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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B62D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B62D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B62D
審判 全部申し立て 特174条1項  B62D
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B62D
管理番号 1345868
異議申立番号 異議2017-700844  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-09-07 
確定日 2018-10-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6090079号発明「ステアリングナックル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6090079号の明細書及び特許請求の範囲を平成30年7月19日付け訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。 特許第6090079号の請求項1及び2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6090079号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、平成29年2月17日に特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、同年9月7日に特許異議申立人光野真純(以下「特許異議申立人」という。)より特許異議の申立てがなされ、同年11月10日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年1月15日に意見書の提出及び訂正請求がなされ、同年2月15日付けで訂正請求があった旨が通知され(特許法第120条の5第5項)、同年3月22日に特許異議申立人より意見書が提出され、同年5月21日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年7月19日に意見書の提出及び訂正請求がなされ、同年8月3日付けで訂正請求があった旨が通知され(特許法第120条の5第5項)、同年9月7日に特許異議申立人より意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否
1 訂正請求について
1-1 訂正の内容
平成30年7月19日付けの訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1及び2について訂正することを求めるものであり、その内容は以下のとおりである。
なお、平成30年1月15日付けの訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を、次のとおりに訂正する(下線は、特許権者が訂正箇所を示すものとして付したものである。以下同様。)。
「【請求項1】
車輪支持体が連結される本体部と、
前記本体部から延在し、タイロッドの連結部を有するアーム部と、を備え、
前記本体部は、車輪支持体を前記本体部に連結するための締結部材の挿通孔及び締結座面を複数有し、
前記本体部及び前記アーム部の少なくとも一方において、前記締結座面が設けられた側で車幅方向内側を向く表面に凹部が形成され、
車幅方向内側を向く表面に、前記凹部が設けられていない領域が形成され、
前記凹部は、タイロッドからの入力により前記アーム部にかかる荷重の前記連結部から前記本体部への伝達経路上に設けられ、複数の前記締結座面のうちひとつの前記締結座面と前記連結部との間の領域に設けられ、前記ひとつの締結座面に位置する前記挿通孔と前記連結部とを結ぶ線の中心より前記ひとつの締結座面側に設けられ、かつ前記ひとつの締結座面の近傍に設けられ、
前記ひとつの締結座面は、ボス形状に形成されるものであって、
車幅方向内側に向かって延在する側面と、
締結部材に当てられる面と、を有し、
前記荷重の一部が前記凹部が設けられていない領域を経由して前記本体部側に伝達するように、前記凹部が前記荷重を分散させ、
前記凹部の前記締結座面側の端部は、前記側面の端部に接し、
前記挿通孔と前記連結部とを結ぶ前記線上に前記凹部による段差が設けられることを特徴とするステアリングナックル。」
(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
本件特許の願書に添付した明細書の段落【0006】を、次のとおりに訂正する。
「【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のステアリングナックルは、車輪支持体が連結される本体部と、本体部から延在し、タイロッドの連結部を有するアーム部と、を備える。本体部は、車輪支持体を本体部に連結するための締結部材の挿通孔及び締結座面を複数有する。本体部及びアーム部の少なくとも一方において、締結座面が設けられた側で車幅方向内側を向く表面に凹部が形成される。車幅方向内側を向く表面に、凹部が設けられていない領域が形成される。凹部は、タイロッドからの入力によりアーム部にかかる荷重の連結部から本体部への伝達経路上に設けられ、複数の締結座面のうちひとつの締結座面と連結部との間の領域に設けられ、ひとつの締結座面に位置する挿通孔と連結部とを結ぶ線の中心よりひとつの締結座面側に設けられ、かつひとつの締結座面の近傍に設けられる。ひとつの締結座面は、ボス形状に形成されるものであって、車幅方向内側に向かって延在する側面と、締結部材に当てられる面と、を有する。荷重の一部が凹部が設けられていない領域を経由して本体部側に伝達するように、凹部が荷重を分散させる。凹部の締結座面側の端部は、側面の端部に接する。挿通孔と連結部とを結ぶ線上に凹部による段差が設けられる。この態様によれば、ステアリングナックルにおけるタイロッドが連結されるアーム部の基部付近に生じる応力を低減させることができる。」

本件訂正は、一群の請求項〔1、2〕に対して請求されたものである。また、明細書に係る訂正は、一群の請求項〔1、2〕に対して請求されたものである。

1-2 訂正の適否
(1)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の有無
(1-1) 訂正事項1について
ア 訂正事項1は、次のa?cの訂正事項に区分できるので、そのように区分して以下検討する。
a 訂正前の
「前記本体部から延在し、タイロッドの連結部を有するアーム部と、」を、
「前記本体部から延在し、タイロッドの連結部を有するアーム部と、を備え、」に訂正する(以下「訂正事項a」という。)。
b 訂正前の
「前記本体部及び前記アーム部の少なくとも一方において、タイロッドからの入力により前記アーム部にかかる荷重の前記連結部から前記本体部への伝達経路上に設けられ、前記荷重を分散して本体部側へ伝達させる凹部と、を備え、」及び「前記凹部は、前記締結座面が設けられた側で車幅方向内側を向く表面における前記締結座面と前記連結部との間の領域に設けられ、かつ前記締結座面の近傍に設けられ、前記凹部の前記締結座面側の端部は、前記締結座面の側部に接する」を、
「前記本体部及び前記アーム部の少なくとも一方において、前記締結座面が設けられた側で車幅方向内側を向く表面に凹部が形成され、
車幅方向内側を向く表面に、前記凹部が設けられていない領域が形成され、
前記凹部は、タイロッドからの入力により前記アーム部にかかる荷重の前記連結部から前記本体部への伝達経路上に設けられ、複数の前記締結座面のうちひとつの前記締結座面と前記連結部との間の領域に設けられ、前記ひとつの締結座面に位置する前記挿通孔と前記連結部とを結ぶ線の中心より前記ひとつの締結座面側に設けられ、かつ前記ひとつの締結座面の近傍に設けられ、
前記ひとつの締結座面は、ボス形状に形成されるものであって、
車幅方向内側に向かって延在する側面と、
締結部材に当てられる面と、を有し、
前記荷重の一部が前記凹部が設けられていない領域を経由して前記本体部側に伝達するように、前記凹部が前記荷重を分散させ、
前記凹部の前記締結座面側の端部は、前記側面の端部に接し、
前記挿通孔と前記連結部とを結ぶ前記線上に前記凹部による段差が設けられる」に訂正する(以下「訂正事項b」という。)。
c 訂正前の
「前記本体部は、車輪支持体を前記本体部に連結するための締結部材の挿通孔及び締結座面を有し、」を、
「前記本体部は、車輪支持体を前記本体部に連結するための締結部材の挿通孔及び締結座面を複数有し、」に訂正する(以下「訂正事項c」という。)。

イ 検討
(ア)訂正事項aについて
訂正事項aは、請求項1において、「ステアリングナックル」に「アーム部」が「備え」られることを明確にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また、訂正事項aは、請求項1を引用する請求項2についても同様に訂正するものであるが、かかる訂正についても、請求項1と同様に明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(イ)訂正事項bについて
訂正事項bによる訂正は、訂正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「本体部」及び「アーム部」の構成について、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」といい、特許請求の範囲及び図面をも併せて「本件明細書等」という。)の
段落【0024】、【0029】、図2(A)及び図4(B)等の記載を根拠に、「前記締結座面が設けられた側で車幅方向内側を向く表面に凹部が形成され、車幅方向内側を向く表面に、前記凹部が設けられていない領域が形成され」ることを、
段落【0022】、【0024】、図1及び図2(A)等の記載を根拠に「凹部」が、「複数の前記締結座面のうちひとつの前記締結座面と前記連結部との間の領域に設けられ、前記ひとつの締結座面に位置する前記挿通孔と前記連結部とを結ぶ線の中心より前記ひとつの締結座面側に設けられ、かつ前記ひとつの締結座面の近傍に設けられ」ることを、
段落【0015】、【0024】、図2(A)及び図3(A)等の記載を根拠に、「前記ひとつの締結座面は、ボス形状に形成されるものであって、車幅方向内側に向かって延在する側面と、締結部材に当てられる面と、を有し」ていることを、
段落【0024】、【0029】、図2(A)及び図4(B)等の記載を根拠に、「前記荷重の一部が前記凹部が設けられていない領域を経由して前記本体部側に伝達するように、前記凹部が前記荷重を分散させ、前記凹部の前記締結座面側の端部は、前記側面の端部に接し」ていることを、
図1及び図2(A)(B)等の記載を根拠に、「前記挿通孔と前記連結部とを結ぶ前記線上に前記凹部による段差が設けられる」ことを、それぞれ限定するとともに、その構成を明確化するものである。
したがって、訂正事項bによる訂正は、本件明細書等に記載された事項の範囲内において、「本体部」及び「アーム部」の構成を限定するとともに、かかる構成を明確化するものであるから、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また、訂正事項bは、請求項1を引用する請求項2についても同様に訂正するものであるが、かかる訂正についても、請求項1と同様に特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(ウ)訂正事項cについて
訂正事項cによる訂正は、訂正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「本体部」が備える「挿通孔及び締結座面」について、本件明細書等の段落【0014】、【0015】及び図1等の記載を根拠に、それらが「複数」設けられていることを限定するものである。
したがって、訂正事項cによる訂正は、本件明細書等に記載された事項の範囲内において、「本体部」が備える「挿通孔及び締結座面」を限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
また、訂正事項cは、請求項1を引用する請求項2についても同様に訂正するものであるが、かかる訂正についても、請求項1と同様に特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(エ)訂正事項1のまとめ
したがって、訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえ、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(1-2) 訂正事項2について
訂正事項2は、上記訂正事項1に係る特許請求の範囲の訂正に合わせて、本件明細書の記載を整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえる。
そして、上記(1-1)で述べたとおり、訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえ、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、訂正事項2も、明瞭でない記載の釈明を目的とするものといえ、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(1-3)小括
したがって、訂正事項1及び2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に該当し、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(2)まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記「第2」で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下「本件発明1及び2」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
車輪支持体が連結される本体部と、
前記本体部から延在し、タイロッドの連結部を有するアーム部と、を備え、
前記本体部は、車輪支持体を前記本体部に連結するための締結部材の挿通孔及び締結座面を複数有し、
前記本体部及び前記アーム部の少なくとも一方において、前記締結座面が設けられた側で車幅方向内側を向く表面に凹部が形成され、
車幅方向内側を向く表面に、前記凹部が設けられていない領域が形成され、
前記凹部は、タイロッドからの入力により前記アーム部にかかる荷重の前記連結部から前記本体部への伝達経路上に設けられ、複数の前記締結座面のうちひとつの前記締結座面と前記連結部との間の領域に設けられ、前記ひとつの締結座面に位置する前記挿通孔と前記連結部とを結ぶ線の中心より前記ひとつの締結座面側に設けられ、かつ前記ひとつの締結座面の近傍に設けられ、
前記ひとつの締結座面は、ボス形状に形成されるものであって、
車幅方向内側に向かって延在する側面と、
締結部材に当てられる面と、を有し、
前記荷重の一部が前記凹部が設けられていない領域を経由して前記本体部側に伝達するように、前記凹部が前記荷重を分散させ、
前記凹部の前記締結座面側の端部は、前記側面の端部に接し、
前記挿通孔と前記連結部とを結ぶ前記線上に前記凹部による段差が設けられることを特徴とするステアリングナックル。
【請求項2】
前記凹部は、連結部側から本体部側に近づくにつれて、前記アーム部の延在方向に対して直交する方向の長さが大きくなる形状を有する請求項1に記載のステアリングナックル。」

