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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 F02D
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F02D
管理番号 1345601
審判番号 不服2017-19115  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-12-22 
確定日 2018-11-20 
事件の表示 特願2013-232646「車両のエンジン自動停止制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成27年5月18日出願公開、特開2015-94242、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年11月11日の出願であって、平成29年5月16日付け(発送日:平成29年5月23日)で拒絶の理由が通知され、その指定期間内の同年6月19日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年11月17日付け(発送日:同年11月28日)で拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月22日に拒絶査定不服審判が請求され、その後、平成30年8月8日付け(発送日:同年8月14日)で当審より拒絶の理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、その指定期間内の同年9月21日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は、平成30年9月21日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された以下の通りのものと認める。
「【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンを始動するためのモータと、
任意の制動力を発生可能な制動力制御手段と、
前記モータと前記制動力制御手段とに電力を供給する一つのバッテリと、
路面勾配が所定閾値以下のときは前記エンジンの自動停止を許可し、その後、所定の条件が成立したときは前記エンジンを自動停止し、所定の条件が成立しなくなったときは前記モータを駆動して前記エンジンを再始動するエンジン制御手段と、
前記エンジンの自動停止からの発進時に、前記制動力制御手段を制御して勾配に応じた制動力を付与するヒルホールド制御手段と、
前記モータを駆動して前記エンジンを再始動するときの前記一つのバッテリの最低電圧が所定電圧以下のときは、前記最低電圧が前記所定電圧より高いときよりも前記所定閾値を小さな値に変更する閾値設定手段と、
を備えたことを特徴とする車両のエンジン自動停止制御装置。
【請求項2】
エンジンと、
前記エンジンを始動するためのモータと、
任意の制動力を発生可能な制動力制御手段と、
前記モータと前記制動力制御手段とに電力を供給する一つのバッテリと、
路面勾配が所定閾値以下のときは前記エンジンの自動停止を許可し、その後、所定の条件が成立したときは前記エンジンを自動停止し、所定の条件が成立しなくなったときは前記モータを駆動して前記エンジンを再始動するエンジン制御手段と、
前記エンジンの自動停止からの発進時に、前記制動力制御手段を制御して勾配に応じた制動力を付与するヒルホールド制御手段と、
前記モータを駆動して前記エンジンを再始動するときの前記一つのバッテリの最低電圧が前記制動力制御手段の作動を保証する保証電圧よりも低いときは、前記所定閾値を小さな値に変更する閾値設定手段と、
を備えたことを特徴とする車両のエンジン自動停止制御装置。」

第3 引用文献、引用発明等
1.引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用され、本願出願前に頒布された引用文献1(特開2012-255383号公報)には、「アイドルストップ車両」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている(なお、下線部は理解の一助のために当審が付したものである。以下同様。)。

(1)引用文献1の記載事項
ア 「【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。図1は、本発明の実施形態に係るアイドルストップ装置1の概略構成図である。本実施形態のアイドルストップ車両(以下、車両という)は、アイドルストップ装置1を備えている。アイドルストップ装置1は、公知のアイドルストップ装置のように、車両走行時に交差点で停止するなどして、所定のアイドルストップ条件(停止条件)が成立したときにエンジン11(内燃機関)の運転を自動停止させ、その後、所定の再始動条件が成立したときにエンジン11を再始動させ車両を発進させる。
【0017】
アイドルストップ条件としては、車速0、ブレーキ(車両のサービスブレーキ)ONといった基本開始条件の他に、ブレーキの作動油圧の状態、エンジン11の温度状態、バッテリの状態、エアコンの作動要求、アクセル開度等が設定されている。図1に示すように、車両には、車両を制動する制動装置12(停車保持手段)が備えられている。制動装置12は、例えば車両のブレーキ装置であって、アイドルストップ装置1によるエンジン11の自動停止時及び再始動時に車両の移動を防止するように制動する機能を有する。
【0018】
更に、車両には、バッテリの電圧低下による制動装置12の作動不良を防止するために、補助電源13(補助電源手段)及び電動ポンプ14(電気負荷)を備えている。補助電源13は、エンジン始動用モータに電力を供給する車両のバッテリとは別の電源装置であって、例えばバッテリやコンデンサ、あるいはこれらにDC-DCコンバータを追加して構成されている。電動ポンプ14は、補助電源13によって駆動され、制動装置12を作動可能とするように制動装置12に作動油を供給する機能を有する。」

イ 「【0020】
ECU10は、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM、不揮発性RAM等)及び中央演算処理装置(CPU)等を含んで構成されている。ECU10の入力側には、上記車速センサ2、傾斜角センサ3、ブレーキ圧センサ4及び冷却水温度センサ5が電気的に接続されており、これら各種センサからの検出情報が入力されるとともに、その他、車両のバッテリ劣化状態、バッテリ充電状態、エアコン作動スイッチ操作情報等の上記アイドルストップ条件に関する各種車両情報が入力される。
【0021】
ECU10の出力側には、エンジン11、制動装置12及び電動ポンプ14が接続され、その作動を制御可能としている。ECU10には、上記アイドルストップ装置1の制御部としてのアイドルストップ制御部20(自動停止制御手段)と、アイドルストップ装置1に関する機器の故障判定を行う故障判定部21(故障判定手段)を備えている。
【0022】
アイドルストップ制御部20は、ECU10に入力した上記各種情報から、上記のように、アイドルストップ条件が成立した場合にエンジン11を自動停止し、その後再始動条件が成立した場合にエンジン11を再始動させる。」

