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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B32B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B32B
管理番号 1345891
異議申立番号 異議2018-700573  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-07-13 
確定日 2018-11-08 
異議申立件数
事件の表示 特許第6267468号発明「ポリオレフィン系積層シート及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6267468号の請求項1?4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6267468号(以下「本件特許」という。)の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成25年9月24日の出願であって、平成30年1月5日にその特許権の設定登録がされ(特許掲載公報発行 平成30年1月24日)、その後、その特許について、平成30年7月13日に特許異議申立人丸林敬子(以下「申立人1」という。)により、また、平成30年7月24日に特許異議申立人大槻玲奈(以下「申立人2」という。)により、それぞれ特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1?4に係る発明(以下「本件発明1?4」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
内層の両外側表面に接着層を介して織物層が貼り合わされた積層シートであって、
前記織物層は、芯成分がポリプロピレン、鞘成分が前記芯成分より低融点のポリオレフィン成分からなる芯鞘複合繊維を含む糸で構成され、
前記織物層のいずれか一方の表層に接着層を介して透明なポリプロピレン系樹脂層をさらに備え、
前記両接着層は低密度ポリエチレン熱融着フィルムであり、
前記内層は厚さ0.1?2mmの非発泡ポリプロピレン系シートであり、
前記積層シートは熱可塑性であり、全体の厚さは0.5?5mmであり、真空成形、プレス成形又は熱変形を利用した曲げ加工成形が可能であることを特徴とするポリオレフィン系積層シート。
【請求項2】
前記内層はプロピレン-エチレンランダムコポリマーである請求項1に記載のポリオレフィン系積層シート。
【請求項3】
前記芯鞘複合繊維の芯成分がホモポリマーのポリプロピレンであり、鞘成分がプロピレン-エチレンランダムコポリマー又はポリプロピレンとポリエチレンのブレンド物である請求項1又は2に記載のポリオレフィン系積層シート。
【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載のポリオレフィン系積層シートの製造方法であって、
内層と、その両表面に接着用の低密度ポリエチレン熱融着フィルムと、その両表面に繊維織物層と、前記織物層のいずれか一方の表層に低密度ポリエチレン熱融着フィルムを介して透明なポリプロピレン系樹脂層を配置して加熱加圧し、次いで冷却することを特徴とするポリオレフィン系積層シートの製造方法。」

第3 申立理由の概要
1.申立人1の申立理由
申立人1は、甲第1号証?甲第6号証(以下「甲1」?「甲6」という。)を提出し、以下の理由を申立てている。
(1)本件発明1?4は、甲1に記載された発明、甲2?甲5に記載された技術的事項及び甲6に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反するものであるから、その特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
甲1:特開平10-86301号公報
甲2:特開2011-121308号公報
甲3:特開2012-6217号公報
甲4:特開2006-1035号公報
甲5:特開2012-76347号公報
甲6:特開2009-233904号公報

(2)本件発明1?4は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであるから、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するものであり、その特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

2.申立人2の申立理由
申立人2は、甲第1号証?甲第7号証(以下「甲1’」?「甲7’」という。)を提出し、以下の理由を申立てている。
本件発明1?4は、甲1’に記載された発明及び甲2’?甲7’に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反するものであるから、その特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
甲1’:特開2006-1035号公報
甲2’:特開2012-72633号公報
甲3’:特開2002-254469号公報
甲4’:再公表特許WO2012/035955
甲5’:特開2008-265085号公報
甲6’:特開2000-326443号公報
甲7’:特表2007-528304号公報

