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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H03H
審判 全部申し立て 2項進歩性  H03H
管理番号 1345883
異議申立番号 異議2018-700421  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-05-22 
確定日 2018-10-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第6234410号発明「電子デバイス封止用樹脂シート及び電子デバイスパッケージの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6234410号の請求項1?8に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6234410号の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成25年10月28日に出願した特願2013-223208号の一部を平成27年8月31日に新たな特許出願とした特願2015-170805号であって、平成29年11月2日にその特許権の設定登録がされ、同年11月22日にその特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1?8に係る特許に対し、平成30年5月22日に特許異議申立人益川教親により特許異議の申立てがされ、当審は、平成30年7月24日付けで取消理由を通知した。それに対し、特許権者は、平成30年9月27日に意見書を提出した。

2 本件発明
「【請求項1】
電子デバイスを封止するための樹脂シートであって、
無機充填剤を含み、
前記樹脂シート中の前記無機充填剤の含有量が60?90体積%であり、
エポキシ樹脂をさらに含み、
前記エポキシ樹脂の軟化点が100℃以下であり、
直径25mmのプローブを用いて測定された25℃のプローブタックが5g?500gである樹脂シート(ただし、前記樹脂シートがポリイソブチレン樹脂を含む場合を除く)。
【請求項2】
表面粗さ(Ra)が400nm以下である請求項1に記載の樹脂シート。
【請求項3】
25℃における引張貯蔵弾性率が10-2MPa?103MPaである請求項1または2に記載の樹脂シート。
【請求項4】
真空包装容器内に配置された前記電子デバイスを封止するために使用される請求項1?3のいずれかに記載の樹脂シート。
【請求項5】
基板に実装された前記電子デバイスの上に前記樹脂シートを配置する工程と、
前記基板に実装された前記電子デバイス及び前記電子デバイスの上に配置された前記樹脂シートを、真空包装容器に入れる工程と、
前記真空包装容器内の前記電子デバイスを前記樹脂シートで封止する工程とを含む電子デバイスパッケージの製造方法に使用される請求項1?4のいずれかに記載の樹脂シート。
【請求項6】
前記電子デバイスがSAWフィルタである請求項1?5のいずれかに記載の樹脂シート。
【請求項7】
直径25mmのプローブを用いて測定された25℃のプローブタックが5g?500gである樹脂シート(ただし、前記樹脂シートがポリイソブチレン樹脂を含む場合を除く)で電子デバイスを封止する工程を含み、
前記電子デバイスを封止する工程は、軟化させた前記樹脂シートで前記電子デバイスを覆うステップを含み、
前記樹脂シートは無機充填剤を含み、前記樹脂シート中の前記無機充填剤の含有量が60?90体積%であり、
前記樹脂シートはエポキシ樹脂をさらに含み、前記エポキシ樹脂の軟化点が100℃以下である、
電子デバイスパッケージの製造方法。
【請求項8】
基板に実装された前記電子デバイスの上に前記樹脂シートを配置する工程と、
前記基板に実装された前記電子デバイス及び前記電子デバイスの上に配置された前記樹脂シートを、真空包装容器に入れる工程とをさらに含み、
前記電子デバイスを封止する工程では、前記真空包装容器内の前記電子デバイスを前記樹脂シートで封止する請求項7に記載の電子デバイスパッケージの製造方法。」

3 取消理由の概要
当審において、請求項1?8に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)請求項1?7に係る発明は、甲第1号証(特開2006-19714号公報)に記載された発明と同一である、又は、甲第1号証及び甲第3号証(国際公開第2011/062167号)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1?7に係る特許は、特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)請求項8に係る発明は、甲第1号証並びに甲第3号証及び甲第4号証(国際公開第2005/071731号)に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項8に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

