• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 訂正 特許請求の範囲の実質的変更 訂正する F16C
審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する F16C
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する F16C
審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する F16C
審判 訂正 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張 訂正する F16C
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する F16C
管理番号 1346231
審判番号 訂正2018-390132  
総通号数 229 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-01-25 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2018-09-07 
確定日 2018-11-01 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第4306650号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4306650号の明細書及び特許請求の範囲を、本件審判請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯
本件訂正審判の請求に係る特許第4306650号(以下、「本件特許」という。)は、平成12年2月22日に出願された特願2000-44704号の一部を平成17年7月7日に新たな特許出願とし、平成21年5月15日に特許権の設定登録がされ、平成30年9月7日に本件訂正審判の請求がされたものである。

第2 請求の趣旨及び訂正の内容
本件訂正審判の請求の趣旨は、審判請求書の請求の趣旨に記載されているとおり、特許第4306650号の明細書及び特許請求の範囲を、本件審判請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める、との審決を求めるものであって、その内容は次のとおりである。(審決注:下線部分が訂正箇所である。)

1 訂正事項1
特許請求の範囲の【請求項1】の
「合成油を基油とし、ジウレア化合物を増ちょう剤とし、防錆添加剤としてナフテン酸亜鉛及びコハク酸誘導体から選ばれる少なくとも1種をグリース全量の0.25?5質量%となるように添加した剥離防止効果を有するグリース組成物を、内輪、外輪及び転動体で形成される軸受空間に封入してなることを特徴とする自動車の電装部品用もしくはエンジン補機用転がり軸受。」との記載を
「エーテル油を基油とし、ジウレア化合物を増ちょう剤とし、防錆添加剤としてコハク酸誘導体をグリース全量の0.25?5質量%となるように添加した剥離防止効果を有するグリース組成物を、内輪、外輪及び転動体で形成される軸受空間に封入してなることを特徴とする自動車の電装部品用もしくはエンジン補機用転がり軸受。」に訂正する(請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2及び3においても同様に訂正する)。

2 訂正事項2
特許請求の範囲の【請求項2】の
「グリース組成物におけるナフテン酸亜鉛及びコハク酸誘導体から選ばれる少なくとも1種の添加量がグリース全量の0.5?5質量%であることを特徴とする請求項1記載の自動車の電装部品用もしくはエンジン補機用転がり軸受。」との記載を
「グリース組成物におけるコハク酸誘導体の添加量がグリース全量の0.5?5質量%であることを特徴とする請求項1記載の自動車の電装部品用もしくはエンジン補機用転がり軸受。」に訂正する(請求項2を直接的に引用する請求項3においても同様に訂正する)。

3 訂正事項3
特許請求の範囲の【請求項4】を削除する。

4 訂正事項4
明細書の段落【0009】の
「即ち、上記の目的は、本発明の、合成油を基油とし、ジウレア化合物を増ちょう剤とし、防錆添加剤としてナフテン酸亜鉛及びコハク酸誘導体から選ばれる少なくとも1種をグリース全量の0.25?5質量%となるように添加した剥離防止効果を有するグリース組成物を、内輪、外輪及び転動体で形成される軸受空間に封入してなることを特徴とする自動車の電装部品用もしくはエンジン補機用転がり軸受(以下、単に「転がり軸受」ともいう)により達成される。」との記載を、
「即ち、上記の目的は、本発明の、エーテル油を基油とし、ジウレア化合物を増ちょう剤とし、防錆添加剤としてコハク酸誘導体をグリース全量の0.25?5質量%となるように添加した剥離防止効果を有するグリース組成物を、内輪、外輪及び転動体で形成される軸受空間に封入してなることを特徴とする自動車の電装部品用もしくはエンジン補機用転がり軸受(以下、単に「転がり軸受」ともいう)により達成される。」に訂正する。

5 訂正事項5
明細書の段落【0016】の「防錆添加剤はナフテン酸亜鉛及びコハク酸誘導体の少なくとも一方を含む。」との記載を、「防錆添加剤はコハク酸誘導体を含む。」に訂正する。

