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審決分類 審判 一部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  E04H
審判 一部申し立て 2項進歩性  E04H
審判 一部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  E04H
審判 一部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  E04H
管理番号 1345825
異議申立番号 異議2017-700003  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-01-05 
確定日 2018-09-05 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5946579号発明「貯槽構造および貯槽の施工法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5946579号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-2、5-6、11-12、14〕、〔3-4〕について訂正することを認める。 特許第5946579号の請求項1-4、11、14に係る特許を取り消す。 
理由 1.手続の経緯
特許第5946579号の請求項1-15に係る特許についての出願は、平成27年12月22日(優先権主張 平成27年6月18日)に特許出願され、平成28年6月10日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人中川賢治より請求項1に対して、特許異議申立人小宮邦彦より請求項1-4、11、14に対して、それぞれ平成29年1月5日に特許異議の申立てがされ、平成29年4月20日付けで取消理由が通知され、平成29年6月2日に特許権者と面接審理を行い、平成29年6月23日に意見書の提出及び訂正請求がされ、平成29年8月8日に特許異議申立人中川賢治から、平成29年8月9日に特許異議申立人小宮邦彦から、それぞれ意見書が提出され、平成29年10月31日付けで取消理由通知(決定の予告)がされ、平成29年12月15日に特許権者と再度面接審理を行い、平成29年12月27日に意見書の提出及び訂正請求がされ、平成30年2月9日に特許異議申立人小宮邦彦から、平成30年2月13日に特許異議申立人中川賢治から、それぞれ意見書が提出され、平成30年3月23日付けで再度の取消理由通知(決定の予告)がされ、平成30年5月25日に意見書の提出及び訂正請求がされ、平成30年6月28日に特許異議申立人小宮邦彦から、平成30年7月3日に特許異議申立人中川賢治から、それぞれ意見書が提出されたものである。

2.訂正の適否
上記平成30年5月25日の訂正請求について、訂正の適否を検討する。なお、平成29年6月23日の訂正請求及び平成29年12月27日の訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

(1)訂正の内容
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「自立状態を多層に亘って保持することが可能であって建て方される際に起立の保持を強化するための機構を備えた自立補助手段が付設され前記防液堤に係るコンクリート工事のための内側型枠を兼用する外槽側ライナと」と記載されているのを、「前記防液堤の有無に依らずに自立状態を多層に亘って保持することが可能であって建て方される際に起立の保持を強化するための機構を備えた自立補助手段が付設され前記防液堤に係るコンクリート工事のための内側型枠を兼用する外槽側ライナであって、該外槽側ライナは、一方端が該外槽側ライナの前記防液堤側の面に取り付けられ他端が外槽側ライナの上端もしくは下端から突出している裏当金を有している、外槽側ライナと」と訂正する(下線部は訂正箇所を示す)。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に「自立状態を多層に亘って保持することが可能な自立補助手段が付設され前記防液堤に係るコンクリート工事のための内側型枠を兼用する外槽側ライナと」と記載されているのを、「前記防液堤の有無に依らずに自立状態を多層に亘って保持することが可能な自立補助手段が付設され前記防液堤に係るコンクリート工事のための内側型枠を兼用する外槽側ライナであって、該外槽側ライナは、一方端が該外槽側ライナの前記防液堤側の面に取り付けられ他端が外槽側ライナの上端もしくは下端から突出している裏当金を有している、外槽側ライナと」と訂正する(下線部は訂正箇所を示す)。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、訂正請求と同時に提出された意見書の9ページ4?8行の記載も参酌すると、請求項1に記載された「外槽側ライナ」について、「自立状態を多層に亘って保持する」ことが、「防液堤の有無に依ら」ないという条件を満たすことを明示することで、自立状態を保持することの定義をより明確にしたものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的としたものである。さらに、請求項1に係る発明が備える「外槽側ライナ」について、「一方端が該外槽側ライナの前記防液堤側の面に取り付けられ他端が外槽側ライナの上端もしくは下端から突出している裏当金を有している」という事項を付加して構造を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、明細書の段落【0058】の「この外槽側ライナ5を防液堤の有無に依らずに施工可能とし、自立可能な側ライナ5が結果として防液堤10の内側型枠としても使用できる仕組みの詳細は図9A乃至図9Cにて説明される。」という記載、段落【0060】の「外槽側ライナ5も、所定の大きさの鋼板を縦横方向に組合せて構築されるもので、所定の高さ足場(ブラケット足場)51を取り付けながら上方へ組み立てられる。この側ライナ5の外側となる面には所定間隔でスチフナ6が取り付けられており自立できるので、外側に構築される防液堤10に先行して側ライナ5が図示のように構築できる。従って、防液堤10の構築には、この側ライナ5を内側型枠として使用でき」という記載、図9Aで側ライナ5が防液堤10よりも高い位置で自立状態を保持した状態で施工されている構造の図示からみて、外槽側ライナ5は、防液堤10の構築に先行して自立状態を保持して施工されていることが当業者には理解されるから、訂正事項1の「防液堤の有無に依らずに自立状態を多層に亘って保持する」事項は、明細書等に記載された事項の範囲内のものと認められ、新規事項の追加に該当しない。
さらに、訂正事項1の「外槽側ライナは、一方端が該外槽側ライナの前記防液堤側の面に取り付けられ他端が外槽側ライナの上端もしくは下端から突出している裏当金を有している」事項は、明細書の段落【0016】の「外槽側ライナを周回方向に結合させて環状を形成させるにおいては、結合される単位ライナの一方もしくは双方の外側(すなわち防液堤構築側)に裏当金を予め工場工程で付けておき」という記載、段落【0062】の「図9Cに示すように、側ライナ5の溶接継ぎ手位置52にて、裏当金53を当てて溶接する裏当金付き突き合わせ溶接を行う」という記載、図9Cで裏当金53の一方端が下側の側ライナ5に取り付けられ他端が下側の側ライナ5の上端から突出している構造の図示からみて、明細書等に記載された事項の範囲内のものと認められるから、新規事項の追加に該当しない。
そして、訂正事項1は、上記のとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするもの及び「外槽側ライナ」という発明特定事項を下位概念のものに限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ 訂正事項2について
訂正事項2は、請求項3に記載された「自立状態を多層に亘って保持する」ことについて、訂正事項1と同様に「防液堤の有無に依ら」ないという条件を満たすことを明示して、定義をより明確にしたものと、請求項3に係る発明が備える「外槽側ライナ」について、「一方端が該外槽側ライナの前記防液堤側の面に取り付けられ他端が外槽側ライナの上端もしくは下端から突出している裏当金を有している」という、訂正事項1と同じ事項を付加して構造を限定するものである。よって、訂正事項1と同様に、明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的としたものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 一群の請求項について
訂正前の請求項1-2、5-6、11-12、14は、請求項2、5-6、11-12、14が、訂正の請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。
また、訂正前の請求項3-4は、請求項4が、訂正の請求の対象である請求項3の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。
したがって、訂正の請求は、一群の請求項ごとにされたものである。

