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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01T
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G01T
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  G01T
審判 全部申し立て 2項進歩性  G01T
管理番号 1345836
異議申立番号 異議2017-700275  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-03-16 
確定日 2018-09-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5996658号発明「脳断層動態画像解析装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5996658号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?8〕、〔9、10〕について訂正することを認める。 特許第5996658号の請求項1、3、5?10に係る特許を維持する。 特許第5996658号の請求項2、4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5996658号の請求項1?10に係る特許についての出願は、2013年8月28日(優先権主張 2012年8月30日、日本国)を国際出願日として出願したものであって、平成28年9月2日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、平成29年3月16日に特許異議申立人 鈴木 幸代(以下、「申立人」という。)より請求項1?10に係る特許に対して特許異議の申立てがされ、同年6月30日付けで1回目の取消理由が通知され、同年9月4日に意見書の提出がされ、同年11月10日付けで2回目の取消理由が通知され、平成30年1月15日に意見書の提出及び訂正請求がされ、その訂正請求に対して同年3月6日に申立人から意見書が提出されたものである。
さらに,同年4月13日付けで取消理由(決定の予告)が通知され,同年5月24日に特許権者と面接を行い,その取消理由通知(決定の予告)の指定期間内である同年6月18日に意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、同年6月22日付けで特許権者から上申書が提出され、同年7月10日に当審から、同年6月18日提出の意見書の内容について電話で、脳の形態が認識できる分布形態表示画像を選択する断層画像解析装置がどのように画像Dを選択するかの説明を求め、同年同月12日にファクシミリで回答がされ、その訂正請求に対して申立人から同年8月17日に意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりであり(i)第1訂正単位(請求項1?請求項8)、(ii)第2訂正単位(請求項9?請求項10)の2つの訂正単位がある。

(1) 第1訂正単位についての訂正
特許権者は、以下の訂正事項1?6のとおり訂正することを請求する(下線部は訂正箇所を示す。)。

ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「放射性薬剤の分布を示す断層画像である動的分布画像を解析する断層画像解析装置であって、
標準的な脳の形状を示す標準データを予め記憶する記憶手段と、
前記動的分布画像に写り込んだ被検体の脳の形態が前記標準データが示す脳の形態となるように前記動的分布画像の各々を変形させることにより、放射性薬剤の分布が標準化された標準化分布画像を前記動的分布画像の各々について生成する分布画像標準化手段と、
前記標準化分布画像に基づいて放射性薬剤分布の時間的変化の解析を実行する解析手段とを備えることを特徴とする断層画像解析装置。」と記載されているものを、「放射性薬剤の分布を示す断層画像である動的分布画像を解析する断層画像解析装置であって、
標準的な脳の形状を示す標準データを予め記憶する記憶手段と、
前記動的分布画像のうちから脳の形態が認識できる選択された分布形態表示画像と前記標準データが示す脳の形態とを比較することにより、変換関数を取得する変換関数取得手段と、
前記変換関数を用いて、前記動的分布画像に写り込んだ被検体の脳の形態が前記標準データが示す脳の形態となるように前記動的分布画像の各々を変形させることにより、放射性薬剤の分布が標準化された標準化分布画像を前記動的分布画像の各々について生成する分布画像標準化手段と、
前記標準化分布画像に基づいて放射性薬剤分布の時間的変化の解析を実行する解析手段とを備えることを特徴とする断層画像解析装置。」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3、5?8も同様に訂正する。)。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、「請求項1または請求項2に記載の断層画像解析装置において、
前記標準データ上の関心部位を予め記憶する記憶手段を備え、
前記解析手段は、前記標準データ上の関心部位に相当する前記標準化分布画像上の相当部位について放射性薬剤分布の時間的変化の解析を実行することを特徴とする断層画像解析装置。」とあるうち、請求項2を引用しないものとした上で、
引用先を請求項1に改め、「請求項1に記載の断層画像解析装置において、
前記標準データ上の関心部位を予め記憶する記憶手段を備え、
前記解析手段は、前記標準データ上の関心部位に相当する前記標準化分布画像上の相当部位について放射性薬剤分布の時間的変化の解析を実行することを特徴とする断層画像解析装置。」に訂正する(請求項3の記載を引用する請求項5?8も同様に訂正する。)。

エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4を削除する。

オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に、「請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の断層画像解析装置において、
前記記憶手段は、放射性薬剤の時間変化のパターンを記憶し、
前記解析手段の解析結果と前記パターンとを比較する比較手段を備えることを特徴とする断層画像解析装置。」とあるうち、請求項2、4を引用しないものとした上で、引用先を請求項1または3に改め、「請求項1または請求項3のいずれかに記載の断層画像解析装置において、
前記記憶手段は、放射性薬剤の時間変化のパターンを記憶し、
前記解析手段の解析結果と前記パターンとを比較する比較手段を備えることを特徴とする断層画像解析装置。」に訂正する(請求項5の記載を引用する請求項6?8も同様に訂正する)。

力 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項8に、「請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の断層画像解析装置において、
前記標準データが示す脳の形状が前記動的分布画像に写り込んだ被検体の脳の形状となるような変形様式で前記標準データ上の関心部位を変形し、前記動的分布画像上の関心部位を取得する関心部位個別化手段を備えることを特徴とする断層画像解析装置。」とあるうち、請求項2、4を引用しないものとした上で、引用先を請求項1、3、5、6、7 に改め、「請求項1、3、5、6、7のいずれかに記載の断層画像解析装置において、
前記標準データが示す脳の形状が前記動的分布画像に写り込んだ被検体の脳の形状となるような変形様式で前記標準データ上の関心部位を変形し、前記動的分布画像上の関心部位を取得する関心部位個別化手段を備えることを特徴とする断層画像解析装置。」に訂正する。

(2) 第2訂正単位についての訂正
特許権者は、以下の訂正事項7?8のとおり訂正することを請求する(下線部は訂正箇所を示す。)。

ア 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項9に、「コンピュータに放射性薬剤の分布を示す断層画像である動的分布画像の解析を実行させる解析プログラムであって、
コンピュータを
前記コンピュータに予め記憶された標準的な形状を示す標準データを読み出す標準データ読み出し手段と、
前記動的分布画像に写り込んだ被検体の脳の形態が前記標準データが示す脳の形態となるように前記分布画像の各々を変形させることにより、放射性薬剤の分布が標準化された標準化分布画像を前記動的分布画像の各々について生成する分布画像標準化手段と、
前記標準化分布画像に基づいて放射性薬剤分布の時間的変化の解析を実行する解析手段として機能させることを特徴とする解析プログラム。」と記載されているものを、「コンピュータに放射性薬剤の分布を示す断層画像である動的分布画像の解析を実行させる解析プログラムであって、
コンピュータを
前記コンピュータに予め記憶された標準的な形状を示す標準データを読み出す標準データ読み出し手段と、
前記動的分布画像のうちから脳の形態が認識できる選択された分布形態表示画像と前記標準データが示す脳の形態とを比較することにより、変換関数を取得する変換関数取得手段と、
前記変換関数を用いて、前記動的分布画像に写り込んだ被検体の脳の形態が前記標準データが示す脳の形態となるように前記動的分布画像の各々を変形させることにより、放射性薬剤の分布が標準化された標準化分布画像を前記動的分布画像の各々について生成する分布画像標準化手段と、
前記標準化分布画像に基づいて放射性薬剤分布の時間的変化の解析を実行する解析手段として機能させることを特徴とする解析プログラム。」に訂正する(請求項9の記載を引用する請求項10も同様に訂正する)。

