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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A01K
管理番号 1345706
審判番号 不服2017-17232  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2018-12-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-11-21 
確定日 2018-11-08 
事件の表示 特願2012-247169「ルアー」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 5月22日出願公開、特開2014- 93971〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
平成24年11月 9日 出願
平成28年 6月24日 拒絶理由通知(同年6月28日発送)
平成28年 8月 4日 意見書・手続補正書
平成29年 1月18日 拒絶理由通知(最後、同年1月24日発送)
平成29年 3月23日 意見書・手続補正書
平成29年 8月 9日 補正の却下の決定(同年8月22日発送)
平成29年 8月 9日 拒絶査定(同年8月22日発送)
平成29年11月21日 審判請求書・手続補正書


第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成29年11月21日付けの手続補正を却下する。

1 補正の内容・目的
平成29年11月21日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、平成28年8月4日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1を次のように補正することを含むものである。
(補正前)
「多数の気泡を含んだ発泡体としてのボディと、このボディの密度よりも大きな密度を有する重錘とを備えており、
このボディは、上記重錘を収容する重錘収容空間とこの重錘収容空間以外の空間とを、その内部に備えた中空のボディであり、
上記ボディが樹脂組成物から形成されており、
上記樹脂組成物の基材がABS樹脂であるルアー。」

(補正後)
多数の気泡を含んだ発泡体としてのボディと、このボディの密度よりも大きな密度を有する重錘とを備えており、
このボディは、上記重錘を収容する重錘収容空間とこの重錘収容空間以外の空間とを、その内部に備えた中空のボディであり、
上記ボディが樹脂組成物から形成されており、
上記樹脂組成物の基材がABS樹脂であり、
上記重錘の密度DWの、上記ボディの密度DBに対する比(DW/DB)が、5以上であり、
上記重錘の質量WWの、上記ルアーの質量WLに対する比(WW/WL)が、0.20以上0.55以下であるルアー。」(なお、下線は補正箇所。)

上記補正事項は、請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である重錘とボディーについて、それらの密度の関係を「上記重錘の密度DWの、上記ボディの密度DBに対する比(DW/DB)が、5以上であり、」と限定し、同じく、重錘とルアーについて、それらの質量の関係を、「上記重錘の質量WWの、上記ルアーの質量WLに対する比(WW/WL)が、0.20以上0.55以下である」と限定するものであって、かつ補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正事項を含むものである。
また、上記補正事項は、出願当初の特許請求の範囲等に記載されていたものであるから、新規事項を追加するものではなく、同法第17条の2第3項の規定を満たしている。
そこで、本件補正後の上記請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 独立特許要件違反(特許法第29条第2項違反)
(1)刊行物
ア 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、国際公開第2011/092832号(以下「引用例1」という。)には、次の記載がある(下線は審決で付した。以下同様)。

(ア)「技術分野
[0001] 本発明は、球状重りが移動することによって重心が変化し得るルアーに関する。」

(イ)「発明が解決使用とする課題
[0007] 本発明の目的は、球状重りが移動することによって重心が変化し得るルアーにおいて、前方部に保持された球状重りが横ぶれ及び/又は縦ぶれすることを防止でき、且つ、製造コストを抑えることができるルアーを提供することである。
課題を解決するための手段
[0008] 本発明のルアーは、ボディと、前記ボディの前後方向に伸び且つボディ内に設けられた重り移動空間と、前記重り移動空間内に収容され且つ重り移動空間に沿ってボディの前後方向に移動可能な球状重りと、前記重り移動空間の前方側に設けられ且つ磁力を通じて前記球状重りを保持する保持部材と、を有し、前記重り移動空間の前方部と保持部材との間に、仕切壁が設けられており、前記仕切壁が、前記重り移動空間側から前記保持部材側に向かって次第に薄くなった傾斜面部を有する。
[0009] 本発明の好ましいルアーは、前記仕切壁に円形の孔が形成され、前記円形の孔の周囲に前記傾斜面部が形成されている。」

