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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G21C
管理番号 1345494
審判番号 不服2018-1381  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-02-01 
確定日 2018-11-13 
事件の表示 特願2013-221537「中性子反射体及び原子炉」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 4月27日出願公開、特開2015- 81904、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年10月24日の出願であって、平成29年4月18日付けの拒絶理由の通知に対し、同年6月21日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同年11月1日付け(同月14日送達)で拒絶査定(以下、「原査定」という。)がなされ、これに対して平成30年2月1日に審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

第2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願請求項1ないし5に係る発明は、以下の引用文献1ないし3に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
また、原査定には、新たに以下の引用文献4を挙げ、本願請求項1ないし5に係る発明は、上記原査定の拒絶の理由とは別に、新規性進歩性の拒絶理由を有する旨記載されている。

引用文献等一覧
1.特開昭59-072087号公報
2.特開昭59-060390号公報
3.特開2002-296387号公報
4.特開平3-2695号公報

第3 平成30年2月1日付けの手続補正書による補正について
平成30年2月1日付けの手続補正書による補正(以下、「審判請求時の補正」という。)は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
審判請求時の補正は、請求項1に「冷却水と接触する」という事項を追加する補正事項を含むものであるが、当該補正事項が新規事項を追加するものではないか、また、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるかについて、以下に検討する。
本願の当初明細書の段落0008には、「表面層は、水やベリリウムとの反応性が小さい材質で構成されている。このため、冷却水との接触やベリリウムバルク体との接触によって変質することがない。」と記載されていることから、上記補正事項は、当初明細書等に記載された事項であり、新規事項を追加するものではない。
また、上記補正事項は、上記補正前の請求項1に係る発明の「表面層」について、「冷却水と接触する」との事項を追加して、「表面層」を限定しようとするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、下記第4から第7までに示すように、補正後の請求項1ないし5に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願請求項1ないし5に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明5」という。)は、審判請求時の補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
ベリリウムバルク体と、
前記ベリリウムバルク体の表面に設けられ、冷却水と接触する、Al、Al_(2)O_(3)、AlN、Si、SiO_(2)、Si_(3)N_(4)、SiCからなる群より選ばれる1以上で構成された表面層と、
を備えた中性子反射体。
【請求項2】
前記表面層は、単層である、請求項1に記載の中性子反射体。
【請求項3】
前記表面層は、アルミニウムである、請求項1又は2に記載の中性子反射体。
【請求項4】
前記表面層は、10μm以上1000μm以下の厚さである、請求項1?3のいずれか1項に記載の中性子反射体。
【請求項5】
請求項1?4のいずれか1項に記載の中性子反射体をベリリウム反射体要素及びベリリウムH形枠のうちの少なくとも一方として備えた、原子炉。」

第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審が付与した。以下同じ)。

(1)「本発明燃料集合体は、燃料被覆管内に多数の燃料集合体を挿入した燃料棒の多数本をチャンネルボックス内にスペーサを用いて規則的に配列し、前記燃料棒束とチャンネルボックスを上部タイブレートおよび下部タイブレートによって支持固定してなる燃料集合体において、前記チャンネルボックス外周に反応度制御部材を収容した反応度制御装置を着脱可能に取付けたことを特徴とするものである。」(2ページ右上欄20行?同ページ左下欄8行を参照。)

(2)「チャンネルボックス3の各外周面には反応度制御装置が着脱可能に取付けられており、これはチャンネルボックス3外周面との間に間隔を有し、板状の部材が挿入可能な形状をした案内部材7と、この案内部材7下部に冷却材が流入するための複数の流入孔8と、チャンネルボックス3外周面と案内部材7との間隙に挿入された反応度制御部材9とを備えている。
反応度制御部材9は・・・(略)・・・、ベリリウム等の反射材を不銹鋼で被覆したもの等の他、・・・(略)・・が使用される。」(2ページ左下欄14行?同右下欄10行を参照。)

したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「板状のベリリウム等の反射材を不銹鋼で被覆した反応度制御部材」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「本発明は、金属ベリリウムと、該金属ベリリウムを密封する金属被覆材とから成る原子炉用中性子源構体において、
該金属ベリリウムと該金属被覆材との間に、これらに対し共存性が良好な金属、金属酸化物もしくは金属炭化物又は合金から成る中間層を介在せしめたことを特徴とする。」(3ページ左上欄10?16行を参照。)

(2)「上記金属被覆材を構成する被覆管2及び端栓3の材質としては、ステンレス鋼(例えば、SUS316鋼)、ジルコニウム合金(例えば、ジルカロイ-2、ジルカロイ-4)等が例示される。」(3ページ右上欄4?7行を参照。)

(3)「金属被覆材が、ステンレス鋼又はジルコニウム合金から成る場合にあっては、次のような材質が例示される。金属の具体例としては、例えば、Cr,Wt,Mo,Ta,Nb,Ti,Alがあげられる。・・・(略)・・金属酸化物の具体例としては、例えば、 MgO,Al_(2)O_(3)(以上の酸化物は焼結体であることが好ましい)、・・・(略)・・金属炭化物としては、例えば、SiC,WCがあげられる。」(3ページ右上欄10行?同左下欄1行を参照。)

したがって、上記引用文献2には、「原子炉用中性子源構体において、ステンレス鋼またはジルコニウム合金からなる金属被覆材と長尺の金属ベリリウムの間に、これらに対し共存性が良好なAl,Al_(2)O_(3),SiCからなる中間層を介在せしめる」という技術的事項が記載されていると認められる。

3 引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、H形ベリリウム枠部材及びH形ベリリウム枠部材の製造方法に関する技術的事項が記載されている。

4 引用文献4について
上記引用文献4は、上記第2のとおり、原査定の拒絶の理由に引用された文献ではないが、図面とともに次の事項が記載されている。

(1)「本発明は第1図に示す如く、放射線しゃへい能力に優れた有機材、無機材および各種金属等のたとえば直径20?100μm程度の微粒子aに、熱伝導性の高い金属bを、たとえば厚さ0.5?10μmコーティングしたコーティング微粒子Aを、除熱機能が必要とされるしゃへい材として利用するものである。」(2ページ右上欄17行?同左下欄3行)

(2)「前記コーティング微粒子Aを構成する微粒子aと金属bの組み合せはそれぞれの使用条件によって以下に示すような材料が選択使用される。即ち微粒子aとして、・・・(略)・・・、ベリリウム(酸化物を含む)、・・・(略)・・・等が使用される。又金属bとして、アルミニウムとその合金、・・・(略)・・・等である。」(2ページ右下欄11行?3ページ左上欄5行を参照。)

(3)「該コーティング微粒子はこの他、核融合炉の中性子しゃへい材、臨界安全管理を目的とした中性子吸収材、あるいは原子炉の中性子反射材としても使用することができる。」(3ページ右上欄6?8行を参照。)

したがって、上記引用文献4には、「原子炉の中性子反射材としても使用することができる、微粒子aと金属bの組み合せで構成されるコーティング微粒子Aであって、微粒子aとして、ベリリウム(酸化物を含む)が選択使用でき、金属bとして、アルミニウムとその合金が選択使用できる」という発明が記載されていると認められる。

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
ア 引用発明における「板状のベリリウム等の反射材」及び「反応度制御部材」は、本願発明1における「ベリリウムバルク体」及び「中性子反射体」に、それぞれ相当する。

イ そして、引用発明における「不銹鋼」と本願発明1の「冷却水と接触する、Al、Al_(2)O_(3)、AlN、Si、SiO_(2)、Si_(3)N_(4)、SiCからなる群より選ばれる1以上で構成された表面層」を対比すると、両者は、「冷却水と接触する表面層」である点で一致する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点がある。
・一致点
「ベリリウムバルク体と、
前記ベリリウムバルク体の表面に設けられ、冷却水と接触する表面層と、
を備えた中性子反射体」

