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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  F16H
審判 全部無効 判示事項別分類コード:131  F16H
管理番号 1346220
審判番号 無効2015-800071  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-03-23 
確定日 2018-10-12 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4933764号「ドライブスプロケット支持構造」の特許無効審判事件についてされた平成28年 1月26日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(平成28年(行ケ)第10058号、平成28年10月26日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第4933764号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第4933764号の請求項1、3に係る発明についての特許を無効とする。 特許第4933764号の請求項2に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その3分の1を請求人の負担とし、3分の2を被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許第4933764号に係る発明についての出願(以下、「本件出願」という。)は、平成17年9月30日の出願であって、平成24年2月24日にその発明について特許の設定登録がなされた。
その後、請求人より平成27年3月23日に、本件請求項1ないし3に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」ないし「本件特許発明3」という。)の特許について特許無効審判の請求がなされた。

本件特許無効審判に係る手続の概要は、概略、以下のとおりである。
平成27年 3月23日 無効審判の請求
同年 6月12日 審判事件答弁書
同年 9月10日 審理事項通知書
同年10月29日 口頭審理陳述要領書(請求人)
同年10月29日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年11月19日 口頭審理
平成28年 1月26日付け 第1次審決
同年10月26日 知財高裁にて第1次審決取消し
同年11月30日付け 上申書(請求人)
同年12月 5日付け 訂正請求
同年12月 5日付け 上申書(被請求人)
同年12月 9日付け 上申書(2)(請求人)
同年12月12日付け 上申書(被請求人)
平成29年 2月14日付け 弁駁書
同年 2月14日付け 上申書(2)(被請求人)
同年 4月28日付け 審決の予告

第2 当事者の主張

1.請求人の主張の概要
(1)第1次審決までの主張
(ア)無効理由1
本件請求項1並びにこれを引用する本件請求項2及び3の記載は、特許法第36条第6項の規定に適合しないので、本件特許発明1ないし3に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。
(イ)無効理由2-1
本件特許発明1及び本件特許発明3は、甲第2号証(特開平4-337151号公報)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項の規定により特許を受けることができないものである。
(ウ)無効理由2-2
本件特許発明1及び本件特許発明3は、甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(エ)無効理由2-3
本件特許発明1及び本件特許発明3は、甲第2号証及び甲第3号証(実公平7-8858号公報)又は甲第4号証(特開2003-81140号公報)に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(オ)無効理由2-4
甲第2号証に記載された発明の変速機ハウジング51の円形開口部又はカバー52の円形開口部は、甲第3号証の心出突部2aと同様ドライブスプロケット21にポンプハブ11が挿入される前に、ドライブスプロケット21をハウジングアセンブリの所定位置に保持するものであるから、甲第2号証に記載された発明の変速機ハウジング51の円形開口部又はカバー52の円形開口部に換えて、甲第3号証の心出突部2aの技術を適用し、変速機ハウジング51にドライブスプロケット21の内周を保持する心出し部を設ける程度のことは当業者が容易に想到することができるものである。本件特許発明2は、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
(2)第1次審決、及び第1次審決取消し以降の主張
請求人は、平成28年11月30日付け上申書、同年12月9日付け上申書(2)及び平成29年2月14日付け弁駁書を総合すると、前記無効理由1ないし2-4について、概略以下のとおり主張している。
(ア)無効理由1
無効理由1を取り下げる(平成28年11月30日付け上申書)。
(イ)無効理由2-1?2-4
甲第2号証に記載された発明の認定並びに第1次審決に記載された相違点2及び3(第1次審決「第5 2(1)イ」参照)についての第1次審決の認定判断に誤りはない。そして、第1次審決に記載された相違点1(第1次審決「第5 2(1)イ」参照)は実質的な相違点であるとした第1次審決の認定は、当該審決の審決取消訴訟事件(知的財産高等裁判所平成28年(行ケ)第10058号)の判決において誤りとされた。さらに、平成28年12月5日付け訂正請求による訂正は、請求項1について、訂正前の特許請求の範囲の請求項2及び請求項3の限定事項の一部を減縮したにすぎないものである。審判請求書で主張した無効理由が解消されるものではない。

[証拠方法等]
甲第1号証:特許第4933764号特許掲載公報
甲第2号証:特開平4-337151号公報
甲第3号証:実公平7-8858号公報
甲第4号証:特開2003-81140号公報
甲第5号証:大西清著「機械工学入門シリーズ 機械設計入門(第3版)
」1998年3月3日 理工学社発行,第66-71ページ
甲第6号証:伊藤美光著「機械要素のシステム設計」1996年12月1
2日 日刊工業新聞社発行,第43-46,48-50,6
4-65ページ
甲第7号証:平成28年(行ケ)第10058号審決取消請求事件
「被告第1準備書面」第1,3-8ページ
甲第8号証:平成28年(行ケ)第10058号審決取消請求事件
「被告第1準備書面」第1,18-37ページ
甲第9号証:特開2004-11587号公報
甲第10号証:実公平1-22884号公報
甲第11号証:実公平5-27696号公報
甲第12号証:実願昭62-84789号(実開昭63-190648号
)のマイクロフィルム
甲第13号証:特開平1-257532号公報
甲第14号証:特開2002-292531号公報

2.被請求人の主張の概要
(1)第1次審決までの主張
被請求人は、答弁書等において、本件出願は、特許法第36条第6項の規定を満たし、本件特許発明1及び本件特許発明3は、甲第2号証に記載された発明ではなく、甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、甲第2号証及び甲第3号証又は甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件特許発明2は、甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、請求人の主張にはいずれも理由がない旨を主張している。
(2)第1次審決取消し以降の主張
被請求人は、平成28年12月5日付け上申書、同年12月12日付け上申書及び平成29年2月14日付け上申書(2)を総合すると、前記無効理由1ないし無効理由2-4について、概略以下のとおり主張している。
(ア)無効理由1
無効理由1の取下げに同意する(平成28年12月12日付け上申書)。
(イ)無効理由2-1
ア.甲第2号証の記載では、変速機ハウジング張出部(第1次審決「第5 2(1)ア(ア)」参照)の内側及びカバー52の内側の軸周り形状を特定することができない。
イ.甲第2号証に記載された発明は、ドライブスプロケット21の左側張出部及び右側張出部(第1次審決「第5 2(1)ア(ア)」参照)と変速機ハウジング張出部の内側又はカバー52の内側とが当接していると解するのが合理的であり、両者が当接していないとの解釈は成り立たない。
ウ.甲第2号証の図面の記載からは、同図に示されたボルト52aの取付位置及びクリアランスの大小関係を特定することができない。甲第2号証には、組付段階におけるドライブスプロケットのラフな位置決め(心だし)はおろか、何らかの組付順序を想起させるいかなる示唆も存在しない。
エ.前記「ア?ウ.」の理由から、甲第2号証には、後記訂正後の本件特許発明1(後記「第4」参照)の特定事項である「前記回転軸との嵌め合い前の前記ドライブスプロケットと嵌め合うことで前記ドライブスプロケットの回転中心を保持するものであって、その内周面または外周面が前記ドライブスプロケットの外周面または内周面と対向するドライブスプロケット保持部」が何ら記載・示唆されていない。
オ.したがって、後記訂正後の本件特許発明1と甲第2号証に記載された発明は、下記相違点4において実質的に相違する。
[相違点4]
本件特許発明1は、「前記回転軸との嵌め合い前の前記ドライブスプロケットと嵌め合うことで前記ドライブスプロケットの回転中心を保持するものであって、その内周面または外周面が前記ドライブスプロケットの外周面または内周面と対向するドライブスプロケット保持部が設けられ」ているのに対し、甲第2号証に記載された発明は、変速機ハウジング張出部の内側又はカバー52の内側がドライブスプロケット21の外側と部分的に対向しているものの、回転軸(ポンプハブ11)との嵌め合い前のドライブスプロケット21と嵌め合うことでドライブスプロケット21の回転中心を保持するかどうか不明であり、かつ、これらが内外周面として対向しているかどうかも不明である点。
カ.さらに、前記「ア?エ.」の理由から、前記相違点2及び3を実質同一とした第1次審決の認定判断は誤りである。したがって、後記訂正後の本件特許発明1と甲第2号証に記載された発明は、前記相違点2及び3においても実質的に相違する。
(ウ)無効理由2-2ないし2-4
甲第2号証には、本件特許発明1の「ドライブスプロケット保持部」に相当する部材が記載されておらず、また組付段階におけるドライブスプロケットのラフな位置決め(心だし)はおろか、何らかの組付順序を想起させるいかなる示唆も存在しない。さらに、前記相違点2及び3は、個別に判断すべきものではなく、一体で論じるべきものである。前記相違点2ないし4は、甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明し得るものではない。
甲第3号証又は甲第4号証の記載事項を甲第2号証に記載された発明に適用する動機付けが存在しないから、前記相違点2ないし4は、これらに基いて、当業者が容易に発明し得るものではない。

[証拠方法等]
乙第1号証:特開2004-11587号公報
乙第2号証:実公平1-22884号公報
乙第3号証:実開平2-91241号公報
乙第4号証:実願昭57-62559号(実開昭58-163743号)
のマイクロフィルム
乙第5号証:国際公開2004/085877号
乙第6号証:特開平11-303872号公報
乙第7号証:東京高裁平成8年(行ケ)第42号 平成9年9月18日判決

第3 平成28年12月5日付け訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)について

1.本件訂正請求の内容
本件訂正請求は、本件特許の特許請求の範囲を、平成28年12月5日付け訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?3について訂正することを求めるものであって、その内容は、以下のとおりである。

訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記回転軸との嵌め合い前の前記ドライブスプロケットと嵌め合うことで前記ドライブスプロケットの回転中心を保持するドライブスプロケット保持部」と記載されているのを、「前記回転軸との嵌め合い前の前記ドライブスプロケットと嵌め合うことで前記ドライブスプロケットの回転中心を保持するものであって、その内周面または外周面が前記ドライブスプロケットの外周面または内周面と対向するドライブスプロケット保持部」と訂正する。