第4 特許異議の申立てについて
1 取消理由の概要
平成30年5月21日付けで特許権者に通知した取消理由(以下「本件取消理由」という。)の要旨は、次のとおりである。

請求項1及び2に係る発明は、その出願前頒布された以下の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、請求項1及び2に係る発明の特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

刊行物
・甲第1号証の1:中国意匠公告CN302440783号公報
・甲第5号証 :特開2014-91469号公報
上記甲第1号証の1(以下「甲第1号証」という。)及び甲第5号証は、特許異議申立人が提出した甲第1号証の1及び甲第5号証である。

2 当審の判断
2-1 本件取消理由について
(1)刊行物の記載事項
(1-1)甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。
なお、甲第1号証の記載事項は、特許異議申立人が提出した甲第1号証の1抄訳を参考にした訳文で示す。また、下線は当審で付した。以下同様。
(1a)「1.本件意匠の名称:ステアリング・ナックル(04)。2.本件意匠の用途:ハンドルとホイールの間の接続部分である。3.本件意匠の特徴:物品の全体的な外部形状。4.立体図を公告用の図面として指定する。」(3頁1?2行)
(1b)甲第1号証の2頁には、次の図(以下、左上の図を「主視図」、右上の図を「右視図」、左下の図を「立体図」という。)が示されている。
なお、右視図及び立体図の枠は、特許異議申立人が付したものである。


(1c)また、上記立体図について、特許異議申立人が作成した甲第1号証の2の参考図1Aを以下に示す。


(1-2)甲第5号証の記載事項
甲第5号証には、以下の事項が記載されている。
(2a)「【0010】
本発明に係るアルミ製ステアリングナックル(20)は、車両に用いられるものであって、略円形空洞(21a)と、当該略円形空洞(21a)の周囲に配置される複数のボルト孔(21b)とを有することで、車輪支持体(10)の取り付け箇所となる本体部(21)と、・・・前記本体部(21)から車両前後方向のいずれか一方に伸びて形成されるアーム(24)の先端に設けられてタイロッド(5)に連結されるタイロッド連結部(25)と、・・・を備え、・・・ていることを特徴とするものである。」
(2b)「【0035】
また、本体部21には、図2及び図4にて詳細に示されるように、壁面21cが形成されている。そしてさらに、この壁面21cの内部側については、複数のボルト孔21bの形成箇所以外の箇所21dが徐肉形成されており、複数のボルト孔21bの形成箇所21b´が壁面21cの内部側のその他の箇所21dより高くなるように形成されている。すなわち、ハブボルトが締結される複数のボルト孔21bの形成箇所21b´と、複数のボルト孔21bの形成箇所以外の箇所21dとの間には、段差が設けられているのである。・・・」
(2c)甲第5号証には以下の図が示されている。


(2)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、「ハンドルとホイールの間の接続部分である」「ステアリング・ナックル」が記載されているので(摘示(1a))、以下、その構造について検討する。
ア 「ステアリング・ナックル」の構造
ハンドルとホイールの間の接続部分であるステアリング・ナックルが、車輪支持体が取り付けられる本体部と、本体部から延びてタイロッドが連結されるアーム部とを備えることは、技術常識であるから(必要ならば、本件明細書の段落【0002】、甲第5号証の段落【0010】(摘示(2a))等を参照)、甲第1号証の「主視図」、「右視図」、「立体図」(摘示(1b))に示されるステアリング・ナックルについて、特許異議申立人が作成した参考図1A(摘示(1c))に示された符号を用いてその構造を検討すると、「(1)」で示される「ステアリング・ナックル」は、「(10)」で示される部位が「車輪支持体が取り付けられる本体部」をなし、「(50)」で示される部位が「本体部から延びてタイロッドが連結されるアーム部」をなすことが明らかである。

イ 「本体部(10)」の構造
上記「主視図」及び「立体図」によれば、本体部(10)は、「(16)」で示される部位を3箇所有し、該部位には、「(14)」で示される「孔」が形成されていることが見て取れる。

ウ 「アーム部(50)」の構造
(ア)上記「右視図」によれば、アーム部(50)において、「(52)」で示される部位に「孔」が形成されていることが見て取れ、かかる部位がタイロッドの連結部をなすことは技術的に明らかである。
(イ)上記「主視図」及び「立体図」によれば、アーム部(50)は、本体部(10)に向かい末広がり状に形成されていること、及びアーム部(50)には、少なくとも「(50a)」で示される第1の部位と「(60)」で示される第2の部位とが存在することが見て取れる。
さらに、上記「右視図」より、「第2の部位(60)」は、連結部(52)から本体部(10)に設けられた部位(16)側にまで延びる凹部として形成されていることが見て取れる。

以上によれば、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「ハンドルとホイールの間の接続部分であるステアリング・ナックル(1)であって、
車輪支持体が取り付けられる本体部(10)と、
本体部(10)から延びてタイロッドが連結されるアーム部(50)と、を備え、
前記本体部(10)は、部位(16)を3箇所有し、該部位(16)には、孔(14)が形成され、
前記アーム部(50)は、タイロッドが連結される孔が形成された連結部(52)を有し、
前記アーム部(50)は、本体部(10)に向かい末広がり状に形成され、
前記アーム部(50)には、第1の部位(50a)と第2の部位(60)とが存在し、
前記第2の部位(60)は、前記連結部(52)から本体部(10)に設けられた部位(16)側にまで延びる凹部として形成されている、ステアリング・ナックル(1)。」

(3)対比・判断
(3-1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「車輪支持体が取り付けられる本体部(10)」は、本件発明1の「車輪支持体が連結される本体部」に相当する。
(イ)甲1発明の「アーム部(50)」は、「本体部(10)から延びてタイロッドが連結される」ものであって、「タイロッドが連結される孔が形成された連結部(52)を有」するものであるから、本件発明1の「前記本体部から延在し、タイロッドの連結部を有するアーム部」に相当する。
(ウ)甲1発明の「ステアリング・ナックル(1)」は、ハンドルとホイールの間の接続部分をなすものであり(摘示(1a))、そのようなステアリング・ナックルが、締結部材を用いてホイールの車輪支持体と接続されることは技術常識であるから(必要ならば、甲第5号証の段落【0010】(摘示(2a))など参照。)、甲1発明において、「部位(16)」が、締結部材の座面をなし、「部位(16)」に「形成され」ている「孔(14)」が、車輪支持体を本体部(10)に連結するための締結部材の挿通孔をなすことは、技術的に明らかである。
そして、甲1発明の「本体部(10)」は、上記「部位(16)」を「3箇所有」するものであるから、かかる「本体部10」の構成は、本件発明1の「前記本体部は、車輪支持体を前記本体部に連結するための締結部材の挿通孔及び締結座面を複数有し」という構成に相当するものといえる。
(エ)甲1発明の「第2の部位(60)」は、「前記アーム部(50)」に「存在」し、「前記連結部(52)から本体部(10)に設けられた部位(16)側にまで延びる凹部」をなすことから、上記「第2の部位(60)」が、少なくともアーム部(50)において、部位(16)が設けられた側に形成されるものであって、さらに、その配設構造に照らせば、車幅方向内側を向く表面に形成されていることも技術的に明らかである。
したがって、甲1発明の「第2の部位(60)」の構成は、本件発明1の「前記本体部及び前記アーム部の少なくとも一方において、前記締結座面が設けられた側で車幅方向内側を向く表面に凹部が形成され」という構成に相当するものといえる。
(オ)甲1発明の「第1の部位(50a)」は、「前記アーム部(50)」に「存在」し、その構造は、凹部として形成されるものではない。
また、上記「第1の部位(50a)」は、少なくともアーム部(50)において、部位(16)が設けられた側に形成されるものであって、その配設構造に照らせば、車幅方向の一定側を向く表面に形成されていることも技術的に明らかである。
したがって、甲1発明の「第1の部位(50a)」の構成は、本件発明1の「車幅方向内側を向く表面に、前記凹部が設けられていない領域が形成され」という構成に相当するものといえる。
(カ)甲1発明の「第2の部位(60)」は、「前記連結部(52)から本体部(10)に設けられた部位(16)側にまで延びる凹部として形成されている」ものであるところ、タイロッドから入力される荷重が、アーム部(50)の連結部(52)から本体部(10)側へ伝達されることは技術的に明らかであるから、甲1発明の「第2の部位(60)」は、タイロッドからの入力によりアーム部(50)にかかる荷重の連結部(52)から本体部(10)への伝達経路上に設けられたものと理解することができる。
さらに、甲1発明の「本体部(10)」は、「部位(16)を3箇所有」するものであるところ、甲1発明の「第2の部位(60)」は、それら3箇所の部位(16)のうちひとつの部位(16)と連結部(52)との間の領域に設けられることもその配設態様に照らして明らかである。
したがって、かかる「第2の部位(60)」の構成と、本件発明1の「前記凹部は、タイロッドからの入力により前記アーム部にかかる荷重の前記連結部から前記本体部への伝達経路上に設けられ、複数の前記締結座面のうちひとつの前記締結座面と前記連結部との間の領域に設けられ、前記ひとつの締結座面に位置する前記挿通孔と前記連結部とを結ぶ線の中心より前記ひとつの締結座面側に設けられ、かつ前記ひとつの締結座面の近傍に設けられ」という構成とは、「前記凹部は、タイロッドからの入力により前記アーム部にかかる荷重の前記連結部から前記本体部への伝達経路上に設けられ、複数の前記締結座面のうちひとつの前記締結座面と前記連結部との間の領域に設けられ」という構成の限度で共通するものといえる。
(キ)甲1発明の「ステアリング・ナックル(1)」は、本件発明1の「ステアリングナックル」に相当する。

