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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
管理番号 1345896
異議申立番号 異議2018-700677  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-08-14 
確定日 2018-11-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第6279610号発明「熱膨張性耐火樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6279610号の請求項〔1?4〕に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6279610号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?4に係る特許についての出願は、2015年(平成27年)8月27日(優先権主張 平成26年8月27日)を国際出願日とする出願であって、平成30年1月26日にその特許権の設定登録がされ、同年2月14日に特許掲載公報が発行された。その後、同年8月14日に特許異議申立人佐藤恭彦(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。

2 本件発明
本件特許の請求項1?4に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。(以下、請求項1?4に係る発明を、それぞれ、「本件発明1」?「本件発明4」といい、これらをまとめて、「本件発明」ともいう。)

【請求項1】
樹脂成分100重量部、熱膨張性黒鉛10?300重量部、及び無機充填剤2?200重量部を含有し、熱膨張性黒鉛の平均アスペクト比が20以上であり、
熱膨張性黒鉛の平均粒径が100?1000μmの範囲にあり、かつ平均厚さが50μm以下であり、
樹脂成分がポリ塩化ビニル及び/又は塩素化塩化ビニルを含む、
ことを特徴とする熱膨張性耐火樹脂組成物。
【請求項2】
リン化合物(燐酸エステル可塑剤を除く。)を含有しないことを特徴とする請求項1に記載の熱膨張性耐火樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の熱膨張性耐火樹脂組成物を備えた耐火部材。
【請求項4】
請求項3に記載の耐火部材を備えた建具。

3 申立理由の概要
申立人が特許異議申立書(以下、「申立書」という。)において申立てた取消理由は、概略、請求項1?4に係る発明についての本件特許は、次の取消理由(1)?(7)により、取り消されるべきものであるというものである。また、申立人は、証拠方法として、(8)の甲第1号証、甲第1号証の1?3、甲第2号証、甲第2号証の1?2、甲第3号証、甲第3号証の1?9、及び甲第4号証?甲第6号証を提出した(以下、「甲1」、「甲1の1」などという。)。

(1)取消理由(i)(甲1及び甲1の1?3に基づく新規性)
請求項1?4に係る発明は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)取消理由(ii)(甲1及び甲1の1?3に基づく進歩性)
請求項1?4に係る発明は、甲1に記載された発明、及び甲1の1?甲1の3の記載事項から当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(3)取消理由(iii)(甲2及び甲2の1?2に基づく進歩性)
請求項1、3及び4に係る発明は、甲2に記載された発明、及び甲2の1?甲2の2に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(4)取消理由(iv)(甲3、甲3の1?9、甲1、甲2、及び甲4?甲6に基づく進歩性)
請求項1?4に係る発明は、甲3に記載された発明、甲3の1?9、甲1、甲2、及び甲4?甲6に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(5)取消理由(v)(サポート要件)
請求項1?4に係る特許は、特許請求の範囲の記載に不備があるために特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
(6)取消理由(vi)(実施可能要件)
請求項1?4に係る特許は、明細書の発明の詳細な説明の記載に不備があるために特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(7)取消理由(vii)(明確性)
請求項1?4に係る特許は、特許請求の範囲の記載に不備があるために特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(8)証拠方法
甲第1号証:特許第5352017号公報
甲第1号証の1:申立人が、熱膨張性黒鉛「GREP-EG」の黒鉛片をサンプリングして長径及び厚みを測定し、アスペクト比及び平均アスペクト比を算出し、これらを掲載するために作成した表
甲第1号証の2:株式会社鈴裕化学が作成した「製品情報資料集」の「加熱膨張性黒鉛GREP-EG」(http://chemical-suzuhiro.co.jp/product/PDF/suzuhiro-c_product_jp_[GREP-EG]_2.0.pdf)
甲第1号証の3:甲第1号証の1における黒鉛片の光学顕微鏡写真(長径測定に使用)及び走査電子顕微鏡(SEM)写真(厚み測定に使用)
甲第2号証:特許第4440288号公報
甲第2号証の1:申立人が、熱膨張性黒鉛「SYZR802」の黒鉛片をサンプリングして長径及び厚みを測定し、アスペクト比及び平均アスペクト比を算出し、これらを掲載するために作成した表
甲第2号証の2:甲第2号証の1における黒鉛片の光学顕微鏡写真(長径測定に使用)及びSEM写真(厚み測定に使用)
甲第3号証:特開2014-25310号公報
甲第3号証の1:株式会社三井化学分析センターが作成した熱膨張性黒鉛「CA-60N」のアスペクト比測定の報告書
甲第3号証の2:株式会社三井化学分析センターが作成した熱膨張性黒鉛「50LTE-UN」のアスペクト比測定の報告書
甲第3号証の3:地方独立行政法人東京都立産業技術研究センターが作成した「CA-60N」の成績証明書(SEM写真)
甲第3号証の4:2018年7月17日に地方独立行政法人東京都立産業技術研究センターの佐々木亮が申立人に送った電子メールのコピーとされるもの
甲第3号証の5:甲第3号証の3を用いて、申立人が長径及び厚みを測定し、アスペクト比及び平均アスペクト比を算出し、これらを掲載するために作成した表
甲第3号証の6:申立人が、熱膨張性黒鉛「CA-60N」の黒鉛片をサンプリングして長径及び厚みを測定し、アスペクト比及び平均アスペクト比を算出し、これらを掲載するために作成した表と、上記黒鉛片の光学顕微鏡写真(長径測定に使用)及びSEM写真(厚み測定に使用)
甲第3号証の7:地方独立行政法人東京都立産業技術研究センターが作成した「50LTE-UN」の成績証明書(SEM写真)
甲第3号証の8:甲第3号証の7を用いて、申立人が長径及び厚みを測定し、アスペクト比及び平均アスペクト比を算出し、これらを掲載するために作成した表
甲第3号証の9:申立人が、熱膨張性黒鉛「50LTE-UN」の黒鉛片をサンプリングして長径及び厚みを測定し、アスペクト比及び平均アスペクト比を算出し、これらを掲載するために作成した表と、上記黒鉛片の光学顕微鏡写真(長径測定に使用)及びSEM写真(厚み測定に使用)
甲第4号証:特許第4250153号公報
甲第5号証:特許第4278564号公報
甲第6号証:特開2013-7262号公報

4 当審の判断
(1)取消理由(i)(甲1及び甲1の1?3に基づく新規性)及び取消理由(ii)(甲1及び甲1の1?3に基づく進歩性)について
ア 甲1に記載された事項及び甲1発明
(ア)甲1に記載された事項
甲1には、次のとおりの記載がある。
a 「【請求項1】
塩素化塩化ビニル樹脂100重量部、熱膨張性黒鉛3?300重量部、無機充填剤3?200重量部及び可塑剤20?200重量部からなり、リン化合物(燐酸エステル可塑剤を除く。)を含有しないことを特徴とする押出成形用塩素化塩化ビニル樹脂組成物。」

b 「【0001】
本発明は、押出成形により耐火性の成形体、特に長尺の異型成形体を製造しうる押出成形用塩素化塩化ビニル樹脂組成物に関する。」

c 「【0009】
本発明の押出成形用塩素化塩化ビニル樹脂組成物の構成は上述の通りであり、長時間安定的に押出成形することができ、特に、サッシのような断面形状が複雑な異型成形体を長時間安定的に押出成形することができ、得られた成形体は加熱されると膨張して機械的強度の大きい硬い断熱層を形成し、耐火性が優れている。」

d 「【0018】
上記熱膨張性黒鉛の粒度は、細かくなりすぎると黒鉛の膨張度が小さく、発泡性が低下し、大きくなりすぎると膨張度が大きいという点では効果があるが、樹脂と混練する際に、分散性が悪く成形性が低下し、得られた押出成形体の機械的物性が低下するので20?200メッシュのものが好ましい。」

