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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) H01L
管理番号 1345909
判定請求番号 判定2018-600013  
総通号数 228 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2018-12-28 
種別 判定 
判定請求日 2018-04-06 
確定日 2018-11-01 
事件の表示 上記当事者間の特許第5014151号の判定請求事件について,次のとおり判定する。 
結論 判定請求書に示すイ号フリップチップボンダ「LFB-1000」は,特許第5014151号の請求項1に係る発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨
本件判定請求の趣旨は,イ号に係るフリップチップボンダ「LFB-1000」は,特許第5014151号の請求項1に係る発明の技術的範囲に属する,との判定を求めるものである(判定請求書(第2頁上段)の「5.請求の趣旨」には,「・・・特許第5014151号発明の技術的範囲に属する・・・」と記載されているところ,当該「特許第5014151号発明」は,判定請求書(第2頁中段ないし第14頁下段)の「6.請求の理由」における本件特許発明の説明やイ号との対比の記載からみて,「特許第5014151号の請求項1に係る発明」であると認める。)。

第2 本件特許発明
1 手続の経緯
平成18年11月30日 特許出願(特願2007-549089号。国 際出願,優先日平成17年12月6日,優先 権主張国日本。)
平成24年 5月22日 特許査定
同年 6月15日 特許権の設定登録(特許第5014151号)
平成27年 4月30日 無効審判請求(無効2015-800121号 )
平成28年 9月 9日 訂正請求(訂正明細書及び特許請求の範囲)
同年12月13日 審決(訂正認容,無効不成立,確定)
平成30年 4月 6日 判定請求(判定2018-600013号)
同年 6月11日 答弁書
同年 7月31日 弁駁書

2 特許請求の範囲の記載
本件特許発明は,別件無効審判事件(無効2015-800121号)における訂正明細書(以下,「本件特許明細書」という。)及び特許請求の範囲の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであり,これを符号を付して構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した構成要件を「構成要件A」などという。)。

A チップに加圧力を与えるツールと,
B 前記ツールが装着されたツールホルダと,
C 前記ツールホルダを上下動可能に支持するツールホルダ支持手段と,
D 前記ツールホルダ支持手段を上下動させる駆動手段と,
E 前記ツールホルダ支持手段に対するツールホルダの相対的な位置を検出するツールホルダ位置検出手段とを備えたチップ実装装置において,
F 前記ツールとチップとが重なって基板に接触しているときの前記ツールホルダの位置に基づいて,前記ツールホルダ位置検出手段により検出した前記ツールが加熱により熱膨張したときの前記ツールホルダの相対的な位置が所定値に到達したならば前記チップのバンプが溶融したと判断し,前記ツールの高さと前記加圧力とを制御し,前記ツールホルダの引き上げ量を演算し制御する駆動制御手段
G を備えたことを特徴とするチップ実装装置。

なお,請求人は,判定請求書(第3頁)の「6.請求の理由」の「(3)本件特許発明の説明」において,本件特許発明の「駆動制御手段」(構成要件F)及び「チップ実装装置」(構成要件G)とを,「前記ツールとチップとが重なって・・・前記ツールの高さと前記加圧力とを制御し,」と「前記ツールホルダの引き上げ量を演算し制御する駆動制御手段を備えたことを特徴とするチップ実装装置」の二つに分説し,それを前提として,イ号の説明や対比を行っている。
しかしながら,「前記ツールの高さと前記加圧力とを制御し」と「前記ツールホルダの引き上げ量を演算し制御する」は,いずれも,本件特許発明の「駆動制御手段」を特定するものであるから,分説してイ号と対比するのは相当でない。
したがって,当審では,本件特許発明を上記のとおり分説する。

3 本件特許明細書の記載
(1) 本件特許明細書の発明の詳細な説明には,本件特許発明の課題や効果に関連し,以下の記載がある(下線は,当審で付加した。以下同じ。)。
ア 「【背景技術】
【0002】
プリント基板等の基板に集積回路素子などのチップを実装する方法として,熱圧着による方法が知られている。この方法は,熱圧着ツールによりチップを基板に押圧するとともに,チップを加熱してチップの半田バンプを溶融させ,基板の電極にチップのバンプを半田接合するものである。この熱圧着過程においては,半田バンプが基板の電極に当接した時点では半田バンプは半田の融点以下の温度であり,半田バンプの当接からある時間経過後に半田バンプは溶融する。そして,半田バンプの溶融時点に関して,荷重検出手段による荷重検出値が所定値以下に減少したならば半田バンプが溶融したと判断し,熱圧着ツールを上昇させ所定高さで保持してヒータをOFFし,溶融した半田を冷却・固化させるチップ実装方法が知られている(例えば,特許文献1)。
【0003】
・・・
【特許文献1】特開平11-145197号公報
・・・
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら,特許文献1に記載されているように,半田バンプの溶融した時点を,チップの荷重検出手段の荷重検出値の変化で判断する方法の場合には,次の様な問題があった。まず,半田バンプを融点以上の温度になるように圧着ツールを加熱した時に,圧着ツールの下端部の高さが一定に保持されているために,半田が溶融するまでの間に,圧着ツールが熱膨張により高さ方向に伸びる。この圧着ツールの伸びにより,半田バンプには圧着ツールを含めた昇降ブロックの自重が応力としてかかる。そして,荷重検出値が所定値に達する前に半田が溶融し,圧着ツールの伸びも加わり,半田バンプを押し潰してしまうことがある。押し潰された半田バンプは連接した半田バンプの間でショート不良を発生し,製品の歩留まりおよび信頼性の低下を招くという問題が発生していた。特に,半田バンプのピッチがファインピッチ(例えば30μmピッチ)の半導体パッケージの場合においては,バンプ高さが低いために,わずかな熱膨張による圧着ツールの伸びでも,半田バンプを押し潰してしまい,隣接した半田バンプ間でショート不良が発生していた。また,半田バンプを押し潰さない荷重値を設定することが非常に困難であり,時間もかかるという問題があった。
【0005】
・・・
【0006】
そこで本発明の課題は,プリント基板等の基板に集積回路素子などのチップを実装するチップ実装において,隣接する半田バンプ間でのショート不良の発生を防止でき,接合後のチップと基板の間隔を所定の一定間隔とすることができる,歩留まりおよび信頼性の高いチップ実装装置およびチップ実装方法を提供することにある。」

