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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C25D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C25D
管理番号 1345822
異議申立番号 異議2017-700906  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-09-22 
確定日 2018-09-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6104710号発明「アルミニウム材着色物の製造方法、及び着色方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6104710号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕、5について、訂正することを認める。 特許第6104710号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6104710号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、平成25年 5月27日に特許出願され、平成29年 3月10日に特許権の設定登録がされ、同年 3月29日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許の請求項1?5に係る特許について、平成29年 9月22日に特許異議申立人小田研悟(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
その後の経緯は以下のとおりである。

平成29年11月28日付け 取消理由通知
平成30年 1月26日付け 意見書及び訂正請求書の提出
同年 3月26日付け 異議申立人による意見書の提出
同年 4月19日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 6月22日付け 意見書及び訂正請求書の提出

なお、平成30年 6月22日付けで提出された訂正請求書による訂正の請求に関し、同年 7月 4日付けで通知書を通知し、異議申立人に対して意見を求めたが、その指定した期間内に異議申立人からの応答がなかった。


第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
平成30年 6月22日付けの訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)による訂正(以下、「本件訂正」という)の請求は、特許請求の範囲の訂正を請求するものであって、その内容は、以下の訂正事項1、2のとおりである(下線は、訂正箇所を示すために、当審にて付したものである。)。
なお、本件訂正の請求がされたことによって、平成30年 1月26日付けで提出された訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

(1)訂正事項1
請求項1に
「染料を溶解可能な溶剤又は水を溶媒とする染料溶液を使用して」
とあるのを、
「水を溶媒とする染料溶液を使用して」
に訂正する。
請求項1を引用する請求項2?4についても同様に訂正する。

(2)訂正事項2
請求項5に
「染料を溶解可能な溶剤又は水を溶媒とする染料溶液を使用して」
とあるのを
「水を溶媒とする染料溶液を使用して」
に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1による訂正は、本件訂正前の請求項1に択一的に記載されていた「染料を溶解可能な溶剤」を削除し、使用する「染料溶液」を「水を溶媒とする染料溶液」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 訂正事項1による訂正は、本件訂正前の請求項1に択一的に記載されていた「染料を溶解可能な溶剤」を削除するものであるから、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正であり、新規事項の追加には該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことが明らかである。

ウ 上記のとおり、訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、訂正事項1による訂正と同じ内容であるから、上記(1)での検討と同じ理由で、訂正事項2による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 一群の請求項
本件訂正前の請求項1?4について、請求項2?4はそれぞれ請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。したがって、訂正の請求は、請求項ごとにされたものであるとともに、訂正前の請求項1?4については一群の請求項ごとにされたものである。

4 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?4〕、5について訂正を認める


第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
上記のとおり、本件訂正は認められるから、特許第6104710号の特許に係る請求項1?5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明5」という。)は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。なお、訂正箇所に下線を付した。