ウ 「【0027】
ステップS80では、補助電源故障検出フラグFbを0にクリアする。そして、本ルーチンを終了する。ステップS90では、ステップS30で入力した路面勾配θが第2の所定値θ2以下であるか否かを判別する。第2の所定値θ2は、第1の所定値θ1より小さい値であって、制動装置12の作動が不十分であっても、エンジン11の再始動時において、車両の移動が問題とならない範囲内で設定すればよい。路面勾配θが第2の所定値θ2以下である場合には、図3のステップS100に進む。路面勾配θが第2の所定値θ2より大きい場合には、本ルーチンを終了する。」

エ 「【0056】
また、故障判定があっても、路面勾配が第2の所定値θ2以下の低傾斜路では、自動停止を実行するので、自動停止の実行機会を増加させ、燃費を向上させることができる。次に、図8、9及び前述の図4、5を用いて、本発明の第3の実施形態について説明する。図8及び図9は、本発明の第3の実施形態のECU10におけるアイドルストップ制御の実行判定要領を示すフローチャートである。」

オ 「【0060】
ステップS850では、補助電源故障判定経験フラグFaがセットされているか否かを判別する。補助電源故障判定経験フラグFaがセットされている場合(Fa=1)には、ステップS860に進む。補助電源故障判定経験フラグFaがセットされていない場合(Fa=0)には、ステップS890に進む。ステップS860では、補助電源故障検出フラグFbが非セットであるか否かを判別する。補助電源故障検出フラグFbが非セットである場合(Fb=0)には、ステップS870に進む。補助電源故障検出フラグFbがセットされている場合(Fb=1)には、ステップS890に進む。
【0061】
ステップS870では、ステップS820で入力した路面勾配θが第1の所定値θ1以下であるか否かを判別する。路面勾配θが第1の所定値θ1以下である場合には、図9のステップS900に進む。路面勾配θが第1の所定値θ1を超える場合には、本ルーチンを終了する。ステップS880では、補助電源故障検出フラグFbを0にクリアする。そして、本ルーチンを終了する。
【0062】
ステップS890では、ステップS820で入力した路面勾配θが第2の所定値θ2以下であるか否かを判別する。路面勾配θが第2の所定値θ2以下である場合には、図9のステップS900に進む。路面勾配θが第2の所定値θ2を超える場合には、本ルーチンを終了する。図9に示すステップS900では、図5に示すエンジン自動停止可否判定処理のサブルーチンを実行し、アイドルストップ制御部20によるエンジン11の自動停止が可能であるか否かを判定する。そして、ステップS910に進む。
【0063】
ステップS910では、ステップS900でエンジン11の自動停止が可能であると判定した場合には、ステップS920に進む。エンジン自動停止が不可であると判定した場合には、本ルーチンを終了する。ステップS920では、アイドルストップ制御部20によるエンジン自動停止を実行する。そして、ステップS930に進む。
【0064】
ステップS930では、車速センサ2より車速Vを入力する。そして、ステップS940に進む。ステップS940では、ステップS930で入力した車速Vから、車両が停止中であるか否かを判別する。詳しくは、車速Vが0であるか、または0に近く設定した設定値以下であるか否かによって、車両が停止中であるか否かを判別する。車両が停止中である場合には、ステップS950に進む。車両が停止中でない場合には、ステップS1030に進む。
【0065】
ステップS950では、電動オプション故障検出フラグFcを非セット、即ち0にクリアする。そして、ステップS960に進む。ステップS960では、図5に示すエンジン再始動要否判定処理のサブルーチンを実行し、エンジン11の自動停止後の再始動が必要であるか否かを判定する。そして、ステップS970に進む。
【0066】
ステップS970では、ステップS960でエンジン11の再始動が必要であると判定した場合には、ステップS980に進む。エンジン11の再始動が不要であると判定した場合には、ステップS960に戻る。ステップS980では、アイドルストップ制御部20によるエンジン11の再始動を実行する。そして、ステップS990に進む。」

(2)引用発明1
上記(1)の記載事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則り整理すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。
「エンジン11と、前記エンジン11を始動するためのエンジン始動用モータと、車両を制動する制動装置12及び電動ポンプ14と、前記エンジン始動用モータに電力を供給するバッテリ及び前記制動装置12を作動可能な電動ポンプ14に電力を供給する補助電源13と、路面勾配θが所定値以下のときはエンジン自動停止可否判定処理のサブルーチンを実行し、自動停止可否判定処理のサブルーチンにおいてエンジン11の自動停止が可能であると判定した場合には、エンジン自動停止を実行し、その後、エンジン11の再始動が必要であると判定した場合には、再始動を実行するアイドルストップ制御部20と、エンジン11の自動停止時及び再始動時に制動装置12及び電動ポンプ14を作動して、車両の移動を防止するように制動するECU10と、補助電源故障検出フラグFbが非セット(Fb=0)である場合は、路面勾配θが第1の所定値θ1以下である際に自動停止可否判定処理を実行し、補助電源故障検出フラグFbがセットされている場合(Fb=1)は、路面勾配θが第1の所定値θ1より小さい値である第2の所定値θ2以下である際に自動停止可否判定処理を実行する手段と、を備えたアイドルストップ車両のエンジン自動停止制御装置。」

2.引用文献2
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された引用文献2(特開2011-247237号公報)には、「アイドルストップ車の制御装置」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。