(3)独立特許要件について
上記一群の請求項1-2、5-6、11-12、14において、請求項5-6及び12については、特許異議の申立てがされていないため、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の規定に適合するか、検討する。

ア 請求項5について
請求項5に係る発明は、「前記外槽側ライナには所定間隔でセパレータもしくはタイロッド挿通用の孔が穿設され、前記外槽側ライナを挿通した前記セパレータもしくはタイロッドは前記外槽側ライナのいずれかの側に固着されたナットにねじ止めされることによって前記外槽側ライナが支保される」という発明特定事項を有するものである。
そして、上記発明特定事項については、特許異議申立人中川賢治が提出した甲第1?4号証及び特許異議申立人小宮邦彦が提出した甲第1?5号証には記載されていない。例えば、特許異議申立人中川賢治が提出した甲第2号証(特開2005-68710号公報)には、外板部2に鉄筋4、4Aを突設した壁用型枠ブロック1(図1、7)が、特許異議申立人小宮邦彦が提出した甲第2号証(特開2015-48621号公報)には、スタッド部材27と、タイロッド29を螺合する高ナット28とを設けた側部ライナプレート20(図4)が、また同甲第4号証(LNG地上式貯槽指針)には、頭付きスタッドや剛アンカーを設けた外槽ライナ(108ページ、解図4-21)が、それぞれ記載されている。しかし、これらの甲号証には、外槽側ライナに穿設した孔に、セパレータもしくはタイロッドを挿通してねじ止めする構造については、記載も示唆もされていない。
また、上記請求項5に係る発明の特定事項が、従来周知の事項であることを示す根拠も特にない。
そうすると、請求項5に係る発明は、特許異議申立人中川賢治及び小宮邦彦が提出した甲各号証及び従来周知の事項から、当業者が容易に発明することができたものではない。
さらに、他に、請求項5に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由は見当たらない。

イ 請求項6について
請求項6に係る発明は、請求項5に係る発明を引用する発明であって、請求項5に係る発明の特定事項を全て有するものであるから、請求項5に係る発明と同様、特許異議申立人中川賢治及び小宮邦彦が提出した甲各号証及び従来周知の事項から、当業者が容易に発明することができたものではない。
また、他に、請求項6に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由は見当たらない。

ウ 請求項12について
請求項12に係る発明は、「前記防液提に係る鉄筋を受けるための鉄筋受架台をさらに備え、前記鉄筋が縦横に交差点を緊結もしくは溶接等されて網型に組まれたものが前記鉄筋受架台に接合させもしくはこれらを貫通させるようにして外槽側ライナと一体加工される」という発明特定事項を有するものである。
そして、上記発明特定事項については、特許異議申立人中川賢治が提出した甲第1?4号証及び特許異議申立人小宮邦彦が提出した甲第1?5号証には記載されていない。
また、上記請求項12に係る発明の特定事項が、従来周知の事項であることを示す根拠も特にない。
そうすると、請求項12に係る発明は、特許異議申立人中川賢治及び小宮邦彦が提出した甲各号証及び従来周知の事項から、当業者が容易に発明することができたものではない。
さらに、他に、請求項12に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由は見当たらない。

(4)訂正についてのまとめ
したがって、上記訂正請求による訂正事項1及び2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項から第7項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-2、5-6、11-12、14〕、〔3-4〕について訂正を認める。