・相違点
表面層が、本願発明1では、「Al、Al_(2)O_(3)、AlN、Si、SiO_(2)、Si_(3)N_(4)、SiCからなる群より選ばれる1以上で構成された」ものであるのに対し、引用発明では不銹鋼である点。

(2)相違点についての判断
上記相違点1について検討する。
引用文献2には、上記第5の2のとおりの技術的事項が記載されているが、本願発明1における「表面層」とは、あくまで「冷却水と接触する」ものであることを踏まえると、上記引用文献2に記載された技術的事項において、本願発明1の「表面層」に相当するものは「金属被覆材」である。
そして、引用文献2に記載された技術的事項から、「金属被覆材」を取り除くことや金属被覆層を中間層と同じ材質とすることを導き出すことは、技術常識を参酌しても困難であり、引用文献2に記載された技術的事項は、あくまで「ステンレス鋼等からなる金属被覆材と金属ベリリウムの間に、これらに対し共存性が良好なAl,Al_(2)O_(3),SiCからなる中間層を介在せしめること」と理解するほかなく、Al,Al_(2)O_(3),SiCからなる中間層のみに着目して、これを引用発明の「表面層」である「不銹鋼」に代えて採用しようとすることは、当業者であっても容易に想到することはできない。
また、引用文献3には、上記第5の3のとおり、及びH形ベリリウム枠部材H形ベリリウム枠部材の製造方法という技術的事項が記載されているにとどまる。

したがって、本願発明1は、引用発明及び引用文献2ないし3に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

2 本願発明2ないし5について
本願発明2ないし5も、本願発明1と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献2ないし3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

3 引用文献4に記載された発明について
以下(1)及び(2)のとおりであるので、本願発明1ないし5は、引用文献4に記載された発明でなく、引用文献4に記載された発明、引用発明、引用文献2に記載れた技術的事項及び引用文献3に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(1)引用文献4には、第5の4のとおり、「原子炉の中性子反射材としても使用することができる、微粒子aと金属bの組み合せで構成されるコーティング微粒子Aであって、微粒子aとして、ベリリウム(酸化物を含む)が選択使用でき、金属bとして、アルミニウムとその合金が選択使用できる」という発明が記載されているが、引用文献4には、第5の4(1)のとおり、熱伝導性の高い材料として、微粒子aとしてベリリウムが、金属bとしてアルミニウムやその合金がそれぞれ別個に選択されうることが記載されているにとどまり、ベリリウムの微粒子aとアルミニウムやその合金とからなる金属bとの組み合せで構成され、ベリリウムの微粒子aから発生したトリチウムの冷却水への放出を抑制するような、原子炉の中性子反射材であるコーティング微粒子Aが記載されているとはいえない。
また、上記引用文献4に記載された発明の「微粒子a」は、そもそも本願発明1ないし5のようなバルク体ではない。
したがって、本願発明1ないし5は、引用文献4に記載された発明ではない。

(2)また、当業者が、引用発明、引用文献2及び3に記載された技術的事項を参酌したとしても、上記引用文献4に記載された発明において、ベリリウムから発生したトリチウムの冷却水への放出を抑制すべく、ベリリウムの微粒子aとアルミニウムからなる金属bとを選択的に組み合せたり、微粒子aをバルク体にしたりすることは、容易なことではない。
したがって、本願発明1ないし5は、引用文献4に記載された発明、引用発明、引用文献2に記載れた技術的事項及び引用文献3に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1ないし5は、当業者が引用発明及び引用文献2ないし3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-10-31 
出願番号 特願2013-221537(P2013-221537)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G21C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 長谷川 聡一郎  
特許庁審判長 森 竜介
特許庁審判官 山村 浩
西村 直史
発明の名称 中性子反射体及び原子炉  
代理人 特許業務法人アイテック国際特許事務所  

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