イ 「【発明の効果】
【0017】
このように,本発明に係るチップ実装装置およびチップ実装方法によれば,プリント基板等の基板に集積回路素子などのチップを実装するチップ実装において,とくに,高速の信号処理を要求される半導体パッケージにおいても,隣接する半田バンプ間でのショート不良の発生を確実に防止できるようになり,接合後のチップと基板の間隔を確実にかつ安定して望ましい所定の一定間隔にすることができるようになる。その結果,歩留まりおよび信頼性の高いチップ実装を実現できる。」

(2) 本件特許明細書の発明の詳細な説明には,本件特許発明の具体的な実施形態に関連し,以下の記載がある。
ア 「【0031】
次いで,図6に示すように,ツール2の加熱にともない,ツール2が熱膨張しツールホルダ位置検出手段23とツールホルダ17の距離がX2となる。X2は,本発明における第3の位置に相当する。その際において,ツールホルダ17の自重を打ち消して数g(例えば1gから20g程度)の微小な加圧力で制御されているためにバンプ形状を損なわない。つまり,チップ1のバンプ1aが溶融する時にチップ1の荷重(加圧力)がバンプ1aのバンプ内部圧力(浮力)よりも低い圧力で加圧するようにできるので,半田の表層がチップ1の荷重(加圧力)で破壊されることがなく,バンプクラッシュを発生することがなくなる。
【0032】
その後,バンプ1aがツール2で加熱されて溶融し始める(図10のタイミングt3)。バンプ1aがツール2で加熱されて溶融が進むと,バンプ形状に歪みが発生しツールホルダ17がツール2と一体に下方に移動する。その際,ツールホルダ位置検出手段23とツールホルダ17の距離が前記X2から,さらに下方に移動したことを検出する。その検出値が所定値(図10のX3)になると,図7に示すように,バンプ1aが溶融したと判断している(図10のタイミングt4)。X3は,本発明における第4の位置に相当する。
【0033】
次いで,Z軸送り装置3による上方向への送りが開始されて,ツールホルダ位置検出手段23がX0を検出する。図8は,ツールホルダ17に対してツールホルダ支持手段15が最大に上昇された状態が示している(図10のタイミングt5)。ツールホルダ支持手段15の高さは,ツールホルダ支持手段15が図10のタイミングt1の時点の高さに比べ,ツール2の熱膨張によるZ軸方向の伸びH1から,t2のタイミングにおけるバンプ押し潰し量L1と,t4のタイミングにおけるバンプ溶融時の沈み込み量L2を引いた分だけ上方又は下方になるように駆動制御手段22によって制御されている(図10のd2。ツールホルダ17の引き上げ量)。この状態において,ツールホルダ支持手段15の内部のツールホルダ17の下端はツールホルダ支持手段15に接触しており,チップ1と基板5のギャップは,バンプ1aの高さと電極5aの高さを足した高さからバンプ押し潰し量L1とバンプ溶融時の沈み込み量L2を引いた高さだけとなり,ヒーターの熱膨張はキャンセルすることができる。」

イ 「【0039】
図11において(B)に示す図は,図10のタイミングt2におけるチップ1と基板5の状態を示している。チップ1の押し込み量は制御パラメータL1として駆動制御手段22で処理されている。L1は図10のバンプ1aの押し込み量d1,第1の位置X0,第2の位置X1からL1=d1-(X0-X1)の計算式で求められる。L1はチップ1のバンプ1aに作用する荷重(加圧力)の分だけ押し込まれることになる。
【0040】
図11において(C)に示す図は,図10のタイミングt5におけるチップ1と基板5の状態を示している。バンプ1aの溶融時の沈み込み量はパラメータL2として駆動制御手段22で処理されている。L2は図10の第3の位置X2,第4の位置X3からL2=X3-X2の計算式で求められる。また,ヒータの熱膨張によるZ軸方向の伸びをH1とすると,H1=X1-X2の計算式で求められる。図10において,バンプ1aの押し込み量d1とツールホルダ17の引き上げ量d2は,d1+d2=X0-X3の関係となっている。従って,ツールホルダの引き上げ量d2は,d2=H1-(L1+L2)となるように駆動制御手段22で計算されZ軸送り制御装置3を制御している。」

第3 イ号物件
1 甲号証の記載
(1) 甲3号証
判定請求書とともに提出された甲2号証(特願2010-128480号の早期審査に関する事情説明書)において,その請求項1に記載された電子部品実装装置を用いたLSI用フリップチップボンダを,製品名「LFB-1000」として製造・販売していると事情説明がされる,甲3号証(特開2011-254032号公報。以下,「甲3」という。)には,以下の記載がある。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱溶融する接合金属を介して電子部品の電極と基板の電極とを接合し,前記電子部品を前記基板の上に実装する電子部品実装装置であって,
前記基板と接離方向に駆動され,前記電子部品を前記基板に熱圧着するボンディングツールと,
前記ボンディングツールの前記基板との接離方向に駆動する駆動部と,
前記ボンディングツールの前記基板との接離方向の位置を検出する位置検出部と,
前記駆動部によって前記ボンディングツールの前記基板との接離方向の位置を変化させる制御部と,を備え,
前記制御部は,
前記電子部品を加熱しながら前記ボンディングツールが基準位置から所定の距離だけ前記基板に近づいた場合,前記電子部品の電極と前記基板の電極との間の前記接合金属が熱溶融したと判断し,その際の前記ボンディングツールの前記基板に対する接離方向の位置を保持するボンディングツール位置保持手段を有すること,
を特徴とする電子部品実装装置。」

