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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04N
管理番号 1345290
審判番号 不服2017-19140  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-25 
確定日 2018-10-15 
事件の表示 特願2013-207615「映像符号化装置及び映像符号化プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月16日出願公開、特開2015- 73192〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年10月2日の出願であって、その手続の経緯は、以下のとおりである。

平成29年 2月17日付け:拒絶理由通知書
同年 4月24日 :意見書、手続補正書の提出
同年 5月23日付け:拒絶理由通知書(最後)
同年 9月28日 :意見書、手続補正書の提出
同年10月10日付け:同年9月28日にされた手続補正についての
補正却下の決定、拒絶査定
同年12月25日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 本願発明
1 本件補正の内容
平成29年12月25日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成29年4月24日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲について補正しようとするものであり、本件補正前の請求項1?6を削除すると共に、本件補正前の請求項7を請求項1とし、本件補正前の請求項1?7を引用していた請求項8を本件補正後の請求項1を引用する請求項2にしたものである。
よって、本件補正は、請求項の削除を目的とする補正であり、適法になされたものである 。

2 本願発明
本件補正は、上記のとおり適法になされたものであるから、本願の請求項に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
なお、本願発明の各構成の符号(A)?(C)は、説明のために当審において付与したものであり、以下、構成A?構成Cと称する。

(本願発明)
【請求項1】
(A) 入力映像信号のピクチャの時間的相関を利用し、該ピクチャについて符号化ブロック単位に動き予測を行いその差分の符号化処理を行う映像符号化装置であって、
(B1) 前記入力映像信号のピクチャと動き予測先の復号映像信号の参照画像を所定の縮小比率を用いて縮小処理を行う縮小手段と、
(C) 前記縮小手段において縮小した入力映像信号のピクチャの符号化ブロックと復号映像信号の参照画像の探索領域とを用いて動き予測処理を行い、動きベクトルを決定するベクトル決定手段と、を備え、
(B2) 前記縮小手段は、前記入力映像信号のピクチャと前記復号映像信号の参照画像との時間的距離を算出し、前記時間的距離に複数の閾値を設定し、前記時間的距離と、前記閾値とに基づく縮小比率で前記入力映像信号のピクチャと前記復号映像信号の参照画像を縮小処理することを特徴とする
(A)映像符号化装置。

第3 原査定の拒絶の理由
本件補正前の請求項7に係る発明についての原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項7に係る発明は、本願の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2008-67353号公報(以下、「引用文献1」という。)に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載事項
引用文献1(特開2008-67353号公報)には、図面とともに、次の記載がある。下線は説明のために当審にて付したものである。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、動きベクトル検出装置及び動きベクトル検出方法に関し、特に、画面間の動きベクトルを検出するために用いて好適なものである。」

イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述したように、H.264では、動画像を撮影したカメラの動きが速い場合や、カットチェンジが発生した場合でも、入力された画像と、既に符号化された画像との誤差が最小となる画像を自由に参照画像として選択できる。これにより、動き補償予測の精度を高めることが可能である。
【0011】
しかしながら、既に符号化された画像の全てに対して、入力画像との誤差が最小となる画像を選択する演算を行うと、参照候補となる画像の数に比例して演算量が増大し、符号化に時間がかかるという問題がある。
【0012】
また、ビデオカメラ等のモバイル機器の場合には、演算負荷が増大すると、駆動するバッテリーの消費量が増大する。従って、撮影できる時間が短くなってしまうという問題がある。
【0013】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、動きベクトルの検出精度を向上させつつ、当該動きベクトルを検出する際の演算量の増大を抑制することを目的とする。」

ウ 「【0021】
(第1の実施形態)
以下に、図面を参照しながら、本発明の第1の実施形態について説明する。
【0022】
図1は、本実施形態におけるビデオカメラ装置10の構成の一例を示す図である。なお、本実施形態では、H.264で符号化を行うビデオカメラ装置10を例に挙げて説明を行う。」