(1)引用文献2の記載事項
ア 「【0016】
図1は本発明が適用されるアイドルストップ車1のアイドルストップおよびヒルホールド(ヒルスタートアシストコントロール)に関連する制御装置の構成を示し、2は車載の例えば12Vのバッテリ(鉛バッテリ)であり、負極は車体接地され、陽極はヒューズ3を介して図示省略したエンジン始動用モータ(セルモータ)に接続されている。
【0017】
4はアイドルストップ車1のアイドルストップECU(Electronic Control Unit)であり、本発明のアイドルストップ制御手段を形成するマイクロコンピュータ構成の制御部5および、本発明の昇圧電源供給手段を形成する昇圧コンバータ6を有する。
【0018】
制御部5は、図示省略した車内ネットワーク(CAN:controller area network)を介してアイドルストップ車1の燃料噴射ECU7、プッシュスタートECU8等の各種のECUおよび、本発明の路面勾配検出手段を形成する傾斜センサ9等の各種のセンサに接続され、燃料噴射ECU7からのエンジンキーの操作信号または、プッシュスタートECU8からのスタートボタン(図示せず)のプッシュ操作信号が、スタート操作信号として入力されることで、ドライバのスタート操作によるエンジンの最初の始動を認識し、後述するように、認識手段の認識結果にしたがってアイドルストップ制御を実施する。また、傾斜センサ9の出力により走行路の路面勾配を検出する。
【0019】
昇圧コンバータ6は、再始動を含むエンジンの始動時に、バッテリ2の電源がヒューズ3、イグニッションスイッチ10、ヒューズ11を介して給電され、制御部5からの駆動信号により動作してバッテリ2の電圧(バッテリ電圧)Vaを昇圧し、後述するようにバッテリ電圧Vaが例えば7?8Vに低下しても、それを所定の電圧(例えば12V)Vbに昇圧して出力する。なお、イグニッションスイッチ10はエンジンの始動時にオンする。
【0020】
12は昇圧コンバータ6の昇圧出力で動作するカーナビゲーション装置であり、バッテリ電圧Vaで動作していると、エンジンの始動等によりバッテリ電圧Vaが例えば12Vから7?8Vに急激に低下したときにリセット等が発生する車載の機器や装置の代表例であり、昇圧コンバータ6の昇圧出力で動作することにより前記リセット等の発生が防止される。
【0021】
13はアイドルストップ車1のブレーキアクチュエータであり、ブレーキECU(図示せず)およびブレーキ液圧制御バルブ(図示せず)を有し、バッテリ2の電源がヒューズ3、イグニッションスイッチ10、ヒューズ14を介して主電源端子(イグニッション電源端子)IGに給電され、昇圧コンバータ6の昇圧出力が補助電源端子(BS)に給電され、バッテリ2の電源と昇圧コンバータ6の昇圧出力をオアゲート処理し、両方の電圧Va、Vbの高い方が動作電源になる。
【0022】
そして、ブレーキアクチュエータ13は、ブレーキECUにより、マスタシリンダ15のマスタシリンダ圧を圧力センサ16で検出してブレーキペダルの踏み込みや踏み外し等を認識し、バッテリ電圧Vaが低下するエンジンの再始動時には、昇圧コンバータ6の昇圧出力が動作電源として給電されてブレーキ液圧制御バルブによりマスタシリンダ圧を保持してアイドルストップ車1の前輪の左右のホイルシリンダ17FL、17FRおよび後輪の左右のホイルシリンダ17RR、17RLにブレーキ力を付与してヒルホールド(ヒルスタートアシスト)を実施する。なお、本実施形態では上記ブレーキ液圧制御バルブはアイドルストップ時(所定の停止条件の成立)から作動するが、これに限られず、エンジンの再始動時(所定の再始動条件の成立)から作動するようにしてもよい。」

イ 「【0034】
図5はアイドルストップの制御を許可するか否かを決定するまでの上記構成に基づく制御部5の制御処理手順を示し、燃料噴射ECU7、プッシュスタートECU8からの操作信号の入力により、ドライバのスタート操作によるエンジンの最初の始動を認識すると、前記認識手段によるバッテリ電圧Va、昇圧電圧Vbの監視を開始し(ステップS1)、まず、昇圧コンバータ6の昇圧電圧Vbが第1条件を満足するか否かを判定し(ステップS2)、昇圧電圧Vbがねらい値以上で第1条件を満足すると、ステップS2をYESで通過してステップS3に移行し、第2条件を満足するか否かを判定する。そして、昇圧電圧Vbと低下したバッテリ電圧Vaとの差が一定以上で第2条件を満足すると、ステップS2をYESで通過して昇圧コンバータ6が正常であることを確認し、以降はアイドルストップ制御を許可して実施する(ステップS4)。
【0035】
一方、ステップS2において昇圧電圧Vbがねらい値より低く、第1条件を満足しなければ、昇圧コンバータ6は昇圧動作が正常でない(故障している)ことを確認し、ステップS2をNOで通過してステップS5に移行し、アイドルストップ制御を禁止する。この場合、アイドルストップ制御が実施されないので、ヒルホールドの制御も実施されず、エンジンの再始動時のずり下がり等は発生しない。なお、昇圧コンバータ6の故障はランプ点灯等でドライバに報知される。
【0036】
また、ステップS2はYESで通過したが、ステップS3がNOになって第2条件を満たさず、昇圧コンバータ6の昇圧動作が正常であるか否かを確認できなければ、ステップS3からステップS6に移行し、エンジンの始動後、アイドルストップの通常の停止条件の成立を待ち、その停止条件が成立すると、ステップS6をYESで通過してステップS7に移行する。
【0037】
そして、昇圧コンバータ6の昇圧動作が正常であるか否かを確認できなければ、路面勾配が所定範囲内であることをアイドルストップの所定の停止条件に含めるため、傾斜センサ9の検出勾配から、アイドルストップ車1の走行路の路面勾配が所定範囲内であるか否か、換言すれば、走行路が平坦路か否かを判定し、平坦路でなければ、ヒルホールドによるアイドルストップ車1のずり下がり等の可能性があるので、ステップS7をNOで通過してステップS8に移行し、今回はアイドルストップの制御を禁止してステップS6に戻り、平坦路でのアイドルストップを待つ。
【0038】
ステップS7において、傾斜センサ9の検出勾配から平坦路であると判定すると、ステップS7をYESで通過してステップS9に移行し、今回のアイドルストップの制御を許可してステップS10に移行し、アイドルストップ制御手段により、アイドルストップの制御を実施してエンジンを自動停止する。
【0039】
さらに、ステップS10からステップS11に移行して所定の再始動条件の成立を待ち、所定の再始動条件が成立すると、エンジン始動用モータを駆動してエンジンを再始動する。このとき、ブレーキアクチュエータ13は、ブレーキECUによりブレーキペダルの踏み外しを認識してヒルホールドの制御を実施する。」