イ 「【発明を実施するための形態】
【0016】
以下,本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。図1に示すように本発明の電子部品実装装置100は,ベース10と,ベース10から上部に向かって延びるフレーム11と,フレーム11の上部から張り出した上部フランジ12と,フレーム11の側面に上下方向に設けられたガイド14と,ガイド14に上下方向にスライド自在に取り付けられたスライダ16と,スライダ16に固定されてスライダ16と共に上下方向に移動可能な昇降ブロック15と,昇降ブロック15に固定されたナット17と,ナット17にねじ込まれる送りねじ18と,上部フランジ12に固定されて送りねじ18を回転させるモータ13と,昇降ブロック15の下部に取り付けられたボイスコイルモータ20と,ボイスコイルモータ20によって上下方向に移動するロッド26と,ロッド26の先端に取り付けられたセラミックヒータ27と,セラミックヒータ27の下端に取り付けられて電子部品31を吸着するボンディングツール28と,基板42を吸着固定するボンディングステージ41と,制御部50とを備えている。モータ13とボイスコイルモータ20とはボンディングツール28を上下方向に駆動する駆動部である。
【0017】
ボイスコイルモータ20は,ケーシング21と,ケーシング21の内周に沿って固定される永久磁石の固定子22と,固定子22の内周に配置される可動子であるコイル23と,を含んでいる。ロッド26は,ケーシング21に板ばね25を介して取り付けられている。また,ロッド26にはL字形でその垂直部分に細かな目盛りが設けられたリニアスケール61が固定されている。また,リニアスケール61と対向するケーシング21の外面には,リニアスケール61に設けられた目盛りを読み取るリニアスケールヘッド62が取り付けられている。リニアスケール61とリニアスケールヘッド62とはボンディングツール28の高さ方向の位置を検出する位置検出部を構成する。ボイスコイルモータ20のコイル23には電源19から駆動用電源が供給されている。ボンディングステージ41は内部にボンディングステージ41に吸着固定された基板42を加熱するステージヒータ48を備えている。
【0018】
・・・
【0019】
・・・
【0020】
図2に示すように,ボンディングツール28の先端に上下反転されて吸着された電子部品31は,表面に複数の電極32が設けられており,その各電極32の上に各金バンプ33が形成されている。金バンプ33は,電極32側の円板型の基部34と円錐形で基部から突き出した突部35とを有している。また,ボンディングステージ41に吸着固定された基板42は,表面に銅電極43が形成され,銅電極43の表面にはんだ皮膜44が形成されている。このはんだ皮膜44の厚さは非常に薄く,10から30μm程度である。電極32,金バンプ33と,基板の銅電極43はそれぞれ対向するように配置されている。
【0021】
図3に示すようにリニアスケール61はリニアスケール本体61aの上に非常に細かいピッチLで目盛り61bが設けられたものである。・・・リニアスケールヘッド62は信号処理部で上記の二相正弦波の出力差に基づいてリニアスケール61とリニアスケールヘッド62との相対的な移動量を出力する。移動量の検出精度は目盛り61bのピッチLが例えば,数μmの場合には1nm程度となる。
【0022】
以上のように構成された電子部品実装装置100によって図2に示した電子部品31を基板42に接合するボンディング動作について図4から図6を参照しながら説明する。ここで,電子部品は半導体チップ,トランジスタ,ダイオード等を含むものである。図2に示すように,電子部品31の電極32と基板42の銅電極43との位置合わせができたら,制御部50は図4のステップS101,図5の時間t_(1)からt_(2)に示すように,ボンディングツールを初期高さH_(0)から降下させる降下動作を開始する。この降下動作は,図1に示すモータ13を回転させて送りねじ18を回転させ,送りねじ18がねじ込まれているナット17が固定されている昇降ブロック15を下方向に移動させることによって行う。制御部50は,モータ13の回転角度によって降下位置を検出し,図4のステップS102に示すように図5に示す所定の高さH_(1)まで降下したかどうかを判断する。高さH_(1)まで降下すると,金バンプ33とはんだ皮膜44,銅電極43とは図6(a)に示すようにかなり接近しているが,まだ金バンプ33の突部35とはんだ皮膜44との間には隙間が開いている。降下動作ではボイスコイルモータ20,ロッド26,ボンディングツール28とが一体となって降下していくので,ロッド26に取り付けられているリニアスケール61とボイスコイルモータ20のケーシング21との間には高さの差が発生せず,リニアスケールヘッド62からの検出信号は初期出力から変動しない。
【0023】
そして,制御部50は,所定の高さH_(1)まで降下したと判断したらモータ13を停止させて降下動作を停止し,図4のステップS103に示すように,図2に示す金バンプ33の先端が基板42の銅電極43のはんだ皮膜44に当接する位置を検出するサーチ動作を開始する。図5の時間t_(2)からt_(3)に示すようにサーチ動作は金バンプ33の突部35の先端がはんだ皮膜44の表面に当接するまでボンディングツール28の高さを少しずつ下げて行く動作である。この,動作は例えば,次のようにボイスコイルモータ20のコイル23への通電電流を変化させることによって行う。
【0024】
制御部50がサーチ動作の降下位置の指令を出力すると,電源19はその降下位置の指令値に基づいてボイスコイルモータ20のコイル23に電流を通電する。すると,コイル23は下方向に移動し,その先端24がロッド26の上端に接触する。ロッド26は板ばね25によってケーシング21に取り付けられているので,コイル23に流れる電流が増加してコイル23の先端24がロッド26を押し下げ,その押し下げ力に応じて板ばね25がたわむと,ロッド26が下方向に移動してボンディングツール28の先端がしだいに降下していく。ロッド26が下方向に移動すると,ロッド26に固定されているリニアスケール61とボイスコイルモータ20のケーシング21との間の相対高さに差ができてくるため,リニアスケールヘッド62はリニアスケール61の移動量を検出する。制御部50はこのリニアスケールヘッド62の検出する信号の変化に基づいてボンディングツール28の降下位置を取得し,降下位置の指令値にフィードバックをかけて電源から出力する電流を調整する。そして,コイル23に流す電流を少しずつ増加させてボンディングツール28の先端を少しずつ降下させるサーチ動作を行うことができる。
【0025】
