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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H05B |
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管理番号 | 1345500 |
審判番号 | 不服2017-13329 |
総通号数 | 228 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2018-12-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2017-09-08 |
確定日 | 2018-11-13 |
事件の表示 | 特願2015-501590「有機発光素子」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月26日国際公開,WO2013/141674,平成27年 5月18日国内公表,特表2015-514293,請求項の数(14)〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 事案の概要 1 手続等の経緯 特願2015-501590号(以下「本件出願」という。)は,2013年(平成25年)3月25日(パリ条約による優先権 2012年(平成24年)3月23日,同年7月31日 韓国)を国際出願日とする出願であって,その手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。 平成27年 9月24日付け:拒絶理由通知書 平成28年 1月29日提出:意見書 平成28年 1月29日提出:手続補正書 平成28年 6月29日付け:拒絶理由通知書 平成28年11月28日提出:意見書 平成28年11月28日提出:手続補正書 平成29年 4月28日付け:拒絶査定 平成29年 9月 8日提出:審判請求書 平成29年 9月 8日提出:手続補正書 平成30年 6月 5日付け:拒絶理由通知書 平成30年 9月 7日提出:意見書 平成30年 9月 7日提出:手続補正書 2 原査定の概要 平成29年4月28日付け拒絶査定の理由は,概略,本件出願の請求項1?請求項17に係る発明は,その優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である引用例1に記載された発明に基づいて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 引用例1:特開2006-286616号公報 なお,拒絶査定においては,周知技術等を示す引用例として,特開2006-157022号公報,特表2005-510034号公報,国際公開第2011/126097号,特開2006-74022号公報,特開2006-128100号公報,特開平11-26156号公報及び特開2011-86385号公報も挙げられている。 3 当合議体の拒絶の理由の概要 平成30年6月5日付け拒絶理由通知書で通知した拒絶の理由(以下「当合議体の拒絶の理由」という。)は,概略,本件出願の請求項1?請求項16に係る発明は,その優先日前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 引用文献1:国際公開第2011/093120号 なお,拒絶の理由においては,いわゆる副引用例として,特開平10-270172号公報(以下「引用文献2」という。)も挙げられている。 4 本願発明 本件出願の請求項1?請求項14に係る発明は,平成30年9月7日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?請求項14に記載された事項によって特定されるとおりの,以下のものである。 「【請求項1】 電子注入性電極層と正孔注入性電極層と, 前記電子注入性電極層と正孔注入性電極層との間に存在し,屈折率が1.7以下の低屈折有機層及び発光層を含む有機積層構造と, 前記正孔注入性電極層または電子注入性電極層の前記有機積層構造に隣接する面とは反対側面に当接するかまたは隣接して形成されている散乱層と, 前記散乱層の上部に形成されている平坦層と,を含み, 前記発光層は,屈折率が1.7?1.8の電子受容性有機化合物を含み, 前記低屈折有機層は,前記電子受容性有機化合物および屈折率が1.66以下の低屈折材料を含み,屈折率が前記発光層よりも小さく,厚さが70nm以上であって, 前記低屈折有機層において,前記電子受容性有機化合物100重量部に対して150重量部以下で前記低屈折材料が含まれ, 前記平坦層は,屈折率が1.8?3.5である(ただし,前記平坦層の屈折率が1.8の場合を除く。),有機発光素子。 【請求項2】 基材層をさらに含み,前記正孔注入性電極層,前記有機積層構造及び前記電子注入性電極層が前記基材層上に順に形成されている,請求項1に記載の有機発光素子。 【請求項3】 前記散乱層が前記正孔注入性電極層と前記基材層との間に存在する,請求項2に記載の有機発光素子。 