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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A61K
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
管理番号 1346224
審判番号 無効2015-800007  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 無効の審決 
審判請求日 2015-01-06 
確定日 2018-10-25 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5569848号「黒ショウガ成分含有組成物」の特許無効審判事件についてされた平成27年 9月25日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(平成27年(行ケ)第10231号、平成29年 2月22日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 特許第5569848号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1,2〕について訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許第5569848号の請求項1、2に係る発明についての出願(特願2013-064545号)は、平成25年3月26日(優先権主張 平成24年9月13日)を出願日とする出願であって、平成26年7月4日に特許権の設定登録がなされたものである。
これに対して、請求人は平成27年1月6日に、上記請求項1、2に係る発明の特許を無効にすることについて特許無効審判を請求し、その後の経緯は以下のとおりである。
・平成27年 3月27日 答弁書の提出
・平成27年 6月19日 第1回口頭審理
請求人は、平成27年6月5日付け口頭審理陳述要領書に沿って第1回口頭審理調書に記載のとおりの陳述をした。
被請求人は平成27年6月5日付け口頭審理陳述要領書に沿って第1回口頭審理調書に記載のとおりの陳述をした。
・平成27年 7月21日 被請求人から上申書の提出
・平成27年 8月12日 請求人から上申書の提出
・平成27年 8月21日 被請求人から上申書の提出
・平成27年 9月25日付け 「本件審判の請求は成り立たない。」との審決
・平成27年10月31日 審決取消訴訟の提起
・平成29年 2月22日 審決取消の判決(平成27年(行ケ)第10231号。平成29年3月8日確定。)
・平成29年 4月 6日 訂正請求書の提出
・平成29年 6月13日 請求人から弁駁書の提出
・平成29年 7月 3日 請求人から上申書の提出


第2 平成29年4月6日付けの訂正請求について

1 訂正請求の内容

平成29年4月6日付けの訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)は、特許権設定登録時の特許請求の範囲の請求項1を以下のとおりに訂正しようとするものである。

(1)訂正事項1
特許権設定登録時の特許請求の範囲の請求項1に「その表面の一部又は全部を、」と記載されているのを、「その表面の全部を、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。)。

2 訂正の可否に対する判断

(1)訂正の目的、一群の請求項、及び、特許請求の範囲の拡張又は変更について

上記訂正前の請求項1、2に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」、「本件特許発明2」といい、本件特許発明1、2を合わせて「本件特許発明」という。)は、芯材の表面の一部又は全部をナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤にて被覆したものであるところ、訂正事項1は本件特許発明において被覆される芯材の表面の範囲を「全部」に限定するものである。
そうすると、訂正事項1は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。そして、訂正事項1は一群の請求項に対して請求されたものである。
したがって、訂正事項1は特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第3項の規定、並びに、同条第9項で準用する同法第126条第4項及び第6項の規定に適合する。

(2)新規事項の追加について

願書に添付した明細書(以下「本件明細書」ともいう。)の【0009】には、「本発明者らは、油脂を含むコート層で、上述の黒ショウガ成分含有コアの表面の一部又は全部を被覆することにより、意外にも、経口で摂取した場合においても、黒ショウガ成分に含まれるポリフェノール類の体内への吸収性が高まることを見出し、本発明を完成するに至った。」との記載があり、芯材の表面の全部を、油脂を含むコート層で被覆する態様が開示されているといえるから、訂正事項1は願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第134条の2第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。

(3)小括

以上のとおり、本件訂正請求による訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第3項及び同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項[1、2]について訂正することを認める。


第3 本件訂正発明

上記訂正の結果、本件特許の特許請求の範囲の請求項1、2に係る発明は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲(以下「訂正特許請求の範囲」という。)の請求項1、2に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件訂正発明1」、「本件訂正発明2」といい、これらをまとめて「本件訂正発明」という。)。
【請求項1】
黒ショウガ成分を含有する粒子を芯材として、その表面の全部を、ナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤にて被覆したことを特徴とする組成物。
【請求項2】
経口用である請求項1に記載の組成物。


第4 請求人の主張及び証拠方法

請求人は、「特許第5569848号発明の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、証拠方法として以下の書証を提出し、本件特許が無効とされるべき理由として、以下の無効理由1?4を主張している。

1 無効理由1(進歩性要件)
本件特許発明1及び本件特許発明2は、優先日前に頒布された甲第1号証乃至甲第7号証に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、本件特許発明1及び本件特許発明2についての特許は、同法第123条第1項第2号の規定に該当する。

2 無効理由2(実施可能要件)
本件特許発明1及び本件特許発明2は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものであって、特許法第123条第1項第4号に該当する。

3 無効理由3(明確性要件)
本件特許発明1及び本件特許発明2は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものであって、特許法第123条第1項第4号に該当する。

4 無効理由4(サポート要件)
本件特許発明1及び本件特許発明2は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1項に規定する要件を満たしていないものであって、特許法第123条第1項第4号に該当する。

(証拠方法)
甲第1号証 特開2009-67731号公報
甲第2号証 特開2011-236133号公報
甲第3号証 特開2001-316259号公報
甲第4号証 特開2009-46438号公報
甲第5号証 特開2009-1513号公報
甲第6号証 高橋誠、食品素材の「ナノサイズ」カプセル化技術の開発、オレオサイエンス第8巻第4号(2008年)、151?157頁
甲第7号証 食品の機能性を評価するために、JFRLニュース、Vol.3、No.9、Nov.2009、1?4頁
(以上、審判請求書に添付。)

甲第8号証 平成12年(行ケ)第238号 判決
甲第9号証 平成17年(行ケ)第10314号 判決
(以上、平成27年6月5日付け口頭審理陳述要領書に添付。)

甲第21号証 証明書-特許第5569848号における実施例の再現実験、加藤特許事務所 弁理士 森博、
甲第22号証 試験計画書、株式会社新薬リサーチセンター
甲第23号証 報告書-ラットを用いた血中ポリフェノール濃度測定試験、株式会社新薬リサーチセンター
甲第24号証 特開2008-174553号公報
甲第25号証 特開2006-151922号公報
甲第26号証 特開2009-1513号公報
甲第27号証 ウェッブサイト・フリー百科事典「ウィキペディア」の「ペイストリー」の項の画面
甲第28号証 ウェッブサイト「クラチャイダムの魅力」の画面
甲第29号証 ウェッブサイト「黒生姜ちゃんねる|黒生姜の口コミと効能」の画面
甲第30号証 ウェッブサイト「まるごと黒生生姜粒-伝承美容を化学する*美的生活研究所」の画面
甲第31号証 ウェッブサイト「がちゃ通信|中央クリエイト健康食品事業部」の画面
甲第32号証 特開2001-309763号公報
甲第33号証 特開2005-58133号公報
甲第34号証 特開2013-192513号公報
甲第35号証 特開2015-29499号公報
甲第36号証 被告実験に対する意見書、加藤特許事務所 弁理士 森博
甲第37号証 原告実験に対する意見書、株式会社東洋新薬 友澤寛
甲第38号証 報告書 被験物質の調製、株式会社東洋新薬 友澤寛
甲第39号証 報告書 試験課題:被験物質強制経口投与後の経時的血中ポリフェノール濃度測定、九動株式会社 渡邉洋二
甲第40号証 実施例説明書、株式会社東洋新薬、佐藤航平
甲第41号証 再現実験に関する報告書、株式会社東洋新薬 友澤寛
甲第42号証 「甲23再現試験」に対する意見書、株式会社東洋新薬 友澤寛
甲第44号証 平成27年(行ケ)第10231号 原告準備書面(1)
甲第45号証 平成27年(行ケ)第10231号 原告準備書面(4)
甲第47号証 平成27年(行ケ)第10231号 原告準備書面(2)
甲第48号証 平成27年(行ケ)第10231号 原告準備書面(3)
甲第49号証 平成27年(行ケ)第10231号 原告準備書面(5)
甲第50号証 平成27年(行ケ)第10231号 被告準備書面(1)
甲第51号証 平成27年(行ケ)第10231号 被告準備書面(2)
甲第52号証 平成27年(行ケ)第10231号 被告準備書面(3)
甲第53号証 平成27年(行ケ)第10231号 被告準備書面(4)
甲第54号証 特許第5964344号に対する特許異議申立書、株式会社エヌ・エル・エー
甲第55号証 特許第5997856号に対する特許異議申立書、株式会社エヌ・エル・エー
(以上、平成29年7月3日提出の上申書に添付。)


第5 被請求人の主張及び証拠方法

被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、上記請求人の主張する無効理由は、いずれも理由がないと主張し、証拠方法として以下の書証を提出している。

(証拠方法)
乙第1号証 特開2001-309763号公報
(請求人提出の甲第32号証と同じものである。)
(以上、平成27年3月27日付け審判事件答弁書に添付。)
乙第2号証 医食同源研究会のホームページの抜粋(インターネットURL:http://www.ishoku.org/topics/kuroukon.html)
(以上、平成27年7月21日付け上申書に添付。)


第6 前審決取消判決(平成27年(行ケ)第10231号)

前審決取消判決は、無効理由4について理由がないとした前審決の判断には誤りがあるとして、前審決を取り消した。その要旨は以下のとおりである。

1 本件発明の課題
本件発明の課題は、「黒ショウガ成分を経口で摂取した場合においても、含まれるポリフェノール類を効果的に体内に吸収することができる組成物を提供すること」にある。

2 本件出願当時の技術常識
本件出願当時、摂取されたポリフェノールの生体内に取り込まれる量は一般に少ないということが当業者の技術常識であった。

3 検討
(1)本件明細書には、上記課題の解決手段として、「黒ショウガ成分を含有する粒子(黒ショウガ成分含有コア)」の表面の一部又は全部を、「油脂を含むコート剤(コート層)」で被覆することが記載されているといえるところ、「一部」とは、「全体の中のある部分。一部分。」(広辞苑〔第六版〕)を意味するものであり、当該部分が全体の中に占める割合の大小までは定められていないことから、本件明細書に記載された課題解決手段には、「黒ショウガ成分を含有する粒子」の表面の僅かな部分を、「油脂を含むコート剤」で被覆することも包含されているといえる。

(2)そこで、このような僅かな部分を被覆した状態においても、本件発明の課題を解決できると当業者が認識できるか否かについて検討する。
ア 本件明細書の段落【0015】?【0022】、【0024】の記載から、「黒ショウガ成分を含有する粒子」には、従来例のように腸管から容易に吸収できる程度までに低分子化されているものとは異なる態様のものも包含されているといえる。
イ 本件明細書の段落【0029】、【0031】?【0033】の記載から、「油脂を含むコート剤」については、材質に特に制限がない以上、従来例のように吸収促進のための成分が含まれているものとは異なる態様のものも包含されているといえる。
ウ 以上を前提に、本件明細書の実施例(段落【0044】?【0054】、表1、図1)の記載をみると、実施例1として、パーム油でコートした黒ショウガの根茎の乾燥粉末(黒ショウガ原末)をコーン油と混合して150mg/mLとし、懸濁することにより調製した被験物質(以下「実施例1被験物質」という。)、実施例2として、黒ショウガ原末をナタネ油でコートした以外は、実施例1と同様にして調製した被験物質(以下「実施例2被験物質」という。)、及び比較例1として、黒ショウガ原末をコーン油と混合して150mg/mLとし、懸濁することにより調製した被験物質(以下「比較例1被験物質」という。)を、それぞれ、6週齢のSD雄性ラットに、10mL/kgとなるように、ゾンデで強制経口投与し、投与の1、4、8時間後(コントロールはブランクとして投与1時間後のみ)に採血して、血中の総ポリフェノール量を測定したところ、実施例1被験物質及び実施例2被験物質を摂取した群の血中ポリフェノール量は、いずれも比較例1被験物質を摂取させたものに比べて高い値を示したことが記載されている。そして、本件明細書の段落【0028】に、「油脂」の具体例として、パーム油、ナタネ油と並んで「とうもろこし」から得られる油脂、すなわち「コーン油」も記載されていることからすれば、上記実施例で用いたコーン油についても、黒ショウガ成分に含まれるポリフェノール類の体内への吸収性を高める効果を期待し得る一方で、上記実施例の結果からは、単にコーン油に混合、懸濁しただけの比較例1被験物質では、そのような効果がないことも認識し得るといえる。そうすると、当業者は、本件明細書の実施例の記載から、「黒ショウガ成分を含有する粒子」が、パーム油あるいはナタネ油と混合、懸濁された状態とするのではなく、パーム油あるいはナタネ油により被覆された状態とすることにより、本件発明の課題を解決することができると認識するものと認められる。
エ そして、本件出願当時、一般に摂取されたポリフェノールの生体内に取り込まれる量は少ないという技術常識等があるにもかかわらず、本件発明には、「黒ショウガ成分を含有する粒子」自体に吸収性を高める特段の工夫がなされていない態様が包含されており、また、「油脂を含むコート剤」にも吸収促進のための成分が含まれていない態様が包含されていることからすれば、当業者は、本件発明の課題を解決するためには、パーム油あるいはナタネ油のような油脂を含むコート剤にて被覆することが肝要であると認識するといえる。しかし、その一方、ある効果を発揮し得る物質(成分)があったとしても、その量が僅かであれば、その効果を発揮し得ないと考えるのが通常であることからすれば、当業者は、たとえ、「黒ショウガ成分を含有する粒子」の表面を「油脂を含むコート剤」で被覆することにより、本件発明の課題が解決できると認識し得たとしても、その量や程度が不十分である場合には、本件発明の課題を解決することが困難であろうことも予測するといえる。
オ ところが、コート剤による被覆の量や程度が不十分である場合には、本件発明の課題を解決することが困難であろうとの当業者の予測を覆すに足りる十分な記載が本件明細書になされているものとは認められないのであり、また、これを補うだけの技術常識が本件出願当時に存在したことを認めるに足りる証拠もないから、本件明細書の記載(ないし示唆)はもとより、本件出願当時の技術常識に照らしても、当業者は、「黒ショウガ成分を含有する粒子」の表面の僅かな部分を「油脂を含むコート剤」で被覆した状態が本件発明の課題を解決できると認識することはできないというべきである。

(3)以上のとおり、本件発明は、黒ショウガ成分を含有する粒子の表面の一部を、ナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤にて被覆する態様、すなわち、「黒ショウガ成分を含有する粒子」の表面の僅かな部分を「油脂を含むコート剤」で被覆した態様も包含していると解されるところ、本件明細書の記載(ないし示唆)はもとより、本件出願当時の技術常識に照らしても、当業者は、そのような態様が本件発明の課題を解決できるとまでは認識することはできないというべきであるから、本件発明の特許請求の範囲の記載は、いずれも、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願当時の技術常識に照らして、当業者が、本件明細書に記載された本件発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えており、サポート要件に適合しないものというべきである。


第7 当審の判断

1 無効理由1(進歩性要件)について

(1)請求人の主張の要点
請求人の主張の要点は以下のとおりである。

甲第3号証には「茶ポリフェノール類粒子を芯材として、その表面の一部又は全部を、ナタネ油を含むコート剤にて被覆した組成物」(以下「請求人引用発明」という。)が記載されており、本件訂正発明1と請求人引用発明とを対比すると、両者は「粒子を芯材として、その表面の全部を、ナタネ油を含むコート剤にて被覆した組成物である点」で共通する一方、本件訂正発明1では黒ショウガ成分を含有する粒子が用いられるのに対して、請求人引用発明では茶ポリフェノール類粒子が用いられる点で相違する(弁駁書7?8頁、同10頁))。
他方、甲第1号証と甲第2号証には黒ショウガ成分を含有する粒子が記載されている(審判請求書10?11頁、平成27年6月5日付け口頭審理陳述要領書3?4頁)。
そして、甲第1号証及び甲第2号証、甲第3号証は、いずれもポリフェノール類を経口摂取するという同じ技術分野に属するものといえる上、ポリフェノールの吸収性を向上させるという課題やその解決手段として吸収促進剤を用いることは、甲第4号証?甲第6号証に記載されているように周知であるから、請求人引用発明において、茶ポリフェノール類粒子を甲第1号証や甲第2号証に記載された黒ショウガ成分を含有する粒子に置換することは、当業者が容易に為し得たことである(審判請求書13頁、平成27年6月5日付け口頭審理陳述要領書5頁)。
また、黒ショウガがポリフェノールを含有することは本件特許の優先日前に広く知られていたことである(弁駁書11?15頁)上、黒ショウガの経口摂取において特異な苦みや渋みを感じないようにすることは、本件特許の出願時における周知の技術課題であったから(弁駁書15?20頁)、請求人引用発明において茶ポリフェノール類粒子を甲第1号証や甲第2号証に記載された黒ショウガ成分を含有する粒子に置き換えることは、当業者が容易に為し得たことである(弁駁書21頁)。
加えて、本件訂正発明は、ポリフェノール吸収量について有意差のある作用効果を有するものでないから(弁駁書21頁、甲第44号証?甲第49号証)、本件訂正発明の効果は顕著なものとはいえない。
したがって、本件特許発明は甲第1号証?甲第3号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件明細書等の記載
本件明細書等には以下の記載がある。

記載事項本1
「本発明は、黒ショウガ成分を含有する組成物に関する。」(段落【0001】)

記載事項本2
「黒ショウガは学名をケンプフェリア・パルビフローラ(Kaempferia parviflora)といい、黒ウコンあるいはクラチャイダムの別名を有する。東南アジアに分布し、ショウガ科(Zingiberaceae)ケンプフェリア(Kaempferia)属の植物の一種である。タイやラオス等の伝承医学においては健康食品として知られており、精力増進、滋養強壮等の効果があると言われている。」(段落【0002】)

記載事項本3
「黒ショウガに含まれる有効成分としては、セレン、アミノ酸のほか、例えば、クルクミンやポリフェノールがあり、これらが抗ガン作用や活性酸素除去作用を有するため、動脈硬化等を抑制する効果があると言われている。さらに、ポリフェノールの一種であるアントシアニンやアントシアニジンが豊富に含まれていることから、疲れ目、視力低下、眼精疲労等の低減にも効果があるとの報告や、同じくポリフェノールの一種のメトキシフラボノイドが、痛風や高尿酸血症の原因となる尿酸産生を抑える等の働きがあるとの報告がある(特許文献1)。
ところで、一般に、人体にとって有用な機能成分が含まれる飲食品等の中には、腸管透過吸収が悪く、その本来の機能が十分発揮されないものも多い。そのため、こういった薬剤や機能性食品成分等の腸管透過吸収を安全に促進する物質が求められている。ポリフェノールを含有する素材においても、一般に摂取されたポリフェノールの生体内に取り込まれる量は極めて少ないことが知られている。特に、ポリフェノールの生体内への吸収の機序もポリフェノールの種類により様々で、カテキン、プロアントシアニジン、ケルセチン等の水溶性ポリフェノールは、特に人や動物の腸管から吸収されにくいという欠点があった。
これらの吸収を促進するため、従来、例えば、プロアントシアニジン、アントシアニン、カテキン、フラボノイド等について、透過吸収を助ける吸収促進剤との併用が提案されている(特許文献2、3)。また、分子量の大きいプロアントシアニジンについて、生体の腸管から容易に吸収できる程度までに低分子化する方法が示されている(特許文献4)。
(中略)
しかしながら、上記方法によっても、ポリフェノールの生体内への吸収性はいまだ十分なものとは言えなかった。また、植物由来のポリフェノールはその植物の種類によって構造や性質が大きく異なるため、他の植物由来のポリフェノールについて知られている吸収性の改善方法を、そのまま黒ショウガに転用することはできない。そして、黒ショウガ成分に含まれるポリフェノールについては、どのようなものが腸管透過吸収性を効果的に助けるのかは知られていなかった。」(段落【0002】?【0007】)

記載事項本4
「本発明は、黒ショウガ成分を経口で摂取した場合においても、含まれるポリフェノール類を効果的に体内に吸収することができる組成物を提供することを目的とする。」(段落【0008】)

記載事項本5
「本発明者らは、油脂を含むコート層で、上述の黒ショウガ成分含有コアの表面の一部又は全部を被覆することにより、意外にも、経口で摂取した場合においても、黒ショウガ成分に含まれるポリフェノール類の体内への吸収性が高まることを見出し、本発明を完成するに至った。」(段落【0009】)