以上によれば、本件発明1と甲1発明とは、
「車輪支持体が連結される本体部と、
前記本体部から延在し、タイロッドの連結部を有するアーム部と、を備え、
前記本体部は、車輪支持体を前記本体部に連結するための締結部材の挿通孔及び締結座面を複数有し、
前記本体部及び前記アーム部の少なくとも一方において、前記締結座面が設けられた側で車幅方向内側を向く表面に凹部が形成され、
車幅方向内側を向く表面に、前記凹部が設けられていない領域が形成され、
前記凹部は、タイロッドからの入力により前記アーム部にかかる荷重の前記連結部から前記本体部への伝達経路上に設けられ、複数の前記締結座面のうちひとつの前記締結座面と前記連結部との間の領域に設けられる、
ステアリングナックル。」の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
「締結座面(部位(16))」及び「凹部(第2の部位(60))」について、本件発明1は、「前記ひとつの締結座面」が、「ボス形状に形成されるものであって、車幅方向内側に向かって延在する側面と、締結部材に当てられる面と、を有し」、また、「凹部」が、「前記ひとつの締結座面に位置する前記挿通孔と前記連結部とを結ぶ線の中心より前記ひとつの締結座面側に設けられ、かつ前記ひとつの締結座面の近傍に設けられ」、「前記凹部の前記締結座面側の端部は、前記側面の端部に接し、前記挿通孔と前記連結部とを結ぶ前記線上に前記凹部による段差が設けられる」ものであるのに対し、甲1発明は、「部位(16)」の構成が明らかでなく、また、「第2の部位(60)」が、「前記連結部(52)から本体部(10)に設けられた部位(16)側にまで延びる凹部として形成されている」点。
<相違点2>
本件発明1は、「前記荷重の一部が前記凹部が設けられていない領域を経由して前記本体部側に伝達するように、前記凹部が前記荷重を分散させ」るものであるのに対し、甲1発明は、そのように特定されていない点。

イ 判断
相違点1について検討する。
(ア)本件発明1は、「凹部」が、「前記ひとつの締結座面に位置する前記挿通孔と前記連結部とを結ぶ線の中心より前記ひとつの締結座面側に設けられ」るものである(以下「事項A」という。)。
ここで、本件明細書の「好ましくは、凹部60は、車幅方向から見て本体部10の挿通孔14とタイロッド取付アーム部50の連結部52とを結ぶ線C(図1(A)参照)と重なる領域に設けられる。この線Cは、例えば連結孔54の中心軸54L上の点と挿通孔14の中心軸14L上の点とを結ぶ線であり、さらには中心軸54L上で且つ連結孔54の孔内部の中心に位置する点54LCと、中心軸14L上で且つ挿通孔14の孔内部の中心に位置する点14LCとを結ぶ線である。線Cは、タイロッド取付アーム部50にかかる曲げ応力の連結部52から本体部10への伝達経路における最短経路に相当する。」(段落【0023】)との記載によれば、上記事項Aの「前記ひとつの締結座面に位置する前記挿通孔と前記連結部とを結ぶ線」とは、図1(A)に示される「線C」を指し、具体的には、「連結孔54の中心軸54L上の点と挿通孔14の中心軸14L上の点とを結ぶ線」であって、「中心軸54L上で且つ連結孔54の孔内部の中心に位置する点54LCと、中心軸14L上で且つ挿通孔14の孔内部の中心に位置する点14LCとを結ぶ線」と理解することができる。
また、本件明細書には、本件発明1の「凹部」の配設態様について、「凹部60の連結部52側の端部の位置については特に制限はなく、・・・後述する荷重分散作用の観点から、当該端部は連結部52から離間して配置されることが好ましい。すなわち、タイロッド取付アーム部50の車幅方向内側を向く表面には、連結部52に隣接して凹部60の延在しない領域が存在することが好ましい。」(段落【0024】)と記載され、凹部60を連結部60と離間して配置することが記載されていること、さらに、そのような凹部60の配設態様として、図1(A)及び図2(A)より、凹部60の全域が、線Cの中心よりひとつの締結座面側に設けられて配設されていることが看取し得ること、以上を併せ考慮すれば、本件発明1の「凹部」は、「前記ひとつの締結座面に位置する前記挿通孔と前記連結部とを結ぶ線」の「中心」、すなわち、図1(A)に示される「線C」の「中心」を基準位置として、その全域が「中心より前記ひとつの締結座面側に設けられ」るものと解するのが合理的かつ自然である。
そして、かかる解釈は、平成30年7月19日付けの意見書における、特許権者の「甲1発明の第2の部位60は、連結部52から部位16までほぼ全域に亘って第1の部位50aより凹んでおり、訂正特許発明1の凹部の位置が異なっている。」(3頁6?7行)との主張とも符合する。
(イ)以上を踏まえて検討すると、甲1発明の「第2の部位(60)」は、「前記連結部(52)から本体部(10)に設けられた部位(16)側にまで延びる凹部として形成されて」いることから、孔(14)と連結部(52)とを結ぶ線の中心は、第2の部位(60)内に存在することとなり、第2の部位(60)の全域は、上記中心より上記部位(16)側に設けられるものということはできない。
さらに、甲第1号証に記載された「スアリング・ナックル」は、そもそも意匠に係る形状を示すものであって、物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものとして位置付けられるものであるから、その一部を構成する「第2の部位(60)」の形状を設計変更すべき動機付けもない。
そして、甲第5号証には、アルミ製ステアリングナックル20において、車輪支持体10の取り付け箇所となる本体部21に複数のボルト孔21bを配置すること(摘示(2a))、及び前記複数のボルト孔21bの形成箇所21b´を、壁面21cの内部側のその他の箇所21dより高く構成すること(摘示(2b))が記載されているものの、かかる記載は、ステアリングナックル(アルミ製ステアリングナックル20)の本体部(本体部21)に設けられる締結座面(ボルト孔21bの形成箇所21b´)をボス形状に構成することにとどまるものであるから、甲第5号証に記載された締結座面(ボルト孔21bの形成箇所21b´)の構成を、甲1発明の締結座面(部位(16))に適用しても、上記相違点1に係る本件発明1の「凹部」が、「前記ひとつの締結座面に位置する前記挿通孔と前記連結部とを結ぶ線の中心より前記ひとつの締結座面側に設けられ」、「前記凹部の前記締結座面側の端部は、前記側面の端部に接し、前記挿通孔と前記連結部とを結ぶ前記線上に前記凹部による段差が設けられる」という構成に至るものではない。
(ウ)ところで、特許異議申立人は、平成30年9月7日付けの意見書で、 上記事項Aは、「前記ひとつの締結座面に位置する前記挿通孔と前記連結部とを結ぶ線の中心より前記ひとつの締結座面側」で「かつ前記ひとつの締結座面の近傍」以外の領域に凹部が設けられていないことを限定するものではない旨(6頁11?22行、以下「主張1」という。)、及び、
上記事項Aは有意な技術的効果を奏するものでないから、当業者にとって設計変更や設計的事項に過ぎない旨(8頁下から4行?9頁1行、以下「主張2」という。)主張する。
しかし、上記(ア)で述べたとおり、本件発明1の「凹部」は、「前記ひとつの締結座面に位置する前記挿通孔と前記連結部とを結ぶ線」の「中心」、すなわち、図1(A)に示される「線C」の「中心」を基準位置として、その全域が「中心より前記ひとつの締結座面側に設けられ」るものと解するのが相当であるから、特許異議申立人の上記主張1は採用できない。
また、本件明細書の段落【0024】には、「荷重分散作用の観点から、当該端部は連結部52から離間して配置されることが好ましい。すなわち、タイロッド取付アーム部50の車幅方向内側を向く表面には、連結部52に隣接して凹部60の延在しない領域が存在することが好ましい。」と記載され、上記事項Aが、荷重分散作用の観点で有意であることが記載されているし、上記(イ)で述べたとおり、甲第1号証に記載された「スアリング・ナックル」は、そもそも意匠に係る形状を示すものであって、その一部を構成する「第2の部位(60)」の形状を設計変更すべき動機付けはないから、特許異議申立人の上記主張2も採用することができない。
(エ)以上のとおり、本件発明1は甲1発明と相違点1及び2において相違するものであるところ、少なくとも上記相違点1に係る本件発明1の構成は当業者にとって容易想到とはいえないものであるから、その余の相違点2を検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明及び甲第5号証に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3-2)本件発明2について
本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに「凹部」の構成について、「連結部側から本体部側に近づくにつれて、前記アーム部の延在方向に対して直交する方向の長さが大きくなる形状を有する」ものとして、その構成を限定したものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明及び甲第5号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

