せず、段落【0044】に記載の「摩擦特性」との記載から、当然に「摩擦係数」なる事項を導き出すことはできないから、請求項1に追加された「摩擦係数」との事項は、当初明細書等の記載から自明な事項であるということはできない。

(4)小括

したがって、平成30年3月16日提出の手続補正書での補正による「これにより、冷却後の前記押出し物微細構造の摩擦係数が、前記ダイの微細構造の摩擦係数よりも20倍小さい押出物を製造するように構成されていること」との事項の追加は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるから、新規事項の追加に該当するものといえる。

そうすると、平成30年3月16日提出の手続補正書での補正は、新規事項の追加である旨を指摘した箇所を削除し、新たに新規事項を追加した補正であるから、依然として、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
また、請求項1を直接的ないし間接的に引用する請求項2ないし20の記載も同様である。

なお、審判請求人は、平成30年3月16日提出の手続補正書での補正により、補正前の請求項21の「ポリイオン」との事項を削除し、補正後の請求項20に、「多角形」との事項を追加した。

審判請求人は同日提出の意見書で、
「(7)不明確であると指摘されていた「ポリイオン」について、補正後の請求項20において「多角形」と補正しました。これは、原文の「polyions」(原文の請求項22)が「polygons」のタイプミス・誤記であることに基づくものであります。
もとの「ポリイオン」の前後には「三角形、正方形、長方形」および「星形、六角形」と記載されていることから、「poly ions」は「polygons」の誤記であることが明らかであると思料致します(理由1.3について)。」と説示し、適法な補正である旨主張する。

しかしながら、原文明細書の「poly ions」の記載が「polygons」のタイプミス・誤記であるとの証拠はない。
また、「ポリイオン」の前後には「三角形、正方形、長方形」および「星形、六角形」と記載されているからといって、「poly ions」は「polygons」の誤記であることが明らかであるともいえない。
さらに、当初明細書等の記載には、「多角形」の記載はなく、当初明細書等の記載及び図面を総合的に考慮しても、「ポリイオン」が「多角形」であることが自明な事項であるということもできない。
そうすると、当該補正により、請求項20に「多角形」との事項を追加することは、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるから、新規事項の追加に該当するといえる。

第5 結語

以上のとおりであるから、本願は、特許法第36条第6項第2号及び同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
また、本願について平成30年3月16日にされた手続補正は、特許法第17の2第3項に規定される要件を満たしていない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-05-09 
結審通知日 2018-05-15 
審決日 2018-05-28 
出願番号 特願2013-555608(P2013-555608)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (B29C)
P 1 8・ 536- WZ (B29C)
P 1 8・ 561- WZ (B29C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鏡 宣宏  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 小柳 健悟
長谷部 智寿
発明の名称 微細構造を有する部品を押出し加工するシステムおよび方法  
代理人 特許業務法人北青山インターナショナル  

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