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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1345875
異議申立番号 異議2018-700500  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-06-19 
確定日 2018-10-25 
異議申立件数
事件の表示 特許第6263587号発明「電解銅箔、該電解銅箔を含むリチウム二次電池用集電体及びリチウム二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6263587号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許6263587号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成28年 8月31日(パリ条約による優先権主張 2015年10月21日 韓国)に出願され、平成29年12月22日にその特許権の設定登録がされ、平成30年 1月17日に特許掲載公報が発行された。
そして、請求項1?6に係る特許に対し、平成30年 6月19日に特許異議申立人舟橋里帆(以下、単に「異議申立人」という。)が、特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明6」ということがある。)は、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
リチウム二次電池用集電体に適用される電解銅箔であって、
前記電解銅箔は、熱処理していない状態で得られたX線回折分析グラフ(X軸変数を回折角2θ、Y軸変数を回折されたX線の強度にして示されたグラフ)上に現れる(111)面に対するピーク曲線の半値幅が0.08以上0.15以下であり、
前記電解銅箔は、190℃で1時間熱処理した状態で得られたX線回折分析グラフ(X軸変数を回折角2θ、Y軸変数を回折されたX線の強度にして示されたグラフ)上に現れる(111)面に対するピーク曲線の半値幅が0.099以上0.11以下であることを特徴とする電解銅箔。
【請求項2】
前記電解銅箔は、表面に形成された保護層を備え、
前記保護層は、クロム酸塩、ベンゾトリアゾール及びシランカップリング剤のうち選択された少なくとも1つからなることを特徴とする請求項1に記載の電解銅箔。
【請求項3】
前記電解銅箔は、0.3μm以上1.5μm以下の表面粗度(Rz)を有することを特徴とする請求項1に記載の電解銅箔。
【請求項4】
前記電解銅箔は、M面の60度における光沢度が20GU以上500GU以下であることを特徴とする請求項1に記載の電解銅箔。
【請求項5】
請求項1に記載された電解銅箔からなるリチウム二次電池用集電体。
【請求項6】
請求項5に記載されたリチウム二次電池用集電体を含むリチウム二次電池。」

第3 申立理由の概要
1 異議申立人は、以下の甲第1号証?甲第3号証(以下、それぞれ「甲1」?「甲3」という。)を提出した。
その上で、本件発明1に関し、甲1に記載された発明であり特許法第29条第1項第3号に該当し、また、甲3に記載された発明であり特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1に係る特許は特許法第29条の規定に違反してされたものである旨を主張している。
また、本件発明1?6に関し、甲1に記載された発明と甲2に記載された事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであり、また、甲3に記載された発明と甲2に記載された事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?6に係る特許は特許法第29条の規定に違反してされたものである旨を主張している。

2 [証拠方法]
甲1:米国特許出願公開第2012/0015206号明細書
甲2:米国特許出願公開第2014/0193660号明細書
甲3:韓国登録特許第10-1117370号公報

3 なお、甲3については、特許異議申立書(以下、単に「異議申立書」という。)では「韓国特許出願公開第10-2010-0125044」という、韓国における公開公報の番号が記載されている。
一方、異議申立人が甲3として実際に提出した書証の第1頁は以下のとおりのものである。





ここで、上部に記載されている(12)の欄は、「(12) 登録特許公報(B1)」と訳され、そのすぐ右側に記載されている(11)の欄は「(11) 登録番号 10-1117370」と訳される。
そして、(12)や(11)の下側であって、それらより小さい文字で記載されている(65)の欄は、「(65) 公開番号 10-2010-0125044」と訳される。
また、右上に記載された文字は、「登録特許 10-1117370」と訳される。
これらのことからみて、異議申立人が甲3として実際に提出したものは、「韓国特許出願公開第10-2010-0125044」ではなく、この公開公報に係る特許出願の特許掲載公報である「韓国登録特許第10-1117370号公報」であるから、異議申立書における甲3は、「韓国登録特許第10-1117370号公報」を意味するものとして読み替えて、判断を行う。