e 「【実施例】
【0036】
次に、本発明の実施例を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
(実施例1?4、比較例1?6)
【0037】
表1に示した所定量の塩素化塩化ビニル樹脂(徳山積水社製、「HA-53K」重合度1000、塩素含有量67.3重量%、以下「CPVC-1」と言う。)、塩素化塩化ビニル樹脂(徳山積水社製「HA-53F」、重合度1000、塩素含有量64.0重量%、以下「CPVC-2」と言う。)、塩化ビニル樹脂(徳山積水社製「TS-1000R」、重合度1000、以下「PVC」と言う。)、中和処理された熱膨張性黒鉛(東ソー社製「GREP-EG」)、炭酸カルシウム(白石カルシウム社製「ホワイトンBF300」)、三酸化アンチモン(日本精鉱社製「パトックスC」)、ジイソデシルフタレート(ジェイ・プラス社製「DIDP」、以下「DIDP」と言う。)、ポリリン酸アンモニウム(クラリアントジャパン社製「AP422」)、Ca-Zn複合安定剤(水沢化学社製「NT-231」)、ステアリン酸カルシウム(堺化学社製「SC-100」)、塩素化ポリエチレン(威海金弘社製「135A」)及びポリメチルメタクリレート(三菱レーヨン社製「P-530A」)からなる配合物を一軸押出機(池貝機販社製、65mm押出機)に供給し、150℃で断面形状がE字状(底辺の幅が100mmであり、底辺の両端部及び中央からそれぞれ50mmの3本の側壁が垂設された形状であり、底辺の厚さは3.0mm、側壁の厚さは2.0mmである。)の長尺異型成形体を1m/hrの速度で2時間押出成形した。
・・・
【0042】
(膨張倍率)
得られた成形体から作製した試験片(長さ100mm、幅100mm、厚さ2.0mm)を電気炉に供給し、600℃で30分間加熱した後、試験片の厚さを測定し、(加熱後の試験片の厚さ)/(加熱前の試験片の厚さ)を膨張倍率として算出した。
【0043】
(残渣硬さ)
膨張倍率を測定した加熱後の試験片を圧縮試験機(カトーテック社製、「フィンガーフイリングテスター」)に供給し、0.25cm^(2)の圧子で0.1cm/秒の速度で圧縮し、破断点応力を測定した。尚、比較例6では残渣硬さが低すぎるため、破断応力が存在せず測定できなかった。
【0044】
(残渣の形状保持性)
上記残渣硬さは膨張後の残渣の硬さの指標となるが、測定が残渣の表面部分に限られるため、残渣全体の硬さの指標にならないことがあるので、残渣全体の硬さの指標として形状保持性を測定した。残渣の形状保持性は、膨張倍率を測定した加熱後の試験片の両端部を手で持って持ち上げて、その際の残渣の崩れやすさを目視して測定した。試験片が崩れることなく持ち上げられた場合を○と評価し、試験片を持ち上げることはできるが、一部が崩壊する場合を△と評価し、試験片が崩壊して持ち上げられない場合を×と評価した。」

f 「【表1】



(イ)甲1発明
上記(ア)e及びfによると、甲1には、以下の発明が記載されている。
「塩素化塩化ビニル樹脂である「CPVC-1」(徳山積水社製、「HA-53K」重合度1000、塩素含有量67.3重量%)100重量部、中和処理された熱膨張性黒鉛である「GREP-EG」(東ソー社製)48重量部、炭酸カルシウムである「ホワイトンBF300」(白石カルシウム社製)24重量部、ジイソデシルフタレートである「DIDP」(ジェイ・プラス社製)80重量部、Ca-Zn複合安定剤である「NT-231」(水沢化学社製)3重量部、ステアリン酸カルシウムである「SC-100」(堺化学社製)4.5重量部)、塩素化ポリエチレンである「135A」(威海金弘社製)10重量部、及びポリメチルメタクリレートである「P-530A」(三菱レーヨン社製)20重量部からなる押出成形用塩素化塩化ビニル樹脂組成物」(以下、「甲1発明」という。)

イ 本件発明1について
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「塩素化塩化ビニル樹脂である「CPVC-1」(徳山積水社製、「HA-53K」重合度1000、塩素含有量67.3重量%)」、「中和処理された熱膨張性黒鉛である「GREP-EG」(東ソ一社製)」、及び「炭酸カルシウムである「ホワイトンBF300」(白石カルシウム社製)」は、本件発明1の「樹脂成分」である「ポリ塩化ビニル及び/又は塩素化塩化ビニル」、「熱膨張性黒鉛」、及び「無機充填剤」にそれぞれ相当する。また、甲1発明は、「塩素化塩化ビニル樹脂である「CPVC-1」(徳山積水社製、「HA-53K」重合度1000、塩素含有量67.3重量%)」及び「中和処理された熱膨張性黒鉛である「GREP-EG」(東ソー社製)」を含む組成物であるから、熱膨張性樹脂組成物であるといえる。
そして、甲1発明の「塩素化塩化ビニル樹脂である「CPVC-1」(徳山積水社製、「HA-53K」重合度1000、塩素含有量67.3重量%)100重量部」、「中和処理された熱膨張性黒鉛である「GREP-EG」(東ソー社製)48重量部」、及び「炭酸カルシウムである「ホワイトンBF300」(白石カルシウム社製)24重量部」は、それぞれ、本件発明1の「樹脂成分100重量部、熱膨張性黒鉛10?300重量部、及び無機充填剤2?200重量部」の範囲と重複する。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「樹脂成分100重量部、熱膨張性黒鉛10?300重量部、及び無機充填剤2?200重量部を含有し、樹脂成分がポリ塩化ビニル及び/又は塩素化塩化ビニルを含む、熱膨張性耐火樹脂組成物」の点で一致し、次の点で相違する。

[相違点1-1]本件発明1は、「熱膨張性黒鉛の平均アスペクト比が20以上であり、熱膨張性黒鉛の平均粒径が100?1000μmの範囲にあり、かつ平均厚さが50μm以下であ」るのに対して、甲1発明は、「中和処理された熱膨張性黒鉛である「GREP-EG」(東ソー社製)」の平均アスペクト比、平均粒径、及び平均厚さが不明である点。

[相違点1-2]本件発明1は、「熱膨張性耐火樹脂組成物」であるのに対して、甲1発明は、熱膨張性樹脂組成物であって、耐火性を有するかが不明である点。

上記相違点について検討する。
相違点1-1に関して、申立人は、甲1発明における「GREP-EG」(東ソー社製)の平均アスペクト比、平均粒径、及び平均厚さを示すために、甲1の1?3を提出したが、これらにより、甲1発明の「中和処理された熱膨張性黒鉛である「GREP-EG」(東ソー社製)」の平均アスペクト比、平均粒径、及び平均厚さを説明するためには、甲1発明である甲1の実施例1で用いられた「中和処理された熱膨張性黒鉛である「GREP-EG」(東ソー社製)」と、甲1の1及び3で測定された「GREP-EG」が、単に同じ型番又は商品名であるというだけでなく、同じ粒度分布を有する同等のものである必要がある。しかしながら、申立書を見ても、甲1の1及び3で測定した「GREP-EG」が、甲1に記載された「中和処理された熱膨張性黒鉛(東ソー社製「GREP-EG」)と同等のものを測定したことについては説明(例えば、甲1の1で用いた「GREP-EG」の製造元や、製造元から入手した後の保存方法など)がない。
そうすると、申立人が、分級品毎にサンプリングした黒鉛片の長径及び厚みを、本件明細書の段落0041?0043に従って測定した甲1の1や、測定した黒鉛片の写真で測定位置を示す甲1の3を提出しても、甲1発明の「中和処理された熱膨張性黒鉛(東ソー社製「GREP-EG」)」の平均アスペクト比、平均粒径、及び平均厚さを説明したことにはならない。
したがって、甲1、及び甲1の1?3からは、本件発明1が甲1発明であると断定することはできず、相違点1-1は実質的な相違点であり、本件発明1は甲1発明であるとはいえない。

また、進歩性についても、上述のように、甲1及び甲1の1?3には、平均アスペクト比が20以上であり、平均粒径が100?1000μmの範囲にあり、かつ平均厚さが50μm以下である熱膨張性黒鉛を用いることについて記載されているとはいえず、甲1発明、甲1及び甲1の1?3に記載された事項に基づき、当業者が容易に想到し得たことではない。そして、本件発明によって奏される「得られた成形体は高い膨張性と高い残渣硬さとを有するため、耐火性に優れている」(本件特許明細書の段落0010)という効果は、甲1及び甲1の1?3に記載された事項から、当業者が予測し得たものでもない。

そうすると、相違点1-2について判断するまでもなく、本件発明1は、甲1発明ではなく、また、甲1発明及び甲1の1?3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

ウ 本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであり、上記(1)イで述べた理由と同様に、甲1発明であるとはいないし、甲1発明及び甲1の1?3に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたとすることもできない。

エ まとめ
したがって、本件発明1?4は、甲1発明ではなく、また、甲1発明及び甲1の1?3に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件発明1?4に係る特許を取り消すことはできない。

(2)取消理由(iii)(甲2及び甲2の1?2に基づく進歩性)について
ア 甲2に記載された事項及び甲2発明
(ア)甲2に記載された事項
甲2には、次のとおりの記載がある。

a 「【請求項1】
ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、膨張容積が100?250(ml/g)である熱膨張性黒鉛を1?10重量部、無機充填剤を0?10重量部の割合で含む耐火性樹脂組成物で構成され、床材に管材を貫通施工し、管材の一端部を床材の加熱側の面から加熱側に300mm露出させ、管材の他端部を床材の非加熱側の面から非加熱側に800mm露出させた状態で、床下から加熱する耐火試験(平成12年6月1日に施行された改正建築基準法に基づく防火区画等を貫通する管の性能試験の評価方法,ISO834-1に従う)を実施したときに、
燃焼前の管材の加熱側端部における管内断面積をS1、燃焼後の管材の最小内径部における管内断面積をS2とすると、
(S2/S1)×100≦50
の関係を満たすことを特徴とする建築用配管材。」