3.当審の判断
(1)訂正後の請求項1-15に係る発明
上記訂正請求により訂正された訂正後の請求項1-15に係る発明(以下「本件発明1」等という)は、その特許請求の範囲の請求項1-15に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
防液堤の内部に施工され、前記防液堤の有無に依らずに自立状態を多層に亘って保持することが可能であって建て方される際に起立の保持を強化するための機構を備えた自立補助手段が付設され前記防液堤に係るコンクリート工事のための内側型枠を兼用する外槽側ライナであって、該外槽側ライナは、一方端が該外槽側ライナの前記防液堤側の面に取り付けられ他端が外槽側ライナの上端もしくは下端から突出している裏当金を有している、外槽側ライナと、
前記外槽側ライナの内側に施工される内槽と
を備えたことを特徴とする貯槽構造。
【請求項2】
前記自立補助手段は前記外槽側ライナが建て方される際に起立の保持を強化するための機構であって、周方向に曲げられた平板材たる外槽側ライナの凸面及び/もしくは凹面の周回方向もしくは/及び重力方向に一定の寸法間隔でスチフナが接合されること、当該外槽側ライナの平断面において少なくとも部分的に屈曲もしくは折り曲げ加工されること、外槽側ライナの板厚を一定以上の寸法とすること、外槽側ライナを比較的初期段階で周回方向に連綿と結合させて環状を形成させること、外槽側ライナの周回方向にスチフナもしくは補助板を接合したうえで該外槽側ライナを周回方向に連綿と巻回させて環状を形成させつつ当該スチフナもしくは補助板をも結合させてバンド状の環状体を形成させること、外槽側ライナの凸面に表面からスタッドジベル等の部材が突合するように設けること、外槽側ライナとこれに積層もしくは連接される外層側ライナとの接合部分に裏当板等を仮設もしくは本設的に設置することのうちの少なくともいずれか一つ以上を備えることを特徴とする請求項1記載の貯槽構造。
【請求項3】
防液堤の内部に施工され、前記防液堤の有無に依らずに自立状態を多層に亘って保持することが可能な自立補助手段が付設され前記防液堤に係るコンクリート工事のための内側型枠を兼用する外槽側ライナであって、該外槽側ライナは、一方端が該外槽側ライナの前記防液堤側の面に取り付けられ他端が外槽側ライナの上端もしくは下端から突出している裏当金を有している、外槽側ライナと、
前記外槽側ライナの内側に施工される内槽とを備え、
前記自立補助手段として、前記外槽側ライナが単位ライナが相互に連綿と接合されて環状を形成したことによるものであり、
前記結合される単位ライナは一方もしくは双方の側に縦方向及び/もしくは横方向に予め取り付けられた裏当金を用いた溶接により前記接合がなされ、
前記裏当金は前記単位ライナ相互の接合を行う際のガイド部材である
ことを特徴とする貯槽構造。
【請求項4】
前記裏当金を用いた溶接による前記単位ライナの接合に当たっては、前記外槽側ライナの内面からのみの溶接継手であることを特徴とする請求項3記載の貯槽構造。
【請求項5】
前記外槽側ライナには所定間隔でセパレータもしくはタイロッド挿通用の孔が穿設され、
前記外槽側ライナを挿通した前記セパレータもしくはタイロッドは前記外槽側ライナのいずれかの側に固着されたナットにねじ止めされることによって前記外槽側ライナが支保されることを特徴とする請求項1記載の貯槽構造。
【請求項6】
前記外槽側ライナに穿設された穴は前記セパレータもしくはタイロッドが挿通され前記ナットにねじ止めされた後に塞がれることを特徴とする請求項5記載の貯槽構造。
【請求項7】
防液堤の内部に施工され、自立状態を多層に亘って保持することが可能な自立補助手段が付設され前記防液堤に係るコンクリート工事のための内側型枠を兼用する外槽側ライナと、
前記外槽側ライナの内側に施工される内槽とを備え、
前記自立補助手段として、前記外槽側ライナの凸面及び/もしくは凹面の周回方向もしくは/及び重力方向に一定の寸法間隔でスチフナが接合されるものであり、
前記外槽側ライナには所定間隔でセパレータもしくはタイロッド挿通用の孔が穿設され、前記セパレータもしくはタイロッドを用いて前記外槽側ライナが支保される機構であり、
前記外槽側ライナが支保される機構は、
前記セパレータもしくはタイロッドが前記スチフナに溶接される構造、前記セパレータもしくはタイロッドが前記スチフナに金具等で引っかけられる構造、前記スチフナにナットが埋め込まれもしくは溶接され該ナットに前記セパレータもしくはタイロッドがねじ止めされる構造、前記スチフナに穴が穿設され前記セパレータもしくはタイロッドが該穴に貫通された後にナットでねじ止めされる構造、
のうちの少なくともいずれか一つ以上を備えることを特徴とする貯槽構造。
【請求項8】
前記スチフナと前記防液提に係る鉄筋との取り合い部分は、
前記スチフナに前記鉄筋貫通用の孔が穿設され該孔を前記鉄筋が挿通する構造、
前記スチフナの表面に鉄筋が摺接することによってスチフナと鉄筋とが溶接、クランプ留め、ビス留め、治具による接続の少なくともいずれかによって固定される構造
のいずれかを有することを特徴とする請求項7記載の貯槽構造。
【請求項9】
前記スチフナは、断面が平板(FB)状、L字形状、T字形状、I字形状、H字形状のいずれかをした軸材が長手方向に若干湾曲されて前記外槽側ライナのいずれかの側に周接するように設けられることを特徴とする請求項7記載の貯槽構造。
【請求項10】
前記スチフナにおいて、該スチフナの切れ目と前記裏当金との取り合い部分においてジョイント用スチフナが取り付けられることを特徴とする請求項7記載の貯槽構造。
【請求項11】
前記外槽側ライナには気密性確保のための手段が施されることを特徴とする請求項1記載の貯槽構造。
【請求項12】
前記防液提に係る鉄筋を受けるための鉄筋受架台をさらに備え、前記鉄筋が縦横に交差点を緊結もしくは溶接等されて網型に組まれたものが前記鉄筋受架台に接合させもしくはこれらを貫通させるようにして外槽側ライナと一体加工されることを特徴とする請求項1記載の貯槽構造。
【請求項13】
前記防液提に係る鉄筋を受けるための鉄筋受架台をさらに備え、前記鉄筋が縦横に交差点を緊結もしくは溶接等されて網型に組まれたものが前記スチフナに接合させもしくはこれらを貫通させるようにして外槽側ライナと一体加工されることを特徴とする請求項7記載の貯槽構造。
【請求項14】
前記外槽側ライナにはスタッドジベルが所定間隔で上下左右方向に取付けられることを特徴とする請求項1記載の貯槽構造。
【請求項15】
内槽を建て方する内槽工程と、
多層に亘る自立を可能とさせる自立補助手段が付設された外槽側ライナによる外槽の施工工程と、
前記外槽側ライナを内側型枠として該内側型枠に相対する外側型枠を建て方する施工工程と、
前記外槽側ライナと前記外側型枠との間にコンクリートを打設する工程と
を備える貯槽の施工法であって、
前記外槽の施工工程は、
裏当金突合せ溶接を前記外槽側ライナに係るライナ板に施工する第1の工程と、
前記上記ライナ板を施工現場に搬入し、該施工現場で第1のライナ板と第2のライナ板とを連接組み立てする際に、ガイド部材たる裏当金に当てるようにして取り付ける第2の工程と、
前記ライナ板の位置決めが確定されたら、その位置において、縦方向の裏当部の突合せ溶接を行い、次いで、周方向の裏当部の突合せ溶接を行う、第3の工程と、
仮スチフナを非コンクリート側から取り付ける第4の工程と、
前記防液堤のコンクリートを打設する第5の工程と、
前記コンクリートの打設完了後、前記仮スチフナを撤去する第6の工程と
を具備することを特徴とする貯槽の施工法。」

(2)引用文献に記載された事項
ア 引用文献1
特許異議申立人小宮邦彦が提出した甲第1号証(特開2012-149416号公報、以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。