【請求項4】 前記正孔注入性電極層が透明電極層であり,前記電子注入性電極層が反射電極層である,請求項2または3に記載の有機発光素子。 【請求項5】 前記低屈折有機層は,前記電子注入性電極層と当接して形成されている,請求項1から4のいずれか1項に記載の有機発光素子。 【請求項6】 前記低屈折材料は,フッ化リチウム(LiF),フッ化マグネシウム(MgF_(2)),フッ化カリウム(KF),フッ化ナトリウム(NaF),フッ化アルミニウム(AlF_(2)),フッ化バリウム(BaF_(2)),フッ化ベリリウム(BeF_(2)),フッ化カドミウム(CdF_(2)),フッ化カルシウム(CaF_(2)),フッ化セシウム(CsF),フッ化トリウム(ThF_(4)),フッ化イットリウム(YF_(3)),塩化鉄(FeCl_(2)),酸化バナジウム(V_(2)O_(5))またはNa_(2)Al_(3)F_(14)リン(Chiolote)である,請求項1から5のいずれか1項に記載の有機発光素子。 【請求項7】 前記散乱層は,屈折率が1.0?3.5であり,平均粒径が50nm?20,000nmである散乱粒子を含む,請求項1から6の何れか一項に記載の有機発光素子。 【請求項8】 前記散乱層は,凹凸構造を含む,請求項1から7の何れか一項に記載の有機発光素子。 【請求項9】 前記平坦層は,平均粒径が1nm?100nmの高屈折粒子を含む,請求項1から8の何れか一項に記載の有機発光素子。 【請求項10】 前記高屈折粒子は,ルチル型酸化チタンである,請求項9に記載の有機発光素子。 【請求項11】 前記散乱層の投影面積は,前記正孔注入性電極層の投影面積に比べて小さく,前記正孔注入性電極層は,前記散乱層の上部及び前記散乱層が形成されていない前記基材層の上部の両方に形成されている,請求項2に記載の有機発光素子。 【請求項12】 前記有機積層構造と前記電子注入性電極層を保護する封止構造をさらに含み,前記封止構造は,下部に前記散乱層が形成されていない前記正孔注入性電極層の上部に付着している,請求項11に記載の有機発光素子。 【請求項13】 前記封止構造は,ガラスカンまたは金属カンであるか,または前記有機積層構造と前記電子注入性電極層の全面を覆っているフィルムである,請求項12に記載の有機発光素子。 【請求項14】 請求項1から13の何れか一項に記載の有機発光素子を含む照明。」 第2 当合議体の判断 1 引用文献1の記載及び引用発明 (1) 引用文献1の記載 当合議体の拒絶の理由で引用され,本件出願の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1には,以下の記載がある。なお,下線は引用発明の認定や判断等において活用した箇所を示す。 ア 「技術分野 [0001] 本発明は,有機エレクトロルミネッセンス素子とその素子を用いた照明装置に関する。 背景技術 [0002] 発光型の電子ディスプレイデバイスとして,エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)がある。 …(省略)… 発明が解決しようとする課題 [0012] 本発明は,上記課題に鑑みてなされたものであり,その目的は,光取り出し効率が大幅に向上し,かつ観察角度による色味の変化や輝度のばらつきが小さいエレクトロルミネッセンス素子と,その素子を用いた照明装置を提供することにある。」 イ 「課題を解決するための手段 [0013] 本発明者らは,上記課題について鋭意検討した結果,屈折率1.65以上,1.80以下の有機無機複合材料(以下複合材料と称する)中に平均粒径0.1μm以上,0.7μm以下の光散乱性フィラーを含有する光散乱層を形成した透明基板上に,発光波長によって異なる配光輝度特性を有する有機発光層を形成することにより,従来技術では困難であった高い光取り出し効率と観察角度による色味や輝度の変化の抑制を両立できることを見出した。 [0014] 従って,本発明は以下の構成により達成される。 [0015] 1.透明基板上に透明導電層,電子輸送層を有する有機エレクトロルミネッセンス層および対向電極が順次積層された有機エレクトロルミネッセンス素子において,該透明基板は少なくとも片側の面に,平均粒径1nm?20nmの酸化物ナノ粒子と樹脂材料前駆体からなる有機無機複合材料であって,かつ,硬化後の屈折率が1.65以上1.80以下になる該有機無機複合材料に,平均粒径0.1μm?0.7μmの光散乱性フィラーを添加した塗布液を塗布・乾燥・硬化した光散乱層を有し,かつ,該電子輸送層の膜厚が,40?200nmであることすることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。 …(省略)… [0021] [透明基板] …(省略)… [0022] 透明基材としては,高い光透過性を有していればそれ以外に特に制限はない。 …(省略)… [0024] 本発明において透明樹脂フィルムの屈折率は,1.50以上であることが好ましく,さらに1.60以上,1.80以下であることが特に好ましい。 …(省略)… [0028] 光散乱層は,透明基材との屈折率差が小さいことが良く,屈折率1.65以上,1.80以下の複合材料を用いることが好ましく,さらに屈折率1.65以上,1.75以下がより好ましい。 [0029] 本発明で言う複合材料とは,有機材料である樹脂と酸化物ナノ粒子等の無機材料が複合化されたものをいい,樹脂中に酸化物ナノ粒子が分散した,いわゆるポリマーナノコンポジット材料やポリマーハイブリッド材料が好ましく用いられる。 …(省略)… [0031] 本発明に係る複合材料に用いる樹脂としては特に制限はないが,層形成時のコストおよび利便性を考えた場合には硬化性樹脂を用いることが好ましい。 …(省略)… [0034] 《酸化物ナノ粒子》 本発明の複合材料に用いられる酸化物ナノ粒子は,該複合材料の屈折率を目的とする値に調整できるものであれば特に制限はなく,使用する波長領域において吸収,発光,蛍光等が生じないものを適宜選択して使用することが好ましい。 …(省略)… [0054] 《光散乱性フィラー》 本発明は,光散乱層として屈折率1.65以上,1.80以下の酸化物ナノ粒子及び樹脂からなる複合材料中に,平均粒径0.1μm以上,0.7μm以下の光散乱性フィラーを含有することを特徴の一つとする。 …(省略)… [0061] また,本発明の光散乱層を,透明基材に対し光の入射側の面に形成する場合には,その上に透明導電層が形成されるため,光散乱層の上に平滑化層を形成することが好ましい。平滑化層としては,その表面に透明導電層や有機発光層を形成した際に短絡が生じない程度の平滑性が得られれば良く,一般的な樹脂を使用することができるが,光散乱層との接着性の点や屈折率差がないことが好ましいため,光散乱層のマトリクス樹脂を用いることが好ましい。 [0062] 《光散乱層の形成》 本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子に用いられる光散乱層は,透明基材上に塗布等の手段により形成される。 …(省略)… [0064] 〔有機エレクトロルミネッセンス素子の層構成〕 本発明においては,前記の高屈折率な光散乱層を有する透明基板上に有機エレクトロルミネッセンス層を形成することを特徴の一つとする。 [0065] ここでいう有機エレクトロルミネッセンス層とは,陽極バッファー層,正孔輸送層,発光層,正孔阻止層,電子輸送層,陰極バッファー層の全部または一部からなる,透明導電層と対向電極の間に形成された層をいう。 …(省略)… [0071] 本発明の透明導電層とは,透明かつ導電性を有する化合物からなり,電極として作用する層をいう。 …(省略)… [0072] 本発明において,有機エレクトロルミネッセンス層で発光した光を,光散乱層に効率良く移動させるためには,透明導電層の屈折率が1.7に近いことが好ましい。従って,本発明の透明導電層は,銀ナノワイヤ等の金属ナノワイヤを導電性高分子材料とともに塗布して形成されたものが良く,屈折率が1.6以上,1.8以下であることが好ましく,膜厚が0.1μm以上,0.5μm以下であることが好ましい。 …(省略)… [0087] 《発光層》 本発明に係る発光層は,電極または電子輸送層,正孔輸送層から注入されてくる電子及び正孔が再結合して発光する層であり,発光する部分は発光層の層内であっても発光層と隣接層との界面であってもよい。 [0088] 本発明に係る発光層は,含まれる発光材料が前記要件を満たしていれば,その構成には特に制限はない。 …(省略)… [0117] 《注入層:電子注入層,正孔注入層》 注入層は必要に応じて設け,電子注入層と正孔注入層があり,上記の如く陽極と発光層または正孔輸送層の間,及び陰極と発光層または電子輸送層との間に存在させてもよい。 …(省略)… [0139] 《対向電極》 本発明の対向電極としては,前記透明導電層に対向する電極をいう。 …(省略)… [0141] 〔有機エレクトロルミネッセンス素子の作製方法〕 本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は,透明基材上に複合材料層,透明導電層,有機エレクトロルミネッセンス層,対向電極を順次形成することにより作製できる。 …(省略)… [0150] 〔用途〕 本発明に係る面発光体,及び発光パネルは,表示デバイス,ディスプレイ,各種発光光源として用いることができる。 …(省略)… [0151] 〔照明装置〕 本発明に係る有機エレクトロルミネッセンス材料は,また,照明装置として,実質白色の発光を生じる有機EL素子に適用できる。」 ウ 「実施例 [0158] 以下,実施例を挙げて本発明を説明するが,本発明はこれに限定されない。 [0159] 実施例1 《複合材料(有機無機複合材料)1の作製》 …(省略)… [0164] (樹脂中への粒子分散) 硬化性樹脂モノマー(フルオレンアクリレート)70mlと,上記表面処理済ジルコニア分散液(所望の屈折率となる量)30mlを混合し,重合開始剤としてIrgacure184を0.4g添加して溶解し複合材料1を得た。 [0165] (複合材料の評価) 得られた複合材料1を,平滑なガラス基板上に乾燥膜厚1μmになるように塗布し,紫外線を照射して硬化させ,薄膜層を形成した試料を作製した。 …(省略)… [0169] 《複合材料4の作製,評価》 複合材料1の作製方法と同様にして,チタニアナノ粒子が分散された複合材料4を作製した。 …(省略)… [0170] 《複合材料5の作製,評価》 複合材料4の作製方法において,チタニアナノ粒子の添加量を調整し,複合材料5を作製した。得られたチタニアナノ粒子が分散された樹脂モノマー溶液を平滑なガラス基板上に乾燥膜厚1μmになるように塗布し,紫外線を照射して硬化させ,複合材料1と同様の方法で評価を行った。その結果,屈折率は1.80であり,分散されたチタニアナノ粒子の平均粒径は,18nmであった。 …(省略)… [0185] 《透明基板12の作製》 複合材料5にシリカ粒子KE-P30(平均粒径0.3μm)を20質量%添加後,超音波分散を行い,光散乱性フィラーを含有した樹脂溶液5Aを作製し,これを厚さ125μmの二軸延伸PENフィルム(帝人デュポン社製;屈折率1.75)の片面に乾燥膜厚が5μmになるように塗布し,紫外線を照射して硬化させた。その上に,さらに複合材料5を平滑化層として乾燥膜厚が4μmになるように塗布し,紫外線を照射して硬化させた。その後,PENフィルムの反対側の面に,複合材料5を乾燥膜厚が4μmになるように塗布し,紫外線を照射して硬化させた。 [0186] 《有機EL素子1の作製》 透明基板1の片面にITO(インジウムチンオキシド;屈折率1.85)を100nm製膜し,パターニングを行った。…(省略)…膜厚30nmの正孔注入層を設けた。 [0187]…(省略)…正孔輸送層を設けた。別途用意した基板にて,同条件にて塗布を行い測定したところ,膜厚は20nmであった。 [0188]…(省略)…発光層を設けた。別途用意した基板にて,同条件にて塗布を行い測定したところ,膜厚は40nmであった。 …(省略)… [0189]…(省略)…電子輸送層を設けた。別途用意した基板にて,同条件にて塗布を行い測定したところ,膜厚は30nmであった。 …(省略)… [0191] 先ず,フッ化カリウムの入った抵抗加熱ボートに通電し加熱し,基板上にフッ化カリウムからなる電子注入層を3nm設けた。続いて,アルミニウムの入った抵抗加熱ボートに通電加熱し,蒸着速度1?2nm/秒でアルミニウムからなる膜厚100nmの陰極を設けた。 …(省略)… [0194] 《有機EL素子2の作製》 有機EL素子1の作製と同様の方法により,ITO透明導電層,有機エレクトロルミネッセンス層,陰極を形成した。その際に電子輸送層の塗布条件のみを変化させ,電子輸送層の膜厚が70nmになるように調整し,これを有機EL素子2とした。 …(省略)… [0197] 《有機EL素子5?14の作製》 透明基板3?12の表面に,有機EL素子2の作製と同様の方法により,ITO透明導電層,有機エレクトロルミネッセンス層,陰極,光取出し部材を形成し,有機EL素子5?14を作製した。 …(省略)… [0203]表2 [0204] 表2より,本発明の構成である有機エレクトロルミネッセンス素子は,外部取り出し量子効率が高く,しかも観察角度による輝度および色変化が小さく,白色照明として優れていることが分かる。」 エ 「特許請求の範囲 [請求項1] 透明基板上に透明導電層,電子輸送層を有する有機エレクトロルミネッセンス層および対向電極が順次積層された有機エレクトロルミネッセンス素子において,該透明基板は少なくとも片側の面に,平均粒径1nm?20nmの酸化物ナノ粒子と樹脂材料前駆体からなる有機無機複合材料であって,かつ,硬化後の屈折率が1.65以上1.80以下になる該有機無機複合材料に,平均粒径0.1μm?0.7μmの光散乱性フィラーを添加した塗布液を塗布・乾燥・硬化した光散乱層を有し,かつ,該電子輸送層の膜厚が,40?200nmであることすることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。 [請求項2] 前記光散乱層の複合材料と光散乱性フィラーの屈折率差が,0.2?0.3であることを特徴とする請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。 [請求項3] 請求項1又は2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を用いることを特徴とする照明装置。」 (2) 引用発明 引用文献1の[0061]には,「本発明の光散乱層を,透明基材に対し光の入射側の面に形成する場合には,その上に透明導電層が形成されるため,光散乱層の上に平滑化層を形成することが好ましい。」と記載されている。 そうしてみると,引用文献1には,請求項1に係る発明において,「光散乱層を,透明基材に対し光の入射側の面に形成し,光散乱層の上に平坦化層及び透明導電層をこの順に形成してなる」次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。 「 透明基板上に透明導電層,電子輸送層を有する有機エレクトロルミネッセンス層および対向電極が順次積層された有機エレクトロルミネッセンス素子において, 透明基板は少なくとも片側の面に,平均粒径1nm?20nmの酸化物ナノ粒子と樹脂材料前駆体からなる有機無機複合材料であって,かつ,硬化後の屈折率が1.65以上1.80以下になる該有機無機複合材料に,平均粒径0.1μm?0.7μmの光散乱性フィラーを添加した塗布液を塗布・乾燥・硬化した光散乱層を有し, 電子輸送層の膜厚が,40?200nmであり, 光散乱層を,透明基材に対し光の入射側の面に形成し,光散乱層の上に平坦化層及び透明導電層をこの順に形成してなる, 有機エレクトロルミネッセンス素子。」 