b 「【0020】
請求項1に記載の発明において、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して熱膨張性黒鉛を1?10重量部配合した理由としては、熱膨張性黒鉛が1重量部未満であると、燃焼時に、十分な熱膨張性が得られず、管内を充分に閉塞できず、管内を通じて熱気が上昇し、耐火性能が悪くなる恐れがあるからである。一方、熱膨張性黒鉛が10重量部を超えると、加熱により組織が熱膨張しすぎて、その形状を保持できずに残渣が脱落し、耐火性が低下してしまう恐れがあるからである。なお、熱膨張性黒鉛の配合比は、好ましくはポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して1?8重量部であり、さらに好ましくはポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して2?7重量部である。
【0021】
また、請求項1に記載の発明において、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して無機充填剤を0?10重量部配合した理由としては、無機充填剤が10重量部を超えると、配管材料自体の燃焼の遅延効果が向上する反面、燃焼時の膨張性能が低下し、管内を充分に閉塞できず、管内を通じて熱気が上昇し、結果として耐火性能が低下してしまう恐れがあるからである。」

c 「【0031】
本発明で用いられるポリ塩化ビニル系樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル単独重合体;塩化ビニルモノマーと、該塩化ビニルモノマーと共重合可能な不飽和結合を有するモノマーとの共重合体;塩化ビニル以外の(共)重合体に塩化ビニルをグラフト共重合したグラフト共重合体等が挙げられ、これらは単独で使用されてもよく、2種以上が併用されてもよい。又、必要に応じて上記ポリ塩化ビニル系樹脂を塩素化してもよい。」

d 「【0040】
なお、上記熱膨張性黒鉛の粒径は、特に限定されないが、粒径が細かくなりすぎると、耐火性樹脂組成物の膨張率が低下してしまう。一方、粒径が大きくなりすぎると、加熱により組織が熱膨張しすぎて、その形状を保持できずに残渣が脱落し、耐火性が低下してしまうし、耐火性樹脂組成物を配管材としたときの引張強度や扁平強度などの物性が低下してしまい、管材として必要な機械的強度が得られなくなってしまう。
請求項1記載の発明で用いられる熱膨張性黒鉛の平均粒径は、一般的な大きさのものが用いられ、100?600μmである。」

e 「【発明の効果】
【0058】
請求項1記載の発明の建築用配管材は、床材に管材を貫通施工し、管材の一端部を床材の加熱側の面から加熱側に300mm露出させ、管材の他端部を床材の非加熱側の面から非加熱側に800mm露出させた状態で、床下から加熱する耐火試験(平成12年6月1日に施行された改正建築基準法に基づく防火区画等を貫通する管の性能試験の評価方法,ISO834-1に従う)を実施したときに、
燃焼前の管材の加熱側端部における管内断面積をS1、燃焼後の管材の最小内径部における管内断面積をS2とすると、
(S2/S1)×100≦50
の関係を満たすので、燃焼時には、管内断面積が、燃焼前の管内断面積S1の50%以下になる。その結果、管内を熱気が上昇するのを効果的に防止でき、床材に対する非加熱側の配管材の温度上昇を緩和することができる。したがって、配管材が燃えだしたり、配管材が軟化してモルタル界面との隙間が生じて非加熱側に発煙したりするのを防止することができ、遮炎性、遮熱性、遮煙性が向上する。
このように、本発明の建築用配管材は、それ自体が優れた耐火膨張性を備えており、燃焼時には配管材自体が膨張するとともに、燃焼速度の遅延効果を発揮して、区画貫通部で仕切られた他の側に火炎や煙が回るのを阻止することができる。そのため、従来のように、配管材の周囲に他の耐火部材を設ける必要がない。
また、施工時の仮配管時に、位置確認のためにマーキングするなどの作業が不要となり、単に、区画貫通部に前記建築用配管材を挿通させるだけでよいので、作業を大幅に軽減でき、現場施工性を飛躍的に向上させることができる。
さらに、本発明の建築用配管材は、塩化ビニル樹脂製パイプの外周に繊維強化モルタルを被覆した、いわゆる耐火二層管に比べて、管外径が大きくならないので、貫通口を複数設ける場合に、各貫通口の間隔を小さく取れる上、床下に配管する場合に、勾配がとりやすくなるなど、画期的に施工性が向上する。」

f 「【発明を実施するための最良の形態】
【0062】
本実施形態の建築用配管材Pは、単層管であり、長さ1200mm、外径114mm、厚さ6.6mm、呼び径100Aに作製されている。
以下、実施例を挙げて詳細に説明する。
【0063】
(実施例1)?(実施例16)、(比較例1)?(比較例5)ともに、塩化ビニル樹脂(徳山積水工業社製 品番TS1000R)100重量部に、(表1)(表2)に示す熱膨張性黒鉛及び無機充填剤とを(表1)(表2)に示した割合で配合し、さらに、有機錫系安定剤(三共有機社製 商品名「ONZ-142F」)1部、ポリエチレンワックス系滑剤(三井石油化学工業社製 商品名「ハイワックス220MP」)0.5部、ステアリン酸(花王社製 商品名「S-30」)0.5部とともに、内容積200リットルのヘンシェルミキサー(川田工業社製)で攪拌混合し、耐火性樹脂組成物を得た後、一般的に用いられる押出成形機によって押出成形して、耐火性評価に用いる建築用配管材Pを作製した。
また、この建築用配管材Pから、熱膨張性評価および性能評価に用いる試験片を作製した。試験片は、前記建築用配管材Pの管壁の一部を切り出した後、荷重200kgf、190℃で3分間プレス成形して厚さ3mmのプレス板を1cm角に切り作製した。
【0064】
また、(表1)(表2)に示す膨張容積(ml/g)は、熱膨張性黒鉛の膨張容積を示している。熱膨張性黒鉛の膨張容積の求め方は、上述した通りである。
【0065】
(熱膨張性評価)
試験片について耐火試験を実施した。試験方法としては、まず、試験片を500℃に加熱した電気炉内に入れて、40分間放置した。そして、試験片を炉から取り出して放冷した後に、試験片の厚みを測定した。
耐火試験後の試験片の厚み(膨張後厚み)が4mm以上であれば合格、4mm未満であれば不合格とした。
【0066】
(性能評価)
得られた試験片について、JISK7113に規定される引張試験(評価温度23℃)を行った。なお、管としての実用的な性能を満たしているかを判定するため、23℃で引張強度が45(MPa)以上のものを◎(優秀)、30(MPa)以上のものを○(合格)、30(MPa)未満のものを×(不合格)とした。
【0067】
(耐火性評価)
図1に示す耐火試験炉Xにより、耐火試験(平成12年6月1日に施行された改正建築基準法の耐火性能試験の評価方法,ISO834-1に従う)を実施した。
床材Yには、プレキャストコンクリート板(長さ1200mm,幅600mm,厚さ100mm)を使用した。また、防火措置工法としては、建築用配管材Pと区画貫通部Rとの間隙をモルタルで閉塞した。また、建築用配管材Pの一端部を床材Yの加熱側の面から加熱側に300mm露出させ、建築用配管材Pの他端部を床材Yの非加熱側の面から非加熱側に800mm露出させた。なお、耐火試験炉Xの加熱室Zの内部の側壁には、バーナーV,Vが設置されている。また、加熱室Zの内部には、炉内熱電対Qの熱接点2個が、床材の試験面に対して均等に配置されるように、床材Yから300mm離れた位置に設置されている。さらに、耐火試験炉Xには、図示していないが、炉内圧力を測定する装置が設置されている。
【0068】
耐火試験炉Xは、加熱温度の時間経過が上記の(式1)で表される数値となるように加熱した。
そして、加熱開始後、区画貫通部Rと建築用配管材Pとの隙間から煙が出るまでの時間を測定した。煙の発生の有無については、目視で判断した。
さらに、観察用窓Gから建築用配管材Pの燃焼の様子を目視観察し、区画貫通部Rと建築用配管材Pとの隙間から煙が出た時点で耐火試験炉Xの燃焼をストップした。
そして、図7に示すように、燃焼前の建築用配管材Pの加熱側端部における管内断面積をS1とし、図8に示すように、燃焼後の建築用配管材Pの最小内径部における管内断面積をS2として、以下の計算式により、燃焼後の建築用配管材Pの管内の閉塞度合いを燃焼後管内断面積割合として算出した。
燃焼後管内断面積割合=(S2/S1)×100
なお、管内断面積S1は、耐火試験開始前に、管材の内寸を2方向(直角)で測定し、平均内径を出した後、算出した。
燃焼後の管材の最小内径部における管内断面積S2は、耐火試験開始後、区画貫通部と配管材との隙間から非加熱側に煙が出た時点において、耐火試験炉の燃焼をストップした後、即座に床材パネルを耐火炉よりはずし、管が冷却された後に、閉塞された管の加熱側から観察し、投影面積をS2とした。
S2の測定方法は、加熱側から観察した写真で、管内最小内径部を紙にスケッチし、スケッチした部分を切り抜いて重さを測定し、すでに面積と重さがわかっている紙の値から、比例計算で算出した。
煙が2時間出なかった場合は、2時間後に試験をストップし、上記の方法で測定した。
【0069】
【表1】