2.当審の判断
(1)一群の請求項ごとに訂正を請求することについて
訂正事項1は、訂正前の請求項1の記載を訂正しようとするものであるところ、訂正前の請求項2及び3は、訂正前の請求項1を引用したものであるから、訂正前の請求項1ないし3は、特許法施行規則第45条の4に規定する関係を有する一群の請求項を構成する。
したがって、本件訂正請求は特許法第134条の2第3項の規定に適合する。
(2)訂正の目的の適否について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「前記回転軸との嵌め合い前の前記ドライブスプロケットと嵌め合うことで前記ドライブスプロケットの回転中心を保持するドライブスプロケット保持部」について、「その内周面または外周面が前記ドライブスプロケットの外周面または内周面と対向する」ことを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用する訂正前の請求項2及び3についても、同様に特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(3)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否かについて
願書に添付した特許請求の範囲の請求項2には、「前記ドライブスプロケットと前記スプロケット保持部は、前記ドライブスプロケットの内周面と前記スプロケット保持部の外周面が対向するようにそれぞれ配置されている」と記載され、願書に添付した明細書の段落0030には、「図3に示すように、張出部32の内周面とスプロケット保持部33の外周面とが対向するように、スプロケット保持部33を設けることとしてもよい。」と記載されている。
また、願書に添付した特許請求の範囲の請求項3には、「前記ドライブスプロケットと前記スプロケット保持部は、前記ドライブスプロケットの外周面と前記スプロケット保持部の内周面が対向するようにそれぞれ配置されている」と記載され、願書に添付した特許明細書の段落0029には、「張出部31は、その外周面がスプロケット保持部22の内周面に対向するように配置されている」と記載されている。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
(4)特許請求の範囲の実質上の拡張・変更の存否について
訂正事項1は、前記(2)で述べたとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
(5)小括
以上のことから、本件訂正請求による訂正事項1は、特許法特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ同法同条第2項及び第3項の規定並びに同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1ないし3について訂正を認める。

第4 本件特許発明

本件特許発明1ないし3は、願書に添付した明細書及び図面並びに平成28年12月5日付け訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲(以下、単に「訂正特許請求の範囲」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
ドライブスプロケットが軸方向に移動自在かつ回転方向に規制された状態でトルクコンバータからの回転が伝達された回転軸に係合したドライブスプロケット支持構造であって、
前記ドライブスプロケットは、前記回転軸と嵌め合うことで前記回転軸のみによって回転中心を定められ、
前記回転軸との嵌め合い前の前記ドライブスプロケットと嵌め合うことで前記ドライブスプロケットの回転中心を保持するものであって、その内周面または外周面が前記ドライブスプロケットの外周面または内周面と対向するドライブスプロケット保持部が設けられ、
前記スプロケット保持部と前記ドライブスプロケットとの間の嵌め合い間隙が前記回転軸と前記ドライブスプロケットとの間の嵌め合い間隙よりも大きく設定されていることを特徴とするドライブスプロケット支持構造。
【請求項2】
前記ドライブスプロケットと前記スプロケット保持部は、前記ドライブスプロケットの内周面と前記スプロケット保持部の外周面が対向するようにそれぞれ配置されていると共に、
前記ドライブスプロケットの内周面と前記スプロケット保持部の外周面との間に生じている間隙が、前記回転軸と前記ドライブスプロケットとの間の半径方向の間隙よりも大きく設定されていることを特徴とする請求項1に記載のドライブスプロケット支持構造。
【請求項3】
前記ドライブスプロケットと前記スプロケット保持部は、前記ドライブスプロケットの外周面と前記スプロケット保持部の内周面が対向するようにそれぞれ配置されていると共に、
前記ドライブスプロケットの外周面と前記スプロケット保持部の内周面との間の間隙が、前記回転軸と前記ドライブスプロケットとの間の半径方向の間隙よりも大きく設定されていることを特徴とする請求項1に記載のドライブスプロケット支持構造。」

第5 当審の判断

1.無効理由1について
無効理由1は、請求人により取り下げられた。

2.無効理由2-1ないし2-4について
(1)甲号証
(ア)甲第2号証
(ア-1)本件出願の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には、「トルクコンバータのポンプハブ支持構造」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。
a.「【請求項1】 トルクコンバータのポンプ部材に連結され、このトルクコンバータのステータシャフト上に回転自在に配設されたボンプハブと、このポンプハブの回転を油圧ポンプに伝達するチェーン機構とを備えてなり、前記ポンプハブの内周と前記ステータシャフトの外周との間に配設されたニードルベアリングを介して前記ポンプハブが前記ステータシャフトにより回転自在に支持されており、前記チェーン機構のドライブスプロケットが、前記ニードルベアリングと径方向にほぼ重なる位置において、前記ポンプハブの外周上に結合されていることを特徴とするトルクコンバータのポンプハブ支持構造。」
b.「【0005】・・・(中略)・・・従来のようにポンプハブの外周をベアリングを介して支持し、ポンプハブの後端部にチェーン機構を接続したのでは、ポンプハブに取り付けられるスプロケットの径が大きくなり、且つポンプハブの軸方向長さも長くなるという問題がある。本発明は以上のような問題に鑑み、ポンプハブの回転をチェーン機構を介して油圧ポンプに伝達する構造とするとともに全体構造のコンパクト化を図ることができるような構成のポンプハブ支持構造を提供することを目的とする。」
c.「【0007】
【実施例】以下、図面に基づいて本発明の好ましい実施例について説明する。図1に示すように、トルクコンバータ1は、ポンプ2、ステータ3およびタービン4から構成される。ポンプ2は図において左側に位置するエンジン(図示せず)の出力軸に連結され、エンジンの出力軸と同一回転で駆動される。ステータ3はワンウェイクラッチ5を介してステータシャフト6に連結支持されており、ステータシャフト6は変速機ハウジング51にボルト11aにより(図2参照)固定されている。タービン4はタービンハブ4aを介して変速機入力軸7に連結されており、タービン4の回転は変速機入力軸7から変速機50に入力される。なお、この変速機入力軸7はステータシャフト6と同軸で、ステータシャフト6内を貫通して配設されている。
【0008】ポンプ2の内径端部にはポンプハブ11が結合されており、このポンプハブ11はその内周に配設されたニードルベアリング12を介してステータシャフト6により回転自在に支持されている。このため、ポンプハブ11はポンプ2とともにエンジンと同一回転で駆動される。このポンプハブ11の周りを拡大して図2に示しており、以下においては、図2を併用して説明する。ポンプハブ11の外周には、ニードルベアリング12に対して径方向にほぼ重なるようにして、すなわち、軸方向にほぼ同位置に位置して、ドライブスプロケット21がスプライン結合して取り付けられている。
【0009】一方、油圧ポンプ30は、ポンプハブ11から径方向外方に離れた位置において変速機ハウジング51に取り付けられて配設されている。この油圧ポンプ30の駆動軸31にはドリブンスプロケット23がスプライン結合されて取り付けられており、このドリブンスプロケット23とポンプハブ11上のドライブスプロケット21とにチェーン22が巻掛けられてチェーン機構20が構成されている。なお、このチェーン機構20は、変速機ハウジング51とこれにボルト52aにより取り付けられたカバー52とにより囲まれたオイルシール13により封止された空間55内に配設される。」
d.「【0010】このため、エンジンによりポンプ2が回転駆動されると、ポンプハブ11およびドライブスプロケット21がエンジンと同一回転で駆動され、この回転がチェーン機構20を介して油圧ポンプ30に伝達されて、油圧ポンプ30が駆動される。この場合に、ドライブスプロケット21に作用する径方向力は、ドライブスプロケット21の内径側に位置するニードルベアリング12により受ける。このように、ニードルベアリング12およびドライブスプロケット21を軸方向ほぼ同じ位置に重なるように配設することにより、ドライブスプロケット21に作用する力をニードルベアリング12により確実に受けることができるだけでなく、この部分の軸方向寸法を短縮してこの部分の構造をコンパクト化することができる。」
そして、図1及び図2には、以下の事項が記載されている。
e-1.「ドライブスプロケット21は、その左側及び右側の内周側に左右に張り出す張出部(以下、「左側張出部」及び「右側張出部」という。)を有する。」
e-2.「ドライブスプロケット21は、その内周面において、ポンプハブ11と、2か所(ドライブスプロケット21の前記左側張出部の左端から中央部手前までと、中央部から右側張出部の右端まで)において接しており、そのうち、右側の部分は接する面に該当する部分に斜線等が付されていない細長い長方形が記載されているが、左側の部分にはそのような記載はない。」
e-3.「ドライブスプロケット21の左側張出部の外側は、少なくとも図1及び2に記載された断面上において、変速機ハウジング51にボルト52aで固定されたカバー52の内側に接している。」
e-4.「ドライブスプロケット21の右側張出部の外側の右端は、少なくとも図1及び2に記載された断面上において、変速機ハウジング51の左側に張り出す張出部(以下「変速機ハウジング張出部」という。)の内側に接している。」
e-5.「ドライブスプロケット21の中央部の左側を向く面(以下、「中央部左側面」という。)は、第1の部材(以下、「左側部材」という。)を介して、カバー52の右側面に対向する。」
e-6.「ドライブスプロケット21の中央部の右側を向く面(以下,「中央部右側面」という。)は、第2の部材(以下、「右側部材」という。)を介して、変速機ハウジング張出部の左端面に対向する。」
e-7.「ドライブスプロケット21の中央部の外周部には、斜線等が付されていない四角形が記載されている。」
e-8.「カバー52を変速機ハウジング51に結合するボルト52a(図1下端)は、図1及び2に記載された断面上への投影位置がトルクコンバータ1の外形よりも小さな径の位置となる位置に設けられている。」

