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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C12P
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12P
管理番号 1345398
審判番号 不服2017-5251  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-04-13 
確定日 2018-10-23 
事件の表示 特願2015- 84732「バイオマスの加工方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 8月20日出願公開、特開2015-146818〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成22年1月8日に国際出願した特願2011-548002号(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2009年1月26日、米国)の一部を平成27年4月17日に新たな特許出願としたものであって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
平成27年 5月15日 :手続補正書の提出
平成28年 4月18日付け:拒絶理由通知
平成28年 7月20日 :意見書 、手続補正書の提出
平成28年12月12日付け:拒絶査定
平成29年 4月13日 :審判請求書の提出

第2 本願発明

本願の請求項1?16に係る発明は、平成28年 7月20日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲1?16に記載された事項によって特定され、そのうち請求項1に係る発明は、以下のとおりである。

「【請求項1】
カルボン酸、カルボン酸の塩、カルボン酸のエステル、またはこれらのいずれかの混合物を含む産物を作製する方法であって、以下の工程を含む方法:
(a) バイオマスを処理して、低い抵抗性レベルを有する処理されたバイオマスを産生する工程;
(b) 糖およびシンガス供給材料の両方ともを代謝することができる微生物または微生物の混合物を用いて、工程(a)で処理されたバイオマスの一部分(第一の部分)を生物学的に変換して、カルボン酸、カルボン酸の塩、カルボン酸のエステル、またはこれらのいずれかの混合物を含む産物を産生する工程;
(c) 工程(a)で処理されたバイオマスの別の部分(第二の部分)を、シンガスに熱化学的に変換する工程;および
(d) 工程(b)における、処理されたバイオマスの第一の部分の生物学的な変換中に、該微生物または微生物の混合物に、工程(c)で得られたシンガスの一種または複数の成分を送達する工程。」(以下「本願発明」という。)

第3 原査定の拒絶の理由

原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1?10に係る発明は、本願の原出願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができず、また、この出願の請求項1?16に係る発明は、優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1及び5?7に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1.国際公開第2008/98254号
引用文献5.特開2007-298290号公報
引用文献6.特開2007-112669号公報
引用文献7.特開2006-45366号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明

1 引用文献1の記載
引用文献1には、以下の事項が記載されている。
(以下、原文が英文のため、対応する日本語ファミリー公報である特表2010-517581号公報の記載を摘記する。また、段落番号も当該日本語公報に基づく。下線は当審で追記した。)

(1)「【請求項1】
約75重量%未満が炭水化物物質である、炭素含有化合物を含む材料から生成物を生成するための方法において、
生物学的変換法によって生成される、少なくとも1つの中間体と、熱化学変換法によって生成される、少なくとも1つの中間体とを含む、少なくとも2つの中間体に、材料を変換するステップと、
少なくとも1つの生物学的方法で生成される中間体と、少なくとも1つの熱化学法で生成される中間体とを反応させて前記生成物を形成するステップとを備え、
前記材料から前記生成物を生成する前記方法の化学エネルギー効率が、前記生成物を生成する単なる生物学的変換法の化学エネルギー効率より大きく、且つ前記材料すべてを最初に供する熱化学変換ステップを含む、前記生成物を生成する方法の化学エネルギー効率より大きい方法。」

(2)「【請求項18】
前記材料がバイオマスを含む請求項1に記載の方法。」

(3)「【請求項29】
前記少なくとも1つの生物学的方法で生成される中間体が、カルボン酸、その塩、又はそれらの混合物を含む請求項1に記載の方法。」

(4)「【請求項32】
前記少なくとも1つの熱化学法で生成される中間体が、合成ガス、合成ガスの成分、合成ガスの成分の混合物、熱分解ガス、熱分解ガスの成分、熱分解ガスの成分の混合物から成る群から選択される請求項1に記載の方法。

(5)「【請求項48】
前記材料を分画して、生物学的変換法によって中間体に変換するための炭水化物含有分画を形成し、熱化学変換法によって中間体に変換するためのリグニンを含む残余物分画を形成するステップをさらに備える、請求項1に記載の方法。」