4 甲各号証の記載
(1)甲第1号証
甲第1号証には、「電子部品の製造方法」について、図面とともに以下の各記載がある。
なお、下線は当審で付与した。
ア.「【技術分野】
【0001】
本発明は、配線基板上に、配線基板との間に空隙を設けて対面載置した複数の配列された機能素子を、これら機能素子を覆うように配線基板上に配置されたゲル状硬化性樹脂シートを用いて、高い歩留りで、配線基板と機能素子との間を中空に保ちつつ一括樹脂封止する電子部品の製造方法に関する。
(中略)
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の現状に鑑みて、本発明は、弾性表面波デバイス等の中空モールドをゲル状硬化性樹脂シートを用いて基板上で一括樹脂封止する際に、中空部の成形性に優れ、チップ抜け基板等の場合にもボイドの発生を低減でき、上述の問題を解決できる、信頼性と生産性に優れた製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、意外にも、真空下でゲル状硬化性樹脂シートを配置した後、熱ロールによる成形を組み合わせることにより、上記不良の発生を大幅に低減できることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成した。
すなわち、本発明は、配線基板上に、上記配線基板との間に空隙を設けて対面載置した複数の配列された機能素子を、上記複数の配列された機能素子を覆うように上記配線基板上に配置されたゲル状硬化性樹脂シートを加熱硬化させて、上記配線基板と上記機能素子との間を中空に保ちつつ、一括樹脂封止する電子部品の製造方法であって、少なくとも、以下の工程(a)、(b)、(c)及び(d)を有する電子部品の製造方法である:
(a)配線基板上に上記配線基板との間に空隙を設けて対面載置した複数の配列された機能素子を覆うように、上記配線基板上にゲル状硬化性樹脂シートを配置する工程、
(b)上記複数の配列された機能素子がその内部に含まれている上記ゲル状硬化性樹脂シートと上記配線基板とで囲まれた閉空間領域を、真空にする工程、
(c)上記閉空間領域を真空に維持しつつ、熱ロールで上記ゲル状硬化性樹脂シートを硬化温度未満に加熱し流動させながら封止樹脂表面を平坦に成形する工程、及び、
(d)上記ゲル状硬化性樹脂シートを硬化温度に加熱して硬化させる工程。」