(参考図)甲第2号証の図2の一部を拡大


(ア-2)前記記載事項からみて、以下の事項が認められる。
(ア-2-1)ドライブスプロケットがポンプハブの外周上に結合していること(記載事項a)、ドライブスプロケット21は、実施例においては、ポンプハブ11の外周にスプライン結合して取り付けられていること(記載事項c)が記載されているところ、スプライン結合された2つの部材は、相互に軸方向に移動自在であると解される。
そして、実施例において、ドライブスプロケット21がポンプハブ11と接している部分(記載事項e-2)のうち、前記の右側の長方形の部分がスプライン結合の構造を表していると解されるのであって、この部分においては、相互に軸方向に移動自在な状態で組み付けられていると認められる。
一方、前記の左側の部分については、前記の長方形に相当する部分が記載されておらず、記載事項e-2からは、この部分がスプライン結合であるとはいえない。
さらに、例えば記載事項cにあるとおり、甲第2号証には、ドライブスプロケット21とポンプハブ11が接している部分が左右2か所に分かれていることを区別せず、ドライブスプロケット21がポンプハブ11にスプライン結合により取り付けられている旨の記載しかない。そして、前記の右側の部分のみをポンプハブに対して軸方向に移動自在にしても、前記の左側の部分が固定されていては、ドライブスプロケット21がポンプハブ11に対して軸方向に移動することができなくなり、前記の右側の部分をポンプハブ11に対して軸方向移動自在にする意味がなくなる。
加えて、実施例において、ポンプハブ11は、ポンプ2の内径端部に結合されており、ポンプ2とともにエンジンと同一回転で駆動されること(記載事項c)、及びエンジンによりポンプ2が回転駆動されると、ポンプハブ11及びドライブスプロケット21がエンジンと同一回転で駆動されること(記載事項d)が記載されているところ、ドライブスプロケット21は、ポンプハブ11に対して回転方向に移動が規制されていると解される。
以上のことから、次の事項が認められる。
f.「ポンプハブ11の外周には、ドライブスプロケット21が、相互に軸方向移動自在かつ回転方向に移動が規制された状態でスプライン結合して取り付けられている。」
(ア-2-2)甲第2号証の図面には、ドライブスプロケット21は、その内周面において、ポンプハブ11と、2か所(ドライブスプロケット21の前記左側張出部の左端から中央部手前までと、中央部から右側張出部の右端まで)において接している(記載事項e-2)ように記載されている。
しかしながら、前記「第5 2.(1)(ア)(ア-2-1)」において検討したとおり、甲第2号証には、ドライブスプロケットがポンプハブの外周上に結合している旨(記載事項a)及びドライブスプロケット21がポンプハブ11の外周にスプライン結合して取り付けられている旨(記載事項c)記載されているところ、ドライブスプロケット21は、ポンプハブ11の外周に、相互に軸方向移動自在かつ回転方向に移動が規制された状態でスプライン結合して取り付けられていると認められる(認定事項f)。そして、相互に嵌め合い関係にあってかつ移動自在である2つの部材の間には嵌め合い間隙が存在することが技術常識である。
以上のことから、次の事項が認められる。
g.「ドライブスプロケット21とポンプハブ11との間には嵌め合い間隙が存在する。」
(ア-2-3)甲第2号証の図面には、ドライブスプロケット21の左側張出部の外側及び右側張出部の外側の右端は、少なくとも図1及び2に記載された断面上において、それぞれ、カバー52の内側及び変速機ハウジング張出部の内側に接している(記載事項e-3,e-4)ように記載されている。前記「第5 2.(1)(ア)(ア-2-2)」における検討から明らかなとおり、甲第2号証の図面に2つの部材が接しているように記載されていても、当該記載のみをもって、前記2つの部材が間隙なく接しているとは必ずしもいえないものの、少なくとも、ドライブスプロケット21の左側張出部の外側とカバー52の内側が近接しており、ドライブスプロケット21の右側張出部の外側の右端と変速機ハウジング張出部の内側が近接していることはいえる。
そして、ドライブスプロケット21は、エンジンによりポンプ2が回転駆動されると、エンジンと同一回転で駆動されること(記載事項d)が記載されているところ、ドライブスプロケット21の左側張出部及び右側張出部は、カバー52及び変速機ハウジング張出部によって回転を妨げられることがないよう構成されていると解される。
以上のことから、次の事項が認められる。
h.「ドライブスプロケット21の左側張出部及び右側張出部は、円筒状の外周面を有する。」
(ア-2-4)ドライブスプロケット21にチェーン22が巻掛けられること(記載事項c)が記載されているところ、ドライブスプロケット21の中央部の外周部の斜線等が付されていない四角形(記載事項e-7)は、チェーン22と噛合する、ドライブスプロケット21の歯を表し、当該四角形とドライブスプロケット21の中央部の斜線等が付されている部分との境界の線は、当該歯の歯底を表していると解される。
そうすると、ドライブスプロケット21の中央部左側面は、外周側をドライブスプロケット21の歯の歯底円により、内周側を左側張出部の外周面によりそれぞれ画定されており、ドライブスプロケット21の中央部右側面は、外周側をドライブスプロケット21の歯の歯底円により、内周側を右側張出部の外周面によりそれぞれ画定されているから、ドライブスプロケット21の左側張出部及び右側張出部が円筒状の外周面を有すること(認定事項h)を併せて考慮すれば、次の事項が認められる。
i.「ドライブスプロケット21の中央部左側面と中央部右側面は、環状面である。」
(ア-2-5)ドライブスプロケット21の中央部左側面は、左側部材を介して、カバー52の右側面に対向すること(記載事項e-5)、ドライブスプロケット21の中央部右側面は、右側部材を介して、変速機ハウジング張出部の左端面に対向すること(記載事項e-6)が記載されており、ドライブスプロケット21は、ポンプハブ11の外周に、相互に軸方向移動自在かつ回転方向に移動が規制された状態でスプライン結合して取り付けられている(認定事項f)ところ、ドライブスプロケット21は、左側部材を介してカバー52により、また右側部材を介して変速機ハウジング張出部により、軸方向の位置を規制されていると解されるから、回転中のドライブスプロケット21は、その中央部左側面が左側部材を介してカバー52の右側面に又はその中央部右側面が右側部材を介して変速機ハウジング張出部の左端面に摺接することがあるといえる。
ここで、甲第2号証の記載からは、左側部材及び右側部材が、それぞれ、カバー52の右側面及び変速機ハウジング張出部の左端面に対して固定されているかいないか、いずれとも特定できない。
仮に、左側部材及び右側部材が、それぞれ、カバー52の右側面及び変速ハウジング張出部の左端面に対して固定されているとして、まず検討する。左側部材が、カバー52の右側面に対して固定されているとすれば、当然、左側部材が、ドライブスプロケット21の中央部左側面に摺接し、軸受として機能することとなる。軸受として機能を奏することを考慮すれば、左側部材は、図1及び2に記載された断面上の二点以外の位置においても、ドライブスプロケット21の左側の外周部及び右側の外周部と摺接可能なように構成されていると解することが技術的に合理的である。逆に、左側部材が、当該二点のみにおいて、ドライブスプロケット21の左側の外周部と摺接するとすれば、当該二点を結ぶ線の方向を中心軸とするドライブスプロケット21の傾きを防ぐ手段が存在しないこととなり、ドライブスプロケット21の回転を適切に支持することができない。そうすると、左側部材は、環状面である、ドライブスプロケット21の中央部左側面と中央部右側面(認定事項i)に対向して、少なくとも部分的には環状に延在すると解するほかはなく、カバー52の右側面の、左側部材が固定される部分も、少なくとも部分的には環状に延在することとなる。そして、右側部材が変速機ハウジング張出部の左端面に対して固定されているとすれば、前記左側部材について検討したのと同様に、右側部材が固定される部分は少なくとも部分的には環状に延在することとなる。
一方、仮に、左側部材及び右側部材が、それぞれ、ドライブスプロケット21の中央部左側面及び中央部右側面に対して固定されているか、あるいはドライブスプロケット21及びカバー52又は変速機ハウジング張出部のいずれにも固定されていないとすれば、当然、ドライブスプロケット21が回転駆動される(記載事項d)のに伴い、左側部材及び右側部材は、ドライブスプロケット21と一体に又はつれ回りにより回転する。すなわち、左側部材及び右側部材は、それぞれ、カバー52の右側面及び変速機ハウジング張出部の左端面に対して、回転しつつ摺接する。ここで、左側部材及び右側部材が環状部材でなく、かつカバー52の右側面及び変速機ハウジング張出部の左端面も環状に延在していないとすると、左側部材及び右側部材が、それぞれ、カバー52の右側面及び変速機ハウジング張出部の左端面に回転しつつ摺接している間に、左側部材とカバー52の右側面とが、また右側部材と変速機ハウジング張出部の左端面とが全く接触していない状態が現出し、左側部材及び右側部材の回転を安定的に支持することができない。そうすると、左側部材及び右側部材が環状部材でないとすると、カバー52の右側面及び変速機ハウジング張出部の左端面は、環状に延在していると解するほかはない。さらに、前段で検討した、カバー52の右側面又は変速機ハウジング張出部の左端面に固定されているとすると、左側部材及び右側部材は少なくとも部分的には環状に延在すると解するほかはない理由と同様の理由により、左側部材及び右側部材が環状部材であるとすると、カバー52の右側面及び変速機ハウジング張出部の左端面は、少なくとも部分的には環状に延在すると解するほかはない。
そうすると、左側部材及び右側部材が、それぞれ、カバー52の右側面及び変速機ハウジング張出部の左端面に対して固定されているかいないかにかかわらず、左側部材が摺接する、カバー52の右側面の部分及び右側部材が摺接する、変速機ハウジング張出部の左端面の部分は、少なくとも環状に延在すると解するほかはない。
以上のことから、次の事項が認められる。
j.「カバー52の右側面の、左側部材に対向する部分及び変速機ハウジング張出部の左端面の、右側部材に対向する部分は、少なくとも部分的に環状に延在する。」
そして、当該事項及びドライブスプロケット21の左側張出部及び右側張出部が円筒状の外周面を有すること(認定事項h)、並びにドライブスプロケット21の左側張出部の外側は、少なくとも図1及び2に記載された断面上において、変速機ハウジング51にボルト52aで固定されたカバー52の内側に接し(記載事項e-3)、ドライブスプロケット21の右側張出部の外側の右端は、少なくとも図1及び2に記載された断面上において、変速機ハウジング張出部の内側に接している(記載事項e-4)ように記載されていることを併せて考慮すれば、次の事項も認められる。
k.「カバー52の内側と変速機ハウジング張出部の内側は、少なくとも部分的には円筒面状に延在する内周面になっており、
ドライブスプロケット21の左側張出部はカバー52に嵌合し、ドライブスプロケット21の左側張出部の外周面とカバー52の内周面が対向しており、
ドライブスプロケット21の右側張出部の右端は変速機ハウジング張出部に嵌合し、ドライブスプロケット21の右側張出部の外周面の右端と変速機ハウジング張出部の内周面が対向している。」
(ア-2-6)甲第2号証の図面には、ドライブスプロケット21の左側張出部の外側は、少なくとも図1及び2に記載された断面上において、変速機ハウジング51にボルト52aで固定されたカバー52の内側に接し(記載事項e-3)、ドライブスプロケット21の右側張出部の外側の右端は、少なくとも図1及び2に記載された断面上において、変速機ハウジング張出部の内側に接している(記載事項e-4)ように記載されている。しかしながら、先に述べたとおり、図面に2つの部材が接しているように記載されていても、当該記載のみをもって、前記2つの部材が間隙なく接しているとは必ずしもいえない。そして、甲第2号証の図面以外の部分には、ドライブスプロケット21の左側張出部の外周面(認定事項h)とカバー52の内周面(認定事項k)が、及びドライブスプロケット21の右側張出部の外周面(認定事項h)の右端と変速機ハウジング張出部の内周面(認定事項k)が間隙なく接しているか否かについて、直接的には何ら記載されていない。
ニードルベアリング12およびドライブスプロケット21を軸方向ほぼ同じ位置に重なるように配設することにより、ドライブスプロケット21に作用する径方向力をニードルベアリング12により確実に受けること(記載事項d)が記載されているところ、ドライブスプロケット21とポンプハブ11との間には嵌め合い間隙が存在する(認定事項g)から、ドライブスプロケット21の左側張出部の外周面とカバー52の内周面との間及びドライブスプロケット21の右側張出部の外周面の右端と変速機ハウジング張出部の内周面との間に嵌め合い間隙が存在しない場合、ドライブスプロケット21は、ポンプハブ11ではなく、カバー52及び変速機ハウジング張出部の内周面により径方向に拘束されることとなるから、ドライブスプロケット21に作用する径方向力をドライブスプロケット21の内径側に位置するニードルベアリング12により受けることにはならない。したがって、ドライブスプロケット21の左側張出部の外周面とカバー52の内周面との間及びドライブスプロケット21の右側張出部の外周面の右端と変速機ハウジング張出部の内周面との間には嵌め合い間隙が存在するといえる。
さらに、当該嵌め合い間隙がドライブスプロケット21とポンプハブ11との間の嵌め合い間隙よりも小さい場合も、ドライブスプロケット21の径方向の動きは、ポンプハブ11ではなく、カバー52及び変速機ハウジング張出部の内周面により制限されることとなり、ドライブスプロケット21に作用する径方向力をドライブスプロケット21の内径側に位置するニードルベアリング12により受けることにはならない。加えて、ドライブスプロケット21の左側張出部の外周面とカバー52の内周面との間及びドライブスプロケット21の右側張出部の外周面と変速機ハウジング張出部の内周面との間の嵌め合い間隙と、ドライブスプロケット21とポンプハブ11との間の嵌め合い間隙と、を等しく設定すると、工作精度による僅かな誤差により、前者が後者よりも小さくなり、ドライブスプロケット21に作用する径方向力をドライブスプロケット21の内径側に位置するニードルベアリング12により受けることができない結果となってしまうので、技術的に極めて不合理である。そうすると、ドライブスプロケット21に作用する径方向力をニードルベアリング12により確実に受けることができるようにするため、ドライブスプロケット21の左側張出部の外周面とカバー52の内周面との間及びドライブスプロケット21の右側張出部の外周面と変速機ハウジング張出部の内周面との間の嵌め合い間隙は、ドライブスプロケット21とポンプハブ11との間の嵌め合い間隙よりも大きく設定されていると解するほかはない。
以上のことから、次の事項が認定できる。
l.「ドライブスプロケット21の左側張出部の外周面とカバー52の内周面との間及びドライブスプロケット21の右側張出部の外周面の右端と変速機ハウジング張出部の内周面との間には嵌め合い間隙が存在し、当該嵌め合い間隙は、ドライブスプロケット21とポンプハブ11との間の嵌め合い間隙よりも大きい。」