(ア) 「【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の円筒型タンクの構築方法について図面を参照して説明する。以下の説明では、円筒型タンクとして、LNGを貯蔵する地上式のPC(プレストレスコンクリート)二重殻貯槽を例示する。
【0017】
先ず、図1に示すように、略円板状の基礎版(外槽の底部)1の工事を行う。基礎版1の外周縁部には、後述するPC壁(外槽の側壁)2を組み上げる基礎部3を凸設する。また、基礎部3の内側に沿って内槽アンカーストラップ4を設置する。
【0018】
次に、図2(a)に示すように、基礎版1上に側ライナー(外槽側板)5を組み立てる。なお、側ライナー5は、コンクリート型枠を兼ねている。側ライナー5は、通常板厚が6mm程度の鋼材であるが、本実施形態では板厚を20mm程度にして、強度を向上させている。
【0019】
側ライナー5は、基礎部3の内側に沿って組み立てる。図2(b)に示すように、基礎部3の基端部に、略L字状の埋め込みプレート6を設置し、その上に、側ライナー5を据え付ける。また、図2(a)に示すように、基礎版1上に底部ライナー7を敷設する。図2(b)に示すように、底部ライナー7の縁部は、埋め込みプレート6上に重ねて敷設する。
【0020】
次に、図3に示すように、側ライナー5をさらに組み上げる。また、側ライナー5の基端部の内側に沿って内槽側板組立用の仮架台8を設置する。
そして、図4に示すように、側ライナー5を最下段のものから最上段のものへと順々に組み上げる。なお、ここでは、側ライナー5を例えば4段目まで組み上げる。
【0021】
次に、図5に示すように、先行して4段目まで組み上げた側ライナー5に沿って、基礎部3上に最下段(1段目)のPC壁2を打設する。また、仮架台8上に、内槽側板9を立設させ、隣り合う内槽側板9同士を溶接し、環状に組み立てる。なお、内槽側板9は、最上段(本実施形態では9段目)に対応するものである。内槽側板9は、優れた靱性と強度を備えるNi鋼材から形成されている。
【0022】
次に、図6に示すように、基礎版1の中央部に屋根架台10を組み立てる。また、内槽側板9の上端部にナックルプレート11を組み付ける。また、基礎版1上に、高所作業車12を乗り入れる。また、仮架台8の下に、パーライトコンクリートブロックや構造用軽量コンクリートブロック等のアニュラー部13の構成部材を仮置きする。
【0023】
次に、図7に示すように、屋根架台10上に内槽屋根ブロックを搭載し、内槽屋根14を組み立てる。また、内槽屋根14の外周縁部に、ナックルプレート11を介して内槽側板9を取り付ける。また、この際、PC壁2を、側ライナー5に沿って最下段のものから最上段のものへと順々に(ここでは途中の5段目まで)打設して組み上げる。」

(イ) 「【0040】
その後、PC壁2の緊張工事を行う。そして、不図示の内槽工事口の閉鎖、不図示のポンプバレルの設置を経た後、水張りをして耐圧・気密試験を実施する。
最後に、図18に示すように、内外槽間15に保冷材44(例えばパーライト)を充填して内外槽間保冷工事を行い、その後、塗装工事、配管保冷工事を経て円筒型タンク100が構築される。」

(ウ) 「【0049】
例えば、上述の実施形態では、側ライナー5の板厚を20mm程度にして、強度を向上させていると説明したが、本発明はこの手段に限定されることなく、例えば、代わりに足場を兼用したスティフナーを設置しても良い。」

(エ) 図4


(オ) 図4を見ると、側ライナー5を最下段のものから最上段のものへと順々に組み上げる際に、該側ライナー5に沿って打設されるPC壁が無い状態で、該側ライナー5を4段目まで組み上げた例が示されており(段落【0020】の記載も参照)、このように先行して4段目まで組み上げた側ライナー5に沿って、PC壁を打設して組み上げることも、段落【0021】及び【0023】の記載から理解される。

(オ)引用文献1記載の発明
上記摘記事項(ア)?(ウ)、図示(エ)及び認定事項(オ)からみて、引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる。
「PC壁の内部に施工され、最下段のものから最上段のものへと順々に組み上げる際に、PC壁が無い状態で4段目まで組み上げることが可能であって、板厚を20mm程度にしたり足場を兼用したスティフナーを設置したりすることで強度を向上させた、前記PC壁に係るコンクリート型枠を兼ねている側ライナー5と、
前記側ライナー5の内側に施工される内槽側板9と
を備えたPC二重殻貯槽。」(以下「引用発明」という)

イ 引用文献2
特許異議申立人小宮邦彦が提出した甲第3号証(特開2014-95265号公報、以下「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。

(ア) 「【0018】
具体的には、図3(a)?図3(c)に示すように、側ライナー4を先行して組み上げつつ、側ライナー4の上側への次の側ライナー4の突合せ溶接と、この側ライナー4を用いたコンクリート5の打設と、を交互に行うことにより、PC壁3を組み上げていく。側ライナー4の突合せ溶接は、タンク内側からの片側溶接により行うことが好ましく、例えば図3中、符号4aで示す裏当て金を用いた裏当て付突合せ溶接を行う。このように、側ライナー4の突合せ溶接をタンク内側からの片側溶接とすることにより、タンク外側におけるコンクリート5の打設工事との干渉を回避することができる。」

(イ) 図3


(ウ) 図3(a)を見ると、上に位置する側ライナー4の上端には裏当て金4aは付属していない。しかし、図3(b)でタンク内側からの片側溶接により、裏当て付突合せ溶接を行った後は、中央の側ライナー4(図3(a)の上に位置する側ライナー4に該当)の上端部から、さらに上に位置する側ライナー4の下端部にまで、裏当て金4aは重なって配置されていることが看取される。そして、上記摘記事項(ア)の「側ライナー4の突合せ溶接をタンク内側からの片側溶接とすることにより、タンク外側におけるコンクリート5の打設工事との干渉を回避することができる。」という記載を勘案すると、タンク内側(図3の右側)からの片側溶接時に、タンク外側(図3の左側)からの裏当て金4aの支持は行わないと考えられ、その場合、当該裏当て金4aの上端部を上記さらに上に位置する側ライナー4の下端部に重ねて予め固定することで、溶接時に裏当て金4aを支持していると解さざるを得ない。
そうすると、段落【0018】及び図3からは、「側ライナー4が、上方端が側ライナー4のタンク外側の面に取り付けられ下方端が側ライナー4の下端から突出している裏当て金4aを有している」という事項が示されていると認められる。