エ 「【0029】
図2は、本実施形態に係る信号処理部12の構成を示すブロック図である。なお、以下の説明では符号化対象画像や、予測に用いられる参照画像(参照候補画像)を、それぞれフレーム画像(単にフレームと称す)を例にして説明する。そして、画面間、すなわちフレーム間の動きベクトルを検出する例について説明する。(略)
【0031】
減算器12cは、セレクタ12aより出力された撮像画像データから、動き補償器12lより出力された予測画像データを減算して、動き予測誤差データを算出する。変換器12dは、減算器12cやイントラ予測器12bから出力されたデータに対して直交変換を施し、この直交変換により得られる直交変換係数を量子化器12eへ出力する。量子化器12eは、直交変換係数を量子化し、量子化した全ての直交変換係数をスキャン処理器12fと逆量子化器12hとに出力する。
【0032】
スキャン処理器12fは、符号化モードに応じて、量子化された直交変換係数に対してジグザグスキャン等のスキャン処理を行う。エントロピー符号化器12gは、スキャン処理器12fからの出力をエントロピー符号化し、エントロピー符号化されたデータ(符号化データ)をバス・インタフェース(I/F)12nに出力する。バスI/F12nに出力された符号化データは、バス17を介して記録部13に供給され、記録部13によって記録される。なお、記録部13によって記録された符号化データを、更にハードディスクや光ディスク等の記録媒体に移動して記録する構成にしても良い。
【0033】
逆量子化器12hは、量子化された直交変換係数を量子化器12eから入力して、逆量子化する。逆変換器12iは、逆量子化器12hで逆量子化された直交変換係数を逆直交変換し、減算器12cで得られた動き予測誤差データを復号化する。加算器12jは、逆変換器12iから出力された予測誤差データと、動き補償器12lから出力された予測画像データとを加算して、復元画像(ローカルデコード画像)を生成する。生成された復元画像のデータはバスI/F12nに出力される。バスI/F12nに出力されたデータは、参照画像データとして、記録部13に設けられたフレームメモリに、フレーム単位で記録される。なお、以下の説明では、記録部13に設けられたフレームメモリに記録された参照画像データを、必要に応じて参照候補フレームと称する。
【0034】
動きベクトル検出器12kは、符号化対象フレームと、複数の参照候補フレームとに基づいて、最適な動きベクトルを演算する。本実施形態の動きベクトル検出器12kは、システム制御部14からバスI/F12nを介して、符号化対象となる符号化対象フレームの番号と、参照候補フレームの番号とを入力し、入力した番号を用いて探索精度を決定する。なお、動きベクトル検出器12kの詳細については、図3等を用いて後述する。
【0035】
動き補償器12lは、動きベクトル検出器12kで演算された動きベクトルと、予測誤差の最も小さい参照候補フレームとを用いて、予測画像データを生成する。動き符号化器12mは、動きベクトル検出器12kで演算された動きベクトルを符号化してバスI/F12nに出力する。バスI/F12nに出力された符号化された動きベクトルは、前記符号化データと関連付けて記録部13に記録される。」