記載事項本6
「本発明によれば、黒ショウガ成分を経口で摂取した場合にも、特に黒ショウガ成分に含まれるポリフェノール類の体内への吸収性を高めると共に、摂取前の黒ショウガ成分の酸化を防止して保存安定性も高め、摂取後の胃液等による変性を防止することができる。」(段落【0011】)

記載事項本7
「本発明の組成物は、黒ショウガ成分を含有する粒子と、その表面の一部又は全部を被覆した油脂を含むコート層と、を含む。本発明の組成物は、経口で摂取した場合においても、黒ショウガ成分の体内への吸収性が高い。」(段落【0014】)

記載事項本8
「黒ショウガ成分を含有する粒子とは、黒ショウガに由来する成分を含む粒子のことを言い、黒ショウガに由来する成分を含み、かつ粉末化、粒子化、顆粒化等されていれば、黒ショウガの加工方法について特に制限はない。例えば、黒ショウガの乾燥粉末、黒ショウガ抽出物を粉末化したもの、黒ショウガ中の成分を任意の方法で分画して粉末化したもの等が該当する。また、この粒子は固体である必要は無く、リポソームやマイクロカプセル等液体でも良い(段落【0015】)

記載事項本9
「上記黒ショウガの乾燥粉末としては、例えば、洗浄後、スライスした黒ショウガを天日、あるいは乾燥機を用いて乾燥後、そのままあるいは適当な形状又は大きさに裁断して得た加工品を、粉砕装置を用いて粉砕することで得ることができる。粉砕装置としては通常使用されるものがひろく使用できるが、例えば、原料ホッパー、粉砕機、分級機及び製品ホルダー等から構成される粉砕機を用いることができる。」(段落【0016】)

記載事項本10
「上記黒ショウガ抽出物を粉末化したものとしては、例えば、黒ショウガの抽出物をそのままあるいは濃縮して、液状物、濃縮物、ペースト状で、あるいは、さらにこれらを乾燥した乾燥物の形状で用いることができる。乾燥は、噴霧乾燥、凍結乾燥、減圧乾燥、流動乾燥等の当業者が通常用いる方法により行われる。
上記黒ショウガの抽出物は、黒ショウガ又はその加工物を適切な溶媒で抽出することによって得られる。抽出に使用される溶媒としては、エタノール、メタノール、イソプロパノール、ブタノール等の低級アルコール、酢酸エチル、酢酸メチル等の低級エステル、アセトン、及びこれらと水との混合物が挙げられる。中でも、本発明の組成物はヒトが摂取することを想定しているものであることから、エタノール単独又は水との混合物(いわゆる含水エタノール)、あるいは熱水を使用するのが好ましい。
溶媒として混合物を使用する場合は、例えば、アセトン/水(2/8?8/2、体積比)混合物、エタノール/水(2/8?8/2、体積比)混合物等を用いることができる。エタノール/水の場合、黒ショウガの根茎に対して、その質量の2?20倍質量の溶媒を加え、室温又は加熱下で10分?48時間程度抽出するのが好ましい。
また、黒ショウガを細切りしたものを95?100℃の温度で熱水抽出し、最高濃度に達した抽出液を濾過した後、噴霧乾燥する等の方法で抽出物を得ることも可能である。
これら用いる抽出方法に特に制限はないが、安全性及び利便性の観点から、できるだけ緩やかな条件で行うことが好ましい。例えば、原料植物部位又はその乾燥物を粉砕、破砕又は細断し、これに2?20倍質量の溶媒を加え、0℃?溶媒の還流温度の範囲で10分?48時間、静置、振盪、撹拌あるいは還流等の任意の条件下にて抽出を行う。抽出作業後、濾過、遠心分離等の分離操作を行い、不溶物を除去する。これに、必要に応じて希釈、濃縮操作を行うことにより、抽出液を得る。さらに、不溶物についても同じ操作を繰り返して抽出し、その抽出液を先の抽出液と合わせて用いてもよい。これらの抽出物は、当業者が通常用いる精製方法により、さらに精製して使用してもよい。」(段落【0017】?【0022】)

記載事項本11
「また、黒ショウガ成分を含有する粒子としては、上記の黒ショウガの乾燥粉末、黒ショウガ抽出物を粉末化したもの、黒ショウガ中の成分を任意の方法で分画して粉末化したもの等をそのまま使用しても良いし、適切な結合剤や賦形剤等を添加の上、公知の湿式、乾式等の顆粒造粒法によって顆粒に成形したものを用いても良い。」(段落【0022】)

記載事項本12
「上記黒ショウガ中の成分を任意の方法で分画して得られるものとしては、例えば、クルクミン、メトキシフラボン類、アントシアニジン等がある。これらは、粉末化した1種を用いてもよいし、2種以上を混合して使用することもできる。」(段落【0023】)

記載事項本13
「黒ショウガ成分を含有する粒子の粒子径としては、特に制限されるものではなく、目的に応じて粉末、粒子、顆粒等を適宜選択することができる。また、黒ショウガ成分を含有する粒子の粒度としては、特に制限されるものではなく、目的に応じて粉末、粒子、顆粒等を適宜選択することができる。」(段落【0024】)

記載事項本14
「上記した黒ショウガ成分を含有する粒子を得るための黒ショウガの使用部位は樹皮、根、葉、又は枝等が使用し得る。なかでも、好ましいのは、根茎である。」(段落【0025】)

記載事項本15
「上記黒ショウガ成分を含有する粒子表面の一部又は全部を、油脂を含むコート剤にて被覆することにより、経口で摂取した場合においても、特に黒ショウガ成分に含まれるポリフェノール類の体内への吸収性が高まる。」(段落【0026】)

記載事項本16
「油脂の具体例を以下に示すが、これらに限定するものではない。例えば、大豆、米、ナタネ、カカオ、椰子、ごま、べにばな、パーム、棉、落花生、アボガド、カポック、ケシ、ごぼう、小麦、月見草、つばき、とうもろこし、ひまわり等から得られる一般的な植物性油脂及びこれらの硬化物及び牛、乳、豚、いわし、さば、さめ、さんま、たら等から得られる動物性油脂及びこれらの硬化物等が挙げられ、これらの油脂は1種又は2種以上の混合物が使用できる。なかでも、ナタネ油及びパーム油が好ましく使用できる。」(段落【0028】)

記載事項本17
「コート剤には、リン脂質、ステロール類、ワックス類等が共存しても一向に差し支えない。コート剤の被膜性能向上のために、その他の可塑剤を用いることも望ましい。可塑剤として、中鎖トリグリセリド、グリセリン、遊離脂肪酸、蒸留酢酸モノグリセリド等が例示される。
コート剤を構成する可塑剤として使用される物質は、特に限定されることなく、ツェイン、グルテン等の蛋白質、寒天、ジェランガム、カラギーナン等のゲル化剤等が例示される。これらを、1種単独で使用してもよいし、あるいは、2種以上を併用して使用してもよい。可塑剤の使用量に特に制限はなく、使用する油脂や芯材となる黒ショウガ成分を含有する粒子に応じて、適宜調整することができる。
また、コート剤には、賦形剤が共存しても一向に差し支えない。賦形剤の使用量に特に制限はなく、使用する油脂や芯材となる黒ショウガ成分を含有する粒子に応じて、適宜調整することができる。」(段落【0029】?【0031】)

記載事項本18
「コート剤による被覆は、特に限定されることなく公知の方法を適用することが可能である。例えば、油脂単独で、あるいは、上記の水難溶性を示す物質と油脂を混合後に、常温もしくは加温しながら、適切な溶媒に撹拌して溶解させてコーティング液を作成し、このコーティング液を黒ショウガ成分含有コアにノズル又はアトマイザー等の公知の噴霧器により吹き付けて行うことができる。このときの溶媒として、アルコール溶液、酢酸等の酸性溶液等が例示される。使用量は、油脂あるいは水難溶性を示す物質が溶解すればよく、特に限定されないが、通常、これらの物質が5?50重量%となるように調製したコーティング液を用いることができる。」(段落【0032】)

記載事項本19
「コート剤の被覆量は、油脂の含有量に応じて適宜調整することができ、特に制限されることはないが、黒ショウガ成分を含有する粒子100重量部に対し、1?50重量部とすることが好ましい。」(段落【0033】)

記載事項本20
「(ポリフェノール吸収性増進効果)
被験物質の調製は以下のようにして行った。
<実施例1>
パーム油でコートした黒ショウガの根茎の乾燥粉末(黒ショウガ原末)をコーン油と混合して150mg/mLに調製し、ボルテックスを用いて懸濁した。
<実施例2>
黒ショウガ原末をナタネ油でコートした以外は、実施例1と同様にして被験物質を得た。
<比較例1>
黒ショウガ原末をコーン油と混合して150mg/mLに調製し、ボルテックスを用いて懸濁した。
上記被験物質を用いて、下記の要領にて経口で黒ショウガを摂取した際の投与1、4、8時間後(コントロールはブランクとして投与1時間後のみ)に採血して、血中の総ポリフェノール量を測定した。その結果を図1に示す。
(1)実験動物及び飼育方法
6週齢のSD雄性ラットを用意し、5日以上の馴化期間をおいた後、実験に使用した。群分けは、試験直前にランダムに行った。馴化期間の飼料は、市販のMF固形飼料を自由摂取させた。また、試験当日は試験終了まで絶食のままとした。
(2)被験物質の投与方法
16時間以上絶食した後、被験物質溶液を10mL/kgとなるように、ゾンデで強制経口投与した。表1に、採血時間、被験物質及びこれを投与した各群の個体数を示す。

(血清前処理方法)
Waters社製の固相抽出カートリッジHLB(60mg)にメタノール(5mL)、水(5mL)、0.1moL/L塩酸(1mL)を順次通液し、プレコンディショニングとした。つづいて、マウス血清1mLに水(1mL)、0.1moL/L塩酸(1mL)を加え混合し、前述のカートリッジへ通液し非吸着画分を廃棄した。さらに1.5moL/Lのギ酸水溶液(2mL)、メタノール水溶液(5体積%)(2mL)を通液し洗浄した。その後0.1%ギ酸メタノール(3mL)を通液し、溶出した画分を15mLの遠沈管に回収した。得られた画分を、遠心エバポレーター(加熱無し)で一晩減圧濃縮して完全に乾固し、そこに水(200μL)を加え超音波で溶解した。遠心分離後(15、000rpm、5分)、上澄を1.5mLエッペンに回収し、総ポリフェノール量測定の検体とした。
(総ポリフェノール測定方法)
各検体100μLを1.5mLエッペンチューブに測り取り、10%(w/w)炭酸ナトリウム(100μL)を加えて10分放置した。さらにFolin-Ciocalteu試薬(100μL)を加え、1時間室温で発色させた。発色したサンプルを遠心分離(15、000rpm、5分)後、上清(200μL)を96-weLLマイクロプレートに移し、730nmの吸光度を測定した。定量用標準には、カテキン一水和物を用いた。250μg/mLの水溶液を調製し、それを適宜希釈して125、100、75、50、25、12.5μg/mLの標準溶液を調製した。これらを各検体と同様に処理し、測定結果から検量線を作成した。その結果を血清サンプルのデータに適用し、定量結果とした。
図1から明らかなように、実施例1、2の油脂コートを行った黒ショウガ原末を摂取した群の血中ポリフェノール量は、いずれも黒ショウガ原末を摂取させたものに比べて高い値を示している。特に、ナタネ油でコートを行った実施例2は、血中にとりこまれるポリフェノール量が多く、また、それが長時間にわたり持続することが分かった。」(段落【0044】?【0054】)

記載事項本21


」(【図1】)

(3)甲号証の記載

ア 甲第1号証
本件特許の優先日前(平成21年4月2日)に頒布された刊行物である甲第1号証には、以下の事項が記載されている。

記載事項甲1-1
「黒生姜根茎加工物を含むことを特徴とする冷え性改善用組成物。」(請求項1)

記載事項甲1-2
「黒生姜根茎の抽出物、黒生姜搾汁液及び黒生姜搾汁液の抽出物からなる群から選択される少なくとも1つを、有効成分として含有することを特徴とする冷え性改善用組成物。」(請求項2)

記載事項甲1-3
「請求項1乃至3のいずれか1項に記載の冷え性改善用組成物を含有することを特徴とする飲食品。」(請求項5)

記載事項甲1-4
「請求項2乃至4のいずれか1項に記載の冷え性改善用組成物を含有することを特徴とする医薬部外品。」(請求項6)

記載事項甲1-5
「請求項2乃至4のいずれか1項に記載の冷え性改善用組成物を含有することを特徴とする医薬品。」(請求項7)

記載事項甲1-6
「黒生姜(K.Parviflora)は東南アジアに自生するショウガ科、バンウコン属の植物で、精力増進、滋養強壮、血糖値の低下、体力回復、消化器系の改善、膣帯下、痔核、痔疾、むかつき、口内炎、関節痛、胃痛の改善などの報告がある。黒生姜は、長期にわたり人間に摂取されてきた実績のある天然植物あって、仮に大量に摂取したとしても強い副作用を誘発するおそれがなく、安全性が高い。また、黒生姜は風味に関して難点が少なく、同様に性状についても難点が少ない。そのため、当該組成物は、実用性が高く、飲食品、医薬部外品、医薬品等に幅広く使用することができる。本発明は、黒生姜の様々な生理作用を明らかにする中で、当該黒生姜が優れた冷え性改善効果(体表面温度上昇効果)を有することを新規に見出した。」(段落【0013】)

記載事項甲1-7
「抽出物及びその画分はこのままで使用することも可能であるが、必要に応じて噴霧乾燥や凍結乾燥等の手段により乾燥粉末化させて使用することも可能である。」(段落【0034】)

記載事項甲1-8
「本発明における医薬部外品及び医薬品とは、経口投与に適した性状を有し、通法に従って経口製剤として調製されたものをいい、経口固形製剤や経口液状製剤いう。」(段落【0041】)

記載事項甲1-9
「試験は、乾燥黒生姜を滅菌し80メッシュ以下に粉砕したもの330mgをゼラチンカプセルに充填し、これを3カプセル、黒生姜乾燥粉末として約1g相当を、25℃に調整した温水100mlで服用した。体表面温度の測定は、標準サーモグラフィーカメラ装置(機種名:IR FlexCam Pro320、ISI社製)を用いて実施した。」(段落【0047】)

イ 甲第2号証
本件特許の優先日前(平成23年11月24日)に頒布された刊行物である甲第2号証には、以下の事項が記載されている。

記載事項甲2-1
「黒ウコン(Kaempferiaparviflora)の抽出物及び/又は乾燥粉末を含有することを特徴とするキサンチンオキシダーゼ阻害剤。」(請求項1)

記載事項甲2-2
「ショウガ科(Zingiberaceae)ケンプフェリア(Kaempferia)属の植物の一種である黒ウコン(Kaempferiaparviflora)は別名黒ショウガ又はクラチャイダムとも呼ばれており、東南アジアに分布している。」(段落【0002】)

記載事項甲2-3
「黒ウコン(Kaempferia parviflora)の抽出物や乾燥粉末は、直接、飲食品類に調製することができる。また、抽出物や乾燥粉末を化粧料組成物あるいは医薬組成物として化粧品類、医薬品類に調製することができる。」(段落【0031】)

記載事項甲2-4
「黒ウコン(Kaempferia parviflora)の抽出物あるいは乾燥粉末を医薬組成物とし、その医薬組成物を配合させる医薬品としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、エキス剤等の経口医薬品、軟膏、眼軟膏、ローション、クリーム、貼付剤、坐剤、点眼薬、点鼻薬、注射剤等の非経口医薬品が挙げられ、これらの医薬品類に該抽出物及び/又は乾燥粉末を適量含有させて提供することができる。
黒ウコン(Kaempferia parviflora)の抽出物や乾燥粉末配合の上記医薬品類は、常法により製造することができる。」(段落【0038】)

記載事項甲2-5
「以下、実施例に基づき本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
ショウガ科(Zingiberaceae)の植物から得られる抽出物について、キサンチンオキシダーゼ阻害活性、5α-レダクターゼ阻害活性の有無を試験した。
黒ウコン(Kaempferia parviflora)の抽出物を実施例とし、抽出部位として根茎を用いた。比較例1としてウコン(Curcuma longa)、比較例2としてショウガ(Zingiber officinale)を使用し、実施例と同様に抽出部位として根茎を用いた。
先ず、キサンチンオキシダーゼ阻害試験について以下に示す。尚、キサンチンオキシダーゼ阻害試験は、Changらの方法(Anticancer Res., 13, (2)165-2170 (1993))に準じて行った。
<抽出及び被検体液の調製>
(実施例1)
黒ウコン(Kaempferia parviflora)の根茎を粉砕した粉砕物1000gを70%メタノール(7000mL)により2時間加熱抽出を行った。この抽出操作は2回行った。
得られた全ろ液を減圧濃縮して抽出物89gを得た。
抽出物を、1%ジメチルスルホキシド(DMSO)含有の0.1Mリン酸緩衝液に溶解した。尚、被検体液として抽出物濃度20μg/mL、50μg/mL、200μg/mL、500μg/mLの4種を調製した。
(比較例1)
上記実施例の被検体液と同様の方法により、ウコン(Curcuma longa)根茎の抽出物96gを得た。被検体液においても実施例と同様に調製した。
(比較例2)
上記実施例の被検体液と同様の方法により、ショウガ(Zingiber officinale)根茎の抽出物75gを得た。被検体液においても実施例と同様に調製した。
<キサンチンオキシダーゼ阻害試験方法>
0.1MのNaH2PO4水溶液に0.1MのNa2HPO4水溶液を加え、0.1Mリン酸緩衝液(pH7.8)(以下PBSと称する)を調製した。
PBSに、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレエート(ICI社、Tween80(登録商標)に相当)(以下Twと称する)を溶解し、0.1%Tw-PBSを調製した。
0.1%Tw-PBSにキサンチンを溶解し、245μMキサンチン/0.1%Tw-PBS液を得た。
この245μMキサンチン/0.1%Tw-PBS液、800μLに、上記した実施例1又は比較例1,2の被検体液100μLを添加し、25℃にて10分間プレインキュベーションを行った。2units/mLのキサンチンオキシダーゼ/Tw-PBSを10μL加え、25℃で3分間反応させた。更に、1NのHCl(100μL)を加えて反応を停止させた。得られた反応液をろ過し(0.45μmクロマトディスク,ジーエルサイエンス(株)社製)、ろ液を得た。
得られたろ液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供し、クロマトグラムのピーク面積を算出した。
<陰性対照及び陽性対照>
1%DMSO含有の0.1Mリン酸緩衝液を陰性対照とした。
1%DMSO含有の0.1Mリン酸緩衝液にアロプリノールを溶解させたものを陽性対照とした。尚、陽性対照として、10μM、20μM、30μMの3種の濃度を調製し試験に供した。
キサンチンオキシダーゼ阻害活性(阻害率)は、次式(式1)により算出した。
【数1】


HPLC(島津製作所製、SCL-10Avp)の測定条件を表1に示す。尚、検出器として吸光光度検出器(UV-Vis検出器)を使用した。
(中略)
実施例1、比較例1、2のキサンチンオキシダーゼ阻害試験結果を表2に示す。尚、表2中、ピークエリア面積の値は3回の測定の平均値±標準誤差であり、*は陰性対照と比較してp<0.05、**はp<0.01を示している。
【表2】

表2より、実施例1において20μg/mLや50μg/mLの低濃度でもキサンチンオキシダーゼ阻害活性が認められ、200μg/mLにおいて有意な差が確認された。また、濃度依存的に阻害率が向上することがわかった。
一方、比較例1においては低濃度ではキサンチンオキシダーゼに対する阻害活性は認められず、500μg/mLではじめて有意な差(p<0.01)が確認された。また、比較例2においてはキサンチンオキシダーゼ阻害活性が認められなかった。」(段落【0040】?【0054】)

