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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01B
管理番号 1345877
異議申立番号 異議2018-700601  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-07-23 
確定日 2018-10-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第6264825号発明「歪みセンサ付き布帛及び被服」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6264825号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6264825号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成25年10月18日に出願され、平成30年1月5日にその特許権の設定登録がされ、平成30年1月24日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、平成30年7月23日に特許異議申立人前田京子は特許異議の申立てを行った。

2 本件発明
特許第6264825号の請求項1?5の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
伸縮可能なシート状の布帛と、
この布帛の一方の面側において所定領域に積層される歪みセンサと、を備え、
前記布帛が、上記所定領域の少なくとも一部において一方の面側の表層に歪みセンサの接着に寄与する繊維及び樹脂を含む複合層を有する歪みセンサ付き布帛。
【請求項2】
前記複合層の平均厚さが、前記布帛の平均厚さに対して5%以上40%以下である請求項1に記載の歪みセンサ付き布帛。
【請求項3】
前記複合層と前記歪みセンサとの間に接着剤層を備える請求項1又は請求項2に記載の歪みセンサ付き布帛。
【請求項4】
前記布帛の表面及び裏面のうち少なくとも歪みセンサが存在しない領域に滑り止め層を備える請求項1、請求項2及び請求項3のいずれか1項に記載の歪みセンサ付き布帛。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の歪みセンサ付き布帛から構成される領域を備える被服。」

3 申立理由の概要
特許異議申立人は、主たる証拠として特開2011-47702号公報(以下「甲第1号証」という。)、並びに、従たる証拠として、特開2003-20538号公報(以下「甲第2号証」という。)、特開2012-177565号公報(以下「甲第3号証」という。)、特開2010-203008号公報(以下「甲第4号証」という。)、及び特開2001-295152号公報(以下「甲第5号証」という。)を提出し、請求項1?5に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1?5に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。
また、特許異議申立人は、請求項4に係る特許は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条第6項の規定に違反してされたものであるから、請求項4に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。なお、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではなく」という表現から、「特許法第36条第6項」は、より詳細には特許法第36条第6項第1号のことを意図しているものと、合議体は判断した。

4 甲各号証の記載
(1)甲第1号証には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審による。)。
「【0021】
本明細書での伸縮装置とは、伸縮可能な装置のことを示す。特に本発明の伸縮装置1は、伸縮可能な基材上2に配置され、所定の方向に配向した複数のカーボンナノチューブ(CNT)を備える配向CNT膜構造体3を備えることを特徴とする。伸縮装置1は、配向CNT膜構造体3に伸縮力を供給するための部材である、伸縮力供給用部材4を備えていてもよい。また、例えば配向CNT膜構造体3の構造変化を、測定することで伸縮を検出する、検知装置5を備えていてもよい。」

「【0023】
(伸縮可能な基材)
本発明における基材とは、少なくとも一方向に伸縮性を有し、かつ配向CNT膜構造体3が配置できればよく、形状、材質、装着方法に左右されない。材質は、伸縮可能であればよく、例えば、樹脂、ゴム、弾性体などが例示できる。特に、伸縮性が非常に高い材料、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)は大きな伸縮を検出できるため好ましい。伸縮による配向CNT膜構造体3の抵抗変化を検出する場合には、基材2は、それ自体が電気伝導性を有しないことが好ましい。」

「【0079】
また、伸縮力供給用部材が、配向CNT膜構造体が配置された基材とは別の伸縮可能な部材でも良い。伸縮可能な別の部材としては、例えば、絆創膏や網タイツなどを例示できる。その場合、接着材を用いて、伸縮可能な基材の裏面に絆創膏や網タイツを接着すればよい。配向CNT膜構造体は伸縮可能な基材の表面に配置する。PDMS接着剤などのような、伸縮性を有する接着剤を用いると、絆創膏/網タイツと、伸縮可能な基材間の剥離を防ぐことができ、好ましい。
【0080】
伸縮力供給用部材として、絆創膏を用いた伸縮装置は、人体などの任意の物体に貼り付けることができ、その物体の変形、変位、動きを検出できる。また、伸縮力供給用部材として、網タイツを用いた伸縮装置は、人間が衣服として着ることができる。これらの伸縮装置を、人体、ロボットなどに貼り付けたり、着せたりした場合、人間、ロボットの動き、移動、発声などを検出できる。」