イ.「【0009】
工程(a)
本工程では配線基板上に上記配線基板との間に空隙を設けて対面載置した複数の配列された機能素子を覆うように、上記配線基板上にゲル状硬化性樹脂シートを配置する。機能素子と配線基板との間の上記空隙は、例えば、粒子状、平面状等のスペーサーを挿入したり、フリップチップ接合のためのフリップチップバンプの高さで確保する等の方法を採用することができる。(中略)
上記ゲル状硬化性樹脂シートは、上記複数の配列された機能素子をその内部に含むように、上記配線基板とで囲まれた閉空間領域を形成するように、例えば、配列された一群のチップ群全体を覆いつつ、しかも、その1群のチップ群全体の周囲の基板部分もまた覆うように、配置する。
【0010】
上記ゲル状硬化性樹脂シートは、たとえば液状または固状の硬化性組成物とゲル化剤として作用する熱可塑性樹脂パウダーとの混合物をシート化することにより製造することができる。なお、固状の硬化性組成物に対するゲル化剤というのは、加熱し、溶融する条件にした場合にもゲル状にすることができるようにするためのものである。
【0011】
上記液状または固状の硬化性組成物の具体例としては、たとえばエポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、グアナミン樹脂、ポリイミド樹脂、ビニルエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、キシレン樹脂、ケイ素樹脂などの熱硬化性樹脂を樹脂成分として含有する硬化性組成物などがあげられる。これらは1種で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらのうちでは、エポキシ樹脂組成物が、低粘度で、フィラー充填など他の機能を付与するのに適する点から好ましい。
【0012】
上記エポキシ樹脂組成物は、一般に、エポキシ樹脂、硬化剤および(または)潜在性硬化促進剤、必要により使用されるシリカ、アルミナなどのフィラー、その他の添加剤(ゲル化剤を除く)などを含有する組成物である。
(中略)
【0030】
形成された本発明に使用する上記ゲル状硬化性樹脂シートの厚さは、配線基板上にバンプで接続された機能素子、例えば、弾性表面波チップを覆い、熱ロールすることにより封止樹脂層を形成することができ、好ましくは該封止樹脂表面を平坦になるようにできる点から、上記配線基板と上記機能素子との間の間隔と上記機能素子の厚みとの和の1倍以上2倍以下の厚さ、さらには1.5倍以下であるのが、好ましい。実際の上記ゲル状硬化性樹脂シートの厚さとしては、弾性表面波チップの厚さが一般に200?400μm、バンプの高さが一般に20?80μmであるから、220?960μm、さらには220?720μmであるのが好ましい。
(中略)
【0037】
上記ゲル状硬化性樹脂シートは、低ガラス転移温度、低線膨張率であることが、硬化物を低応力化(低ソリ化)することができるので好ましく、さらに、原料を高純度化したものであることが、不純物イオンが少なく、弾性表面波チップ表面の汚染を防ぐことができるので好ましく、さらに、ゲル状硬化性樹脂シートの弾性率(25℃)が10^(3)?10^(9)Pa、さらには10^(4)?10^(8)Paで、硬化時の溶融粘度が10?10^(5)Pa・s、さらには10^(3)?10^(4)Pa・sであることが、熱ロールすることにより、封止樹脂層形成前のデバイスに弾性表面波電極面と配線パターンが形成された面とがバンプの高さのぶん隔てられた部分が中空構造を保つように封止樹脂層を形成するうえで好ましい。また、軟化温度は、50℃以上、好ましくは60℃以上、より好ましくは80℃以上である。
【0038】
上述のように、上記ゲル状硬化性樹脂シートにおいては、低ガラス転移温度であるか、及び/又は、低線膨張率であることが、硬化物を低応力化(低ソリ化)するうえで好ましい。低ガラス転移温度としては、ゲル状硬化性樹脂シートの硬化物のTgが100℃以下が好ましく、さらには60℃以下であることがより好ましい。また低ソリ化・流動性調整・電子部品の高信頼化等のために低熱膨張率を得るためには、ゲル状硬化性樹脂シートは無機フィラー(例えば溶融シリカなど)を好ましくは50重量%以上、より好ましくは75重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上含有している。フィラーを高充填したシートの場合は、熱膨張率が低くなり低ソリ化できるので、信頼性を考慮するとTgは高い方が好ましく、例えば100℃以上が好ましく、より好ましくは150℃以上であるが、これに限定されるものではなく、用途に応じて調整可能である。」

ウ.「【0042】
工程(b)
本工程では、上記複数の配列された機能素子がその内部に含まれている上記ゲル状硬化性樹脂シートと上記配線基板とで囲まれた閉空間領域を真空にする。上記閉空間領域を真空にするためには、例えば、上記工程(a)を真空中で行って上記閉空間領域の真空を達成すればよい。上記工程(a)を真空中で行うには、例えば、真空プレス等の真空隔室を形成することができる装置を利用して真空下で予め樹脂シートを、タックが生じる程度の温度、例えば、50℃程度で、低圧プレスして樹脂シートを基板と素子に密着させる。なお、真空の程度は、通常、真空プレス等で達成される程度の真空度であってよく、例えば、1.0?0.01Toor、であってよい。真空隔室を形成するには、例えば、真空チェンバー、可動式真空枠等を利用することができる。
【0043】
さらには、上記工程(a)を大気圧下で行った後であって上記工程(c)の前に、又は、上記工程(a)を大気圧下で行いつつ、上記ゲル状硬化性樹脂シートと上記配線基板とで囲われた上記閉空間領域から吸気することにより、真空ラミネートを行い、上記閉空間領域の真空を達成してもよい。上記真空ラミネートを行うには、例えば、ラミネーターを用いて隔壁ラバーシートを介して大気圧で均一加圧しつつ排気を行ってもよく、また、該当する場合は基板に設けた孔から排気して行ってもよい。
なお、本発明においては、上記閉空間領域の真空を達成する方法にはなんら限定はなく、いかなる可能を方法を採用することも可能であり、ここに記載した方法は例示に過ぎない。また、上記工程(a)と工程(b)は、上述のように、一体的に操作してもよく、または、個別的に操作してもよい。」