g 「【0072】
(実施例17)?(実施例29)、(比較例6)?(比較例8)はともに、塩化ビニル樹脂(大洋塩ビ社製、品番TH1000)100重量部に、熱膨張性黒鉛(中越黒鉛社製、品番SFF、膨張容積180(ml/g))と、無機充填剤としての炭酸カルシウム(白石カルシウム社製、品番ホワイトンSB)と、鉛系安定剤(堺化学株式会社製、商品名SL-1000)と、ポリエチレン系滑剤(三井化学株式会社製 商品名ハイワックス4202E)を(表3)(表4)に示した割合で配合し、内容積200リットルのヘンシェルミキサー(川田工業社製)で攪拌混合し、耐火性樹脂組成物を得た後、一般的に用いられる押出成形機によって押出成形して、耐火性評価に用いる建築用配管材Pを作製した。
また、作製した建築用配管材Pから性能評価に用いる試験片を作製した。試験片は、前記建築用配管材Pの管壁の一部を切り出した後、荷重200kgf、190℃で3分間プレス成形して得られた厚さ3mmのプレス板より作製した。
【0073】
(熱膨張性評価)
試験片について耐火試験を実施した。試験方法としては、まず、試験片を500℃に加熱した電気炉内に入れて、40分間放置した。そして、試験片を炉から取り出して放冷した後に、試験片の厚みを測定した。
耐火試験後の試験片の厚み(膨張後厚み)が4mm以上であれば合格、4mm未満であれば不合格とした。
【0074】
(性能評価)
得られた試験片について、JISK7113に規定される引張試験(評価温度23℃)を行った。なお、管としての実用的な性能を満たしているかを判定するため、23℃で引張強度が45(MPa)以上のものを◎(優秀)、30(MPa)以上のものを○(合格)、30(MPa)未満のものを×(不合格)とした。
また、押出成形により所望の品質の建築用配管材Pを製造できるかを判定するため、良好に押出成形ができたものを○、押出成形ができなかったものを×、押出成形時に異変が見られたものを△とした。
【0075】
(耐火性評価)
図1に示す耐火試験炉Xにより、耐火試験(平成12年6月1日に施行された改正建築基準法の耐火性能試験の評価方法,ISO834-1に従う)を実施した。
床材Yには、プレキャストコンクリート板(長さ1200mm,幅600mm,厚さ100mm)を使用した。また、防火措置工法としては、建築用配管材Pと区画貫通部Rとの間隙をモルタルで閉塞した。また、建築用配管材Pの一端部を床材Yの加熱側の面から加熱側に300mm露出させ、建築用配管材Pの他端部を床材Yの非加熱側の面から非加熱側に800mm露出させた。なお、耐火試験炉Xの加熱室Zの内部の側壁には、バーナーV,Vが設置されている。また、加熱室Zの内部には、炉内熱電対Qの熱接点2個が、床材の試験面に対して均等に配置されるように、床材Yから300mm離れた位置に設置されている。さらに、耐火試験炉Xには、図示していないが、炉内圧力を測定する装置が設置されている。
【0076】
耐火試験炉Xは、加熱温度の時間経過が上記の(式1)で表される数値となるように加熱した。
そして、加熱開始後、区画貫通部Rと建築用配管材Pとの隙間から煙が出るまでの時間(発煙時間)を測定した。消防法の令8区画の判定基準に従って、発煙時間が130分以上の場合を◎(優秀)、120分以上の場合を○(合格)、120分未満の場合を×(不合格)とした。煙の発生の有無については、目視で判断した。
さらに、観察用窓Gから建築用配管材Pの燃焼の様子を目視観察し、区画貫通部Rと建築用配管材Pとの隙間から煙が出た時点で耐火試験炉Xの燃焼をストップした。
そして、図7に示すように、燃焼前の建築用配管材Pの加熱側端部における管内断面積をS1とし、図8に示すように、燃焼後の建築用配管材Pの最小内径部における管内断面積をS2として、以下の計算式により、燃焼後の建築用配管材Pの管内の閉塞度合いを燃焼後管内断面積割合として算出した。
燃焼後管内断面積割合=(S2/S1)×100
なお、管内断面積S1は、耐火試験開始前に、管材の内寸を2方向(直角)で測定し、平均内径を出した後、算出した。
燃焼後の管材の最小内径部における管内断面積S2は、耐火試験開始後、区画貫通部と配管材との隙間から非加熱側に煙が出た時点において、耐火試験炉の燃焼をストップした後、即座に床材パネルを耐火炉よりはずし、管が冷却された後に、閉塞された管の加熱側から観察し、投影面積をS2とした。
S2の測定方法は、加熱側から観察した写真で、管内最小内径部を紙にスケッチし、スケッチした部分を切り抜いて重さを測定し、すでに面積と重さがわかっている紙の値から、比例計算で算出した。
また、残渣の伸長長さLは、耐火試験開始後、区画貫通部と配管材との隙間から非加熱側に煙が出た時点で、耐火試験炉の燃焼をストップし、即座に床材パネルを耐火炉よりはずし、管が冷却された後に、床材の加熱側の面に対して垂直に測定した。
なお、煙が2時間出なかった場合は、2時間後に耐火試験をストップし、S2および残渣の伸長長さLを上記の方法で測定した。
【0077】
【表3】



(イ)甲2発明
上記(ア)fの実施例5及び上記(ア)gの実施例20によると、甲2には、以下の発明が記載されている。

「塩化ビニル樹脂である「TS1000R」(徳山積水工業社製)100重量部、熱膨張性黒鉛である「SYZR802」(三洋貿易製)10重量部を配合し、さらに、有機錫系安定剤である「ONZ-142F」(三共有機社製)1部、ポリエチレンワックス系滑剤である「ハイワックス220MP」(三井石油化学工業社製)0.5部、ステアリン酸である「S-30」(花王社製)0.5部を攪拌混合した耐火性樹脂組成物」(以下、「甲2発明a」という。)

「塩化ビニル樹脂である「TS1000R」(徳山積水工業社製)100重量部、熱膨張性黒鉛である「SFF」(中越黒鉛製)10重量部、無機充填剤である「ホワイトンSB」(白石カルシウム製)3重量部、鉛系安定剤である「SL-1000」(堺化学株式会社製)2重量部、ポリエチレン系滑剤である「ハイワックス4202E」(三井化学株式会社製)0.5重量部を配合した耐火性樹脂組成物」(以下、「甲2発明b」という。)

イ 本件発明1について
(ア)甲2発明aに基づく進歩性
本件発明1と甲2発明aを対比すると、甲2発明aの「塩化ビニル樹脂である「TS1000R」(徳山積水工業社製)」及び「熱膨張性黒鉛である「SYZR802」(三洋貿易製)」は、本件発明1の「樹脂成分」である「ポリ塩化ビニル及び/又は塩素化塩化ビニル」及び「熱膨張性黒鉛」に相当し、甲2発明aの「耐火性樹脂組成物」は、「熱膨張性黒鉛である「SYZR802」(三洋貿易製)」を含むから、本件発明1の「熱膨張性耐火樹脂組成物」に相当する。そして、甲2発明aにおける「熱膨張黒鉛である「SYZR802」(三洋貿易製)」の含有量は、本件発明1の「熱膨張性黒鉛10?300重量部」と重複する。
そうすると、本件発明1と甲2発明aは、
「樹脂成分100重量部、熱膨張性黒鉛10?300重量部を含有し、樹脂成分がポリ塩化ビニル及び/又は塩素化塩化ビニルを含むことを特徴とする熱膨張性耐火樹脂組成物」である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点2-1]熱膨張性黒鉛に関して、本件発明1は、「平均アスペクト比が20以上であり」「平均粒径が100?1000μmの範囲にあり、かつ平均厚さが50μm以下であ」るのに対して、甲2発明aは、平均アスペクト比、平均粒径及び平均厚さが不明である点。

[相違点2-2]本件発明1は、無機充填剤2?200重量部を含むのに対して、甲2発明aは無機充填剤を含まない点。

上記相違点について検討する。
相違点2-1に関して、上記(1)イで述べた理由と同様に、甲2の1?2からは、甲2発明aの「熱膨張性黒鉛である「SYZR802」(三洋貿易製)」の平均アスペクト比が20以上であり、平均粒径が100?1000μmの範囲にあり、かつ平均厚さが50μm以下であることは記載も示唆もされておらず、本願出願時の技術常識であるとの事情も見当たらない。
そうすると、相違点2-2を検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明a、甲2及び甲2の1?2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)甲2発明bに基づく進歩性
本件発明1と甲2発明bを対比すると、甲2発明aの「塩化ビニル樹脂である「TS1000R」(徳山積水工業社製)」、「熱膨張性黒鉛である「SFF」(中越黒鉛製)」及び「無機充填剤である「ホワイトンSB」(白石カルシウム製)」は、本件発明1の「樹脂成分」である「ポリ塩化ビニル及び/又は塩素化塩化ビニル」、「熱膨張性黒鉛」及び「無機充填剤」に相当し、甲2発明bの「耐火性樹脂組成物」は、「熱膨張性黒鉛である「SFF」(中越黒鉛製)」を含むから、本件発明1の「熱膨張性耐火樹脂組成物」に相当する。そして、甲2発明bにおける「塩化ビニル樹脂である「TS1000R」(徳山積水工業社製)、「熱膨張性黒鉛である「SFF」(中越黒鉛製)」及び「無機充填剤である「ホワイトンSB」(白石カルシウム製)」の含有量は、本件発明1の「樹脂成分100重量部、熱膨張性黒鉛10?300重量部、及び無機充填剤2?200重量部」と重複する。