第4 甲1?甲3について
(1)甲1には、以下の記載がある(訳は、甲1に対応する日本出願の公開公報である特開2012-22939号公報を参考に、当審で作成したものである。)。
「[0003] The present invention relates to a copper foil used as a current collector of a lithium secondary battery, and more particularly to a copper foil for a current collector of a lithium secondary battery, which has a structure capable of preventing the generation of wrinkles on a surface of the copper foil.」
(訳:
[0003] 本発明は、リチウム二次電池の集電体として用いられる銅箔に関するものであって、より詳しくは、銅箔表面にしわ(wrinkle)が発生することを防止することができる構造を有したリチウム二次電池の集電体用銅箔に関する。)

「[0021] FIG. 2 is a graph showing a result of X-ray diffraction (XRD) to calculate a texture coefficient of a copper foil for a current collector of a lithium secondary battery according to the present invention.」
(訳:
[0021] 図2は、本発明によるリチウム二次電池の集電体用銅箔の集合組織係数の算出のために、X線回折法(XRD)を行った結果を示すグラフである。)

「[0024] Preferably, the copper foil for a current collector of a lithium secondary battery according to the present invention is made by adding a small amount of organic additives to a copper sulfate solution containing copper sulfate, sulfuric acid and chlorine. Here, the additive may be a sulfonate-based additive containing sulfide as a brightener to polish a plating surface and obtain a fine plating layer, gelatin having a low molecular weight of 1,000 to 100,000 as a leveler added to obtain a low roughness copper foil, or a cellulose-based additive serving as a suppressor to realize a stable low roughness. As the process condition, copper is electrodeposited on a drum surface of a foil making machine with a current density of 30 to 80 ASD (A/dm^(2)) at a temperature of 30 to 60℃, and the surface of the copper foil is chromated to prevent corrosion.」
(訳:
[0024] 望ましくは、本発明によるリチウム二次電池の集電体用銅箔は、硫酸銅、硫酸及び塩素から構成された硫酸銅めっき液を基本にし、微量の有機添加剤を添加して製造される。ここで、添加剤としては、めっき表面に光沢を付与し微細なめっき層を得るための光沢剤(brightener)としてスルフィド(sulfide)を含有したスルホネート(sulphonate)系列の添加剤と、低粗度の銅箔を得るために添加するレベラー(leveler)として分子量1,000?100,000程度の低分子量を有するゼラチン(gelatin)と、安定した低粗度を具現するためのサプレッサー(suppressor)としてセルロース(cellulose)系列の添加剤とが用いられる。工程条件としては、30?80ASD(A/dm^(2))の電流密度及び30?60℃の温度において製箔機のドラム表面に銅を電着して原箔を製造し、防錆処理のために銅箔表面をクロメート(chromate)処理する工程を経て製造される。)






(2)甲2には、以下の記載がある(訳は、甲2に対応する日本出願の公開公報である特開2014-132106号公報を参考に、当審で作成したものである。)。
「[0027] Furthermore, since the organic electrolyte in a lithium ion secondary battery contains water in excess, the degradation of the organic electrolyte would occur during charging and discharging. This causes an elevation in the internal pressure of the lithium ion secondary battery, and thereby generating hazards. Therefore, the copper foil for the negative electrode collector of a lithium ion secondary battery is assembled into a battery, only after the surfaces thereof are subjected to coating with a carbon material, pressing and slitting, and then, often a heat treatment at 140 to 150℃. for several hours to remove water from the surface of the carbon material. During the heat treatment, water can be removed from the surface of the carbon material, so as to allow recrystallization to occur in the copper foil to increase the elongation rate, and thereby preventing rupture of the copper foil due to the expansion and shrinkage of the lithium ion secondary battery during charging and discharging, to maintain the effectiveness and long term stability of the lithium ion secondary battery.」
(訳:
[0027] また、リチウムイオン二次電池における有機電解液が過剰な水分を含有する場合、充放電の過程で有機電解液の分解を引き起こし、内圧が高まって、危険が生じるため、リチウムイオン二次電池の負極コレクタの銅箔の表面は炭素材料の塗布、圧延やスリットが行われた後、通常、140?150℃で数時間熱処理され、炭素材料の表面の水分を除去してから、電池の組み立てを行う。この熱処理の過程では、炭素材料の表面の水分を除去し、銅箔に再結晶を生じさせ、銅箔の伸長率を高め、さらにリチウムイオン二次電池の充放電過程での膨張収縮による銅箔の断裂を防止して、リチウムイオン二次電池の性能を長時間安定に保持することができる。)