記載事項甲2-6
「黒ウコン(Kaempferia parviflora)の抽出物が、キサンチンオキシダーゼ阻害活性及び5α-レダクターゼ阻害活性を有することが上記試験より明らかとなった。
更に、キサンチンオキシダーゼと5α-レダクターゼの両酵素を阻害する有効成分を特定するために、黒ウコン(Kaempferia parviflora)の抽出物に対して以下の試験を行った。
図1に示すクロマトグラムにおいて、有効成分と考えられる化合物に由来する10本のピークが確認された。保持時間の短いもの(時間軸左側)からAとし、最も長いもの(時間軸右側)をJとする。」(段落【0063】?【0064】)

記載事項甲2-7
「<溶出画分のキサンチンオキシダーゼ阻害活性>
実施例1で得られた抽出物をカラム(合成吸着樹脂、ダイアイオン(登録商標)HP-20、三菱化学社製)に通し、水溶出画分(画分1)、50%メタノール溶出画分(画分2)、80%メタノール溶出画分(画分3)の夫々の画分を得た。
画分1は0.2%DMSO含有の0.1Mリン酸緩衝液に溶解し、画分2,3は夫々1%DMSOに溶解した。
上記夫々の溶媒溶解画分について、キサンチンオキシダーゼ阻害試験を行った。試験は前述の方法と同様に行った。
尚、陰性対照及び陽性対照は前述の試験と同様とした。更に、陰性対照2として、0.2%DMSO含有の0.1Mリン酸緩衝液を使用した。
結果を表4に示す。尚、表4中、ピークエリア面積の値は3回の測定の平均値±標準誤差であり、*は陰性対照(1%DMSO含有0.1Mリン酸緩衝液)と比較してp<0.05、**はp<0.01を示している。
【表4】

表4より、画分1の50μg/mLにおいてのみキサンチンオキシダーゼ阻害活性が認められなかったが、画分1の200μg/mLと画分2,3のいずれにおいてもキサンチンオキシダーゼ阻害活性が認められた。その中で、画分3のキサンチンオキシダーゼ阻害率が高いことがわかった。」(段落【0065】?【0067】)

記載事項甲2-8
「上記画分3について、図1のピークA?Jの夫々の成分を単離した。
<ピークC,G,H成分の単離>
図1のピークC,G,H、つまり、5,7-ジメトキシフラボン、5-ヒドロキシ-3,7,3’,4’-テトラメトキシフラボン、5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボンをカラムクロマトグラフィーにより単離した。
シリカゲル(MERCK社製)を充填したカラムに上記画分3を供し、n-ヘキサンとアセトンの混合溶媒(混合比10:2)により溶出させ、溶出画分を得た。オクタデシルシリル(ODS)(LC-SORB,ケムコ社製)を充填したカラムに溶出画分を供し、60%及び80%メタノールで溶出させた。80%メタノールの溶出画分から5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボン56mgを単離した。
また、画分3を同様のカラムに供し、n-ヘキサンとアセトンの混合溶媒(混合比10:5)により溶出させ、溶出画分を得た。この溶出画分を同じカラムに再度供し、n-ヘキサンとアセトンの混合溶媒(混合比6:1)により溶出させた。この操作により、5-ヒドロキシ-3,7,3’,4’-テトラメトキシフラボン100mgを単離した。
5-ヒドロキシ-3,7,3’,4’-テトラメトキシフラボンを単離した同じカラムにおいて、n-ヘキサンとアセトンの混合溶媒(混合比3:1)により、5,7-ジメトキシフラボン760mgを単離した。
<ピークA、B、D?F、I、J成分の単離>
図1のピークA、B、D?F、I、Jに相当する夫々の成分を逆相系HPLCにより単離した。
(中略)
図1のピークA?C、G、Hの化合物の構造式を下記(化4)?(化8)に示す。ピークAは、5,7,3’,4’-テトラメトキシフラボン、ピークBは、3,5,7,6,4-ペンタメトキシフラボン、ピークCは、5,7-ジヒドロキシフラボン、ピークGは、5-ヒドロキシ-3,7,3’,4’-テトラメトキシフラボン、ピークHは、5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボンである。
尚、ピークA、Bに相当する化合物の構造は、上記した1H-NMRスペクトル及びマススペクトルに基づいて決定した。
【化4】

【化5】

【化6】

」(段落【0068】?【0078】)

記載事項甲2-9
「図1のピークA?C,G,H(上記(化4)?(化8))、及び図1のピークD?F、I、Jの化合物について、単離した夫々の化合物を含む各画分に対してキサンチンオキシダーゼ阻害試験を行った。
試験方法は前述の実施例と同様とし、また、陰性対照及び陽性対照も前述のキサンチンオキシダーゼ阻害試験と同様とした。尚、ピークC、G、H(上記(化6)?(化8))の化合物を含む画分については、画分濃度を37.5μM、75μM、150μM、300μMとした。
ピークC、G、Hの化合物についての結果を表7、ピークA、B、E、F、I、Jの化合物についての結果を表8に示す。尚、表7、8中、ピークエリア面積の値は3回の測定の平均値±標準誤差であり、*は陰性対照(1%DMSO含有0.1Mリン酸緩衝液)と比較してp<0.05、**はp<0.01を示している。
【表7】

【表8】

表7より、図1のピークC、つまり5,7-ジメトキシフラボンに高いキサンチンオキシダーゼ阻害活性が確認された。
表8より、図1のピークA、B、つまり5,7,3’,4’-テトラメトキシフラボン、3,5,7,6,4-ペンタメトキシフラボンに高いキサンチンオキシダーゼ阻害活性が確認された。
以上の結果より、5,7-ジメトキシフラボン、5,7,3’,4’-テトラメトキシフラボン、3,5,7,6,4-ペンタメトキシフラボンがキサンチンオキシダーゼ阻害作用の有効成分であることが示唆された。従って、黒ウコン(Kaempferia parviflora)の抽出物において、キサンチンオキシダーゼ阻害活性を有する化合物、即ち、有効成分はメトキシフラボンであることが示唆された。」

記載事項甲2-10
「【図1】

」(図1)



ウ 甲第3号証
本件特許の優先日前(平成13年11月13日)に頒布された刊行物である甲第3号証には、以下の事項が記載されている。

記載事項甲3-1
「ポリフェノール類を、多価アルコール脂肪酸エステルを含有する油脂中で微細化する第1工程と、第1工程で得られた該微細化されたポリフェノール類を含有する油脂を、多価アルコール脂肪酸エステルの存在下で水中油滴型に乳化する第2工程により得られるポリフェノール類製剤。」(請求項1)

記載事項甲3-2
「【発明の属する技術分野】本発明は、ポリフェノール類を、生理活性成分として含有する製剤、及び当該製剤を含有することを特徴とする食品に関するものである。」(段落【0001】)

記載事項甲3-3
「【従来の技術】ポリフェノール類は特異な生理作用により食品の生理機能付加・増強又は酸化防止剤等に利用される他、医薬品、化粧品、飼料等広範な分野での応用が期待されている。特に近年のポリフェノール類の研究成果は目覚しく、ポリフェノール類の抗酸化作用に由来する発ガン予防、老化防止作用の他、血中LDL低下作用、血圧上昇抑制作用、整腸作用、殺菌・抗菌作用、脱臭作用等が報告されている。しかしながら、ポリフェノール類は特異な苦味・渋味を有するため食品用途での利用に制限を受けること及び酸化、熱、光に対して変色しやすく不安定であるという欠点を有する。
ポリフェノール類の安定化法としては、アルコール性水酸基を2つ以上持つ化合物を配合することによってポリフェノール類の変色を抑制する方法(特開平6-239716)、植物ポリフェノール類を塩化セバコイル、塩化スクシニル、塩化アジポイル等の架橋剤によって架橋し、それをベースとしたマイクロカプセルを調製する方法(特表平8-508677)等が提案されている。しかし、前者の方法によって調製される組成物は、ポリフェノール類が遊離で溶存した状態にあり、ポリフェノール類に由来する強烈な渋味・苦味を有し、食品用途での利用に制限を受ける。また、後者の方法では、組成物の安定性は向上するもののマイクロカプセル自体がポリフェノール架橋物によって構成されているため、ポリフェノール類に由来する渋味・苦味の低減がされておらず、加えて架橋剤として用いる化合物については食品衛生法上制限を受ける等の欠点を有する。」(段落【0002】?【0003】

記載事項甲3-4
「本発明の目的は、ポリフェノール類を長期間安定に保ち、且つ呈味性、生体吸収性の優れた水系分散可能なポリフェノール類製剤を提供する事にある。」(段落【0003】)

記載事項甲3-5
「本発明者らは、前記の目的を達成するために鋭意検討を行った結果、ポリフェノール類の固体粒子を多価アルコール脂肪酸エステルを含有する油脂中で微細化する第1工程と、第1工程で得られた該微細化されたポリフェノール類を含有する油脂を多価アルコール脂肪酸エステルの存在下で水中油滴型に乳化する第2工程の処理より、ポリフェノール類特有の渋味・苦味がマスキングされ、且つ優れた安定性が付与されると同時に、従来にない優れた生体吸収性及び生体利用性を有すること、更には本発明ポリフェノール類製剤を含有する食品についても改善がされることを発見し、本発明を完成するに至った。」(段落【0005】)

記載事項甲3-6
「本発明におけるポリフェノール類は人体に摂取可能なものであれば特に限定するものではく、フラボン、フラボノール、フラバノン、イソフラボン、アントシアニン、フラバノール等のフラボノイド類、その他の非フラボノイド類、及びこれらの誘導体、重合体等、更に前記化合物を含有する植物体及び該植物体抽出物等何れを使用しても差し支えないが、好ましくは油脂に不溶の固体で且つ物理的破砕によってレーザー回折型粒度分布測定機による平均粒径が3μm以下の微粒子とすることができる性質のものが良い。ポリフェノール類の具体例を以下に示すがこれらに限定するものではない。
ポリフェノール類の具体例として、カテキン、エピカテキン、ガロカテキン、カテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピガロカテキンガレート、エピガロカテキン、タンニン酸、ガロタンニン、エラジタンニン、カフェー酸、ジヒドロカフェー酸、クロロゲン酸、イソクロロゲン酸、ゲンチシン酸、ホモゲンチシン酸、没食子酸、エラグ酸、ロズマリン酸、ルチン、クエルセチン、クエルセタギン、クエルセタゲチン、ゴシペチン、アントシアニン、ロイコアントシアニン、プロアントシアニジン、エノシアニン、及びこれらの誘導体、重合体、立体異性体から選ばれる少なくとも1種又は2種以上の混合物が挙げられる。」(段落【0007】、【0008】)

記載事項甲3-7
「本発明におけるポリフェノール類を含有する植物体は、特に限定するものではない。即ち、光合成を行う植物はおよそポリフェノール類を含有するものであり、ポリフェノール類を抽出し得るもの、且つ該抽出物が人体に摂取可能なものであれば良い。植物の具体例を以下に示すがこれらに限定するものではない。
植物の具体例として、茶等のツバキ科植物、ブドウ等のブドウ科植物、コーヒー等のアカネ科植物、カカオ等のアオギリ科植物、ソバ等のタデ科植物、グーズベリー、クロフサスグリ、アカスグリ等のユキノシタ科植物、ブルーベリー、ホワートルベリー、ブラックハクルベリー、クランベリー、コケモモ等のツツジ科植物、赤米、ムラサキトウモロコシ等のイネ科植物、マルベリー等のクワ科植物、エルダーベリー、クロミノウグイスカグラ等のスイカズラ科植物、プラム、ヨーロッパブラックベリー、ローガンベリー、サーモンベリー、エゾイチゴ、セイヨウキイチゴ、オオナワシロイチゴ、オランダイチゴ、クロミキイチゴ、モレロチェリー、ソメイヨシノ、セイヨウミザクラ、甜茶、リンゴ等のバラ科植物、エンジュ、小豆、大豆、タマリンド、ミモザ、ペグアセンヤク等のマメ科植物、紫ヤマイモ等のヤマイモ科植物、カキ等のカキ科植物、ヨモギ、春菊等のキク科植物、バナナ等のバショウ科植物、ヤマカワラムラサキイモ等のヒルガオ科植物、ローゼル等のアオイ科植物、赤シソ等のシソ科植物、赤キャベツ等のアブラナ科植物等が挙げられ、これらの植物に応じて果実、果皮、花、葉、茎、樹皮、根、塊根、種子、種皮、等の部位が任意に選ばれる。また、該植物体から得られる抽出物の形態としては、固体であり、好ましくは油脂に不溶で且つ物理的破砕によってレーザー回折型粒度分布測定機による平均粒径が3μm以下の微粒子とすることができる性質を有するものが良い。」(段落【0009】、【0010】)

記載事項甲3-8
「<第1工程>
実施例1<ポリフェノール微細化物>
菜種極度硬化油(融点65℃)52.5重量部及びポリグリセリン脂肪酸エステル(サンファットPS-66、エステル化度75%、HLB=4、太陽化学株式会社製)12.5重量部を混合して加熱融解し、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル5.0重量部(サンソフト818H、太陽化学株式会社製)を混合し、湯煎にて温度を65℃?70℃に保ちながら、茶ポリフェノール30重量部(サンフェノンDCF-1、太陽化学株式会社製)を加えた油性懸濁液を調製し、これをコボールミル(神鋼パンテック株式会社製)に掛け、レーザー回折型粒度分布測定により茶ポリフェノールの平均粒子径が1.0μmとなったポリフェノール微細化物を得た。」(段落【0021】)

記載事項甲3-9
「<第2工程>
実施例4<ポリフェノール類製剤>
水200重量部を予め65?70℃に加温しておき、ホモミキサーで撹拌しながら、デキストリン52.7重量部(BLDNo.8、参松工業株式会社製)、酸カゼイン15重量部(ACID CASEIN EDIBLE 30/60MESH、メグレ社製)、炭酸ナトリウム1重量部、グリセリン脂肪酸有機酸エステル0.6重量部(サンソフト641C、太陽化学株式会社製)、ポリグリセリン脂肪酸エステル0.7重量部(サンソフトQ-18S、太陽化学株式会社製)を順次加え、完全に溶解し、引き続きホモミキサーで撹拌、65?70℃を保持したまま、予め加熱融解しておいた実施例1のポリフェノール微細化物30重量部を除々に投入し乳化させ、その後噴霧乾燥にて乾燥粉末化し、水中油滴分散型油脂被覆ポリフェノール類製剤の粉末品を得た。」(段落【0024】)

記載事項甲3-10
「試験例1<ポリフェノール類製剤の水系分散性>
実施例4記載の本発明ポリフェノール類製剤0.5gを20℃の水100mLに添加後軽く撹拌し、撹拌直後及び室温にて1日経過後の水中での分散状態を確認した。対照として以下に示す比較品1及び実施例1で用いた茶ポリフェノールをそれぞれ茶ポリフェノール含量が同量となる様に用いた。その結果を表1に示す。
<比較品1>
菜種極度硬化油(融点65℃)50重量部、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル10重量部(サンソフト818H、太陽化学株式会社製)を加熱溶解する。実施例1で用いた茶ポリフェノールを40重量部添加し混合後、ノズル式噴霧装置にて20℃に保った室内へ噴霧し、粒子径200μm?500μmの油脂被覆ポリフェノール粒子を得た。
【表1】

表1より、比較品1では、水の着色も全くないことから、水中でのポリフェノール溶出は見られず安定であることが確認できたが、全く水に分散しなかった。しかし、実施例4のポリフェノール類製剤は、比較品1と同様に茶ポリフェノールが椰子硬化油脂に被覆されているにもかかわらず、極めて良好な水分散性を示し、かつ良好な安定性を示した。」(段落【0029】?【0031】)

記載事項甲3-11
「試験例5<ポリフェノール類製剤の生体吸収性及び生体利用性>
本発明ポリフェノール類製剤は、ポリフェノール類微細粒子の全周囲表面上に均質な油脂被覆剤層を形成したマイクロカプセル構造を有するため、安定性及び渋味マスキング効果に優れた製剤となっている。それ故、実際に生体に経口投与した場合の生体吸収性及び生体利用性について改めて確認する必要がある。生体吸収性及び生体利用性の試験は、Nakagawaらの方法(J. Agric. Food Chemi.、 1999、 47、 3967-3973)に準じて行った。即ち、健常な男性(23?48歳の非喫煙者)30人を対象とし、ポリフェノール類製剤投与前12時間は茶及び茶由来成分を含有する飲食を断ち、半数の15人に対し実施例4の茶ポリフェノールを含有するポリフェノール類製剤を、残り半数の15人に対しては対照品として実施例1で用いた茶ポリフェノールを、それぞれ総カテキン含量254mg(エピガロカテキンガレート含量82mg)となるように経口摂取した。経口摂取直前及び摂取後1時間経過時の血液を採取し、血清を分離後血清中のエピガロカテキンガレート含量及び過酸化リン脂質含量を測定した。血清中のエピガロカテキンガレート含量を表4及び図4に、血清中の過酸化リン脂質含量を表5及び図5に示す。
【表4】

【表5】

表4及び図4より、実施例4の本発明ポリフェノール類製剤は、対照品と比較して同等の生体吸収性があることを確認した。更に表5及び図5より、血清中の過酸化リン脂質の減少が確認された。これは、本発明ポリフェノール類製剤が、ポリフェノール類微細粒子の全周囲表面上に均質な油脂被覆剤層を形成したマイクロカプセル構造を有するにもかかわらず、ポリフェノールの生体吸収性及び生体利用性に対し、本発明にかかるマイクロカプセルが何らの障害にもなっていないことを裏付けるものである。」(段落【0039】?【0042】)

記載事項甲3-12
「【図4】

」(図4)

エ 甲第4号証
本件特許の優先日前(平成21年10月5日)に頒布された刊行物である甲第4号証には、以下の事項が記載されている。

記載事項甲4-1
「微細化されたアントシアニン含有素材及び分散剤を含有するアントシアニン含有組成物において、
前記分散剤は、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、及びポリグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とするアントシアニン含有組成物。」(請求項1)

記載事項甲4-2
「一般に、植物体内に存在する抗酸化物質としてアントシアニン(anthocyanin)が知られている。アントシアニンは、ポリフェノールの一種であり、アントシアニジン(anthocyanidin)をアグリコンとする配糖体として構成されている。また、アントシアニンは、天然色素として知られ、従来より食品、医薬品、化粧品等の分野で天然着色成分として利用されてきた。また、従来よりアントシアニン自体の生理機能として、眼の網膜に存在する視物質であるロドプシンの再合成を促進する作用を有し、摂取することにより視力の向上に効果があることが知られている(特許文献1参照)。」(段落【0002】)

記載事項甲4-3
「分散剤は、微細化されたアントシアニン含有素材の再凝集を抑制し、生体摂取後のアントシアニンの吸収率を向上させるために配合される。尚、本発明においては、分散剤には、食品添加物として用いられる保護剤及び乳化剤も含むものとする。分散剤としては、例えば、微細化されたアントシアニンの再凝集を抑制する作用を発揮する成分が採用され、公知の成分を使用することができる。例えば、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、及びポリグリセリン脂肪酸エステルが挙げられる。これらは単独で用いられてもよいし、二種以上が組み合わされて用いられてもよい。これらの中で、アントシアニンの消化管からの吸収率の高いレシチン、グリセリン脂肪酸エステル、及びショ糖脂肪酸エステルがより好ましく、レシチンが特に好ましい。」(段落【0021】)

記載事項甲4-4
「その他の成分としてドコサヘキサエン酸(DHA)、サフラワー油、及び亜麻仁油から選ばれる少なくとも一種は、アントシアニン含有組成物中のアントシアニンの消化管からの吸収率をさらに高めるために配合されることが好ましい。これらは単独で用いられてもよいし、二種以上が組み合わされて用いられてもよい。これらの中で、アントシアニンの消化管からの吸収率の高いサフラワー油、及び亜麻仁油が特に好ましい。アントシアニン含有組成物中におけるDHA、サフラワー油、及び亜麻仁油から選ばれる少なくとも一種の含有量は、好ましくは、1?99重量%、より好ましくは、20?80重量%である。この含有量が、1重量%未満であるとアントシアニンの吸収率向上作用を十分に発揮することはできない。一方、含有量が99重量%を超えると組成物中のアントシアニンの含有率が低下するため好ましくない。」(段落【0023】)