エ.「【0044】
工程(c)
本工程では上記閉空間領域を真空に維持しつつ、熱ロールで上記ゲル状硬化性樹脂シートを硬化温度未満に加熱し流動させながら封止樹脂表面を平坦に成形する。これを実行するには、例えば、上記工程(a)を真空中で行った場合には、上記閉空間領域の真空を達成することにより上記工程(b)をも一体的に操作し、そして、そのまま、真空中で工程(c)を行うか、又は、上記工程(b)をも一体的に操作した後、一旦、系を真空から解放し、しかしながら、上記閉空間領域の真空を維持しつつ、工程(c)を行ってもよい。後者の場合、上記ゲル状硬化性樹脂シートのタック性を利用して閉空間領域の密閉を維持することができる。または、上記工程(a)と工程(b)とを別個に操作した後、本工程を行う。一般には、本工程を大気圧中で行う方法が、熱ロールをかける操作が容易であるので好ましい。
【0045】
上記熱ロールは、ゲル状硬化性樹脂シートの軟化点以上、硬化温度未満の範囲で、好ましくは60?250℃、さらには60?180℃の温度で行なわれるのがより好ましく、80?120℃がさらに好ましい。熱ロール温度がゲル状硬化性樹脂シートの軟化点未満の場合、流動性が不足し、封止樹脂の未充填をおこしたり、チップが破損したりしやすくなり、250℃をこえる場合、封止樹脂が硬化の際に発泡をおこしやすくなる。」

オ.「【0048】
工程(d)
本工程では上記ゲル状硬化性樹脂シートを硬化温度に加熱して硬化させる。上記加熱硬化方法としては特に限定されず、例えば、オーブン等で加熱して行うことができる。
【0049】
配線パターンが形成された基板上に弾性表面波チップが実装され、上記基板の配線パターンが形成された面と上記弾性表面波チップの弾性表面波電極が形成された電極面とが対面して配置され、上記弾性表面波電極と上記配線パターンとがバンプで接続されており、かつ、弾性表面波電極面と配線パターンが形成された面とがバンプの高さのぶん隔てられており、上記弾性表面波チップの電極面と反対側の面から上記基板表面にかけてゲル状硬化性樹脂シートから形成された保護層で、弾性表面波電極面と配線パターンが形成された面とがバンプの高さのぶん隔てられた部分が中空構造を保つように覆われている弾性表面波デバイスを製造する場合は、本発明に従い、例えば、以下のように行うことができる。すなわち、まず、ゲル状硬化性樹脂シートを、上記弾性表面波チップが実装された基板に真空下にてゲル状硬化性樹脂シートで覆われた部分が真空を保つように貼付け、その後に、弾性表面波チップと基板の間を中空構造を保つように熱ロールを用いて樹脂を流動させることにより、保護層の表面が実質的にフラットになるように成形する。」

カ.「【0051】
実施例1?5及び比較例1?2
表1の配合でワニスを作成し、このワニスを、離型処理された75μm厚さのPETフィルムの離型処理された面に塗布して乾燥後、樹脂層が300μm厚になるように調整し、PETフィルム上にゲル状エポキシ樹脂シート(軟化点50℃)を形成した。」