なお、被請求人は、第1次審決の「ドライブスプロケット21が回転部材であるのに対し、カバー52及び変速機ハウジンク51が静止部材であることから、両者の間にすべり軸受部材等を介して摺動させる場合を除いて、両者の間に間隙を設けることが技術的に自明である」との認定(第1次審決 第5 2(1)ウ(ア)参照)は誤りであり、甲第2号証にはドライブスプロケット21をカバー52及び変速ハウジング51に対して摺動させない旨の記載はなく、甲第2号証の「ニードルベアリング12およびドライブスプロケット21を軸方向ほぼ同じ位置に重なるように配設」し、「ドライブスプロケット21に作用する径方向力は、ドライブスプロケット21の内径側に位置するニードルベアリング12により受ける」との記載事項はカバー52等によるドライブスプロケット21の外周側での支持を積極的に否定する根拠にならず、ドライブスプロケット21の支持形態として、別部材としての軸受部材を介装することなく、カバー52等(筺体)によって直受けで支持されているものと解することは、極めて合理的である旨主張している(平成28年12月5日上申書 4(5),平成29年2月14日上申書(2) 4(3)参照)。
被請求人は、第1次審決の前記認定が誤りである理由として、軸受部材を介装することなく筐体にて回転体を直受けで支持できることが本件出願時の技術常識であることを上げている。そして、軸受部材を介装することなく筐体にて回転体を直受けで支持する態様があることは、被請求人が主張するとおりである。しかしながら、図面に2つの部材が接しているように記載されていても、当該記載のみをもって、前記2つの部材が間隙なく接しているとは必ずしもいえないことは先に述べたとおりである。さらに、被請求人も認めるとおり、甲第2号証の図面以外の部分には、ドライブスプロケット21とカバー52、及びドライブスプロケット21と変速ハウジング51が間隙なく接しているか否かについて、直接的な記載はない。
被請求人は、「ドライブスプロケット21の支持形態として、別部材としての軸受部材を介装することなく、カバー52等(筺体)によって直受けで支持されているものと解することは、極めて合理的」であると判断される理由として、さらに「甲第2号証には、油圧ポンプ30の吐出油がトルクコンバータ1等に供給されること(【0011】)、カバー52及びをハウジング51によって区画された内部空間は、オイルシール13によって封止されていること(【0009】)、及び、この内部空間には、ドライブスプロケット21の中央部が臨んでいることが記載されている(上記【図2】参照)。内部空間がオイルシール13によって封止されていることから、この内部空間に潤滑油が供給されることは明白である。よって、これらの記載事項に照らせば、内部空間に配置されたドライブスプロケット21にも潤滑油が供給されて」いることを上げている(平成28年12月5日上申書 4(5)ア参照)。しかしながら、甲第2号証には、ドライブスプロケット21の左側張出部の外周面とカバー52の内周面との間及びドライブスプロケット21の右側張出部の外周面と変速機ハウジング張出部の内周面との間が油により潤滑されることはおらか、変速機ハウジング51とカバー52とにより囲まれた空間55に油が供給されるか否かすら記載されていない。さらに、オイルシール13が配設されている空間は、ドライブスプロケット21とポンプハブ11との間の嵌め合い間隙等を介して、変速ハウジング51とステータシャフト6とに囲まれた第2の空間46とも連通し得ると解され、第2の空間46内には油が流入していることを併せて考慮すれば、空間55がオイルシール13により封止されていても、当該空間に油が供給されるとはいい切れない。仮に、変速機ハウジング51とカバー52とにより囲まれた空間55がオイルシール13により封止されることから、当該空間に油が供給されることがいえるとしても、当該空間には、油圧ポンプの駆動軸にスプライン結合されて取り付けられたドリブンスプロケット23とドライブスプロケット21とにチェーンが巻掛けられて構成されているチェーン機構20等、潤滑の対象となり得る部材が配置されており、ドライブスプロケット21の左側張出部の外周面とカバー52の内周面との間及びドライブスプロケット21の右側張出部の外周面と変速機ハウジング張出部の内周面との間の潤滑のために油が供給されているとは必ずしもいえないから、当該空間に油が供給されることをもって、ドライブスプロケット21がカバー52等(筺体)によって直受けで支持されていると解することが合理的であるとはいえない。
そして、甲第2号証の「ニードルベアリング12およびドライブスプロケット21を軸方向ほぼ同じ位置に重なるように配設」し、「ドライブスプロケット21に作用する径方向力は、ドライブスプロケット21の内径側に位置するニードルベアリング12により受ける」との記載事項を含めた甲第2号証の記載から、認定事項lが認められることは、先に述べたとおりである。