第4 当審の判断
1.特許法第29条第2項に係る申立理由に対して
(1)申立人1の甲1を主たる引用例とする理由について
ア.甲1に記載された発明
甲1には、特に【請求項1】、【0008】及び【0016】の記載からみて、以下の「甲1発明」が記載されている。
「基材層(A)、接着層(B)、着色層(C)、及び透明層(D)が順次積層されてなる加飾シートであって、
基材層(A)がポリオレフィン系樹脂よりなる厚さ100μm?1mmの層であり、
接着層(B)が塩素含有率15重量%?40重量%の塩素化ポリオレフィン系樹脂よりなる厚さ0.5?20μmの層であり、
着色層(C)がアクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、またはウレタン系樹脂のいずれか1種類、またはその2種類以上の混合物またはフッ素系樹脂とアクリル系樹脂との混合物および着色顔料を含む厚さ5?50μmの層であり、
透明層(D)が塩素含有率が15重量%?40重量%の塩素化ポリオレフィン系樹脂よりなる厚さ5?60μmの層であることを特徴とする加飾シート。」

イ.本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、
本件発明1は「内層の両外側表面に接着層を介して織物層が貼り合わされた積層シート」であって、「前記織物層は、芯成分がポリプロピレン、鞘成分が前記芯成分より低融点のポリオレフィン成分からなる芯鞘複合繊維を含む糸で構成」されるのに対し、
甲1発明は「基材層(A)、接着層(B)、着色層(C)、及び透明層(D)が順次積層されてなる加飾シート」であって、「着色層(C)がアクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、またはウレタン系樹脂のいずれか1種類、またはその2種類以上の混合物またはフッ素系樹脂とアクリル系樹脂との混合物および着色顔料を含む厚さ5?50μmの層」である点、
で少なくとも相違する。
(イ)この相違点について検討する。
甲1発明に係る「加飾シート」は、甲1の記載によれば、「OA機器、家電製品、自動車部品、表示板等に用いられる樹脂成形品」(【0001】)について、「射出成形の雌雄金型間に支持体シート上に絵柄等の転写層を設けてなる転写シートを挿入して、型締めし、しかる後に溶融樹脂を射出し、射出樹脂の熱と圧力によって転写シートを金型形状に成形すると同時に射出樹脂と一体化し、冷却、型開きの後、転写シートの支持体シートのみを剥離して表面を加飾する」(【0002】)ものであり、甲1発明の「加飾シート」は、「加飾」のため、「着色顔料」を含む「着色層」を備えるものである。このことからすると、甲1発明の「加飾シート」において、「着色顔料」を含む「着色層」は必須の構成であり、そのような「着色層」に換えて、織物層を用いて「加飾シート」を構成しようとする動機付けがない。しかも、甲1には、加飾シートの着色層に織物を用い得ることの示唆もない。
この点、申立人1は、甲1発明の「着色層」の代わりに、甲2に記載の織物層を設け、この織物層を、甲4に記載の「芯成分がポリプロピレン、鞘成分が前記芯成分より低融点のポリオレフィン成分からなる芯鞘複合繊維を含む糸」で構成することは、当業者が容易に想到できる旨主張する。(申立人1の特許異議申立書15頁6?11行)
たしかに、甲2には、布などからなる加飾部材を、ホットメルト接着材層により樹脂基材層や金属基材層に貼り合わせて、加飾することが記載されているものの、この布などからなる加飾部材が、「芯成分がポリプロピレン、鞘成分が前記芯成分より低融点のポリオレフィン成分からなる芯鞘複合繊維を含む糸」で構成されることを示唆する記載はなく、甲1発明の「着色層」の代わりに、甲2に記載の織物層を設け、この織物層を、甲4に記載の芯鞘複合繊維を含む糸で構成することまでは、当業者が容易に想到できたものとはいえない。
そして、甲3?甲6には、甲1発明の「加飾シート」の「着色層」に換えて、織物層を用いることを示唆する記載はない。
(ウ)よって、本件発明1は、甲1発明、甲2?甲5に記載された技術的事項及び甲6に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ.本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1の発明特定事項を、直接又は間接的にすべて含むものであるところ、上記イ.のとおり、本件発明1は、甲1発明、甲2?甲5に記載された技術的事項及び甲6に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の発明特定事項をすべて含む本件発明2?4も、甲1発明、甲2?甲5に記載された技術的事項及び甲6に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ.申立人1の甲1を主たる引用例とする理由についてのまとめ
以上より、本件発明1?4は、甲1発明、甲2?甲5に記載された技術的事項及び甲6に記載された周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反するものではないから、本件発明1?4に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消すべきものではない。