キ.「【0054】
実施例1では、配合1で得られたシートをデバイスに真空ラミネーター(25℃、5秒間、シートタックを利用してシート外周部を基板に貼付け)で真空ラミネートした。実施例2では、配合1で得られたシートをのたせデバイスを、50℃、10秒間、0.1MPaで真空プレスしてプリフォームした。比較例では、いずれも、配合1で得られたシートをデバイスにのせたものをそのまま熱プレス又は熱ロールにかけた。実施例、比較例とも、熱ロールは、上ロール(100℃、ゴムロール)、下ロール(25℃、金属ロール)の間を0.77mmに設定し、0.3m/分の速度で行った。この後、それぞれのサンプルを、150℃、3時間、オーブン硬化した。また、比較例の熱プレスは、150℃で5分間、0.1MPaで行い、硬化させた。
【0055】
実施例3?5では、配合2及び配合3(実施例3)、配合2及び配合4(実施例4)又は配合3及び配合4(実施例5)を、それぞれ、1枚ずつ2枚をラミネートした。上記実施例3?5でシートを2枚積層する方法としては、加熱することが可能な2本のローラーを備えたラミネーター(自社製)を用いて行った。ラミネートする温度は100℃で行った。
【0056】
なお、表1中の略号は以下のとおりである。
LSAC6006:旭化成エポキシ(株)製、変性(プロピレンオキサイド付加)エポキシ樹脂、エポキシ当量250g/eq
DAL-BPFD:本州化学工業(株)製、ジアリルビスフェノールF
HX3088:旭化成エポキシ(株)製、変性イミダゾール、活性温度約80℃
F301:日本ゼオン(株)製、アクリルパウダー、粒径2μm、軟化温度80?100℃のポリメチルメタクリレート
FB201S:電気化学工業(株)製、充填用シリカ
A187:日本ユニカー(株)製、エポキシシラン
IXE600:東亞合成(株)製、ビスマスアンチモン、イオンキャッチャー
RY200:日本アエロジル(株)製、微粉シリカ、揺変性発現剤
RE304S:日本化薬(株)製、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量170g/eq
ELM100:住友化学(株)製、アミノエポキシ樹脂、エポキシ当量105g/eq
EPPN-502H:日本化薬(株)、多官能エポキシ樹脂、エポキシ当量170g/eq
MEH7500:明和化成(株)、多官能フェノール、フェノール当量105g/eq
2P4MHZ:四国化成工業(株)、変性イミダゾール」
【0057】
【表1】



ク.「【0059】
【表2】



上記ア.?ク.の記載及び当業者の技術常識を考慮すると、
a 上記ク.の実施例3では、配合2+配合3が用いられている。配合2では、変性エポキシ樹脂であるLSAC6006が含まれ、配合3では、ビスフェノールF型エポキシ樹脂であるRE304Sが含まれているから、実施例3は、エポキシ樹脂を含むといえる。

b 上記キ.の表1記載の無機フィラー含有量(%)は、上記イ.の【0038】の記載から見て、重量%と解される。そうすると、実施例3の配合2+配合3における無機フィラー含有量は、75重量%である。

c 上記キ.の表1によれば、配合2で形成したシートの軟化点温度は50℃であって、配合3で形成したシートの軟化点温度は60℃であり、実施例3のシートは、配合2で形成したシートと配合3で形成したシートを2枚積層したものである。そうすると、60℃では、実施例3のシートを構成する2枚のシートがいずれも軟化するから、実施例3のシート全体でみれば、軟化点は60℃といえる。

d 甲第1号証の明細書には、ポリイソブチレン樹脂は記載されていない。

以上によれば、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。
「弾性表面波デバイスを封止するためのゲル状硬化性樹脂シートであって、
無機フィラーを含み、
前記ゲル状硬化性樹脂シート中の前記無機フィラーの含有量が75重量%であり、
エポキシ樹脂をさらに含み、
ゲル状硬化性樹脂シートの軟化点が60℃である、ゲル状硬化性樹脂シート(ただし、前記ゲル状硬化性樹脂シートがポリイソブチレン樹脂を含む場合を除く)。」