サーチ動作の間,制御部50は,図4のステップS104に示すように,当接検出手段によって金バンプ33の突部35の先端がはんだ皮膜44の表面に当接しているかどうかを監視している。金バンプ33の突部35の先端がはんだ皮膜44に当接すると,コイル23の下方向への移動が停止し,リニアスケールヘッド62によって検出する降下位置とサーチ動作の際の降下位置の指令値との間に差ができてくる。制御部50は,この降下位置の指令値とリニアスケールヘッド62によって検出した降下位置との差が所定の閾値を超えた場合に,金バンプ33の突部35の先端がはんだ皮膜44に当接したと判断する(当接検出工程)。なお,リニアスケール61の上下方向の位置は金バンプ33の突部35の先端がはんだ皮膜44に当接した際に目盛り61bの長手方向の中央がリニアスケールヘッド62の正面に来るように調整されているので,リニアスケールヘッド62は金バンプ33の突部35の先端がはんだ皮膜44に当接した位置を中心に上下方向の移動量を測定することができる。
【0026】
図4のステップS105,図5の時間t_(3)に示すように,制御部50は,金バンプ33の突部35の先端がはんだ皮膜44に当接したと判断したら,ボンディングツール28が基準位置の高さH_(2)に達したと判断し,その際のリニアスケールヘッド62によって検出した高さH_(2)をボンディングツール28の基準高さ(基準位置)として設定する(基準位置設定)。また,図6(b)に金バンプ33の突部35の先端がはんだ皮膜44に当接した状態を示す。
【0027】
制御部50は,基準高さを設定したら,図4のステップS106に示すように,ボンディングツール28が基板42を押し下げる押圧荷重が一定となる荷重一定動作を行う。この動作は,たとえば,ボイスコイルモータ20のコイル23に通電する電流の値が略一定となるようにして,コイル23の先端24がロッド26を押し下げる力が一定となるようにすることとしてもよい。また,先に述べたように,ボンディングツール28が基板42を押し下げる押圧荷重を検出する荷重センサを設け,この荷重サンサによって検出する押圧荷重が一定となる様にコイル23の電流を変化させるように制御してもよい。図4のステップS107に示すように,制御部50は,リニアスケールヘッド62によって検出した高さ方向の移動量と基準高さH_(2)との差をとって金バンプ33の突部35の先端がはんだ皮膜44に当接した際のボンディングツール28の高さH_(2)(基準高さ)から基板42に近づいた距離,つまり基準高さH_(2)からの下向きの移動距離を沈み込み量Dとして計算する。制御部50は,図4のステップS108に示す様に沈み込み量Dが所定の閾値を超えるかどうかの監視を開始する。
【0028】
図5の時間t_(1)から時間t_(3)の間は金バンプ33の突部35の先端がはんだ皮膜44に当接してないので,はんだ皮膜44の温度は図1に示すステージヒータ48によって基板42の温度と同じ温度T_(0)となっている。一方,電子部品31はボンディングツール28の上部に配置されたセラミックヒータ27によってより高温に加熱されている。このため,図5の時間t_(3)に金バンプ33の突部35の先端がはんだ皮膜44に当接すると,金バンプ33の突部35の先端からはんだ皮膜44に熱が伝わり始める。そして,図5の時間t_(4)になると,はんだ皮膜44の温度が上昇し始める。そして,図5の時間t_(4)から時間t_(5)にかけてはんだ皮膜44の温度が上昇していくと,それにつれて銅電極43の温度も上昇し,その結果,銅電極43とはんだ皮膜44とが熱膨張する。この間,押し下げ荷重は一定なので,ボンディングツール28の位置は,金バンプ33の先端がはんだ皮膜44に当接した際の基準高さH_(2)からしだいに上昇し,時間t_(5)には高さH_(3)まで上昇する。この際,ボンディングツール28の位置は基準高さH_(2)より高い高さH_(3)であるから,図5に示すように,基準高さH_(2)からの下向きの移動量D_(1)(=H_(2)-H_(3))はマイナスとなるので沈み込み量Dは所定の閾値を超えていない。
【0029】
図5に示す時間t_(5)にはんだ皮膜44の温度がはんだの溶融温度である温度T_(1)まで上昇すると,はんだ皮膜44の溶融が始まる。この際,ボンディングツール28は押圧荷重一定となるように制御されているので,図6(c)に示すように,金バンプ33の突部35が溶融したはんだ皮膜44の中に沈み込んでいく。つまり,図4に示す時間t_(5),高さH_(3)でボンディングツール28の高さが上昇から降下に変化する。そして,降下した突部35の周囲は溶融したはんだ45によって取り囲まれる。この様に,金バンプ33の突部35の先端がはんだ皮膜44の中に沈み込んで行くと,ボンディングツール28の高さは基準高さH_(2)よりも低い位置となり,基準高さH_(2)から下方向への移動量である沈み込み量Dがプラスとなっていく。そして,図5の時間t_(6)に示すように,ボンディングツールの高さが高さH_(4)となって沈み込み量D(=H_(2)?H_(4))が所定の値となると,図6(c)に示すように,金バンプ33の突部35の先端と基板42の銅電極43との間にははんだ皮膜44が数μmの厚みで存在した状態となる。そして,沈み込み量Dが所定の閾値を超えると,図4のステップS109に示すように,制御部50は,はんだ皮膜44が熱溶融したと判断して荷重一定制御を停止し,ボンディングツール28の高さが時間t_(6)の高さH_(4)で一定に保持するボンディングツール位置保持動作を開始する。
【0030】
この動作は,一例を挙げれば,ボンディングツール28の高さが高さH_(6)の状態のリニアスケールヘッド62によって検出する上下方向の移動量を検出し,基準高さH_(2)との差が所定の閾値以下となるようにボイスコイルモータ20のコイル23への通電電流を変化させるようにしてもよい。はんだ皮膜44の厚さは10から30μmであることから,ボンディングツール28の上下方向の位置をリニアスケールヘッド62によって1nm程度で計測,制御することによって,図6(c)に示すように,金バンプ33の突部35の先端と基板42の銅電極43との間にはんだ皮膜44による厚さ数μmの状態を維持することができる。
【0031】
・・・
【0032】
以上述べたように,本実施形態の電子部品実装装置100は,はんだ皮膜44の溶融をボンディングツール28の沈み込み量Dによって判断して,荷重一定制御からボンディングツール位置保持制御に移行するので,はんだ溶融による微小な沈み込み量Dの位置にボンディングツール28の高さを維持することができる。これによって,薄いはんだ皮膜44の厚さの中に金バンプ33の突部35の先端が位置し,金バンプ33の突部35の先端が基板42の銅電極43に接触しない状態ではんだを凝固させて電子部品31の実装を行うことができる。そして,金バンプ33の突部35と銅電極43とが接触することを抑制することができ,金バンプ33が変形して隣接する金バンプ33と接触して不良となったり,接触による荷重で電子部品が損傷したりすることを抑制することができ,ボンディングの品質を向上させることができる。」