「【0114】
(基材製造工程)
基材の材質として、電気伝導性を有さず、優れた伸長性を示す、ポリジメチルシロキサン(PDMS)であるシルポット184(東レ・ダウコーニング株式会社製)を選んだ。また、形状としては、均一な伸縮を実現するために、均一な厚みを有する板状に成形した。以下に示す、脱泡工程、板状成形工程、剥離工程、成形工程によりかかる基材を製造した。」

「【0200】
(実施例6:伸縮性を有する伸縮力供給用部を備える伸縮装置)
本発明による伸縮力供給用部付きの伸縮装置、及びその製造方法について、別の実施例を詳細に説明する。本発明による伸縮力供給用部付きの伸縮装置を、図面31を参考に説明する。
【0201】
伸縮装置100は、伸縮可能な基材上2に配置され、所定の方向に配向した複数のCNTを備える配向CNT膜構造体3を備える。基材の配向CNT膜構造体3を配置した裏側に、伸縮可能なゴムシート等からなる伸縮力供給用部材104が、接着材で基材2に接着されている。
【0202】
伸縮装置100はそれ単体では機能せず、伸縮が発生する伸縮駆動装置に取り付けて用いる。伸縮可能な伸縮力供給用部材104を用いると、伸縮装置100を伸縮駆動装置に設置することが容易になり、伸縮駆動装置で発生した伸縮力を効率良く伸縮装置100に供給できる。
【0203】
このような伸縮力供給用部材104を用いると、後述のデータグローブ、絆創膏型デバイス等様々な伸縮装置を製造する上で格段の効果がある。具体的に、製造した伸縮装置は均一な厚さ1mmで、形状図21に示す板状のPDMS伸縮基材2の上に、厚さ600nm、サイズ1mm(長さ:配向CNTフィルムの高さ)×30mm(幅)の配向CNT膜構造体3を配置してなる。」

「【0208】
伸縮性を有する伸縮力供給用部104を備える伸縮装置100を、図31を用いて詳述する。伸縮駆動装置の伸縮力を、伸縮可能な伸縮力供給用部材104を通して、伸縮装置100に供給する。そのため、伸縮可能な伸縮力供給用部材104を用意し、伸縮装置100の配向CNT膜構造体3の配置してある面の裏面の一部もしくは全面を、伸縮可能なゴムシート106に、伸縮性と接着性を併せ持つPDMS接着材105で接着する。これらゴムシート106と接着剤105を併せて、伸縮力供給用部材104として用いた。具体的には、図21に示す基材に、実施例1もしくは実施例2の方法で、配向CNT膜構造体3もしくはCNTマイクロ膜構造体50を備える伸縮装置100を製造した後に、配向CNT膜構造体3を配置した基材2の裏側の面全体に、PDMS接着剤105(1成分形シリコーンシーラント SH780/東レ・ダウコーニング株式会社製)を0.1?0.5mm位の厚みで塗布する。そして、図21の基材より大きなゴムシート106を用意し、このゴムシート106に基材2が収まり、接着剤105の面をゴムシート106と接するようにして、基材2を置く。その後、十分接着するように基材2全体を指先で押さえ、1日おき、PDMS接着剤105を乾燥させる。接着剤105に伸縮性がない場合は、伸縮力供給用部材104が伸縮した際、接着面に割れが生じ、伸縮力供給用部材104と伸縮を伸縮装置100に均一に伝えることが困難となる。」