6 訂正事項6
明細書の段落【0017】の「挙げることができるるが」との記載を、「挙げることができるが」に訂正する。

7 訂正事項7
明細書の段落【0018】の「上記ナフテン酸亜鉛及びコハク酸誘導体の好ましい添加量」との記載を、「上記コハク酸誘導体の好ましい添加量」に訂正する。

第3 当審の判断
1 訂正事項1について
(1)訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1の自動車の電装部品用もしくはエンジン補機用転がり軸受のグリース組成物について、基油を「合成油」から「エーテル油」に限定し、防錆添加剤を「ナフテン酸亜鉛及びコハク酸誘導体から選ばれる少なくとも1種」から「コハク酸誘導体」に限定するものである。
同様に訂正事項1による訂正後の特許請求の範囲の請求項2及び請求項3は、当該訂正後の請求項1の記載を引用することにより発明特定事項をさらに限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
訂正前の明細書の段落【0013】には、基油としての合成油の具体例として「エーテル系油」が記載されており、段落【0023】の【表1】のグリースBの組成表には、基油として「エーテル油」が記載されており、訂正前の特許請求の範囲の【請求項4】には「基油がエーテル油またはポリα-オレフィンである」と記載されており、これらの記載からみて、「エーテル油を基油と」することは、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものといえる。
また、訂正前の明細書の段落【0016】には、防錆添加剤の具体例として「ナフテン酸亜鉛及びコハク酸誘導体の少なくとも一方」と記載されており、訂正前の明細書の段落【0018】に、「上記ナフテン酸亜鉛及びコハク酸誘導体の好ましい添加量は、グリース全量に対してそれぞれ0.25?5質量%である。」と記載されており、段落【0023】の【表1】のグリースBは、防錆添加剤として「ナフテン酸亜鉛」を含まず「コハク酸誘導体」を含む組成となっており、これらの記載からみて、「防錆添加剤としてコハク酸誘導体をグリース全量の0.25?5質量%となるように添加したグリース組成物」は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものといえる。
したがって、訂正事項1は、特許法第126条第5項の規定に適合する。
(3)訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
訂正事項1は、訂正前の請求項1の範囲内で、グリース組成物の基油及び防錆添加剤を、より限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しないから、特許法第126条第6項の規定に適合する。
また、訂正後の請求項2及び3についても、訂正後の請求項1を引用することにより、発明特定事項を更に限定するものにすぎず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項の規定に適合する。

(4)独立特許要件について
訂正事項1は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1において、グリース組成物の基油及び防錆添加剤を、より限定するものであるから、当該請求項に係る発明について特許要件の適否について見直すべき新たな事情は存在せず、特許法第126条第7項の規定に適合する。
また、訂正後の請求項2及び3に係る発明は、訂正後の請求項1を引用することにより、発明特定事項を更に限定するものにすぎないから、特許要件の適否について見直すべき新たな事情は存在せず、特許法第126条第7項の規定に適合する。

2 訂正事項2について
(1)訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の特許請求の範囲の請求項2の自動車の電装部品用もしくはエンジン補機用転がり軸受のグリース組成物の防錆添加剤である「ナフテン酸亜鉛及びコハク酸誘導体から選ばれる少なくとも1種」を「コハク酸誘導体」に限定するものである。
同様に訂正事項2による訂正後の特許請求の範囲の請求項3は、当該訂正後の請求項2の記載を引用することにより発明特定事項をさらに限定するものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
訂正前の明細書の段落【0016】には、防錆添加剤の具体例として「ナフテン酸亜鉛及びコハク酸誘導体の少なくとも一方」と記載されており、訂正前の明細書の段落【0018】に、「上記ナフテン酸亜鉛及びコハク酸誘導体の好ましい添加量は、(省略)防錆性を確かにし、グリース漏れによる焼付き寿命を考慮するなら、グリース全量に対してそれぞれ0.5?5質量%とすることが望ましい。」と記載されており、段落【0023】の【表1】のグリースBは、防錆添加剤として「ナフテン酸亜鉛」を含まず「コハク酸誘導体」を含む組成となっており、これらの記載からみて、「グリース組成物におけるコハク酸誘導体の添加量がグリース全量の0.5?5質量%であることを」は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものといえる。
したがって、訂正事項2は、特許法第126条第5項の規定に適合する。