(ウ)「発明を実施するための形態
[0012][1つの実施形態に係るルアー]
図1は、本発明のルアーの側面図であり、図2及び3は、図1のルアーを縦及び横方向でそれぞれ切断した断面図であり、図4は、図2の一部拡大図である。なお、図3及び4において、球状重りを二点鎖線で表している。
図1?図4において、ルアー1は、ボディ2と、前記ボディ2の内部に設けられた重り移動空間3と、前記重り移動空間3内に収容された球状重り5と、前記重り移動空間3の前方側に設けられた保持部材6と、前記重り移動空間3の前方部と保持部材6との間に設けられた仕切壁7と、を有する。この仕切壁7は、テーパとされた傾斜面部8を有する。傾斜面部8は、前記重り移動空間3側から保持部材6の中央部側に向かって厚みが次第に薄くなった部分である。
以下、各構成部材ごとに分けながら、本発明のルアー1の詳細を説明する。
[0013][ボディ及び重り移動空間について]
図示したボディ2においては、その外形が小魚を真似た形状とされている。もっとも、ボディ2の外形は、小魚に似た形状に限られず、様々な形状に変更してもよい。
さらに、ボディ2の外面に、無数の小さな窪み(ディンプル)が形成されていてもよい(図示せず)。ボディ2の表面が無数の小さな窪みを有することにより、ルアー1を投げたときに、ルアー1が空気抵抗を受け難くなる。従って、より遠くに投げ飛ばすことができるルアー1を提供できる。
[0014] ボディ2は、それ自体、水(淡水及び海水を含む)に浮く部材である。
ボディ2の比重は、1未満であれば特に限定されないが、好ましくは0.9以下であり、より好ましくは0.8以下であり、特に好ましくは0.6以下である。
前記ボディ2は、非磁性材料で形成されている。
ここで、本明細書において、非磁性材料とは、それ自身磁性を帯びておらず且つ磁石を近づけても磁性を帯びない材料(つまり、磁石に付かない材料)をいう。磁性材料とは、磁石を近づけると磁性を帯びる性質を有する材料(つまり、磁石に付く材料)をいう。磁石とは、外部から磁場や電流の供給を受けずに磁界を有するもの(磁性材料を引き付ける性質を有するもの)をいう。
[0015] ボディ2の材質は、特に限定されず、例えば、ABS樹脂などの硬質合成樹脂、ウレタンなどの軟質合成樹脂、発泡ウレタンなどの発泡合成樹脂、木、及び2以上の素材を組み合わせた複合材料などが挙げられる。
ボディ2は、中空状であってもよいし、中実状であってもよい。なお、中実状のボディ2とは、その内部に空洞部を有しないボディ2である。
1つの実施形態のボディ2は、図2に示すように、その内部に空洞部22を有する(つまり、中空状である)。内部に空洞部22を形成することにより、比重が1を超えるボディ材料(例えば、ABS樹脂など)を用いた場合でも、比重0.9以下のボディ2を容易に作製できる。中空状のボディ2は、例えば、硬質合成樹脂で形成される。
[0016] さらに、ボディ2の内部には、重り移動空間3が形成されている。重り移動空間3は、ボディ2の前後方向に延びる細長い筒状の空間である。重り移動空間3内に収容された球状重り5が重り移動空間3の前後方向(伸びる方向)に円滑に移動できることを条件にして、重り移動空間3の縦断面形状は、特に限定されない。本実施形態では、重り移動空間3の断面形状は、図3に示すように、略正方形状とされている。もっとも、重り移動空間3の断面形状は、略円形状などに形成してもよい。
ボディ2内に形成された複数の壁によって囲われた空間が、上記重り移動空間3である。この複数の壁は、非磁性材料から形成されている。
縦断面形状が略正方形状である上記重り移動空間3は、ボディ2の前後方向に延びる上下一対の上壁31及び下壁32と、ボディ2の前後方向に延び且つ前記上壁31及び下壁32の間に介在された左右一対の左壁33及び右壁34と、によって囲われた空間である。この上壁31、下壁32、左壁33及び右壁34の各表面は、平坦面とされている。
これら各壁31,32,33,34は、通常、ボディ2と一体的に成形される(つまり、各壁とボディ2は、同一の材料から形成される)。もっとも、ボディ2とは別個独立に各壁の部材を成形し、この各壁の部材をボディ2の内部に接合することによって、上記重り移動空間3を形成してもよい。
[0017] また、必要に応じて、前記左壁33及び右壁34の各表面に、及び/又は、前記上壁31及び下壁32の各表面に、上記従来のルアーと同様に、レールをそれぞれ突出してもよい(レールは図示せず)。このレールは、上記従来のルアーと同様に、重り移動空間3の中心軸と平行な方向に伸びる、長状の突起部から構成される。
[0018] 前記ボディ2は、通常、複数の成形体からなる。例えば、ボディ2は、左右対称一対の半割成形体を接合することによって形成されている。このような一対の半割成形体を接合して得られるボディ2は、その内部に空洞部及び重り移動空間3を容易に形成できるので好ましい。
[0019] なお、ボディ2の前端部には、ライン(釣り糸)を締結するための環状のライン連結部41が突出されている。
ボディ2の後端部には、釣り針を係止するための環状の釣り針連結部43が突出されている。ボディ2の腹部略中央部にも、同様の環状の釣り針連結部44が突出されている。フック状の釣り針42(例えばトレブルフックなど)が、前記釣り針連結部43,44にそれぞれ係止されている。
[0020] ボディ2の頭部下方部には、水流抵抗板45が突出されている。この水流抵抗板45は、ボディ2から一体的に突出されている。水流抵抗板45は、ルアー1を揺れ動かす機能を有する。つまり、水中でルアー1を引っ張ったときに水流抵抗板45に水流が当たることによって、ルアー1が揺れ動く。
[0021][仕切壁について]
仕切壁7は、重り移動空間3の前方部に設けられている。仕切壁7は、重り移動空間3と保持部材6の間に介在している。この仕切壁7は、保持部材6の表面に仕切壁7の裏面が接するように配置されている。或いは、仕切壁7は、隙間を有した状態で保持部材6の表面に配置されていてもよい(図示せず)。
この仕切壁7は、磁力の透過を阻害しない材料で形成されていることが好ましい。仕切壁7の形成材料は特に限定されないが、仕切壁7の形成材料は、非磁性材料又は磁性材料が好ましく、更に、非磁性材料がより好ましい。本実施形態では、仕切壁7は、ボディ2と一体的に成形されている(つまり、仕切壁7とボディ2は、同一の材料から形成される)。もっとも、ボディ2とは別個独立に仕切壁7を成形し、この仕切壁7を重り移動空間3の前方部に取り付けてもよい。