イ 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項10に、「請求項9に記載の解析ブログラムを記憶する記憶媒体。」と記載されているものを、「請求項9に記載の解析プログラムを記憶する記憶媒体。」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 第1訂正単位について
ア 訂正事項1は、訂正前の請求項1に、訂正前の請求項2を追加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
さらに、訂正事項1は、請求項1に係る上記訂正事項1の訂正に伴い、請求項1を引用する請求項3、5?8が訂正されるものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ 訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 訂正事項3は、訂正前の請求項3が請求項1または請求項2のいずれかの請求項を引用する記載であるところ、請求項2を引用しないものとし、請求項1を引用する形式へ改めるための訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
さらに、訂正事項3は、請求項3に係る上記訂正事項3の訂正に伴い、請求項3を引用する請求項5?8が訂正されるものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 訂正事項4は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

オ 訂正事項5は、訂正前の請求項5が請求項1ないし請求項4のいずれかの請求項を引用する記載であるところ、請求項2、4を引用しないものとし、請求項1、3のいずれかの請求項を引用する形式へ改めるための訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
さらに、訂正事項5は、請求項5に係る上記訂正事項5の訂正に伴い、請求項5を引用する請求項6?8が訂正されるものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

カ 訂正事項6は、訂正前の請求項8が請求項1ないし請求項7のいずれかの請求項を引用する記載であるところ、請求項2、4を引用しないものとし、請求項1、3、5、6、7のいずれかの請求項を引用する形式へ改めるための訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

キ また、訂正前の請求項1?8は、請求項2?8が、訂正請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。
よって、第1訂正単位についての訂正請求は、一群の請求項ごとにされたものである。

ク 小括
したがって、本件訂正請求による訂正事項1?6は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項で準用する同法第126条第5項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?8〕について訂正を認める。

(2) 第2訂正単位について
ア 訂正事項7は、物の発明である訂正前の請求項1に係る発明をプログラムの発明として再構成した訂正前の請求項9について、第1訂正単位において、訂正前の請求項1を訂正前の請求項2の構成で限定したことに対応して、第2訂正単位の訂正前の請求項9を訂正前の請求項2の構成で限定したものに相当するから、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
さらに、訂正事項7は、請求項9に係る上記訂正事項7の訂正に伴い、請求項9を引用する請求項10が訂正されるものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ 訂正事項8は、訂正前の請求項10に記載された「ブログラム」を「プログラム」と誤記を訂正するものであるから、誤記の訂正を目的とするものといえる。
そして、係る訂正事項は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ また、訂正前の請求項9、10は、請求項10が、訂正請求の対象である請求項9の記載を引用する関係にあるから、訂正前において一群の請求項に該当するものである。
よって、第2訂正単位についての訂正請求は、一群の請求項ごとにされたものである。

エ 小括
したがって、本件訂正請求による訂正事項7?8は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項で準用する同法第126条第5項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔9、10〕について訂正を認める。

3 訂正請求についてのまとめ
以上のとおり、特許第5996658号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?8〕、〔9、10〕について、訂正することを認める。

第3 本件特許発明について
上記「第2 訂正の適否について」で述べたとおり、本件訂正請求は認められることとなったから、請求項1?10に係る発明(以下、それぞれの発明を「本件特許発明1」などという。)は、次の事項により特定される発明であると認める。

【請求項1】
放射性薬剤の分布を示す断層画像である動的分布画像を解析する断層画像解析装置であって、
標準的な脳の形状を示す標準データを予め記憶する記憶手段と、
前記動的分布画像のうちから脳の形態が認識できる選択された分布形態表示画像と前記標準データが示す脳の形態とを比較することにより、変換関数を取得する変換関数取得手段と、
前記変換関数を用いて、前記動的分布画像に写り込んだ被検体の脳の形態が前記標準データが示す脳の形態となるように前記動的分布画像の各々を変形させることにより、放射性薬剤の分布が標準化された標準化分布画像を前記動的分布画像の各々について生成する分布画像標準化手段と、
前記標準化分布画像に基づいて放射性薬剤分布の時間的変化の解析を実行する解析手段とを備えることを特徴とする断層画像解析装置。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
請求項1に記載の断層画像解析装置において、
前記標準データ上の関心部位を予め記憶する記憶手段を備え、
前記解析手段は、前記標準データ上の関心部位に相当する前記標準化分布画像上の相当部位について放射性薬剤分布の時間的変化の解析を実行することを特徴とする断層画像解析装置。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
請求項1または請求項3のいずれかに記載の断層画像解析装置において、
前記記憶手段は、放射性薬剤の時間変化のパターンを記憶し、
前記解析手段の解析結果と前記パターンとを比較する比較手段を備えることを特徴とする断層画像解析装置。
【請求項6】
請求項5に記載の断層画像解析装置において、
前記記憶手段は、前記解析手段が出力した正常脳の解析結果を記憶し、
前記比較手段は、前記解析手段の解析結果と、正常脳の解析結果との比較を行うことを特徴とする断層画像解析装置。
【請求項7】
請求項5に記載の断層画像解析装置において、
前記記憶手段は、前記解析手段が出力した過去の解析結果を記憶し、
前記比較手段は、前記解析手段の解析結果と、過去の解析結果との比較を行うことを特徴とする断層画像解析装置。
【請求項8】
請求項1、3、5、6、7のいずれかに記載の断層画像解析装置において、
前記標準データが示す脳の形状が前記動的分布画像に写り込んだ被検体の脳の形状となるような変形様式で前記標準データ上の関心部位を変形し、前記動的分布画像上の関心部位を取得する関心部位個別化手段を備えることを特徴とする断層画像解析装置。
【請求項9】
コンピュータに放射性薬剤の分布を示す断層画像である動的分布画像の解析を実行させる解析プログラムであって、
コンピュータを
前記コンピュータに予め記憶された標準的な形状を示す標準データを読み出す標準データ読み出し手段と、
前記動的分布画像のうちから脳の形態が認識できる選択された分布形態表示画像と前記標準データが示す脳の形態とを比較することにより、変換関数を取得する変換関数取得手段と、
前記変換関数を用いて、前記動的分布画像に写り込んだ被検体の脳の形態が前記標準データが示す脳の形態となるように前記動的分布画像の各々を変形させることにより、放射性薬剤の分布が標準化された標準化分布画像を前記動的分布画像の各々について生成する分布画像標準化手段と、
前記標準化分布画像に基づいて放射性薬剤分布の時間的変化の解析を実行する解析手段として機能させることを特徴とする解析プログラム。
【請求項10】
請求項9に記載の解析プログラムを記憶する記憶媒体。

第4 当審の取消理由について
1 取消理由の概要
平成29年6月30日付けで通知した当審の1回目の取消理由、及び同年11月10日付けで通知した当審の2回目の取消理由の概要は以下のとおりである(以下、本件訂正請求前の特許請求の範囲の請求項1?10に係る発明を、それぞれ「訂正前特許発明1」?「訂正前特許発明10」という。)。

(1)1回目の取消理由の取消理由1(特許法第29条第2項違反について)
訂正前特許発明1、2、5?7、9,10は、本件特許の優先日前日本国内において頒布された刊行物である甲第1号証(以下、「甲1」という。)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
甲1: J.S.Rakshi et al.,Frontal, midbrain and striatal dopaminergic function in early and advanced Parkinson's disease A 3D[^(18)F]dopa-PET study,Brain(1999), 122,1637-1650、写し及び抄訳

(2)1回目の取消理由の取消理由2(特許法第29条第2項違反について)
訂正前特許発明1、2、5?7、9,10は、本件特許の優先日前日本国内において頒布された刊行物である甲第2号証(以下、「甲2」という。)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、訂正前特許発明1、2、5?7、9,10は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
甲2:水野晋二,^(11)C-NMSP PETによる簡便な脳内セロトニンレセプター定量解析法の検討と SSRIの脳内セロトニンレセプターに与える影響の評価,2006年、抜粋

