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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B60C
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  B60C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B60C
管理番号 1345897
異議申立番号 異議2018-700598  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2018-12-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-07-20 
確定日 2018-11-15 
異議申立件数
事件の表示 特許第6267444号発明「空気入りタイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6267444号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許6267444号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成25年6月5日の出願であって、平成30年1月5日にその特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、同年1月24日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年7月20日に特許異議申立人 伊藤 裕美(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:全請求項)がされたものである。


第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
発泡ゴム層をトレッド部に用いた空気入りタイヤであって、下記式
【数1】

(式中、circularityは円形率、areaは気泡面積、perimeterは気泡周長である)
で定義される気泡の円形率が0.8?1.0を満たすことを特徴とする空気入りタイヤ。
(但し、熱膨張性マイクロカプセルを配合すると共に、該熱膨張性マイクロカプセルがアルコキシシラン誘導体にて表面処理を施されたものであることを特徴とするタイヤ用ゴム組成物を用いた空気入りタイヤを除く。)
【請求項2】
発泡ゴム層の発泡が、平均粒径0.5?12μmの熱分解型発泡剤を使用して形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
熱分解型発泡剤が、アゾジカルボンアミド、N,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミン、4,4’-オキソビスベンゼンスルホニルヒドラジド、または炭酸水素ナトリウムであることを特徴とする、請求項2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
発泡率が10?50%であることを特徴とする、請求項1?3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。」


第3 特許異議申立書に記載した理由の概要
平成30年7月20日に特許異議申立人が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書」という。)に記載した理由の概要は次のとおりである。

1 申立理由

(1)申立理由1(明確性)
本件特許の請求項1に係る発明は、特許請求の範囲の記載が明確でないことから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対して特許されたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)申立理由2(甲第1号証?甲第3号証をそれぞれ主引用文献とする新規性)
本件特許の請求項1ないし4に係る発明は、下記の本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

(3)申立理由3(甲第1号証?甲第3号証をそれぞれ主引用文献とし、甲第4号証?甲第6号証を副引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項4に係る発明は、下記の本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項4に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。


2 証拠方法

甲第1号証:特開2005-171092号公報
甲第2号証:特開2012-201708号公報
甲第3号証:特開2012-167151号公報
甲第4号証:特開2012-219242号公報
甲第5号証:特開2012-219245号公報
甲第6号証:特開2013-56992号公報

なお、文献名等の表記は概略特許異議申立書の記載に従った。以下、順に「甲1」のようにいう。


第4 申立理由1についての当審の判断

特許異議申立人は、特許異議申立書の第35頁?第36頁において、「請求項1の要件(1B)は、「下記式
Circularity=4π[area/perimeter^(2)]
(式中、circularityは円形率、areaは気泡面積、perimeterは気泡周長である)で定義される気泡の円形率が0.8?1.0を満たすことを特徴とする」というものである。ここで、発泡ゴム層に存在する気泡とは、本来、立体(三次元)のものである。そうすると、要件(1B)において、円形率の算出に用いられている「area気泡面積」とは、1個の気泡(三次元)の面積のことを指すと解釈されるべきである。仮に、気泡が半径rの真球である場合、気泡面積とは、4πr^(2)である。一方「perimeter気泡周長」とは、気泡(三次元)の最大外周を指すと解釈すると、2πrとなり、この場合の円形率は4.0となる。
一方、タイヤからトレッドのブロックを切り出し、厚み方向にスライスしたとき、スライスの一断面に現れる「気泡」の形状における「area気泡面積」及び「perimeter気泡周長」は、πr^(2)及び2πrとなり、この場合の円形率は1.0となる。
このように、要件(1B)の「area気泡面積」及び「perimeter気泡周長」は、タイヤからトレッドのブロックを切り出し、厚み方向にスライスしたとき、スライスの断面に現れる「気泡」の形状の面積及び寸法というのか、3次元的な立体形状の「気泡」における形状の表面積及び寸法というのか、明確でない。」と主張する。

しかしながら、本件明細書の段落【0030】には、気泡の円形度(円形率)の測り方が記載されており、当該記載をみれば、請求項1の「area気泡面積」及び「perimeter気泡周長」は、タイヤからトレッドのブロックを切り出し、厚み方向にスライスしたとき、スライスの断面に現れる「気泡」の形状の面積及び寸法であるということが明らかである。

そうすると、本件特許発明1は、特許請求の範囲の記載が明確でないとすることはできない。

したがって、申立理由1には理由がない。


第5 申立理由2についての当審の判断

1 甲1ないし6の記載事項等

(1)甲1の記載事項等

ア 甲1の記載事項
甲1には、次の記載(以下、総称して「甲1の記載事項」という。)がある。

(1-1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ジエン系ゴム100重量部及び(B)ブチルゴム100重量部に対して膨張性材料50?100重量部を配合したブチルゴムマスターバッチコンパウンド5?30重量部を含んでなるタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記膨張性材料が発泡剤含有樹脂である請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記ジエン系ゴムのガラス転移温度の平均値が-55℃以下である請求項1又は2に記載のタイヤ用ゴム組成物。」

(1-2)「【技術分野】
【0001】
本発明は空気入りタイヤ用ゴム組成物に関し、更に詳しくは膨張性材料を配合したゴム組成物の膨張性又は発泡効率を高めることができるタイヤ用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
スタッドレスタイヤの氷上性能を向上させることを目的としてゴム組成物中に発泡剤含有熱可塑性樹脂などの熱膨張性材料を配合することは知られている(例えば特許文献1参照)。しかしながら、従来の提案によれば、熱膨張性材料をゴム中に素早く取り込んで分散させることが難しく、混合時間がかかり、生産性に劣るという問題がある。また混合加工中に配合した熱膨張性材料が潰れてしまい、目的とする膨張(発泡)熱膨張性材料の性能が100%発揮されないという問題がある。更にゴム組成物中の熱膨張性材料の発泡時に発生ガスが逃散して発泡効率が低下するという問題もあった。」