[0022] 仕切壁7は、傾斜面部8を有する。この傾斜面部8は、仕切壁7の一部分であって、重り移動空間3側から保持部材6の中央部側に向かって厚みが次第に薄くなった部分である。
本実施形態では、仕切壁7に円形の孔9が形成され、この円形の孔9の周囲に前記傾斜面部8が連続的に形成されている。つまり、仕切壁7は、仕切壁の中央部に向かうに従って厚みが次第に薄くなった正面視リング状の傾斜面部8と、傾斜面部8で囲われる内側に開口された円形の孔9と、を有する。この傾斜面部8は、図3に示すように、正面視略円形リング状とされていることが好ましい。なお、本明細書において、正面視の形状は、重り移動空間側から仕切壁の法線方向に傾斜面部を見たときの形状をいう。
この仕切壁7の裏面側には、保持部材6が配置されている。従って、保持部材6の表面の中央部は、仕切壁7の孔9から露出している。
重り移動空間3の前方部に移動した球状重り5は、前記仕切壁7の傾斜面部8の内側(傾斜面部8の内側とは、傾斜面部8で囲われた領域)に嵌り込み且つ傾斜面部8の表面に接すると共に、前記孔9から露出した保持部材8の表面に磁力を通じて付着する。
[0023][保持部材について]
保持部材6は、重り移動空間3の前方側に設けられている。
上記仕切壁7の裏面側には、保持部材6を収納するためのケース部21が形成されている。このケース部21に保持部材6が嵌め入れられている。
前記保持部材6は、球状重り5を引き寄せ、重り移動空間3の前方部に球状重り5を保持する部材である。球状重り5が磁性材料から形成されている本実施形態においては、保持部材6は、磁石(永久磁石)から形成されている。磁石としては、例えば、フェライト磁石、アルニコ磁石、磁石鋼、樹脂磁石、ゴム磁石などが挙げられる。前記樹脂磁石は、金属などが混合された樹脂を成形することにより得られる磁石であり、前記ゴム磁石は、金属などが混合されたゴムを成形することにより得られる磁石である。前記保持部材6がゴム磁石からなる場合、保持部材6に球状重り5が当たったときの衝撃及び衝撃音を緩和できる。
保持部材6の形状は、特に限定されず、例えば、その形状としては所定厚みの板状などが挙げられる。
[0024][球状重りについて]
球状重り5は、重り移動空間3内に移動自在に収容されている。上述のように、重り移動空間3は、ボディ2の前後方向に延びる細長い筒状である。球状重り5は、この重り移動空間3の前後方向に移動可能である。
球状重り5は、比重の大きい磁性材料を球状に形成することによって得られる。球状重り5の比重は、ボディ2に比して十分に大きければ特に限定されないが、好ましくは6以上であり、より好ましくは7以上である。
磁性材料としては、特に限定されないが、代表的には、鉄、ニッケル、コバルトなどの鉄族金属、鉄族金属を含む合金、及び鉄族金属の酸化物などが挙げられる。このような磁性材料は、比重が6以上であり且つ強磁性を有するので、球状重り5の形成材料として好ましい。例えば、球状重り5は、鋼球からなる。
ルアー1の浮力設定に応じて、重り移動空間3には、様々な大きさの球状重り5が収容される。球状重り5の直径(大きさ)は、特に限定さないが、通常、2mm?15mm程度であり、好ましくは、3mm?10mm程度である。
[0025] 本実施形態のルアー1においては、重り移動空間3内に、2個の球状重り5が収容されている。もっとも、重り移動空間内に球状重りが1個だけ収容されていてもよいし、3個以上収容されていてもよい(図示せず)。複数(2個又は3個以上)の球状重りが収容される場合、これらの球状重りは通常全て同じものが用いられるが、これらの球状重りの一部又は全部が異なっていてもよい。
重り移動空間3内に、複数の球状重り5が収納されている場合、各球状重り5は、重り移動空間3内において前後に並んで移動する。
そして、前方の球状重り5は磁力を通じて保持部材6に付着し、一方、後方の球状重り5は磁力を通じて前方の球状重り5に付着する。すなわち、保持部材6に付着した前方の球状重り5を介して保持部材6の磁力が後方の球状重り5に作用することによって、複数の球状重り5が前後に並んで保持部材6に保持される。
[0026][ルアーの使用例について]
上記ルアー1は、ライン連結部41にラインを結んで使用される。ルアー1を投げたときには、慣性によって球状重り5が重り移動空間3の後方部に移動する。従って、ルアー1の重心が後方寄りとなり、ルアー1の後方部を先頭にしてルアー1を遠くに飛ばすことができる。一方、ルアー1が着水したときには、球状重り5がボディ2の前方部に移動し、保持部材6の磁力によって、球状重り5がボディ2の前方部に保持される(図2参照)。このように球状重り5が仕切壁7の表面に保持されることによって、ルアー1の前方部に重心が移る。この状態のルアー1を引っ張ると、後方部を左右に揺りながらルアー1が遊泳する。
[0027] 本発明のルアー1は、保持部材6と重り移動空間3の前方部との間に、傾斜面部8を有する仕切壁7が設けられている。この傾斜面部8は、重り移動空間3側から保持部材6の中央部側に向かって次第に薄くなったテーパ状の面である。重り移動空間3の前方に移動した球状重り5は、前記傾斜面部8の内側に嵌り込み、球状重り5の表面が傾斜面部8の表面に接すると共に、磁力を通じて保持部材8に付着する。前記傾斜面部8の表面に接した状態の球状重り5は、この傾斜面部8に支持されることによって動き難くなる。このため、ルアー1の遊泳中に、前記保持部材8に付着した球状重り5が横ぶれ及び/又は縦ぶれすることを防止できる。
また、本発明のルアー1においては、大径の球状重り及びこれよりも直径の小さい小径の球状重りを使用しても、これら何れの球状重りも傾斜面部8の内側に嵌り込む。従って、本発明によれば、1つの形状の重り移動空間3(1つの形状のボディ2)に、大径の球状重り又は小径の球状重りを適宜選択して収容しても、これら球状重りが横ぶれすることを防止できる。このように本発明によれば、球状重り5の大きさに対応した、異なる重り移動空間3をそれぞれ形成する必要がないので、ルアー1の製造コストを抑制できる。」