ウ 引用文献3
特許異議申立人小宮邦彦が提出した甲第2号証(特開2015-48621号公報、以下「引用文献3」という。)には、以下の事項が記載されている。

(ア) 「【0031】
図4に示すように、上下方向に隣接する側部ライナプレート20の継手部20Jにおいて、下段リングの側部ライナプレート20の上端側のアングル材22は、プレート本体21の上端縁から例えば約6?10mm程度上方へはみ出す状態にしてプレート本体21に接合されている。また、上段リングの側部ライナプレート20の下端側のアングル材22は、プレート本体21の下端縁から上方へ例えば約6?10mm程度上方へ後退した状態にしてプレート本体21に接合されている。
【0032】
それ故、上記の継手部20Jにおいては、アングル材22の上にアングル材22を当接させ、それら隣接するアングル材22同士を複数位置においてボルト23とナット24により締結することで上下に隣接する側部ライナプレート20が連結される。さらに、下段リングのプレート本体21の上端縁と上段リングのプレート本体21の下端縁とを溶接接合する溶接部25は、アングル材22を裏当材とする突き合わせ溶接にて形成される。」

(イ) 「【0035】
更に、図2?図4に示すように、側部ライナプレート20のプレート本体21の外面に、複数のスタッド部材27と、複数の高ナット28とが固着されている。複数のスタッド部材27は、上下方向と周方向に夫々適当間隔おきに配置され、スタッド溶接にてプレート本体21に接合されている。これらスタッド部材27は側部ライナプレート20とコンクリートとの結合力を強化する為のものであり、各スタッド部材27の先端にはやや大径の頭部が形成されている。」

(ウ) 「【0039】
側部ライナプレート20を組み付ける場合、クレーンにて吊持した側部ライナプレート20を、既設の最新の側部ライナプレート20の上端に、図4に示すようにアングル材22をボルト締結することを周方向に複数回繰り返えして1リング分の複数の側部ライナプレート20を組み付ける。但し、この場合、周方向に隣接する側部ライナプレート20同士は、図5に示すようにアングル材22をボルト締結することで結合する。尚、アングル材22は、隣接する側部ライナプレート20同士をボルト締結する際のボルト治具として活用される。」

(3)対比・判断
ア 本件発明1について
本件発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「PC壁」、「内槽側板9」、「PC二重殻貯槽」は、本件発明1の「防液堤」、「内槽」、「貯槽構造」に相当するものと認められる。
また、引用発明の「前記PC壁に係るコンクリート型枠を兼ねている側ライナー5」は、本件発明1の「前記防液堤に係るコンクリート工事のための内側型枠を兼用する外槽側ライナ」に相当する。
そして、本件発明1の側ライナについて、明細書の段落【0015】で「この自立補助手段が外槽側ライナに加えられることによって、該側ライナの建て方の際に自立状態を多層にわたって保持することが可能となる。ここで「多層」とは、1枚ものである外槽側ライナが複数層に亘って上下方向に積層されることをいう(以下、特記無き限り同様)。また、ここで「自立」とは、自重による崩壊を招かないというだけでなく、強風や地震の場合でも崩壊せずに起立状態を保持でき、かつ、外槽側ライナが防液堤の型枠の一方を兼ねる場合には防液堤用コンクリートの打設の際の側圧にも耐えうる側圧対向力を備えた性質をいう。」と説示されている事項を参酌すると、引用発明の側ライナー5を、「最下段のものから最上段のものへと順々に組み上げる際に、PC壁が無い状態で4段目まで組み上げることが可能」にすることは、当該側ライナー5を、下段から上段へ4段に亘って上下方向に積層させた上で、PC壁に係るコンクリートの打設の際の側圧にも耐えるように組み立てるものと解されるから、本件発明1の外槽側ライナを、「防液堤の有無に依らずに自立状態を多層に亘って保持することが可能」にすることに相当するものと認められる。
さらに、引用発明の側ライナー5に、「板厚を20mm程度にしたり足場を兼用したスティフナーを設置したりすることで強度を向上させた」ことは、当該側ライナー5の強度を上げることで起立の保持を強化するものと解されるから、本件発明1の外槽側ライナに、「建て方される際に起立の保持を強化するための機構を備えた自立補助手段が付設され」たことに相当する。
そうすると、本件発明1と引用発明とは、下記の点で一致し、かつ相違する。
<一致点>
「防液堤の内部に施工され、前記防液堤の有無に依らずに自立状態を多層に亘って保持することが可能であって建て方される際に起立の保持を強化するための機構を備えた自立補助手段が付設され前記防液堤に係るコンクリート工事のための内側型枠を兼用する外槽側ライナと、
前記外槽側ライナの内側に施工される内槽と
を備えた貯槽構造。」
<相違点1>
本件発明1が、「該外槽側ライナは、一方端が該外槽側ライナの前記防液堤側の面に取り付けられ他端が外槽側ライナの上端もしくは下端から突出している裏当金を有している」のに対し、引用発明の側ライナー5は、組み上げられているがその固定構造については不明である点。

ここで、相違点1について検討する。
上下の外槽側ライナを組み上げて固定する際に、上下の外槽側ライナの端部を突合せて、裏当金を配置して溶接により固定する手法を用いることは、引用文献2に側ライナー4の裏当て付突合せ溶接として記載されている。また、当該裏当て付突合せ溶接において用いられる、相違点1に係る裏当金の構造を有する外槽側ライナも、引用文献2に認定事項(ウ)として示されている。そして、外槽側ライナのような金属板を構造物として組み上げる際に、溶接による組み上げを行うことは慣用されているから、引用発明の側ライナー5の組み上げに際し、引用文献2に記載された裏当て付突合せ溶接による固定手段を用いることで、相違点1に係る裏当金を有する側ライナー5の構成とすることは、当業者であれば容易に想到する事項と認められる。
したがって、本件発明1は、引用発明及び引用文献2に記載された事項から、当業者が容易に想到し得たものである。