(1-3)「【0011】
この発泡剤含有樹脂を配合することによって、ゴムの加硫後の硬度を大きく低下させることなく、ゴム内部にマイクロカプセル状の樹脂被覆気泡を形成させ、摩耗後のゴム表面に出現する表面凹凸によるゴム/氷間のミクロな水膜除去と気泡とともに表面に露出した樹脂成分による氷表面への引っ掻き効果を同時に得ることによってゴム/氷間の摩擦力を大きく向上させることができる。さらに、樹脂被覆によって気密性の改善された気泡では、加硫時のモールド接触面におけるガス抜けが起こりにくく、その結果、加硫ゴムは表層部から中心部までマイクロカプセル状気泡がより均一に分散した性状となる。このようなゴム組成物を用いた氷雪路面用タイヤは、使用初期から高い氷上摩擦力が発揮できるという特徴を持つ。
本発明において、発泡剤含有樹脂を構成する樹脂成分はジエン系ゴムとは共架橋性を有しないものでなければならず、具体的にはポリオレフィン系樹脂を主成分としたものが用いられる。なお、ここで主成分とはポリオレフィン系樹脂が全樹脂成分の75重量%以上、好ましくは85重量%以上のものをいい、他の成分としては、例えば、オレフィンモノマーの未反応残基、重合開始剤や触媒等の残査、加工助剤、ポリオレフィン系樹脂以外のポリマー状樹脂等が挙げられる。この樹脂成分は、ジエン系ゴムとの共架橋を防ぐため分子の主鎖中に二重結合が残っていないものが好ましい。ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-4-メチルペンテン-1、ポリブチレン-1等の中から選ばれる少なくとも1種を用いることができ、これらの混合物や共重合体も使用することができる。ポリオレフィン樹脂によって予め被覆された発泡剤を配合するため、発泡剤の分解温度以下であれば樹脂の軟化点に関係なく加工温度を選ぶことができ、気泡周囲の樹脂による被覆層は効率よく確実に形成される。また、ポリオレフィン樹脂がジエン系ゴムと共架橋性を有しないために、樹脂層が高温の加工時または加硫時にゴム相に不必要に拡散することがなく、ゴム相と樹脂部分が明確に分離したマイクロカプセル状の樹脂被覆気泡が得られるのが特徴である。
本発明の発泡剤含有樹脂の中の化学発泡剤の含有率は5?65重量%、好ましくは15?50重量%である。この配合量が少なすぎると空隙の形成効果が不充分となるおそれがあり、逆に多すぎると形成される殻の厚みが薄くなり、マイクロカプセルとしての引っ掻き効果が不充分になるおそれがある。
本発明の化学発泡剤の分解温度は120?180℃、好ましくは140?160℃であるのが好ましい。この温度が低すぎると混合、押出加工中に十分な大きさの樹脂被覆気泡を形成させることができない。なお、この分解温度が高すぎる場合には尿素等の発泡助剤との併用によって分解温度を120?180℃に調整することもできる。発泡助剤は、例えば永和化成工業社の「セルペースト」として入手可能である。
本発明に使用する化学発泡剤成分は、アゾ化合物、ニトロソ化合物、ヒドラジン誘導体、アゾ化合物、重炭酸塩の中から選ばれる少なくとも1種を用いることができ、具体的にはアゾジカルボンアミド(ADCA)、N,N’-ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DPT)、4,4’-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド(OBSH)、ヒドラゾジカルボンアミド(HDCA)、バリウムアゾシカルポキシレート(Ba/AC)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO_(3))等が挙げられ、これらは永和化成工業社の「ビニルホール」(ADCA)、「セルラー」(DPT)、「ネオセルボン」(OBSH)、「エクセラー」(DPT/ADCA)、「スパンセル」(ADCA/OBSH)、「セルボン」(NaHCO_(3))等が市販されている。
発泡剤含有樹脂の粒子径は、10?200μmであるのが好ましい。これより小さいとゴム表面に十分な大きさの凹凸を形成できず、大きすぎるとゴムの機械的強度の低下が著しくなってしまう。このような発泡剤含有樹脂としては、例えば永和化成工業社から「セルパウダー」として市販されている。また、加硫ゴム組成物内に形成されるマイクロカプセル状気泡は球形であるが、原料段階での発泡剤含有樹脂の形状は球形である必要はない。
本発明で使用する熱膨張性熱可塑性樹脂は熱により気化、分散又は化学反応して気体を発生する液体又は固体を熱可塑性樹脂に内包した熱膨張性熱可塑性樹脂粒子であり、この粒子をその膨張開始温度以上の温度、通常130?190℃の温度で加熱して膨張させることによってその熱可塑性樹脂からなる外殻中に気体を封入した気体封入熱可塑性樹脂粒子(中空ポリマー)となる。」

(1-4)「【実施例】
【0016】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲をこれらの実施例に限定するものでないことはいうまでもない。
【0017】
実施例1?2及び比較例1?4
マスターバッチの調製
ブチルゴム100重量部に対し、発泡剤含有樹脂セルパウダーF50を表Iに示す割合で配合したマスターバッチを以下のようにして製造した。
1.7リットルの実験室用バンバリーミキサーにブチルゴムを投入して素練し、その後セルパウダーを所定量投入した。50rpm で3分間混練し、温度90℃で放出した。
【0018】
ゴム組成物の調製
表Iに示す配合(重量部)において、加硫系(亜鉛華、硫黄、加硫促進剤)及びマスターバッチを除く成分を1.7リットルの実験室型バンバリーミキサーで50rpm で5分間混練し、温度130℃で放出した。得られたゴム組成物に加硫系及びマスターバッチを加えて8インチのオーブンロールで混練してゴム組成物を得た。
【0019】
得られたゴム組成物を50×100×5mmの金型中で170℃で15分間加硫し、得られた加硫物の発泡率及び氷上摩擦係数を以下の方法で測定した。結果を表Iに示す。
【0020】
発泡率:各種コンパウンドの計算比重に対する、実際の加硫ゴム比重の低下率として算出された値。
氷上摩擦係数(-1.5℃及び-3.0℃):各種コンパウンドを加硫した厚さ5mmのゴムを表面から2.0mmの深さ位置から厚さ2.0mmのゴム片になる様にスライスし、それらのゴム片を偏平円柱状の台ゴムにはりつけ、インサイドドラム型氷上摩擦試験機にて氷上摩擦係数を測定した。荷重0.3MPa 、ドラム回転速度は25km/hrとした。
【0021】
【表1】

【0022】
表I脚注
RSS#3:天然ゴム
NIPOL 1220:日本ゼオン(株)製 BR(ガラス転移温度=-101℃)
ショーブラックN220:昭和キャボット(株)製 カーボンブラック(N_(2)SA:111m^(2)/g、DBP吸油量:111ml/100g)
酸化亜鉛3号:正同化学工業(株)製 酸化亜鉛
ステアリン酸:日本油脂(株)製
アロマオイル:富士興産(株)製
SANTOFLEX 6PPD:FLEXSIS製 老化防止剤
SANTOCURE NS:FLEXSIS製 加硫促進剤 TBBS
PERKACIT DPG:FLEXSIS製 加硫促進剤 DPG
ブチル:日本ブチル(株)製 ブチルゴム
セルパウダーF50:永和化成工業製 発泡剤含有樹脂(発泡剤:OBSH、樹脂:ポリオレフィン樹脂)」

(1-5)「【産業上の利用可能性】
【0026】
以上の通り、本発明に従えば、熱膨張性材料を含むゴム組成物中の熱膨張性材料の発泡効率を高めることができるので、例えばスタッドレスタイヤのキャップコンパウンドなどとして有用である。」

イ 甲1発明
甲1の記載事項、特に、請求項1及び請求項2の記載及び段落【0011】、【0026】に関する記載を整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「(A)ジエン系ゴム100重量部及び(B)ブチルゴム100重量部に対して粒子径が10?200μmである発泡剤含有樹脂50?100重量部を配合したブチルゴムマスターバッチコンパウンド5?30重量部を含んでなるタイヤ用ゴム組成物をキャップコンパウンドに用いた加硫物であるスタットレスタイヤ。」

(2)甲2の記載事項等

ア 甲2の記載事項
甲2には、次の記載(以下、総称して「甲2の記載事項」という。)がある。

(2-1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレンブタジエンゴム(SBR)を70質量%以上含むジエン系ゴム100質量部に対し、補強用充填剤35?130質量部と、発泡開始温度が170℃以下であるバルーン状の発泡性微粒子0.3?20質量部とを配合してなることを特徴とするゴム組成物。
・・・
【請求項3】
前記発泡性微粒子は、殻(シェル)をなす熱軟化樹脂として、60質量%以上のニトリル系モノマーと、0.1?10質量%の金属カチオンと、1?20質量%のカルボキシル基を有する不飽和重合性モノマーと、0.1?5質量%の多官能性モノマーとからなるモノマー成分を重合して得られるものを用い、殻(シェル)中にこの軟化点以下の温度でガス状になる膨張剤が封入されていることを特徴とする請求項1または2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載のゴム組成物からなるトレッドを備えた空気入りタイヤ。」