記載事項甲4-5
「以下に試験例を挙げ、前記実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<試験例1:アントシアニン含有組成物の製造及びアントシアニン含有組成物の粒径分布の測定>
分散剤としてレシチン(サンレシチンA‐1、太陽化学社製)1重量%とアントシアニン含量36%以上(アントシアニジン含量25%以上)に規格化されたビルベリーエキス末30重量%を配合した水溶液をアントシアニン含有素材として調製した。尚、アントシアニン含有素材として用いられるビルベリーエキス末は、まずビルベリー果実を酸性水溶液で抽出処理し、濾過して粗抽出液を得た。次に、該粗抽出液を多孔質合成吸着樹脂に吸着させ、不要な成分を洗い流し、アントシアニン成分をエタノールで溶出させた。そして、噴霧乾燥後、粉砕した物をビルベリーエキス末とした。
次に、上記アントシアニン含有素材を湿式の高圧ホモジェナイザー(アルティマイザー:スギノマシン社製)を用いて、245MPaの高圧で、1回処理(1パス)、5回繰り返し処理(5パス)、10回繰り返し処理(10パス)、20回繰り返し処理(20パス)をそれぞれ行なった。そして、各処理液を凍結乾燥して粉砕・粉末化することにより、各所定回数のパス処理を行なったアントシアニン含有組成物を得た。
次に、得られた各アントシアニン含有組成物について、レーザー回折・散乱式粒度分布測定器(SKレーザーマイクロンサイザーLMS-350:セイシン企業社製)を用いて粒径分布を求めた。結果を図1?4に示す。
図1?4に示されるように、粒度分布の測定の結果、パス回数を上げるごとに粒度の分布が小さい方(ナノレベル)にシフトしていることが確認された。1パスは平均粒径が4.1μm、比表面積2.1m2/cm3、5パスは平均粒径が3.0μm、比表面積2.6m2/cm3、10パスは平均粒径が3.0μm、比表面積3.2m2/cm3、20パスは平均粒径が2.4μm、比表面積3.7m2/cm3であった。また、10パス以上処理することにより、700ナノメートル付近において、第2のピークが現れることが確認された。尚、マイクロスコープ(200倍)による観察をした結果、明らかに微細化処理したものは、粒子が細かくなっていることが確認された(データ不添付)。」(段落【0038】?【0041】)

記載事項甲4-6
「(試験例2-3:油類添加の影響)
パス回数を3回とした以外、試験例1欄に記載の方法に従って微細化処理を行ない、アントシアニン含有組成物としての各凍結乾燥粉末を作製した。この粉末をビルベリーエキス末がそれぞれ1重量%となるように生理食塩水に配合し、さらに下記表3に示される各種油を0.5重量%となるように配合して各試料を調製し、反転腸管試験を行なった。尚、吸収性の評価は、油類を含有せず、微細化ビルベリーエキス末(1%レシチン含有組成物(3パス))を使用した時の吸光度(参考例1)を100%とした時の、各試料の吸光度を比較することによって行なった。結果を表3に示す。
【表3】

表3に示されるように、アントシアニン含有組成物中に、DHA、サフラワー油及び亜麻仁油を配合した参考例2、3、6は吸収率が良好であったことが確認された。特に、サフラワー油及び亜麻仁油を配合した参考例3、6は吸収率が特に優れることが確認された。」(段落【0051】?【0053】)

オ 甲第5号証
本件特許の優先日前(平成21年1月8日)に頒布された刊行物である甲第5号証には、以下の事項が記載されている。

記載事項甲5-1
「油溶性ポリフェノールをクマササ由来リグニンに内包させることにより腸管吸収性を高めた油溶性ポリフェノール製剤。」(請求項1)

記載事項甲5-2
「前記の油溶性ポリフェノールとは、油に溶解する脂溶性の高いポリフェノールである。
たとえば、カキノハ由来油溶性ポリフェノール、カキノハ由来油溶性カテキン、カキノハ由来油溶性ステロール、クコシ由来油溶性ポリフェノール、クコシ由来油溶性ゼアキサンチン、菊花由来油溶性ポリフェノール、マツバ由来油溶性ポリフェノール、ドクダミ由来油溶性ポリフェノール、ユキノシタ由来油溶性ポリフェノール、緑茶由来油溶性ポリフェノール、緑茶由来油溶性カテキンなどである。
前記の油溶性ポリフェノールは、原材料に植物油や鉱物油を添加し、攪拌し、抽出することにより得られる。」(段落【0024】?【0026】)

記載事項甲5-3
「前記の植物油とは、ヤシ油、パーム油、大豆油、オリーブ油、ナタネ油、コメ油、胚芽油、コーン油、ベニバナ油、アマニ油、アーモンド油、ゴマ油、カカオ油、キャノーラ油、グレープシード油、エゴマ油、小麦胚芽油、コメヌカ油、サフラワー油、シソ油、茶油、ツキミソウ油、パンプキンシード油、ピーナッツ油、ブドウ油、ヘーゼルナッツ油、綿実油、落花生油などの食用又は化粧品に用いられる油が好ましい。」(段落【0041】)

記載事項甲5-4
「【実施例1】
岐阜県内で無農薬にて栽培されたカキノハ3kgを水洗後、乾燥させて粉砕した。この1kgに大豆油5kgを添加し、30℃で、60回/分の攪拌速度で10時間攪拌した。
これをろ過布によりろ過し、90℃で滅菌し、冷却してカキノハ由来ポリフェノール760gを得た。
このカキノハ由来ポリフェノール500gに、安理ジャパン製のクマササ由来リグニン5kg及び焼津水産化学工業製のグルコサミン500gを添加し、85℃で2時間加熱した。
冷却して目的とするカキノハ由来ポリフェノール含有製剤の5.2kgを得た。これを実施例1の検体とした。」(段落【0145】?【0148】)

記載事項甲5-5
「次に、クコシ由来ポリフェノールをクマササ由来リグニンに内包した油溶性ポリフェノール製剤について説明する。
【実施例2】
中国で栽培されたクコシ2kgを水洗後、乾燥させて粉砕した。この1kgに大豆油5kgを添加し、35℃で、100回/分の攪拌速度で20時間攪拌した。
これをろ過布によりろ過し、90℃で滅菌し、冷却してクコシ由来ポリフェノール660gを得た。
このクコシ由来ポリフェノール500gに、安理ジャパン製のクマササ由来リグニン5kg及びフラクトースジャパン製の果糖500gを添加し、80℃で3時間加熱した。
冷却して目的とするクコシ由来ポリフェノール含有製剤の5.3kgを得た。これを実施例2の検体とした。」(段落【0149】?【0153】)

記載事項甲5-6
「次に、菊花由来ポリフェノールをクマササ由来リグニンに内包した油溶性ポリフェノール製剤について説明する。
【実施例3】
山形県で栽培された菊の花2.6kgを水洗後、乾燥させて粉砕した。この1kgに大豆油5kgを添加し、33℃で、90回/分の攪拌速度で18時間攪拌した。
これをろ過布によりろ過し、88℃で滅菌し、冷却して菊花由来ポリフェノール3.5kgを得た。
このクコシ由来ポリフェノール500gに、安理ジャパン製のクマササ由来リグニン5kg及びフラクトースジャパン製の果糖500gを添加し、80℃で4時間加熱した。
冷却して目的とする菊花由来ポリフェノール含有製剤の5.2kgを得た。これを実施例3の検体とした。」(段落【0154】?【0158】)

記載事項甲5-7
「次に、マツバ由来ポリフェノールをクマササ由来リグニンに内包した油溶性ポリフェノール製剤について説明する。
【実施例4】
長野県で栽培されたアカマツの葉2kgを水洗後、乾燥させて粉砕した。この1kgに大豆油5kgを添加し、37℃で、95回/分の攪拌速度で18時間攪拌した。
これをろ過布によりろ過し、89℃で滅菌し、冷却してマツバ由来ポリフェノール3.1kgを得た。
この菊花由来ポリフェノール500gに、安理ジャパン製のクマササ由来リグニン5kg及び焼津水産化学工業製のグルコサミン500gを添加し、88℃で3時間加熱した。
冷却して目的とするマツバ由来ポリフェノール含有製剤の5.4kgを得た。これを実施例4の検体とした。」(段落【0159】?【0163】)

記載事項甲5-8
「次に、ドクダミ由来ポリフェノールをクマササ由来リグニンに内包した油溶性ポリフェノール製剤について説明する。
【実施例5】
長野県で栽培されたドクダミの葉2kgを水洗後、乾燥させて粉砕した。この1kgに大豆油5kgを添加し、35℃で、100回/分の攪拌速度で13時間攪拌した。
これをろ過布によりろ過し、89℃で滅菌し、冷却してドクダミ由来ポリフェノール3.3kgを得た。
このドクダミ由来ポリフェノール500gに、安理ジャパン製のクマササ由来リグニン5kg及びフラクトースジャパン製の果糖500gを添加し、83℃で2時間加熱した。
冷却して目的とするドクダミ由来ポリフェノール含有製剤の5.3kgを得た。これを実施例5の検体とした。」(段落【0164】?【0168】)

記載事項甲5-9
「次に、緑茶由来ポリフェノールをクマササ由来リグニンに内包した油溶性ポリフェノール製剤について説明する。
【実施例6】
静岡県で栽培された緑茶葉2kgを水洗後、乾燥させて粉砕した。この1kgに大豆油5kgを添加し、37℃で、90回/分の攪拌速度で12時間攪拌した。
これをろ過布によりろ過し、90℃で滅菌し、冷却して緑茶由来ポリフェノール3.2kgを得た。
この緑茶由来ポリフェノール500gに、安理ジャパン製のクマササ由来リグニン5kg及び焼津水産化学工業製のグルコサミン500gを添加し、83℃で2時間加熱した。
冷却して目的とする緑茶由来ポリフェノール含有製剤の5.3kgを得た。これを実施例6の検体とした。」(段落【0169】?【0173】)

記載事項甲5-10
「次に、ユキノシタ由来ポリフェノールをクマササ由来リグニンに内包した油溶性ポリフェノール製剤について説明する。
【実施例7】
神奈川県で栽培されたユキノシタ3kgを水洗後、乾燥させて粉砕した。この1kgに大豆油5kgを添加し、35℃で、88回/分の攪拌速度で13時間攪拌した。
これをろ過布によりろ過し、88℃で滅菌し、冷却してユキノシタ由来ポリフェノール3.1kgを得た。
このユキノシタ由来ポリフェノール500gに、安理ジャパン製のクマササ由来リグニン5kg及びフラクトースジャパン製の果糖500gを添加し、80℃で3時間加熱した。
冷却して目的とするユキノシタ由来ポリフェノール含有製剤の5.3kgを得た。これを実施例7の検体とした。」(段落【0174】?【0178】)

記載事項甲5-11
「以下に、実施例1で得られた検体を用いた吸収率の測定試験について説明する。
(試験例1)
試験には健全な年齢21歳?68歳の男性10名及び年齢29歳?60歳の女性10名を用いた。被験者は胃や腸管に疾病を持っていないことを確認した。
被験者は一晩、絶食後、午前9時に、実施例1で得られた検体の1gを摂取させ、300mLの水を飲ませた。摂取後1時間、3時間、6時間、12時間及び24時間後に、採血して血中ポリフェノール量を測定した。
この値からAUC量が判明し、体内移行・排泄の指標とした。
この約1週間後、同様に、カキノハ由来ポリフェノールを前記製剤に含まれると同様のポリフェノール量を摂取させて、同様に、摂取後のポリフェノール量からAUC量を算出した。
その結果、実施例1で得られたポリフェノール製剤のAUC量は、カキノハ由来ポリフェノールの摂取のAUC量に比して、4.6倍に増加していた。
この結果、実施例1で得られたポリフェノール製剤は、カキノハ由来ポリフェノールの吸収を増加させるものと考えられた。
なお、実施例1の検体の摂取により、自覚症状、体調、体温、血圧、血液検査値に異常は認められず、安全性が確認された。」(段落【0179】?【0186】)

記載事項甲5-12
「以下に、実施例2で得られた検体を用いた吸収率の測定試験について説明する。
(試験例2)
試験には健全な年齢23歳?78歳の男性3名及び年齢22歳?68歳の女性4名を用いた。被験者は胃や腸管に疾病を持っていないことを確認した。
被験者は一晩、絶食後、午前9時に、実施例2で得られた検体の1gを摂取させ、300mLの水を飲ませた。摂取後1時間、3時間、6時間、12時間及び24時間後に、採血して血中ポリフェノール量を測定した。
この値からAUC量が判明し、体内移行・排泄の指標とした。
この約1週間後、同様に、内包をしていないクコシ由来ポリフェノールを前記製剤に含まれると同様のポリフェノール量を摂取させて、同様に、摂取後のポリフェノール量からAUC量を算出した。
その結果、実施例2で得られたポリフェノール製剤のAUC量は、内包をしていないクコシ由来ポリフェノールの摂取のAUC量に比して、6.7倍に増加していた。
この結果、実施例2で得られたポリフェノール製剤は、クコシ由来ポリフェノールの吸収を増加させるものと考えられた。
なお、実施例2の検体の摂取により、自覚症状、体調、体温、血圧、血液検査値に異常は認められず、安全性が確認された。」(段落【0187】?【0194】)

記載事項甲5-13
「以下に、実施例3で得られた検体を用いた吸収率の測定試験について説明する。
(試験例3)
試験には健全な年齢24歳?56歳の男性4名及び年齢29歳?56歳の女性3名を用いた。被験者は胃や腸管に疾病を持っていないことを確認した。
被験者は一晩、絶食後、午前9時に、実施例3で得られた検体の1gを摂取させ、300mLの水を飲ませた。摂取後1時間、3時間、6時間、12時間及び24時間後に、採血して血中ポリフェノール量を測定した。
この値からAUC量が判明し、体内移行・排泄の指標とした。
この約1週間後、同様に、内包をしていない菊花由来ポリフェノールを前記製剤に含まれると同様のポリフェノール量を摂取させて、同様に、摂取後のポリフェノール量からAUC量を算出した。
その結果、実施例3で得られたポリフェノール製剤のAUC量は、内包をしていない菊花由来ポリフェノールの摂取のAUC量に比して、4.2倍に増加していた。
この結果、実施例3で得られたポリフェノール製剤は、菊花由来ポリフェノールの吸収を増加させるものと考えられた。
なお、実施例3の検体の摂取により、自覚症状、体調、体温、血圧、血液検査値に異常は認められず、安全性が確認された。」(段落【0195】?【0202】)

記載事項甲5-14
「以下に、実施例4で得られた検体を用いた吸収率の測定試験について説明する。
(試験例4)
試験には健全な年齢26歳?51歳の男性3名及び年齢28歳?59歳の女性3名を用いた。被験者は胃や腸管に疾病を持っていないことを確認した。
被験者は一晩、絶食後、午前9時に、実施例4で得られた検体の1gを摂取させ、300mLの水を飲ませた。摂取後1時間、3時間、6時間、12時間及び24時間後に、採血して血中ポリフェノール量を測定した。
この値からAUC量が判明し、体内移行・排泄の指標とした。
この約1週間後、同様に、内包をしていないマツバ由来ポリフェノールを前記製剤に含まれると同様のポリフェノール量を摂取させて、同様に、摂取後のポリフェノール量からAUC量を算出した。
その結果、実施例4で得られたポリフェノール製剤のAUC量は、内包をしていないマツバ由来ポリフェノールの摂取のAUC量に比して、3.7倍に増加していた。
この結果、実施例4で得られたポリフェノール製剤は、マツバ由来ポリフェノールの吸収を増加させるものと考えられた。
なお、実施例4の検体の摂取により、自覚症状、体調、体温、血圧、血液検査値に異常は認められず、安全性が確認された。」(段落【0203】?【0210】)

記載事項甲5-15
「以下に、実施例5で得られた検体を用いた吸収率の測定試験について説明する。
(試験例5)
試験には健全な年齢33歳?59歳の男性4名及び年齢23歳?66歳の女性4名を用いた。被験者は胃や腸管に疾病を持っていないことを確認した。
被験者は一晩、絶食後、午前9時に、実施例4で得られた検体の1gを摂取させ、300mLの水を飲ませた。摂取後1時間、3時間、6時間、12時間及び24時間後に、採血して血中ポリフェノール量を測定した。
この値からAUC量が判明し、体内移行・排泄の指標とした。
この約1週間後、同様に、内包をしていないドクダミ由来ポリフェノールを前記製剤に含まれると同様のポリフェノール量を摂取させて、同様に、摂取後のポリフェノール量からAUC量を算出した。
その結果、実施例5で得られたポリフェノール製剤のAUC量は、内包をしていないドクダミ由来ポリフェノールの摂取のAUC量に比して、3.7倍に増加していた。
この結果、実施例5で得られたポリフェノール製剤は、ドクダミ由来ポリフェノールの吸収を増加させるものと考えられた。
なお、実施例5の検体の摂取により、自覚症状、体調、体温、血圧、血液検査値に異常は認められず、安全性が確認された。」(段落【0211】?【0218】)

記載事項甲5-16
「以下に、実施例6で得られた検体を用いた吸収率の測定試験について説明する。
(試験例6)
試験には健全な年齢27歳?54歳の男性3名及び年齢29歳?60歳の女性4名を用いた。被験者は胃や腸管に疾病を持っていないことを確認した。
被験者は一晩、絶食後、午前9時に、実施例4で得られた検体の1gを摂取させ、300mLの水を飲ませた。摂取後1時間、3時間、6時間、12時間及び24時間後に、採血して血中ポリフェノール量を測定した。
この値からAUC量が判明し、体内移行・排泄の指標とした。
この約1週間後、同様に、内包をしていない緑茶由来ポリフェノールを前記製剤に含まれると同様のポリフェノール量を摂取させて、同様に、摂取後のポリフェノール量からAUC量を算出した。
その結果、実施例6で得られたポリフェノール製剤のAUC量は、内包をしていない緑茶由来ポリフェノールの摂取のAUC量に比して、5.1倍に増加していた。
この結果、実施例6で得られたポリフェノール製剤は、緑茶由来ポリフェノールの吸収を増加させるものと考えられた。
なお、実施例6の検体の摂取により、自覚症状、体調、体温、血圧、血液検査値に異常は認められず、安全性が確認された。」(段落【0219】?【0226】)

記載事項甲5-17
「以下に、実施例7で得られた検体を用いた吸収率の測定試験について説明する。
(試験例7)
試験には健全な年齢24歳?59歳の男性4名及び年齢23歳?62歳の女性3名を用いた。被験者は胃や腸管に疾病を持っていないことを確認した。
被験者は一晩、絶食後、午前9時に、実施例4で得られた検体の1gを摂取させ、300mLの水を飲ませた。摂取後1時間、3時間、6時間、12時間及び24時間後に、採血して血中ポリフェノール量を測定した。
この値からAUC量が判明し、体内移行・排泄の指標とした。
この約1週間後、同様に、内包をしていないユキノシタ由来ポリフェノールを前記製剤に含まれると同様のポリフェノール量を摂取させて、同様に、摂取後のポリフェノール量からAUC量を算出した。
その結果、実施例6で得られたポリフェノール製剤のAUC量は、内包をしていないユキノシタ由来ポリフェノールの摂取のAUC量に比して、4.4倍に増加していた。
この結果、実施例6で得られたポリフェノール製剤は、ユキノシタ由来ポリフェノールの吸収を増加させるものと考えられた。
なお、実施例7の検体の摂取により、自覚症状、体調、体温、血圧、血液検査値に異常は認められず、安全性が確認された。」(段落【0227】?【0234】)

カ 甲第6号証
本件特許の優先日前(平成20年)に頒布された刊行物である甲第6号証には、以下の事項が記載されている。

記載事項甲6-1
「食品素材の「ナノサイズ」カプセル化技術の開発」(タイトル)