「【請求項1】
アルミニウム材に着色をしたアルミニウム材着色物の製造方法であって、
前記アルミニウム材において予め設定された領域を覆う設定領域被覆マスクを形成するマスク形成工程と、
前記アルミニウム材において前記設定領域被覆マスクにより覆われていない領域を染料により着色する着色工程と、
前記着色工程の後に前記アルミニウム材から前記設定領域被覆マスクを剥離するマスク剥離工程と
を備え、
前記マスク形成工程において、インクジェット方式で液体を吐出する液体吐出ヘッドを用い、前記設定領域被覆マスクの形成に使用する液体であるマスク形成用液体を前記液体吐出ヘッドで前記アルミニウム材上へ吐出し、
前記マスク形成工程において、酸性溶液によるエッチングを行った前記アルミニウム材に対し、前記マスク形成用液体としてアクリル系の紫外線硬化型インクを用い、前記予め設定された領域へ前記液体吐出ヘッドにより前記マスク形成用液体を吐出することにより、前記設定領域被覆マスクを形成し、
前記着色工程において、水を溶媒とする染料溶液を使用して、前記設定領域被覆マスクにより覆われていない領域を着色し、
かつ、前記着色工程において、中性付近のpHで、前記染料による着色を行うことを特徴とするアルミニウム材着色物の製造方法。
【請求項2】
前記着色工程において、6?8の範囲のpHで着色を行うことを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム材着色物の製造方法。
【請求項3】
前記マスク形成工程において、前記マスク形成用液体として、硬化後に伸びる特性の紫外線硬化型インクを用い、前記予め設定された領域へ前記液体吐出ヘッドにより前記マスク形成用液体を吐出することにより、前記設定領域被覆マスクを形成することを特徴とする請求項1又は2に記載のアルミニウム材着色物の製造方法。
【請求項4】
前記マスク形成工程は、
前記アクリル系の紫外線硬化型インクである第1の前記マスク形成用液体を用いて前記設定領域被覆マスクの縁部を形成する縁部形成工程と、
前記アルミニウム材へ定着させるために溶媒を蒸発させることが必要なインクである第2の前記マスク形成用液体とを用いて、前記設定領域被覆マスクの縁部に囲まれる領域であるマスク内部領域を形成する内部領域形成工程と
を有し、
前記縁部形成工程において、前記第1のマスク形成用液体を吐出する第1の前記液体吐出ヘッドにより、前記設定領域被覆マスクの縁部となる領域へ前記第1のマスク形成用液体を吐出し、かつ、前記アルミニウム材へ着弾した前記第1のマスク形成用液体へ紫外線を照射することにより、前記設定領域被覆マスクの縁部を形成し、
前記内部領域形成工程において、前記第2のマスク形成用液体を吐出する第2の前記液体吐出ヘッドにより、前記縁部形成工程により形成された前記縁部に囲まれる領域へ前記第2のマスク形成用液体を吐出することにより、前記設定領域被覆マスクの前記マスク内部領域を形成することを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム材着色物の製造方法。
【請求項5】
アルミニウム材に着色をする着色方法であって、
前記アルミニウム材において予め設定された領域を覆う設定領域被覆マスクを形成するマスク形成工程と、
前記アルミニウム材において前記設定領域被覆マスクにより覆われていない領域を染料により着色する着色工程と、
前記着色工程の後に前記アルミニウム材から前記設定領域被覆マスクを剥離するマスク剥離工程と
を備え、
前記マスク形成工程において、インクジェット方式で液体を吐出する液体吐出ヘッドを用い、前記設定領域被覆マスクの形成に使用する液体であるマスク形成用液体を前記液体吐出ヘッドで前記アルミニウム材上へ吐出し、
前記マスク形成工程において、酸性溶液によるエッチングを行った前記アルミニウム材に対し、前記マスク形成用液体としてアクリル系の紫外線硬化型インクを用い、前記予め設定された領域へ前記液体吐出ヘッドにより前記マスク形成用液体を吐出することにより、前記設定領域被覆マスクを形成し、
前記着色工程において、水を溶媒とする染料溶液を使用して、前記設定領域被覆マスクにより覆われていない領域を着色し、
かつ、前記着色工程において、中性付近のpHで、前記染料による着色を行うことを特徴とする着色方法。」

2 特許異議申立理由について
異議申立人は、甲第1号証として「非水溶媒中のpH測定法と標準緩衝溶液」 JAPAN ANALYST, vol.22 (1973), 1275-1281 を提出し、異議申立書において、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は特許法第36条第4項第1号に適合しないから、本件特許は取り消されるべきものである、という特許異議申立理由を主張している。

3 取消理由について
(1)平成29年11月28日付けで通知した取消理由通知、及び平成30年 4月19日付けで通知した取消理由通知(決定の予告)(以下、それぞれ、「取消理由通知1」及び「取消理由通知2」という)は、いずれも、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は特許法第36条第4項第1号に適合せず、また、本件特許の特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に適合しないことを取消理由として、本件特許は取り消されるべきものである、というものである。
以下、便宜的に、特許掲載公報の特許請求の範囲を「訂正前特許請求の範囲」といい、そこに記載の請求項1?5に係る発明をそれぞれ「訂正前本件発明1?5」という。
また、取り下げられたものとみなされる平成30年 1月26日付けの訂正の請求による訂正後の特許請求の範囲を「みなし取り下げ特許請求の範囲」といい、そこに記載の請求項1?5に係る発明をそれぞれ「みなし取り下げ本件発明1?5」という。なお、みなし取り下げ特許請求の範囲においては、請求項2は削除された。

(2)取消理由通知1は、具体的には、以下の点が不備であることによって、特許法第36条第4項第1号及び特許法第36条第6項第2号違反であるとしたものである。
ア 訂正前本件発明1、3?5に特定される「中性付近のpHで、前記染料による着色を行う」との事項の技術的な意味が不明瞭であり、例えば、「着色工程」における「染料溶液」の「pH」の値を厳密に測定してpH=7又はその付近であることを規定する意味であるのか、それとも、そのようなpHの値を厳密に規定するものではないのか等が理解できない。

