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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C22C
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C22C
管理番号 1345307
審判番号 不服2017-2317  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-02-17 
確定日 2018-10-17 
事件の表示 特願2015- 18608「高性能部品、特に航空産業用の高性能部品を製造するためのチタン合金組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 8月27日出願公開、特開2015-155574〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 理 由
第1 手続の経緯
本願は、2010年(平成22年) 6月 8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年 6月 8日、フランス(FR))を国際出願日とする特願2012-514455号の一部を平成27年 2月 2日に新たな特許出願としたものあって、同年 3月 4日に補正書が提出され、平成28年 2月25日付けで拒絶理由が通知され、それに対して、平成28年 5月31日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年10月14日付けで拒絶査定がなされた。
そして、平成29年 2月17日に拒絶査定不服審判が請求され、当審において、同年10月16日付けで拒絶理由が通知され、それに対して、平成30年 4月17日に意見書及び手続補正書が提出された。

第2 本願発明
本願請求項1?3に係る発明(以下、それぞれ、「本願発明1」?「本願発明3」という。)は、平成30年 4月17日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
β域、α+β域、β域、及びα+β域の順の連続的な熱間鍛造及びβ→α+βへの多形転移温度より30℃?70℃低い温度範囲に加熱する熱処理に施されるチタン合金であって、前記合金が、質量比で特定される以下の元素:
アルミニウム 4.0%?7.5%
バナジウム 3.5%?5.5%
モリブデン 4.5%?7.5%
クロム 1.8%?3.6%
鉄 0.2%?0.5%
ハフニウム 0.1%?0.7%
酸素 0.1%?0.3%
炭素 0.01%?0.2%
ジルコニウム 0.1%?0.7%
チタン 残り
からなり、
ハフニウムとジルコニウムとの合計質量が1%を超えない、チタン合金。
【請求項2】
0.05%?0.25%の質量比の範囲にあるシリコンをさらに含む、請求項1に記載の合金。
【請求項3】
請求項1または2に記載のチタン合金に前記熱間鍛造を施して作られる半製品を熱処理する方法であって、
前記合金のβ→α+βへの多形転移温度より30℃?70℃低い温度範囲に加熱する工程;
前記温度にて2時間?5時間、保持する工程;
冷却工程;
540℃?600℃の範囲の温度にて、8時間?16時間の間、保持する工程;及び
冷却工程、
を含む方法。」

第3 当審による平成29年10月16日付けの拒絶理由の概要
当審による平成29年10月16日付けの拒絶理由の概要は、以下のとおりである。
1(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
2(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が、当業者が、発明の実施をすることができる程度に明確かつ分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
3(明確性)この出願は、特許請求の範囲の記載が明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第4 当審の判断
1 明細書のサポート要件適合性について
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以下、上記の観点に立って、本願発明1について検討することとする。

(1)本願発明1が解決しようとする課題
ア 発明の詳細な説明には、以下の記載がある。なお、下線は当審が付与した。以下同様。
(ア)「【背景技術】
【0002】
高品位の機械特性を有する様々な種類のチタン合金が知られており、例えばTi6-4(6%のアルミニウム及び4%のバナジウム)、Ti8-1-1(8%のアルミニウム、1%のモリブデン、及び1%のバナジウム)、及びまたTi10-2-3(10%のバナジウム、2%の鉄、及び3%のアルミニウム)等の有意な比率のアルミニウムを含むチタン合金が知られている。上記パーセントは全質量に対する質量比を表す。チタン合金はまた、大きな割合のアルミニウム及びまた酸素を有する準β型からなるものが知られている。そのような合金の一例として、文書EP1302555に記載されるチタン合金が挙げられ、全質量の割合として表される次の組成を有するチタン合金が記載されている:
【表1】