(2-2)「【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物に関し、より詳細には、例としてタイヤのトレッドに好適に用いることのできるゴム組成物、及び、同ゴム組成物を用いてなる空気入りタイヤに関するものである。特には、タイヤのトレッドに用いることで、耐摩耗性を維持しつつ、湿潤路面における制動性(ウェットグリップ性)及び低燃費性(低発熱性、低転がり性)を改良することができるゴム組成物及び該組成物をトレッドに用いた空気入りタイヤに関する。

(2-3)「【0016】
本発明のゴム組成物には、ジエン系ゴム100質量部に対し、各粒子内に1つの空洞を有する熱膨張性微粒子、すなわち、バルーン状の発泡微粒子が配合される。本発明における発泡微粒子は、熱軟化性の樹脂からなる殻(シェル)と、この殻の中に封入されて加熱時に内部からの膨張圧を供給する膨張剤とからなる。本発明で用いる発泡微粒子は、発泡開始温度が170℃以下、好ましくは150?170℃、より好ましくは160?170℃であり、最大熱膨張温度は、好ましくは200℃以上、より好ましくは200?240℃、さらに好ましくは210?230℃である。発泡開始温度及び最大熱膨張温度の測定は、熱機械分析装置(TMA;例えばTA instruments社製TMA2940)を用い、例えば0.1Nの加重を加えつつ5℃/分の昇温速度で80?250℃にわたって測定を行うことができる。具体的には、例えば、試料25μgを直径7mm、深さ1mmのアルミ製容器に入れ、上から0.1Nの力を加えた状態で、5℃/minの昇温速度で80℃から250℃まで加熱し、測定端子の垂直方向における変位を測定し、変位が上がり始める温度を発泡開始温度、その変位の最大値を最大変位量とし、最大変位量における温度を最大発泡温度とする。
・・・
【0018】
本発明で用いる発泡微粒子の殻(シェル)をなす熱軟化性樹脂は、好ましい実施形態において、原料となるモノマー成分が、60質量%以上のニトリル系モノマーと、0.1?10質量%の金属カチオンと、1?20質量%のカルボキシル基を有する不飽和重合性モノマーと、0.1?5質量%の多官能性モノマーとを含む。また、発泡微粒子の殻(シェル)をなす熱軟化性樹脂は、好ましくは、ニトリル系モノマーに由来するセグメントと、カルボキシレート残基を除いた炭素数が3?8のカルボキシレート基含有不飽和重合性モノマーに由来するセグメントとからなる。また、好ましい一実施形態において、金属カチオンとして2?3価のものを用いることができる。本発明で用いる発泡微粒子の製造は、例えば、次のようにして行うことができる。まず、金属カチオンを添加する前の上記のモノマー成分に重合開始剤を添加して均一に混合する。次いで、熱膨張剤としての上記炭化水素を加えて混合した後、上記の金属カチオン及び分散剤を含む水系分散媒体を加えて攪拌しつつ加熱し重合を行う。上記のニトリル系モノマーは、好ましい実施形態において、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、またはこれらの混合物である。カルボキシル基を有する不飽和重合性モノマーとしては、好ましい実施形態において、アクリル酸(AA)、メタクリル酸(MAA)、イタコン酸などを用いることができ、カルボキシレート残基を除いた炭素数が3?8のカルボキシレート基含有不飽和重合性モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレートなどを用いることができる。すなわち、例えばメチル(メタ)アクリレートを用いることで、カルボキシレート残基を除いた炭素数が3?8のカルボキシレート基含有不飽和重合性モノマーが、金属カチオンとのアイオノマーを生成するためのカルボキシル基を有する不飽和重合性モノマーの全部または一部をなすことができる。なお、水系分散媒体などに添加しておく金属カチオン種としては、ナトリウム塩、カリウム塩などの1価のものを用いることができる他、カルシウム塩、アルミニウム塩などといった2?3価の金属カチオンのものを用いることで、架橋性を高め、最大膨張状態を維持するのにさらに有利になるようにすることができる。
・・・
【0020】
本発明で用いる発泡微粒子の平均粒子径は、発泡前の状態で、5?100μmであることが好ましく、より好ましくは10?50μm、更に好ましくは15?45μmである。また、加硫ゴム製品中に含まれる状態で、10?150μmであることが好ましく、より好ましくは10?100μm、更に好ましくは20?80μmである。平均粒子径がこの範囲よりも大きいと、トレッドから過度に脱落しやすくなるために耐摩耗性が低下する傾向にある。平均粒子径がこの範囲よりも小さいと、氷上制動性能の低下を招く。これは、平均粒子径が過度に小さくなった場合、引っ掻き効果が低下する傾向にあるためと考えられる。なお、本発明において、平均粒子径は、レーザ回折・散乱法により測定される値であり、下記実施例では、光源として赤色半導体レーザ(波長680nm)を用いる島津製作所製のレーザ回折式粒度分布測定装置「SALD-2200」を用いて乾式により測定した。また、加硫ゴム製品中での粒子径は、下記の空隙を求める方法と同一の方法で、加硫ゴムサンプル表面をカラーレーザー顕微鏡(KEYENCE VK-8510)で観察し、画像解析により数平均粒子径を求めることにより得ることができる。」

(2-4)「【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合に従い、タイヤ用トレッドゴム組成物を調製した。表1中の各成分は以下の通りである。
【0033】
・スチレンブタジエンゴムSBR(1):ランクセス社製の「Buna(商標)VSL 5025-0 HM」(スチレン含量25質量%、ビニル含量50質量%、Tg=-22℃、非油展、溶液重合)、
・スチレンブタジエンゴムSBR(2):JSR(株)製の「JSR 1502」(スチレン含量23.5質量%、非油展、乳化重合)、
・カーボンブラック:東海カーボン(株)製「N339シーストKH」(HAF‐HS級、窒素吸着比表面積BET=約90m^(2)/g)、
・シリカ:東ソー・シリカ株式会社製湿式シリカ「ニップシールAQ」、
・シランカップリング剤:デグサ社製「Si75」、
・オイル:(株)ジャパンエナジー製「プロセスNC140」。
【0034】
・発泡微粒子1:積水化学工業(株)、アドバンセルEM501。膨張開始温度165℃、最大膨張温度217℃、平均粒子径約30μm。;
・発泡微粒子2:積水化学工業(株)、アドバンセルEHM401。膨張開始温度147℃、最大膨張温度178℃、平均粒子径約30μm。;
*発泡微粒子1及び発泡微粒子2は、いずれも、以下の処方またはこれに類似の処方で合成したものと考えられる。二トリル系モノマー約65質量%と、メタクリル酸またイタコン酸約約32質量%と、架橋性モノマー約3質量%とからなるモノマー組成物を、イソペンタンの存在下に、水系分散媒体と混合しつつ重合させる。この際、モノマー組成物100質量部に対して約0.5質量部の塩化亜鉛に約2質量部の水酸化ナトリウムを予め添加しておいたものを金属カチオン供給体として用いた。膨張前及び膨張後のいずれにも、単独では、真球状の球殻をなしており、粒径も均一である。
【0035】
・発泡微粒子3:松本油脂製薬(株)、松本マイクロスフェアーF100。;
*発泡微粒子3は、メタクリル酸メチル架橋ポリマーであり、各粒子が一つの大きい中空部を有する球殻状をなす。粒径20?50μm、平均粒子径は約40μm。
【0036】
各ゴム組成物には、共通配合として、ジエン系ゴム100質量部に対し、下記の薬剤を下記の配合量にて配合した。:
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS-20」2質量部、
・亜鉛華:三井金属鉱業(株)製「亜鉛華1号」3質量部、
・老化防止剤:住友化学(株)製「アンチゲン6C」2質量部、
・ワックス:日本精鑞(株)製「OZOACE0355」2質量部、
・加硫促進剤:N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(住友化学(株)製「ソクシノールCZ」)1.5質量部、
・硫黄:鶴見化学工業(株)製「5%油処理粉末硫黄」2.1質量部。
【0037】
各ゴム組成物を用いてスタッドレスタイヤを作製し、耐摩耗性と、氷上路面における制動性能(氷上制動性能)を評価した。タイヤサイズは195/65R15として、そのトレッドに各ゴム組成物を適用し、常法に従い加硫成形することにより製造した。この際、原材料を混練するにあたっては、バンバリーミキサーを用いて、まず、硫黄及び加硫促進剤以外の成分を1ステップまたは2ステップで混合し、この後のステップで、硫黄及び加硫促進剤を混合した。混練の際の到達温度は、150℃前後であった。また、加硫成形は、ほぼ180℃10分に相当する条件で行った。なお、各使用リムは15×5.5JJとした。各測定・評価方法は次の通りである。
・・・
【0042】
・発泡率:上記のとおり加硫を行った加硫ゴムサンプルについて、表面をカラーレーザー顕微鏡(KEYENCE VK-8510)で観察し、単位面積当たりの空隙率を算出して発泡率(%)とした。
・・・
【0045】
【表1】