(2)申立人2の甲1’を主たる引用例とする理由について
ア.甲1’に記載された発明
甲1’には、特に【0024】の記載からみて、以下の「甲1’発明」が記載されている。
「ポリプロピレン樹脂を芯材11とし、芯材11よりも融点の低いポリプロピレン樹脂を鞘材12とした鞘芯構造のポリプロピレン繊維を使用して得られた織布1が、ポリプロピレン樹脂製ハニカムコアや発泡板等のコア材2に熱溶着により積層された、積層板10。」

イ.本件発明1について
(ア)本件発明1と甲1’発明とを対比すると、
本件発明1が「内層の両外側表面に低密度ポリエチレン熱融着フィルムである接着層を介して織物層が貼り合わされた積層シート」であるのに対し、
甲1’発明は「織布1が、ポリプロピレン樹脂製ハニカムコアや発泡板等のコア材2に熱溶着により積層された、積層板10」である点、
で少なくとも相違する。
(イ)この相違点について検討する。
本件発明1は、接着層を介して内層に織物層を貼り合わせるものであるのに対し、甲1’発明は、接着層を介するものとは特定されていない。
むしろ、甲1’には、「(ア)シートと板との間に低融点且つ接着性の良好なフィルムを挿入して熱溶着する」(【0006】)場合、「接着性は良好であるものの、フィルムを挿入することにより、重量が嵩むことや、コストアップになる」(【0007】)ことから、甲1’発明の「ポリプロピレン樹脂を芯材11とし、芯材11よりも融点の低いポリプロピレン樹脂を鞘材12とした鞘芯構造のポリプロピレン繊維を使用して得られた織布1」を、「平織布を加熱ロールにて鞘成分を溶融させ」て、「コア材の表裏に加熱しながら貼り合わせ」て、積層板10を得た旨(【0023】)記載されており、甲1’発明の「積層板10」は、織布1とコア材2の間に接着層を設けないことに特徴を有するものといえる。そのため、そのような甲1’発明の「積層板10」に、織布1とコア材2を接着するために、あえて「低密度ポリエチレン熱融着フィルム」からなる接着層を設ける動機付けがない。
この点、申立人2は、本件発明1において、「芯鞘複合繊維」と共に、甲1’で用いていない低融点熱接着フィルムを使用したことによる顕著な効果あるいは異質な効果が立証されているわけではなく、このことに格別困難性はない旨主張する。(申立人2の特許異議申立書4頁9?13行)
しかし、本件特許明細書の【0008】に記載されるように、本件発明1は、「織物層は熱融着ポリオレフィン系フィルムを介して内層に接着」することにより、「後に加熱して成形しても織物を構成する繊維の収縮はなく、織物の美しい織柄がそのまま積層シートの表面に現れる成形体とすることができる」との格別な効果を奏するものであるから、申立人2がいう顕著な効果あるいは異質な効果がなく困難性がないというものではない。
そして、甲2’?甲7’にも、甲1’発明の「積層板」に、織布とコア材を接着するための接着層を設けることを示唆する記載はない。
(ウ)よって、本件発明1は、甲1’発明、甲2’?甲7’に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ.本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1の発明特定事項を、直接又は間接的にすべて含むものであるところ、上記イ.のとおり、本件発明1は、甲1’発明、甲2’?甲7’に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の発明特定事項をすべて含む本件発明2?4も、甲1’発明、甲2’?甲7’に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ.申立人2の甲1’を主たる引用例とする理由についてのまとめ
以上より、本件発明1?4は、甲1’発明、甲2’?甲7’に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反するものではないから、本件発明1?4に係る特許は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消すべきものではない。