【0003】
このような合金は、β相をα相と共存させるために、β→α+βへの多形転移温度に近い温度にて熱間鍛造が行われ、次いでβ→α+βへの多形転移温度に近い温度に試料片が加熱される際に熱処理に付され、その後、試料片の段階的な冷却及びエージングが行われる。このような処理の目的は、完成部品が優れた機械的強度を得るように、完成部品に大きな割合のβ相を得ることである。この点において、バナジウム、モリブデン、クロム、または鉄等の元素が、試料片が冷却される間、β相を安定化させるのに寄与し、このようにして、合金の大部分をこの相に「固定する」ことが可能となる。
【0004】
それでも、β相を促進することは概して、試料片の靱性を向上するα層(通常この合金中で作られる部分の質量の60%?70%を示す)を犠牲にして起こる。この欠点を軽減するために、有意な割合のジルコニウムが組成物に加えられ、ジルコニウムと密度及び融点が比較的近いαチタンを有する固溶体を形成することによって、冷却の際のα層の安定化を向上する。
【0005】
このような組成物の使用並びに適切な鍛造及び熱処理方法の実施(特に上述の固溶体を促進する冷却)は、靱性及び機械的強度の間の有利な妥協を示す頑丈なチタン試料片を形成することを可能にする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、より良好な機械特性を有することができる新規なチタン合金組成物を提供することを目的とする。」

イ 前記(ア)によれば(【0006】)、本願発明1は、「より良好な機械特性を有することができる新規なチタン合金組成物を提供すること」を発明が解決しようとする課題(以下、単に「課題」という。)としていると認められる。

(2)本願発明1の課題を解決できると認識できる範囲
ア 発明の詳細な説明には、以下の記載もある。
(イ)「【0008】
本発明者は、従来の組成物に対して、アルミニウム及び/または酸素の比率を増加することが、β→α+βへの多形転移温度の上昇につながり、これによって、より高い温度で鍛造を行うことを可能とし、最終部品の機械的強度特性を向上することに寄与するという知見を得た。それでも、本発明者は、上述の合金中のアルミニウム及び酸素の比率の増加が、冷却の際に合金の成分材料が分離し、材料がより脆くなり得るという現象が起こるというリスクをもたらすと考えた。特に、アルミニウム及び酸素は、部品の最終機械特性に悪影響を有する酸化相の析出の原因になると考えられる。
【0009】
これらの欠点を緩和し、アルミニウム及び酸素の比率を増加することに伴う悪影響が、排除されないにしても、少なくとも大幅に軽減されるように、本発明者は、この増加に、ハフニウムの有意な寄与を付随させることを提案する。ハフニウムは、酸素に対する特に強い親和性を有し、酸素と結合することによって合金相の析出を促進すると考えられ、それによってアルミニウム及びチタンの酸化相の形成が避けられる。
【0010】
ハフニウムの使用はいくつかの利点を示す。上述したハフニウムの酸素との親和性に加えて、ハフニウムは、ジルコニウムの電子構造に類似する電子構造を有する。それゆえ、本発明者は、ジルコニウムのように、それとともに固溶体を形成することによってチタンのα相の安定化を促進することができる、という知見を得た。さらに、ハフニウムは、β相中での連続的溶解性及びチタンのα相中での完全な混和性を示す。
【0011】
最後に、ハフニウムは、所定のチタン鉱物中に微量状態で存在する。様々な鉱物に行われる測定によって、鉱物中のハフニウムの比率は0.05%を超えないことが示される。それゆえ、鉱物からこの成分を排除しようとすることを避けることに利点がみられ、一方で、本発明によって推奨される比率を得るために鉱物にハフニウムを混入することに利点がみられる。
【0012】
有利には、このような合金は、鍛造後に次の熱処理に送られる:
合金のβ→α+βへの多形転移温度未満の30?70セルシウス度(℃)の範囲の温度に加熱する工程;
2時間?5時間、前記温度にて保持する工程;
好ましくは空気中で、冷却する工程;
8時間?16時間の間、540℃?600℃の範囲の温度に保持する工程;及び
好ましくは空気中で、冷却する工程。」