【図31】

「【0217】
(実施例9:伸縮力供給用部材付きの伸縮装置)
本発明による伸縮力供給用部付きの伸縮装置、及びその製造方法について、ストッキングを伸縮力供給用部材として用いた、実施例6の別の形態について詳細に説明する。本発明によるストッキングデバイスを、図37を参考に説明する。
【0218】
既存の歪み測定素子では、人間の関節などの大きな変異を繰り返し検出するのは困難であった。また、大きな変異を繰り返し検出可能な素子があっても、人間の関節のように、大きな変異をする部位で、当該駆動物に接着や、固定が出来ない物体に対しては、検出素子を検出したい場所に留めておくことも困難であった。これらの理由から、関節の動きを直接観測することは出来なかった。そのため、伸縮駆動装置もしくは、伸縮を発生する物体に、伸縮力供給用部材の密着性をもって密着し、伸縮装置の伸縮位置を留めておく必要があった。また、駆動物に密着した伸縮力供給用部材が、駆動物の駆動に対し、伸縮性を有する必要があった。そのため、これら密着性と伸縮性を併せ持つ伸縮力供給用部材134として、ストッキングを用いた。
【0219】
このストッキングに、伸縮装置130を、伸縮性と接着性を併せ持つPDMS接着剤を用いて設置した。これにより、人間の膝等の大きな関節域に於いて、伸縮装置130の位置を関節からずらすことなく設置可能とし、さらに膝関節の駆動という大きな駆動及び、その動きを直接観測することに成功した。従来技術においては、これら関節の動きを観測する場合は、モーションキャプチャーや、大がかりなリンク機構により観測を行っていた。また、これらの装置を用いても、伸縮表面の動きを観測することは難しかった。しかしながら当該伸縮装置により、知りたい部位の動きを、直接、しかも装着するだけで、測定可能となった。
【0220】
伸縮力供給用部材134として、伸縮性を有する市販のストッキングを用いた。ストッキングの膝の関節部に、実施例4の方法で製造した伸縮性を有する検知装置137を備える伸縮装置130を、実施例6の方法でストッキングに接着した。このストッキングデバイスを人間が着て動きくと、図37に示すように、人間の動きを正確、かつ精密に検出できた。
【0221】
具体的には、伸縮力供給用部材134として用いるストッキング(レイアリス社)の膝関節の膝のさら部分に、関節を跨ぐように、伸縮する軸上に2カ所テープをはり、印を付ける。このテープは、剥離の際、ストッキング134の繊維を破壊しない程度の粘着力を有する物を使う。次に、図23の基材を用いて、実施例1もしくは実施例2の方法で、伸縮装置130を製造する。
【0222】
PDMS接着剤(1成分形シリコーンシーラント SH780/東レ・ダウコーニング株式会社製)を0.1?0.5mm位の厚みで基材2の裏側に塗布する。接着剤を塗布後、用意したストッキング134に付けたテープを剥がし、これらテープが示していた伸縮する軸と、基材2の中心軸を併せるように基材2を置く。また、基材2の中心軸の中心が、ストッキング134に印として用いた二つのテープの中間に来るようにする。その後、基材2とストッキング134が、十分接着するように基材2全体を指先で押さえ、1日おき、PDMS接着剤を乾燥させ、伸縮装置130を製造する。
【0223】
伸縮力供給用部材134として、ストッキングだけでなく、下半身に密着可能なタイツや、上半身に密着可能なタイツ、体に密着するボディスーツ、水着を用いても、上記課題を解決し、同様の効果を得られる。」

【図37】

図37より、ストッキングの一方の面側において所定領域に基材2が積層され、基材2に配向CNT膜構造体3、検知装置137が積層される点が見て取れる。

したがって、甲第1号証には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「伸縮可能な基材2に配置された配向CNT膜構造体3、伸縮力供給用部材、配向CNT膜構造体3の構造変化を測定することで伸縮を検出する検知装置5を備えた、伸縮装置(【0021】より)において、
伸縮力供給用部材として用いられる、伸縮性を有するストッキング(【0220】より)であって、
基材の材質は、樹脂、ゴム、弾性体などであり(【0023】より)、
ストッキングの一方の面側において所定領域に基材2が積層され、基材2に配向CNT膜構造体3、検知装置が積層され(図37より)、
伸縮性と接着性を併せ持つPDMS接着剤を0.1?0.5mm位の厚みで基材2の裏側に塗布した後、ストッキングに基材2を置き、基材2とストッキングが、十分接着するように基材2全体を指先で押さえ、1日おき、PDMS接着剤を乾燥させ、伸縮装置を製造し(【0219】、【0222】より)、
ストッキングデバイスを人間が着て動くと、人間の動きを正確、かつ精密に検出できる(【0220】より)、
ストッキング(【0220】より)。」。