(6)「【請求項49】
分画する前記ステップが、物理的処理、金属イオン処理、紫外線処理、オゾン処理、酸素処理、オルガノソルブ処理、蒸気爆砕処理、蒸気爆砕処理を伴う石灰含浸処理、蒸気処理しない石灰含浸処理、過酸化水素処理、過酸化水素/オゾン(ペロキソン)処理、酸処理、希釈酸処理及び塩基処理から成る群から選択される、請求項48に記載の方法。」


(7)「生物学的変換法は、発酵を含むか、又は少なくとも1種の微生物を培養するステップを含むことができる。そのような微生物は、少なくとも1種のホモ発酵型微生物であることができ、ホモ酢酸生成微生物、ホモ乳酸微生物、プロピオン酸菌、酪酸菌、コハク酸菌、及び3-ヒドロキシプロピオン酸菌から選択することができる。」(【0030】)

(8)「多数の嫌気性細菌は、合成ガスの成分(CO、H_(2)、CO_(2)、混合物)を有用な生成物に発酵することが可能である。表1は、約77%の化学効率で多数のホモ酢酸生成菌が合成ガス混合物から酢酸を生成することを示している。ヘテロ酢酸生成菌として知られる別の部類の嫌気性細菌は、約80%の化学エネルギー効率で合成ガス混合物から直接エタノールを生成することができる。非特許文献1には、糖及び合成ガス双方の供給原料を代謝することが可能である嫌気性細菌のさらに多数の例がある。たとえば、Acetonema及びEubacterium(Butyribacterium)は、これらの供給原料から酢酸と酪酸との混合物を生成する。」(【0060】)

(9)「本発明の種々の実施形態では、前記方法はまた、炭素含有化合物を含む材料を分画するステップも含む。そのような分画プロセスでは、炭水化物含有分画と、通常リグニンを含む非炭水化物含有分画とを形成することができる。」(【0089】)

(10)「種々の実施形態では、炭素含有化合物を含む材料の分画は、予備処理(たとえば、バイオマスを軟化すること)及び糖化(たとえば、酸加水分解又は酵素処理により糖を生成すること)のステップを含むことができる。…(中略)…用語「予備処理」は、本明細書で使用されるとき、さらに効率的に且つ経済的に中間体生成物に変換することができるように元々のバイオマスを変化させることを意図する任意のステップを言う。…(中略)…粉砕、沸騰、凍結、製粉、減圧浸透などのような物理的処理を本発明の方法と共に用いてもよい。また、バイオマスを金属イオン、紫外線、オゾンなどに接触させてもよい。追加的な予備処理方法は当業者に既知であり、たとえば、オルガノソルブ処理、蒸気爆砕処理、蒸気爆砕処理を伴う石灰含浸処理、過酸化水素処理、過酸化水素/オゾン(ペロキソン)処理、希釈酸処理及び塩基処理を挙げることができ、アンモニア繊維爆砕(AFEX)技術が含まれる。2以上の予備処理方法を使用してもよい。」(【0090】)

(11)「分画プロセスの一部として、リグニン及びそのほかの発酵できない成分から炭水化物を分離して残りの方法のステップを円滑にする。追加の予備処理ステップの前、途中又は後で分離することができる。」(【0100】)

(12)「図3を参照して、さらなる発明を説明する。…(中略)…前記方法では、変換するステップは、材料における炭水化物物質の生物学的変換によって少なくとも1つの生物学的方法で生成される中間体の一部を生成するステップと、熱化学変換法によって生成された一酸化炭素と水素の一部との生物学的変換によって少なくとも1つの生物学的方法で生成される中間体の一部を生成するステップとを含む。」(【0106】)

(13)

(図3)

2 引用発明
(1)?(13)より、引用文献1には以下の発明が記載されているといえる。((1)における生物学的変換法は(7)に記載のホモ酢酸生成微生物を用いるものとし、(1)に記載の方法に(2)、(3)の特定事項及び(10)、(11)に記載の分画工程(予備処理及び分離を含む)を追加するものとした。)