(3)2回目の取消理由の取消理由1(特許法第36条第6項第1号違反について)
訂正前特許発明1、3?8、9、10は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、訂正前特許発明1、3?8、9、10は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(4)2回目の取消理由の取消理由2(特許法第36条第4項第1号違反について)
発明の詳細な説明が、訂正前特許発明2、3?8を、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、訂正前特許発明2、3?8は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

(5)2回目の取消理由の取消理由3(特許法第36条第6項第2号違反について)
訂正前特許発明2、4は明確でなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。

2 取消理由についての当審の判断
(1)2回目の取消理由の取消理由1(特許法第36条第6項第1号違反について)について
訂正前特許発明1の解決しようとする課題が、
「【0010】
しかしながら、従来の画像解析では、次のような問題点がある。
すなわち、従来の画像解析では、動的PET撮影の他に静的PET撮影や形態画像の撮像を行わなければならない。従来方法によれば、動的PET画像の解析をするには、静的PET撮影や形態画像の撮影が必要なのである。つまり、それだけ診断に長い時間を要するということになる。
【0011】
また、従来方法における手動による関心部位の指定では、指定される関心部位にバラツキが生じてしまう。つまり、静的PET断層画像や形態画像における小脳皮質の写り込み方や、操作者のクセにより関心部位の形状や大きさがばらついてしまう。あるいは、静的PET断層画像や形態画像が無い場合は、動的PET画像から関心部位を推定しなければならない。すると、解析の結果もばらついたものとなってしまう。このように画像解析が操作者の主観に依存しているという事情は、安定的な結果を得る観点から望ましくない。
【0012】
本発明は、この様な事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、動的PET画像において簡便な操作で精度良く、結果が安定した断層画像解析装置を提供することにある。」と記載されているように、診断に長い時間を要する静的PET断層画像や形態画像を用いずに、動的PET画像において簡便な操作で精度良く、結果が安定した断層画像解析装置を提供することであると記載されており、さらに、その課題を解決するための手段として、
「【0013】
本発明は上述の課題を解決するために次のような構成をとる。
すなわち、本発明に係る断層画像解析装置は、放射性薬剤の分布を示す断層画像である動的分布画像を解析する断層画像解析装置であって、標準的な脳の形状を示す標準データを予め記憶する記憶手段と、動的分布画像に写り込んだ被検体の脳の形態が標準データが示す脳の形態となるように動的分布画像の各々を変形させることにより、放射性薬剤の分布が標準化された標準化分布画像を動的分布画像の各々について生成する分布画像標準化手段と、標準化分布画像に基づいて放射性薬剤分布の時間的変化の解析を実行する解析手段とを備えることを特徴とするものである。」、
「【0018】
また、上述の断層画像解析装置において、被検体の動的分布画像のうちから脳の形態が認識できる選択された分布形態表示画像と標準データが示す脳の形態とを比較することにより、分布画像標準化手段が動的分布画像を変形する際に用いる変換関数を取得する変換関数取得手段を備えればより望ましい。」と、静的PET断層画像や形態画像を用いずに「変換関数」を取得する「変換関数取得手段」が記載されているところ、訂正前特許発明1には、「変換関数取得手段」が記載されていなかった。
したがって、訂正前特許発明1は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求するものであり、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとの2回目の取消理由の取消理由1を通知したが、本件訂正請求により、本件特許発明1に、訂正前特許発明2の「前記動的分布画像のうちから脳の形態が認識できる選択された分布形態表示画像と前記標準データが示す脳の形態とを比較することにより、変換関数を取得する変換関数取得手段と、前記変換関数を用い」るとの発明特定事項が追加された結果、課題を解決するための手段である「変換関数取得手段」が反映されたものとなり、上記取消理由1は、解消した。

(2)2回目の取消理由の取消理由2(特許法第36条第4項第1号違反について)について
ア 当審の判断
(ア)2回目の取消理由の取消理由2の概要
訂正前特許発明2の「動的分布画像のうちから脳の形態が認識できる選択された分布形態表示画像」において、「脳の形態が認識できる」「分布形態表示画像」を選択する方法として明細書には段落【0044】に所定時間前後に撮影されたPET画像Dを合計して分布形態表示画像D1を生成するという方法が開示されるのみであり、あらゆる脳において、この所定時間に脳の形状を示す画像が得られることの確証もなく、また、所定時間の設定方法も明らかでないから、発明の詳細な説明は、当業者が訂正前特許発明2及び訂正前特許発明2の記載を直接又は間接的に引用する訂正前特許発明3?8の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されてないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないというものである。

(イ)平成30年1月15日付の特許権者の意見書による回答(下線は、当審で付与した。)
「当業者、つまり本件請求項2の断層画像解析装置を用いる医師等であれば、放射性薬剤を投与後、放射性薬剤が脳の全体に行き渡るまでの時間については、当然、技術常識を参酌して、知り得る情報であると思量致します。放射性薬剤を投与後、放射性薬剤が脳の全体に行き渡るまでの時間前後に撮影された動的分布画像に基づき生成された分布形態表示画像は、実測された脳の形態を表す(本件明細書段落【0044】)ため、本件請求項2の「脳の形態が認識できる」「分布形態表示画像」を選択する方法については、本件明細書、及び出願当時の技術常識を参酌すれば、実施可能であるであると思量致します。
取消理由通知が指摘する、「あらゆる脳において、所定時間に脳の形状を示す画像が得られる確証がない」ことについては、被検体により脳の形状や大きさ等に個体差があることは当然であり、当業者であれば、個体差を踏まえた上で所定時間を適宜設定することは可能であると思量致します。」

(ウ)平成30年6月22日付の特許権者の上申書による回答
「例えば、放射性薬剤を注射したタイミングを検知し、予め設定又は記憶しておいた時間が経過した時刻前後の動的分布画像を選択する構成とすれば、訂正後の本件請求項1の構成が実施可能であることは自明であると思量致します。
上記「予め設定又は記憶しておいた時間が経過した時刻」の例として、本件明細書段落【0044】には、放射性薬剤を投与した後、放射性薬剤が「脳の全体に行き渡るまでの時間」前後に撮影された複数の画像を選択する方法が、記載されています。
ここで、「脳の全体に行き渡るまでの時間」とは、例えば、放射性薬剤が脳内に十分に回り切った状態、より具体的には、脳周辺の血管に放射性薬剤が行き渡った状態の時点とすればよいと言えます。
この場合において、脳周辺の血管に放射性薬剤が行き渡った状態がいつの時点となるかは、放射性薬剤が体内に薬剤投与された後、脳の組織をどのように移動していくかを知っている当業者であれば、当然に把握することができます。」

(エ)平成30年7月10日の当審からの装置がどのように画像Dを選択するかの説明の求めに対し、同年7月12日の特許権者からのファクシミリでの回答
「(ア)断層画像解析装置の具体例
〔5-3〕パラメータ入力プログラム
コンピュータのキーボードから入力された、パラメータをメモリに出力する。ここで、パラメータとは以下の2つである。
時間T :放射性薬剤を被検体に注射した後。脳全体に行き渡るまでの時間
時間Δt::時間T前後の時間