(2)甲第4号証には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審による。)。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリウレタン樹脂を衣類の端縁部及び/又は衣類を構成する複数の部品の接合部に配置し、加熱によって該熱可塑性ポリウレタン樹脂を溶融させて、該端縁部及び/又は該接合部を溶融接着させた衣類に関する。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、熱可塑性ポリウレタン樹脂を用いて、端縁部を処理し、及び/又は生地部品を接合させて得られる衣類であって、長時間の着用後の伸長回復性が良好で、洗濯後も接着部位がはがれにくく、低温環境下においても接着部である端縁部や接合部が硬くならず、風合いの良好な衣類を得ることである。」

「【0023】
本発明の衣類は、熱可塑性ポリウレタン樹脂で衣類生地を溶融接着してなる接着部を有する。該接着部は、衣類の端縁部、及び/又は、生地部品を複数接合して衣類を構成するための部品接合部である。」

「【0026】
本発明において、接着部は、生地内部に熱可塑性ポリウレタン樹脂が浸透してなる樹脂浸透部と、該樹脂浸透部に接して生地表面に熱可塑性ポリウレタン樹脂によって形成される樹脂層とを有する。樹脂層とは、生地に浸透せずに生地表面に存在している熱可塑性ポリウレタン樹脂の層であり、樹脂浸透部とは、生地内の熱可塑性ポリウレタン樹脂が浸透している部分である。樹脂浸透部は、典型的には、生地表面から熱可塑性ポリウレタン樹脂を生地内に含浸させることによって形成できる。本発明においては、熱可塑性ポリウレタン樹脂を用いて生地が溶融接着され、接着部が樹脂層と樹脂浸透部とを有し、かつ樹脂層厚みと樹脂浸透部厚みとの比が所定範囲内に制御されることによって、接着部の接着強度が良好であるとともに長期間の着用後の伸長回復性が良好であり、洗濯後も接着部位がはがれにくく、低温環境下においても接着部が硬くならず、風合いの良好な衣類を得ることができる。
【0027】
本発明においては、接着部における樹脂層厚みの樹脂浸透部厚みに対する比(以下、浸透比と記載することがある)が0.1?1.5である。樹脂層厚み及び樹脂浸透部厚みは、生地への樹脂の浸透度合い(染み込み具合)の指標となり、これらは樹脂の性質及び接着条件により決定される。樹脂使用量が一定の場合、樹脂層厚みが大きくなれば、樹脂浸透部厚みは小さくなり、逆に樹脂層厚みが小さくなれば、樹脂浸透部厚みは大きくなる。接着部の接着強度は、樹脂層の樹脂強度と樹脂浸透部厚みによる強度との総和で決まると考えられる。従って、接着後に、樹脂層厚みと樹脂浸透部厚みとが各々適度に存在している必要がある。また、樹脂層厚みが小さすぎ、樹脂浸透部厚みが大きすぎると、生地内に染み込んだ樹脂の量が多すぎて、接着生地の風合いが悪くなる。逆に樹脂層厚みが大きすぎ、樹脂浸透部厚みが小さすぎると、表面樹脂層の厚みにより、接着生地の風合いが悪くなる。上記浸透比が0.1未満では、樹脂層の樹脂強度が不足し接着強度が十分でない上に、樹脂が生地に浸透しすぎて接着生地の風合いが悪くなる。一方浸透比が1.5を超えると、樹脂が十分に生地に浸透しておらず、十分な接着強度を発現できない上に、表面樹脂層の厚みによって、接着生地の風合いが悪くなる。浸透比は、好ましくは0.2?1.3、さらに好ましくは0.5?1.2である。上記浸透比は、接着部の生地厚み方向の切断面を走査型電子顕微鏡で観察し、生地内部に樹脂が浸透している部分の厚みを樹脂浸透部厚みとして、該樹脂浸透部の表面に形成されている樹脂層の厚みを樹脂層厚みとしてそれぞれ測長し、(浸透比)=(樹脂層厚み)/(樹脂浸透部厚み)、の式に従って求めることができる。」