(エ)[図2]は以下の通り


(オ)上記(ア)ないし(エ)からみて、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「中空状のボディ2と、前記ボディ2の内部に形成された空洞部22と、さらに、前記ボディ2の内部に形成された重り移動空間3と、前記重り移動空間3内に収容された球状重り5と、前記重り移動空間3の前方側に設けられた保持部材6と、前記重り移動空間3の前方部と保持部材6との間に設けられた仕切壁7と、を有するルアー1であって、
前記仕切壁7は、テーパとされた傾斜面部8を有し、
前記ボディ2の比重は、1未満であって、好ましくは0.9以下であり、より好ましくは0.8以下であり、特に好ましくは0.6以下であって、
前記ボディ2の材質は、ABS樹脂などの硬質合成樹脂、ウレタンなどの軟質合成樹脂、発泡ウレタンなどの発泡合成樹脂、及び2以上の素材を組み合わせた複合材料などが挙げられ、
前記球状重り5の比重は、ボディ2に比して十分大きく、好ましくは6以上であり、より好ましくは7以上であって、
前記重り移動空間3は、ボディ2の前後方向に延びる細長い筒状の空間であって、重り移動空間3内に収容された球状重り5が重り移動空間3の前後方向(伸びる方向)に円滑に移動できるものである、ルアー1。」

イ 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開2002-176883号公報(以下「引用例2」という。)には、次の記載がある。

(ア) 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、水に沈むように形成したルア-の釣り針が釣り糸に絡み難く改良したルア-に関する。

(イ) 「【0003】
【発明が解決しようとする課題】解決しようとする問題点は、水に沈むタイプのルア-は、着水後ルア-が釣り糸を引きずりながら沈下するため、ルア-と釣り糸が接触し易く釣り糸が釣り針に絡み易いことである。
【0004】本発明の目的は前記欠点に鑑み、水に沈むタイプで釣り針に釣り糸が絡み難くいルア-を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するために、請求項1に係わる本発明は、水に沈むように形成したルア-の後部に、左右に突出する翼部を設けたことを要旨とするものである。請求項2に係わる本発明は、翼部の下方に釣り針を設けたことを要旨とするものである。」