(イ)断層画像解析装置の動作例
上記の断層画像解析装置が、以下の動作をすることは、明細書の段落【0033】?【0046】の記載からも当業者であれば容易に理解できます。
(1)操作者によりコンピュータのキーボードから時間T及び時間Δtが入力されると。パラメータ入力プログラムが入力された時間T及び時間Δtをメモリに記憶する。
(2)被検体に放射性薬剤が投与されると、(i)脳の周辺の血管全体に放射性薬剤が行き渡る状態→(ii)脳の血管から:脳内部の組織に放射性薬剤が浸潤していく状態→(iii)脳内部組織から放射性薬剤が排出されていく状態、の順に刻々と分布状態が変化していくことになるこの(i)?(iii)の期間、検出器は放射性薬剤から放出されるポジトロンを検出することにより、検出データを生成する。
(3)被検体に放射性薬剤が投与されると同時に操作者によりスイッチから撮影開始の指示が入力されると、撮影プログラムは、タイマーをリセットし、検出器からの検出データの取得を開始し一定期間毎に収集した検出データをタイマーから取得した時間tとともに、メモリに出力する。
(4)動的分布画像再構成プログラムが、一定期間毎の検出デー夕をそれぞれ再構成して動的分布画像を生成し、検出データに対応する時間tとともにメモリに出力する。
(5)撮影中又は撮影完了後に。分布形態表示画像生成プログラムが、メモリに記憶された動的分布画像のうち、T-Δt/2<t<T+Δt/2の条件を満たす時間tに対応付けられた動的分布画像を読み出して、それらの動的分布画像を加算平均して分布形態表示画像を生成する。
(6)T-Δt/2<t<T+Δt/2を満たす時間tに対応する動的分布画像は、放射性薬剤が脳全体に行き渡った時間前後の画像であるため、これらの動的分布画像を加算平均した画像は,脳の形態を示すことになる。」

(オ)判断
まず,上記(イ)及び(ウ)での回答を参照すると、本件特許の明細書の段落【0044】の記載から、「脳の形態が認識できる」「分布形態表示画像」は、放射性薬剤を投与後、放射性薬剤が脳の全体に行き渡った時点での「動的分布画像」であると解される。

次に、上記(イ)の「当業者、つまり本件請求項2の断層画像解析装置を用いる医師等であれば、放射性薬剤を投与後、放射性薬剤が脳の全体に行き渡るまでの時間については、当然、技術常識を参酌して、知り得る情報であると思量致します。」との主張、(ウ)の「脳周辺の血管に放射性薬剤が行き渡った状態がいつの時点となるかは、放射性薬剤が体内に薬剤投与された後、脳の組織をどのように移動していくかを知っている当業者であれば、当然に把握することができます。」との主張から、医師等は、放射性薬剤を投与後、放射性薬剤が脳の全体に行き渡る時間、すなわち、「脳の形態が認識できる」「分布形態表示画像」が取得できる時間を知り得ることは、当業者の技術常識であると認められる。

この技術常識を前提として、明細書段落【0044】の「変換関数取得部11がPET画像Dを選択する際に指標となるのは、例えば放射性薬剤の注射から撮影までにかかった時間である。放射性薬剤を注射すると、ある一定の時間で放射性薬剤が脳の全体に行き渡ることが知られている。変換関数取得部11は、この時間前後に撮影されたPET画像Dを合計して分布形態表示画像D1を生成するのである。」との記載をみると、医師等が、放射性薬剤を投与後、放射性薬剤が脳の全体に行き渡る時間を、断層画像解析装置に入力すると、「変換関数取得部11」が、その時間前後に指定された動的分布画像を選択するものと解される。すると、当業者の技術を踏まえて、明細書の記載をみると、当業者であれば、「断層画像解析装置」が「脳の形態が認識できる」「分布形態表示画像」を選択することを実施できるものといえる。

したがって、「断層画像解析装置」が、どのように「脳の形態が認識できる」「分布形態表示画像」を選択するかについては当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないとはいえない。

イ 申立人の主張について
申立人は、平成30年8月17日付け意見書の3頁19行?4頁下から2行において、「請求項1の文言は、「前記動的分布画像のうちから脳の形態が認識できる選択された分布形態表示画像」であり、いかなる画像が「脳の形態が認識できる」ことになるのか、その権利範囲を定めることが不可能である。・・・上申書における特許権者の説明は、装置がどのようにして画像Dを選択するのか、という問いに対して、医師等のユーザにパラメータを設定させることにより選択させると回答するものであり、装置自体は画像D(前記動的分布画像のうちから脳の形態が認識できる選択された分布形態表示画像)を選択できないことを自認するものである。
・・・
このように、医師等がその知見に基づいてパラメータを設定することにより、初めて「脳の形態が認識できる」画像を選択可能であり、ユーザによる「脳の形態が認識できる」かどうかの判断なしに請求項1に係る装置を製造することはできない。つまり、「前記動的分布画像のうちから脳の形態が認識できる選択された分布形態表示画像」を選択する構成を有する請求項1に係る装置を製造(実施)することはできない。」と主張する。

この主張は、「断層画像解析装置」が「脳の形態が認識できる」「分布形態表示画像」を選択する際に、医師等が全く関与しないことを前提とするものと思われる。
しかし、本件特許の明細書の記載からは、医師等の関与が除外されているとは解されない。
すると、申立人が独自に限定した事項を前提とする申立人の主張は、その前提において誤りであり、採用することはできない。

ウ 結論
したがって、発明の詳細な説明は、当業者が訂正前特許発明2及び訂正前特許発明2の記載を直接又は間接的に引用する訂正前特許発明3、5?8の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されてないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとする2回目の取消理由2は解消した。


(3)2回目の取消理由の取消理由3(特許法第36条第6項第2号違反について)ついて
ア 当審の判断
(ア)2回目の取消理由の取消理由3の概要
a 訂正前特許発明2について
2回目の取消理由の取消理由2(特許法第36条第4項第1号違反について)で指摘したとおり、所定時間前後に撮影されたPET画像Dを合計して分布形態表示画像D1を生成するという方法では、必ずしも、脳の形状を示す画像が得られるとは限らないことを勘案すれば、訂正前特許発明2の「脳の形態が認識できる選択された分布形態表示画像」が示す構成が明確でないから、訂正前特許発明2は、明確でない。

b 訂正前特許発明4について
訂正前特許発明4は、「請求項3に記載の断層画像解析装置において、
前記解析手段の解析結果を、前記標準化分布画像上の相当部位における解析結果に基づき正規化する正規化手段とを備えることを特徴とする断層画像解析装置。」であり、その「前記解析手段の解析結果」は、引用する訂正前特許発明3の記載より「前記標準データ上の関心部位に相当する前記標準化分布画像上の相当部位について放射性薬剤分布の時間的変化の解析を実行」した結果である。
そうすると、訂正前特許発明4の「前記解析手段の解析結果を、前記標準化分布画像上の相当部位における解析結果に基づき正規化する」とは、「解析結果を、解析結果に基づいて正規化する」ことを意味することになり、その記載によって特定される構成が不明であるから、訂正前特許発明4は、明確でない。
訂正前特許発明4の記載を直接又は間接的に引用する訂正前特許発明5?8も同様である。

(イ)平成30年6月18日付の特許権者の意見書による回答
a 訂正前の請求項2について
「本件明細書段落【0044】に「・・・(略)・・・放射性薬剤を注射すると、ある一定の時間で放射性薬剤が脳の全体に行き渡ることが知られている。変換関数取得部11は、この時間前後に撮影されたPET画像Dを合計して分布形態表示画像D1を生成するのである。この分布形態表示画像D1は、PET装置で実測された脳の形態を表している。」と記載されているように、「前後の期間」とは、複数の動的分布画像に基づき生成される画像が、脳の形態を示すことができる程度の期間ということになります。上記「前後の期間」については、放射性薬剤が脳全体に行き渡る時間を基準にして、動的分布画像に脳の各部の形態が順次写り込むのに必要な期間を踏まえて設定すればよく、これらの期間に撮影された画像を合計すれば脳の形態が写り込んだ分布形態表示画像を生成できるため、「分布形態表示画像」はどのような画像であるか明確です。
なお、「動的分布画像に脳の各部の形状が順次写り込むのに必要な期間」は、経験的に定まるものであり、厳密に個体差を考慮した上で設定せずとも所望の効果を得ることが可能となります。そのため、例えば、過去に撮像した数人の動的分布画像から決定してもよく、その被検者の過去の動的分布画像から、脳の形状が写り込む期間を設定してもよいことは明らかです。これは訂正後の本件請求項1の発明を実施しようとした当業者に対して、過度の試行錯誤を要求するものではなく、やはり、「分布形態表示画像」はどのような画像であるか明確です。」