2-2 本件取消理由において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)本件取消理由において採用しなかった特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。
(1-1)申立理由1(特許法第29条第1項第3号)
請求項1及び2に係る発明は、以下の甲第1号証の1、甲第2号証の1あるいは甲第3号証の1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。したがって、上記請求項1及び2に係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである(特許異議申立書11頁20行?15頁17行、30頁2?8行)。
(1-2)申立理由2(特許法第29条第2項)
請求項1及び2に係る発明は、以下の甲第2号証の1あるいは甲第3号証の1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。したがって、上記請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである(特許異議申立書15頁18行?18頁23行、30頁9?15行)。
(1-3)申立理由3(特許法第17条の2第3項)
請求項1及び2に係る特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第1号の規定により取り消すべきものである(特許異議申立書18頁24行?19頁16行、30頁16?19行)。
(1-4)申立理由4(特許法第36条第6項第2号)
請求項1及び2に係る発明は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合するものではない。したがって、請求項1及び2に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消すべきものである(特許異議申立書19頁17行?26頁18行、30頁20?22行)。
(1-5)申立理由5(特許法第36条第4項第1号)
請求項1及び2に係る発明は、発明の詳細な説明にその発明を当業者が実施し得る程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないから、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。したがって、請求項1及び2に係る特許は、同法第36条第4項第1号の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消すべきものである(特許異議申立書26頁19行?29頁19行、30頁23?26行)。
(1-6)申立理由6(特許法第36条第6項第1号)
請求項1及び2に係る発明は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。したがって、請求項1及び2に係る特許は、同法第36条第6項の規定を満たさない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消すべきものである(特許異議申立書29頁18?末行、30頁27行?31頁1行)。

・甲第1号証の1:中国意匠公告CN302440783号公報
・甲第2号証の1:英国特許出願公開第2340093号明細書
・甲第3号証の1:特開2013-144542号公報
なお、「甲第1号証の1」、「甲第2号証の1」及び「甲第3号証の1」は、以下「甲第1号証」、「甲第2号証」及び「甲第3号証」という。

(2)検討
(2-1)申立理由1(特許法第29条第1項第3号)について
(2-1-1)甲第1号証に基づく申立理由1
甲第1号証の記載事項は、上記「2-1(1)(1-1)」のとおりであり、また、甲第1号証に記載された甲1発明は、上記「2-1(2)」のとおりである。
そして、上記「2-1(3)(3-1)」で述べたとおり、本件発明1と甲1発明とは、上記相違点1及び相違点2で相違することが明らかであるから、本件発明1、及び本件発明1の発明特定事項を全て含む本件発明2は、甲1発明であるということはできず、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当しない。

(2-1-2)甲第2号証に基づく申立理由1
ア 甲第2号証の記載事項等
(ア)甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
なお、甲第2号証の記載事項は、特許異議申立人が提出した甲第2号証の1抄訳を参考にした訳文で示す。
a「図面の簡単な説明
本発明は、例えば添付の図面を参照して説明され、
図1は、一方から見た本発明のステアリング・ナックルの斜視図であり、
図2は、他方から見た図1の本発明のステアリング・ナックルの斜視図であり」(明細書2頁10?16行)
b「好適な実施形態の説明
図面を参照して、ステアリング・ナックル10は、自動車用であり、自動車のフロント・ホイール(図示せず)に隣接して配置される。ステアリング・ナックル10は、一体として形成され、環状部12と、第1のアーム14と、第2のアーム16と、枢設ブラケット18とを備える。環状部12は、ホイール・ベアリング(図示せず)に支持を提供し、必要な場合には、ホイール用の駆動シャフト(図示せず)が通過できるように構成される。第1のアーム14は、一端20で環状部12に接続され、自動車のステアリング装置(図示せず)接続用の取付けブラケット24を備える自由端22を有する。」(明細書2頁20?29行)
c 甲第2号証には、次の図が示されている。


(イ)甲第2号証には、上記(ア)a、cのとおり、図1には、「一方から見た本発明のステアリング・ナックルの斜視図」が示され、図2には、「他方から見た図1の本発明のステアリング・ナックルの斜視図」が示されているところ、図1及び2より、環状部12には、3つの貫通孔が設けられていることが看取できる。
さらに、図2より、3つの貫通孔の周囲には、各貫通孔のそれぞれを取り囲むボス形状の部位が設けられていることが看取できる。
(ウ)してみると、上記(ア)及び(イ)によれば、甲第2号証には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。
「自動車のフロント・ホイールに隣接して配置されるステアリング・ナックル10であって、
ステアリング・ナックル10は、環状部12と、第1のアーム14と、第2のアーム16と、枢設ブラケット18とを備え、
環状部12は、ホイール・ベアリングに支持を提供し、
第1のアーム14は、一端20で環状部12に接続され、自動車のステアリング装置接続用の取付けブラケット24を備える自由端22を有し、
環状部12には、3つの貫通孔が設けられ、
3つの貫通孔の周囲には、各貫通孔のそれぞれを取り囲むボス形状の部位が設けられている、
ステアリング・ナックル10。」

イ 対比・判断
(ア)本件発明1について
a 本件発明1と甲2発明とを対比する。
(a)ステアリングナックルが、車輪支持体が取り付けられる本体部と、本体部から延びてタイロッドが連結されるアーム部とを備えることは、技術常識である(必要ならば、本件明細書の段落【0002】、甲第5号証の段落【0010】(摘示(2a))等を参照)。
(b)甲2発明の「環状部12」は、「ホイール・ベアリングに支持を提供」するものであるから、上記(a)をも踏まえると、本件発明1の「車輪支持体が連結される本体部」に相当するものといえる。
(c)甲2発明の「第1のアーム14」は、「一端20で環状部12に接続され、自動車のステアリング装置接続用の取付けブラケット24を備える自由端22を有」するものであるから、上記(a)をも踏まえると、本件発明1の「前記本体部から延在し、タイロッドの連結部を有するアーム部」に相当するものといえる。
(d)甲2発明は、「環状部12には、3つの貫通孔が設けられ、3つの貫通孔の周囲には、各貫通孔のそれぞれを取り囲むボス形状の部位が設けられ」るものであるところ、上記「環状部12」は、「ホイール・ベアリングに支持を提供」するものであるから、上記「3つの貫通孔」及び「各貫通孔のそれぞれを取り囲むボス形状の部位」は、上記(a)及び(b)をも踏まえると、本件発明1の「車輪支持体を前記本体部に連結するための締結部材の挿通孔」及び「締結座面」にそれぞれ相当するものといえる。
したがって、甲2発明の「環状部12には、3つの貫通孔が設けられ、3つの貫通孔の周囲には、各貫通孔のそれぞれを取り囲むボス形状の部位が設けられている」という構成は、本件発明1の「前記本体部は、車輪支持体を前記本体部に連結するための締結部材の挿通孔及び締結座面を複数有し」という構成に相当するものといえる。
さらに、甲2発明の「各貫通孔のそれぞれを取り囲むボス形状の部位」は、本件発明1の「前記ひとつの締結座面は、ボス形状に形成されるものであって、車幅方向内側に向かって延在する側面と、締結部材に当てられる面と、を有」するとの構成を備えたものといえる。
(e)甲2発明の「テアリング・ナックル10」は、本件発明1の「テアリングナックル」に相当する。
b 以上によれば、本件発明1と甲2発明とは、
「車輪支持体が連結される本体部と、
前記本体部から延在し、タイロッドの連結部を有するアーム部と、を備え、
前記本体部は、車輪支持体を前記本体部に連結するための締結部材の挿通孔及び締結座面を複数有し、
前記ひとつの締結座面は、ボス形状に形成されるものであって、
車幅方向内側に向かって延在する側面と、
締結部材に当てられる面と、を有する、
ステアリングナックル。」の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点A>
本件発明1は、「前記本体部及び前記アーム部の少なくとも一方において、前記締結座面が設けられた側で車幅方向内側を向く表面に凹部が形成され、車幅方向内側を向く表面に、前記凹部が設けられていない領域が形成され、前記凹部は、タイロッドからの入力により前記アーム部にかかる荷重の前記連結部から前記本体部への伝達経路上に設けられ、複数の前記締結座面のうちひとつの前記締結座面と前記連結部との間の領域に設けられ、前記ひとつの締結座面に位置する前記挿通孔と前記連結部とを結ぶ線の中心より前記ひとつの締結座面側に設けられ、かつ前記ひとつの締結座面の近傍に設けられ」、「前記荷重の一部が前記凹部が設けられていない領域を経由して前記本体部側に伝達するように、前記凹部が前記荷重を分散させ、前記凹部の前記締結座面側の端部は、前記側面の端部に接し、前記挿通孔と前記連結部とを結ぶ前記線上に前記凹部による段差が設けられる」ものであるのに対し、甲2発明は、そのように特定されていない点。