(3)訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
訂正事項2は、訂正前の請求項2の範囲内で発明特定事項をさらに限定するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項2は、特許法第126条第6項の規定に適合する。
また、訂正後の請求項3についても、訂正後の請求項2を引用することにより、発明特定事項を更に限定するものにすぎず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項の規定に適合する。

(4)独立特許要件について
訂正事項2は、訂正前の特許請求の範囲の請求項2において、グリース組成物の防錆添加剤を、より限定するものであるから、当該請求項に係る発明について特許要件の適否について見直すべき新たな事情は存在せず、特許法第126条第7項の規定に適合する。
また、訂正後の請求項3に係る発明は、訂正後の請求項2を引用することにより、発明特定事項を更に限定するものにすぎないから、特許要件の適否について見直すべき新たな事情は存在せず、特許法第126条第7項の規定に適合する。

3 訂正事項3について
(1)訂正の目的について
訂正事項3は、訂正前の特許請求の範囲の【請求項4】を削除するものであるから、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
訂正事項3は、訂正前の特許請求の範囲の【請求項4】を削除するものに過ぎないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第126条第5項の規定に適合する。

(3)訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
訂正事項3は、訂正前の特許請求の範囲の【請求項4】を削除するものに過ぎす、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項の規定に適合する。

(4)独立特許要件について
訂正事項3は、訂正前の特許請求の範囲の【請求項4】を削除するものであるから、もはや特許法第126条第7項の規定する要件の充足性は問題とならない。

4 訂正事項4について
(1)訂正の目的について
訂正前の明細書の段落【0009】には、訂正前の特許請求の範囲の【請求項1】に対応する記載があるところ、訂正事項1による訂正後の請求項1の発明特定事項と一致せず、不明瞭となる。
訂正事項4は、訂正事項1による訂正後の特許請求の範囲の記載と、明細書の記載を整合させる訂正であり、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
上記「1(2)」で検討したとおりであるから、グリース組成物について、エーテル油を基油とすること及び防錆添加剤としてコハク酸誘導体をグリース全量の0.25?5質量%となるように添加することは、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものといえる。
したがって、訂正事項4は、特許法第126条第5項の規定に適合する。

(3)訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
訂正事項4は、明細書の記載を、訂正事項1による訂正後の【請求項1】の発明特定事項と整合させるための訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項の規定に適合する。

5 訂正事項5について
(1)訂正の目的について
訂正前の明細書の段落【0016】には、防錆添加剤について、訂正前の特許請求の範囲の【請求項1】に対応する記載があるところ、訂正事項1による訂正後の請求項1の発明特定事項と一致せず、不明瞭となる。
訂正事項5は、訂正事項1による訂正後の特許請求の範囲の記載と、明細書の記載を整合させる訂正であり、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
上記「1(2)」で検討したとおりであるから、防錆添加剤をコハク酸誘導体とすることは、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものといえる。
したがって、訂正事項5は、特許法第126条第5項の規定に適合する。

(3)訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
訂正事項5は、明細書の記載を、訂正事項1による訂正後の【請求項1】の発明特定事項と整合させるための訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項の規定に適合する。

6 訂正事項6について
(1)訂正の目的について
訂正前の明細書の段落【0017】には、「挙げることができるるが」と記載されている。当該記載は日本語として意味をなさず、「挙げることができるが」の誤記であることは明白である。
訂正事項6は、明らかな誤記を本来の正しい記載に訂正するものであり、特許法第126条第1項ただし書第2号に規定する誤記の訂正を目的とするものである。