イ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の特定事項に加え、「前記自立補助手段は前記外槽側ライナが建て方される際に起立の保持を強化するための機構であって、周方向に曲げられた平板材たる外槽側ライナの凸面及び/もしくは凹面の周回方向もしくは/及び重力方向に一定の寸法間隔でスチフナが接合されること、当該外槽側ライナの平断面において少なくとも部分的に屈曲もしくは折り曲げ加工されること、外槽側ライナの板厚を一定以上の寸法とすること、外槽側ライナを比較的初期段階で周回方向に連綿と結合させて環状を形成させること、外槽側ライナの周回方向にスチフナもしくは補助板を接合したうえで該外槽側ライナを周回方向に連綿と巻回させて環状を形成させつつ当該スチフナもしくは補助板をも結合させてバンド状の環状体を形成させること、外槽側ライナの凸面に表面からスタッドジベル等の部材が突合するように設けること、外槽側ライナとこれに積層もしくは連接される外層側ライナとの接合部分に裏当板等を仮設もしくは本設的に設置することのうちの少なくともいずれか一つ以上を備えること」という事項を含んでいる。
そして、上記事項のうち、択一的事項としての「周方向に曲げられた平板材たる外槽側ライナの凸面及び/もしくは凹面の周回方向もしくは/及び重力方向に一定の寸法間隔でスチフナが接合されること」及び「外槽側ライナの板厚を一定以上の寸法とすること」については、引用発明も、側ライナー5に「足場を兼用したスティフナーを設置」すること及び「板厚を20mm程度に」することを備えており、これらの択一的事項は本件発明2と同様に有していると認められる。
また、上記事項の択一的事項のうち、「外槽側ライナとこれに積層もしくは連接される外層側ライナとの接合部分に裏当板等を仮設もしくは本設的に設置すること」は、引用文献2に側ライナー4に裏当て金付突合せ溶接を行う事項として記載されている。
さらに、上記事項の択一的事項のうち、「当該外槽側ライナの平断面において少なくとも部分的に屈曲もしくは折り曲げ加工されること」、「外槽側ライナを比較的初期段階で周回方向に連綿と結合させて環状を形成させること」、「外槽側ライナの周回方向にスチフナもしくは補助板を接合したうえで該外槽側ライナを周回方向に連綿と巻回させて環状を形成させつつ当該スチフナもしくは補助板をも結合させてバンド状の環状体を形成させること」及び「外槽側ライナの凸面に表面からスタッドジベル等の部材が突合するように設けること」については、引用文献3の摘記事項(ア)ないし(ウ)に、複数のアングル材22やスタッド部材27を固着した複数の側部ライナプレート20を組み付けて1リング分構築する技術として示されている。
よって、本件発明2は、引用発明、引用文献2及び引用文献3に記載された事項から、当業者が容易に想到し得たものである。

ウ 本件発明11について
本件発明11は、本件発明1の特定事項に加え、「前記外槽側ライナには気密性確保のための手段が施されること」という事項を含んでいる。しかし、引用文献1の摘記事項(イ)に「耐圧・気密試験を実施する。」ことが記載されていることから、引用発明において、側ライナー5に機密性確保のための手段を施すことも、当業者が容易に想到し得たものと認められる。
よって、本件発明11は、引用発明及び引用文献2に記載された事項から、当業者が容易に想到し得たものである。

エ 本件発明14について
本件発明14は、本件発明1の特定事項に加え、「前記外槽側ライナにはスタッドジベルが所定間隔で上下左右方向に取付けられること」という事項を含んでいる。しかし、引用文献3の摘記事項(イ)には、側部ライナプレート20に、複数のスタッド部材27が、上下方向と周方向に夫々適当間隔おきに配置され固着されている事項が記載されている。
よって、本件発明14は、引用発明、引用文献2及び引用文献3に記載された事項から、当業者が容易に想到し得たものである。

オ 本件発明3について
本件発明3と引用発明とを対比すると、引用発明の「PC壁」、「内槽側板9」、「PC二重殻貯槽」は、本件発明3の「防液堤」、「内槽」、「貯槽構造」に相当するものと認められる。
また、引用発明の「前記PC壁に係るコンクリート型枠を兼ねている側ライナー5」は、本件発明3の「前記防液堤に係るコンクリート工事のための内側型枠を兼用する外槽側ライナ」に相当する。
そして、引用発明の側ライナー5が、「最下段のものから最上段のものへと順々に組み上げる際に、PC壁が無い状態で4段目まで組み上げることが可能であって、板厚を20mm程度にしたり足場を兼用したスティフナーを設置したりすることで強度を向上させた」ことは、本件発明3の外槽側ライナが、「防液堤の有無に依らずに自立状態を多層に亘って保持することが可能な自立補助手段が付設され」たことに相当する。
そうすると、本件発明3と引用発明とは、下記の点で一致し、かつ相違する。
<一致点>
「防液堤の内部に施工され、前記防液堤の有無に依らずに自立状態を多層に亘って保持することが可能な自立補助手段が付設され前記防液堤に係るコンクリート工事のための内側型枠を兼用する外槽側ライナと、
前記外槽側ライナの内側に施工される内槽とを備えた貯槽構造。」
<相違点2>
本件発明3が、「該外槽側ライナは、一方端が該外槽側ライナの前記防液堤側の面に取り付けられ他端が外槽側ライナの上端もしくは下端から突出している裏当金を有している」のに対し、引用発明の側ライナー5は、組み上げられているがその固定構造については不明である点。
<相違点3>
本件発明3が、「前記自立補助手段として、前記外槽側ライナが単位ライナが相互に連綿と接合されて環状を形成したことによるものであ」るのに対し、引用発明では側ライナー5が単位ライナを環状に形成して構成されているかは不明である点。
<相違点4>
本件発明3が、「前記結合される単位ライナは一方もしくは双方の側に縦方向及び/もしくは横方向に予め取り付けられた裏当金を用いた溶接により前記接合がなされ、
前記裏当金は前記単位ライナ相互の接合を行う際のガイド部材である」のに対し、引用発明では、裏当金を用いた溶接については不明である点。

相違点2については、上記アの相違点1と同じであることから、上記アで検討したのと同様に、引用発明の側ライナー5の組み上げに際し、引用文献2に記載された裏当て付突合せ溶接による固定手段を用いることで、相違点2に係る裏当金を有する側ライナー5の構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たものと認められる。
次に相違点3について検討すると、引用文献3の摘記事項(ウ)に記載された側部ライナプレート20は、複数組み付けることで1リングを構築していることから、本件発明3の単位ライナを環状に形成することに相当するものと認められる。そして、引用文献3に記載された複数の側部ライナプレート20により1リングを構築する構造を、引用発明の側ライナー5に適用し、相違点3に係る自立補助手段とすることは、当業者であれば容易に想到し得たものと認められる。
さらに、相違点4について検討すると、引用文献2に記載された裏当て付突合せ溶接を行う際、当業者であれば、裏当て金4aを側ライナー4の突合せ部のガイド部材とすることは、当然考慮する事項にすぎない。
よって、本件発明3は、引用発明、引用文献2及び引用文献3に記載された事項から、当業者が容易に想到し得たものである。