(ア-3)前記記載事項、認定事項及び図示内容を総合し、本件特許発明1の記載ぶりに則って整理すると、甲第2号証には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「トルクコンバータ1のポンプ2に結合され、ポンプ2とともにエンジンと同一回転で駆動されるポンプハブ11の外周には、ドライブスプロケット21が、相互に軸方向移動自在かつ回転方向に移動が規制された状態でスプライン結合して取り付けられているドライブスプロケット21の取付構造であって、
ドライブスプロケット21の左側張出部はカバー52に嵌合し、ドライブスプロケット21の左側張出部の外周面とカバー52の内周面が対向しており、
ドライブスプロケット21の右側張出部の右端は変速機ハウジング張出部に嵌合し、ドライブスプロケット21の右側張出部の外周面の右端と変速機ハウジング張出部の内周面が対向しており、
ドライブスプロケット21の左側張出部の外周面とカバー52の内周面との間の嵌め合い間隙及びドライブスプロケット21の右側張出部の外周面の右端と変速機ハウジング張出部の内周面との間の嵌め合い間隙は、ドライブスプロケット21とポンプハブ11との間の嵌め合い間隙よりも大きい、
ドライブスプロケット21の取付構造。」
(イ)甲第3号証
(イー1)本件出願の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には、「自動変速機用オイルポンプのロータ心出構造」に関して、図面(特に、第1図、第2図、第4図参照。)とともに、以下の事項が記載されている。
m.「【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】ポンプハウジング及びポンプカバー間に画成された空間内にロータを具え、これらの組立状態で径方向の位置が定まらない前記ロータの中心孔に前記ポンプハウジング側より貫入したポンプ駆動軸を挿入して駆動結合し、この軸によりロータを駆動されてポンプ作用を行う自動変速機のオイルポンプにおいて、
前記空間を画成する前記ポンプカバーの内面の中心に心出突部を一体成形し、ポンプ駆動軸を挿入する前の前記組立状態で前記心出突部に遊嵌してロータを予備心出しておく心出係合部をロータに一体成形し、該予備心出し状態でロータに対するポンプ駆動軸の前記挿入を行うよう構成してなる自動変速機用オイルポンプのロータ心出構造。」
n.「(産業上の利用分野)
本考案は自動変速機用オイルポンプのロータをポンプ駆動軸との駆動結合作業が行い易くなるように心出しするための心出構造に関するものである。」(第2欄第1-4行)
o.「ところで、ポンプ駆動軸はトルクコンバータ、詳しくはエンジン駆動されるそのポンプインペラに一体であり、オイルポンプの組立後トルクコンバータの組付時にポンプ駆動軸をポンプハウジング側より前記の空間内に貫入してロータの中心部に駆動結合する組立手順を採用するのが普通である。
しかしてこの駆動結合時、ロータが上記空間内で径方向に動き得る状態にあるため、ロータ中心部にポンプ駆動軸を挿入する作業が困難を極める。」(第3欄第2-10行)
p.「以下、図示の実施例に基づき本考案を詳細に説明する。
第1図乃至第3図は本考案一実施の態様で、図中1はポンプハウジング、2はポンプカバーを夫々示し、これらの合体により両者間に画成された空間内にカムリング3と、これに内接する複数個のベーン4を径方向へ進退可能に有するロータ5とを相互に偏心して具え、ロータ5をポンプ駆動軸6により第2図中矢印α方向に回転する。ロータ5にはその両側面に環状窪み5aを形成し、これらにベーンリング7を夫々収納して各ベーン4をカムリング3の内周面に接触させた状態に保ち、相隣れるベーン4間にポンプ室8を画成する。」(第3欄第46行-第4欄第6行)
q.「ところで、本考案においては、ロータ5に対するポンプ駆動軸6の挿入結合を以下の構成により行う。即ち、ポンプ駆動軸6はトルクコンバータのポンプインペラ14に溶接15により一体化されており、オイルポンプの組立後トルクコンバータの組付けに当たり、ポンプ駆動軸6をポンプハウジング1の側より第1図の如くに挿入してロータ5の中心孔5bに嵌め込むことでロータ5に対する軸6の駆動結合を行う。この目的のため、ロータ中心孔5bは第2図の如く一部非円形とし、これに対応させて軸6の先端にその外周面を切除してなる平坦面6aを形成する。
そして、かかる軸6の挿入前に、ロータ5をポンプハウジング1及びポンプカバー2に対し心出ししておくための心出突部2aをポンプカバー2の内面に一体成形し、その外周を一部切欠いて第3図の如く平坦面2bを形成する。又この心出し時突部2aを嵌合すべき心出係合部としてのフランジ5cをロータ5に一体に設ける。
かかる構成時、ロータ5に対する軸6の駆動結合手順は次の通りである。つまり、軸6を挿入する前、ロータ5は第4図(a)に示すようにフランジ5cが心出部2aに嵌まり合って予備心出状態にある。ここで軸6を図中右方へ挿入すると、その先端テーパ面6aにガイドされることもあって軸6は難なくロータ中心孔5bに挿入される。軸6が完全に挿入されたところでロータ5は第4図(b)の如く、軸6により最終的な心出状態にされ、この時ロータのフランジ5cは心出突部2aから全周に亘り一定の隙間をもって離れ、これと一切接触せず、ポンプ駆動負荷の増大を併うこともない。」(第4欄第26行-第5欄第3行)
(イ-2)前記記載事項及び図示内容を総合すると、甲第3号証には、次の技術(以下、「甲3技術」という。)が記載されている。
「ポンプハウジング1とポンプカバー2の合体により両者間に画成された空間内にロータ5を具え、
トルクコンバータのポンプインペラ14に一体化されているポンプ駆動軸6をポンプハウジング1の側より挿入してロータ5の中心孔5bに嵌め込むことでロータ5に対する軸6の駆動結合を行い、
ポンプ駆動軸6の挿入前に、ロータ5をポンプハウジング1及びポンプカバー2に対し心出ししておくための心出突部2aをポンプカバー2の内面に一体成形し、この心出し時突部2aを嵌合すべき心出係合部としてのフランジ5cをロータ5に一体に設け、
ポンプ駆動軸6を挿入する前、ロータ5はフランジ5cが心出突部2aに嵌まり合って予備心出状態にあり、
ポンプ駆動軸6が完全に挿入されたところでロータ5はポンプ駆動軸6により最終的な心出状態にされ、ロータのフランジ5cは心出突部2aから全周に亘り一定の隙間をもって離れ、これと一切接触しない。」
(2)対比判断
(ア)本件特許発明1について
(ア-1)対比
本件特許発明1と引用発明を対比すると、引用発明の「ドライブスプロケット21」及び「トルクコンバータ1」は、その構成及び機能からみて、それぞれ、本件特許発明1の「ドライブスプロケット」、「トルクコンバータ」に相当する。引用発明の「ポンプハブ11」は、トルクコンバータ1のポンプ2に結合され、ポンプ2とともにエンジンと同一回転で駆動されるから、本件特許発明1の「回転軸」に相当し、引用発明の「トルクコンバータ1のポンプ2に結合され、ポンプ2とともにエンジンと同一回転で駆動されるポンプハブ11」は、本件特許発明1の「トルクコンバータからの回転が伝達された回転軸」に相当する。
そうすると、引用発明の「トルクコンバータ1のポンプ2に結合され、ポンプ2とともにエンジンと同一回転で駆動されるポンプハブ11の外周には、ドライブスプロケット21が、相互に軸方向移動自在かつ回転方向に移動が規制された状態でスプライン結合して取り付けられているドライブスプロケット21の取付構造」は、本件特許発明1の「ドライブスプロケットが軸方向に移動自在かつ回転方向に規制された状態でトルクコンバータからの回転が伝達された回転軸に係合したドライブスプロケット支持構造」に相当する。
本件特許発明1の「ドライブスプロケット保持部」は、「その内周面または外周面が前記ドライブスプロケットの外周面または内周面と対向する」ものである。一方、引用発明の「カバー52」は、その内周面が「ドライブスプロケット21の左側張出部の外周面と」「対向」するものであり、「変速機ハウジング張出部」は、その内周面が「ドライブスプロケット21の右側張出部の外周面の右端と」「対向」するものであるから、引用発明の「カバー52」及び「変速機ハウジング張出部」は、本件特許発明1の「ドライブスプロケット保持部」と、「その内周面または外周面が前記ドライブスプロケットの外周面または内周面と対向する」部材である点において一致する。
そうすると、引用発明の「ドライブスプロケット21の左側張出部はカバー52に嵌合し、ドライブスプロケット21の左側張出部の外周面とカバー52の内周面が対向しており、ドライブスプロケット21の右側張出部の右端は変速機ハウジング張出部に嵌合し、ドライブスプロケット21の右側張出部の外周面の右端と変速機ハウジング張出部の内周面が対向して」いる態様は、本件特許発明1の「前記回転軸との嵌め合い前の前記ドライブスプロケットと嵌め合うことで前記ドライブスプロケットの回転中心を保持するものであって、その内周面または外周面が前記ドライブスプロケットの外周面または内周面と対向するドライブスプロケット保持部が設けられ」ている態様と、「その内周面または外周面がドライブスプロケットの外周面または内周面と対向する部材が設けられている」点において一致し、
引用発明の「ドライブスプロケット21の左側張出部の外周面とカバー52の内周面との間の嵌め合い間隙及びドライブスプロケット21の右側張出部の外周面の右端と変速機ハウジング張出部の内周面との間の嵌め合い間隙は、ドライブスプロケット21とポンプハブ11との間の嵌め合い間隙よりも大きい」態様は、本件特許発明1の「前記スプロケット保持部と前記ドライブスプロケットとの間の嵌め合い間隙が前記回転軸と前記ドライブスプロケットとの間の嵌め合い間隙よりも大きく設定されている」態様と、「その内周面または外周面がドライブスプロケットの外周面または内周面と対向する部材とドライブスプロケットとの間の嵌め合い間隙が回転軸とドライブスプロケットとの間の嵌め合い間隙よりも大きく設定されている」点において一致する。
さらに、引用発明の「ドライブスプロケット21」は、「ポンプハブ11」の外周に取り付けられているから、該ポンプハブ11と嵌め合わされているといえる。そして、ポンプハブ11と嵌め合わされることにより、ドライブスプロケット21の回転中心が定められることは、明らかである。さらに、引用発明は、「ドライブスプロケット21の左側張出部はカバー52に嵌合し、ドライブスプロケット21の左側張出部の外周面とカバー52の内周面が対向しており、ドライブスプロケット21の右側張出部の右端は変速機ハウジング張出部に嵌合し、ドライブスプロケット21の右側張出部の外周面の右端と変速機ハウジング張出部の内周面に対向して」いるものの、「ドライブスプロケット21の左側張出部の外周面とカバー52の内周面との間の嵌め合い間隙及びドライブスプロケット21の右側張出部の外周面の右端と変速機ハウジング張出部の内周面との間の嵌め合い間隙は、ドライブスプロケット21とポンプハブ11との間の嵌め合い間隙よりも大きい」から、ドライブスプロケット21の径方向への移動は、ポンプハブ11のみによって拘束されることとなる。結果として、ドライブスプロケット21は、ポンプハブ11と嵌め合わされていることにより、ポンプハブ11のみによって回転中心を定められていることとなる。
そうすると、引用発明の、「ポンプハブ11の外周には、ドライブスプロケット21が、」「取り付けられて」おり、「ドライブスプロケット21の左側張出部はカバー52に嵌合し、ドライブスプロケット21の左側張出部の外周面とカバー52の内周面が対向しており、ドライブスプロケット21の右側張出部の右端は変速機ハウジング張出部に嵌合し、ドライブスプロケット21の右側張出部の右端の外周面と変速機ハウジング張出部の内周面が対向しており、ドライブスプロケット21の左側張出部の外周面とカバー52の内周面との間の嵌め合い間隙及びドライブスプロケット21の右側張出部の外周面の右端と変速機ハウジング張出部の内周面との間の嵌め合い間隙は、ドライブスプロケット21とポンプハブ11との間の嵌め合い間隙よりも大きい」態様は、本件特許発明1の「前記ドライブスプロケットは、前記回転軸と嵌め合うことで前記回転軸のみによって回転中心を定められ」ていることにも相当する。