c ところで、特許異議申立人は、甲第2号証の図2より、上記相違点Aに係る本件発明1の「凹部」の構成が看取できる旨主張する(特許異議申立書8?10頁「(イ)」の項)。
しかし、甲第2号証の明細書中には、「第1のアーム14」に「凹部」を形成することは明記されていない。また、甲第2号証の図1及び図2(上記ア(ア)c)には、それぞれ「一方から見た本発明のステアリング・ナックルの斜視図」及び「他方から見た図1の本発明のステアリング・ナックルの斜視図」(上記ア(ア)a))が記載されているところ、上記図1には、第1のアーム14の一部に一方の側から他方の側に抜けるような孔の構造が示されているが、上記図2には、そのような孔の構造は示されていないから、上記図1及び2は、少なくとも、第1のアーム14の一部分について、その具体的な構造を特定するに足りるほど明確に記載されたものということはできない。また、上記第1のアーム14の一部分に図1に示される一方の側から他方の側に抜けるような孔が存在するとするならば、そのような孔と、図2より看取することのできる甲2発明の「各貫通孔のそれぞれを取り囲むボス形状の部位」(上記「ア(イ)」)とは、それらの構造が技術的に関連することとなるが、その具体的な構造は図2より看取することができない。要するに、甲第2号証の図1及び2は、あくまでも特許図面であって、設計図面のような精度をもって記載された図面ということはできないことから、図2の記載のみから、上記相違点Aに係る本件発明1の「凹部」の具体的構造まで看取することはできない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

d 以上のとおり、本件発明1と甲2発明とは、上記相違点Aの点で相違することが明らかであるから、本件発明1、及び本件発明1の発明特定事項を全て含む本件発明2は、甲2発明であるということはできず、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当しない。

(2-1-3)甲第3号証に基づく申立理由1
ア 甲第3号証の記載事項等
(ア)甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
a「【請求項1】
ホイールベアリング収容部(11)と、
ステアリングアーム(12)と、
ダンパクランプ(3)を有するスプリングストラット収容部(2)と、
支持リブ(6)と、
を備える、ホイールサスペンション用、特に自動車のフロントアクスルに用いられるホイールサスペンション用の旋回軸受(1)であって、
前記スプリングストラット収容部(2)のダンパクランプ(3)は、車両外側(FA)を向いており、かつ前記旋回軸受(1)は、前記ホイールベアリング収容部(11)と前記ダンパクランプ(3)との間の領域に開口(8)を有することを特徴とする旋回軸受。」
b「【0003】
旋回軸受(Schwenklager)又はステアリングナックル若しくはハブキャリアは、ショックアブソーバ若しくはダンパ又はスプリングストラットと、ホイールベアリングと、操舵機構と、横方向リンクとの間の結合を、自動車のフロントアクスルにおいて形成する。」
c「【0023】
【図1】本発明に係る旋回軸受の斜視図である。
【図2】本発明に係る旋回軸受の斜視図である。
【0024】
図1は、本発明に係る旋回軸受1を示している。ホイールベアリング収容部11は、ホイールベアリング(図示せず)を組み付けるために用いられる。図に記入した矢印方向FA及びFIは、それぞれ、旋回軸受1を車両に組み付けた状態での車両外側FA及び車両内側FIを示している。・・・」
d 甲第3号証には、次の図が示されている。


(イ)甲第3号証には、上記(ア)c、dのとおり、図1及び2には、「旋回軸受の斜視図」が示されているところ、図1及び2より、ホイールベアリング収容部11には、3つの貫通孔が設けられていることが看取できる。
さらに、図2より、3つの貫通孔の周囲には、各貫通孔のそれぞれを取り囲む部位が設けられていることが看取できる。
(ウ)してみると、上記(ア)a及び(イ)によれば、甲第3号証には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているものと認められる。
「ホイールベアリング収容部11と、
ステアリングアーム12と、
ダンパクランプ3を有するスプリングストラット収容部2と、
支持リブ6と、
を備える、ホイールサスペンション用、特に自動車のフロントアクスルに用いられるホイールサスペンション用の旋回軸受1であって、
ホイールベアリング収容部11には、3つの貫通孔が設けられ、
3つの貫通孔の周囲には、各貫通孔のそれぞれを取り囲む部位が設けられている、
旋回軸受1。」

イ 対比・判断
(ア)本件発明1について
a 本件発明1と甲3発明とを対比する。
(a)甲第3号証には、「旋回軸受(Schwenklager)又はステアリングナックル若しくはハブキャリアは、ショックアブソーバ若しくはダンパ又はスプリングストラットと、ホイールベアリングと、操舵機構と、横方向リンクとの間の結合を、自動車のフロントアクスルにおいて形成する。」(上記(ア)b)と記載されているように、旋回軸受とステアリングナックルとは、その構造上、同義ということができ、また、ステアリングナックルが、車輪支持体が取り付けられる本体部と、本体部から延びてタイロッドが連結されるアーム部とを備えることは、技術常識である(必要ならば、本件明細書の段落【0002】、甲第5号証の段落【0010】(摘示(2a))等を参照)。
(b)甲3発明の「ホイールベアリング収容部11」は、上記(a)をも踏まえると、本件発明1の「車輪支持体が連結される本体部」に相当するものといえる。
(c)甲3発明の「ステアリングアーム12」は、上記(a)をも踏まえると、本件発明1の「前記本体部から延在し、タイロッドの連結部を有するアーム部」に相当するものといえる。
(d)甲3発明は、「ホイールベアリング収容部11には、3つの貫通孔が設けられ、3つの貫通孔の周囲には、各貫通孔のそれぞれを取り囲む部位が設けられている」ものであるところ、上記「3つの貫通孔」及び「各貫通孔のそれぞれを取り囲む部位」は、上記(a)及び(b)をも踏まえると、本件発明1の「車輪支持体を前記本体部に連結するための締結部材の挿通孔」及び「締結座面」にそれぞれ相当するものといえる。
したがって、甲3発明の「ホイールベアリング収容部11には、3つの貫通孔が設けられ、3つの貫通孔の周囲には、各貫通孔のそれぞれを取り囲む部位が設けられている」という構成は、本件発明1の「前記本体部は、車輪支持体を前記本体部に連結するための締結部材の挿通孔及び締結座面を複数有し」という構成に相当するものといえる。
(e)甲3発明の「旋回軸受1」は、上記(a)のとおり、ステアリングナックルと同義ということができるから、本件発明1の「テアリングナックル」に相当する。

b 以上によれば、本件発明1と甲3発明とは、
「車輪支持体が連結される本体部と、
前記本体部から延在し、タイロッドの連結部を有するアーム部と、を備え、
前記本体部は、車輪支持体を前記本体部に連結するための締結部材の挿通孔及び締結座面を複数有する、
ステアリングナックル。」の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点B>
本件発明1は、「前記本体部及び前記アーム部の少なくとも一方において、前記締結座面が設けられた側で車幅方向内側を向く表面に凹部が形成され、車幅方向内側を向く表面に、前記凹部が設けられていない領域が形成され、前記凹部は、タイロッドからの入力により前記アーム部にかかる荷重の前記連結部から前記本体部への伝達経路上に設けられ、複数の前記締結座面のうちひとつの前記締結座面と前記連結部との間の領域に設けられ、前記ひとつの締結座面に位置する前記挿通孔と前記連結部とを結ぶ線の中心より前記ひとつの締結座面側に設けられ、かつ前記ひとつの締結座面の近傍に設けられ、前記ひとつの締結座面は、ボス形状に形成されるものであって、車幅方向内側に向かって延在する側面と、締結部材に当てられる面と、を有し、前記荷重の一部が前記凹部が設けられていない領域を経由して前記本体部側に伝達するように、前記凹部が前記荷重を分散させ、前記凹部の前記締結座面側の端部は、前記側面の端部に接し、前記挿通孔と前記連結部とを結ぶ前記線上に前記凹部による段差が設けられる」ものであるのに対し、甲3発明は、そのように特定されていない点。

c ところで、特許異議申立人は、甲第3号証の図2より、上記相違点Bに係る本件発明1の「凹部」の構成が看取できる旨主張する(特許異議申立書10?11頁「(ウ)」の項)。
しかし、甲第3号証の発明の詳細な説明には、「ステアリングアーム12」に「凹部」を形成することは明記されていない。また、甲第3号証の図2(上記ア(ア)d)には、「本発明に係る旋回軸受の斜視図」(上記ア(ア)c)、すなわち、旋回軸受1を車両に組み付けた状態での車両内側FI側から見た斜視図が記載されているが、甲第3号証の図2は、あくまでも特許図面であって、設計図面のような精度をもって記載された図面ということはできないことから、図2の記載のみから、上記相違点Bに係る本件発明1の「凹部」の具体的構造まで看取することはできない。
これについて補足すれば、特許異議申立人も、甲第3号証の図2に基づく参考図3(甲第3号証の2)を示した上で、「甲第3号証の1の締結座面(16)側の端部はザグリ形状又は浮きボス形状になっており」(特許異議申立書10頁下から4?3行)と主張しているように、甲第3号証の図2の記載は、「締結座面(16)」の構造が、「ザグリ形状」であるのか、あるいは「浮きボス形状」であるのか特定するに足りるほど明確に記載されたものということはできないから、そのような特許図面から、上記相違点Bに係る本件発明1の「凹部」の具体的構造まで看取することはできない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できない。

d 以上のとおり、本件発明1と甲3発明とは、上記相違点Bの点で相違することが明らかであるから、本件発明1、及び本件発明1の発明特定事項を全て含む本件発明2は、甲3発明であるということはできず、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当しない。