(3)甲3には、以下の記載がある(訳は、当審で作成したものである。)。



(訳:
[0001] 本発明は、リチウム二次電池の集電体として用いられる銅箔に関するものであって、より詳しくは、銅箔表面にしわ(wrinkle)が発生することを防止することができる構造を有したリチウム二次電池の集電体用銅箔に関する。)





(訳:
[0018] 望ましくは、本発明によるリチウム二次電池の集電体用銅箔は、硫酸銅、硫酸及び塩素から構成された硫酸銅めっき液を基本にし、微量の有機添加剤を添加して製造される。ここで、添加剤としては、めっき表面に光沢を付与し微細なめっき層を得るための光沢剤(brightener)としてスルフィド(sulfide)を含有したスルホネート(sulphonate)系列の添加剤と、低粗度の銅箔を得るために添加するレベラー(leveler)として分子量1,000?100,000程度の低分子量を有するゼラチン(gelatin)と、安定した低粗度を具現するためのサプレッサー(suppressor)としてセルロース(cellulose)系列の添加剤とが用いられる。工程条件としては、30?80ASD(A/dm^(2))の電流密度及び30?60℃の温度において製箔機のドラム表面に銅を電着して原箔を製造し、防錆処理のために銅箔表面をクロメート(chromate)処理する工程を経て製造される。)





(訳:
[0032] 図2は、本発明によるリチウム二次電池の集電体用銅箔の集合組織係数の算出のために、X線回折法(XRD)を行った結果を示すグラフである。)





第5 当審の判断
1 本件発明1について
(1)甲1に記載された甲1発明について
甲1の段落0024によれば、甲1に記載されたリチウム二次電池の集電体用銅箔は、硫酸銅、硫酸及び塩素から構成された硫酸銅めっき液を基本にし、微量の有機添加剤を添加して製造されるものであるから、電解銅箔であるといえる。
また、甲1の図2には、銅箔に対し、「X線回折法を行った結果を示すグラフ」が記載されている。
これらのことを踏まえると、甲1には、以下の「甲1発明」が記載されているといえる。
[甲1発明]
「リチウム二次電池の集電体用の電解銅箔であって、X線回折法を行った結果が、甲1の図2に記載されたグラフとなる、電解銅箔。」

(2)甲3に記載された甲3発明について
甲3の段落0018によれば、甲3に記載されたリチウム二次電池の集電体用銅箔は、硫酸銅、硫酸及び塩素から構成された硫酸銅めっき液を基本にし、微量の有機添加剤を添加して製造されるものであるから、電解銅箔であるといえる。
また、甲3の図2には、銅箔に対し、「X線回折法を行った結果を示すグラフ」が記載されている。
これらのことを踏まえると、甲3には、以下の「甲3発明」が記載されているといえる。
[甲3発明]
「リチウム二次電池の集電体用の電解銅箔であって、X線回折法を行った結果が、甲3の図2に記載されたグラフとなる、電解銅箔。」

(3)本件発明1と甲1発明との対比
ア 甲1発明は「リチウム二次電池の集電体用の電解銅箔」であり、本件発明1は「リチウム二次電池用集電体に適用される電解銅箔」であるから、両発明は、「電解銅箔」であって、「リチウム二次電池用集電体に適用される」ものである点で一致する。

イ 甲1発明は「X線回折法を行った結果が、甲1の図2に記載されたグラフとなる」ものであるところ、甲1の全体を参照しても、「X線回折法を行」う前に熱処理を行うといった記載は特に見当たらず、技術常識からみて、リチウム二次電池の集電体用の電解銅箔において熱処理が必ず行われるとは認められないから、「甲1の図2に記載されたグラフ」は、熱処理していない状態での「電解銅箔」に対し「X線回折法を行った結果」を示すものと認められる。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、「熱処理していない状態で得られたX線回折分析グラフ」に関する事項を備える点で、共通している。