(2)甲第3号証
ア.「[0094]<取り扱い性の評価>
テスター産業社製、恒温槽付きプローブタックテスター(TE-6002)にてタック力を測定した。25℃恒温槽内に静置した樹脂組成物シートに、SUS製5mmφ円柱状プローブを、コンタクト速度0.5cm/秒で接触させ、100g/cm^(2)の荷重下で、1秒間保持後に、プローブを0.5cm/秒で引き離すときの荷重を測定した。測定は一つのサンプルにつき3回行い、各測定におけるタック力の平均値を求めた。タック力が0.5N/cm^(2)未満を◎(良)、0.5N/cm^(2)以上12N/cm^(2)未満を○(可)、12N/cm^(2)以上を×(不可)とした。」

イ.「[0113]



上記ア.には、電子部品の封止樹脂に用いる樹脂組成物シートにおいて、良好な取り扱い性を確保するために、シートのタック力を抑制して、25℃のタック力を0.5N/cm^(2)未満を良とすることが記載されている。
なお、上記ア.には、タック力を5mm直径プローブで測定したことが、上記イ.の表1には取り扱い性の評価結果として、実施例5,6が0.1N/cm^(2)、実施例7,8,11が0.2N/cm^(2)、実施例10が0.3N/cm^(2)であったことがそれぞれ記載されている。
ここで、9.8N=1kgf=1000gfなので、
・0.1[N/cm^(2)]は、
0.1[N/cm^(2)]×(1000/9.8)[gf/N]≒10.2gf/cm^(2)
直径25mmのプローブでの測定に換算すると、面積は、π×(25/2)^(2)≒490mm^(2)=4.9cm^(2)であるから、10.2gf/cm^(2)×4.9cm^(2)≒50gf
・0.2[N/cm^(2)]は、
0.1[N/cm^(2)]の2倍であるから、50gf×2=100gf
・0.3[N/cm^(2)]は、
0.1[N/cm^(2)]の3倍であるから、50gf×3=150gf
よって、甲第3号証には、「取り扱い性評価のタック力として、25mm直径プローブを用いて測定した場合に換算すると、50gfと100gfと150gfの25℃におけるプローブタック」が開示されている。

(3)甲第4号証
ア.「[0038] 次に、本実施の形態にかかる弾性表面波装置(電子部品)の製造方法を、図1(a)ないし(e)、並びに図2ないし図4に基づき説明する。まず、上記製造方法は、実装工程と、配置工程と、真空(減圧)パック工程と、封止工程と、分割工程とを少なくとも有し、この順にて実施する方法である。
[0039] まず、上記製造方法においては、圧電基板2a上に振動部分2bや電極パッド(図示せず)や上記両者を電気的に接続する配線パターンを、導電性金属、例えばアルミニウムを用いたリソグラフィー法により形成してSAW素子2を得る工程が、前工程として設けられている。
[0040] 上記前工程の次に、実装工程が行われる。実装工程は、図1(a)に示すように、外部端子1c(図2参照)を有する実装集合基板11上に、複数のSAW素子2をフリップチップボンディングする工程である。この工程では、例えば、10cm×10cmの実装集合基板11上に、SAW素子2のチップサイズにもよるが、数百から数千個の各SAW素子2が、碁盤の目状に実装されている。実装されて互いに隣り合う各SAW素子2の間隔は、本実施の形態では、狭いところで300μm、広いところで800μmくらいに設定されている。この間隔は、必要に応じて変更可能である。
[0041] 次に、配置工程において、実装集合基板11に実装された各SAW素子2上に樹脂フィルム12を配置する。樹脂フィルム12の厚みは、本実施の形態においては、250μmに設定されている。
[0042] 次に、真空パック工程において、実装集合基板11と実装された各SAW素子2と樹脂フィルム12とを、真空パック用の袋13に入れ、袋13の中を減圧下、例えば 500Pa以下、にて脱気し、ヒートシールにて密封する。上記袋13の形状としては、一端部に 開口部を形成した略長方形袋状のものが挙げられ、その袋13の厚みは80μm程度である。」