(ウ)「【0016】
次の合金番号2もまた、組成番号2にしたがって選択される。
【表4】

【0017】
これは、チタンのα相を安定化するためのジルコニウムの傾向に加えて、酸素との親和性も示すと考えられるジルコニウムの効果を加えるものであり、ジルコニウムがハフニウムとあわせて機能し酸素を捕獲することによって、アルミニウム及びチタンの酸化相の析出が防止される。これらの2つの元素を組み合わせた存在はまた、シナジー効果を示すように考えられ、合金の冷却の際の合金を構成する材料の分離をさらに軽減する。
【0018】
最後に、合金番号3は、組成番号3にしたがって選択される。
【表5】

【0019】
シリコンは、ジルコニウムまたはハフニウムのようにメンデレーエフの周期表の同じ列にはないが、アルミニウム及びチタンの酸化相の析出を防止する有利な効果を有するように考えられる。
【0020】
組成例として示される合金において、比率は、相対値で±10%以内で与えられる。例えば、合金番号1においては、アルミニウムの比率は6.3%?7.7%の範囲にあり、ハフニウムの比率は0.81%?0.99%の範囲にある。
【0021】
これらの合金を用いて、α+β領域の最終変形を有するβ、α+β、β、α+β領域の連続的鍛造操作によって半完成品を製造することが提案される。このようにして鍛造された製品は次いで、次の熱処理に送られる:
790℃に昇温;
前記温度にて3時間保持;
空気中で冷却;
560℃にて8時間保持;及び
空気中で冷却。」

イ 前記ア(イ)?ア(ウ)によれば、表4や表5の成分組成の「チタン合金」を用いて、【0021】に記載される「連続的鍛造操作」を行い、次いで、【0012】に記載される「熱処理」、具体的には、【0021】に記載される「790℃に昇温;前記温度にて3時間保持;空気中で冷却;560℃にて8時間保持;及び空気中で冷却」との「熱処理」を施した後の「チタン合金」が、前記(1)イの課題を解決し得ると理解することができる。

(3)本願発明1が前記(1)イの課題を解決しているといえるかについて
ア 前記第2のとおり、本願発明1は、「チタン合金」について、「β域、α+β域、β域、及びα+β域の順の連続的な熱間鍛造及びβ→α+βへの多形転移温度より30℃?70℃低い温度範囲に加熱する熱処理に施されるチタン合金であって、」と特定している。
ここで、特定の「熱間鍛造」及び特定の「熱処理」に「施される」「チタン合金」との特定は、「施される」との文言から、特定の「熱間鍛造」と特定の「熱処理」を施す前の「チタン合金」との意味であると解される。
本願発明1が、特定の「熱間鍛造」と特定の「熱処理」を施す前の「チタン合金」との意味であることは、本願発明1を引用する本願発明3の「請求項1または2に記載のチタン合金に前記熱間鍛造を施して作られる半製品を熱処理する方法であって、」との文言からも明らかである。
一方、前記(2)イによれば、課題を解決し得ると認識することができる範囲は、特定の「熱間鍛造」と「熱処理」を施した後の「チタン合金」であって、特定の「熱間鍛造」と「熱処理」を施す前の「チタン合金」ではない。

イ また、本願発明1は、「チタン合金」の成分組成を特定するにとどまり、その「金属組織」について何ら特定していない。
ここで、チタン合金に限らず、合金の機械的性質は、合金の成分組成のみならず、金属組織によっても変動するものであることが技術常識である。
一方、前記(1)ア(ア)?(2)ア(ウ)によれば、前記(1)イの課題を解決し得る発明は、特定の成分組成を有するチタン合金であって、β相をα相と共存させるために、β域、α+β域、β域、及びα+β域の順の連続的な熱間鍛造が行われ、次いでβ→α+βへの多形転移温度より30℃?70℃低い温度範囲に加熱する熱処理に付され、その後試料片の段階的な冷却及びエージングが行われるものであり、このような処理の目的は、完成部品が優れた機械的強度を得るように、完成部品に大きな割合のβ相を得ることであるが、β相を促進することは概して、試料片の靱性を向上するα相を犠牲にして起こることから、この欠点を軽減するために、有意な割合のジルコニウム及びハフニウムが組成物に加えられ、チタン合金のα相の安定化を向上するものである。
そうすると、本願発明1は、大きな割合のβ相を得ることの欠点を軽減するために、α相の安定化を向上することによって、「より良好な機械特性を有することができる新規なチタン合金組成物を提供する」という課題を解決するものというべきである。
ところが、上記のとおり、本願発明1は、α相、β相の割合等の「金属組織」については何ら特定していない。