ウ そして、本件発明1と甲1発明とは、以下の相違点1及び相違点2で相違する。
(相違点1)
「熱処理していない状態で得られたX線回折分析グラフ」に関し、本件発明1は、「(111)面に対するピーク曲線の半値幅が0.08以上0.15以下であ」るのに対し、甲1発明は、「(111)面に対するピーク曲線の半値幅」が具体的には特定されていない点
(相違点2)
「190℃で1時間熱処理した状態で得られたX線回折分析グラフ」に関し、本件発明1は「(111)面に対するピーク曲線の半値幅が0.099以上0.11以下である」のに対し、甲1発明は「190℃で1時間熱処理した状態で得られたX線回折分析グラフ」は不明であり、その結果、「(111)面に対するピーク曲線の半値幅が0.099以上0.11以下である」かどうかが不明である点

(4)甲1発明に基づく、本件発明1の新規性についての判断
ア 相違点1が実質的なものであるか否かについて検討する。
(ア)甲1の図2のグラフにおいて、(111)面に対するピーク曲線は存在しているものの、(111)面に対するピーク曲線に現れた最大強度値(intensityが約9500)の半分の位置(intensityが約4700の位置)では、ピーク右側の線とピーク左側の線が共に垂直となっているとともに、当該位置においてそれらの二つの線の間に隙間は確認できない。そのため、甲1の図2において、(111)面に対するピーク曲線に現れた最大強度値の半分の位置の線間の幅を正確に実測することはできないから、甲1の図2に基づき、「(111)面に対するピーク曲線の半値幅」の大きさを正確に特定することはできない。

(イ)したがって、甲1発明が、相違点1に係る本願発明1の構成を備えているとはいえず、相違点1は実質的なものである。

イ 異議申立人による、甲1発明が相違点1に係る本願発明1の構成を備えていることの主張について検討する。
(ア)異議申立人は、異議申立書において、以下のとおり主張している(異議申立書第8頁下から第2行?第10頁下から第8行。下線は当審にて付与した。)。
「甲第1号証のFIG.2は、実際の測定結果の(X軸変数は回析(当審注:「回折」の誤記と認められる。以下同様)角度2θであり、Y軸変数は回析X線の強度である)X線回析グラフを示している。
よって、当該グラフを解析することで、各ピークの半値幅を算出することができる。半値幅(FWHM)はピーク曲線に現れる最大強度の半分の強度に対応する2つの異なる2θ値の間の差である。(111)面のピーク曲線の計測によれば、(111)面での最大ピーク高さが39.75mm(計測用ソフトウェア「PDF-Xchange-Viewer」の値であり、相対値として利用される)と計測され、(111)ピークの半分の高さが19.88mmとなった。さらに、(111)面のピークの半分の高さでの正確な線幅は、0.21mmと計測され、X軸の2θの40度から50度までの正確な距離、つまり、2θが10度で22.94mmと計測された。解析結果は、FIG.2'に示す。


そして、(111)面に対するピーク曲線のFWHM(x)は、以下の式より算出される。

FWHM(x)/10=0.21mm/22.94mm

上記計算結果によれば、(111)面に対するピーク曲線のFWHM(x)は、約0.09である。すなわち、甲第1号証は、(111)面に対するピーク曲線の半値幅が0.08以上0.15以下である電解銅箔を開示している。」

(イ)しかしながら、上記ア(ア)で指摘したとおり、甲1の図2において、(111)面に対するピーク曲線に現れた最大強度値の半分の位置では、ピーク右側の線とピーク左側の線が共に垂直となっているとともに、当該位置においてそれらの二つの線の間に隙間は確認できない。そのため、上記主張に含まれる、「(111)面のピークの半分の高さでの正確な線幅は、0.21mmと計測され」るという計測結果は採用できず、また、その結果として、甲1発明における(111)面に対するピーク曲線の半値幅を特定することはできない。