(ウ)判断
a 訂正前特許発明2について
上記(2)ア(オ)で説示したように、「脳の形態が認識できる」「分布形態表示画像」は、放射性薬剤を投与後、放射性薬剤が脳の全体に行き渡った時点での「動的分布画像」であると解されるから、訂正前特許発明2の「脳の形態が認識できる選択された分布形態表示画像」が示す構成が明確でないとまではいえない。

b 訂正前特許発明4について
訂正前特許発明4は、削除されたので、訂正前特許発明4は明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、その発明に係る特許は取り消すべきものであるとした取消理由は解消した。

イ 申立人の主張について
a 訂正前特許発明2について
申立人は、平成30年8月17日付け意見書の1頁下から9行?下から1行において、
「訂正後の請求項1は、変換係数を取得する際に標準データとの比較対象となる分布形態画像に関して、「前記動的分布画像のうちから脳の形態が認識できる選択された分布形態表示画像」と規定されているのみであり、放射性薬剤が脳全体に行き渡る時間を基準にすることは一切記載されていない。特許権者の主張は、請求項に記載された文言に基づかない主張であり、失当である。
請求項1の文言は、「前記動的分布画像のうちから脳の形態が認識できる選択された分布形態表示画像」であり、いかなる画像が「脳の形態が認識できる」ことになるのか、その権利範囲を定めることが不可能である。」と主張する。
確かに、請求項1の文言のみでは、必ずしも明確であるとはいえないが,上記ア(ウ)で指摘したとおり、本件特許の明細書の記載を参酌すれば、請求項1の文言が示す技術事項が不明確とまではいえず、申立人の上記主張は採用できない。

ウ 結論
したがって、訂正前特許発明2及び訂正前特許発明2の記載を直接又は間接的に引用する訂正前特許発明3?8は明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、その発明に係る特許は取り消すべきものであるとする2回目の取消理由3は解消した。

(4)1回目の取消理由の取消理由1、2(特許法第29条第2項違反について)について

ア 甲各号証記載の事項
(ア)甲1記載の事項、甲1記載の発明
なお、翻訳は、異議申立人が提出した翻訳文を一部修正して用いたものである。また、下線は当審で付記したものである。
(甲1ア)「Parametric images of [^(18)F]dopa influx rate constant (K_(i)^(0)) were generated for each subject from dynamic 3D [^(18)F]dopa datasets and transformed into standard stereotactic space.」(1637頁 要約の左欄7?10行)
「動的3D[^(18)F]dopaデータセットから、各被検体の[^(18)F]dopaの流入速度定数(Ki^(O))のパラメトリック画像を生成し、標準定位空間へ変形した。」

(甲1イ)「There is insufficient anatomical detail in parametric images of [^(18)F]dopa K_(i)^(0) to enable accurate spatial normalization directly to the regional cerebral blood flow (rCBF) template within the SPM software (Friston et al., 1991a). We have,therefore, deve1oped an indirect approach whereby we use the combined time frames 1-25 of the dynamic 3D[^(18)F]dopa image to produce an integrated ‘add image' (0-94 min). This ‘add image' contains the earlier time frames which are blood flow dependent and so generates sufficient cortical as well as striatal detail to al1ow accurate spatial normalization to the SPM template (see Fig. 2). Applying this method we produced an ‘add image' for each subject and spatially norma1ized it to the rCBF template. The resulting transformation parameters were then applied to the corresponding subject's parametric image of [^(18)F]dopa K_(i)^(0), allowing all the parametric images to be transformed into the standard stereotaxic space of Talairach and Tournoux(Rakshi et al., 1998).
This then al1owed comparisons to be made across scan datasets, in analogous voxe1 regions of brain volume and to combine [^(18)F]dopa-PET datasets from different subject to perform group analyses.」(1639頁右欄33行?1640頁左欄3行)
「[^(18)F]dopa K_(i)^(0)のパラメトリック画像では解剖学的詳細が十分ではなく、直接に、SPMソフトウェア(Friston他、1991a)内の局所脳血流量(rCBF)画像のテンプレートに正確な空間的標準化を行うことはできない。それゆえ、我々は、動的3D[^(18)F]dopa 画像のタイムフレーム1-25を結合して”加算画像”(0-94分)を生成する間接的なアプローチを開発した。この“加算画像”は、血流に依存する早期のフレームを含み、線条体と同様に皮質の十分な詳細を生成でき、SPMテンプレートヘの正確な標準化を行える(図2参照)。この方法を適用することにより、我々は、各被検体について「加算画像」を生成し、それをrCBFテンプレートに標準化した。結果として得られた変形パラメータを被検体の流入速度定数(Ki^(0))のパラメトリック画像に適用し、すべてのパラメトリック画像をタライラッハとターノックスの標準定位空間(Rakshi他、1998)に変形することを可能にした。これにより、脳容積の類似するボクセルの中で、スキャンデータセット間での比較が可能になり、異なる被検体からの[^(18)F]dopa-PETのデータセットを結合し、グループ分析を行えるようになった。」

(甲1ウ)「SPM data analysis. Categorical comparisons of mean [^(18)F]dopa voxel Ki° value between the Parkinson' s disease and normal contro1 groups were made applying SPM.」(1640頁8?10行)
「SPMデー夕分析
SPMを適用して、パーキンソン病と健常者のグループの間で[^(18)F]dopaボクセルKi°平均値の分類的な比較を行った。」

甲1に記載された画像分析方法が、画像分析装置によって行われることは自明であるから、上記(甲1ア)?(甲1ウ)の記載から、上記甲1には以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「動的3D[^(18)F]dopaデータセットから、各被検体の[^(18)F]dopaの流入速度定数(Ki^(O))のパラメトリック画像を生成し標準定位空間へ変形する画像分析装置であって、
SPMソフトウェア内の局所脳血流量(rCBF)テンプレートを有し、
変形パラメータを、動的3D[^(18)F]dopa画像のタイムフレーム1-25を結合して加算画像”(0-94分)を生成し、加算画像をrCBFテンプレートヘ標準化した結果から求め、
変形パラメータを被検体の流入速度定数(Ki^(0))のパラメトリック画像に適用し、パラメトリック画像を標準定位空間に変形する、
画像分析装置。」

(イ)甲2記載の事項、甲2記載の発明
(甲2ア)「次に、^(11)C-NMSP(比放射能46.08±8.63GBq/μmol;30mCi)を30秒間かけて定速持続静注し、最初の10分間は2分間の撮像を5回行い、残りの70分は5分間の撮像を14回行って、計80分間のdynamic emission scanを施行した。」(7頁8?11行)

(甲2イ)「^(11)C-NMSP PETは第一部の方法に則って行った。・・・80分(最初の10分間は2分間の撮像を5回行い、残りの70分は5分間の撮像を14回)のdynamic emission scanを行った。」(14頁4?8行)