(2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
訂正事項6は、明白な誤記を本来の正しい記載に訂正するものに過ぎず、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正といえるから、特許法第126条第5項の規定に適合する。

(3)訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
訂正事項6は、明白な誤記を本来の正しい記載に訂正するものに過ぎず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項の規定に適合する。

(4)独立特許要件について
訂正事項6は、明白な誤記を本来の正しい記載に訂正するものに過ぎず、、特許要件の適否について見直すべき新たな事情は存在せず、特許法第126条第7項の規定に適合する。

7 訂正事項7について
(1)訂正の目的について
訂正前の明細書の段落【0018】には、防錆添加剤について、訂正前の特許請求の範囲の【請求項1】に対応する記載があるところ、訂正事項1による訂正後の請求項1の発明特定事項と一致せず、不明瞭となる。
訂正事項7は、訂正事項1による訂正後の特許請求の範囲の記載と、明細書の記載を整合させる訂正であり、特許法第126条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(2)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであるか否かについて
上記「1(2)」で検討したとおりであるから、防錆添加剤をコハク酸誘導体とすることは、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものといえる。
したがって、訂正事項7は、特許法第126条第5項の規定に適合する。

(3)訂正が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて
訂正事項7は、明細書の記載を、訂正事項1による訂正後の【請求項1】の発明特定事項と整合させるための訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第126条第6項の規定に適合する。