2 対比及び判断 (1) 対比 本件出願の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。)と引用発明を対比すると,以下のとおりである。 ア 電子注入性電極層,正孔注入性電極層 引用発明は,「透明基板上に透明導電層,電子輸送層を有する有機エレクトロルミネッセンス層および対向電極が順次積層された有機エレクトロルミネッセンス素子」である。そして,有機エレクトロルミネッセンス素子に関する技術常識を考慮すると,引用発明の「透明導電層」と「対向電極」は,その一方が電子を注入する性質を具備した電極層であり,その他方が正孔を注入する性質を具備した電極層である。 したがって,引用発明の「透明導電層」と「対向電極」は,その一方が本願発明1の「電子注入性電極層」に相当するとともに,その他方が本願発明1の「正孔注入性電極層」に相当する。 イ 有機積層構造 引用発明の「有機エレクトロルミネッセンス素子」は,「透明基板上に透明導電層,電子輸送層を有する有機エレクトロルミネッセンス層および対向電極が順次積層された」ものである。 そうしてみると,引用発明の「有機エレクトロルミネッセンス層」は,「透明導電層」と「対向電極」の一方と他方との間に存在するものといえる。 また,引用発明の「有機エレクトロルミネッセンス素子」が少なくとも有機材料からなる発光層を具備すること,及び引用発明の「電子輸送層」が有機材料からなることは技術的にみて明らかであるから,引用発明の「有機エレクトロルミネッセンス層」は,有機積層構造をなすものといえる。 したがって,引用発明の「有機エレクトロルミネッセンス層」と本願発明1の「有機積層構造」は,「前記電子注入性電極層と正孔注入性電極層との間に存在し」,「発光層を含む有機積層構造」の点で共通する。 ウ 散乱層及び平坦層 引用発明の「有機エレクトロルミネッセンス素子」は,「光散乱層を,透明基材に対し光の入射側の面に形成し,光散乱層の上に平坦化層及び透明導電層をこの順に形成してなる」ものである。また,引用発明の「光散乱層」及び「平坦化層」は,その文言が意味するとおりの機能を果たす層である。 そうしてみると,引用発明の「光散乱層」及び「平坦化層」は,それぞれ本願発明1の「散乱層」及び「平坦層」に相当する。また,引用発明の「有機エレクトロルミネッセンス素子」は,その層順からみて,本願発明1の,「前記正孔注入性電極層または電子注入性電極層の前記有機積層構造に隣接する面とは反対側面に当接するかまたは隣接して形成されている散乱層と,前記散乱層の上部に形成されている平坦層と,を含み」という要件を満たす。 エ 有機発光素子 以上の対比結果,並びに,本願発明1及び引用発明の全体の構成からみて,引用発明の「有機エレクトロルミネッセンス素子」は,本願発明1の「有機発光素子」に相当する。 (2) 一致点及び相違点 ア 一致点 本願発明1と引用発明は,次の構成で一致する。 「 電子注入性電極層と正孔注入性電極層と, 前記電子注入性電極層と正孔注入性電極層との間に存在し,発光層を含む有機積層構造と, 前記正孔注入性電極層または電子注入性電極層の前記有機積層構造に隣接する面とは反対側面に当接するかまたは隣接して形成されている散乱層と, 前記散乱層の上部に形成されている平坦層と,を含む, 有機発光素子。」 イ 相違点 本願発明1と引用発明は,次の点で相違する。 (相違点1) 「有機積層構造」について,本願発明1は,「屈折率が1.7以下の低屈折有機層」を含み,「前記発光層は,屈折率が1.7?1.8の電子受容性有機化合物を含み」,「前記低屈折有機層は,前記電子受容性有機化合物および屈折率が1.66以下の低屈折材料を含み,屈折率が前記発光層よりも小さく,厚さが70nm以上であって」,「前記低屈折有機層において,前記電子受容性有機化合物100重量部に対して150重量部以下で前記低屈折材料が含まれ」という構成を具備するのに対し,引用発明は,この構成を具備するものとは特定されていない点。 (相違点2) 「平坦層」について,本願発明1は「屈折率が1.8?3.5である(ただし,前記平坦層の屈折率が1.8の場合を除く。)」という構成を具備するのに対して,引用発明は,この構成を具備するものとは特定されていない点。 (3) 判断 事案に鑑みて,相違点2について判断する。 引用文献1には,引用発明の「平坦化層」として屈折率が1.8を超えるものを採用することの動機付けとなる記載がないばかりか,以下のとおり,これを阻害する記載があるといえる。 すなわち,引用発明の平坦化層について,引用文献1の[0061]には,「その表面に透明導電層や有機発光層を形成した際に短絡が生じない程度の平滑性が得られれば良く,一般的な樹脂を使用することができる」と記載されている。 ここで,一般的な樹脂の屈折率は,高くても1.7程度である。 