そうすると、本件発明1と甲2発明bは、
「樹脂成分100重量部、熱膨張性黒鉛10?300重量部、及び無機充填剤2?200重量部を含有し、樹脂成分がポリ塩化ビニル及び/又は塩素化塩化ビニルを含むことを特徴とする熱膨張性耐火樹脂組成物」である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点2-3]熱膨張性黒鉛に関して、本件発明1は、「平均アスペクト比が20以上であり」「平均粒径が100?1000μmの範囲にあり、かつ平均厚さが50μm以下であ」るのに対して、甲2発明bは、平均アスペクト比、平均粒径及び平均厚さが不明である点。

上記相違点について検討する。
甲2及び甲2の1?2を見ても、上述のとおり、甲2発明bにおける「熱膨張性黒鉛である「SFF」(中越黒鉛製)」の平均アスペクト比が20以上であり、平均粒径が100?1000μmの範囲にあり、かつ平均厚さが50μm以下であることは記載も示唆もされておらず、これが本願出願時の技術常識であるとの事情も見当たらない。
そうすると、本件発明1は、甲2発明b、甲2及び甲2の1?2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)小活
したがって、本件発明1は、甲2発明a及びb、並びに甲2及び甲2の1?2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件発明3及び4について
本件発明3及び4は、本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであり、上記(2)イで述べた理由と同様に、甲2発明a及びb、並びに甲2及び甲2の1?2に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

エ まとめ
したがって、本件発明1、3及び4は、甲2発明a及びb、並びに甲2の1?2に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件発明1、3及び4に係る特許を取り消すことはできない。


(3)取消理由(iv)(甲3、甲3の1?9、甲1、甲2、及び甲4?甲6に基づく進歩性)について
ア 甲3に記載された事項及び甲3発明
(ア)甲3に記載された事項
甲3には、次のとおりの記載がある。
a 「【請求項1】
熱膨張性黒鉛を含み、火災による温度上昇に伴って前記熱膨張性黒鉛が膨張し、家屋又は建物を構成する部材間の空隙を塞ぐことにより延焼を防止する延焼防止材であって、
難燃材料からなる基材シートと、前記基材シートの少なくとも一方の面に配置された、前記熱膨張性黒鉛を含む熱膨張層とを有することを特徴とする延焼防止材。
【請求項2】
前記基材シートとして、難燃繊維からなる織布ないしは不織布を用い、
前記熱膨張層は、前記熱膨張性黒鉛と液状樹脂の混合物を前記基材シートの少なくとも一方の面に塗工した後、前記液状樹脂を硬化させることにより形成されたものである請求項1に記載の延焼防止材。
・・・
【請求項6】
家屋又は建物を構成する建具であって、
窓枠と、前記窓枠に固定された板ガラスとを備え、
前記窓枠と前記板ガラスとの間に、請求項5に記載の目地材が挿入されている建具。」

b 「【0020】
しかし、本発明者らは、延焼防止材が前記測定のような静的な条件下ではなく、火災による熱風やそれに伴う振動が発生する条件下で実使用されるものである点に着目した。即ち、本発明者らは、火災による熱風やそれに伴う振動によって、膨張後に脆化した黒鉛の大半が飛散し、喪失されているという現象を見出し、熱膨張性黒鉛の膨張率よりも、膨張後に脆化した黒鉛を当初の配置位置に定着させておく構成が重要であることに想到した。」

c 「【0032】
[1-2]熱膨張層:
図1に示すように、熱膨張層8は、火災による温度上昇に伴って熱膨張する成分(熱膨張性黒鉛)を含む層である。
【0033】「熱膨張性黒鉛」とは、層状結晶が多数積層された構造を有するグラファイト(黒鉛)において、前記層状結晶の層間に加熱により燃焼又はガス化する物質が挿入されたものである。熱膨張性黒鉛は、火災による温度上昇に伴って前記物質が燃焼等してガスが発生し、前記ガスによって前記層状結晶の間の空間が拡張される。従って、物質全体としては膨張し、見かけの体積が増加する。
・・・
【0036】
前記のような性能を満たす熱膨張性黒鉛の市販品としては、エア・ウォーター社製の熱膨張性黒鉛等を用いることができる。具体的には、以下全て商品名で、「SS-3」、「CA-60」、「8099M」、「SS-3N」、「CA-60N」、「50LTE-UN」、「モエヘンZ MZ-285」等を挙げることができる。
・・・
【0037】
熱膨張層8は、熱膨張性黒鉛を含むものであれば、その構成は特に限定されない。但し、熱膨張性黒鉛と樹脂の混合物によって形成されていることが好ましい。熱膨張性黒鉛は脆いフレーク状の物質であるため、それのみでは均一かつ耐久性が高い熱膨張層8を形成することが難しい。しかし、熱膨張性黒鉛を樹脂中に混合することで、均一かつ耐久性が高い熱膨張層8を形成することができる。
【0038】
前記樹脂としては、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等を挙げることができる。これらの樹脂は、(1)液状の樹脂成分(液状樹脂)に硬化剤を添加する、(2)液状樹脂に空気中の水分(湿気)を反応させる、或いは、(3)液状樹脂を加熱する、等により、液状樹脂の硬化物を形成することができる。従って、熱膨張層の形成が容易であるという利点がある。熱膨張層の具体的な形成方法については後述する。」

d 「【0073】
<実施例1>
図1に示す延焼防止材1Aの構成に準じて、延焼防止材を作製した。実施例1では、熱膨張層8の形成に、ポリオールを主剤とし、ポリイソシアナートを架橋剤とする2液硬化型ポリウレタンを用いた。また、充填剤としてシリカ粒子を、難燃剤としてリン系難燃剤を添加した。基材シート2としては、ガラス繊維織布を用いた。
【0074】
まず、液状樹脂であるポリオール100部に、熱膨脹性黒鉛80部、シリカ粒子80部、及びリン系難燃剤50部を加え、これらを撹拌・混合することにより、均一な混合物を調製した。
【0075】ポリオールとしては、ポリエーテルポリオール(商品名「アクトコールT-3000」<三井化学社製>)を、熱膨張性黒鉛としては、平均粒径250μm、熱膨張開始温度:210?220℃、1000℃における膨張度:180?230cc/gの熱膨張性黒鉛(商品名「CA-60N」<エア・ウォーター社製>)を、シリカ粒子としては、平均粒子径が4μmのシリカ粒子(商品名「クリスタルライトVX-S」<龍森社製>)を、リン系難燃剤としては、非ハロゲン縮合リン酸エステル(商品名「ダイガード880」<大八化学社製>)を用いた。
【0076】
前記混合物に、ポリイソシアナート20部を加え、撹拌・混合することにより、塗工液を調製した。基材シートとなるガラス繊維織布に対し、平均1200g/m^(2)の塗工量で、前記塗工液を塗工し、100?120℃で、10分間加熱することにより、基材シート2の表面に熱膨張層8を形成した。
【0077】
ポリイソシアナートとしては、トリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンのアダクト体溶液(商品名「コロネートL-75」<日本ポリウレタン社製>)を、ガラス繊維織布としては、坪量30g/m^(2)、厚さ170μmのガラス繊維不織布(商品名「グラスパー GHN-30GCL-M」<王子特殊紙社製>)を用いた。
【0078】
更に、基材シート2の裏面(下面)に、平均150g/m^(2)の塗工量で、アクリル系の粘着剤を塗工して粘着層14を形成し、粘着層14の裏面(下面)にラミネート加工により剥離ライナー16を付設することにより、実施例1の延焼防止材を得た。
【0079】
アクリル系の粘着剤としては、一液型のアクリル系エマルジョン粘着剤(商品名「ダイアボンドDW-571」<ノザワケミカル社製>)を用いた。剥離ライナーとしては、坪量93.2g/m^(2)、厚さ111μmの剥離ライナー(商品名「EKW78D1」<リンテック社製>)を用いた。」

e 「【0083】
<実施例2>
図1に示す延焼防止材1Aの構成に準じて、延焼防止材を作製した。熱膨張層8の形成に、シリコーン液Aを主剤とし、シリコーン液Bを架橋剤とする2液付加硬化型シリコーン樹脂を用いた点、熱膨張性黒鉛の種類を変更した点、難燃剤を添加しなかった点、コーティング法ではなく浸漬法を採用した点、粘着層を形成する粘着剤をシリコーン系粘着剤とした点を除いては、実施例1と同様にして、実施例2の延焼防止材を得た。実施例1と同じ材料については説明を省略する。
【0084】
まず、液状樹脂であるシリコーン液A(主剤)100部に、熱膨脹性黒鉛80部、及びシリカ粒子80部を加え、これらを撹拌・混合することにより、均一な混合物を調製した。
【0085】
シリコーン液A(主剤)としては、商品名「KE-1292A」<信越化学工業社製>を、熱膨張性黒鉛としては、平均粒径300μm、熱膨張開始温度:170?180℃、1000℃における膨張度:180?220cc/gの熱膨張性黒鉛(商品名「50LTE-UN」<エア・ウォーター社製>)を用いた。
【0086】
前記混合物に、シリコーン液B(架橋剤)100部を加え、撹拌・混合することにより、浸漬液を調製した。基材シートとなるガラス繊維織布に対し、平均1300g/m^(2)が付着するように、前記浸漬液を付着させ、150℃で、10分間加熱することにより、基材シート2に熱膨張層8を形成した。シリコーン液B(架橋剤)としては、商品名「KE-1292B」<信越化学工業社製>を用いた。
【0087】
更に、熱膨張層8の裏面(下面)に、平均100g/m^(2)の塗工量で、シリコーン系の粘着剤を塗工して粘着層14を形成し、粘着層14の裏面(下面)にラミネート加工により剥離ライナー16を付設することにより、実施例2の延焼防止材を得た。シリコーン系の粘着剤としては、付加硬化型の粘着テープ用粘着剤(商品名「KR-3700」<信越化学工業社製>)を用いた。」