ウ また、金属組織は、同じ成分組成であっても、その製造条件、例えば鍛造温度や、熱処理温度及び時間によって変化するものであることも技術常識であるところ、本願発明1は、金属組織に代わる要素としての鍛造温度、熱処理時間についても、何ら特定されていない。
具体的には、本願発明1の「β域、α+β域、β域、及びα+β域の順の連続的な熱間鍛造」について、「β域」、「α+β域」との特定は温度範囲に幅がある上、それぞれの温度域での鍛造条件、例えば加える圧力や回数等が不明である。
さらに、本願発明1は、「熱処理」について「β→α+βへの多形転移温度より30℃?70℃低い温度範囲に加熱する熱処理」とのみ特定するにとどまり、「β→α+βへの多形転移温度より30℃?70℃低い温度範囲に加熱する」加熱時間やその後の冷却や、再度の加熱、冷却について何ら特定しておらず、前記(2)イで示した【0012】及び【0021】に記載される「熱処理」の工程を適切に特定していない。

エ 前記イ、ウのとおりであるから、請求項1の発明特定事項のみによっては、本願発明1の「チタン合金」の「金属組織」は何ら特定されていないので、本願発明1の「チタン合金」が、請求項1で特定される「熱間鍛造」及び「熱処理」を施されても、前記(1)イの課題を解決できるとはいえない。

オ したがって、本願発明1は、当業者が、課題を解決し得ると認識できる範囲を超えるものであり、発明の詳細な説明に記載した発明でない。

2 実施可能要件について
本願発明1は、チタン合金という物の発明であるところ、物の発明における発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について上記の実施可能要件を充足するためには、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識とに基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があることを要する。
そして、ここにいう「使用することができる」といえるためには、特許発明に係る物について、例えば発明が目的とする作用効果等を奏する態様で用いることができるなど、少なくとも何らかの技術上の意義のある態様で使用することができることを要するというべきである。
以下、上記の観点に立って、本願発明1及び発明の詳細な説明の記載について検討する。

ア 本願発明1は、大きな割合のβ相を得ることの欠点を軽減するために、α相の安定化を向上することによって、「より良好な機械特性を有することができる新規なチタン合金組成物を提供する」という課題を解決するべきものであることは、前記1(1)イ及び(3)イに記載のとおりであるが、そのような課題を解決すべき本願発明1を実施するためには、α相、β相の割合等の「金属組織」や、当該金属組織の形成に影響を与える製造条件、すなわち、熱間鍛造の具体的温度、その後の熱処理の温度及び時間といった具体的な製造条件が特定され、かつ、得られる具体的な「機械特性」が明らかにされる必要があるということができる。

イ しかしながら、発明の詳細な説明には、本願発明1の「チタン合金」の「機械特性」について具体的な記載はない。

ウ さらに、発明の詳細な説明には、チタン合金への、アルミニウム、酸素、ジルコニウム、ハフニウムを添加することの効果について一応の記載はあるものの、チタン合金の成分組成についての記載があるに過ぎず、発明の詳細な説明全体を参酌しても、チタン合金のα相、β相の割合等の「金属組織」について、直接的には、何ら記載も示唆もない。
また、金属組織の形成に影響する製造条件、例えば熱処理条件については、【0012】、【0021】に一見記載があるようにも見えるが、発明の詳細な説明の記載からは、本願発明1の「チタン合金」の「金属組織」がどのようなものであるのかを把握することができない。