(2)引用発明2
上記(1)の記載事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則り整理すると、引用文献2には、以下の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

「エンジンと、前記エンジンを始動するためのエンジン始動用モータと、ブレーキ力を付与してヒルホールドを実施するブレーキアクチュエータ13と、前記エンジン始動用モータに電力を供給するバッテリ2並びに前記ブレーキアクチュエータ13に電力を供給するバッテリ2及び昇圧コンバータ6と、バッテリ電圧Vaと昇圧コンバータの昇圧電圧Vbとの差が所定電圧以内の場合は、勾配が所定範囲内(平坦路)のときに、アイドルストップを許可し、所定の再始動条件が成立すると、前記エンジン始動用モータを駆動して前記エンジンを再始動する制御部5と、再始動時にブレーキアクチュエータ13を制御して、ブレーキ力を付与するブレーキECUとを備えたアイドルストップ車の制御装置。」

3.引用文献3
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された引用文献3(国際特許公開第2012/046299号)(特に、段落[0058]ないし[0065]を参照。)には、次の事項が記載されている。
「ブレーキホールド制御の実行中にエンジン10が始動される場合、出口側ブレーキ液圧Peの目標値を増加させるものにおいて、当該目標値を、路面の勾配が大きい場合には、路面の勾配が小さい場合よりも大きな値とすること。」

4.引用文献4
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された引用文献4(特開2006-131121号公報)(特に、段落【0046】及び【0047】を参照。)には、次の事項が記載されている。
「アイドルストップ制御によるエンジン100停止中にも、ホイールシリンダ336にブレーキ液圧を作用させるヒルホールド制御において、ホイールシリンダ336に作用させるブレーキ液圧を、傾斜センサ241で検出した車両の傾斜に応じて、傾斜が急なほど大きくなるようにすること。」

5.引用文献5
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された引用文献5(特開2009-41457号公報)(特に、請求項4及び【0016】ないし【0020】を参照。)には、次の事項が記載されている。
「車両の停車中にブレーキ液圧を保持するヒルホルダ機構、
前記エンジンの自動停止中に、少なくとも前記ヒルホルダ機構に電力を供給するメインバッテリ、
始動モータに電力を供給することによって、前記自動停止中のエンジンを再始動させるサブバッテリ、
前記メインバッテリから前記始動モータへの電力供給とその供給停止とを切り換える切換手段、及び、
前記サブバッテリの劣化状態を検出する劣化検出手段、をさらに備え、
自動停止始動制御手段は、
前記エンジンの自動停止中に、前記再始動条件の一つとして前記劣化検出手段により前記サブバッテリの劣化が検出されたときには、前記切換手段によって前記メインバッテリから前記始動モータに電力を供給して当該始動モータを駆動させることにより、前記エンジンを再始動させる一方、
前記サブバッテリの劣化が検出されても路面傾斜角算出手段によって算出された路面傾斜角が所定値よりも大きいときには、前記切換手段によって前記メインバッテリから前記始動モータへの電力供給を停止すると共に、前記エンジンのストール処理を実行するエンジンの自動停止装置。」

第4 対比・判断
1.本願発明1について
(1)本願発明1と引用発明1との対比・判断
本願発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「エンジン11」は、その機能、構成および技術的意義からみて本願発明1の「エンジン」に相当し、以下同様に、「エンジン始動用モータ」は、「エンジンを始動するためのモータ」に、「車両を制動する制動装置12及び電動ポンプ14」は「任意の制動力を発生可能な制動力制御手段」に、「路面勾配θが所定値以下のときはエンジン自動停止可否判定処理のサブルーチンを実行」することは「路面勾配が所定閾値以下のときはエンジンの自動停止を許可」することに、「自動停止可否判定処理のサブルーチンにおいてエンジン11の自動停止が可能であると判定した場合には、エンジン自動停止を実行」することは「所定の条件が成立したときはエンジンを自動停止」することに、「エンジン11の再始動が必要であると判定した場合には、再始動を実行」することは「所定の条件が成立しなくなったときは前記モータを駆動して前記エンジンを再始動」することに、「アイドルストップ制御部20」は「エンジン制御手段」に、「アイドルストップ車両」は「車両」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明1の「エンジン11の自動停止時及び再始動時に制動装置12及び電動ポンプ14を作動して、車両の移動を防止するように制動するECU10」と本願発明1の「エンジンの自動停止からの発進時に、前記制動力制御手段を制御して勾配に応じた制動力を付与するヒルホールド制御手段」とは「エンジンの自動停止からの発進時に、前記制動力制御手段を制御して制動力を付与するヒルホールド制御手段」という限りにおいて一致する。
また、引用発明1の「補助電源故障検出フラグFbが非セット(Fb=0)である場合は、路面勾配θが第1の所定値θ1以下である際に自動停止可否判定処理を実行し、補助電源故障検出フラグFbがセットされている場合(Fb=1)は、路面勾配θが第1の所定値θ1より小さい値である所定値θ2以下である際に自動停止可否判定処理を実行する手段」と本願発明1の「前記モータを駆動して前記エンジンを再始動するときの前記一つのバッテリの最低電圧が所定電圧以下のときは、前記最低電圧が前記所定電圧より高いときよりも前記所定閾値を小さな値に変更する閾値設定手段」とは「電源の状態を検出し、前記所定閾値を小さな値に変更する閾値変更手段」という限りにおいて一致する。
したがって、両者の一致点及び相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「エンジンと、前記エンジンを始動するためのモータと、任意の制動力を発生可能な制動力制御手段と、路面勾配が所定閾値以下のときは前記エンジンの自動停止を許可し、その後、所定の条件が成立したときは前記エンジンを自動停止し、所定の条件が成立しなくなったときは前記モータを駆動して前記エンジンを再始動するエンジン制御手段と、エンジンの自動停止からの発進時に前記制動力制御手段を制御して制動力を付与するヒルホールド制御手段と、電源の状態を検出し、前記所定閾値を小さな値に変更する閾値変更手段と、を備えた車両のエンジン自動停止制御装置。」