【0046】
表1のタイヤ評価結果のうち、まず、発泡率の結果について説明する。実施例1及び比較例2?3は、いずれも発泡微粒子を5質量部(phr)加えているが、発泡率は、大きく異なる。まず、「発泡微粒子1」を用いた実施例1では発泡率が32%であったのに対し、「発泡微粒子2」を用いた比較例1では3%に過ぎず、「発泡微粒子3」を用いた比較例2では0%であった。すなわち、この結果により、「発泡微粒子1」を用いた場合にのみ、充分にバルーン状の微粒子として加硫ゴム中に存在すると考えられた。一方、「発泡微粒子1」を、それぞれ、0.1,1,15及び30質量部(phr)加えた比較例4、実施例1、実施例3及び比較例5では、発泡率が、それぞれ5%,16%,45%及び70%となり、配合量を増やすに連れて発泡率が増大した。
【0047】
なお、データは省略するが、別の基本配合を有するタイヤトレッド用のゴム組成物に、「発泡微粒子1」?「発泡微粒子3」をそれぞれ5質量部(phr)配合し、上記のとおり加硫成形を行った後、ガラスナイフで切断した面を走査電子顕微鏡で観察したところ、発泡率の結果と符合する結果が得られている。実施例1と同様に「発泡微粒子1」を配合した場合、各発泡微粒子は、ある程度の変形を受けているものの、発泡後のバルーンの径及び形状をかなり保っており、バルーンが完全に押しつぶされたものや割れてちぎれたものは見られなかった。そのため、粒子径のばらつきは比較的少なかった。一方、比較例2と同様に「発泡微粒子2」を配合した場合、バルーン形状を維持しているものよりも押しつぶされたものの方が多く、完全に押しつぶされて点状に収縮(シュリンク)したものも多数見られた。また、比較例3と同様に「発泡微粒子3」を配合した場合、バルーン形状を維持している粒子の割合は、かなり低く、シュリンクした粒子の他、未発泡の粒子も少なからず見られた。未発泡の粒子は、発泡の際の膨張圧が、混練の際の成形圧、または、加硫成形の際の成形圧より小さかったか、または、発泡(膨張)の初期に殻(シェル)に亀裂が生じてガスが散逸したために生じたと考えられる。」

イ 甲2発明
甲2の記載事項、特に請求項1,3,4及び実施例に関する記載を整理すると、甲2には次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。

「スチレンブタジエンゴム(SBR)を70質量%以上含むジエン系ゴム100質量部に対し、補強用充填剤35?130質量部と、発泡開始温度が170℃以下である、殻(シェル)中に膨張剤が封入されているバルーン状の発泡性微粒子0.3?20質量部とを配合してなるゴム組成物を加硫したトレッドを備えた空気入りタイヤ。」

(3)甲3の記載事項等

ア 甲3の記載事項
甲3には、次の記載(以下、総称して「甲3の記載事項」という。)がある。

(3-1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100質量部に対し、平均粒径が10?50μmであって、最大発泡温度が200℃以上、発泡開始温度が170℃以下であるバルーン状の発泡性微粒子を0.3?20質量部配合してなることを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記発泡性微粒子は、殻(シェル)をなす熱軟化樹脂として、60質量%以上のニトリル系モノマーと、0.1?10質量%の金属カチオンと、1?20質量%のカルボキシル基を有する不飽和重合性モノマーと、0.1?5質量%の多官能性モノマーとからなるモノマー成分を重合して得られるものを用い、殻(シェル)中にこの軟化点以下の温度でガス状になる膨張剤が封入されていることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
・・・
【請求項4】
請求項1?3のいずれかに記載のゴム組成物からなるトレッドを備えた空気入りタイヤ。」

(3-2)「【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物に関し、より詳細には、例としてスタッドレスタイヤやスノータイヤなどの冬用タイヤ(ウインタータイヤ)のトレッドに好適に用いることのできるゴム組成物、及び、同ゴム組成物を用いてなる空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
氷雪路面では一般路面に比べて著しく摩擦係数が低下し滑りやすくなる。そのため、スタッドレスタイヤ等の冬用タイヤのトレッドに用いられるゴム組成物においては、氷上路面での接地性を高めるために、ガラス転移点の低いブタジエンゴム等の使用や軟化剤の配合により、低温でのゴム硬度を低く維持することがなされている。また、氷上摩擦力を高めるために、トレッドに発泡ゴムを使用したり、中空粒状体や、ガラス繊維、植物性粒状体等の硬質材料を配合することがなされている。」