(イ)甲3発明
上記(ア)dには、液状樹脂であるポリエーテルポリオール(商品名「アクトコールT-3000」<三井化学社製>)100部に、平均粒径250μm、熱膨張開始温度:210?220℃、1000℃における膨張度:180?230cc/gの熱膨張性黒鉛(商品名「CA-60N」<エア・ウォーター社製>)80部、平均粒子径が4μmのシリカ粒子(商品名「クリスタルライトVX-S」<龍森社製>)80部、及び非ハロゲン縮合リン酸エステル(商品名「ダイガード880」<大八化学社製>)であるリン系難燃剤50部を加えて、これらを撹拌・混合することにより、均一な混合物を調製し、該混合物に、トリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンのアダクト体溶液(商品名「コロネートL-75」<日本ポリウレタン社製>)であるポリイソシアナート20部を加え、撹拌・混合することにより塗工液を調製し、これを基材シートに塗工し、100?120℃で10分間加熱して熱膨張層を形成したことが記載されている。
また、上記(ア)eには、液状樹脂であるシリコーン液A(主剤)(商品名「KE-1292A」<信越化学工業社製>)100部に、平均粒径300μm、熱膨張開始温度:170?180℃、1000℃における膨張度:180?220cc/gの熱膨張性黒鉛(商品名「50LTE-UN」<エア・ウォーター社製>)80部、及び平均粒子径が4μmのシリカ粒子(商品名「クリスタルライトVX-S」<龍森社製>)80部を加え、これらを撹拌・混合することにより、均一な混合物を調製し、該混合物に、シリコーン液B(架橋剤)である(商品名「KE-1292B」<信越化学工業社製>)100部を加え、撹拌・混合することにより浸漬液を調製したことが記載されている。

そうすると、甲3には、以下の発明が記載されているといえる。

「ポリエーテルポリオールからなる液状樹脂である「アクトコールT-3000」(三井化学社製)100部に、熱膨張性黒鉛である「CA-60N」(エア・ウォーター社製、平均粒径250μm、熱膨張開始温度:210?220℃、1000℃における膨張度:180?230cc/g)80部、シリカ粒子である「クリスタルライトVX-S」(龍森社製、平均粒子径が4μm)80部、及びリン系難燃剤である非ハロゲン縮合リン酸エステル「ダイガード880」(大八化学社製)50部を加えた均一な混合物に、ポリイソシアナートである「コロネートL-75」(日本ポリウレタン社製、トリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンのアダクト体溶液)20部を加えた塗工液。」(以下、「甲3発明a」という。)

「シリコーン液A(主剤)からなる液状樹脂である「KE-1292A」(信越化学工業社製)100部に、熱膨張性黒鉛である「50LTE-UN」(エア・ウォーター社製、平均粒径300μm、熱膨張開始温度:170?180℃、1000℃における膨張度:180?220cc/g)80部、及びシリカ粒子である「クリスタルライトVX-S」(龍森社製、平均粒子径が4μm)80部を加えた均一な混合物に、シリコーン液B(架橋剤)である「KE-1292B」(信越化学工業社製)100部を加えた浸漬液。」(以下、「甲3発明b」という。)

イ 甲4?6に記載された事項
(ア)甲4に記載された事項
甲4には、次のとおりの記載がある。

a 「【請求項1】
(A)塩化ビニル系樹脂: 100質量部、
(B)可塑剤: 10?100質量部、
(C)滑剤: 0.1?5質量部、
(D)無機充填剤: 5?200質量部、
(E)熱膨張性黒鉛: 10?300質量部、ならびに
(F)下記一般式(1):
HO(HPO_(3))_(n)H (1)
(式中、nは2以上の整数である。)で表されるポリリン酸とメラミンとの塩、および/または前記一般式(1)で表されるポリリン酸とピペラジンとの塩: 10?300質量部
を含有してなる熱膨張性塩化ビニル系樹脂組成物。」

b 「【0025】
(E)成分の熱膨張性黒鉛は、平均粒径が100?600μmの範囲であるものが好ましく、120?500μmの範囲であるものがより好ましい。平均粒径がかかる範囲を満たすと、膨張性、作業性および形状保持性が良好なものとなる。」

c 「【実施例】
【0042】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。本実施例中で使用した成分は以下の通りである。
(A)塩化ビニル系樹脂
・ポリ塩化ビニル樹脂(商品名:TK-700、信越化学工業製、平均重合度700)
・ポリ塩化ビニル樹脂(商品名:TK-1,300、信越化学工業製、平均重合度1,300)
(B)可塑剤
・トリス(2-エチルヘキシル)トリメリテート(TOTM、旭電化工業製)
(C)滑剤
・ポリエチレン系滑剤(分子量:2000、商品名:HIWAX 220MP、三井石油化学工業製)
・エステル系滑剤(ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、商品名:EW-100、理研ビタミン製)
(D)無機充填剤
・炭酸カルシウム(商品名:NS-400、日東粉化工業製)
(E)熱膨張性黒鉛
・熱膨張性黒鉛(平均粒径:450μm、商品名:SYZR 322、三洋貿易製)
(F)ポリリン酸とメラミンとの塩、ポリリン酸とピペラジンとの塩
・ピロリン酸メラミン:ピロリン酸ナトリウムとメラミンとを等モルの比率で塩酸を加えて反応させ、水酸化ナトリウムで中和して得たもの。
・ピロリン酸ピペラジン:ピロリン酸とピペラジンとを等モルの比率で水中で反応させて得たもの。
・ピロリン酸メラミンとピロリン酸ピペラジンの混合物(商品名:FP-2100、旭電化工業製)
・ポリリン酸アンモニウム系化合物(商品名:NH-12B、味の素ファインテクノ製)(比較用)
(他)熱安定剤
・Ba/Zn系熱安定剤(商品名:RUP-14、旭電化工業製)
・Ba/Zn系熱安定剤(商品名:AC-186、旭電化工業製)
【0043】
<実施例1?6、比較例1?4>
-塩化ビニル系樹脂コンパウンドの作製-
表1および表2に示した種類・配合量で、上記の(A)?(F)成分および熱安定剤を、容量20Lのミキサーで撹拌・混合し、ミキサー内の混合物の温度が120℃に達した時点で排出し、得られた混合物を50℃まで冷却して、コンパウンドを得た。
-成形体(押出成形シート)の作製-
上記のコンパウンドを20mmφ単軸押出成形機を用いて混練し、T-ダイ金型を用いて押出成形を行い、押出成形シート(厚さ:約1.7mm)を作製した。金型部温度は170℃であった。
【0044】
こうして得られた押出成形シート、あるいはこのシートの作製に用いた金型について、以下の項目の評価・試験を行った。その結果を表1および表2に示す。」

d 「



(イ)甲5に記載された事項
甲5には、次のとおりの記載がある。
a 「【請求項1】
長手方向に沿う複数の空洞を有する合成樹脂製枠部材によって形成される開口枠体と、該開口枠体の開口部を閉塞する耐火性を有する板材と、を有する防火性樹脂サッシであって、
前記空洞の内の選択された空洞内に、その長手方向に沿って熱膨張性耐火材が、該空洞内に空間を有するように挿入されていると共に、前記空洞に木質部材が挿入され、
前記熱膨張性耐火材は、前記防火性樹脂サッシが加熱されたとき、体積膨張して連続して耐火断熱層を形成するように、前記板材の面に沿う方向と直角な方向から見て、隙間無く配置されていることを特徴とする防火性樹脂サッシ。
・・・
【請求項4】
前記熱膨張性耐火材は、樹脂成分100重量部に対して、熱膨張性無機物を10?300重量部、無機充填材を30?400重量部含有し、前記熱膨張性無機物及び無機充填材の合計量が40?500重量部含有する樹脂組成物の材料で形成されることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の防火性樹脂サッシ。」

b 「【0044】
防火性樹脂サッシ1の空洞内に挿入される熱膨張性耐火材を構成する樹脂組成物の樹脂成分としては特に限定されず、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリペンテン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂等の熱可塑性樹脂が用いられる。
【0045】
また、前記の熱可塑性樹脂の代わりに、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、1,2-ポリブタジエンゴム(1,2-BR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン-プロピレンゴム(EPR、EPDM)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、アクリルゴム(ACM、ANM)、エピクロルヒドリンゴム(CO、ECO)、多加硫ゴム(T)、シリコーンゴム(Q)、フッ素ゴム(FKM、FZ)、ウレタンゴム(U)等のゴム物質を使用することができる。さらに、ポリウレタン、ポリイソシアネート、ポリイソシアヌレート、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド等の熱硬化性樹脂を使用することも可能である。」