以上のことから、本件特許発明1と引用発明は、
「ドライブスプロケットが軸方向に移動自在かつ回転方向に規制された状態でトルクコンバータからの回転が伝達された回転軸に係合したドライブスプロケット支持構造であって、
前記ドライブスプロケットは、前記回転軸と嵌め合うことで前記回転軸のみによって回転中心を定められ、
その内周面または外周面が前記ドライブスプロケットの外周面または内周面と対向する部材が設けられ、
その内周面または外周面が前記ドライブスプロケットの外周面または内周面と対向する部材と前記ドライブスプロケットとの間の嵌め合い間隙が前記回転軸と前記ドライブスプロケットとの間の嵌め合い間隙よりも大きく設定されている、
ドライブスプロケット支持構造。」
である点で一致し、以下の点で一応相違している。
【相違点1】
本件特許発明1は、その内周面または外周面がドライブスプロケットの外周面または内周面と対向する部材が、回転軸との嵌め合い前のドライブスプロケットと嵌め合うことでドライブスプロケットの回転中心を保持するドライブスプロケット保持部であるのに対し、
引用発明は、その内周面または外周面がドライブスプロケットの外周面または内周面と対向する部材であるカバー52及び変速機ハウジング張出部が、ポンプハブ11との嵌め合い前のドライブスプロケット21と嵌め合うことでドライブスプロケット21の回転中心を保持するものであるか否か明らかではない点。
(ア-2)判断
前記相違点1について検討する。
訂正特許請求の範囲の請求項1の記載からみて、本件特許発明1は、「ドライブスプロケットが軸方向に移動自在かつ回転方向に規制された状態でトルクコンバータからの回転が伝達された回転軸に係合したドライブスプロケット支持構造」(下線は、当審で付加した。)に係る「物」の発明である。
そして、願書に添付した明細書及び図面(特に明細書段落0028?0030,0033)を参照すると、前記相違点1に係る、本件特許発明1を特定する事項である「前記回転軸との嵌め合い前の前記ドライブスプロケットと嵌め合うことで前記ドライブスプロケットの回転中心を保持する」点は、本件特許発明1に係る「物」である「ドライブスプロケットが軸方向に移動自在かつ回転方向に規制された状態でトルクコンバータからの回転が伝達された回転軸に係合したドライブスプロケット支持構造」を組み立てる過程において、本件特許発明1を特定する事項である「ドライブスプロケット保持部」が「その内周面または外周面がドライブスプロケットの外周面または内周面と対向」していることにより奏される作用であって、本件特許発明1に係る「物」である「ドライブスプロケットが軸方向に移動自在かつ回転方向に規制された状態でトルクコンバータからの回転が伝達された回転軸に係合したドライブスプロケット支持構造」の「ドライブスプロケット保持部」に、「その内周面または外周面がドライブスプロケットの外周面または内周面と対向」していること以上に何ら差異をもたらすものではない。
そうすると、前記相違点1に係る、本件特許発明1を特定する事項である「前記回転軸との嵌め合い前の前記ドライブスプロケットと嵌め合うことで前記ドライブスプロケットの回転中心を保持する」点は、本件特許発明1に係る「物」である「ドライブスプロケットが軸方向に移動自在かつ回転方向に規制された状態でトルクコンバータからの回転が伝達された回転軸に係合したドライブスプロケット支持構造」に何ら差異をもたらすものではない。
したがって、前記相違点1は、実質的な相違点とはいえない。