「カルボン酸、カルボン酸の塩、またはこれらのいずれかの混合物を含む産物を作製する方法であって、以下の工程を含む方法:
バイオマスを、金属イオン処理、紫外線処理、オゾン処理、酸処理などの予備処理及び分離を行い、生物学的変換法によって中間体に変換するための炭水化物含有分画及び熱化学変換法によって中間体に変換するためのリグニンを含む残余物分画を形成するステップと、
ホモ酢酸生成菌を用いた生物学的変換法によって生成される中間体であるカルボン酸、その塩、又はそれらの混合物と、熱化学変換法によって生成される中間体である合成ガスを含む、少なくとも2つの中間体に、材料を変換するステップと、
少なくとも1つの生物学的方法で生成される中間体と、少なくとも1つの熱化学法で生成される中間体とを反応させて少なくとも1つの生物学的方法で生成される中間体の一部を生成するステップ。」(以下、引用発明という。)


第5 対比 ・判断

1 対比
本願発明と引用発明を対比する。

本願発明の「バイオマスを処理して、低い抵抗性レベルを有する処理されたバイオマスを産生する工程」については、本願明細書【0063】?【0136】に記載がなされており、具体的には以下のように記載されている

「可溶化するための、抵抗性を減らすための、または官能基化するための処理
…(中略)…処理プロセスは、本明細書に記載の任意のプロセス、例えば、放射線照射、超音波処理、酸化、熱分解、または水蒸気爆砕の一つまたは複数を含んでもよい。
…(中略)…放射線は、1)重い荷電粒子、例えば、α粒子もしくはプロトン、2)電子、例えば、β崩壊もしくは電子線加速器において生じる電子、または3)電磁放射線、例えば、γ線、X線、もしくは紫外線によって供給されてもよい。」(【0063】?【0064】)

「 いくつかの態様において、材料に放射線照射するためのイオンビームには、正に荷電したイオンが含まれる。正に荷電したイオンは、例えば、正に荷電した水素イオン(例えば、プロトン)、希ガスイオン(例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン)、炭素イオン、窒素イオン、酸素イオン、ケイ素原子、リンイオン、ならびに金属イオン、例えば、ナトリウムイオン、カルシウムイオン、および/または鉄イオンを含んでもよい。」(【0086】)

「例示的なオキシダントには、過酸化物、例えば、過酸化水素および過酸化ベンゾイル、過硫酸塩、例えば、過硫酸アンモニウム、活性化型酸素、例えば、オゾン、過マンガン酸塩、例えば、過マンガン酸カリウム、過塩素酸塩、例えば、過塩素酸ナトリウム、および次亜塩素酸塩、例えば、次亜塩素酸ナトリウム(家庭用漂白剤)が含まれる。」(【0129】)

「可溶化するための、抵抗性を減らすための、または官能基化するための他のプロセス
この段落のプロセスはいずれも、本明細書に記載のプロセス無く単独で、または本明細書に記載の任意のプロセス:水蒸気爆砕、酸処理(鉱酸、例えば、硫酸、塩酸、および有機酸、例えば、トリフルオロ酢酸を用いた濃酸処理および希酸処理を含む)、塩基処理(例えば、石灰または水酸化ナトリウムを用いた処理)、UV処理、スクリュー押出し処理(例えば、2008年11月18日に出願された米国特許出願第61/073,530号を参照されたい)、溶媒処理(例えば、イオン性液体を用いた処理)、ならびに凍結粉砕(例えば、米国特許出願第61/081,709号を参照されたい)と(任意の順番で)組み合わせて使用することができる。」(【0136】)

したがって、引用発明のバイオマスの「予備処理」工程は、本願発明の「バイオマスを処理して、低い抵抗性レベルを有する処理されたバイオマスを産生する工程」に相当する。

引用発明の「ホモ酢酸生成菌」は、上記(8)のとおり、本願発明の「糖およびシンガス供給材料の両方ともを代謝することができる微生物」に相当する。

引用発明の「合成ガス」は、本願発明の「シンガス」に相当する。

引用発明の「少なくとも1つの生物学的方法で生成される中間体と、少なくとも1つの熱化学法で生成される中間体とを反応させて少なくとも1つの生物学的方法で生成される中間体の一部を生成するステップ」は、本願発明の「(d) 工程(b)における、処理されたバイオマスの第一の部分の生物学的な変換中に、該微生物または微生物の混合物に、工程(c)で得られたシンガスの一種または複数の成分を送達する工程」に相当する。