イ.「



上記ア.には、弾性表面波装置(電子部品)の製造方法として、上記イ.の図1(a)ないし(e)に示されるように、実装工程と、配置工程と、真空(減圧)パック工程と、封止工程と、分割工程とを少なくとも有することが記載されている。
実装工程は、上記イ.の図1(a)に示すように、実装集合基板11上に、複数のSAW素子2をフリップチップボンディングする工程で、配置工程において、実装集合基板11に実装された各SAW素子2上に樹脂フィルム12を配置し、真空パック工程において、実装集合基板11と実装された各SAW素子2と樹脂フィルム12とを、真空パック用の袋13に入れ、袋13の中を減圧下にて脱気し、ヒートシールにて密封してなる工程が開示されている。
よって、甲第4号証には、「弾性表面波装置(電子部品)の製造方法において、配置工程において、実装集合基板11に実装された各SAW素子2上に樹脂フィルム12を配置し、真空パック工程において、実装集合基板11と実装された各SAW素子2と樹脂フィルム12とを、真空パック用の袋13に入れ、袋13の中を減圧下にて脱気する工程」が記載されているといえる。

5 当審の判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由(特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項)について
(ア)請求項1に係る発明について
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)と甲1発明を対比する。
甲1発明の「弾性表面波デバイス」、「ゲル状硬化性樹脂シート」は、本願発明1の「電子デバイス」、「樹脂シート」に、それぞれ相当する。
「フィラー」は充填剤のことであるから、甲1発明の「無機フィラー」は、本願発明1の「無機充填剤」に相当する。

以上を踏まえると、本願発明1と甲1発明とは、
「電子デバイスを封止するための樹脂シートであって、
無機充填剤を含み、
エポキシ樹脂をさらに含む樹脂シート(ただし、前記樹脂シートがポリイソブチレン樹脂を含む場合を除く)。」
である点で一致し、次の点で一応相違する。

(相違点1)
樹脂シート中の無機充填剤の含有量が、本願発明1では、「60?90体積%」であるのに対し、甲1発明では、「75重量%」である点。

(相違点2)
本願発明1では、「エポキシ樹脂の軟化点が100℃以下であ」るのに対し、甲1発明では、「ゲル状硬化性樹脂シートの軟化点が60℃」である点。

(相違点3)
本願発明1では、「直径25mmのプローブを用いて測定された25℃のプローブタックが5g?500gであ」るのに対して、甲1発明においては、そのような特定がなされていない点。

そこで、上記各相違点について検討する。

(相違点1について)
本願明細書の【0052】?【0053】の記載によれば、無機充填剤がシリカなら、本願発明1の「60?90体積%」は「74?94重量%」のことである。甲1発明のFB201Sは充填用シリカである。そうすると、甲1発明の75重量%は、当該74?94重量%の範囲内であるから、甲1発明の「75重量%」は、「60?90体積%」の範囲内である蓋然性が高い。
また、本願明細書の【0113】記載の表1等をみても、無機充填剤の含有量が60?90体積%の範囲において顕著な効果を奏するともいえないから、甲1発明の無機充填剤の含有量を60?90体積%とすることは、当業者が容易になし得る。

(相違点2について)
甲1発明のゲル状硬化性樹脂シートはエポキシ樹脂を含み、該ゲル状硬化性樹脂シートの軟化点が60℃であるから、該ゲル状硬化性樹脂シートに含まれる該エポキシ樹脂の軟化点は100℃以下である蓋然性が高い。
また、本願明細書の【0010】、【0027】等をみても、エポキシ樹脂の軟化点が100℃以下の範囲において顕著な効果を奏するともいえないから、甲1発明のエポキシ樹脂の軟化点を100℃以下とすることは、当業者が容易になし得る。