[相違点1]
「電源の状態を検出し、前記所定閾値を小さな値に変更する閾値変更手段」に関して、本願発明1においては、「モータと制動力制御手段とに電力を供給する一つのバッテリ」を備え、「前記モータを駆動して前記エンジンを再始動するときの前記一つのバッテリの最低電圧が所定電圧以下のときは、前記最低電圧が前記所定電圧より高いときよりも前記所定閾値を小さな値に変更する閾値設定手段」であるのに対し、引用発明1においては、「エンジン始動用モータに電力を供給するバッテリと制動装置12を作動可能な電動ポンプ14に電力を供給する補助電源13」を備え、「補助電源故障検出フラグFbが非セット(Fb=0)である場合は、路面勾配θが第1の所定値θ1以下である際に自動停止可否判定処理を実行し、補助電源故障検出フラグFbがセットされている場合(Fb=1)は、路面勾配θが第1の所定値θ1より小さい値である所定値θ2以下である際に自動停止可否判定処理を実行する手段」を備える点。

[相違点2]
「エンジンの自動停止からの発進時に前記制動力制御手段を制御して制動力を付与するヒルホールド制御手段」に関して、本願発明1においては「勾配に応じた」制動力を付与するのに対し、引用発明1はかかる事項を備えるか明らかでない点。

相違点1について検討する。
引用発明1は、エンジンの再始動時におけるバッテリ電圧の低下時にブレーキの保持への影響を回避するために、補助電源装置を備えた車両を前提とする発明であるから(引用文献1の段落【0003】ないし【0006】を参照。)、引用発明1において、「エンジン始動用モータに電力を供給するバッテリ及び制動装置12を作動可能な電動ポンプ14に電力を供給する補助電源13」を、「エンジン始動用モータと制動装置12を作動可能な電動ポンプ14とに電力を供給する一つのバッテリ」とする動機付けは存在しない。
仮に、「エンジン始動用モータと制動装置12を作動可能な電動ポンプ14とに電力を供給する一つのバッテリ」とすることができたとしても、引用文献1の段落【0041】には、「ステップS500でバッテリの充電量が80%未満であると判定した場合、ステップS510でエアコンの作動スイッチがONになっていると判定した場合、ステップS520でエンジンの冷却水温が60度未満であると判定した場合、ステップS530でブレーキマスタシリンダの油圧Pが基準ブレーキ圧Ps未満であると判定した場合、またはS540でアクセル開度が0より大きいと判定された場合には、ステップS560に進む。」、段落【0042】には、「ステップS560では、エンジン再始動要と判定する。そして、本サブルーチンをリターンする。」と記載されていることから、引用発明1は、補助電源が故障しているときは、路面勾配と比較する所定値を変更しているものの、バッテリの電圧が低下しているときは、上記所定値の変更制御を行わず、直ちに、再始動の制御を行うものである。
そうしてみると、引用発明1においては、電源がバッテリと補助電源で構成されているところ、それらを一つのバッテリとした上で、モータを駆動してエンジンを再始動するときの当該一つのバッテリの最低電圧が所定電圧以下のときは、前記最低電圧が前記所定電圧より高いときよりも前記所定閾値を小さな値となるように変更することは、当業者が容易に想到し得るものではない。
また、引用文献3ないし5の記載事項は、上記「第3」の「3.」ないし「5.」のとおりであり、電源を一つのバッテリとした上で、モータを駆動してエンジンを再始動するときの当該一つのバッテリの最低電圧が所定電圧以下のときは、前記最低電圧が前記所定電圧より高いときよりも前記所定閾値を小さな値となるように変更することについて開示又は示唆するものではなく、引用文献3ないし5の記載事項を参酌しても、相違点1に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものではない。
したがって、相違点2の検討をするまでもなく、本願発明1は、引用発明1及び引用文献3ないし5の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本願発明1と引用発明2との対比・判断
本願発明1と引用発明2とを対比すると、引用発明2の「エンジン」は、その構成および技術的意義からみて本願発明1の「エンジン」に相当し、以下、同様に、「エンジン始動用モータ」は「エンジンを始動するためのモータ」に、「ブレーキ力を付与してヒルホールドを実施するブレーキアクチュエータ13」は「任意の制動力を発生可能な制動力制御手段」に、「勾配が所定範囲内(平坦路)のときに、アイドルストップを許可」することは「路面勾配が所定閾値以下のときはエンジンの自動停止を許可」することに、「所定の再始動条件が成立すると、前記モータを駆動して前記エンジンを再始動」することは「所定の条件が成立しなくなったときは前記モータを駆動して前記エンジンを再始動」することに、「アイドルストップ車」は「車両」に、「制御装置」は「エンジン自動停止制御装置」に、それぞれ相当する。
したがって、両者の一致点及び相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「エンジンと、前記エンジンを始動するためのモータと、任意の制動力を発生可能な制動力制御手段と、路面勾配が所定閾値以下のときは前記エンジンの自動停止を許可し、その後、所定の条件が成立したときは前記エンジンを自動停止し、所定の条件が成立しなくなったときは前記モータを駆動して前記エンジンを再始動するエンジン制御手段と、を備えた車両のエンジン自動停止制御装置。」