「【0071】
(1)樹脂層厚みの樹脂浸透部厚みに対する比(浸透比)
熱可塑性ポリウレタン樹脂から成形したテープが接着された生地において、接着部位を鋭利なカミソリで切断し、走査型顕微鏡JSM-5510LV(日本電子データム(株)製)にて、切断面を観察し、樹脂層厚み及び樹脂浸透部厚みを測長した。図1は、浸透比を算出する方法を示す図である。図1に示すように、上下2枚の生地の間に形成されている樹脂層の厚みを樹脂層厚みとして求め、上下2枚の生地において、生地内部に樹脂が染み込んでいる部分の厚みの平均値(上側生地と下側生地との平均値)を樹脂浸透部厚みとして求め、樹脂層厚みの樹脂浸透部厚みに対する比、[(浸透比)=(樹脂層厚み)/(樹脂浸透部厚み)]を求めた。」

【図1】

図1より、樹脂浸透部は、上下2枚の生地の間に形成されている樹脂層に接する、生地の表層に形成されている点が見て取れる。

したがって、甲第4号証には次の技術(以下「甲4技術」という。)が記載されていると認められる。
「熱可塑性ポリウレタン樹脂を衣類の端縁部及び/又は衣類を構成する複数の部品の接合部に配置し、加熱によって該熱可塑性ポリウレタン樹脂を溶融させて、該端縁部及び/又は該接合部を溶融接着させた衣類に関し(【0001】より)、
衣類は、熱可塑性ポリウレタン樹脂で衣類生地を溶融接着してなる接着部を有し(【0023】より)、
接着部は、生地内部に熱可塑性ポリウレタン樹脂が浸透してなる樹脂浸透部と、該樹脂浸透部に接して生地表面に熱可塑性ポリウレタン樹脂によって形成される樹脂層とを有し、樹脂浸透部とは、生地内の熱可塑性ポリウレタン樹脂が浸透している部分であり、樹脂浸透部は、典型的には、生地表面から熱可塑性ポリウレタン樹脂を生地内に含浸させることによって形成でき(【0026】より)、
生地内部に樹脂が浸透している部分の厚みを樹脂浸透部厚みとし、樹脂浸透部厚みは、生地への樹脂の浸透度合い(染み込み具合)の指標となり、樹脂浸透部厚みが大きすぎると、生地内に染み込んだ樹脂の量が多すぎて、接着生地の風合いが悪くなり(【0027】より)、
樹脂層厚みと樹脂浸透部厚みとの比が所定範囲内に制御されることによって、接着部の接着強度が良好であるとともに長期間の着用後の伸長回復性が良好であり、洗濯後も接着部位がはがれにくく、低温環境下においても接着部が硬くならず、風合いの良好な衣類を得ることができ(【0026】より)、
樹脂浸透部は、上下2枚の生地の間に形成されている樹脂層に接する、生地の表層に形成される(図1より)、技術。」

(3)甲第2号証には、【請求項1】、【請求項4】より、概略、「導電性の繊維と非導電性の繊維を混ぜ合わせた混紡糸を編み又は織ってなる導電性編物又は織物を、測定対象物の測定個所に追従して変形可能に設け、該導電性編物又は織物の電気抵抗の変化により測定対象物の変形を検知するセンサ」に関する技術(以下「甲2技術」という。)が記載されていると認められる。

(4)甲第3号証には、【請求項1】、【0001】、【0019】より、概略、「人体に装着され、身体挙動を検知するシステムに使用される、複数の導電糸を含んで構成された編物又は織物を一方向に伸縮自在にすると共に、その伸縮に伴って前記導電糸の隣接するもの同士の間隔が変化し、隣接する各導電糸の端部が静電容量を測定するための一対の電極とされている引張変形検知布」に関する技術(以下「甲3技術」という。)が記載されていると認められる。