第4 むすび
以上のとおり、本件訂正審判に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第1号ないし第3号に規定する事項を目的とし、かつ、同条第5項から第7項までの規定に適合する。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
自動車の電装部品用もしくはエンジン補機用転がり軸受
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の電装部品、エンジン補機であるオルタネータや中間プーリ、カーエアコン用電磁クラッチなど、高温、高速、高荷重及び高振動条件下で使用され、良好な錆止め性能と優れた剥離寿命とを有する転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジンの各種動力装置の回転箇所、例えば、オルタネータ、カーエアコン用電磁クラッチ、中間プーリ等の自動車電装部品、エンジン補機には、一般に転がり軸受が使用されており、その潤滑は主としてグリースが使用されている。
【0003】
自動車は小型軽量化を目的としたFF車の普及により、さらには移住空間拡大の要望により、エンジンルームの容積減少を余儀なくされ、前記に挙げたような電装部品・エンジン補機の小型軽量化がよりいっそう進められている。加えて、前記各部品にも高性能、高出力化がますます求められている。しかし、小型化により、出力の低下は避けられず、例えばオルタネータやカーエアコン用電磁クラッチでは、高速化することにより出力の低下分を補っており、それに伴ってアイドラプーリも同様に高速化することになる。さらに、静粛化向上の要望によりエンジンルームの密閉化が進み、エンジンルーム内の高温化が促進されるため、前記各部品は高温に耐えることも必要となっている。このような高速化や高性能化に伴い、前記各部品用軸受には水素脆性による白色組織変化を伴った剥離が発生し易くなってきており、その防止が新たな重要課題となっている。
【0004】
また、前記各部品はエンジンルームの下部に取りつけられていることが多いため、走行中、雨水などがかかりやすく、これらの部品用の転がり軸受に封入されるグリースには、他の箇所に使用される転がり軸受に封入されるグリースよりも、錆止め性能に優れることが必要とされる。
【0005】
グリースに錆止め性能を付与するには、防錆添加剤を添加するのが一般的である。この防錆添加剤の成分として無機不働態化剤が含まれることが多いが、とりわけ、亜硝酸ナトリウムは最も効果的であり、主流となっている。また、この無機不働態化剤は水溶性であり、グリースのような油系のものには分散し難いことから、界面活性剤を併用したグリースも市販されている。その他にも、グリースに油溶性有機インヒビター、水溶性無機不働態化剤(亜硝酸ナトリウム等)及び非イオン界面活性剤からなる防錆剤を添加したグリースを提案している(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、無機不働態化剤として代表的な亜硝酸ナトリウムは、優れた錆び止め性能を有する一方で、使用条件によっては発ガン性を誘発させる可能性が有り、法規制はないものの、その使用を避けた方が望ましい。また、有機インヒビターであるスルフォン酸金属塩も防錆能力が高いため広く使用されているが、特許公報第2878749号に記載されているように、水素の発生を助長するため、水素脆性剥離の発生原因となる可能性がある。
【0006】
【特許文献1】特開平3-200898号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、特に高温、高速、高荷重及び高振動条件下での使用に好適で、人体への害もなく、良好な錆止め性能と優れた剥離寿命とを有する自動車の電装部品用もしくはエンジン補機用転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、防錆添加剤としてナフテン酸亜鉛およびコハク酸誘導体が有効であることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、上記の目的は、本発明の、エーテル油を基油とし、ジウレア化合物を増ちょう剤とし、防錆添加剤としてコハク酸誘導体をグリース全量の0.25?5質量%となるように添加した剥離防止効果を有するグリース組成物を、内輪、外輪及び転動体で形成される軸受空間に封入してなることを特徴とする自動車の電装部品用もしくはエンジン補機用転がり軸受(以下、単に「転がり軸受」ともいう)により達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、人体への害もなく、防錆性が良好で、剥離防止効果にも極めて優れたオルタネータ、カーエアコン用電磁クラッチ、中間プーリ、電動ファンモータ、水ポンプ等の自動車電装部品もしくはエンジン補機用転がり軸受が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の転がり軸受に関して詳細に説明する。本発明において、軸受の構造自体は制限されるものでは無く、種々の公知の玉軸受やころ軸受等を対象とすることができ、その内輪、外輪及び転動体で形成される軸受空間に、後述される防錆添加剤を含有するグリース組成物を封入して本発明の転がり軸受が構成される。
【0012】
[基油]
本発明において、グリース組成物の基油として合成油を用いる。また、基油は、低温流動性不足による低温起動時の異音発生や、高温で油膜が形成され難いために起こる焼付きを避けるために、40℃における動粘度が、好ましくは10?400(mm^(2)/sec)、より好ましくは20?250(mm^(2)/sec)、さらに好ましくは40?150(mm^(2)/sec)であることが望ましい。
【0013】
合成油の具体例として、炭化水素系油、芳香族系油、エステル系油、エーテル系油等が挙げられる。前記炭化水素系油としては、例えばノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、1-デセンオリゴマー、1-デセンとエチレンとのコオリゴマー等のポリ-α-オレフィンまたはこれらの水素化物等が挙げられる。前記芳香族系油としては、例えばモノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン等のアルキルベンゼン、あるいは例えばモノアルキルナフタレン、ジアルキルナフタレン、ポリアルキルナフタレン等のアルキルナフタレン等が挙げられる。前記エステル系油としては、例えばジブチルセバケート、ジ-2-エチルヘキシルセバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジトリデシルグルタレート、メチル・アセチルシノレート等のジエステル油、あるいは例えばトリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテート等の芳香族エステル油、さらには例えばトリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール-2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールベラルゴネート等のポリオールエステル油、さらにはまた、例えば多価アルコールと二塩基酸・一塩基酸の混合脂肪酸とのオリゴエステルであるコンプレックスエステル油等が挙げられる。前記エーテル系油としては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノエーテル、ポリプロピレングリコールモノエーテル等のポリグリコール、あるいは例えばモノアルキルトリフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、テトラフェニルエーテル、モノアルキルテトラフェニルエーテル、ジアルキルテトラフェニルエーテル等のフェニルエーテル油等が挙げられる。その他の合成潤滑基油としては、例えばトリクレジルフォスフェート、シリコーン油、パーフルオロアルキルエーテル等が挙げられる。
【0014】
上記に挙げた基油の中では、特にポリ-α-オレフィン、ジブチルセバケート、ジイソデシルアジペート、ペンタエリスリトール-2-エチルヘキサノエート、ジアルキルジフェニルエーテル等が好ましい。また、これらの基油は、単独または混合物として用いることができ、上述した好ましい動粘度に調整される。
【0015】
[増ちょう剤]
増ちょう剤には、グリースの耐熱性や音響性を考慮してジウレア化合物を用いる。
【0016】
[防錆添加剤]
本発明において、防錆添加剤はコハク酸誘導体を含む。尚、これらナフテン酸亜鉛及びコハク酸誘導体は人体への影響の無い安全な化合物である。
【0017】
コハク酸誘導体として、例えばコハク酸、アルキルコハク酸、アルキルコハク酸ハーフエステル、アルケニルコハク酸、アルケニルコハク酸ハーフエステル、コハク酸イミド等を挙げることができるが、アルケニルコハク酸ハーフエステルが好ましい。これらのコハク酸誘導体は、単独でも適宜組み合わせて使用してもよい。
【0018】
(濃度)
上記コハク酸誘導体の好ましい添加量は、グリース全量に対してそれぞれ0.25?5質量%である。添加量がこれより少ないと、十分な防錆性を有することができず、これより多く含有するとグリースが軟化し、グリース漏れを発生させる恐れがあるため好ましくない。防錆性を確かにし、グリース漏れによる焼付き寿命を考慮するなら、グリース全量に対してそれぞれ0.5?5質量%とすることが望ましい。また、ナフテン酸亜鉛とコハク酸誘導体の両方を添加する場合には、合計量で0.25?5質量%の範囲とする。
【0019】
(その他の添加剤)
グリース組成物には、必要に応じて、従来より公知の各種添加剤、例えば極圧剤や油性剤等を添加してもよい。
【0020】
[製法]
グリース組成物を調整する方法には特に制約はないが、基油中で増ちょう剤を反応させて得たグリース組成物にナフテン酸亜鉛、コハク酸誘導体を所定量を配合することが好ましい。その際、ニーダやロールミル等でナフテン酸亜鉛、コハク酸誘導体を添加した後十分撹拌し、均一分散させる必要がある。この処理を行うときは、加熱するものも有効である。また、ナフテン酸亜鉛、コハク酸誘導体以外の添加剤を添加する場合は、ナフテン酸亜鉛、コハク酸誘導体と同時に添加することが工程上好ましい。
【実施例】
【0021】
以下に、実施例および比較例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【0022】
(グリースの調製)
表1に示す如く、グリースA?Eを調製した。調製方法は、ジイソシアネートを混合した基油と、アミンを混合した同一の基油とを反応させ、撹拌加熱して得られた半固体状物に、予め同一の基油に溶解したアミン系酸化防止剤を加えて十分撹拌し、徐冷後にナフテン酸亜鉛、コハク酸誘導体、Baスルフォネートを適宜加え、ロールミルを通すことでグリースを得た。また、各グリースについて、ナフテン酸亜鉛、コハク酸誘導体またはBaスルフォネートの添加量がグリース全量の0.05質量%、0.1質量%、0.5質量%、1質量%及び5質量%となる5種類を用意した。
【0023】
【表1】