そうすると、本願発明と引用発明は、
「カルボン酸、カルボン酸の塩、またはこれらのいずれかの混合物を含む産物を作製する方法であって、以下の工程を含む方法:
(a) バイオマスを処理して、低い抵抗性レベルを有する処理されたバイオマスを産生する工程;
(b) 糖およびシンガス供給材料の両方ともを代謝することができる微生物を用いて、工程(a)で処理されたバイオマスの一部分(第一の部分)を生物学的に変換して、カルボン酸、カルボン酸の塩、またはこれらのいずれかの混合物を含む産物を産生する工程;
(c) 工程(a)で処理されたバイオマスの別の部分(第二の部分)を、シンガスに熱化学的に変換する工程;および
(d) 工程(b)における、処理されたバイオマスの第一の部分の生物学的な変換中に、該微生物または微生物の混合物に、工程(c)で得られたシンガスの一種または複数の成分を送達する工程。」
という構成において一致し、相違点はない。
したがって、本願発明は、引用発明と同一の発明である。

2 請求人の主張について
請求人は、審判請求書の3.2.(2)において、引用発明は「異なる組成を有する2つの異なる材料への(すなわち、炭水化物とリグニンとへの)バイオマスの分離」を必須工程として含むことを指摘すると共に、3.2.(3)において、「本願請求項1に係る方法では、該方法において使用されるバイオマス材料の全て部分が、その抵抗性を低減させるために処理され(工程(a))、次いで処理されたバイオマス材料は2つの部分に分割されますが、続く工程(b)および工程(c)でそれぞれ変換される該「2つの部分」は、工程(a)で得られた同じ材料であり、両方とも同じ組成/成分を有しています。」と記載し、引用発明のバイオマス材料の分画は、本願発明における構成要素として含まれず、この点が相違点となる旨を主張する。

しかしながら、本願発明には、上記「2つの部分」が同一組成・同一成分を有することの特定はない。
また、本願請求項1の従属項(例えば請求項3)において新たな工程を追加する特定がなされていることに鑑みれば、本願発明が、追加の工程を含むことを排除するものではないことは明らかである。
そうすると、引用発明が炭水化物含有分画とリグニンを含む残余物分画とを分離するような分離工程を含む点をもって、本願発明との相違点とすることはできない。

また、仮に、かかる点が相違点だとしても、以下のとおり、この点は当業者が容易になし得ることである。
まず、引用発明の分画ステップに含まれる「予備処理」は、上記(10)のとおり、効率的に且つ経済的に中間体生成物に変換することができるように原料バイオマスを変化させることを意図するものであり、該「予備処理」は、上記(11)のとおり、分離の前、途中、後に行うことができるものであるから、分画ステップの一部として文言上記載されているものの、引用発明における「予備処理」は分離工程とは独立した工程である。
そして、上記(11)のとおり、引例発明の分画ステップ中の分離工程は、リグニン及びそのほかの発酵できない成分と炭水化物とを分離することで、以降のステップを円滑にするための工程であって、当該分離工程が、引用発明の反応を生物学的・熱化学的に進行させる上で必須ではないことは技術常識から明らかである。
以上を踏まえると、工程数削減のため、引用発明において当該分離工程に限り省略することは、当業者が適宜なし得たことである。
そして、そのことにより化学エネルギー効率の低下が予測されるが、本願発明はその点を何ら克服したものではなく、単なる引用発明からの退行発明に過ぎないものである。
したがって、仮に上記の相違点があったとしても、本願発明は引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび

以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。
また、本願発明は、引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2018-05-29 
結審通知日 2018-05-30 
審決日 2018-06-13 
出願番号 特願2015-84732(P2015-84732)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12P)
P 1 8・ 113- Z (C12P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平林 由利子  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 高堀 栄二
松浦 安紀子
発明の名称 バイオマスの加工方法  
代理人 春名 雅夫  
代理人 山口 裕孝  
代理人 大関 雅人  
代理人 小林 智彦  
代理人 刑部 俊  
代理人 井上 隆一  
代理人 五十嵐 義弘  
代理人 佐藤 利光  
代理人 新見 浩一  
代理人 清水 初志  
代理人 川本 和弥  

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