[相違点3]
本願発明1は、「モータと制動力制御手段とに電力を供給する一つのバッテリ」を備え、「前記モータを駆動して前記エンジンを再始動するときの前記一つのバッテリの最低電圧が所定電圧以下のときは、前記最低電圧が前記所定電圧より高いときよりも前記所定閾値を小さな値に変更する閾値設定手段」を備えたものであるのに対し、引用発明2は、「エンジン始動用モータに電力を供給するバッテリ2並びに前記ブレーキアクチュエータ13とに電力を供給する前記バッテリ2及び昇圧コンバータ6」を備え、バッテリ電圧と昇圧コンバータ電圧との差が所定電圧以内の場合は、勾配を所定範囲内(平坦路)のときに、アイドルストップの許可を判定するものである点。

[相違点4]
本願発明1は、「エンジンの自動停止からの発進時に、前記制動力制御手段を制御して勾配に応じた制動力を付与するヒルホールド制御手段」を備えたものであるのに対し、引用発明2は、「再始動時にブレーキアクチュエータ13を制御して、ブレーキ力を付与するブレーキECU」を備えたものである点。

相違点3について検討する。
引用発明2は、エンジンの再始動時においてバッテリ電圧が低下すると、ヒルホールド機能が正常に働かないことがあるために、昇圧コンバータを設けてヒルホールド機能の誤動作が発生しないようにした車両を前提とする発明であるから(引用文献2の段落【0003】ないし【0010】を参照。)、引用発明2において、「エンジン始動用モータに電力を供給するバッテリ2並びにブレーキアクチュエータ13に電力を供給する前記バッテリ2及び昇圧コンバータ6」を、「エンジン始動用モータとブレーキアクチュエータ13とに電力を供給する一つのバッテリ」とする動機付けは存在しない。
仮に、「エンジン始動用モータとブレーキアクチュエータ13とに電力を供給する一つのバッテリ」とすることができたとしても、引用発明2は、バッテリ及び昇圧コンバータ6全体の電圧の検知に基づき、エンジンの自動停止を許可する路面勾配の所定閾値を設定しているものではないので、引用発明2において、バッテリ2と昇圧コンバータ6とを一つのバッテリとした上で、モータを駆動してエンジンを再始動するときの当該一つのバッテリの電圧を検知し、当該一つのバッテリの最低電圧が所定電圧以下のときは、前記最低電圧が前記所定電圧より高いときよりも前記所定閾値を小さな値に変更することは、当業者が容易に想到し得るものではない。
また、引用文献3ないし5の記載事項は、上記「第3」の「3.」ないし「5.」のとおりであり、電源を一つのバッテリとした上で、モータを駆動してエンジンを再始動するときの当該一つのバッテリの最低電圧が所定電圧以下のときは、前記最低電圧が前記所定電圧より高いときよりも前記所定閾値を小さな値となるように変更することについて開示又は示唆するものではなく、引用文献3ないし5の記載事項を参酌しても、相違点3に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものではない。
したがって、相違点4の検討をするまでもなく、本願発明1は、引用発明2及び引用文献3ないし5の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。


2.本願発明2について
(1)本願発明2と引用発明1との対比・判断
本願発明2と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「エンジン11」は、その構成および技術的意義からみて本願発明1の「エンジン」に相当し、以下、同様に、「エンジン始動用モータ」は「エンジンを始動するためのモータ」に、「車両を制動する制動装置12及び電動ポンプ14」は「任意の制動力を発生可能な制動力制御手段」に、「路面勾配θが所定値以下のときはエンジン自動停止可否判定処理のサブルーチンを実行」することは「路面勾配が所定閾値以下のときはエンジンの自動停止を許可」することに、「自動停止可否判定処理のサブルーチンにおいてエンジン11の自動停止が可能であると判定した場合には、エンジン自動停止を実行」することは「所定の条件が成立したときはエンジンを自動停止」することに、「エンジン11の再始動が必要であると判定した場合には、再始動を実行」することは「所定の条件が成立しなくなったときは前記モータを駆動して前記エンジンを再始動」することに、「アイドルストップ制御部20」は「エンジン制御手段」に、「アイドルストップ車両」は「車両」に、それぞれ相当する。
そして、引用発明1の「エンジン11の自動停止時及び再始動時に制動装置12及び電動ポンプ14を作動して、車両の移動を防止するように制動するECU10」と本願発明2の「エンジンの自動停止からの発進時に、前記制動力制御手段を制御して勾配に応じた制動力を付与するヒルホールド制御手段」とは「エンジンの自動停止からの発進時に、前記制動力制御手段を制御して制動力を付与するヒルホールド制御手段」という限りにおいて一致する。
また、引用発明1の「補助電源故障検出フラグFbが非セット(Fb=0)である場合は、路面勾配θが第1の所定値θ1以下である際に自動停止可否判定処理を実行し、補助電源故障検出フラグFbがセットされている場合(Fb=1)は、路面勾配θが第1の所定値θ1より小さい値である所定値θ2以下である際に自動停止可否判定処理を実行する手段」と本願発明2の「前記モータを駆動して前記エンジンを再始動するときの前記一つのバッテリの最低電圧が前記制動力制御手段の作動を保証する保証電圧よりも低いときは、前記所定閾値を小さな値に変更する閾値設定手段」とは「電源の状態を検出し、前記所定閾値を小さな値に変更する閾値変更手段」という限りにおいて一致する。
したがって、両者の一致点及び相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「エンジンと、前記エンジンを始動するためのモータと、任意の制動力を発生可能な制動力制御手段と、路面勾配が所定閾値以下のときは前記エンジンの自動停止を許可し、その後、所定の条件が成立したときは前記エンジンを自動停止し、所定の条件が成立しなくなったときは前記モータを駆動して前記エンジンを再始動するエンジン制御手段と、エンジンの自動停止からの発進時に、前記制動力制御手段を制御して制動力を付与するヒルホールド制御手段と、電源の状態を検出し、前記所定閾値を小さな値に変更する閾値変更手段と、を備えた車両のエンジン自動停止制御装置。」