(ウ) 「【0006】
【発明の実施の形態】請求項1の本発明により、翼部4aで安定した姿勢を保ちながら沈下され、釣り糸5に掛け針7、9が絡むことが防止される。請求項2の本発明により、左右に突出した翼部4aの下方に掛け針9が設けられているので、掛け針9が左右に搖れても釣り糸5に絡むことが防止される。
【0007】
【実施例】以下、図示の一実施例によって本発明を説明すると、図1はルア-の外観斜視図、図2はルア-の側面図、図3はルア-のフレ-ムを破線で示した側面図、図4はフレ-ムの側面図、図5は図3のF5-F5断面線の断面正面図、図6は図3のF6-F6断面線の断面正面図、図7は図3のF7-F7断面線の断面正面図、図8はルア-がキャスト方向と反対方向を向いて着水した時の沈む状態を示す説明図、図9はルア-がキャスト方向を向いて着水した時の沈む状態を示す説明図である。
【0008】ルア-1は、ステンレス、チタン合金、真鍮等の金属のフレ-ム2の頭部側に鉛や真鍮等の重り3が固定されてそれらの外側に合成樹脂でボディ4が形成されてフレ-ム2と重り3が埋設されている。フレ-ム2は板状でかつルア-1の前側、下側、後側、上側に沿って周回するように形成され、背部2aに2つの透孔が穿設されて釣糸止着部2b、2cとし、釣糸止着部2b、2cを選択して一方に釣り糸5が連結される。フレ-ム2の下側前部に突出部2dが突出形成されて透孔が穿設されて釣針止着部2eとし、釣針止着部2eにリング6が連結されてリング6に掛け針7が連結されている。フレ-ム2の下側後部に突起部2fが突出形成されて透孔が穿設されて釣針止着部2gとし、釣針止着部2gにリング8が連結されてリング8に掛け針9が連結されている。
【0009】重り3の下側には切込みが形成されてフレ-ム2に嵌合固定されたり、溶着されたり、フレ-ム2を鋳ぐるんで止着されている。ボディ4はフレ-ム2と重り3を包み込むように形成されると共に、釣糸止着部2b、2cの周囲の背部2aの一部がボディ4から露出されている。釣針止着部2e、2gの周囲の突出部2d、2fはボディ4から露出されている。ボディ4の前部は魚の頭部に模した形状に形成され、ボディ4を形成する合成樹脂で一体にボディ4の後部の左右に翼部4aが突出形成されている。
【0010】翼部4aはルア-1の中央から後端にかけてルア-1の下側に沿って設けられ、後方側の突出量が大きく、また、後方側が上方へ高くなるように傾斜して設けられており、これに応じて翼部4aの上側に形成された抵抗面aも後方側が広く、また、後方側が高くなるように形成されている。抵抗面aはかるく湾曲形成されてもよい。翼部4aの下側に前記フレ-ム2の突起部2fが下側後部に突出形成されて掛け針9が取り付けられている。ルア-1の前方の下側に重り3が設けられ、重り3位置のボディ4は膨出部4bとなっている。この重り3はルア-1全体の20%以上の重さを有し、ルア-1の重心Gは前部(ルア-1の長手方向前方側)に位置しており、翼部4aはルア-1の後部に位置し、両者間に釣り糸止着部2b、2cが設けられている。また、翼部4aは後方が高くなるように傾斜し、翼部4aの矢印方向Aは重心Gより下方に向かうように形成されている。
【0011】ルア-1が水へ投入されると図8のように、ルア-1は重心Gが前方側にあるので、着水後頭部を下側に沈み、翼部4aの抵抗面aが水の抵抗により押圧されるため、ルア-1の姿勢は翼部4aの矢印方向Aに応じて垂直方向からやや水平方向に近づき、沈下角度は緩やかになる。このように翼部4aの矢印方向Aに導かれて沈下して翼部4aで安定した姿勢を保ちながら沈下され、釣り糸5と掛け針9の距離が遠くなるため絡むことがない。更に左右に突出した翼部4aの下方に掛け針9が設けられているので、掛け針9が左右に搖れても翼部4aに当接して大きく搖れることがないため、釣り糸5に絡むことがない。前側の掛け針7についても、重り3の下方でボディ4の膨出部4bの下側になるので、掛け針7が左右に搖れても釣り糸5に絡むことがない。
【0012】翼部4aは後方側の突出量が大きくなっているため、より重心Gから離れた後方側ほど水の抵抗が大きくなるようになっており、より沈下角度が緩やかになり、姿勢が安定する。ルア-1がキャスト方向と反対を向いても図9のように、ルア-1は着水後頭部を下側に翼部4aの方向に沈下して沈下角度が緩やかになり、翼部4aで安定した姿勢を保ちながら沈下され、釣り糸5に掛け針7、9が絡むことがない。
【0013】前記のようにルア-が構成されていると、翼部4aで安定した姿勢を保ちながら沈下され、釣り糸5に掛け針7、9が絡むことが防止される。左右に突出した翼部4aの下方に掛け針9が設けられているので、掛け針9が左右に搖れても釣り糸5に絡むことが防止される。
【0014】
【発明の効果】本発明は、以上説明したような形態で実施され、以下に記載されるような効果を奏する。
【0015】請求項1により、翼部で安定した姿勢を保ちながら沈下され、釣り糸に掛け針が絡むことが防止される。請求項2により、左右に突出した翼部の下方に掛け針が設けられているので、掛け針が左右に搖れても釣り糸に絡むことが防止される。

(エ)【図3】は以下のとおり。


(オ)上記(ア)ないし(エ)からみて、引用例2には、次の技術事項(以下「引用例2技術事項」という。)が記載されていると認められる。
「金属製のフレーム2の頭部側に鉛や真鍮等の重り3が固定されてそれらの外側に合成樹脂でボディ4が形成されてフレーム2と重り3が埋設されており、この重り3はルアー1全体の20%以上の重さを有する、ルアー1。」

ウ 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、特開平11-206277号公報(以下「引用例3」という。)には、図面とともに次の記載がある。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、魚釣りに用いるルアー及びその製造方法に関する。」

(イ)「【0013】
【発明の実施の形態】[第1実施形態]以下、本発明の第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
(構成の概要)本発明の第1実施形態を採用したルアーは、図1に示すように、プラスチック製のルアー本体1と、ルアー本体1の頭部上面に連結され釣糸を係止可能な釣糸係止部2と、ルアー本体1の腹部及び尾部付近にそれぞれ設けられたアイ(止め輪)3,4とを有している。そして、アイ3,4にはそれぞれスプリットリング5,6を介してフック7,8が連結されている。また、図2に示すように、ルアー本体1の頭部両側面の目の付近には左右から中央に向かって1対の孔11,12が形成されている。そして、ルアー本体1の頭部付近内部には、孔11,12から表面の一部が露出するように錘10が挿入されている。さらに、この孔11,12にはそれぞれ挿入部材20が挿入されている。」