(3-3)「【0016】
本発明のゴム組成物には、ジエン系ゴム100質量部に対し、各粒子内に1つの空洞を有する熱膨張性微粒子、すなわち、バルーン状の発泡微粒子が配合される。本発明における発泡微粒子は、熱軟化性の樹脂からなる殻(シェル)と、この殻の中に封入されて加熱時に内部からの膨張圧を供給する膨張剤とからなる。本発明で用いる発泡微粒子は、発泡開始温度が170℃以下、好ましくは150?170℃、より好ましくは160?170℃であり、最大熱膨張温度は、200℃以上、好ましくは200?240℃、より好ましくは210?230℃である。発泡開始温度及び最大熱膨張温度の測定は、熱機械分析装置(TMA;例えばTA instruments社製TMA2940)を用い、例えば0.1Nの加重を加えつつ5℃/分の昇温速度で80?250℃にわたって測定を行うことができる。具体的には、例えば、試料25μgを直径7mm、深さ1mmのアルミ製容器に入れ、上から0.1Nの力を加えた状態で、5℃/minの昇温速度で80℃から250℃まで加熱し、測定端子の垂直方向における変位を測定し、変位が上がり始める温度を発泡開始温度、その変位の最大値を最大変位量とし、最大変位量における温度を最大発泡温度とする。
・・・
【0018】
本発明で用いる発泡微粒子の殻(シェル)をなす熱軟化性樹脂は、好ましい実施形態において、原料となるモノマー成分が、60質量%以上のニトリル系モノマーと、0.1?10質量%の金属カチオンと、1?20質量%のカルボキシル基を有する不飽和重合性モノマーと、0.1?5質量%の多官能性モノマーとを含む。また、発泡微粒子の殻(シェル)をなす熱軟化性樹脂は、好ましくは、ニトリル系モノマーに由来するセグメントと、カルボキシレート残基を除いた炭素数が3?8のカルボキシレート基含有不飽和重合性モノマーに由来するセグメントとからなる。また、好ましい一実施形態において、金属カチオンとして2?3価のものを用いることができる。本発明で用いる発泡微粒子の製造は、例えば、次のようにして行うことができる。まず、金属カチオンを添加する前の上記のモノマー成分に重合開始剤を添加して均一に混合する。次いで、熱膨張剤としての上記炭化水素を加えて混合した後、上記の金属カチオン及び分散剤を含む水系分散媒体を加えて攪拌しつつ加熱し重合を行う。上記のニトリル系モノマーは、好ましい実施形態において、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、またはこれらの混合物である。カルボキシル基を有する不飽和重合性モノマーとしては、好ましい実施形態において、アクリル酸(AA)、メタクリル酸(MAA)、イタコン酸などを用いることができ、カルボキシレート残基を除いた炭素数が3?8のカルボキシレート基含有不飽和重合性モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ベンジルアクリレートなどを用いることができる。すなわち、例えばメチル(メタ)アクリレートを用いることで、カルボキシレート残基を除いた炭素数が3?8のカルボキシレート基含有不飽和重合性モノマーが、金属カチオンとのアイオノマーを生成するためのカルボキシル基を有する不飽和重合性モノマーの全部または一部をなすことができる。なお、水系分散媒体などに添加しておく金属カチオン種としては、ナトリウム塩、カリウム塩などの1価のものを用いることができる他、カルシウム塩、アルミニウム塩などといった2?3価の金属カチオンのものを用いることで、架橋性を高め、最大膨張状態を維持するのにさらに有利になるようにすることができる。
・・・
【0020】
本発明で用いる発泡微粒子の平均粒子径は、発泡前の状態で、5?100μmであることが好ましく、より好ましくは10?50μm、更に好ましくは15?45μmである。また、加硫ゴム製品中に含まれる状態で、10?150μmであることが好ましく、より好ましくは10?100μm、更に好ましくは20?80μmである。平均粒子径がこの範囲よりも大きいと、トレッドから過度に脱落しやすくなるために耐摩耗性が低下する傾向にある。平均粒子径がこの範囲よりも小さいと、氷上制動性能の低下を招く。これは、平均粒子径が過度に小さくなった場合、引っ掻き効果が低下する傾向にあるためと考えられる。なお、本発明において、平均粒子径は、レーザ回折・散乱法により測定される値であり、下記実施例では、光源として赤色半導体レーザ(波長680nm)を用いる島津製作所製のレーザ回折式粒度分布測定装置「SALD-2200」を用いて乾式により測定した。また、加硫ゴム製品中での粒子径は、下記の空隙を求める方法と同一の方法で、加硫ゴムサンプル表面をカラーレーザー顕微鏡(KEYENCE VK-8510)で観察し、画像解析により数平均粒子径を求めることにより得ることができる。」

(3-4)「【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0032】
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合に従い、スタッドレスタイヤ用トレッドゴム組成物を調製した。表1中の各成分は以下の通りである。
【0033】
・天然ゴム:RSS#3、
・ブタジエンゴム:JSR(株)製の「ハイシスBR」、
・カーボンブラック:東海カーボン株式会社製「シーストKH」(N339、HAF)、
・シリカ:東ソー・シリカ株式会社製湿式シリカ「ニップシールAQ」、
・シランカップリング剤:デグサ社製「Si75」、
・パラフィンオイル:株式会社ジャパンエナジー製「JOMOプロセスP200」。
【0034】
・発泡微粒子1:積水化学工業(株)、アドバンセルEM501。膨張開始温度165℃、最大膨張温度217℃、平均粒子径約30μm。;
・発泡微粒子2:積水化学工業(株)、アドバンセルEHM401。膨張開始温度147℃、最大膨張温度178℃、平均粒子径約30μm。;
*発泡微粒子1及び発泡微粒子2は、いずれも、以下の処方またはこれに類似の処方で合成したものと考えられる。二トリル系モノマー約65質量%と、メタクリル酸またイタコン酸約約32質量%と、架橋性モノマー約3質量%とからなるモノマー組成物を、イソペンタンの存在下に、水系分散媒体と混合しつつ重合させる。この際、モノマー組成物100質量部に対して約0.5質量部の塩化亜鉛に約2質量部の水酸化ナトリウムを予め添加しておいたものを金属カチオン供給体として用いた。膨張前及び膨張後のいずれにも、単独では、真球状の球殻をなしており、粒径も均一である。
【0035】
・発泡微粒子3:松本油脂製薬(株)、松本マイクロスフェアーF100。;
*発泡微粒子3は、メタクリル酸メチル架橋ポリマーであり、各粒子が一つの大きい中空部を有する球殻状をなす。粒径20?50μm、平均粒子径は約40μm。
【0036】
・竹炭粉砕物:孟宗竹の竹炭(宮崎土晃株式会社製「1号炭」)をハンマーミルで粉砕し、得られた粉砕物をふるいにより分級した竹炭粉末(平均粒子径100μm)。;
・樹脂処理植物性粒状体:市販クルミ殻粉砕物(株式会社日本ウォルナット製「ソフトグリット#46」)に対し、特開平10-7841号公報に記載の方法に準じてRFL処理液で表面処理を施したもの(処理後の植物性粒状体の平均粒子径は300μm)。
【0037】
各ゴム組成物には、共通配合として、ジエン系ゴム100質量部に対し、ステアリン酸(花王株式会社製「ルナックS-20」)2質量部、亜鉛華(三井金属鉱業株式会社製「亜鉛華1種」)2質量部、老化防止剤(住友化学株式会社製「アンチゲン6C」)2質量部、ワックス(日本精鑞株式会社製「OZOACE0355」)2質量部、加硫促進剤(住友化学株式会社製「ソクシノールCZ」)1.5質量部、及び、硫黄(鶴見化学工業株式会社製「粉末硫黄」)2.1質量部を配合した。
【0038】
各ゴム組成物を用いてスタッドレスタイヤを作製し、耐摩耗性と、氷上路面における制動性能(氷上制動性能)を評価した。タイヤサイズは195/65R15として、そのトレッドに各ゴム組成物を適用し、常法に従い加硫成形することにより製造した。この際、原材料を混練するにあたっては、バンバリーミキサーを用いて、まず、硫黄及び加硫促進剤以外の成分を1ステップまたは2ステップで混合し、この後のステップで、硫黄及び加硫促進剤を混合した。混練の際の到達温度は、150℃前後であった。また、加硫成形は、ほぼ180℃10分に相当する条件で行った。なお、各使用リムは15×5.5JJとした。各測定・評価方法は次の通りである。
・・・
【0040】
・発泡率:所定の温度で所定時間だけ加硫を行った加硫ゴムサンプルについて、表面をカラーレーザー顕微鏡(KEYENCE VK-8510)で観察し、単位面積当たりの空隙率を算出して発泡率(%)とした。;
・ミクロ強度(貯蔵弾性率E'):東洋精機(株)製の粘弾性試験機を使用し、周波数10Hz, 静歪10%, 動歪±0.25%, 温度-5℃の貯蔵弾性率E'を測定し、比較例1の値を100とした指数で示した。指数が大きいほど、貯蔵弾性率E'が大きく、ミクロレベルの強度が高いことを示す。即ち、配合されている粒子の強度が高いことを意味する。
・・・
【0044】
・加硫ゴム断面の観察:上記の「発泡微粒子1」?「発泡微粒子3」をそれぞれゴム成分100質量部に対して5質量部配合し、バンバリーミキサーにより上記各配合成分を配合して混練を行ってから加硫を行った。この後、ガラスナイフによる切断面を、走査電子顕微鏡(日立製 SEM S-3500N)により撮影した。得られた写真を、図1?3に示す。
【0045】
まず、図1?3を参照して、加硫ゴム中での粒子の状態について説明する。図1には、「発泡微粒子1」を配合した実施例について示すが、これら微粒子は、ある程度の変形を受けているものの、発泡後のバルーンの径及び形状をかなり保っており、バルーンが完全に押しつぶされたものや割れてちぎれたものは見られない。そのため、粒子径のばらつきは比較的少ない。一方、図2には、発泡開始温度及び最大膨張温度がより低い「発泡微粒子2」を配合した場合について示すが、バルーン形状を維持しているものよりも押しつぶされたものの方が多く、完全に押しつぶされて点状に収縮(シュリンク)したものも多数見られた。また、図3には、発泡開始温度及び最大膨張温度がさらに低い「発泡微粒子3」を配合した場合について示すが、バルーン形状を維持している粒子の割合は、かなり低く、シュリンクした粒子の他、未発泡の粒子も少なからず見られた。未発泡の粒子は、発泡の際の膨張圧が、混練の際の成形圧、または、加硫成形の際の成形圧より小さかったか、または、発泡(膨張)の初期に殻(シェル)に亀裂が生じてガスが散逸したために生じたと考えられる。
・・・
【0047】
次に、表1のタイヤ評価結果について説明する。「発泡微粒子1」を5質量部添加した実施例1では、竹炭または樹脂処理植物粒状体のみを5質量部添加した比較例2?3の場合に比べて、氷上制動性能が顕著に向上した。但し、耐磨耗性は、少し低かった。また、「発泡微粒子1」を1質量部添加した実施例2では、氷上制動性能の増加が比較的小さかった。また、「発泡微粒子1」を15質量部添加した実施例3では、実施例1に比べて氷上制動性能が同一かまたは、わずかに低下するものの、耐磨耗性の減少が大きく、実施例1に比べて不利であった。
【0048】
【表1】