[相違点5]
「電源の状態を検出し、前記所定閾値を小さな値に変更する閾値変更手段」に関し、本願発明2においては、「モータと制動力制御手段とに電力を供給する一つのバッテリ」を備え、「モータを駆動してエンジンを再始動するときの一つのバッテリの最低電圧が前記制動力制御手段の作動を保証する保証電圧よりも低いときは、前記所定閾値を小さな値に変更する閾値設定手段」であるのに対し、引用発明1においては、「エンジン始動用モータに電力を供給するバッテリと制動装置12を作動可能な電動ポンプ14に電力を供給する補助電源13」を備え、「補助電源故障検出フラグFbが非セット(Fb=0)である場合は、路面勾配θが第1の所定値θ1以下である際に自動停止可否判定処理を実行し、補助電源故障検出フラグFbがセットされている場合(Fb=1)は、路面勾配θが第1の所定値θ1より小さい値である所定値θ2以下である際に自動停止可否判定処理を実行する手段」を備える点。

[相違点6]
「エンジンの自動停止からの発進時に前記制動力制御手段を制御して制動力を付与するヒルホールド制御手段」に関し、本願発明2においては「勾配に応じた」制動力を付与するのに対し、引用発明1はかかる事項を備えるか明らかでない点。

相違点5について検討する。
引用発明1は、エンジンの再始動時におけるバッテリ電圧の低下時にブレーキの保持への影響を回避するために、補助電源装置を備えた車両を前提とする発明であるから(引用文献1の段落【0003】ないし【0006】を参照。)、引用発明1において、「エンジン始動用モータに電力を供給するバッテリ及び制動装置12を作動可能な電動ポンプ14に電力を供給する補助電源13」を、「エンジン始動用モータと制動装置12を作動可能な電動ポンプ14とに電力を供給する一つのバッテリ」とする動機付けは存在しない。
仮に、「エンジン始動用モータと制動装置12を作動可能な電動ポンプ14とに電力を供給する一つのバッテリ」とすることができたとしても、引用文献1の段落【0041】には、「ステップS500でバッテリの充電量が80%未満であると判定した場合、ステップS510でエアコンの作動スイッチがONになっていると判定した場合、ステップS520でエンジンの冷却水温が60度未満であると判定した場合、ステップS530でブレーキマスタシリンダの油圧Pが基準ブレーキ圧Ps未満であると判定した場合、またはS540でアクセル開度が0より大きいと判定された場合には、ステップS560に進む。」、段落【0042】には、「ステップS560では、エンジン再始動要と判定する。そして、本サブルーチンをリターンする。」と記載されていることから、引用発明1は、補助電源が故障しているときは、路面勾配と比較する所定値を変更しているものの、バッテリの電圧が低下しているときは、上記所定値の変更制御を行わず、直ちに、再始動の制御を行うものである。
そうしてみると、引用発明1においては、電源がバッテリと補助電源とで構成されているところ、それを一つのバッテリとした上で、モータを駆動してエンジンを再始動するときの当該一つのバッテリの最低電圧を保証電圧と比較して、保証電圧よりも低いときには路面勾配と比較する所定閾値を小さな値となるように変更することは、当業者が容易に想到し得るものではない。
また、引用文献3ないし5の記載事項は、上記「第3」の「3.」ないし「5.」のとおりであり、電源を一つのバッテリとした上で、モータを駆動してエンジンを再始動するときの当該一つのバッテリの最低電圧を保証電圧と比較して、保証電圧よりも低いときには路面勾配と比較する所定閾値を小さな値となるように変更することについて開示又は示唆するものではなく、引用文献3ないし5の記載事項を参酌しても、相違点5に係る本願発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものではない。
したがって、相違点6の検討をするまでもなく、本願発明2は、引用発明1及び引用文献3ないし5の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本願発明2と引用発明2との対比・判断
本願発明2と引用発明2とを対比すると、引用発明2の「エンジン」は、その構成および技術的意義からみて本願発明2の「エンジン」に相当し、以下、同様に、「エンジン始動用モータ」は「エンジンを始動するためのモータ」に、「ブレーキ力を付与してヒルホールドを実施するブレーキアクチュエータ13」は「任意の制動力を発生可能な制動力制御手段」に、「勾配が所定範囲内(平坦路)のときに、アイドルストップを許可」することは「路面勾配が所定閾値以下のときはエンジンの自動停止を許可」することに、「所定の再始動条件が成立すると、前記モータを駆動して前記エンジンを再始動」することは「所定の条件が成立しなくなったときは前記モータを駆動して前記エンジンを再始動」することに、「アイドルストップ車」は「車両」に、「制御装置」は「エンジン自動停止制御装置」に、それぞれ相当する。
したがって、両者の一致点及び相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「エンジンと、前記エンジンを始動するためのモータと、任意の制動力を発生可能な制動力制御手段と、路面勾配が所定閾値以下のときは前記エンジンの自動停止を許可し、その後、所定の条件が成立したときは前記エンジンを自動停止し、所定の条件が成立しなくなったときは前記モータを駆動して前記エンジンを再始動するエンジン制御手段と、を備えた車両のエンジン自動停止制御装置。」