記載事項甲6-2
「新しいタイプの機能性食品の開発を目的として,食品用リン脂質(レシチン)を用いて,秋ウコン抽出エキスを含有するナノカプセル(NUE)の調製を検討した。その結果,メカノケミカル法の活用により,ナノカプセルの粒子径および粒径分布の制御が容易に可能であることを見出した。得られたNUEは,一枚膜リボソームで粒径分布も小さく(114nm±49),クルクミンに対して非常に高い封入率(85%以上)を示した。また,NUEの消化液に対する耐性を調べたところ,コントロール(秋ウコン抽出エキスのみ)に比ベクルクミンの残存率が2倍以上であり,ナノカプセル化による食品成分の保護効果が確認された。さらに,NUEの経口投与による急性肝障害マウスの肝障害抑制作用を検討したところ,コントロール群に比べ1/3以下のエキス量でも有意な抑制作用を認め,ナノカプセル化によって食品機能も大きく向上することが判った。さらに,そのメカニズムを検証するため,クルクミンのみを含有するナノカプセル(NEC)を調製し,ラットにおける腸管吸収への影響を調べた。その結果,経口投与後,コントロールに比べて血漿中のクルクミン濃度が有意に上昇しており,ナノカプセル化によって食品成分の腸管吸収が促進されるため,その有効性が向上することを見出した。」(151頁「論文要旨」)

記載事項甲6-3
「3・3 クルクミンに対する腸管吸収促進作用
NUEの経口摂取によって肝障害抑制賦活効果を確認したが,その効果と有効成分の吸収率との関係は不明であった。そこで秋ウコンエキスの疎水成分であるクルクミンのみをナノカプセル化した場合の腸管吸収促進作用を調べた。腸管吸収促進作用はクルクミン(コントロール)およびナノカプセル化クルクミン(NEC)をSDラット(8W,♂)にクルクミン量として100mg/kgとなるように単回投与した後,30分後,60分後,120分後に腹下大静脈からそれぞれ採血し,得られた血漿中のクルクミン濃度を測定して評価した。その結果,ナノカプセル化によって血中クルクミン濃度は有意に上昇し,コントロール(クルクミンのみ)に比べてAUCは約5倍まで上昇した(Fig.10)。以上の結果より,クルクミンをナノカプセル化することによって,腸管での吸収を飛躍的に向上させることが明らかとなった。この結果は,NUEの経口摂取における,消化液に対するクルクミン分解抑制効果や肝障害抑制作用の賦活を期待させるものである。」(156頁左欄24行?同頁右欄10行)

キ 甲第7号証
本件特許の優先日前(平成21年11月)に頒布された刊行物である甲第7号証には、以下の事項が記載されている。

記載事項甲7-1
「機能性評価の実例
黒ウコン(Kaempferiaparviflora)は、タイを中心に東南アジア諸国において、古くから長寿・強壮を謳う民間伝統薬として用いられてきました。その根茎の切口は濃い紫色で,アントシアニンなどのフラボノイド類を豊富に含みます。この黒ウコンの機能性について、代表的な生化学・培養細胞系のスクリーニング試験を行った結果を図?2に示しました。比較のために同じショウガ科の他のウコン類やショウガについても同時に評価を行いました。黒ウコンとクルクミン含量の高い秋ウコン(Curcumalonga)が、他のウコン類やショウガよりも全体的に強い効果を示しました。中でも黒ウコンは、抗アレルギー作用が特徴的で、その後の化学分析の結果、メトキシフラボノイド類が寄与成分として同定されました。」(4頁1?10行)

ク 甲第21号証
本件の請求人側代理人である弁理士森博が平成28年1月14日に作成した文書である甲第21号証には、以下の事項が記載されている。

記載事項甲21-1
「本証明書は、本件特許(特許第5569848号)明細書段落【0044
】?【0054】における実施例(ポリフェノール吸収性増進効果)の再現実験(以下、「本件特許再現実験」と記載する。)、特に使用した被験物質の選定基準、調整方法について説明するためのものである。」(1頁2?4行)

記載事項甲21-2
「4.被験物質の調整
(1)被験物質の調整に使用した原材料、機器は以下の通りである。
<<原料>>
1)黒ショウガ粉末:ブラックジンジャー粉末(有限会社備南食研): 別紙1-1?1-3
2)ナタネ油:キャノーラ油(食用なたね油):理研農産化工株式会社:別紙2
3)パーム油:精製パームオイル(食用パーム油):Cafe de Savon:別紙3
4)コーン油:コーン油(食用とうもろこし油):株式会社J-オイルミルズ:別紙4
5)エタノール:和光純薬工業株式会社、品番052-00467

≪使用機器≫
・ボルテックス: IWAKI TUBE MIXER TM-2000
・遠沈管 :Falcon社製、最大測定容量:50mL
・アトマイザー:株式会社大創産業社製 容量27mL、外観写真:別紙5
使用したアトマイザーの噴霧性能を、純水で確認したところ、1プッシュ当り1.13mLであった。

「被験物質1(ロット:15-12-14-1)」
1)黒ショウガ粉末4500mgを秤量し、これを遠沈管に入れた。次いで、黒ショウガ粉末を入れた遠沈管をボルテックスに設置し、遠沈管にコーン油を入れボルテックスを運転し、黒ショウガ粉末とコーン油とを混合した。コーン油は3回に分けて入れられ、最終的に遠沈管の目盛30mLまでコーン油を入れたのち、5分間混合した。得られた懸濁液を被験物質1とした。

「被験物質2(ロット:15-12-14-2)」
1)アトマイザーにナタネ油1125mg、エタノール3375mg を秤量し、アトマイザー入れた。次いで、アトマイザーをボルテックスに設置し、5分間混合して、25重量%ナタネ油/75重量%エタノールの混合溶液からなる口ごティング液(合計量:4500 mg)を得た。
2)黒ショウガ粉末4500mgを秤量し、これをガラスシャーレに入れた。次いで、シャーレ内の黒ショウガ粉末に均等に、アトマイザー内のコーティング液(全量)を吹きかけた。次いで、エタノールが揮発するまで室温(約23℃)で静置し(24時間)、ナタネ油被覆黒ショウガ粉末(ナタネ油:25重量部)を得た。
3)得られたナタネ油被覆黒ショウガ粉末(ナタネ油:25重量部)全量を遠沈管に入れた。次いで、ナタネ油被覆黒シ3ウガ粉末を入れた遠沈管をボルテックスに設置し、遠沈管にコーン油を入れボルテックスを運転し、ナタネ油被覆黒ショウガ粉末とコーン油とを混合した。コーン油は3回に分けて遠沈管へ分けて入れられ、最終的に、遠沈管の目盛30mLまでコーン油を入れ、5分間混合し、得られた懸濁液を被験物質2とした。

「試験物質3(ロット: 15-12-14-3)」
1)ナタネ油2250mg、エタノール6750mgとした以外は、試験物質2の調整と同様にして、25重量%ナタネ油/75重量%エタノールの混合溶液からなるコーティング液(合計量:9000mg)を得た。
2)試験物質2の調整と同様の手順で、黒ショウガ粉末4500mgにコーティング液(全量)を吹きかけ、エタノールが揮発するまで室温(約23℃で静置し(24時間)、ナタネ油被覆黒ショウガ粉末(ナタネ油:50重量部)を得た。
3)試験物質2の調整と同様の手順で、ナタネ油被覆黒ショウガ粉末(ナタネ油:50重量部)全量をコーン油と混合し、得られた懸濁液を被験物質3とした。

「試験物質4(ロット:15-12-14-4)」
1)ナタネ油1125mgをパーム油1125mgに代えた以外は、試験物質2の調整と同様の手順で、25重量%パーム油/75重量%エタノールの混合溶液からなるコーティング液(合計量:4500mg)を得た。
2)試験物質2の調整と同様の手順で、黒ショウガ粉末4500mgにコーティング液(全量)を吹きかけ、エタノールが揮発するまで室温(約23℃)で静置し(24時間)、パーム油被覆黒ショウガ粉末(パーム油:25重量部)を得た。
3)試験物質2の調整と同様の手順で、パーム油被覆黒ショウガ粉末(パーム油:25重量部)全量をコーン油と混合し、得られた懸濁液を被験物質4とした。

「試験物質5(ロット:15-12-14-5)」
1)ナタネ油1125 mgをパーム油2250 mgに代え、エタノール6750mgとした以外は、試験物質2の調整と同様にして、25重量%パーム油7B重量%エタノールの混合溶液からなるコーティング液(合計量:9000mg)を得た。
2)試験物質2の調整と同様の手順で、黒ショウガ粉末4500 mg にコーティング液(全量)を吹きかけ、エタノールが揮発するまで室温約23℃)で静置し(24時間)、パーム油被覆黒ショウガ粉末(パーム油: 50重量部)を得た。
3)試験物質2の調整と同様の手順で、パーム油被覆黒ショウガ粉末(パーム油:50重量部)全量をコーン油と混合し、得られた懸濁液を被験物質5とした。」(5頁1行?6頁下から3行)

記載事項甲21-3
「表1に被験物質1?5で使用された黒ショウガ粒子量、コーティング液組成、黒ショウガ粒子に対する油脂の割合、黒ショウガ濃度(分散媒:コ?ン油)をまとめて示す。

表1

」(6頁下から2行?7頁)

ケ 甲第23号証
株式会社新薬リサーチセンターが平成28年1月8日に作成した文書である甲第23号証には、以下の事項が記載されている。

記載事項甲23-1
「試験目的
被験物質をラットに単回経口摂取させて、経時的に採血を行い得られた血清を用いて血中総ポリフェノール濃度を測定した.

(中略)

試験材料及び器材
1.被験物質
名称 :1,2,3,4,5
ロット番号(試験委託者識別番号)
:1;15-12-14-1
2;15-12-14-2
3;15-12-14-3
4;15-12-14-4
5;15-12-14-5
性状 :1?5とも液体
入手量 :50 mL遠沈管入り各1本
入手日 :2015年12月14日
提供者 :株式会社エヌ・エル・エー
保存条件 :室温(許容温度: 10?30℃)
保存場所 :被験物質保存庫IV
取扱い上の注意 :特になし
残余被験物質の処置 :すべて試験委託者に返却した(2016年1月8日)

2.使用動物
6週齢のCrl:CD(SD)(SPF)ラット,雄性31匹(発注数:雄性30匹)を日本チャールズ・リバー(株)(厚木飼育センター)より,2015年12月9日に入手した.
動物は入荷から投与前日まで馴化した.ただし,入荷日を入荷0日として入荷5日までの期間は検疫を行った.一般状態観察を毎日行い,体重はパーソナル電子天秤(:EW-3000G,(株)エー・アンド・デイ)を使用して,入荷1(入荷翌日),3及び5日に測定した.
動物は入荷日に耳パンチ法により個体識別した.各ゲージには,検疫・馴化期間中は試験番号,性別及び個体識別番号を記入したカードを,群分け後は試験番号を追記した.

3.飼育方法
動物は103動物室に温度22士3℃,温度50士20%,換気回数13?17回/時間(HEPAフイルターでろ過したオールフレツシユ方式),照明時間8:00?20:00(明12時間,暗12時間)の飼育環境下で,ステンレス製可動ラツク(1790W×470D×1650Hmm)に装着したステンレス製金網2連ケージの1区間(255W×185D×200Hmm)に個別に収容した.
飼育はステンレス製固型飼料給餌器により固型飼料CRF-1(オリエンタル酵母工業(株))を,試験期間(給食時を除く)を通じて自由に与えた.
飲料水はポリサルフォン製給水器(先管ステンレス製)により水道水を,試験期間を通じ自由に与えた.排泄物の処理については,ケージ下に敷いた汚物受け皿〔アルミニウム製受け皿(2連ケージ用)〕で受け,交換することにより処理した.
器材はいずれも使用に先立ってオートクレープ(サクラ高圧蒸気滅菌装置,サクラ精機(株))で高圧蒸気滅菌し,汚物受け皿は3回以上/週,給水器は2回/週の頻度で交換した.

試験方法
1.投与物質の調製
試験委託者より提供された被験物質をそのまま投与に使用した.

2.動物の選択及び群分け
試験に使用した動物は,検疫・馴化期間中の体重推移及び一般状態観察において異常の認められなかった動物より,体重推移を基準に選択した.すなわち,検疫・馴化期間中の平均体重と体重増加量を群分け対象動物全体における平均値と不偏分散によって規準化し,その値が小さい(群分け対象動物の特性により近い)順に必要例数を選択した.選択した動物は入荷5日に測定した体重による層別連続無作為化法により各群に割り付けた.
群分け後の残余動物については,群分け実施日に試験から除外した.

3.群構成
群構成,被験物質名,ロット番号(試験委託者識別番号),動物数及び動物番号を次表に示した.

4.投与
1)投与経路:強制経口投与
2)投与回数: 1回
3)投与液量
10mL/kgとした,各動物の投与液量は投与日における投与直前の体重を基準に,小数第2位を四捨五入し,小数第1位まで算出した.
4)投与方法
経口ゾンデ((有)フチガミ器械)と注射筒(テルモ(株))を用いて強制経口投与した。また,被験物質群の投与物質を注射筒に充てんする際は,スターラーで撹拌しながら,注射筒に充てんした.
使用する注射筒は,次表に示す投与液量に対応する注射筒を使用した.

5)絶食及び給餌
各動物は投与前日より16時間以上の絶食を施した.試験終了まで給餌は行わなかった.
6)投与時刻
9:00?13:00とした.

5.採血
1)採血時点
投与後1,4及び8時間(3時点)
2)採血方法
注射針及び注射筒を用いて,無麻酔下で固定器に固定したラットの頸静脈より約lmLの採血を行った。採取した血液は毎分3000回転で15分間遠心分離し血清を採取した.血清は測定の前処理まで冷凍保存した(-70℃以下).

6.検査項目

1)生死の観察
投与前に1回及び各採血実施前に生死の観察を行った.採血終了動物は,イソフルランの過量麻酔により安楽死させた.

2)体重測定
投与液量算出のため投与前にパーソナル電子天秤(EW-3000G,(株)エー・アンド・デイ)を用いて1回測定した.

3)血清総ポリフェノール濃度測定
・血清前処理方法
(1)Waters社製の固相抽出カートリッジHLB(60 mg)にメタノール(5mL),蒸留水(5mL), 0.1 mol/L塩酸(lmL)を順次通液し,プレコンディショニングした.
(2)ラット血清0.5mLに蒸留水(0.5 mL),0.1mol/L 塩酸(0.5 mL)を加え混合し,前述のカートリッジへ通液した.
(3)さらに1.5mol/Lのギ酸水溶液(2mL),メタノール水溶液(5vol%,2mL)を通液し洗浄した.
(4)その後0.1 %ギ酸メタノール(1.5 mL)を通液し,溶出した画分を回収した.
(5)得られた画分を,遠心エバポレーター(加熱なし)で一晩減圧して完全に乾固し,そこに蒸留水(100 μL)を加え超音波で溶解した.
(6)遠心分離後(15,000 rpm,室温5分)上清を回収し,総ポリフェノール量測定の検体とした.
注):血清量が0.5mLに満たない場合は,各検体・溶液等について必要に応じ等比倍で実施した.
・測定方法
(1)各検体80 μLを測り取り,10%炭酸ナトリウム水溶液(80 μL)を加えて10分間インキュベートした.
(2)これにFolin-Ciocalteu試薬(フェノール試薬,80μL)を加え,1時間室温でインキュベートした(発色させた).
(3)発色したサンプルを遠心分離(15,000rpm,室温5分)後,上清(50?100 μLの一定量×2)を96wellマイクロプレートに移し,755 nmの吸光度を測定した.
(4)検量線用標準溶液は,カテキン一水和物を用いて別途実施した予備検討に基づき2mg/mLの標準原液を調製し,それを適宜希釈して500,250,125, 62.5, 31.25,15.625,7.8125,3.90625,1.95313μg/mLの標準溶液を調製した.
(5)これらを各検体と同様に処理し,測定結果から検量線を作成した.その結果を血清サンプルのデータに適用し,定量結果とした.

7,統計処理
定量結果については,各群で平均値及び標準誤差を算出した.
また,有意差検定は試験委託者の指示により1群をコントロールとして,その他の各群(2?5群)との間で行った.

試験結果
1.生死の観察
全ての動物において死亡例及び全身的症状の変化は認められなかった.

2.血清総ポリフェノール濃度測定
結果をFig., Appendix Tableに示した,
投与後1, 4及び8時間の各時点について,2?5群の血中総ポリフェノール量は1群(コントロール)と比較して有意差は認められなかった.

記録等の保存
試験に関する全ての資料は,試験終了時に試験委託者に返却した.
予見することができなかった試験の信頼性に影響を及ぼす疑いのある事態及び試験計画書に従わなかったこと予見することができなかった試験の信頼性に影響を及ぼす疑いのある事態及び試験計画書に従わなかったことはなかった.」(1頁?6頁、当該記載中の両括弧内の数字は、本来、丸数字である。)

記載事項甲23-2


」(fig)

コ 甲第24号証
本件特許の優先日前(平成20年7月31日)に頒布された刊行物である甲第24号証には、以下の事項が記載されている。

記載事項甲24-1
「天然にはさまざまな生理活性を持ったフラボノイドが数多く知られている。フラボノイドには、抗酸化作用、抗変異原性、抗ガン性、血圧上昇抑制作用、抗菌・抗ウィルス作用、抗う歯(虫歯)作用、抗アレルギー作用が報告されている。しかしながら、例えばフラボノイドの一種であるバイカレインは投与量の1/300しか吸収されないといったように体内への吸収効率が極めて悪いことが知られている(後略)」(段落【0002】)

サ 甲第25号証
本件特許の優先日前(平成18年6月15日)に頒布された刊行物である甲第25号証には、以下の事項が記載されている。

記載事項甲25-1
「ところが、アントシアニンの尿中からの回収率(体内の吸収率に対応)は非常に低い事が報告されており、尿中へ回収されるアントシアニンは、最も高い場合でも経口摂取したうちの1%に満たず、多くのアントシアニンでは0.1%以下である。(中略)このようにアントシアニンは体内への吸収性が低いため、少なくとも数十から数百mgは摂取しなくてはならないにもかかわらず、これまでアントシアニンの体内への吸収率を向上させる試みはなされておらず、また報告もされていない。」(段落【0005】)

シ 甲第26号証
本件特許の優先日前(平成21年1月8日)に頒布された刊行物である甲第26号証には、以下の事項が記載されている。

記載事項甲26-1
「従来、ポリフェノールの吸収率は低く、体内に取り込まれずに、糞便中に排泄されるという問題点があった。このため、ポリフェノールの摂取量を高くする必要があり、経済的に無駄があった。」(段落【0011】)

ス 甲第32号証(乙第1号証)
本件特許の優先日前(平成13年11月6日)に頒布された刊行物である甲第32号証(乙第1号証)には、以下の事項が記載されている。

記載事項甲32-1
「【実施例】実施例1
ポリフェノール類組成物の調製
菜種極度硬化油480g、ヘキサグリセリンオクタステアレート(エステル化度100%、HLB=3)100gを混合し、加熱溶解する。テトラグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを20g添加する。湯煎にて温度を65℃?70℃に保ち、攪拌しながら茶ポリフェノール(サンフェノンDCF-1、太陽化学株式会社製)400gを添加し、ノズル式噴霧装置にて20℃に保った室内へ噴霧した。粒子径200μm?500μmの粉末状被覆粒子を得た。(本発明品)
比較例1
茶ポリフェノール(サンフェノンDCF-1、太陽化学株式会社製)400gを流動層装置中で気相流動させながら、80℃で加熱溶解したカルナバワックス600gを噴霧し粉末状ワックス被覆粒子を得た。(比較品1)
比較例2
菜種硬化油500g、テトラグリセリン縮合リシノレイン酸エステル100gを加熱溶解する。茶ポリフェノール(サンフェノンDCF-1、太陽化学株式会社製)を400g添加し混合後、ノズル式噴霧装置にて20℃に保った室内へ噴霧した。粒子径200μm?500μmの被覆粒子を得た。(比較品2)」(段落【0015】?【0017】)