イ 甲3発明
甲3の記載事項、特に請求項1,2,4及び実施例に関する記載を整理すると、甲3には次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認める。

「ジエン系ゴム100質量部に対し、平均粒径が10?50μmであって、最大発泡温度が200℃以上、発泡開始温度が170℃以下である、殻(シェル)中に膨張剤が封入されているバルーン状の発泡性微粒子を0.3?20質量部配合してなるゴム組成物を加硫したトレッドを備えた空気入りタイヤ。」

(4)甲4の記載事項
甲4には、次の記載(以下、総称して「甲4の記載事項」という。)がある。

(4-1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と親水性樹脂からなる繊維とを含有し、かつ前記繊維の表面に接着剤層が形成されてなることを特徴とするゴム組成物。
・・・
【請求項7】
さらに、発泡剤を含有することを特徴とする請求項1?6のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項8】
請求項7に記載のゴム組成物を加硫してなり、発泡率が1?60%であることを特徴とする加硫ゴム。」

(4-2)「【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な排水性を保持しつつ、優れた耐破壊力を発揮し得るゴム組成物及びこれを用いたタイヤに関し、特には、氷上性能に優れたタイヤに関する。」

(4-3)「【0034】
なお、上記発泡剤を含有するゴム組成物を加硫した後に得られる加硫ゴムにおいて、その発泡率は、通常1?50%、好ましくは5?40%である。発泡剤を配合した場合、発泡率が大きすぎるとゴム表面の空隙も大きくなり、充分な接地面積を確保できなくなるおそれがあるが、上記範囲内の発泡率であれば、排水溝として有効に機能する気泡の形成を確保しつつ、気泡の量を適度に保持できるので、耐久性を損なうおそれもない。ここで、上記加硫ゴムの発泡率とは、平均発泡率Vsを意味し、具体的には次式(I)により算出される値を意味する。
Vs=(ρ_(0)/ρ_(1)-1)×100(%)・・・(I)
式(I)中、ρ_(1)は加硫ゴム(発泡ゴム)の密度(g/cm^(3))を示し、ρ_(0)は加硫ゴム(発泡ゴム)における固相部の密度(g/cm^(3))を示す。」

(5)甲5の記載事項
甲5には、次の記載(以下、総称して「甲5の記載事項」という。)がある。

(5-1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と親水性樹脂とを含むゴム組成物であって、
前記ゴム成分に対して親和性を有する樹脂を前記親水性樹脂の少なくとも一部に被覆した複合体を含み、該複合体に空洞が形成されたことを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記ゴム組成物は、さらに発泡剤を含み、
該発泡剤を含むゴム組成物は、混練り及び加硫により発泡し、
前記ゴム成分に対して親和性を有する樹脂は、最高加硫温度よりも低い融点を有する低融点樹脂であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。」

(5-2)「【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な排水性を発揮し得るゴム組成物、加硫ゴム、及びそれらを用いたタイヤに関し、特には、氷上性能と耐摩耗性とのバランスに優れたタイヤに関する。」

(5-3)「【0029】
なお、上記発泡剤を含有するゴム組成物を加硫した後に得られる加硫ゴムにおいて、その発泡率は、通常1?50%、好ましくは5?40%である。発泡剤を配合した場合、発泡率が大きすぎるとゴム表面の空隙も大きくなり、充分な接地面積を確保できなくなるおそれがあるが、上記範囲内の発泡率であれば、排水溝として有効に機能する気泡の形成を確保しつつ、気泡の量を適度に保持できるので、耐久性を損なうおそれもない。ここで、上記加硫ゴムの発泡率とは、平均発泡率Vsを意味し、具体的には次式(I)により算出される値を意味する。
Vs=(ρ_(0)/ρ_(1)-1)×100(%)・・・(I)
式(I)中、ρ_(1)は加硫ゴム(発泡ゴム)の密度(g/cm^(3))を示し、ρ_(0)は加硫ゴム(発泡ゴム)における固相部の密度(g/cm^(3))を示す。」

(6)甲6の記載事項
甲6には、次の記載(以下、総称して「甲6の記載事項」という。)がある。

(6-1)「【請求項1】
天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴムからなるゴム成分に対して、金属酸化物、金属炭酸塩及び金属を含有する粘土鉱物よりなる群から選択される少なくとも一種の微粒子と親水性樹脂とからなる微粒子含有繊維と、下記一般式(I)で表わされるアルカノールアミドから選ばれる少なくとも1種と、発泡剤とを含有するゴム組成物をタイヤトレッド部に用いたことを特徴とする空気入りタイヤ。
【化1】

〔上記式(I)中において、R_(1)は、炭素数1?24のアルキル基又はアルケニル基を表し、該アルキル基及びアルケニル基は直鎖状、分枝鎖状及び環状の何れでもよく、また、R_(2)は、ヒドロキシアルキル基またはオキシアルキレンユニットを有するヒドロキシアルキル基であり、R_(3)は、水素原子、ヒドロキシアルキル基またはオキシアルキレンユニットを有するヒドロキシアルキル基である。〕」