カ 本件発明4について
本件発明4の特定事項である「前記裏当金を用いた溶接による前記単位ライナの接合に当たっては、前記外槽側ライナの内面からのみの溶接継手であること」については、引用文献2に記載された裏当て付突合せ溶接が、「タンク内側からの片側溶接」であることを勘案すれば、当業者が当然想到するものである。
よって、本件発明4は、引用発明、引用文献2及び引用文献3に記載された事項から、当業者が容易に想到し得たものである。

キ 特許権者の意見について
平成30年5月25日付けの意見書において、特許権者は、本件発明1及び本件発明3の「外槽側ライナ」が、「前記防液堤の有無に依らず自立状態を多層に亘って保持することが可能」であって、防液堤側の施工と側ライナの施工とを夫々完全に独立/並行して進めることができる効果を奏することは、いずれの引用文献にも開示も示唆もされていない旨を主張している。そして、「引用文献1には、本件訂正後特定事項は開示も示唆もされていない。なんとなれば、仮に引用文献1に本件訂正後特定事項が開示もしくは示唆されているとすると、引用文献1は技術思想として実施不可能となるばかりでなく、思想として破綻することになるからである。」とし、その理由として「以上を換言すれば、側ライナー5は最上段目までアンカーをとることなしに(即ち、アンカーと独立に)組み上げることは引用文献1の目的に反するばかりでなく、技術的にこれを可能とする手段が記述されていないことと併せ、むしろ、引用文献1の目的である「内槽と外槽とを同時に施工しつつ、また、外槽の底部の保冷作業との干渉を回避する」(引用文献1の【0007】段落)ことを課題とする点に鑑みれば、側ライナー5をある程度の段数(たとえば図4に示される4段目)まで組み上げておいて、アンカーをとり、以降は内槽工事と外槽工事とを並行して作業させることを企図したものと考えられる。つまり、側ライナー5をアンカーと関係なく最上段まで組み上げるとした場合には、内槽と外槽との同時施工は成り立たなくなってしまうだけでなく、自立性(倒壊しないこと)を技術的にどのように保持するのかが一切開示/示唆されていないことから実施可能性がない、ということになってしまう。」と述べている。
しかし、本件発明1及び本件発明3の「外槽側ライナ」は、「前記防液堤の有無に依らずに自立状態を多層に亘って保持することが可能」なものとしか規定されていないのであるから、防液堤の有無に依らず自立状態を保持しているのは、外槽側ライナを最下段から最上段まで全て組み上げた状態にあるものだけではなく、単に「多層に亘る」まで組み上げたものも当然含まれていると解すべきである。つまり、引用発明の側ライナー5を最下段のものから最上段のものへと順々に組み上げる際に、PC壁が無い状態で4段目まで組み上げた状態(引用文献1の図4の例示)のものも、本件発明1及び本件発明3の「外槽側ライナ」に相当するものと認められる。そうすると、特許権者の上記主張は、クレームの記載に基づかないものといえるから、これを採用する理由はない。
また、本件明細書において、訂正の根拠となった段落【0058】には、「この外槽側ライナ5を防液堤の有無に依らずに施工可能とし、自立可能な側ライナ5が結果として防液堤10の内側型枠としても使用できる仕組みの詳細は図9A乃至図9Cにて説明される。」と記載されており、図9Aを見ると、外槽側ライナと防液堤の各施工が並行して進められることが示されていて(段落【0059】も参照)、防液堤が無いまま外槽側ライナ5だけを先に全て組み上げてしまうようなことは、図9A?9Cを含め、明細書のいずれにも示されていない。さらに、本件明細書の段落【0013】にも「即ち、この貯槽の構築において、内槽に関わる作業が最も時間・工数がかかるので、外槽側ライナ、PC防液堤、内槽屋根および外槽屋根を並行して作業することで効率の良い工事工程を実現する貯槽構造及び貯槽の施工法を提供することを目的とする。」と記載されているように、外槽側ライナとPC防液堤とは並行して作業・施工することが発明の目的にもなっており、内槽と外槽との同時施工を排除するような上記特許権者の主張は、本件発明の目的と矛盾するものであって整合しないことからも、採用することはできない。