(2) 甲4号証
判定請求書とともに提出された甲4号証(TSV・Cuピラー対応フリップチップ技術資料。以下,「甲4」という。)には,以下の記載がある。

ア 「■ TSV・Cuピラー対応フリップチップ技術
新川は,Cuピラー接続やTSV3次元実装に対応したフリップチップボンダLFB-1000を開発いたしました。
高密度実装への対応で必要となるフリップチップ工法を採用した半導体製造装置であり,狭ピッチ化を実現するためのさまざまな技術が盛り込まれています。
ここでは,LFB-1000の特長及び高精度・高信頼性を実現するために中核となる技術をご説明いたします。」(第1頁)

イ 「Cuピラー接続やTSV3次元実装に対応したフリップチップボンダLFB-1000
特長
1.はんだ溶け検出機能により安定したはんだ接続
2.高精度ボンディング
→高精度位置制御,振動抑制
3.Cuピラーはじめ,様々なフリップチップ工法に対応(オプション)」(第2頁)

ウ 「高信頼性と高生産性を実現するボンディングヘッド
・着地検出やはんだ溶け検出を可能にするための精密リニアエンコーダーを搭載
・高生産性を実現するパルスヒータをボンディングヘッドに搭載
・平坦性を確保するために球面座による平面倣い機構も装備」(第3頁)

エ 「Cuピラーボンディングプロセス
・下図のタイミングチャートにある○1(甲4では○囲み1)で示した着地検出と○2(甲4では○囲み2)で沈み込み深さの検出により,電極の直接的なコンタクトを回避でき,ファインピッチでのはんだブリッジ抑制が可能。
・ボンディングヘッドに搭載された高速エアー冷却システムにより,短時間冷却を実現。生産性の向上が図れる。」(第4頁)

2 イ号物件
ア 請求人の特定するイ号について
(ア) 請求人は,判定請求書(第4頁)において,判定請求書(第3頁)で分説した本件特許発明の構成要件(2)である「前記ツールが装着されたツールホルダ」と対比検討すべきイ号の構成bについて,「ロッド(26)の先端に取り付けられたセラミックヒータ(27)と,セラミックヒータ(27)の下端に取り付けられて電子部品(31)を吸着するボンディングツール(28)」と特定している。
しかしながら,前記第2の2のとおり,本件特許発明の構成要件Bは,「ツールホルダ」を特定するものであって,該「ツールホルダ」は,「ツールが装着された」ものである。
そうすると,本件特許発明の構成要件Bの「ツールホルダ」に対応するイ号の構成は,請求人が特定する「ボンディングツール(28)」ではなく,「ロッド(26)」である。したがって,イ号の構成bとしては,「ボンディングツール(28)が取り付けられたセラミックヒータ(27)がさらに取り付けられたロッド(26)」と特定するのが相当である。
また,同様に,イ号の構成cとしては,「ロッド(26)を上下方向に駆動するボイスコイルモータ(20)」と特定するのが相当である。

(イ) 請求人は,判定請求書(第4頁ないし第5頁)において,本件特許発明の「駆動制御手段」について,二つに分説し,イ号との対比を行っている。
しかしながら,前記第2の2のとおり,本件特許発明の「駆動制御手段」は,構成要件Fとして,分説せずに,イ号との対比をすべきであるから,当審では,本件特許発明の構成要件Fと対比検討すべきイ号の構成fとして,請求人が特定する構成fに構成gの一部を合わせて特定する。

イ 当審におけるイ号物件の特定
a.イ号に係るフリップチップボンダ「LFB-1000」(以下,「イ号物件」という。)は,電子部品を基板に熱圧着するボンディングツールを有する(前記1(1)ア【請求項1】)。
b.イ号物件は,ロッド26の先端に取り付けられたセラミックヒータ27と,セラミックヒータ27の下端に取り付けられて電子部品31を吸着するボンディングツール28を有する(前記1(1)イ【0016】)。
c.イ号物件は,ボイスコイルモータ20によって上下方向に移動するロッド26を有する(前記1(1)イ【0016】)。
d.イ号物件は,スライダ16に固定されてスライダ16と共に上下方向に移動可能な昇降ブロック15と,昇降ブロック15に固定されたナット17と,ナット17にねじ込まれる送りねじ18と,上部フランジ12に固定されて送りねじ18を回転させるモータ13と,昇降ブロック15の下部に取り付けられたボイスコイルモータ20を有する(前記1(1)イ【0016】)。
e.イ号物件は,ボイスコイルモータ20によって上下方向に移動するロッド26(前掲c)と,ロッド26に固定されたL字形でその垂直部分に細かな目盛りが設けられたリニアスケール61と,リニアスケール61に設けられた目盛りを読み取るリニアスケールヘッド62とを有しており,リニアスケール61とリニアスケールヘッド62とはボンディングツール28の高さ方向の位置を検出する位置検出部(前記1(1)イ【0017】)を構成している。
f.イ号物件は,制御部50を有しており,該制御部50は,金バンプ33の突部35の先端がはんだ皮膜44に当接したと判断したら,ボンディングツール28が基準位置の高さH2に達したと判断し,その際のリニアスケールヘッド62によって検出した高さH2をボンディングツール28の基準高さ(基準位置)として設定し(前記1(1)イ【0026】),ボンディングツール28が基板42を押し下げる押圧荷重が一定となる荷重一定動作を行わせ(前記1(1)イ【0027】),電子部品31はボンディングツール28の上部に配置されたセラミックヒータ27によってより高温に加熱されているため,はんだ皮膜44と銅電極43の温度が上昇し,その結果,銅電極43とはんだ皮膜44が熱膨張し,ボンディングツール28の位置が基準高さH2からしだいに上昇し(前記1(1)イ【0028】),はんだ皮膜44の温度がはんだの溶融温度である温度T1まで上昇すると,金バンプ33の突部35が溶融したはんだ皮膜44の中に沈み込み,沈み込み量Dが所定の閾値を超えると,はんだ皮膜44が熱溶融したと判断して荷重一定制御を停止し,ボンディングツール28の高さを一定に保持するボンディングツール位置保持動作を開始し(前記1(1)イ【0029】),ボンディングツール28の上下方向の位置をリニアスケールヘッド62によって計測,制御することによって,金バンプ33の突部35の先端と基板42の銅電極43との間にはんだ皮膜44による厚さ数μmの状態を維持する(前記1(1)イ【0030】)ように制御している。
g.イ号物件は,電子部品実装装置である(前記1(1)ア【請求項1】)。