(2-2)申立理由2(特許法第29条第2項)について
ア 申立理由2の概要
申立理由2の概要は、請求項1及び2に係る発明において、「荷重を分散すること」による「応力の低減」、及び「重量増加の抑制」による「軽量化」との課題は、甲第2?5号証から明らかなように周知の課題であるから、本件発明1及び2の「荷重を分散する凹部」と「荷重を本体部側へ伝達させる凹部が延在しない領域」を設けること及びその構造は、上記周知の課題を解決するために当業者が適宜行い得る設計事項であり、甲2発明あるいは甲3発明に基いて当業者が容易に想到し得る、というものであるので(特許異議申立書15頁18行?18頁23行、30頁9?15行)、以下検討する。
なお、上記「甲第2?5号証」の内、甲第2、3及び5号証は、上述したとおりであり、甲第4号証は、特開2011-73512号公報である。

イ 検討
上述したとおり、本件発明1と甲2発明とは上記相違点Aの点で相違し、本件発明1と甲3発明とは上記相違点Bの点で相違する。
そして、仮に、甲第2?5号証から「荷重を分散すること」による「応力の低減」、及び「重量増加の抑制」による「軽量化」との課題が把握できたとしても、そもそも上記各相違点に係る本件発明1の「凹部」の構成は、甲第2?5号証には記載されていないから、甲2発明あるいは甲3発明において、上記各相違点に係る「凹部」を設けることは、当業者にとって容易想到である、ということはできない。
したがって、特許異議申立人の主張する申立理由2によっては、本件発明1及び本件発明1の発明特定事項を全て含む本件発明2に係る特許を取り消すことはできない。

(2-3)申立理由3(特許法第17条の2第3項)について
ア 申立理由3の概要
申立理由3の概要は、平成28年10月19日付けで提出された補正書において、特許請求の範囲の請求項1に「前記凹部の前記締結座面側の端部は、前記締結座面の側部に接する」との事項を追加するが、本件特許の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)には記載されていないものであるから、当該補正は新規事項を導入するものである、というものであるので(特許異議申立書18頁24行?19頁16行、30頁16?19行)、以下検討する。
イ 検討
上述したとおり、本件訂正により、特許請求の範囲の請求項1は訂正され、具体的には、訂正前の「前記凹部の前記締結座面側の端部は、前記締結座面の側部に接する」との事項が、「前記凹部の前記締結座面側の端部は、前記側面の端部に接し」と訂正されるとともに、「前記ひとつの締結座面は、ボス形状に形成されるものであって、車幅方向内側に向かって延在する側面と、締結部材に当てられる面と、を有し」との事項が追加され、その結果、上記「凹部」と「締結座面」との配設構成は明らかとなった。そして、かかる訂正は、当初明細書等の段落【0015】、【0024】、図2(A)及び図3(A)等の記載を根拠としており、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてなされたものということができるから、この申立理由3は本件訂正により解消した。
したがって、特許異議申立人の主張する申立理由3によっては、本件発明1及び2に係る特許を取り消すことはできない。

(2-4)申立理由4(特許法第36条第6項第2号)について
ア 申立理由4の概要
申立理由4の概要は、請求項1の
(ア)「前記荷重を分散して本体部側へ伝達させる凹部」という記載、
(イ)「前記凹部は、・・・前記締結座面の近傍に設けられ」という記載、
(ウ)「前記凹部の前記締結座面側の端部は、前記締結座面の側部に接する」という記載は、それぞれ不明確であって、その技術的意義を理解することができないから、請求項1、及び請求項1を引用する請求項2に係る発明は不明確である、というものであるので(特許異議申立書19頁17行?26頁18行、30頁20?22行)、以下検討する。
イ 検討
(ア)上記「ア(ア)」の記載について
上述したとおり、本件訂正により、特許請求の範囲の請求項1は訂正され、その結果、「前記締結座面が設けられた側で車幅方向内側を向く表面に凹部が形成され、車幅方向内側を向く表面に、前記凹部が設けられていない領域が形成され」ていることが追加されるとともに、上記「ア(ア)」の「前記荷重を分散して本体部側へ伝達させる凹部」という構成が、「前記荷重の一部が前記凹部が設けられていない領域を経由して前記本体部側に伝達するように、前記凹部が前記荷重を分散させ」という構成に改められたことで、凹部による荷重の伝達に係る構成は明確となった。したがって、上記「ア(ア)」に係る申立理由4は本件訂正により解消した。
(イ)上記「ア(イ)」の記載について
上述したとおり、本件訂正により、特許請求の範囲の請求項1は訂正され、その結果、上記「ア(イ)」の「前記凹部は、前記締結座面が設けられた側で車幅方向内側を向く表面における前記締結座面と前記連結部との間の領域に設けられ、かつ前記締結座面の近傍に設けられ」という構成は、「前記凹部は、タイロッドからの入力により前記アーム部にかかる荷重の前記連結部から前記本体部への伝達経路上に設けられ、複数の前記締結座面のうちひとつの前記締結座面と前記連結部との間の領域に設けられ、前記ひとつの締結座面に位置する前記挿通孔と前記連結部とを結ぶ線の中心より前記ひとつの締結座面側に設けられ、かつ前記ひとつの締結座面の近傍に設けられ」という構成に改められたことで、凹部の配設に係る構成は明確となった。したがって、上記「ア(イ)」に係る申立理由4は本件訂正により解消した。
(ウ)上記「ア(ウ)」の記載について
上述したとおり、本件訂正により、特許請求の範囲の請求項1は訂正され、その結果、「前記ひとつの締結座面は、ボス形状に形成されるものであって、車幅方向内側に向かって延在する側面と、締結部材に当てられる面と、を有し」ていることが追加されるとともに、上記「ア(ウ)」の「前記凹部の前記締結座面側の端部は、前記締結座面の側部に接する」という構成が、「前記凹部の前記締結座面側の端部は、前記側面の端部に接し」という構成に改められたことで、凹部の配設に係る構成は明確となった。したがって、上記「ア(ウ)」に係る申立理由4は本件訂正により解消した。
(エ)以上のとおりであるから、特許異議申立人の主張する申立理由4によっては、本件発明1及び2に係る特許を取り消すことはできない。

(2-5)申立理由5(特許法第36条第4項)について
ア 申立理由5の概要
申立理由5の概要は、請求項1及び請求項2に係る発明は、荷重を分散して本体部側へ伝達する凹部を含むことにより課題を解決する発明であるのに対し、発明の詳細な説明に開示されている発明は、荷重を分散する凹部と分散した荷重の一部を伝達する凹部60の非延在領域とを含むことにより課題を解決する発明であるから、本件明細書の発明の詳細な説明は、上記請求項1及び請求項2に係る発明を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しているとはいえない、というものであるので(特許異議申立書26頁19行?29頁19行、30頁23?26行)、以下検討する。
イ 検討
上述したとおり、本件訂正により、特許請求の範囲の請求項1は訂正され、その結果、「前記締結座面が設けられた側で車幅方向内側を向く表面に凹部が形成され、車幅方向内側を向く表面に、前記凹部が設けられていない領域が形成され」ていることが追加されるとともに、訂正前の「前記荷重を分散して本体部側へ伝達させる凹部」という構成が、「前記荷重の一部が前記凹部が設けられていない領域を経由して前記本体部側に伝達するように、前記凹部が前記荷重を分散させ」という構成に改められたことで、凹部による荷重の伝達に係る構成は明確となった。
したがって、本件発明1及び2の「ステアリングナックルにおけるタイロッドが連結されるアーム部の基部付近に生じる応力を低減させる」(段落【0005】)という課題は、少なくとも、上記 「前記締結座面が設けられた側で車幅方向内側を向く表面に凹部が形成され、車幅方向内側を向く表面に、前記凹部が設けられていない領域が形成され」、「前記荷重の一部が前記凹部が設けられていない領域を経由して前記本体部側に伝達するように、前記凹部が前記荷重を分散させ」ることで解決されるものと理解することができ、その作用機序は、本件明細書の発明の詳細な説明に、「これに対し、図4(B)に示すように、タイロッド取付アーム部50にかかる荷重Pの連結部52から締結座面16への伝達経路上に凹部60が設けられた場合、連結部52から本体部10側に最短経路上を進む荷重Pは、凹部60により分散される。そして、荷重Pの一部は、タイロッド取付アーム部50の車幅方向内側の表面のうち凹部60が延在しない領域、すなわち基部の上下端領域を経由して締結座面16側に伝達される。すなわち、凹部60により荷重Pが分散され、荷重Pの一部が凹部60を迂回して締結座面16に伝達される。」(段落【0029】)と明確に記載されている。
したがって、本件明細書の詳細な説明の記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段が発明の技術上の意義を理解できる程度に記載されたものといえるから、特許異議申立人の主張する申立理由5によっては、本件発明1及び2に係る特許を取り消すことはできない。