(5)甲第5号証には、【0002】、【0006】より、概略、「例えば、ブラジャーのカップから側方へ延びて人体の背面で接続される伸縮性バンド部の上縁および下縁に取付けられるアンダーテープやストラップテープ等の伸縮性テープにおいて、合成繊維のウーリー加工糸からなる柄経糸の浮き部分が独立した島状の浮き模様を形成し、伸縮性テープを浮き模様が肌側を向くように下着の所望箇所に取り付けて着用すると、浮き模様が肌に軽く食い込んで滑り止めとして機能する技術」(以下「甲5技術」という。)が記載されていると認められる。

5 当審の判断
(1)特許法第29条第2項について
ア 請求項1に係る発明について
(ア)対比
請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「伸縮性を有するストッキング」は、本件発明の「伸縮可能なシート状の布帛」に相当する。
また、甲1発明における、「伸縮力供給用部材として」の「伸縮性を有するストッキング」「の一方の面側において所定領域に」「積層され」る「基材2」、「基材2に」「積層され」る「配向CNT膜構造体3、検知装置137」は、「配向CNT膜構造体3の構造変化を測定することで伸縮を検出」するために使用されるものであるから、本件発明における「この布帛の一方の面側において所定領域に積層される歪みセンサ」に相当する。
そして、甲1発明における、「基材2」、「配向CNT膜構造体3、検知装置137」が「積層され」た「伸縮性を有するストッキング」は、本件発明における「歪みセンサ付き布帛」に相当する。
さらに、本件発明の「・・・の接着に寄与する繊維及び樹脂を含む複合層」に関して、本件明細書の「前記複合層4を形成する樹脂としては、接着剤が挙げられる。」(【0021】)という記載をふまえると、甲1発明において、「ストッキングの一方の面側において所定領域に基材2」を積層するにあたり、「伸縮性と接着性を併せ持つPDMS接着剤を0.1?0.5mm位の厚みで基材2の裏側に塗布した後、ストッキングに基材2を置き、基材2とストッキングが、十分接着するように基材2全体を指先で押さえ、1日おき、PDMS接着剤を乾燥させ、伸縮装置を製造」することは、本件発明における「前記布帛が、上記所定領域の少なくとも一部において一方の面側の表層に歪みセンサの接着に寄与する繊維及び樹脂を含む複合層を有する」ことと、「前記布帛が、上記所定領域の少なくとも一部において歪みセンサの接着に寄与する層を有する」点で共通するといえる。

そうすると、本件発明と甲1発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「伸縮可能なシート状の布帛と、
この布帛の一方の面側において所定領域に積層される歪みセンサと、を備え、
前記布帛が、上記所定領域の少なくとも一部において歪みセンサの接着に寄与する層を有する歪みセンサ付き布帛。」

(相違点)
本件発明では、「前記布帛が、上記所定領域の少なくとも一部において一方の面側の表層に歪みセンサの接着に寄与する繊維及び樹脂を含む複合層を有する」のに対し、
甲1発明では、「ストッキングの一方の面側において所定領域に基材2」を積層するのに、「伸縮性と接着性を併せ持つPDMS接着剤を0.1?0.5mm位の厚みで基材2の裏側に塗布した後、ストッキングに基材2を置き、基材2とストッキングが、十分接着するように基材2全体を指先で押さえ、1日おき、PDMS接着剤を乾燥させ、伸縮装置を製造し」ているものの、「前記布帛が、上記所定領域の少なくとも一部において一方の面側の表層に歪みセンサの接着に寄与する繊維及び樹脂を含む複合層を有する」かどうかは不明な点。