記載事項甲32-2
「試験例3<腸管からの吸収率の測定>小麦粉100g、マーガリン60g、粉糖40g、粉塩1g、ベーキングパウダー1.6g、全卵30g、水10gを混合する。本発明品、比較品1及び2を0.5g(茶ポリフェノールとして0.2g)また、対象として未処理の茶ポリフェノール(和光純薬工業株式会社)を0.2g添加混合し、クッキー生地とする。型抜き後、180℃、11?12分焼成し、本発明品、比較品1及び2、未処理茶ポリフェノール添加クッキーを得た。得られたクッキーそれぞれについて第10改正日本薬局方、溶出試験法の試験液第1液の人工胃液、第2液の人工腸液を用いて人工消化試験を行った。人工消化液中に遊離したポリフェノール類を測定し、吸収率を算出した。結果を表2に示す。
【表2】

表2の結果より本発明品は、従来品と比較して消化吸収性に優れていることがわかった。」(段落【0023】?【0025】)

コ 甲第38号証
本件の被請求人の社員である友澤寛が平成28年4月8日に作成した文書である甲第38号証には、以下の事項が記載されている。

記載事項甲38-1
「1.被験物質の調製に使用した原料、機器
<原料>
1)黒ショウガ粉末:ブラックジンジャー粉末(有限会社備南食研):別紙1
2)ナタネ油:キャノーラ油(食用なたね油):理研農産化工株式会社
3)コーン油:コーン油(食用とうもろこし油):株式会社J-オイルミルズ
4)エタノール:和光純薬工業株式会社、品番052-00467
5)ビニール袋:株式会社生産日本社 ユニパックR0.04タイプ型番J-4
<使用機器>
・ボルテックス:IWAKI TM-2000
・アトマイザー:株式会壮大創産業社製 容量27mL

2.被験物質の調製方法
「被験物質1」
購入した黒ショウガ粉末(別紙1)を被験物質1とした。

「被験物質2」
1)ナタネ油1125mg、エタノール3375mgを秤量し、アトマイザーに入れた。次いで、アトマイザーをボルテックスに設置し、5分間混合して、25重量%ナタネ油/75重量%エタノールの混合溶液からなるコーティング液(合計量: 4500mg)を得た。
2)黒ショウガ粉末4500mgを秤量し、これをガラスシャーレに入れた。次いで、シャーレ内の黒ショウガ粉末に均等に、アトマイザー内のコーティング液(全量)を吹きかけた。次いで、エタノールが揮発するまで室温(24±4℃)で静置し(24時間)、ナタネ油被覆黒ショウガ粉末(黒ショウガ粉末100重量部に対し、ナタネ油25重量部)を得た。これを被験物質2とした(別紙2参照)。

「被験物質3」
1)ナタネ油1125mg、エタノール3375mgを秤量し、アトマイザーに入れた。次いで、アトマイザーをボルテックスに設置し、5分間混合して、25重量%ナタネ油/75重量%エタノールの混合溶液からなるコーティング液(合計量:4500mg)を得た。
2)黒ショウガ粉末4500mgを秤量し、これをビニール袋に入れた。次いで、ビニール袋内の黒ショウガ粉末にアトマイザー内のコーティング液(全量)を吹きかけた。その際には、コーティング液を吹きかける度(1プッシュする度)に、ビニール袋をよく振って中身を混合するようにした。次いで、エタノールが揮発するまで室温(24±4℃)で静置し(24時間)、ナタネ油被覆黒ショウガ粉末(黒ショウガ粉末100重量部に対し、ナクネ油25重量部)を得た。これを被験物質3とした(別紙3参照)。

表1に被験物質1?3で使用された黒ショウガ粉末、コーティング液の組成、黒ショウガ粉末に対する油脂の割合を示す。
【表1】

」(2頁?3頁)

記載事項甲38-2


」(別紙2)

記載事項甲38-3


」(別紙3)

サ 甲第39号証
本件の被請求人から試験を委託された九動株式会社の社員である渡邉洋二が平成28年4月8日に作成した文書である甲第39号証には、以下の事項が記載されている。

記載事項甲39-1
「II 実施受託業務
【使用動物と飼育環境】
(1)Kud:SDラット♂7週齢
(2)6週齢で3月17日(木)入荷し、7日間3月24日(木)までの順化期間を設けた。
(3)体重均一化した群分けを実施した。
(4)可能な限り滅菌した飼育器材資材を使用した。
(5)実験操作においても、可能な限り滅菌器材、消毒済み資材を使用した。
(6)ゲージ交換はl回/週、給水ビン交換は2回/週実施した。
(7)飼料:クレア(株)製CE2(オートクレーブ滅菌)
(8)飲水:市水
【群分けと個体識別】
(1)本実験では、I群6匹とした。
(2)個体識別は、尾部への着色をもって行った。
(3)本実験では被験物質を強制経口投与し、1時間経過した後、腹大静脈からの全採血を行った。
(4)投与・採血前日に体重を計測、群分けし、委託者に通知した。
【被験物質の調製】
(1)被験物質は委託者から供給された。被験物質量はl,500mg/kgとした。
(2)被験物質は150mg/mLになるよう、コーン油株式会社J-オイルミルズで使用日当日に溶解させた。
(3)上記濃度になるよう、50mLコニカルチューブに被験物質とコーン油をとり、ポルテックスミキサーにて10分間混和させた。
(4)投与直前に溶解させた被験物質を再度混和し用いた。
【被験物質の強制軽口投与】
(1)被験物質を調製し、投与直前に混和した。
(2)経口投与針(夏目製作所:KN-348)20G-50を用いて、ラットに強制経口投与を行った。
(3)投与量は10mL/kgとし、投与日体重に合わせて投与した。
【採取データ】
(1)体重:群分け時測定、投与日測定
(2)D-(+)-カテキン(和光純薬工業、品番509-27701)水溶液による検量線
(3)ラット処理血清の血中ポリフェノール吸光度と濃度
(4)データは委託者に随時送信した。

【麻酔、採血】
(1)麻酔はイソフルラン(和光純薬工業、品番099-06571)とプロピレングリコール(和光純薬工業、品番161-05006)を3:7の割合で混合したものを吸入麻酔薬として用いた。シリンジ(テルモ社、品番SS-1OESZP),注射針(ニプロ社、品番01-031)、15mL遠沈管(日本BD社、品番1-8427-02)を用いた。
(2)麻酔容器に脱脂綿と吸入麻酔薬を入れ用いた。解剖時の維持麻酔用に5OmL遠沈管にも
脱脂綿と吸入麻酔薬を入れ用いた。
(3)採血動物を麻酔容器に入れ、吸入麻酔を実施した。
(4)呼吸の減少・筋弛緩を確認した後ら、麻酔容器から取り出し、維持麻酔を実施かけた。痛覚反射の消失を確認し、動物の腹部表面を消毒した。
(5)開腹をし、臓器を腹腔から向かって左側に取り出した。
(6)腹腔後壁の腹大静脈を露出させた。
(7)血管が動かないように、左手で血管を軽く固定し引っ張りながら、注射針を刺入し、採血した。血液は15mL遠沈管に一時保存した。
【血清調製、発色、吸光度測定】
(1)採血後90分経過した血液を1,800×g10分間遠心し、上清を採取し、血清とした。
(2)Oasis HLB Caitiidge Waters 3cc/60mg(Warters社、WAT094226)を用いて固相抽出する。
(3)メタノール(5inL)、蒸留水(5mL)、0.1mol/L 塩酸(1mL)を順次通液し、プレコンディショニングとした。
(4)マウス血清(1mL)に蒸留水(1mL)、0.1mol/L塩酸(1mL)を加え混合し、上記カートリッジヘ通液し、非吸着両分を廃棄した。
(5)1.5mol/Lギ酸水溶液(2mL)、5%メタノール(2mL)をカートリッジに通液し洗浄した。
(6)0.1%ギ酸メタノール(3mL)を通液し、溶出した画分を15mL遠沈管に回収した。
(7)回収した画分を、遠心エホバレーダー加mなし)で減圧濃縮して完全に乾固させた。
(8)乾固した画分に蒸留水(200 μL)を加え、超音波をかけながら10分間溶解させた。
(9)溶解液を1.5mLチューブに移し15,000rpm 5分遠心分離後、上清を別の1.5mLチューブに回収し検体とした。
(10)各検体100μLを1.5mLチューブにとり、10%(w/w)炭酸ナトリウム(100μL)を加えて10分間放置した。
(11)Folin & Ciocalteuフェノール試薬(100μL)加え、1時間室温で発色させた。
(12)発色した検体を、15,000rpm 5分遠心分離後、上清をUVette^((R))(Eppendorf社、品番0030106300)に移し、730nm 吸光度をThermo Scientific^(TM) GENESYS 1OS にて測定した。

【検量線、濃度測定】
(1)定量用標準にはD-(十)-カテキンー水和物を用いた。
(2)250μg/mLの水溶液を調製し、これを希釈して
125、100、75、50、25、12.5μg/mLの標準溶液を調製した。
(3)これらを各検体とp,5(8)以降と同様に処理し、測定結果から検量線を作成した。
(4)この結果を血清サンプルのデータに適用し、濃度結果を算出した。
(後略)」(3?6頁;当該記載中の両括弧内の数字は本来、丸数字である;^((R))は、本来、丸の中にRである。)」

記載事項甲39-2




記載事項甲39-3




記載事項甲39-4




記載事項甲39-5




(4) 判断

ア 本件訂正発明の技術的意義について
本件明細書の記載によれば、本件訂正発明の技術的意義について、以下のとおり認めることができる。
本件訂正発明は、黒ショウガ成分を含有する組成物に関するものである(記載事項本1)。
黒ショウガには有効成分としてポリフェノールが含有されているものの、一般に、ポリフェノールは腸管透過吸収が悪いため、摂取されたポリフェノールの生体内に取り込まれる量は極めて少なく、従来から、その吸収促進のために、吸収促進剤との併用や、腸管から容易に吸収できる程度までに低分子化する方法が示されていたが、これらの方法によっても、ポリフェノールの生体内への吸収性は十分ではなく、また、植物由来のポリフェノールの構造や性質は植物の種類によって大きく異なるため、他の植物由来のポリフェノールについての吸収性の改善方法を、そのまま黒ショウガに転用することもできなかった(記載事項本3)。また、本件明細書に引用された甲第24号証には、フラボノイドの生体吸収性が悪いこと(記載事項甲24-1)、同じく甲第25号証には、アントシアニンの生体吸収性が低いこと(記載事項甲25-1)、同じく甲第26号証には、ポリフェノールの吸収率が低く、体内に取り込まれずに糞便中に排泄されること(記載事項甲26-1)がそれぞれ記載されていることもふまえれば、本件特許出願当時、経口で摂取されたポリフェノールの生体内に取り込まれる量は一般に少ないということが当業者の技術常識であり、黒ショウガ成分に含まれるポリフェノールの腸管透過吸収を効果的に助ける方法は知られていなかったといえる。
本件訂正発明は、「黒ショウガ成分を経口で摂取した場合においても、含まれるポリフェノール類を効果的に体内に吸収することができる組成物を提供すること」という課題を有するものであって(記載事項本4)、当該課題を解決するために、「黒ショウガ成分を含有する粒子を芯材として、その表面の全部を、ナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤にて被覆する」という手段を採用したものであり(記載事項本5)、それによって、「経口で摂取した場合においても、黒ショウガ成分に含まれるポリフェノール類の体内への吸収性が高まる」という効果を奏するものである(記載事項本5?7、15)。なお、本件訂正発明の効果については、以下のエ(オ)Aにおいて詳述する。

イ 甲第3号証に記載された発明について
(ア)甲第3号証に記載された発明
甲第3号証の請求項1には「ポリフェノール類を、多価アルコール脂肪酸エステルを含有する油脂中で微細化する第1工程と、第1工程で得られた該微細化されたポリフェノール類を含有する油脂を、多価アルコール脂肪酸エステルの存在下で水中油滴型に乳化する第2工程により得られるポリフェノール類製剤」が記載されている(記載事項甲3-1)。また、甲第3号証には実施例4として、水200重量部を予め65?70℃に加温しておき、ホモミキサーで撹拌しながら、デキストリン52.7重量部、酸カゼイン15重量部、炭酸ナトリウム1重量部、グリセリン脂肪酸有機酸エステル0.6重量部、ポリグリセリン脂肪酸エステル0.7重量部を順次加え、完全に溶解し、引き続きホモミキサーで撹拌、65?70℃を保持したまま、予め加熱融解しておいた実施例1のポリフェノール微細化物30重量部を徐々に投入し乳化させ、その後噴霧乾燥にて乾燥粉末化して得た、水中油滴分散型油脂被覆ポリフェノール類製剤の粉末品が記載されている(記載事項甲3-9)。ここで、上記実施例1のポリフェノール微細化物とは、菜種極度硬化油及びポリグリセリン脂肪酸エステルを混合して加熱融解し、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを混合し、茶ポリフェノールを加えた油性懸濁液を調製し、これをコボールミルに掛けることによって得られた、平均粒子径1.0μmのポリフェノール微細化物である(記載事項甲3-8)。
そうすると、甲第3号証には、「菜種極度硬化油及びポリグリセリン脂肪酸エステルを混合して加熱融解し、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを混合し、茶ポリフェノールを加えた油性懸濁液を調製し、これをコボールミルに掛けることによって得られた平均粒子径1.0μmのポリフェノール微細化物を準備する工程、及び水を予め65?70℃に加温しておき、ホモミキサーで撹拌しながら、デキストリン、酸カゼイン、炭酸ナトリウム、グリセリン脂肪酸有機酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルを順次加え、完全に溶解し、引き続きホモミキサーで撹拌し、65?70℃を保持したまま、予め加熱融解しておいた上記ポリフェノール微細化物を徐々に投入し乳化させ、その後噴霧乾燥にて乾燥粉末化する工程によって得られた、水中油滴分散型油脂被覆ポリフェノール類製剤の粉末品」の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

(イ)甲3発明の技術的意義について
甲第3号証の記載によれば、甲3発明の技術的意義について、以下のとおり認めることができる。
甲3発明は、ポリフェノール類を、生理活性成分として含有する製剤、及び当該製剤を含有することを特徴とする食品に関するものである(記載事項甲3-2)
ポリフェノール類は特異な苦味・渋味を有するため食品用途での利用に制限を受けること及び酸化、熱、光に対して変色しやすく不安定であるという欠点を有するところ、従来の安定化法でも、ポリフェノール類に由来する強烈な渋味・苦味を有したり、食品衛生法上制限を受ける等の欠点を有するという問題があった(記載事項甲3-3)。甲3発明はこのような問題を解決するものであって,「ポリフェノール類を長期間安定に保ち、且つ呈味性、生体吸収性の優れた水系分散可能なポリフェノール類製剤を提供する」という課題を有するものである(記載事項甲3-4)。
そして、甲3発明は、ポリフェノール類の固体粒子を多価アルコール脂肪酸エステルを含有する油脂中で微細化する第1工程と、第1工程で得られた該微細化されたポリフェノール類を含有する油脂を多価アルコール脂肪酸エステルの存在下で水中油滴型に乳化する第2工程で処理することによって、上記課題を解決したものであり(記載事項甲3-5)、それによって、ポリフェノール類特有の渋味・苦味がマスキングされ、且つ優れた安定性が付与されると同時に、従来にない優れた生体吸収性及び生体利用性を有するという効果を奏するものである(記載事項甲3-5)。
ただし、甲第3号証には、健常な男性を対象とし、茶ポリフェノールをそのまま経口投与した場合と、当該茶ポリフェノールの全周囲表面上に均質な油脂被覆剤層を形成したものを経口投与した場合との間で(両者に投与された総ポリフェノール量は同じである。)、血清中エピガロカテキンガレート含量に差がないことが記載されており(記載事項甲3-10?3-13)、特に、「実施例4の本発明ポリフェノール類製剤は、対照品と比較して同等の生体吸収性があることを確認した。」、「これは、本発明ポリフェノール類製剤が、ポリフェノール類微細粒子の全周囲表面上に均質な油脂被覆剤層を形成したマイクロカプセル構造を有するにもかかわらず、ポリフェノールの生体吸収性及び生体利用性に対し、本発明にかかるマイクロカプセルが何らの障害にもなっていないことを裏付けるものである。」(記載事項甲3-11)と記載されていることをふまえれば、上記「従来にない優れた生体吸収性及び生体利用性を有する」とは、「被覆を行わないものと同等の生体吸収性を示す」という程度の意味であるといえる。

ウ 本件訂正発明1と甲3発明との対比
本件訂正発明1と甲3発明を対比する。
甲第3号証には、「本発明ポリフェノール類製剤は、ポリフェノール類微細粒子の全周囲表面上に均質な油脂被覆剤層を形成したマイクロカプセル構造を有するため、安定性及び渋味マスキング効果に優れた製剤となっている。」との記載があること(記載事項甲3-11)や、本件明細書には、油脂の例として、ナタネ、パーム等の植物油脂及びこれらの硬化物が挙げられていること(記載事項本16)や、同じく本件明細書には、コート剤にリン脂質等や、可塑剤、賦形剤が共存してもよいことが記載されていること(記載事項本17)をふまえると、甲3発明の「菜種極度硬化油及びポリグリセリン脂肪酸エステルを混合して加熱融解し、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを混合し、茶ポリフェノールを加えた油性懸濁液を調製し、これをコボールミルに掛けることによって得られた平均粒子径1.0μmのポリフェノール微細化物を準備する工程、及び水を予め65?70℃に加温しておき、ホモミキサーで撹拌しながら、デキストリン、酸カゼイン、炭酸ナトリウム、グリセリン脂肪酸有機酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルを順次加え、完全に溶解し、引き続きホモミキサーで撹拌し、65?70℃を保持したまま、予め加熱融解しておいた上記ポリフェノール微細化物を徐々に投入し乳化させ、その後噴霧乾燥にて乾燥粉末化する工程によって得られた、水中油滴分散型油脂被覆ポリフェノール類製剤の粉末品」は、本件訂正発明1の「粒子を芯材として、その表面の全部を、ナタネ油を含むコート剤にて被覆した」「組成物」に相当するといえる。
そうすると、本件訂正発明1と甲3発明とは、「粒子を芯材として,その表面の全部を、ナタネ油を含むコート剤にて被覆した組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点)
本件訂正発明1では、芯材として「黒ショウガ成分を含有する粒子」が用いられるのに対して、甲3発明では、芯材として茶ポリフェノール類固体粒子が用いられる点。

エ 相違点についての検討

(ア)甲3発明は、上記のとおり、ポリフェノールの苦味をマスキングし、ポリフェノールを長期間安定に保つという目的を有するものであるところ、甲第3号証には、ポリフェノール類は人体に摂取可能なものであれば特に限定するものではなく、フラボン等のフラボノイド類、非フラボノイド類及び当該化合物を含有する植物体等のいずれを使用しても差し支えないことが記載され(記載事項甲3-6)、ポリフェノール類を含有する植物体は、特に限定するものではないことも記載されているから(記載事項甲3-7)、同証には、甲3発明の茶ポリフェノール粒子をフラボノイド等を含有する他の植物粒子に置換することが示唆されているといえる。