(ウ)したがって、上記主張は採用できない。

ウ 仮に、上記イで示した異議申立人の主張のとおり、甲1の図2から「(111)面のピークの半分の高さでの正確な線幅は、0.21mmと計測され」るという計測結果を採用することができて、甲1発明である「電解銅箔」において、「熱処理していない状態で得られたX線回折分析グラフ・・・上に現れる(111)面に対するピーク曲線の半値幅」が0.09であるということができたとしても(すなわち、甲1発明が相違点1に係る本件発明1の構成を備えているということができたとしても)、次のとおり、甲1発明は相違点2に係る本件発明1の構成を備えているとは認められない。
(ア)本件明細書の表2は、以下のとおりである。


(イ)これによれば、実施例1、3、4では、半値幅の値が、「常温」に比べて「高温」(190℃で1時間の熱処理後)において減少している一方、実施例2、5、比較例1?4では、半値幅の値が、「常温」に比べて「高温」において増加している。
すなわち、190℃で1時間の熱処理によって、半値幅が減少するのか増加するのかは、具体的な電解銅箔ごとに異なるものとなっている。

(ウ)また、例えば比較例2と比較例3とを対比すると、両者の半値幅(常温)はほぼ同じ(比較例2は0.061、比較例3は0.062)であるにもかかわらず、比較例2の半値幅(高温)は0.092であり常温に比較して0.031の増加であり、比較例3の半値幅(高温)は0.080であり常温に比較して0.018の増加となっている。
すなわち、190℃で1時間の熱処理によって、半値幅の減少又は増加の程度が具体的にどのような数値となるのかは、具体的な電解銅箔ごとに異なるものとなっている。

(エ)上記(イ)及び(ウ)の検討に照らすと、190℃で1時間の熱処理をすることで、電解銅箔の(111)面ピークの半値幅が減少するのか増加するのか、また、半値幅の減少又は増加の程度が具体的にどのような数値となるのかは、具体的な電解銅箔ごとに異なるものとなっていることから、電解銅箔一般において、190℃で1時間の熱処理をすることで(111)面ピークがどのような変動を示すのかは当業者が予測し得るものではなく、実際に電解銅箔を製造して、190℃で1時間の熱処理を行った上でX線回折分析を行って初めて把握し得るものであると認められる。

(オ)そのため、甲1発明である「電解銅箔」に対し、190℃で1時間の
熱処理を行った上でのX線回折分析の結果が甲1に記載されていない以上、甲1発明における、「190℃で1時間熱処理した状態で得られたX線回折分析グラフ・・・上に現れる(111)面に対するピーク曲線の半値幅」を特定することはできない。

(カ)したがって、甲1発明が相違点1に係る本件発明1の構成を備えているということができたとしても、甲1発明は相違点2に係る本件発明1の構成を備えているとは認められない。

エ 以上より、本件発明1は、甲1に記載された発明ではない。


(5)甲1発明と、甲2に記載された事項に基づく、本件発明1の進歩性についての判断
ア 甲1及び甲2の全体を参照し、技術常識を考慮したとしても、相違点1及び相違点2に係る本願発明1の構成を、当業者が容易に想到し得たといえる根拠は見いだせないから、本件発明1は、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

イ 異議申立人による、相違点2に係る本願発明1の構成を当業者が容易に想到し得たとする主張について検討する。
(ア)異議申立人は、異議申立書において、以下のとおり主張している(異議申立書第25頁第18行?第26頁第3行)。
「しかしながら、当業者にとって、電解銅箔に熱処理を行うことは周知技術である。例えば、甲第2号証の[0027]は、表面が炭素材料の塗布、圧延やスリット形成が行われ、140?150℃で数時間熱処理された後、リチウムイオン二次電池の負極コレクタの銅箔が電池に組み立てられることを開示している。・・・よって、当業者は、熱処理を行って、通常のスキル又は習慣的な方法で温度及び継続時間を調整する動機を有し得る。なお、熱処理の温度条件は設計事項に過ぎない。
従って、本件特許発明1は、甲1発明に甲第2号証の記載事項を適用することで当業者が容易に想到し得るものであることから、進歩性を有しない。」