オ 「【0061】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。前述した第1の実施形態では、符号化対象フレーム300と、参照候補フレーム301a?301cとの時間的な距離に応じて、動きベクトルの探索精度を変化させるようにした。これに対して、本実施形態では、符号化対象フレーム300と、参照候補フレーム301a?301cとの時間的な距離に応じて、符号化対象フレーム300と、参照候補フレーム301a?301cの縮小率を変化させるようにした。このように、本実施形態と第1の実施形態とは、符号化対象フレーム300と、参照候補フレーム301a?301cとを用いた処理の方法が主として異なる。従って、以下の説明において第1の実施形態と同一の部分については、図1?図5に付した符号と同一の符号を付す等して詳細な説明を省略する。
【0062】
図6は、本実施形態に係る動きベクトル検出器12kの構成の一例を示すブロック図である。図7は、本実施形態に係る動きベクトル検出器12kの動作の一例について説明するフローチャートである。図4及び図7を参照しながら、図6に示す動きベクトル検出器12kの動作について説明する。
【0063】
縮小率決定部402は、システム制御部14から、バスI/F12nを介して、符号化対象フレーム番号302と、参照候補フレーム番号303とが指定されるまで待機する(ステップS401)。ステップS401において、符号化対象フレーム番号302と、参照候補フレーム番号303とが指定されると、縮小率決定部402は、符号化対象フレーム300と、参照候補フレーム301a?301cとの間の時間的な距離を演算する(ステップS402)。
【0064】
そして、縮小率決定部402は、符号化対象フレーム300と参照候補フレーム301a?301cとの間の時間的な距離に応じて、符号化対象フレーム300の画像と、参照候補フレーム301a?301cの画像の縮小率を決定する(ステップS403)。
【0065】
縮小率決定部402は、符号化対象フレーム300と参照候補フレーム301a?301cとの間の時間的な距離が短いほど縮小率を小さくし、符号化対象フレーム300と参照候補フレーム301a?301cとの間の時間的な距離が長いほど縮小率を大きくする。(略)
【0071】
以上のようにして、符号化対象フレーム300の画像と、参照候補フレーム301a?301cの画像の縮小率が決定されると、ステップS404に進む。そして、縮小フレーム作成部404は、縮小率決定部402によって決定された縮小率に従い、符号化対象フレーム300の画像と、参照候補フレーム301a?301cの各画像を縮小処理して、複数の縮小画像を生成する(ステップS404)。

図6



カ 「【0076】
次に、動きベクトル演算部407は、動きベクトル408を決定する(ステップS405)。ここで、動きベクトル演算部407は、画像の縮小を行わないことが縮小率決定部402から指示された場合には、縮小画像を用いずに、第1の実施形態の動きベクトル演算部103と同じ動作を行う。
【0077】
一方、画像の縮小を行うことが縮小率決定部402から指示された場合、動きベクトル演算部407は、まず、縮小符号化対象フレーム保存部405から、符号化対象フレーム300の縮小画像のマクロブロックを読み出す。次に、動きベクトル演算部407は、読み出したマクロブロックに対し、縮小参照候補フレーム保存部406から読み出した参照候補フレーム301a?301cの縮小画像の範囲内で動きベクトルの探索を行い、その結果に基づいて動きベクトルを推定する。なお、最大相関度を有する動きベクトルを推定する方法は第1の実施形態で説明した方法と同じである。」

キ 「【0081】
なお、本実施形態では、時間的な距離に応じて、符号化対象フレーム300の画像と、参照候補フレーム301a?301cの画像とを、縦横共に1/2倍に縮小する場合と、縦を縮小せずに横方向のみを1/2倍に縮小する場合を例に挙げて示した。しかしながら、符号化対象フレーム300の画像の縮小率と、参照候補フレーム301a?301cの画像の縮小率とは、これに限定されない。例えば、符号化対象フレーム300の画像と、参照候補フレーム301a?301cの画像とを、縦横共に1/3倍或いは1/4倍に縮小する等してもよい。また、本実施形態でも、参照候補フレームの数が3枚の場合を例に挙げて説明したが、参照候補フレームの数はこれに限定されない。例えば、参照候補フレームの数を増やしてもよい。参照候補フレームの数を増やした場合には、縮小率を更に段階的に変化させることも可能である。」

ク 上記ア、イ及びウによれば、引用文献1には、画面間の動きベクトルを検出する際の演算量の増大を抑制することを目的とする「符号化を行うビデオカメラ装置」が記載されている。