c 「【0064】
熱膨張性黒鉛の粒度は、20?200メッシュが好ましい。粒度が200メッシュより小さくなると、黒鉛の膨張度が小さく、十分な膨張断熱層が得られず、また粒度が20メッシュより大きくなると、黒鉛の膨張度が大きいという利点はあるが、樹脂に配合する際に分散性が悪くなり、物性の低下が避けられない。熱膨張性黒鉛の市販品としては、例えば、東ソー社製「GREP-EG」、GRAFTECH社製「GRAFGUARD」等が挙げられる。」

d 「【0109】
(実施例1?4)図5に示した配合量(重量部)のエポキシモノマー(ジャパンエポキシレジン社製「E807」)、エポキシ用硬化剤(ジャパンエポキシレジン社製「FL052」)、ブチルゴム(エクソンモービルケミカル社製「ブチルゴム065」)、ポリブテン(出光石油化学社製「ポリブテン100R」)、水添石油樹脂(トーネックス社製「エスコレッツ5320」)、ポリリン酸アンモニウム(Clariant社製「Exolit AP422」)、熱膨張性黒鉛(東ソー社製「GREP-EG」)、水酸化アルミニウム(ALCOA社製「B325」)、炭酸カルシウム(備北粉化工業社製「BF300」)をニーダーにて混練して、樹脂組成物を得た。」

(ウ)甲6に記載された事項
甲6には、次のとおりの記載がある。
a 「【0035】
(2)第2の実施の形態(図6、7参照)
第2の実施の形態に係る防火性樹脂サッシ1Bは、上記第1の実施の形態に係る防火性樹脂サッシ1Aと同様の構造の枠体13と板ガラス15とを具備しており、上記枠体13の大きめの中空部3Aに対して上述した火山性ガラス質複層板33と共に長手方向に沿って幅広の熱膨張性耐火材51Aが装填されており、上記枠体13の小さめの中空部3Cに対して幅狭の熱膨張性耐火材51Bが同じく長手方向に沿って装填されている。
【0036】
熱膨張性耐火材51は、火災時等の高湿にさらされると、体積膨張して膨張断熱層を形成する材料であり、枠体13の焼失部分を上記膨張断熱層によって埋めるという機能を有している。
熱膨張性耐火材は、例えば、樹脂成分100重量部に対して、熱膨張性無機物を10?300重量部、無機充填材を30?400重量部含有し、前記熱膨張性無機物及び無機充填材の合計量が40?500重量部含有する樹脂組成物の材料で形成され、樹脂組成物の成形体が好ましい。
樹脂成分としては、天然ゴムが一例として使用でき、他にイソプレンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、多加硫ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム等の合成ゴムやポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリ塩化ビニル等の熱可塑性樹脂あるいは、ポリウレタン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂が使用可能である。
熱膨張性無機物としては、加熱して膨張する熱膨張性無機物であれば特に限定されないが、例えば、バーミキュライト、カオリン、マイカ、熱膨張性黒鉛、ケイ酸金属塩、ホウ酸塩等が挙げられる。
熱膨張性耐火材を構成する樹脂組成物に、さらに無機充填剤を配合することが好ましい。無機充填剤は、膨張断熱層が形成される際、熱容量を増大させ伝熱を抑制するとともに、骨材的に働いて膨張断熱層の強度を向上させる。無機充填剤としては、例えば、アルミナ、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト類等の金属酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト等の含水無機物;塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等の金属炭酸塩等が挙げられる。」

ウ 本件発明1について
(ア)甲3発明aに基づく進歩性
本件発明1と甲3発明aを対比すると、甲3発明aの「ポリエーテルポリオールからなる液状樹脂である「アクトコールT-3000」(三井化学社製)」、「熱膨張性黒鉛である「CA-60N」(エア・ウォーター社製、平均粒径250μm、熱膨張開始温度:210?220℃、1000℃における膨張度:180?230cc/g)、及び「シリカ粒子である「クリスタルライトVX-S」(龍森社製、平均粒子径が4μm)」は、本件発明1の「樹脂成分」、「熱膨張性黒鉛」及び「無機充填剤」にそれぞれ相当し、甲3発明aの「熱膨張性黒鉛である「CA-60N」」の平均粒径は、本件発明1の「熱膨張性黒鉛の平均粒径が100?1000μmの範囲」と重複する。また、甲3発明aの「塗工液」は、液状樹脂及び熱膨張性黒鉛を含有する組成物であるから、熱膨張性樹脂組成物であるといえる。
そして、甲3発明aの「ポリエーテルポリオールからなる液状樹脂である「アクトコールT-3000」(三井化学社製)」、「熱膨張性黒鉛である「CA-60N」(エア・ウォーター社製、平均粒径250μm、熱膨張開始温度:210?220℃、1000℃における膨張度:180?230cc/g)、及び「シリカ粒子である「クリスタルライトVX-S」(龍森社製、平均粒子径が4μm)」の含有量は、本件発明1の「樹脂成分100重量部、熱膨張性黒鉛10?300重量部、及び無機充填剤2?200重量部」と重複する。

そうすると、本件発明1と甲3発明aとは、「樹脂成分100重量部、熱膨張性黒鉛10?300重量部、及び無機充填剤2?200重量部を含有し、熱膨張性黒鉛の平均粒径が100?1000μmの範囲にあることを特徴とする熱膨張性樹脂組成物。」で一致し、次の点で相違する。

[相違点3-1]樹脂成分に関して、本件発明1は、「ポリ塩化ビニル及び/又は塩素化塩化ビニルを含む」のに対して、甲3発明aは、「ポリエーテルポリオールからなる液状樹脂である「アクトコールT-3000」(三井化学社製)」である点。

[相違点3-2]熱膨張性黒鉛に関して、本件発明1は、「平均アスペクト比が20以上であり」「平均厚さが50μm以下であ」るのに対して、甲3発明aは、平均アスペクト比、平均粒径及び平均厚さが不明である点。

[相違点3-3]本件発明1は、「熱膨張性耐火樹脂組成物」であるのに対して、甲3発明aは、熱膨張性樹脂組成物であって、耐火性を有するかが不明である点。

上記相違点について検討する。
相違点3-1に関して、まず、甲3発明aの塗工液は、上記ア(ア)a及びdによると、延焼防止材の基材シートに塗工され、熱膨張層とするためのものであるが、甲1、甲2及び甲4?甲6には、基材シートと熱膨張層とを有する延焼防止材、及び、上記熱膨張層の液状樹脂としてポリ塩化ビニル又は塩素化塩化ビニルを用いることについて一切記載されていない。
また、甲3発明aの液状樹脂として、上記ア(ア)cによると、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等を挙げて、これらの樹脂は、(1)液状の樹脂成分(液状樹脂)に硬化剤を添加する、(2)液状樹脂に空気中の水分(湿気)を反応させる、或いは、(3)液状樹脂を加熱する、等により、液状樹脂の硬化物を形成することができるものであることが説明されているが、液状樹脂としてポリ塩化ビニル又は塩素化塩化ビニルを用いることは記載も示唆もされていないし、ポリ塩化ビニル及び塩素化塩化ビニルは、上記(1)?(3)の工程で硬化物を形成するものでないことは当業者に明らかである。
そうすると、甲3発明aにおいて、液状樹脂を「ポリ塩化ビニル及び/又は塩素化塩化ビニルを含む」ものにすることは、甲1、甲2、甲4?甲6の記載に基いて当業者が容易に想到し得たことではなく、相違点3-2及び相違点3-3を検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明a、並びに、甲1、甲2及び甲4?6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)甲3発明bに基づく進歩性
本件発明1と甲3発明bを対比する。
甲3発明bの「シリコーン液A(主剤)からなる液状樹脂である「KE-1292A」(信越化学工業社製)」、「熱膨張性黒鉛である「50LTE-UN」(エア・ウォーター社製、平均粒径300μm、熱膨張開始温度:170?180℃、1000℃における膨張度:180?220cc/g)」、及び「シリカ粒子である「クリスタルライトVX-S」(龍森社製、平均粒子径が4μm)」は、本件発明1の「樹脂成分」、「熱膨張性黒鉛」及び「無機充填剤」にそれぞれ相当し、甲3発明bの「熱膨張性黒鉛である「50LTE-UN」」の平均粒径は、本件発明1の「熱膨張性黒鉛の平均粒径が100?1000μmの範囲」と重複する。また、甲3発明bの「浸漬液」は、液状樹脂及び熱膨張性黒鉛を含有する組成物であるから、熱膨張性樹脂組成物であるといえる。
そして、甲3発明bの「シリコーン液A(主剤)からなる液状樹脂である「KE-1292A」(信越化学工業社製)」、「熱膨張性黒鉛である「50LTE-UN」(エア・ウォーター社製、平均粒径300μm、熱膨張開始温度:170?180℃、1000℃における膨張度:180?220cc/g)」、及び「シリカ粒子である「クリスタルライトVX-S」(龍森社製、平均粒子径が4μm)」の含有量は、本件発明1の「樹脂成分100重量部、熱膨張性黒鉛10?300重量部、及び無機充填剤2?200重量部」と重複する。