したがって,当審では,イ号物件を,以下のとおりのものであると特定する(以下,分説した構成を「構成a」などという。)。

a.電子部品(31)を基板(42)に熱圧着する,ボンディングツール(28)と,
b.ボンディングツール(28)が取り付けられたセラミックヒータ(27)がさらに取り付けられたロッド(26)と,
c.ロッド(26)を上下方向に駆動するボイスコイルモータ(20)と,
d.昇降ブロック(15)の下部に取り付けられたボイスコイルモータ(20)を上下方向に移動させるモータ(13)と,
e.ボイスコイルモータ(20)によって上下方向に移動するロッド(26)に固定されたL字形でその垂直部分に目盛りが設けられたリニアスケール(61)と,ボイスコイルモータ(20)のケーシング(21)の外面に取り付けられたリニアスケール(61)に設けられた目盛りを読み取るリニアスケールヘッド(62)とにより,ボンディングツール(28)の高さ方向の位置を検出する位置検出部を備えた電子部品実装装置において,
f.電子部品(31)の金バンプ(33)の突部(35)の先端が基板(42)の銅電極(43)のはんだ皮膜(44)に当接したら,リニアスケールヘッド(62)によって検出した高さ(H2)をボンディングツール(28)の基準高さとして設定し,ボンディングツール(28)が基板(42)を押し下げる荷重一定制御を行い,ボンディングツール(28)の上部に配置されたセラミックヒータ(27)によって電子部品(31)を加熱し,はんだ皮膜(44)と銅電極(43)の温度が上昇し,その結果,はんだ皮膜(44)と銅電極(43)とが熱膨張し,ボンディングツール(28)の位置が基準高さ(H2)からしだいに上昇し,はんだ皮膜(44)の温度がはんだの溶融温度である温度(T1)まで上昇すると,金バンプ(33)の突部(35)が溶融したはんだ皮膜(44)の中に沈み込み,沈み込み量(D)が所定の閾値を超えるとはんだ皮膜(44)が熱溶融したと判断して荷重一定制御を停止し,ボンディングツール(28)の高さを一定に保持するボンディングツール位置保持動作を開始し,ボンディングツール(28)の上下方向の位置をリニアスケールヘッド(62)によって計測・制御することにより,金バンプ(33)の突部(35)の先端と基板(42)の銅電極(43)との間にはんだ皮膜(44)による厚さ数μmの状態を維持する制御手段
g.を備えた電子部品実装装置。

ウ 被請求人の主張について
被請求人は,答弁書(第3頁)において,イ号に係る「LFB-1000」は,甲3号証の請求項1や発明の詳細な説明の記載から特定されるものではないし,請求人が提出した証拠には開示されていない技術的構成を備えるものであるから,イ号に係る「LFB-1000」は,本件特許発明の技術的範囲に属しないことは明白であると主張する。
もっとも,被請求人は,請求人が判定請求書において主張するイ号に係る「LFB-1000」を前提とした場合であっても,本件特許発明の技術的範囲に属するものではないと主張し,答弁書において,その理由を述べている。
したがって,当審では,前記イのとおり,イ号物件を特定し,当該イ号物件が本件特許発明の技術的範囲に属するか否かを判断する。

第4 本件特許発明の各構成要件の充足性
1 構成要件A
イ号物件の「電子部品(31)」及び「ボンディングツール(28)」は,本件特許発明の「チップ」及び「ツール」に相当する。また,イ号物件の「ボンディングツール(28)」は,「電子部品(31)」を基板(42)に熱圧着するものであるから,「電子部品(31)」に加圧力を与えているといえる。
したがって,イ号物件の構成aは,本件特許発明の構成要件Aを充足する。

2 構成要件B
イ号物件の「ロッド(26)」は,本件特許発明の「ツールホルダ」に相当する。また,イ号物件の「ボンディングツール(28)」は,「ロッド(26)」に取り付けられているから,「ロッド(26)」に装着されているといえる。
したがって,イ号物件の構成bは,本件特許発明の構成要件Bを充足する。

3 構成要件C
イ号物件の「ボイスコイルモータ(20)」は,本件特許発明の「ツールホルダ支持手段」に相当する。また,イ号物件の「ボイスコイルモータ(20)」は,「ロッド(26)」を上下方向に駆動しているから,「ロッド(26)」を上下動可能に支持しているといえる。
したがって,イ号物件の構成cは,本件特許発明の構成要件Cを充足する。

4 構成要件D
イ号物件の「モータ(13)」は,本件特許発明の「駆動手段」に相当する。また,イ号物件の「モータ(13)」は,「ボイスコイルモータ(20)」を上下方向に移動させているから,「ボイスコイルモータ(20)」を上下動させているといえる。
したがって,イ号物件の構成dは,本件特許発明の構成要件Dを充足する。

5 構成要件E
イ号物件の「位置検出部」は,「ロッド(26)」に固定された「リニアスケール(61)」と,「ボイスコイルモータ(20)」に取り付けられた「リニアスケールヘッド(62)」により,「ボンディングツール(28)」の高さ方向の位置を検出しているところ,「ボンディングツール(28)」は「ロッド(26)」に取り付けられているから,間接的に,「ロッド(26)」の高さ方向の位置を検出しているということができ,当該位置は,「ボイスコイルモータ(20)」に対する「ロッド(26)」の相対的な位置であるといえる。
したがって,イ号物件の構成eは,本件特許発明の構成要件Eを充足する。