(イ)他方、甲第2号証には、「黒ウコン(Kaempferiaparviflora)の抽出物及び/または乾燥粉末を含有することを特徴とするキサンチンオキシダーゼ阻害剤」が記載されている(記載事項甲2-1)。
そして、甲第2号証には「ショウガ科(Zingiberaceae)ケンプフェリア(Kaempferia)属の植物の一種である黒ウコン(Kaempferiaparviflora)は別名黒ショウガ又はクラチャイダムとも呼ばれており」と記載されており(記載事項2-2)、また、本件明細書においても「黒ショウガは学名をケンプフェリア・パルビフローラ(Kaempferiaparviflora)といい、黒ウコンあるいはクラチャイダムの別名を有する。」と記載されていることから(記載事項本2)、甲2発明の「黒ウコン(Kaempferiaparviflora)」は、本件訂正発明の「黒ショウガ」に相当するといえる。
また、甲第2号証には、黒ウコンの根茎の粉砕物を70%メタノールにより加熱抽出して得られた抽出物がキサンチンオキシダーゼ阻害活性を有すること(記載事項甲2-5)、前記抽出物のクロマトグラムでは、有効成分に由来すると考えられるA?Jの10本のピークが確認されたこと(記載事項甲2-6、記載事項甲2-10)、前記抽出物をカラムに通し、80%メタノールで溶出させた画分(画分3)のキサンチンオキシダーゼ阻害活性が高いこと(記載事項甲2-7)、さらに画分3のピークA?Kに相当する成分を単離して分析したところ、ピークAに相当する成分は5,7,3’,4’-テトラメトキシフラボンであり、ピークBに相当する成分は3,5,7,6,4-ペンタメトキシフラボンであり、ピークCに相当する成分は5,7-ジヒドロキシフラボンであることが分かったこと(記載事項甲2-8)、ピークA?Jに相当する成分についてキサンチンオキシダーゼ阻害活性を確認したところ、ピークA(5,7,3’,4’-テトラメトキシフラボン)、ピークB(3,5,7,6,4-ペンタメトキシフラボン)、ピークC(5,7-ジヒドロキシフラボン)にそれぞれ相当する成分で高いキサンチンオキシダーゼ阻害活性があることが分かり、有効成分がメトキシフラボンであることが示唆されること(記載事項甲2-9)がそれぞれ記載されている。そして、フラボンの骨格にメトキシル基の置換した化合物であるメトキシフラボンは、フラボノイドの一種であること(必要ならば化学大辞典第1版、株式会社東京化学同人、平成元年、2033頁を参照)や、甲第2号証には、食品や経口医薬品としてキサンチンオキシダーゼ阻害剤を経口摂取することも記載されていること(記載事項甲2-3?2-4)をふまえると、甲第2号証には、「黒ショウガ粉末を含有するキサンチンオキシダーゼ阻害剤であって、フラボノイドを有効成分とし、当該有効成分を経口摂取するもの」が記載されているといえる。ここで、フラボノイドがポリフェノールの一種であることは、当業者にとって明らかである。

(ウ)また、甲第1号証には、黒生姜根茎加工物を含むことを特徴とする冷え性改善用組成物が記載されており(記載事項甲1-1)、黒生姜根茎の抽出物、黒生姜搾汁液及び黒生姜搾汁液の抽出物からなる群から選択される少なくとも1つを有効成分として含有すること(記載事項甲1-2)、冷え性改善用組成物を含有する飲食品、医薬部外品、及び医薬品とすること(記載事項甲1-3?1-5)も記載されている。そして、甲第1号証には医薬部外品及び医薬品とは、経口投与に適した性状を有し、通法に従って経口製剤として調製されたものをいい、経口固形製剤や経口液状製剤をいうとも記載されている(記載事項甲1-8)。そして、甲第1号証には抽出物及びその画分はこのままで使用することも可能であるが、必要に応じて噴霧乾燥や凍結乾燥等の手段により乾燥粉末化させて使用することも可能であると記載されている(記載事項甲1-7)。さらに、甲第1号証には乾燥黒生姜を滅菌し80メッシュ以下に粉砕した黒生姜乾燥粉末が記載されている(記載事項甲1-9)。
そうすると、甲第1号証には、「冷え性改善用の黒生姜の根茎加工物、抽出物、黒生姜搾汁液及び/または黒生姜搾汁液の抽出物の乾燥粉末」が記載されているといえる。
そして、甲第1号証には「黒生姜(Kaempferiaparviflora)」(記載事項甲1-6)と記載されており、本件明細書においても「黒ショウガは学名をケンプフェリア・パルビフローラ(Kaempferiaparviflora)といい」(記載事項本2)と記載されていることをふまえると、甲第1号証でいう「黒生姜」は本件訂正発明の「黒ショウガ」であるといえるから、甲第1号証には、「冷え性改善用の黒ショウガの根茎加工物、抽出物、黒ショウガ搾汁液及び/または黒ショウガ搾汁液の抽出物の乾燥粉末」が記載されているといえる。
ところで、請求人は、黒ショウガにはポリフェノールが含まれ、このポリフェノールは一般的には一定程度の苦味を有すると主張しており(甲第44号証44?54頁:弁駁書21頁において援用された平成27年(行ケ)第10231号の原告準備書面(1))、このような請求人の主張を前提とすれば、甲第1号証に記載の、「冷え性改善用の黒ショウガの根茎加工物、抽出物、黒ショウガ搾汁液及び/または黒ショウガ搾汁液の抽出物の乾燥粉末」にはポリフェノールが含まれ、甲第1号証の「黒生姜は風味に関して難点が少なく」との記載(記載事項甲1-6)にかかわらず、一定程度の苦味を有するものと一応理解できる。また、甲第2号証に記載の「黒ショウガ粉末を含有するキサンチンオキシダーゼ阻害剤であって、フラボノイドを有効成分とし、当該有効成分を経口摂取するもの」も、フラボノイド(ポリフェノールの一種)を含むものであるから、請求人の主張を前提とすれば、一定程度の苦味を有するものと一応理解できる。

(エ)そうすると、請求人の主張を前提とする限り、甲3発明において、茶ポリフェノール粒子を、甲第2号証に記載された「黒ショウガ粉末を含有するキサンチンオキシダーゼ阻害剤であって、フラボノイドを有効成分とし、当該有効成分を経口摂取するもの」や、甲第1号証に記載された「冷え性改善用の黒ショウガの根茎加工物、抽出物、黒ショウガ搾汁液及び/または黒ショウガ搾汁液の抽出物の乾燥粉末」に置換することが可能であること自体は、当業者が想起しうるともいえる。

(オ)しかしながら、以下に述べるとおり、本件訂正発明1の効果は、当業者が予測し得たものではない格別顕著なものといえる。

A 本件明細書には、ポリフェノール吸収増進効果についての実験であって、実施例1として、パーム油でコートした黒ショウガの根茎の乾燥粉末(黒ショウガ原末)をコーン油と混合して150mg/mLとし、懸濁することにより調製した被験物質(以下「実施例1被験物質」という。)、実施例2として、黒ショウガ原末をナタネ油でコートした以外は、実施例1と同様にして調製した被験物質(以下「実施例2被験物質」という。)、及び比較例1として、黒ショウガ原末をコーン油と混合して150mg/mLとし、懸濁することにより調製した被験物質(以下「比較例1被験物質」という。)を、それぞれ、6週齢のSD雄性ラットに、10mL/kgとなるように、ゾンデで強制経口投与し、投与の1、4、8時間後(コントロールはブランクとして投与1時間後のみ)に採血して、血中の総ポリフェノール量を測定する実験を行い、当該実験においては、実施例1被験物質及び実施例2被験物質を摂取した群の血中ポリフェノール量は、いずれも比較例1被験物質を摂取させたものに比べて高い値を示したことが記載されている(記載事項本20、21)。
ところで、本件明細書には、「油脂」の具体例として、パーム油、ナタネ油と並んで「とうもろこし」から得られる油脂、すなわち「コーン油」も記載されていることからすれば(記載事項本17)、実施例1被験物質や比較例被験物質で用いたコーン油についても、黒ショウガ成分に含まれるポリフェノール類の体内への吸収性を高める効果を期待し得る。
この点について検討するに、上記実験においては、実施例1被験物質や実施例2被験物質ではパーム油又はナタネ油で被覆された黒ショウガ原末150mgをコーン油1mLと混合しているのに対して、比較例被験物質では被覆されない黒ショウガ原末150mgをコーン油1mLと混合しているので、実施例1被験物質や実施例2被験物質、比較例被験物質にそれぞれ含まれるコーン油の量は略同じであるといえる。そうすると、コーン油についての条件は実施例1,2と比較例で差がないから、仮にコーン油がポリフェノール吸収促進作用を有するとしても、コーン油を用いたことは、上記実験から示される効果(パーム油又はナタネ油でコートした黒ショウガ原末のほうが、コートしないものよりも,ポリフェノール吸収が増進されるという効果)の存否に影響を与えるものではない。
一方で、実施例1被験物質と実施例2被験物質では、パーム油又はナタネ油が含まれている分だけ、黒ショウガ原末の量が比較例被験物質に含まれる黒ショウガ原末の量より少ないにもかかわらず、実施例1,2においては比較例より高い血中ポリフェノール量を示しているから、上記実験は、黒ショウガ成分を含有する粒子をパーム油あるいはナタネ油により被覆された状態とすることにより、黒ショウガ成分を経口で摂取した場合においても、含まれるポリフェノール類を効果的に体内に吸収することができることを示しているといえる(なお、前審決取消訴訟の判決(46頁17?21行)においても、「本件明細書の実施例の記載から,「黒ショウガ成分を含有する粒子」が,パーム油あるいはナタネ油と混合,懸濁された状態とするのではなく,パーム油あるいはナタネ油により被覆された状態とすることにより,本件発明の課題を解決することができると認識するものと認められる。」と判断されている。)。
また、本件明細書の実施例においては、黒ショウガ原末の表面の被覆割合が示されていないため、黒ショウガ成分を含有する粒子の表面の全部が被覆されたものであるかは定かでないが、仮に実施例が表面の一部を被覆したものであるとしても、一部を被覆したもので効果が得られていれば、全部を被覆したものについても同様の結果が得られることは当然である。
したがって、本件明細書には、本件訂正発明1が、経口摂取によりポリフェノール類をより効果的に体内に吸収することができるという効果を奏することが示されているといえる。

B 一方、甲第3号証には、「ポリフェノール」について、「従来にない優れた生体吸収性及び生体利用性を有する」との記載はあるものの(記載事項甲3-4、3-5)、イ(イ)で説示したとおり、甲第3号証における「従来にない優れた生体吸収性及び生体利用性を有する」とは、「被覆を行わないものと同等の生体吸収性を示す」という程度の意味であるから、甲第3号証の当該記載は、そのままでは吸収されにくい黒ショウガ中のポリフェノールの体内への吸収性を未被覆の状態と比べて高めるという本件訂正発明1の効果を想起させるものとはいえない。そして、甲第3号証には、黒ショウガ成分を含む粒子をナタネ油やパーム油でコートすることによって、黒ショウガに含まれるポリフェノールの生体吸収性が向上することについての他の記載は見あたらない。
また、甲第1,2号証にも、黒ショウガ成分を含む粒子をナタネ油やパーム油でコートすることによって黒ショウガに含まれるポリフェノールの生体吸収性が向上することについての記載は見あたらない。
また、甲第4号証には、微細化されたアントシアニン含有素材及び分散剤を含有するアントシアニン含有組成物において、前記分散剤は、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、及びポリグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とするアントシアニン含有組成物が記載されている(記載事項甲4-1)。また、同証には、アントシアニンはポリフェノールの一種であること(記載事項甲4-2)、分散剤は微細化されたアントシアニン含有素材の再凝集を抑制し、生体摂取後のアントシアニンの吸収率を向上させるために配合され、分散剤として例えば、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、及びポリグリセリン脂肪酸エステルが挙げられ、特にレシチンが好ましいること(記載事項甲4-3)、その他の成分としてドコサヘキサエン酸(DHA)、サフラワー油、及び亜麻仁油から選ばれる少なくとも一種をアントシアニンの消化管からの吸収率をさらに高めるために配合することが好ましいこと(記載事項甲4-4)がそれぞれ記載されている。さらに、同証には、上記アントシアニン含有組成物の具体的な例として、分散剤としてレシチンを含有し、アントシアニン含有素材としてビルベリーエキスを含有した組成物であって、油を含有しないもの(参考例1)、DHAを含有するもの(参考例2)、サフラワー油を含有するもの(参考例3)、ヤシ油を含有するもの(参考例4)、シソ油を含有するもの(参考例5)、亜麻仁油を含有するもの(参考例6)の腸管におけるアントシアニンの吸収率を調べた実験結果が記載されており、DHA、サフラワー油、亜麻仁油をそれぞれ含有したものでは、油を加えないものに比べて、高いアントシアニン吸収率となる一方で、ヤシ油とシソ油を含有したものでは、油をくわえないものに比べて低い吸収率となることが示されている(記載事項甲4-5、記載事項甲4-6)。しかしながら、甲第4号証には、黒ショウガ成分を含む粒子をナタネ油やパーム油でコートすることによって黒ショウガに含まれるポリフェノールの生体吸収性が向上することについての記載は見あたらない。
また、甲第5号証には油溶性ポリフェノールをクマササ由来リグニンに内包させることにより腸管吸収性を高めた油溶性ポリフェノール製剤が記載されている(記載事項甲5-1)。そして、同証には、油溶性ポリフェノールは原材料に植物油や鉱物油を添加し、攪拌し、抽出することにより得られること(記載事項甲5-2)、植物油とは、ヤシ油、パーム油、ナタネ油、大豆油、コーン油等の食用または化粧品に用いられる油が好ましいこと(記載事項5-3)も記載されている。また、同証の実施例には、各種油溶性ポリフェノールをクマササ由来リグニンに内包させた検体を健常なヒトに投与した結果、クマササ由来リグニンに内包させていない油溶性ポリフェノールと比べてAUC量にして3.7?6.7倍も吸収率が増加したことが示されている(記載事項甲5-4?5-17)。しかしながら、甲第5号証には、黒ショウガ成分を含む粒子をナタネ油やパーム油でコートすることによって黒ショウガに含まれるポリフェノールの生体吸収性が向上することについての記載は見あたらない。
また、甲第6号証には、秋ウコンエキスの疎水成分であるクルクミンのみをナノカプセル化した場合の腸管吸収促進作用について記載されているが(記載事項6-1?6-3)、黒ショウガ成分を含む粒子をナタネ油やパーム油でコートすることによって、黒ショウガに含まれるポリフェノールの生体吸収性が向上することについての記載は見あたらない。
また、甲第7号証には、黒ウコンがアントシアニン等のフラボノイド類を豊富に含むことが記載されているが(記載事項甲7-1)、黒ショウガ成分を含む粒子をナタネ油やパーム油でコートすることによって黒ショウガに含まれるポリフェノールの生体吸収性が向上することについての記載は見あたらない。

C したがって,甲第1?7号証には、黒ショウガ成分を含む粒子をナタネ油やパーム油でコートすることによって黒ショウガに含まれるポリフェノールの生体吸収性が向上することは記載も示唆もされていない。そして、甲第32号証(乙第1号証)に、茶ポリフェノールと、当該茶ポリフェノールを菜種硬化油によって被覆した粒子(比較例2)とについて、人工胃液を用いた人工消化試験を行った結果、比較例2の消化吸収性(ポリフェノール類遊離率)が、被覆されていない茶ポリフェノールよりもかえって低かったことが示されている(記載事項甲32-1、32-2)ことも考慮すると、上記本件訂正発明1の効果は、当業者が予想し得たものではない顕著なものであるといえる。

(カ)以上のとおり、請求人の主張を前提とする限り、甲3発明において、茶ポリフェノール粒子を、甲第2号証に記載された「黒ショウガ粉末を含有するキサンチンオキシダーゼ阻害剤であって、フラボノイドを有効成分とし、当該有効成分を経口摂取するもの」や甲第1号証に記載された「冷え性改善用の黒ショウガの根茎加工物、抽出物、黒ショウガ搾汁液及び/または黒ショウガ搾汁液の抽出物の乾燥粉末」に置換することが可能であることは、当業者が想起しうるとしても、本件訂正発明1の効果は、当業者が予測し得たものではない格別顕著なものといえるから、本件訂正発明1は、甲第1?7号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ 請求人の主張について
(ア)請求人は、甲第1?3号証の発明が技術分野を同一にすることのほか、甲第4?7号証に示される周知又は公知の事項に基づいて、甲3発明における茶ポリフェノール粒子を、甲第1、2号証に記載された黒ショウガ成分を含有する粒子に置換する動機付けがあると主張する(審判請求書13?14頁)。さらに、請求人は、甲第1?3号証には、これらを組み合わせることを阻害する記載はなく、また、本件訂正発明1の構成を想到するための動機付けは、本件訂正発明1の技術課題の認識以外には存在しないものではなく、その課題は甲第3号証に実質的に記載されていると主張する(口頭審理陳述要領書5?6頁)。
しかしながら、請求人の主張にかかわらず、本件訂正発明1の効果は、当業者が予測し得たものではない格別顕著なものである以上、本件訂正発明1が、甲第1?7号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないことは、エで説示したとおりである。

(イ)請求人は、本件訂正発明の作用効果である「黒ショウガ吸収量の有意差」は、「本件特許発明の組成物に係る黒ショウガ吸収量」と「非コート黒ショウガ原末に係る黒ショウガ吸収量」とを比較することによってでしか判定・判断することはできないにもかかわらず、本件明細書には、比較例としてコーン油に懸濁された黒ショウガ原末が用いられているから、上記本件明細書に記載された実験の結果からは、本件訂正発明の効果を確認できない旨主張している。また、本件明細書に記載された実施例の実験について、実施例1被験物質や実施例2被験物質に含まれる黒ショウガ原末や、パーム油あるいはナタネ油の量、コーン油の量が不明であるところ、これらの事項はポリフェノール吸収に影響を与える可能性があるから、上記本件明細書に記載された実験の結果からは、本件訂正発明の効果を確認できない旨も主張している(甲第44号証18?30頁、55頁:弁駁書21頁において援用された平成27年(行ケ)第10231号の原告準備書面(1)))。
しかしながら、エ(オ)Aで説示したとおり、上記本件明細書に記載された実験においては、コーン油についての条件は実施例1,2と比較例で略差がなく、仮にコーン油がポリフェノール吸収促進作用を有するとしても、コーン油を用いたことは、上記実験から示される効果(パーム油又はナタネ油でコートした黒ショウガ原末のほうが、コートしないものよりも、ポリフェノール吸収が増進されるという効果)の存否に影響を与えるものではない。
また、確かに、本件明細書(特に記載事項本20)には、実施例1、2における黒ショウガ原末の具体的な量が記載されていないが、エ(オ)Aで説示したとおり、本件明細書に記載された実験においては、少なくとも、実施例1、2における黒ショウガ原末の量は、パーム油又はナタネ油が含まれている分だけ、比較例における黒ショウガ原末の量よりも少ないといえる。そして、それにもかかわらず、実施例1、2は比較例より高い血中ポリフェノール量を示しているから、上記実験結果は,パーム油又はナタネ油でコートした黒ショウガ原末のほうが、コートしないものよりも、ポリフェノール吸収が増進されるという効果があることを示しているといえる。本件明細書に実施例1、2における黒ショウガ原末の具体的な量が記載されていないことは、上記効果の存否に影響を与えるものではない。
さらに、確かに、本件明細書(特に記載事項本20)には、実施例1、2におけるパーム油、ナタネ油の具体的な量が記載されていない。しかしながら、実施例1、2ではパーム油やナタネ油による被覆があるのに対して、比較例では当該被覆がないのであるから、本件明細書に記載された実験結果は、たとえ実施例1、2におけるパーム油、ナタネ油の具体的な量が不明であるとしても、少なくともパーム油やナタネ油による被覆が黒ショウガ原末のポリフェノール吸収量を増やすことを示すものといえる。そうすると、本件明細書に実施例1、2におけるパーム油、ナタネ油の具体的な量が記載されていないことは、このような効果の存否に影響を与えるものではない。

(ウ)請求人は、以下の再現実験(以下「請求人再現実験」という。)を行い、黒ショウガ原末をナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤にて被覆してもポリフェノール類の吸収促進効果を確認できないという結果を得たから、本件訂正発明1は顕著な効果を有するものではない旨主張している(甲第44号証30?34頁、55頁:弁駁書21頁において援用された平成27年(行ケ)第10231号の原告準備書面(1))。そこで、当該主張について、以下検討する。

A 請求人再現実験は、以下に記載する手順によって作成された被験物質1?5(記載事項甲21-1?21-3)をラット(各被験物質毎に6匹ずつ)に10mL/kgの量で経口ゾンデと注射筒を用いて経口投与し、投与後1,4,8時間後に頸静脈より1ml採血し、その血清総ポリフェノール濃度を測定したところ、投与後1,4,8時間の各時点について、被験物質1?5を投与したそれぞれの群の間に有意差は認められないという結果が得られた(記載事項甲23-1?23-2)というものである。