(相違点3について)
取消理由通知で示したとおり、甲第3号証に電子デバイス封止用の樹脂シートのタック力が、25℃のプローブタックが5g?500gの範囲内であることは当該技術分野において通常のことといえる。
しかしながら、甲第1号証には、段落42に樹脂シートを基板と素子に密着させる際の50℃が、タックが生じる温度であることは記載されているものの、25℃のプローブタックは記載されていない。また、上記甲1発明の樹脂シートと、上記甲第3号証に記載された樹脂シートとは、樹脂シートを構成する材料が異なるから、上記甲1発明の樹脂シートの25℃のプローブタックを5g?500gの範囲内とすることを、当業者が容易になし得るとまではいえない。

したがって、請求項1に係る発明は、上記甲1発明と同一ではなく、甲第1号証及び甲第3号証に記載された技術的事項から、当業者が容易に想到し得るものでもない。

(イ)請求項2?6に係る発明について
請求項2?6に係る発明は、請求項1に係る発明に対し、さらに各請求項の記載で限定する技術的事項を追加したものである。
そうすると、上記(ア)と同様の理由により、請求項2?6に係る発明は、上記甲1発明と同一ではなく、甲第1号証及び甲第3号証に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得るものでもない。

(ウ)請求項7に係る発明について
請求項7に係る発明は、電子デバイスパッケージの製造方法であるが、少なくとも、請求項1で限定する樹脂シートを用いている。
そうすると、上記(ア)と同様の理由により、請求項7に係る発明は、上記甲1発明と同一ではなく、甲第1号証及び甲第3号証に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得るものでもない。

(エ)請求項8に係る発明について
請求項8に係る発明は、請求項7に係る発明に対し、さらに複数の工程を限定している。
甲第4号証には、弾性表面波装置(電子部品)の製造方法において、配置工程において、実装集合基板11に実装された各SAW素子2上に樹脂フィルム12を配置し、真空パック工程において、実装集合基板11と実装された各SAW素子2と樹脂フィルム12とを、真空パック用の袋13に入れ、袋13の中を減圧下にて脱気する工程が記載されているが、上記(ア)の相違点3に関することは記載されていない。
そうすると、上記(ウ)と同様の理由により、請求項8に係る発明は、上記甲1発明と同一ではなく、甲第1号証並びに甲第3号証及び甲第4号証に記載された技術的事項から当業者が容易に想到し得るものでもない。

(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人は、特許異議申立書の3(4)ウ(ア)において、上記(1)(ア)の相違点3について、甲第3号証とともに甲第2号証(特開2009-246302号公報)を提示して、甲1発明において、樹脂シートを基板およびデバイスに密着させる際のタック力として、甲第2号証に記載のタック力を採用することに特段の阻害要因は認められず、本願発明1は容易に発明をすることができたものであると主張している。
樹脂シートの用途が異なると、必要とされるタック力が異なるから、同じ用途の樹脂シートの中から所望のタック力を有する樹脂シートを選ぶことが、樹脂シートの一般的な選択手法である。また、樹脂シートを構成する材料が異なれば、タック力も異なる。
甲第2号証には、ダイソートテープは半導体チップの保管および搬送に用いることだけが例示されていて、他の用途に適用できることは記載も示唆もなく、甲1発明と甲第2号証に例示されたダイソートテープとは、材料が異なる。
そうすると、甲1発明と甲第2号証に記載されたダイソートテープとは、用途及び材料が異なっているから、甲第2号証に記載されたダイソートテープのタック力を、甲1発明のタック力として採用することに動機付けがあるとはいえない。
したがって、甲第2号証に記載された技術事項から甲1発明のタック力を本願発明のように構成することは、当業者が容易になし得るとはいえず、かかる主張には理由がない。

6 むすび
したがって、請求項1?8に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-10-15 
出願番号 特願2015-170805(P2015-170805)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H03H)
P 1 651・ 113- Y (H03H)
最終処分 維持  
前審関与審査官 橋本 和志  
特許庁審判長 北岡 浩
特許庁審判官 宮下 誠
中野 浩昌
登録日 2017-11-02 
登録番号 特許第6234410号(P6234410)
権利者 日東電工株式会社
発明の名称 電子デバイス封止用樹脂シート及び電子デバイスパッケージの製造方法  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  

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