(イ)この主張は、甲1発明である電解銅箔に対し、温度及び時間を適宜調整して熱処理を行うことは当業者にとって容易になし得たことである旨を主張するものであると認められる。
しかしながら、相違点2に係る本件発明1の構成は、「190℃で1時間熱処理した状態で得られたX線回折分析グラフ」に関し、「(111)面に対するピーク曲線の半値幅が0.099以上0.11以下である」とすることであって、上記主張は、当該構成の容易想到性とは関係のない内容を述べているに過ぎないから、上記主張には理由がない。

ウ 以上より、本件発明1は、甲1に記載された発明と甲2に記載された事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)本件発明1と甲3発明との対比
ア 甲3発明は「リチウム二次電池の集電体用の電解銅箔」であり、本件発明1は「リチウム二次電池用集電体に適用される電解銅箔」であるから、両発明は、「電解銅箔」であって、「リチウム二次電池用集電体に適用される」ものである点で一致する。

イ 甲3発明は「X線回折法を行った結果が、甲3の図2に記載されたグラフとなる」ものであるところ、甲3の全体を参照しても、「X線回折法を行」う前に熱処理を行うといった記載は特に見当たらず、技術常識からみて、リチウム二次電池の集電体用の電解銅箔において熱処理が必ず行われるとは認められないから、「甲3の図2に記載されたグラフ」は、熱処理していない状態での「電解銅箔」に対し「X線回折法を行った結果」を示すものと認められる。
そうすると、本件発明1と甲3発明とは、「熱処理していない状態で得られたX線回折分析グラフ」に関する事項を備える点で、共通している。

ウ そして、本件発明1と甲3発明とは、以下の相違点3及び相違点4で相違する。
(相違点3)
「熱処理していない状態で得られたX線回折分析グラフ」に関し、本件発明1は、「(111)面に対するピーク曲線の半値幅が0.08以上0.15以下であ」るのに対し、甲3発明は、「(111)面に対するピーク曲線の半値幅」が具体的には特定されていない点
(相違点4)
「190℃で1時間熱処理した状態で得られたX線回折分析グラフ」に関し、本件発明1は「(111)面に対するピーク曲線の半値幅が0.099以上0.11以下である」のに対し、甲3発明は「190℃で1時間熱処理した状態で得られたX線回折分析グラフ」は不明であり、その結果、「(111)面に対するピーク曲線の半値幅が0.099以上0.11以下である」かどうかが不明である点

(7)甲3発明に基づく、本件発明1の新規性についての判断
ア 相違点3が実質的なものであるか否かについて検討する。
(ア)甲3の図2のグラフにおいて、(111)面に対するピーク曲線は存在しているものの、(111)面に対するピーク曲線に現れた最大強度値の半分の位置(intensityが4500程度の位置)では、ピーク右側の線とピーク左側の線が共に垂直となっているとともに、当該位置においてそれらの二つの線の間に隙間は確認できない。そのため、甲3の図2において、(111)面に対するピーク曲線に現れた最大強度値の半分の位置の線間の幅を正確に実測することはできないから、甲3の図2に基づき、「(111)面に対するピーク曲線の半値幅」の大きさを正確に特定することはできない。

(イ)したがって、甲3発明が、相違点3に係る本願発明1の構成を備えているとはいえず、相違点3は実質的なものである。

イ 異議申立人による、甲3発明が相違点3に係る本願発明1の構成を備えていることの主張について検討する。
(ア)異議申立人は、異議申立書において、以下の図を示した上で、甲3に記載された発明が相違点3に係る本願発明1の構成を備えていることを主張している(異議申立書第19頁第7行?第20頁下から第5行)。

(イ)この主張は、結局のところ、前記(4)イにおいて検討した、甲1発明が相違点1に係る本願発明1の構成を備えていることの主張(異議申立書第8頁下から第2行?第10頁下から第8行)と同じ内容である。
そして、異議申立人は、甲3の図2に関し「(111)面のピークの半分の高さでの正確な線幅は、0.22mmと計測され」ると述べている(異議申立書第19頁最終行?第20頁第1行)が、前記(4)イ(イ)での検討と同じ理由で、この計測結果は採用できず、また、その結果として、甲3発明における(111)面に対するピーク曲線の半値幅を特定することはできない。