(イ)相違点についての判断
a 相違点に関連して、甲4技術は、2枚の「生地」を「熱可塑性ポリウレタン樹脂」で「加熱によ」り「溶融接着させ」るにあたって、「2枚の生地の間に形成されている樹脂層に接する、生地の表層に」、「生地内部に熱可塑性ポリウレタン樹脂が浸透してなる樹脂浸透部」が「形成される」、という技術である。

b 甲第1号証には、伸縮力供給用部材として、ストッキングだけでなく、タイツ等を用いてもよい旨の記載がある(【0223】)。
甲1発明と甲4技術とを比べると、甲1発明では、「配向CNT膜構造体3」が「配置された」、「樹脂、ゴム、弾性体など」からなる「基材」と、「ストッキング」(あるいはタイツ等)とを接着させるのに対して、甲4技術は2枚の「生地」を接着させることに関するものであるから、甲1発明と甲4技術とでは、接着させる対象が異なる。
一般に、接着剤及び接着手法は、接着させる対象等に応じて選択されるものである。
したがって、甲1発明と甲4技術とでは接着させる対象が異なるから、甲1発明において、甲1発明とは接着させる対象が異なる甲4技術における接着剤や接着手法を適用する動機付けを見出すことはできない。甲1発明の「基材」は、「配向CNT膜構造体3」が「配置された」ものであるから、「加熱によ」り「溶融接着させ」る甲4技術をそのまま適用できるかどうかも不明である。

c また、甲4技術における、「生地の表層に」、「生地内部に熱可塑性ポリウレタン樹脂が浸透してなる樹脂浸透部」が「形成される」事項は、2枚の「生地」を「熱可塑性ポリウレタン樹脂」で「加熱によ」り「溶融接着させ」る前提でなされている事項である。そして、甲1発明の「PDMS接着剤」と、甲4技術の「熱可塑性ポリウレタン樹脂」とでは、(「ストッキング」や「タイツ」も生地だとして)生地への浸透具合と接着強度等との関係は、当然ながら同じではない。
したがって、甲1発明において、「PDMS接着剤」で「1日」「乾燥させ」て「接着」させる接着手法はそのままに、甲4技術における、「生地の表層に」、「生地内部に・・・が浸透してなる樹脂浸透部」が「形成される」事項のみを、2枚の「生地」を「熱可塑性ポリウレタン樹脂」で「加熱によ」り「溶融接着させ」る前提と切り離して適用することはできない。

d なお、甲2、3、5技術は、二つの対象を接着剤で接着させることに関する技術ではなく、上記相違点に関連するものではない。

e そして、本件発明は、上記相違点に係る「前記布帛が、上記所定領域の少なくとも一部において一方の面側の表層に歪みセンサの接着に寄与する繊維及び樹脂を含む複合層を有する」という構成を有することにより、「布帛の全てが樹脂によって硬化しないため、布帛の剛性上昇が抑制される。よって、当該歪みセンサ付き布帛は、剛性を従来のものに比べて低くできる。その結果、当該歪みセンサ付き布帛は、高いセンサ感度を有」する(【0007】)という、当業者でも容易には予測できない、格別な効果を奏するものである。

f したがって、上記相違点に係る本件発明の構成は、甲1発明及び甲2?5技術に基いて、当業者が容易に想到し得るものではない。

(ウ)特許異議申立人の主張について
a 特許異議申立人は、特許異議申立書の第17頁第22行?第20頁第6行において、甲第4号証から、甲4発明を
「a4:「編地または織物で構成された衣類生地」
b4:「第1の衣類生地の一方の面側において端縁部、及び/又は、部品接合部に積層される第2の衣類生地」
c4:「第1の衣類生地のうち端縁部及び/又は部品接合部の生地内部に、第2の衣類生地の接着に寄与する熱可塑性ポリウレタン樹脂が浸透してなる樹脂浸透部」
d4:「(a4?c4を備えた)衣類生地」」
と認定した上で、「甲4発明の・・・「第1の衣類生地」の接着対象である「第2の衣類生地」に代えて本件特許発明1の『歪みセンサ』とすることは、当業者であれば容易に想到し得る技術事項である。」(第19頁第29行?第20頁第6行)と主張している。
しかしながら、衣類を接着することに関する甲4発明において、「第1の衣類生地」の接着対象である「第2の衣類生地」に代えて『歪みセンサ』とすることに動機付けは見出せないから、当該主張には理由がない。