(2-6)申立理由6(特許法第36条第6項第1号)について
ア 申立理由6の概要
申立理由6の概要は、請求項1及び請求項2における「前記凹部の前記締結座面側の端部は、前記締結座面の側部に接する」との事項は、本件明細書に記載されていないし、また、上記申立理由5と同様に、本件明細書の発明の詳細な説明には、上記請求項1及び請求項2に係る発明を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しているとはいえないから、上記請求項1及び請求項2に係る発明は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない、というものであるので(特許異議申立書29頁20?末行、30頁27行?31頁1行)、以下検討する。
イ 検討
上述したとおり、本件訂正により、特許請求の範囲の請求項1は訂正され、具体的には、訂正前の「前記凹部の前記締結座面側の端部は、前記締結座面の側部に接する」との事項が、本件明細書等の段落【0015】、【0024】、図2(A)及び図3(A)等の記載を根拠として、「前記凹部の前記締結座面側の端部は、前記側面の端部に接し」と訂正されるとともに、「前記ひとつの締結座面は、ボス形状に形成されるものであって、車幅方向内側に向かって延在する側面と、締結部材に当てられる面と、を有し」との事項が追加され、その結果、上記「前記側面の端部」が、「ボス形状に形成され」た「締結座面」の「車幅方向内側に向かって延在する側面」の「端部」であることが明らかとなり、本件明細書の発明の詳細な説明の記載と整合するものとなった。
さらに、上記「(2-5)イ」で述べたとおり、本件訂正により、特許請求の範囲の請求項1は訂正され、本件明細書の詳細な説明の記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段が発明の技術上の意義を理解できる程度に記載されたものとなった。
したがって、本件訂正によって、特許請求の範囲の請求項1及び2の記載は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載と整合するものとなったことから、特許異議申立人の主張する申立理由6によっては、本件発明1及び2に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本件取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては、本件請求項1及び2に係る特許を取り消すことはできないし、他に本件請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ステアリングナックル
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用のステアリングナックルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車輪を回転自在に支持しつつ、ロワアームやタイロッド等と連結されるステアリングナックルが知られている(例えば特許文献1参照)。ステアリングナックルは、車輪支持体が取り付けられる本体部と、本体部から車両前後方向に延びてタイロッドが連結されるアーム部とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-022250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したステアリングナックルでは、タイロッドから車輪を転舵させるための入力があると、アーム部に曲げ荷重がかかる。この曲げ荷重は、アーム部の基部(根元)付近に集中する傾向にあり、このため、アーム部の基部付近に大きな応力が発生する傾向にあった。
【0005】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ステアリングナックルにおけるタイロッドが連結されるアーム部の基部付近に生じる応力を低減させるための技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のステアリングナックルは、車輪支持体が連結される本体部と、本体部から延在し、タイロッドの連結部を有するアーム部と、を備える。本体部は、車輪支持体を本体部に連結するための締結部材の挿通孔及び締結座面を複数有する。本体部及びアーム部の少なくとも一方において、締結座面が設けられた側で車幅方向内側を向く表面に凹部が形成される。車幅方向内側を向く表面に、凹部が設けられていない領域が形成される。凹部は、タイロッドからの入力によりアーム部にかかる荷重の連結部から本体部への伝達経路上に設けられ、複数の締結座面のうちひとつの締結座面と連結部との間の領域に設けられ、ひとつの締結座面に位置する挿通孔と連結部とを結ぶ線の中心よりひとつの締結座面側に設けられ、かつひとつの締結座面の近傍に設けられる。ひとつの締結座面は、ボス形状に形成されるものであって、車幅方向内側に向かって延在する側面と、締結部材に当てられる面と、を有する。荷重の一部が凹部が設けられていない領域を経由して本体部側に伝達するように、凹部が荷重を分散させる。凹部の締結座面側の端部は、側面の端部に接する。挿通孔と連結部とを結ぶ線上に凹部による段差が設けられる。この態様によれば、ステアリングナックルにおけるタイロッドが連結されるアーム部の基部付近に生じる応力を低減させることができる。
【0008】
さらに、上記いずれかの態様において、凹部は、連結部側から本体部側に近づくにつれて、アーム部の延在方向に対して直交する方向の長さが大きくなる形状を有してもよい。これにより、アーム部の基部付近に生じる応力をより確実に低減させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ステアリングナックルにおけるタイロッドが連結されるアーム部の基部付近に生じる応力を低減させるための技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】 図1(A)は、車幅方向内側から見たときの実施の形態に係るステアリングナックルの概略構造を示す図である。図1(B)は、車両下側から見たときの実施の形態に係るステアリングナックルの概略構造を示す図である。
【図2】 図2(A)は、締結座面、タイロッド取付アーム部及び凹部の概略構造を示す斜視図である。図2(B)は、図1(A)のA-A線に沿った断面図である。図2(C)は、図1(A)のB-B線に沿った断面図である。
【図3】 図3(A)及び図3(B)は、ステアリングナックルの凹部近傍の3次元モデルを示す図である。
【図4】 図4(A)は、凹部を設けない場合の荷重の伝達を説明するための模式図である。図4(B)は、凹部を設けた場合の荷重の伝達を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0012】
図1(A)は、車幅方向内側から見たときの実施の形態に係るステアリングナックルの概略構造を示す図である。図1(B)は、車両下側から見たときの実施の形態に係るステアリングナックルの概略構造を示す図である。なお、図1(A)及び図1(B)において、FRは車両前後方向前方、INは車幅方向内方、UPは車両上方を表す。
【0013】
ステアリングナックル1は、例えばストラット式のサスペンション装置に用いられ、本体部10と、サスペンション取付アーム部20と、ロワアーム取付部30と、ブレーキキャリパ取付部40と、タイロッド取付アーム部50と、凹部60と、を備える。
【0014】
本体部10はその中央部に、車輪を回転自在に支持する車輪支持体が挿入される開口部12を有する。車輪支持体は、例えばハブベアリングである。また、本体部10は、車輪支持体を本体部10に連結するための締結部材の挿通孔14を、開口部12の周囲に複数有する。本実施の形態では、本体部10は3つの挿通孔14を有し、第1の挿通孔14が開口部12よりも上方に配置され、第2の挿通孔14が開口部12よりも下方で第1の挿通孔14よりも車両前方に、第3の挿通孔14が開口部12よりも下方で第1の挿通孔14よりも車両後方に配置される。
【0015】
各挿通孔14は、その中心軸14Lが車幅方向に延在するように設けられる。また、各挿通孔14は、車幅方向内側の開口端の周縁部に締結座面16を有する。本体部10へは、例えば以下のようにして車輪支持体が連結される。すなわち、車輪支持体が開口部12に挿入された状態で、車輪支持体側の締結孔が本体部10の挿通孔14と重ね合わされる。そして、締結部材としてのボルトが、車幅方向外側から車輪支持体側の挿通孔及び本体部10の挿通孔14に挿通され、締結座面16に突き当てられた締結部材としてのナットに螺合する。これにより、車輪支持体が本体部10に連結される。本実施の形態では、締結座面16は浮きボス形状を有するが(図2(B)、図3(A)及び図3(B)参照)、特にこれに限定されず、締結座面16はザグリ形状であってもよい。
【0016】
サスペンション取付アーム部20は、本体部10の上部から、上方且つ車幅方向内方に延びるように形成される。サスペンション取付アーム部20には、サスペンション装置に連結するためのサスペンション取付部22が2つ設けられる。
【0017】
ロワアーム取付部30は、本体部10の下部に設けられ、ロワアームが連結される。ブレーキキャリパ取付部40は、本体部10の車両前方側に2つ設けられ、ブレーキキャリパが取り付けられる。
【0018】
タイロッド取付アーム部50、すなわちナックルアームは、本体部10の車両後方側に設けられる。タイロッド取付アーム部50は、本体部10から車両後方側且つ車両内側に延在する。本実施の形態では、タイロッド取付アーム部50は、本体部10に設けられた締結座面16の近傍から突出する。本体部10の締結座面16が設けられた側の表面と、タイロッド取付アーム部50の同じ側の表面とは、凹部60が設けられた領域を除いて滑らかに連続する。タイロッド取付アーム部50は、その先端にステアリング機構のタイロッドが連結される連結部52を有する。連結部52は、タイロッドエンドが連結される連結孔54を有する。連結孔54は、その中心軸54Lが車両上下方向に延在するように設けられる。
【0019】
凹部60は、本体部10及びタイロッド取付アーム部50の少なくとも一方の表面に設けられる。凹部60は、タイロッド取付アーム部50の表面のみ若しくは本体部10の表面のみに設けられてもよいし、本体部10とタイロッド取付アーム部50とにまたがって設けられてもよい。本実施の形態では、タイロッド取付アーム部50の基部近傍に凹部60が設けられる。以下、凹部60について、図2(A)?図2(C)、図3(A)及び図3(B)、図4(A)及び図4(B)を参照しながら詳細に説明する。
【0020】
図2(A)は、締結座面、タイロッド取付アーム部及び凹部の概略構造を示す斜視図である。図2(B)は、図1(A)のA-A線に沿った断面図である。図2(C)は、図1(A)のB-B線に沿った断面図である。図3(A)及び図3(B)は、ステアリングナックルの凹部近傍の3次元モデルを示す図である。図4(A)は、凹部を設けない場合の荷重の伝達を説明するための模式図である。図4(B)は、凹部を設けた場合の荷重の伝達を説明するための模式図である。図4(B)では、便宜上、凹部60の延在範囲を網掛けして示している。
【0021】
凹部60は、本体部10及びタイロッド取付アーム部50の少なくとも一方において、タイロッドからの入力によりタイロッド取付アーム部50にかかる荷重、例えば曲げ荷重の、連結部52から本体部10への伝達経路上に設けられる。当該伝達経路上に設けられた凹部60は、荷重を分散して本体部10側へ、すなわち凹部60よりも下流側へ伝達させる。
【0022】