6 構成要件F
ア 当審の判断
構成要件Fは,「前記ツールとチップとが重なって基板に接触しているときの前記ツールホルダの位置に基づいて,前記ツールホルダ位置検出手段により検出した前記ツールが加熱により熱膨張したときの前記ツールホルダの相対的な位置が所定値に到達したならば前記チップのバンプが溶融したと判断し,・・・前記ツールホルダの引き上げ量を演算し制御」するものであるところ,「ツールホルダの相対的な位置」は,「ツールが加熱により熱膨張した」量を加味した位置であって,「ツールホルダ」が下方へ移動することによって(前記第2の3(2)ア),その位置が,所定値に到達したならば前記チップのバンプが溶融したと判断(【0032】)するものである。そうすると,逆に「ツールホルダ」を上方へ移動,すなわち,引き上げるときの「ツールホルダの引き上げ量」を演算する際には,それが「前記ツールホルダの位置に基づいて」いるから,当然,下方へ移動する際に考慮した「ツールが加熱により熱膨張した」量を含めて演算していると理解するのが自然である。
さらに,「前記ツールホルダの引き上げ量」は,「演算」の目的語となっていることから,演算の結果求められる特定の数値を意味すると解されるところ,その数値で「前記ツールホルダを上下動可能に支持するツールホルダ支持手段」(構成要件C)ないし「前記ツールホルダ支持手段を上下動させる駆動手段」(構成要件D)を「制御」するものであり,制御対象は「上下動」するのに対して,「引き上げ量」という一方向の量を用いていることから,その数値は,直ちに目標を達成できる目標値を意味すると解される。
そして,前記第2の3(1)のとおり,本件特許発明の課題は,半田バンプの溶融した時点を,チップの荷重検出手段の荷重検出値の変化で判断する方法の場合,圧着ツールを加熱して半田が溶融するまでの間に,圧着ツールが熱膨張によって高さ方向に伸び,荷重検出値が所定値に達する前に半田が溶融して半田バンプを押し潰してしまうことがあり,押し潰された半田バンプ間でショート不良を発生し,製品の歩留まりおよび信頼性の低下を招くという問題が発生していたこと,特に,半田バンプのピッチがファインピッチ(例えば30μmピッチ)の半導体パッケージの場合においては,バンプ高さが低いために,わずかな熱膨張による圧着ツールの伸びでも,半田バンプを押し潰してしまい,隣接した半田バンプ間でショート不良が発生し,また,半田バンプを押し潰さない荷重値を設定することが非常に困難であり,時間もかかるという問題があったというものであり,本件特許発明は,これらの課題を解決しようとするものである。そうすると,当該課題は,ツールの熱膨張による伸びがわずかであったとしても解決することができなくなるのであるから,ツールホルダを引き上げるときの「ツールホルダの引き上げ量」の演算は,「ツールが加熱により熱膨張した」量を考慮せずに行うとは考えがたく,かえって,考慮して演算していると理解されるし,そのような「ツールホルダの引き上げ量」を数値として正確に迅速に演算することで,課題を解決するものと認められる。
なお,前記第2の3(2)のとおり,本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された具体的な実施形態をみても,「ツールホルダの引き上げ量」は,熱膨張によるツールの伸びを計算(演算)したもののみが開示されており,ツールの熱膨張と無関係に演算を行う実施形態はないから,発明の詳細な説明を参酌したとしても,上記のとおり理解されるものである。
したがって,本件特許発明の構成要件Fの「ツールホルダの引き上げ量」は,「ツールが加熱により熱膨張した」量を含めて数値として演算していると解釈すべきであり,以下,これを前提に,イ号物件の構成fの充足性を検討する。
前記第3の2のとおり,イ号物件は,「ボンディングツール(28)の上下方向の位置をリニアスケールヘッド(62)によって計測・制御することにより,金バンプ(33)の突部(35)の先端と基板(42)の銅電極(43)との間にはんだ皮膜(44)による厚さ数μmの状態を維持する制御手段」を備えているものの,「ボンディングツール(28)の高さを一定に保持するボンディングツール位置保持動作」を開始するための制御手段であって,ボンディングツール(28)(本件特許発明の「ツール」に対応),あるいは,ロッド(26)(本件特許発明の「ツールホルダ」に対応)を引き上げるための制御手段ではないから,当然,その引き上げ量を演算することもない。
そして,前記第3の1(1)イのとおり,イ号物件を特定するための甲3をみても,【0028】に,銅電極(43)とはんだ皮膜(44)とが熱膨張することによって,ボンディングツール(28)の位置が基準高さH_(2)から次第に上昇し,高さH_(3)まで,移動量D_(1)(=H_(2)-H_(3))だけ上昇することが記載されているが(図5において,時間tがt_(4)からt_(5)の間),【0029】に記載されているように,はんだ皮膜(44)が熱溶融したと判断した後は,そのときのボンディングツールの高さH_(4)で一定になるように,「ボンディングツール(28)の高さを一定に保持するボンディングツール位置保持動作」が行われており(図5において,時間tがt_(6)からt_(7)の間),上記熱膨張によるボンディングツール(28)の移動量D_(1)は何ら考慮されていない。かえって,【0030】には,「ボンディングツール位置保持動作」について,「この動作は,一例を挙げれば,ボンディングツール28の高さが高さH_(6)の状態のリニアスケールヘッド62によって検出する上下方向の移動量を検出し,基準高さH_(2)との差が所定の閾値以下となるようにボイスコイルモータ20のコイル23への通電電流を変化させるようにしてもよい。」と記載されており,「ボンディングツール(28)」の「上下方向の移動量を検出し,基準高さH_(2)との差が所定の閾値以下となる」ように制御していることからすれば,「引き上げ量」という特定の数値を演算することなく,単に閾値以下の誤差を含んで,基準高さH_(2)に収束させる制御が行われているのであって,このような制御は,【0024】に記載されているような,検出値に基づくフィードバック制御であり,熱膨張によるボンディングツール(28)の移動量D_(1)に基づく演算とは何ら関連のない制御であるといえる。
そうすると,イ号物件の構成fは,ボンディングツール(28)やロッド(26)の引き上げ量を演算するものであるとはいえないし,ボンディングツール(28)やロッド(26)の高さ制御において,熱膨張によるボンディングツール(28)の移動量D_(1)を含めて演算するものであるともいえない。
したがって,イ号物件の構成fは,本件特許発明の構成要件Fを充足しない。