(6-2)「【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性樹脂と微粒子とからなる微粒子含有繊維を含むゴム組成物をトレッド部に用いた空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、微粒子含有繊維の分散性を向上させ、加工性の向上、並びに、氷雪路面上での排水効果、スタッドレス効果を向上させて優れた氷上性能を発揮することができる空気入りタイヤに関する。」

(6-3)「【0045】
本発明(実施例を含む)の空気入りタイヤにおいて、タイヤトレッド部3の発泡率(Vs)は、3?50%が好ましく、3?40%が更に好ましく、特に好ましくは、5?35%が一層望ましい。
この発泡率が3%未満では、氷雪路面上の水を除去することができる長尺状気泡の体積が小さ過ぎ、排水性能が低下するおそれがあり、一方、50%を超えると、長尺状気泡の数が多過ぎ、タイヤの耐久性が低下する。なお、上記発泡率(Vs)は、長尺状気泡と、微粒子含有繊維を構成していた親水性樹脂の内部に留まらずに形成された気泡との合計の発泡率である。
【0046】
上記発泡率(Vs)(%)は、下記式:
Vs =(ρ_(0)/ρ_(1)-1)×100
[式中、ρ_(1)は加硫ゴムの密度(g/cm^(3))、ρ_(0)は加硫ゴムにおける固相部の密度(g/cm^(3))である]により算出できる。」


2 本件特許発明1について
(1)甲1発明との対比
本件特許発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「スタッドレスタイヤ」は、本件特許発明1の「空気入りタイヤ」、甲1発明の「キャップコンパウンド」は、本件特許発明1の「トレッド部」に相当するのは明らかである。
そして、甲1の上記1(1)ア(1-4)の実施例1,2の記載から明らかなとおり、発泡剤含有樹脂が含まれたゴム組成物を加硫した物は発泡ゴム層を備えることになるから、甲1発明の「(A)ジエン系ゴム100重量部及び(B)ブチルゴム100重量部に対して粒子径が10?200μmである発泡剤含有樹脂50?100重量部を配合したブチルゴムマスターバッチコンパウンド5?30重量部を含んでなるタイヤ用ゴム組成物をキャップコンパウンドに用いた加硫物であるスタッドレスタイヤ。」はキャップコンパウンド部分に、ジエン系ゴム及びブチルゴムより成る発泡ゴム層を備えているといえる。そうすると、本件特許発明1と甲1発明は、次の点で一致する。

「発泡ゴム層をトレッド部に用いた空気入りタイヤ。」

そして、両者は次の点で相違する。

ア 相違点1-1
「空気入りタイヤ」に関し、本件特許発明1においては、「【数1】

(式中、circularityは円形率、areaは気泡面積、perimeterは気泡周長である)
で定義される気泡の円形率が0.8?1.0を満たす」と特定されているのに対し、甲1発明においては、かかる特定がない点。

イ 相違点1-2
「空気入りタイヤ」に関し、本件特許発明1においては、「但し、熱膨張性マイクロカプセルを配合すると共に、該熱膨張性マイクロカプセルがアルコキシシラン誘導体にて表面処理を施されたものであることを特徴とするタイヤ用ゴム組成物を用いた空気入りタイヤを除く」と特定されているのに対し、甲1発明においては、そのように特定されていない点。

ウ 判断

事案に鑑み、まず、相違点1-1について検討する。

甲1発明には、「気泡の円形率」ましてや、気泡の円形率を表す【数1】を特定の値とすることについては全く記載されていないし、甲1において、
「気泡の円形率」についての言及は一切ない。
一方、本件特許明細書の段落【0033】の【表1】を参酌するに、発泡剤として4,4’-オキソビスベンゼンスルホニルヒドラジドを使用した実施例1,2、比較例1の記載からみて、発泡剤の粒径が4μm、12μm、14μmと大きくなるにつれて、気泡円形率が1、0.75、0.5と小さくなり、発泡剤の粒径と気泡円形率とが反比例の関係を示していること、また、本件特許明細書の段落【0014】には、「熱分解型化学発泡剤は、平均粒径が0.5?12μmであることが好ましく、0.5?10μmであることがより好ましく、0.5?5μmであることがさらに好ましい。発泡剤の平均粒径が12μmを超えると、発泡剤の粒内の熱分布が不均一となり、前記発泡剤の熱分布が不均一に起こり、円形率の低い気泡が生成する傾向がある。」と記載されていることから、気泡の円形率には、発泡剤の平均粒径が大きく影響を及ぼすと解される。
甲1発明の発泡剤含有樹脂粒子の粒子径は、10?200μmであり、上記段落【0014】に記載の数値範囲(0.5?12μm)と一部重複するが、本件特許明細書の段落【0014】及び実施例及び比較例の上記記載を参酌しても、甲1発明の発泡剤含有樹脂粒子の粒子径が、本件特許明細書における発泡剤の粒子径と同じであるかどうかは不明であるし、甲1発明の発泡剤樹脂粒子の粒子径が10?12μmの範囲である場合に、直ちに、甲1発明の気泡の円形率が、本件特許発明1の当該範囲を満たすとはいえない。

そうすると、相違点1-1は、実質的な相違点である。

エ まとめ
よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明ではない。

(2)甲2発明との対比
本件特許発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明における「殻(シェル)中に膨張剤が封入されているバルーン状の発泡性微粒子」は、甲2の上記1(2)ア(2-1)の請求項3及び同(2-3)の段落【0018】の記載からみて、殻をなす熱軟化樹脂と殻の中にこの軟化点以下の温度でガス状になる膨張剤が封入されているバルーン状の発泡性微粒子である。そして、甲2の同(2-3)の段落【0016】には、150?170℃で発泡が開始される旨、同(2-4)には、加硫温度が180℃である具体例が記載されており、加硫時に発泡性微粒子が発泡すると解されることから、甲2発明においても、発泡性微粒子を配合してなるゴム組成物を加硫したトレッドは発泡ゴム層を備えているといえる。そして、甲2発明の「トレッド」は、本件特許発明1の「トレッド部」に相当するのは明らかであるから、本件特許発明1と甲2発明は、次の点で一致する。

「発泡ゴム層をトレッド部に用いた空気入りタイヤ。」

そして、両者は次の点で相違する。

ア 相違点2-1
「空気入りタイヤ」に関して、本件特許発明1においては、「【数1】

(式中、circularityは円形率、areaは気泡面積、perimeterは気泡周長である)
で定義される気泡の円形率が0.8?1.0を満たす」と特定されているのに対し、甲2発明においては、かかる特定がない点。

イ 相違点2-2
「空気入りタイヤ」に関し、本件特許発明1においては、「但し、熱膨張性マイクロカプセルを配合すると共に、該熱膨張性マイクロカプセルがアルコキシシラン誘導体にて表面処理を施されたものであることを特徴とするタイヤ用ゴム組成物を用いた空気入りタイヤを除く」と特定されているのに対し、甲2発明においては、そのように特定されていない点。