(ウ)「【0016】続いて、図3(b)に示すように、貼りあわせた金型30a,30b内に、ルアー本体1を形成する流体状のプラスチック素材Lを注入する。プラスチック素材Lは、例えば、熱可塑性プラスチックであるABS,ポリカーボネート等を用いることができる。さらに、ルアー本体1を形成する素材Lとしては、ウレタン樹脂やABS樹脂等を発泡させたものを用いてもよい。」

エ 原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である、実願昭56-165734号(実開昭58-70768号)のマイクロフィルム(以下「引用例4」という。)には、図面とともに次の記載がある。

(ア)「この考案は、ラトルボールによりガラガラ鳴る音の音響効果を高めた魚釣用擬似餌に関する。」(明細書1頁11?12行)

(イ)「以下、図示の実施例によって本考案をせつめいすると、擬似餌は第2図、第3図のように浮力を有する発泡ウレタン、発泡ABSスチロールなどの発泡成形材やバルサ材や木などで擬似餌本体1が形成されて擬似餌本体の前半側に横向きの貫通透孔2が穿設され、この貫通透孔2内にラトルボール3が収容された容器4が挿入されて接着剤や塗料で固定されている。」(明細書2頁8?15行)


(2)対比
補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「中空状のボディ2」、「球状重り5」、「重り移動空間3」、「空洞部22」、「ルアー1」は、それらの構成及び機能からみて、それぞれ補正発明の「中空のボディ」、「重錘」、「重錘収容空間」、「重錘収容空間以外の空間」、「ルアー」に相当する。

イ 引用発明の「中空状のボディ2と、前記ボディ2の内部に形成された空洞部22と、さらに、前記ボディ2の内部に形成された重り移動空間3と、前記重り移動空間3内に収容され」、「比重は、ボディ2に比して十分大き」い「球状重り5と、」「を有する」ことと、補正発明の「多数の気泡を含んだ発泡体としてのボディと、このボディの密度よりも大きな密度を有する重錘とを備えており、このボディは、上記重錘を収容する重錘収容空間とこの重錘収容空間以外の空間とを、その内部に備えた中空のボディであ」ることとは、「ボディと、このボディの密度よりも大きな密度を有する重錘とを備えており、このボディは、上記重錘を収容する重錘収容空間とこの重錘収容空間以外の空間とを、その内部に備えた中空のボディであ」ることで共通する。

ウ 引用発明の「前記ボディ2の材質は、ABS樹脂などの硬質合成樹脂、ウレタンなどの軟質合成樹脂、発泡ウレタンなどの発泡合成樹脂、及び2以上の素材を組み合わせた複合材料などが挙げられ」ることは、補正発明の「上記ボディが樹脂組成物から形成されており、上記樹脂組成物の基材がABS樹脂であ」ることに相当する。

エ 引用発明において、「ボディー2の比重は、1未満であれば特に限定されないが、好ましくは0.9以下であり、より好ましくは0.8以下であり、特に好ましくは0.6以下であって、」「前記球状重り5の比重は、好ましくは6以上であり、より好ましくは7以上であ」るから、球状重り5の密度の、ボディー2の密度に対する比は、少なくとも6以上ある。
そうすると、引用発明の球状重り5の密度の、ボディー2の密度に対する比は、少なくとも6以上あることは、補正発明の「上記重錘の密度DWの、上記ボディの密度DBに対する比(DW/DB)が、5以上であ」ることに含まれている。

オ したがって、両者は、以下の点で一致する。
(一致点)
「ボディと、このボディの密度よりも大きな密度を有する重錘とを備えており、
このボディは、上記重錘を収容する重錘収容空間とこの重錘収容空間以外の空間とを、その内部に備えた中空のボディであり、
上記ボディが樹脂組成物から形成されており、
上記樹脂組成物の基材がABS樹脂であり、
上記重錘の密度DWの、上記ボディの密度DBに対する比(DW/DB)が、6以上であるルアー。」

カ そして、以下の点で相違する。
(相違点1)基材がABS樹脂である樹脂組成物から形成されたボディについて、補正発明が、多数の気泡を含んだ発泡体であるのに対し、引用発明は、発泡体として、発泡ウレタンなどの発泡合成樹脂が挙げられるものの、ABS樹脂については発泡体であるかの特定がない点。
(相違点2)補正発明が、重錘の質量WWの、ルアーの質量WLに対する比(WW/WL)が、0.20以上0.55以下であるのに対し、引用発明は、当該質量の比(WW/WL)の特定がない点。

(3)判断
ア 相違点1について
(ア)ルアー本体の材質として、発泡させたABS樹脂を用いることは、引用例3または4に記載されているように、本願出願前に周知の技術であるから、引用発明のボディ2に、上記周知の発泡させたABS樹脂を用いることにより、上記相違点1に係る補正発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