2.特許法第36条第6項第1号に係る申立理由に対して
(1)申立理由の概要
本件発明1は、「内層は厚さ0.1?2mmの非発泡ポリプロピレン系シートであり」との事項、及び、「積層シートは熱可塑性であり、全体の厚さは0.5?5mmであり」との事項を備えるものであるが、これらの数値範囲について、本件特許明細書には、「内層(コア層)の好ましい厚さは0.1?2mmであり、より好ましくは0.2?1.5mmである。」(【0012】)旨の記載、及び、「成形後の積層シート全体の厚みは0.5?5mmが好ましい。連続的方法は大量生産に好ましい。」(【0018】)旨の記載があるのみであり、これらの構成要件が本件特許発明の効果にどのような影響を及ぼすのか不明である。
更に、本件特許明細書の実施例には、本件発明1の要件を満たすものとして、内層の厚さが500μm、全体の厚さが不明の実施例3が記載されているのみで、その評価結果をみても、本件発明1の要件を満たさない参考例(実施例1及び実施例2)に対する実施例3の優位性が認められない。
そのため、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、これらの数値範囲内であれば課題を解決できると当業者が認識できる程度に、具体例又は説明がされていないため、本件発明1の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

(2)判断
ア.本件特許明細書には、以下の記載がある。
「【背景技術】
【0002】
従来から、炭素繊維やアラミド繊維などの強化繊維織物を複数枚積層したり、発泡体シートなどと一体化した積層体は知られている。・・・・」
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の積層体は炭素繊維、アラミド繊維又は中空状芯体などの高価な材料を使用しており、コストが高いという問題があった。
【0005】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、層間剥離がなく、軽量であり、曲げに対する物理的強度も高く、コストも安価なポリオレフィン系積層シート及びその製造方法を提供する。」
「【発明の効果】
【0008】
本発明は、積層シートを構成する内層、接着層及び織物層がいずれもオレフィン系樹脂であるため、コストを安価にすると同時に、層間剥離がなく、軽量であり、曲げに対する物理的強度も高い積層シートを提供できる。また、この積層シートは熱可塑性であり、真空成形、プレス成形、熱変形を利用した曲げ加工成形等に好適で、安価な成形体とすることもできる。さらに、織物層は熱融着ポリオレフィン系フィルムを介して内層に接着しているため、後に加熱して成形しても織物を構成する繊維の収縮はなく、織物の美しい織柄がそのまま積層シートの表面に現れる成形体とすることができる。本発明の製造方法は、効率よく合理的に本発明の積層シートを製造できる。」
「【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の積層シートは、内層(コア層)の両表面に接着層を介して織物層が貼り合わされた積層シートである。・・・・
【0011】
内層(コア層)は非発泡ポリプロピレン系シートを使用するのが好ましい。・・・・
【0012】
・・・・内層(コア層)の好ましい厚さは0.1?2mmであり、より好ましくは0.2?1.5mmである。
【0013】
芯鞘複合繊維の芯成分がホモポリマーのポリプロピレンであり、鞘成分がプロピレン-エチレンランダムコポリマー(RPP)又はポリプロピレンとポリエチレンのブレンド物であるのが好ましい。これによりさらに加熱接着しやすくなる。
【0014】
熱融着ポリオレフィン系フィルムは低密度ポリエチレン(LLDPE)であるのが好ましい。LLDPEは熱加工性、接着性、透明性に優れる。
・・・・
【0016】
本発明の積層シートは、織物層のいずれか一方の表層に接着層を介してポリプロピレン系樹脂層をさらに備えても良い。このようにするとポリプロピレン系樹脂層で覆われた板状体のシートとすることができ、成形体としての応用範囲も広くなる。
・・・・
【0018】
本発明の積層シートの製造方法は、内層と、その両表面に接着用フィルムと、その両表面に織物層を配置して加熱加圧し、次いで冷却する。一例として、内層と、その両表面に接着用フィルムと、その両表面に織物層を配置して連続的に熱プレスし、引き続き連続的に冷却し、積層シートを連続的に製造する。・・・・成形後の積層シート全体の厚みは0.5?5mmが好ましい。連続的方法は大量生産に好ましい。」