ウ 判断

事案に鑑み、まず、相違点2-1について検討する。

甲2発明には、「気泡の円形率」ましてや、気泡の円形率を表す【数1】を特定の値とすることについては全く記載されていないし、甲2において、
「気泡の円形率」についての言及は一切ない。
一方、本件特許明細書の段落【0033】の【表1】を参酌するに、発泡剤として4,4’-オキソビスベンゼンスルホニルヒドラジドを使用した実施例1,2、比較例1の記載からみて、発泡剤の粒径が4μm、12μm、14μmと大きくなるにつれて、気泡円形率が1、0.75、0.5と小さくなり、発泡剤の粒径と気泡円形率とが反比例の関係を示していること、また、本件特許明細書の段落【0014】には、「熱分解型化学発泡剤は、平均粒径が0.5?12μmであることが好ましく、0.5?10μmであることがより好ましく、0.5?5μmであることがさらに好ましい。発泡剤の平均粒径が12μmを超えると、発泡剤の粒内の熱分布が不均一となり、前記発泡剤の熱分布が不均一に起こり、円形率の低い気泡が生成する傾向がある。」と記載されていることから、気泡の円形率には、発泡剤の平均粒径が大きく影響を及ぼすと解される。
甲2発明の発泡性微粒子の平均粒子径は、加硫ゴム製品中に含まれる状態で、10?150μmであり、上記段落【0014】に記載の数値範囲(0.5?12μm)と一部重複するが(甲2の上記(2)ア(2-3)段落【0020】)、本件特許明細書の段落【0014】及び実施例及び比較例の上記記載を参酌しても、甲2発明の発泡性微粒子の平均粒子径が、本件特許明細書における発泡剤の粒子径と同じであるかどうかは不明であるし、甲2発明の発泡性微粒子の粒子径が10?12μmの範囲である場合に、直ちに、甲2発明の気泡の円形率が、本件特許発明1の当該範囲を満たすとはいえない。

そうすると、相違点2-1は、実質的な相違点である。

エ まとめ
したがって、相違点2-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2に記載された発明であるとはいえない。

(3)甲3発明との対比
本件特許発明1と甲3発明を対比する。
甲3発明における「殻(シェル)中に膨張剤が封入されている発泡性微粒子」は、甲3の上記1(3)ア(3-1)の請求項2及び同(3-3)の段落【0016】の記載からみて、殻をなす熱軟化樹脂と殻の中にこの軟化点以下の温度でガス状になる膨張剤が封入されているバルーン状の発泡性微粒子である。そして、甲3の同【0016】には、150?170℃で発泡が開始される旨、同(3-4)には、加硫温度が180℃である具体例が記載されており、加硫時に発泡性微粒子は発泡すると解されることから、甲3発明においても、発泡性微粒子を配合してなるゴム組成物を加硫したトレッドは発泡ゴム層を備えているといえる。そして、甲3発明の「トレッド」は、本件特許発明1の「トレッド部」に相当するのは明らかであるから、本件特許発明1と甲3発明は、次の点で一致する。

「発泡ゴム層をトレッド部に用いた空気入りタイヤ。」

そして、両者は次の点で相違する。

ア 相違点3-1
「空気入りタイヤ」に関し、本件特許発明1においては、「【数1】

(式中、circularityは円形率、areaは気泡面積、perimeterは気泡周長である)
で定義される気泡の円形率が0.8?1.0を満たす」と特定されているのに対し、甲3発明においては、かかる特定がない点。

イ 相違点3-2
「空気入りタイヤ」に関し、本件特許発明1においては、「但し、熱膨張性マイクロカプセルを配合すると共に、該熱膨張性マイクロカプセルがアルコキシシラン誘導体にて表面処理を施されたものであることを特徴とするタイヤ用ゴム組成物を用いた空気入りタイヤを除く」と特定されているのに対し、甲3発明においては、そのように特定されていない点。

ウ 判断

事案に鑑み、まず、相違点3-1について検討する。

甲3発明には、「気泡の円形率」ましてや、気泡の円形率を表す【数1】を特定の値とすることについては全く記載されていないし、甲3において、
「気泡の円形率」についての言及は一切ない。
一方、本件特許明細書の段落【0033】の【表1】を参酌するに、発泡剤として4,4’-オキソビスベンゼンスルホニルヒドラジドを使用した実施例1,2、比較例1の記載からみて、発泡剤の粒径が4μm、12μm、14μmと大きくなるにつれて、気泡円形率が1、0.75、0.5と小さくなり、発泡剤の粒径と気泡円形率とが反比例の関係を示していること、また、本件特許明細書の段落【0014】には、「熱分解型化学発泡剤は、平均粒径が0.5?12μmであることが好ましく、0.5?10μmであることがより好ましく、0.5?5μmであることがさらに好ましい。発泡剤の平均粒径が12μmを超えると、発泡剤の粒内の熱分布が不均一となり、前記発泡剤の熱分布が不均一に起こり、円形率の低い気泡が生成する傾向がある。」と記載されていることから、気泡の円形率には、発泡剤の平均粒径が大きく影響を及ぼすと解される。
甲3発明の発泡性微粒子の平均粒子径は、加硫ゴム製品中に含まれる状態で、10?150μmであり、上記段落【0014】に記載の数値範囲(0.5?12μm)と一部重複するが(甲3の上記(3)ア(3-3)段落【0020】)、本件特許明細書の段落【0014】及び実施例及び比較例の上記記載を参酌しても、甲3発明の発泡性微粒子の平均粒子径が、本件特許明細書における発泡剤の粒子径と同じであるかどうかは不明であるし、甲3発明の発泡性微粒子の粒子径が10?12μmの範囲である場合に、直ちに、甲3発明の気泡の円形率が、本件特許発明1の当該範囲を満たすとはいえない。

そうすると、相違点3-1は、実質的な相違点である。

エ まとめ
したがって、相違点3-2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲3に記載された発明であるとはいえない。


3 本件特許発明2ないし4について
本件特許発明2ないし4に係る発明は、請求項1を直接又は間接的に引用し、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件特許発明1と同様に、本件特許発明2は、甲1?3それぞれに記載された発明であるとはいえず、本件特許発明3,4は、甲1に記載された発明であるとはいえない。


第6 申立理由3についての当審の判断

1 甲1ないし6の記載事項等

上記第5 1で記載されたとおりである。


2 本件特許発明4について

本件特許発明4は、本件特許発明1の発明特定事項を全て有するものであり、少なくとも甲1?3それぞれに記載された発明と相違点1-1、相違点2-1、相違点3-1において相違する。そして、上記第5での検討のとおり、相違点1-1、相違点2-1、相違点3-1は実質的な相違点である。

そして、甲4ないし6号証、並びに、異議申立人が提出したその他の甲各号証をみても、
「下記式
【数1】

(式中、circularityは円形率、areaは気泡面積、perimeterは気泡周長である)
で定義される気泡の円形率が0.8?1.0を満たす」発泡ゴム層をトレッド部に用いた空気入りタイヤは記載されていない。よって、甲1?3に記載された発明を本件特許発明4の相違点1-1、相違点2-1、相違点3-1に係る構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
また、本件特許明細書の記載(特に段落【0020】?【0032】及び【表1】)によると、本件特許発明1は「気泡の円形率」を「0.8?1.0」の範囲内の値とすることにより、同じ発泡剤を使用し、同じ発泡率を呈していても、タイヤの優れた耐摩耗性を発揮することができるという効果を奏するものであり、この効果は、当業者が予測し得ない格別の効果といえる。

そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲1?3に記載された発明それぞれに基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。


第7 結語
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠方法によっては、本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2018-11-02 
出願番号 特願2013-118554(P2013-118554)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (B60C)
P 1 651・ 121- Y (B60C)
P 1 651・ 113- Y (B60C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 増田 亮子  
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 渕野 留香
阪▲崎▼ 裕美
登録日 2018-01-05 
登録番号 特許第6267444号(P6267444)
権利者 住友ゴム工業株式会社
発明の名称 空気入りタイヤ  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  

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