イ 訂正前本件発明2は、訂正前本件発明1に対し、更に「6?8の範囲のpHで着色を行う」という事項を付加したものであるから、訂正前本件発明2は、訂正前本件発明1に記載される「中性付近のpH」という事項を、具体的に「6?8の範囲のpH」であることを限定するものであるところ、被覆マスク間のアルミニウム材表面近傍という極めて局所的な領域に限ってpHの値を測定する手法は、当業者にとって自明ではなく、そのような手法は本件明細書の記載及び技術常識を考慮しても不明である。

(3)取消理由通知2は、具体的には、以下の点が不備であることによって、特許法第36条第4項第1号及び特許法第36条第6項第2号違反であるとしたものである。
ア みなし取り下げ本件発明1、3?5においては、
「前記着色工程において、染料を溶解可能な溶剤又は水を溶媒とする染料溶液を使用して、前記設定領域被覆マスクにより覆われていない領域を着色し、
かつ、前記着色工程において、前記酸性溶液によるエッチングを行った前記アルミニウム材を用いることで得られる中性付近のpHで、前記染料による着色を行う」
との事項が特定されているところ、「pH」の測定対象が「有機溶剤」を溶媒とする溶液である場合における「中性付近のpH」は、どのような数値を意味するのかを当業者が理解することができない。

イ みなし取り下げ本件発明1、3?5において、「pH」の測定方法が不明であることにより、「着色工程」が具体的にどのようなものであれば、みなし取り下げ本件発明1、3?5の範囲内に包含されることになるのかが不明である。

ウ みなし取り下げ本件発明1、3?5における「中性付近のpH」との事項が、エッチング後の「水洗」に用いられた水によって得られるものではなく、また、「染料溶液」自体のpHによって得られるものでもなく、「前記酸性溶液によるエッチングを行った前記アルミニウム材を用いることで得られる」ものであると合理的に理解することができないから、「前記着色工程において、前記酸性溶液によるエッチングを行った前記アルミニウム材を用いることで得られる中性付近のpHで、前記染料による着色を行う」との事項は不明確である。


4 当審の判断
(1)本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合することについて
ア 事案に鑑み、まず、本件特許の特許請求の範囲の記載が、取消理由通知2で指摘した不備(前記3(3)ア?ウ)を解消していることについて述べる。
(ア)本件訂正によって、本件発明1?5において、「有機溶剤」を溶媒とする染料溶液を使用する態様は排除されている。
したがって、前記3(3)アの不備は、解消されている。

(イ)前記3(3)イで指摘した点に関し、本件訂正書と同日付けで提出された意見書において、特許権者は、
「水を溶媒とする染料溶液を用いて着色を行う場合において、pHを中性付近にするという事項は、当業者であれば読めばそのまま理解できる程度のきわめて明確な特徴を示すものです。また、水を溶媒とする染料溶液を用いる場合において、pHを所望の範囲(例えば中性付近等)に調整することは、当業者であれば、技術常識に基づき、容易に実行できる事項です。
また、より具体的に、水溶液のpHについて考える場合、特殊な事情や言及等がない限り、水溶液内の特定の場所のpHを示すのではなく、水溶液の全体としてのpHを示すと考えるのが自然です。また、少なくとも、水を溶媒とする染料溶液を用いる場合において、単に着色時のpHといえば、染料溶液全体のpHと考えることが極めて自然であるといえます。また、本件明細書において、このような解釈を妨げる記載等もありません。そのため、当業者であれば、本件明細書等に基づき、本件特許発明1におけるpHについて、水溶液の全体としてのpHを示すと理解できると思料致します。・・・
また、水溶液の全体としてのpHは、特殊な装置や道具を使用することなく、容易に測定が可能な事項です。特に、本件特許発明1のように染料溶液で着色を行う場合のpHであれば、特に測定の仕方等を明示するまでもなく、当業者であれば容易かつ適切に測定が可能な事項です。・・・」
と主張している(下線は当審で付与した。「・・・」により記載の省略を示す。)。
この主張に特に不合理な点は見当たらず、受け入れることができる内容のものであることを踏まえると、本件発明1?5において特定される、
「前記着色工程において、水を溶媒とする染料溶液を使用して、前記設定領域被覆マスクにより覆われていない領域を着色し、
かつ、前記着色工程において、中性付近のpHで、前記染料による着色を行う」
との事項は、「着色工程」において使用する「水を溶媒とする染料溶液」自体のpHを「中性付近」とすることを意味していると認めることができる。
そして、この場合のpHの測定方法は、特に測定の仕方が明示されていなかったとしても、技術常識に基づき、当業者にとって通常の手法を適用し得るものと認められる。
そのため、本件発明1?5の「pH」の測定方法が不明であるとはいえず、また、本件発明1?5の「着色工程」が具体的にどのようなものであるのかが不明であるとはいえない。
したがって、前記3(3)イの不備は、解消されている。