ケ 上記エによれば、引用文献1に記載のビデオカメラ装置は信号処理部12を備え、前記信号処理部12は、減算器12c、変換器12d、量子化器12e、スキャン処理器12f、エントロピー符号化器12g、加算器12j、動きベクトル検出器12k及び動き補償器12lを備えている。
前記減算器12cは、撮像画像データから、予測画像データを減算して、動き予測誤差データを算出する(【0031】)。
前記変換器12dは、前記動き予測誤差データに対して直交変換を施し、この直交変換により得られる直交変換係数を出力する(【0031】)。
前記量子化器12eは、前記直交変換係数を量子化し、量子化した直交変換係数を出力する(【0031】)。
前記スキャン処理器12fは、符号化モードに応じて、量子化された直交変換係数に対してジグザグスキャン等のスキャン処理を行う(【0032】)。
前記エントロピー符号化器12gは前記スキャン処理器12fからの出力をエントロピー符号化し、符号化データを出力する(【0032】)。
前記加算器12jは、前記予測誤差データと前記予測画像データとを加算して、復元画像(参照候補フレーム)を生成する(【0033】)。
前記動きベクトル検出器12kは、符号化対象フレームと、複数の参照候補フレームとに基づいて、最適な動きベクトルを演算し(【0034】)、前記動き補償器12lは、前記動きベクトルと予測誤差の最も小さい参照候補フレームとを用いて、前記予測画像データを生成する(【0035】)。
よって、引用文献1には、ビデオカメラ装置が「信号処理部」を備え、当該「信号処理部」は、「符号化対象フレームと複数の参照候補フレームとに基づいて最適な動きベクトルを演算し、前記動きベクトルと予測誤差の最も小さい参照候補フレームとを用いて、前記予測画像データを生成し、撮像画像データから予測画像データを減算して動き予測誤差データを算出し、前記動き予測誤差データに対して直交変換、量子化、スキャン処理、エントロピー符号化を行う」ことが記載されている。

コ 上記オによれば、第2の実施形態として、動きベクトル検出器12kの構成が記載されており、前記動きベクトル検出器12kの縮小フレーム作成部404は、縮小率決定部402によって決定された縮小率に従い、符号化対象フレーム300の画像と、参照候補フレーム301a?301cの各画像を縮小処理する(【0071】)。また、前記動きベクトル検出器12kの縮小率決定部402は、符号化対象フレーム300と、参照候補フレーム301a?301cとの間の時間的な距離を演算し(【0063】)、時間的な距離に応じて、符号化対象フレーム300の画像と、参照候補フレーム301a?301cの画像の縮小率を決定する(【0064】)。
加えて、上記カによれば、前記動きベクトル検出器12kの動きベクトル演算部407は、符号化対象フレーム300の縮小画像のマクロブロックを読み出し、読み出したマクロブロックに対し、参照候補フレーム301a?301cの縮小画像の範囲内で動きベクトルの探索を行い、その結果に基づいて動きベクトルを推定する(【0077】)。

2 引用発明
上記1ク?コによれば、引用文献1には、以下の発明が記載されているといえる。(以下、「引用発明」という。)
なお、引用発明の各構成の符号(a)?(c)は、説明のために当審において付与したものであり、以下、構成a?構成cと称する。


(引用発明)
(a)符号化対象フレームの縮小画像のマクロブロックに対し、複数の参照候補フレームの縮小画像の範囲内で動きベクトルの探索を行い、最適な動きベクトルを演算し、前記動きベクトルと予測誤差の最も小さい参照候補フレームとを用いて、前記予測画像データを生成し、撮像画像データから予測画像データを減算して動き予測誤差データを算出し、前記動き予測誤差データに対して直交変換、量子化、スキャン処理、エントロピー符号化を行うビデオカメラ装置の信号処理部であって、
(b1)縮小率決定部によって決定された縮小率に従い、符号化対象フレームの画像と、参照候補フレームの各画像を縮小処理する縮小フレーム作成部と、
(c) 前記符号化対象フレームの縮小画像のマクロブロックに対し、前記参照候補フレームの縮小画像の範囲内で動きベクトルの探索を行い、動きベクトルを推定する動きベクトル演算部と、を備え、
(b2)前記縮小率決定部は、前記符号化対象フレームと、前記参照候補フレームとの間の時間的な距離を演算し、前記時間的な距離に応じて、前記符号化対象フレームの画像と前記参照候補フレームの画像の縮小率を決定する
(a)ビデオカメラ装置の信号処理部。