イ 請求人の主張について
(ア) 請求人は,判定請求書(第14頁)において,甲4の第4頁のタイミングチャートによれば,イ号物件では,VCM-Z実位置がVCM荷重制御からVCM位置制御に切り替わる際に,5μmの沈み込みに加えて,さらにマイナス方向にヒゲ状に降下した後,引き上げられVCM位置制御されているから,VCM位置制御を開始する際に,指令位置とVCM-Z実位置とを比較し,差を演算する制御が行われていると解され,ボンディングツールの引き上げ量を演算し制御することが含まれていると主張する。
しかしながら,甲4には,請求人が主張する,VCM-Z実位置がマイナス方向にヒゲ状に降下した後,引き上げられることについて,何故そのような現象となるのか,何ら説明はされていないし,ボンディングヘッド(甲3の「ボンディングツール」に対応すると解される。以下,「ボンディングツール」という。)が加熱により熱膨張することも記載されていない。かえって,ボンディングツールが一旦下方向に降下し,その後,上方向に引き上げられて一定の高さとなる制御が行われているのであるから,そのような制御は,前記アのとおり,検出値に基づくフィードバック制御であると理解するのが自然である。また,指令位置とVCM-Z実位置との差を演算しているとしても,その結果求められる数値は,直ちに目標を達成できる目標値ではなく,「ツールホルダの引き上げ量」を演算するものとはいえない。
そうすると,甲4の記載から,イ号物件において,「ツールホルダの引き上げ量」が,「ツールが加熱により熱膨張した」量を含めて,演算されているということはできない。
したがって,上記請求人の主張は採用できない。

(イ) 請求人は,弁駁書(第3頁ないし4頁)において,甲4の第4頁のタイミングチャートによれば,パルスヒータ温度が上昇するVCM荷重制御の過程では,ボンディングツールなどの熱膨張の影響で,VCM-Z実位置が約1μm上昇しており,VCM荷重制御からVCM位置制御に切り替わった後,パルスヒータ温度が下がる過程では,高速エアー冷却システムにより熱膨張が短時間で解消し,収縮が生じるはずであるところ,甲3のリニアスケールヘッド(62)はセラミックヒータ(27)から相当離れた位置を計測・制御するから,ボンディングツールの熱膨張や冷却による収縮を検知することは技術的に難易度が高いし,仮に,被請求人の主張するように,単にボンディングツールの高さを一定に保持する制御を行うにすぎないのであれば,タイミングチャートに記載された「この高さを位置制御で保持する」ことは,熱膨張や冷却による収縮の影響により達成困難となってしまうはずであるから,実際には熱膨張の影響を考慮した態様で制御がなされているとしか理解できないと主張する。
しかしながら,甲4には,ボンディングツールが熱膨張や冷却により収縮することは記載されていないし,仮に収縮したとしても,甲3のリニアスケールヘッド(62)は,ボンディングツール(28)が取り付けられたセラミックヒータ(27)がさらに取り付けられたロッド(26)に固定されたリニアスケール(61)の目盛りを1nm程度の精度で読み取るものであって(前記第3の1(1)イの【0017】,【0021】,【0030】),リニアスケールヘッド(62)とセラミックヒータ(27)との間の距離が,ボンディングツールの収縮の検知に影響を与えるものとはいえない。そして,イ号物件が,熱膨張によるボンディングツールの移動量を考慮せずに,また,「引き上げ量」という特定の数値を演算することなしに,ボンディングツールの高さを一定に保持する制御を行っていることは,前記アのとおりである。
したがって,上記請求人の主張は採用できない。

ウ 均等について
均等について,当事者間に争いがあるので,以下,判断する。
イ号物件が,本件特許の特許請求の範囲に記載された構成要件と均等なものとして,本件特許発明の技術的範囲に属するというためには,最高裁判決(平成6年(オ)第1083号(平成10年2月24日判決言渡))で判示された以下の要件をすべて満たす必要がある。
(第1要件)特許請求の範囲に記載された構成中のイ号と異なる部分が発明の本質的な部分ではない(発明の本質的な部分)。
(第2要件)前記異なる部分をイ号のものと置き換えても特許発明の目的を達成することができ,同一の作用効果を奏する(置換可能性)。
(第3要件)前記異なる部分をイ号のものと置き換えることが,イ号の実施の時点において当業者が容易に想到することができたものである(置換容易性)。
(第4要件)イ号が特許発明の出願時における公知技術と同一又は当業者が公知技術から出願時に容易に推考できたものではない(自由技術の除外)。
(第5要件)イ号が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外される等の特段の事情がない(禁反言:出願等の経緯の参酌)。

しかるところ,本件特許発明の構成要件Fの「駆動制御手段」について,「前記ツールホルダの引き上げ量を演算し制御」することは,別件無効審判事件(無効2015-800121号)において,訂正拒絶理由を解消するために,請求人によって平成28年9月9日付け訂正請求で付加された事項であり(乙1),これによって,「本件審判の請求は成り立たない。」との結論を得たものである。そうすると,請求人は,本件特許の特許要件を確認する手続において,「前記ツールホルダの引き上げ量を演算し制御」することを含まないものについて,特許請求の範囲から意識的に除外したと解されるような行動をとったものと理解することができる。
これに対し,イ号物件の構成fは,前記アのとおり,ツールホルダの引き上げ量を演算して制御するのではなく,イ号物件は,それを含まないものであると認められる。
そうすると,上記均等の要件のうち,第5要件を満たさないことは明らかである。
したがって,他の要件を判断するまでもなく,イ号物件の構成fは,本件特許発明の構成要件Fと均等なものとはいえない。

7 構成要件G
イ号物件の「電子部品実装装置」は,電子部品を実装する装置であるところ,電子部品は,チップということもできるから,「チップ実装装置」といえる。
したがって,イ号物件の構成gは,本件特許発明の構成要件Gを充足する。

8 本件特許発明の各構成要件の充足性のまとめ
前記1ないし7のとおり,イ号物件は,本件特許発明の構成要件AないしE及びGを充足するが,構成要件Fを充足しない。

第6 むすび
以上のとおりであるから,イ号物件は,本件特許発明の技術的範囲に属しない。
よって,結論のとおり判定する。
 
別掲
 
判定日 2018-10-23 
出願番号 特願2007-549089(P2007-549089)
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 田代 吉成  
特許庁審判長 加藤 浩一
特許庁審判官 深沢 正志
梶尾 誠哉
登録日 2012-06-15 
登録番号 特許第5014151号(P5014151)
発明の名称 チップ実装装置およびチップ実装方法  
代理人 伴 俊光  
代理人 澤井 光一  
代理人 細田 浩一  
代理人 岡田 誠  
代理人 大貫 敏史  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 江頭 あがさ  
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