(甲2ウ)「4-6分における血流に依存したイメージをSPMに付属した^(15)O-H_(2)Oのテンプレートに解剖学的正規化し、そのベクトルを用いて、30分から40分のイメージを標準脳に解剖学的正規化した。・・・
三次元で標準脳にROIをとることができる Three-dimensional stereotaxic ROI template (3DSRT)(25,26,27)により、以下の領域に多数のROIを置き、同じ領域のものは加算した・・・。」(15頁7?13行)

(甲2エ)「一方で、10分ごとに積算したdynamic imageに多数の円形のROIを大脳皮質と小脳に置いて、小脳比を求め、時間ごとの小脳比を同じROIのk3/k4と比較した。」(8頁3?5行)

(甲2オ) Fig.7に4-6分の血流に依存した画像と、30-40分のPET画像との関係が示されている。

甲2に記載された解剖学的正規化が、PET装置によって行われることは自明であるから、
上記(甲2ア)?(甲2オ)の記載を参照すると、上記甲2には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

「^(11)C-NMSPを静注後、80分(最初の10分間は2分間の撮像を5回行い、残りの70分は5分間の撮像を14回)のdynamic emission scanを行い、
SPMに付属した^(15)O-H_(2)Oのテンプレートを用い、
4-6分における血流に依存したイメージを^(15)O-H_(2)Oのテンプレートに解剖学的正規化し、そのベクトルを用いて、30-40分のイメージを標準脳に解剖学的正規化する、
PET装置。」

(ウ)甲第3号証(以下、「甲3」という。)
「水野晋二,^(11)C-NMSP PETによる簡便な脳内セロトニンレセプター定量解析法の検討と SSRIの脳内セロトニンレセプターに与える影響の評価,2006年」論文(甲2)の内容の要旨

(エ)甲第4号証(以下、「甲4」という。)
「水野晋二,^(11)C-NMSP PETによる簡便な脳内セロトニンレセプター定量解析法の検討と SSRIの脳内セロトニンレセプターに与える影響の評価,2006年」論文(甲2)について国立国会図書館サーチの検索結果を表示した書面

(オ)甲第5号証(以下、「甲5」という。)
Toshiyuki Ogura etc.,An automated ROI setting method using NEUROSTAT on cerebral blood flow SPECT images, Ann Nucl Med(2009)、写し(33?41頁)及び抄訳
(SPECT画像上に自動的に設定した自動ROIから、NEUROSTATの解剖学的標準化と逆変換を用いて、VOIテンプレートを個人の脳の形に変形し、変形したVOIテンプレートを各スライスから抽出して、個人の脳の形のROIを決定する技術事項が記載されている。)

イ 取消理由1(甲1を主引例とした場合)について
(ア)本件特許発明1に対して

a 対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。

(a)甲1発明の「[^(18)F]dopa」は、フッ素18(^(18)F)で標識した放射性薬剤である。
そして、甲1発明の「動的3D[^(18)F]dopaデータセット」は、本件特許発明1の「動的分布画像」に相当する。
また、本件特許明細書の「【0041】・・・パラメトリック画像とは、簡単に言えば、動的に取得されたPET画像Dの時間的な解析結果を示す機能画像である。」、「【0050】<画像解析部の動作> 複数の標準化PET画像Eは、画像解析部13に送出される。画像解析部13は、脳全体の放射性薬剤の濃度変化を表したパラメトリック画像Paを生成することで標準化PET画像Eについての画像解析を行う。すなわち、画像解析部13は、図7に示すようなパラメトリック画像Paを生成する。このパラメトリック画像Paは、標準化PET画像Eを構成する画素ごとに例えば次のような解析を行うことで生成される。」との記載から、本件特許発明1の「前記標準化分布画像に基づいて放射性薬剤分布の時間的変化の解析を実行する解析手段とを備える」ことは、パラメトリック画像を生成することを意味する。
したがって、甲1発明の「動的3D[^(18)F]dopaデータセットから、各被検体の[^(18)F]dopaの流入速度定数(Ki^(O))のパラメトリック画像を生成」「する画像分析装置」は、本件特許発明1の「放射性薬剤の分布を示す断層画像である動的分布画像を解析する断層画像解析装置であって、」「放射性薬剤分布の時間的変化の解析を実行する解析手段とを備える」ことに相当する。

(b)甲1発明は「SPMソフトウェア内の局所脳血流量(rCBF)テンプレートを有」するのであるから、rCBFテンプレートを記憶する記憶手段を備えることは自明である。
そして、甲1発明の「局所脳血流量(rCBF)テンプレート」は、「SPMソフトウェア内」にある脳血流の基準となるものであるから、本件特許発明1の「標準的な脳の形状を示す標準データ」に相当する。
したがって、甲1発明の「rCBFテンプレートを有」することは、
本件特許発明1の「標準的な脳の形状を示す標準データを予め記憶する記憶手段と」「を備える」ことに相当する。

(c)甲1発明の「変形パラメータ」は、「被検体の流入速度定数(Ki^(0))のパラメトリック画像に適用し、パラメトリック画像を標準定位空間に変形する」ものであるから、元画像を標準化画像に変換するものであり、「被検体の流入速度定数(Ki^(0))のパラメトリック画像」は元画像であり、「標準定位空間」は標準化画像であるといえる。
一方、本件特許発明1の「変換関数」は、「動的分布画像に写り込んだ被検体の脳の形態」を「標準データが示す脳の形態となるように」「変形させることにより、放射性薬剤の分布が標準化された標準化分布画像を前記動的分布画像の各々について生成する」ものであるから、「動的分布画像の各々」を「標準化分布画像」に変換するものであって、「動的分布画像の各々」は元画像であり、「標準化分布画像」は標準化画像であるといえる。

そうすると、甲1発明の「変形パラメータ」は、本件特許発明1の「変換関数」に相当する。
そして、甲1発明の「被検体の流入速度定数(Ki^(0))のパラメトリック画像」と、本件特許発明1の「動的分布画像の各々」とは、「元画像」で共通し、
甲1発明の「標準定位空間」と、本件特許発明1の「標準化分布画像」とは、「標準化画像」で共通する。

そうすると、甲1発明の「変形パラメータを、動的3D[^(18)F]dopa画像のタイムフレーム1-25を結合して加算画像”(0-94分)を生成し、加算画像をrCBFテンプレートヘ標準化した結果から求め」る手段と、
本件特許発明1の「前記動的分布画像のうちから脳の形態が認識できる選択された分布形態表示画像と前記標準データが示す脳の形態とを比較することにより、変換関数を取得する変換関数取得手段」とは、
「元画像」と「標準データ」から「変換関数を取得する変換関数取得手段」で共通する。

(d)甲1発明は、「動的3D[^(18)F]dopaデータセットから、」「パラメトリック画像を生成し標準定位空間へ変形する」ものであり、本件特許発明1は、「前記動的分布画像の各々を変形させることにより、放射性薬剤の分布が標準化された標準化分布画像を前記動的分布画像の各々について生成」し、「前記標準化分布画像に基づいて放射性薬剤分布の時間的変化の解析を実行する」ものである。すなわち、甲1発明は、「動的3D[^(18)F]dopaデータセット」-(時間的変化の解析)-「パラメトリック画像」-(変形パラメータ)-「標準定位空間」の順であり、本件特許発明1は、「動的分布画像」-(変換関数)-「標準化分布画像」-(時間的変化の解析)-「パラメトリック画像」の順である。
したがって、甲1発明の「変形パラメータを被検体の流入速度定数(Ki^(0))のパラメトリック画像に適用し、パラメトリック画像を標準定位空間に変形する」ものと、
本件特許発明1の「前記変換関数を用いて、に基づいて放射性薬剤分布の時間的変化の解析を実行する解析手段とを備える」ものとは、
「前記変換関数を用いて、前記動的分布画像の各々に基づいて放射性薬剤分布の時間的変化の解析を実行する解析手段」「を備える」もので共通する。