イ 相違点2について
(ア)引用例2には、上記(1)イ(オ)で示した引用例2技術事項が記載されており、該引用例2技術事項の重り3について、引用例2に、「【0010】・・・ルア-1の前方の下側に重り3が設けられ、重り3位置のボディ4は膨出部4bとなっている。この重り3はルア-1全体の20%以上の重さを有し、ルア-1の重心Gは前部(ルア-1の長手方向前方側)に位置しており、・・・。【0011】ルア-1が水へ投入されると図8のように、ルア-1は重心Gが前方側にあるので、着水後頭部を下側に沈み、・・・」(上記(1)イ(ウ))と記載されているように、重り3はルアーの重心位置を調整している。
また、引用例1には、球状重り5について、「技術分野[0001]本発明は、球状重りが移動することによって重心が変化し得るルアーに関する。」(上記(1)ア(ア))、「[0024][球状重りについて]・・・ルアー1の浮力設定に応じて、重り移動空間3には、様々な大きさの球状重り5が収容される。・・・[0026]・・・ルアー1を投げたときには、慣性によって球状重り5が重り移動空間3の後方部に移動する。従って、ルアー1の重心が後方寄りとなり、ルアー1の後方部を先頭にしてルアー1を遠くに飛ばすことができる。一方、ルアー1が着水したときには、球状重り5がボディ2の前方側に移動し、保持部材6の磁力によって、球状重り5がボディ2の前方部に保持される(図2参照)。このように球状重り5が仕切り壁7の表面に保持されることによって、ルアー1の前方部に重心が移る。・・・」(上記(1)ア(ウ))と記載されているように、球状重り5もルアーの重心位置を調整している。
そうすると、引用発明の球状重り5と引用例2技術事項の重り3とは、同じ目的のために用いられているものであるから、引用発明の球状重り5に、引用例2技術事項の重り3の構成である「重り3はルアー1の全体の20%以上の重さを有する」事項を適用することは、当業者が容易に気付くことである。
そして、引用発明の球状重り5について、引用例1には、「ルアー1の浮力設定に応じて、重り移動空間3には、様々な大きさの球状重り5が収容される」((1)ア(ウ)の[0024])と記載されていることからみて、当該浮力設定に応じて、球状重り3の重さをルアー全体からみて上下限値を適宜設定するものである。また、引用発明の球状重り5は、ボディ2の前後方法に延びる細長い筒状の空間である重り移動空間3の前後方向(延びる方向)に円滑に移動するものであって、しかも、「従って、本発明によれば、1つの形状の重り移動空間3(1つの形状のボディ2)に、大径の球状重り又は小径の球状重りを適宜選択して収容しても、」(上記(1)ア(ウ))と記載されているように、該細長い筒状空間内を移動する球状重り5は、ルアー1の全体の大きさと比較して、ある程度小さいものとなるから、その場合の球状重り5の質量は、ルアーの質量と比べて、極端に大きくなるものではない。
そうすると、引用発明に引用例2技術事項を適用する際に、下限値を20%とすることに加えて、上限値を55%とすることは、当業者が適宜なし得たことである。