【0024】
(急加減速試験)
剥離寿命を、エンジンを用いてオルタネータに組み込んだ軸受を急加減速させることで評価した。即ち、上記の各グリースを2.36g封入した単列深溝玉軸受(内径φ17mm、外径φ47mm、幅14mm)をオルタネータに組み込み、エンジン回転数1000?6000rpm(軸受回転数2400?13300rpm)の繰り返し、室温雰囲気下、プーリ荷重1764Nの条件で軸受を連続回転させ、500時間を目標に試験を行った。また、軸受外輪転走面に剥離が生じて振動が発生したとき、試験を終了した。試験は各条件毎に10回行い、下記に定義する剥離発生率で評価し、その結果を図1及び図2にプロットした。
剥離発生率(%)=(剥離発生数/試験回数)×100
【0025】
(防錆試験)
内径φ17mm、外径φ47mm、幅14mmの円接触ゴムシール付き深溝玉軸受に上記の各グリースを2.3g封入し、1800rpmで1分間回転させた。回転後、軸受内に0.5質量%の塩水を0.5ml注水し、1800rpmで1分間回転させた。60℃、100%RHの条件下に120時間放置した後、試験軸受の内外輪軌道面の錆発生状態を観察した。評価基準を表2に示すが、錆発生状態が2以下の場合を合格とした。試験は各条件毎に10回行い、その結果を図1及び図2にプロットした。
【0026】
【表2】