(e)一致点
そうすると、本件特許発明1と、甲1発明とは、
「放射性薬剤の分布を示す断層画像である動的分布画像を解析する断層画像解析装置であって、
標準的な脳の形状を示す標準データを予め記憶する記憶手段と、
元画像と前記標準データから変換関数を取得する変換関数取得手段と、
前記変換関数を用いて、前記動的分布画像の各々に基づいて放射性薬剤分布の時間的変化の解析を実行する解析手段とを備える断層画像解析装置。」の点で一致し、次の点で相違する。

(f)相違点
<相違点1> 動的分布画像の分布画像標準化と放射性薬剤分布の時間的変化の解析について、甲1発明は、「動的3D[^(18)F]dopaデータセット」-(時間的変化の解析)-「パラメトリック画像」-(変形パラメータ)-「標準定位空間」の順であり、本件特許発明1は、「動的分布画像」-(変換関数)-「標準化分布画像」-(時間的変化の解析)-「パラメトリック画像」の順である点。

<相違点2>
「変換関数を取得する変換関数取得手段」について、本件特許発明1は、「動的分布画像のうちから脳の形態が認識できる選択された分布形態表示画像と前記標準データが示す脳の形態とを比較することにより、変換関数を取得する」のに対して、甲1発明は、「変形パラメータを、ダイナミック3D[^(18)F]dopa画像のタイムフレーム1-25を結合して加算画像”(0-94分)を生成し、加算画像をrCBFテンプレートヘ標準化した結果から求め」る点。

b 判断
相違点1について検討すると、甲1発明の、動的3D[^(18)F]dopaデータセットからパラメトリック画像を作成し、その後標準定位空間へ変形することを、動的3D[^(18)F]dopaデータセットを先に標準定位空間へ変形し、その後でパラメトリック画像を作成するように、処理の順序を入れ替える動機は甲1?5にも見当らないので、本件特許発明1の相違点1に係る構成は、甲1発明及び甲1?5に記載された技術的事項から当業者が容易に想到するものとはいえない。

そうすると、相違点2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者であっても甲1発明及び甲1?5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

(イ)本件特許発明3、5?8、9、10に対して
本件特許発明3、5?8は、本件特許発明1の構成をさらに限定した発明であるから、本件特許発明1と同じ理由により、当業者であっても、甲1発明及び甲1?5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
本件特許発明9、10は、物の発明である本件特許発明1を、それぞれ、プログラムの発明、プログラムを記憶する記憶媒体の発明として構成したものであるから、本件特許発明1と同様に、当業者であっても、甲1発明及び甲1?5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

ウ 取消理由2(甲2を主引例とした場合)について
(ア)本件特許発明1に対して
a 対比
本件特許発明1と甲2発明を対比する。

(a)甲2発明の「30-40分のイメージ」が、Figure2に1枚の画像として示されていることを参酌すると、甲2発明の「^(11)C-NMSPを静注後、80分(最初の10分間は2分間の撮像を5回行い、残りの70分は5分間の撮像を14回)のdynamic emission scanを行」って得られる「4-6分における血流に依存したイメージ」、「30-40分のイメージ」(5分間の撮像の2回分)は、本件特許発明1の「動的分布画像」に相当する。

(b)本件特許明細書の「【0033】<断層画像解析装置が行う処理の概要> 実施例1に係る断層画像解析装置1は、図1に示すように、PET装置で撮影されたPET画像Dを入力すると、種々の画像処理がなされて、動的に取得されたPET画像Dに写り込んだ放射性薬剤の分布状況が異常であるかどうか画像解析部13により判定される構成となっている。すなわち、本発明の断層画像解析装置1は、放射性薬剤の分布を示す断層画像であるPET画像Dの解析を目的とするものである。」との記載から、断層画像解析装置は、PET装置とは別の装置といえる。
そうすると、本件特許発明1の「断層画像解析装置」は、PET装置で撮影された「動的分布画像」を処理していることは明らかであり、甲2発明の「SPMに付属した^(15)O-H_(2)Oのテンプレートを用い、
4-6分における血流に依存したイメージを^(15)O-H_(2)Oのテンプレートに解剖学的正規化する、PET装置」は、2つの「イメージ」を処理する手段を備えると認められる。
すると、甲2発明の「PET装置」と、
本件特許発明1の「放射性薬剤の分布を示す断層画像である動的分布画像を解析する断層画像解析装置」とは、
「放射性薬剤の分布を示す断層画像である動的分布画像を処理する装置」で共通する。

(c)甲2発明は「SPMに付属した^(15)O-H_(2)Oのテンプレートを用い」るもので「4-6分における血流に依存したイメージを^(15)O-H_(2)Oのテンプレートに解剖学的正規化し、そのベクトルを用いて、30-40分のイメージを標準脳に解剖学的正規化する」のであるから、甲2発明の「^(15)O-H_(2)Oのテンプレート」は、本件特許発明1の「標準的な脳の形状を示す標準データ」に相当し、甲2発明がこの「^(15)O-H_(2)Oのテンプレート」を記憶する記憶手段を備えることは自明である。
したがって、甲2発明の「SPMに付属した^(15)O-H_(2)Oのテンプレートを用い」ることは、本件特許発明1の「標準的な脳の形状を示す標準データを予め記憶する記憶手段と」「を備える」ことに相当する。

(d)甲2発明の「ベクトル」は、「そのベクトルを用いて、30-40分のイメージを標準脳に解剖学的正規化する」ものであるから、元画像を正規化画像に変換するものであり、「30-40分のイメージ」は元画像であり、「標準脳」は正規化画像であるといえる。
一方、本件特許発明1の「変換関数」は、「動的分布画像に写り込んだ被検体の脳の形態」を「標準データが示す脳の形態となるように」「変形させることにより、放射性薬剤の分布が標準化された標準化分布画像を前記動的分布画像の各々について生成する」ものであって、「動的分布画像の各々」を「標準化分布画像」に変換するものであり、「動的分布画像の各々」は元画像であり、「標準化分布画像」は正規化画像であるといえる。

そうすると、甲2発明の「ベクトル」は、本件特許発明1の「変換関数」に相当する。
そして、甲2発明の「30-40分のイメージ」と、本件特許発明1の「動的分布画像の各々」とは、「元画像」で共通し、
甲2発明の「標準脳」と、本件特許発明1の「標準化分布画像」とは「正規化画像」で共通する。

そうすると、甲2発明の「4-6分における血流に依存したイメージを^(15)O-H_(2)Oのテンプレートに解剖学的正規化し、そのベクトル」を求める手段と、
本件特許発明1の「前記動的分布画像のうちから脳の形態が認識できる選択された分布形態表示画像と前記標準データが示す脳の形態とを比較することにより、変換関数を取得する変換関数取得手段」とは、
「元画像」と「標準データ」から「変換関数を取得する変換関数取得手段」で共通する。

(e)上記(a)より、甲2発明の「30-40分のイメージ」は5分間の撮像2回分からなる1枚のイメージといえるので、甲2発明の「そのベクトルを用いて、30-40分のイメージを標準脳に解剖学的正規化する」ことと、
本件特許発明1の「前記変換関数を用いて、前記動的分布画像に写り込んだ被検体の脳の形態が前記標準データが示す脳の形態となるように前記動的分布画像の各々を変形させることにより、放射性薬剤の分布が標準化された標準化分布画像を前記動的分布画像の各々について生成する分布画像標準化手段と」「を備える」こととは、
「前記変換関数を用いて、前記動的分布画像に写り込んだ被検体の脳の形態が前記標準データが示す脳の形態となるように前記動的分布画像を変形させることにより、放射性薬剤の分布が標準化された標準化分布画像を前記動的分布画像について生成する分布画像標準化手段と」「を備える」ことで共通する。