[相違点7]
本願発明2は、「モータと制動力制御手段とに電力を供給する一つのバッテリ」を備え、「モータを駆動してエンジンを再始動するときの一つのバッテリの最低電圧が前記制動力制御手段の作動を保証する保証電圧よりも低いときは、前記所定閾値を小さな値に変更する閾値設定手段」を備えたものであるのに対し、引用発明2は、「エンジン始動用モータに電力を供給するバッテリ2並びに前記ブレーキアクチュエータ13に電力を供給する前記バッテリ2及び昇圧コンバータ6」を備え、バッテリ電圧と昇圧コンバータ電圧との差が所定電圧以内の場合は、勾配を所定範囲内(平坦路)のときに、アイドルストップの許可を判定するものである点。

[相違点8]
本願発明2は、「エンジンの自動停止からの発進時に、前記制動力制御手段を制御して勾配に応じた制動力を付与するヒルホールド制御手段」を備えたものであるのに対し、引用発明2は、「再始動時にブレーキアクチュエータ13を制御して、ブレーキ力を付与するブレーキECU」を備えたものである点。

相違点7について検討する。
引用発明2は、エンジンの再始動時においてバッテリ電圧が低下すると、ヒルホールド機能が正常に働かないことがあるために、昇圧コンバータを設けてヒルホールド機能の誤動作が発生しないようにした車両を前提とする発明であるから(引用文献2の段落【0003】ないし【0010】を参照。)、引用発明2において、「エンジン始動用モータに電力を供給するバッテリ2並びにブレーキアクチュエータ13に電力を供給する前記バッテリ2及び昇圧コンバータ6」を、「エンジン始動用モータとブレーキアクチュエータ13とに電力を供給する一つのバッテリ」とする動機付けは存在しない。
仮に、「エンジン始動用モータとブレーキアクチュエータ13とに電力を供給する一つのバッテリ」とすることができたとしても、引用発明2は、バッテリ及び昇圧コンバータ6全体の電圧の検知に基づき、エンジンの自動停止を許可する路面勾配の所定閾値を設定しているものではないので、引用発明2において、バッテリ2と昇圧コンバータ6とを一つのバッテリとした上で、モータを駆動してエンジンを再始動するときの当該一つのバッテリの最低電圧を検知して保証電圧と比較し、保証電圧よりも低いときにはエンジンの自動停止を許可する路面勾配の所定閾値が小さな値となるように設定することは、当業者が容易に想到し得るものではない。
また、引用文献3ないし5の記載事項は、上記「第3」の「3.」ないし「5.」のとおりであり、電源を一つのバッテリとした上で、モータを駆動してエンジンを再始動するときの当該一つのバッテリの最低電圧を保証電圧と比較して、保証電圧よりも低いときには路面勾配と比較する所定閾値を小さな値となるように変更することについて開示又は示唆するものではなく、引用文献3ないし5の記載事項を参酌しても、相違点7に係る本願発明2の構成とすることは、当業者が容易に想到し得るものではない。
したがって、相違点8の検討をするまでもなく、本願発明2は引用発明2及び引用文献3ないし5の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断
1.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は以下の通りである。

本願の請求項1及び2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等一覧>
1.特開2012-255383号公報
2.特開2011-247237号公報
3.国際公開第2012/046299号(周知技術を示す文献)
4.特開2006-131121号公報(周知技術を示す文献)
5.特開2009-41457号公報(周知技術を示す文献)

2.原査定についての判断
本願発明1及び2は、上記「第4」で検討したとおり、引用発明1又は2及び引用文献3ないし5の記載事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
当審では、特許法第36条第6項第2号違反の拒絶理由として、次の二点を指摘した。
(1)請求項1に「前記一つのバッテリの電圧が低いときは、電圧が高いときよりも前記所定閾値を小さな値に変更する」との記載があるが、「低い」、「高い」の程度や比較の基準が不明確である。
(2)請求項1及び2に「前記一つのバッテリの電圧が・・・」との記載があるが、「バッテリの電圧」とは、どの時点における、あるいは、どのような状態におけるバッテリの電圧を意味するのか明確でない。

しかしながら、これらの点は、平成30年9月21日の手続補正により、請求項1については「前記モータを駆動して前記エンジンを再始動するときの前記一つのバッテリの最低電圧が所定電圧以下のときは、前記最低電圧が前記所定電圧より高いときよりも前記所定閾値を小さな値に変更する」と補正され、請求項2については「前記モータを駆動して前記エンジンを再始動するときの前記一つのバッテリの最低電圧が・・・」と補正された結果、拒絶理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり、原査定の拒絶理由及び当審が通知した拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2018-11-05 
出願番号 特願2013-232646(P2013-232646)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (F02D)
P 1 8・ 537- WY (F02D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 戸田 耕太郎  
特許庁審判長 金澤 俊郎
特許庁審判官 鈴木 充
水野 治彦
発明の名称 車両のエンジン自動停止制御装置  
代理人 綾田 正道  

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