なお、仮に「前記回転軸との嵌め合い前の前記ドライブスプロケットと嵌め合うことで前記ドライブスプロケットの回転中心を保持する」ことが、本件特許発明1に係る「物」である「ドライブスプロケットが軸方向に移動自在かつ回転方向に規制された状態でトルクコンバータからの回転が伝達された回転軸に係合したドライブスプロケット支持構造」の「ドライブスプロケット保持部」について、「その内周面または外周面が前記ドライブスプロケットの外周面または内周面と対向」していることに加えて、何らかの特定をするものであるとして、以下検討する。
甲第2号証に関する「カバー52を変速機ハウジング51に結合するボルト52a(図1下端)は、トルクコンバータ1の外形よりも小さな径の位置にあり、ドライブスプロケット21をポンプハブ11と結合した後に、変速機ハウジング51とカバー52とを組み付けることはできないことが明らかである。そうすると、ドライブスプロケット21とポンプハブ11との組み付けは、まず、変速機50に組み付けられた変速機ハウジング51にドライブスプロケット21とチェーン22を組み込み、その後、カバー52をかぶせてボルト52aで固定してアセンブリとし、これにトルクコンバータ側のアセンブリを組み付けることにより、ドライブスプロケット21とポンプハブ11とを結合させて組み付けることが理解できる。」との第1次審決の認定(第1次審決 第5 2(1)ア(ア-4)参照)に対して、被請求人は、以下の〔1〕?〔3〕の理由から、第1次審決の前記組付順序の認定は失当である旨主張している(平成28年12月5日上申書 4(3)イ(ウ),平成29年2月14日上申書(2) 4(9)参照)。
〔1〕甲2号証の図面の記載からは図1の下端に記載されているボルト52aが図1及び2に記載された断面上に位置するとは断定できないから、ボルト52aの位置がトルクコンバータ1によって覆われていない位置である可能性を否定できず、この場合、ドライブスプロケット21とポンプハブ11との結合の前後を問わず、ボルト52aを用いたハウジング51とカバー52との組み付けを行うことが可能である。
〔2〕仮に、図1の下端に記載されているボルト52aがトルクコンバータ1によって覆われた位置であったとしても、甲第2号証の図面の記載からは、ボルト52aの足の長さとドライブスプロケット21とポンプハブ11との間におけるクリアランス(当審注:平成28年12月5日上申書図5の記載からみて、「トルクコンバータ1とカバー52のクリアランス」の誤記と認められる。)の大小関係を断定できず、前記クリアランスが十分に大きければ、ポンプハブ11との結合後でもボルト52aを側面より取付可能である。
〔3〕図1に示された構成を紙面左側から組み立てる方法も考えられる。この方法では、まず、トルクコンバータ1のポンプハブ11にカバー52を取り付け、次に、ドライブスプロケット21をポンプハブ11にスプライン結合し、ドリブンスプロケット23とチェーン機構20をセットした後、紙面右側の部材を順次組み付けていく。
被請求人の主張について検討すると、図1をみると、図1の下端に記載されているボルト52a(以下、「下端ボルト52a」という。)は足が記載されている一方、図1の上端に記載されているボルト52aは足が記載されておらず、書き分けがされている。このことからみて、下端ボルト52aは図1及び2に記載された断面上に位置すると解すべきであって、下端ボルト52aは、トルクコンバータ1の外形よりも小さな径の位置にあると認められる。したがって、被請求人が主張する理由〔1〕は採用できない。
一方、甲第2号証の図面の記載からは、下端ボルト52aの足の長さとトルクコンバータ1とカバー52のクリアランスの大小関係を断定できないことは、被請求人が主張するとおりである。しかしながら、ドライブスプロケット21とポンプハブ11との組付にあたって、ドライブスプロケット21とポンプハブ11との結合より前に、変速機ハウジング51へのドライブスプロケット21の組込が行われれば、下端ボルト52aの取付けがドライブスプロケット21とポンプハブ11との結合の後であっても、カバー52及び変速機ハウジング張出部のうち少なくとも変速機ハウジング張出部は、本件特許発明1の「ドライブスプロケット保持部」と同様に、「前記回転軸との嵌め合い前の前記ドライブスプロケットと嵌め合うことで前記ドライブスプロケットの回転中心を保持する」こととなる。したがって、被請求人が主張する理由〔2〕によっては、カバー52及び変速機ハウジング張出部のいずれも、本件特許発明1の「ドライブスプロケット保持部」のように「前記回転軸との嵌め合い前の前記ドライブスプロケットと嵌め合うことで前記ドライブスプロケットの回転中心を保持する」ことはないとはいえない。
さらに、甲第2号証の図面、特に図1に記載されているように、トルクコンバータ1のポンプ2の内径端部に結合される、ポンプハブ11の左端部は拡径部となっている。そうすると、カバー52及びドライブスプロケット21をポンプハブ11に嵌合するにあたり、カバー52及びドライブスプロケット21はポンプハブ11の右端側からポンプハブ11に嵌合されることは明らかである。そして、ドライブスプロケット21の中央部左側面が左側部材を介してカバー52aの右側面に対向していること(記載事項e-5)、及びカバー52の内側は少なくとも部分的には円筒面状に延在する内周面になっており、ドライブスプロケット21の左側張出部はカバー52に嵌合し、ドライブスプロケット21の左側張出部の外周面とカバー52の内周面が対向していること(認定事項k)を考慮すれば、カバー52は、ドライブスプロケット21がポンプハブ11に結合されるより前にポンプハブ11に嵌合されるか、あるいはドライブスプロケット21の左側張出部に嵌合した状態でドライブスプロケット21と同時にポンプハブ11に嵌合されなくてはならない。とすれば、変速機ハウジング51へのドライブスプロケット21の組込より前にドライブスプロケット21とポンプハブ11との結合を行う場合、ドライブスプロケット21のみならずカバー52がポンプハブ11に嵌合されている状態でトルクコンバータ1側と変速機ハウジング51側とを組み合わせ、変速機ハウジング51にドライブスプロケット21を組み込むこととなる。
ここで、変速機ハウジング51に油圧ポンプ30を取り付け、油圧ポンプ30の駆動軸31にドリブンスプロケット23をスプライン結合させて取り付けた後に、トルクコンバータ1側と変速機ハウジング51側とを組み合わせるとすると、チェーン22を巻掛ける際にはドリブンスプロケット23とドライブスプロケット21が軸方向ほぼ同じ位置に配設されている必要があるから、ドライブスプロケット21が変速機ハウジング51に組み込まれ、チェーン機構20が配設される空間55が変速機ハウジング51とカバー52とにより囲まれた後に、ドリブンスプロケット23とドライブスプロケット21とにチェーン22を巻掛けざるを得ず、不合理である。
してみると、変速機ハウジング51へのドライブスプロケット21の組込より前にドライブスプロケット21とポンプハブ11との結合を行うとすれば、被請求人が主張する理由〔3〕に述べられているような、トルクコンバータ1のポンプハブ11にカバー52を嵌合させ、次にドライブスプロケット21をポンプハブ11にスプライン結合し、ドリブンスプロケット23とドライブスプロケット21とにチェーン22を巻掛けてチェーン機構20をセットした後に、変速機ハウジング51側を組み付けることとなる。しかしながら、図1を含めた甲第2号証の記載全体をみても、油圧ポンプ30の駆動軸31以外に、該駆動軸にスプライン結合されるドリブンスプロケット23の回転中心を保持し得る部材は存在しないから、この組付順序をとるとすれば、回転中心が保持されていない状態でドリブンスプロケット23を駆動軸31に結合するか、何らかの補助治具を用いて作業を行うこととなり、極めて手間のかかる作業となる。
一方、ドライブスプロケット21とポンプハブ11との結合より前に変速機ハウジング51へのドライブスプロケット21の組込を行うとすれば、少なくとも変速機ハウジング張出部により回転中心が保持された状態でドライブスプロケット21をポンプハブ11に結合することができる。先に検討した、駆動軸31へのドリブンスプロケット23の取付け及びドリブンスプロケット23とドライブスプロケット21へのチェーン22の巻掛けについても、変速機ハウジング51に油圧ポンプ30を取り付け、駆動軸31にドリブンスプロケット23を取り付けるとともに、変速機ハウジング51にドライブスプロケット21を組み込み、次いでドリブンスプロケット23とドライブスプロケット21にチェーン22を巻掛けることにより、問題なく行うことができる。さらに、これに続いて、変速機ハウジング51にカバー52をボルト52aを取り付けたとしても、その後のドライブスプロケット21とポンプハブ11との結合にあたり、何ら支障はない。加えて、例えば甲第13号証及び甲第14号証に記載されているように、自動変速機を組み立てた後トルクコンバータを組み付ける組付手順が広く行われていることを考慮すれば、甲第2号証に記載された、ドライブスプロケット21の取付構造は、ドライブスプロケット21とポンプハブ11との結合より前に変速機ハウジング51へのドライブスプロケット21の組込を行う手順により組み付けられると解することが技術的に合理的であって、被請求人が主張する理由〔3〕は採用できない。
そして、先に述べたとおり、ドライブスプロケット21とポンプハブ11との組付にあたって、ドライブスプロケット21とポンプハブ11との結合より前に、変速機ハウジング51へのドライブスプロケット21の組込が行われれば、下端ボルト52aの取付けのタイミングにかかわらず、変速機ハウジング張出部は、「回転軸との嵌め合い前のドライブスプロケットと嵌め合うことで前記ドライブスプロケットの回転中心を保持する」こととなる。したがって、仮に「前記回転軸との嵌め合い前の前記ドライブスプロケットと嵌め合うことで前記ドライブスプロケットの回転中心を保持する」ことが、本件特許発明1に係る「物」である「ドライブスプロケットが軸方向に移動自在かつ回転方向に規制された状態でトルクコンバータからの回転が伝達された回転軸に係合したドライブスプロケット支持構造」の「ドライブスプロケット保持部」について、「その内周面または外周面が前記ドライブスプロケットの外周面または内周面と対向」していることに加えて、何らかの特定をするものであるとしても、前記相違点1は、実質的な相違点とはいえない。