(f)一致点
そうすると本件特許発明1と、甲2発明とは、

「放射性薬剤の分布を示す断層画像である動的分布画像を処理する装置であって、
標準的な脳の形状を示す標準データを予め記憶する記憶手段と、
元画像と前記標準データから変換関数を取得する変換関数取得手段と、
前記変換関数を用いて、前記動的分布画像に写り込んだ被検体の脳の形態が前記標準データが示す脳の形態となるように前記動的分布画像を変形させることにより、放射性薬剤の分布が標準化された標準化分布画像を前記動的分布画像について生成する分布画像標準化手段とを備える装置。」で一致し、次の点で相違する。

(g)相違点
<相違点3>
装置について、本件特許発明1は、「前記標準化分布画像に基づいて放射性薬剤分布の時間的変化の解析を実行する解析手段」を備える「断層画像解析装置」であるのに対して、
甲2発明は、そのような「解析手段」を備えない「PET装置」である点。

<相違点4>
「変換関数取得手段」について、本件特許発明1は、「動的分布画像のうちから脳の形態が認識できる選択された分布形態表示画像と前記標準データが示す脳の形態とを比較することにより、変換関数を取得する」のに対して、
甲2発明は、「4-6分における血流に依存したイメージを^(15)O-H_(2)Oのテンプレートに解剖学的正規化し、そのベクトル」を求める手段である点。

<相違点5>
「分布画像標準化手段」が変形させる画像について、本件特許発明1は、「動的分布画像の各々」であるのに対して、
甲2発明は、「30-40分のイメージ」である点。

b 判断
相違点4について検討すると、甲1?5のいずれにも、本件特許発明1の「動的分布画像のうちから脳の形態が認識できる選択された分布形態表示画像と標準データが示す脳の形態とを比較することにより、変換関数を取得する変換関数取得手段」が記載も示唆もされていない。

そうすると、相違点3、5について検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者であっても甲2発明及び甲1?5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

(イ)本件特許発明3、5?8、9、10に対して
本件特許発明3、5?8は、本件特許発明1の構成をさらに限定した発明であるから、本件特許発明1と同じ理由により、当業者であっても、甲2発明及び甲1?5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
本件特許発明9、10は、物の発明である本件特許発明1を、それぞれ、プログラムの発明、プログラムを記憶する記憶媒体の発明として構成したものであるから、本件特許発明1と同様に、甲2発明及び甲1?5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 特許法第29条第1項第3号について(甲1)
申立人は、訂正前特許発明1?3、5、6、9、10は、甲1発明と同一であり、新規性を有しないと主張しているが、上記第4(4)イで説示したように、本件特許発明1、3、5?8、9、10は甲1と対比して、少なくとも実質的な相違点1を備えているので、本件特許発明1、3、5?8、9、10は、甲1発明ではない。
したがって、申立人の主張は理由がない。

2 特許法第29条第1項第3号について(甲2)
申立人は、訂正前特許発明1?4、9、10は、甲2発明と同一であり、新規性を有しないと主張しているが、上記第4(4)ウで説示したように、本件特許発明1、3、5?8、9、10は甲2と対比して、少なくとも実質的な相違点4を備えているので、本件特許発明1、3、5?8、9、10は、甲2発明ではない。
したがって、申立人の主張は理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、請求項1、3、5?10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、3、5?10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
請求項2、4は、本件訂正請求により削除されたので請求項2、4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

よって、結論の通り決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性薬剤の分布を示す断層画像である動的分布画像を解析する断層画像解析装置であって、
標準的な脳の形状を示す標準データを予め記憶する記憶手段と、
前記動的分布画像のうちから脳の形態が認識できる選択された分布形態表示画像と前記標準データが示す脳の形態とを比較することにより、変換関数を取得する変換関数取得手段と、
前記変換関数を用いて、前記動的分布画像に写り込んだ被検体の脳の形態が前記標準データが示す脳の形態となるように前記動的分布画像の各々を変形させることにより、放射性薬剤の分布が標準化された標準化分布画像を前記動的分布画像の各々について生成する分布画像標準化手段と、
前記標準化分布画像に基づいて放射性薬剤分布の時間的変化の解析を実行する解析手段とを備えることを特徴とする断層画像解析装置。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
請求項1に記載の断層画像解析装置において、
前記標準データ上の関心部位を予め記憶する記憶手段を備え、
前記解析手段は、前記標準データ上の関心部位に相当する前記標準化分布画像上の相当部位について放射性薬剤分布の時間的変化の解析を実行することを特徴とする断層画像解析装置。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
請求項1または請求項3のいずれかに記載の断層画像解析装置において、
前記記憶手段は、放射性薬剤の時間変化のパターンを記憶し、
前記解析手段の解析結果と前記パターンとを比較する比較手段を備えることを特徴とする断層画像解析装置。
【請求項6】
請求項5に記載の断層画像解析装置において、
前記記憶手段は、前記解析手段が出力した正常脳の解析結果を記憶し、
前記比較手段は、前記解析手段の解析結果と、正常脳の解析結果との比較を行うことを特徴とする断層画像解析装置。
【請求項7】
請求項5に記載の断層画像解析装置において、
前記記憶手段は、前記解析手段が出力した過去の解析結果を記憶し、
前記比較手段は、前記解析手段の解析結果と、過去の解析結果との比較を行うことを特徴とする断層画像解析装置。
【請求項8】
請求項1、3、5、6、7のいずれかに記載の断層画像解析装置において、
前記標準データが示す脳の形状が前記動的分布画像に写り込んだ被検体の脳の形状となるような変形様式で前記標準データ上の関心部位を変形し、前記動的分布画像上の関心部位を取得する関心部位個別化手段を備えることを特徴とする断層画像解析装置。
【請求項9】
コンピュータに放射性薬剤の分布を示す断層画像である動的分布画像の解析を実行させる解析プログラムであって、
コンピュータを
前記コンピュータに予め記憶された標準的な形状を示す標準データを読み出す標準データ読み出し手段と、
前記動的分布画像のうちから脳の形態が認識できる選択された分布形態表示画像と前記標準データが示す脳の形態とを比較することにより、変換関数を取得する変換関数取得手段と、
前記変換関数を用いて、前記動的分布画像に写り込んだ被検体の脳の形態が前記標準データが示す脳の形態となるように前記動的分布画像の各々を変形させることにより、放射性薬剤の分布が標準化された標準化分布画像を前記動的分布画像の各々について生成する分布画像標準化手段と、
前記標準化分布画像に基づいて放射性薬剤分布の時間的変化の解析を実行する解析手段として機能させることを特徴とする解析プログラム。
【請求項10】
請求項9に記載の解析プログラムを記憶する記憶媒体。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-09-07 
出願番号 特願2014-533047(P2014-533047)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (G01T)
P 1 651・ 537- YAA (G01T)
P 1 651・ 536- YAA (G01T)
P 1 651・ 113- YAA (G01T)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田邉 英治  
特許庁審判長 伊藤 昌哉
特許庁審判官 信田 昌男
▲高▼橋 祐介
登録日 2016-09-02 
登録番号 特許第5996658号(P5996658)
権利者 国立大学法人 東京大学 富士フイルムRIファーマ株式会社 株式会社島津製作所
発明の名称 脳断層動態画像解析装置  
代理人 喜多 俊文  
代理人 江口 裕之  
代理人 江口 裕之  
代理人 江口 裕之  
代理人 喜多 俊文  
代理人 江口 裕之  
代理人 喜多 俊文  
代理人 喜多 俊文  

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