イ.発明の詳細な説明の上記記載から、本件発明は、積層シートを構成する内層、接着層及び織物層をいずれもオレフィン系樹脂の熱可塑性の材料で構成することにより、コストを安価にすると同時に、層間剥離がなく、軽量であり、曲げに対する物理的強度も高い積層シートを提供でき、さらに、織物層を熱融着ポリオレフィン系フィルムを介して内層に接着することにより、後に加熱して成形しても織物を構成する繊維の収縮がなく、織物の美しい織柄がそのまま積層シートの表面に現れる成形体とすることができるものと理解される。
そうすると、「層間剥離がなく、軽量であり、曲げに対する物理的強度も高く、コストも安価」(【0002】)との課題は、積層シートを構成する内層、接着層及び織物層をいずれもオレフィン系樹脂の熱可塑性の材料で構成し、さらに織物層を熱融着ポリオレフィン系フィルムを介して内層に接着することにより解決し得るものと認識でき、内層(コア層)や積層シート全体の厚さの数値範囲は、課題の解決にあたって、内層、接着層及び織物層からなる積層シートを後で加熱する際に成形でき、強度を確保できる程度の厚さであることが特定されていれば足りるものと、当業者であれば推認できるものである。
実際、本件発明1の「内層は厚さ0.1?2mmの非発泡ポリプロピレン系シート」及び「前記積層シートは熱可塑性であり、全体の厚さは0.5?5mm」を満たすことが明らかな、本件特許明細書の実施例1?3の積層シート(内層:500μm、織物:トータル繊度1850deci tex)により、上記課題を解決できることが確認されている
したがって、「内層は厚さ0.1?2mmの非発泡ポリプロピレン系シート」及び「前記積層シートは熱可塑性であり、全体の厚さは0.5?5mm」との事項を備える本件発明1の「積層シート」により、発明の課題を解決できることを当業者が認識できるものといえる。
また、平成29年10月25日の手続補正により、実施例1及び実施例2の態様が本件発明1の要件を満たさないものとなったが、単に、本件発明1に「前記織物層のいずれか一方の表層に接着層を介して透明なポリプロピレン系樹脂層をさらに備え」との事項を加えたため、本件発明1の権利範囲から外れただけであって、本件発明1の、積層シートを構成する内層、接着層及び織物層をいずれもオレフィン系樹脂の熱可塑性の材料で構成し、さらに織物層を熱融着ポリオレフィン系フィルムを介して内層に接着することによる効果を否定するものではない。そのため、参考例(実施例1及び実施例2)と実施例3との間で評価結果に優位性が認められないことをもって、実施例3の態様が含まれる本件発明1の「積層シート」により、発明の課題を解決できないとすることはできない。
よって、本件発明1の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できないものとはいえず、本件発明1は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではないから、本件発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものである。
また、本件発明1の発明特定事項をすべて含む本件発明2?4も、同様の理由により、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものである。

ウ.以上より、本件発明1?4は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものであるから、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するものではなく、その特許は、特許法第113条第4号に該当せず、取り消すべきものではない。

3.むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-10-29 
出願番号 特願2013-196846(P2013-196846)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (B32B)
P 1 651・ 121- Y (B32B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 岩田 行剛久保田 葵近野 光知  
特許庁審判長 千壽 哲郎
特許庁審判官 西藤 直人
井上 茂夫
登録日 2018-01-05 
登録番号 特許第6267468号(P6267468)
権利者 倉敷紡績株式会社
発明の名称 ポリオレフィン系積層シート及びその製造方法  
代理人 特許業務法人池内・佐藤アンドパートナーズ  

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