・被験物質1
黒ショウガ粉末(有限会社備南食研製ブラックジンジャー粉末、粒度:目開き75μmパス90%以上)4500mgを遠沈管にいれ、コーン油を加えてボルテックスルにかけ、黒ショウガ粉末とコーン油とを混合し、懸濁液(被験物質1)を得た。

・被験物質2
アトマイザー(株式会社大創産業製、1プッシュあたり1.13ml)にナタネ油1125mgとエタノール3375mgを入れてボルテックスで5分間混合し、コーティング液を得た。
次いで、黒ショウガ粉末(有限会社備南食研製ブラックジンジャー粉末、粒度:目開き75μmパス90%以上)4500mgをガラスシャーレ内に入れ、該黒ショウガ粉末に均等に、前記アトマイザー内のコーティング液を全量吹きかけ、エタノールが揮発するまでに室温で静置し、ナタネ油被覆黒ショウガ粉末(ナタネ油25重量部)を得た。
そして、得られたナタネ油被覆黒ショウガ粉末(ナタネ油25重量部)の全量を被験物質1と同様に処理し、コーン油との懸濁液(被験物質2:黒ショウガ原末に対するナタネ油の割合25重量部)とした。

・被験物質3
コーティング液をナタネ油2250mgとエタノール6750mgとの混合物とした以外は、被験物質2と同様に処理し、コーン油との懸濁液(被験物質3:黒ショウガ原末に対するナタネ油の割合50重量部)を得た。

・被験物質4
コーティング液をパーム油1125mgとエタノール3375mgとの混合物とした以外は、被験物質2と同様に処理し、コーン油との懸濁液(被験物質4:黒ショウガ原末に対するパーム油の割合25重量部)を得た。

・被験物質5
コーティング液をパーム油2250mgとエタノール6750mgとの混合物とした以外は、被験物質2と同様に処理し、コーン油との懸濁液(被験物質5:黒ショウガ原末に対するパーム油の割合50重量部)を得た。

B 上記請求人の主張に関連して、甲第38号証、甲第39号証には、前審決取消訴訟において被請求人が提出した追試(以下「被請求人追試」という。)結果が記載されており、その概要は以下のとおりである。
<被請求人追試の概要>
被覆していない黒ショウガ原末(上記請求人再現実験と同じ材料を使用;以下「追試例1」という。)と、黒ショウガ原末を上記請求人再現試験と同様にシャーレ内で噴霧したもの(以下「追試例2」という。)、黒ショウガ原末にコーティング液が全量被覆されるように、ビニール袋内に黒ショウガ原末を入れ、袋内でコート剤を噴霧し、噴霧1回毎にビニール袋をよく振ったもの(以下「追試例3」という。)を、それぞれコーン油に混ぜてラットに与え、投与1時間後における血中ポリフェノール濃度を測定した(記載事項甲38-1?38-3、記載事項甲39-1)。
<被請求人追試の結果>
・追試例2においてはコート液の噴霧によって黒ショウガ原末が飛び散るとともに容器外にコート液がもれた(記載事項甲38-2)。
・追試例3を与えた場合の血中ポリフェノール濃度が追試例1を与えた場合に比べて有意に向上した(記載事項39-2?39-5)。
・追試例2を与えた場合の血中ポリフェノール濃度は追試例1を与えた場合に比べて高くなるものの、追試例3に比べると低い(記載事項甲39-2?39-5)。

C 請求人再現実験について検討するに、甲第21、23号証には、被験物質2?5がどの程度パーム油等によって被覆されたのか記載されていない。
一方、被請求人追試における追試結果は、請求人再現実験の被覆方法ではコート液の噴霧によって黒ショウガが飛び散ったり容器外にコート液がもれたりする可能性があること、黒ショウガ原末やコート剤が外に飛び散りにくく、原末とコート剤が十分接触する方法を採用した場合には、ナタネ油による被覆によって黒ショウガ原末を経口摂取した際の血中ポリフェノール濃度が上昇することをそれぞれ示すものといえる。
そうすると、請求人再現実験においては、パーム油やナタネ油による被覆が、黒ショウガ原末の一部にとどまっていた可能性があるといえるから、請求人再現実験は本件明細書に記載された実験の結果を否定するものとまではいえない。

D したがって、請求人の上記主張は妥当性を欠くから、採用できない。

(エ)(ア)?(ウ)で説示したとおりであるから、請求人の主張はいずれも採用できない。

カ 本件訂正発明2について
エにおいて説示したとおり、本件訂正発明1は、甲第1?7号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないところ、本件訂正発明2は、本件訂正発明1について「経口用である」との限定を加えたものであるから、本件訂正発明2も甲第1?7号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)小括
よって、本件訂正発明がいずれも特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないという請求人の主張する無効理由1には理由がない。

2 無効理由2(実施可能要件)について

(1)本件訂正発明1について
ア 請求人の主張の概要
請求人は、本件特許発明1の実施例に相当する実施例1、2に関して、段落【0045】、【0046】の説明には、「パーム油(ナタネ油)でコートした」とのみ記載されているだけであり、本件特許発明1に係る「パーム油(ナタネ油)でコートした黒ショウガの根茎の乾燥粉末(黒ショウガ原末)」の具体的な製造方法や原料の入手方法が記載されていないため、具体的にどのような大きさ(粒径)の黒ショウガ原末(芯材)に対し、どのような手法を用い、どのような条件で、パーム油(ナタネ油)コートをおこなったかについて記載がないため、当該パーム油(ナタネ油)でコートされた黒ショウガ原末をどのように製造するかについて、当業者が技術常識を考慮しても理解できないから、発明の詳細な説明には本件特許発明1を当業者が実施もしくは追試できる程度に明確かつ十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないと主張する(審判請求書7(4)「<根拠2>について」イ(1)、平成27年6月5日付け口頭審理陳述要領書6-5)。

イ 当審の判断
(ア)本件明細書の発明の詳細な説明には、「黒ショウガ成分を含有する粒子」とは、黒ショウガに由来する成分を含む粒子のことをいうこと、黒ショウガに由来する成分を含み、かつ粉末化、粒子化、顆粒化等されていれば、黒ショウガの加工方法について特に制限はないことが記載され(記載事項本8)、その例として黒ショウガの乾燥粉末や抽出物が記載されるとともに(記載事項本8)、それぞれの製造方法(記載事項本9、10)が例示され、粒子の加工方法(記載事項本11)、抽出物を構成する成分(記載事項本12)、粒子径(記載事項本13)、該粒子を得るために使用する黒ショウガの部位(記載事項本14)についても記載されているから、当業者は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、原料となる黒ショウガ成分を含有する粒子の入手や製造が可能であるといえる。

(イ)また、発明の詳細な説明には、コート剤の材質について記載されている(記載事項本16、17)とともに、その被覆方法(記載事項本18)や被覆量(記載事項本19)についての記載もある。そして、被覆される対象に十分な量のコート剤を十分に接触させることにより、当該対象の表面の全部がコート剤で被覆されることは当然であるところ、表面の全部がコート剤で被覆されるようなコート剤の量や接触形態は、単純にコート剤の量を増やし、まんべんなく接触するようにすれば実現可能なものであるから、発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、過度の試行錯誤を経ることがなく、黒ショウガ成分を含有する粒子の表面の全部を被覆したものを製造することができるといえる。

(ウ)そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき、当業者は本件訂正発明1の組成物を作ることができると認められる。

(カ)なお、請求人が、前審決取消訴訟において、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例の再現実験の結果を提出し、黒ショウガ原末をナタネ油やパーム油を含むコート剤で被覆してもポリフェノールの体内吸収量は高まらないから、本件明細書の発明の詳細な説明は、本件訂正発明1の組成物を当業者が使用できるように記載がなされていない旨主張している点(本件審判の審理範囲外である。)について付言するに、1(4)エ(オ)Aで説示したとおり、当業者は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、本件訂正発明1について、「黒ショウガ成分を含有する粒子をパーム油あるいはナタネ油により被覆された状態とすることにより、単にコーン油に混合、懸濁した場合に比べて、経口摂取によりポリフェノール類をより効果的に体内に吸収することができる」ことを理解できるといえるところ、1(4)オ(ウ)で説示したとおり、上記請求人再現実験の結果は本件明細書に記載された実験の結果を否定するものとまではいえず、請求人の当該主張は妥当でない。

(2)本件訂正発明2について
本件訂正発明2は、本件訂正発明1について、「経口用である」との限定を加えたものであるところ、本件明細書の発明の詳細な説明には、経口摂取を行った実施例が記載されているのであるから、本件訂正発明2についても、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されており、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき、当業者が製造し、使用することができるといえることは明らかである。

(3) 小括
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明には、請求人が指摘する記載上の不備はないから、本件訂正発明1及び本件訂正発明2の特許が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないという請求人の主張する無効理由2には理由がない。

3 無効理由3(明確性要件)について

(1)請求人の主張の概要
請求人は、「(芯材)の表面の一部又は全部を、ナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤にて被覆した」状態がどのような状態であるかについて、請求項1の記載から明確に理解することはできず、本件明細書段落【0014】にはコート層の厚み、被覆率等の記載はなく、段落【0033】の記載は要するに任意の方法で任意の被覆量でよいことを意味しているにすぎず、黒ショウガ粒子とコート剤の相対関係を第三者は明確に理解できないため、これらの記載を参酌しても当業者は「(芯材)の表面の一部又は全部を、ナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤にて被覆した」状態がどのような状態かを当業者は明確に理解することができないから、請求項1、2の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない旨主張する(審判請求書7(4)「<根拠3について>」イ、平成27年6月5日付け口頭審理陳述要領書6-4)。

(2)当審の判断
本件請求項1の記載を検討すると、本件明細書には被覆に関する定義は記載されていないものの、「被覆」とはおおいかぶせること(新村出編著、広辞苑 第五版、株式会社岩波書店、1998年11月11日発行、2265頁)を意味する。そして、「おおう」とは露出するところがないように、全体にかぶせてしまう意(上記広辞苑、337頁)であり、「かぶせる」とは上におおう(上記広辞苑、544頁)ことを意味している。また、「被覆剤」とは表面上に連続した薄い膜を形成する材料の総称またはこれらの材料でつくられた薄い膜を意味する(マグローヒル科学技術用語大辞典第3版、株式会社日刊工業新聞社、1996年9月30日、1511頁)。これらの語意からして、本件訂正発明1の組成物において、「被覆」とは黒ショウガ成分を含有する粒子が芯材となって、表面にナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤が薄い膜としておおいかぶさっていると理解できる。よって、本件請求項1において、「被覆」の語意及び本件明細書の記載を考慮すれば、「被覆」とは芯材をコート剤でおおいかぶせることであることは当業者であれば理解できる。

そして、訂正特許請求の範囲の請求項1においては、上記表面の全部を被覆したことが記載されているのであるから、請求人のいう被覆率が100%であることは明らかである。また、同請求項1には、請求人のいうコート層の厚みに関する限定がないのであるから、コート剤の厚みは、技術常識の範囲内の任意のものであると理解できる。そのため、請求人の主張にもかかわらず、訂正特許請求の範囲の請求項1の記載から「(芯材)の表面の全部を、ナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤にて被覆した」状態がどのような状態かを当業者は明確に理解することができるといえる。

したがって、訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された発明は明確であるといえる。

また、訂正特許請求の範囲の請求項2は請求項1に「経口用である」との限定を加えるものであり、経口用とは口から与えるために用いることを意味することは明らかであるから、訂正特許請求の範囲の請求項2に記載された発明も明確であるといえる。

(3)小括
したがって、訂正特許請求の範囲には、請求人が指摘する記載上の不備はないから、本件訂正発明1及び本件訂正発明2の特許が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないという請求人の主張する無効理由3には理由がない。

4 無効理由4(サポート要件)について

(1)請求人の主張の概要
無効理由4に関する請求人の主張の要点は、請求項1における「ナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤にて被覆した」という規定では、コート層の厚み、被覆率等が規定されておらず、実施例においてもコート剤の被覆量が不明であり、仮にナタネ油あるいはパーム油にポリフェノール類の体内への吸収を高める作用があるとしても、どの程度の被覆量で「黒ショウガ成分に含まれるポリフェノール類の体内への吸収性を高める」作用が生じるかについては不明であって、コート剤が極小量の場合や未被覆の部分を有する場合にまで所定の効果が得られるとはいえないから、本件特許発明は発明の目的、効果を達成し得ない範囲を包含しており、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えている、というものである(審判請求書7(4)「<根拠4について>」イ、平成27年6月5日付け口頭審理陳述要領書6-3)。

(2)当審の判断
ア 特許法第36条第6項第1号は、特許請求の範囲の記載は「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」との要件に適合するものでなければならないと定めている。その趣旨は、発明の詳細な説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載すると、公開されていない発明について独占的、排他的な権利を認めることになり、特許制度の趣旨に反するから、そのような特許請求の範囲を許容しないとしたものである。
そうすると、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解するのが相当である。

イ 本件訂正発明について検討するに、第2 2(2)で説示したとおり、本件訂正発明が発明の詳細な説明に記載された発明であることは明らかである。

ウ 1(4)アで説示したとおり、本件訂正発明の課題は、「黒ショウガ成分を経口で摂取した場合においても、含まれるポリフェノール類を効果的に体内に吸収することができる組成物を提供すること」である。

エ そして、1(4)エ(オ)Aで説示したとおり、当業者は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、本件訂正発明について、「黒ショウガ成分を含有する粒子をパーム油あるいはナタネ油により被覆された状態とすることにより、単にコーン油に混合、懸濁した場合に比べて、経口摂取によりポリフェノール類をより効果的に体内に吸収することができる」という効果を奏することを理解できるといえるから、本件訂正発明は、本件明細書の実施例の記載から、本件訂正発明の課題を解決することができると認識できるものである。

オ ところで、請求人は、弁駁書において、以下に摘示する前審決取消訴訟の判決文の一部(46頁22行?47頁25行)を引用し、全部被覆したとしても、コート剤による被覆の量や程度が不十分な場合には本件発明の課題を解決することが困難であろうという予測を覆すに足りる十分な記載が本件明細書にないから、本件明細書の記載はもとより、本件特許出願時の技術常識に照らしても、本件訂正発明が本件発明の課題を解決できると認識することができない旨を主張している(弁駁書5?7頁)。
「(エ)そして,本件出願当時,一般に摂取されたポリフェノールの生体内に取り込まれる量は少ないという技術常識があるにもかかわらず(前記(2)エ),本件発明には,「黒ショウガ成分を含有する粒子」自体に吸収性を高める特段の工夫がなされていない態様が包含されており(前記(ア)),また,「油脂を含むコート剤」にも吸収促進のための成分が含まれていない態様が包含されている(前記(イ))ことからすれば,当業者は,本件発明の課題を解決するためには,パーム油あるいはナタネ油のような油脂を含むコート剤にて被覆することが肝要であると認識するといえる。しかし,その一方,ある効果を発揮し得る物質(成分)があったとしても,その量が僅かであれば,その効果を発揮し得ないと考えるのが通常であることからすれば,当業者は,たとえ,「黒ショウガ成分を含有する粒子」の表面を「油脂を含むコート剤」で被覆することにより,本件発明の課題が解決できると認識し得たとしても,その量や程度が不十分である場合には,本件発明の課題を解決することが困難であろうことも予測するといえる。(オ)ところが,本件明細書においては,実施例1の「パーム油でコートした黒ショウガ原末」の被覆の量や程度について具体的な記載がなされておらず,実施例2についても同様であるから,これらの実施例によってコート剤による被覆の量や程度が不十分である場合においても本件発明の課題を解決できることが示されているとはいえず,ほかにそのような記載や示唆も見当たらない。すなわち,コート剤による被覆の量や程度が不十分である場合には,本件発明の課題を解決することが困難であろうとの当業者の予測を覆すに足りる十分な記載が本件明細書になされているものとは認められないのであり,また,これを補うだけの技術常識が本件出願当時に存在したことを認めるに足りる証拠もない。したがって,本件明細書の記載(ないし示唆)はもとより,本件出願当時の技術常識に照らしても,当業者は,「黒ショウガ成分を含有する粒子」の表面の僅かな部分を「油脂を含むコート剤」で被覆した状態が本件発明の課題を解決できると認識することはできないというべきである。」
しかしながら、当該引用箇所は、「本件明細書には,課題解決手段として,「黒ショウガ成分を含有する粒子(黒ショウガ成分含有コア)」の表面の一部又は全部を,「油脂を含むコート剤(コート層)」で被覆することが記載されているといえる。」(43頁3?6行)、「ここで,「一部」とは,「全体の中のある部分。一部分。」(広辞苑[第6版])を意味するものであり,当該部分が全体の中に占める割合の大小までは定められていないことから,本件明細書に記載された課題解決手段には,「黒ショウガ成分を含有する粒子」の表面の僅かな部分を,「油脂を含むコート剤」で被覆することも包含されているといえる」(43頁7?11行)、「イ そこで,このような僅かな部分を被覆した状態においても,(2)ウに示した本件発明の課題を解決できると当業者が認識できるか否かについて検討する。」(43頁14?16行)と前置きしたうえで記載された部分であり、最終的に、判決は、「ウ 以上のとおり,本件発明は,黒ショウガ成分を含有する粒子の表面の一部を,ナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤にて被覆する態様,すなわち,「黒ショウガ成分を含有する粒子」の表面の僅かな部分を「油脂を含むコート剤」で被覆した態様も包含していると解されるところ,・・・当業者は,そのような態様が本件発明の課題を解決できるとまでは認識することはできない」(47頁26行?48頁6行)と説示している。すなわち、原告が指摘する判決の引用箇所は、黒ショウガ成分を含有する粒子の表面の僅かな部分(すなわち、表面の一部)を被覆したものについて説示したものであって、請求人の主張するように、本件訂正発明のように黒ショウガ成分を含有する粒子の表面を全部被覆したものについて説示したものではない。
そうすると、請求人の上記主張は、判決文の誤った理解を前提としたものであって、妥当性を欠くから採用できない。なお、判決においても、「本件明細書の実施例の記載から、「黒ショウガ成分を含有する粒子」が,パーム油あるいはナタネ油と混合,懸濁された状態とするのではなく,パーム油あるいはナタネ油により被覆された状態とすることにより,本件発明の課題を解決することができると認識するものと認められる。」(46頁17?21行)と判断されているとおり、本件訂正発明は、本件明細書の実施例の記載から、本件訂正発明の課題を解決することができると認識できるものである。

カ なお、請求人は前審決取消訴訟において、上記実施例の再現実験の結果を提出し、黒ショウガ原末をナタネ油やパーム油を含むコート剤で被覆してもポリフェノールの体内吸収量は高まらないと主張している点(本件審判の審理範囲外である。)について付言するに、1(4)オ(ウ)で説示したとおり、上記請求人再現実験の結果は本件明細書に記載された実験の結果を否定するものとまではいえず、請求人の当該主張は妥当でない。

(3)小括
したがって、訂正特許請求の範囲には、請求人が指摘する記載上の不備はないから、本件訂正発明1及び本件訂正発明2の特許が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないという請求人の主張する無効理由4には理由がない。


第8 むすび

以上のとおり、請求人が主張する無効理由1?4にはいずれも理由がないから、請求人の主張及び証拠方法によっては、訂正特許請求の範囲に記載された請求項1及び請求項2に係る発明の特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒ショウガ成分を含有する粒子を芯材として、その表面の全部を、ナタネ油あるいはパーム油を含むコート剤にて被覆したことを特徴とする組成物。
【請求項2】
経口用である請求項1に記載の組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2017-10-02 
結審通知日 2017-10-05 
審決日 2017-10-17 
出願番号 特願2013-64545(P2013-64545)
審決分類 P 1 113・ 536- YAA (A61K)
P 1 113・ 537- YAA (A61K)
P 1 113・ 121- YAA (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 鶴見 秀紀  
特許庁審判長 内藤 伸一
特許庁審判官 山本 吾一
前田 佳与子
登録日 2014-07-04 
登録番号 特許第5569848号(P5569848)
発明の名称 黒ショウガ成分含有組成物  
代理人 森 博  
代理人 ▲高▼津 一也  
代理人 ▲高▼津 一也  

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