また,引用発明の平坦化層について,引用文献1の[0061]には,「光散乱層との接着性の点や屈折率差がないことが好ましいため,光散乱層のマトリクス樹脂を用いることが好ましい。」とも記載されている。そして,引用文献1の[0028]には,「光散乱層は,透明基材との屈折率差が小さいことが良く,屈折率1.65以上,1.80以下の複合材料を用いることが好ましく,さらに屈折率1.65以上,1.75以下がより好ましい。」と記載されている。 これら記載は,いずれも,引用発明の「平坦化層」として,屈折率が1.8を超えるものを採用することを阻害する記載といえる。 加えて,引用文献1の[0072]には,「本発明において,有機エレクトロルミネッセンス層で発光した光を,光散乱層に効率良く移動させるためには,透明導電層の屈折率が1.7に近いことが好ましい。従って,本発明の透明導電層は,銀ナノワイヤ等の金属ナノワイヤを導電性高分子材料とともに塗布して形成されたものが良く,屈折率が1.6以上,1.8以下であることが好ましく,膜厚が0.1μm以上,0.5μm以下であることが好ましい。」と記載されている。 ここで,有機エレクトロルミネッセンス層で発光した光を,光散乱層に効率良く移動させるためには,引用発明の「平坦化層」の屈折率が,引用発明の「透明導電層」の屈折率よりも高くない方が好ましい。 したがって,この記載も,引用発明の「平坦化層」として,屈折率が1.8を超えるものを採用することを阻害する記載といえる。 ところで,有機エレクトロルミネッセンス素子の「透明導電層」の材料としては,ITO(酸化インジウムスズ)が一般的であるところ,ITOの屈折率は1.85程度である。そして,引用発明の「透明導電層」の材料としてITOを採用した場合における,引用発明の「透明導電層」の屈折率は,例えば,1.85であっても良いと考えられる。 しかしながら,引用文献1の各実施例([0159]?[0204])の平坦化層の屈折率は,最も高いものでも,透明基板12における1.80である([0170]及び[0185])。そして,引用文献1には,この透明基板12上にITO(屈折率1.85)を材料とする透明導電層を形成して有機EL素子14を形成した実施例が記載され([0204],[0197],[0194]及び[0186]),その評価は,「外部取り出し量子効率が高く,しかも観察角度による輝度および色変化が小さく,白色照明として優れている」([0204])というものである。 そうしてみると,引用文献1には,たとえ引用発明の「透明導電層」としてITOを採用する場合であっても,平坦化層の屈折率は1.80であって良いことが記載されているといえる。 以上のとおりであるから,引用文献1の記載内容を考慮すると,たとえ当業者といえども,引用発明において相違点2に係る本願発明1の構成を採用することが,容易であるとはいえない。 したがって,本願発明1は,引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 (4) 請求項2?請求項14について 請求項2?請求項14に係る発明も,相違点2に係る本願発明1の構成を具備するものである。 したがって,請求項2?請求項14に係る発明も,本願発明1と同じ理由により,引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。 (5) 小括 当合議体の拒絶の理由によっては,もはや本件出願を拒絶することはできない。 3 原査定についての判断 (1) 引用例1の記載 原査定の拒絶の理由で引用され,本件出願の優先日前に頒布された刊行物である引用例1には,以下の記載がある。 ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 電極,エレクトロルミネッセンス層,高屈折率層及び透光体がこの順に配置されてなるエレクトロルミネッセンス素子において, 高屈折率層及び透光体のそれぞれの光取り出し面側に,光散乱機能を有する層を有することを特徴とするエレクトロルミネッセンス素子。 …(省略)… 【請求項8】 高屈折率層が,透明電極層及び透明電極層と同等の屈折率を有する中間層とを有することを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一項に記載のエレクトロルミネッセンス素子。」 イ 「【技術分野】 【0001】 本発明は,エレクトロルミネッセンス素子に係り,詳しくは光取り出し効率に優れたエレクトロルミネッセンス素子に関するものである。 …(省略)… 【背景技術】 【0002】 …(省略)… 【0004】 エレクトロルミネッセンスディスプレイにおいては,エレクトロルミネッセンス層で発光した光が効率的に取り出されることが好ましいが,発光した光のうち臨界角に近い角度で出射された光は,出射面の透明基板と空気との界面で全反射し,透明基板の内部を面方向に全反射しながら進む導波光(基板モード)となる。また,透明電極層と透明基板との界面で全反射し,透明電極内部,あるいは透明電極とエレクトロルミネッセンス層内部を面方向に進む導波光(薄膜モード)も存在し,これらの導波光は素子内部で吸収されて減衰してしまい,外部へ取り出されない。 …(省略)… 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 本発明は,電極,エレクトロルミネッセンス層,高屈折率層及び透光体がこの順に配置されてなるエレクトロルミネッセンス素子において,透光体と空気との界面で全反射し,透光体内を面方向に進む導光波のみならず,高屈折率層と透光体との界面で全反射して高屈折率層内部,或いは高屈折率層とエレクトロルミネッセンス層内部を面方向に進む導光波をも低減して,光取り出し効率の高いエレクトロルミネッセンス素子を提供することを課題とする。」 ウ 「【発明を実施するための最良の形態】 【0017】 …(省略)… 【0019】 図1は本発明のエレクトロルミネッセンス素子の実施の形態を示す模式的な断面図である。 (当合議体注:図1は以下の図である。 ) 【0020】 本発明のエレクトロルミネッセンス素子は,電極1,エレクトロルミネッセンス層2,高屈折率層3及び透光体4がこの順に配置されてなり,高屈折率層3と透光体4のそれぞれの光取り出し面側に光散乱機能を有する層5A,5Bが設けられているものである。 …(省略)… 【0023】 (1)電極 電極1は,通常陰極として機能する。 …(省略)… 【0026】 低仕事関数金属から成る陰極を保護する目的で,エレクトロルミネッセンス層と反対となる側にさらに,仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層することは素子の安定性を増す上で有効である。この目的のために,アルミニウム,銀,銅,ニッケル,クロム,金,白金等の金属が使われる。さらに,陰極とエレクトロルミネッセンス層との界面にLiF,MgF_(2),Li_(2)O等の極薄絶縁膜(膜厚0.1?5nm)を挿入することにより,素子の効率を向上させることができる。 …(省略)… 【0028】 (2)エレクトロルミネッセンス層 エレクトロルミネッセンス層2は,電界が印加されることにより発光現象を示す物質により成膜されたものであり,単層構造であっても,機能分離した多層構造であってもよい。 …(省略)… 【0031】 (3)高屈折率層 本発明でいう高屈折率層3とは,エレクトロルミネッセンス層2を含む薄膜内部を面方向に進む導波光を取り出すために設けられる,屈折率が通常1.55以上,好ましくは1.6以上,さらに好ましくは1.7以上,最も好ましくは1.9以上,特に好ましくは2.0以上,通常2.5以下,好ましくは2.2以下の層をいう。 …(省略)… 【0032】 高屈折率層3は,少なくとも透明電極層3Aを有する。高屈折率層3は,透明電極層3Aの一層からなるものであってもよく,また,図1に示す如く,透明電極層3Aとこれと同等の屈折率を有する中間層3Bとが組み合わされてなる層であってもよい。 …(省略)… 【0036】 〈1〉透明電極層 透明電極層3Aとは,通常エレクトロルミネッセンス素子の陽極として作用する。 …(省略)… 【0041】 〈2〉透明電極層と同等の屈折率を有する中間層(以下,中間層と称す。) 中間層3Bは透明電極層3Aに対して,図1に示す如く,光取り出し面側に設けても,エレクトロルミネッセンス層2側に設けても良い。…(省略)…ただし,図1に示す如く,絶縁性の中間層3Bを透明電極層3Aの光取り出し面側に設ける方がより好ましい。 …(省略)… 【0051】 (4)透光体 透光体4は通常エレクトロルミネッセンス素子の基板となるものである。 …(省略)… 【0057】 (5)光散乱機能を有する層 本発明は,高屈折率層3及び透光体4のそれぞれの光取り出し面側に,光散乱機能を有する層5A,5Bを有することを特徴とする。 …(省略)… 【0080】 [照明装置の構成] 本発明の照明装置は,上述のような本発明のエレクトロルミネッセンス素子を光源とするものである。」 エ 「【実施例】 【0083】 …(省略)… 【0086】 〈実施例1〉 透光体(基板)として,旭硝子(株)製無アルカリガラスの光取り出し面に,(株)アドマテックス製シリカ粒子SO-G2(平均粒径600nm,屈折率1.5)をシリケートオリゴマー(オリゴマー硬化後の屈折率1.5)に分散した前駆体塗布液をスピンコートし,250℃で硬化し,光散乱機能を有する層を形成する。この光散乱機能を有する層の表面粗さRaは200nm程度であり,光線透過率は50%程度である。 …(省略)… 【0092】 〈実施例2〉 透光体(透明基板)として旭硝子(株)製無アルカリガラスの両面に,(株)アドマテックス製シリカ粒子SO-G2(平均粒径600nm)をシリケートオリゴマーに分散した前駆体塗布液をディップコートし,250℃で硬化し,光散乱機能を有する層を形成する。この光散乱機能を有する層の表面粗さRa,片面だけでの光線透過率は実施例1と同様と考えられる。 【0093】 透明電極層側となる面に石原産業(株)製チタニア粒子TTO-55D(平均粒径30nm)を分散した三菱化学(株)製UV硬化樹脂UV1000モノマー塗布液をスピンコートし,硬化して,高屈折率層とする。プリズムカプラーにより,このチタニア粒子複合UV硬化樹脂層は屈折率1.8程度,膜厚7μm程度で,表面粗さRaは2nm程度である。 