(ウ)本件発明1?5には「前記着色工程において、前記酸性溶液によるエッチングを行った前記アルミニウム材を用いることで得られる中性付近のpHで、前記染料による着色を行う」との事項は特定されていない。
また、上記(イ)で検討したとおり、本件発明1?5は、「着色工程」において使用する「水を溶媒とする染料溶液」自体のpHを「中性付近」とすることを意味していると認めることができるものである。
したがって、前記3(3)ウの不備は、解消されている。

(エ)よって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、取消理由通知2で指摘した不備(前記3(3)ア?ウ)を全て解消している。

イ 次に、本件特許の特許請求の範囲の記載が、取消理由通知1で指摘した不備(前記3(2)ア?イ)を解消するものであることについて述べる。
(ア)上記ア(イ)で検討したとおり、本件発明1?5において特定される、
「前記着色工程において、水を溶媒とする染料溶液を使用して、前記設定領域被覆マスクにより覆われていない領域を着色し、
かつ、前記着色工程において、中性付近のpHで、前記染料による着色を行う」
との事項は、「着色工程」において使用する「水を溶媒とする染料溶液」自体のpHを「中性付近」とすることを意味していると認めることができる。
そして、この場合のpHの測定方法は、特に測定の仕方が明示されていなかったとしても、技術常識に基づき、当業者にとって通常の手法を適用し得るものと認められる。
そのため、本件発明1?5は、「着色工程」における「染料溶液」自体の「pH」の値を通常の方法で測定した場合にpH=7又はその付近であることを意味しているものと認められる。
また、そのうち、特に本件発明2は、「着色工程」における「染料溶液」自体の「pH」の値を通常の方法で測定した場合に「6?8の範囲」となっていることを意味しているものと認められる。
したがって、前記3(2)ア、イの不備は、解消されている。

(イ)よって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、取消理由通知1で指摘した不備(前記3(2)ア?イ)を全て解消している。

ウ 以上のとおり、本件特許の特許請求の範囲の記載は、取消理由通知1及び取消理由通知2で指摘した不備を全て解消するものであり、特許法第36条第6項第2号に適合するものである。


(2)本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲の記載に関し、本件明細書の発明の詳細な説明が特許法第36条第4項第1号に適合することについて
前記(1)で述べたとおり、本件特許の特許請求の範囲の記載は、取消理由通知1及び取消理由通知2で指摘した不備を全て解消するものであり、その結果、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号に適合するものである。


(3)異議申立人の主張について
ア 特許異議申立理由について
前記(1)及び(2)での検討と同様の理由によって、特許異議申立理由によって、本件発明1?5に係る特許を取り消すことはできない。

イ 異議申立人が平成30年 3月26日に提出した意見書について
(ア)当該意見書において、異議申立人は、みなし取り下げ本件発明1、3?5に対する新規性進歩性についての主張を行っている。

(イ)しかしながら、当該主張は、酸性溶液によるエッチングを行ったアルミニウム材を用いれば必然的に着色工程のpHが中性付近となることを前提として、みなし取り下げ本件発明1、3?5の新規性及び進歩性を否定しようとするものである(特に意見書第5頁下から第8行?下から第3行を参照)。
ここで、本件発明1?5は、前記(1)ア(イ)で検討したとおり、「着色工程」において使用する「水を溶媒とする染料溶液」自体のpHを「中性付近」とすることを意味していると認めることができるものである。すなわち、本件発明1?5においては、酸性溶液によるエッチングを行ったアルミニウム材を用いれば必然的に着色工程のpHが中性付近となるというものではない。