エ すなわち、前記1(2)ア(ウ)の【0021】には、「これらの合金を用いて、α+β領域の最終変形を有するβ、α+β、β、α+β領域の連続的鍛造操作によって半完成品を製造する」と記載されているが、例えば、「β域」、「α+β域」には温度範囲に幅がある上、それぞれの温度域での鍛造条件、例えば加える圧力や回数等が不明なのであって、発明の詳細な説明全体を参酌しても、具体的な鍛造条件は不明である。
そして、これら鍛造条件が、金属組織の形成に影響を与えることは技術常識であるから、鍛造条件が明らかでない発明の詳細な説明の記載からは、本願発明1の「チタン合金」の「金属組織」を把握することができない。

オ そうすると、発明の詳細な説明には、「チタン合金」について、本願発明1を実施して課題を解決するために明らかにされるべきである「金属組織」及び「機械特性」について何ら記載されていない。
また、金属組織の形成に影響する製造条件、例えば、具体的な鍛造条件について何ら記載されていないから、製造条件に基づいて、金属組織を把握することもできない。

カ したがって、発明の詳細な説明は、「良好な機械特性を有することができる新規なチタン合金組成物」であるべき本願発明1を、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず、本願は、特許法第36条第4項第1号に適合しない。

第5 請求人の意見について
ア 請求人は、平成30年 4月17日提出の意見書において、以下のように主張している。 なお、「・・・」は省略を表す。
「理由1(特許法第36条第6項第1号)について
上述しましたように、請求項1において、「β→α+βへの多形転移温度に近い温度における熱間鍛造」を『β域、α+β域、β域、及びα+β域の順の連続的な熱間鍛造』に補正し、「前記転移温度に近い温度に加熱する熱処理に特に好適なチタン合金」を『β→α+βへの多形転移温度より30℃?70℃低い温度範囲に加熱する熱処理に施されるチタン合金』に補正しました。
β域、α+β域、β域、及びα+β域の温度範囲は、チタン合金の組成に応じて決まります。β→α+βへの多形転移温度より30℃?70℃低い温度範囲も、チタン合金の組成に応じて決まります。したがって、上記補正により、熱間鍛造温度及び熱処理温度は明確に特定されました。さらには、熱間鍛造条件及び熱処理条件を明確に特定しましたので、この熱間鍛造及び熱処理を経て得られるチタン合金の組織も必然的に特定されました。
また、チタン合金が、上記所定の熱間鍛造条件及び熱処理条件に施されるチタン合金であることも明確になりました。
・・・
理由2(特許法第36条第4項第1号)について
上述しましたように、請求項1において、熱間鍛造条件及び熱処理条件を特定する補正を行いました。この補正は、本願明細書の段落0012及び0021の記載に基づいており、段落0012には鍛造後の熱処理条件の詳細が記載されており、段落0021には熱間鍛造条件が記載されています。このように、本願明細書には、熱間鍛造条件及び熱処理条件は明確に記載されております。」

イ しかしながら、前記第4のとおりであるから、本願発明1は、発明の詳細な説明に記載した発明ではないし、発明の詳細な説明から、チタン合金の金属組織を把握することはできず、発明の詳細な説明は、当業者が本願発明1を実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1は、発明の詳細な説明に記載した発明ではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合しない。
また、本願の発明の詳細な説明は、本願発明1を、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件に適合しない。
よって本願発明1は、特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項に係る発明に論及するまでもなく本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-05-21 
結審通知日 2018-05-22 
審決日 2018-06-04 
出願番号 特願2015-18608(P2015-18608)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C22C)
P 1 8・ 536- WZ (C22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川村 裕二  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 結城 佐織
金 公彦
発明の名称 高性能部品、特に航空産業用の高性能部品を製造するためのチタン合金組成物  
代理人 河野上 正晴  
代理人 古賀 哲次  
代理人 石田 敬  
代理人 高橋 正俊  
代理人 青木 篤  

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