b また、特許異議申立人は、特許異議申立書の第20頁第27行?第21頁第11行において、「「歪みセンサ付き布帛」として、測定対象物に導電性編物又は織物をその変形に追従して変形可能に設けて、電気抵抗の変化により測定対象物の変形を検出する構成は甲第2号証に開示され、人体に装着した編物又は織物の伸縮を静電容量の変化として検出する構成は甲第3号証に開示されているように、測定対象物に設けた伸縮性の布帛の伸縮によって変化する電気抵抗や静電容量などの電気特性に基づいて、着用者の姿勢変化など測定対象物の変位を検出する構成は周知であり、着用者の姿勢変化など測定対象物の変位を検出する素子を布帛に接着固定するために、甲4発明の「樹脂浸透部」を採用することを妨げる特段の理由はない。
即ち、甲第2号証、甲第3号証に記載された周知技術に鑑み甲第4号証に記載された甲4発明の「樹脂浸透部」を甲第1号証に記載された甲1発明に適用することで本件特許発明1とすることは、当業者であれば容易である。」と主張している。
しかしながら、甲2技術、甲3技術は、布帛自体が歪みセンサとして機能するものであり、甲1発明において、歪みセンサとして甲2技術、甲3技術における構成を適用すると、もはや歪みセンサを接着させる布帛が必要でなくなるから、甲第2号証、甲第3号証に記載された周知技術を鑑みても、甲第4号証に記載された「樹脂浸透部」を甲1発明に適用する動機付けを見出すことはできない。
したがって、当該主張には理由がない。

(エ)まとめ
よって、本件発明は、甲1発明及び甲2?5技術に基いて、当業者が容易に想到し得るものではない。

イ 請求項2?5に係る発明について
請求項2?5に係る発明は、請求項1の従属項に係る発明であり、請求項2?5に係る発明は、本件発明の上記相違点に係る構成と同一の構成を備えるものである。
したがって、上記アに示した理由と同じ理由により、請求項2?5に係る発明は、甲1発明及び甲2?5技術に基いて当業者が容易になし得るものではない。

ウ 以上のとおり、請求項1?5に係る発明は、甲1発明及び甲2?5技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)特許法第36条第6項第1号について
特許異議申立人は、特許異議申立書の第26頁第1?22行において、本件明細書の『当該歪みセンサ付き布帛と着用者等の肌等との間の密着性が高まり、着用者等の動きに歪みセンサをより追従させることができる。従って、センサ感度及び着用感をさらに高められる。』【0010】との作用効果の記載に基づけば、布帛と着用者等の肌等との間に滑り止め層を備えることにより初めて奏される作用効果であるところ、本件特許発明4の発明特定事項G『前記布帛の表面及び裏面のうち少なくとも歪みセンサが存在しない領域に滑り止め層を備える請求項1、請求項2及び請求項3のいずれか1項に記載の歪みセンサ付き布帛。』では、『前記布帛の表面及び裏面のうち少なくとも歪みセンサが存在しない領域に滑り止め層を備える』ことのみ特定され、布帛のうち着用者の肌側の面とは反対側の面に『滑り止め層』を備える態様も含まれるから、本件特許発明4は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条第6項第1号の規定に違反して特許されたものである旨主張する。
しかしながら、本件明細書(【0010】、【0082】?【0091】、【0102】)では、滑り止めに関して、専ら布帛と着用者の肌との間の滑り止めについて記載され、布帛と、着用者の肌以外のもの、との間の滑り止めについては想定されていない。これをふまえると、請求項4で特定される「滑り止め層」は、布帛と着用者等の肌等との間に備えられるものであることは明らかである。
よって、請求項4に係る発明(及び請求項4を引用する請求項5に係る発明)は発明の詳細な説明に記載したものである。

6 むすび
したがって、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-10-15 
出願番号 特願2013-217870(P2013-217870)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (G01B)
P 1 651・ 537- Y (G01B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岡田 卓弥  
特許庁審判長 中塚 直樹
特許庁審判官 中村 説志
須原 宏光
登録日 2018-01-05 
登録番号 特許第6264825号(P6264825)
権利者 ヤマハ株式会社
発明の名称 歪みセンサ付き布帛及び被服  
代理人 石田 耕治  
代理人 天野 一規  

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