第5 対比
本願発明と引用発明を対比する。

(1)構成Aについて
構成aの「符号化対象フレーム」及び「マクロブロック」は、構成Aの「入力映像信号のピクチャ」及び「符号化ブロック」に相当する。
構成aの「動き予測誤差データ」及び「動きベクトルの探索を行い、最適な動きベクトルを演算」することは、構成Aの「差分」及び「動き予測を行」うことに相当する。
よって、構成aの「符号化対象フレームの縮小画像のマクロブロックに対し、複数の参照候補フレームの縮小画像の範囲内で動きベクトルの探索を行い、最適な動きベクトルを演算し、前記動きベクトルと予測誤差の最も小さい参照候補フレームとを用いて、前記予測画像データを生成し、撮像画像データから予測画像データを減算して動き予測誤差データを算出」することは、構成Aの「入力映像信号のピクチャの時間的相関を利用し、該ピクチャについて符号化ブロック単位に動き予測を行いその差分」を算出することに相当する。
また、構成aの「動き予測誤差データに対して直交変換、量子化、スキャン処理、エントロピー符号化を行うことにより符号化を行う」ことは、構成Aの「その差分の符号化処理を行う」ことに相当する。
したがって、引用発明の構成aの「ビデオカメラ装置の信号処理部」は、本願発明の構成Aの「映像符号化装置」に相当する。

(2)構成B1について
構成b1の「縮小率決定部によって決定された縮小率」は、構成B1の「所定の縮小比率」に相当する。
構成b1の「符号化対象フレームの画像」及び「参照候補フレームの各画像」は、構成B1の「入力映像信号のピクチャ」及び「動き予測先の復号映像信号の参照画像」に相当する。
そして、構成b1の「符号化対象フレームの画像と、参照候補フレームの各画像を縮小処理する」ことは、構成B1の「前記入力映像信号のピクチャと動き予測先の復号映像信号の参照画像」を「縮小処理を行う」ことに相当する。
よって、引用発明の構成b1の「縮小フレーム作成部」は、本願発明の構成B1の「縮小手段」に相当する。

(3)構成Cについて
上記(1)のとおり、構成cの「符号化対象フレームの縮小画像のマクロブロック」は、構成Cの「縮小した入力映像信号のピクチャの符号化ブロック」に相当する。
そして、構成cの「参照候補フレームの縮小画像の範囲」は、構成Cの「復号映像信号の参照画像の探索領域」に相当し、構成cの「動きベクトルの探索を行い、動きベクトルを推定する」ことは、構成Cの「動き予測処理を行い、動きベクトルを決定する」ことに相当する。
よって、引用発明の構成cの「動きベクトル演算部」は、本願発明の構成Cの「ベクトル決定手段」に相当する。

(4)構成B2について
構成b2の「前記符号化対象フレームと、前記参照候補フレームとの間の時間的な距離を演算」することは、構成B2の「前記入力映像信号のピクチャと前記復号映像信号の参照画像との時間的距離を算出」することに相当する。
また、上記(2)のとおり、構成b1の「縮小フレーム作成部」が「縮小率に従い、符号化対象フレームの画像と、参照候補フレームの各画像を縮小処理する」ことは、構成B2の「縮小手段」が「縮小比率で前記入力映像信号のピクチャと前記復号映像信号の参照画像を縮小処理する」ことに相当する。

そして、構成b2の「縮小率決定部」が「前記時間的な距離に応じて、前記符号化対象フレームの画像と前記参照候補フレームの画像の縮小率を決定する」ことと、構成B2の「縮小手段」が「前記時間的距離に複数の閾値を設定し、前記時間的距離と、前記閾値とに基づく縮小比率で前記入力映像信号のピクチャと前記復号映像信号の参照画像を縮小処理する」ことは、「時間的距離に応じて、入力映像信号のピクチャと復号映像信号の参照画像との縮小率を決定する」点で共通する。
しかしながら、本願発明の構成B2の「縮小手段」は、「前記時間的距離に複数の閾値を設定し、前記時間的距離と、前記閾値とに基づく縮小比率」を用いるのに対して、引用発明の構成b2の「縮小率決定部」は、そのような構成を有していない点で相違する。