4.むすび
以上のとおり、本件発明1-4、11、14は、引用発明、引用文献2及び引用文献3に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1-4、11、14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明1-4、11、14の特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防液堤の内部に施工され、前記防液堤の有無に依らずに自立状態を多層に亘って保持することが可能であって建て方される際に起立の保持を強化するための機構を備えた自立補助手段が付設され前記防液堤に係るコンクリート工事のための内側型枠を兼用する外槽側ライナであって、該外槽側ライナは、一方端が該外槽側ライナの前記防液堤側の面に取り付けられ他端が外槽側ライナの上端もしくは下端から突出している裏当金を有している、外槽側ライナと、
前記外槽側ライナの内側に施工される内槽と
を備えたことを特徴とする貯槽構造。
【請求項2】
前記自立補助手段は前記外槽側ライナが建て方される際に起立の保持を強化するための機構であって、周方向に曲げられた平板材たる外槽側ライナの凸面及び/もしくは凹面の周回方向もしくは/及び重力方向に一定の寸法間隔でスチフナが接合されること、当該外槽側ライナの平断面において少なくとも部分的に屈曲もしくは折り曲げ加工されること、外槽側ライナの板厚を一定以上の寸法とすること、外槽側ライナを比較的初期段階で周回方向に連綿と結合させて環状を形成させること、外槽側ライナの周回方向にスチフナもしくは補助板を接合したうえで該外槽側ライナを周回方向に連綿と巻回させて環状を形成させつつ当該スチフナもしくは補助板をも結合させてバンド状の環状体を形成させること、外槽側ライナの凸面に表面からスタッドジベル等の部材が突合するように設けること、外槽側ライナとこれに積層もしくは連接される外層側ライナとの接合部分に裏当板等を仮設もしくは本設的に設置することのうちの少なくともいずれか一つ以上を備えることを特徴とする請求項1記載の貯槽構造。
【請求項3】
防液堤の内部に施工され、前記防液堤の有無に依らずに自立状態を多層に亘って保持することが可能な自立補助手段が付設され前記防液堤に係るコンクリート工事のための内側型枠を兼用する外槽側ライナであって、該外槽側ライナは、一方端が該外槽側ライナの前記防液堤側の面に取り付けられ他端が外槽側ライナの上端もしくは下端から突出している裏当金を有している、外槽側ライナと、
前記外槽側ライナの内側に施工される内槽とを備え、
前記自立補助手段として、前記外槽側ライナが単位ライナが相互に連綿と接合されて環状を形成したことによるものであり、
前記結合される単位ライナは一方もしくは双方の側に縦方向及び/もしくは横方向に予め取り付けられた裏当金を用いた溶接により前記接合がなされ、
前記裏当金は前記単位ライナ相互の接合を行う際のガイド部材である
ことを特徴とする貯槽構造。
【請求項4】
前記裏当金を用いた溶接による前記単位ライナの接合に当たっては、前記外槽側ライナの内面からのみの溶接継手であることを特徴とする請求項3記載の貯槽構造。
【請求項5】
前記外槽側ライナには所定間隔でセパレータもしくはタイロッド挿通用の孔が穿設され、
前記外槽側ライナを挿通した前記セパレータもしくはタイロッドは前記外槽側ライナのいずれかの側に固着されたナットにねじ止めされることによって前記外槽側ライナが支保されることを特徴とする請求項1記載の貯槽構造。
【請求項6】
前記外槽側ライナに穿設された穴は前記セパレータもしくはタイロッドが挿通され前記ナットにねじ止めされた後に塞がれることを特徴とする請求項5記載の貯槽構造。
【請求項7】
防液堤の内部に施工され、自立状態を多層に亘って保持することが可能な自立補助手段が付設され前記防液堤に係るコンクリート工事のための内側型枠を兼用する外槽側ライナと、
前記外槽側ライナの内側に施工される内槽とを備え、
前記自立補助手段として、前記外槽側ライナの凸面及び/もしくは凹面の周回方向もしくは/及び重力方向に一定の寸法間隔でスチフナが接合されるものであり、
前記外槽側ライナには所定間隔でセパレータもしくはタイロッド挿通用の孔が穿設され、前記セパレータもしくはタイロッドを用いて前記外槽側ライナが支保される機構であり、
前記外槽側ライナが支保される機構は、
前記セパレータもしくはタイロッドが前記スチフナに溶接される構造、前記セパレータもしくはタイロッドが前記スチフナに金具等で引っかけられる構造、前記スチフナにナットが埋め込まれもしくは溶接され該ナットに前記セパレータもしくはタイロッドがねじ止めされる構造、前記スチフナに穴が穿設され前記セパレータもしくはタイロッドが該穴に貫通された後にナットでねじ止めされる構造、
のうちの少なくともいずれか一つ以上を備えることを特徴とする貯槽構造。
【請求項8】
前記スチフナと前記防液提に係る鉄筋との取り合い部分は、
前記スチフナに前記鉄筋貫通用の孔が穿設され該孔を前記鉄筋が挿通する構造、
前記スチフナの表面に鉄筋が摺接することによってスチフナと鉄筋とが溶接、クランプ留め、ビス留め、治具による接続の少なくともいずれかによって固定される構造
のいずれかを有することを特徴とする請求項7記載の貯槽構造。
【請求項9】
前記スチフナは、断面が平板(FB)状、L字形状、T字形状、I字形状、H字形状のいずれかをした軸材が長手方向に若干湾曲されて前記外槽側ライナのいずれかの側に周接するように設けられることを特徴とする請求項7記載の貯槽構造。
【請求項10】
前記スチフナにおいて、該スチフナの切れ目と前記裏当金との取り合い部分においてジョイント用スチフナが取り付けられることを特徴とする請求項7記載の貯槽構造。
【請求項11】
前記外槽側ライナには気密性確保のための手段が施されることを特徴とする請求項1記載の貯槽構造。
【請求項12】
前記防液提に係る鉄筋を受けるための鉄筋受架台をさらに備え、前記鉄筋が縦横に交差点を緊結もしくは溶接等されて網型に組まれたものが前記鉄筋受架台に接合させもしくはこれらを貫通させるようにして外槽側ライナと一体加工されることを特徴とする請求項1記載の貯槽構造。
【請求項13】
前記防液提に係る鉄筋を受けるための鉄筋受架台をさらに備え、前記鉄筋が縦横に交差点を緊結もしくは溶接等されて網型に組まれたものが前記スチフナに接合させもしくはこれらを貫通させるようにして外槽側ライナと一体加工されることを特徴とする請求項7記載の貯槽構造。
【請求項14】
前記外槽側ライナにはスタッドジベルが所定間隔で上下左右方向に取付けられることを特徴とする請求項1記載の貯槽構造。
【請求項15】
内槽を建て方する内槽工程と、
多層に亘る自立を可能とさせる自立補助手段が付設された外槽側ライナによる外槽の施工工程と、
前記外槽側ライナを内側型枠として該内側型枠に相対する外側型枠を建て方する施工工程と、
前記外槽側ライナと前記外側型枠との間にコンクリートを打設する工程と
を備える貯槽の施工法であって、
前記外槽の施工工程は、
裏当金突合せ溶接を前記外槽側ライナに係るライナ板に施工する第1の工程と、
前記上記ライナ板を施工現場に搬入し、該施工現場で第1のライナ板と第2のライナ板とを連接組み立てする際に、ガイド部材たる裏当金に当てるようにして取り付ける第2の工程と、
前記ライナ板の位置決めが確定されたら、その位置において、縦方向の裏当部の突合せ溶接を行い、次いで、周方向の裏当部の突合せ溶接を行う、第3の工程と、
仮スチフナを非コンクリート側から取り付ける第4の工程と、
前記防液堤のコンクリートを打設する第5の工程と、
前記コンクリートの打設完了後、前記仮スチフナを撤去する第6の工程と
を具備することを特徴とする貯槽の施工法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-07-27 
出願番号 特願2015-250111(P2015-250111)
審決分類 P 1 652・ 851- ZAA (E04H)
P 1 652・ 853- ZAA (E04H)
P 1 652・ 121- ZAA (E04H)
P 1 652・ 841- ZAA (E04H)
最終処分 取消  
前審関与審査官 二ッ谷 裕子  
特許庁審判長 西村 泰英
特許庁審判官 刈間 宏信
栗田 雅弘
登録日 2016-06-10 
登録番号 特許第5946579号(P5946579)
権利者 トーヨーカネツ株式会社 株式会社大林組
発明の名称 貯槽構造および貯槽の施工法  
代理人 友野 英三  
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