本実施の形態では、凹部60は、締結座面16が設けられた側、すなわち車幅方向内側のステアリングナックル1の表面における、締結座面16と連結部52との間の領域Rに設けられる。また、タイロッド取付アーム部50は、少なくとも基部の断面形状が略矩形状であり、車幅方向内側を向く表面に凹部60が設けられる。
【0023】
好ましくは、凹部60は、車幅方向から見て本体部10の挿通孔14とタイロッド取付アーム部50の連結部52とを結ぶ線C(図1(A)参照)と重なる領域に設けられる。この線Cは、例えば連結孔54の中心軸54L上の点と挿通孔14の中心軸14L上の点とを結ぶ線であり、さらには中心軸54L上で且つ連結孔54の孔内部の中心に位置する点54LCと、中心軸14L上で且つ挿通孔14の孔内部の中心に位置する点14LCとを結ぶ線である。線Cは、タイロッド取付アーム部50にかかる曲げ応力の連結部52から本体部10への伝達経路における最短経路に相当する。あるいは、ステアリングナックル1は、タイロッド取付アーム部50の基部における車両上下方向の中央領域に凹部60を有する。このような配置により、後述する凹部60の荷重分散作用による応力低減効果をより確実に発揮させることができる。
【0024】
また、凹部60は、締結座面16の近傍に設けられることが好ましい。前記「近傍に設けられる」とは、例えば凹部60の締結座面16側の端部が、タイロッド取付アーム部50の延在方向における線Cの中心よりも締結座面16側に位置するように、凹部60が設けられることをいう。本実施の形態では、凹部60は、その締結座面16側の端部が、締結座面16の浮きボスを構成する、本体部10の表面から車幅方向に延在する側面16aの端部に接するように設けられている。凹部60を締結座面16の近傍に配置することで、後述する凹部60の荷重分散作用による応力低減効果をより確実に発揮させることができる。凹部60の連結部52側の端部の位置については特に制限はなく、当該端部が連結部52に接するように凹部60が設けられてもよいが、後述する荷重分散作用の観点から、当該端部は連結部52から離間して配置されることが好ましい。すなわち、タイロッド取付アーム部50の車幅方向内側を向く表面には、連結部52に隣接して凹部60の延在しない領域が存在することが好ましい。
【0025】
凹部60の深さE、言い換えれば凹部60の車幅方向の長さ、あるいは凹部60の最深部から凹部60に隣接するタイロッド取付アーム部50の表面までの車幅方向距離は、例えば1mm以上である。また、タイロッド取付アーム部50の延在方向に対して直交する方向の長さFは、最大の部分で例えば挿通孔14の直径以上、あるいは10mm以上である。タイロッド取付アーム部50の延在方向に対して平行する方向の長さGは、最大の部分で例えば5mm以上である。凹部60が設けられた領域におけるタイロッド取付アーム部50の車幅方向長さと、凹部60の深さとの比は、例えば10:1?2:1である。
【0026】
また、図4(B)に示すように、凹部60は、車幅方向から見て、連結部52側から本体部10側に近づくにつれて、タイロッド取付アーム部50の延在方向に対して直交する方向の長さFが大きくなる形状を有する。このような形状を有することで、凹部60の後述する荷重分散作用による応力低減効果をより確実に発揮させることができる。図4(B)に示す凹部60は、略半円形状であって、曲線部(弧)が連結部52側に位置し、直線部(弦)が締結座面16側に位置するように設けられているが、凹部60の形状は特にこれに限定されない。例えば、凹部60は三角形状であって、一つの頂点が連結部52側に位置し、当該頂点の対辺が締結座面16側に位置するように設けられてもよい。
【0027】
凹部60は、本体部10とタイロッド取付アーム部50の接続領域の肉厚を薄くする、すなわち当該接続領域の表面の一部を肉盗みすることで形成することができる。このように、肉盗みにより凹部60を形成することで、凹部60の形成によるステアリングナックル1の重量増加を回避することができる。
【0028】
図4(A)に示すように、タイロッド取付アーム部50にかかる荷重Pの連結部52から締結座面16への伝達経路上に凹部60が設けられていない場合、荷重Pは、主に最短の伝達経路(図1(A)の線C)を通って締結座面16に伝達される。この場合、タイロッド取付アーム部50の根元近傍、特に締結座面16のR形状の側面16a(図3(A)及び図3(B)参照)のうち連結部52に近い領域Qに荷重が集中し、その結果、領域Qに発生する応力が増大する傾向にあった。
【0029】
これに対し、図4(B)に示すように、タイロッド取付アーム部50にかかる荷重Pの連結部52から締結座面16への伝達経路上に凹部60が設けられた場合、連結部52から本体部10側に最短経路上を進む荷重Pは、凹部60により分散される。そして、荷重Pの一部は、タイロッド取付アーム部50の車幅方向内側の表面のうち凹部60が延在しない領域、すなわち基部の上下端領域を経由して締結座面16側に伝達される。すなわち、凹部60により荷重Pが分散され、荷重Pの一部が凹部60を迂回して締結座面16に伝達される。したがって、荷重Pは、凹部60を設けない場合に比べて、タイロッド取付アーム部50のより広い範囲に分散されながら本体部10側へ進行する。これにより、領域Qにおける荷重Pの集中を緩和できるため、領域Qに発生する応力を小さくすることができる。
【0030】
また、タイロッド取付アーム部50の基部に発生する応力を低減させる方法としては、タイロッド取付アーム部50の基部に肉盛りをして、当該部分の断面係数を大きくすることが考えられるが、肉盛りをするとステアリングナックルの重量が増加してしまう。また、肉盛りをする場合、タイロッド取付アーム部50の基部近傍におけるステアリングナックル1と他部品との間隔や、切削工具等を差し込むスペース等を確保するために、肉盛りできる箇所に制限があった。このため、効率よく肉盛りをすることが困難であった。
【0031】
例えば、タイロッド取付アーム部50の基部の中央領域に、タイロッド取付アーム部50の延在方向に延びるように肉盛りすることで、肉盛り量に対する応力低減効果を高めることができる。しかしながら、上述した他部品との間のクリアランス等を確保するために、タイロッド取付アーム部50の基部に、上下方向に延びるように肉盛りしなければならない場合があった。この場合、肉盛り量に対する応力低減効果が比較的低く、一定の応力低減効果を得るためには肉盛り量を増やす必要があった。
【0032】
これに対し、本実施の形態では、凹部60により荷重Pを分散させることで、タイロッド取付アーム部50の基部近傍に発生する応力の増大を抑制している。そして、凹部60は、本体部10及び/又はタイロッド取付アーム部50の表面の一部を肉盗みすることで形成できる。このため、ステアリングナックル1の重量増加を抑制しながら、タイロッド取付アーム部50に生じる応力を小さくすることができる。また、凹部60の形成は、他部品とのクリアランス等を確保する上での制約を受けない。このため、凹部60は、肉盛りする場合に比べて配置の自由度が大きい。
【0033】
以上説明したように、本実施の形態に係るステアリングナックル1は、タイロッド取付アーム部50の基部に、タイロッド取付アーム部50にかかる曲げ荷重を分散させて本体部10側へ伝達する凹部60を有する。凹部60を設けることで、本体部10へ向けてタイロッド取付アーム部50を進行する荷重は分散されるため、タイロッド取付アーム部50の基部付近に生じる応力を小さくすることができる。
【0034】
また、本実施の形態では、タイロッド取付アーム部50が本体部10の締結座面16の近傍から突出している。そして、凹部60は、締結座面16と連結部52との間の領域Rに設けられる。タイロッド取付アーム部50の付け根近傍にハブベアリングの締結部が配置される構成では、当該締結部と連結部52とを結ぶ直線上で且つ締結座面16の近傍の領域Qにおいて応力が増大する傾向にある。これに対し、上述のように凹部60を設けることで、当該領域Qに集中する荷重を分散させることができるため、領域Qに生じる応力を小さくすることができる。
【0035】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などの変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれる。上述した実施の形態と変形との組合せによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態及び変形それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0036】
1 ステアリングナックル、 10 本体部、 14 挿通孔、 16 締結座面、 50 タイロッド取付アーム部、 52 連結部、 60 凹部、 C 線、 P 荷重、 R 領域。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪支持体が連結される本体部と、
前記本体部から延在し、タイロッドの連結部を有するアーム部と、を備え、
前記本体部は、車輪支持体を前記本体部に連結するための締結部材の挿通孔及び締結座面を複数有し、
前記本体部及び前記アーム部の少なくとも一方において、前記締結座面が設けられた側で車幅方向内側を向く表面に凹部が形成され、
車幅方向内側を向く表面に、前記凹部が設けられていない領域が形成され、
前記凹部は、タイロッドからの入力により前記アーム部にかかる荷重の前記連結部から前記本体部への伝達経路上に設けられ、複数の前記締結座面のうちひとつの前記締結座面と前記連結部との間の領域に設けられ、前記ひとつの締結座面に位置する前記挿通孔と前記連結部とを結ぶ線の中心より前記ひとつの締結座面側に設けられ、かつ前記ひとつの締結座面の近傍に設けられ、
前記ひとつの締結座面は、ボス形状に形成されるものであって、
車幅方向内側に向かって延在する側面と、
締結部材に当てられる面と、を有し、
前記荷重の一部が前記凹部が設けられていない領域を経由して前記本体部側に伝達するように、前記凹部が前記荷重を分散させ、
前記凹部の前記締結座面側の端部は、前記側面の端部に接し、
前記挿通孔と前記連結部とを結ぶ前記線上に前記凹部による段差が設けられることを特徴とするステアリングナックル。
【請求項2】
前記凹部は、連結部側から本体部側に近づくにつれて、前記アーム部の延在方向に対して直交する方向の長さが大きくなる形状を有する請求項1に記載のステアリングナックル。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2018-09-28 
出願番号 特願2013-187566(P2013-187566)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (B62D)
P 1 651・ 121- YAA (B62D)
P 1 651・ 536- YAA (B62D)
P 1 651・ 55- YAA (B62D)
P 1 651・ 113- YAA (B62D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 柳楽 隆昌  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 一ノ瀬 覚
氏原 康宏
登録日 2017-02-17 
登録番号 特許第6090079号(P6090079)
権利者 トヨタ自動車株式会社
発明の名称 ステアリングナックル  
代理人 村田 雄祐  
代理人 森下 賢樹  
代理人 三木 友由  
代理人 森下 賢樹  
代理人 村田 雄祐  
代理人 三木 友由  
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