(5)一致点、相違点
したがって、本願発明と引用発明とは、以下のとおりの一致点、相違点を有する。

(一致点)
入力映像信号のピクチャの時間的相関を利用し、該ピクチャについて符号化ブロック単位に動き予測を行いその差分の符号化処理を行う映像符号化装置であって、
前記入力映像信号のピクチャと動き予測先の復号映像信号の参照画像を所定の縮小比率を用いて縮小処理を行う縮小手段と、
前記縮小手段において縮小した入力映像信号のピクチャの符号化ブロックと復号映像信号の参照画像の探索領域とを用いて動き予測処理を行い、動きベクトルを決定するベクトル決定手段と、
を備え、
前記縮小手段は、前記入力映像信号のピクチャと前記復号映像信号の参照画像との時間的距離を算出し、前記時間的距離に基づく縮小比率で前記入力映像信号のピクチャと前記復号映像信号の参照画像を縮小処理することを特徴とする
映像符号化装置。

(相違点)
本願発明の「縮小手段」は、「前記時間的距離に複数の閾値を設定し、前記時間的距離と、前記閾値とに基づく縮小比率」を用いるのに対して、引用発明は、そのような構成を有していない点。

第6 判断

(1)相違点についての判断
一般に、ある範囲の値をとる変数に対して所定の処理を実行する場合に、変数に応じて連続的に処理の内容を異ならせる他に、変数のとり得る範囲を複数の区分に分けて、区分に応じて段階的に異なる処理を行うことは、普通に行われることである。
そして、上記「第4 1キ」で摘記したとおり、引用文献1には、「参照候補フレームの数が3枚の場合を例に挙げて説明したが、参照候補フレームの数はこれに限定されない。例えば、参照候補フレームの数を増やしてもよい。参照候補フレームの数を増やした場合には、縮小率を更に段階的に変化させることも可能である。」とあり、引用発明の「縮小率決定部」が時間的な距離を演算する「参照候補フレームの数」を増やすこと、「縮小率決定部」が決定する「縮小率」を更に段階的に変化させることが示されているから、引用発明において、参照候補フレームの数を増やして参照候補フレームの範囲を複数の区分に分けて演算を行い、当該複数の区分に応じて縮小率を段階的に変化させるようにすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
よって、当該複数の区分を設定することは「複数の閾値」を設定することであるから、引用発明において、「時間的な距離に応じて画像の縮小率を決定する」構成を、「時間的な距離に複数の閾値を設定し、時間的な距離と複数の閾値に基づく縮小率とする」構成とすることは、当業者が容易になし得ることである。

(2)効果等について
本願発明の構成は、上記(1)のように当業者が容易に想到できたものであるところ、本願発明が奏する効果は、その容易想到である構成から当業者が容易に予測しうる範囲内のものであり、同範囲を超える格別顕著なものがあるとは認められない。

(3)請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、「引用文献1は演算量の抑制を目的とするので、引用文献1を単純に拡張するのであれば、時間的距離が短いほど縮小率を小さくし、時間的距離が長いほど縮小率を大きくするように、つまり、想定される全ての各時間的距離に対して個別、固定の縮小比率を適用することになります。引用文献1には閾値を用いる構成についての記載も示唆もなく、本願補正後の請求項に記載の発明のように閾値を設けて、閾値を越えるまでは縮小率を同一に保つと、閾値を設けず時間的距離が増加するたびに縮小率を増加させる場合よりも演算量が増えてしまうため、演算量の抑制を必要とし、均一化を目的としない引用文献1には閾値を設ける動機付けはないものと思料します。」と主張している。
しかしながら、上記(1)で検討したとおり、ある値がとり得る範囲に閾値を設定して、複数の区分に分けて、区分に応じて段階的に異なる処理を行うことは、当業者が普通に行うことであり、「時間的距離」に複数の閾値を設定することは容易になし得ることであるので、請求人の主張を採用することはできない。

(4)まとめ
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-08-20 
結審通知日 2018-08-21 
審決日 2018-09-04 
出願番号 特願2013-207615(P2013-207615)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H04N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 坂東 大五郎  
特許庁審判長 清水 正一
特許庁審判官 鳥居 稔
渡辺 努
発明の名称 映像符号化装置及び映像符号化プログラム  
代理人 永田 健悟  
代理人 豊田 義元  

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