(ウ)したがって、上記主張は採用できない。

ウ 仮に、上記イで示した異議申立人の主張のとおり、甲3の図2から「(111)面のピークの半分の高さでの正確な線幅は、0.22mmと計測され」るという計測結果を採用することができて、甲3発明である「電解銅箔」において、「熱処理していない状態で得られたX線回折分析グラフ・・・上に現れる(111)面に対するピーク曲線の半値幅」が0.09であるということができたとしても(すなわち、甲3発明が相違点3に係る本件発明1の構成を備えているということができたとしても)、甲3発明は相違点4に係る本件発明1の構成を備えているとは認められない。

(ア)前記(4)ウ(ア)?(エ)で示したとおり、190℃で1時間の熱処理をすることで、電解銅箔の(111)面ピークの半値幅が減少するのか増加するのか、また、半値幅の減少又は増加の程度が具体的にどのような数値となるのかは、具体的な電解銅箔ごとに異なるものとなっていることから、電解銅箔一般において、190℃で1時間の熱処理をすることで(111)面ピークがどのような変動を示すのかは当業者が予測し得るものではなく、実際に電解銅箔を製造して、190℃で1時間の熱処理を行った上でX線回折分析を行って初めて把握し得るものであると認められる。

(イ)そのため、甲3発明である「電解銅箔」に対し、190℃で1時間の熱処理を行った上でのX線回折分析の結果が甲3に記載されていない以上、甲3発明における、「190℃で1時間熱処理した状態で得られたX線回折分析グラフ・・・上に現れる(111)面に対するピーク曲線の半値幅」を特定することはできない。

(ウ)したがって、甲3発明が相違点3に係る本件発明1の構成を備えているということができたとしても、甲3発明は相違点4に係る本件発明1の構成を備えているとは認められない。

エ 以上より、本件発明1は、甲3に記載された発明ではない。


(8)甲3発明と、甲2に記載された事項に基づく、本件発明1の進歩性についての判断
ア 甲3及び甲2の全体を参照し、技術常識を考慮したとしても、相違点3及び相違点4に係る本願発明1の構成を、当業者が容易に想到し得たといえる根拠は見いだせないから、本件発明1は、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。

イ 異議申立人による、相違点4に係る本願発明1の構成を当業者が容易に想到し得たとする主張について検討する。
(ア)異議申立人は、異議申立書において、相違点4に係る本願発明1の構成を当業者が容易に想到し得たと主張している(異議申立書第29頁下から第3行?第30頁第10行)。

(イ)この主張は、結局のところ、前記(5)イにおいて検討した、相違点2に係る本願発明1の構成を当業者が容易に想到し得たとする主張(異議申立書第25頁第18行?第26頁第3行)と同じ内容である。

(ウ)そして、相違点4に係る本件発明1の構成は、「190℃で1時間熱処理した状態で得られたX線回折分析グラフ」に関し、「(111)面に対するピーク曲線の半値幅が0.099以上0.11以下である」とすることであって、上記主張は、当該構成の容易想到性とは関係のない内容を述べているに過ぎないから、上記主張には理由がない。

ウ 以上より、本件発明1は、甲3に記載された発明と甲2に記載された事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものではない。


(9)本件発明1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1は、甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明と甲2に記載された事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
また、本件発明1は、甲3に記載された発明ではなく、甲3に記載された発明と甲2に記載された事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
よって、本件発明1に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものではない。


2 本件発明2?6について
本件発明2?6は、いずれも、本件発明1を引用するものであって、本件発明1の発明特定事項を備えるものである。
したがって、本件発明2?6は、本件発明1と同様に、甲1又は甲3に記載された発明ではなく、甲1又は甲3に記載された発明と甲2に記載された事項に基づき当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
よって、本件発明2?6に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものではない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-10-17 
出願番号 特願2016-170089(P2016-170089)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01M)
P 1 651・ 113- Y (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 式部 玲  
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 ▲辻▼ 弘輔
長谷山 健
登録日 2017-12-22 
登録番号 特許第6263587号(P6263587)
権利者 ケイシーエフ テクノロジース カンパニー リミテッド
発明の名称 電解銅箔、該電解銅箔を含むリチウム二次電池用集電体及びリチウム二次電池  
代理人 藤田 和子  
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