(ア-3)小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当するから、特許法第29条第1項の規定により特許を受けることができないものである。
(イ)本件特許発明3について
本件特許発明3と引用発明を対比すると、両者は、前記「第5 2.(2)(ア-1)」において対比した事項に加えて、引用発明の「ドライブスプロケット21の左側張出部はカバー52に嵌合し、ドライブスプロケット21の左側張出部の外周面とカバー52の内周面が対向しており、ドライブスプロケット21の右側張出部の右端は変速機ハウジング張出部に嵌合し、ドライブスプロケット21の右側張出部の外周面の右端と変速機ハウジング張出部の内周面が対向して」いる態様は、本件特許発明3の「前記ドライブスプロケットと前記スプロケット保持部は、前記ドライブスプロケットの外周面と前記スプロケット保持部の内周面が対向するようにそれぞれ配置されている」態様とも、「ドライブスプロケットとその内周面または外周面が前記ドライブスプロケットの外周面または内周面と対向する部材は、前記ドライブスプロケットの外周面と前記その内周面または外周面が前記ドライブスプロケットの外周面または内周面と対向する部材の内周面が対向するようにそれぞれ配置されている」点において一致する。
さらに、引用発明の「ドライブスプロケット21の左側張出部の外周面とカバー52の内周面との間の嵌め合い間隙及びドライブスプロケット21の右側張出部の外周面の右端と変速機ハウジング張出部の内周面との間の嵌め合い間隙は、ドライブスプロケット21とポンプハブ11との間の嵌め合い間隙よりも大きい」態様は、本件特許発明3の「前記ドライブスプロケットの外周面と前記スプロケット保持部の内周面との間の間隙が、前記回転軸と前記ドライブスプロケットとの間の半径方向の間隙よりも大きく設定されている」態様と、「ドライブスプロケットの外周面とその内周面または外周面がドライブスプロケットの外周面または内周面と対向する部材の内周面との間の間隙が回転軸とドライブスプロケットとの間の半径方向の間隙よりも大きく設定されている」点において一致する。
したがって、本件特許発明3と引用発明は、前記「第5 2.(2)(ア-1)」において述べた一致点に加えて、
「ドライブスプロケットとその内周面または外周面がドライブスプロケットの外周面または内周面と対向する部材は、ドライブスプロケットの外周面とその内周面または外周面がドライブスプロケットの外周面または内周面と対向する部材の内周面が対向するようにそれぞれ配置されていると共に、ドライブスプロケットの外周面とその内周面または外周面がドライブスプロケットの外周面または内周面と対向する部材の内周面との間の間隙が回転軸とドライブスプロケットとの間の半径方向の間隙よりも大きく設定されている」点でも一致し、
相違点1で一応相違している。
そして、前記「第5 2.(2)(ア-2)」において検討したとおり、相違点1は、実質的な相違点とはいえない。
したがって、本件特許発明3は、甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項の規定により特許を受けることができないものである。
(ウ)本件特許発明2について
(ウ-1)対比
本件特許発明2と引用発明を比較すると、両者は、前記「第5 2.(2)(ア-1)」において述べた一致点で一致し、相違点1に加えて、以下の点でも相違している。
【相違点2】
本件特許発明2は、ドライブスプロケットと、その内周面または外周面が前記ドライブスプロケットの外周面または内周面と対向する部材が、ドライブスプロケットの内周面とその内周面または外周面が前記ドライブスプロケットの外周面または内周面と対向する部材の外周面が対向するようにそれぞれ配置されていると共に、ドライブスプロケットの内周面とその内周面または外周面がドライブスプロケットの外周面または内周面と対向する部材の外周面との間に生じている間隙が、回転軸とドライブスプロケットとの間の半径方向の間隙よりも大きく設定されているのに対し、
引用発明は、ドライブスプロケットと、その内周面または外周面がドライブスプロケットの外周面または内周面と対向する部材が、ドライブスプロケットの外周面とその内周面または外周面がドライブスプロケットの外周面または内周面と対向する部材の内周面が対向するようにそれぞれ配置されていると共に、ドライブスプロケットの外周面とその内周面または外周面がドライブスプロケットの外周面または内周面と対向する部材の内周面との間の間隙が回転軸とドライブスプロケットとの間の半径方向の間隙よりも大きく設定されている点。
(ウ-2)判断
前記「第5 2.(2)(ア-2)」において検討したとおり、相違点1は、実質的な相違点とはいえない。
次に、相違点2について検討する。本件特許発明2と甲3技術を比較すると、甲3技術の「ポンプ駆動軸6」は、トルクコンバータ1のポンプインペラ14に一体化されているから、該ポンプインペラ14と一体に回転するものであり、本件特許発明2の「トルクコンバータからの回転が伝達された回転軸」に相当する。
甲3技術は、ポンプ駆動軸6をポンプハウジング1の側より挿入してロータ5の中心孔5bに嵌め込むことでロータ5に対するポンプ駆動軸6の駆動結合を行うものであるから、ロータ5はポンプ駆動軸6に対して軸方向に移動自在かつ回転方向に規制されていると認められる。そうすると、甲3技術の「ロータ5」は、本件特許発明2の「ドライブスプロケット」と、「軸方向に移動自在かつ回転方向に規制された状態でトルクコンバータからの回転が伝達された回転軸に係合している回転体」(以下,単に「回転体」という。)である点において一致する。
甲3技術は、ロータ5にポンプ駆動軸6が挿入される前には、ロータ5のフランジ5cがポンプカバー2に設けられた心出突部2aによって支持されており、ロータ5のフランジ5cの内周面と心出突部2aの外周面が対向しているから、甲3技術の「心出突部2a」は、本件特許発明2の「ドライブスプロケット保持部」と、「回転軸との嵌め合い前の回転体と嵌め合うことで回転体の回転中心を保持するものであって、その内周面または外周面が回転体の外周面または内周面と対向する部材であり、その外周面が回転体の内周面と対向するように配置されている部材」である点において一致している。そうすると、甲3技術の「ポンプ駆動軸6の挿入前に、ロータ5をポンプハウジング1及びポンプカバー2に対し心出ししておくための心出突部2aをポンプカバー2の内面に一体成形し、この心出し時突部2aを嵌合すべき心出係合部としてのフランジ5cをロータ5に一体に設け、ポンプ駆動軸6を挿入する前、ロータ5はフランジ5cが心出突部2aに嵌まり合って予備心出状態にあ」る態様は、本件特許発明2の「前記回転軸との嵌め合い前の前記ドライブスプロケットと嵌め合うことで前記ドライブスプロケットの回転中心を保持するものであって、その内周面または外周面が前記ドライブスプロケットの外周面または内周面と対向するドライブスプロケット保持部が設けられ、」「前記ドライブスプロケットと前記スプロケット保持部は、前記ドライブスプロケットの内周面と前記スプロケット保持部の外周面が対向するようにそれぞれ配置されている」態様と、「回転軸との嵌め合い前の回転体と嵌め合うことで回転体の回転中心を保持するものであって、その内周面または外周面が回転体の外周面または内周面と対向する部材(以下,単に「部材」という。)が設けられ、回転体と当該部材は、回転体の内周面と部材の外周面が対向するようにそれぞれ配置されている」点において一致する。
さらに、甲3技術において、ロータ5にポンプ駆動軸6が完全挿入された後には、ロータ5はポンプ駆動軸6により最終的な心出状態にされ、ロータ5のフランジ5cは心出突部2aから離れることからみて、ロータ5のフランジ5cの内周面と心出突部2aの外周面との間の間隙は、ポンプ駆動軸6とロータ5との間の半径方向の間隙よりも大きく設定されていると認められる。そうすると、甲3技術の「ポンプ駆動軸6が完全に挿入されたところでロータ5はポンプ駆動軸6により最終的な心出状態にされ、ロータのフランジ5cは心出突部2aから全周に亘り一定の隙間をもって離れ、これと一切接触しない。」態様は、本件特許発明2の「前記スプロケット保持部と前記ドライブスプロケットとの間の嵌め合い間隙が前記回転軸と前記ドライブスプロケットとの間の嵌め合い間隙よりも大きく設定されて」おり、「前記ドライブスプロケットの内周面と前記スプロケット保持部の外周面との間に生じている間隙が、前記回転軸と前記ドライブスプロケットとの間の半径方向の間隙よりも大きく設定されている」態様と、「部材と回転体との間の嵌め合い間隙が回転軸と回転体との間の嵌め合い間隙よりも大きく設定されており、回転体の内周面と部材の外周面との間に生じている間隙が、回転軸と回転体との間の半径方向の間隙よりも大きく設定されている」点において一致する。
以上のとおりであるから、甲3技術は、相違点2にかかる、本件特許発明2を特定する事項と、「回転体と、部材が、回転体の内周面と部材の外周面が対向するようにそれぞれ配置されていると共に、回転体の内周面と部材の外周面との間に生じている間隙が、回転軸と回転体との間の半径方向の間隙よりも大きく設定されている」点において一致する。
しかしながら、甲3技術は、ポンプハウジング1とポンプカバー2で形成され、ロータ5を収納する空間にポンプ駆動軸6がポンプハウジング1側から挿入されており、該ポンプハウジング1と反対側のポンプカバー2に心出突部2aが設けられているものであるから、引用発明に甲3技術を適用する場合、変速機ハウジング51に甲3技術の心出突部2に相当する構成を設け、当該構成の外周面がドライブスプロケット21の内周面に対向するよう配置することとなる。すなわち、ドライブスプロケット21の右側張出部の内周面と変速機ハウジング張出部の外周面が対向するように配置することとなり、必然的に、ドライブスプロケット21の右側張出部の内周面は、ポンプハブ11の外周から離間し、結合しないこととなる。
甲第2号証の図面の記載から明らかなように、引用発明において、ドライブスプロケット21の右側張出部は、ニードルベアリング12に対して径方向にほぼ重なるようにして、すなわち軸方向にはほぼ同位置に位置している。引用発明は、ニードルベアリング12およびドライブスプロケット21を軸方向ほぼ同じ位置に重なるように配設することにより、ドライブスプロケット21に作用する径方向力をニードルベアリング12により確実に受けることができるという効果を発揮するものであるところ、前記のようにドライブスプロケット21の右側張出部の内周面がポンプハブ11の外周から離間することとなると、ドライブスプロケット21に作用する径方向力がポンプハブ11に作用する位置がニードルベアリング12に対して軸方向に異なる位置となり、前記径方向力がニードルベアリング12に適正に作用せず、ニードルベアリング12により確実に受けることができなくなる。
したがって、引用発明に甲3技術を適用すると、引用発明の奏する効果を害することとなるから、引用発明に甲3技術を適用することには阻害要因があるというべきであって、引用発明において、相違点2に係る、本件特許発明2を特定する事項を採用することが、引用発明に甲3技術を適用することにより当業者が容易になし得る事項であるとはいえない。
(ウ-3)
以上のとおりであるから、本件特許発明2は、引用発明及び甲3技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび

以上のとおり、本件特許発明1及び本件特許発明3は、特許法第29条第1項の規定により特許を受けることができず、それに係る特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当するので、無効とすべきものである。
請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許発明2に係る特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、その3分の1を請求人が負担すべきものとし、3分の2を被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライブスプロケットが軸方向に移動自在かつ回転方向に規制された状態でトルクコンバータからの回転が伝達された回転軸に係合したドライブスプロケット支持構造であって、
前記ドライブスプロケットは、前記回転軸と嵌め合うことで前記回転軸のみによって回転中心を定められ、
前記回転軸との嵌め合い前の前記ドライブスプロケットと嵌め合うことで前記ドライブスプロケットの回転中心を保持するものであって、その内周面または外周面が前記ドライブスプロケットの外周面または内周面と対向するドライブスプロケット保持部が設けられ、
前記スプロケット保持部と前記ドライブスプロケットとの間の嵌め合い間隙が前記回転軸と前記ドライブスプロケットとの間の嵌め合い間隙よりも大きく設定されていることを特徴とするドライブスプロケット支持構造。
【請求項2】
前記ドライブスプロケットと前記スプロケット保持部は、前記ドライブスプロケットの内周面と前記スプロケット保持部の外周面が対向するようにそれぞれ配置されていると共に、
前記ドライブスプロケットの内周面と前記スプロケット保持部の外周面との間に生じている間隙が、前記回転軸と前記ドライブスプロケットとの間の半径方向の間隙よりも大きく設定されていることを特徴とする請求項1に記載のドライブスプロケット支持構造。
【請求項3】
前記ドライブスプロケットと前記スプロケット保持部は、前記ドライブスプロケットの外周面と前記スプロケット保持部の内周面が対向するようにそれぞれ配置されていると共に、
前記ドライブスプロケットの外周面と前記スプロケット保持部の内周面との間の間隙が、前記回転軸と前記ドライブスプロケットとの間の半径方向の間隙よりも大きく設定されていることを特徴とする請求項1に記載のドライブスプロケット支持構造。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2017-07-25 
結審通知日 2017-07-28 
審決日 2017-08-17 
出願番号 特願2005-287276(P2005-287276)
審決分類 P 1 113・ 121- ZDA (F16H)
P 1 113・ 131- ZDA (F16H)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 仲村 靖  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 久保 竜一
矢島 伸一
登録日 2012-02-24 
登録番号 特許第4933764号(P4933764)
発明の名称 ドライブスプロケット支持構造  
代理人 久米川 正光  
代理人 澤田 優子  
代理人 久米川 正光  
代理人 澤田 優子  
代理人 木下 茂  
代理人 木下 茂  
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