【0027】
図1及び図2に示すように、本発明に従い防錆添加剤としてナフテン酸亜鉛、コハク酸誘導体の少なくとも一方を含むグリースA、グリースB、グリースC及びグリースDを封入することにより、軸受の錆及び剥離の発生を抑えることができる。その添加量としては、0.1質量%以上で優れた効果が得られている。これに対して従来の防錆添加剤であるBaスルフォネートでは、錆の発生は見られないものの、剥離が発生している。
【0028】
即ち、図1において、防錆添加剤の添加量0.1質量%(左から2番目のプロット群)では、本発明のグリースA、グリースBの錆評価点が合格評価点の上限値である2は満しているが、少なくとも0.5質量%以上になると評価点が0となり、更に望ましくなる。また、図2は全て本発明の範囲での下限0.1質量%に対し、1番左の点(防錆添加剤の添加量0.15質量%)で錆評価点の合格点2以下を満たしている。このことは、防錆添加剤の添加量の合計は、少なくともその下限おいて0.15質量%以上であれば良い結果が得られることを示しているが、錆評価点が0.1質量%と同一の2となっていることから、添加量の好ましい下限は0.15質量%を超えた0.25質量%とし、更に好ましくは0.5質量%とすることが良いことを示している。
【0029】
尚、図1及び図2において、図示の都合上、グリースA、グリースB、グリースC及びグリースDの各点、及びそれらを結ぶ線をずらして示しているが、実際には各点及び線は重なっている。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例において、グリースA、グリースB及びグリースEについて防錆添加剤の添加量と錆評価点及び剥離発生率との関係を求めたグラフである。
【図2】実施例において、グリースC及びグリースDについて防錆添加剤の添加量と錆評価点及び剥離発生率との関係を求めたグラフである。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エーテル油を基油とし、ジウレア化合物を増ちょう剤とし、防錆添加剤としてコハク酸誘導体をグリース全量の0.25?5質量%となるように添加した剥離防止効果を有するグリース組成物を、内輪、外輪及び転動体で形成される軸受空間に封入してなることを特徴とする自動車の電装部品用もしくはエンジン補機用転がり軸受。
【請求項2】
グリース組成物におけるコハク酸誘導体の添加量がグリース全量の0.5?5質量%であることを特徴とする請求項1記載の自動車の電装部品用もしくはエンジン補機用転がり軸受。
【請求項3】
コハク酸誘導体がアルケニルコハク酸ハーフエステルであることを特徴とする請求項1または2記載の自動車の電装部品用もしくはエンジン補機用転がり軸受。
【請求項4】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2018-10-10 
結審通知日 2018-10-12 
審決日 2018-10-23 
出願番号 特願2005-198772(P2005-198772)
審決分類 P 1 41・ 854- Y (F16C)
P 1 41・ 852- Y (F16C)
P 1 41・ 851- Y (F16C)
P 1 41・ 855- Y (F16C)
P 1 41・ 853- Y (F16C)
P 1 41・ 856- Y (F16C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 岡▲さき▼ 潤津田 真吾西堀 宏之  
特許庁審判長 大町 真義
特許庁審判官 内田 博之
小関 峰夫
登録日 2009-05-15 
登録番号 特許第4306650号(P4306650)
発明の名称 自動車の電装部品用もしくはエンジン補機用転がり軸受  
代理人 松山 美奈子  
代理人 松山 美奈子  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