【0094】 このチタニア粒子複合UV硬化樹脂層上にITOを膜厚100nm程度で常温スパッタして透明電極層を形成し,さらに正孔注入層及び正孔輸送層を形成し,この上にトリス(8-ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体を膜厚150nm程度で蒸着し,発光層を形成する。その後,発光層上にAlを膜厚100nm程度蒸着し,有機エレクトロルミネッセンス素子を形成する。」 (2) 引用例1発明 引用例1には,実施例2として,次の発明が記載されている(以下「引用例1発明」という。)。 「 透明基板として無アルカリガラスの両面に,シリカ粒子(平均粒径600nm)をシリケートオリゴマーに分散した前駆体塗布液をディップコートし,250℃で硬化し,光散乱機能を有する層を形成し,この光散乱機能を有する層の表面粗さRaは200nm程度であり, 透明電極層側となる面にチタニア粒子(平均粒径30nm)を分散したUV硬化樹脂モノマー塗布液をスピンコートし,硬化して,高屈折率層とし,このチタニア粒子複合UV硬化樹脂層は屈折率1.8程度,膜厚7μm程度で,表面粗さRaは2nm程度であり, このチタニア粒子複合UV硬化樹脂層上にITOを膜厚100nm程度で常温スパッタして透明電極層を形成し,さらに正孔注入層及び正孔輸送層を形成し,この上にトリス(8-ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体を膜厚150nm程度で蒸着し,発光層を形成し,その後,発光層上にAlを膜厚100nm程度蒸着し形成した, 有機エレクトロルミネッセンス素子。」 (3) 一致点及び相違点 ア 一致点 有機エレクトロルミネッセンス素子に関する技術常識を勘案すると,本願発明1と引用例1発明は,次の構成で一致する。 「 電子注入性電極層と正孔注入性電極層と, 前記電子注入性電極層と正孔注入性電極層との間に存在し,発光層を含む有機積層構造と, 前記正孔注入性電極層または電子注入性電極層の前記有機積層構造に隣接する面とは反対側面に当接するかまたは隣接して形成されている散乱層と, 前記散乱層の上部に形成されている平坦層と,を含み, 前記発光層は,屈折率が1.7?1.8の電子受容性有機化合物を含む, 有機発光素子。」 イ 相違点 本願発明1と引用例1発明は,以下の点で相違する。 (相違点A) 「有機積層構造」について,本願発明1は,「屈折率が1.7以下の低屈折有機層」を含み,「前記低屈折有機層は,前記電子受容性有機化合物および屈折率が1.66以下の低屈折材料を含み,屈折率が前記発光層よりも小さく,厚さが70nm以上であって」,「前記低屈折有機層において,前記電子受容性有機化合物100重量部に対して150重量部以下で前記低屈折材料が含まれ」という構成を具備するのに対し,引用例1発明は,この構成を具備するものとは特定されていない点。 (相違点B) 「平坦層」について,本願発明1は,「屈折率が1.8?3.5である(ただし,前記平坦層の屈折率が1.8の場合を除く。)」という構成を具備するのに対し,引用例1発明は,「屈折率1.8程度」である点。 (4) 判断 事案に鑑みて,相違点Aについて判断する。 引用例1の【0026】には,素子の効率を向上させることを目的として,「陰極とエレクトロルミネッセンス層との界面にLiF,MgF_(2),Li_(2)O等の極薄絶縁膜」を設けることが記載されている。そして,本願発明1の「屈折率が1.66以下の低屈折材料」には,「フッ化リチウム(LiF),フッ化マグネシウム(MgF_(2))」(請求項6)が含まれる。 そうしてみると,引用例1発明において,電極(陰極)とエレクトロルミネッセンス層との界面に,本願発明1でいう「屈折率が1.66以下の低屈折材料」を含む「低屈折有機層」を設けることは,引用例1の記載に従う当業者が,容易に発明できたことといえる。 しかしながら,引用例1に記載された「極薄絶縁膜」は,「膜厚0.1?5nm」であるから,本願発明1の「低屈折率有機層」における「厚さが70nm以上」という要件を満たさない。 したがって,たとえ当業者といえども,引用例1発明,及び上記引用例1に記載された示唆に基づいて,本願発明1を容易に発明することができたということはできない。 請求項2?請求項14に係る発明についても,同様である。 (5) 小括 原査定の理由によっても,本件出願を拒絶することはできない。 4 むすび 以上のとおり,原査定の理由及び当合議体の拒絶の理由によっては,本件出願を拒絶することはできない。 また,他に本件出願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2018-10-29 |
出願番号 | 特願2015-501590(P2015-501590) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H05B)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 横川 美穂 |
特許庁審判長 |
中田 誠 |
特許庁審判官 |
樋口 信宏 関根 洋之 |
発明の名称 | 有機発光素子 |
代理人 | 園田・小林特許業務法人 |