そうすると、本件発明1と甲3発明bとは、「樹脂成分100重量部、熱膨張性黒鉛10?300重量部、及び無機充填剤2?200重量部を含有し、熱膨張性黒鉛の平均粒径が100?1000μmの範囲にあることを特徴とする熱膨張性樹脂組成物。」で一致し、次の点で相違する。

[相違点3-4]樹脂成分に関して、本件発明1は、「ポリ塩化ビニル及び/又は塩素化塩化ビニルを含む」のに対して、甲3発明bは、「シリコーン液A(主剤)からなる液状樹脂である「KE-1292A」(信越化学工業社製)」である点。

[相違点3-5]熱膨張性黒鉛に関して、本件発明1は、「平均アスペクト比が20以上であり」「平均厚さが50μm以下であ」るのに対して、甲3発明bは、平均アスペクト比、平均粒径及び平均厚さが不明である点。

[相違点3-6]本件発明1は、「熱膨張性耐火樹脂組成物」であるのに対して、甲3発明bは、熱膨張性樹脂組成物であって、耐火性を有するかが不明である点。

上記相違点について検討すると、相違点3-4は、上記ウ(ア)で述べた理由と同様に、甲3発明bにおいて、液状樹脂を「ポリ塩化ビニル及び/又は塩素化塩化ビニルを含む」ものとすることは、甲1、甲2、甲4?甲6の記載に基いて当業者が容易に想到し得たことではなく、相違点3-5及び相違点3-6を検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明b、並びに、甲1、甲2及び甲4?6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)小活
したがって、本件発明1は、甲3発明a及びb、並びに甲1、甲2及び甲4?6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件発明2?4について
本件発明2?4は、本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであり、上記(3)ウで述べた理由と同様に、甲3発明a及びb、並びに甲1、甲2及び甲4?6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ まとめ
したがって、本件発明1?4は、甲3発明a及びb、並びに甲1、甲2及び甲4?6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件発明1?4に係る特許を取り消すことはできない。

(5)取消理由(v)(サポート要件)について
ア 申立人の主張
申立人は、申立書において、概略、以下のように主張する。
(ア)本件特許明細書には、熱膨張性黒鉛の平均アスペクト比が20以上であれば、全ての本件発明1?4の熱膨張性耐火樹脂組成物が、本件発明の課題を解決できると当業者が認識できる記載はなく、また、そのような技術常識もない(以下、「サポート要件違反1」という。)。

(イ)押出成形により、高い膨張率と高い残渣硬さを有し、耐火性に優れる複雑な成形体を得ることができる熱膨張性耐火樹脂組成物の提供も本件発明の課題の一つであり、本件特許明細書に、「押出成形性を阻害するリン化合物を使用するものではない。」(段落0058)と記載されているが、本件発明1は、リン化合物(燐酸エステル可塑剤を除く。)を含むものを包含しており、全ての本件発明1?4の熱膨張性耐火樹脂組成物が、本件発明の課題を解決できるとはいえない(以下、「サポート要件違反2」という。)。

イ 当審の判断
(ア)サポート要件違反1について
本件発明の課題は、「高膨張性と高い残渣硬さとを兼ね備えた熱膨張耐火樹脂組成物を提供すること」(段落0006)であると解される。
そして、本件特許の明細書には、実施例1及び2により、平均アスペクト比が25.2及び30.6である熱膨張性黒鉛を用いて、膨張倍率、残渣硬さ、残渣の形状保持性に優れること、実施例4、6及び8により、アスペクト比が21.3である熱膨張性黒鉛を用いて、残渣の形状保持性に優れること、比較例1により、平均アスペクト比が18.2である熱膨張性黒鉛を用いて、残渣硬さが著しく低くなることが、それぞれ記載されており(表1及び表2)、熱膨張性黒鉛の平均アスペクト比を20以上とすることにより、そうでない場合に比べて膨張倍率及び残渣硬さに優れることが理解できる。このことは、職権で調査した本件特許出願に係る審判請求書における実施例7?10及び比較例5?7の実証実験の結果からも確認できる。
そして、熱膨張性黒鉛の平均アスペクト比の上限については、平均アスペクト比が所定値以上の場合に上記課題を解決できないことを示す本願出願時の技術常識は見当たらないし、申立人はそれを説明するための技術的な根拠を示していない。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1及びこれを直接的又は間接的に引用する本件発明2?4が上記課題を解決することを当業者が認識できるように記載されているといえる。

(イ)サポート要件違反2について
本件発明の課題は、上記(5)イ(ア)で述べたとおりのものであって、本件発明1の組成物を押出成形用に限ったものではないし、本件発明1にもそのような特定はない。また、本件発明1の組成物を用いて、押出成形以外の成形を行う場合に、上記課題を解決しないことが本願出願時の技術常識であるともいえない。
なお、申立人は、押出成形以外の成形を行う場合に、本件発明1?4が上記課題を解決できないことを説明するための技術的な根拠を示していない。

そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1及びこれを直接的又は間接的に引用する本件発明2?4が上記課題を解決することを当業者が認識できるように記載されているといえる。

(ウ)まとめ
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1?4が、その課題を解決することを当業者が認識できるように記載されており、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。

(6)取消理由(vi)(実施可能要件)について
ア 申立人の主張
申立人は、申立書において、概略、以下のように主張する。
熱膨張性黒鉛の鉛直方向の厚さは一様でなく、SEM画像で正確に求めることはできないが、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、黒鉛片の鉛直方向の厚みについてどの部分を測定するか、及び、黒鉛片のサンプリング方法を記載しておらず、当業者が本件発明1?4を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。

イ 当審の判断
実施可能要件は、物の発明においては、当業者が明細書に記載された発明の実施についての説明と出願時の技術常識とに基づいて、その物を作れ、かつ、その物を使用することができなければならず、本件発明を実施しようとした場合に、どのように実施するかを理解できないとか、当業者に期待し得る程度を越える試行錯誤や複雑高度な実験等をする必要がある場合は、当業者が実施することができる程度に発明の詳細な説明に記載されていないことになる。
本件特許明細書には、「水平方向の最大寸法を鉛直方向の厚みで除した値をアスペクト比とする。」(段落0041)、「十分大きな数、すなわち10個以上の黒鉛片につきアスペクト比を測定し、その平均値を平均アスペクト比とする。熱膨張性黒鉛の平均粒径も、水平方向の最大寸法の平均値として求めることができる。」(段落0042)、「熱膨張性黒鉛の水平方向における最大寸法及び薄片化黒鉛の厚みは、例えば電界放出形走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて測定することができる。」(段落0043)と記載されており、平均アスペクト比の決定方法が具体的に説明されていると解される。
そして、熱膨張性黒鉛において、1個の黒鉛片のどこを測定しても厚みが一定であるとは限らないことは本願出願時の技術常識であり、上記平均アスペクト比の決定方法により、当業者は平均アスペクト比を決定することができると解される。
また、測定する黒鉛片のサンプリングは、本願出願時の技術常識を参酌して行えばよく、本件特許明細書にサンプリング方法が具体的に説明されていないことを根拠に、当業者が、本件発明1の熱膨張性耐火樹脂組成物を作れ、かつ、使用することができないということにはならない。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1及びこれを直接的又は間接的に引用する本件発明2?4を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものである。

(7)取消理由(vii)(明確性)について
ア 申立人の主張
申立人は、申立書において、概略、以下のように主張する。
本件発明1の「熱膨張性黒鉛の平均アスペクト比が20以上」に関して、本件特許明細書には、実施例及び比較例で要求される程度の正確さと精度を満たす測定方法が記載されておらず、黒鉛片のサンプリング方法も記載されていないから、本件発明1?4は明確でない。

イ 当審の判断
本件発明1である熱膨張性耐火樹脂組成物は、請求項1に記載された事項により特定されるものであり、その構成成分、含有量、並びに、熱膨張性黒鉛の平均アスペクト比、平均粒径、及び平均厚さの数値範囲を特定する記載は、いずれも明確である。仮に、平均アスペクト比、平均粒径、及び平均厚さが明確でないとしても、上記(6)で述べたように、本件特許明細書の段落0040?0043に測定方法が記載されており、この記載及び本願出願時の技術常識を考慮して各用語を解釈することにより、本件発明1を明確に把握できると解される。
よって、本件発明1及びこれを直接的又は間接的に引用する本件発明2?4は明確である。

5 むすび
以上のとおりであるから、申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-11-02 
出願番号 特願2015-548521(P2015-548521)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C08L)
P 1 651・ 113- Y (C08L)
P 1 651・ 536- Y (C08L)
P 1 651・ 121- Y (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 松元 洋  
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 長谷部 智寿
近野 光知
登録日 2018-01-26 
登録番号 特許第6279610号(P6279610)
権利者 積水化学工業株式会社
発明の名称 熱膨張性耐火樹脂組成物  
代理人 虎山 滋郎  
代理人 田口 昌浩  
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