(ウ)したがって、当該意見書における新規性進歩性についての主張を採用することはできない。


第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由及び異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム材に着色をしたアルミニウム材着色物の製造方法であって、
前記アルミニウム材において予め設定された領域を覆う設定領域被覆マスクを形成するマスク形成工程と、
前記アルミニウム材において前記設定領域被覆マスクにより覆われていない領域を染料により着色する着色工程と、
前記着色工程の後に前記アルミニウム材から前記設定領域被覆マスクを剥離するマスク剥離工程と
を備え、
前記マスク形成工程において、インクジェット方式で液体を吐出する液体吐出ヘッドを用い、前記設定領域被覆マスクの形成に使用する液体であるマスク形成用液体を前記液体吐出ヘッドで前記アルミニウム材上へ吐出し、
前記マスク形成工程において、酸性溶液によるエッチングを行った前記アルミニウム材に対し、前記マスク形成用液体としてアクリル系の紫外線硬化型インクを用い、前記予め設定された領域へ前記液体吐出ヘッドにより前記マスク形成用液体を吐出することにより、前記設定領域被覆マスクを形成し、
前記着色工程において、水を溶媒とする染料溶液を使用して、前記設定領域被覆マスクにより覆われていない領域を着色し、
かつ、前記着色工程において、中性付近のpHで、前記染料による着色を行うことを特徴とするアルミニウム材着色物の製造方法。
【請求項2】
前記着色工程において、6?8の範囲のpHで着色を行うことを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム材着色物の製造方法。
【請求項3】
前記マスク形成工程において、前記マスク形成用液体として、硬化後に伸びる特性の紫外線硬化型インクを用い、前記予め設定された領域へ前記液体吐出ヘッドにより前記マスク形成用液体を吐出することにより、前記設定領域被覆マスクを形成することを特徴とする請求項1又は2に記載のアルミニウム材着色物の製造方法。
【請求項4】
前記マスク形成工程は、
前記アクリル系の紫外線硬化型インクである第1の前記マスク形成用液体を用いて前記設定領域被覆マスクの縁部を形成する縁部形成工程と、
前記アルミニウム材へ定着させるために溶媒を蒸発させることが必要なインクである第2の前記マスク形成用液体とを用いて、前記設定領域被覆マスクの縁部に囲まれる領域であるマスク内部領域を形成する内部領域形成工程と
を有し、
前記縁部形成工程において、前記第1のマスク形成用液体を吐出する第1の前記液体吐出ヘッドにより、前記設定領域被覆マスクの縁部となる領域へ前記第1のマスク形成用液体を吐出し、かつ、前記アルミニウム材へ着弾した前記第1のマスク形成用液体へ紫外線を照射することにより、前記設定領域被覆マスクの縁部を形成し、
前記内部領域形成工程において、前記第2のマスク形成用液体を吐出する第2の前記液体吐出ヘッドにより、前記縁部形成工程により形成された前記縁部に囲まれる領域へ前記第2のマスク形成用液体を吐出することにより、前記設定領域被覆マスクの前記マスク内部領域を形成することを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム材着色物の製造方法。
【請求項5】
アルミニウム材に着色をする着色方法であって、
前記アルミニウム材において予め設定された領域を覆う設定領域被覆マスクを形成するマスク形成工程と、
前記アルミニウム材において前記設定領域被覆マスクにより覆われていない領域を染料により着色する着色工程と、
前記着色工程の後に前記アルミニウム材から前記設定領域被覆マスクを剥離するマスク剥離工程と
を備え、
前記マスク形成工程において、インクジェット方式で液体を吐出する液体吐出ヘッドを用い、前記設定領域被覆マスクの形成に使用する液体であるマスク形成用液体を前記液体吐出ヘッドで前記アルミニウム材上へ吐出し、
前記マスク形成工程において、酸性溶液によるエッチングを行った前記アルミニウム材に対し、前記マスク形成用液体としてアクリル系の紫外線硬化型インクを用い、前記予め設定された領域へ前記液体吐出ヘッドにより前記マスク形成用液体を吐出することにより、前記設定領域被覆マスクを形成し、
前記着色工程において、水を溶媒とする染料溶液を使用して、前記設定領域被覆マスクにより覆われていない領域を着色し、
かつ、前記着色工程において、中性付近のpHで、前記染料による着色を行うことを特徴とする着色方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-09-04 
出願番号 特願2013-110572(P2013-110572)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C25D)
P 1 651・ 536- YAA (C25D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 坂本 薫昭  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 金 公彦
▲辻▼ 弘輔
登録日 2017-03-10 
登録番号 特許第6104710号(P6104710)
権利者 株式会社ミマキエンジニアリング
発明の名称 アルミニウム材着色物の製造方法、及び着色方法  
代理人 小林 直樹  
代理人 藤村 康夫  
代理人 折坂 茂樹  
代理人 藤村 康夫  
代理人 小林 直樹  
代理人 折坂 茂樹  

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