(イ)さらに加えて検討すると、上記(ア)で説示したとおり、引用発明の球状重り5の重さは、浮力設定に応じて、ルアー全体からみて上下限値を適宜設定されるものであるところ、特開平7-163274号公報(段落【0012】参照。ルアー本体が約22gに対して重錘体4が3g、重錘体5が4g程度であることが記載されており、両重錘体4,5の合計質量7g、ルアー全体の質量29gとなるから、ルアーの重錘体の質量の、ルアー全体の質量に対する比は、約0.24となる。)、実願平5-17667号(実開平6-79263号)のCD-ROM(実施例1が記載された段落【0012】?【0025】参照。ルアー重量が10.9g、重りの全体重量が5gであることが記載されており、ルアーの重りの質量の、ルアー全体の質量に対する比は、約0.46となる。)に記載されるように、ルアーの重錘の質量の、ルアーの質量に対する比を、0.20以上0.55以下の範囲内のものとすることは、本件出願前に周知でもあったから、引用発明の重錘体の質量を、補正発明の範囲とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(ウ)なお、請求人は、審判請求書において、
「本願請求項1に係る発明の主たる特徴は、以下の2点である。
(i)重錘の密度DWのボディの密度DBに対する比(DW/DB)が、5以上であること
(ii)重錘の質量WWのルアーの質量WLに対する比(WW/WL)が、0.20以上0.55以下であること
上記特徴(i)及び(i)の両方を満たすルアーでは、本願明細書の段落[0018]に記載の通り、「このルアーの質量は、重錘の位置に偏在する。このルアーでは、重錘の位置の変化により、重心位置が大きく変化する。このルアーでは、質量分布の設計自由度が高い。」との効果が奏される。
密度の比(DW/DB)が大きくても、重錘自体が小さくて比(WW/WL)が小さければ、「このルアーの質量は、重錘の位置に偏在する。このルアーでは、重錘の位置の変化により、重心位置が大きく変化する。このルアーでは、質量分布の設計自由度が高い。」との効果は得られない。
質量の比(WW/WL)が大きくても、密度の比(DW/DB)が小さければ、重錘の体積が大きくなることに起因して、「このルアーの質量は、重錘の位置に偏在する。このルアーでは、重錘の位置の変化により、重心位置が大きく変化する。このルアーでは、質量分布の設計自由度が高い。」との効果は得られない。上記特徴(i)及び(ii)の両方を満たすことによって初めて、優れた効果が奏される。
補正の却下の決定通知において審査官は、引用文献1及び6並びに周知技術に基づいて、本発明の進歩性を否定されている。
引用文献1には、前述の通り、密度の比(DW/DB)が大きなルアーが開示されている。しかし、引用文献1には、質量の比(WW/WL)が0.20以上0.55以下であることは、開示されていない。引用文献1のルアーでは、質量分布の設計自由は、不十分である。
引用文献6には、前述の通り、質量の比(WW/WL)が大きなルアーが開示されている。しかし、引用文献6には、密度の比(DW/DB)が5以上であることは、開示されていない。引用文献6のルアーでは、質量分布の設計自由は、不十分である。
審査官は、引用文献1及び6に記載された発明を組み合わせれば本発明に到達すると、お考えかもしれない。かかる手法で本発明の進歩性が否定されるには、特許庁の審査基準によれば、主引用発明に副引用発明を適用することについての動機付けが必要である。その段落[0007]に記載の通り、引用文献1に係る発明の課題は、重錘が移動するタイプのルアーにおいて、この重錘の移動時の横ぶれ及び縦ぶれを防止することにある。一方、その段落[0003]に記載の通り、引用文献6に係る発明の課題は、重錘が移動しないタイプのルアーにおいて、釣り針に釣り糸が絡むことを抑制することにある。引用文献6に係る発明の課題は、引用文献1に係る発明の課題とは、異なる。引用文献1に記載された発明と、引用文献6に記載された発明とを組み合わせることに、動機付けはない。さらに、審査官が周知技術としてお挙げになった引用文献2-5にも、上記特徴(i)及び(ii)は記載されていない。本発明が進歩性を有さないことについての論理付けは、成り立たない。」と主張している。
しかしながら、引用例1及び2に記載されている主要な課題は相違しているものの、上記(ア)で説示したとおり、両引用例に記載されたルアーの重錘体は、共に重心の調整に用いられているのであって、しかも、重錘体の質量が、両引用例に記載の発明の主要な課題とは、特に関連があるものではないから、引用例1及び2に接した当業者であれば、引用例2に記載された重り3の重さを、引用発明に適用することに格別の困難性はない。
また、引用発明は上記特徴(i)を備え、球状重り5の密度がボディー2の密度よりも十分大きなものとなっているところ、該球状重り5は、「1つの形状の重り移動空間3(1つの形状のボディ2)に、大径の球状重り又は小径の球状重りを適宜選択して収容」(上記(1)ア(ウ))するものであるから、当然、目的とするルアーの重量バランスに合わせて、適宜の質量のものが用いられる。そこで、上記(ア)で説示したとおり、引用例2技術事項を適用することによって、請求人が主張する「このルアーの質量は、重錘の位置に偏在する。このルアーでは、重錘の位置の変化により、重心位置が大きく変化する。このルアーでは、質量分布の設計自由度が高い。」との効果も、当然奏するものとなることは明らかである。
よって、請求人の主張は採用することができない。

ウ 小括
したがって、補正発明は、当業者が引用発明、引用例2技術事項及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正の却下の決定の結論のとおり決定する。


第3 本願発明
1 本願発明
平成29年11月21日付けの手続補正は却下されたので、本願の請求項1から6に係る発明は、平成28年8月4日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記「第2 1」において、本件補正前の請求項1として示したとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概要は、この出願の請求項1?6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の引用文献1?6に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:国際公開第2011/092832号
引用文献2;特開平11-206277号公報
引用文献3:実願昭56-165734号(実開昭58-70768号)
のマイクロフィルム
引用文献4:特開2009-11279号公報
引用文献5:特開平8-191646号公報
引用文献6:特開2002-176883号公報

3 対比・判断
本願発明と引用発明を対比すると、上記「第2 2(2)」に記載した相当関係を有しているから、
「ボディと、このボディの密度よりも大きな密度を有する重錘とを備えており、
このボディは、上記重錘を収容する重錘収容空間とこの重錘収容空間以外の空間とを、その内部に備えた中空のボディであり、
上記ボディが樹脂組成物から形成されており、
上記樹脂組成物の基材がABS樹脂である、ルアー。」で一致するものの、
基材がABS樹脂である樹脂組成物から形成されたボディについて、本願発明が、多数の気泡を含んだ発泡体であるのに対し、引用発明は、発泡体として、発泡ウレタンなどの発泡合成樹脂が挙げられるものの、ABS樹脂については発泡体であるかの特定がない点、で相違している。

しかしながら、該相違点は、上記第2の2(2)カに記載した相違点1と同じであるから、その判断も、同じく2(3)アに説示したとおりである。
よって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2018-09-04 
結審通知日 2018-09-05 
審決日 2018-09-26 
出願番号 特願2012-247169(P2012-247169)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A01K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 門 良成川野 汐音竹中 靖典  
特許庁審判長 前川 慎喜
特許庁審判官 住田 秀弘
有家 秀郎
発明の名称 ルアー  
代理人 特許業務法人 有古特許事務所  

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